JP4223207B2 - 座席シート - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車の乗員室等に装備される座席シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、自動車の着座シートのシート高さ調整装置では、着座シートからの荷重(シート自重および着座者の体重等)を支持するためのブレーキ部を出力側機構に設け、このブレーキ部の入力軸に操作部材から正方向または逆方向の入力トルクを入力することによって着座シートの高さ調整を行うと共に、操作部材を開放した状態での着座シートの位置をブレーキ部で保持することによって上記の保持機能を実現している。この場合、操作部材としてノブ(円形状の握り)を使用し、ノブの回転操作によってブレーキ部に入力トルクを入力する構造にしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来のシート高さ調整装置では、着座シートと車体との間の狭い間隔部に手を入れてノブを回転操作する必要があり、操作上の不便さがあると同時に、上記の間隔部を確保するために車体や座席シートの設計に制約が生じるという問題点がある。そこで、本出願人は、先の特許出願(特願2000−240213号)において、入出力間のトルク伝達経路に介在する制御部材と入力側部材との間に第1クラッチ部を設けると共に、回転が拘束される静止側部材と出力側部材との間に第2クラッチ部を設け、入力側部材からの入力トルクを第1クラッチ部および制御部材を介して出力側部材に伝達し、出力側部材からの逆入力トルクを第2クラッチ部を介して静止側部材との間でロックするように構成したクラッチユニットを提案した。このクラッチユニットによれば、上記の問題点を解消できる。
【0004】
ところで、このクラッチユニットによれば、第2クラッチ部等の一端側を覆うと共に座席シート側部材への取付けに供するため等の理由により、静止側部材の一端部に固定側板が取付けられる。この静止側部材と固定側板とを固定する手法としては、溶接によるか、あるいはネジ止めによることが考えられる。しかしながら、溶接による場合には、製作費用が高騰する上、静止側部材の熱変形がクラッチ機能を阻害し、さらには使用グリースが変質するという問題がある。また、ネジ止めによる場合には、静止側部材がクラッチ機能に関与するため高硬度であり、ネジ孔等の孔加工が困難である上、加工や製作に要する手間および時間が多大であり、しかも固定側板の背面側にネジ頭部やナット等が突出していたのでは座席シート側部材への取付けに支障を来すという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、第2クラッチ部を構成する静止側部材と座席シート側部材に取付けられる固定側板とを確実に固定して、クラッチ機能を正常に維持できると共に、静止側部材の熱変形によるクラッチ機能の阻害や熱による使用グリースの変質を回避でき、また、加工や製作を容易化でき、しかも相手側部材への取付けに支障を来さないクラッチユニットを備えた座席シートを提供することを技術的課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を達成するため、本発明は、着座シートと、背もたれシートと、座席シート調整装置とを有する座席シートにおいて、座席シート調整装置は、その操作レバーと回動部材との間に介装されるクラッチユニットを有し、クラッチユニットは、操作レバーに結合される入力側部材と、回動部材に連結される出力側部材と、入力側部材と出力側部材との間のトルク伝達経路に介在する制御部材と、回転が拘束される静止側部材と、入力側部材と制御部材との間に設けられた第1クラッチ部と、静止側部材と出力側部材との間に設けられた第2クラッチ部と、静止側部材に加締め固定された固定側板とを備え、入力側部材からの入力トルクを第1クラッチ部および制御部材を介して出力側部材に伝達し、出力側部材からの逆入力トルクを第2クラッチ部を介して静止側部材との間でロックするように構成され、第2クラッチ部は、静止側部材に設けられた円周面と、出力側部材に設けられたカム面と、円周面と前記カム面との間に介在する係合子とを備え、静止側部材は、内周に前記円周面が形成された筒状部と、該筒状部の一端から外径側に突出した鍔部とを備え、静止側部材の鍔部に切欠き部が形成されていると共に、固定側板に加締部が形成され、静止側部材の切欠き部は、円周方向に相対向する一対の壁面を有し、該一対の壁面は相互間の間隔を一定に保ちながら外周側に延びて鍔部の外周縁に至り、固定側板の加締部は、該固定側板の外周縁部から軸方向に連続した基端部と、該基端部から二股状に分岐した一対の爪部とを備え、前記基端部が静止側部材の切欠き部に係合された状態で、前記一対の爪部が円周方向の相反する方向に折り曲げられて静止側部材の鍔部の一面に当接し、かつ、固定側板が静止側部材の鍔部の他面に当接することにより、固定側板と前記静止側部材とが加締め固定されていることに特徴づけられる。
【0007】
このように静止側部材と固定側板とを固定する手法として加締めを採用することにより、加工製作費用が安価になると共に、溶接による場合のような熱変形に起因するクラッチ機能の阻害や使用グリースの変質等の問題が生じなくなる。しかも、固定側板の背面側に不要な突出部が存在しないように加締め固定を行えるので、クラッチユニットを固定側板を介して相手側部材(例えば座席シート側部材)に取付ける際には、邪魔になる部位が存在しなくなり、確実且つ適切な取付けを行うことができる。
【0008】
また、固定側板の加締部の基端部を静止側部材の切欠き部に係合させた状態で、一対の爪部を円周方向の相反する方向に折り曲げて静止側部材に当接させることにより、固定側板と静止側部材とを加締め固定しているので、加締め作業を容易化できると共に、固定側板と静止側部材との間の軸方向移動および円周方向移動が規制され、両者の確実な固定状態が得られる。
