JP4181803B2 - ベロ毒素i型に特異的に吸着し得るアプタマーおよびその取得法 - Google Patents

ベロ毒素i型に特異的に吸着し得るアプタマーおよびその取得法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベロ毒素I型に特異的に吸着し得る一本鎖核酸分子(アプタマー)ならびにその取得方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベロ毒素(Verotoxin)は、腸管出血性大腸菌が産生する毒素であり、アミノ酸配列の違いからI型とII型とに類別される。これら毒素は1個のAサブユニットと5個のBサブユニットとから形成されており、Bサブユニットにより腸管上皮細胞上に存在するレセプターを認識して結合し、細胞内でAサブユニットがrRNAに結合してタンパク合成阻害を起こすことが知られている。ベロ毒素I型とベロ毒素II型とは、生物学的性状が非常に類似しているが、物理化学的性状および免疫学的性状を互いに異にするものであり、ベロ毒素I型は、志賀赤痢菌(Shigella dysenterae)1型菌の産生する志賀毒素(Shiga toxin)と同一の毒素であり、Shiga-like toxin(SLT)などとも呼ばれるものである。このようなベロ毒素I型を選択的に認識することができる高アフィニティーリガンドの開発は、ベロ毒素I型の検出や定量、さらにはベロ毒素I型の中和や捕捉などに好適に使用できる点から、非常に重要である。
【0003】
従来、高アフィニティーリガンドを取得する方法としては、抗原抗体反応の高い特異性を利用して抗体を作製する手法が一般に採られていた。しかし毒素に対する抗体作製の場合、感作動物への毒性から、ホルムアルデヒド処理や熱処理により無毒化した形で免疫を行うのが常法である。ただしこの場合、上記処理による構造変化から、親和性の高いアフィニティーリガンドの取得は困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素のI型を標的分子として特異的に認識して吸着し得る新規アフィニティーリガンドを取得する方法およびアフィニティーリガンドを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、近年の進化分子工学の発達により開発された、ランダムなオリゴヌクレオチドライブラリーから蛋白質等の標的分子に対して高いアフィニティーを有する核酸分子、すなわちアプタマーをスクリーニングする、インビトロセレクション法(in vitro selection method)、あるいはSELEX(Systematic evolution of ligands by exponential enrichment)などと呼ばれる技術を利用して上記のアフィニティーリガンドを取得し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)アフィニティークロマトグラフィーを利用したインビトロセレクション法によって、ベロ毒素I型に特異的に吸着し得るアプタマーを取得する方法であって、
上記アフィニティークロマトグラフィーに、ベロ毒素I型のアミノ酸配列を有するペプチドを固定化した担体を用いることを特徴とする方法。
(2)ベロ毒素I型のアミノ酸配列を有するペプチドが、ベロ毒素I型のアミノ酸配列から選ばれる、3個〜30個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するペプチドである、上記(1)記載の方法。
(3)該ペプチドを固定化した担体を充填してなるアフィニティーカラムを用いることを特徴とする、上記(1)記載の方法。
(4)該ペプチドが、配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するものである、上記(1)記載の方法。
(5)該ペプチドが、N側末端またはC側末端に6個のヒスチジンを有し、該6個のヒスチジンを介して担体に固定化されてなることを特徴とする、上記(1)記載の方法。
(6)上記(1)記載の方法によって取得されたアプタマーである一本鎖核酸分子。
(7)アフィニティークロマトグラフィーを利用したインビトロセレクション法によって、ベロ毒素I型に特異的に吸着し得るアプタマーを取得する方法であって、
上記アフィニティークロマトグラフィーに、ベロ毒素I型のアミノ酸配列から選ばれる、3個〜30個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するペプチドを固定化したアフィニティーカラムを用いることを特徴とする方法。
(8)上記ペプチドが、配列表配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するものである、上記(7)記載の方法。
(9)上記ペプチドが、N側末端またはC側末端に6個のヒスチジンを有し、該6個のヒスチジンを介してアフィニティーカラムに固定化されていることを特徴とする、上記(7)または(8)に記載の方法。
(10)上記(7)〜(9)のいずれかに記載の方法によって取得されたアプタマーである一本鎖核酸分子。
