本発明は、透明基板上に透明導電膜を形成する際に用いられる透明導電膜形成用塗布液、特に貴金属含有微粒子が連鎖状に連接した連鎖状凝集体を含む透明導電膜形成用塗布液、その透明導電膜形成用塗布液により形成された透明導電膜、及びその透明導電膜を備えた表示装置に関するものである。
現在、各種表示装置(ディスプレイ)、太陽電池、タッチパネル等には、透明電極が用いられている。この透明電極は、一般的には、インジウム錫酸化物(ITO)から成る透明導電膜で構成され、スパッタリング法によりガラス基板やプラスチック基板等の透明基板上に形成する方法が広く採用されている。
上記ITOのスパッタリング法によれば、表面抵抗が数十〜数百Ω/□の優れた導電性を有する透明導電膜を基板上に形成することが可能である。しかしながら、このスパッタリング法は、非常に高価な設備を必要とするうえ、成膜時に基板を加熱する必要があるため、耐熱性の低い基板を用いることができない等の欠点を有している。
そこで、貴金属含有微粒子を溶媒に分散した透明導電膜形成用塗布液を用い、これを基板にスピンコート法等で塗布・乾燥し、更にその上にシリカゾルからなる透明コート層形成用塗布液を塗布・乾燥した後、200℃前後の温度で焼成して、2層からなる透明導電膜を形成する方法(特開平9−115438号公報、特開平10−1777号公報、特開平10−110123号公報、特開平10−142401号公報、特開平10−182191号公報、特開平11−329071号公報、特開2000−124662号公報、特開2000−196287号公報)が提案されている。
しかし、上記の2層からなる透明導電膜を形成する方法では、透明導電膜形成用塗布液及び透明コート層形成用塗布液をそれぞれ塗布・乾燥して2層コーティングとする必要があり、工程が煩雑であるという問題があった。また、透明導電膜の上に比較的電気絶縁性のある透明コート層が形成されるため、透明導電膜との電気的接続が取り難いというい問題もあった。
そのため、貴金属含有微粒子を含む透明導電膜形成用塗布液にバインダーを添加して、単層で且つ膜強度も改善された透明導電膜を得る試みも行われている。しかしならが、膜強度を十分に高めるためにはバインダーを多量に添加する必要があるが、その場合には、添加したバインダーが貴金属含有微粒子の間に介在して相互の接触を妨げるため、貴金属含有微粒子同士のネットワーク構造による導電パスが十分に形成されず、導電性を著しく悪化させるため必ずしも実用的でなかった。
また、ディスプレイ等に用いる透明導電膜においては、表示面の色調節のために、有色顔料微粒子を透明導電膜形成用塗布液に添加する場合もある。即ち、有色顔料微粒子を添加すると、透明導電膜が形成されたディスプレイ前面板等の可視光透過率を100%より低い所定範囲(例えば40〜95%、一般的には40〜75%)に調整できるため、良好な導電性や低反射率等の諸特性に加え、画像のコントラスト向上と輝度の面内均一性を高め、表示画面を見易くさせることができる。しかし、この場合にも、バインダー添加時と同様の理由で、透明導電膜の導電性を損なうことが多かった。
更に、透明導電膜形成用塗布液中の貴金属微粒子の耐侯性等を向上させるために、銀微粒子の表面に銀以外の貴金属をコーティングした平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子、例えば金又は白金単体、あるいは金と白金の複合体をコーティングした貴金属コート銀微粒子を用いることも知られている(特開平11−228872号公報、特開平2000−268639号公報)。
ところで、金属は可視光線に対して本来的に透明でないことから、上述した透明導電膜における高透過率と低抵抗を両立させるためには、できるだけ少量の金属微粒子が透明導電膜内において効率よく導電パスを形成していることが望ましい。つまり、溶媒と金属微粒子を主成分とする一般的な透明導電膜形成用塗布液を用いて得られる導電膜には、金属微粒子が相互に連接したネットワーク(網目状)構造が形成されていることが必要である。このようなネットワーク構造の形成により低抵抗且つ高透過率の透明導電膜が得られるが、これは、金属微粒子からなる網目状部分が導電パスとして機能する一方、網目状構造の穴の部分が光透過率を向上させる機能を果たすためと考えられている。
上記金属微粒子の発達したネットワーク構造を形成させる方法として、予め凝集した金属微粒子(金属微粒子の凝集体)が分散した透明導電膜形成用塗布液を用いる方法が知られている。例えば、一次粒子が分散されずに、一次粒子が小さな孔を持つ形で集合した二次粒子の状態で分散されている金属微粒子の分散液を用いる方法(「工業材料」、Vol.44,No.9,1996,p68−71)や、予め凝集させた金属微粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を用いる方法(特開平11−329071号公報、特開2000−124662号公報、特開2000−196287号公報)などである。
ここで、凝集した金属微粒子として連鎖状凝集体に言及した特開2000−124662号公報と特開2000−196287号公報には、連鎖状凝集体の形状に関して以下の記載がある。即ち、特開2000−124662号公報には、「金属微粒子の連鎖状凝集体は、直鎖状、分岐鎖状、環状、またはそれらの複合した形態などいずれでも良い。」と記載されている。また、特開2000−196287号公報には、「鎖状導電性微粒子は、直線状、ジグザグ状、弓状、リング状などいずれでも良い。」との記載がある。