【0009】
また、加締部の一対の爪部を円周方向の相反する方向に折り曲げて静止側部材に当接させているので、静止側部材に対して径方向の応力が作用せず、静止側部材に変形が生じ難く、第2クラッチ部のクラッチ機能を正常に維持できる。
【0013】
上記の切欠き部および加締部は、静止側部材および固定側板のそれぞれの円周方向複数箇所に設けられていることが好ましい。この場合、切欠き部および加締部を円周方向等配位置に設けることにより、全周に亘って均一な固定状態が得られる。
【0014】
そして、静止側部材は焼入れ鋼で形成され、固定側板は非焼入れ鋼で形成されていることが好ましい。すなわち、静止側部材はクラッチ機能に関与するものであることによる高硬度な材質とされ、固定側部材は加締部を折り曲げ可能な材質とされる。
【0015】
また、上記の固定側板には、座席シート側部材に加締め固定するための第2の加締部が形成されていることが好ましい。このように構成すれば、上記クラッチユニットの座席シートへの取付けが、作業の煩雑を招くことなく安価に行えることになる。
【0016】
上記の座席シート調整装置には、着座シートの高さを調整するシート高さ調整装置、背もたれシートの傾斜を調整するシート傾斜調整装置、着座シートの前後位置を調整するシートスライド調整装置が含まれるが、本発明は、着座シートのシート高さ調整装置に特に好適である。この構成によれば、着座シートの高さ調整を操作レバーの揺動操作によって行うことが可能になるので、従来装置に比べて操作上の利便性が増すと同時に、車体や座席シートの設計自由度を高めることができ、特に小型車や大衆車のシート高さ調整装置に極めて有用である。
上記のシート高さ調整装置は、着座シートをスライド可動部材に対して昇降自在に支持する四節リンク機構と、着座シートに回動自在に枢着され、四節リンク機構にリンク部材を介して連結されるセクターギヤと、クラッチユニットの出力側部材に連結され、セクターギヤと噛合するピニオンギヤとを備えたものとすることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車の座席シートのシート高さ調整装置(31:図21及び図22参照)に組み込まれるクラッチユニットの全体構成を示している。この実施形態のクラッチユニットは、入力側部材としての外輪1と、出力側部材としての出力軸2と、制御部材としての内輪3と、静止側部材としての外輪4と、外輪1と内輪3との間に設けられた第1クラッチ部5と、外輪4と出力軸2との間に設けられた第2クラッチ部6とを主要な要素として構成される。
【0019】
図2は、入力側部材としての外輪1を示している。外輪1の外周には、外径側に突出した複数(例えば3つ)のリブ1aと、複数(例えば4つ)のリブ1bと、複数(例えば2つ)のリブ1eと、1つ又は複数のリブ1fが円周方向に所定間隔で形成される。リブ1aの軸方向一端側部分は外輪1の一端から軸方向に突出して、突出部1a2を形成する。また、3つのリブ1aのうち何れか1つ、例えば同図で上側に位置するリブ1aの外周に、このクラッチユニットを相手側部材に取付ける際の方向識別に用いる識別マーク1a1が設けられている。この実施形態において、識別マーク1a1は軸方向溝の形態をなしている。これらリブ1a、1b、1eおよび1fは、外輪1の外周に装着される操作レバー(13:図10、図11参照)と回転方向に係合して、操作レバー(13)の外輪1に対する相対回転を防止する。
【0020】
リブ1bには、軸方向のねじ孔1b1が形成される。操作レバー(13)の外輪1に対する軸方向相対移動は、リブ1bのねじ穴1b1に操作レバー(13)をねじ結合することによって防止される。図11に示すように、この実施形態では、右ハンドル車や左ハンドル車、車体や座席シートの設計等に応じて、クラッチユニットおよび操作レバー(13)を座席シートの左右いずれの側にも配置可能とするため、外輪1を同図におけるY軸に対して左右対称形状にして、操作レバー(13)を左右いずれの向きにも装着できるようにしている。この場合、操作レバー(13)の操作トルクは主に180°対向した位置にある2つのリブ1bのねじ結合部分に作用するので、これらの2つのリブ1bにのみねじ穴1b1を形成し、残りの2つのリブ1bにはねじ穴1b1を加工する際の下穴(貫通穴)をそのまま残しておいても良い。これにより、ねじ穴加工の加工コストを低減することができる。例えば、操作レバー(13)を同図で右向きに装着する場合(実線)は、同図でY軸に対して右方向に傾斜した傾斜線上に位置する2つのリブ1bにねじ穴1b1を形成し、左方向に傾斜した傾斜線上に位置する2つのリブ1bは下穴1b1’にする。操作レバー(13)を同図で右向きに装着する場合(2点鎖線)は、上記とは逆にする。勿論、4つのリブ1bに全てねじ穴1b1を形成しても良い。
【0021】
突出部1a2の内周には、後述する第1クラッチ部(5)のセンタリングバネ(12:図13参照)が収容される。また、突出部1a2が後述する外輪(4:図5参照)のストッパ部(4a1)と回転方向に係合することによって、外輪1の回動範囲が規制される。
【0022】
外輪1の他端部内周には、内径側に延びた鍔部1cが形成される。この鍔部1cは、後述する第1クラッチ部(5)の保持器(11:図1、図12参照)を軸方向の一方に抜け止め規制すると共に、外輪1の内輪3に対する同軸性を保持する役割を持つ。また、外輪1の内周には、複数(例えば10個)のカム面1dが円周方向に等間隔で形成される。各カム面1dは、円周方向中央部が深く、そこから円周方向両側に向かって傾斜状に浅くなっている。
【0023】
