JP4509444B2 - 座席シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の乗員室等に装備される座席シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、自動車の着座シートのシート高さ調整装置では、着座シートからの荷重(シート自重および着座者の体重等)を支持するためのブレーキ部を出力側機構に設け、該ブレーキ部の入力軸に操作部材から正方向又は逆方向の入力トルクを入力することによって着座シートの高さ調整を行うと共に、操作部材を開放した状態での着座シートの位置をブレーキ部で保持することによって上記の保持機能を実現している。この場合、操作後の操作部材の位置もブレーキ部によって保持されるので、操作部材としてノブ(円形状の握り)を使用し、ノブの回転操作によってブレーキ部に入力トルクを入力する構造にしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来のシート高さ調整装置では、着座シートと車体との間の狭い間隔部に手を入れてノブを回転操作する必要があり、操作上の不便さがあると同時に、上記の間隔部を確保するために車体や座席シートの設計に制約が生じるという問題点がある。そして、この傾向は小型車になるほど顕著である。一方、操作部材としてレバーを使用し、レバーとブレーキ部との間にラチェット機構を設けて、レバーの揺動操作によるトルク入力と、操作後のレバーの自動復帰とを可能にしたものあるが、構造が複雑であり、また、レバー復帰時にラチェット歯同士の噛合い音が発生するという問題がある。
【0004】
本発明の目的は、シートの位置調整および位置保持と、操作部材の位置復帰とを実現することができ、しかも構造が簡単かつ小型・低コストであり、動作が円滑で、操作時の騒音発生がない座席シート調整装置を備えた座席シートを提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、高い耐久性を有し、かつ組立作業性も良い座席シート調整装置を備えた座席シートを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的の達成のため、本発明は、着座シートと、背もたれシート、座席シート調整装置とを有する座席シートにおいて、座席シート調整装置は、その操作レバーと回動部材との間に介装されるクラッチユニットを有し、クラッチユニットは、前記操作レバーに結合される入力側部材と、前記回動部材に連結される出力側部材と、回転が拘束される静止側部材と、入力側部材と出力側部材との間のトルク伝達経路に介在する制御部材と、入力側部材と制御部材との間に設けられた第1クラッチ部と、静止側部材と出力側部材との間に設けられた第2クラッチ部とを備え、
第1クラッチ部は、入力側部材からの入力トルクに対して入力側部材と制御部材とをロックするロック手段と、入力側部材が解放されたときに入力側部材を入力トルクが入力される前の中立位置に復帰させる復帰手段とを備え、前記ロック手段は、入力側部材に設けられたカム面と、制御部材に設けられた円周面と、カム面と円周面との間に介在する係合子とを備え、カム面は円周面との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成し、復帰手段は、前記係合子を保持する保持器と、保持器を静止側部材に回転方向に連結する弾性部材とを有し、保持器は、軸方向の切欠き部を形成することにより円周方向の離隔位置に形成された一対の被係合部と、前記係合子を保持するポケットを有し、静止側部材は、軸方向に突出した一対の係止部を有し、弾性部材は、軸方向の位置ずれをもつ一対の係合部を有し、入力側部材の正逆両回転に応じて一方の係合部を保持器の一方の被係合部に、他方の係合部を静止側部材の一方の係止部にそれぞれ円周方向で係合させ、保持器に設けられた一対の被係合部のうち、弾性部材の保持器端面側に位置する係合部と係合する一方の被係合部の基端部が軸方向で厚肉化されている構成を提供する。
【0008】
上記構成においては、保持器の正逆回転に伴い、保持器の被係合部には、これと係合する弾性部材の係合部から弾性部材の弾性変形による円周方向の押圧力が作用する。特に弾性部材の保持器端面側に位置する係合部と係合する一方の被係合部は、係合位置までの腕長さが長く、その基端部には弾性部材の押圧力に起因する大きなモーメント荷重が作用するため、過大なストレスが作用し、場合によってはクラックの発生等を招く懸念がある。この際、上記一方の被係合部の基端部を厚肉化することにより、強度を確保してかかる不具合を回避することができる。
【0009】
上記の厚肉化は、さらに、弾性部材の保持器中央側(保持器の軸方向中央側)に位置する係合部と係合する他方の被係合部の基端部に対して行っても良い。
【0010】
上記一方の被係合部の基端部に対する厚肉化は、例えば上記一方の被係合部を形成する切欠き部の底を、上記他方の被係合部を形成する切欠き部の底よりも保持器端面側に配置することにより行なうことができる。
【0011】
また、上記他方の被係合部の基端部に対する厚肉化は、例えば基端部近傍でポケットを省略したり、あるいは、基端部近傍でポケットの軸方向寸法を小さくすることにより行うことができる。上記他方の被係合部は、その係合位置が保持器中央側にある関係上、切欠き部を深くして形成せざるを得ない。そのため、上述した切欠き部の深さ調整による厚肉化は困難となるが、その場合でも本構成によって当該被係合部の基端部の厚肉化が可能となる。
【0012】
保持器にころ落ち止めを設けることにより、組立時における保持器ポケットからの係合子の脱落を確実に防止することができ、組立作業性が高まる。
【0013】
第2クラッチ部の一例としては、出力側部材と静止側部材との間に楔隙間を形成し、この楔隙間に対して係合子を楔係合・離脱させることによって、ロック・空転を切替える構成のものが考えられる。この場合、入力側部材からの入力トルクによって出力側部材の回転方向の位置を調整することができ、また、出力側部材からの逆入力トルクは第2クラッチ部でロックするので、調整後の出力側部材の位置を保持することができる。また、入力側部材と出力側部材との間に第1クラッチ部を設けているので、出力側部材の位置調整後に、入力側部材を中立位置(入力トルクが入力される前の位置)に復帰させることが可能であり、その場合でも復帰時の動作が円滑でラチェット機構のような騒音発生の問題も生じない。