このように、金属微粒子を連鎖状凝集体とすることでネットワーク構造を形成させやすくし、透明導電膜の特性(抵抗値、透過率)を向上させることは既に知られている。これらの従来の方法においては、連鎖状凝集体を含有する透明導電膜形成用塗布液中の貴金属微粒子の含有量が多い場合、即ち得られる透明導電膜の透過率が低い場合には、抵抗値や透過率等の膜特性に優れた透明導電膜を形成することができる。
ところが、従来の連鎖状凝集体を含む透明導電膜形成用塗布液では、塗布液中の貴金属微粒子の含有量が少ない場合、即ち得られる透明導電膜の透過率が高い場合や、前述のごとく透明導電膜形成用塗布液に導電性を阻害するバインダーや有色顔料微粒子等を多量に添加した場合においては、透明導電膜の導電性が大きく損なわれるという問題があった。
特開平9−115438号公報
特開平10−1777号公報
特開平10−110123号公報
特開平10−142401号公報
特開平10−182191号公報
特開平11−329071号公報
特開2000−124662号公報
特開2000−196287号公報
特開平11−228872号公報
特開2000−268639号公報
「工業材料」、Vol.44,No.9,1996,p68−71
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、透明基板上に透明導電膜を形成する際に用いられる透明導電膜形成用塗布液において、透明導電膜形成用塗布液中の貴金属微粒子の含有量が少ない場合、即ち得られる透明導電膜の透過率が高い場合や、透明導電膜形成用塗布液中に導電性を阻害するバインダーや有色顔料微粒子等が多量に添加される場合であっても、極めて良好な導電性を有する透明導電膜の形成が可能な透明導電膜形成用塗布液、その透明導電膜形成用塗布液により形成された透明導電膜、及びその透明導電膜を備えた表示装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明が提供する透明導電膜形成用塗布液は、溶媒と、この溶媒に分散された金により表面がコートされた金コート銀微粒子の連鎖状凝集体を主成分とし、該金コート銀微粒子の連鎖状凝集体は、該金コート銀微粒子の分散濃縮液にヒドラジン溶液を添加して該金コート銀微粒子を連鎖状に凝集させ、その後過酸化水素水溶液でヒドラジンを分解除去して得られるものであり、平均粒径1〜50nmの一次粒子が連接してなり、且つその平均主鎖長さが20〜500nmであって、連鎖状凝集体中における直鎖状凝集体の個数割合が40%以上であることを特徴とするものである。
また、本発明が提供する別の透明導電膜形成用塗布液は、溶媒と、この溶媒に分散された金により表面がコートされた金コート銀微粒子の連鎖状凝集体を主成分とし、該金コート銀微粒子の連鎖状凝集体は、該金コート銀微粒子の分散濃縮液にヒドラジン溶液を添加して該金コート銀微粒子を連鎖状に凝集させ、その後過酸化水素水溶液でヒドラジンを分解除去して得られるものであり、平均粒径1〜50nmの一次粒子が連接してなり、且つその平均主鎖長さが20〜500nmであって、連鎖状凝集体中における直鎖状凝集体と擬似直鎖状凝集体の合計の個数割合が70%以上であることを特徴とするものである。
上記した本発明の透明導電膜形成用塗布液においては、前記金コート銀微粒子の含有量が0.1〜10重量%であることが好ましい。また、上記本発明の透明導電膜形成用塗布液は、バインダー又は有色顔料微粒子の少なくとも1種を含むことができる。
本発明は、また、上記した本発明の透明導電膜形成用塗布液、又は該透明導電膜形成用塗布液を主要成分として調合された塗布液を用いて形成されたことを特徴とする透明導電膜を提供する。更に、本発明は、上記本発明の透明導電膜が、表示面の前面に配置される前面板、あるいは表示素子内に形成されていることを特徴とする表示装置を提供するものである。
本発明によれば、透明導電膜形成用塗布液中の貴金属含有微粒子が連接した連鎖状凝集体の形状とその個数割合を制御し、分岐のない直鎖状あるいは分岐の短い擬似直鎖状凝集体の割合を高くすることによって、透明導電膜形成用塗布液中の貴金属含有微粒子の含有量が少ない場合、即ち透明導電膜の透過率が高い場合や、透明導電膜形成用塗布液に導電性を阻害するバインダーや有色顔料微粒子が多量に添加される場合であっても、極めて良好な導電性を有する透明導電膜の形成が可能な透明導電膜形成用塗布液を提供することができる。
また、本発明の透明導電膜形成用塗布液を用いることによって、貴金属含有微粒子の含有量が少なく透過率が高い透明導電膜や、導電性を阻害するバインダーや有色顔料微粒子が多量に添加された透明導電膜であっても、極めて良好な導電性を有する透明導電膜を透明基板上に形成することができる。更に、この透明導電膜によって、バインダーを含む透明導電膜や、有色顔料微粒子を含む透明導電膜を備え、膜強度が改善され、あるいは画像のコントラスト向上と輝度の面内均一性を高め、表示画面を見易くした表示装置を提供することができる。
