図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体13を有している。ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の液体吐出孔8が設けられている(図4参照)。
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示されたヘッド本体13を示す上面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図であり、ヘッド本体13の一部である。図4は、図3と同じ位置の拡大透視図で、液体吐出孔8の位置が分かりやすいように、一部の流路を省略して描いている。なお、図3および図4において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき液体加圧室10(液体加圧室群9)、しぼり12および液体吐出孔8を実線で描いている。図5は図3のV−V線に沿った縦断面図である。
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、アクチュエータユニットである圧電アクチュエータユニット21とを有している。圧電アクチュエータユニット21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータユニット21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータユニット21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータユニット21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータユニット21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド(共通流路)5aということがあり、開口5bから副マニホールド5aまでのマニホールド5を液体供給路5cということがある)。開口5bに繋がる液体供給路5cは、圧電アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。分岐した副マニホールド5aは、これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータユニット21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在し、各圧電アクチュエータユニット21の中央付近で閉じている。
すなわち、副マニホールド(共通流路)5aの一端は閉じており、他端は液体供給路5cに繋がっている。また、詳細は後述するが、副マニホールド(共通流路)5aは閉じている一端側の断面積が、液体供給路5cに繋がっている他端側の断面積よりも小さくなっている。断面積は、副マニホールド(共通流路)5aの深さを変えることにより変えられている。また、液体供給路5cの断面積は、副マニホールド(共通流路)5aの端の断面積より大きくなっている。なお、図3においては、副マニホールド(共通流路)5aの端が2つの液体供給路5cに繋がっているものがあるが、このような場合は、それらの液体供給路5cの合計の断面積が副マニホールド(共通流路)5aの端の断面積よりも大きくなっているということである。これは、副マニホールド(共通流路)5aの端に3つ以上の液体供給路5cが繋がっている場合も同様である。
流路部材4は、複数の液体加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの液体加圧室群9を有している。液体加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。液体加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの液体加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータユニット21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの液体加圧室10によって形成された各液体加圧室群9は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各液体加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータユニット21が接着されることで閉塞されている。
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
全体では、マニホールド5から繋がる液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各液体加圧室列に含まれる液体加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。液体吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。すなわち、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の液体吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
圧電アクチュエータユニット21の上面における各液体加圧室10に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。個別電極35は液体加圧室10より一回り小さく、液体加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
流路部材4の下面の液体吐出面には多数の液体吐出孔8が形成されている。これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータユニット21と対向する領域内に配置されている。これらの液体吐出孔は、1つの群として圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータユニット21の変位素子50を変位させることにより液体吐出孔8から液滴が吐出できる。液体吐出孔8の配置については後で詳述する。そして、それぞれの領域内の液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図5に示されているように、液体加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、液体吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、液体加圧室10を介して副マニホールド5aと液体吐出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された液体加圧室10である。第2に、液体加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