【0014】
第2クラッチ部は、出力側部材からの逆入力トルクに対して出力側部材と静止側部材とをロックするロック手段と、入力側部材からの入力トルクに対してロック手段によるロック状態を解除するロック解除手段と、ロック手段によるロック状態が解除された状態のときに入力トルクを出力側部材に伝達するトルク伝達手段とを備えた構成とすることができる。この構成によれば、出力側部材の回転方向の位置調整を入力側部材からの入力トルクの入力操作で行ない、かつ調整後の出力側部材の位置を自動的に保持することができるので、操作性が向上する。
【0015】
上記の座席シート調整装置には、着座シートの高さを調整するシート高さ調整装置、背もたれシートの傾斜を調整するシート傾斜調整装置、着座シートの前後位置を調整するシートスライド調整装置が含まれるが、本発明は、着座シートのシート高さ調整装置に特に好適である。この構成によれば、着座シートの高さ調整を操作レバーの揺動操作によって行うことが可能になるので、従来装置に比べて操作上の利便性が増すと同時に、車体や座席シートの設計自由度を高めることができ、特に小型車や大衆車のシート高さ調整装置に極めて有用である。
【0016】
上記のシート高さ調整装置は、着座シートをスライド可動部材に対して昇降自在に支持する四節リンク機構と、着座シートに回動自在に枢着され、四節リンク機構にリンク部材を介して連結されるセクターギヤと、クラッチユニットの出力側部材に連結され、セクターギヤと噛合するピニオンギヤとを備えたものとすることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る座席シートのシート高さ調整装置(31:図19及び図20参照)に組み込まれるクラッチユニットの全体構成を示している。この実施形態のクラッチユニットは、入力側部材としての外輪1と、出力側部材としての出力軸2と、入力側部材1と出力側部材2との間のトルク伝達経路に介在する制御部材としての内輪3と、静止側部材としての外輪4と、外輪1と内輪3との間に設けられた第1クラッチ部5と、外輪4と出力軸2との間に設けられた第2クラッチ部6とを主要な要素として構成される。
【0019】
図2は、入力側部材としての外輪1を示している。外輪1の外周には、外径側に突出した複数(例えば3つ)のリブ1aと、複数(例えば4つ)のリブ1bと、複数(例えば2つ)のリブ1eと、1つ又は複数のリブ1fが円周方向に所定間隔で形成される。リブ1aの軸方向一端側部分は外輪1の一端から軸方向に突出して、突出部1a2を形成する。また、3つのリブ1aのうち何れか1つ、例えば同図で上側に位置するリブ1aの外周に、このクラッチユニットを相手側部材に取付ける際の方向識別に用いる識別マーク1a1が設けられている。この実施形態において、識別マーク1a1は軸方向溝の形態をなしている。これらリブ1a、1b、1eおよび1fは、外輪1の外周に装着される操作レバー(13:図8、図9参照)と回転方向に係合して、操作レバー(13)の外輪1に対する相対回転を防止する。
【0020】
リブ1bには、軸方向のねじ孔1b1が形成される。操作レバー(13)の外輪1に対する軸方向相対移動は、リブ1bのねじ穴1b1に操作レバー(13)をねじ結合することによって防止される。図9に示すように、この実施形態では、右ハンドル車や左ハンドル車、車体や座席シートの設計等に応じて、クラッチユニットおよび操作レバー(13)を座席シートの左右いずれの側にも配置可能とするため、外輪1を同図におけるY軸に対して左右対称形状にして、操作レバー(13)を左右いずれの向きにも装着できるようにしている。この場合、操作レバー(13)の操作トルクは主に180°対向した位置にある2つのリブ1bのねじ結合部分に作用するので、これらの2つのリブ1bにのみねじ穴1b1を形成し、残りの2つのリブ1bにはねじ穴1b1を加工する際の下穴(貫通穴)をそのまま残しておいても良い。これにより、ねじ穴加工の加工コストを低減することができる。例えば、操作レバー(13)を同図で右向きに装着する場合(実線)は、同図でY軸に対して右方向に傾斜した傾斜線上に位置する2つのリブ1bにねじ穴1b1を形成し、左方向に傾斜した傾斜線上に位置する2つのリブ1bは下穴1b1’にする。操作レバー(13)を同図で左向きに装着する場合(2点鎖線)は、上記とは逆にする。勿論、4つのリブ1bに全てねじ穴1b1を形成しても良い。
【0021】
突出部1a2の内周には、後述する第1クラッチ部(5)のセンタリングバネ(12:図11参照)が収容される。また、突出部1a2が後述する外輪(4:図5参照)のストッパ部(4a1)と回転方向に係合することによって、外輪1の回動範囲が規制される。
【0022】
外輪1の他端部内周には、内径側に延びた鍔部1cが形成される。この鍔部1cは、後述する第1クラッチ部(5)の保持器(11:図1、図10参照)を軸方向の一方に抜け止め規制すると共に、外輪1の内輪3に対する同軸性を保持する役割を持つ。また、外輪1の内周には、複数(例えば10個)のカム面1dが円周方向に等間隔で形成される。各カム面1dは、円周方向中央部が深く、そこから円周方向両側に向かって傾斜状に浅くなっている。
【0023】
外輪1は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。鍛造で成形する関係上、外輪素材としては浸炭材を使用するのが好ましい。この実施形態では、外輪1を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、少なくともカム面1dにおける表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。ここで、HRCはロックウェル硬さのCスケールを表している。尚、外輪1は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
