JP4211449B2 - インクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置 - Google Patents

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    • B41J2002/14459Matrix arrangement of the pressure chambers

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  • Particle Formation And Scattering Control In Inkjet Printers (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録ヘッドは圧力室内のインクをアクチュエータ、例えば、電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換する圧電素子を用いて振動板を介して加圧することで、各イジェクタの圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出する方法が知られている。また、このようなインクジェット記録ヘッドにおいては、インク供給口から導入されたインクが共通インク流路に充填され、この共通インク流路から各イジェクタのインク供給路を通って圧力室に充填される。
【0003】
また、近年、インクジェット記録装置は高速化の傾向が強まっている。このためインクジェット記録ヘッドを長尺化し、インクジェット記録ヘッド1つあたりのノズル数を増やし、より短時間に広い領域に画像形成することが可能なインクジェット記録ヘッドが作られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】
特表平10−508808号公報
【特許文献2】
特開平09−150511号公報
【特許文献3】
特開平09−156095号公報
【特許文献4】
特開2001−287361公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、共通インク流路の最流末のイジェクタの開口部は、流末の壁の近傍にあるため、インクが流末の壁によって流れが拘束され、開口部に流れ込むインクの流速が低下している。このためイジェクタの流路抵抗が増大し、インク滴の吐出特性が悪化する。従って、流路抵抗が増大しないように開口部と壁との間に適切な隙間を開ける必要がある。
【0006】
しかし、図10のように、最流末側の開口部20と壁15Aの距離を適性に保つと、共通インク流路15が重なるため、共通インク流路15を図10のようにずらす必要がある。
【0007】
従って、共通インク流路15は、流末の壁15Aを対面させて、一列に並べることができず、ノズル10を高密度に配置できない。
【0008】
また、流末の壁15A近傍にはインクの澱みが発生し、気泡が残留しやすかった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、最流末のイジェクタの開口部に流れ込むインクの流速が低下することを防止しつつ、流末の壁の近傍の澱みの領域を減少させるとともに、ノズルを高密度に配置可能とすることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明に係るインクジェット記録ヘッドは、ノズルと、該ノズルに連通した圧力室と、該圧力室に接して該圧力室内のインクを加圧し前記ノズルからインク滴を吐出させるアクチュエータと、前記圧力室に連通し該圧力室にインクを供給するインク供給路と、を有するイジェクタと、複数の前記イジェクタの前記インク供給路が接続され、前記インク供給路の開口部からインクを流入させる共通インク流路と、を備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、前記共通インク流路の流末の壁は流路中心線に対して傾斜し、流末の前記壁が対向且つ略平行になると共に前記流路中心線に直交する方向に見て流末の前記壁が重なるように、前記共通インク流路が一対配置され、前記インク供給路の前記開口部が、前記流路中心線よりも流路長が延びる壁側にずれて配置されていることを特徴としている。
【0011】
請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドによれば、共通インク流路の流末の壁が流路中心線に対して傾斜しているため、流末の壁の一方の角度が鈍角となり澱みの領域が減少する。
【0012】
