JP4209101B2 - 座席シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の乗員室等に装備される座席シートに関する。
【0002】
【従来技術】
例えば、自動車の座席シートにおける着座シートのシート高さ調整装置では、着座シートからの荷重(シート自重および着座者の体重等)を支持するためのブレーキ部を出力側機構に設け、該ブレーキ部の入力軸に操作部材から正方向又は逆方向の入力トルクを入力することによって着座シートの高さ調整を行うと共に、操作部材を開放した状態での着座シートの位置をブレーキ部で保持することによって着座シートの高さ位置に変動が生じないようにしている。この場合、操作後の操作部材の位置もブレーキ部によって保持されるので、操作部材としてノブ(円形状の握り)を使用し、ノブの回転操作によってブレーキ部に入力トルクを入力する構成にしている。このような構成の座席シートとして、例えば特開2000−190762号公報に記載された構成が知られており、図30および図31はその主要部を示している。
【0003】
図30に示すように、ロアレール111にアッパレール113がスライド自在に装着され、アッパレール113にフロントリンク331およびリアリンク335を介してロアアーム121が連結される。着座シートはロアアーム121に装着され、フロントリンク331およびリアリンク335のリンク動作に伴って昇降する。
【0004】
また、ロアアーム121の略中央部にドリブンギヤ371が回動自在に枢着され、ドリブンギヤ371の一端がリアリンク335のアーム部335aに連結リンク377を介して連結される。ドリブンギヤ371のギヤ部は減速ギヤ機構のピニオン281と噛合し、ピニオン281へは、減速ギヤ機構のギヤ283を介して、ブレーキ機構401のピニオン403からトルクが入力される。
【0005】
図31に示すように、ブレーキ機構401は、ストッパケース448内に、ストッパケース448の内壁に圧接するようにトーションスプリング449を装着した後、コア450と一体となったハンドル軸451をストッパケース448内に挿入し、コア450の切欠き450aの側端部450b、450cをトーションスプリング449の両端のフック部449a、449bに当接可能とし、その後、ピニオン403の爪部452をフック部449a、449b間に配置し、ピニオン403をハンドル軸451の一端に挿通することにより構成されている。
【0006】
そして、ハンドル軸451の他端にはセレーションが刻設されたセレーション部451aが設けられ、セレーション部451aにリフト操作ハンドル439が取り付けられ、止輪447でもって抜け止めがなされている。
【0007】
リフト操作ハンドル439を操作すると、その回動方向で決まる何れかのフック部449a若しくは449bに、コア450の側端部450b若しくは450cが当接し、それを巻き込んでトーションスプリング449の外径が縮まり、ストッパケース448の内壁との圧接が解除され、トーションスプリング449はコア450と共に回転し、コア450の側端部450b又は側端部450cがピニオン403の爪部452を押してピニオン403が回転する。
【0008】
そして、ピニオン403からのトルクが減速ギヤ機構のギヤ283およびピニオン281を介してドリブンギヤ371に入力され、ドリブンギヤ371が時計方向又は反時計方向に揺動する。これにより、リアリンク335が回動し、フロントリンク331およびリアリンク335がリンク動作を行って、ロアアーム121および着座シートが昇降する。
一方、ピニオン403から回動力を受けた際には、トーションスプリング449の外径が広がり、ストッパケース448の内壁への圧接力がより増大し、ピニオン403は回転しない。従って、ロアアーム121および着座シートはその位置を保持する。
【0009】
さらに、上記公報記載の座席シートには、フロントチルト調整装置、すなわち、着座者の大腿部を支持する着座シートの前部を、着座者の体格や好みなどに応じて傾斜調整するための装置も装備されている。このフロントチルト調整装置は次のようなものである。
クッションフレームは、前部クッションフレーム221と後部クッションフレーム201とで構成され(前部クッションフレーム221と後部クッションフレーム201との間に弾性部材、例えば複数のSばねが橋渡し状に設けられ、前部クッションフレーム221、後部クッションフレーム201、及び複数のSばね251によってクッションパッド521が支持される。)、前部クッションフレーム221はロアアーム121にピン503を介して回動自在に枢着される。また、前部クッションフレーム221には、上述したブレーキ機構401と同一構成のブレーキ機構601が装着され、その出力軸側のピニオン511が、ロアアーム121の先端部に設けられた歯501と噛合する。
ブレーキ機構601のチルト操作ハンドル(ブレーキ機構401のリフト操作ハンドル439と同様のハンドル)を操作すると、ピニオン511が回転し、これにより、前部クッションフレーム221がロアアーム121に対してピン503を中心に回動して、その位置が調整される。また、前部クッションフレーム221の調整後の位置がブレーキ機構601によって保持される。
【0010】
また、シート高さ調整装置の操作部材としてレバーを使用し、レバーとブレーキ部との間にラチェット機構を設けて、レバーの揺動操作によるトルク入力と、操作後のレバーの自動復帰とを可能にしたものある。このような構成の座席シートとして、例えば特開2000−280799号公報に記載された構成が知られており、図32および図33はその主要部を示している。
【0011】
図32に示すように、ロアレール110にアッパレール120がスライド自在に装着され、アッパレール120にフロントリンク210およびリアリンク220を介してロアアーム130が連結される。着座シートはロアアーム130に装着され、フロントリンク210およびリアリンク220のリンク動作に伴って昇降運動する。
【0012】
また、ロアアーム130の略中央部にギヤアーム240が回動自在に枢着され、ギヤアーム240の一端がリアリンク220のアーム部にリンク250を介して連結される。ギヤアーム240のセクタギヤ部241は減速ギヤ機構の小径ギヤ232と噛合し、小径ギヤ232へは、減速ギヤ機構の大径ギヤ231を介して、ピニオン315からトルクが入力される。ピニオン315へは、ハンドル機構300のハンドル301から、ヒンジピン310およびブレーキ機構400を介してトルクが入力される。尚、ハンドル機構300およびブレーキ機構400はロアアーム130の背面側に設けられる。
【0013】
図33に示すように、ロアアーム130に設けられたブレーキ機構400を覆うように、ベースプレート320が配設される。ブレーキ機構400とベースプレート320との間に挿入されるハンドル301の中間部が、ピン321を用いてベースプレート320に回転可能に取り付けられる。
【0014】
ハンドル301の一方の端部側には、樹脂製の取手309が取り付けられる。ヒンジピン310はブレーキ機構400を挿通し、外部に突出し、ベースプレート320に形成された穴に回転可能に嵌合している。
【0015】
ハンドル301の他方の端部には、ハンドル301の回転中心であるピン321を中心とする円弧状の長穴303が形成され、この長穴303にブレーキ機構400から突出したヒンジピン310が遊嵌している。
【0016】
ハンドル301とブレーキ機構400との間のヒンジピン310には、セレーション等の手段によりラチェット330が固着されている。ヒンジピン310には、ベースプレート320に当接可能なEリング360が係合しヒンジピン310のロアアーム130方向の抜け止めがなされる。
【0017】
ベースプレート320には、それらの一方の端部側がラチェット330を挟むように設けられたポール340、340’の中間部がピン341、341’を用いて回動可能に設けられている。
【0018】
各ポール340、340’の一方の端部側には、ラチェット330に噛合可能な歯343、343’が形成される。また、各ポール340、340’の他方の端部側には、ハンドル301に形成されたポール当接部305、305’が当接可能なハンドル当接部347、347’が形成される。
【0019】
さらに、各ポール340,340’の他方の端部側には、ロアアーム130側に折曲された折曲部345、345’が形成され、一方の端部が折曲部345に他方の端部が折曲部345’に係止されたスプリング350によって、ポール340、340’は、歯343、343’がラチェット330より離れる方向に付勢され、各ポール340、340’のハンドル当接部347、347’は、ハンドル301のポール当接部305、305’に当接する。
【0020】
