JP4219187B2 - 非水系リチウム二次電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
この発明は、非水系リチウム二次電池に関し、特に不可逆容量(初回充電容量と初回放電容量との差)が小さく、充放電特性及び耐久性の優れた非水系リチウム二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
非水系リチウム二次電池は、金属リチウムを負極に用いると、リチウム金属の標準電極電位は最も卑であるために得られる電池の起電力は高くなるが、充電時にデンドライトが発生してセパレータを貫通してしまうために、内部短絡が起こる危険性や、充放電効率が低下するなどの問題があった。そこで、負極材料として黒鉛、非晶質炭素などの炭素質材料や金属酸化物材料が、リチウム金属に次ぐ卑な電位でリチウムを可逆的に吸蔵・放出することができること、及び、充放電サイクル中での容量劣化が少なく、優れた耐久性を示すことから注目されている。この炭素質材料等を負極材料として使用した非水系リチウム二次電池は、正極、負極、セパレータ及び非水系電解液を使用して電池を組立て終った状態では放電状態であるが、組立後に第1サイクル目の充電を行うと、正極中のリチウムは電気化学的に負極炭素質材料の層間にドープされて放電可能な状態になる。このドープされたリチウムは、放電によって脱ドープし、再び正極中に戻り、以後これが繰り返されることになる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが実際には電解液の種類により程度の差はあるが、第1サイクルにおけるリチウムのドープ量に対して脱ドープ量は100%とはならずに、両者の間に差を生じる。これは、不可逆容量とよばれ、正極からのリチウムの一部が負極の炭素質材料内で不活性化し、充放電に利用されなくなるものであって、非水系リチウム二次電池ではこの不可逆容量が大きいために電池容量が理論容量よりも低下するという問題があった。
【0004】
このような不可逆容量を低減する目的で、下記特許文献1には蓚酸リチウムを予め正極、負極ないしは電解液中に添加しておき、また下記特許文献2には蟻酸リチウムを予め正極中に添加しておき、それぞれ非水系リチウム二次電池の組立直後の充電時に必要とされるリチウムイオンをこの蓚酸リチウムないしは蟻酸リチウムから供給するようになしたものが開示されているが、電池容量の向上効果が不充分であった。また、下記特許文献3には同様の目的で正極、負極ないしは電解液中に蓚酸アルキルアンモニウム塩を添加するものが開示されているが、電池容量の向上効果が不充分であるばかりか、サイクル特性の低下をもたらすという問題点が存在していた。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−254436号公報(特許請求の範囲、段落[0015]〜[0017])
【特許文献2】
特開平11−339807号公報(特許請求の範囲、段落[0009]〜[0014])
【特許文献3】
特開平9−283181号公報(特許請求の範囲、段落[0006]〜[0008])
【0006】
そこで、本発明者は上述の従来技術の問題点を解決すべく種々実験を繰り返した結果、蓚酸リチウムに加えてルイス酸性化合物、すなわち有機溶媒に可溶性の電子受容性を有する化合物をも添加すると、蓚酸リチウムの溶解度が向上するので、非水系リチウム二次電池の上述の問題点が解決されて電池容量の向上が達成されることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0007】
蓚酸リチウムだけでなく上記のようなルイス酸性化合物をも添加すると非水系溶媒への蓚酸リチウムの溶解度が向上することの理由は現在のところまだ明確には解明されていないが、おそらくはイオン解離した蓚酸イオンがルイス酸性化合物と結合して錯化合物を生成することにより、蓚酸イオンとリチウムイオンとの間の静電相互作用を低下させているためと考えられる。
【0008】
【課題を解決するための手段】
したがって、本発明は、少なくともリチウムを可逆的に吸蔵・放出する正極材料を有する正極と、リチウムを可逆的に吸蔵・放出する負極材料を有する負極と、非水系電解液とを備えてなる非水系リチウム二次電池において、前記非水系電解液が蓚酸リチウム及び下記化1の化学構造式で表されるルイス酸性化合物を含有し、前記ルイス酸性化合物の添加量は電解液総量に対して0.5〜10質量%であることを特徴とする。
【化1】
Figure 0004219187
(式中Aはホウ素またはリンを示す。Rl〜R3はそれぞれ独立して炭素数が1から8までのアルキル基、又はアルキルシリル基、又はハロゲン化アルキル基を示す。)
【0009】
また、係る場合において、前記ルイス酸性化合物の添加量は好ましくは0.5質量%以上、5質量%以下である。
【0010】
