本発明は、溶媒とこの溶媒に分散された貴金属含有微粒子とを有し、例えば、ブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、液晶ディスプレイ(LCD)等表示装置の前面板に利用される透明導電性基材の製造に適用される透明導電層形成用塗布液に係り、特に、貴金属含有微粒子が溶媒中において鎖状凝集体を構成している透明導電層形成用塗布液の製造方法に関するものである。
現在、コンピュータディスプレイ等として用いられている陰極線管(ブラウン管とも称する:CRT)では、表示画面が見易く、視覚疲労を感じさせないこと等が要求されている。更に、最近ではCRTから発生する低周波電磁波の人体に対する悪影響が懸念され、このような電磁波が外部に漏洩しないことが望まれている。このような漏洩電磁波に対しては、ディスプレイの前面板表面に透明導電層(膜)を形成することにより防止することが可能である。例えば、CRTの漏洩電磁波防止(電界シールド)用として、少なくとも106 Ω/□以下、好ましくは5×103 Ω/□以下、さらに好ましくは103 Ω/□以下である低抵抗の透明導電層(膜)を前面板表面に形成することが要求されている。
そして、上記低抵抗の透明導電層(膜)を形成する方法として、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)等の導電性酸化物微粒子や金属微粒子が溶媒中に分散された透明導電層形成用塗布液を、CRTの前面ガラス(前面板)にスピンコート法等で塗布しかつ乾燥させた後、200℃程度の温度で焼成して上記透明導電層を形成する方法、塩化錫の高温化学気相成長法(CVD)により、上記前面ガラス(前面板)に透明導電酸化錫膜(ネサ膜)を形成する方法、インジウム錫酸化物、酸窒化チタン等のスパッタリング法により上記前面ガラス(前面板)に透明導電膜を形成する方法等が提案されているが、透明導電層形成用塗布液を用いる方法は、CVD法やスパッタ法等で透明導電膜を形成する後者の方法に較べてはるかに簡便でかつ製造コストも低いため極めて有利な方法であった。
但し、透明導電層形成用塗布液を用いる方法において、インジウム錫酸化物(ITO)等の導電性酸化物微粒子が適用された場合、得られる透明導電層の表面抵抗が104〜106Ω/□と高いため、漏洩電界を遮蔽するには充分でなかった。これに対し、金属微粒子が適用された透明導電層形成用塗布液では、ITOを用いた塗布液に比べ、若干、膜の透過率が低くなるものの102〜103Ω/□という低抵抗の透明導電層が得られるため、今後、有望な方法であると思われる。
そして、透明導電層形成用塗布液に適用される金属微粒子としては、特許文献1や特許文献2等に示されているように、空気中で酸化され難い、銀、金、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等の貴金属が提案されている。尚、上記特許文献では、貴金属以外の金属微粒子、例えば、鉄、ニッケル、コバルト等の微粒子も適用可能と記載されているが、実際には、大気雰囲気下でこれ等金属微粒子の表面に酸化物被膜が必ず形成されてしまうため、透明導電層として良好な導電性を得ることは難しい。
一方、表示画面を見易くするために、例えば、CRTにおいては前面板表面に防眩処理を施して画面の反射を抑えることも行われている。この防眩処理は、微細な凹凸を設けて表面の拡散反射を増加させる方法によってもなされるが、この方法を用いた場合、解像度が低下して画質が落ちるためあまり好ましいとはいえない。従って、むしろ反射光が入射光に対して破壊的干渉を生ずるように、透明被膜の屈折率と膜厚とを制御する干渉法によって防眩処理を行うことが好ましい。このような干渉法により低反射効果を得るため、一般的には高屈折率膜と低屈折率膜の光学膜厚をそれぞれ(1/4)λと(1/4)λ(λ:波長)、あるいは(1/2)λと(1/4)λに設定した二層構造膜が採用されており、前述のインジウム錫酸化物(ITO)微粒子からなる膜もこの種の高屈折率膜として用いられている。尚、金属においては、光学定数(n−ik、n:屈折率,i2=−1、k:消衰係数)の内、nの値は小さいがkの値が大きいため、金属微粒子からなる透明導電層を用いた場合でも、ITO(高屈折率膜)と同様に、二層構造膜で光の干渉による反射防止効果が得られる。
また、この種の透明導電層が形成された透明導電性基材には、良好な導電性、低反射率等の特性に加えて、近年、CRT画面の平面化に伴いその透過率を100%より低い所定範囲(具体的には40〜95%、一般的には40〜75%)に調整して画像のコントラストを向上させる特性も要請されており、この要請に対処するため透明導電層形成用塗布液に着色顔料微粒子等を配合することも行われている。尚、平面CRTにおいて低透過率の透明導電層を形成しているのは以下の理由による。すなわち、平面CRTのフェースパネル(前面パネル)においては、パネルの外表面が平面で内面は曲率を有する構造になっているため、フェースパネルの厚みが画面中央部と周辺部で異なり、従来の着色ガラス(例えば、セミティントガラス、透過率:約53%)をパネルガラスに用いた場合、輝度の面内不均一を生じる。そこで、高透過率パネルガラスと着色顔料微粒子等を配合した低透過率の透明導電層を組合わせることで輝度の面内均一性とコントラスト向上(透過率を低下させるとコントラストは向上する)を両立させるためであった。但し、有色顔料微粒子等の添加により透明導電層の導電性が若干低下し易くなるという問題もあった。
ところで、金属微粒子が適用された導電層は、本来、金属が可視光線に対し透明でないことから、上述した透明導電層における高透過率と低抵抗を両立させるためには、できるだけ少量の金属微粒子が透明導電層内において効率よく導電パスを形成していることが望ましい。つまり、溶媒と金属微粒子を主成分とする一般的な透明導電層形成用塗布液を基板上に塗布しかつ乾燥させて得られる導電層の構造として、金属微粒子の層に微小な空孔が導入された構造、すなわち網目状(ネットワーク)構造を有することが必要である。このような網目状構造が形成されると低抵抗かつ高透過率の透明導電層が得られるが、これは、金属微粒子から成る網目状部分が導電パスとして機能する一方、網目状構造において形成された穴の部分が光線透過率を向上させる機能を果たすためと考えられている。
そして、金属微粒子の上記網目状構造を形成させる手法としては、大別すると以下の方法が挙げられる。
(1)透明導電層形成用塗布液の塗布かつ乾燥の製膜過程において金属微粒子同士を凝集させることで網目状構造を形成させる方法(特許文献3〜8参照)。
(2)金属微粒子の凝集体が分散された透明導電層形成用塗布液を塗布かつ乾燥させることによって金属微粒子の網目状構造を形成させる方法(特許文献9〜11、非特許文献1参照)。
そして、これ等の方法を比べると、(2)の方法は透明導電層形成用塗布液において金属微粒子の凝集体が予め完成されていることから、発達した網目状構造の形成が容易となる利点を有している。その反面、透明導電層形成用塗布液のろ過処理時においてフィルターが目詰まりを起こし易かったり、金属微粒子の凝集が進み過ぎると塗膜欠陥を生ずる等の別な問題が生じる。但し、透明導電層形成用塗布液中に予め形成されている金属微粒子の凝集体について、その分散安定性が十分高く、かつ、凝集体のサイズが数百ミクロン以下に制御されていれば、良好な導電性を有する透明導電層を形成できるという観点からは好ましい方法ではある。
ここで、(2)の方法において、透明導電層形成用塗布液中において、予め金属微粒子の凝集体を形成させる方法として、例えば、特許文献9、特許文献10、特許文献11に記載された以下の(a)〜(e)の方法が知られている。