【0024】
図3は、出力側部材としての出力軸2を示している。出力軸2は、一端側にジャーナル部2a、中央側に大径部2b、他端側に連結部2cを備えている。ジャーナル部2aは、後述する内輪(3:図4参照)のラジアル軸受面(3a1)に挿入される。大径部2bの外周には、複数(例えば8つ)のカム面2b1が円周方向に等間隔で形成される。各カム面2b1は、出力軸2の軸心を中心とする円に対して弦をなす平坦面状に形成される。また、大径部2bの一端側部分には軸方向の複数(例えば8つ)のピン孔2b3が円周所定間隔に形成される。これらピン孔2b3には後述する内輪(3:図4参照)のピン(3b1)が挿入される。また、大径部2bの他端側部分には環状凹部2b4が形成される。この環状凹部2b4には後述する摩擦部材(9:図7参照)が装着され、また、環状凹部2b4の内周壁2b5は、後述する固定側板(7:図6参照)のラジアル軸受面(7e2)に挿入されるジャーナル面になる。連結部2cには、他の回動部材を連結するための歯型2c1が形成される。
【0025】
出力軸2は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、出力軸2を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。尚、出力軸2は、鋼材の削出し品とすることもできる。
【0026】
図4は、制御部材としての内輪3を示している。内輪3は、筒状部3aと、筒状部3aの一端から外径側に延びたフランジ部3bと、フランジ部3bの外径端から軸方向の一方に延びた複数(例えば8本)の柱部3cとを主体として構成される。筒状部3aは、出力軸2のジャーナル部2aに外挿され、かつ、外輪1の内部に内挿される。筒状部3aの他端側部分の内周には、出力軸2のジャーナル部2aをラジアル方向に支持するラジアル軸受面3a1が形成され、筒状部3aの他端側部分の外周には、外輪1のカム面1dとの間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する円周面3a2が形成される。フランジ部3bには、軸方向の一方に突出した複数(例えば8つ)のピン3b1が円周方向に所定間隔で形成される。これらピン3b1は、出力軸2のピン孔2b3にそれぞれ挿入される。また、円周方向に隣接した柱部3c間には、軸方向の一方に向かって開口したポケット3c1が形成され、これらポケット3c1に後述する第2クラッチ部(6:図15参照)のローラ(20)と板ばね(21)が収容される。ローラ(20)と板ばね(21)を、ポケット3c1の軸方向の開口部から該ポケット3c1内に組み入れることができるので、組立作業が容易である。
【0027】
内輪3は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、内輪3を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。尚、内輪3は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
【0028】
図5は、静止側部材としての外輪4を示している。外輪4は、半径方向に延びたフランジ部4aと、フランジ部4aの外径端から軸方向の一方に延びた筒状部4cと、筒状部4cの一端から外径側に突出した鍔部4dとを主体として構成される。フランジ部4aには、軸方向の他方に突出した複数(例えば3つ)のストッパ部4a1が円周方向に所定間隔で配列形成される。これらストッパ部4a1は、外輪1の突出部1a2と回転方向に係合して、外輪1の回動範囲を規制する。また、フランジ部4aには、軸方向の他方に突出した一対の係止部4a2と、複数(例えば2つ)の装着部4a3とが形成される。一対の係止部4a2の円周方向外側面には、後述する第1クラッチ部(5)のセンタリングバネ(12:図11参照)の係合部(12a1、12a2)がそれぞれ係止される。また、装着部4a3の外周には、センタリングバネ(12)の巻き部(12a)が装着される。
【0029】
筒状部4cの内周には、出力軸2のカム面2b1との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する円周面4c1が形成される。鍔部4dには、複数(例えば6つ)の切欠き部4d1が円周方向に所定間隔で形成される。切欠き部4d1は、後述する固定側板(7)の加締部(7c:図6参照)と適合する。
【0030】
外輪4は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、外輪4を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。尚、外輪4は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
【0031】
図6は、外輪4に固定される固定側板7を示している。固定側板7は、半径方向に延びたフランジ部7aと、フランジ部7aの外径端から外径側に突出した複数(例えば4つ)のブラケット部7bと、フランジ部7aの外径端から軸方向の一方に突出した複数(例えば6つ)の加締部7cと、フランジ部7aから軸方向の一方に突出した複数(例えば4つ)の係止部7a1と、フランジ部7aの内径端から軸方向の一方に突出したボス部7eとを主体として構成される。4つのブラケット部7bは円周方向に所定間隔で形成され、それぞれに中空ピン状の加締部7b1が一体(又は別体)に形成される。6つの加締部7cは円周方向に所定間隔で形成され、それぞれ、二股状に分岐した一対の爪部7c1を備えている。この加締部7cを外輪4の切欠き部4d1に装着し、一対の爪部7c1を円周方向の相反する方向に加締めて鍔部4dに当接させることにより、外輪4の固定側板7に対する軸方向相対移動および回転方向相対移動を防止することができる。加締部7b1は、相手側部材の取付け穴に加締固定される。
【0032】