この時、ハンドル301の長穴303の略中間位置に、ヒンジピン310が位置している。ブレーキ機構400の外周を巻回するように設けられたスプリング390の端部391、392は、ハンドルの301の取手309から離れる方向に延出している。
【0021】
ハンドル301の取手309側と反対側のベースプレート320には、折曲してスプリング390の端部391、392間に位置する折曲部323が形成されている。
【0022】
また、ロアアーム130上には、スプリング390の端部391、392間に位置するスプリングフック395が取り付けられている。
【0023】
ブレーキ機構400は、ハンドル301からの回転力に対しては、ヒンジピン310を回転可能とし、ピニオン315からの回転力に対しては、ヒンジピン310の回転を拘束する機能をもったものである。ここでは、ブレーキ機構400の構造の説明は省略する。
【0024】
例えば、図33において、ハンドル301の取手309を上方に引き上げると、ハンドル301はピン321を中心に回転する。そうすると、ハンドル301のポール当接部305がポール340のハンドル当接部347を押し、ポール340はスプリング350の付勢力に抗してピン341を中心に回転し、ポール340の歯343がラチェット330に係合する。略同時に、ハンドル301の長穴303の上部端部がヒンジピン310に当接し、これ以降は、ハンドル301の回転中心はヒンジピン310となり、ハンドル301の回転は、ラチェット330を介して、ラチェット330が固着されたヒンジピン310に伝達され、ヒンジピン310が時計方向に回転する。この時、ベースプレート320もヒンジピン310を中心に回転し、折曲部323がスプリング390の端部392を押し、スプリング390を縮径方向へ弾性変形させる。
【0025】
ヒンジピン310が時計方向に回転すると、図32において、ピニオン315が反時計方向に回転し、これにより、ロアーアーム130はアッパレール120に対して下降する。そして、所望の高さになった時点で、ハンドル301の取手309への操作力を解除すると、スプリング390の弾性復元力によって、ベースプレート320、ハンドル301は中立位置に回転復帰する。さらに、スプリング350の弾性復元力により、ハンドル301は、その長穴303の略中間位置にヒンジピン310が位置するまで回転復帰する。
尚、図32において、ハンドル301の取手309を下方へ押し下げた場合は、上記とは逆の動作を行う。
【0026】
【発明が解決しようとする課題】
特開2000−190762号公報に記載された座席シートでは、着座シート(ロアアーム121)を最下位置と最上位置との間で昇降移動させるのに、操作ノブ(操作ハンドル439)を回転操作するが、通常、自動車のドアと座席シートとの間の間隔部は狭く、操作者はこの狭い間隔部に手を入れて操作ノブを一定量回転させ、一旦持ち替えて、さらに操作ノブを回転させるという操作を繰り返さなければならない。そのため、操作性が良くないという問題点がある。また、円形状の操作ノブでは、操作力を軽くしようとするとノブ外径を大きくする必要があるが、操作者が握って操作することができるノブ外径には限度がある。そのため、操作力が重くなる傾向にある。これらの問題点は、シート高さ調整装置のみならず、フロントチルト調整装置にも該当する。
一方、特開2000−280799号公報に記載された座席シートでは、操作レバー(ハンドル301)を揺動操作して一旦手を離すと、スプリング390の弾性復元力によって操作レバーが中立位置に復帰するが、その際、ポール340、340’の歯がラチェット330の歯の上を滑るので、滑り音が発生するという問題がある。また、スプリング390の端部391、392が外部に露出しているため、操作レバーの揺動操作時に、端部391、392がシートの表皮やバッド等に引っ掛かり、表皮やバッド等の傷付き、操作性の悪化につながる可能性がある。
また、上記2件の公報に記載された座席シートでは、スプリングの圧接力でブレーキ力を与える構造のブレーキ機構を採用しており、強いブレーキ力は期待できない。そのため、着座シート側からの逆入力トルクがドリブンギヤ(セクタギヤ)からブレーキ機構のピニオンに直接入力されると、その逆入力トルクがブレーキトルクよりも大きくなって着座シートの位置を保持できなくなる可能性があり、これを防止するために、ドリブンギヤ(セクタギヤ)とブレーキ機構のピニオンとの間に減速ギヤ機構(図30のギヤ283及びピニオン281、図32の大径ギヤ231及び小径ギヤ232)を介装して、ブレーキ機構のピニオンに入力される逆入力トルクを減少させている。しかしながら、このような減速ギヤ機構を介装することにより、操作部材の操作によるピニオンの回転量に対しドリブンギヤの回転量が減少するため、操作回数が多くなって、操作性が良くないという問題点がある。また、減速ギヤ機構を配置する必要があることで、部品点数が増加すると共に(減速ギヤ機構自身に加え、例えば、減速ギヤ機構のピニオンとドリブンギヤとの噛み合い保持のため、減速ギヤ機構の軸方向移動を規制するプレートなども必要になる。)、組立工数も増加するという問題点がある。さらに、減速ギヤ機構が存在することで、操作部材及びドリブンギヤのレイアウトが制約され、設計上の自由度が小さくなるという問題点もある。
さらに、上記のスプリング(トーションスプリング)は軸方向に長さ(巻き長さ)を持つため、両端に円周方向逆向きの捻り力を与えると、その弾性力がモーメント力となって弾性力を支持する部材に作用する。そのため、当該部材に偏心や傾きを生じて周囲の他部材との間に摩擦を生じ、この時の摩擦損失により、捻りトルクの不足を招いて操作レバーの円滑な復帰動作に支障を来たす可能性がある。
本発明の目的は、シートの位置調整操作時の操作性が良く、しかも騒音発生のない座席シートを提供することにある。
本発明の他の目的は、部品点数が少ないため構造が簡単で、設計自由度の高い座席シートを提供することにある。
【0027】
本発明の更なる目的は、クラッチユニットの弾性部材に改良を加えることにより、入力側部材を確実に中立位置に復帰可能とすることを主目的とする。
【0028】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、操作部材からのトルク入力によってシートの位置調整を行うシート調整装置を有する座席シートにおいて、シート調整装置は、操作部材としての操作レバーと、シートの所要部位を調整移動可能とする移動機構と、操作レバーと移動機構の回動部材との間に介在するクラッチユニットとを備え、クラッチユニットは、操作レバーに結合される入力側部材と、移動機構の回動部材に連結される出力側部材と、入力側部材と出力側部材との間のトルク伝達経路に介在する制御部材と、回転が拘束される静止側部材と、入力側部材と制御部材との間に設けられた第1クラッチ部と、静止側部材と出力側部材との間に設けられた第2クラッチ部と、入力側部材に入力された入力トルクで弾性力を蓄積し、入力トルクの開放に伴い、蓄積した弾性力で入力側部材を中立位置に復帰させる弾性部材とを備え、入力側部材の入力トルクを第1クラッチ部および制御部材を介して出力側部材に伝達し、出力側部材からの逆入力トルクを第2クラッチ部を介して静止側部材との間でロックするように構成され、かつ、弾性部材が有端リング状の板ばねで形成され、第1クラッチ部が、入力側部材からの入力トルクを制御部材に伝達する係合子と、該係合子を保持するポケットを有する保持器とを備え、入力トルクの開放時に弾性部材が弾性力で保持器及び係合子を介して入力側部材に復帰力を与える構成を提供する。
【0029】
ここで、上記の「シート調整装置」には、着座シートの高さを調整するシート高さ調整装置、着座シートの前部を傾斜調整するフロントチルト調整装置、着座シートの前後位置を調整するシートスライド調整装置、背もたれシートを傾斜調整するシート傾斜調整装置が含まれる。
【0030】
上記構成において、操作レバーからの入力トルクはクラッチユニットの第1クラッチ部および制御部材を介して出力側部材に伝達され、これにより移動機構の回動部材が回動してシートが調整移動し、シートからの逆入力トルクはクラッチユニットの第2クラッチ部を介して静止側部材との間でロックされ、これによりシートの位置が保持される。したがって、操作レバーの操作によってシートの位置を調整することができ、また、調整後のシートの位置を保持することができる。また、入力側部材と制御部材との間に第1クラッチ部を設けているので、シートの位置調整後に、操作レバー(及び入力側部材)を中立位置(入力トルクが入力される前の位置)に復帰させることが可能であり、その場合でも復帰時の動作が円滑でラチェット機構のような騒音発生の問題も生じない。
【0031】
