JP4204142B2 - 作業車のトランスミッション - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、走行駆動用のHST装置及び旋回駆動用のHST装置を備えた作業車のトランスミッションの技術に関する。詳細には、上記トランスミッションのコンパクト化及び製造コストの低減のためのレイアウトの技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、車速を変更する走行駆動用のHST装置及びステアリングのための旋回駆動用のHST装置の二者を、ミッションケースの側壁に並置して、コンパクトな構成とした作業車のトランスミッションの技術は公知となっている。例えば、特開平10−54451号の技術である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記技術は、コンパクトにトランスミッションを構成できる点でかなり有用であったが、さらにコンパクトなトランスミッションを提供するための技術が要望されていた。また、安価に製造できるトランスミッションの技術も要望されていた。本発明は、上記点に鑑みてなされたものであり、トランスミッションの更なるコンパクト化、及び製造コスト低減を図るための、ミッションケース内の潤滑油を循環させる経路のレイアウトを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
請求項1においては、差動的に相互結合された左右の車軸(40L・40R)と、該車軸(40L・40R)への動力を無段変速する二つのHST(25・28)とを有し、うち一方のHST(25)を作動させたときに左右の車軸(40L・40R)を同方向に駆動して機体を直進させ、他方のHST(28)を作動させたときに左右の車軸(40L・40R)に相対回転差を与えて機体を旋回させるように構成された作業車のトランスミッション(M)において、上記二つのHST(25・28)はミッションケース(22)を挟んで向かい合わせに取り付けられ、一方のHST(25)のケース(25a)内部と、他方のHST(28)のケース(28a)内部とは、パイプ部材(79)を介して連通させており、両HST(25・28)の各々のケース(25a・28a)内にて、規定量をオーバーフローした潤滑油は、該パイプ部材(79)を介して、相互に他方のケース(25a・28a)内部に導入し合流させ、合流した油が規定量以上に達すると、他方のHST(28)のハウジングからミッションケース(22)内へ排出するように構成したものである。
【0005】
請求項2においては、請求項1記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記二つのHST(25・28)のうち一方のHST(25)のポンプ軸(23a)により駆動されるチャージポンプ(CP)の吐出油を、作動油の漏れ分を補償すべく、一方のHST(25)の油補給回路に供給するように構成し、該一方のHST(25)の油補給回路と、他方のHST(28)の油補給回路とをパイプ部材(78)にて接続したものである。
【0006】
請求項3においては、請求項1記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記一方のHST(25)が機体前進方向へ駆動されるときだけ係合して、刈取PTO軸(55)を駆動するワンウェイクラッチ(73)を設け、前記他方のHST(28)のハウジング内の油をミッションケース(22)へ戻す経路の途中から、該刈取PTO軸(55)とワンウェイクラッチ(73)の潤滑部位を潤滑するための油を分岐させたものである。
【0007】
請求項4においては、請求項1記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記ミッションケース(22)内の潤滑油によって、上記HST(25・28)を潤滑した後、該ミッションケース(22)の側面に凸状に設けられた油溜め(A)に導入し、該油溜め(A)に設けられた戻し孔(83)を介して再びミッションケース(22)に戻すように構成したものである。
【0008】
請求項5においては、請求項4記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記一方のHST(25)から車軸(40L・40R)へ至る伝動経路中に介在させた変速機構(32)を、連係して変速操作するための変速操作部(G)を、上記油溜め(A)に臨ませて配置したものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施例に係るコンバインの全体的な構成を示した側面図、図2は同じく平面図、図3は同じく正面模式図である。
【0010】
まず、図1・図2より、本発明のコンバインの全体構成について説明する。即ち、このコンバインは、トラックフレーム1の左右にクローラ式走行装置2L・2Rを支持した構成であり、3は前記トラックフレーム1に架設する機台、4はフィードチェーン5を左側に張架し、扱胴6及び処理胴7を内蔵している脱穀機である脱穀部、8は刈刃9及び穀稈搬送機構10等を備える刈取部、11は刈取フレーム12を介して刈取部8を昇降させる油圧シリンダである。13は排藁チェーン14の終端を臨ませる排藁処理部、15は揚穀筒16を介して脱穀部4からの穀粒を搬入する穀物タンク、17は前記穀物タンク15の穀粒を機外に搬出する排出オーガ、18は丸型の操向ハンドル19を支架するハンドルポスト、68は主変速レバー、20は運転席であり、また、21は、機体左右方向に沿う出力軸を有する原動機たるエンジンであり、コンバインの前方より連続的に穀稈を刈取って脱穀するように構成している。
【0011】
また、このコンバインには二つの静油圧式無段変速装置(以下「HST」)、即ち、第一無段変速装置である走行系の走行駆動HST25、及び、第二無段変速装置であるステアリング系のステアリングHST28を具備しており、それぞれのHST25・28はエンジン21より駆動力を得るよう構成されている。そして、エンジン21により駆動力を得た走行駆動HST25により、正逆の回転方向と回転数増減の制御が行われたのち、駆動力が走行系ドライブトレーンPを介して差動機構33に伝達される。一方、エンジン21により駆動力を得たステアリングHST28により、正逆の回転方向と回転数増減の制御が行われた後、駆動力がステアリング系ドライブトレーンS、正逆転付与機構Rを介して差動機構に伝達される。
【0012】
以上の構成とすることにより、差動機構33に連動連結された左右のクローラ式走行装置2L・2Rの駆動スプロケット34L・34Rに駆動力を常時伝達することにより前後直進走行を可能としており、また、左右駆動スプロケット34L・34Rに対する回転数の相対的な増減制御により旋回を可能としているのである。以下において、この走行及び旋回の機構について詳述する。
【0013】