ボス部7eの内周には、ラジアル軸受面7e2が形成される。ボス部7eは出力軸2の環状凹部2b4に挿入され、ボス部7eの外周と環状凹部2b4の外周壁との間に後述する摩擦部材(9:図7参照)が装着される。係止部7a1は摩擦部材(9)の凹部(9a)と回転方向に係合して、摩擦部材(9)の固定側板7に対する相対回転を防止する。ボス部7eのラジアル軸受面7e2は、環状凹部2b4のジャーナル面2b5に外挿され、ジャーナル面2b5をラジアル方向に支持する。
【0033】
固定側板7は、例えば、冷間圧延鋼鈑等の鋼鈑材からプレス加工によって成形される。この実施形態では、固定側板7を形成する鋼板材として冷間圧延鋼鈑(例えばSPCE)を使用している。また、加締部7c及び7b1を加締加工する際の加工性等に配慮して、熱処理は施していない。尚、加締部7c及び7b1等の加締加工を行う部位に防炭処理(又は防炭防窒処理)を施して、浸炭焼入れ焼戻し(又は浸炭窒化焼入れ焼戻し)を行っても良い。
【0034】
図7は、制動手段としての摩擦部材9を示している。この実施形態において、摩擦部材9はリング状のもので、その一方の端面には複数(例えば4つ)の凹部9aが円周方向に所定間隔で形成される。凹部9aは、固定側板7の係止部7a1と回転方向に係合して、摩擦部材9の固定側板7に対する相対回転を防止する。
【0035】
摩擦部材9は、ゴムや合成樹脂等の弾性材料で形成され、例えば出力軸2の環状凹部2b4の外周壁に締代をもって圧入される。摩擦部材9の外周と環状凹部2b4の外周壁との間に生じる摩擦力によって、出力軸2に回転方向の制動力(摩擦制動力)が与えられる。この制動力(制動トルク)の大きさは、出力軸2に入力される逆入力トルクの大きさを勘案して適宜設定すれば良いが、逆入力トルクの還流現象を効果的に防止する観点から、想定される逆入力トルクと同程度の大きさに設定するのが好ましい。シート高さ調整装置の場合では、着座シートに着座者が着座した状態で出力軸2に作用する逆入力トルクと同程度の大きさに設定するのが良い。この実施形態のように、制動手段として摩擦部材9を用いると、制動力を摩擦部材9の締代調整によって設定し、また変更できるという利点がある。
【0036】
摩擦部材9の材質は特に問わないが、この実施形態では、摩擦部材9を合成樹脂材料、例えばポリアセタール(POM)にグラスファイバーを30重量%配合した合成樹脂材料の射出成形品としている。
【0037】
図8(図1のB−B断面)は、第1クラッチ部5を示している。第1クラッチ部5は、外輪1に設けられた複数(例えば10個)のカム面1dと、内輪3に設けられた円周面3a2と、カム面1dと円周面3a2との間に介在する係合子としての複数(例えば9個)のローラ10と、ローラ10を保持する保持器11と、保持器11を外輪(4)に回転方向に連結する弾性部材、例えばセンタリングバネ(12:図11参照)とを主要な要素として構成される。カム面1d、円周面3a2、及びローラ10によってロック手段が構成され、保持器11およびセンタリングバネ(12)によって復帰手段が構成される。この実施形態において、カム面1dは円周面3a2との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する。また、外輪1には操作レバー13が結合され、操作レバー13から外輪1に正方向又は逆方向の入力トルクが入力される。また、外輪1の内周と内輪3(筒状部3a)の外周との間の空間部、特にカム面1dと円周面3a2との間にグリースが封入されている。
【0038】
図10は、保持器11を示している。保持器11は、ローラ10を収容する複数(例えば10個)の窓形のポケット11aと、一方の端面から軸方向の一方に突出した係止部11bとを備えている。この係止部11bは円弧状の突出部分で、図11(c)に示すように外輪4の係止部4a2の内周側に挿入される。本実施形態では、保持器11の一方の端面11c(外輪4と対向する端面)の円周方向二箇所に軸方向の切欠き部11d1、11d2を形成することによって係止部11bを形成している。係止部11bの円周方向両側面11b1、11b2は、センタリングバネ(12:図11参照)の係合部(12a1、12a2)とそれぞれ係合する被係合部となる。図22(a)(b)に示すように、保持器11のポケット11a周縁部のうち、ローラ10の外周面と対向する内径部および外径部にころ落ち止め11eを形成することにより、組立中のポケット11aからのローラ10の脱落を防止することができ、組立作業性が高まる。
【0039】
保持器11の材質は特に問わないが、この実施形態では、保持器11を合成樹脂材料、例えばポリアミド66(PA66)にグラスファイバーを30重量%配合した合成樹脂材料の射出成形品としている。
【0040】
図11は、センタリングバネ12を示している。センタリングバネ12は、複数の巻き部12aと、内径側に屈曲した両端の係合部12a1、12a2を備えている。両係合部12a1、12a2は、円周方向に所定間隔で相対向している。また、両係合部12a1、12a2には軸方向の位置ずれがあり、保持器11の外周側に組み込んだ際には、一方の係合部12a1が保持器11の一方の端面11c側に、他方の係合部12a2がこれよりも軸方向中央側に位置する。センタリングバネ12は、図11(e)に示すように例えば角形線材で形成され、この実施形態では、線材としてピアノ線材(SWPB)を使用している。角形線材を用いることにより、同一の内外径に対して、大きなバネ力を得ることができる。また、各巻き部12aの相互間に隙間を設けることにより、巻き部12a同士の接触による摩擦損失を回避してバネ力の増大を図っている。
【0041】
図11(b)に示す自然状態において、センタリングバネ12の各巻き部12aの巻き中心は、同図における横軸方向に互いにオフセットされている。同図に示す例では、各巻き部12aの巻き中心が奥部側(係合部12a2の側)から手前側(係合部12a1の側)にかけて、漸次、横軸左方向にオフセットされている。
【0042】
