JP4180315B2 - ビスフェノールaに特異的に吸着し得るアプタマーおよびその取得法 - Google Patents

ビスフェノールaに特異的に吸着し得るアプタマーおよびその取得法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビスフェノールAに特異的に吸着し得る一本鎖核酸分子(アプタマー)ならびにその取得方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ある種の化学物質が環境中に放出されると、ヒトや野生動物の生殖に悪影響を及ぼすことが知られている。このような化学物質は、生体がもつホルモンと類似の作用を示し、これが野生動物やヒトの内分泌作用を撹乱すると考えられていることから、「内分泌撹乱物質」と呼ばれている(「環境ホルモン」とも通称される。)。この内分泌撹乱物質の疑いがある化学物質の中で、身近に使用されている代表的なものとして、ビスフェノールAがある。
【0003】
ビスフェノールAは、酸性触媒の存在下でフェノールとアセトンとの縮合反応によって製造される対称型2価フェノールであり、ポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂などの汎用プラスチックの原料として広く用いられている。ポリカーボネート樹脂は、たとえば哺乳瓶や給食用の食器、コンパクトディスク(CD)、携帯電話、OA機器などに使用されている。エポキシ樹脂は、たとえば缶詰や水道配管などの腐食防止用被覆材、接着剤、電気製品の配線基板などに使用されている。
【0004】
上記樹脂製品の中には未反応のビスフェノールAが含まれているが、樹脂製品の使用状況によっては、ビスフェノールAが環境中に溶出する。樹脂製品から溶出したレベルのビスフェノールAが生体に及ぼす悪影響については現時点では不明であるが、内分泌撹乱物質との疑いが持たれている該ビスフェノールAを研究するための道具として、異なる低分子量の有機化合物の中からビスフェノールAを選択的に認識することができる高アフィニティーリガンドの開発は非常に重要である。
【0005】
近年、進化分子工学の発達により、ランダムなオリゴヌクレオチドライブラリーから蛋白質等の標的分子に対して高いアフィニティーを有する核酸分子、すなわちアプタマーをスクリーニングする技術が開発された。この方法は、インビトロセレクション法(in vitro selection method)、あるいはSELEX(Systematic evolution of ligands by exponential enrichment)などと呼ばれ、この方法を用いた、抗体よりも迅速且つ容易な高アフィニティーリガンドの調製が数多く報告されている(例えば、Nature, 355: 564 (1992) 、国際特許出願WO92/14843号公報、特開平8-252100号公報(EP 0533838)、特開平9-216895号公報(US 5780449)等)。
【0006】
しかし、低分子量の有機化合物の認識においては、分子量が小さくエピトープ部分が限られる事から、アフィニティーリガンドを取得する事は一般的に困難とされており、ビスフェノールAについても、未だそれを選択的に認識し得る高アフィニティーアプタマーを得るに至っていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、内分泌撹乱物質の疑いが持たれているビスフェノールAを標的分子として特異的に認識して吸着し得る新規アフィニティーリガンド、すなわちアプタマーを取得する方法およびアプタマーを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。本発明は以下のとおりである。
(1)ビスフェノールAを固定化した担体を用いるアフィニティークロマトグラフィーを利用したインビトロセレクション法によってビスフェノールAに特異的に吸着し得るアプタマーを取得する方法であって、
両性有機溶媒を含有する拮抗溶出用緩衝液を用いて、上記アフィニティークロマトグラフィーにおける溶出処理を行うことを特徴とする方法。
(2)両性有機溶媒を含有する洗浄用緩衝液を用いて、上記アフィニティークロマトグラフィーにおける洗浄処理を行うことを特徴とする上記(1)記載の方法。
(3)ビスフェノールAを固定化した担体を充填してなるアフィニティーカラムを用いることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(4)該両性有機溶媒を含有する拮抗溶出用緩衝液が、2%〜50%の両性有機溶媒を含有するものである、上記(1)記載の方法。
(5)該両性有機溶媒を含有する洗浄用緩衝液が、2%〜50%の両性有機溶媒を含有するものである、上記(2)記載の方法。
(6)両性有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランおよびエタノールのうちから選ばれる少なくともいずれかであることを特徴とする上記(1)または(2)記載の方法。
(7)上記(1)記載の方法によって取得されたアプタマーである一本鎖核酸分子。
(8)ビスフェノールAを固定化したアフィニティーカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用したインビトロセレクション法によってビスフェノールAに特異的に吸着し得るアプタマーを取得する方法であって、
2%〜50%の両性有機溶媒を含有する拮抗溶出用緩衝液を用いて、上記アフィニティークロマトグラフィーにおける溶出処理を行うことを特徴とする方法。