また、共通インク流路の開口部が、流路中心線よりも流路長が延びる壁側にずれて配置されているため、最流末のイジェクタの開口部が壁から適切に離れる。このため開口部に流れ込むインクの流速が低下せず、流路抵抗が増大することが防止され、吐出特性が悪化することがない。つまり、各イジェクタのインク滴の吐出特性のばらつきが少ない。
【0013】
従って、気泡の排出性を向上させつつ、イジェクタの吐出特性のばらつきが減少する。また、一対の共通インク流路を、流末の斜めの壁が対向し且つ平行になるように配置し、更に対向する流末の斜めの壁が流路中心線と直交する方向に見て重なっている。従って、インクジェット記録ヘッドの幅は増大しない。
【0014】
また、プレートを積層してインクジェット記録ヘッドを製造する場合、開口となる共通インク流路の面積が小さくなるのでインクジェット記録ヘッドの強度が向上する。
【0015】
尚、共通インク流路に気泡が残留しても、気泡が移動せず、そこに留まっていれば吐出特性に影響を及ぼすことは無い。しかし、振動や衝撃等、何らかの要因で残留していた気泡が移動し、インク供給路を通り圧力室に流入すると、気泡によって圧力室にかかる圧力が吸収され、そのイジェクタではインク滴の吐出特性が悪化したり、最悪の場合は不吐出となる。つまり、共通インク流路内の気泡の残留は、インクジェット記録ヘッドの信頼性を大きく損なう原因となる。
【0016】
しかし、上述したように、共通インク流路の流末の壁の一方の角度が鈍角となり、流末の壁の近傍のインクの流れが遅い澱みの領域が減少しているので、共通インク流路に残留した気泡が圧力室に侵入することに起因する、インク滴の吐出特性の悪化や不吐出が抑えられる。
【0017】
請求項2に記載の発明に係るインクジェット記録ヘッドは、請求項1に記載の構成において、前記壁の流路中心線に対する傾きが60度以下であることを特徴としている。
【0018】
請求項2に記載のインクジェットによれば、請求項1と同様の作用を奏すが、壁の流路中心線に対する傾きが60度以下であるので、最流末のイジェクタの開口部に流れ込むインクの流速と他のイジェクタの開口部に流れ込むインクの流速との差が少ない。従って、各イジェクタの流路抵抗のばらつきが減少し、各イジェクタのインク滴の吐出特性のばらつきが減少する。
【0019】
請求項3に記載の発明に係るインクジェット記録ヘッドは、請求項1又は請求項2に記載の構成において、流末の前記壁が対向して配置された一対の前記共通インク流路は、前記流路中心線が同一線上になるように配置されていることを特徴としている。
【0020】
請求項3に記載のインクジェット記録ヘッドによれば、請求項1又は請求項2と同様の作用を奏すが、複数の共通インク流路の流路中心線が同一線上となるように並び、対面した壁が略平行となっている。従って、ノズルが高密度に配置可能となり、インクジェット記録ヘッドの幅は増大しない。
【0021】
請求項4に記載の発明に係るインクジェット記録ヘッドは、請求項3に記載の構成において、流末の前記壁が対向して配置された一対の前記共通インク流路に接続された複数の前記イジェクタは、前記共通インク流路の対向する前記壁の間の中心を対称点として、点対称となって並んで配置されていることを特徴としている。
【0022】
請求項4に記載のインクジェット記録ヘッドによれば、請求項3と同様の作用を奏すが、流末の壁が対向して配置された一対の共通インク流路に接続された複数のイジェクタが、点対称となって並んでいるので、流末の壁の方向とイジェクタの方向が同一になる為、イジェクタの特性の均一化が容易になり、設計の自由度が広がる。
【0023】
請求項5に記載の発明に係るインクジェット記録ヘッドは、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の構成において、前記アクチュエータが、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子であることを特徴としている。
【0024】
請求項6に記載の発明に係るインクジェット記録ヘッドは、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の構成において、前記アクチュエータが、前記圧力室内のインクを加熱し発泡させることで加圧する発熱抵抗体であることを特徴としている。
【0025】
請求項7に記載の発明に係るインクジェット記録装置は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドを使用することを特徴としている。
【0026】
請求項7に記載のインクジェット記録装置によれば、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドを使用しているので、共通インク流路の流末の壁の一方の角度が鈍角となり、流末の壁の近傍に澱みの領域が減少している。