図11(c)に示すように、センタリングバネ12は、係合部12a1、12a2間の間隔を自然状態から円周方向に押し広げて(この時、センタリングバネ12は若干拡径する。)、両係合部12a1、12a2を外輪4の係止部4a2両端および保持器11の係止部11b両端(被係合部11b1、11b2)に係止する。これにより、保持器11がセンタリングバネ12を介して外輪4に回転方向に連結される。上記のオフセットを設けているため、係合部12a1、12a2を外輪4の係止部4a2および保持器11の係止部11bに係止した状態で、すなわち、センタリングバネ12を所定量拡径させた状態で、各巻き部12aの巻き中心が一致して、巻き部12aが略同心円状になる。
【0043】
例えば、保持器11が図11(e)で外輪4に対して時計方向に相対回転すると、センタリングバネ12の時計方向(回転方向前方)の係合部12a1が保持器11の被係合部11b1に押されて時計方向に弾性変位する{反時計方向(回転方向後方)の係合部12a2は外輪4の係止部4a2に係止される。}。これにより、センタリングバネ12は一対の係合部12a1、12a2間の間隔が押し広げられる方向(拡径する方向)に撓み、その撓み量に応じた弾性力が蓄積される。尚、上記のオフセットを設けているため、センタリングバネ12が同図に示す状態に拡径した場合でも、外輪1の突出部1a2との干渉は起こらない。また、保持器11が同図で反時計方向に相対回転した場合も、上記とは逆の動作によってセンタリングバネ12に弾性力が蓄積される。すなわち、センタリングバネ12の係合部12a2が保持器11の被係合部11b2に押されて反時計方向に弾性変位する一方、他方の係合部12a1は外輪4の係止部4a2に係止される。
【0044】
このように保持器11の被係合部11b1、11b2には、保持器11の正逆回転に伴い、係合部12a1、12a2からセンタリングバネ12の弾性変形に起因して円周方向の押圧力が作用する。その際、保持器11の被係合部11b1、11b2は軸方向に突出しているため、被係合部11b1、11b2の基端部に円周方向のモーメント力が作用し、これが要因となって当該基端部とポケット11aとの間にクラック等の発生を招くおそれがある。これを防止するためには、何らかの手段で被係合部11b1、11b2の基端部を軸方向で厚肉化しておくのが望ましい。
【0045】
図23(a)(b)に厚肉化手段の具体例を示す。図23(a)は、一方の切欠き部11d1の深さ(軸方向)を他方の切欠き部11d2よりも浅くしたものである。すなわち、切欠き部11d1の底Aを他方の切欠き部11d2の底Bよりも保持器端面1c側に変位させることにより、一方の被係合部11b1の基端部を厚肉化して保持器11の耐久性向上を図ったものである(他方の切欠き部11d2と同じ深さの切欠き部にした場合を二点鎖線で示す)。かかる手段で基端部を厚肉化した被係合部11b1には、センタリングバネ12の係合部12a1、12a2のうち、組立後に保持器端面11c側に位置する係合部12a1を係合させる。
【0046】
一方、他方の係合部12a2は、組立後に係合部12a1よりも保持器11の軸方向中央側に配置されるため、上記と同様に切欠き深さを浅くすると、係合部12a2と確実に係合させることができない。同図(b)は、そのような被係合部12a2についての厚肉化手段を示すものであり、係合部12a2の基端部近傍のポケットを、軸方向寸法の小さい小ポケット11a’としたものである。この場合も小ポケット11a’の保持基端面11c側のポケット面11a’1と切欠き部11d2の底Bとの間の距離が、他のポケット11aの当該ポケット面11a1と切欠き部11d2の底Bとの間の距離よりも大きくなるので、被係合部11b2の基端部の厚肉化が達成される。小ポケット11a’は樹脂製保持器11を射出成形する際の引けの発生防止にも有益である。引けが問題とならないのであれば、小ポケット11a’を省略して孔無し構造としても同様の効果が得られる。なお、小ポケット11a’を設ける場合、小ポケット11a’には係合子としてのローラ10は収容されない。
【0047】
次に、図12〜図14を参照しながら、第1クラッチ部5の作用について説明する。尚、図12〜図14において、センタリングバネ12および外輪4は模式化され、概念的に示されている。また、操作レバー13も記載が省略されている。
【0048】
図12は、第1クラッチ部5の中立位置を示している(図8に示す状態)。中立位置において、ローラ10はカム面1dの中央部に位置し、カム面1dと円周面3a2との間に形成される正逆両回転方向の楔隙間からそれぞれ離脱する。ローラ10の直径は、カム面1dの中央部と円周面3a2との間の半径方向距離よりも若干小さく設定されており、ローラ10とカム面1dの中央部および円周面3a2との間には半径方向隙間がある。尚、後述するように、出力軸2から入力される逆入力トルクは第2クラッチ部6で正逆両回転方向にロックされる。従って、内輪3は、操作レバー13(外輪1)から入力される入力トルクに対してのみ回動動作を行い、出力軸2から逆入力トルクが入力されても回動せず、その位置を保持する。
【0049】
図13は、操作レバー13を揺動操作して、外輪1に入力トルクを入力した時の状態を示している。例えば、同図において、外輪1に反時計方向の入力トルクが入力されると、外輪1の回動に伴い、カム面1dがローラ10に対して反時計方向に相対移動して、ローラ10がその方向の楔隙間に楔係合する。これにより、外輪1からの入力トルクがローラ10を介して内輪3に伝達され、外輪1、ローラ10、保持器11、および内輪3が一体となって反時計方向に回動する。そして、保持器11の回動に伴ってセンタリングバネ12が撓み、その撓み量に応じた弾性力fが蓄積される。尚、外輪1の回動量の最大範囲は、外輪1の突出部1a2と外輪4のストッパ部4a1との係合によって規制される。
【0050】
図14は、図13に示す状態から操作レバー13(外輪1)を開放した時の状態を示している。センタリングバネ12に蓄積された弾性力fによって、保持器11に時計方向の回動力が働き、ローラ10が保持器11に押されてカム面1dを押圧する。そうすると、外輪1が開放されているので、ローラ10、保持器11、および外輪1が内輪3に対して時計方向に空転して、図12に示す中立位置に復帰する。その際、内輪3は、図13の回動操作によって与えられた回動位置をそのまま維持する。従って、図13の回動操作を繰り返し行った場合では、内輪3に各回動操作ごとの回動量が重畳的に蓄積される。尚、図12において、外輪1に時計方向の入力トルクが入力された場合は、上記とは逆の動作を行う。
