JP4207443B2 - 二次電池電極用スラリー組成物、二次電池電極および二次電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は二次電池電極用スラリー組成物、それを用いて得られる二次電池電極および該電極を有する二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
ノート型パソコン、携帯電話、PDAなどの携帯端末の普及が著しい。これら携帯端末の電源として、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池などの二次電池が多く用いられている。
携帯端末は、より利便性が求められて小型化、薄型化、軽量化と同時に高性能化が進められている。そのため、現在、二次電池にも一層の高性能化が要求されている。
二次電池の高性能化に向けて、電極、電解液、その他の電池部材の改良が検討されており、特に重要な電極については、電極活物質や集電体そのものの検討の他、電極活物質などを集電体に結着するためのバインダーとなるポリマーの検討が鍵になっている。
電極は、通常、水や有機溶媒等の液状媒体にバインダーとなるポリマーを分散または溶解させ、これに電極活物質および必要に応じて導電性カーボン等の導電付与剤を混合して二次電池電極用スラリー組成物を得、このスラリー組成物を集電体に塗布し、乾燥することにより、混合層を集電体に結着させて形成される。
【0003】
二次電池の高性能化には、電池容量、寿命(サイクル特性)および高レートでの充放電容量の維持率(レート特性)の向上が必要である。
電池容量は、電極活物質の充填量に強く影響される。また、レート特性は電子の移動の容易さに影響されるので、レート特性の向上には導電付与剤の増量が効果的である。限られた電池空間内で電極活物質と導電付与剤を増量するには、バインダー量を低減する必要がある。しかしながら、これまで、バインダーを減量すると電極活物質の結着性が損なわれ、繰り返し充放電によって集電体から電極活物質が剥離してサイクル特性が悪化した。
そのため、使用量が少なくても電極活物質を強く結着できるバインダーが求められている。
【0004】
従来、リチウムイオン二次電池の正極用バインダーとしてはポリビニリデンフルオライドなどのフッ素含有ポリマーが汎用されている。フッ素含有ポリマーを用いると流動性が良く、電極活物質などの固形分が沈降しにくい二次電池電極用スラリー組成物が得られ、電極の製造が容易であるが、結着力や柔軟性が不足しているので電池の高容量化やレート特性の向上には困難がある。
上記のフッ素含有ポリマーの欠点を改善する方法として、ゴム系高分子バインダーを用いることが提案された(特開平4−255670号公報)。しかし、ゴム系高分子を用いて電極を作成すると結着力や柔軟性は改善し得るものの、電極活物質がゴム系高分子に覆い隠されて電池反応が制限される問題がある。そこで、フッ素系ポリマーとゴム系高分子とを併用する試み、例えば、ブタジエン系ポリマーとの併用(特開平6−215761号公報)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)との併用(特開平9−63590号公報)、アクリル系ポリマーとの併用(特開平9−199132号公報)などが提案された。しかし、これらいずれによっても結着性が不十分で、電池の高容量化やレート特性の向上とサイクル特性の両立は困難であった。
【0005】
本出願人は、先に、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体の水素化物(水素化NBR)をバインダーに使用することを提案した(特開平8−157677号公報)。水素化NBRは液状媒体内での流動性に優れ、固形分が沈降しにくい二次電池電極用スラリー組成物、および、柔軟性のある電極混合層を与えるので、電池容量、レート特性およびサイクル特性に優れた二次電池が得られるが、惜しむらくは感湿性があるという欠点があった。バインダーに感湿性があると、N−メチルピロリドンのような吸湿性溶媒を用いて二次電池電極用スラリー組成物を調製して高湿度雰囲気下で電極に塗布すると、塗膜表面にポリマーが析出して筋引き等のトラブルが生じやすい。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記のアクリロニトリル−ブタジエン共重合体の水素化物などが持つ特性を発展させ、使用量が少なくても結着性が良好なバインダーを用いた二次電池電極用スラリー組成物、および、感湿性が低くて、柔軟性の高い電極混合層を有する電極を提供することである。
また本発明の他の目的は、電池の高容量化とレート特性の向上を達成したリチウムイオン二次電池を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究した結果、水素化NBRと、アクリロニトリル−アクリル酸メチル共重合体との組み合わせを典型例とするバインダーを用いると、二次電池電極用スラリー組成物は、感湿性が低減されることに加えて結着性が一層向上し、しかも、柔軟な混合層を有する電極与えることを見出した。さらに、該電極を用いて製造したリチウムイオン二次電池は高い電池容量と良好な充放電サイクル特性およびレート特性を示すことを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば下記(1)〜(6)が提供される。
(1) ガラス転移温度が−80〜0℃で、N−メチルピロリドンに対する不溶分量が5重量%以下であるポリマーAと、
アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル由来の繰り返し単位含有量が60モル%以上で、ガラス転移温度が0℃より高いポリマーBと、
電極活物質と、
前記ポリマーBを溶解する液状媒体と、を含有してなり、
前記ポリマーAおよびポリマーBの配合割合が、A/Bの重量比で1/10〜10/1である二次電池電極用スラリー組成物。
(2) 前記ポリマーBが、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル由来の繰り返し単位含有量が60〜95モル%で、炭素数2〜4の1−オレフィンおよび一般式(1)で表される化合物
CH2=CR1−COOR2 (1)
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜18のアルキル基を示す。)
から選ばれる少なくとも1種の単量体由来の繰り返し単位含有量が5〜30モル%で、ガラス転移温度が0℃より高いポリマーである上記(1)記載の二次電池電極用スラリー組成物。
【0009】
(3) ガラス転移温度が−80〜0℃で、N−メチルピロリドン不溶分量が50重量%以上であるポリマーCをさらに含み、
前記ポリマーAおよび前記ポリマーBの合計量と前記ポリマーCの量とが、(A+B)/Cの重量比で5/1〜1/5である上記(1)、または(2)記載の二次電池電極用スラリー組成物。
(4) ガラス転移温度が−80〜0℃で、N−メチルピロリドンに対する不溶分量が5重量%以下であるポリマーAと、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル由来の繰り返し単位含有量が60モル%以上で、ガラス転移温度が0℃より高いポリマーBと、を含有してなり、前記ポリマーAおよびポリマーBの配合割合が、A/Bの重量比で1/10〜10/1であるバインダーと、
電極活物質と、を含有する混合層が集電体に結着してある二次電池電極。
(5) バインダーが、ガラス転移温度が−80〜0℃で、N−メチルピロリドン不溶分量が50重量%以上であるポリマーCをさらに含み、
前記ポリマーAおよび前記ポリマーBの合計量と前記ポリマーCの量とが、(A+B)/Cの重量比で5/1〜1/5である上記(4)記載の二次電池電極。
(6) 上記(4)または(5)記載の二次電池電極を有するリチウムイオン二次電池。
【0010】
また、本発明の好ましい発明として、次の(7)〜(10)が提供される。
(7) 前記二次電池電極がリチウムイオン正極である前記(1)または(2)記載の二次電池電極用スラリー組成物。
(8) 前記ポリマーAがアクリロニトリル−ブタジエン共重合体の水素化物である前記(1)または(2)記載の二次電池電極用スラリー組成物。
(9) 前記ポリマーBがアクリロニトリル−アクリル酸メチル共重合体である前記(1)または(2)載の二次電池電極用スラリー組成物。
(10) 液状媒体がN−メチルピロリドンである前記(1)または(2)記載の二次電池電極用スラリー組成物。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の二次電池電極用スラリー組成物(以下、単に「スラリー組成物」と記すことがある。)は、電極活物質(以下、「活物質」と記すことがある。)、それを集電体に結着するためのバインダーおよび液状媒体を含有してなるものである。
本発明のスラリー組成物におけるバインダーは、下記のポリマーAおよびポリマーBを必須成分とするものである。
【0012】
本発明で使用するバインダーの第1成分であるポリマーAは、ガラス転移温度(Tg)が−80〜0℃で、N−メチルピロリドン(以下、「NMP」と記すことがある。)不溶分量が5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは不溶分が1重量%以下のポリマーである。
NMP不溶分量は、NMP20ミリリットルにポリマー0.2gを温度60℃で72時間浸漬した後、80メッシュの篩でろ過し、篩上の成分を乾燥して求めた重量を浸漬前のポリマー重量(0.2g)で除して求められる百分率で表わす。
【0013】
ポリマーAのTgは、−80〜0℃、好ましくは−60〜−5℃であり、より好ましくは−40〜−10℃である。ポリマーAのTgが高すぎると、ポリマーAが活物質などと集電体上に形成する電極混合層(以下、「混合層」と記すことがある。)に柔軟性がなく、電池の充放電を繰り返すと混合層にクラックが生じて活物質が集電体から脱落しやすくなるおそれがある。また、ポリマーAのTgが低すぎると電池容量が低下する可能性がある。
【0014】
ポリマーAの構成単位の単量体としては、特に限定はないが、フッ素を含有しない単量体が好ましい。具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、イソブテン、3−メチル−1−ブテンなどのα−オレフィン類;アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸n−ラウリルなどのメタクリル酸エステル類;2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエン類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル化合物;などが挙げられる。
ポリマーAは、ブロック重合体であってもランダム重合体であってもよい。
【0015】
ポリマーAの好ましいポリマー構造は、重合体を構成する繰り返し単位の中にエチレン単位を5〜95モル%、より好ましくは35〜90モル%、特に好ましくは40〜80モル%含有するものである。エチレン単位含有量が過度に多いと、ポリマーAがスラリー組成物の液状媒体に溶解し難くなるおそれがある。
