本発明は、プラスチック基材や機能性有機層等の耐熱性が乏しい材質の上に透明導電膜を形成するのに適した透明導電膜形成用塗布液を用いて、透明導電膜を形成する方法及びその透明導電膜、並びにその透明導電膜を備えた表示装置に関するものである。
現在、各種表示装置(ディスプレイ)、太陽電池、タッチパネル等では、反射防止・帯電防止等の機能性フィルムや透明電極として、プラスチック基材や機能性有機層等の耐熱性が乏しい材質の上に形成した透明導電膜が用いられている。この透明導電膜は、一般的に、インジウム錫酸化物(ITO)から構成され、スパッタリング法によりプラスチック基板等の透明基板上に形成する方法が広く採用されている。
上記スパッタリング法では、表面抵抗が数十〜数百Ω/□の優れた導電性を有する透明導電膜を基板上に形成することが可能である。しかしながら、この方法は、非常に高価な設備を必要とするうえ、成膜時に基板を加熱する必要があるため、耐熱性の低い基板を用いることができない等の欠点を有している。
そこで、貴金属含有微粒子を溶媒中に分散した透明導電膜形成用塗布液を用い、これを基板にスピンコート法等で塗布・乾燥し、更にその上にシリカゾルからなる透明コート層形成用塗布液を塗布・乾燥した後、200℃前後の温度で焼成して2層からなる透明導電膜を形成する方法(特開平9−115438号公報、特開平10−1777号公報、特開平10−110123号公報、特開平10−142401号公報、特開平10−182191号公報、特開平11−329071号公報、特開2000−124662号公報、特開2000−196287号公報)が提案されている。
しかし、上記の2層からなる透明導電膜を形成する方法では、透明導電膜形成用塗布液及び透明コート層形成用塗布液をそれぞれ塗布・乾燥して2層コーティングとする必要があり、工程が煩雑であるうえ、透明導電膜の上に比較的電気絶縁性のある透明コート層が形成され、透明導電膜との電気的接続が取りにくいという問題があった。そのため、上記貴金属含有微粒子を含む透明導電膜形成用塗液にバインダーを添加して、単層で、且つ膜強度も改善された透明導電膜を得る方法も提案されている(特開平11−329071号公報)。
また、上記貴金属含有微粒子としては、金、銀、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウムから選択された少なくとも1種の貴金属の微粒子、これら貴金属の合金微粒子、あるいは、銀を除く上記貴金属により表面がコートされた貴金属コート銀微粒子のいずれかを適用することができる。そして、銀、金、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム等の比抵抗を比較した場合、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウムの比抵抗は、それぞれ10.6、4.51、7.6、10.8μΩ・cmであり、銀及び金の1.62、2.2μΩ・cmに比べて高いため、表面抵抗の低い透明導電膜を形成するには銀微粒子や金微粒子を適用することが有利と考えられる。
ただし、銀微粒子は硫化や食塩水による劣化が激しいため、耐候性の面から用途が制限され、他方、金微粒子、白金微粒子、ロジウム微粒子、ルテニウム微粒子、パラジウム微粒子等には上記耐候性の問題はないが、コストが高いとう問題があった。これらの観点から、銀微粒子の表面に銀以外の貴金属をコーティングした平均粒径1〜100nmの貴金属コート銀微粒子、例えば金又は白金単体、あるいは金と白金の複合体をコーティングした貴金属コート銀微粒子を用いることも知られている(特開平11−228872号公報、特開平2000−268639号公報)。
ところで、金属は可視光線に対して本来的に透明でないことから、上述した透明導電膜における高透過率と低抵抗を両立させるためには、できるだけ少量の金属微粒子が透明導電膜内において効率よく導電パスを形成していることが望ましい。つまり、溶媒と金属微粒子を主成分とする一般的な透明導電膜形成用塗布液を用いて得られる導電膜には、金属微粒子が相互に連接したネットワーク(網目状)構造が形成されていることが必要である。このようなネットワーク構造の形成により低抵抗且つ高透過率の透明導電膜が得られるが、これは、金属微粒子からなる網目状部分が導電パスとして機能する一方、網目状構造の穴の部分が光透過率を向上させる機能を果たすためと考えられている。
上記金属微粒子の発達したネットワーク構造を形成させる方法として、予め凝集した金属微粒子(金属微粒子の凝集体)が分散した透明導電膜形成用塗布液を用いる方法が知られている。例えば、一次粒子が分散されずに、一次粒子が小さな孔を持つ形で集合した二次粒子の状態で分散されている金属微粒子の分散液を用いる方法(「工業材料」、Vol.44,No.9,1996,p68−71)や、予め凝集させた金属微粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を用いる方法(特開平11−329071号公報、特開2000−124662号公報、特開2000−196287号公報)などである。
また、貴金属含有微粒子を含有した透明導電膜形成用塗布液を用いて単層あるいは2層の透明導電膜を形成する方法では、その形成工程において、基板上に塗布・乾燥した透明導電膜形成用塗布液を少なくとも120℃以上(多くの場合は150℃以上)で加熱処理し、貴金属含有微粒子同士の融着を行って透明導電膜の抵抗値を低下させる必要があった。例えば、特開平10−110123号公報には、透明導電膜形成用塗布液をガラスやプラスチック等の基材の表面に塗布し、約30〜100℃で乾燥させ、コロイド状金属微粒子を粒径約0.3μm以上の凝集粒子として凝集させた後、低屈折率透明膜形成用塗布液を塗布し、約150℃で加熱処理することにより凝集粒子を融着させて、連続した透明導電膜を形成させることが実施例に記載されている。