まず、トランスミッションの構成について説明する。図4はトランスミッションの走行系及びステアリング系のドライブトレーンのスケルトン図である。図5はトランスミッションの全体構成を示した正面一部断面図、図6は同じく右側面図、図7は同じく左側面図、図8は同じく平面図である。
【0014】
即ち、このトランスミッションMは、図4に示すように、前記クローラ式走行装置2L・2Rを駆動するための走行系ドライブトレーンP、ステアリング系ドライブトレーンS、正逆転付与機構R、差動機構33等をミッションケース22内に配置しており、該ミッションケース22上部左右側面には、図5〜図8に示すように、上記二つのHST25・28を有する無段変速部Hを設ける構成としている。上記トランスミッションMは左右のクローラ式走行装置2L・2Rの間の位置に立設され、そのハウジングであるミッションケース22は、左右のケース半部22L・22Rを垂直な面にて接合して構成され(図5等)、その内部には一定量の潤滑油が充填され、内部に配置された上記の各機構を自然潤滑することとしている。
【0015】
更に、図5・図7・図8に示すように、トランスミッションMの上部左方位置には、エンジンからの動力をトランスミッションMに導入するための入力プーリー26bが配置され、その前下方には、該エンジンからの動力を作業機に伝達して駆動するための刈取出力プーリー55bが配置される。
【0016】
次に、上記無段変速部Hについて説明する。図9はトランスミッションの無段変速部近傍の構成を示した正面断面拡大図である。
【0017】
即ち、上記無段変速部Hは、図9に示すように、一組の走行油圧ポンプ23及び走行油圧モータ24からなる主変速機構である、走行駆動HST25と、一組の旋回油圧ポンプ26及び旋回油圧モータ27からなる旋回機構である、ステアリングHST28とからなる。以下、この無段変速部Hについて説明する。
【0018】
即ち、図5・図9に示すように、前記走行用の走行駆動HST25は、ケース25a及びセンタセクション25bよりなるハウジングをミッションケース22上部左側面に設け、該ハウジング内において、上から、入力部である走行油圧ポンプ23、出力部である走行油圧モータ24の順に並べて配設される構成としている。そして、該走行油圧ポンプ23のポンプ軸23a及び、該走行油圧モータ24のモータ軸24aの各々が互いに平行となるよう機体左右方向に軸支され、走行油圧ポンプ23及び走行油圧モータ24の二者が、センタセクション25bを介して流体的に結合される構成としている。
【0019】
上記センタセクション25bは、上下方向に配設された長方形平板(フラット)型のセンタセクションとしており、該センタセクション25bの上部にポンプ付設面が形成され、その中央に上記ポンプ軸23aが水平方向に支持されて、図9に示すように該ポンプ軸23aにシリンダブロック201を嵌合して上記付設面上に回転摺動自在に配置している。該シリンダブロック201内には、図略の付勢バネを介して複数のピストンをポンプ軸23aに平行に往復動自在に嵌合して、アキシャルピストンタイプの走行油圧ポンプ23を構成しており、更に該ピストンの頭部には可動斜板145を当接させて、この可動斜板145を傾動操作することで、油圧ポンプ23からの油の吐出量及び吐出方向を変更できるようにしている。
【0020】
前記油圧ポンプ23からの圧油は、センタセクション25b内の油路を経由して、油圧モータ24に送油される。この油圧モータ24の構成は、センタセクション25bのポンプ付設面より下方位置にモータ付設面が構成され、該モータ付設面にシリンダブロック202が回転自在に支持され、該シリンダブロック202には付勢バネを介して複数のピストンが往復動自在に嵌合され、該ピストンの頭部は固定斜板170に接当されている。そして、シリンダブロック202の回転軸心上にはモータ軸24aが相対回転不能に係止されて、固定斜板型の走行油圧モータ24を構成している。
【0021】
また、前記旋回用のステアリングHST28は、ケース28a及びセンタセクション28bよりなるハウジングをミッションケース22上部右側面に設け、該ハウジング内において、上から、入力部である旋回油圧ポンプ26、出力部である旋回油圧モータ27の順に並べて配設される構成としている。そして、該旋回油圧ポンプ26のポンプ軸26a及び、該旋回油圧モータ27のモータ軸27aの各々が互いに平行となるよう機体左右方向に軸支され、旋回油圧ポンプ26及び旋回油圧モータ27の二者が、センタセクション28bを介して流体的に結合される構成としている。
【0022】
上記センタセクション28bは、長方形平板(フラット)型のセンタセクションとしており、該センタセクション28bの上部にポンプ付設面が形成され、その中央に上記ポンプ軸26aが水平方向に支持されて、図9に示すように該ポンプ軸26aにシリンダブロック203を嵌合して上記付設面上に回転摺動自在に配置している。該シリンダブロック203内には図略の付勢バネを介して複数のピストンをポンプ軸26aに平行に往復動自在に嵌合して、アキシャルピストンタイプの旋回油圧ポンプ26としており、更に該ピストンの頭部には可動斜板146を当接させて、この可動斜板146を傾動操作することで、油圧ポンプ26からの油の吐出量及び吐出方向を変更できるようにしている。
【0023】
前記油圧ポンプ26からの圧油は、センタセクション28b内の油路を経由して、油圧モータ27に送油される。この油圧モータ27の構成は、センタセクション28bのポンプ付設面より下方位置にモータ付設面が構成され、該モータ付設面にシリンダブロック204が回転自在に支持され、該シリンダブロック204には付勢バネを介して複数のピストンが往復動自在に嵌合され、該ピストンの頭部は固定斜板171に接当されている。そして、シリンダブロック202の回転軸心上にはモータ軸27aが相対回転不能に係止されて、固定斜板型の旋回油圧モータ27を構成している。
【0024】
尚、これら二つのHST25・28の取付構成については、ミッションケース22上部において左右幅を狭くした部分を凸状に形成し、該部分を挟んで両HST25・28の略下半分(油圧モータ24・27の周辺部分)のみを対向させて取り付けるようにしている。この構成により、HST25・28を取り付けた状態でもトランスミッションMの左右幅を可及的に小さくできる。また、無段変速部HのHST25・28を容量の異なるものに変更したい場合でも、ミッションケース22に取り付けられるHST25・28を交換するのみで足り、ミッションケース22を新たに設計製造する必要がないようにしている。
【0025】
