JP4207239B2 - 有機電解質電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は有機電解質電池の、特に過充電状態における電池温度の異常上昇の抑制等安全性の向上に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
携帯電話やノート型パソコンの小型、軽量、薄型化の傾向は年々強くなっており、その電源である電池においても小型、軽量、薄型化の要望が強まっている。こうした時流の中でリチウム電池が注目されており、薄型化の方法として電解質に高分子材料を用いた有機電解質電池であるリチウム・ポリマ電池が注目されている。特に、高分子材料に電解液を含浸、保持させたゲル状ポリマ電解質がリチウム・イオン二次電池に近い電池特性を発現することから商品化の可能性が高い電池系として期待されている。さらに、引火性の電解液がポリマ中に含浸、保持されているため電解液が遊離している場合に比べて燃焼性が低く、遊離の電解液が存在しているリチウム・イオン二次電池に比べ安全性が向上すると言われている。
【0003】
また、リチウムポリマ電池では電極間に緊縛を与えなくても十分な放電特性が得られることから、リチウムイオン二次電池のように強固な電池ケースを必要とせず、柔軟で薄いラミネートシートでできた外装体が使用できる。このため、電池自体が薄型化することで、充放電時に発生する熱を効率よく放熱することができる上、ケースがラミネートシートのように肉薄になると更に放熱性が向上する。このように、リチウムポリマ電池は電極、ポリマ電解質からなる発電素子そのものが高い安全性を有しており、かつ電池形状やケースによっても安全性の向上が得られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、電解液がポリマ電解質中に保持され、安全性が高くなったとはいえ、電解液が全く無くなったわけではなく、十分な安全性が確保されているわけではない。特に、安全性試験の1種である過充電試験においては、電池容量を越えて長時間、強制的に充電が行われた場合、過充電による電池内部の温度上昇によりゲル状のポリマ電解質が流動化し、電池の内部短絡を引き起こす。この内部短絡が引き金となり、電池温度の急激な上昇や電解液の分解によるガス発生が起こる。このようにリチウムポリマ電池においても完全に安全性が確保されているわけではない。さらに、より高性能な電池性能を得るためには電池系内のポリマ量を可能な限り低減する必要があり、ポリマ量が少なくなると必然的に現状のリチウム・イオン二次電池と似た電池系となるため、安全性に関してもリチウム・イオン二次電池と同様の危険性を有することになる。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するものであり、過充電時の電池内部の温度上昇を原因とする電池の内部短絡、及びこれによって引き起こされる電池温度の急激な上昇などを防止し、安全性の高い電池を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために本発明の有機電解質電池は、負極に100℃以上で吸熱性の物性変化を起こす材料を含むものであり、前記材料が電池内部で発生した熱を吸収することにより、電池温度の上昇を抑えるものである。電池温度の上昇が抑制されることにより、高温による高分子電解質の流動化がなくなり、電池の内部短絡が防止される。
【0007】
【発明の実施の形態】
負極と正極の温度変化に対する熱反応の変化を、示差走査熱量測定(DSC)を行い図4と図5に示す。図4からわかるように、負極はまず70℃近傍で発熱反応を起こし、100℃近傍でこの反応はピークを示す。さらに、150℃でやや穏やかな発熱反応があり、次に200℃から急激な発熱反応が起こる。ただし、70℃では急激な発熱にはならず、また高分子電解質の流動化は起こりにくい。正極においては図5からわかるように、150℃近傍から発熱反応を起こし、210℃、240℃で大きな発熱反応のピークを示す。このため、比較的低温で最も発熱量の大きい100℃以上で熱を吸収することが最も効果的である。
【0008】
本発明は、正極活物質と導電材と電解液を吸収保持する高分子からなる正極と、負極活物質と導電材と電解液を吸収保持する高分子からなる負極を電解液を吸収保持する高分子からなる高分子電解質を介して積層してなる有機電解質電池であって、前記負極に100℃以上で吸熱性の物性変化を起こす材料を含む有機電解質電池であり、100℃以上で吸熱性の物性変化を起こす材料が電池内部で発生した熱を吸収し、電池温度の上昇を抑制する。これにより、高分子電解質の流動化がなくなり、電池の内部短絡が防止される。
【0009】
正極と負極中に高分子電解質と同じ電解液を吸収保持する高分子を入れることにより、積層し一体化したときにより結着性が高くなり、電池特性が向上する。しかし、この構成の電池では正極と負極中にも高分子を含むため、過充電などで電池温度が上昇した場合、高分子電解質の流動化だけでなく極板も形状が崩れることがある。このため、100℃以上で吸熱性の物性変化を起こす材料を含むことにより、電池の内部短絡を防止することにより効果を有するものである。
【0010】
さらに、吸熱性の物性変化を起こす材料が高分子材料の粉体である。高分子材料の粉体とすることにより、電極あるいは高分子電解質に均一に分散させることが可能となりより効果を有する。
【0011】