このように、透明導電膜形成用塗布液を用いて透明導電膜を形成する場合、120℃以下での加熱処理では貴金属含有微粒子間の融着が進まず、低抵抗の透明導電膜を得ることはできなかった。その理由は必ずしも明らかではないが、透明導電膜形成用塗布液においては、分散している貴金属含有微粒子が表面活性に乏しいため、一般的に高分子分散剤を用いて貴金属含有微粒子の分散安定性を確保していることに起因していると考えられる。即ち、貴金属含有微粒子の表面に吸着した高分子分散剤は、透明導電膜形成用塗布液中では立体障害効果により貴金属微粒子を安定化させるが、逆に透明導電膜中では貴金属含有微粒子間に介在して相互の接触を妨げるため、120℃を超えるような高温での加熱処理を行わないと、貴金属微粒子間の融着を十分進めることができないためであると推測される。
特開平9−115438号公報
特開平10−1777号公報
特開平10−110123号公報
特開平10−142401号公報
特開平10−182191号公報
特開平11−329071号公報
特開2000−124662号公報
特開2000−196287号公報
特開平11−228872号公報
特開2000−268639号公報
特開平10−110123号公報
「工業材料」、Vol.44,No.9,1996,p68−71
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、透明導電膜形成用塗布液を用いて透明基材上に透明導電膜を形成する際に、低温で加熱処理を行なっても、貴金属含有微粒子が相互に融着して良好な導電パスを形成でき、従って耐熱性の低い基材を用いることができる、優れた導電性の透明導電膜を製造する方法、その方法により得られる透明導電膜、及び表示装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明が提供する透明導電膜の製造方法は、溶媒と、この溶媒に分散された平均粒径1〜50nmの金銀含有微粒子を主成分とし、該金銀含有微粒子の表面が塩素で修飾され、その塩素量が金銀含有微粒子100重量部に対して0.2〜15重量部である透明導電膜形成用塗布液を、基材上に塗布・乾燥した後、40〜120℃の温度で加熱処理することを特徴とする。
上記本発明の透明導電膜の製造方法においては、前記透明導電膜形成用塗布液を基材上に塗布・乾燥し、その上に続けて透明コート層形成用塗布液を塗布・乾燥し、その後40〜120℃の温度で加熱処理することができる。
上記本発明の透明導電膜の製造方法においては、前記金銀含有微粒子が連鎖状凝集体を形成していることが好ましい。また、前記金銀含有微粒子は、銀微粒子の表面に金がコーティングされた金コート銀微粒子であることが好ましい。更に、前記加熱処理の温度が40〜100℃であることが好ましい。
本発明は、また、上記した透明導電膜の製造方法を用いて得られることを特徴とする透明導電膜を提供するものである。更に、本発明は、上記した透明導電膜が、表示面の前面に配置される前面板、あるいは表示素子内に形成されていることを特徴とする表示装置を提供するものである。
本発明によれば、ハロゲンで修飾された金銀含有微粒子が溶媒中に分散した透明導電膜形成用塗布液を用いることにより、120℃以下の低温で加熱処理を行っても、金銀含有微粒子の良好な導電パスを形成でき、優れた導電性の透明導電膜を形成することができる。従って、プラスチック基材や機能性有機層等の耐熱性が乏しい基材の上にも、高い透過率と共に優れた導電性を有する透明導電膜を低温で形成することが可能となった。
また、本発明の透明導電膜形成用塗布液を用いて形成した透明導電膜は、ブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等の表示装置に適用される反射防止・帯電防止等の機能性フィルムや透明電極、あるいはタッチパネルの透明電極等に適用することができ、特に、プラスチック基材や機能性有機層等の耐熱性が乏しい材質からなる基材を用いた表示装置等に好適に使用することができる。
本発明の透明導電膜形成用塗布液においては、溶媒中に分散する導電性の金属微粒子として、表面がハロゲンで修飾された金銀含有微粒子を用いる。この透明導電膜形成用塗布液は、塗布・乾燥した後の加熱処理において、加熱処理温度を従来に比べて大幅に低下させた場合であっても、極めて良好な導電性を有する透明導電膜を形成することができる。
本発明において、金銀含有微粒子とは、一次粒子中に金及び銀を含有している微粒子であり、例えば、金と銀の合金微粒子、銀微粒子の表面に金をコーティングした金コート銀微粒子がある。かかる金銀含有微粒子は、比抵抗並びに耐候性の面から見ても最も好ましいが、更に本発明者らの研究により、金銀含有微粒子同士が融着しやすい性質を有しているため、透明導電膜中において形成されるネットワーク(網目状)構造の微粒子接点部分が低温での加熱処理によっても容易に融着し、低抵抗の透明導電膜を実現しやすいことが判明した。
上記金銀含有微粒子は、平均粒径が1〜50nmの範囲であることを要し、3〜20nmの範囲が好ましい。金銀含有微粒子の平均粒径が1nm未満では透明導電膜形成用塗布液の製造が困難となり、50nmを超えると得られる透明導電膜の曇り(ヘイズ値:光の散乱度合い)が高くなるためである。尚、ここでいう平均粒径とは、透過電子顕微鏡(TEM)で観察される微粒子の平均粒径を示している。