次に、両HST25・28のポンプ軸及びモータ軸の構成を説明する。即ち、ステアリングHST28の入力軸である、旋回油圧ポンプ26のポンプ軸26aは、ステアリングHST28のケース28aから左側へ突出して、該突出部分に入力プーリー26bを固定しており、エンジン21の出力軸21aに固設された出力プーリー21bと、図3及び図4に示すベルト29を介して連動連結されて、該ポンプ軸26aをエンジン動力の入力軸と兼用としている。一方、走行駆動HST25の入力軸である、走行油圧ポンプ23のポンプ軸23aは、走行駆動HST25のケース25aから右外側へ突出して、該突出部分には上記HST25・28の作動油の漏れ分を補償するチャージポンプCPを設けている。
【0026】
また、二つのHST25・28の各々のケース25a・28aの同一側の側面には、走行油圧ポンプ23に対するコントロールアーム23c、旋回油圧ポンプ26に対するコントロールアーム26cがそれぞれ枢設されており、該コントロールアーム23c、26cの回動に連係して、走行油圧ポンプ23及び旋回油圧ポンプ26の可動斜板145、146(図4・図9)がそれぞれ傾動し、走行油圧モータ24及び旋回油圧モータ27の回転速度及び回転方向が制御される。
【0027】
そして、上記両コントロールアーム23c・26cには、その中立位置を弾性的に保持するためのデテント機構23d・26dが配設される。このデテント機構について説明する。即ち、図5に示すように、両HSTのケース25a・28aには回動アーム92・92がそれぞれ傾動自在に枢支され、その先端にはローラ93・93がそれぞれ回転自在に軸支される。また、該回動アーム92・92には付勢バネ94・94が弾装されて、ローラ93・93を下方向へ付勢している。一方、コントロールアーム23c・26cにはカムプレート96・96が設けられてその上縁を上記ローラ93・93が転動可能としており、該カムプレート96の上縁には凹部96aが形設されて、コントロールアーム23c・26cがそれぞれ中立位置にあるときに、上記凹部96aに該ローラ93が位置するようにして、各HST25・28の中立位置を保持するようにしている。
【0028】
両HST25・28は、ミッションケース22上部を挟んで左右対向して設けられており、両HST25・28のポンプ軸23a・26aは互いに軸線が一致するよう配置され、両ポンプ軸23a・26aはそれぞれセンタセクション25b・28bを貫通して(図9)、ミッションケース22中央部分で突き合わされて、両センタセクション25b・28b間位置にて両ポンプ軸23a・26aの先端同士を継手95を介して相対回転不能に連結する構成としている。この構成により、入力プーリー26bからステアリングHST28のポンプ軸26aに入力されたエンジン21の動力は、継手95を介して走行駆動HST25のポンプ軸にも伝達され、両HST25・28が同一のエンジン動力を得て駆動するようにしている。
【0029】
また、図9に示すように、両HST25・28のセンタセクション25b・28b間には、第一筒部98と第二筒部99とを油密的に相互嵌合してなるケースメンバが架設される。上記両ポンプ軸23a・26a及び継手95は、上記のケースメンバにて覆われ、該ケースメンバ内に潤滑油を封入しておくことで、両ポンプ軸23a・26a及び継手95を潤滑することができ、両ポンプ軸23a・26aの相互連結状態が、長期間にわたって良好に維持できる。
【0030】
また、両HST25・28のモータ軸24a・27aも互いに軸線が一致するよう配置されて、図9に示すように両モータ軸24a・27aはそれぞれセンタセクション25b・28bを貫通して、ミッションケース22内へ挿入される。そして、図9に示すように、走行駆動HST25のモータ軸24a先端には、走行系ドライブトレーンPへの動力を受け入れる入力ギア42を配置する一方、ステアリングHST28のモータ軸27a先端には、ステアリング系ドライブトレーンSへの動力を受け入れる入力ギア97を配置している。
【0031】
次に、各ドライブトレーンの具体的な構成について説明する。図10はトランスミッションの走行系ドライブトレーンの構成を表した正面断面展開図、図11はトランスミッションのステアリング系ドライブトレーンの構成を表した正面断面展開図である。図12はトランスミッションの各ドライブトレーンのギアの噛み合いを示した側面断面図である。図13はPTO系ドライブトレーンの構成を表した平面断面展開図である。
【0032】
即ち、図9〜図11に示すように、上記両モータ軸24a・27aと平行に一本のカウンター軸43が配置され、該カウンター軸43には二つの伝達ギア43a・43bが相対回転自在に遊嵌配置され、伝達ギア43aは上記入力ギア42に噛合され、伝達ギア43bは上記入力ギア97に噛合される。ここで、二つの伝達ギア43a・43bは、共通の軸(本実施例ではカウンター軸43)に遊嵌配置されるようにしており、別々の軸に伝達ギア43a・43bをそれぞれ設ける構成よりも、部品点数が削減され、製造コストの低減を図ることができるようにしている。
【0033】
この構成により、上記走行油圧モータ24のモータ軸24aの動力は、入力ギア42から伝達ギア43aへと伝達され、後述の副変速機構32を介して変速されて、後述の差動機構33に伝達される(図10・図12)。この入力ギア42・伝達ギア43a・副変速機構32により、走行系ドライブトレーンPが構成される。一方、上記旋回油圧モータ27のモータ軸27aの動力は、入力ギア97から伝達ギア43bへと伝達され、後述のクラッチ装置Cを経た後、正逆転付与機構Rを経由して該差動機構33に伝達される(図11・図12)。この入力ギア97・伝達ギア43b・クラッチ装置C・正逆転付与機構Rにより、ステアリング系ドライブトレーンSが構成される。
【0034】
また、図12・図13に示すように、PTOアイドル軸70が上記カウンター軸43の前方(図12における右方、図13における上方)に平行に配置され、該PTOアイドル軸70上にはアイドルギア71が遊転可能に設置され、該アイドルギア71は上記伝達ギア43aに噛合される。更に、上記PTOアイドル軸70と平行でモータ軸24a・27aの前方に刈取PTO軸55が回転自在に軸支され、該刈取PTO軸55上には伝動ギア72が遊嵌され、該伝動ギア72と該刈取PTO軸55の間にはワンウェイクラッチ73が介設され、走行駆動HST25が機体前進方向へ駆動されるときだけ係合して刈取PTO軸55を駆動できるようにしている。これらアイドルギア71、伝動ギア72等により、PTO系ドライブトレーンOが構成される。そして、上記刈取PTO軸55は、ミッションケース22の左側面より外方へ突出されて(図13)、この左側面に取付固定した筒状のケース74に軸支されながら更に左方へ延出されて、その端部には刈取出力プーリー55bが設けられ、該刈取出力プーリー55bと、図3で示す刈取入力ギアボックス120の刈取入力プーリー121との間には、刈取伝動ベルト122が巻回されている(図3・図13)。この構成により、走行油圧モータ24の出力回転は、伝達ギア43a→アイドルギア71→刈取PTO軸55へと伝達されて刈取出力プーリー55bから出力され、刈取入力ギアボックス120へ動力を導入して上記刈取部8を駆動することとしている。
【0035】