本発明においては、溶媒に貴金属含有微粒子を分散させた透明導電膜形成用塗布液中で、貴金属含有微粒子が連接した連鎖状凝集体の形状と割合を制御して、分岐のない直鎖状あるいは分岐の短い擬似直鎖状凝集体の割合を高くしてある。具体的には、貴金属含有微粒子の連鎖状凝集体は、平均粒径が1〜50nmの一次粒子が連接してなり、その平均主鎖長さが20〜500nmであって、かかる連鎖状凝集体における直鎖状凝集体の個数割合を40%以上するか、若しくは直鎖状凝集体と擬似直鎖状凝集体の合計の個数割合を70%以上とする。
一次粒子である貴金属含有微粒子が連接して形成される連鎖状凝集体には種々の形状のものがあるが、本発明においては、図1に示すように分岐していないものを直鎖状凝集体と称し、図2に示すように分岐はあるが、分岐部分の長さが主鎖長さの1/5以下であるものを擬似直鎖状凝集体と称する。また、直鎖状凝集体及び擬似直鎖状凝集体以外のもの、例えば図3に示すように分岐部分の長さが主鎖長さの1/5を超えるものや、環状凝集体などを、まとめて複雑連鎖状凝集体と称する。
このように透明導電膜形成用塗布液中の連鎖状凝集体の形状と個数割合を制御することによって、かかる制御が行われていない従来の連鎖状凝集体を含む透明導電膜形成用塗布液に比べ、塗布液中の貴金属含有微粒子の含有量が少ない場合、即ち得られる透明導電膜の透過率が高い場合や、塗布液中に導電性を阻害するバインダーや有色顔料微粒子が多量に添加されている場合であっても、極めて良好な導電性を有する透明導電膜の形成が可能となる。
本発明において、貴金属含有微粒子(一次粒子)の平均粒径は1〜50nmとし、好ましくは3〜20nmとする。貴金属含有微粒子の平均粒径が1nm未満だと透明導電膜形成用塗布液の製造が困難となり、50nmを超えると塗布液を用いて形成した透明導電膜の曇り(ヘイズ値:光の散乱度合い)が高くなるためである。また、連鎖状凝集体の平均主鎖長さは20〜500nmとし、好ましくは30〜300nmとする。連鎖状凝集体の平均主鎖長さが20nm未満では得られる透明導電膜の抵抗が高くなり、500nmを超えると透明導電膜形成用塗布液の濾過が困難になると同時に、透明導電膜形成用塗布液の保存安定性が低下するからである。
連鎖状凝集体全体に対する直鎖状凝集体の個数割合は40%以上とし、好ましくは50%以上とする。また、連鎖状凝集体全体に対する直鎖状凝集体と擬似直鎖状凝集体の合計の個数割合は70%以上とし、好ましくは80%以上とする。これらの範囲外では、透明導電膜形成用塗布液中の貴金属含有微粒子の含有量が少ない場合、即ち透明導電膜の透過率が高い場合や、透明導電膜形成用塗布液に導電性を阻害するバインダーや有色顔料微粒子が多量に添加されている場合に、良好な導電性を有する透明導電層が形成できなくなるからである。
尚、連鎖状凝集体の個数は、透過電子顕微鏡(TEM)で観察して、平均粒径1〜50nmの一次粒子が連接して一体となっている凝集体を1個と数える。そして、上記直鎖状凝集体の個数割合は、直鎖状凝集体の個数/連鎖状凝集体の個数から算出する。また、直鎖状凝集体と擬似直鎖状凝集体の合計の個数割合は、(直鎖状凝集体の個数+擬似直鎖状凝集体の個数)/連鎖状凝集体の個数から算出する。
また、本発明の透明導電膜形成用塗布液においては、連鎖状凝集体の平均主鎖長さに対する貴金属含有微粒子(一次粒子)の平均粒径(連鎖状凝集体の平均太さ)の比は、3〜100の範囲にあることが好ましい。この範囲以外では、良好な導電性を有する透明導電膜が形成できなくなったり、透明導電膜形成用塗布液の濾過が困難になると同時に、透明導電膜形成用塗布液の保存安定性が低下したりすることがあるからである。ここでの貴金属含有微粒子(一次粒子)の平均粒径、及び連鎖状凝集体の平均主鎖長さは、透過電子顕微鏡(TEM)で観察された凝集体に対する値を示している。
上記貴金属含有微粒子としては、金、銀、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウムから選択された少なくとも1種類の貴金属微粒子、これら貴金属の合金微粒子、あるいは、銀を除く上記貴金属により表面がコートされた貴金属コート銀微粒子のいずれかを用いることができる。これらの貴金属含有微粒子の比抵抗を比較した場合、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウムの比抵抗は、それぞれ10.6、4.51、7.6、10.8μΩ・cmであり、銀と金の1.62、2.2μΩ・cmに比べて高いため、表面抵抗の低い透明導電層を形成するには銀微粒子や金微粒子を用いる方が有利と考えられる。
ただし、銀微粒子は硫化や食塩水による劣化が激しいという耐候性の面から用途が制限され、一方、金微粒子、白金微粒子、ロジウム微粒子、ルテニウム微粒子、パラジウム微粒子等の場合には耐候性の問題はないがコスト面が高いので、いずれも必ずしも最適とは言えない。そこで、銀微粒子の表面に銀以外の貴金属をコーティングした貴金属コート銀微粒子を用いることが、耐侯性並びにコスト面において特に好ましい。貴金属コート銀微粒子における貴金属のコーティング量は、耐候性等を考慮したとき、銀100重量部に対し100〜1900重量部の範囲に設定することが好ましい。
尚、本発明者らは、表面に金若しくは白金の単体、又は金と白金の複合体がコーティングされた平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子を適用した透明導電層形成用塗布液とその製造方法を既に提案しており(特開平11−228872号公報、特開平2000−268639号公報参照)、本発明においても、この表面に金若しくは白金の単体又は金と白金の複合体がコーティングされた貴金属コート銀微粒子を適用することができる。