エチレン単位を有するポリマーAは、エチレンを原料単量体の一部として用いて重合したものでもよいし、あるいは、ブタジエンなどの共役ジエン類の単量体を原料単量体の一部に用いて得られた重合体を水素化したものでもよい。
【0016】
ポリマーAの好ましい例としては、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体およびその水素化物、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。
ポリマーAの製法は特に限定されない。例えば、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法または溶液重合法などの公知の重合法により重合して得ることができる。
【0017】
本発明におけるバインダーの第2成分であるポリマーBは、(メタ)アクリロニトリル(アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの意。)由来の繰り返し単位含有量が60モル%以上で、Tgが0℃より高いポリマーである。
【0018】
ポリマーBの(メタ)アクリロニトリル(以下、「第1単量体」と記すことがある。)由来の繰り返し単位含有量は、ポリマーB全体に対して60モル%以上、好ましくは60〜95モル%、より好ましくは65〜90モル%である。(メタ)アクリロニトリル由来の繰り返し単位含有量が少なすぎると、感湿性が改善されないおそれがある。逆に、(メタ)アクリロニトリル由来の繰り返し単位含有量が多すぎると、活物質の結着性が不良となる可能性がある。
【0019】
ポリマーBは、また、炭素数2〜4の1−オレフィンおよび一般式(1)で表される化合物
CH2=CR1−COOR2 (1)
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜18のアルキル基を示す。)
から選ばれる少なくとも1種の単量体(以下、「第2単量体」と記すことがある。)由来の繰り返し単位を含有するポリマーであると好ましい。
【0020】
ポリマーB中の第2単量体由来の繰り返し単位の含有量は、好ましくは5〜30モル%、より好ましくは10〜25モル%である。第2単量体由来の繰り返し単位を上記範囲含有すると、活物質の結着性が向上し、スラリー組成物を集電体へ塗布する際に均一に塗布しやすくなる。第2単量体由来の繰り返し単位の含有量が過度に多いと、電解液により膨潤しやすくなるため活物質の結着性が低下するおそれがあり、また、感湿性も大きくなる傾向がある。
【0021】
ポリマーBを構成する繰り返し単位の第2単量体の1種である炭素数2〜4の1−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテンが挙げられ、中でも、エチレンが好ましい。
ポリマーBの1−オレフィン由来の繰り返し単位は、共役ジエン類を原料単量体の一部として用いて得られた重合体を水素化することにより形成されるものであってもよい。共役ジエン類としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2、3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。
【0022】
ポリマーBの構成単位のもう1種の第2単量体である前記一般式(1)で表される化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリルなどのアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリルなどのメタクリル酸アルキルエステル類;などの前記一般式(1)のR2が1〜18のアルキル基を有するアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類が挙げられる。中でも、前記一般式(1)のR2が炭素数3以下の化合物が好ましく、アクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルがより好ましい。
【0023】
ポリマーBは、後述の液状媒体に溶解するものであれば、その他の共重合可能な単量体由来の単位を含有していてもよい。
上記共重合可能な単量体としては、例えば、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、クロトン酸プロピル、クロトン酸ブチル、クロトン酸イソブチル、クロトン酸n−アミル、クロトン酸イソアミル、クロトン酸n−ヘキシル、クロトン酸2−エチルヘキシル、クロトン酸ヒドロキシプロピルなどのクロトン酸エステル;メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノ基含有メタクリル酸エステル;アクリル酸ヒドロキシプロピルなどのアルコキシ基含有アクリル酸エステル;メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートなどのアルコキシ基含有メタクリル酸エステル;アルキル基にリン酸残基、スルホン酸残基、ホウ酸残基などを有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物;などが挙げられる。
これら共重合可能な単量体単位の含有量の合計は、ポリマーB全体に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0024】