また、上記金銀含有微粒子は、その表面にハロゲンイオンが吸着することによってハロゲンで修飾されている。金銀含有微粒子の表面修飾のために添加するハロゲン元素については、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)から選ばれた少なくとも1種が好ましく、塗布液の安定性のみを考えた場合に特に著しい差は見られないが、膜の導電性を考慮すると塩素を用いることが望ましい。
透明導電膜形成用塗布液に含まれるハロゲン量は、金銀含有微粒子100重量部に対し0.2〜15重量部、好ましくは0.5〜5重量部とする。このハロゲン量が0.2重量部より少ないと塗布液の安定性が悪くなり、逆に15重量部を超えても、金銀含有微粒子に対するハロゲンの吸着量に限界があるため、保存時の安定性の更なる向上が得られない。しかも、ハロゲン量が15重量部を超えると、イオン濃度が高くなるため反って金銀含有微粒子が凝集し易くなり、更には加熱処理時に金銀含有微粒子同士の融着も起こりにくくなるため、透明導電膜の加熱処理温度の低下さえも難しくなる。
このように金銀含有微粒子の表面をハロゲンで修飾することにより、金銀含有微粒子の安定性が向上する。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、ハロゲンイオンが金銀含有微粒子の銀元素部分に吸着することで、金銀含有微粒子に強いマイナス電荷を与えていることが考えられる。更に、ハロゲンは高分子分散剤等に比べて物理的サイズが小さいため、透明導電膜中に存在した場合でも、加熱処理時における微粒子間の融着を阻害しにくいという利点がある。
上記金銀含有微粒子の中では、耐侯性やコスト面だけでなく、その製造並びにハロゲン修飾が容易な点で、銀微粒子の表面に金をコーティングした金コート銀微粒子が好ましい。金コート銀微粒子における金のコーティング量は、耐候性及び塗布液のコスト等の点で、銀100重量部に対し5〜1900重量部が好ましく、50〜900重量部の範囲が更に好ましい。尚、金コート銀微粒子表面のハロゲン修飾は、銀微粒子表面に金をコーティングする過程において、一部の銀元素がハロゲンで修飾されながら金のコーティングが進行する、即ち金でコートされた金コート銀微粒子の表面に少量の銀元素が存在して、それがハロゲンで修飾されていると考えられるが、科学的にはまだ確認されていない。
また、透明導電膜形成用塗布液中の金銀含有微粒子は、一次粒子が鎖状に連接した連鎖状凝集体の形態であることが好ましい。金銀含有微粒子が透明導電膜形成用塗布液中で予め連鎖状凝集体を形成していると、成膜時に発達したネットワーク(網目状)構造を形成しやすくなり、また、連鎖状凝集体として連接した一次粒子である金銀含有微粒子間の結合部分は既にある程度融着しているため、より低温での加熱処理でも低抵抗の透明導電膜を形成することができる。
上記金銀含有微粒子の連鎖状凝集体の形状としては、得られる透明導電膜の抵抗値の観点からみると、分岐がない直鎖状凝集体か、又は分岐部分の長さが主鎖長さの1/5以下である擬似直鎖状凝集体が好ましい。これらの連鎖状凝集体の平均主鎖長さは、20〜500nmが好ましく、30〜300nmが更に好ましい。また、連鎖状凝集体の平均主鎖長さと一次粒子の平均粒径(即ち、連鎖状凝集体の平均太さ)の比は、3〜100の範囲にあることが好ましい。
上記連鎖状凝集体の平均主鎖長さ及びその平均主鎖長さと一次粒子の平均粒径の比について、いずれかが上記の各範囲を外れると、良好な導電性を有する透明導電膜の形成が難しくなったり、透明導電膜形成用塗布液の濾過が困難になると同時に、透明導電膜形成用塗布液の保存安定性が低下したりするため、好ましくない。尚、連鎖状凝集体の平均主鎖長さと、貴金属含有微粒子の一次粒子の平均粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)で観察された凝集体に対する値を示している。
次に、本発明における透明導電膜形成用塗布液の製造方法を、金銀含有微粒子が金コート銀微粒子である場合を例にとって説明する。まず、既知の方法[例えば、Carey−Lea法:Am. J. Sci.,37,38,47(1889)参照]により、単分散銀微粒子のコロイド分散液を調製する。具体的には、硝酸銀水溶液に硫酸鉄(II)水溶液とクエン酸ナトリウム水溶液の混合液を加えて反応させ、沈降物を濾過・洗浄した後、純水を加えることによって、単分散銀微粒子のコロイド分散液が得られる。
この銀微粒子コロイド分散液に、ヒドラジン等の還元剤溶液と、金酸塩溶液を加えることにより、銀微粒子表面に金がコーティングされた金コート銀微粒子の分散液が得られる。その際に、還元剤溶液か又は金酸塩溶液、若しくは銀微粒子のコロイド状分散液にハロゲンを添加することにより、表面がハロゲンで修飾された金コート銀微粒子の分散液を得ることができる。金コート銀微粒子分散液中のハロゲンの量は、前述したように、金コート銀微粒子100重量部に対して、0.2〜15重量部の範囲とし、好ましくは0.5〜5重量部とする。
尚、上記金コート銀微粒子分散液のような金銀含有微粒子コロイド分散液の調製方法は、最終的に平均粒径1〜50nmの金銀含有微粒子の分散液が得られれば任意の方法でよく、上記方法に限定されるものではない。