(11)ベロ毒素I型に特異的に吸着し得るアプタマーであって、下記(a)〜(e)のいずれかの塩基配列を含むことを特徴とする一本鎖核酸分子。
(a)配列表配列番号3に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(b)配列表配列番号4に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(c)配列表配列番号5に示される塩基配列中塩基番号40〜88で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(d)配列表配列番号6に示される塩基配列中塩基番号39〜82で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(e)上記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された配列
(12)核酸がDNAである上記(11)記載の一本鎖核酸分子。
【0007】
本明細書において「インビトロセレクション法(in vitro selection method)」とは、ランダムに合成した一本鎖オリゴヌクレオチドライブラリーから、特定の機能を有する(たとえば、標的物質に特異的に吸着する)一本鎖オリゴヌクレオチドを分離し、これを増幅し、さらに上記特定の機能を有する一本鎖オリゴヌクレオチドを分離するという選抜プロセスを繰り返し実施することによって、特定の機能を有する核酸分子を取得する方法を指す。ランダムオリゴヌクレオチドライブラリーから、特定の標的物質に特異的に吸着し得る核酸分子(アプタマー)を取得したい場合、上記吸着能を有する核酸分子を分離する方法としては、たとえば、標的物質を固定化したアフィニティーカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーが挙げられる。
【0008】
また本明細書中における「アプタマー」とは、特定の標的物質に対する特異的な吸着能を有する一本鎖核酸分子を指すものとする。本明細書中におけるアプタマーは、上記のインビトロセレクション法によって取得されたものに限定されない。
【0009】
本明細書において「アフィニティークロマトグラフィー」とは、生体物質の示す特異的な相互作用(親和性)を利用した分離法を指し、その分離手段は特に限定されず、通常当分野で実施される種々の手法が用いられる。具体的にはアフィニティーカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーが挙げられ、当該方法は▲1▼標的物質を固定化した担体を充填したアフィニティーカラム(以下、便宜上標的物質を固定化したアフィニティーカラムということもある)に、該標的物質に特異的に吸着可能な物質および/または吸着できない物質をアプライする処理と、▲2▼アプライ後、洗浄用緩衝液にてカラムを洗浄して上記吸着可能物質と非吸着物質とを分離する処理(洗浄処理)と、▲3▼洗浄処理の後に溶出用緩衝液にて、吸着可能物質とカラムに固定化した標的物質との間の結合力を弱めて、吸着可能物質を溶出させる処理(溶出処理)とを少なくとも含有するものとする。ここで、標的物質を固定化する担体としては、アフィニティークロマトグラフィー、特にアフィニティーカラムクロマトグラフィーで用いられる公知のものが挙げられる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明のベロ毒素I型に特異的に吸着し得るアプタマーを取得する方法の好ましい一例の処理動作を説明するためのフローチャートである。
まずステップs1では、DNA/RNA自動合成機を用い、常法に従って約30塩基〜約80塩基の予め決められた長さのランダム領域を含む一本鎖オリゴヌクレオチド(以下、ssNtという場合もある。)のライブラリーを作成する。該ライブラリーには1013〜1014種類もしくはそれ以上のssNtが含まれていることが好ましい。
【0011】
後述するステップs2、s3におけるPCR増幅を容易にするために、各ssNtはランダム領域の両端に共通のプライミング部位(すなわち、5’末端にセンスプライマーと相同な配列および3’末端にアンチセンスプライマーと相補的な配列)を有するように設計することが好ましい(ここで「センス」および「アンチセンス」プライマーは、それぞれ元のssNtおよびその相補鎖を増幅するためのプライマーである。)。このようなプライミング部位は、それぞれ約15塩基〜約40塩基、好ましくは約15塩基〜約30塩基で、それらに対応するPCRプライマーが好適なプライマーの一般的条件を満たすように設計することが好ましい。
【0012】
また、選抜後のアプタマーを適当なベクターにサブクローニングする必要がある場合、当該クローニングを容易にするために、該プライミング部位は適当な制限酵素認識部位を含んでいてもよい。しかしながら、図1に示す例のように非対称PCRにより一本鎖オリゴヌクレオチドが大部分となるように増幅を行う場合には、サブクローニングすることなくダイレクトにアプタマーの配列を決定することができる。
【0013】