【0027】
従って、共通インク流路の気泡の排出性が向上している。このため、気泡が圧力室に侵入することに起因する、インク滴の吐出特性の悪化や不吐出が抑えられる。
【0028】
インク滴の吐出特性が悪化したり、不吐出が発生したりした場合、インクジェット記録ヘッドのノズル面にキャップ部材を当接させ、ノズルからインクを吸引することで吐出特性を回復する吸引回復動作を行う必要がある。このような吸引回復動作をしばしば行うことは、ユーザーの信頼性を損なうだけでなく、吸引によってインクを浪費するためランニングコストも増加することになる。
【0029】
しかし、本発明のインクジェット記録装置は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドを使用しているので、共通インク流路に残留した気泡に起因する吐出特性の悪化や不吐出を回復する為の吸引回復動作を行うことが抑えられる。このためユーザーの信頼性を損なうことがなく、また、吸引によりインクを浪費しランニングコストが増加することも抑えられる。
【0030】
更に、ノズルが高密度に配置可能であるためインクジェット記録ヘッドの幅が増大せず、インクジェット記録装置は大型化しない。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るインクジェット記録ヘッドの第1実施形態を図1〜図4及び図8に基づき説明する。尚、各図の矢印Fはインクの流れを表す矢印である。
【0032】
図1及び図2に示すようにインクジェット記録ヘッド112は、2箇所のインク供給部52から導入されたインクが充填される2個の第2共通インク流路50を備えている。この各第2共通インク流路50は2箇所の連通部54から、インクジェット記録ヘッドを平面視したとき略長方形をした第1共通インク流路14がそれぞれ平行に伸びている。
【0033】
各第1共通インク流路14にはイジェクタ60のインク供給路18の開口部20が所定の間隔で接続されている。
【0034】
更に、図8に示すように、第1共通インク流路14の流末の壁14Aが流路中心線14Cに対して角度θを持って傾斜している(インク流路14の流末の先端14Bの同じく角度もθとなる)。また、開口部20は、流路中心線14Cより、流路長が延びる共通インク流路14の幅方向にずらして配置されている。つまり、開口部20は、先端14B側の壁(図中のK)に沿って並んでいる。また、イジェクタ60も同方向に揃って並んでいる。
【0035】
従って、第1共通インク流路14の最流末のイジェクタの開口部20と壁14Aとは適切な距離が開く(図2のL)。このような構成とすることで、最流末の開口部20と壁14Aとの距離を適切に開けつつ、第1共通インク流路14を壁14を対面させて一列に配置することができる。従って、インクジェット記録ヘッド112が大型化することは無い。
【0036】
尚、壁14Aは流路中心線14Cに対する角度θは60度以下であることが望ましい。このような角度θとすることで、後述するように、最流末のイジェクタ60の開口部20に流れ込むインクの流速と他のイジェクタ60の開口部20に流れ込むインクの流速との差が少なくなる。
【0037】
図3及び図4に示すようにイジェクタ60は、インク滴を吐出するノズル10と、インクを加圧し連通するノズル10からインク滴を吐出させ、インクの吐出方向に平面視したときの形状が六角形形状をした圧力室12と、を備えている。更に、ノズル10と圧力室12とを連通するノズル連通室16と、第1共通インク流路14の開口部20と圧力室12とを連通するインク供給路18とを備えている。
【0038】
また、インクの吐出方向を垂直方向としたとき、垂直方向に平面視すると第1共通インク流路14とインク供給路18と圧力室12とが重なるように配置されている。このような配置とすることで、第1共通インク流路14とインク供給路18と圧力室12とが、水平方向に対しては高密度に配置可能となる。
【0039】
更に、圧力室12の上面には振動板34が接着され、振動板34の上面には、圧電素子36が接着され、圧電素子36の上面にはボール半田40を介して配線基板38が接合されている。
【0040】
次に本実施形態のインクジェット記録ヘッド112の製造方法について説明する。上述したインクジェット記録ヘッド112の各インク流路や各インク室は、孔が形成された複数のプレートを積層していくことで構成される。
【0041】
具体的には、ノズル10が形成されるノズルプレート22と、ノズル連通室16と第1共通インク流路14とを形成するインクプールプレート24、26と、ノズル連通室16と第1共通インク流路14の開口部20と第2共通インク流路50とを形成するスループレート28と、インク供給路18と第2共通インク流路50が形成されたインク供給路プレート30と、圧力室12と第2共通インク流路50が形成された圧力室プレート32とを順番に積層し接合する。