その後、透析、電気透析、イオン交換、限外濾過等の方法で、分散液内の電解質濃度を下げることが好ましい。電解質濃度を下げないと、一般にコロイドは電解質で凝集してしまうからであり、この現象はSchulze−Hardy則として知られている。このように電解質濃度を下げた金コート銀微粒子分散液は、減圧エバポレーター、限外濾過等の方法で濃縮処理して、単分散金コート銀微粒子の分散濃縮液とする。
この単分散金コート銀微粒子の分散濃縮液を撹拌しながら、ヒドラジン溶液を少量ずつ添加し、例えば室温で数分から数時間程度保持することにより、金コート銀微粒子を連鎖状に凝集させる。その後、過酸化水素溶液を添加してヒドラジンを分解することで、連鎖状凝集金コート銀微粒子分散(濃縮)液が得られる。ヒドラジン溶液の添加により金コート銀微粒子に連鎖状の凝集が生じる理由は明らかではないが、ヒドラジンのアルカリイオンとしての働き、あるいは還元剤として系の電位を低下させる働きにより、金銀含有微粒子の安定性が低下して連鎖状に凝集するものと考えられる。
尚、上記した凝集過程において、金コート銀微粒子の分散濃縮液にヒドラジン(N2H4)溶液を添加すると金コート銀微粒子の安定性が低下(系のゼータ電位[絶対値]は低下)して連鎖状に凝集し、更に過酸化水素(H2O2)溶液を添加すると上記ヒドラジンが分解除去され、連鎖状金コート銀微粒子の凝集状態を保ったままで、その安定性が再度向上(系のゼータ電位[絶対値]は増加)する。しかも、これら一連の反応は、下記反応式1に示されるように、反応生成物が水(H2O)及び窒素ガス(N2)だけで不純物イオンの副生がないため、金コート銀微粒子の連鎖状凝集体を得る方法としては極めて簡便で有効な方法である。
[反応式1]
N2H4+2H2O2 → 4H2O+N2↑
上記金コート銀微粒子の連鎖状凝集体における凝集形態の制御に関しては、金コート銀微粒子の濃度、ヒドラジン溶液の濃度、ヒドラジン溶液の添加速度、処理液の撹拌速度、処理液の温度等を調整することで変えることが可能である。例えば、ヒドラジンを添加して連鎖状凝集金コート銀微粒子分散(濃縮)液を作製する際の金コート銀微粒子濃度が高いほど、分岐の長い連鎖状凝集体や環状凝集体等の複雑な連鎖状凝集体の個数割合が高くなり、相対的に分岐のない直鎖状凝集体及び分岐の短い擬似直鎖状凝集体の個数割合は低くなる。
得られた連鎖状凝集金コート銀微粒子分散(濃縮)液に、有機溶剤等を添加して、微粒子濃度、水分濃度、高沸点有機溶剤濃度等の成分調整を行うことによって、連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液が得られる。尚、上記した透明導電膜形成用塗液の製造方法は金コート銀微粒子の場合を例に説明したが、これ以外の金銀含有微粒子の場合も上記と同様にして透明導電膜形成用塗布液を製造することができる。
本発明の透明導電膜形成用塗布液においては、金銀含有微粒子(連鎖状凝集している)が0.1〜10重量%、水分が1〜50重量%、有機溶剤その他添加物が残部となるように、成分調整することが好ましい。連鎖状凝集体を構成する金銀含有微粒子が0.1重量%を下回ると十分な導電性能が得られず、10重量%を超えると金銀含有微粒子が不安定になって凝集しやすくなる。また、水分濃度が1重量%よりも少ない場合には、金銀含有微粒子の濃度が高くなり過ぎるため、金銀含有微粒子が不安定になって凝集しやすくなり、逆に50重量%を超えると透明導電膜形成用塗布液の塗布性が著しく低下する可能性がある。
透明導電膜形成用塗布液に用いる有機溶剤としては、特に制限はなく、塗布方法や製膜条件により適宜に選定される。例えば、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)等のグリコール誘導体、ホルムアミド(FA)、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の透明導電膜形成用塗布液には、バインダー及び/又は有色顔料微粒子を添加してもよい。バインダーを添加した透明導電膜形成用塗布液を用いると、膜強度の高い透明導電膜を得ることができ、単層でも透明導電膜として十分使用することができる。添加するバインダーとしては、有機及び/又は無機のバインダーを用いることが可能であり、バインダーの種類については、使用する基材や透明導電膜の硬化条件等を考慮して適宜選定することができる。
上記有機バインダーとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂から選択される少なくとも1種が挙げられる。例えば、熱可塑性樹脂にはアクリル樹脂、PET樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、PVP樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等があり、熱硬化性樹脂にはエポキシ樹脂等がある。また、常温硬化性樹脂には2液性のエポキシ樹脂やウレタン樹脂等があり、紫外線硬化性樹脂には各種オリゴマー、モノマー、光開始剤を含有する樹脂等があり、電子線硬化性樹脂には各種オリゴマー、モノマーを含有する樹脂等がある。ただし、当然のことながら、これら樹脂に限定されるものではない。
また、無機バインダーとしては、シリカゾルを主成分とするバインダーを挙げることができる。無機バインダーは、弗化マグネシウム微粒子、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等があり、一部有機官能基で修飾されたシリカゾルを含んでいてもよい。上記シリカゾルとしては、オルトアルキルシリケートに水や酸触媒を加えて加水分解し、脱水縮重合を進ませた重合物、あるいは既に4〜5量体まで重合を進ませた市販のアルキルシリケート溶液を、更に加水分解と脱水縮重合を進行させた重合物等を利用することができる。