次に、本発明における透明導電膜形成用塗布液の製造方法を、貴金属微粒子が金コート銀微粒子である場合を例にして説明する。まず、既知の方法[例えば、Carey−Lea法:Am. J. Sci.,37,38,47(1889)参照]により、銀微粒子のコロイド分散液を調製する。具体的には、硝酸銀水溶液に硫酸鉄(II)水溶液とクエン酸ナトリウム水溶液の混合液を加えて反応させ、沈降物を濾過・洗浄した後、純水を加えることによって銀微粒子のコロイド分散液が得られる。
この銀微粒子コロイド分散液に、ヒドラジン等の還元剤溶液と、金酸塩溶液及び/又は白金酸塩溶液などを加えることにより、銀微粒子表面に金や白金単体、又は金と白金の複合体等がコーティングされた貴金属コート銀微粒子の分散液が得られる。尚、必要に応じて、上記コーティング工程で、銀微粒子のコロイド分散液か金酸塩溶液や白金酸塩溶液の片方又は両方に、少量の分散剤を加えてもよい。また、上記銀微粒子コロイド分散液及び貴金属コート銀微粒子分散液の調製方法は、最終的に平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子の分散液が得られれば任意の方法でよく、上記方法に限定されるものではない。
その後、透析、電気透析、イオン交換、限外濾過等の方法で、分散液内の電解質濃度を下げることが好ましい。電解質濃度を下げないと、一般にコロイドは電解質で凝集してしまうからであり、この現象はSchulze−Hardy則として知られている。このように電解質濃度を下げた貴金属コート銀微粒子分散液は、減圧エバポレーター、限外濾過等の方法で濃縮処理して、単分散貴金属コート銀微粒子の分散濃縮液とする。
この単分散貴金属コート銀微粒子の分散濃縮液を撹拌しながら、ヒドラジン溶液を少量ずつ添加し、例えば室温で数分から数時間程度保持することにより、貴金属コート銀微粒子を連鎖状に凝集させる。その後、過酸化水素溶液を添加してヒドラジンを分解することで、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子分散(濃縮)液が得られる。ヒドラジン溶液の添加により貴金属コート銀微粒子に連鎖状の凝集が生じる理由は明らかではないが、ヒドラジンのアルカリイオンとしての働き、あるいは還元剤として系の電位を低下させる働きにより、貴金属含有微粒子の安定性が低下して連鎖状に凝集するものと考えられる。
即ち、上記凝集過程において、貴金属コート銀微粒子の分散濃縮液にヒドラジン(N2H4)溶液を添加すると貴金属コート銀微粒子の安定性が低下(系のゼータ電位[絶対値]は低下)して、貴金属コート銀微粒子が連鎖状に凝集し、更に過酸化水素(H2O2)溶液を添加すると上記ヒドラジンが分解除去され、連鎖状貴金属コート銀微粒子の凝集状態は保ったままで、その安定性が再度向上(系のゼータ電位[絶対値]は増加)する。しかも、これら一連の反応は、下記反応式1に示されるように、反応生成物が水(H2O)及び窒素ガス(N2)だけで不純物イオンの副生がないため、貴金属コート銀微粒子の連鎖状凝集体を得る方法としては極めて簡便で有効な方法である。
[反応式1]
N2H4+2H2O2 → 4H2O+N2↑
上記貴金属コート銀微粒子の連鎖状凝集体における凝集形態の制御、即ち直鎖状凝集体や擬似直鎖状凝集体等の形状と個数は、貴金属コート銀微粒子の濃度、ヒドラジン溶液の濃度、ヒドラジン溶液の添加速度、処理液の撹拌速度、処理液の温度等を調整することで変えることが可能である。例えば、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子分散(濃縮)液を作製する際に、ヒドラジンを添加する単分散貴金属コート銀微粒子の分散濃縮液中の貴金属コート銀微粒子濃度が高いほど、直鎖状凝集体や擬似直鎖状凝集体が少なくなり、分岐の長い連鎖状凝集体や環状凝集体等の複雑連鎖状凝集体が多くなる。
得られた連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子分散(濃縮)液に、有機溶剤等を添加して、微粒子濃度、水分濃度、有機溶剤濃度等の成分調整を行うことにより、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液が得られる。尚、上記した透明導電膜形成用塗布液の製造方法は貴金属コート銀微粒子の場合を例に説明したが、これ以外の貴金属含有微粒子の場合も上記と同様にして透明導電膜形成用塗布液を製造することができる。
本発明の透明導電膜形成用塗布液においては、貴金属含有微粒子(連鎖状凝集体を形成している)の量が0.1〜10重量%、水分が1〜50重量%、有機溶剤その他添加物が残部となるように、成分調整することが好ましい。連鎖状凝集体を構成する貴金属含有微粒子が0.1重量%を下回ると十分な導電性能が得られず、10重量%を超えると貴金属含有微粒子が不安定になり凝集しやすくなるからである。また、水分濃度が1重量%よりも少ない場合には、貴金属含有微粒子の濃度が高くなり過ぎるため、貴金属含有微粒子が不安定になって凝集しやすくなり、逆に50重量%を超えると透明導電膜形成用塗布液の塗布性が著しく低下する可能性がある。