また、操作レバーの操作(入力側部材の回転)に伴って弾性部材に捻りトルクを与えても、その弾性力の作用点が捻りコイルばねのように軸方向の位置ずれを伴うことがない。そのため、弾性力を支持する他部材にモーメント力が作用することはなく、当該部材の偏心・傾斜等を抑制して他部材との摩擦によるトルクロスを最小限に抑えることができ、これより操作レバー(入力側部材)を確実に中立位置に復帰させることが可能となる。
【0033】
この第1クラッチ部は、入力側部材と制御部材との間に楔隙間を形成しており、入力トルクの作用時には、この楔隙間に係合子を係合させて入力側部材から制御部材にトルクを伝達する。その一方、入力トルクの開放時には、蓄積された弾性力によって保持器に復帰方向の回動力が働き、係合子が保持器に押されて入力側部材を復帰方向に押圧する。そうすると、入力側部材が開放されているので、係合子、保持器、および入力側部材が制御部材に対して回転し、中立位置に復帰する。この時、出力側部材の回動位置はそのまま維持されているので、以上の操作の繰り返しによって、出力側部材に各操作ごとの回動量を重畳的に蓄積することができる。
【0034】
以上の構成においては、弾性部材の両端に、保持器および静止側部材と係合可能な係合部を形成し、一端の係合部と他端の係合部とを円周方向の対向位置に設けることにより、弾性力の開放に伴うモーメント力の発生を防止することができる。従って、弾性力を支持する部材、例えば保持器の偏心・傾きを防止し、摩擦損失による捻りトルクのロスを軽減することができる。
【0035】
この場合、弾性部材の両端部近傍に、該弾性部材の軸方向断面積が前記端部に近づくほど減少する応力の調整部を設けると、弾性変形後の弾性部材内部の応力分布を均一化することができ、応力分布のアンバランスによる疲労寿命の低下等を回避することができる。
【0036】
弾性部材として、二以上の板ばねを重ねたものを使用すれば、板ばねの枚数を変更することで、任意の弾性力を得ることができ、使用条件や用途等に適合した弾性力を容易に確保することができる。
【0037】
入力側部材は、クラッチ部を構成するカム面を有する第1薄肉部材と、トルクを入力するための操作部材が取り付けられる第2薄肉部材とを相対回転不能に結合して構成するのが望ましい。
【0038】
このような構成によれば、入力側部材が、第1薄肉部材と第2薄肉部材との二つの部材に分離されて加工を施されることになるため、冷間鍛造等により一体成型される場合に比して、加工が容易化されて製造コストが安価になる。また、第1薄肉部材と第2薄肉部材とは、それぞれの役割に応じた最小限の肉厚を確保すれば良く、冷間鍛造等により一体成型される場合のような無駄な肉部が存在しないため、入力側部材ひいてはクラッチユニットの軽量化を図ることが可能となる。しかも、第1薄肉部材はクラッチ部の構成要素であるカム面を有しているのに対して、第2薄肉部材は操作部材との取付部を有しているため、要求される剛性或いは強度等の特性が両部材で相違している。従って、材質や加工条件或いは処理条件を第1薄肉部材と第2薄肉部材とで相違させることができ、両部材のそれぞれの要求特性に無駄なく対応しつつ、加工や熱処理等を施すことが可能となる。ここでの「薄肉部材」は、入力側部材を一体成型した場合の肉厚よりも薄い部材であることを意味する。
【0039】
この場合、第1薄肉部材と第2薄肉部材の結合は、第2薄肉部材の端部(保持器の軸方向移動を規制する端部)内周を、第1薄肉部材の端部の外周側に配置した状態で行うのが望ましい。これにより、第2薄肉部材の厚み分だけクラッチユニットの軸方向寸法をコンパクト化することができ、あるいはユニットの軸方向幅の増大を抑えつつ、当該厚み分だけ係合子の軸方向長さを延長してクラッチ部のトルク剛性を向上させることが可能となる。
本発明の座席シートは、シートの位置調整を操作レバーの揺動操作によって行うことができるので、従来シートに比べて操作性が良く、しかも騒音発生の問題もない。また、従来シートに比べて部品点数が少ないため構造が簡単で、設計自由度が高く、特に小型車や大衆車用に極めて有用である。
上記の効果は、特に、上述の構成をシート高さ調整装置及び/又はフロントチルト調整装置に適用した場合に顕著に発揮される。前者の場合、移動機構として、着座シートをフロア側に設けられる部材に対して昇降自在に支持する四節リンク機構と、クラッチユニットの出力側部材の回動動作を四節リンク機構のリンク動作に変換するためのギヤ機構とを有する構成を採用することができる。そして、より具体的には、上記のギヤ機構を、クラッチユニットの出力側部材に連結されたピニオンギヤと、ピニオンギヤと噛合し、ピニオンギヤの回動に伴う揺動動作によって四節リンク機構にリンク動作力を与えるセクタギヤとを有するものとすることができ、これにより、前述した従来構成における減速ギヤ機構を省略して、部品点数および組立工数を削減し、設計自由度を高めることが可能となる。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0041】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車の座席シートのシート高さ調整装置(41:図28及び図29参照)に組み込まれるクラッチユニットの入力側部分を示している。同図に示すように、このクラッチユニットの入力側部分は、入力側部材としての外輪1と、制御部材としての内輪2と、係合子としての複数のローラ3と、ローラ3を保持する保持器4と、保持器4に装着された弾性部材5とを主要な要素として構成される。
【0042】
外輪1は、図2に示す第1薄肉部材1Aと、図3に示す第2薄肉部材1Bとから構成され、この両薄肉部材1A,1Bは、鋼板をプレス成型することにより製作されたものである。なお、必要ならば例えば、第2薄肉部材1Bを樹脂等の成型品で構成してもよい。
【0043】
第2薄肉部材1Aは、内周に複数のカム面1Aaが円周方向等間隔に形成されたドラム部1Abと、ドラム部1Abの一端部より内径側に延出された内径フランジ部1Acと、ドラム部1Abの他端部より外径側に延出された外径フランジ部1Adとを備える。
【0044】
各カム面1Aaは、円周方向中央部が深く、その中央部から円周方向両側に向って傾斜状に浅くなっている。内径フランジ部1Acは、保持器4を軸方向の一方に抜け止め規制すると共に、外輪1の内輪2に対する同軸性を保持する役割を果たすものである。
【0045】
外径フランジ部1Adには、第2薄肉部材1Bとの結合に供せられる複数(図例では6つ)の嵌合溝1Aeが形成されると共に、外径端より軸方向に沿ってドラム部1Abと反対側に延出された複数(図例では3つ)のストッパ爪1Afが形成されている。これらのストッパ爪1Afは、第1薄肉部材1Aの一側方(図1(a)の右側方)に配設されて回転が拘束される静止側部材7(図8(a)参照)の図示しないストッパ突起部と回転方向に係合することにより、外輪1の回動が所定範囲に規制されるようになっている。
【0046】
第1薄肉部材1Aの全部又はカム面1Aaに対しては、例えば、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の熱処理(表面硬化処理)が施される。
【0047】
第2薄肉部材1Bには、図3に示すように、外径端より軸方向に沿って第1薄肉部材1A側に延出された複数(図例では6つ)の嵌合爪1Baが形成されており、これらの嵌合爪1Baが図4に示すように第1薄肉部材1Aの嵌合溝1Aeに嵌合圧入されることにより、両薄肉部材1A,1Bの相対回転及び軸方向相対移動が規制されている。そして、この状態の下で、嵌合爪1Baが、その外周に装着される操作部材としての操作レバー6の凹凸部と回転方向に係合することにより、操作レバー6の外輪1に対する相対回転が規制されるようになっている。なお、図例では、2つの短尺な爪1Bbが形成されているが、これらの爪1Bbは第1薄肉部材1Aとの結合に供せられるものではない(回転方向規制のみの役割を果たすものである)。
【0048】
第2薄肉部材1Bの外径側端部には、軸方向に沿って第1薄肉部材1A側に延出された複数(図例では2つ)のバーリング部1Bcが形成されると共に、これらのバーリング部1Bcにはそれぞれ、ボルト挿通穴(又はネジ穴)1Bdが形成され、これらの穴1Bdを通じて操作レバー6がねじ結合されることにより、操作レバー6の外輪1に対する軸方向相対移動が規制される。
【0049】
従って、操作レバー6を回動操作することにより、第1薄肉部材1Aと第2薄肉部材1Bとが一体回転し、これにより操作レバー6からの入力トルクが外輪1に入力される。また、内輪2は、外輪1(第1薄肉部材1A)のカム面1Aaとの間に楔隙間を形成する円周面2aを備えており、図示されない出力部材に連結されている。
【0050】
この構成によれば、入力側部材としての外輪1が、第1薄肉部材1Aと第2薄肉部材1Bとの二つの部材に対して、プレス加工を施ことにより製作されたものであるため、外輪1が仮に冷間鍛造等により一体成型される場合と比較して、加工が容易化されて製造コストが安価になると共に、外輪1ひいてはクラッチユニットの軽量化を図ることが可能となる。