外輪1は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、外輪1を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、少なくともカム面1dにおける表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。ここで、HRCはロックウェル硬さのCスケールを表している。なお、外輪1は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
【0024】
図3は、出力側部材としての出力軸2を示している。出力軸2は、一端側にジャーナル部2a、中央側に大径部2b、他端側に連結部2cを備えている。ジャーナル部2aは、後述する内輪(3:図4参照)のラジアル軸受面(3a1)に挿入される。大径部2bの外周には、複数(例えば8つ)のカム面2b1が円周方向に等間隔で形成される。各カム面2b1は、出力軸2の軸心を中心とする円に対して弦をなす平坦面状に形成される。また、大径部2bの一端側部分には軸方向の複数(例えば8つ)のピン孔2b3が円周所定間隔に形成される。これらピン孔2b3には後述する内輪(3:図4参照)のピン(3b1)が挿入される。また、大径部2bの他端側部分には環状凹部2b4が形成される。この環状凹部2b4には後述する摩擦部材(9:図9参照)が装着され、また、環状凹部2b4の内周壁2b5は、後述する固定側板(7:図6参照)のラジアル軸受面(7e2)に挿入されるジャーナル面になる。連結部2cには、他の回動部材を連結するための歯型2c1が形成される。
【0025】
出力軸2は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、出力軸2を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。なお、出力軸2は、鋼材の削出し品とすることもできる。
【0026】
図4は、制御部材としての内輪3を示している。内輪3は、筒状部3aと、筒状部3aの一端から外径側に延びたフランジ部3bと、フランジ部3bの外径端から軸方向の一方に延びた複数(例えば8本)の柱部3cとを主体として構成される。筒状部3aは、出力軸2のジャーナル部2aに外挿され、かつ、外輪1の内部に内挿される。筒状部3aの他端側部分の内周には、出力軸2のジャーナル部2aをラジアル方向に支持するラジアル軸受面3a1が形成され、筒状部3aの他端側部分の外周には、外輪1のカム面1dとの間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する円周面3a2が形成される。フランジ部3bには、軸方向の一方に突出した複数(例えば8つ)のピン3b1が円周方向に所定間隔で形成される。これらピン3b1は、出力軸2のピン孔2b3にそれぞれ挿入される。また、円周方向に隣接した柱部3c間には、軸方向の一方に向かって開口したポケット3c1が形成され、これらポケット3c1に後述する第2クラッチ部(6:図17参照)のローラ(20)と板ばね(21)が収容される。ローラ(20)と板ばね(21)を、ポケット3c1の軸方向の開口部から該ポケット3c1内に組み入れることができるので、組立作業が容易である。
【0027】
内輪3は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、内輪3を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。なお、内輪3は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
【0028】
図5は、静止側部材としての外輪4を示している。外輪4は、半径方向に延びたフランジ部4aと、フランジ部4aの外径端から軸方向の一方に延びた筒状部4cと、筒状部4cの一端から外径側に突出した鍔部4dとを主体として構成される。フランジ部4aには、軸方向の他方に突出した複数(例えば3つ)のストッパ部4a1が円周方向に所定間隔で配列形成される。これらストッパ部4a1は、外輪1の突出部1a2と回転方向に係合して、外輪1の回動範囲を規制する。また、フランジ部4aには、軸方向の他方に突出した一対の係止部4a2と、複数(例えば2つ)の装着部4a3とが形成される。一対の係止部4a2の円周方向外側面には、後述する第1クラッチ部(5)のセンタリングバネ(12:図13参照)の係合部(12a1、12a2)がそれぞれ係止される。また、装着部4a3の外周には、センタリングバネ(12)の巻き部(12a)が装着される。
【0029】
筒状部4cの内周には、出力軸2のカム面2b1との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する円周面4c1が形成される。鍔部4dには、複数(例えば6つ)の切欠き部4d1が円周方向に所定間隔で形成される。切欠き部4d1は、後述する固定側板(7)の加締部(7c:図6参照)と適合する。
【0030】
外輪4は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、外輪4を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM420)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さを57〜62HRCに調整している。なお、外輪4は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
【0031】