透明導電膜形成用塗布液に用いる有機溶剤としては、特に制限はなく、塗布方法や成膜条件により適宜に選定される。例えば、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)等のグリコール誘導体、ホルムアミド(FA)、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明の透明導電膜形成用塗布液には、バインダー及び/又は有色顔料微粒子を添加してもよい。バインダーを添加した透明導電膜形成用塗布液を用いると、膜強度の高い透明導電膜を得ることができ、単層でも透明導電膜として十分使用することができる。添加するバインダーとしては、有機及び/又は無機のバインダーを用いることが可能であり、バインダーの種類については、使用する基板や透明導電膜の硬化条件等を考慮して適宜選定することができる。
上記有機バインダーとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂から選択される少なくとも1種が挙げられる。例えば、熱可塑性樹脂には、アクリル樹脂、PET樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、PVP樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等などがある。熱硬化性樹脂にはエポキシ樹脂等があり、常温硬化性樹脂には2液性のエポキシ樹脂やウレタン樹脂等がある。また、紫外線硬化性樹脂には各種オリゴマー、モノマー、光開始剤を含有する樹脂等があり、電子線硬化性樹脂には各種オリゴマー、モノマーを含有する樹脂等がある。ただし、当然のことながら、これら樹脂に限定されるものではない。
また、無機バインダーとしては、シリカゾルを主成分とするバインダーを挙げることができる。他の無機バインダーには、弗化マグネシウム微粒子、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等があり、一部有機官能基で修飾されたシリカゾルを含んでいてもよい。上記シリカゾルとしては、オルトアルキルシリケートに水や酸触媒を加えて加水分解し、脱水縮重合を進ませた重合物、あるいは既に4〜5量体まで重合を進ませた市販のアルキルシリケート溶液を、更に加水分解と脱水縮重合を進行させた重合物等を利用することができる。
尚、アルキルシリケート溶液の脱水縮重合が進行し過ぎると、溶液粘度が上昇して最終的には固化してしまうので、脱水縮重合の度合いについては、ガラス基板やプラスチック基板等の透明基板上に塗布可能な上限粘度以下に調整する。ただし、脱水縮重合の度合いは上記上限粘度以下のレベルであれば特に指定されないが、膜強度、耐候性等を考慮すると、重量平均分子量で500〜50000程度が好ましい。そして、アルキルシリケート加水分解重合物は、透明導電膜形成用塗布液の塗布・乾燥後の加熱時において脱水縮重合反応がほぼ完結し、硬いシリケート膜(酸化ケイ素を主成分とする膜)になる。
また、有色顔料微粒子を添加した透明導電膜形成用塗布液を用いると、透明導電膜の透過率や色を所定の値に自由に設定でき、例えば、表示装置(ディスプレイ)等の用途では、画像のコントラストを向上させて表示画面を更に見易くさせること等の要望に対応することが可能となる。
上記有色顔料微粒子としては、カーボン、チタンブラック、窒化チタン、複合酸化物顔料、コバルトバイオレット、モリブデンオレンジ、群青、紺青、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾ系顔料及びフタロシアニン系顔料から選択された少なくとも1種の微粒子、あるいは更にその表面が酸化ケイ素でコーティング処理された上記微粒子を用いることができる。これらの有色顔料微粒子は、平均粒径5〜100nmが好ましく、有色顔料微粒子を溶媒に分散させた分散液として調合されることが好ましい。
尚、上記バインダー及び/又は有色顔料微粒子の透明導電膜形成用塗布液への添加においては、貴金属含有微粒子のコロイド状分散液の製造において脱塩処理を施したのと同様の理由から、透明導電膜形成用塗布液内に配合する上記バインダー(バインダー溶液)及び有色顔料微粒子の分散液についても、その脱塩を十分に行っておくことが望ましい。
次に、本発明における貴金属含有微粒子の連鎖状凝集体を含有する透明導電膜形成用塗布液、又はその透明導電膜形成用塗布液を主要成分として調合された塗布液、例えば、バインダー及び/又は有色顔料微粒子を添加した塗布液を用いて、透明導電膜を形成できる。透明導電膜としては、例えば、透明基板上に形成された単層の透明導電膜、あるいは透明基板上に順次形成された透明導電膜と透明コート層から成る透明2層の透明導電膜が挙げられる。
ここで、透明基板上に単層の透明導電膜を形成するには、以下の方法でこれを行うことができる。即ち、貴金属含有微粒子の連鎖状凝集体を含有する透明導電膜形成用塗布液を、ガラス基板、プラスチック基板等の透明基板上に、スピンコート、スプレーコート、ワイヤーバーコート、ドクターブレードコート、インクジェット印刷等の手法にて塗布し、必要に応じて乾燥した後、例えば50〜350℃程度の温度で加熱処理を施して透明導電膜を形成する。
また、透明2層の透明導電膜を形成する場合は、透明導電膜形成用塗布液の塗布を上記単層の透明導電膜形成と同様の方法で行った後、続けて、例えば前述のシリカゾル等を主成分とする透明コート層形成用塗布液を上述した手法によりオーバーコートし、加熱処理を施して透明コート層形成用塗布液の硬化を行って、透明2層の透明導電膜を形成する。