尚、脱水縮重合が進行し過ぎると、溶液粘度が上昇して最終的には固化してしまうので、脱水縮重合の度合いについては、ガラス基板やプラスチック基板等の透明基板上に塗布可能な上限粘度以下に調整する。ただし、脱水縮重合の度合いは上記上限粘度以下のレベルであれば特に指定されないが、膜強度、耐候性等を考慮すると、重量平均分子量で500〜50000程度が好ましい。そして、アルキルシリケート加水分解重合物は、透明導電膜形成用塗布液の塗布・乾燥後の加熱処理時において脱水縮重合反応がほぼ完結し、硬いシリケート膜(酸化ケイ素を主成分とする膜)になる。
また、有色顔料微粒子を添加した透明導電膜形成用塗布液を用いると、透明導電膜の透過率や色を所定の値に自由に設定でき、例えば、表示装置(ディスプレイ)に用いる用途では、画像のコントラストを向上させて表示画面を更に見易くさせること等の要望に対応することが可能となる。
上記有色顔料微粒子としては、カーボン、チタンブラック、窒化チタン、複合酸化物顔料、コバルトバイオレット、モリブデンオレンジ、群青、紺青、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾ系顔料、及びフタロシアニン系顔料から選択された1種以上の微粒子、あるいは更にその表面が酸化ケイ素でコーティング処理された上記微粒子を用いることができる。これらの有色顔料微粒子は、平均粒径5〜100nmが好ましく、有色顔料微粒子を溶媒に分散させた分散液として調合されることが好ましい。
尚、上記バインダー及び/又は有色顔料微粒子の透明導電膜形成用塗布液への添加においては、貴金属含有微粒子のコロイド状分散液の製造において脱塩処理を施したのと同様の理由から、透明導電膜形成用塗布液内に配合する上記バインダー(バインダー溶液)及び有色顔料微粒子分散液についても、その脱塩を十分に行っておくことが望ましい。
本発明の上記金銀含有微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液は、これを基材上に塗布・乾燥した後、40〜120℃、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは40〜80℃の温度で加熱処理することにより、透明導電膜を形成することができる。また、透明導電膜形成用塗布液を基材上に塗布・乾燥した後、続けて透明コート層形成用塗布液を塗布・乾燥し、40〜120℃、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは40〜80℃の温度で加熱処理すれば、透明導電膜上に更に透明コート層が形成された透明2層膜からなる透明導電膜を形成することもできる。更には、予め40〜120℃の温度に予熱した基材上に、透明導電膜形成用塗布液を塗布することによっても、透明導電膜を形成することが可能である。
上記のごとく120℃以下の低温での加熱処理で低抵抗の透明導電膜が得られる理由は、金銀含有微粒子自身が融着しやすい性質を有していること、及び表面修飾したハロゲンは高分子分散剤等に比べて物理的サイズが小さいため、透明導電膜中の微粒子間に介在した場合でも、加熱処理時の微粒子間の融着を阻害しにくいこと等によるものと考えられる。更に、金銀含有微粒子が連鎖状凝集体を形成している場合においては、連鎖状凝集体における連接した一次粒子の金銀含有微粒子間の結合部分は既にある程度融着しているため、このことも低温での加熱処理により低抵抗の透明導電膜が得られる理由の一つと考えられる。
ここで、透明基材上に上記透明導電膜を形成するには、以下の方法で行うことができる。即ち、上記金銀含有微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液を、基材上にスピンコート、スプレーコート、ワイヤーバーコート、ドクターブレードコート、インクジェット印刷等の手法にて塗布し、必要に応じて40〜80℃程度で乾燥した後、40〜120℃、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは40〜80℃の温度での加熱処理を施して透明導電膜を形成する。加熱処理温度が40℃よりも低い場合には、金銀含有微粒子間の融着が進まず、低抵抗の透明導電膜が得られない。逆に120℃よりも高い温度で加熱処理した場合には、低抵抗の透明導電膜は得られるものの、プラスチックや機能性有機膜等の耐熱性の乏しい基材では熱ダメージが大きくなり、基材が収縮ないし変形や変質する等の不都合が発生する。
また、上記透明2層膜からなる透明導電膜を形成する場合には、透明導電膜形成用塗布液を上記と同様の方法で塗布した後、続けて、例えば前述のシリカゾル等を主成分とする透明コート層形成用塗布液を上記と同様の方法によりオーバーコートして乾燥させ、上記と同様の加熱処理を施せばよい。透明2層膜においては、金銀含有微粒子のネットワーク(網目状)構造の穴の部分を介して、基材と酸化ケイ素等のバインダーマトリックスとの接触面積が増大するため、透明基材とバインダーマトリックスの結合が強くなり、強度の向上が図られる。
更に、金銀含有微粒子が酸化ケイ素を主成分とするバインダーマトリックス中に分散された透明導電膜の光学定数(n−ik)において、屈折率nはさほど大きくないが消衰係数kが大きいため、上記金銀含有微粒子を含む透明導電層と透明コート層の透明2層膜構造により、透明2層膜の反射率を大幅に低下できる。