第3に、液体加圧室10の他端から液体吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には液体吐出孔8)までの各プレートに形成されている。
第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜29に形成されている。なお、副マニホールド5aの位置によっては、マニホールドプレート29には孔が形成されていない部分があり、これにより、副マニホールド5aの断面積が変えられている。
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から液体吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で液体吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、液体加圧室10の一端部に至る。さらに、液体加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、液体加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した液体吐出孔8へと進む。
圧電アクチュエータユニット21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータユニット21全体の厚さは40μm程度である。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の液体加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータユニット21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34およびとAu系などの金属材料からなる個別電極35を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する位置に配置されている。個別電極35の一端は、液体加圧室10と対向する領域外に引き出されて接続電極36が形成されている。この接続電極36は例えばガラスフリットを含む銀−パラジウムからなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極36は、図示されていないFPC(Flexible Printed Circuit)に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100からFPCを通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータユニット21に対向する領域内の全ての液体加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と同様に、FPC上の別の電極と接続されている。
図5に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータユニット21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータユニット21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する液体加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータユニット21における各液体加圧室10に対向する部分は、各液体加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が液体加圧室10毎に、液体加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータユニット21には加圧部である変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
多数の個別電極35は、個別に電位を制御することができるように、それぞれがFPC上のコンタクトおよび配線を介して、個別にアクチュエータ制御手段に電気的に接続されている。
本実施形態における圧電アクチュエータユニット21においては、個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この時圧電セラミック層21bは、その厚み方向すなわち積層方向に伸長または収縮し、圧電横効果により積層方向と垂直な方向すなわち面方向には収縮または伸長しようとする。一方、残りの圧電セラミック層21aは、個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域を持たない非活性層であるので、自発的に変形しない。つまり、圧電アクチュエータユニット21は、上側(つまり、液体加圧室10とは離れた側)の圧電セラミック層21bを、活性部を含む層とし、かつ下側(つまり、液体加圧室10に近い側)の圧電セラミック層21aを非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。
この構成において、電界と分極とが同方向となるように、アクチュエータ制御部により個別電極35を共通電極34に対して正または負の所定電位とすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは液体加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
本実施の形態における実際の駆動手順は、予め個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、液体加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、液体加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から液体加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが液体加圧室10側へ凸となるように変形し、液体加圧室10の容積減少により液体加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、液体加圧室10内において圧力波がマニホールド5から液体吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。これによると、液体加圧室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