【0051】
また、第1薄肉部材1Aはクラッチ部の構成要素であるカム面1Aaを有しているのに対して、第2薄肉部材1Bは操作レバー6との結合部である嵌合爪1Baを有しており、要求される剛性或いは硬度が両部材1A,1Bで相違しているが、第1薄肉部材1Aに対してのみ表面硬化処理(熱処理)を施すことにより、それぞれの要求特性に無駄なく対応することができる。
【0052】
保持器4は円筒状をなし、図5に示すように、ローラ3を収容する複数(例えば10個)の窓形のポケット4aと、円周方向に離隔した一対の開口部4bを備える。両開口部4bは周囲を閉じた窓形であり、両開口部4bには後述する弾性部材5の係合部5a1、5a2がそれぞれ挿入される。(図8(a)参照)。
【0053】
保持器4の材質は特に問わないが、この実施形態では、保持器4を合成樹脂材料、例えばポリアミド66(PA66)にグラスファイバーを30重量%配合した合成樹脂材料の射出成形品としている。
【0054】
第1クラッチ部8は、外輪1の第1薄肉部材1Aのカム面1Aaと、内輪2の円周面2aと、カム面1Aaと円周面2aとの間に介在するローラ3と、ローラ3を保持する保持器4と、弾性部材5とを主要な要素として構成されている。また、カム面1Aa、円周面2a,及びローラ3によってロック手段が構成され、保持器4及び弾性部材5によって復帰手段が構成されている。
【0055】
弾性部材5は、図6に示すように、ステンレス鋼等の金属製帯板材を丸めて有端リング状の板ばね5A,5Bを形成し、この二つの板ばね5A,5Bを重ね合わせることによって構成される。内径側の板ばね5Aの両端部のうち、軸方向一方側には、それぞれの先端部分を内径側に折り曲げて係合部5a1,5a2が形成される。両係合部5a1,5a2は、円周方向に所定間隔で対向していて、それぞれ保持器4の開口部4bに挿入される。また、内径側板ばね5Aの両端部の軸方向他方側には、それぞれ先端部分を外径側に折り曲げて係止部5b1が形成される。この係止部5b1は、外径側の板ばね5Bの両端部を係止し、板ばね5Bの脱落や円周方向の位相ずれを規制する役割を有する。図7に示すように、両係止部5b1を互いに離反する方向にさらに折り曲げ、傾斜角θを鋭角にすれば、かかる規制機能をさらに強化することができる。
【0056】
弾性部材5を組付ける場合には、図8(a){なお、図8(a)(b)では、図面の簡略化のため、外径側の板ばね5Bの図示を省略している。}に示すように、一対の係合部5a1,5a2間の間隔を円周方向に押し広げた状態で、係合部5a1,5a2をそれぞれ保持器4の開口部4bに挿入し、係合部5a1,5a2を開口部4bの円周方向の側面4b1,4b2にそれぞれ係合させる。両側面4b1,4b2の外径側には、静止側部材7に設けた係止部7aが配置されており、同図(a)に示す保持器4の中立位置では、弾性部材5の係合部5a1,5a2は何れもこの係止部7aによっても係止される。以上の組付けにより、保持器4が弾性部材5を介して静止側部材7に回転方向に連結される。
【0057】
この状態から、同図(b)に示すように、保持器4が例えば静止側部材に対して時計方向に相対回転した場合には、弾性部材5の係合部5a1,5a2のうち、時計方向(回転方向前方)に位置する係合部5a1が保持器4の側面4b1に押されて時計方向に弾性変位する。この時点において、弾性部材5の反時計方向(回転方向後方)に位置する係合部5a2は、静止側部材7の係止部7aに係止されている。これにより、弾性部材5は、係合部5a1,5a2の間隔が押し広げられる方向に弾性的に撓み、その撓み量に応じた弾性力が弾性部材5に蓄積される。この後、保持器4に作用する回動力が解除されたされた場合には、弾性部材5の弾性力によって、保持器4が同図(a)に示す中立位置に復帰する。
【0058】
なお、保持器4が同図(a)に示す状態から反時計方向に相対回転した場合には、弾性部材5の反時計方向の係合部5a2が保持器4の側面4b2に押されて反時計方向に弾性変位し、上記とは逆の動作によって弾性部材5に弾性力が蓄積される。
【0059】
ところで、図8(b)に示すように保持器4を回動させた状態では、弾性部材5の全周で応力分布が不均一化し、弾性部材4が不規則に撓んで好ましくない影響を受けるおそれがある。これを防止するため、図9(a)(b)に示すように、板ばね5A,5Bの両端部近傍には、応力調整部5cを形成するのが望ましい。応力調整部5cは、部分的にばね剛性を弱めるもので、例えば同図(a)に示すように板ばね5Aに孔を形成したり、あるいは同図(b)に示すように、板ばね5Bの軸方向両側部を切除することにより構成することができる。何れの応力調整部5cを採用する場合でも、板ばね5A,5Bの端部への接近側ほど板ばねの軸方向断面積を減少させる。
【0060】
図9(a)(b)では、応力調整部5cとして内径側の板ばね5Aに孔を、外径側の板ばね5Bに切除部を形成しているが、これとは逆に内径側の板ばね5Aに切除部を、外径側の板ばね5Bに孔を形成することもできる[図10(a)(b)参照]。この場合、双方の板ばね5A,5Bに同種の応力調整部5cを形成しても構わない(双方に孔を形成し、あるいは双方に切除部を形成する)。但し、双方の応力調整部5cを孔とした場合、この孔を介して弾性部材5の内径側と外径側が連通状態となり、シール性(弾性部材5の内径側への異物の噛み込み等)の低下を招くので、少なくとも何れか一方(より望ましくは外径側)の板ばねの応力調整部5cとして切除部を採用するのが望ましい。なお、応力調整部5cは、上述のように双方の板ばね5A,5Bに設ける他、何れか一方の板ばねにのみ設けることもできる。
【0061】
次に、図11〜図13を参照しながら、第1クラッチ部8の動作について説明する。尚、図11〜図13において、弾性部材5および静止側部材7は模式化され、概念的に示されている。また、操作レバー6も記載が省略されている。
【0062】
図11は、第1クラッチ部8の中立位置を示している(図8(a)に示す状態)。中立位置において、ローラ3はカム面1Aaの中央部に位置し、カム面1Aaと円周面2aとの間に形成される正逆両方向の楔隙間からそれぞれ離脱する。ローラ3の直径は、カム面1Aaの中央部と円周面2aとの間の半径方向距離よりも若干小さく設定されており、ローラ3とカム面1Aaの中央部および円周面2aとの間には半径方向隙間がある。また、出力側から内輪2に入力される逆入力トルクは、後述する第2クラッチ部16によって正逆両方向にロックするようにしている。従って、内輪2は、操作レバー6(外輪1)から入力される入力トルクに対してのみ回動動作を行い、出力側から逆入力トルクが入力されても回動せず、その位置を保持する。
【0063】
図12は、操作レバー6を回動操作して、外輪1に入力トルクを入力した時の状態を示している。例えば、同図において、外輪1に反時計方向の入力トルクが入力されると、外輪1の回動に伴い、カム面1Aaがローラ3に対して反時計方向に相対移動して、ローラ3が楔隙間に係合する(噛み込む)。これにより、外輪1からの入力トルクがローラ3を介して内輪2に伝達され、外輪1、ローラ3、保持器4、及び内輪2が一体となって反時計方向に回動する。尚、この回動の最大量は、静止側部材7のストッパ突起部と外輪1のストッパ爪1Afとによって規制される。そして、保持器4の回動に伴って弾性部材5が撓み、その撓み量に応じた弾性力fが蓄積される。
【0064】
図13は、操作レバー6(外輪1)を開放した時の状態を示している。弾性部材5に蓄積された弾性力fによって、保持器4に時計方向の回動力が働き、ローラ3が保持器4に押されてカム面1Aaを押圧する。そうすると、外輪1が開放されているので、ローラ3、保持器4、及び外輪1が内輪2に対して時計方向に回転して、図11に示す中立位置に復帰する。また、内輪2は、図12の回動操作によって与えられた回動位置をそのまま維持する。従って、図12の回動操作を繰り返し行った場合では、内輪2に各回動操作ごとの回動量が重畳的に蓄積される。
【0065】
尚、図11〜図13において、外輪1に時計方向の入力トルクが入力された場合も、上記と同様の動作を行う(動作の向きは逆)。また、内輪側から入力トルクを入力する構成とすることもでき、その場合、内輪の外周にカム面を設け、外輪の内周に円周面を設ける。
【0066】
図14に比較例を示す。このクラッチユニットの入力側部分では、弾性部材5’として、捻りコイルばねからなるセンタリングばねが使用されている。センタリングばね5’は、図15(a)(b)に示すように、複数の巻き部の両端にそれぞれ内径側に屈曲する係合部5a1’,5a2’を有するもので、両係合部5a1’,5a2’は軸方向でずれた位置にある。
【0067】