(a)金属微粒子の分散液に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等の水溶性塩、若しくは、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸等の酸、あるいは、苛性ソーダ、アンモニア等のアルカリを加えて金属微粒子の分散性を不安定にし、金属微粒子の凝集体を形成する方法。
(b)透明導電層形成用塗布液に分散されている金属微粒子を金属塩の水溶液から調製する段階で、水溶液のpH等を所定の範囲に制御して、金属微粒子の凝集体を形成する方法。
(c)金属微粒子の分散液を分散溶媒の沸点以下である数十度の温度に数時間〜数十時間保持して、金属微粒子の凝集体を形成する方法。
(d)金属微粒子の分散液にアルコール等の有機化合物を添加し分散溶媒の極性を制御することで、金属微粒子の凝集体を形成する方法。
(e)金属微粒子の分散液にサンドミル法、衝撃分散法等のメカニカル分散処理を行い、金属微粒子の凝集体を形成する方法。
そして、上記(a)〜(d)の方法において、(a)と(d)の方法は、金属微粒子の分散安定性を低下させて(系のゼータ電位は低下し安定性が低下)凝集体を形成させる方法のため、そのまま放置すると金属微粒子は不安定なままで凝集が徐々に進行してしまうことから実用的でない。そこで、系の安定性を高めるために不安定化要因[(a)の方法では水溶性塩、酸、アルカリ等、(d)の方法ではアルコール等の有機化合物]を取除く必要があるが、この工程が煩雑で好ましい方法ではなかった。
また、(c)の方法は、金属微粒子の分散液を加熱保持するだけで良く簡便な方法ではあるが、もともと数十度の加温で凝集体が形成されるような透明導電層形成用塗布液は、含まれる金属微粒子自体の分散安定性が高いとは言えず、従って形成された凝集体の分散安定性も低いという問題があった。反対に、金属微粒子自体の分散安定性が高い場合は、数十度の加温で凝集体を形成するために長時間を要するためやはり実用的とは言えなかった。
また、(b)の方法は、金属微粒子における金属塩水溶液からの調製段階で金属微粒子の凝集体を形成する方法のため、その後における透明導電層形成用塗布液を調製するための濃縮工程等で凝集体同士の凝集・沈殿等が起こる問題があり、さらに金属微粒子の凝集状態を予め決めておく必要があることから金属微粒子の凝集状態を後の段階で自由に変えることができない不自由さがあった。
更に、(e)の方法は、金属微粒子の凝集体形成にメカニカル分散処理を施す方法のため、高価な処理装置が必要となりかつ処理工程も簡便とは言えない問題点があった。
このような技術的背景の下、本出願人は上述した問題を解消する透明導電層形成用塗布液の新規な製造方法を既に提案している。
すなわち、この透明導電層形成用塗布液の製造方法は、
溶媒とこの溶媒に分散された平均粒径1〜100nmの貴金属含有微粒子とを有し、貴金属含有微粒子における複数の一次粒子が鎖状に凝集して鎖状凝集体を構成している透明導電層形成用塗布液の製造方法において、
貴金属含有微粒子の一次粒子が溶媒に単分散された分散液にヒドラジン溶液を加えて分散液内における貴金属含有微粒子の分散性を不安定化させ、貴金属含有微粒子における複数の一次粒子を鎖状に凝集させて鎖状凝集体の分散液を得る凝集工程と、
得られた鎖状凝集体の分散液に過酸化水素水溶液を加えて上記ヒドラジンを分解かつ除去し、分散液内における鎖状凝集体の分散性を安定化させる安定化工程、
の各工程を具備することを特徴とする製造方法であった。
そして、この透明導電層形成用塗布液の製造方法においては、貴金属含有微粒子の一次粒子が溶媒に単分散された分散液にヒドラジン溶液を加えるだけで上記一次粒子が鎖状に凝集した鎖状凝集体の分散液を簡便に得ることができ、かつ、得られた鎖状凝集体の分散液に過酸化水素水溶液を加えるだけで上記鎖状凝集体の分散性を安定化させることが可能となり、しかも、これ等一連の反応において生成される副生物は以下に述べるように水と窒素ガスだけであるため、上述した(a)〜(e)の方法における各種の欠点が解消される方法であった。
特開平08−77832号公報
特開平09−55175号公報
特開平09−115438号公報
特開平10−1777号公報
特開平10−142401号公報
特開平10−182191号公報
特開平10−110123号公報
特開2002−38053号公報
特開2000−124662号公報
特開平11−329071号公報
特開2000−196287号公報
特開平11−228872号公報
特開2000−268639号公報
工業材料;Vol.44,No.9,1996,p68−71
ところで、貴金属含有微粒子の一次粒子が鎖状に凝集した透明導電層形成用塗布液内における鎖状凝集体の凝集状態については、透過型顕微鏡(TEM)等により観察しないと正確なことは確認できない。
従って、透明導電層形成用塗布液の調製段階である一次粒子の凝集工程において、ヒドラジン溶液を加えて分散液内に形成される鎖状凝集体の凝集状態を把握することが困難なため、安定化工程を経て製造された透明導電層形成用塗布液の一部について、鎖状凝集体の凝集状態が予め設定した凝集状態に比べて不十分な塗布液が得られたり、あるいは、鎖状凝集体の凝集状態が予め設定した凝集状態より進み過ぎて貴金属含有微粒子が沈殿する塗布液が得られてしまうことがあり、本出願人が開発した透明導電層形成用塗布液の製造方法については未だ改善の余地を有していた。
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、貴金属含有微粒子における鎖状凝集体の凝集状態について、予め設定した凝集状態に制御することを可能とする透明導電層形成用塗布液の製造方法を提供することにある。
そこで、この課題を解決するため本発明者が鋭意研究を行った結果、貴金属含有微粒子の一次粒子が鎖状に凝集した分散液内における鎖状凝集体の凝集状態と上記分散液の表色との間に相関関係があることを発見し、鎖状凝集体が分散された分散液の表色を測定することにより分散液内の鎖状凝集体の凝集状態を評価して制御できることを見出すに至った。本発明はこのような技術的発見に基づき完成されている。
すなわち、請求項1に係る発明は、
溶媒とこの溶媒に分散された平均粒径1〜100nmの貴金属含有微粒子とを有し、貴金属含有微粒子における複数の一次粒子が鎖状に凝集して鎖状凝集体を構成している透明導電層形成用塗布液の製造方法を前提とし、
貴金属含有微粒子の一次粒子が溶媒に単分散された分散液にヒドラジン溶液を加えて分散液内における貴金属含有微粒子の分散性を不安定化させ、貴金属含有微粒子における複数の一次粒子を鎖状に凝集させて鎖状凝集体の分散液を得る凝集工程と、
得られた鎖状凝集体の分散液について鎖状凝集体の凝集状態を評価するため分散液の表色を測定する表色測定工程と、
上記分散液の表色が所定の値になった後、過酸化水素水溶液を加えて上記ヒドラジンを分解かつ除去し、分散液内における鎖状凝集体の分散性を安定化させる安定化工程、
の各工程を具備することを特徴とする。
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る透明導電層形成用塗布液の製造方法を前提とし、
上記貴金属含有微粒子が、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムから選択された貴金属微粒子、2種類以上の貴金属微粒子を混合した混合微粒子、2種類以上の貴金属を含有する合金微粒子、または、銀を除く上記貴金属により表面がコートされた貴金属コート銀微粒子のいずれかであることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項2に記載の発明に係る透明導電層形成用塗布液の製造方法を前提とし、