以上説明したように、本発明のハロゲンで修飾された金銀含有微粒子の透明導電膜形成用塗布液を適用した場合、上記のごとく40〜120℃、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは40〜80℃という、従来に比べて低い温度での加熱処理により、高い透過率と優れた導電性を有する透明導電膜を形成することができる。従って、基材に熱ダメージを与えることなくなるため、プラスチック基材や機能性有機層等の耐熱性が乏しい材質の基材上にも、優れた導電性の透明導電膜を形成することが可能である。
このように、本発明の透明導電膜形成用塗布液を適用して形成した透明導電膜は、高い透過率と優れた導電性を有するため、例えば、ブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等の各種表示装置(ディスプレイ)の前面板に適用される反射防止・帯電防止等の機能性フィルムや透明電極の他、表示装置内部の透明電極として、あるいは太陽電池、タッチパネル等の透明電極等に用いることができる。中でも有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイは、耐熱性が乏しい材質の基材を用いるため特に有効である。
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、本文中の「%」は、透過率、反射率、ヘイズ値の(%)を除いて「重量%」を示し、また「部」は「重量部」を示している。
[実施例1]
Carey−Lea法により銀微粒子のコロイド分散液を調製した。具体的には、9%硝酸銀水溶液330gに、23%硫酸鉄(II)水溶液390gと37.5%クエン酸ナトリウム水溶液480gの混合液を加え、沈降物を濾過・洗浄した後、純水を加えて、単分散銀微粒子のコロイド分散液(Ag:0.1%)を調製した。
この銀微粒子のコロイド分散液1200gに、ヒドラジン1水和物(N2H4・H2O)の1%水溶液100.0gと、塩化ナトリウム(NaCl)0.2gに水を加えて3200gにした液と、金酸カリウム[KAu(OH)4]水溶液(Au:0.15%)3200gとを加え、撹拌することにより、表面がハロゲンで修飾され且つ金でコーティングされた金コート銀微粒子のコロイド分散液を得た。
このハロゲンで修飾された金コート銀微粒子のコロイド分散液を、イオン交換樹脂(三菱化学(株)商品名:ダイヤイオンSK1B,SA20AP)で脱塩処理した後、限外濾過を行って、金コート銀微粒子の濃縮を行った。得られた液にエタノール(EA)を加え、ハロゲンで修飾された金コート銀微粒子の分散(濃縮)液(Ag−Au:1.6%、Cl:0.016%、水:20.0%、EA:78.3%)(A液)を得た。
このA液60gを撹拌しながら、ヒドラジン水溶液(N2H4・H2O:0.8%)0.8gを1分間かけて添加した後、室温で15分間保持し、更に過酸化水素水溶液(H2O2:1.6%)0.6gを1分間かけて添加することにより、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子分散(濃縮)液(B液)を得た。
尚、上記ハロゲンで修飾された金コート銀微粒子の分散(濃縮)液(A液)にヒドラジン溶液を添加した際の金コート銀微粒子の安定性低下、及び、ヒドラジン溶液の添加で凝集した金コート銀微粒子の分散(濃縮)液に過酸化水素溶液を添加した際の安定性向上は、それら分散(濃縮)液のゼータ電位の測定値から科学的に確認することができた。
次に、上記B液に、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する実施例1に係る試料1の透明導電膜形成用塗布液(Ag:0.08%、Au:0.32%、Cl:0.004%、水:5.0%、EA:64.5%、PGM:20.0%、DAA:10%、FA:0.05%)を得た。
この透明導電膜形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察したところ、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子は、一次粒径7.2nm程度の金コート銀微粒子が連接した連鎖状凝集体(主に、直鎖状凝集体と擬似直鎖状凝集体)を形成しており、その主鎖長さは100〜500nmであった。
次に、上記ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する試料1の透明導電膜形成用塗布液を、濾過精度(ポアサイズ)10μmフィルターで濾過した後、40℃に加熱されたPETフィルム(厚さ100μm)上に、スピンコート(110rpmで10秒間の後、130rpmで90秒間)し、続けてシリカゾル液(C液)をスピンコート(130rpm、80秒間)した後、120℃で5分間加熱処理して、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する透明導電膜と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜からなる透明コート層とで構成された透明2層膜、即ち、実施例1に係る試料1の透明導電膜を得た。