図6は、外輪4に固定される固定側板7を示している。固定側板7は、半径方向に延びたフランジ部7aと、フランジ部7aの外径端から外径側に突出した複数(例えば4つ)のブラケット部7bと、フランジ部7aの外径端から軸方向の一方に突出した複数(例えば6つ)の加締部7cと、フランジ部7aから軸方向の一方に突出した複数(例えば4つ)の係止部7a1と、フランジ部7aの内径端から軸方向の一方に突出したボス部7eとを主体として構成される。4つのブラケット部7bは円周方向に所定間隔で形成され、それぞれに中空ピン状の第2の加締部7b1が一体(又は別体)に形成される。6つの加締部7cは円周方向に所定間隔で形成され、それぞれ、二股状に分岐した一対の爪部7c1を備えている。なお、第2の加締部7b1は、相手側部材(例えば後述する座席シート30側の部材)の取付け穴に加締固定される。
【0032】
ボス部7eの内周には、ラジアル軸受面7e2が形成される。ボス部7eは出力軸2の環状凹部2b4に挿入され、ボス部7eの外周と環状凹部2b4の外周壁との間に後述する摩擦部材(9:図9参照)が装着される。係止部7a1は摩擦部材(9)の凹部(9a)と回転方向に係合して、摩擦部材(9)の固定側板7に対する相対回転を防止する。ボス部7eのラジアル軸受面7e2は、環状凹部2b4のジャーナル面2b5に外挿され、ジャーナル面2b5をラジアル方向に支持する。
【0033】
固定側板7は、例えば、冷間圧延鋼鈑等の鋼鈑材からプレス加工によって成形される。この実施形態では、固定側板7を形成する鋼板材として冷間圧延鋼鈑(例えばSPCE)を使用している。また、加締部7c及び7b1を加締加工する際の加工性等に配慮して、熱処理は施していない。なお、加締部7c及び7b1等の加締加工を行う部位に防炭処理(又は防炭防窒処理)を施して、浸炭焼入れ焼戻し(又は浸炭窒化焼入れ焼戻し)を行っても良い。
【0034】
図7は、静止側部材としての外輪4と固定側板7とを加締め固定した状態を示している。同図(a),(c)に示すように、固定側板7に形成された加締部7cの基端部が、外輪4の切欠き部4d1に係合された状態で、加締部7cの先端に形成された一対の爪部7c1が、円周方向の相反する方向に折り曲げられて外輪4の鍔部4dに当接することにより、加締め固定がなされている。これにより、固定側板7に対する外輪4の軸方向相対移動および円周方向相対移動が阻止されている。
【0035】
この状態の下では、同図(b)に示すように、外輪4(鍔部4d)の外径端面と、固定側板7(加締部7c)の外径端面とが略面一状態となっており、この両部材4,7の固定状態での外径端には、全周に亘って径方向の凸部が存在していない。しかも、加締め部7cは固定側板7の前面側(同図(a)の左側)に突出しているので、固定側板7の背面側には不要な突出部が存在していない。これにより、クラッチユニットの相手側部材への取付けを支障なく円滑に行うことができる。
【0036】
このように、加締部7c(一対の爪部7c1)を外輪4の円周方向に折り曲げることにより、外輪4には径方向の応力が作用せず、したがって外輪4の径方向に対する変形が生じなくなるため、外輪4の内周面の真円度に加締めによる狂いが発生することを防止でき、第2クラッチ部6のクラッチ機能を正常に維持できる。また、加締部7cが切欠き部4d1に係合された状態で一対の爪部7c1が折り曲げられているため、この爪部7c1を折り曲げるだけで、固定側板7の外輪4に対する軸方向移動と円周方向移動との両移動が規制されることになり、固定状態が確実化されると共に、作業の簡略化および作業能率の向上が図られる。
【0037】
図8は、静止側部材としての外輪4と固定側板7とを加締め固定した状態の他の例を示している。同図(a),(c)に示すように、固定側板7の外径端に外径側に突出して形成された加締め部7cxが、外輪4の鍔部4dの外径端を挟み込む状態になるように内径側に折り曲げられることにより、加締め固定がなされている。この場合、加締め部7cxは、鍔部4の外径端面および前面に当接している。これにより、固定側板7に対する外輪4の軸方向相対移動が阻止されている。そして、図示しないが、外輪4の鍔部4dの外径端部または固定側板7の外径端部の何れか一方に切欠き部が形成され、他方に突部が形成されており、この切欠き部と突部とが係合して、固定側板7に対する外輪4の円周方向相対移動が阻止されている。なお、この実施形態では、同図(b)に示すように、加締め部7cxが固定側板7の外径端からその肉厚分だけ外径側に突出しているが、外輪4の鍔部4dの外径端部に切欠き部を形成して、この切欠き部に加締め部7cxを係合させることにより、加締め部7cxが固定側板7の外径側に突出しない構造としてもよい。
【0038】
図9は、制動手段としての摩擦部材9を示している。この実施形態において、摩擦部材9はリング状のもので、その一方の端面には複数(例えば4つ)の凹部9aが円周方向に所定間隔で形成される。凹部9aは、固定側板7の係止部7a1と回転方向に係合して、摩擦部材9の固定側板7に対する相対回転を防止する。
【0039】
摩擦部材9は、ゴムや合成樹脂等の弾性材料で形成され、例えば出力軸2の環状凹部2b4の外周壁に締代をもって圧入される。摩擦部材9の外周と環状凹部2b4の外周壁との間に生じる摩擦力によって、出力軸2に回転方向の制動力(摩擦制動力)が与えられる。この制動力(制動トルク)の大きさは、出力軸2に入力される逆入力トルクの大きさを勘案して適宜設定すれば良いが、逆入力トルクの還流現象を効果的に防止する観点から、想定される逆入力トルクと同程度の大きさに設定するのが好ましい。シート高さ調整装置の場合では、着座シートに着座者が着座した状態で出力軸2に作用する逆入力トルクと同程度の大きさに設定するのが良い。この実施形態のように、制動手段として摩擦部材9を用いると、制動力を摩擦部材9の締代調整によって設定し、また変更できるという利点がある。
【0040】
摩擦部材9の材質は特に問わないが、この実施形態では、摩擦部材9を合成樹脂材料、例えばポリアセタール(POM)にグラスファイバーを30重量%配合した合成樹脂材料の射出成形品としている。
【0041】