上記貴金属コート銀微粒子が、銀微粒子の表面に金若しくは白金単体または金と白金の複合体がコーティングされた銀微粒子であることを特徴とするものである。
本発明に係る透明導電層形成用塗布液の製造方法によれば、
貴金属含有微粒子の一次粒子が溶媒に単分散された分散液にヒドラジン溶液を加えて得られた鎖状凝集体の分散液について、鎖状凝集体の凝集状態を評価するため上記分散液の表色を測定し、この表色が所定の値になったことを確認した後、過酸化水素水溶液を加え分散液内における鎖状凝集体の分散性を安定化させることが可能となる。
従って、鎖状凝集体の凝集状態が予め設定した凝集状態に制御された透明導電層形成用塗布液を製造できる効果を有する。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明に先立って本出願人が開発した透明導電層形成用塗布液の製造方法は、以下の発見に基づき完成されている。すなわち、溶媒に貴金属含有微粒子の一次粒子が単分散された分散液にヒドラジン(N2H4)溶液を添加すると、貴金属含有微粒子の分散安定性が低下(系のゼータ電位[絶対値]は低下)し、貴金属含有微粒子の一次粒子が鎖状に凝集して鎖状凝集体を生じること、更に、過酸化水素(H2O2)溶液を添加すると、過酸化水素の作用で上記ヒドラジンが分解かつ除去されて上記鎖状凝集体の凝集状態は保たれたままその分散安定性が再度向上(系のゼータ電位[絶対値]は増加)すること、かつ、これら一連の反応が以下の化学式(1)に示されるように反応生成物が水(H2O)および窒素ガス(N2)だけで不純物イオンの副生がないことを見出して完成されている。
N2H4+2H2O2→4H2O+N2↑ (1)
そして、貴金属含有微粒子の一次粒子が鎖状凝集体を構成している透明導電層形成用塗布液の具体的な製造方法としては、例えば、ガラス、プラスチック容器等に入れられた貴金属含有微粒子の一次粒子が単分散した分散液を攪拌機等で攪拌しながら、上記ヒドラジン溶液および過酸化水素溶液をそれぞれ添加するだけでよい。尚、これら溶液の添加は、スポイトあるいはポンプ等を用い徐々に行うことが好ましい。特に、ヒドラジン溶液については、貴金属含有微粒子の一次粒子が単分散した分散液へ一度に添加した場合、一部の貴金属含有微粒子に過剰な凝集が生ずる可能性があり好ましくない。
尚、ヒドラジン溶液の添加により貴金属含有微粒子における一次粒子の凝集が起こる理由については定かでないが、ヒドラジンのアルカリイオンとしての作用、あるいは還元剤として系の電位を低下させる作用により、貴金属含有微粒子の分散安定性が低下するためと考えられる。
ところで、この製造方法で得られる貴金属含有微粒子における鎖状凝集体の凝集状態は、上述したヒドラジン溶液の添加量、ヒドラジン溶液を添加した後に過酸化水素溶液を添加するまでの時間(保持時間)と温度(保持温度)によって決定されるが、実際にどの程度凝集しているかを判断するためには、透明導電層形成用塗布液を調製した後、TEM(透過電子顕微鏡)観察を行うか、透明導電層形成用塗布液を用いて透明導電層を形成し得られた膜特性で評価する必要があり、貴金属含有微粒子における一次粒子が鎖状に凝集した鎖状凝集体の凝集状態を短時間で評価することは困難であった。
そこで、様々な検討を行った結果、鎖状凝集体が分散された分散液の表色と上記鎖状凝集体の凝集状態との間には相関関係があることを発見し、鎖状凝集体が分散された分散液の表色を測定することにより分散液内における鎖状凝集体の凝集状態を評価して制御できることを見出すに至った。
ここで、鎖状凝集体が分散された上記分散液の表色とは透過色を意味し、例えば、L*a*b*表色系の値で表すことができる。L*a*b*表色系は、JIS(JIS Z8729)において採用され、一般的に使用されているものである。そして、L*a*b*表色系では、明度をL*で、色相と彩度を示す色度をa*とb*で表している。また、L*a*b*表色系に限らず、例えば、Lab系やYxy系の表色系を用いることも可能で、その表色は各表色系間で対応を取ることが可能である。
以下、L*a*b*表色系が適用された場合を例に挙げて本発明に係る透明導電層形成用塗布液の製造方法を説明する。
まず、貴金属含有微粒子の一次粒子が溶媒に単分散された分散濃縮液を攪拌しながらヒドラジン水溶液を添加した後、室温で所定時間保持した後、この液をサンプリングする。
そして、サンプリングされた分散濃縮液を0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈し、10mm角のガラスセルを用いて分光光度計[日立製作所(株):U−4000]を用いて希釈された分散液のL*a*b*値を測定する。測定される分散液のL*a*b*値は、貴金属含有微粒子における鎖状凝集体の凝集状態の変化に伴い以下のように変化していく。
まず、第一段階として貴金属含有微粒子の一次粒子が凝集を始めると、表面プラズモンが大きく変化し、ヒドラジン水溶液を添加する前にサンプリングした上記分散濃縮液を同様の条件で希釈かつ測定したL*a*b*値の各値より減少する。この変化は貴金属含有微粒子の一次粒子が3〜4個程度凝集すると殆ど見られなくなる。
次に、第二段階として、更に凝集が進行するとL*値は徐々に上昇していく。これは、貴金属含有微粒子における一次粒子の凝集が進むと、貴金属含有微粒子の分布が不均一となって光の透過量が増えるためである。このとき、a*、b*の各値あまり変化しないが、L*の値が減少していたときと、凝集が進んでL*の値が上昇し始めたときではその値は異なっている。
最終段階として、凝集が進んで貴金属含有微粒子が沈澱することによりL*値は100に、a*、b*の各値は0に近づいていく。
ところで、貴金属含有微粒子の一次粒子をどの程度凝集させるかは、貴金属含有微粒子の種類や大きさ、多成分系の場合はその比率等により異なり、また、透明導電層形成用塗布液の組成や要求される透明導電層の膜特性によっても変わるため、各々の要求特性を満足するようにそれぞれL*a*b*値を事前に規定して貴金属含有微粒子における鎖状凝集体の凝集状態を制御する。
例えば、ヒドラジン水溶液が添加された金コート銀微粒子の分散濃縮液(金コート銀微粒子における銀と金の重量割合はAg:Au=1:4、分散濃縮液の金コート銀微粒子濃度1.6重量%)において、サンプリングされた分散濃縮液を0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した場合、L*値が78〜82、a*値が−1〜3、b*値が5〜9の範囲に入った後、過酸化水素溶液を添加し金コート銀微粒子における鎖状凝集体の分散性を安定化させると、102台の高導電性を有する透明導電層を安定的に形成できる透明導電層形成用塗布液が得られることを確認している。
また、ヒドラジン水溶液が添加された金コート銀微粒子の分散濃縮液(金コート銀微粒子における銀と金の重量割合はAg:Au=1:2、分散濃縮液の金コート銀微粒子濃度1.6重量%)において、サンプリングされた分散濃縮液を0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した場合、上記L*値が80以下、a*値が5以下、b*値が30以下の範囲に入った後、過酸化水素溶液を添加し金コート銀微粒子における鎖状凝集体の分散性を安定化させると、同様に、102台の高導電性を有する透明導電層を安定的に形成できる透明導電層形成用塗布液が得られることを確認している。
ここで、本発明に係る透明導電層形成用塗布液は透明基板上に透明導電層を形成することを前提にしていることから、透明導電層形成用塗布液中の貴金属含有微粒子の平均粒径は1〜100nmであることが必要である。1nm未満の場合、この微粒子の製造が困難であると同時に塗料化において分散も容易でなく実用的でないからである。また、100nmを超えると、形成された透明導電層の可視光線の散乱が大きくなり(つまり膜のヘイズ値が高くなり)実用的ではないからである。尚、ここで言う平均粒径とは、透過電子顕微鏡(TEM)で観察される貴金属含有微粒子における一次粒子の平均粒径を示している。