(9)2%〜50%の両性有機溶媒を含有する洗浄用緩衝液を用いて、上記アフィニティークロマトグラフィーにおける洗浄処理を行うことを特徴とする上記(8)記載の方法。
(10)上記両性有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランおよびエタノールのうちから選ばれる少なくともいずれかであることを特徴とする上記(8)または(9)に記載の方法。
(11)上記(8)〜(10)のいずれかに記載の方法によって取得されたアプタマーである一本鎖核酸分子。
(12)ビスフェノールAに特異的に吸着し得るアプタマーであって、下記(a)〜(l)のいずれかの塩基配列を含むことを特徴とする一本鎖核酸分子。
(a)配列表配列番号1に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(b)配列表配列番号2に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(c)配列表配列番号3に示される塩基配列中塩基番号38〜91で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(d)配列表配列番号4に示される塩基配列中塩基番号38〜95で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(e)配列表配列番号5に示される塩基配列中塩基番号38〜94で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(f)配列表配列番号6に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(g)配列表配列番号7に示される塩基配列中塩基番号38〜95で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(h)配列表配列番号8に示される塩基配列中塩基番号38〜87で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(i)配列表配列番号9に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(j)配列表配列番号10に示される塩基配列中塩基番号38〜86で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(k)配列表配列番号11に示される塩基配列中塩基番号38〜97で示される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、配列中のTはUである。)
(l)上記(a)〜(k)のいずれかの塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された配列
(13)核酸がDNAである上記(12)に記載の一本鎖核酸分子。
【0009】
本明細書において「インビトロセレクション法(in vitro selection method)」とは、ランダムに合成した一本鎖オリゴヌクレオチドライブラリーから、特定の機能を有する(たとえば、標的物質に特異的に吸着し得る)一本鎖オリゴヌクレオチドを分離し、これを増幅し、さらに上記特定の機能を有する一本鎖オリゴヌクレオチドを分離するという選抜プロセスを繰り返し実施することによって、特定の機能を有する核酸分子を取得する方法を指す。ランダムオリゴヌクレオチドライブラリーから、特定の標的物質に特異的に吸着し得る核酸分子(アプタマー)を取得したい場合、上記吸着能を有する核酸分子を分離する方法としては、たとえば、標的物質を固定化したアフィニティーカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーが挙げられる。
また本明細書中における「アプタマー」とは、特定の標的物質に対する特異的な吸着能を有する一本鎖核酸分子を指すものとする。本明細書中におけるアプタマーは、上記のインビトロセレクション法によって取得されたものに限定されない。
【0010】
本明細書において「アフィニティークロマトグラフィー」とは、生体物質の示す特異的な相互作用(親和性)を利用した分離法を指し、その分離手段は特に限定されず、通常当分野で実施される種々の手法が用いられる。具体的にはアフィニティーカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーが挙げられ、当該方法は▲1▼標的物質を固定化した担体を充填したアフィニティーカラム(以下、便宜上標的物質を固定化したアフィニティーカラムということもある)に、該標的物質に特異的に吸着可能な物質および/または吸着できない物質をアプライする処理と、▲2▼アプライ後、洗浄用緩衝液にてカラムを洗浄して上記吸着可能物質と非吸着物質とを分離する処理(洗浄処理)と、▲3▼洗浄処理の後に溶出用緩衝液にて、吸着可能物質とカラムに固定化した標的物質との間の結合力を弱めて、吸着可能物質を溶出させる処理(溶出処理)とを少なくとも含有するものとする。ここで、標的物質を固定化する担体としては、アフィニティークロマトグラフィー、特にアフィニティーカラムクロマトグラフィーで用いられる公知のものが挙げられる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明のビスフェノールAに特異的に吸着し得るアプタマーを取得する方法の好ましい一例の処理動作を説明するためのフローチャートである。