このセンタリングばね5は、保持器4’の外周に装着される。保持器4’は、図16(a)(b)に示すように、複数のポケット4a’の他、一方の端面の円周方向二箇所に深さの異なる軸方向切欠き状の被係合部4b’を備えている。センタリングばね5’の両係合部5a1’,5a2’は、それぞれ被係合部4b’に係止され、被係合部4b’の周面のうち、相手側の被係合部に近接する円周方向の側面4b1’、4b2’と係合する。そして、図15(d)に示すように保持器4’の相対回転により、センタリングばね5’が撓んで、その撓み量に応じた弾性力がセンタリングばね5’に蓄積される。
【0068】
このように弾性部材として捻りコイルばね5’を使用する場合、係合部5a1’,5a2’が軸方向の位置ずれを有するため、保持器4’がばねから受ける荷重の作用点P,Qも軸方向でずれた位置にあり、これより保持器4’にはモーメントM(図16(a)参照)が作用する。このモーメント荷重により、保持器4’と、その内周に嵌合した部材(図1では出力側部材2)との間の摩擦が大きくなるため、弾性力による入力側部材1の復帰トルクが減少し、中立位置への復帰が阻害される可能性がある。また、被係合部4b’の深さが異なるため、P点に比べて肉厚の薄いQ点付近で応力が過大となり、保持器4’が破損するおそれもある。
【0069】
これに対し、弾性部材5として図6〜図10に示す有端リング状の板ばね5A,5Bを使用すれば、係合部5a1,5a2の位置を軸方向で揃えることができる。そのため、保持器4にモーメント荷重が作用することはなく、従って、回動操作後の復帰トルクが高められ、外輪1や操作レバー6の中立位置への復帰を確実に行うことができる。
【0070】
以上の効果を確認するため、図1に示すクラッチユニットの入力側部分(本発明品)と図14に示すクラッチユニットの入力側部分(比較品)について、それぞれ弾性部材の単体での発生トルク、および操作レバー6の復帰力を測定し、摩擦損失分を演算したところ、比較品では、発生トルクが170[N・cm]、復帰力が60[N・cm]で、摩擦損失分が110[N・cm]になったが、本発明品では、発生トルクが110[N・cm]、復帰力が80[N・cm]で、摩擦損失分が20[N・cm]となり、復帰トルクの摩擦損失を大幅に軽減できることが確認できた。
【0071】
また、弾性部材5として有端リング状の板ばね5A,5Bを使用した場合、保持器4に形成する開口部4bを同一寸法とすることができるので、開口部4b周辺に極端な薄肉部分が生じることはなく、従って、保持器4の強度を向上させることができる。
【0072】
なお、弾性部材5としての板ばねの使用数は、必要とされる復帰トルクに応じて定めることができる。従って、上述のように二枚使用する他、一枚のみ、あるいは三枚以上を重ねて使用することもできる。このように板ばねの使用数を増減することで復帰トルクの調整も容易に行うことができる。
【0073】
以上に説明した入力側部分は、例えば図17に態様で出力側部分とユニット化され、これによりクラッチユニットが構成される。
【0074】
同図に示すクラッチユニットは、入力側部材としての外輪1と、出力側部材としての出力軸12と、制御部材としての内輪13と、静止側部材としての外輪14と、外輪1と内輪13との間に設けられた第1クラッチ部15と、外輪14と出力軸12との間に設けられた第2クラッチ部16とを主要な要素として構成される。尚、ユニット化に際して、上述した入力側部分の内輪2は同図に示す内輪13に形態が変更されている。上述した入力側部分の第1クラッチ部8と同図に示す第1クラッチ部15とは同様のものである。上述した入力側部分の外輪1はそのままの形態で使用しても良いが、この実施形態では以下に説明する変更を加えている。
【0075】
入力側部材としての外輪1は、上述した入力側部分と同様に、第1薄肉部材1Aと第2薄肉部材1Bとで構成される。上述した入力側部分では、両部材1A,1Bの内径側端部は、図1〜図4からも明らかなように軸方向に密着させていたが、このクラッチユニットでは、第2薄肉部材1Bの端部内周1Beを第1薄肉部材1Aの外周、より詳細には内径フランジ部1Acの外周に配置し、両部材1A,1Bの端面1Ag,1Bgを半径方向で同一平面に配置している。また、このクラッチユニットでは、ワッシャ28と第1薄肉部材1Aの端面との間に、波型ばねや皿ばねからなる弾性体29を介在させることにより、外輪1に軸方向の予圧を付与する構成を付加している。
【0076】
これ以外の外輪1の構成は、図2〜図4に示すものと同一の構成であるので、その部品単体としての図示及びその説明を省略すると共に、以下に示すクラッチユニットの説明に際しては、図2〜図4及びこれらに付されている符号を使用する。また、保持器4及び弾性部材5の構成についても、上述の図5〜図10に示すものと同一の構成であるので、その部品図としての図示及びその説明を省略すると共に、以下に示すクラッチユニットの説明に際しては、図5〜図10並びにこれらに付されている符号を使用する。
【0077】
図18は、出力側部材としての出力軸12を示している。出力軸12は、一端側にジャーナル部12a、中央側に大径部12b、他端側に連結部12cを備えている。ジャーナル部12aは、後述する内輪(13:図19参照)のラジアル軸受面(13a1)に挿入される。大径部12bの外周には、複数(例えば8つ)のカム面12b1が円周方向に等間隔で形成される。各カム面12b1は、出力軸12の軸心を中心とする円に対して弦をなす平坦面状に形成される。また、大径部12bの一端側部分には軸方向の複数(例えば8つ)のピン孔12b3が円周所定間隔に形成される。これらピン孔12b3には内輪(13)のピン(13b1)が挿入される。また、大径部12bの他端側部分には環状凹部12b4が形成される。この環状凹部12b4には後述する摩擦部材(19:図22参照)が圧入され、また、環状凹部12b4の内周壁12b5は、後述する固定側板(17:図21参照)のラジアル軸受面(17e2)に挿入されるジャーナル面になる。連結部12cには、他の回動部材を連結するための歯型12c1が形成される。
【0078】
出力軸12は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、出力軸12を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。なお、出力軸12は、鋼材の削出し品とすることもできる。
【0079】
図19は、制御部材としての内輪13を示している。内輪13は、筒状部13aと、筒状部13aの一端から外径側に延びたフランジ部13bと、フランジ部13bの外径端から軸方向の一方に延びた複数(例えば8本)の柱部13cとを主体として構成される。筒状部13aは、出力軸12のジャーナル部12aに外挿され、かつ、外輪1の内部に内挿される。筒状部13aの他端側部分の内周には、出力軸12のジャーナル部12aをラジアル方向に支持するラジアル軸受面13a1が形成され、筒状部13aの他端側部分の外周には、外輪1のカム面1Aaとの間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する円周面13a2が形成される。フランジ部13bには、軸方向の一方に突出した複数(例えば8つ)のピン13b1が円周方向に所定間隔で形成される。これらピン13b1は、出力軸12のピン孔12b3にそれぞれ挿入される。また、円周方向に隣接した柱部13c間には、軸方向の一方に向かって開口したポケット13c1が形成され、これらポケット13c1に後述する第2クラッチ部(16:図24参照)のローラ(30)と板ばね(31)が収容される。ローラ(30)と板ばね(31)を、ポケット13c1の軸方向の開口部から該ポケット13c1内に組み入れることができるので、組立作業が容易である。
【0080】
内輪13は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、内輪13を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。なお、内輪13は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
【0081】
図20は、静止側部材としての外輪14を示している。外輪14は、半径方向に延びたフランジ部14aと、フランジ部14aの外径端から軸方向の一方に延びた筒状部14cと、筒状部14cの一端から外径側に突出した鍔部14dとを主体として構成される。フランジ部14aには、軸方向の他方に突出した複数(例えば2つ)のストッパ部14a1が円周方向に所定間隔で配列形成される。これらストッパ部14a1は、外輪1のストッパ爪1Afと回転方向に係合して、外輪1の回動範囲を規制する。また、フランジ部14aには、軸方向の他方に突出した一対の係止部14a2と、複数(例えば2つ)の装着部14a3とが形成され、一対の係止部14a2の円周方向外側面には、第1クラッチ部(15)の弾性部材5の係合部5a1、5a2がそれぞれ係止される(図8参照)。また、装着部14a3の外周には、弾性部材5が装着される。