また、上記貴金属含有微粒子としては、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムから選択された貴金属微粒子、2種類以上の貴金属微粒子を混合した混合微粒子、2種類以上の貴金属を含有する合金微粒子、または、銀を除く上記貴金属により表面がコートされた貴金属コート銀微粒子のいずれかを適用することができる。
ここで、銀、金、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム等の比抵抗を比較した場合、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウムの比抵抗は、それぞれ10.6、4.51、7.6、10.8μΩ・cmで、銀、金の1.62、2.2μΩ・cmに比べて高いため、表面抵抗の低い透明導電層を形成するには銀微粒子や金微粒子を適用した方が有利と考えられる。
但し、銀微粒子が適用された場合、硫化や食塩水による劣化が激しいという耐候性の面から用途が制限され、他方、金微粒子、白金微粒子、ロジウム微粒子、ルテニウム微粒子、パラジウム微粒子等が適用された場合には上記耐候性の問題はなくなるがコスト面を考慮すると必ずしも最適とは言えない。
そこで、耐候性とコストの両条件を満たす貴金属含有微粒子として、上述したように銀微粒子の表面に銀以外の貴金属をコーティングした貴金属コート銀微粒子、例えば、表面に金若しくは白金単体または金と白金の複合体がコーティングされた貴金属コート銀微粒子が挙げられる。尚、本出願人は、貴金属コート銀微粒子を適用した透明導電層形成用塗布液とその製造方法を既に提案している(特許文献12、特許文献13参照)。また、上記両条件を満たす貴金属含有微粒子として、2種類以上の貴金属微粒子を混合した混合微粒子若しくは2種類以上の貴金属を含有する合金微粒子を挙げることができる。
次に、本発明に係る透明導電層形成用塗布液は、そのまま透明基板上に塗布できる塗布液の状態(すなわち、貴金属含有微粒子の一次粒子が鎖状に凝集した鎖状凝集体の濃度、溶媒組成等が透明導電層形成用の塗布液に調整されており、この塗布液を用いれば透明基板上に透明導電層が直接形成される)でもよいし、高濃度の鎖状凝集体を有する濃縮液の状態でも良い。後者の場合、この濃縮液に有機溶剤等を添加して成分調整(鎖状凝集体の濃度、水分濃度、各種有機溶剤濃度等)を行うことで、透明基板上に透明導電層が直接形成される濃度の塗布液とすることができる。
また、透明導電層形成用塗布液に有色顔料微粒子を添加してもよい。この場合、透明導電層が形成された透明導電性基材の透過率を100%より低い所定の範囲(40〜75%)に調整できるため、良好な導電性、低反射率等の諸特性に加え、その画像のコントラストを向上させて表示画面を更に見易くさせること、あるいは前述のCRT画面の平面化に伴う要求に対応することが可能となる。
そして、上記有色顔料微粒子には、例えば、カーボン、チタンブラック、窒化チタン、複合酸化物顔料、コバルトバイオレット、モリブデンオレンジ、群青、紺青、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾ系顔料およびフタロシアニン系顔料から選択された1種以上の微粒子、あるいはその表面が酸化ケイ素でコーティング処理された上記有色顔料微粒子を用いることができる。
以下、貴金属含有微粒子として貴金属コート銀微粒子が適用された本発明に係る透明導電層形成用塗布液の製造方法を具体的に説明する。
まず、既知の方法[例えば、Carey-Lea法、Am. J. Sci.、37、47(1889)、Am. J. Sci.、38(1889)]により銀微粒子のコロイド分散液を調製する。
すなわち、硝酸銀水溶液に、硫酸鉄(II)水溶液とクエン酸ナトリウム水溶液の混合液を加えて反応させ、沈降物を濾過・洗浄した後、純水を加えることにより簡単に銀微粒子のコロイド分散液(Ag:0.1〜10重量%)が調製される。この銀微粒子のコロイド分散液の調製方法は、平均粒径1〜100nmの銀微粒子が分散されたものであれば任意であり、かつこれに限定されるものではない。
次に、得られた銀微粒子のコロイド分散液に、還元剤を含む溶液、および、下記(A)〜(C)のいずれかの溶液をそれぞれ別々に滴下して加えることで銀微粒子の表面に金若しくは白金単体または金と白金の複合体をコーティングし、貴金属コート銀微粒子のコロイド状分散液(貴金属コート銀微粒子調製工程)を得ることができる。
(A)アルカリ金属の金酸塩溶液またはアルカリ金属の白金酸塩溶液
(B)アルカリ金属の金酸塩溶液およびアルカリ金属の白金酸塩溶液
(C)アルカリ金属の金酸塩並びに白金酸塩の混合溶液
尚、この貴金属コート銀微粒子調製工程で、必要により、銀微粒子のコロイド分散液、還元剤を含む溶液、(A)〜(C)の溶液の少なくともいずれか一つ、または、それぞれに少量の分散剤を加えてもよい。
以上のようにして得られた貴金属コート銀微粒子のコロイド状分散液は、この後、透析、電気透析、イオン交換、限外ろ過等の脱塩処理方法により分散液内の電解質濃度を下げることが好ましい。これは、電解質濃度を下げないとコロイドは電解質で一般に凝集してしまうからであり、この現象は、Schulze-Hardy則としても知られている。
次に、脱塩処理された貴金属コート銀微粒子のコロイド状分散液を濃縮処理すると、貴金属コート銀微粒子が高濃度で単分散した分散濃縮液が得られる。この貴金属コート銀微粒子が高濃度で単分散した分散濃縮液にヒドラジン溶液を添加して貴金属コート銀微粒子を凝集させ、その後、例えば室温で数分〜1時間程度保持する。
次に、ヒドラジン溶液が添加された貴金属コート銀微粒子の上記分散濃縮液からサンプリングして、所定の溶液で希釈(例えば、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈する)し、分光光度計で透過色(L*a*b*値)を測定し、所定の値になったことを確認した後、過酸化水素溶液を添加することで、貴金属コート銀微粒子における一次粒子の凝集状態が予め設定した状態に制御されている鎖状凝集体の分散濃縮液が得られる。
この様にして得られた分散濃縮液内における鎖状凝集体の凝集状態は予め設定した一定の範囲に制御され、凝集不足により所定の膜特性が得られなかったり、あるいは、凝集し過ぎて沈澱してしまうということもなく、その凝集状態が制御された貴金属コート銀微粒子の鎖状凝集体が高濃度に分散した分散濃縮液を安定して調製することができる。
上記鎖状凝集体が高濃度に分散した分散濃縮液に有機溶剤等を添加して成分調整(微粒子濃度、水分濃度、高沸点有機溶剤濃度等)を行えば、その凝集状態が予め設定した一定の範囲に制御された貴金属コート銀微粒子の鎖状凝集体を含有する透明導電層形成用塗布液が得られる。
尚、上記貴金属コート銀微粒子のコロイド状分散液における濃縮処理は、減圧エバポレーター、限外ろ過等の常用の方法で行うことができ、この濃縮度合いによって透明導電層形成用塗布液中の水分濃度を、例えば1〜50重量%の範囲に制御することができる。
次に、透明導電層形成用塗布液に用いられる有機溶剤としては特に制限はなく、塗布方法や製膜条件により適宜に選定される。例えば、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)等のグリコール誘導体、ホルムアミド(FA)、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