続くステップs2では、得られたssNtライブラリーを鋳型として、ssNtの両端のプライミング部位に対応するセンスおよびアンチセンスプライマーを用い、二本鎖オリゴヌクレオチド(以下、dsNtという場合もある。)を増幅する。このdsNtの増幅は、常法に従ってPCRにて実施できる。
【0014】
図1に示す例では、続くステップs3において、上記PCRにより増幅dsNtライブラリーについてセンスプライマーのみを用いた非対称PCRを行い、センス鎖(すなわち元のssNt)のみが増幅されたssNtのプールを調製する。これは、アプタマーが、特有の二次構造を形成し得る一本鎖核酸分子であるという構造的、配列的特徴に基づいて、標的物質への特異的な吸着能を有すると考えられており、したがって後述するステップs4〜s6におけるアフィニティークロマトグラフィーの前に所定の二次構造を形成した一本鎖の状態で存在しなければならないためである。
【0015】
非対称PCRにより増幅されたssNtはアガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製することができる。所望により、電気泳動に先立ってPCR産物をエタノール沈殿して濃縮することもできる。所望のssNtに対応するバンドを含むゲル部分を回収し、常法に従ってssNtを精製する。アフィニティークロマトグラフィーに先立って、ssNtを90℃以上で変性させ、常温になるまで放冷して適切な二次構造を形成させる。
【0016】
なお本発明においては、上記例のステップs2のPCRおよびステップs3の非対称PCRに換えて、センスプライマーをアンチセンスプライマーに対して大過剰(たとえば50〜100:1程度)に加えてPCRを行うことによって、センス鎖のみが増幅されたssNtプールを調製してもよい。
【0017】
続くステップs4、ステップs5およびステップs6は、特定のペプチドを固定化したアフィニティーカラムを用いた、アフィニティークロマトグラフィーの一連の処理である。本発明において重要なことは、このアフィニティーカラムに固定化するペプチドとして、ベロ毒素I型のアミノ酸配列を有するペプチド、特にベロ毒素I型のアミノ酸配列から選ばれる、3個〜30個のアミノ酸、好ましくは5個〜25個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するペプチドを使用することである。かかるペプチドは、高次構造下では外側に位置しアプタマ−の認識が可能な部分であることが好ましい。ベロ毒素I型は、1個のAサブユニットと5個のBサブユニットとから形成されるが、これらAサブユニット、Bサブユニットともにそのアミノ酸配列は当分野において公知である(Aサブユニットは293個のアミノ酸からなり、Bサブユニットは69個のアミノ酸からなる。)。本発明においては、このベロ毒素I型のアミノ酸配列を有するペプチドを担体に固定化する。当該ペプチドはその大きさや親和性の強さ等により好ましくはベロ毒素I型の部分アミノ酸配列であり、より好ましくは、3個〜30個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を選択し、このアミノ酸配列を有するペプチドをアフィニティーカラムに固定化する。本発明において使用されるペプチドは、当業者が通常行うように、ペプチド自動合成装置で合成できるが、天然由来のものであっても、また半合成のものであってもかまわず、任意の方法により入手可能である。上記ベロ毒素I型由来のアミノ酸配列におけるアミノ酸が3個未満であると、アフィニティークロマトグラフィーによりアプタマーを選抜するためのアフィニティーを充分に発揮することができないというような不具合がある。またベロ毒素I型由来のアミノ酸配列におけるアミノ酸が30個を超えると、該ペプチドの合成が困難となってしまい、また非特異的な吸着が増加してアプタマーの選抜が困難となってしまう不具合がある。当該ペプチドのアミノ酸配列は、ベロ毒素I型のAサブユニット、Bサブユニットのどちら由来のアミノ酸配列であってもよい。
【0018】
なお本発明において使用するペプチドは、上記のベロ毒素I型由来でアフィニティーの呈示を阻害しないものであればよい。例えばベロ毒素I型由来の3個〜30個のアミノ酸を有するアミノ酸配列(以下、「高アフィニティー領域」ということがある。)によるアフィニティーの呈示を阻害しないものであれば、N側末端および/またはC側末端にさらにアミノ酸残基を有していてよい。但し、上記高アフィニティー領域によるアフィニティーの観点からは、上記アミノ酸残基が付加されているか否かに関わらず、ペプチドの総アミノ酸数が3個〜30個のアミノ酸を有するものであるのが好ましく、5個〜25個のアミノ酸を有するものであるのがより好ましい。
【0019】
本発明において使用されるペプチドにおける高アフィニティー領域は、下記のアミノ酸配列であることが好ましい。
N-Leu-Ser-Ala-Gln-Ile-Thr-Gly-Met-Thr-Val-Thr-Ile-Lys-Thr-Asn-Ala-Cys-His-C(配列番号1)
上記配列番号1のアミノ酸配列は、ベロ毒素I型のBサブユニットの一部のアミノ酸配列であるが、高次構造をとるベロ毒素I型において外側に位置し、抗原性を呈示する領域であると考えられる。