また、階調印刷においては、液体吐出孔8から連続して吐出される液滴の数、つまり液滴吐出回数で調整される液滴量(体積)で階調表現が行われる。このため、指定された階調表現に対応する回数の液滴吐出を、指定されたドット領域に対応する液体吐出孔8から連続して行なう。一般に、液体吐出を連続して行なう場合は、液滴を吐出させるために供給するパルスとパルスとの間隔をALとすることが好ましい。これにより、先に吐出された液滴を吐出させるときに発生した圧力の残余圧力波と、後に吐出させる液滴を吐出させるときに発生する圧力の圧力波との周期が一致し、これらが重畳して液滴を吐出するための圧力を増幅させることができる。
そして、制御部100は、このような駆動信号を液体吐出ヘッド2の各変位素子50に繰り返し送ることにより、画像を印刷することができる。液滴を吐出する際の駆動信号、および液滴を吐出しない際の不吐出の駆動信号(単に信号が送られない場合も含む)は、各変位素子50は一定の周期で送られ、その周期を駆動周期、その周波数を駆動周波数と呼ぶ。全面を同一色で印刷する場合などは、各液体吐出素子50が駆動周期毎に駆動されることになる。なお、実際の駆動信号は、上述の1つの引き打ちの信号により1滴の液滴を吐出信号以外に、引き打ちの信号の後に個別流路32内の液体に残っている残留振動を少なくするようにキャンセル信号を加えたり、階調表現をするために1ヵ所に複数の液滴が着弾するように複数の引き打ちの信号が含まれていたりする場合もある。また、当然押し打ちによる吐出を行なってもよい。いずれにしても、液体吐出素子50から連続して吐出が行なわれる際には、駆動周期毎に駆動信号が加えられることになる。
このようなプリンタ1では、加圧部である変位素子50が駆動されると、液体吐出孔8から液滴が吐出されるが、その際に、液体の圧力が液体加圧室10からしぼり12を通って、共通流路である副マニホールド5aにも伝わる。つまり、共通流路には、それに繋がっている複数の加圧部から駆動周期毎に圧力が伝わってくるため、その圧力により定在波が生じることがある。
図6(a)には、停止状態から1および10回目に吐出された液滴の速度が示されている。駆動を繰り返すうちに、それぞれの液体吐出孔から吐出される液滴の吐出速度は、変動し、1回目の吐出と10回目の吐出では、吐出速度の傾向が異なっている。これは、共通流路に生じた定在波の圧力がしぼりを通じて影響したものである。10回目以降は、ほぼ同様の吐出速度の傾向が続くようになり、この分布は共通流路内での位置に関係した、周期的なものになっている。なお、図6(a)の10回目の吐出速度の分布は、1ヶ所で極小値、2ヶ所で極大値をとなっているが、液体の吐出速度は、共通流路から受ける圧力が大きければ、速くなるという単純なものではなく、この分布は、後述の1次(基本)共振の定在波が生じたことによる結果と考えられる。
ここで共通流路に生じる定在波について説明する。図7(a)は共通流路205aおよびその周辺の構造の模式図である。
共通流路205aの一端は閉じており、他端は液体供給路205に繋がっている。液体供給路205の断面積は、共通流路205aの断面積よりも大きくなっている。液体供給路205の断面積が大きくなっていることにより、共通流路205a内の液体の圧力は、液体供給路205に伝わりにくくなっており、これにより、共通流路205aと液体供給路205の境界付近が定在波の節になる。なお、液体供給路205の断面積は共通流路205aの倍以上であると液体の圧力はより伝わりにくくなる。図7(a)においては、共通流路205aの一端に繋がっている液体供給路205は2方向に向かっており、それぞれの液体供給路205の断面積が共通流路205aの断面積より大きくなっており、その2つを合わせて、共通流路205aの一端には共通流路205aの断面積の2倍以上の断面積の液体供給路205が繋がっている。
共通流路205aの長さは、液体供給路205との間で断面積が大きくなる部分を境界とする。以下、共通流路205aの長さをLmm(以下で単位であるmmを省略することがある)として説明する。なお、共通流路205aは直線状である必要はなく、曲線状であってもよく、途中で折れ曲がる角部があってもよい。それらの場合、共通流路205aの長さLは断面の面積中心を結んできる線分の合計の長さである。共通流路205aの断面積は一定でありBmm2(以下で単位であるmm2を省略することがある)である。
共通流路205aは長さ方向にわたって、複数の液体加圧室10がしぼり212を介して繋がっている。特に限定されるわけではないが、しぼり212の繋がっている間隔は、等間隔になるか、0.1mmおよび0.2mmの間隔が交互に表れるなど、一定のパターンを繰り返す間隔となる。図示していないが、液体加圧室10には、その体積を変える加圧部が隣接しており、液体加圧室10から液体吐出孔に繋がる流路が形成されている。
共通流路205aの長さLの全体にわたってしぼり212が繋がっているものに限定されるわけではないが、本発明の定在波を抑制する構造は、しぼり212が繋がっている範囲が共通流路205aの長さLの半分以上である場合により有用であり、特に長さLの全体に繋がっている場合に有用である。
このような共通流路205aを有する液体吐出ヘッドを駆動すると、上述のように加圧部から生じる圧力が共通流路205aに伝わり、定在波を起こすことがある。図7(b)は、定在波のうちで1次(基本)共振により生じている定在波280aの圧力変動を模式的に共通流路205aに重ね合わせた図である。定在波280aは、共通流路205aの閉じた一端で圧力変動が最大になる腹になっており、共通流路205aの他端に向かうにつれて、圧力変動がしだいに小さくなり、共通流路205aと液体供給路205の境界の端で圧力変動が0の節になっている。
図7(c)は定在波のうちで2次共振により生じている定在波280bの圧力変動を模式的に共通流路205aに重ね合わせた図である。定在波280bは、共通流路205aの閉じた一端および閉じた一端から2L/3の所で圧力変動が最大になる腹になっており、共通流路205aと液体供給路205の境界および閉じた一端からL/3の所で圧力変動が0の節になっている。
定在波は、駆動周期にもよるが、励起されるのに必要なエネルギーのもっとも低い1次共振の定在波が生じやすい。また、駆動信号の周期に近い共振周期や駆動信号の周期の整数倍に近い共振周期の定在波がある場合、その定在波が生じやすい。そして、定在波が生じ、その影響が大きい場合、図6(a)に示したような周期的な吐出速度の変動が生じるおそれがある。
定在波を生じさせ難くするには、1次の定在波の周波数を駆動周波数よりも高くすることが好ましい。これにより、通常最も生じやすい1次の定在波が駆動周波数よりも高くなることで生じ難くなるとともに、高次の定在波の周波数も駆動周波数より高くなるので、高次の定在波も生じ難くなる。