図10(図1のB−B断面)は、第1クラッチ部5を示している。第1クラッチ部5は、外輪1に設けられた複数(例えば10個)のカム面1dと、内輪3に設けられた円周面3a2と、カム面1dと円周面3a2との間に介在する係合子としての複数(例えば9個)のローラ10と、ローラ10を保持する保持器11と、保持器11を外輪(4)に回転方向に連結する弾性部材、例えばセンタリングバネ(12:図13参照)とを主要な要素として構成される。カム面1d、円周面3a2、及びローラ10によってロック手段が構成され、保持器11およびセンタリングバネ(12)によって復帰手段が構成される。この実施形態において、カム面1dは円周面3a2との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する。また、外輪1には操作レバー13が結合され、操作レバー13から外輪1に正方向又は逆方向の入力トルクが入力される。また、外輪1の内周と内輪3(筒状部3a)の外周との間の空間部、特にカム面1dと円周面3a2との間にグリースが封入されている。
【0042】
図12は、保持器11を示している。保持器11は、ローラ10を収容する複数(例えば10個)の窓形のポケット11aと、一方の端面から軸方向の一方に突出した係止部11bを備えている。係止部11bは例えば円弧状に形成され、外輪4の係止部4a2の内周側に挿入される。また、係止部11bの円周方向両側面11b1、11b2には、センタリングバネ(12:図13参照)の係合部(12a1、12a2)がそれぞれ係止される。
【0043】
保持器11の材質は特に問わないが、この実施形態では、保持器11を合成樹脂材料、例えばポリアミド66(PA66)にグラスファイバーを30重量%配合した合成樹脂材料の射出成形品としている。
【0044】
なお、この実施形態では、係止部11bの円周方向側面11b1および11b2のうち一方と近接するポケット11a’の軸方向寸法を他のポケット11aよりも小さくしている。
【0045】
図13は、センタリングバネ12を示している。センタリングバネ12は、複数の巻き部12aと、内径側に屈曲した両端の係合部12a1、12a2を備えている。係合部12a1、12a2は、円周方向に所定間隔で相対向する。センタリングバネ12は例えば角形線材で形成され、この実施形態では、線材としてピアノ線材(SWPB)を使用している。角形線材を用いることにより、同一の内外径に対して、大きなバネ力を得ることができる。また、各巻き部12aの相互間に隙間を設けることにより、巻き部12a同士の接触による摩擦損失を回避してバネ力の増大を図っている。
【0046】
図13(b)に示す自然状態において、センタリングバネ12の各巻き部12aの巻き中心は、同図における横軸方向に互いにオフセットされている。同図に示す例では、各巻き部12aの巻き中心が奥部側(係合部12a2の側)から手前側(係合部12a1の側)にかけて、漸次、横軸左方向にオフセットされている。
【0047】
図13(c)に示すように、センタリングバネ12は、係合部12a1、12a2間の間隔を自然状態から円周方向に押し広げて(この時、センタリングバネ12は若干拡径する。)、外輪4の係止部4a2および保持器11の係止部11bに係止する。これにより、保持器11がセンタリングバネ12を介して外輪4に回転方向に連結される。上記のオフセットを設けているため、係合部12a1、12a2を外輪4の係止部4a2および保持器11の係止部11bに係止した状態で、すなわち、センタリングバネ12を所定量拡径させた状態で、各巻き部12aの巻き中心が一致して、巻き部12aが略同心円状になる。
【0048】
例えば、保持器11が図13(e)で外輪4に対して時計方向に相対回転すると、センタリングバネ12の時計方向(回転方向前方)の係合部12a1が保持器11の係止部11bに押されて時計方向に弾性変位する{反時計方向(回転方向後方)の係合部12a2は外輪4の係止部4a2に係止される。}。これにより、センタリングバネ12は一対の係合部12a1、12a2間の間隔が押し広げられる方向(拡径する方向)に撓み、その撓み量に応じた弾性力が蓄積される。なお、上記のオフセットを設けているため、センタリングバネ12が同図に示す状態に拡径した場合でも、外輪1の突出部1a2との干渉は起こらない。また、保持器11が同図で反時計方向に相対回転した場合も、上記とは逆の動作によってセンタリングバネ12に弾性力が蓄積される。
【0049】
次に、図14〜図16を参照しながら、第1クラッチ部5の作用について説明する。なお、図14〜図16において、センタリングバネ12および外輪4は模式化され、概念的に示されている。また、操作レバー13も記載が省略されている。
【0050】
図14は、第1クラッチ部5の中立位置を示している(図10に示す状態)。中立位置において、ローラ10はカム面1dの中央部に位置し、カム面1dと円周面3a2との間に形成される正逆両回転方向の楔隙間からそれぞれ離脱する。ローラ10の直径は、カム面1dの中央部と円周面3a2との間の半径方向距離よりも若干小さく設定されており、ローラ10とカム面1dの中央部および円周面3a2との間には半径方向隙間がある。なお、後述するように、出力軸2から入力される逆入力トルクは第2クラッチ部6で正逆両回転方向にロックされる。従って、内輪3は、操作レバー13(外輪1)から入力される入力トルクに対してのみ回動動作を行い、出力軸2から逆入力トルクが入力されても回動せず、その位置を保持する。
【0051】
図15は、操作レバー13を揺動操作して、外輪1に入力トルクを入力した時の状態を示している。例えば、同図において、外輪1に反時計方向の入力トルクが入力されると、外輪1の回動に伴い、カム面1dがローラ10に対して反時計方向に相対移動して、ローラ10がその方向の楔隙間に楔係合する。これにより、外輪1からの入力トルクがローラ10を介して内輪3に伝達され、外輪1、ローラ10、保持器11、および内輪3が一体となって反時計方向に回動する。そして、保持器11の回動に伴ってセンタリングバネ12が撓み、その撓み量に応じた弾性力fが蓄積される。なお、外輪1の回動量の最大範囲は、外輪1の突出部1a2と外輪4のストッパ部4a1との係合によって規制される。