【0020】
また本発明においては、上記ペプチドは、N側末端またはC側末端に6個のヒスチジン(ヒスチジンタグ)を有し、該ヒスチジンタグを介して固定化されているのが好ましい。言い換えると、ペプチドの高アフィニティー領域を除く残余のアミノ酸残基において、該アミノ酸残基が上記アミノ酸配列領域のN側末端にある場合にはそのN側末端が、該アミノ酸残基が上記アミノ酸配列領域のC側末端にある場合にはそのC側末端が、該アミノ酸残基が上記アミノ酸配列領域の両方の末端にある場合にはそのN側末端またはC側末端が、ヒスチジンタグを有するものであり、このヒスチジンタグを介してアフィニティーカラムに固定化されているのが好ましい。上記ヒスチジンタグをさらに有することによって、ヒスチジンのイミダゾール基がニッケルイオン錯体またはコバルトイオン錯体と強く結合することができ、さらにイミダゾールの添加またはpHの低下によって容易にアフィニティーリガンドの溶出が行えるので、ニッケルイオン錯体またはコバルトイオン錯体を安定に保持した支持体を用いたアフィニティーカラムにより、調整が容易で安定したアフィニティークロマトグラフィーが可能となる。上記ニッケルイオン錯体またはコバルトイオン錯体としては、従来公知のものを好適に使用することができる。本発明において使用されるペプチドは、上記の配列番号1のアミノ酸配列のN側末端に6個のヒスチジンが付加した配列からなり(配列表配列番号2)、ヒスチジンタグを介して、ニッケルイオン錯体との結合によってアフィニティーカラムに固定化されるのが好ましい。
【0021】
本発明においては、ステップs4〜s6のアフィニティーカラムクロマトグラフィーに、上記ペプチドを固定化したビーズやゲル固相を充填したアフィニティーカラムを使用する。カラム充填剤としては、シリカゲル、セファロースゲルなどが挙げられる。
【0022】
上記のようにステップs4、ステップs5およびステップs6は、上記ペプチドを固定化したアフィニティーカラムを用いた、アフィニティークロマトグラフィーの一連の処理である。すなわち、ステップs4ではステップs3で得られた適切な二次構造をとったssNtを、上記ペプチドを固定化したアフィニティーカラムへアプライする処理、ステップs5ではアフィニティーカラムを洗浄して上記ペプチドに吸着しなかった核酸分子(以下、「非吸着核酸分子」ということがある。)を分離させる処理(洗浄処理)、ステップs6では上記ペプチドに特異的に吸着した核酸分子(以下、「吸着核酸分子」ということがある。)をアフィニティーカラムから溶出させる処理(溶出処理)が行われる。このように本発明におけるインビトロセレクション法は、上記ペプチドを固定化したアフィニティーカラムを用いた、アフィニティークロマトグラフィーを利用して、吸着核酸分子と非吸着核酸分子とを分離する。上記洗浄処理に用いる洗浄用の緩衝液、ならびに上記溶出処理に用いる溶出用の緩衝液は、当分野において従来から広く用いられてきているものをそれぞれ用いればよい。溶出用緩衝液は、洗浄用緩衝液にイミダゾールを添加したものであってもよい。
【0023】
上記のようなステップs4〜s6を経て得られた吸着核酸分子について、上記のPCR増幅(ステップs2)、非対称PCR(ステップs3)および上記ペプチドを固定化してなるアフィニティーカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー(ステップs4〜s6)のサイクルを、少なくとも5回、好ましくは7〜15回程度行うことにより、本発明のアプタマーを得ることができる。
【0024】
得られたアプタマーは、常法にしたがって二本鎖とした後、プライミング部位中に構築された制限酵素認識部位を用いて、また平滑末端化して、あるいはTAクローニング法により適当なベクター中にサブクローニングすることができ、マキサム・ギルバート法またはジデオキシ法によりその塩基配列を決定することができる。あるいは得られた一本鎖アプタマーをサブクローニングすることなくダイレクトにシークエンスすることもできる。
【0025】
上記のような本発明の方法によれば、従来取得が困難であった、ベロ毒素I型を標的物質として特異的に認識して吸着し得るアフィニティーリガンドを効率よく取得することができる。
【0026】
ベロ毒素I型に特異的に吸着し得る本発明のアプタマーは、一本鎖のDNAまたはRNA、好ましくは一本鎖DNAである。その長さは特に制限されないが、好ましくは約30塩基〜約120塩基である。
【0027】
本発明のアプタマーは、その好ましい実施態様において、配列表配列番号3に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列、配列表配列番号4に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列、配列表配列番号5に示される塩基配列中塩基番号40〜88で示される塩基配列、配列表配列番号6に示される塩基配列中塩基番号39〜82で示される塩基配列からなる群より選択される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、該配列中のTはUである。)を実質的に含むものである。ここで「実質的に含む」とは、上記のいずれかの塩基配列そのものを含むか、あるいは上記のいずれかの塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加され且つベロ毒素I型特異的な吸着能を保持する配列を含むことを意味する。