ポリマーBのTgは0℃より高く、好ましくは50〜90℃である。ポリマーBのTgが過度に低いと、電極をプレスして電極密度を高める際に十分に電極密度を上げられない場合がある。
ポリマーBの製法は特に限定されない。例えば、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法、溶液重合法または塊状重合法などの公知の重合法により得ることができる。
【0025】
本発明のスラリー組成物に用いるバインダーは、前記ポリマーAと前記ポリマーBとを、A/Bの重量比で、1/10〜10/1、好ましくは5/1〜1/5で配合したものである。ポリマーAの配合割合が過度に小さいと柔軟性、結着性が低下するおそれがあり、逆に、ポリマーAの配合割合が過度に大きいと感湿性が改良されない可能性がある。
【0026】
本発明の二次電池電極用スラリー組成物におけるバインダーとして、前記の配合割合のポリマーAとポリマーBとを用いるが、他のポリマーをさらに配合してもよい。中でも、ガラス転移温度(Tg)が−80〜0℃で、NMP不溶分が50重量%以上であるポリマーCをさらに配合すると好ましい。これらのポリマーの組合せにより、バインダー全体としては液状媒体にある程度溶解してスラリー組成物が塗工に好適な高粘度になるようにし、かつ、未溶解のバインダーが繊維状ないし粒子状を保持することによりバインダーが活物質の表面を覆い隠して電池反応を阻害することのないようにすることができる。
【0027】
ポリマーCの配合量は、前記ポリマーAおよび前記ポリマーBの合計量とポリマーCの量とが、(A+B)/Cの重量比で、好ましくは5/1〜1/5で、より好ましくは3/1〜1/3で、特に好ましくは2/1〜1/2である。ポリマーCの配合量を過度に大きくすると、結着性は向上するものの、スラリーの流動性が低下し、電極に塗布して得られる混合層が平滑でなくなるおそれがある。
【0028】
ポリマーCのTgは、−80〜0℃、好ましくは−60〜−5℃、より好ましくは−50〜−10℃である。Tgが高すぎると、電極の柔軟性が低下し、充放電を繰り返した際に活物質の集電体からの剥離が起きやすくなる。また、Tgが低すぎると電池容量の低下を招く場合がある。
【0029】
ポリマーCの構成単位の単量体としては、特に限定はなく、ポリマーAおよびポリマーBを構成する単量体として例示したものをいずれも用いることができる。ポリマーCが上記範囲のTgを有するようにするためには、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸n−ラウリルなどのメタクリル酸アルキルエステル;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン;由来の繰り返し単位を有することが好ましい。
【0030】
また、ポリマーCのNMPに対する不溶分は、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。NMP不溶分量が過度に小さいと活物質の結着持続性が低下し、繰り返し充放電による容量減が起こる場合がある。
【0031】
ポリマーCが上記範囲のNMP不溶分量を含有するためには、多官能エチレン性不飽和単量体を単量体成分に加えて架橋重合体を形成させることが好ましい。多官能エチレン性不飽和単量体の使用量は、ポリマーC製造のための全単量体使用量に対する割合が、通常、0.3〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%になるようにする。
【0032】
多官能エチレン性不飽和単量体の例としては、ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物;エチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレートなどのジメタクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのトリメタクリル酸エステル類;ジエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレートなどのジアクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリアクリレートなどのトリアクリル酸エステル類;が挙げられる。
また、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン類を共重合させたポリマーを用いる場合は、重合温度、重合転化率および分子量調整剤の量などの重合反応条件を適宜調整することにより架橋ポリマーとすることができる。
【0033】
上記の各特性を備えたポリマーCの例としては、アクリル酸2−エチルヘキシル−メタクリル酸−アクリロニトリル−エチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸ブチル−アクリル酸−トリメチロールプロパントリメタクリレート共重合体などのアクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0034】
ポリマーCの粒子径は、好ましくは0.005〜1000μm、より好ましくは0.01〜100μm、特に好ましくは0.05〜10μmである。粒子径が大きすぎるとバインダーとして必要な量が多くなりすぎ、電極の内部抵抗が増加する。逆に、粒子径が小さすぎると活物質の表面を覆い隠して電池反応を阻害してしまう。
ここで、粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだポリマー粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径である。