尚、貴金属コート銀微粒子のコロイド分散液に代えて、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムから選択された貴金属微粒子、2種類以上の貴金属微粒子を混合した混合微粒子、2種類以上の貴金属を含有する合金微粒子のコロイド分散液を適用した場合も、その凝集状態が予め設定した一定の範囲に制御された貴金属微粒子等の鎖状凝集体を含有する透明導電層形成用塗布液を得ることが可能である。
次に、この透明導電層形成用塗布液を用いて、例えば、透明基板、および、この透明基板上に順次形成された透明導電層と透明コート層から成る透明2層膜とでその主要部が構成される透明導電性基材を得ることができる。そして、この透明2層膜を透明基板上に形成するには以下の方法でこれを行うことができる。
すなわち、貴金属含有微粒子の一次粒子が鎖状に凝集した鎖状凝集体を含有する透明導電層形成用塗布液を、ガラス基板、プラスチック基板等の透明基板上にスピンコート、スプレーコート、ワイヤーバーコート、ドクターブレードコート等の手法にて塗布し、必要に応じて乾燥した後、例えばシリカゾル等を主成分とする透明コート層形成用塗布液を上述した手法によりオーバーコートする。
次に、例えば50〜350℃程度の温度で加熱処理を施し透明コート層形成用塗布液の硬化を行って上記透明2層膜を形成する。
そして、貴金属含有微粒子の一次粒子が鎖状に凝集した鎖状凝集体を含有する本発明に係る透明導電層形成用塗布液を用いた場合、個々の貴金属含有微粒子が凝集していない従来の透明導電層形成用塗布液を適用した場合と比較し、透明導電層内において貴金属含有微粒子が効率よく導電パスを形成できるため極めて良好な導電性を有する透明導電層を得ることが可能となる。言い換えれば、貴金属含有微粒子が鎖状に凝集した鎖状凝集体を含有する透明導電層形成用塗布液では、貴金属含有微粒子の含有量を大幅に低下させても、従来の透明導電層形成用塗布液を用いた場合と同程度の導電性を有する透明導電層が得られるため、透明導電層形成用塗布液の価格を大幅に低下させることが可能となる。
また、本発明に係る透明導電層形成用塗布液に有色顔料微粒子(若しくは有色顔料微粒子が分散された分散液)を配合した場合でも、凝集していない貴金属含有微粒子を含有する従来の透明導電層形成用塗布液を適用した場合と比較して、より高濃度の有色顔料微粒子を添加することが可能となり、透過率の調整が容易になると同時に貴金属含有微粒子の含有量を大幅に低下させ、透明導電層形成用塗布液の価格を大幅に低下させることも可能となる。
尚、上述した貴金属コート銀微粒子のコロイド状分散液の製造時において脱塩処理を施した理由と同様の理由から、透明導電層形成用塗布液内に配合する有色顔料微粒子の分散液についてもその脱塩を十分に行っておくことが望ましい。
また、シリカゾル等の無機バインダーを含有する透明コート層形成用塗布液を上述した手法によりオーバーコートした際、予め形成された貴金属含有微粒子層における網目状構造の穴の部分に、オーバーコートしたシリカゾル液(このシリカゾル液は加熱処理により酸化ケイ素を主成分とするバインダーマトリックスとなる)がしみ込むことで、透過率の向上、導電性の向上が同時に達成される。
また、網目状構造の上記穴の部分を介して、透明基板と酸化珪素等のバインダーマトリックスとの接触面積が増大するため透明基板とバインダーマトリックスの結合が強くなり、強度の向上も図られる。
更に、貴金属含有微粒子が酸化ケイ素を主成分とするバインダーマトリックス中に分散された透明導電層の光学定数(n−ik)において、屈折率nはさほど大きくないが消衰係数kが大きいため、上記透明導電層と透明コート層の透明2層膜構造により、透明2層膜の反射率を大幅に低下できる。
ここで、透明コート層形成用塗布液に含まれる上記シリカゾルとしては、オルトアルキルシリケートに水や酸触媒を加えて加水分解し、脱水縮重合を進ませた重合物、あるいは既に4〜5量体まで重合を進ませた市販のアルキルシリケート溶液を、さらに加水分解と脱水縮重合を進行させた重合物等を利用することができる。尚、脱水縮重合が進行すると、溶液粘度が上昇して最終的には固化してしまうので、脱水縮重合の度合いについては、ガラス基板やプラスチック基板などの透明基板上に塗布可能な上限粘度以下のところに調整する。但し、脱水縮重合の度合いは上記上限粘度以下のレベルであれば特に指定されないが、膜強度、耐候性等を考慮すると重量平均分子量で500から3000程度が好ましい。そして、アルキルシリケート加水分解重合物は、透明2層膜の加熱焼成時に脱水縮重合反応がほぼ完結して、硬いシリケート膜(酸化ケイ素を主成分とする膜)になる。
尚、上記シリカゾルに、弗化マグネシウム微粒子、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等を加え、透明コート層の屈折率を調節して透明2層膜の反射率を変えることも可能である。
また、溶媒とこの溶媒に分散された平均粒径1〜100nmの貴金属含有微粒子の鎖状凝集体に加え、上述したように有色顔料微粒子の分散液または/および無機バインダー成分としてのシリカゾル液を配合させてもよい。この場合においても、透明導電層形成用塗布液を塗布し、必要に応じて乾燥させた後、透明コート層形成用塗布液を上述した手法によりオーバーコートすることで、同様の透明2層膜が得られる。尚、貴金属コート銀微粒子のコロイド状分散液の製造において脱塩処理を施したのと同様の理由から、透明導電層形成用塗布液内に配合する上記有色顔料微粒子の分散液、シリカゾル液についてもその脱塩を十分に行っておくことが望ましい。
このようにその凝集状態が予め設定した一定の範囲に制御された貴金属含有微粒子の鎖状凝集体を含有する本発明に係る透明導電層形成用塗布液を適用した場合、形成される透明導電層は、高透過率、低反射率の諸特性に加えて、極めて良好な導電性を有するため、この透明導電層を具備する透明導電性基材について、例えば、上述したブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、液晶ディスプレイ(LCD)等表示装置における前面板等に用いることができる。
更に、透明導電層形成用塗布液に有色顔料微粒子を配合することにより、良好な導電性、低反射率等の諸特性に加え、透明導電膜の透過率を自由に調整することができるため、例えば、表示装置における画像のコントラストを向上させて表示画面を見易くさせたり、上述したCRT画面の平面化に伴う要求に対応することが可能となる。
以下、貴金属含有微粒子として金コート銀微粒子が適用された実施例について比較例と共に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載内容に限定されるものではない。また、本文中の「%」は、透過率、反射率、ヘイズ値の(%)を除いて「重量%」を示し、また「部」は「重量部」を示している。
また、実施例1〜2と比較例1〜3に係る金コート銀微粒子の分散濃縮液は、金コート銀微粒子における銀と金の重量割合がAg:Au=1:4、分散濃縮液の金コート銀微粒子濃度が1.6重量%に設定され、また、実施例3と比較例4に係る金コート銀微粒子の分散濃縮液は、金コート銀微粒子における銀と金の重量割合がAg:Au=1:2、分散濃縮液の金コート銀微粒子濃度が1.6重量%に設定されている。
上述したCarey-Lea法により銀微粒子のコロイド分散液を調製した。具体的には、9%硝酸銀水溶液330gに、23%硫酸鉄(II)水溶液390gと37.5%クエン酸ナトリウム水溶液480gの混合液を加えた後、沈降物をろ過・洗浄した後、純水を加えて、銀微粒子のコロイド分散液(Ag:0.15%)を調製した。