尚、上記シリカゾル液(C液)は、メチル基を含有するシリカゾル液(コルコート社製、商品名:メチルシリケート51)16.9部、メチルトリメトキシシラン[CH3Si(OCH3)3]2.8部、エタノール56.2部、1%硝酸水溶液7.9部、純水14.7部を用いて、SiO2(酸化ケイ素)固形分濃度が10%で、重量平均分子量が1550のものを調製し、これにエタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)を加え、SiO2:0.8%、PGM:20%、DAA:10%、エタノール及びその他:残部となるように調整したものである。ここで、SiO2固形分濃度は、上記メチル基を含有するシリカゾル液に含まれるケイ素元素(Si)が全て酸化ケイ素であると仮定して計算した値である。
上記試料1に関して、透明導電膜形成用塗布液のAg−Au濃度と、金コート銀微粒子の表面修飾、及び透明導電膜形成用塗布液をPETフィルムに塗布した後の加熱処理温度、並びに得られた透明導電膜の構造を、それぞれ下記表1に示す。また、PETフィルム上に形成された透明導電膜の膜特性(表面抵抗、可視光透過率、ヘイズ値、ボトム波長/ボトム反射率)を、それぞれ下記表2に示す。
ここで、ボトム反射率とは透明導電性基材の反射プロファイルにおいて極小の反射率をいい、ボトム波長とは反射率が極小における波長を意味している。また、表1を含め本明細書において透過率とは、特に言及しない限り、透明基材を含まない透明導電膜だけの可視光透過率の値である。尚、表2において、透明基材(PETフィルム)を含まない透明導電膜だけの可視光透過率は、下記の計算式1により求められる。また、透明導電膜のヘイズ値は、透明基材(PETフィルム)を含まない透明導電膜だけのヘイズ値であって、下記の計算式2により求められている。
[計算式1]
透明基材を含まない透明導電膜だけの透過率(%)=[(透明基材ごと測定した透過率)/(透明基材の透過率)]×100
[計算式2]
透明基材を含まない透明導電膜だけのヘイズ値(%)=(透明基材ごと測定したヘイズ値)−(透明基材のヘイズ値)
尚、透明導電膜の表面抵抗は、三菱化学(株)製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)を用い測定した。ヘイズ値と可視光透過率は、村上色彩技術研究所製のヘイズメーター(HR−200)を用いて測定した。反射率は、日立製作所(株)製の分光光度計(U−4000)を用いて測定した。また、連鎖状凝集金コート銀微粒子の形状、その主鎖長さと一次粒径は、日本電子(株)製の透過電子顕微鏡で評価した。
[実施例2]
実施例1に係わる連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液とシリカゾル液(C液)を用い、これらを順にPETフィルム上に塗布した後の加熱処理を90℃で10分間行った以外は実施例1と同様にして、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する透明導電膜と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜からなる透明コート層とで構成された透明2層膜、即ち実施例2に係る試料2の透明導電膜を得た。
[実施例3]
実施例1に係わる連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液とシリカゾル液(C液)を用い、これらを順にPETフィルム上に塗布した後の加熱処理を60℃で20分間行った以外は実施例1と同様にして、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する透明導電膜と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜からなる透明コート層とで構成された透明2層膜、即ち実施例3に係る試料3の透明導電膜を得た。
[実施例4]
上記実施例1の加熱処理の代りに、40℃に予熱したPETフィルム上に、実施例1に係わる透明導電膜形成用塗布液及びシリカゾル液(C液)を塗布・乾燥させただけで、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する透明導電膜と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜からなる透明コート層とで構成された透明2層膜、即ち実施例4に係る試料4の透明導電膜を得た。
[実施例5]
実施例1のハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子分散(濃縮)液(B液)に、バインダー成分としてのシリカゾル液(D液)、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加えて、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子とバインダー成分を含有する実施例5に係る試料5の透明導電膜形成用塗布液(Ag:0.08%、Au:0.32%、Cl:0.004%、SiO2:0.1%、水:5.2%、EA:64.2%、PGM:20.0%、DAA:10%、FA:0.05%)を得た。
ここで、上記シリカゾル液(D液)は、メチル基を含有するシリカゾル液(コルコート社製、商品名:メチルシリケート51)16.9部、メチルトリメトキシシラン[CH3Si(OCH3)3]2.8部、エタノール56.2部、1%硝酸水溶液7.9部、純水14.7部を用いて、SiO2(酸化ケイ素)固形分濃度が10%で重量平均分子量が4500のものを調製し、最終的に、SiO2固形分濃度が5.0%となるようにエタノールで希釈し、更にアニオン交換樹脂で脱イオン処理して得られたものである。尚、SiO2固形分濃度は、上記メチル基を含有するシリカゾル液に含まれるケイ素元素(Si)が全て酸化ケイ素であると仮定して計算した値である。