この場合、R1〜R3を構成するアルキル基、又はアルキルシリル基、又はハロゲン化アルキル基の炭素数は、A原子への電子供与性を制御するために1以上であればよいが、炭素数が多すぎると電解液の導電率が小さくなってしまうので好ましくない。好適には炭素数が1〜8の範囲である。
【0011】
前記ルイス酸性化合物としては、好ましくは(CH(CHO)B(トリプロピルボレート)、(CH(CHO)B(トリブチルボレート)、((CHSiO)B(トリス(トリメチルシリル)ボレート)、((CFCHO)B(トリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル)ボレート)、((CHSiO)P(トリス(トリメチルシリル)フォスフェート)、((CFCHO)P(トリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル)フォスフェート)から選択される少なくとも1種を使用することができる。
【0012】
本発明の非水系リチウム二次電池における有機溶媒としては、周知のカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、アミド類、スルホン系化合物、エステル類、芳香族炭化水素などを用いることができる。これら溶媒の2種類以上を適宜混合して用いてもよい。これらの中では、特にカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、エステル類などが好ましく、カーボネート類がさらに好適に用いられる。
【0013】
この有機溶媒の具体例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アニソール、1,4−ジオキサン、4−メチル−2−ペンタノン、シクロヘキサノン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルホルムアミド、スルホラン、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸エチルなどを挙げることができ、充放電効率を高める点からプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等の環状カーボネートが特に好ましい。
【0014】
また、本発明の非水系リチウム二次電池における電解質としては、周知の過塩素酸リチウム(LiClO)、六フツ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフツ化リチウム(LiBF)、六フツ化ヒ素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメチルスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)などのリチウム塩が適宜選択して使用し得る。中でもLiPFを用いるのが好ましく、前記非水溶媒に対する添加量は、0.5〜2.0モル/lとするのが好ましい。
【0015】
さらに、電解液には、電極界面の被膜安定化、低被膜抵抗化などの目的で、前記非水系電解液にビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルビニレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、無水マレイン酸、無水コハク酸、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシンなどを添加してもよい。
【0016】
さらに、本発明の非水系リチウム二次電池における正極活物質には、周知のLiMO(但し、MはCo、Ni、Mnの少なくとも1種である)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物、すなわちLiCoO、LiNiO、LiNiyCo(1−y)、Li0.5MnO、LiMnOなどを一種単独もしくは複数種を適宜混合して用いることができる。また、負極活物質には、周知のリチウムを吸蔵・放出することが可能な炭素質物や金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上との混合物を用い得る。
【0017】
本発明の非水系リチウム二次電池において、電解液に添加された蓚酸リチウムは、初回の充電時にこの蓚酸リチウム中のリチウムイオンが負極中にドープされるが、このとき解離したアニオン(蓚酸イオン)の大部分は酸化分解されて炭酸ガスと中性分子に変わり、溶質として作用することはなくなる。したがって、この蓚酸リチウムは、負極の不可逆容量分を補うために利用されるものであるので、その添加量は蓚酸リチウム中のリチウム量が負極の不可逆容量を補うだけの量以下であることが望ましい。蓚酸リチウムの最適な添加量は、負極活物質の量や材質によって変化し、その添加量に応じて不可逆容量が減少するが、多すぎると負極にリチウムが析出してしまい、逆に電池の容量が滅少する。したがって、最適な蓚酸リチウムの添加量は実験的に求めて定めることが好ましい。