また、図13に示すように、上記筒状のケース74の先端側には、ベルトガイド取付ステー74aが突設され、該ベルトガイド取付ステー74aにはベルトガイド76を設けて、ベルト122の折り返し部分を覆って保護するようにしている。更に、ステアリングHST28のケース28aに補強ステー75の基端側を固設し、先端側は上記筒状のケース74の先端部及びベルトガイド76に取付固定され、該筒状のケース74を該補強ステー75により支持して、倒れを防止するようにしている。
【0036】
上記構成により、刈取PTO軸を延出してその先端に刈取出力プーリー55bを取り付けることにより、他の部品(本実施例においては、ステアリングHSTのケース)と干渉しないように該刈取出力プーリーを配置することができる。さらに、該刈取PTO軸は筒状のケースにより支持されているので、撓み等の問題が軽減され、更にケースに補強ステーを取り付けることにより、ケースの倒れが防止される構成としている。そして、該筒状のケースにベルトガイドを取り付けることにより、ベルトガイドの取付構成も簡素とすることができるのである。
【0037】
次に、図10・図12、左右の車軸を差動的に連結する上述の差動機構33の構成について説明する。
【0038】
即ち、この差動機構33は左右の一対の遊星歯車装置35L・35Rを有し、各遊星歯車装置35L・35Rは、サンギア軸39に刻設されるサンギア36と、該サンギア36の外周で噛合する複数のプラネタリギア37・37・・・と、リングギア38L・38Rに一体構成されプラネタリギア37・37・・・に噛合するインターナルギア58L・58Rと、サンギア軸39と同軸線上の車軸40L・40Rに固設されプラネタリギア37L・37Rを枢支するキャリア41L・41Rから構成されている。該プラネタリギア37・37・・・は車軸40L・40Rから放射状に均等配置されてキャリア41L・41Rにそれぞれ回転自在に軸支され、サンギア36を挟んで左右のキャリア41L・41Rを配置させるとともに、前記インターナルギア58L・58Rは各プラネタリギア37・37・・・に噛合され、サンギア軸39と同軸線上に配置して、車軸40L・40Rに回転自在に軸支させている。
【0039】
そして、上記サンギア36は、左右の遊星歯車装置35L・35Rに共通のサンギアとしており、サンギア36は、共通のサンギア軸39に一体的に刻設され、両サンギア36の中間部に係止したセンタギア46を介して、副変速機構32等からなる走行系ドライブトレーンPに連動連結される。
【0040】
次に、上述の副変速機構32について説明する。図14はクラッチフォークシャフトの構成を示した側面断面拡大図、図15はクラッチスライダの摺動操作機構を示した後面断面展開図、図16は同じく側面断面図である。
【0041】
即ち、図10・図12に示すように、この副変速機構32は歯車変速装置であり、走行駆動HST25から車軸40L・40Rへ至る伝動経路である走行系ドライブトレーンP中に介在させるものであって、上記カウンター軸43と平行に副変速駆動軸53が配置され、該副変速駆動軸53の一端に入力用ギア44を固定し、該副変速駆動軸53上には低速用ギア50、中速用ギア51を固定し、高速用ギア52を遊嵌し、該高速用ギア52と噛合可能なクラッチスライダ81を摺動可能にスプライン嵌合している。また、前記副変速駆動軸53と平行に回転自在に横架した副変速従動軸45上には、ギア47・48を遊嵌し、その間にクラッチスライダ80をギア47・48に択一的に係脱自在となるよう該副変速従動軸45にスプライン嵌合し、更にギア56及び出力ギア49を刻設している。そして、ギア47と低速用ギア50、ギア48と中速用ギア51、ギア56と高速用ギア52とをそれぞれ常時嵌合させている。
【0042】
そして図14・図15に示す如く、これら二つのクラッチスライダ80・81は、後述のクラッチスライダ61cともに、クラッチフォークシャフト82に放射状に植設された三つのクラッチフォーク82fの各々に係合され、該クラッチフォークシャフト82は軸方向に摺動自在とされる。そして、操作部に配設された副変速操作手段の切替に連動して該クラッチフォークシャフト82を摺動することにより上記副変速機構32を変速操作するための副変速操作部Gが、図10・図15に示す如く設けられる。即ち、ミッションケース右側半部22Rの外面に凹部が設けられ、該凹部を閉じるべく蓋体87が凸状に被装されて内部に油溜めAを形成し、図15・図16に示すように支軸84をクラッチフォークシャフト82に対して直交させるように配置して上記蓋体87に回動自在に軸支する一方、上記油溜めA内にクラッチフォークシャフト82の一端が突出され、上記支軸84に基端を固設された操作アーム85の先端にクラッチフォークシャフト82の該突出部分が連結され、支軸84は蓋体87の外部(ミッションケース22外)に突出されて、該突出部分には外部アーム86の基端が固設されている。また、クラッチフォークシャフト82には変速位置決めのためのデテント機構Dが設けられている。
【0043】
従って、該副変速レバーが操作されることで外部アーム86を介して支軸84が回動され、操作アーム85に連結されたクラッチフォークシャフト82が軸方向に摺動して、クラッチフォーク82fに係合されたクラッチスライダ80・81が、図10〜図12に示す各々の軸53、45上を同時に摺動して、クラッチスライダ80、81のいずれか一つがギア47、ギア48、高速用ギア52のいずれか一つと係合するように構成され、これにより、副変速従動軸45に三段階の変速回転が得られ、該回転が出力ギア49から出力されるのである。
【0044】
上記デテント機構Dは、前記凹部の内壁に挿入固定されるカートリッジ88c内に大デテントボール88aを配置して付勢バネ88dで付勢し、更に小デテントボール88bを大デテントボール88aに当接させてカートリッジ88cの開口にその一部が突出するように配置する一方、上記クラッチフォークシャフト82の一端には上記小デテントボール88bの突出部に係合可能としたデテント溝82aを、(変速段数+中立位置)の個数分だけ軸方向に沿って設ける構成としている。従って、大デテントボール88aが付勢バネ88dにより付勢され、小デテントボール88bを係合方向に常時押動しているので、小デテントボール88bがデテント溝82aに係合することにより、副変速の摺動操作の位置決めが可能な構成となっている。また、付勢バネは大デテントボール88aを介して間接的に小デテントボール88bを付勢しているので、小さい巻き径の付勢バネを必要としない構成となっている。
【0045】
次に、上記のような構成としたトランスミッションMにおいて、駆動力の伝達の様子について説明する。即ち、走行油圧モータ24のモータ軸24aの回転出力が図10・図12に示すように入力ギア42→伝達ギア43a→副変速機構32と伝達され、該副変速機構32において変速したのち出力ギア49→カウンター軸57上のカウンターギア54→センタギア46と伝達されて、サンギア軸39を回転駆動させる。そして、該駆動力をサンギア36から左右の遊星歯車装置35L・35Rを介し車軸40L・40Rに伝達させることにより、左右の駆動スプロケット34L・34Rを同一方向に回転駆動させ、クローラ式走行装置2L・2Rを駆動させるのである。