上記透明導電膜形成用塗布液を濾過精度(ポアサイズ)10μmフィルターで濾過した後、40℃に加熱されたPETフィルム(厚さ100μm)上に、スピンコート(110rpmで10秒間の後、130rpmで90秒間)し、90℃で10分間加熱処理して、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子と酸化ケイ素バインダーを含有する透明単層膜、即ち実施例5に係る試料5の透明導電膜を得た。
[比較例1]
実施例1に係わる連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液とシリカゾル液(C液)を用い、これらを順にPETフィルム上に塗布した後の加熱処理を150℃で10分間行った以外は実施例1と同様にして、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する透明導電膜と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜からなる透明コート層とで構成された透明2層膜、即ち比較例1に係る試料6の透明導電膜を得た。
[比較例2]
実施例5に係わるハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子とバインダー成分を含有する透明導電膜形成用塗布液を用い、PETフィルム上に塗布した後の加熱処理を150℃で10分間行った以外は実施例5と同様にして、ハロゲンで修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子と酸化ケイ素バインダーを含有する透明単層膜、即ち比較例2に係る試料7の透明導電膜を得た。
[比較例3]
実施例1における塩化ナトリウム(NaCl)0.2gの代わりにピロ燐酸カリウム(K4P2O7)1.05gを用い、最終的にピロ燐酸(イオン)で修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する比較例3に係る試料8の透明導電膜形成用塗布液(Ag:0.08%、Au:0.32%、P2O7:0.007%、水:5.0%、EA:64.5%、PGM:20.0%、DAA:10%、FA:0.05%)を調整した。
この透明導電膜形成用塗布液と実施例1のシリカゾル液(C液)を用い、これらを順にPETフィルム上に塗布した後の加熱処理を90℃で10分間行った以外は実施例1と同様にして、ピロ燐酸(イオン)で修飾された連鎖状凝集金コート銀微粒子を含有する透明導電膜と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜からなる透明コート層とで構成された透明2層膜、即ち比較例3に係る試料8の透明導電膜を得た。
上記した実施例2〜5及び比較例1〜3についても、実施例1と同様に、各透明導電膜形成用塗布液のAg−Au濃度と、金コート銀微粒子の表面修飾、及び加熱処理温度、並びに透明導電膜の構造を、それぞれ下記表1に示した。また、PETフィルム上に形成された透明導電膜の膜特性(表面抵抗、可視光透過率、ヘイズ値、ボトム波長/ボトム反射率)を、それぞれ実施例1と同様に測定して下記表2に示した。
上記表1〜2の結果から明らかなように、ハロゲンで修飾された金コート銀微粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を用いて得られた透明2層膜構造の透明導電膜について、実施例1〜4に係る試料1〜4と比較例1に係る試料6を比較すると、試料1〜4の透明導電膜は加熱処理温度が40〜120℃と低いにもかかわらず表面抵抗が432〜560Ω/□であり、従来と同様の高温(150℃)の加熱処理で得られた試料6の透明導電膜と同等の良好な表面抵抗が得られている。ただし、比較例1に係わる試料6では、基材であるPETフィルムの熱収縮が一部で見られた。
また、ハロゲンで修飾された金コート銀微粒子とバインダーを含有する透明導電膜形成用塗布液を用いて得られた透明導電膜について、実施例5に係る試料5と比較例2に係る試料7を比較すると、試料5の透明導電膜は加熱処理温度が90℃と低いにもかかわらず表面抵抗が839Ω/□であり、従来と同様の高温(150℃)の加熱処理で得られた試料7の透明導電膜と同等の良好な表面抵抗が得られている。ただし、比較例2に係わる試料7では、基材であるPETフィルムの熱収縮が一部で見られた。
更に、実施例2に係る試料2の透明導電膜と比較例3に係る試料8の透明導電膜を比較すると、共に加熱処理温度は90℃と同じであるにもかかわらず、ハロゲンで修飾された金コート銀微粒子を含む透明導電膜形成用塗布液を用いた試料2の透明導電膜の表面抵抗が428Ω/□であるのに対し、比較例3に係る試料8の透明導電膜形成用塗布液では金コート銀微粒子がハロゲン以外のアニオン(ピロ燐酸イオン)で修飾されているため、得られた透明導電膜の表面抵抗は11500Ω/□と非常に高い値となっている。
しかも、実施例1〜5に係る試料1〜5の透明導電膜においては、基材であるPETフィルムへの熱ダメージも全く見られなかった。また、表1〜2に示された結果から明らかなように、透明2層膜構造の実施例1〜4に係る試料1〜4の透明導電膜では、良好な導電性に加えて、可視光透過率や反射防止機能など優れた光学的特性を有していることが分る。