この銀微粒子のコロイド分散液6000gに、ヒドラジン1水和物(N2H4・H2O)の1%水溶液800gを加えて攪拌しながら、金酸カリウム[KAu(OH)4]水溶液(Au:0.075%)48000gと1%高分子分散剤水溶液20gの混合液を加え、金単体がコーティングされた金コート銀微粒子のコロイド分散液(A液:Ag:Au=1:4)を得た。
この金コート銀微粒子のコロイド分散液をイオン交換樹脂(三菱化学社製商品名ダイヤイオンSK1B、SA20AP、SKNUPB)で脱塩した後、限外ろ過を行い、金コート銀微粒子分散液の濃縮を行った。得られた液にエタノール(EA)を加えて金コート銀微粒子が高濃度に単分散された分散濃縮液(Ag−Au:1.6%、水:30.0%、EA:68.4%、)(B液)を得た。
尚、このB液の一部をサンプリングし、かつ、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した後、10mm角のガラスセルを用いて分光光度計[日立製作所(株):U−4000]でL*a*b*値を測定(JIS Z8729)したところ、(L*,a*,b*)=(85.11,17.11,27.52)であった。
次に、上記B液6000gを攪拌しながら、ヒドラジン水溶液(N2H4・H2O:0.5%)80gを1分間かけて添加した後、室温で15分間保持した。
尚、ヒドラジン水溶液が添加されて室温で15分間保持されたB'液(黒褐色)の一部をサンプリングし、かつ、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した後、10mm角のガラスセルを用いて分光光度計[日立製作所(株):U−4000]でL*a*b*値を測定(JIS Z8729)したところ(L*,a*,b*)=(78.72,0.91,7.07)であった。
そして、このL*a*b*値が、上述したL*値:78〜82、a*値:−1〜3、b*値:5〜9の範囲に入っていたため、その後、過酸化水素水溶液(H2O2:1.0%)60gを1分間かけ添加し、金コート銀微粒子における鎖状凝集体の分散性を安定化させて金コート銀微粒子の鎖状凝集体が高濃度で分散した実施例1に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(C液)を得た。
次に、得られた実施例1に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(C液)に、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、金コート銀微粒子の鎖状凝集体を含有し透明導電層の形成に直接適用される濃度に調製された実施例1に係る透明導電層形成用塗布液(Ag:0.06%、Au:0.24%、水:5.6%、EA:62.5%、PGM:15%、DAA:15%、FA:0.03%)を得た。
尚、この透明導電層形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察したところ、金コート銀微粒子の鎖状凝集体は、一次粒径6nm程度の金コート銀微粒子が数珠状に連なり、かつ、一部分岐した形状[長さ:20〜100nm(個々の金コート銀微粒子における長さの最大値)]を有していた。
次に、透明導電層の形成に直接適用される濃度に調製された実施例1に係る透明導電層形成用塗布液を濾過精度(ポアサイズ):5μmフィルターで濾過した後、35℃に加熱されたガラス基板(厚さ3mmのソーダライムガラス)上に、スピンコート(90rpm,10秒間−120rpm、80秒間)し、続けて、シリカゾル液(D液)をスピンコート(150rpm、60秒間)し、更に、180℃、20分間硬化させて、貴金属コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、実施例1に係る透明導電性基材を得た。
尚、上記ガラス基板は、使用前に酸化セリウム系研磨剤で研磨処理し、純水による洗浄・乾燥後、35℃に加熱して用いた。
ここで、上記シリカゾル液(D液)は、メチルシリケート51(コルコート社製商品名)を19.6部、エタノール57.8部、1%硝酸水溶液7.9部、純水14.7部を用いて、SiO2 (酸化ケイ素)固形分濃度が10%で、重量平均分子量が1050のものを調製し、最終的に、SiO2 固形分濃度が0.8%となるようにイソプロピルアルコール(IPA)とn−ブタノール(NBA)の混合物(IPA/NBA=3/1)により希釈して得ている。
そして、ガラス基板上に形成された透明2層膜の膜特性(表面抵抗、可視光線透過率、ヘイズ値、ボトム反射率/ボトム波長)を以下の表1に示す。
尚、上記ボトム反射率とは透明導電性基材の反射プロファイルにおいて極小の反射率をいい、ボトム波長とは反射率が極小における波長を意味している。また、表1において透明基板(ガラス基板)を含まない透明2層膜だけの(可視光線)透過率は、以下の様にして求められている。すなわち、
透明基板を含まない透明2層膜だけの透過率(%)
=[(透明基板ごと測定した透過率)/(透明基板の透過率)]×100
ここで、本明細書においては、特に言及しない限り、透過率としては、透明基板を含まない透明2層膜だけの可視光線透過率の値を用いている。
また、透明2層膜の表面抵抗は、三菱化学(株)製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)を用い測定した。ヘイズ値と可視光線透過率は、村上色彩技術研究所製のヘイズメーター(HR−200)を用いて測定した。反射率は、日立製作所(株)製の分光光度計(U−4000)を用いて測定した。また、金コート銀微粒子における鎖状凝集体の形状、粒子サイズ(長さ)は日本電子製の透過電子顕微鏡で評価している。
実施例1に係る金コート銀微粒子の分散濃縮液(B液)6000gを攪拌しながら、ヒドラジン水溶液(N2H4・H2O:0.75%)80gを1分間かけて添加した後、室温で15分間保持した。
尚、ヒドラジン水溶液が添加されて室温で15分間保持されたB'液(黒褐色)の一部をサンプリングし、かつ、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した後、10mm角のガラスセルを用いて分光光度計[日立製作所(株):U−4000]でL*a*b*値を測定(JIS Z8729)したところ(L*,a*,b*)=(81.58,1.02,7.98)であった。
そして、このL*a*b*値が、上述したL*値:78〜82、a*値:−1〜3、b*値:5〜9の範囲に入っていたため、その後、過酸化水素水溶液(H2O2:1.5%)60gを1分間かけて添加し、金コート銀微粒子における鎖状凝集体の分散性を安定化させて金コート銀微粒子の鎖状凝集体が高濃度で分散した実施例2に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(E液)を得た。
次に、得られた実施例2に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(E液)に、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、金コート銀微粒子の鎖状凝集体を含有し透明導電層の形成に直接適用される濃度に調製された実施例2に係る透明導電層形成用塗布液(Ag:0.10%、Au:0.20%、水:5.6%、EA:62.5%、PGM:15%、DAA:15%、FA:0.03%)を得た。
尚、この透明導電層形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察したところ、金コート銀微粒子の鎖状凝集体は、一次粒径6nm程度の金コート銀微粒子が数珠状に連なり、かつ、一部分岐した形状[長さ:50〜500nm(個々の金コート銀微粒子における長さの最大値)]を有していた。