【0046】
一方、図11・図12に示すように、左右の前記リングギア38L・38Rは、上記ステアリング系ドライブトレーンSに連動連結されており、さらに、旋回用のステアリングHST28の出力軸27aに固設される入力ギア97がステアリング系ドライブトレーンSの入力部に連動連結されている。
【0047】
そして、図11・図12に示すように、旋回用のステアリングHST28の旋回油圧モータ27の回転出力は、出力軸27aから入力ギア97→カウンター軸43上の伝達ギア43b→入力用の伝動ギア91と伝達され、旋回入力軸90、クラッチ装置Cを介してクラッチ軸61へと伝達される。
【0048】
以下に、上記クラッチ装置Cについて説明する。即ち、図11に示すように、前記旋回入力軸90には同歯数の駆動ギア90a・90bが固定され、また、クラッチ軸61上には、該駆動ギア90a・90bと常時噛合するクラッチギア61a・61bが遊嵌配置されている。そして、両クラッチギア61a・61bの間に、該クラッチギア61a・61bの各々に対して係脱自在なクラッチスライダ61cを、クラッチ軸61と相対回転不能で、かつ軸方向摺動自在に設けて、前記クラッチ装置Cを構成している。このクラッチスライダ61cは前述のクラッチフォークシャフト82に連結され、副変速機構32が中立位置にあるときにはクラッチギア61a・61bのいずれとも係合せず、副変速機構32が一速から三速までの伝動状態にあるときのみ係合して旋回入力軸90からの動力をクラッチ軸61に伝達し、クラッチ軸61と一体的に設けられた出力ギア64より、減速ギア63L・63Rへ出力するように構成されている。
【0049】
上記減速ギア63L・63Rは大径ギア・小径ギアを一体的に構成した二連ギアとしており、それぞれ減速軸63上に配置されて遊転可能に支持され、上記出力ギア64に両ギア63L・63Rの大径ギアが噛合される。そして、一の減速ギア63Rの小径ギアはリングギア38Rに噛合される一方、他の減速ギア63Lの小径ギアは、アイドル軸62上の逆転ギア62aに噛合され、該逆転ギア62aは上記差動機構33のリングギア38Lに噛合される。
【0050】
この構成で、出力ギア64の回転は二つの減速ギア63L・63Rに分岐されて伝達された後、一の減速ギア63Rの回転は直接的に上記差動機構のリングギア38Rに伝達され、他の減速ギア63Rの回転は上記逆転ギア62aにより正逆変換されて、上記差動機構のリングギア38Lに伝達される。このようにして、旋回油圧モータ27の回転出力が分岐されて、互いに逆方向かつ等速とされて、左右のリングギア38L・38Rへ伝達されるのである。これら逆転ギア62a、減速ギア63L・63R等により、正逆転付与機構Rが構成される。
【0051】
ここで、図12に示すように、走行系ドライブトレーンPはミッションケース22略後半部に略上下方向に配設され、ステアリング系ドライブトレーンSはミッションケース22略前半部において略上下方向に配設される一方、上記出力ギア64の回転を逆転して差動機構のリングギア38Rに伝達する逆転ギア62aは、出力ギア64の回転を直接的に差動機構のリングギア38Lに伝達する減速ギア63Rよりも、後方寄りの位置に設けている。即ち、走行系の駆動伝達経路Pと、ステアリング系の駆動伝達経路Sのうち正転側の伝達経路とに挟まれた位置に、上記逆転ギアを設ける構成としているのである。従って、二つの動力伝達経路の間のスペースに逆転ギア62aを納まり良く配置することができるので、ミッションケースの幅(本実施例では、前後方向の幅)が小さい、コンパクトなトランスミッションを提供できるのである。
【0052】
そして、このような構成で、走行油圧ポンプ23の可動斜板145に対するコントロールアーム23cが、運転席近傍に配備した走行操作具である主変速レバー68に図外のリンク機構を介して連動連係されており、走行駆動HST25は該主変速レバー68の回動操作により可動斜板145の傾斜角度が変更されて走行油圧モータ24の正逆の回転方向と回転数増減及び回転停止の制御を行う。また、旋回油圧ポンプ26の可動斜板146に対するコントロールアーム26cが操向ハンドル19に図外のリンク機構を介して連動連係されており、旋回用のステアリングHST28は該操向ハンドル19の回動により可動斜板146の傾斜角度が変更されて旋回油圧モータ27の正逆の回転方向と回転数増減及び回転停止の制御を行うよう構成されている。
【0053】
そして、操向ハンドル19を直進走行(中立)位置におくと、旋回油圧ポンプ26が中立位置となり、旋回油圧モータ27の駆動が停止して左右のリングギア38L・38Rが静止固定された状態となり、該状態で主変速レバー68にて走行油圧ポンプ23より圧油を吐出させて走行油圧モータ24を駆動すると、その回転はセンタギア46からサンギア36を介して左右の遊星歯車装置35L・35Rのプラネタリギア37L・37Rに伝達され、キャリア41L・41R、車軸40L・40Rを介し、左右の駆動スプロケット34L・34Rが左右同回転方向の同一回転数で駆動されて、機体の前進直進走行が行われる。また、主変速レバー68にて走行油圧ポンプ23からの圧油吐出方向を反転させると、前記と逆方向の駆動力が伝達され、機体は後方へ直進走行を行う。
【0054】
そして、操向ハンドル19を右に切ると、旋回油圧ポンプ26は作動状態となって圧油を吐出し、該圧油を受けて旋回油圧モータ27が駆動される。該旋回油圧モータ27から出力された動力は旋回入力軸90からクラッチ装置Cを経て、同一回転数のまま二手に分岐され、その一方は前記遊星歯車装置35Lのリングギア38Lを正転させ、他方は遊星歯車装置35Rのリングギア38Rを逆転させる。正転するリングギア38Lの回転数はサンギア36によって正転している左キャリア41Lの回転数に加算される一方、逆転するリングギア38Rの回転数はサンギア36によって正転している右キャリア41Rの回転数に減算される。これによって両駆動スプロケット34L・34Rの駆動状態を維持しつつ、左の駆動スプロケット34Lの回転数が右の駆動スプロケット34Rのそれよりも高くなって、右方へ進路が変更されるのである。
【0055】
旋回油圧ポンプ26からの吐出油量は操向ハンドル19の切れ角度が大きくなるに従って増加し、これに応じて旋回油圧モータ27の回転数も無段に増加するので、左右の駆動スプロケット34L・34Rに生じる相対回転差は次第に大きくなり、より小さな旋回半径で機体が旋回することとなる。また、操向ハンドル19を左に切ると、旋回油圧ポンプ26の圧油吐出方向が反転して旋回油圧モータ27の回転方向が逆になり、これによって最終的に、左キャリア41Lの回転数が減算される一方、右キャリア41Rの回転数が加算されて、右の駆動スプロケット34Rの回転数が左の駆動スプロケット34Lのそれよりも高くなって左方へ進路が変更されることとなる。