【0051】
図15(図1のA−A断面)は、第2クラッチ部6を示している。第2クラッチ部6は、外輪4に設けられた円周面4c1と、出力軸2に設けられた複数(例えば8つ)のカム面2b1と、各カム面2b1と円周面4c1との間に介在する係合子としての一対(例えば総数8対)のローラ20と、一対のローラ20間に介在する弾性部材、例えば断面N字形の板バネ21と、内輪3の柱部3cと、内輪3のピン3b1および出力軸2のピン孔2b3とを主要な要素として構成される。カム面2b1、円周面4c1、一対のローラ20、および板ばね21によってロック手段が構成され、一対のローラ20の円周方向両側に位置する内輪3の柱部3cによってロック解除手段が構成され、内輪3のピン3b1および出力軸2のピン孔2b3によってトルク伝達手段が構成される。尚、この実施形態において、板バネ21はステンレス鋼(例えばSUS301CPS−H)で形成し、熱処理としてテンパー処理を施している。また、外輪4の内周と出力軸2(大径部2b)の外周との間の空間部、特にカム面2b1と円周面4c1との間にグリースが封入されている。
【0052】
図16に拡大して示すように、中立位置において、一対のローラ20は板ばね21によって、それぞれ、カム面2b1と円周面4c1との間に形成される正逆両回転方向の楔隙間の方向に押圧される。この時、内輪3の各柱部3cと各ローラ20との間にはそれぞれ回転方向隙間δ1が存在する。また、内輪3のピン3b1と出力軸2のピン孔2b3との間には正逆両回転方向にそれぞれ回転方向隙間δ2が存在する。回転方向隙間δ1と回転方向隙間δ2とは、δ1<δ2の関係を有する。回転方向隙間δ1の大きさは、例えば0〜0.4mm(第2クラッチ部6の軸心を中心として0〜1.5°)程度、回転方向隙間δ2の大きさは、例えば0.4〜0.8mm(第2クラッチ部6の軸心を中心として1.8〜3.7°)程度である。
【0053】
同図に示す状態で、例えば、出力軸2に時計方向の逆入力トルクが入力されると、反時計方向(回転方向後方)のローラ20がその方向の楔隙間と楔係合して、出力軸2が外輪4に対して時計方向にロックされる。出力軸2に反時計方向の逆入力トルクが入力されると、時計方向(回転方向後方)のローラ20がその方向の楔隙間と楔係合して、出力軸2が外輪4に対して反時計方向にロックされる。従って、出力軸2からの逆入力トルクは、第2クラッチ部6によって正逆両回転方向にロックされる。
【0054】
図17は、外輪1からの入力トルク(同図で時計方向)が第1クラッチ部5を介して内輪3に入力され、内輪3が同図で時計方向に回動を始めた初期状態を示している。回転方向隙間がδ1<δ2に設定されているため、先ず、内輪3の反時計方向(回転方向後方)の柱部3cがその方向(回転方向後方)のローラ20と係合して、これを板ばね21の弾性力に抗して時計方向(回転方向前方)に押圧する。これにより、反時計方向(回転方向後方)のローラ20がその方向の楔隙間から離脱して、出力軸2のロック状態が解除される。従って、出力軸2は時計方向に回動可能となる。
【0055】
内輪3がさらに時計方向に回動すると、図18に示すように、内輪3のピン3b1が出力軸2のピン孔2b3と時計方向に係合する。これにより、内輪3からの時計方向の入力トルクがピン3b1およびピン孔2b3を介して出力軸2に伝達され、出力軸2が時計方向に回動する。外輪1に反時計方向の入力トルクが入力された場合は、上記とは逆の動作で出力軸2が反時計方向に回動する。従って、外輪1からの正逆両回転方向の入力トルクは、第1クラッチ部5、内輪3、およびトルク伝達手段としてのピン3b1およびピン孔2b3を介して出力軸2に伝達され、出力軸2が正逆両回転方向に回動する。尚、内輪3からの入力トルクがなくなると、板ばね21の弾性復元力によって図16に示す中立位置に復帰する。
【0056】
上述した外輪1、出力軸2、内輪3、外輪4、第1クラッチ部5、第2クラッチ部6、固定側板7および摩擦部材9を図1に示す態様でアッセンブリすると、この実施形態のクラッチユニットが完成する。外輪1には例えば樹脂製の操作レバー(13)が結合され、出力軸2は図示されていない出力側機構の回動部材に連結される。また、固定側板7は図示されていないケーシング等の固定部材に加締部7b1で加締固定される。尚、外輪1は、鍔部1cの外側に装着されたワッシャ(又はナット)18と外輪4のフランジ部4aとの間で所定の隙間をもって軸方向の両側に抜け止め規制される。
【0057】
第1クラッチ部5において、センタリングバネ12は外輪1の突出部1a2の内周に収容され、外輪1の一方の端面と外輪4のフランジ部4aとの間で軸方向の両側に抜け止め規制される。また、保持器11およびローラ10は、外輪1の鍔部1cと外輪4のフランジ部4aとの間で軸方向の両側に抜け止め規制される。第1クラッチ部5の保持器11、ローラ10、およびセンタリングバネ12が外輪1の内部に収容されており、入力側部分に突出した部分がない。また、保持器11が内輪3の円周面3a2に外挿され、保持器11の回動が内輪3の円周面3a2によって案内されるので、回動時の保持器11の傾きがなく、円滑なクラッチ動作が可能である。
【0058】
第2クラッチ部6は、外輪4と固定側板7とで囲まれた空間部に径方向および軸方向にコンパクトに収められている。また、ロック解除手段としての柱部3cと、トルク伝達手段としてのピン3b1が内輪3に一体に設けられているので、部品点数が少なく、構造も簡単である。また、柱部3c間のポケット3c1が軸方向の一方(側板7側)に開口した形状であるため、出力軸2、内輪3、外輪4等をアッセンブリした後、ローラ20と板ばね21を、ポケット3c1の軸方向の開口部から該ポケット3c1内に組み入れることができ、組立作業が容易である。
【0059】
さらに、出力軸2を内輪3のラジアル軸受面3a1と固定側板7のラジアル軸受面7e2によって両持ち的に支持する構造であるため、出力軸2の回動動作が安定し、しかも第1クラッチ部5および第2クラッチ部6に偏荷重が作用しにくく、円滑なクラッチ動作が可能である。