ここで、上記透明2層の透明導電膜においては、貴金属含有微粒子のネットワーク(網目状)構造の穴の部分を介して、透明基板と酸化ケイ素等のバインダーマトリックスとの接触面積が増大するため、透明基板とバインダーマトリックスの結合が強くなり、強度の向上が図られる。更に、貴金属含有微粒子が酸化ケイ素を主成分とするバインダーマトリックス中に分散された透明導電膜の光学定数(n−ik)において、屈折率nはさほど大きくないが消衰係数kが大きいため、上記貴金属含有微粒子を含む透明導電層と透明コート層の透明2層膜構造により、透明2層膜の反射率を大幅に低下できる。
本発明の透明導電膜形成用塗布液、即ち貴金属含有微粒子の連鎖状凝集体を含有し、且つ分岐の少ない直鎖状や擬似直鎖状の凝集体の割合が高い透明導電膜形成用塗布液を用いて透明導電膜を形成すると、従来の単なる連鎖状凝集体を含む透明導電膜形成用塗布液を用いた場合と比較して、貴金属含有微粒子が透明導電膜内において効率よく導電パスを形成することができる。そのため、透明導電膜形成用塗布液中の貴金属含有微粒子の含有量が少ない場合、即ち透明導電膜の透過率が高い場合や、透明導電膜形成用塗布液に導電性を阻害するバインダーや有色顔料微粒子が多量に添加された場合であっても、極めて良好な導電性を有する透明導電膜が得られる。
以上説明したように、本発明の透明導電膜形成用塗布液を適用した場合、形成された透明導電膜は高透過率で且つ極めて良好な導電性を有するため、その透明導電膜を具備する透明導電性基材は、例えば、ブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、液晶ディスプレイ(LCD)等の各種表示装置(ディスプレイ)の前面板や表示装置内部の透明電極として、あるいは太陽電池、タッチパネル等の透明電極等に用いることができる。
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、本文中の「%」は、透過率、反射率、ヘイズ値の(%)を除いて「重量%」を示し、また「部」は「重量部」を示している。
[実施例1]
Carey−Lea法により銀微粒子のコロイド分散液を調製した。具体的には、9%硝酸銀水溶液330gに、23%硫酸鉄(II)水溶液390gと37.5%クエン酸ナトリウム水溶液480gの混合液を加え、沈降物を濾過・洗浄した後、純水を加えて、銀微粒子のコロイド分散液(Ag:0.15%)を調製した。
この銀微粒子のコロイド分散液600gに、ヒドラジン1水和物(N2H4・H2O)の1%水溶液80.0gを加えて撹拌しながら、金酸カリウム[KAu(OH)4]水溶液(Au:0.075%)4800gと1%高分子分散剤水溶液2.0gの混合液を加え、表面に金単体がコーティングされた貴金属コート銀微粒子のコロイド分散液を得た。
この貴金属コート銀微粒子のコロイド分散液を、イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、商品名:ダイヤイオンSK1B,SA20AP)で脱塩した後、限外濾過を行い、貴金属コート銀微粒子の濃縮を行った。得られた液にエタノール(EA)を加えて、貴金属コート銀微粒子の分散(濃縮)液(Ag−Au:1.6%、水:20.0%、EA:78.4%、)(B液)を得た。
上記B液60gを撹拌しながら、ヒドラジン水溶液(N2H4・H2O:0.8%)0.8gを1分間かけて添加した後、室温で15分間保持し、更に過酸化水素水溶液(H2O2:1.6%)0.6gを1分間かけて添加することで、貴金属コート銀微粒子を連鎖状に凝集させて、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子分散(濃縮)液(C液)を得た。
尚、上記貴金属コート銀微粒子の分散(濃縮)液(B液)にヒドラジン溶液を添加した際の貴金属コート銀微粒子の安定性低下、及び、ヒドラジン溶液添加により凝集した貴金属コート銀微粒子の分散(濃縮)液に過酸化水素溶液を添加した際の安定性向上は、それら分散(濃縮)液のゼータ電位の測定値から科学的に確認することができた。
次に、上記C液(連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子分散(濃縮)液)に、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、実施例1に係る試料1の連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液(Ag:0.036%、Au:0.144%、水:3.9%、EA:65.8%、PGM:20%、DAA:10%、FA:0.05%)を得た。
この透明導電膜形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察した結果、一次粒径6nm程度の貴金属コート銀微粒子が連接した連鎖状凝集体を形成しており、その主鎖長さは100〜500nmであった。また、この連鎖状凝集体のうち、直鎖状凝集体の個数割合は52%、擬似直鎖凝集体の個数割合は34%、従って直鎖状及び擬似直鎖凝集体の合計の個数割合は86%であった。