【0082】
筒状部14cの内周には、出力軸12のカム面12b1との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する円周面14c1が形成される。鍔部14dには、複数(例えば6つ)の切欠き部14d1が円周方向に所定間隔で形成される。切欠き部14d1は、後述する固定側板(17)の加締部(17c:図21参照)と適合する。
【0083】
外輪14は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、外輪14を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。なお、外輪14は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
【0084】
図21は、外輪14に固定される固定側板17を示している。固定側板17は、半径方向に延びたフランジ部17aと、フランジ部17aの外径端から外径側に突出した複数(例えば4つ)のブラケット部17bと、フランジ部17aの外径端から軸方向の一方に突出した複数(例えば6つ)の加締部17cと、フランジ部17aに穿設された複数(例えば8つ)の係合孔17a1と、フランジ部17aの内径端から軸方向の一方に突出したボス部17eとを主体として構成される。4つのブラケット部17bは円周方向に所定間隔で形成され、それぞれに中空ピン状の加締部17b1が一体(又は別体)に形成される。6つの加締部17cは円周方向に所定間隔で形成され、それぞれ、二股状に分岐した一対の爪部17c1を備えている。この加締部17cを外輪14の切欠き部14d1に装着し、一対の爪部17c1を円周方向の相反する方向に加締めて鍔部14dに当接させることにより、外輪14の固定側板17に対する軸方向相対移動および回転方向相対移動を防止することができる。加締部17b1は、相手側部材の取付け穴に加締固定される。
【0085】
ボス部17eの内周には、ラジアル軸受面17e2が形成される。ボス部17eは出力軸12の環状凹部12b4に挿入され、ボス部17eの外周と環状凹部12b4の外周壁との間に後述する摩擦部材(19:図22参照)が装着される。係合孔17a1は摩擦部材(19)の凸部(19a)と回転方向に係合して、摩擦部材(19)の固定側板17に対する相対回転を防止する。ボス部17eのラジアル軸受面17e2は、環状凹部12b4のジャーナル面12b5に外挿され、ジャーナル面12b5をラジアル方向に支持する。
【0086】
固定側板17は、例えば、冷間圧延鋼鈑等の鋼鈑材からプレス加工によって成形される。この実施形態では、固定側板17を形成する鋼板材として冷間圧延鋼鈑(例えばSPCE)を使用している。また、加締部17c及び17b1を加締加工する際の加工性等に配慮して、熱処理は施していない。なお、加締部17c及び17b1等の加締加工を行う部位に防炭処理(又は防炭防窒処理)を施して、浸炭焼入れ焼戻し(又は浸炭窒化焼入れ焼戻し)を行っても良い。
【0087】
図22は、制動手段としての摩擦部材19を示している。この実施形態において、摩擦部材19はリング状のもので、その一方の端面には複数(例えば8つ)の凸部19aが円周方向に所定間隔で形成される。凸部19aは、固定側板17の係合孔17a1と回転方向に係合して、摩擦部材19の固定側板17に対する相対回転を防止する。
【0088】
摩擦部材19は、ゴムや合成樹脂等の弾性材料で形成され、例えば出力軸12の環状凹部12b4の外周壁に締代をもって圧入される。摩擦部材19の外周と環状凹部12b4の外周壁との間に生じる摩擦力によって、出力軸12に回転方向の制動力(摩擦制動力)が与えられる。この制動力(制動トルク)の大きさは、出力軸12に入力される逆入力トルクの大きさを勘案して適宜設定すれば良いが、逆入力トルクの還流現象を効果的に防止する観点から、想定される逆入力トルクと同程度の大きさに設定するのが好ましい。シート高さ調整装置の場合では、着座シートに着座者が着座した状態で出力軸12に作用する逆入力トルクと同程度(例えば10〜60kgf.cm)の大きさに設定するのが良い。この実施形態のように、制動手段として摩擦部材19を用いると、制動力を摩擦部材19の締代調整によって設定し、また変更できるという利点がある。
【0089】
摩擦部材19の材質は特に問わないが、この実施形態では、摩擦部材19を合成樹脂材料、例えばポリアセタール(POM)にグラスファイバーを30重量%配合した合成樹脂材料の射出成形品としている。
【0090】
図23(図17のB−B断面)は、第1クラッチ部15を示している。第1クラッチ部15は、外輪1に設けられた複数(例えば10個)のカム面1Aaと、内輪13に設けられた円周面13a2と、カム面1Aaと円周面13a2との間に介在する係合子としての複数(例えば9個)のローラ20と、ローラ20を保持する保持器4(図5参照)と、保持器4を外輪(14)に回転方向に連結する弾性部材5(図6参照)とを主要な要素として構成される。カム面1Aa、円周面13a2、及びローラ20によってロック手段が構成され、保持器4および弾性部材5によって復帰手段が構成される。この実施形態において、カム面1Aaは円周面13a2との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する。また、外輪1には操作レバー23が結合され、操作レバー23から外輪1に正方向又は逆方向の入力トルクが入力される。また、外輪1の内周と内輪13(筒状部13a)の外周との間の空間部、特にカム面1Aaと円周面13a2との間にグリースが封入されている。
【0091】
この第1クラッチ部15の作用については、既述の図11〜図13に基づく説明事項と実質的に同一であるため、これらの各図における対応する構成要素の符号に括弧を付してその説明を省略する。
【0092】
図24(図17のA−A断面)は、第2クラッチ部16を示している。第2クラッチ部16は、外輪14に設けられた円周面14c1と、出力軸12に設けられた複数(例えば8つ)のカム面12b1と、各カム面12b1と円周面14c1との間に介在する係合子としての一対(例えば総数8対)のローラ30と、一対のローラ30間に介在する弾性部材、例えば断面N字形の板ばね31と、内輪13の柱部13cと、内輪13のピン13b1および出力軸12のピン孔12b3とを主要な要素として構成される。カム面12b1、円周面14c1、一対のローラ30、および板ばね31によってロック手段が構成され、一対のローラ30の円周方向両側に位置する内輪13の柱部13cによってロック解除手段が構成され、内輪13のピン13b1および出力軸12のピン孔12b3によってトルク伝達手段が構成される。なお、この実施形態において、板ばね31はステンレス鋼(例えばSUS301CPS−H)で形成し、熱処理としてテンパー処理を施している。また、外輪14の内周と出力軸12(大径部12b)の外周との間の空間部、特にカム面12b1と円周面14c1との間にグリースが封入されている。
【0093】
図25に拡大して示すように、中立位置において、一対のローラ30は板ばね31によって、それぞれ、カム面12b1と円周面14c1との間に形成される正逆両回転方向の楔隙間の方向に押圧される。この時、内輪13の各柱部13cと各ローラ30との間にはそれぞれ回転方向隙間δ1が存在する。また、内輪13のピン13b1と出力軸12のピン孔12b3との間には正逆両回転方向にそれぞれ回転方向隙間δ2が存在する。回転方向隙間δ1と回転方向隙間δ2とは、δ1<δ2の関係を有する。回転方向隙間δ1の大きさは、例えば0〜0.4mm(第2クラッチ部16の軸心を中心として0〜1.5°)程度、回転方向隙間δ2の大きさは、例えば0.4〜0.8mm(第2クラッチ部16の軸心を中心として1.8〜3.7°)程度である。
【0094】
同図に示す状態で、例えば、出力軸12に時計方向の逆入力トルクが入力されると、反時計方向(回転方向後方)のローラ30がその方向の楔隙間と楔係合して、出力軸12が外輪14に対して時計方向にロックされる。出力軸12に反時計方向の逆入力トルクが入力されると、時計方向(回転方向後方)のローラ30がその方向の楔隙間と楔係合して、出力軸12が外輪14に対して反時計方向にロックされる。従って、出力軸12からの逆入力トルクは、第2クラッチ部16によって正逆両回転方向にロックされる。
【0095】
図26は、外輪1からの入力トルク(同図で時計方向)が第1クラッチ部15を介して内輪13に入力され、内輪13が同図で時計方向に回動を始めた初期状態を示している。回転方向隙間がδ1<δ2に設定されているため、先ず、内輪13の反時計方向(回転方向後方)の柱部13cがその方向(回転方向後方)のローラ30と係合して、これを板ばね31の弾性力に抗して時計方向(回転方向前方)に押圧する。これにより、反時計方向(回転方向後方)のローラ30がその方向の楔隙間から離脱して、出力軸12のロック状態が解除される。従って、出力軸12は時計方向に回動可能となる。