【0042】
次にノズルプレート22の表面に撥水コート膜を被覆すると共に、エキシマレーザにてノズル10を開ける。
【0043】
そして、ノズル10を形成後に圧力室プレート32に振動板34を接着する。
【0044】
尚、ノズルプレート22の材質はポリイミドであり、インクプールプレート24、26、スループレート28、インク供給路プレート30、圧力室プレート32、振動板34の材質はSUSである。尚、インクプールプレート24、26、スループレート28、インク供給路プレート30、圧力室プレート32、振動板34が接合されたものを流路プレートユニット44と言う。
【0045】
次に別途、剥離可能な接着剤、例えば接着後に所定の温度で加熱すると、発泡して接着力が大幅に低下する性質を有する熱発泡性接着フィルムを介して図示しない固定基板に接着された、図示しない圧電プレートに、例えばサンドブラスト加工を用いて、マトリックス状に配列された圧電素子36を作成する。
【0046】
この固定基板上にマトリックス状に作成された圧電素子の固定基板が接着された逆の面を、前述した流路プレートユニット44の振動板34の面に接着する
尚、圧電プレートの両面には、電極層として第1及び第2電極層がスパッタリングなどで予め形成されており、共通電極として兼用する振動板と導電性接着剤で接着することで、第一電極層、すなわち圧電素子36と振動板とは電気的にも接続される。
【0047】
続いて、固定基板を加熱して熱発泡性接着フィルムの接着力を低減させ、固定基板を剥離する。
【0048】
剥離後、各圧電素子36毎にボール半田40を形成した配線基板38を圧電素子36と接合する。前述したように圧電素子36の両面には第1及び第2電極層が形成されているので、第2電極層、すなわち圧電素子36と配線基板38とは電気的に接続されている。また、配線基板38と振動板34とは導電性材にて接続されている。
【0049】
このような製造方法にて本実施の形態のインクジェット記録ヘッド112が完成する。
【0050】
次に第1実施形態の作用について説明する。
【0051】
インク供給部52からインクが導入され、第2共通インク流路50に充填される。第2共通インク流路50に充填後、各連通部54から各第1共通インク流路14に充填されていく。
【0052】
第1共通インク流路14に充填された後、図3(B)の矢印Fのように開口部20からインク供給路18を通って各圧力室12とノズル連通室16とにインクが充填され、ノズル10において表面が圧力室12側に僅かに凹んだメニスカスを形成する。
【0053】
インクが充填された状態で、例えばボール半田40から振動板34へと通電することで圧電素子36が歪み、振動板34を介して圧力室12のインクが加圧され、ノズル10からインク滴が吐出する。
【0054】
さて、第1共通インク流路の流末の壁近傍は、インクの流れが壁に当たり拘束されるため、流末の壁近傍にあるイジェクタの開口部へ流れ込むインクの流速が低下する。このためイジェクタの流路抵抗が増大し、インク滴の吐出特性が悪化する。従って、流末の壁と開口部との距離をインク滴の吐出特性に影響がでないように適切な距離をあけることが必要となる。しかし、適切な距離を開けると図10のように共通インク流路15を対向して一列に配置することができず、インクジェット記録ヘッドの幅が増大する。
【0055】
しかしながら、本実施形態のインクジェット記録へッド112は、図1、図2、図8に示すように第1共通インク流路14の流末の壁14Aが流路中心線14Cに対して角度θを持って傾斜し、対面する流末の壁14Aは略平行になっている。また、イジェクタ60のインク供給路14の開口部20は、流末の壁14Aの先端14B側の壁(図中のK)に沿って並んでいる。従って、流末の開口部20は壁14Aと適切な距離が開く(図2のL)。
【0056】
このような構成とすることで、第1共通インク流路14の最流末の開口部20と壁14Aとの距離を適切にあけつつ、第1共通インク流路14を一列に壁14Aを対面させて配置することができる。従って、第1共通インク流路14の最流末のイジェクタ60の流路抵抗が増大し、インク滴の吐出特性が悪化することがなく、ノズル10は高密度に配置可能となる。
【0057】
尚、後述する理由により、角度θが60度以下であるので、最流末のイジェクタ60の開口部20に流れ込むインクの流速と他のイジェクタ60の開口部20に流れ込むインクの流速との差が少ない。従って、各イジェクタ60の流路抵抗のばらつきが減少し、インク滴の吐出特性のばらつきが減少する。
【0058】