【0052】
図16は、図15に示す状態から操作レバー13(外輪1)を開放した時の状態を示している。センタリングバネ12に蓄積された弾性力fによって、保持器11に時計方向の回動力が働き、ローラ10が保持器11に押されてカム面1dを押圧する。そうすると、外輪1が開放されているので、ローラ10、保持器11、および外輪1が内輪3に対して時計方向に空転して、図14に示す中立位置に復帰する。その際、内輪3は、図15の回動操作によって与えられた回動位置をそのまま維持する。従って、図15の回動操作を繰り返し行った場合では、内輪3に各回動操作ごとの回動量が重畳的に蓄積される。なお、図14において、外輪1に時計方向の入力トルクが入力された場合は、上記とは逆の動作を行う。
【0053】
図17(図1のA−A断面)は、第2クラッチ部6を示している。第2クラッチ部6は、外輪4に設けられた円周面4c1と、出力軸2に設けられた複数(例えば8つ)のカム面2b1と、各カム面2b1と円周面4c1との間に介在する係合子としての一対(例えば総数8対)のローラ20と、一対のローラ20間に介在する弾性部材、例えば断面N字形の板バネ21と、内輪3の柱部3cと、内輪3のピン3b1および出力軸2のピン孔2b3とを主要な要素として構成される。カム面2b1、円周面4c1、一対のローラ20、および板ばね21によってロック手段が構成され、一対のローラ20の円周方向両側に位置する内輪3の柱部3cによってロック解除手段が構成され、内輪3のピン3b1および出力軸2のピン孔2b3によってトルク伝達手段が構成される。なお、この実施形態において、板バネ21はステンレス鋼(例えばSUS301CPS−H)で形成し、熱処理としてテンパー処理を施している。また、外輪4の内周と出力軸2(大径部2b)の外周との間の空間部、特にカム面2b1と円周面4c1との間にグリースが封入されている。
【0054】
図18に拡大して示すように、中立位置において、一対のローラ20は板ばね21によって、それぞれ、カム面2b1と円周面4c1との間に形成される正逆両回転方向の楔隙間の方向に押圧される。この時、内輪3の各柱部3cと各ローラ20との間にはそれぞれ回転方向隙間δ1が存在する。また、内輪3のピン3b1と出力軸2のピン孔2b3との間には正逆両回転方向にそれぞれ回転方向隙間δ2が存在する。回転方向隙間δ1と回転方向隙間δ2とは、δ1<δ2の関係を有する。回転方向隙間δ1の大きさは、例えば0〜0.4mm(第2クラッチ部6の軸心を中心として0〜1.5°)程度、回転方向隙間δ2の大きさは、例えば0.4〜0.8mm(第2クラッチ部6の軸心を中心として1.8〜3.7°)程度である。
【0055】
同図に示す状態で、例えば、出力軸2に時計方向の逆入力トルクが入力されると、反時計方向(回転方向後方)のローラ20がその方向の楔隙間と楔係合して、出力軸2が外輪4に対して時計方向にロックされる。出力軸2に反時計方向の逆入力トルクが入力されると、時計方向(回転方向後方)のローラ20がその方向の楔隙間と楔係合して、出力軸2が外輪4に対して反時計方向にロックされる。従って、出力軸2からの逆入力トルクは、第2クラッチ部6によって正逆両回転方向にロックされる。
【0056】
図19は、外輪1からの入力トルク(同図で時計方向)が第1クラッチ部5を介して内輪3に入力され、内輪3が同図で時計方向に回動を始めた初期状態を示している。回転方向隙間がδ1<δ2に設定されているため、先ず、内輪3の反時計方向(回転方向後方)の柱部3cがその方向(回転方向後方)のローラ20と係合して、これを板ばね21の弾性力に抗して時計方向(回転方向前方)に押圧する。これにより、反時計方向(回転方向後方)のローラ20がその方向の楔隙間から離脱して、出力軸2のロック状態が解除される。従って、出力軸2は時計方向に回動可能となる。
内輪3がさらに時計方向に回動すると、図20に示すように、内輪3のピン3b1が出力軸2のピン孔2b3と時計方向に係合する。これにより、内輪3からの時計方向の入力トルクがピン3b1およびピン孔2b3を介して出力軸2に伝達され、出力軸2が時計方向に回動する。外輪1に反時計方向の入力トルクが入力された場合は、上記とは逆の動作で出力軸2が反時計方向に回動する。従って、外輪1からの正逆両回転方向の入力トルクは、第1クラッチ部5、内輪3、およびトルク伝達手段としてのピン3b1およびピン孔2b3を介して出力軸2に伝達され、出力軸2が正逆両回転方向に回動する。なお、内輪3からの入力トルクがなくなると、板ばね21の弾性復元力によって図18に示す中立位置に復帰する。
【0057】
上述した外輪1、出力軸2、内輪3、外輪4、第1クラッチ部5、第2クラッチ部6、固定側板7および摩擦部材9を図1に示す態様でアッセンブリすると、この実施形態のクラッチユニットが完成する。外輪1には例えば樹脂製の操作レバー(13)が結合され、出力軸2は図示されていない出力側機構の回動部材に連結される。また、固定側板7は図示されていないケーシング等の固定部材に加締部7b1で加締固定される。なお、外輪1は、鍔部1cの外側に装着されたワッシャ(又はナット)18と外輪4のフランジ部4aとの間で所定の隙間をもって軸方向の両側に抜け止め規制される。
【0058】
第1クラッチ部5において、センタリングバネ12は外輪1の突出部1a2の内周に収容され、外輪1の一方の端面と外輪4のフランジ部4aとの間で軸方向の両側に抜け止め規制される。また、保持器11およびローラ10は、外輪1の鍔部1cと外輪4のフランジ部4aとの間で軸方向の両側に抜け止め規制される。第1クラッチ部5の保持器11、ローラ10、およびセンタリングバネ12が外輪1の内部に収容されており、入力側部分に突出した部分がない。また、保持器11が内輪3の円周面3a2に外挿され、保持器11の回動が内輪3の円周面3a2によって案内されるので、回動時の保持器11の傾きがなく、円滑なクラッチ動作が可能である。