【0035】
ポリマーCの製法は特に限定されず、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法または溶液重合法などの公知の重合法により重合して得ることができるが、乳化重合法で製造することが、液状媒体に分散したときの粒子径の制御が容易であるので好ましい。
【0036】
本発明における全バインダーの量は、活物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜3重量部、特に好ましくは0.5〜2重量部である。全バインダー量が少なすぎると電極から活物質が脱落しやすくなるおそれがあり、逆に多すぎると活物質がバインダーに覆い隠されて電池反応が阻害される可能性がある。
【0037】
本発明の二次電池電極用スラリー組成物に用いる液状媒体は、ポリマーBを溶解する液体であれば特に制限されないが、常圧における沸点が好ましくは80℃以上350℃以下、より好ましくは100℃以上300℃以下のものである。
かかる液状媒体の例としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類が挙げられる。中でもN−メチルピロリドンが、集電体への塗布性やポリマーCの分散性が良好なので特に好ましい。
【0038】
本発明のスラリー組成物において液状媒体の量は、バインダーや後述する電極活物質および導電付与剤の種類に応じ、塗工に好適な粘度になるように調整して用いる。バインダー、活物質および導電付与剤を合わせた固形分の濃度は、好ましくは50〜95重量%、より好ましくは70〜90重量%である。
【0039】
本発明のスラリー組成物に配合される活物質は、二次電池の種類により異なる。
リチウムイオン二次電池の場合、負極活物質、正極活物質とも、通常のリチウムイオン二次電池電極の製造に使用されるものであればいずれであっても用いることができる。負極活物質としては、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料、ポリアセン等の導電性高分子などが例示される。
【0040】
正極活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4などのリチウム含有複合金属酸化物;TiS2、TiS3、非晶質MoS3などの遷移金属硫化物;Cu2V2O3、非晶質V2O−P2O5、MoO3、V2O5、V6O13などの遷移金属酸化物;が例示される。さらに、ポリアセチレン、ポリp−フェニレンなどの導電性高分子など有機系化合物を用いることもできる。
【0041】
ニッケル水素二次電池の場合、活物質は、通常のニッケル水素二次電池で使用されるものであれば、いずれも用いることができ、負極活物質としては、水素吸蔵合金を用いることができる。また、正極活物質としては、オキシ水酸化ニッケル、水酸化ニッケルなどを用いることができる。
【0042】
本発明のスラリー組成物には、必要に応じて導電付与剤が添加される。導電付与剤としては、リチウムイオン二次電池ではグラファイト、活性炭などのカーボンが用いられる。
ニッケル水素二次電池で用いられる導電付与剤は、正極では酸化コバルト、負極ではニッケル粉末、酸化コバルト、酸化チタン、カーボンなどを挙げることができる。
上記両電池において、カーボンとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン類を挙げることができる。中でも、アセチレンブラック、ファーネスブラックが好ましい。
導電付与剤の使用量は、活物質100重量部あたり、通常、1〜20重量部、好ましくは2〜10重量部である。
【0043】
スラリー組成物調製のための混合攪拌には、スラリー中に、電極活物質の凝集体が残らないような混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物が無くなるように混合分散すべきである。混合機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどが例示される。
【0044】
本発明の二次電池電極は、金属箔などの集電体に、本発明の二次電池電極用スラリーを塗布し、乾燥することにより、バインダーおよび活物質、さらに必要に応じ加えられた導電付与剤、増粘剤などを含有する混合層を結着させてなるものである。
本発明の二次電池電極は、正極、負極のいずれにも使用することができ、正極に使用するのが好ましく、リチウムイオン二次電池の正極に用いるのがより好ましい。
【0045】
集電体は、導電性材料からなるものであれば特に制限されない。リチウムイオン二次電池では、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製のものであるが、特に正極にアルミニウムを、負極に銅を用いた場合、本発明のバインダー組成物の効果が最もよく現れる。ニッケル水素二次電池では、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板などを挙げることができる。
集電体の形状は特に制限されないが、通常、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものである。
【0046】