【0060】
図19は、自動車の乗員室に装備される座席シート30を示している。座席シート30は着座シート30aと背もたれシート30bとで構成され、着座シート30aの高さHを調整するシート高さ調整装置31、背もたれシート30bの傾斜θを調整するシート傾斜調整装置32、および着座シート30aの前後位置Lを調整するシートスライド調整装置(図示省略)を備えている。着座シート30aの高さHの調整はシート高さ調整装置31の操作レバー31a(図8の操作レバー13に対応)によって行い、背もたれシート30bの傾斜θの調整はシート傾斜調整装置32の操作レバー32aによって行い、着座シート30aの前後位置Lの調整はシートスライド調整装置の操作レバー(図示省略)によって行う。上述した実施形態のクラッチユニットは、例えばシート高さ調整装置31に組込まれる。
【0061】
図20(a)は、シート高さ調整装置31の一構造例を概念的に示している。シートスライドアジャスタ31bのスライド可動部材31b1にリンク部材31c、31dの一端がそれぞれ回動自在に枢着される。リンク部材31cの他端はリンク部材31eを介してセクターギヤ31fに回動自在に枢着される。セクターギヤ31fは着座シート30aに回動自在に枢着され、支点31f1回りに揺動可能である。リンク部材31dの他端は着座シート30aに回動自在に枢着される。上述した実施形態のクラッチユニットXは、固定側板7を介して着座シート30aの適宜の部位に固定され、その外輪1に例えば樹脂製の操作レバー31a(図8、図9における操作レバー13に相当)が結合され、出力軸2にセクターギヤ31fと噛合するピニオンギヤ31gが連結される。
【0062】
例えば、図20(b)において、操作レバー31aを反時計方向(上側)に揺動操作すると、その方向の入力トルクがクラッチユニットXを介してピニオンギヤ31gに伝達され、ピニオンギヤ31gが反時計方向に回動する。そして、ピニオンギヤ31gと噛合するセクターギヤ31fが時計方向に揺動して、リンク部材31cの他端をリンク部材31eを介して引っ張る。その結果、リンク部材31cとリンク部材31dが共に起立して、着座シート30aの座面が高くなる。このようにして、着座シート30aの高さHを調整した後、操作レバー31aを開放すると、操作レバー31aが第1クラッチ部5のセンタリングバネ12の弾性力(弾性復元力)によって時計方向に回動して元の位置(中立位置)に戻る。尚、操作レバー31aを時計方向(下側)に揺動操作した場合は、上記とは逆の動作によって、着座シート31aの座面が低くなる。また、高さ調整後に操作レバー31aを開放すると、操作レバー31aが反時計方向に回動して元の位置(中立位置)に戻る。
【0063】
上記構成のシート高さ調整装置31によれば、操作レバー31aの揺動操作のみで着座シート30aの高さHを調整することができ、しかも、高さ調整後の着座シート30aの高さ位置を自動的に保持することができる。また、高さ調整後に操作レバー31aを開放すると、操作レバー31aを中立位置に自動復帰させることができ、その場合でも復帰時の動作が円滑でラチェット機構のような騒音発生の問題も生じない。さらに、摩擦部材9によって出力軸2に回転方向の制動力を与えているので、操作レバー31aの操作時における逆入力トルクの還流現象がなく(又は少なく)、安定した調整操作が可能である。
【0064】
尚、上述した実施形態のクラッチユニットにおける内輪3に代えて、図21に示す内輪3’を使用しても良い。同図に示す内輪3’は、筒状部3aと、それ以外の部分(フランジ部3b、柱部3c、及びピン3b1からなる部分)とを別体構造とし、両部分をロー付け等の適宜の固着手段で固着したものである。一体構造の内輪3に比べ、比較的低コストでかつ精度良く製造できるという利点がある。
【0065】
図24は、図1中の第2クラッチ部6を省略したクラッチユニットを示すものであり、トルクが入力される入力側部材としての外輪1、トルクが出力される出力側部材としての内輪3、係合子としての複数のローラ10、ローラ10を保持する保持器11、および保持器11に装着されたセンタリングバネ12を主要な要素として構成される。センタリングバネ12は、外径側に突出する一対の係合部12aを備えており、この係合部12aはそれぞれ静止側部材4の係止部4a2や保持器11の被係合部に係合している。
【0066】
外輪1の内周には複数のカム面1dが円周等間隔に形成され、内輪3の外周には円周面3a2が形成される。カム面1dは円周面3a2との間に正逆両方向の楔隙間を形成する形状になっている。また、外輪1の外周には、操作部材13が適宜の手段で装着され、操作部材13から外輪1に入力トルクが入力される。また、内輪3は、図示されていない出力部材に連結される。
【0067】
このクラッチユニットは、図1の第1クラッチ部5と同様の機能を有するもので、外輪1に加えられた入力トルクは楔空間に噛み込んだローラ10を介して内輪3、さらには出力部材に伝達される。この時、保持器11の回動に伴ってセンタリングバネ12が撓んで弾性力が蓄積されるので、外輪1を開放すると、センタリングバネ12の弾性力によって、ローラ10、保持器11、及び外輪1が内輪3に対して空転して中立位置に復帰する一方、内輪3は、回動操作によって与えられた回動位置をそのまま維持する。
【0068】
このクラッチユニットにおいても上述の本発明を適用することができ、保持器11として図22や図23に示すものを使用することにより、耐久性の向上が図られる。
【0069】
【発明の効果】
本発明によれば、シートの位置調整および位置保持と、操作部材の位置復帰とを実現することができ、しかも構造が簡単かつ小型・低コストであり、動作が円滑で、操作時の騒音発生がない座席シート調整装置を備えた座席シートを提供することにある。
【0070】
また、本発明によれば、高い耐久性を有し、かつ組立作業性も良い座席シート調整装置を備えた座席シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係るクラッチユニットを示す縦断面図である。