【0096】
内輪13がさらに時計方向に回動すると、図27に示すように、内輪13のピン13b1が出力軸12のピン孔12b3と時計方向に係合する。これにより、内輪13からの時計方向の入力トルクがピン13b1およびピン孔12b3を介して出力軸12に伝達され、出力軸12が時計方向に回動する。外輪1に反時計方向の入力トルクが入力された場合は、上記とは逆の動作で出力軸12が反時計方向に回動する。従って、外輪1からの正逆両回転方向の入力トルクは、第1クラッチ部15、内輪13、およびトルク伝達手段としてのピン13b1およびピン孔12b3を介して出力軸12に伝達され、出力軸12が正逆両回転方向に回動する。なお、内輪13からの入力トルクがなくなると、板ばね31の弾性復元力によって図25に示す中立位置に復帰する。
【0097】
上述した外輪1、出力軸12、内輪13、外輪14、第1クラッチ部15、第2クラッチ部16、固定側板17および摩擦部材19を図17に示す態様でアッセンブリすると、図17に示すクラッチユニットが完成する。外輪1には例えば樹脂製の操作レバー23が結合され、出力軸12は図示されていない出力側機構の回動部材(例えば図29に示すピニオンギヤ41g)に連結される。また、固定側板17は図示されていないケーシング等の固定部材に加締部17b1で加締固定される。なお、外輪1は、第2薄板部材1Bの外側に装着されたワッシャ(又はナット)28と外輪14のフランジ部14aとの間で軸方向の両側に抜け止め規制される。
【0098】
第1クラッチ部15において、弾性部材5は外輪1(第1薄肉部材1A)のストッパ爪1Afの内周に収容され、外輪1の一方の端面と外輪14のフランジ部14aとの間で軸方向の両側に抜け止め規制される。また、保持器4およびローラ20は、外輪1の内径フランジ部1Acと外輪14のフランジ部14aとの間で軸方向の両側に抜け止め規制される。第1クラッチ部15の保持器4、ローラ20、および弾性部材5が外輪1の内部に収容されており、入力側部分に突出した部分がない。また、保持器4が内輪13の円周面13a2に外挿され、保持器4の回動が内輪13の円周面13a2によって案内されるので、回動時の保持器4の傾きがなく、円滑なクラッチ動作が可能である。
【0099】
第2クラッチ部16は、外輪14と固定側板17とで囲まれた空間部に径方向および軸方向にコンパクトに収められている。また、ロック解除手段としての柱部13cと、トルク伝達手段としてのピン13b1が内輪13に一体に設けられているので、部品点数が少なく、構造も簡単である。また、柱部13c間のポケット13c1が軸方向の一方(固定側板17側)に開口した形状であるため、出力軸12、内輪13、外輪14等をアッセンブリした後、ローラ30と板ばね31を、ポケット13c1の軸方向の開口部から該ポケット13c1内に組み入れることができ、組立作業が容易である。
【0100】
さらに、出力軸12を内輪13のラジアル軸受面13a1と固定側板17のラジアル軸受面17e2によって両持ち的に支持する構造であるため、出力軸12の回動動作が安定し、しかも第1クラッチ部15および第2クラッチ部16に偏荷重が作用しにくく、円滑なクラッチ動作が可能である。
【0101】
しかも、入力側部材としての外輪1が、第1薄肉部材1Aと第2薄肉部材1Bとの2つの部材に対して、プレス加工を施ことにより製作されたものであるため、加工が容易化されて製造コストが安価になると共に、外輪1ひいてはクラッチユニットの軽量化を図ることが可能となる。
【0102】
また、第1薄肉部材1Aと第2薄肉部材1Bとでは、要求される剛性或いは硬度が相違しているが、第1薄肉部材1Aに対してのみ表面硬化処理(熱処理)を施すことにより、それぞれの要求特性に無駄なく対応することができる。
【0103】
図28は、自動車の乗員室に装備される座席シート40を示している。座席シート40は着座シート40aと背もたれシート40bとで構成され、着座シート40aの高さHを調整するシート高さ調整装置41、背もたれシート40bの傾斜θを調整するシート傾斜調整装置42、および着座シート40aの前後位置Lを調整するシートスライド調整装置(図示省略)を備えている。着座シート40aの高さHの調整はシート高さ調整装置41の操作レバー41aによって行い、背もたれシート40bの傾斜θの調整はシート傾斜調整装置42の操作レバー42aによって行い、着座シート40aの前後位置Lの調整はシートスライド調整装置の操作レバー(図示省略)によって行う。上述したクラッチユニットは、例えばシート高さ調整装置41に組込まれる。
【0104】
図29(a)は、シート高さ調整装置41の一構造例を概念的に示している。フロア側に設けられたシートスライドアジャスタ41bのスライド可動部材41b1(図30のアッパレール113に対応する。)にリンク部材41c、41dの一端がそれぞれ回動自在に枢着され、リンク部材41c、41dの他端がそれぞれ着座シート40aに回動自在に枢着される(図30のロアアーム121に対応する部位に枢着される。)。これにより、着座シート40aがスライド可動部材41b1に対して四節リンク機構で昇降自在に支持される。セクターギヤ41fは、例えば着座シート40aに回動自在に枢着され(図30のロアアーム121に対応する部位に枢着される。)、支点(ピン)41f1回りに揺動可能である。また、セクターギヤ41fは、リンク部材41eを介してリンク部材41cの他端に回動自在に枢着される。この実施形態では、リンク部材41c及び41dを有する四節リンク機構と、セクターギヤ41f及びこれに直接噛合するピニオンギヤ41gからなるギヤ機構と、セクターギヤ41fを四節リンク機構のリンク部材41cに連結するリンク部材41eとによって、着座シート40aの昇降移動機構が構成される。上述したクラッチユニットXは、固定側板17を介して着座シート40aの適宜の部位(例えば、図30のロアアーム121に対応する部位)に固定され、その外輪1に例えば樹脂製の操作レバー41a(図23における操作レバー23に相当)が結合され、出力軸12に昇降移動機構の回動部材、この実施形態ではピニオンギヤ41gが連結される。
【0105】
例えば、図29(b)において、操作レバー41aを反時計方向(上側)に揺動操作すると、その方向の入力トルクがクラッチユニットXを介してピニオンギヤ41gに伝達され、ピニオンギヤ41gが反時計方向に回動する。そして、ピニオンギヤ41gと噛合するセクターギヤ41fが時計方向に揺動して、リンク部材41cの他端をリンク部材41eを介して引っ張る。その結果、リンク部材41cとリンク部材41dが共に起立して、着座シート40aの座面が高くなる。すなわち、クラッチユニットXの出力軸12の回動動作が、ピニオンギヤ41gを介してセクターギヤ41fの揺動動作に変換され、このセクターギヤ41fの揺動動作がリンク部材31eを介して四節リンク機構のリンク動作に変換される。
このようにして、着座シート40aの高さHを調整した後、操作レバー41aを開放すると、操作レバー41aが第1クラッチ部15の弾性部材5の弾性力(弾性復元力)によって時計方向に回動して元の位置(中立位置)に戻る。なお、操作レバー41aを時計方向(下側)に揺動操作した場合は、上記とは逆の動作によって、着座シート41aの座面が低くなる。また、高さ調整後に操作レバー41aを開放すると、操作レバー41aが反時計方向に回動して元の位置(中立位置)に戻る。
【0106】
上記構成のシート高さ調整装置41によれば、操作レバー41aの揺動操作のみで着座シート40aの高さHを調整することができるので操作性が良く、しかも、高さ調整後の着座シート40aの高さ位置を自動的に保持することができる。また、高さ調整後に操作レバー41aを開放すると、操作レバー41aを中立位置に自動復帰させることができ、その場合でも復帰時の動作が円滑でラチェット機構のような騒音発生の問題も生じない。また、第2クラッチ部16は、着座シート40aからの逆入力トルクに対して、ローラ30とカム面12b1及び円周面14c1との楔係合力によって回転拘束力を与えるので、前述した従来のブレーキ機構に比べて、大きな回転拘束力(ブレーキ力)を与えることができる。そのため、従来構成における減速ギヤ機構を省略して、セクターギヤ41fをピニオンギヤ41gに直接噛合させることができる。これにより、操作性を向上させ、部品点数および組立工数を削減し、設計自由度を高めることが可能となる。さらに、摩擦部材19によって出力軸12に回転方向の制動力を与えているので、操作レバー41aの操作時における逆入力トルクの還流現象がなく(又は少なく)、安定した調整操作が可能である。