また、第1共通インク流路14の流末の壁14A近傍はインクの流れが遅くなる澱みが発生する。このような澱みには気泡が残留しやすい。残留した気泡は振動や衝撃等の何らかの要因で移動し、インク供給路18を通り圧力室12に流入すると、気泡によって圧力室12にかかる圧力が吸収され、そのイジェクタ60ではインク滴の吐出特性が悪化したり、最悪の場合は不吐出となる。
【0059】
しかし、本実施形態では、上述したように第1共通インク流路14の流末の壁14Aが流路中心線14Cに対して角度θを持って傾斜しているので、図7に示すように、一方が鈍角となるため、傾斜していない場合(図7の(B))と比較して澱みの領域Yが少なくなる。従って、第1共通インク流路14の気泡の排出性が向上している。このため、第1共通インク流路14に残留した気泡が圧力室12に侵入することに起因する、インク滴の吐出特性の悪化や不吐出が抑えられる。
【0060】
ここで、最流末のイジェクタ60の開口部20に流れ込むインクの流速と他のイジェクタ60の開口部20に流れ込むインクの流速との差と、壁14Aの流路中心線14Cに対する角度θとの関係を三次元解析ソフトウエアによって計算した結果を説明する。
【0061】
三次元解析ソフトウエアは、株式会社エス・イー・エー社のFLOW−3D(登録商標)を用いておこなった。このFLOW−3D(登録商標)はコントロール・ボリューム法(有限差分法)を用い、自由表面解析機能を有する3次元熱流体解析ソフトウェアで、自由表面および2流体界面の大変形を伴う複雑な流動現象を精度よく計算する。
【0062】
図8のように、流末の壁に近い一方の開口部20aに流れ込むインクの速度Va、他方の開口部20bに流れ込むインクの流速の速度Vbとし、壁14Aの流路中心線14Cに対する壁14Aの角度θを変化させたときのVaとVbとの速度差を、本ソフトウエアによって計算した結果が図9のグラフである。
【0063】
この図9のグラフから判るように角度θが60度以下のとき、VaとVbとの速度差が5.66%以下と十分少なくなっている。
【0064】
従って、第1共通インク流路14の流末の壁14Aの流路中心線14Cに対する角度θを60度以下とすることで、最流末のイジェクタ60の開口部20に流れ込むインクの流速と他のイジェクタ60の開口部20に流れ込むインクの流速との差が少くなる。従って、各イジェクタ60の流路抵抗のばらつきが減少し、インク滴の吐出特性のばらつきが減少する。
【0065】
次に本発明に係るインクジェット記録ヘッドの第2実施形態を図5に基づいて説明する。尚、第1実施形態で説明した部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0066】
第2実施形態のインクジェット記録ヘッド113は、第1実施形態ではイジェクタ60は同方向に揃って並んでいたが、第2実施形態では第1共通インク流路14の流末の壁14Aを境にイジェクタ60が点対称に対向して並んでいる。
【0067】
尚、上記以外は、製造方法も含め第1実施形態及び第2実施形態と同様である。
【0068】
次に第2実施形態の作用について説明する。
【0069】
第2実施形態のインクジェット記録ヘッド112は第1実施形態と同様の作用を奏すが、イジェクタ60が、第1共通インク流路14の流末の壁14Aを境に点対称に対向して並んでいるので、流末の壁14Aの方向とイジェクタ60の方向が同一になる為、イジェクタ60の特性の均一化が容易になり、設計の自由度が広げることができる。
【0070】
次に本実施形態のインクジェット記録ヘッド112、又は113を使用したインクジェット記録装置について説明する。図6は、インクジェット記録ヘッド112、又は113を備えたインクジェット記録装置102の部分断面斜視図である。
【0071】
インクジェット記録装置102はインクジェット記録ヘッド112、又は113を搭載するキャリッジ104、キャリッジ104を主走査方向Mに走査する為の主走査機構106、記録媒体としての記録紙Pを副走査方向Sに走査する為の副走査機構108、及びメンテナンスステーション110等を含んで構成されている。
【0072】
インクジェット記録ヘッド112、又は113は、ノズル10が形成されたノズルプレート22(図3及び図4参照)が、記録用紙Pと対向するようにキャリッジ104上に搭載されており、主走査機構106によって主走査方向Mに移動されながら記録用紙Pに対してインク滴を吐出することにより、一定のバンド領域BEに対して画像の記録を行う。主走査方向Mへの1回の移動が終了すると、副走査機構108によって記録用紙Pが副走査方向Sに搬送され、再びキャリッジ104を主走査方向Mに移動させながら次のバンド領域BEを記録する。こうした動作を複数回繰り返すことにより、記録用紙Pの全面にわたって画像記録を行うことができる。
【0073】