そして、この透明導電層形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様に行い、金コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、実施例2に係る透明導電性基材を得た。
ガラス基板上に形成された透明2層膜の上記膜特性(表面抵抗、可視光線透過率、ヘイズ値、ボトム反射率/ボトム波長)を以下の表1に示す。
実施例1と同様の方法で調製した銀微粒子のコロイド分散液(Ag:0.15%)10000gに、ヒドラジン1水和物(N2H4・H2O)の1%水溶液650gを加えて攪拌しながら、金酸カリウム[KAu(OH)4]水溶液(Au:0.075%)40000gと1%高分子分散剤水溶液20gの混合液を加え、金単体がコーティングされた金コート銀微粒子のコロイド分散液(F液:Ag:Au=1:2)を得た。
このF液をイオン交換樹脂(三菱化学社製商品名ダイヤイオンSK1B、SA20AP、SKNUPB)で脱塩した後、限外ろ過を行い、金コート銀微粒子分散液の濃縮を行った。得られた液にエタノール(EA)を加えて金コート銀微粒子が高濃度に単分散された分散液(Ag−Au:1.6%、水:30.0%、EA:68.4%、)(G液)を得た。
尚、このG液の一部をサンプリングし、かつ、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した後、10mm角のガラスセルを用いて分光光度計[日立製作所(株):U−4000]でL*a*b*値を測定(JIS Z8729)したところ、(L*,a*,b*)=(85.41,12.20,39.05)であった。
次に、上記G液6000gを攪拌しながら、ヒドラジン水溶液(N2H4・H2O:0.5%)80gを1分間かけて添加した後、室温で15分間保持した。
尚、ヒドラジン水溶液が添加されて室温で15分間保持されたG'液(暗褐色)の一部をサンプリングし、かつ、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した後、10mm角のガラスセルを用いて分光光度計[日立製作所(株):U−4000]でL*a*b*値を測定(JIS Z8729)したところ(L*,a*,b*)=(79.41,3.28,27.22)であった。
そして、このL*a*b*値が、上述したL*値が80以下、a*値が5以下、b*値が30以下の範囲に入っていたため、その後、過酸化水素水溶液(H2O2:1.0%)60gを1分間かけて添加し、金コート銀微粒子における鎖状凝集体の分散性を安定化させて金コート銀微粒子の鎖状凝集体が高濃度で分散した実施例3に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(H液)を得た。
次に、得られた実施例3に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(H液)に、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、金コート銀微粒子の鎖状凝集体を含有し透明導電層の形成に直接適用される濃度に調製された実施例3に係る透明導電層形成用塗布液(Ag:0.08%、Au:0.16%、水:4.5%、EA:65.23%、PGM:15%、DAA:15%、FA:0.03%)を得た。
尚、この透明導電層形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察したところ、金コート銀微粒子の鎖状凝集体は、一次粒径6nm程度の金コート銀微粒子が数珠状に連なり、かつ、一部分岐した形状[長さ:20〜30nm(個々の金コート銀微粒子における長さの最大値)]を有していた。
そして、この透明導電層形成用塗布液を用いた以外は、実施例1と同様に行い、金コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、実施例3に係る透明導電性基材を得た。
ガラス基板上に形成された透明2層膜の上記膜特性(表面抵抗、可視光線透過率、ヘイズ値、ボトム反射率/ボトム波長)を以下の表1に示す。
[比較例1]
実施例1に係る金コート銀微粒子の分散濃縮液(B液)6000gを攪拌しながら、ヒドラジン水溶液(N2H4・H2O:0.25%)80gを1分間かけて添加した後、室温で15分間保持した。
このヒドラジン水溶液が添加されて室温で15分間保持されたB"液(暗橙色)の一部をサンプリングし、かつ、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した後、10mm角のガラスセルを用いて分光光度計[日立製作所(株):U−4000]でL*a*b*値を測定(JIS Z8729)したところ(L*,a*,b*)=(83.25,11.35,20.19)であり、このL*a*b*値が上述したL*値:78〜82、a*値:−1〜3、b*値:5〜9の範囲に入っていなかった。
その後、過酸化水素水溶液(H2O2:0.5%)60gを1分間かけて添加し、金コート銀微粒子における鎖状凝集体の分散性を安定化させて金コート銀微粒子の鎖状凝集体が高濃度で分散した比較例1に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(I液)を得た。
次に、上記I液に、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、金コート銀微粒子の鎖状凝集体を含有し透明導電層の形成に直接適用される濃度に調製された比較例1に係る透明導電層形成用塗布液(Ag:0.06%、Au:0.24%、水:5.6%、EA:62.5%、PGM:15%、DAA:15%、FA:0.03%)を得た。
尚、この透明導電層形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察したところ、金コート銀微粒子はほとんど凝集していなかった。
そして、この透明導電層形成用塗布液を用いた以外は、実施例1と同様に行い、金コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、比較例1に係る透明導電性基材を得た。
ガラス基板上に形成された透明2層膜の上記膜特性(表面抵抗、可視光線透過率、ヘイズ値、ボトム反射率/ボトム波長)を以下の表1に示す。
[比較例2]
実施例1に係る金コート銀微粒子の分散濃縮液(B液)6000gを攪拌しながら、ヒドラジン水溶液(N2H4・H2O:0.3%)80gを1分間かけて添加した後、室温で15分間保持した。
このヒドラジン水溶液が添加されて室温で15分間保持されたB"液(暗橙色)の一部をサンプリングし、かつ、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した後、10mm角のガラスセルを用いて分光光度計[日立製作所(株):U−4000]でL*a*b*値を測定(JIS Z8729)したところ(L*,a*,b*)=(79.84,8.99,15.84)であり、このL*a*b*値の一部が上述したL*値:78〜82、a*値:−1〜3、b*値:5〜9の範囲に入っていなかった。
その後、過酸化水素水溶液(H2O2:0.6%)60gを1分間かけて添加し、金コート銀微粒子における鎖状凝集体の分散性を安定化させて金コート銀微粒子の鎖状凝集体が高濃度で分散した比較例2に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(J液)を得た。