このような定在波は、共通流路205aの断面積が小さい場合に生じやすく、1次の定在波の周波数を上げることは、平均断面積が0.5mm2以下の共通流路の場合により有用で、0.3mm2以下の場合に特に有用である。また、定在波は、共通流路205aに繋がるしぼり212の密度が高いほど生じやすく、1次の定在波の周波数を上げることは、しぼり212が1mmあたり5本以上繋がっている場合により有用で、しぼり212が1mmあたり10本以上繋がっている場合に特に有用である。さらに、断面積が一定の共通流路205aを用いた場合に、駆動周波数を1次の共振周波数の0.53倍より高い駆動周波数となってしまう際に、断面形状を変更して駆動周波数を1次の共振周波数の0.53倍以下の駆動周波数とすることが有用である。
1次の定在波の共振周波数を高くするには、1次の定在波の腹の部分の共通流路の断面積を小さくするか、あるいは1次の定在波の節の部分の共通流路の断面積を大きくすればよい。すなわち、共通流路の閉じた側の一端の断面積を他端側の断面積よりも小さくすればよい。より具体的には1次の定在波の共振周波数をより高くするためには、共通流路のうちの1次の定在波の腹の部分にあたる一端から長さL/2の部分の平均断面積を、共通流路のうちの1次の定在波の節の部分にあたる他端からから長さL/2の部分の平均断面積よりも小さくすればよい。断面積の比は大きい方が効果が高く、3/4以下であることが好ましく、特に半分以下であることが好ましい。
ここで平均断面積とは、平均断面積を算出する部分の平均の断面積である。例えば、平均断面積を算出する部分が、一定断面積の管が複数繋がったものであれば、各管の断面積に、平均断面積を算出する部分の中で各管の長さが占める割合をかけて合計すればよい。これはつまり、算出する部分の管の断面積を長さ方向に積分した値を算出する部分の管の長さで割った値を算出することであり、平均断面積を算出するには、算出する部分の管の体積を算出する部分の管の長さで割ればよい。
また、長さ方向における断面積の変化を連続的にすれは、不連続であった場合と比較して、不連続部分の付近で液体吐出特性の変動が生じ難いので、好ましい。
以上のような液体吐出ヘッド2は、例えば、以下のようにして作製する。
ロールコータ法、スリットコーター法などの一般的なテープ成形法により、圧電性セラミック粉末と有機組成物からなるテープの成形を行ない、焼成後に圧電セラミック層21a、21bとなる複数のグリーンシートを作製する。グリーンシートの一部には、その表面に共通電極34となる電極ペーストを印刷法等により形成する。また、必要に応じてグリーンシートの一部にビアホールを形成し、その内部にビア導体を挿入する。
ついで、各グリーンシートを積層して積層体を作製し、加圧密着を行なう。加圧密着後の積層体を高濃度酸素雰囲気下で焼成し、その後有機金ペーストを用いて焼成体表面に個別電極35を印刷して、焼成した後、Agペーストを用いて接続電極36を印刷し、焼成することにより、圧電アクチュエータユニット21を作製する。
次に、流路部材4を、圧延法等により得られプレート22〜31を積層して作製する。プレート22〜31に、マニホールド5、個別供給流路6、液体加圧室10およびディセンダなどとなる孔を、エッチングにより所定の形状に加工する。
これらプレート22〜31は、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましため、Fe−Cr系がより好ましい。
圧電アクチュエータ21と流路部材4とは、例えば接着層を介して積層接着することができる。接着層としては、周知のものを使用することができるが、圧電アクチュエータ21や流路部材4への影響を及ぼさないために、熱硬化温度が100〜150℃のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂の群から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂系の接着剤を用いるのがよい。このような接着層を用いて熱硬化温度にまで加熱することによって、圧電アクチュエータ21と流路部材4とを加熱接合することができる。液体吐出ヘッド2を得る。
この後、圧電アクチュエータ上21の接続電極36にFPCなどの一端の電極を接合し、そのFPCの他端を制御回路100に接続し、液体吐出装置を得る。
共通流路205aの形状を変えた液体吐出ヘッド2を作製し、1次の定在波の共振周波数と吐出速度の変動の関係を評価した。
図8(a)〜(f)および図9(a)〜(e)は試験を行なった、液体吐出ヘッドNo.1〜11の共通流路の模式図である。これらの共通流路はいずれも、基本構造は上述の液体吐出ヘッド2と同じ液体吐出ヘッドにおける共通流路である。
Lは12mm、断面積Aは幅0.6mm×厚さ0.3mm、断面積Bは幅1.3mm×厚さ0.3mm、断面積Cは幅2.0mm×厚さ0.3mmである。以下の結果は、定在波の共振周波数については後述のシミュレーションにより算出し、液体吐出速度の変動については、実際の液体吐出ヘッドを20kHzで駆動し、ベタ印刷に相当する印刷を行なった際の10回目の吐出の際の吐出速度を測定した。
共振周波数は、液体の密度および液体における音速を、実際に使用する液体の1.04kg/m3および1500m/秒として、有限要素法を用いた音響解析ソフト「ANSYS」を使用して算出した。具体的には、上述の寸法で両端開放端のモデルを作製し、片側から周波数を変えた圧力を入力して、周波数解析を行ない、圧力が極大になる周波数を、周波数が低い側から順に1次、2次、3次の共振周波数とした。
断面寸法が一定の試料No.1の液体吐出ヘッドでは、1次の共振周波数が31.2kHzと駆動周波数20kHzに対して、あまり高くなく、吐出速度のばらつきは19%と大きくなっている。この液体吐出ヘッドの吐出速度の分布は図6(a)に示したものであり、吐出速度が周期的な分布をしているのは前述の通りである。
これに対して、試料No.2の液体吐出ヘッドでは、1次の共振周波数が51.2kHzと駆動周波数に対して高くなっており、吐出速度のばらつきは6%と非常に少なくなっている。この液体吐出ヘッドの吐出速度の分布は図6(b)に示した。10回目の吐出においても速度の周期的な分布が抑制されている。
このように、本発明の液体吐出ヘッドNo.2〜7は、1次の共振周波数を高くすることにより吐出速度の変動を小さくすることができた。そして、1次の共振周波数が高くなるに従って、吐出速度の変動は、小さくなっていくことが分かる。この結果から、駆動周波数を、共振周波数である38.4kHzに対する駆動周波数20kHzの割合、即ち、0.53倍以下にすれば、吐出速度のバラツキを10%以下にできる。
なお、試料No.8および試料No.9の共通流路は、2次および3次の共振周波数が高くなるように設計されているが、1次の共振周波数が低くなることで、吐出速度のばらつきは大きくなっており、高次の共振周波数よりの1次の共振周波数の影響が大きいことが分かる。