【0059】
第2クラッチ部6は、外輪4と固定側板7とで囲まれた空間部に径方向および軸方向にコンパクトに収められている。また、ロック解除手段としての柱部3cと、トルク伝達手段としてのピン3b1が内輪3に一体に設けられているので、部品点数が少なく、構造も簡単である。また、柱部3c間のポケット3c1が軸方向の一方(側板7側)に開口した形状であるため、出力軸2、内輪3、外輪4等をアッセンブリした後、ローラ20と板ばね21を、ポケット3c1の軸方向の開口部から該ポケット3c1内に組み入れることができ、組立作業が容易である。
【0060】
さらに、出力軸2を内輪3のラジアル軸受面3a1と固定側板7のラジアル軸受面7e2によって両持ち的に支持する構造であるため、出力軸2の回動動作が安定し、しかも第1クラッチ部5および第2クラッチ部6に偏荷重が作用しにくく、円滑なクラッチ動作が可能である。
【0061】
図21は、自動車の乗員室に装備される座席シート30を示している。座席シート30は着座シート30aと背もたれシート30bとで構成され、着座シート30aの高さHを調整するシート高さ調整装置31、背もたれシート30bの傾斜θを調整するシート傾斜調整装置32、および着座シート30aの前後位置Lを調整するシートスライド調整装置(図示省略)を備えている。着座シート30aの高さHの調整はシート高さ調整装置31の操作レバー31aによって行い、背もたれシート30bの傾斜θの調整はシート傾斜調整装置32の操作レバー32aによって行い、着座シート30aの前後位置Lの調整はシートスライド調整装置の操作レバー(図示省略)によって行う。上述した実施形態のクラッチユニットは、例えばシート高さ調整装置31に組込まれる。
【0062】
図22(a)は、シート高さ調整装置31の一構造例を概念的に示している。シートスライドアジャスタ31bのスライド可動部材31b1にリンク部材31c、31dの一端がそれぞれ回動自在に枢着される。リンク部材31cの他端はリンク部材31eを介してセクターギヤ31fに回動自在に枢着される。セクターギヤ31fは着座シート30aに回動自在に枢着され、支点31f1回りに揺動可能である。リンク部材31dの他端は着座シート30aに回動自在に枢着される。上述した実施形態のクラッチユニットXは、固定側板7を介して着座シート30aの適宜の部位に固定され、その外輪1に例えば樹脂製の操作レバー31a(図10、図11における操作レバー13に相当)が結合され、出力軸2にセクターギヤ31fと噛合するピニオンギヤ31gが連結される。
【0063】
例えば、図22(b)において、操作レバー31aを反時計方向(上側)に揺動操作すると、その方向の入力トルクがクラッチユニットXを介してピニオンギヤ31gに伝達され、ピニオンギヤ31gが反時計方向に回動する。そして、ピニオンギヤ31gと噛合するセクターギヤ31fが時計方向に揺動して、リンク部材31cの他端をリンク部材31eを介して引っ張る。その結果、リンク部材31cとリンク部材31dが共に起立して、着座シート30aの座面が高くなる。このようにして、着座シート30aの高さHを調整した後、操作レバー31aを開放すると、操作レバー31aが第1クラッチ部5のセンタリングバネ12の弾性力(弾性復元力)によって時計方向に回動して元の位置(中立位置)に戻る。なお、操作レバー31aを時計方向(下側)に揺動操作した場合は、上記とは逆の動作によって、着座シート31aの座面が低くなる。また、高さ調整後に操作レバー31aを開放すると、操作レバー31aが反時計方向に回動して元の位置(中立位置)に戻る。
【0064】
上記構成のシート高さ調整装置31によれば、操作レバー31aの揺動操作のみで着座シート30aの高さHを調整することができ、しかも、高さ調整後の着座シート30aの高さ位置を自動的に保持することができる。また、高さ調整後に操作レバー31aを開放すると、操作レバー31aを中立位置に自動復帰させることができ、その場合でも復帰時の動作が円滑でラチェット機構のような騒音発生の問題も生じない。さらに、摩擦部材9によって出力軸2に回転方向の制動力を与えているので、操作レバー31aの操作時における逆入力トルクの還流現象がなく(又は少なく)、安定した調整操作が可能である。
【0065】
なお、上述した実施形態のクラッチユニットにおける内輪3に代えて、図23に示す内輪3’を使用しても良い。同図に示す内輪3’は、筒状部3aと、それ以外の部分(フランジ部3b、柱部3c、及びピン3b1からなる部分)とを別体構造とし、両部分をロー付け等の適宜の固着手段で固着したものである。一体構造の内輪3に比べ、比較的低コストでかつ精度良く製造できるという利点がある。
【0066】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、入出力間のトルク伝達経路に介在する制御部材と入力側部材との間に第1クラッチ部を設けると共に、回転が拘束される静止側部材と出力側部材との間に第2クラッチ部を設けた、座席シートのクラッチユニットにおいて、静止側部材に固定側板を加締めにより固定するようにしたから、加工や組立に要する費用が低廉化されると共に、溶接により固定する場合のような静止側部材の熱変形による第2クラッチ部の動作不良や、使用グリースの変質等の不具合が回避される。また、加締め固定を採用することにより、固定側板の背面側に突出部を設けなくても済むことになり、クラッチユニットを固定側板を介して相手側部材に取付ける際には、邪魔になる部位が存在しなくなるため、確実且つ容易に取付けを行うことができる。
【0067】