スラリー組成物の集電体への塗布方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。塗布するスラリー量も特に制限されないが、液状媒体を乾燥して除去した後に形成される、活物質、バインダーなどからなる混合層の厚さが、通常、0.005〜5mm、好ましくは0.01〜2mmになる量が一般的である。乾燥方法も特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥速度は、通常は応力集中によって混合層に亀裂が入ったり、混合層が集電体から剥離したりしない程度の速度範囲の中で、できるだけ早く液状媒体が除去できるように調整する。
更に、乾燥後の集電体をプレスすることにより電極の活物質の密度を高めてもよい。プレス方法は、金型プレスやロールプレスなどの方法が挙げられる。
【0047】
本発明の二次電池は、上記の二次電池電極や電解液を含み、セパレーター等の部品を用いて、常法に従って製造されるものである。具体的な製造方法としては、例えば、負極と正極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【0048】
電解液は、通常の二次電池に用いられるものであれば、液状でもゲル状でもよく、負極活物質、正極活物質の種類に応じて電池としての機能を発揮するものを選択すればよい。
リチウムイオン二次電池の電解質としては、従来より公知のリチウム塩がいずれも使用でき、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、LiAlCl4、LiCl、LiBr、LiB(C2H5)4、LiCF3SO3、LiCH3SO3、LiC4F9S3、Li(CF3SO2)2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどが挙げられる。
【0049】
これらの電解質を溶解させる媒体は特に限定されるものではない。具体例としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類等が挙げられ、これらは単独もしくは二種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0050】
また、ニッケル水素二次電池の電解質としては、例えば、従来公知の濃度が5モル/リットル以上の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。
【0051】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下で記す「部」および「%」は、特記しない限り重量基準である。
実施例および比較例における操作および試験は以下の方法によった。
【0052】
〔スラリー組成物およびその成分の特性〕
(1)ガラス転移温度(Tg)
バインダーとなるポリマーのTgは、示差走査型熱量計(DSC)により、昇温速度10℃/分で測定した。単位は(℃)である。
(2)NMP不溶分量
ポリマーのNMP不溶分量は、ポリマー0.2gをNMP20ミリリットルに60℃、72時間浸漬した後、80メッシュの篩でろ過し、篩上の成分を乾燥して求めた重量の、浸漬前の重量に対する百分率で示した。
(3)粒子径
ポリマーの粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだポリマー粒子100個の径を測定し、その平均値として算出される個数平均粒子径として求めた。単位は(μm)である。
【0053】
(4)エチレン単位含有量
ポリマーのエチレン繰り返し単位含有量は、1H−および13C−NMR測定により求めた。単位は(モル%)である。
(5)スラリー粘度
スラリー組成物の粘度は、温度23℃においてBrookfield L型粘度計でローター番号4、回転数30rpmで1分間回転後に測定した。単位は(mPa・s)である。
【0054】
(6)スラリー沈降性
スラリー組成物を高さ40mm、容積5ccの円筒ガラス瓶に高さ25mmになるように仕込み、密栓をして静置し、24時間後にガラス瓶中のスラリー組成物の上部5mm相当をサンプリングし、固形分濃度を測定した。下式により固形分濃度の変化率を求めた。変化率の値が小さいほどスラリー沈降性の度合いが小さい。
変化率(%)={1−(経時上層固形分濃度/初期固形分濃度)}×100
【0055】
〔二次電池電極の特性〕
(7)感湿性
スラリー組成物を厚さ20μmのアルミニウム箔上に滴下し、温度25℃、相対湿度55%の雰囲気に放置後、ドクターブレード法によって塗布し、乾燥機にて温度120℃で15分間乾燥した。乾燥塗膜の表面にバインダー析出による筋引き現象が現れるまでの放置時間で感湿性の良否を判断した。時間が長いほど感湿性が小さくて優れる。単位は(分)である。
【0056】
(8)折り曲げ試験
実施例、比較例において調製したリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物をアルミニウム箔(厚さ20μm)にドクターブレード法によって均一に塗布し、乾燥機にて温度120℃で15分間乾燥した。さらに真空乾燥機にて0.6kPa、120℃で2時間減圧乾燥した後、2軸のロールプレスによって電極密度が3.2g/cm3となるように圧縮してリチウムイオン二次電池正極を得た。
得られた正極を長さ9cm、幅3cmの長方形に切って机上に置き、長手方向の中央(4.5cmの所)の上に短手方向に横たえた直径1mmのステンレス丸棒を半周巻いて180°折り曲げたときの折り曲げ部分外側の混合層の状態を、10枚の電極片について個別に観察し、10枚全てにひび割れまたは剥がれが全く生じていない場合を○、1枚以上に1箇所以上のひび割れまたは剥がれが生じた場合を×と評価した。
【0057】
(9)結着力