【0056】
また、ステアリング系ドライブトレーンSの経路に配置された旋回入力軸90には、直進性を良好とするための中立ブレーキ機構Bが、図11に示す如く配設されている。この中立ブレーキ機構Bは、旋回入力軸90上に一体的に装着された摩擦板とミッションケース22側に装着された摩擦板とが重合してなる摩擦ブレーキ100、及び該摩擦ブレーキ100を押圧するピストン101により構成される。該ピストン101は油圧駆動とされ、電磁弁(図5・図7における180)により圧油の供給が行われ、該電磁弁180は図示せぬコントローラに接続されて、操向ハンドル19が中立状態にあるときは該電磁弁180が開かれるように電気的に制御されている。
【0057】
このような構成において、オペレータが操向ハンドル19を直進走行(中立)位置におくと、電磁弁180は「開」となるようコントローラにより制御され、ピストン101が駆動されて摩擦ブレーキ100を押圧して、制動作用が発生する。これにより、旋回油圧ポンプ26の中立位置が正確に出ておらず、旋回油圧モータ27が微動に回転しようとしても、旋回入力軸90が制動されているので、左右のリングギア38L・38Rの静止固定状態が維持され、直進性が良好に維持されるのである。
【0058】
続いて、図示せぬハンドブレーキを操作することにより走行系ドライブトレーンPに制動力を付与させる駐車ブレーキ機構Tについて、図10を用いて説明する。即ち、まず、図外のハンドブレーキに連動連結したブレーキアーム113を回動操作すると、カム軸110が該ブレーキアーム113に連動して回転する。そしてカム軸110の回転によりプレッシャープレート111が回動するとともに右方向(図10における左方向)への推力が発生して、副変速従動軸45上に一体的に装着された摩擦板とミッションケース22側に装着された摩擦板とが重合してなる多板式摩擦ブレーキ112を押圧する。この押圧力により、副変速従動軸45に抵抗を与え、ブレーキ作用を発生させるよう構成しているのである。
【0059】
次に、上記構成のトランスミッションMにおけるオイルフローについて、主に図17を参照しながら説明する。図17はトランスミッションの潤滑油の流れを表した図である。
【0060】
図5・図8・図12に示すように、ミッションケース22の上面の機体前方寄りの位置に筒体191が立設され、該筒体191の上端にはブリーザ機構を有するキャップ190が取り付けられている。従って、筒体191を介してミッションケース22内の潤滑油の油面より十分高い位置にキャップ190が設けられるので、ミッションケース22内に配設された各ドライブトレーンを構成する歯車等が潤滑油を跳ね上げても、該キャップ190の高さまでは届かないようにして、該キャップ190から潤滑油が漏れ出ないようにしている。また、本実施例のように、ミッションケース22の左右側面にHST25・28を有する構成においては、キャップ190の取付位置がHST25・28のケース25a・28a等と干渉しないので、すっきりとした配置とすることができ、潤滑油の補給作業等も機体前方から楽に行うことができる。
【0061】
図5・図12に示すように、ミッションケース22内に作動油のサクション油路105がミッションケース22の前壁内側に上下方向へ沿うようにして一体的に形設され、その上端部に設けた室内にはストレーナ106が横架される。このストレーナ106は機体前方側でクローラ式走行装置2L・2Rの上方に配置されており、ミッションケース22側方から室外へ抜差し可能として点検や交換等のメンテナンスが容易にできるようにしている。そして、サクション油路105内を吸い上げられて上記ストレーナ106にて異物等を除去された潤滑油は、二手に分岐され、そのうち一方はチャージポンプCPの吸入ポートに配管P1を介して導入され(図5・図8)、該チャージポンプCPの吐出ポートから配管P2を介して吐出された潤滑油は、ラインフィルタF、配管P3、管継手J1を介して、走行駆動HST25のセンタセクション25b上面から該センタセクション25b内の油補給回路に導入される。また、配管P0の末端で二分された他方は、図8に示す配管P9を介して、エンジン21の出力軸21aに設けられる刈取部昇降用ポンプSPの吸入ポートに導入され、該ポンプSPの吐出ポートから吐出された油は、上記刈取昇降用油圧シリンダ11を作動させるための昇降バルブユニットVUに、ポンプポート153を介して導入される。
【0062】
昇降バルブユニットVUにて、刈取昇降用油圧シリンダ11に作動油を供給する回路には、図17に示すように、方向制御弁147、ロードチェック弁134、スローリターン弁135が配設され、刈取昇降用油圧シリンダ11に対する作動油の供給と排出を制御し、シリンダポート155を介して刈取昇降用油圧シリンダ11に対する作動油を給排可能としている。また、リリーフ弁148により刈取昇降用油圧シリンダ11の作動油圧を規定している。そして、刈取昇降用油圧シリンダ11側から排出された作動油は、タンクポート154から配管P8を介して、後述のワンウェイクラッチ潤滑部Wへ導入される。
【0063】
一方、走行駆動HST25のセンタセクション25b内の作動油循環回路には油補給回路が接続して設けられ、該油補給回路の入口には、油の補給時にのみ開く一対のチェックバルブ130、HSTの中立範囲を拡大するための絞り131が並列接続して配置される。また、ステアリングHST28のセンタセクション28b内の作動油循環回路にも、同様に油補給回路が接続して設けられ、該油補給回路の入口には、チェックバルブ132、絞り133が並列接続して配置される。
【0064】
そして、図9・図12に示すように、走行駆動HST25とステアリングHST28におけるセンタセクション25b、28bの向かい合った内面の間には直線状のパイプ部材78・79が上下二本平行に横架してあり、上記管継手J1から油補給回路へ導入された潤滑油は、走行駆動HST25の走行油圧ポンプ23・モータ24からの油漏れによる作動油の減少を解消すると同時に、図9に示す上記二本のパイプ部材のうち上側のパイプ部材78を経由して、一旦、走行駆動HST25外へ出てからステアリングHST28のセンタセクション28b内の油補給回路に導入される。これにより、ステアリングHST28の旋回油圧ポンプ26・モータ27からの油漏れによる作動油の減少を解消する。このセンタセクション28b内の油補給回路へ導入される油は、ミッションケース22外の外気にさらされるパイプ部材78を通過するときに冷却される。尚、冷却効率を高くするには、パイプ部材78の外周面に多数のフィンを設ける構成とすれば良い。
【0065】