【0028】
上記の塩基配列を実質的に含む一本鎖核酸分子(アプタマー)は、上述した本発明の方法によって調製されたものでなくてもよく、いかなる方法によっても調製することができるが、上述した本発明の方法によって調製されたものであるのが好ましい。
【0029】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0030】
実施例1
〔1〕増幅された一本鎖DNA(ssDNA)ライブラリーの作製
(1)DNA自動合成機を用いて、59merをランダム領域とした以下の鋳型DNAと、センス(P1)プライマーおよびアンチセンス(P2)プライマーを合成した(ステップs1)。
鋳型:5'-TAGGGAATTCGTCGACGGATCC-N59-CTGCAGGTCGACGCATGCGCCG-3’(配列番号7)
P1:5'-TAATACGACTCACTATAGGGAATTCGTCGACGGAT-3' (配列番号8)
P2:5'-CGGCGCATGCGTCGACCTG-3' (配列番号9)
(2)上記の鋳型DNAを、P1およびP2プライマーを用いてPCRにより増幅した(ステップs2)。反応液組成および反応条件は以下の通りである。
Figure 0004181803
反応条件
最初の変性 :94℃,1分
変性 :94℃,15秒
アニーリング:55℃,15秒 10サイクル
伸長 :72℃,15秒
最後の伸長 :72℃,6分
(3)上記PCR産物を鋳型として、P1のみをプライマーに用いて非対称PCRを行った(ステップs3)。最終的にPCR産物が2ml得られるように調製した(100μl×20本)。反応液組成および反応条件は以下の通りである。
Figure 0004181803
反応条件
最初の変性 :94℃,1分
変性 :94℃,15秒
アニーリング:55℃,15秒 40サイクル
伸長 :72℃,15秒
最後の伸長 :72℃,6分
【0031】
PCR反応液を400μlずつ5本のマイクロチューブに分注し、それぞれに10M酢酸アンモニウム80μl、99.5%エタノール1mlを加えて軽く混和し、−80℃で20分間放置した。15,000rpmで15分間遠心し、70%エタノールでリンス、15,000rpmで10分間遠心した後、沈澱を減圧乾燥した。滅菌蒸留水20μlを加え、激しくボルテックスして沈澱を溶解した後、ゲルローディングバッファー(95%ホルムアミド,0.5mM EDTA(pH8.0),0.025% STS,0.025%キシレンシアノール,0.025%ブロモフェノールブルー)20μlを加えてさらによくボルテックスした。これを90℃で3分間処理して変性させ氷中で急冷した後、ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動(150V,50分)に付した。エチジウムブロマイド液中に約5分間浸漬した後水洗し、トランスイルミネーター上でバンドを検出し、目的のバンドを含むゲル部分を切り出して破砕した。溶出バッファー(0.5M酢酸アンモニウム,10mM酢酸マグネシウム,1mM EDTA(pH8.0),0.1% STS)800μlを加えて3時間振盪した後、フィルターに通して濾液を回収した。
【0032】
〔2〕アフィニティーカラムクロマトグラフィー
(1)上記〔1〕で得られたDNAをエタノール沈殿させ、減圧乾燥後、蒸留水100μlに溶解し、2×結合バッファー(200mM Tris−HCl,400mM NaCl,50mM KCl,20mM MgCl2(pH8.0))100μlを加えてよく混合し、260nmでの吸光度を測定した。該DNA溶液を90℃で5分間処理して変性させた後、そのままゆっくりと自然冷却してホールディングさせた。吸光度の変化により二次構造の形成を確認した。
(2)ベロ毒素I型Bサブユニット内のペプチドを、ペプチド自動合成装置を用いて合成した。N側末端に6個のヒスチジンを付加して合成を行い、以下のアミノ酸配列の合成ペプチドを得た。
N-His-His-His-His-His-His-Leu-Ser-Ala-Gln-Ile-Thr-Gly-Met-Thr-Val-Thr-Ile-Lys-Thr-Asn-Ala-Cys-His-C(配列番号2)
(3)カラム材への上記ペプチドの固定化は、以下のように行った。10μgの上記ペプチドを1×結合バッファー(100mM Tris−HCl,200mM NaCl,25mM KCl,10mM MgCl2(pH8.0))800μlに溶解し、NTA−Ni2+アガロースゲル200μlを加え、室温で1時間振盪した。固定化したゲルを8mm×5mmのカラムに充填し、約20倍量の1×結合バッファーで洗浄し、平衡化した(このときに出てくる液をベースラインとして用いた。)。