上記(8)に記す方法で得たリチウムイオン二次電池正極から、長さ100mm、幅25mmの長方形を塗布方向が長辺となるように切り出して試験片とする。試験片の混合層全面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端のセロハンテープ端と集電体箔端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定する。応力が大きいほど混合層の集電体への結着力が大きいことを示す。単位は(N/cm)である。
【0058】
〔二次電池の特性〕
(10)リチウムイオン二次電池の製造
負極としては金属リチウムを使用した。上記(8)に記す方法で得た正極および負極を直径15mmの円形に切り抜き、直径18mm、厚さ25μmの円形ポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーターを介在させて、互いに活物質が対向し、外装容器底面に正極のアルミニウム箔が接触するように配置し、さらに負極の上にエキスパンドメタルを入れ、ポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に下記の電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型電池を製造した。電解液はエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=33/67(20℃での体積比)にLiPF6を1モル/リットルの濃度で溶解した溶液を用いた。
【0059】
(11)電池容量
電池容量の測定は、25℃で充放電レートを0.1Cとし、定電流法(電流密度:0.5mA/g−活物質)で1.2Vに充電し、3Vまで放電する充放電を各5回繰り返し、その都度電池容量を測定する。繰り返し測定した電池容量の平均値を評価結果とする。単位は〔mAh/g:活物質当たり(以下、電池容量に関しては同じ)〕である。
【0060】
(12)レート特性
測定条件を、定電流量を1Cに変更したほかは、電池容量の測定と同様に各定電流量における3サイクル目の放電容量〔単位=mAh/g〕を測定した。3サイクル目における0.1Cでの放電容量に対する1Cでの放電容量の割合を百分率で算出した。この値が大きいほど、高速充放電が可能なことを示す。
【0061】
バインダーとして用いた各ポリマーの組成(単位:モル%)を表1に示す。なお、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)として#1100(クレハ化学社製、NMP不溶分量0.1重量%未満)を用いた。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1
ポリマーA−1を0.6部含むNMP溶液に導電付与剤としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、HS−100)3部を加えて顔料分散機で分散し、NMPを加えて固形分濃度35%のカーボン塗料を調製した。
次いで2対のフック型回転翼を有するプラネタリーミキサーにコバルト酸リチウム(LiCoO2)100部と、ポリマーB−1を0.2部含むNMP溶液とを仕込み、ここに上記のカーボン塗料12.8部とNMPとを加えて固形分濃度83%として1時間混合した後、さらにNMPを加えて固形分濃度78%として10分間混合してリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を得た。スラリー組成物の粘度は3,660mPa・s、スラリー沈降性の変化率は24時間後で3.3%であった。このスラリー組成物を用いて作製した電極および二次電池の特性を試験した結果を表2に記す。
【0064】
実施例2〜6、比較例1〜5
表2に示す成分および量の配合で実施例1と同様にしてスラリー組成物を調製し、スラリー組成物、スラリー組成物を用いて作製した電極および二次電池の特性を試験した。試験結果を表2に記す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2が示すように、本発明のスラリー組成物は、バインダーの使用量が少量でも沈降しにくかった。また、これらのスラリー組成物を用いて作製された電極は総て感湿性も小さくて良好であり、折り曲げ試験および結着力に優れ、これらの電極を有する二次電池は高容量で、かつ、高レート特性であった(実施例1〜6)。中でも、ポリマーBとして、(メタ)アクリロニトリル由来の繰り返し単位の他に、1−オレフィンまたは(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位も有するポリマーを用いると、電極の結着力、二次電池の容量、レート特性などに一層の改良が見られた(実施例1〜5)。
一方、バインダーとしてPVDFを単独で使用すると、量が本発明の実施例1〜6の2.5倍では少量のためスラリー組成物の沈降性が大で、電極は折り曲げ試験でひびが生じ、結着力は極めて小さかった(比較例1)。PVDFを本発明例(実施例1〜6)の7.5倍と多量用いれば、スラリー組成物は本発明例と同等の沈降性に改善されるものの、このスラリー組成物を用いて得られる電極の混合層は柔軟性に欠け、二次電池はレート特性が低かった(比較例2)。
ポリマーA成分である水素化NBRを単独でバインダーに用いると、使用量が少なくてもスラリー組成物は沈降しにくく、得られる電極は結着性が大きく、二次電池は高容量で高レート特性を示すが、スラリー組成物は感湿性が大きく、電極は結着力に欠けた(比較例3)。また、ポリマーA成分であるNBRにPVDFを等重量併用し、合計で本発明例(実施例1〜6)並みの使用量にしても、スラリー組成物は沈降性で、感湿性の改善度も小さく、得られる電極は折り曲げ試験が不良で、二次電池はレート特性が低かった(比較例4)。実施例4のバインダー成分の内、B−1に代えて、Tgは63℃で妥当であるがアクリロニトリル由来の繰り返し単位含有量が30モル%しかないB−5を用いると、スラリー組成物はやや沈降性で、電極は感湿性があり、二次電池は電池容量およびレート特性共に本発明例の性能を下回った(比較例5)。