そして、両HST25・28のチャージ圧(補給油圧)を規定する単一のチャージリリーフバルブ143がステアリングHST28のセンタセクション28b内に設けられており、該バルブ143によりリリーフされた油や旋回油圧ポンプ26・モータ27より漏れた油は、ステアリングHST28のケース28a内に導入されて、走行油圧ポンプ26・モータ27の潤滑及び冷却を行う。また、走行駆動HST25内の走行油圧ポンプ23・モータ24より漏れた油は、走行駆動HST25内のケース25a内に導かれて、走行駆動HST25の走行油圧ポンプ23・モータ24の潤滑及び冷却を行う。
【0066】
上記走行駆動HST25のケース25a内部とステアリングHST28のケース28a内部は、図9に示す上記二本のパイプ部材78・79のうち下側のパイプ部材79にて連通されており、両HST25・28の各々においてケース25a・28a内にて規定量をオーバーフローした潤滑油は、該下側のパイプ部材79を介して相互にケース25a・28a内部に導入されて合流する。
【0067】
上記ステアリングHST28のセンタセクション28b内の油補給回路の油は、管継手J2からセンタセクション28bより外方へ導かれ、配管P4、及び、上述の電磁弁(図5・図7における符号180)を介して上記中立ブレーキ機構Bに導入され、上述のように、該電磁弁180の操作により上記ピストン101を押圧する作動油としての役割を果たし、中立ブレーキ機構Bの制動を行う。
【0068】
また、ステアリングHST28のケース28a内で合流した油が規定量以上に達すると、該ケース28a上面に設けられた管継手J3(図5・図7〜図10)から、配管P5・管継手J4を介して、ワンウェイクラッチ潤滑部Wへ導入される。このワンウェイクラッチ潤滑部Wは、図6・図8・図13に示すように、ミッションケース右側半部22Rの外面に設けた油導入ケース77内に設けられるものであって、該油導入ケース77には、上記ステアリングHST28のケース28a内から配管P5を介して潤滑油を導入する管継手J4と、上述の刈取昇降用油圧シリンダ11を制御するバルブユニットVUからの戻り油を配管P8を介して導入する管継手J5が螺着され、両管継手J4・J5から導入される油がこのワンウェイクラッチ潤滑部W内にて合流される。そして、図13に示す如く、上記刈取PTO軸55の一端面はワンウェイクラッチ潤滑部Wに臨ませてあり、該刈取PTO軸55内に形設された油路89を上記ワンウェイクラッチ潤滑部Wに開放連通して、該潤滑部W内に導入された油の一部は、該油路89を介して刈取PTO軸55の潤滑部位たるワンウェイクラッチ73を潤滑してミッションケース22内に戻される。
【0069】
一方、上記油導入ケース77には上記二つの管継手J4・J5のほかに更にもう一つの管継手J6が設けられており、上記油路89へ導入されない残りの潤滑油は、図6に示す該管継手J6、配管P7を介して、図6及び図16に示す管継手J7から上記油溜めA内へ導入され、上記の副変速操作機構Gの支軸84やデテント機構D等を潤滑した後、ミッションケース右側半部22Rの凹部内に設けた戻し孔83(図6・図16)を経由してミッションケース22内に戻される。
【0070】
この構成とすることにより、ミッションケース22から走行駆動HST25及びステアリングHST28(又は刈取部昇降バルブユニットVU)を経て、各機構を潤滑したのち再びミッションケース22内に戻される、潤滑油の流れが形成されるのである。
【0071】
以上に本発明の実施例を説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0072】
【発明の効果】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示すような効果を奏する。
請求項1に示す如く、差動的に相互結合された左右の車軸(40L・40R)と、該車軸(40L・40R)への動力を無段変速する二つのHST(25・28)とを有し、うち一方のHST(25)を作動させたときに左右の車軸(40L・40R)を同方向に駆動して機体を直進させ、他方のHST(28)を作動させたときに左右の車軸(40L・40R)に相対回転差を与えて機体を旋回させるように構成された作業車のトランスミッション(M)において、上記二つのHST(25・28)はミッションケース(22)を挟んで向かい合わせに取り付けられ、一方のHST(25)のケース(25a)内部と、他方のHST(28)のケース(28a)内部とは、パイプ部材(79)を介して連通させており、両HST(25・28)の各々のケース(25a・28a)内にて、規定量をオーバーフローした潤滑油は、該パイプ部材(79)を介して、相互に他方のケース(25a・28a)内部に導入し合流させ、合流した油が規定量以上に達すると、他方のHST(28)のハウジングからミッションケース(22)内へ排出するように構成したので、二つのHSTをミッションケースを挟んで取り付けることによりトランスミッション全体のコンパクト化を図ることが可能となり、更に、パイプ部材(79)による簡素な構成により、二つのうち一方のHSTを潤滑及び冷却した油にて他方のHSTを潤滑及び冷却させることでき、二つのHSTを効率よく潤滑及び冷却させることができるのである。
【0073】
請求項2に示す如く、請求項1記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記二つのHST(25・28)のうち一方のHST(25)のポンプ軸(23a)により駆動されるチャージポンプ(CP)の吐出油を、作動油の漏れ分を補償すべく、一方のHST(25)の油補給回路に供給するように構成し、該一方のHST(25)の油補給回路と、他方のHST(28)の油補給回路とをパイプ部材(78)にて接続したので、二つのHSTをミッションケースを挟んで取り付けることによりトランスミッション全体のコンパクト化を図ることが可能となり、更に、一方のHSTの入力軸によりチャージポンプを駆動する構成であるから、チャージポンプへの駆動力の伝達構成が簡略化されることとなる。
更には、チャージポンプの吐出油が一方のHSTの回路に供給されると同時に、他方の回路へはパイプ部材を介して供給されるので、チャージポンプの吐出ポートを二つのHSTの上記回路のうち一の回路のみに接続すれば、二つのHST両方の作動油の漏れ分を補償できる構成となるので、チャージポンプを二つ設けてそれぞれのHSTの回路に接続する構成や、一つのチャージポンプの吐出ポートから二つのHSTの回路に分岐して接続する構成に比して、チャージポンプの個数や、配管の本数や長さが簡略化されて、トランスミッションのコンパクト化や製造コストの低減を図ることが可能となるのである。
【0074】
請求項3に示す如く、請求項1記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記一方のHST(25)が機体前進方向へ駆動されるときだけ係合して、刈取PTO軸(55)を駆動するワンウェイクラッチ(73)を設け、前記他方のHST(28)のハウジング内の油をミッションケース(22)へ戻す経路の途中から、該刈取PTO軸(55)とワンウェイクラッチ(73)の潤滑部位を潤滑するための油を分岐させたので、HSTのハウジング内に導入されたHSTを潤滑・冷却した後の戻り油を、刈取PTO軸の該潤滑部位を潤滑する目的にも利用することができ、そのための構成も該戻り油の経路を分岐させるだけでよい簡略な構成であるので、油の循環経路をすっきりしたレイアウトにて構成できるのである。