【0107】
尚、上記のシート高さ調整装置41では、セクタギヤ41fの揺動動作によるリンク動作力をリンク部材41cに入力する構成にしているが、セクタギヤ41fを他のリンク部材を介してリンク部材41dに連結し、セクタギヤ41fの揺動動作によるリンク動作力をリンク部材41dに入力する構成としても良い。
また、上記構成のクラッチユニットXは、図30に示すようなフロントチルト調整装置に用いることもできる。この場合、クラッチユニットXは前部クッションフレーム(221)に装着し、その出力軸側のピニオン(511)を、ロアアーム(121)の先端部に設けられた歯(501)と噛合させる。
【0108】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、シートの位置調整操作時の操作性が良く、しかも騒音発生がなく、かつ、部品点数が少ないため構造が簡単で、設計自由度の高い座席シートを提供することができる。
【0109】
また、入力側部材に復帰動作を与えるための弾性部材として有端リング状の板ばねを使用しているので、弾性力の作用点を円周方向の対向位置に配置することができる。そのため、入力側部材の回動中は、クラッチ部の弾性力を支持する部材にモーメント荷重が作用することはなく、従って、当該部材と他部材との摩擦による復帰トルクのロスを減少させることができ、入力側部材を確実に中立位置に復帰させることができる。
【0110】
また、第1および第2薄肉部材からなる入力側部材において、第2薄肉部材の端部内周を、第1薄肉部材の端部の外周側に配置することにより、軸方向の所要スペースを削減できる。従って、クラッチユニット、ひいてはシート調整装置のコンパクト化を図ることができる。また、係合子の長さの延長が可能となるので、クラッチ部のトルク剛性を向上させて作動安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】クラッチユニットの入力側部分を示す縦断側面図{図1(a)}、図1(a)のB−B断面図{図1(b)}である。
【図2】入力側部材の第1薄肉部材を示す斜視図{図2(a)}、縦断側面図{図2(b)}、正面図{図2(c)}である。
【図3】入力側部材の第2薄肉部材を示す斜視図{図3(a)}、縦断側面図{図3(b)}、正面図{図3(c)}である。
【図4】入力側部材を示す単体斜視図である。
【図5】保持器を示す斜視図である。
【図6】弾性部材を示す斜視図である。
【図7】図6に示す弾性部材のうち、内径側の板ばねを示す斜視図である。
【図8】弾性部材の作用を示す正面図で、(a)図は中立状態を、(b)図は入力トルクが入力された状態を示す。
【図9】弾性部材の他例を示す斜視図で、(a)図は内径側の板ばねを、(b)図は外径側の板ばねを示す。
【図10】弾性部材の他例を示す斜視図で、(a)図は内径側の板ばねを、(b)図は外径側の板ばねを示す。
【図11】第1クラッチ部の動作を概念的に説明する模式図である。
【図12】第1クラッチ部の動作を概念的に説明する模式図である。
【図13】第1クラッチ部の動作を概念的に説明する模式図である。
【図14】弾性部材として捻りコイルばねを使用した比較例を示す縦断面図である。
【図15】比較例の捻りコイルばねを示す側面図{図15(a)}、正面図{図15(b)}、その作用を示す正面図{図15(c)、(d)}である。
【図16】比較例の保持器を示す斜視図{図16(a)}、および図16(a)中の矢視b方向から見た斜視図である。
【図17】クラッチユニットの全体構成を示す縦断側面図である。
【図18】出力軸を示す正面図{図18(a)}、図18(a)のB−B線断面図{図18(b)}である。
【図19】内輪(制御部材)を示す正面図{図19(a)}、図19(a)のB−B線断面図{図19(b)}、要部拡大図{図19(c)}である。
【図20】外輪(静止側部材)を示す正面図{(図20(a)}、図20(a)のB−B線断面図{図13(b)}である。
【図21】固定側板を示す正面図{図21(a)}、図21(a)のB−B線断面図{図21(b)}である。
【図22】摩擦部材(制動手段)を示す正面図{図22(a)}、縦断側面図{図22(b)}である。
【図23】第1クラッチ部を示す図17のB−B線断面図である。
【図24】第2クラッチ部を示す図17のA−A線断面図である。
【図25】第2クラッチ部の作用を示す部分拡大正面図である(中立位置)。
【図26】第2クラッチ部の作用を示す部分拡大正面図である(ロック解除時)。
【図27】第2クラッチ部の作用を示す部分拡大正面図である(トルク伝達時)。
【図28】自動車の座席シートを示す概念図である。
【図29】図29(a)はシート高さ調整装置の一構造例を示す概念図、図29(b)はその要部拡大図である。
【図30】従来の座席シートの要部側面図である。
【図31】図30の座席シートにおけるブレーキ機構の分解斜視図である。
【図32】従来の他の座席シートの要部側面図である。
【図33】図32の座席シートにおけるハンドル機構の側面図である。
【符号の説明】
1 外輪(入力側部材)
1A 第1薄肉部材
1Aa カム面
1Ae 嵌合溝(溝部)
1B 第2薄肉部材
1Ba 嵌合爪
2 内輪(制御部材)
2a 円周面
3 ローラ(係合子)
4 保持器
4a ポケット
4b 開口部
5 弾性部材
5A 板ばね
5B 板ばね
5a1 係合部
5a2 係合部
5b1 係止部
6 操作レバー
8 クラッチ部
12 出力軸(出力側部材)
13 内輪(制御部材)
14 外輪(静止側部材)
15 第1クラッチ部
16 第2クラッチ部
23 操作レバー(操作部材)
Claims (10)
- 操作部材からのトルク入力によってシートの位置調整を行うシート調整装置を有する座席シートにおいて、
前記シート調整装置は、前記操作部材としての操作レバーと、シートの所要部位を調整移動可能とする移動機構と、前記操作レバーと前記移動機構の回動部材との間に介在するクラッチユニットとを備え、
前記クラッチユニットは、前記操作レバーに結合される入力側部材と、前記移動機構の回動部材に連結される出力側部材と、前記入力側部材と出力側部材との間のトルク伝達経路に介在する制御部材と、回転が拘束される静止側部材と、前記入力側部材と制御部材との間に設けられた第1クラッチ部と、前記静止側部材と出力側部材との間に設けられた第2クラッチ部と、前記入力側部材に入力された入力トルクで弾性力を蓄積し、入力トルクの開放に伴い、蓄積した弾性力で入力側部材を中立位置に復帰させる弾性部材とを備え、前記入力側部材の入力トルクを第1クラッチ部および制御部材を介して出力側部材に伝達し、前記出力側部材からの逆入力トルクを第2クラッチ部を介して静止側部材との間でロックするように構成され、かつ、前記弾性部材が有端リング状の板ばねで形成され、
前記第1クラッチ部が、前記入力側部材からの入力トルクを制御部材に伝達する係合子と、該係合子を保持するポケットを有する保持器とを備え、入力トルクの開放時に前記弾性部材が弾性力で前記保持器及び係合子を介して入力側部材に復帰力を与えることを特徴とする座席シート。 - 前記弾性部材の両端部に、保持器および静止側部材と係合可能な係合部を設けると共に、一端の係合部と他端の係合部とを円周方向の対向位置に設けた請求項1記載の座席シート。
- 前記弾性部材の両端部近傍に、該弾性部材の軸方向断面積が前記端部に近づくほど減少する応力の調整部を設けた請求項1又は2記載の座席シート。
- 前記弾性部材が、二以上の板ばねを重ねたものである請求項1から3の何れかに記載の座席シート。
- 前記入力側部材を、前記第1クラッチ部を構成するカム面を有する第1薄肉部材と、前記操作レバーが取り付けられる第2薄肉部材とを相対回転不能に結合して構成した請求項1から4の何れかに記載の座席シート。
- 前記第2薄肉部材の端部内周を、前記第1薄肉部材の端部の外周側に配置した請求項5記載の座席シート。
- 前記シート調整装置は、着座シートの高さを調整するシート高さ調整装置である請求項1から6の何れかに記載の座席シート。
- 前記移動機構は、前記着座シートをフロア側に設けられる部材に対して昇降自在に支持する四節リンク機構と、前記クラッチユニットの出力側部材の回動動作を前記四節リンク機構のリンク動作に変換するためのギヤ機構とを有する請求項7記載の座席シート。
- 前記ギヤ機構は、前記クラッチユニットの出力側部材に連結されたピニオンギヤと、前記ピニオンギヤと噛合し、前記ピニオンギヤの回動に伴う揺動動作によって前記四節リンク機構にリンク動作力を与えるセクタギヤとを有する請求項8記載の座席シート。
- 前記シート調整装置は、着座シートの前部を傾斜調整するフロントチルト調整装置である請求項1から6の何れかに記載の座席シート。
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