さらに、吸熱性の物性変化を起こす材料がポリエチレン、ポリプロピレンおよびこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。ポリエチレンおよびポリプロピレンは約100℃〜150℃の範囲で融点を有している。このため、電池内部温度が100℃〜150℃の温度範囲に達した場合、これらの材料は溶融し、その反応時の吸熱により電池の温度上昇を抑制する。
【0012】
吸熱性の物性変化を起こす材料は、正極、負極あるいは高分子電解質の少なくともいずれかであるが、最も好ましいのは負極中に含まれるものである。電池の発熱は、前記図4および図5に示したようにまず負極から起こり、負極活物質と電解液の反応が引き金となると考えられる。したがって、この負極の反応熱を吸収することにより電池の急激な温度上昇が防げるので、反応熱を効率よく吸収できる負極に含まれるのが最も好ましい。
【0013】
(参考の形態)
参考の形態の有機電解質電池の構成を図1を参照して説明する。
【0014】
正極板1と負極板2とを高分子電解質層3を介して積層してなる積層電極4において、正極板1は正極集電体であるアルミニウム芯板1aの片面にコバルト酸リチウムと導電材と非水電解液を吸収保持する高分子材料を含む正極活物質層1bを塗布乾燥してなり、負極板2は負極集電体である銅芯板2a両面に球状黒鉛と導電材と非水電解液を吸収保持する高分子材料を含む負極活物質層2bを塗付乾燥してなり、高分子電解質層3は非水電解液を吸収保持する高分子材料にポリエチレンまたはポリプロピレンの粉体を分散混合してなる。そして負極板2の上側の負極活物質層2bを高分子電解質層3を介してその上方の正極板1の正極活物質層1bに対向させるとともに、負極板2の下側の負極活物質層2bを高分子電解質層3を介してその下方の正極板1の正極活物質層1bに対向させ積層電極4を構成している。
【0015】
正極集電体4はアルミニウム金属または導電性材料にアルミニウムをコーティングしたもの等のパンチングメタルまたはラスメタルからなり、表面には導電性炭素材であるアセチレンブラック,ケッチェンブラックまたは炭素繊維と、結着剤であるポリフッ化ビニリデンの混合物が結着している。負極集電体5は銅,ニッケル金属または導電性材料に銅あるいはニッケルをコーティングしたもの等のパンチングメタルまたはラスメタルからなり、表面には導電性炭素材であるアセチレンブラック,ケッチェンブラックまたは炭素繊維と、結着剤であるポリフッ化ビニリデンの混合物が結着している。
【0016】
積層電極をラミネートシート外装体に挿入後、外装体の開口部より6フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを1:3の体積比で混合した混合物に溶解した電解液を注液する。注液後、外装体内部を減圧して積層電極に電解液を十分に含浸させた後、大気圧に戻し外装体の開口部を熱シールにより封口する。封口した電池を45℃で20分間加熱し、目的の電池を得る。
【0017】
なお、高分子材料としてはポリエチレン、ポリプロピレン及びこれらの共重合体からなる少なくとも1種が好ましい。
【0018】
また、吸熱性の物性変化を起こす材料を含ませる方法は、粉体の高分子材料を分散させ
る以外に、繊維状の高分子材料を分散させる方法、高分子電解質を作成するときに高分子材料をともに練合して作製する方法などがある。
【0019】
正極活物質としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムまたはマンガン酸リチウムなど充放電によりリチウムを可逆的に出し入れできる化合物を用いることができる。
【0020】
負極活物質としては、炭素材料、金属酸化物あるいは金属窒化物など充放電によりリチウムを可逆的に出し入れできる材料を用いることができる。
【0021】
高分子電解質としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンの共重合体、またはポリマアロイを用いることができる。
【0022】
電解液は、溶媒としてエチレンカーボネートと鎖状炭酸エステルの混合物、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合物などを用いることができ、溶質としてLiPF6,LiCF3SO3,LiClO4,LiBF4,LiAsF6あるいはLiN(CF3SO2)などを用いることができる。
【0023】
また、吸熱性の物性変化を起こす材料は高分子電解質層のみに含まれるのではなく、負極に含まれているのが好ましい。
【0024】
(参考例)
フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンの共重合体(P(VDF−HFP)、6フッ化プロピレン比率12重量%)28gをアセトン144gに溶解し、フタル酸ジ−n−ブチル(DBP)28gを添加した混合溶液を調整する。この溶液にポリエチレン粉末5.6gを加え十分に分散させた後、ガラス板上に塗布、乾燥して厚さ0.02mm、サイズが35mm×65mmの高分子電解質シートを作製する。
【0025】
正極シートはP(VDF−HFP)71gをアセトン1130gに溶解した溶液とコバルト酸リチウム1000g,アセチレンブラック53g,DBP110gを混合して調整したペーストをガラス板上に塗着した後、アセトンを乾燥除去することで厚さ0.15mm、サイズが30mm×60mmのシートを得る。
【0026】