(4)上記(1)で得られたDNAサンプルをカラムにアプライした後、コックを開いて溶出液をマイクロチューブに受け取り、再度カラムにアプライした(ステップs4)。この操作を3回繰り返した後、室温にて30分間放置した。1×結合バッファー5mlを注いでコックを開き、約12滴(約650μl)ずつ6フラクションをマイクロチューブに分取した(ステップs5)。一度コックを閉じた後、溶出バッファー(100mM Tris−HCl,200mM NaCl,25mM KCl,10mM MgCl2(pH8.0)+250mMイミダゾール)を注ぎコックを開いた。溶出液をマイクロチューブに受け取り、再度カラムに戻した。この操作を3回繰り返すことによりバッファーを溶出バッファーで置換した。再びコックを開き、12滴ずつ3フラクションをマイクロチューブに分取した(ステップs6)。該溶出液を400μlずつに分け、それぞれグリコーゲン2μlを加えた後、エタノール沈殿させ、減圧乾燥させた。該沈殿を水15μlによく溶解させた。
【0033】
〔3〕ベロ毒素I型特異的DNAアプタマーの同定
上記〔1〕(2)〜〔2〕(4)の各操作(ステップs2〜s6)の各操作を12回繰り返して行った。該操作により選抜された5種のベロ毒素I型特異的な一本鎖DNAアプタマーの塩基配列を、ジデオキシ法により決定した。
決定された各クローンのランダム領域の塩基配列は、以下のとおりであった。
クローン1:5'-GACATTTGAAACCGTCCTATACGGGTCGGTGGGCTTAGACGTCTTCTTCGCCCTAAATT-3’(配列番号3の塩基番号38〜96)
クローン2:5'-GTGTTGGGAGTTGGCCTTGGGCGACCCATGCACAGTAGGGCATCACGCTTGGGCTAAAC-3’(配列番号4の塩基番号38〜96)
クローン3:5'-AGGGTTTCGGGAGGTCAACTAATGGGTTGTCGTTTACTGGGCCGCCCAA-3’(配列番号5の塩基番号40〜88)
クローン4:5'-TTTAATTAATTCAAGTAAATCGGGCACCTTCGTCTCTTATGTTT-3’(配列番号6の塩基番号39〜82)
【0034】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、ベロ毒素I型を標的分子として認識して特異的に吸着し得る新規アフィニティーリガンド、すなわちアプタマーを取得する方法およびアプタマーを提供することができる。本発明のアプタマーは、ベロ毒素I型を特異的に認識して吸着できるので、ベロ毒素I型の検出、定量、さらにはベロ毒素I型の中和や捕捉などに好適に使用でき、極めて有用である。
【0035】
【配列表フリーテキスト】
配列番号3:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ベロ毒素I型に対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号4:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ベロ毒素I型に対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号5:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ベロ毒素I型に対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号6:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ベロ毒素I型に対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号7:A,G,CまたはT
PCRプライミング部位に挟まれた59merランダム領域を含む一本鎖DNA。
配列番号8:配列番号7のDNA配列を増幅するためのPCRプライマー(センス)として作用すべく設計されたオリゴDNA。
配列番号9:配列番号7のDNA配列を増幅するためのPCRプライマー(アンチセンス)として作用すべく設計されたオリゴDNA。
【0036】
【配列表】
Figure 0004181803
Figure 0004181803
Figure 0004181803
Figure 0004181803
Figure 0004181803

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のベロ毒素I型に特異的に吸着し得るアプタマーを取得する方法の好ましい一例の処理動作を説明するためのフローチャートである。

Claims (1)

  1. ベロ毒素I型に特異的に吸着し得るアプタマーであって、下記(a)〜(e)のいずれかの塩基配列を含むことを特徴とする一本鎖DNA
    (a)配列表配列番号3に示される塩基配
    (b)配列表配列番号4に示される塩基配
    (c)配列表配列番号5に示される塩基配
    (d)配列表配列番号6に示される塩基配
    (e)上記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された配列
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