【図2】外輪(入力側部材)の縦断面図{図2(a)}、正面図{図2(b)}である。
【図3】出力軸(出力側部材)の縦断面図{図3(a)}、正面図{図3(b)}である。
【図4】内輪(制御部材)の正面図{図4(a)}、縦断面図{図4(b)}、部分平面図{図4(c)}である。
【図5】外輪(静止側部材)の正面図{図5(a)}、縦断面図{図5(b)}である。
【図6】固定側板の縦断面図{図6(a)}、正面図{図6(b)}である。
【図7】摩擦部材(制動手段)の縦断面図{図7(a)}、正面図{図7(b)}である。
【図8】第1クラッチ部を示す横断面図{図1のB−B断面}である。
【図9】第1クラッチ部を示す正面図である。
【図10】第1クラッチ部の保持器を示す横断面図{図9(a)}、縦断面図{図9(b)}、正面図{図9(c)}である。
【図11】第1クラッチ部のセンタリングバネを示す側面図{図10(a)}、正面図{図10(b)}、装着図{図10(c)}、拡大断面図{図10(d)}、作動図{図10(e)}である。
【図12】第1クラッチ部の作用を説明する概念図である(中立位置)。
【図13】第1クラッチ部の作用を説明する概念図である(トルク伝達時)。
【図14】第1クラッチ部の作用を説明する概念図である(復帰時)。
【図15】第2クラッチ部を示す横断面図{図1のA−A断面}である。
【図16】第2クラッチ部の作用を説明する部分拡大横断面図である(中立位置)。
【図17】第2クラッチ部の作用を説明する部分拡大横断面図である(ロック解除時)。
【図18】第2クラッチ部の作用を説明する部分拡大横断面図である(トルク伝達時)。
【図19】自動車の座席シートを示す概念図である。
【図20】シート高さ調整装置の一構造例を示す概念図である。
【図21】制御部材(内輪)の他の実施形態を示す正面図{図21(a)}、縦断面図{図21(b)}である。
【図22】保持器の縦断面図{図22(a)}、および(a)図中のP部の拡大図{図22(b)}である。
【図23】保持器の斜視図{図23(a)}、および(a)図中の矢印b方向から見た斜視図{図23(b)}である。
【図24】クラッチユニットの他の実施形態を示す縦断面図{図24(a)}、横断面図{図24(b)}である。
【符号の説明】
1 外輪(入力側部材)
2 出力軸(出力側部材)
2b1 カム面
3 内輪(制御部材)
4 外輪(静止側部材)
5 第1クラッチ部
6 第2クラッチ部
7 固定側板
9 摩擦部材(制動手段)
10 ローラ(係合子)
11 保持器
11a ポケット
11a’小ポケット
11b1 被係合部
11b2 被係合部
11c 端面
11d1 切欠き部
11d2 切欠き部
12 センタリングバネ(弾性部材)
Claims (8)
- 着座シートと、背もたれシート、座席シート調整装置とを有する座席シートにおいて、
座席シート調整装置は、その操作レバーと回動部材との間に介装されるクラッチユニットを有し、
前記クラッチユニットは、前記操作レバーに結合される入力側部材と、前記回動部材に連結される出力側部材と、回転が拘束される静止側部材と、前記入力側部材と出力側部材との間のトルク伝達経路に介在する制御部材と、前記入力側部材と制御部材との間に設けられた第1クラッチ部と、前記静止側部材と出力側部材との間に設けられた第2クラッチ部とを備え、
前記第1クラッチ部は、前記入力側部材からの入力トルクに対して前記入力側部材と制御部材とをロックするロック手段と、前記入力側部材が解放されたときに前記入力側部材を入力トルクが入力される前の中立位置に復帰させる復帰手段とを備え、前記ロック手段は、前記入力側部材に設けられたカム面と、前記制御部材に設けられた円周面と、前記カム面と前記円周面との間に介在する係合子とを備え、前記カム面は前記円周面との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成し、前記復帰手段は、前記係合子を保持する保持器と、該保持器を前記静止側部材に回転方向に連結する弾性部材とを有し、
前記保持器は、軸方向の切欠き部を形成することにより円周方向の離隔位置に形成された一対の被係合部と、前記係合子を保持するポケットを有し、
前記静止側部材は、軸方向に突出した一対の係止部を有し、
前記弾性部材は、軸方向の位置ずれをもつ一対の係合部を有し、前記入力側部材の正逆両回転に応じて一方の係合部を前記保持器の一方の被係合部に、他方の係合部を前記静止側部材の一方の係止部にそれぞれ円周方向で係合させ、
前記保持器に設けられた一対の被係合部のうち、前記弾性部材の保持器端面側に位置する係合部と係合する一方の被係合部の基端部が軸方向で厚肉化されていることを特徴とする座席シート。 - さらに、前記弾性部材の保持器中央側に位置する係合部と係合する他方の被係合部の基端部が軸方向で厚肉化されていることを特徴とする請求項1記載の座席シート。
- 前記一方の被係合部を形成する切欠き部の底を、前記他方の被係合部を形成する切欠き部の底よりも保持器端面側に配置することにより前記厚肉化を行った請求項1又は2記載の座席シート。
- 前記他方の被係合部の基端部近傍でポケットを省略することにより前記厚肉化を行った請求項2又は3記載の座席シート。
- 前記他方の被係合部の基端部近傍でポケットの軸方向寸法を小さくすることにより前記厚肉化を行った請求項2又は3記載の座席シート。
- 前記保持器にころ落ち止めを設けた請求項1から5の何れか記載の座席シート。
- 前記第2クラッチ部が、前記出力側部材からの逆入力トルクに対して出力側部材と静止側部材とをロックするロック手段と、前記入力側部材からの入力トルクに対して該ロック手段によるロック状態を解除するロック解除手段と、該ロック手段によるロック状態が解除された状態のときに入力トルクを前記出力側部材に伝達するトルク伝達手段とを備えている請求項1から6の何れか記載の座席シート。
- 前記座席シート調整装置は、着座シートのシート高さ調整装置である請求項1から7の何れか記載の座席シート。
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