負極シートはP(VDF−HFP)35gをアセトン321gに溶解した溶液と炭素質メソフェーズ球体を炭素化および黒鉛化した球状黒鉛(大阪ガス製)245g、気相成長炭素繊維を黒鉛化したもの(大阪ガス製)20g,DBP54gを混合して調整したペーストをガラス板上に塗着した後、アセトンを乾燥除去することで厚さ0.35mm、サイズが30mm×60mmのシートを得る。
【0027】
集電体に塗着する導電性炭素材と結着剤の混合物は、アセチレンブラック30gとポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液(12重量%)を分散・混合することで調整する。この混合物を厚さ0.06mmのアルミニウムと銅のラスメタルにそれぞれ塗着した後、80℃以上の温度でN−メチルピロリドンを乾燥除去することで本発明の導電性炭素材とポリフッ化ビニリデンから成る混合物を結着した集電体を作製する。
【0028】
前記正極シートと前記アルミニウムの集電体を積層したものをポリテトラフルオロエチレンシート(PTFE、厚さ0.05mm)ではさみ、150℃に加熱した2本ローラを通して加熱・加圧することで熱融着させる。PTFEは活物質層がローラに付着するのを防ぐために用いるものであり、銅箔やアルミ箔などの他の材料を用いてもよい。
【0029】
前記負極シートを前記銅集電体の両面に配置して正極と同様に加熱加圧することで負極板を作製する。
【0030】
最後に、正極板と負極板の間に前記高分子電解質を挟み、120℃に加熱した2本ローラで加熱・加圧することで熱融着一体化した構成電池を作製する。
【0031】
上記の一体化した構成電池をジエチルエーテル中に浸漬し、DBPを抽出除去し、50℃、真空で乾燥した後、電解液に浸漬し、本発明の電池を得た。ここで電解液は炭酸エチレンと炭酸エチルメチルの等体積混合物に6フッ化リン酸リチウムを1mol/L溶解したものを用いた。
【0032】
作製した電池について、充放電電流24mAhで充放電を5サイクル行った。5サイクル目の電池の放電容量は115mAであった。この電池を電池電圧3Vの放電状態から充電電流230mAで充電しながら電池の温度と電池電圧を測定した。
【0033】
充電率に対する電池電圧および電池温度の変化を図2に示す。充電率が電池容量の200%を超えたところで、電池電圧は5.2Vであり、電池の温度は110℃まで上昇したものの110℃近傍を上下し、充電率が250%になっても120℃以上の急激な温度上昇は起きなかった。ただし、電池内でガス発生が生じ、電池はこのガスにより膨れていた。
【0034】
(比較例)
高分子電解質中にポリエチレン粉末を添加していないこと以外は参考例と同様にして電池を作製した。
【0035】
作製した電池について参考例と同様の試験を行った結果を図3に示す。充放電電流24mAhで充放電を5サイクル行った後の電池容量は115mAであった。充電電流230mAで充電したところ、充電率が220%になったとき、電池電圧は5.5Vから3V以下に急激に低下し、電池の温度も約90℃から150℃以上まで急激に上昇した。この時点で電池内で発生したガスによりラミネート外装体の封口部の一部が開口し、内部のガスが噴出した。
【0036】
比較例では電池電圧の急低下と電池温度の急上昇がほぼ同時に起こっていることから、過充電時に発生する熱により高分子電解質が流動化し、これが原因で内部短絡が生じて電池電圧が急低下し、さらに電池温度の急上昇が起きたものと考えられる。一方、参考例では高分子電解質に添加されたポリエチレンが110℃近傍で融点を持っているため、この温度付近で急激な熱吸収が起こり、電池温度の急上昇を抑え、250%の充電率においても120℃以上の温度上昇が起こらなかったと考えられる。
【0037】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、100℃以上で融解等の吸熱性の物性変化を示す材料を負極に加えることにより、過充電時に発生する熱などによる電池の温度上昇を抑制することができ、優れた安全性を有する有機電解質電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 参考の形態のポリマ電池の発電素子部の断面図
【図2】 参考例の充電率に対する電池電圧及び温度の変化を示す図
【図3】 従来の電池の充電率に対する電池電圧及び温度の変化を示す図
【図4】 負極の温度変化による熱反応を示す図
【図5】 正極の温度変化による熱反応を示す図
【符号の説明】
1 正極板
1a 正極集電体
1b 正極活物質層
2 負極板
2a 負極集電体
2b 負極活物質層
3 高分子電解質層
4 積層電極
Claims (1)
- 正極活物質と導電材と電解液を吸収保持する高分子からなる正極と、負極活物質と導電材と電解液を吸収保持する高分子からなる負極を電解液を吸収保持する高分子からなる高分子電解質を介して積層してなる有機電解質電池であって、前記正極、負極あるいは電解質中の少なくともいずれか一つに100℃以上で吸熱性の物性変化を起こす材料を含み、前記100℃以上で吸熱性の物性変化を起こす材料が高分子材料の粉体であり、前記100℃以上で吸熱性の物性変化を起こす材料がポリエチレン、ポリプロピレンおよびこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記100℃以上で吸熱性の物性変化を起こす材料を負極中に分散したことを特徴とする有機電解質電池。
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