【0018】
以下、本発明の具体例を実施例及び比較例により説明するが、まず最初に実施例及び比較例に共通の正極板、負極板、電極体、電解液及び電池の製造方法の一例を説明する。
<正極板の作成>
LiCoOからなる正極活物質をアセチレンブラック、グラファイト等の炭素系導電剤(5質量%)と、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)よりなる結着剤(3質量%)等を、N−メチルピロリドンからなる有機溶媒に溶解したものを混合して、正極活物質スラリーあるいはペーストとする。これらの正極活物質スラリーあるいはペーストを、スラリーの場合はダイコーター、ドクターブレード等を用いて、ペーストの場合はローラコーティング法等により正極芯体(厚みが20μmのアルミニウム箔あるいはアルミニウムメッシュ)の両面に均一に塗付して、活物質層を塗布した正極板を形成する。この後、活物質層を塗布した正極板を乾燥機中に通過させて、スラリーあるいはペースト作成時に必要であった有機溶媒を除去して乾燥させ、乾燥後にこの正極板をロールプレス機により圧延して、厚みが0.17mmの正極板とする。
【0019】
<負極板の作成>
天然黒鉛よりなる負極活物質、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)よりなる結着剤(8質量%)等と、N−メチルピロリドンからなる有機溶媒等に溶解したものを混合して、負極活物質スラリーあるいはペーストとする。これらの負極活物質スラリーあるいはペーストを、スラリーの場合はダイコーター、ドクターブレード等を用いて、ペーストの場合はローラコーティング法等により負極芯体(厚みが20μmの銅箔)の両面の全面にわたって均一に塗布して、活物質層を塗布した負極板を形成する。この後、活物質層を塗布した負極板を乾燥機中に通過させて、負極活物質スラリーあるいはペースト作成時に必要であった有機溶媒を除去して乾燥させ、乾燥後にこの乾燥負極板をロールプレス機により圧延して、厚みが0.14mmの負極板とする。
【0020】
<電極体の作成>
上述のようにして作成した正極板と負極板を、有機溶媒との反応性が低く、かつ安価なポリオレフイン系樹脂からなる微多孔膜(厚みが0.025mmのポリプロピレン)を間にし、かつ、各極板の幅方向の中心線を一致させて重ね合わせる。この後、巻き取り機により捲回し、最外周をテープ止めして渦巻状電極体とする。上述のようにして作成した電極体をアルミラミネートにより構成された外装体にそれぞれ挿入し、次いで、電極体より延出した正極集電タブ、負極集電タブを外装体と共に溶着する。
【0021】
<電解液の作成>
電解液としてエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)をそれぞれ質量比で40/20/40の割合となるように混合した溶媒に1.0M LiPFを溶解させ、かつ5.0gの電解液に0.0008モルの蓚酸リチウムを溶解させた。電解液にルイス酸性化合物を混合する場合は、前記5.0gの電解液にさらにルイス酸性化合物を所定量添加して電解液を作成する。
【0022】
(実施例1)
ルイス酸性化合物としてトリブチルボレート((CH(CHO)B)を用い、これを上記電解液5g中に2.5質量%となるように溶解した。この電解液を上述のようにして作成された電池の外装体の関口部より注液して初回充電を行い、発生したガスを飛散させた後にシールを行い、リチウム二次電池を作成し、以下に述べる条件で充放電試験を行い、初回充電容量、初回放電容量及び100サイクル充放電時のサイクル特性(容量残存率)を測定した。
(1)初回充放電条件:
充電:定電流0.1It(0.1C)−定電圧4.2V、20hr:25℃
放電:定電流0.1It(0.1C)、終止電圧2.75V:25℃
(2)サイクル特性試験時充放電条件
充電:定電流1It(1C)−定電圧4.2V、3hr:25℃
放電:定電流1It(1C)、終止電圧2.75V:25℃
なお、サイクル試験後の容量残存率は次の式により求めた。
容量残存率(%)=(100サイクル時の放電容量/初回放電容量)×100
初回充電容量、初回放電容量及びサイクル試験後の容量残存率の測定結果を表1にそれぞれ他の実施例及び比較例のものとまとめて示した。
【0023】
(実施例2)
ルイス酸性化合物としてトリス(トリメチルシリル)ボレート(((CHSiO)B)を上記電解液5g中に3.0質量%となるように溶解した以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、同様の条件で充放電試験を行った。測定結果を他の実施例及び比較例のものとまとめて示した。
【0024】
(実施例3)