次に、上記連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液を、濾過精度(ポアサイズ):10μmフィルターで濾過した後、38℃に加熱されたガラス基板(厚さ3mmのソーダライムガラス)上に、スピンコート(130rpm、90秒間)し、続けて、その上にシリカゾル液(D液)をスピンコート(150rpm、80秒間)した後、180℃で20分間硬化させて、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電膜と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜からなる透明コート層とで構成された透明2層の透明導電膜、即ち実施例1に係る試料1の透明導電膜を得た。
尚、上記ガラス基板は、使用前に酸化セリウム系研磨剤で研磨処理し、純水による洗浄・乾燥後、38℃に加熱して用いた。また、上記シリカゾル液(D液)は、メチルシリケート51(コルコート社商品名)19.6部、エタノール57.8部、1%硝酸水溶液7.9部、純水14.7部を用いて、SiO2(酸化ケイ素)固形分濃度が10%で、重量平均分子量が1050のものを調製し、これにエタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)を加え、SiO2:0.9%、PGM:20%、DAA:10%、エタノール及びその他:残部となるように調整したものである。
上記実施例1に係わる試料1について、貴金属コート銀微粒子の分散(濃縮)液(B液)のAg−Au濃度、透明導電膜形成用塗布液のAg−Au濃度、及び透明導電膜形成用塗布液中の直鎖状凝集体と擬似直鎖凝集体の個数割合を、それぞれ下記表1に示す。また、ガラス基板上に形成された透明導電膜の膜特性(表面抵抗、可視光透過率、ヘイズ値、ボトム波長/ボトム反射率)を、それぞれ下記表2に示す。
ここで、ボトム反射率とは透明導電性基材の反射プロファイルにおいて極小の反射率をいい、ボトム波長とは反射率が極小における波長を意味している。また、表1を含め本明細書において透過率とは、特に言及しない限り、透明基板を含まない透明導電膜だけの可視光透過率の値である。尚、表2において、透明基板(ガラス基板)を含まない透明導電膜だけの可視光透過率は、下記の計算式1により求められる。
[計算式1]
透明基板を含まない透明導電膜だけの透過率(%)=[(透明基板ごと測定した透過率)/(透明基板の透過率)]×100
尚、透明導電膜の表面抵抗は、三菱化学(株)製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)を用い測定した。ヘイズ値と可視光透過率は、村上色彩技術研究所製のヘイズメーター(HR−200)を用いて測定した。反射率は、日立製作所(株)製の分光光度計(U−4000)を用いて測定した。また、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子の形状、その主鎖長さと一次粒径は、日本電子(株)製の透過電子顕微鏡で評価した。
[実施例2]
実施例1のC液(連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子分散(濃縮)液)に、シリカゾル(E液)、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子及び無機バインダーを含有する実施例2に係る試料2の透明導電膜形成用塗布液(Ag:0.08%、Au:0.32%、SiO2:0.4%、水:5.8%、EA:73.3%、PGM:15%、DAA:5%、FA:0.05%)を得た。
ここで、上記シリカゾル液(E液)は、メチルシリケート51(コルコート社製商品名)19.6部、エタノール57.8部、1%硝酸水溶液7.9部、純水14.7部を用いて、SiO2(酸化ケイ素)固形分濃度が10%で、重量平均分子量が1200のものを調製し、最終的にSiO2固形分濃度が2.0%となるようにエタノールで希釈し、更にアニオン交換樹脂で脱イオン処理したものである。
この実施例2に係わる試料2の透明導電膜形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察した結果、一次粒径6nm程度の貴金属コート銀微粒子が連接した連鎖状凝集体を形成しており、その主鎖長さは100〜500nmであった。また、この連鎖状凝集体のうち、直鎖状凝集体の個数割合は52%、擬似直鎖凝集体の個数割合は34%、従って直鎖状及び擬似直鎖凝集体の合計の個数割合は86%であった。
この透明導電膜形成用塗布液を用い、38℃に加熱されたガラス基板(厚さ3mmのソーダライムガラス)上に、スピンコート(130rpm、90秒間)し、更に180℃で20分間硬化させた以外は実施例1と同様にして、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子と酸化ケイ素を主成分とするバインダーとで構成された単層の透明導電膜、即ち実施例2に係る試料2の透明導電膜を得た。
[比較例1]
実施例1と同様の方法で、ただしB液(貴金属コート銀微粒子の分散(濃縮)液)の代りに、B液よりもAg−Au量を多くした貴金属コート銀微粒子の分散(濃縮)液(Ag−Au:2.4%、水:30.0%、EA:67.6%、)(F液)を得た。このF液60gを撹拌しながら、ヒドラジン水溶液(N2H4・H2O:1.2%)0.8gを1分間かけて添加した後、室温で15分間保持し、更に過酸化水素水溶液(H2O2:2.4%)0.6gを1分間かけて添加することで、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子分散(濃縮)液(G液)を得た。