尚、インクジェット記録ヘッド112、113は壁14に最流末のイジェクタ60の開口部20に流れ込むインクの流速が低下していないので、流路抵抗が増大し、吐出特性が悪化することもない。このため各イジェクタ60のインク滴の吐出特性のばらつきが少ない。
【0074】
従って、イジェクタ60のインク滴の吐出特性が異なることによる、例えば、インク滴の大きさが異なり記録画像にムラを生じさせる等の印字品位の低下を招かない。
【0075】
更に、流末の壁14Aが略平行となっているので、インクジェット記録ヘッド112、113を長尺化するために第1共通インク流路14を壁14を対面させて一列に並べることができる。従って、インクジェット記録ヘッド112、113の幅が増大せずにノズル10を高密度に配置できるので、インクジェット記録装置102が大型化しない。
【0076】
また、メンテナンスステーション110は、図示しないキャップ部材、吸引ポンプ、ダミージェット受け、クリーニング機構等を含んで構成されており、吸引回復動作、ダミージェット動作、クリニーニング動作等のメンテナンス動作を行う。
【0077】
吸引回復動作とは、インク滴の吐出特性が悪化したり、不吐出が発生したりした場合等、インクジェット記録ヘッド112、又は113のノズルプレート22面にキャップ部材を当接させ、ノズル10からインクを吸引することで吐出特性を回復する動作のことをいう。尚、このような吸引回復動作をしばしば行うことは、ユーザーの信頼性を損なうだけでなく、吸引によってインクを浪費するためランニングコストも増加することになる。
【0078】
インク滴の吐出特性が悪化したり、不吐出が発生したりする原因は、いくつかあげられるが、前述したように、第1共通インク流路14に残留した気泡が、何らかの原因で圧力室12に進入することでも発生する。しかし、本実施形態のインクジェット記録ヘッド112、113は、第1共通インク流路14の流末の壁14A近傍のインクの澱みが発生する領域Yが減少している。従って、第1共通インク流路14の気泡の排出性が向上している。このため、第1共通インク流路14に残留した気泡が圧力室12に侵入することに起因する、インク滴の吐出特性の悪化や不吐出の回復の為の吸引回復動作を行うことが抑制される。従って、ユーザーの信頼性を損なうことがなく、また、吸引によりインクを浪費しランニングコストが増加することが抑制される。
【0079】
尚、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0080】
例えば、上記実施の形態では、インクジェット記録ヘッド112、又は113をキャリッジ104によって搬送しながら記録を行ったが、これに限定されるものではない。例えば、ノズルを記録媒体の全幅にわたって配置したインクジェット記録ヘッドを用い、インクジェット記録ヘッドは固定して、記録媒体のみを搬送しながら記録を行っても良い。
【0081】
また、例えば、上記実施の形態では圧電素子36は、1枚の圧電素子36のたわみ振動によって圧力室12を加圧したが、これに限定されない。例えば、圧電素子を積層する形態であっても良いし、縦振動タイプの圧電素子であっても良い。或いは、その他形態の圧電素子であっても良い。
【0082】
また、例えば、上記実施の形態では、アクチュエータは圧電素子36からなっているが、これに限定されない。例えば、圧力室内のインクを加熱し発泡させることで加圧する発熱抵抗体であっても良いし、静電力や磁力を利用したものであっても良い。或いは、その他の形態のアクチュエータであっても良い。
【0083】
また、本明細書におけるインクジェット記録とは、記録紙上への文字や画像の記録に限定されるものではない。すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また吐出する液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成したりするなど、工業用的に用いられる液滴噴射装置全般に対して本発明を利用することが可能である。
【0084】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、共通インク流路の最流末のイジェクタの開口部に流れ込むインクの流速が低下することを防止しつつ、共通インク流路の流末の壁近傍の澱みの領域を減少させるとともに、ノズルを高密度に配置可能としている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを示す図である。
【図2】 本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第1共通インク流路の流末近傍を示す図である。