また、固定側板の加締部の基端部を静止側部材の切欠き部に係合させた状態で、一対の爪部を円周方向の相反する方向に折り曲げて静止側部材に当接させることにより、固定側板と静止側部材とを加締め固定しているので、加締め作業を容易化できると共に、固定側板と静止側部材との確実な固定状態が得られ、かつ、静止側部材の径方向応力に起因する変形を防止でき、第2クラッチ部のクラッチ機能を正常に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に実施形態に係るクラッチユニットを示す縦断面図である。
【図2】図2(a)は外輪(入力側部材)の縦断面図、図2(b)はその背面図である。
【図3】図3(a)は出力軸(出力部材)の縦断面図、図3(b)はその正面図である。
【図4】図4(a)は内輪(制御部材)の正面図、図4(b)はその縦断面図、図4(c)はその要部拡大図である。
【図5】図5(a)は外輪(静止側部材)の正面図、図5(b)はその縦断面図である。
【図6】図6(a)は固定側板の縦断面図、図6(b)はその正面図である。
【図7】図7(a)は外輪(静止側部材)と固定側板との固定状態を示す要部縦断面図、図7(b)はその要部正面図、図7(c)はその要部底面図である。
【図8】図8(a)は外輪(静止側部材)と固定側板との固定状態の他の例を示す要部縦断面図、図8(b)はその要部正面図、図8(c)はその要部底面図である。
【図9】図9(a)は摩擦部材(制動手段)の縦断面図、図9(b)はその正面図である。
【図10】第1クラッチ部を示す図1のB−B断面図である。
【図11】操作レバーを示す正面図である。
【図12】図12(a)は保持器を示す縦断正面図、図12(b)はその縦断側面図、図12(c)はその背面図である。
【図13】図13(a)はセンタリングバネの自然状態を示す側面図、図13(b)はその自然状態を示す正面図、図13(c)はその組付け状態を示す正面図、図13(d)はその要部を示す拡大断面図、図13(e)はその作用を示す正面図である。
【図14】第1クラッチ部の作用を示す概念図である(中立位置)。
【図15】第1クラッチ部の作用を示す概念図である(トルク伝達時)。
【図16】第1クラッチ部の作用を示す概念図である(復帰時)。
【図17】第2クラッチ部を示す図1のA−A断面図である。
【図18】第2クラッチ部の作用を示す部分拡大正面図である(中立位置)。
【図19】第2クラッチ部の作用を示す部分拡大正面図である(ロック解除時)。
【図20】第2クラッチ部の作用を示す部分拡大正面図である(トルク伝達時)。
【図21】自動車の座席シートを示す概念図である。
【図22】図22(a)はシート高さ調整装置の一構造例を示す概念図、図22(b)はその要部拡大図である。
【図23】図23(a)は内輪(制御部材)の他の例を示す背面図、図23(b)はその縦断面図である。
【符号の説明】
1 外輪(入力側部材)
2 出力軸(出力側部材)
3 内輪(制御部材)
4 外輪(静止側部材)
4d1 切欠き部
5 第1クラッチ部
6 第2クラッチ部
7 固定側板
7c 加締部
7c1 爪部
11 保持器
12 センタリングバネ
Claims (5)
- 着座シートと、背もたれシートと、座席シート調整装置とを有する座席シートにおいて、
前記座席シート調整装置は、その操作レバーと回動部材との間に介装されるクラッチユニットを有し、
前記クラッチユニットは、前記操作レバーに結合される入力側部材と、前記回動部材に連結される出力側部材と、前記入力側部材と前記出力側部材との間のトルク伝達経路に介在する制御部材と、回転が拘束される静止側部材と、前記入力側部材と前記制御部材との間に設けられた第1クラッチ部と、前記静止側部材と前記出力側部材との間に設けられた第2クラッチ部と、前記静止側部材に加締め固定された固定側板とを備え、前記入力側部材からの入力トルクを前記第1クラッチ部および前記制御部材を介して前記出力側部材に伝達し、前記出力側部材からの逆入力トルクを前記第2クラッチ部を介して前記静止側部材との間でロックするように構成され、
前記第2クラッチ部は、前記静止側部材に設けられた円周面と、前記出力側部材に設けられたカム面と、前記円周面と前記カム面との間に介在する係合子とを備え、
前記静止側部材は、内周に前記円周面が形成された筒状部と、該筒状部の一端から外径側に突出した鍔部とを備え、
前記静止側部材の鍔部に切欠き部が形成されていると共に、前記固定側板に加締部が形成され、
前記静止側部材の切欠き部は、円周方向に相対向する一対の壁面を有し、該一対の壁面は相互間の間隔を一定に保ちながら外周側に延びて鍔部の外周縁に至り、
前記固定側板の加締部は、該固定側板の外周縁部から軸方向に連続した基端部と、該基端部から二股状に分岐した一対の爪部とを備え、前記基端部が前記静止側部材の切欠き部に係合された状態で、前記一対の爪部が円周方向の相反する方向に折り曲げられて前記静止側部材の鍔部の一面に当接し、かつ、前記固定側板が前記静止側部材の鍔部の他面に当接することにより、前記固定側板と前記静止側部材とが加締め固定されていることを特徴とする座席シート。 - 前記静止側部材が焼入れ鋼で形成され、前記固定側板が非焼入れ鋼で形成されている請求項1記載の座席シート。
- 前記固定側板に、座席シート側部材に加締め固定するための第2の加締部が形成されている請求項1又は2に記載の座席シート。
- 前記座席シート調整装置が、着座シートのシート高さ調整装置である請求項1から3の何れかに記載の座席シート。
- 前記シート高さ調整装置は、着座シートをスライド可動部材に対して昇降自在に支持する四節リンク機構と、前記着座シートに回動自在に枢着され、前記四節リンク機構にリンク部材を介して連結されるセクターギヤと、前記クラッチユニットの出力側部材に連結され、前記セクターギヤと噛合するピニオンギヤとを備えている請求項4記載の座席シート。
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