まずステップs1では、DNA/RNA自動合成機を用い、常法に従って約30塩基〜約80塩基の予め決められた長さのランダム領域を含む一本鎖オリゴヌクレオチド(以下、ssNtという場合もある。)のライブラリーを作成する。該ライブラリーには1013〜1014種類もしくはそれ以上のssNtが含まれていることが好ましい。
【0012】
後述するステップs2,s3におけるPCR増幅を容易にするために、各ssNtはランダム領域の両端に共通のプライミング部位(すなわち、5’末端にセンスプライマーと相同な配列および3’末端にアンチセンスプライマーと相補的な配列)を有するように設計することが好ましい(ここで「センス」および「アンチセンス」プライマーは、それぞれ元のssNtおよびその相補鎖を増幅するためのプライマーである。)。このようなプライミング部位は、それぞれ約15塩基〜約40塩基、好ましくは約15塩基〜約30塩基で、それらに対応するPCRプライマーが好適なプライマーの一般的条件を満たすように設計することが好ましい。
また、選抜後のアプタマーを適当なベクターにサブクローニングする必要がある場合、当該クローニングを容易にするために、該プライミング部位は適当な制限酵素認識部位を含んでいてもよい。しかしながら、図1に示す例のように非対称PCRにより一本鎖オリゴヌクレオチドが大部分となるように増幅を行う場合には、サブクローニングすることなくダイレクトにアプタマーの配列を決定することができる。
【0013】
続くステップs2では、得られたssNtライブラリーを鋳型として、ssNtの両端のプライミング部位に対応するセンスおよびアンチセンスプライマーを用い、二本鎖オリゴヌクレオチド(以下、dsNtという場合もある。)を増幅する。このdsNtの増幅は、常法に従ってPCRにて実施できる。
【0014】
図1に示す例では、続くステップs3において、上記PCRにより増幅dsNtライブラリーについてセンスプライマーのみを用いた非対称PCRを行い、センス鎖(すなわち元のssNt)のみが増幅されたssNtのプールを調製する。これは、アプタマーが、特有の二次構造を形成し得る一本鎖核酸分子であるという構造的、配列的特徴に基づいて、標的物質への特異的な吸着能を有すると考えられており、したがって後述するステップs4〜s6におけるビスフェノールAカラムアフィニティークロマトグラフィーの前に所定の二次構造を形成した一本鎖の状態で存在しなければならないためである。
【0015】
非対称PCRにより増幅されたssNtはアガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製することができる。所望により、電気泳動に先立ってPCR産物をエタノール沈殿して濃縮することもできる。所望のssNtに対応するバンドを含むゲル部分を回収し、常法に従ってssNtを精製する。アフィニティークロマトグラフィーに先立って、ssNtを90℃以上で変性させ、常温になるまで放冷して適切な二次構造を形成させる。
【0016】
なお本発明においては、上記例のステップs2のPCRおよびステップs3の非対称PCRに換えて、センスプライマーをアンチセンスプライマーに対して大過剰(たとえば50〜100:1程度)に加えてPCRを行うことによって、センス鎖のみが増幅されたssNtプールを調製してもよい。
【0017】
続くステップs4、ステップs5およびステップs6は、ビスフェノールAを固定化したアフィニティーカラムを用いた、アフィニティークロマトグラフィーの一連の処理である。すなわち、ステップs4ではステップs3で得られた適切な二次構造をとったssNtを、ビスフェノールAを固定化したアフィニティーカラムへアプライする処理、ステップs5ではアフィニティーカラムを洗浄してビスフェノールAに吸着しなかった核酸分子(以下、「非吸着核酸分子」ということがある。)を分離させる処理(洗浄処理)、ステップs6ではビスフェノールAに特異的に吸着した核酸分子(以下、「吸着核酸分子」ということがある。)をアフィニティーカラムから溶出させる処理(溶出処理)が行われる。このように本発明におけるインビトロセレクション法は、ビスフェノールAを固定化したアフィニティーカラムを用いた、アフィニティークロマトグラフィーを利用して、吸着核酸分子と非吸着核酸分子とを分離する。ステップs4でssNtをアプライするアフィニティーカラムとしては、従来公知の方法によって、ビスフェノールAを予め固定化したビーズやゲル固相を充填したカラムを用いればよい。
【0018】
本発明において重要なことは、両性有機溶媒を含有する緩衝液を用いて、少なくともステップs6の溶出処理を行うことである。好ましくは、両性有機溶媒を2%〜50%、好ましくは5%〜40%含有する緩衝液を用いて、少なくともステップs6の溶出処理を行うことである。上記「両性有機溶媒」とは、活性溶媒のうちで、酸性と塩基性とを共に有し、かつそのいずれもが顕著ではないような有機溶媒をいう。本発明においては、たとえばジオキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、エタノール、メタノールなどを用いる。上記中でも、ビスフェノールAの溶解性やカラムマトリックスの耐性などの観点から、ジオキサン、DMSO、DMF、THFおよびエタノールから選ばれる両性有機溶媒を用いるのが好ましい。両性有機溶媒は、上記で例示した互いに異なる両性有機溶媒の混合物であってもよい。ここで、本発明において標的物質とされるビスフェノールAは、芳香環を有する対称構造の化学物質であり、水に不溶な性質を有する。したがって、水も両性溶媒ではあるが本発明においてはこれを使用せず、アフィニティーカラムに固定化されたビスフェノールAに特異的に吸着した吸着核酸分子を拮抗溶出させるために、ビスフェノールAを溶解し得る上記の両性有機溶媒を溶出用の緩衝液に使用する。