このG液に、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、比較例1に係る試料3の連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液(Ag:0.036%、Au:0.144%、水:3.9%、EA:65.8%、PGM:20%、DAA:10%、FA:0.05%)を得た。
この比較例1の透明導電膜形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察した結果、一次粒径6nm程度の貴金属コート銀微粒子が連接した連鎖状凝集体を形成し、主鎖長さは100〜500nmであった。また、連鎖状凝集体のうち、直鎖状凝集体の個数割合は21%、擬似直鎖凝集体の個数割合は28%、従って直鎖状と擬似直鎖凝集体の合計の個数割合は49%であった。尚、残りの連鎖状凝集体は複雑連鎖状凝集体であり、そのうち長い分岐を有する連鎖状凝集体の個数割合が48%、環状凝集体の個数割合が3%であった。
この透明導電膜形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にして、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電膜と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層の透明導電膜、即ち比較例1に係る試料3の透明導電膜を得た。
[比較例2]
実施例1のC液(連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子分散(濃縮)液)の代わりに、上記比較例1のG液を用いた以外は実施例2と同様にして、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子及び無機バインダーを含有する比較例2に係る試料4の透明導電膜形成用塗布液(Ag:0.08%、Au:0.32%、SiO2:0.4%、水:5.8%、EA:73.3%、PGM:15%、DAA:5%、FA:0.05%)を得た。
この比較例2の透明導電膜形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察した結果、一次粒径6nm程度の貴金属コート銀微粒子が連接した連鎖状凝集体を形成し、主鎖長さは100〜500nmであった。また、連鎖状凝集体のうち、直鎖状凝集体の個数割合は21%、擬似直鎖凝集体の個数割合は28%、従って直鎖状と擬似直鎖凝集体の合計の個数割合は49%であった。尚、残りの連鎖状凝集体は複雑連鎖状凝集体であり、そのうち長い分岐を有する連鎖状凝集体の個数割合が48%、環状凝集体の個数割合が3%であった。
この透明導電膜形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にして、連鎖状凝集貴金属コート銀微粒子と酸化ケイ素を主成分とするバインダーとで構成された単層の透明導電膜、即ち比較例2に係る試料4の透明導電膜を得た。
上記した実施例2及び比較例1〜2に係わる試料2〜4についても、貴金属コート銀微粒子の分散(濃縮)液のAg−Au濃度、透明導電膜形成用塗布液のAg−Au濃度、及び透明導電膜形成用塗布液中の直鎖状凝集体と擬似直鎖凝集体の個数割合を、それぞれ下記表1に示した。また、ガラス基板上に形成された透明導電膜の膜特性(表面抵抗、可視光透過率、ヘイズ値、ボトム波長/ボトム反射率)を、それぞれ下記表2に示した。
上記の結果において、実施例1の試料1と比較例1の試料3の比較から分るように、透明導電膜形成用塗布液中の貴金属含有微粒子の含有量が少ない場合には、比較例1に係る試料3の透明導電膜の表面抵抗が106Ω/□以上と極めて高いのに対し、実施例1に係る試料1の透明導電膜の表面抵抗は930Ω/□と著しく低くなった。
また、実施例2の試料2と比較例2の試料4の比較から分るように、透明導電膜形成用塗布液中にバインダーが多量に加えられた場合には、貴金属含有微粒子の含有量が多くても、比較例2に係る試料4の透明2層膜の表面抵抗が3500Ω/□と高いのに対し、実施例2に係る試料2の透明2層膜の表面抵抗は420Ω/□と著しく低くなった。尚、バインダーの代りに透明導電膜形成用塗布液中に有色顔料微粒子が多量に加えられた場合にも、上記実施例2及び比較例2とほぼ同等の結果が得られた。
このことから、透明導電膜形成用塗布液中の連鎖状凝集体中について、直鎖状凝集体の個数割合を40%以上、若しくは直鎖状凝集体と擬似直鎖状凝集体の合計の個数割合を70%以上とすることにより、透明導電膜形成用塗布液中の貴金属含有微粒子の含有量が少ない場合や、透明導電膜形成用塗布液中にバインダーや有色顔料微粒子が多量に加えられた場合であっても、極めて良好な導電性を有する透明導電膜が得られることが確認できた。
分岐のない直鎖状凝集体を示す模式図である。
分岐の長さが主鎖長さの1/5以下の擬似直鎖状凝集体を示す模式図である。
分岐の長さが主鎖長さの1/5を超える複雑連鎖状凝集体を示す模式図である。