ルイス酸性化合物としてトリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル)ボレート(((CFCHO)B)を上記電解液5g中に3.0質量%となるように溶解した以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、同様の条件で充放電試験を行った。測定結果を他の実施例及び比較例のものとまとめて示した。
【0025】
(実施例4)
ルイス酸性化合物としてトリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル)フォスフェート(((CFCHO)P)を上記電解液5g中に2.0質量%となるように溶解した以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、同様の条件で充放電試験を行った。測定結果を他の実施例及び比較例のものとまとめて示した。
【0026】
(比較例)
比較例としては上述の蓚酸リチウムは添加されているがルイス酸性化合物が添加されていない電解液をそのまま用い、他の条件は実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、同様の条件で充放電試験を行った。測定結果を実施例のものとまとめて示した。
【0027】
【表1】
Figure 0004219187
【0028】
表1に示した結果から、実施例1〜4の本発明に属する非水系リチウム二次電池は、初回充電容量が822mAh以上と大きいが、初回放電容量も751mAh以上と大きく、100サイクルの充放電試験後の容量残存率も88%以上と良好な結果を示していることがわかる。それに対し、比較例では、100サイクルの充放電試験後の容量残存率は88%と実施例1〜4のものとほぼ同程度であるが、初回放電容量は732mAhと実施例1〜4のものよりも大幅に小さくなっておいることが分かる。
【0029】
したがって、本願発明は、電解液中に蓚酸リチウムだけでなく、ルイス酸性化合物を添加することにより、従来例のように蓚酸リチウムだけを添加した場合に比すると優れた効果を奏している。
【0030】
なお、実施例1〜4では、特定のルイス酸性化合物を特定の濃度で添加した例のみ示したが、この濃度は少なくとも0.5質量%以上であれば測定値として明確に認識できる効果が表れ、その添加量と共にその効果が増大するが、多すぎると電解液の導電率が低下するので好ましくはない。ルイス酸性化合物の濃度は好ましくは0.5〜10質量%であり、より好ましくは0.5〜5質量%である。また、実施例1〜4では、いくつかの特定のルイス酸性化合物を使用した例のみ示したが、動作原理上、蓚酸イオンと錯体を形成し得る有機溶媒に可溶なものであれば単独で、或いは適宜選択・混合して使用し得ることは当業者にとり自明であろう。
【0031】
更に、実施例1〜4では、蓚酸リチウムの添加量をリチウム換算で全て等しい条件で行ったが、この蓚酸リチウムの添加の目的は非水系リチウム二次電池の不可逆容量の低下にあるから、その添加量に比例してその効果も良好となるが、不可逆容量相当分を越えると充電時にリチウム金属が析出してしまうのでかえって容量が減少するため好ましくはない。その最適な添加量ないしは添加濃度は、電池の大きさ、活物質の種類及び量、電解液の種類及び量によっても変化するので、製造される電池の公称容量毎に実験的に最適な添加量ないしは添加濃度を決定すればよい。また、電解液として、ポリマーを含むゲル状非水電解質を用いたポリマー電池であっても同様の効果が得られる。
【0032】
【発明の効果】
以上述べたとおり、本発明によれば不可逆容量が小さく、初期放電容量の大きい非水系リチウム二次電池が得られる。

Claims (2)

  1. 少なくともリチウムを可逆的に吸蔵・放出する正極材料を有する正極と、リチウムを可逆的に吸蔵・放出する負極材料を有する負極と、非水系電解液とを備えた非水系リチウム二次電池において、前記非水系電解液が蓚酸リチウム及び下記化1の化学構造式で表されるルイス酸性化合物を含有し、前記ルイス酸性化合物の添加量は電解液総量に対して0.5〜10質量%であることを特徴とする非水系リチウム二次電池。
    Figure 0004219187
    (式中Aはホウ素またはリンを示す。Rl〜R3はそれぞれ独立して炭素数が1から8までのアルキル基、又はアルキルシリル基、又はハロゲン化アルキル基を示す。)
  2. 前記ルイス酸性化合物が、(CH(CHO)B、(CH(CH B、((CHSiO)B、((CFCHO)B、((CHSiO)P、((CFCHO)Pから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項に記載の非水系リチウム二次電池。
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