【図3】 (A)は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの要部を示す断面斜視図である。(B)は、(A)のX部分の拡大図である。
【図4】 (A)は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの要部を示す断面図である。(B)は、(A)のA−A部分の断面図である。
【図5】 本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第1共通インク流路の流末近傍を示す図である。
【図6】 本発明の第1実施形態又は第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを使用したインクジェット記録装置を示す図である。
【図7】 (A)は本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第1共通インク流路の流末の壁近傍に発生する澱み領域を模式的に表した図である。(B)は従来のインクジェット記録ヘッドの第1共通インク流路の流末の壁近傍に発生する澱みの領域を模式的に表した図である。
【図8】 本発明の第1実施形態又は第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの流末の壁の流路中心線に対する傾きと、開口部とを模式的に表した図である。
【図9】 本発明の第1実施形態又は第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの流末の壁の流路中心線に対する傾きと、最流末の開口部とその他の開口部に流れ込むインクの流速の差を示すグラフである。
【図10】 従来のインクジェット記録ヘッドの共通インク流路の流末近傍を示し、第1共通インク流路が流末の壁を対面させて一列に配置することができないことを説明する図である。
【符号の説明】
10 ノズル
12 圧力室
14 第1共通インク流路(共通インク流路)
14A 壁
18 インク供給路
20 開口部
36 圧電素子(アクチュエータ)
60 イジェクタ
102 インクジェット記録装置
112、113 インクジェット記録ヘッド

Claims (7)

  1. ノズルと、該ノズルに連通した圧力室と、該圧力室に接して該圧力室内のインクを加圧し前記ノズルからインク滴を吐出させるアクチュエータと、前記圧力室に連通し該圧力室にインクを供給するインク供給路と、を有するイジェクタと、
    複数の前記イジェクタの前記インク供給路が接続され、前記インク供給路の開口部からインクを流入させる共通インク流路と、
    を備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、
    前記共通インク流路の流末の壁は流路中心線に対して傾斜し、
    流末の前記壁が対向且つ略平行になると共に前記流路中心線に直交する方向に見て流末の前記壁が重なるように、前記共通インク流路が一対配置され、
    前記インク供給路の前記開口部が、前記流路中心線よりも流路長が延びる壁側にずれて配置されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
  2. 流末の前記壁の前記流路中心線に対する傾きが60度以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
  3. 流末の前記壁が対向して配置された一対の前記共通インク流路は、前記流路中心線が同一線上になるように配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
  4. 流末の前記壁が対向して配置された一対の前記共通インク流路に接続された複数の前記イジェクタは、
    前記共通インク流路の対向する前記壁の間の中心を対称点として、点対称となって並んで配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
  5. 前記アクチュエータが、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
  6. 前記アクチュエータが、前記圧力室内のインクを加熱し発泡させることで加圧する発熱抵抗体であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
  7. 請求項1〜は請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドを使用することを特徴とするインクジェット記録装置。
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