【0075】
請求項4に示す如く、請求項1記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記一方のHST(25)が機体前進方向へ駆動されるときだけ係合して、刈取PTO軸(55)を駆動するワンウェイクラッチ(73)を設け、前記他方のHST(28)のハウジング内の油をミッションケース(22)へ戻す経路の途中から、該刈取PTO軸(55)とワンウェイクラッチ(73)の潤滑部位を潤滑するための油を分岐させたので、潤滑油はミッションケースに戻される前に油溜めに一旦溜められて、その後にミッションケースに戻される構成となり、ミッションケースに油が急激に戻されることがなくなって、油の飛び散り等による気泡の発生を防止できる。
即ち、油溜めに溜める段階を一旦経てから(ワンクッションをおいてから)ミッションケースに静かに戻す構成とすることにより、油の泡立ちが抑制されて、発生した気泡が潤滑油とともにHST等に吸い込まれてキャビテーションなどのトラブルが発生するのを極力防止できるのである。
【0076】
請求項5に示す如く、請求項4記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記一方のHST(25)から車軸(40L・40R)へ至る伝動経路中に介在させた変速機構(32)を、連係して変速操作するための変速操作部(G)を、上記油溜め(A)に臨ませて配置したので、請求項4に示す効果を奏する油溜めに、該変速操作を行う機構を潤滑する役割をも持たせることが可能となる。
従って、一の油溜めを設けるだけで、潤滑油の泡立ち防止及び変速操作を行う機構の潤滑、の二つの効果を奏することとなって、結果的にトランスミッションの構成の簡略化を図ることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例に係るコンバインの全体的な構成を示した側面図。
【図2】 同じく平面図。
【図3】 同じく正面模式図。
【図4】 トランスミッションの走行系及びステアリング系のドライブトレーンのスケルトン図。
【図5】 トランスミッションの全体構成を示した正面一部断面図。
【図6】 同じく右側面図。
【図7】 同じく左側面図。
【図8】 同じく平面図。
【図9】 トランスミッションの無段変速部近傍の構成を示した正面断面拡大図。
【図10】 トランスミッションの走行系ドライブトレーンの構成を表した正面断面展開図。
【図11】 トランスミッションのステアリング系ドライブトレーンの構成を表した正面断面展開図。
【図12】 トランスミッションの各ドライブトレーンのギアの噛み合いを示した側面断面図。
【図13】 PTO系ドライブトレーンの構成を表した平面断面展開図。
【図14】 クラッチフォークシャフトの構成を示した側面断面拡大図。
【図15】 クラッチスライダの摺動操作機構を示した後面断面展開図。
【図16】 同じく側面断面図。
【図17】 トランスミッションの潤滑油の流れを表した図。
【符号の説明】
M トランスミッション
A 油溜め
G 変速操作部
CP チャージポンプ
22 ミッションケース
25 走行駆動HST
26a 走行駆動HSTの入力軸
28 ステアリングHST
32 副変速機構(歯車変速装置)
40L・40R 車軸
55 刈取PTO軸
73 ワンウェイクラッチ(刈取PTO軸の潤滑部位)
78 パイプ部材
79 パイプ部材
83 戻し孔
Claims (5)
- 差動的に相互結合された左右の車軸(40L・40R)と、該車軸(40L・40R)への動力を無段変速する二つのHST(25・28)とを有し、うち一方のHST(25)を作動させたときに左右の車軸(40L・40R)を同方向に駆動して機体を直進させ、他方のHST(28)を作動させたときに左右の車軸(40L・40R)に相対回転差を与えて機体を旋回させるように構成された作業車のトランスミッション(M)において、上記二つのHST(25・28)はミッションケース(22)を挟んで向かい合わせに取り付けられ、一方のHST(25)のケース(25a)内部と、他方のHST(28)のケース(28a)内部とは、パイプ部材(79)を介して連通させており、両HST(25・28)の各々のケース(25a・28a)内にて、規定量をオーバーフローした潤滑油は、該パイプ部材(79)を介して、相互に他方のケース(25a・28a)内部に導入し合流させ、合流した油が規定量以上に達すると、他方のHST(28)のハウジングからミッションケース(22)内へ排出するように構成したことを特徴とする作業車のトランスミッション。
- 請求項1記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記二つのHST(25・28)のうち一方のHST(25)のポンプ軸(23a)により駆動されるチャージポンプ(CP)の吐出油を、作動油の漏れ分を補償すべく、一方のHST(25)の油補給回路に供給するように構成し、該一方のHST(25)の油補給回路と、他方のHST(28)の油補給回路とをパイプ部材(78)にて接続したことを特徴とする作業車のトランスミッション。
- 請求項1記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記一方のHST(25)が機体前進方向へ駆動されるときだけ係合して、刈取PTO軸(55)を駆動するワンウェイクラッチ(73)を設け、前記他方のHST(28)のハウジング内の油をミッションケース(22)へ戻す経路の途中から、該刈取PTO軸(55)とワンウェイクラッチ(73)の潤滑部位を潤滑するための油を分岐させたことを特徴とする作業車のトランスミッション。
- 請求項1記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記ミッションケース(22)内の潤滑油によって、上記HST(25・28)を潤滑した後、該ミッションケース(22)の側面に凸状に設けられた油溜め(A)に導入し、該油溜め(A)に設けられた戻し孔(83)を介して再びミッションケース(22)に戻すように構成したことを特徴とする作業車のトランスミッション。
- 請求項4記載の作業車のトランスミッションにおいて、前記一方のHST(25)から車軸(40L・40R)へ至る伝動経路中に介在させた変速機構(32)を、連係して変速操作するための変速操作部(G)を、上記油溜め(A)に臨ませて配置したことを特徴とする作業車のトランスミッション。
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