次に、上記J液に、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、金コート銀微粒子の鎖状凝集体を含有し透明導電層の形成に直接適用される濃度に調製された比較例2に係る透明導電層形成用塗布液(Ag:0.06%、Au:0.24%、水:5.6%、EA:62.5%、PGM:15%、DAA:15%、FA:0.03%)を得た。
尚、この透明導電層形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察したところ、金コート銀微粒子は、その一部が2〜3個凝集している程度であった。
そして、この透明導電層形成用塗布液を用いた以外は、実施例1と同様に行い、金コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、比較例2に係る透明導電性基材を得た。
ガラス基板上に形成された透明2層膜の上記膜特性(表面抵抗、可視光線透過率、ヘイズ値、ボトム反射率/ボトム波長)を以下の表1に示す。
[比較例3]
実施例1に係る金コート銀微粒子の分散濃縮液(B液)6000gを攪拌しながら、ヒドラジン水溶液(N2H4・H2O:0.4%)80gを1分間かけて添加した後、室温で15分間保持した。
このヒドラジン水溶液が添加されて室温で15分間保持されたB"液(黒褐色)の一部をサンプリングし、かつ、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した後、10mm角のガラスセルを用いて分光光度計[日立製作所(株):U−4000]でL*a*b*値を測定(JIS Z8729)したところ(L*,a*,b*)=(76.10,1.44,8.31)であり、このL*a*b*値の一部が上述したL*値:78〜82、a*値:−1〜3、b*値:5〜9の範囲に入っていなかった。
その後、過酸化水素水溶液(H2O2:0.8%)60gを1分間かけて添加し、金コート銀微粒子における鎖状凝集体の分散性を安定化させて金コート銀微粒子の鎖状凝集体が高濃度で分散した比較例3に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(K液)を得た。
次に、上記K液に、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、金コート銀微粒子の鎖状凝集体を含有し透明導電層の形成に直接適用される濃度に調製された比較例3に係る透明導電層形成用塗布液(Ag:0.06%、Au:0.24%、水:5.6%、EA:62.5%、PGM:15%、DAA:15%、FA:0.03%)を得た。
尚、この透明導電層形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察したところ、金コート銀微粒子は、3〜4個凝集している程度であった。
そして、この透明導電層形成用塗布液を用いた以外は、実施例1と同様に行い、金コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、比較例3に係る透明導電性基材を得た。
ガラス基板上に形成された透明2層膜の上記膜特性(表面抵抗、可視光線透過率、ヘイズ値、ボトム反射率/ボトム波長)を以下の表1に示す。
[比較例4]
金コート銀微粒子が高濃度に単分散された実施例3に係る分散液(G)6000gを攪拌しながら、ヒドラジン水溶液(N2H4・H2O:0.25%)80gを1分間かけて添加した後、室温で15分間保持した。
尚、ヒドラジン水溶液が添加されて室温で15分間保持されたG"液(暗橙色)の一部をサンプリングし、かつ、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈した後、10mm角のガラスセルを用いて分光光度計[日立製作所(株):U−4000]でL*a*b*値を測定(JIS Z8729)したところ(L*,a*,b*)=(84.06,7.53,34.51)であり、このL*a*b*値が、上述したL*値が80以下、a*値が5以下、b*値が30以下の範囲に入っていなかった。
その後、過酸化水素水溶液(H2O2:0.5%)60gを1分間かけて添加し、金コート銀微粒子における鎖状凝集体の分散性を安定化させて金コート銀微粒子の鎖状凝集体が高濃度で分散した比較例4に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(L液)を得た。
次に、得られた比較例4に係る透明導電層形成用塗布液(高濃度)(L液)に、エタノール(EA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジアセトンアルコール(DAA)、ホルムアミド(FA)を加え、金コート銀微粒子の鎖状凝集体を含有し透明導電層の形成に直接適用される濃度に調製された比較例4に係る透明導電層形成用塗布液(Ag:0.08%、Au:0.16%、水:4.5%、EA:65.23%、PGM:15%、DAA:15%、FA:0.03%)を得た。
尚、この透明導電層形成用塗布液を透過電子顕微鏡で観察したところ、鎖状金コート銀微粒子群は、一次粒径6nm程度の金コート銀微粒子が2〜3個程度凝集している程度であった。
そして、この透明導電層形成用塗布液を用いた以外は、実施例1と同様に行い、金コート銀微粒子を含有する透明導電層と、酸化ケイ素を主成分とするシリケート膜から成る透明コート層とで構成された透明2層膜付きのガラス基板、すなわち、比較例4に係る透明電性基材を得た。
ガラス基板上に形成された透明2層膜の上記膜特性(表面抵抗、可視光線透過率、ヘイズ値、ボトム反射率/ボトム波長)を以下の表1に示す。
注1:光源(D65)、角度(10°視野)
『評 価』
上記表1に示された結果から以下のことが確認される。
まず、ヒドラジン水溶液が添加されて室温で15分間保持された金コート銀微粒子を含有する分散濃縮液をサンプリングし、かつ、0.001%のNaCl水溶液で750倍希釈された各実施例に係る分散液のL*a*b*値(JIS Z8729)について、金コート銀微粒子における銀と金の重量割合がAg:Au=1:4、分散濃縮液の金コート銀微粒子濃度が1.6重量%に設定された実施例1と実施例2は、評価基準であるL*値:78〜82、a*値:−1〜3、b*値:5〜9の範囲に入っており、また、Au=1:2、分散濃縮液の金コート銀微粒子濃度が1.6重量%に設定された実施例3も、評価基準であるL*値が80以下、a*値が5以下、b*値が30以下の範囲に入っていることから、各実施例に係る透明導電層形成用塗布液を用いて形成された上記透明2層膜の表面抵抗は102台の高導電性を有することが確認される。
他方、各比較例に係る上記分散液のL*a*b*値(JIS Z8729)について、金コート銀微粒子における銀と金の重量割合がAg:Au=1:4、分散濃縮液の金コート銀微粒子濃度が1.6重量%に設定された比較例1〜3は、評価基準であるL*値:78〜82、a*値:−1〜3、b*値:5〜9の範囲に入っておらず、また、Au=1:2、分散濃縮液の金コート銀微粒子濃度が1.6重量%に設定された比較例4も、評価基準であるL*値が80以下、a*値が5以下、b*値が30以下の範囲に入っていないことから、各比較例に係る透明導電層形成用塗布液を用いて形成された上記透明2層膜の表面抵抗は102台の高導電性を有しないことも確認される。
本発明に係る製造方法で得られた透明導電層形成用塗布液を用いて形成される透明導電層は、高透過率、低反射率の諸特性に加えて、極めて良好な導電性を有するため、この透明導電層を具備する透明導電性基材は、ブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、液晶ディスプレイ(LCD)等表示装置における前面板として好適に利用される。