【0067】
実施例7
実施例1において、予めコバルト酸リチウム(LiCoO2)とポリマーC−1(0.4部)とNMPとで、1時間混練して固形分濃度87%の分散液を調製しておき、そこにポリマーA−1およびポリマーB−1をNMPに溶解した溶液を固形分基準でそれぞれ0.2部添加してカーボン塗料を調製したことの他は実施例1と同様に行ってリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を得た。このスラリー組成物の粘度は2,400mPa・s、スラリー沈降性の変化率は2.5%であった。このスラリー組成物を用いて作製した電極および二次電池の特性を試験した結果を表3に記す。
【0068】
実施例8〜10
表3に示す成分および量の配合で実施例7と同様にしてスラリー組成物を調製し、スラリー組成物、該スラリー組成物を用いて作製した電極および二次電池の特性を試験した。試験結果を表3に記す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示すように、バインダーとしてポリマーA成分、ポリマーB成分に加えてポリマーC成分も添加したスラリー組成物は、バインダーの使用量が少なくても沈降しにくく、実施例1〜6に比して一層低粘度であり、また、これらのスラリー組成物を用いて製造した電極は感湿性が極めて小さく、折り曲げ試験および結着力が顕著に優れるものであった。また、これらの電極を有する二次電池は高容量で高レート特性を示した(実施例7〜10)。
【0071】
【発明の効果】
本発明により、流動性が良く、固形分が沈降しにくく、かつ、使用量が少なくても結着性が良好なバインダーを含有する二次電池電極用スラリー組成物、および該スラリー組成物を用いて製造される、柔軟な混合層を有し、感湿性の小さい二次電池電極が提供される。
Claims (6)
- エチレン単位含有量が5〜95モル%であり、ガラス転移温度が−80〜0℃で、N−メチルピロリドンに対する不溶分量が5重量%以下であるポリマーAと、
アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル由来の繰り返し単位含有量が60モル%以上で、ガラス転移温度が0℃より高く、N−メチルピロリドンに溶解するポリマーBと、
電極活物質と、
N−メチルピロリドンと、を含有してなり、
前記ポリマーAおよびポリマーBの配合割合が、A/Bの重量比で1/10〜10/1であるリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物。 - 前記ポリマーBが、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル由来の繰り返し単位含有量が60〜95モル%で、炭素数2〜4の1−オレフィンおよび一般式(1)で表される化合物
CH2=CR1−COOR2 (1)
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数が1〜18のアルキル基を示す。)から選ばれる少なくとも1種の単量体由来の繰り返し単位含有量が5〜30モル%で、ガラス転移温度が0℃より高いポリマーである請求項1記載のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物。 - 多官能性エチレン性不飽和単量体を含有するモノマーを用いた架橋重合体であって、該多官能性エチレン性不飽和単量体の使用量が全単量体使用量に対して0.3〜5重量%であり、ガラス転移温度が−80〜0℃で、N−メチルピロリドン不溶分量が50重量%以上であるポリマーCをさらに含み、
前記ポリマーAおよび前記ポリマーBの合計量と前記ポリマーCの量とが、(A+B)/Cの重量比で5/1〜1/5である請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物。 - エチレン単位含有量が5〜95モル%であり、ガラス転移温度が−80〜0℃で、N−メチルピロリドンに対する不溶分量が5重量%以下であるポリマーAと、
アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル由来の繰り返し単位含有量が60モル%以上で、ガラス転移温度が0℃より高く、N−メチルピロリドンに溶解するポリマーBと、を含有してなり、前記ポリマーAおよびポリマーBの配合割合が、A/Bの重量比で1/10〜10/1であるバインダーと、
電極活物質と、を含有する混合層が集電体に結着してあるリチウムイオン二次電池電極。 - バインダーが、多官能性エチレン性不飽和単量体を含有するモノマーを用いた架橋重合体であって、該多官能性エチレン性不飽和単量体の使用量が全単量体使用量に対して0.3〜5重量%であり、ガラス転移温度が−80〜0℃で、N−メチルピロリドン不溶分量が50重量%以上であるポリマーCをさらに含み、
前記ポリマーAおよび前記ポリマーBの合計量と前記ポリマーCの量とが、(A+B)/Cの重量比で5/1〜1/5である請求項4記載のリチウムイオン二次電池電極。 - 請求項4または5記載の二次電池電極を有するリチウムイオン二次電池。
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