【0019】
ステップs6における拮抗溶出用の緩衝液中における両性有機溶媒の濃度が2%未満であると、アプタマーの選択効率が低下するという問題が発生する。また拮抗溶出用緩衝液中における両性有機溶媒の濃度が50%を超えると、核酸が沈殿してしまう、カラム樹脂が変性してしまうなどカラムマトリックスに悪影響を与えてしまう。なお上記濃度は、緩衝液の体積あたりの両性有機溶媒の体積の割合(体積%(v/v))である。また両性有機溶媒が混合物である場合には、上記濃度は混合物全体の最終濃度を指すものとする。
【0020】
また本発明においては、さらにステップs5の洗浄処理においても、両性有機溶媒を含有する緩衝液、好ましくは両性有機溶媒を2%〜50%、好ましくは5%〜30%含有する緩衝液を用いることが好ましい。洗浄用の緩衝液に用いられる両性有機溶媒としては、上述した拮抗溶出用緩衝液と同様のものが挙げられ、中でもビスフェノールAの溶解性やカラムマトリックスの耐性の観点から、ジオキサン、DMSO、DMF、THFおよびエタノールから選ばれる両性有機溶媒を用いるのが好ましい。洗浄用緩衝液中における両性有機溶媒と、拮抗溶出用緩衝液中における両性有機溶媒とは、同じものを用いても、互いに異なるものを用いてもよい。
【0021】
ステップs5における洗浄用の緩衝液中における両性有機溶媒の濃度が2%未満であると、アプタマーの選択効率が低下するという傾向にあるため好ましくない。また洗浄用緩衝液中における両性有機溶媒の濃度が50%を超えると、カラム樹脂が変性してしまうなどカラムマトリックスに悪影響を与えてしまう傾向にあるため好ましくない。
【0022】
上記のようなステップs4〜s6を経て得られた吸着核酸分子について、上記のPCR増幅(ステップs2)、非対称PCR(ステップs3)およびビスフェノールアフィニティーカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー(ステップs4〜s6)のサイクルを、少なくとも5回、好ましくは7〜15回程度行うことにより、本発明のアプタマーを得ることができる。
【0023】
得られたアプタマーは、常法にしたがって二本鎖とした後、プライミング部位中に構築された制限酵素認識部位を用いて、また平滑末端化して、あるいはTAクローニング法により適当なベクター中にサブクローニングすることができ、マキサム・ギルバート法またはジデオキシ法によりその塩基配列を決定することができる。あるいは得られた一本鎖アプタマーをサブクローニングすることなくダイレクトにシークエンスすることもできる。
【0024】
上記のような本発明の方法によれば、従来取得が困難であった、水に不溶な低分子量の有機化合物であるビスフェノールAを標的物質として特異的に認識して吸着し得るアプタマーを効率よく取得することができる。
【0025】
ビスフェノールAに特異的に吸着し得る本発明のアプタマーは、一本鎖のDNAまたはRNA、好ましくは一本鎖DNAである。その長さは特に制限されないが、好ましくは約30塩基〜約120塩基である。
【0026】
本発明のアプタマーは、その好ましい実施態様において、配列表配列番号1に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列、配列表配列番号2に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列、配列表配列番号3に示される塩基配列中塩基番号38〜91で示される塩基配列、配列表配列番号4に示される塩基配列中塩基番号38〜95で示される塩基配列、配列表配列番号5に示される塩基配列中塩基番号38〜94で示される塩基配列、配列表配列番号6に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列、配列表配列番号7に示される塩基配列中塩基番号38〜95で示される塩基配列、配列表配列番号8に示される塩基配列中塩基番号38〜87で示される塩基配列、配列表配列番号9に示される塩基配列中塩基番号38〜96で示される塩基配列、配列表配列番号10に示される塩基配列中塩基番号38〜86で示される塩基配列、配列表配列番号11に示される塩基配列中塩基番号38〜97で示される塩基配列からなる群より選択される塩基配列(但し、該核酸分子がRNAの場合、該配列中のTはUである。)を実質的に含むものである。ここで「実質的に含む」とは、上記のいずれかの塩基配列そのものを含むか、あるいは上記のいずれかの塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加され且つビスフェノールA特異的な吸着能を保持する配列を含むことを意味する。
【0027】
上記の塩基配列を実質的に含む一本鎖核酸分子(アプタマー)は、上述した本発明の方法によって調製されたものでなくてもよく、いかなる方法によっても調製することができるが、上述した本発明の方法によって調製されたものであるのが好ましい。
【0028】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0029】
実施例1
〔1〕増幅された一本鎖DNA(ssDNA)ライブラリーの作製
(1)DNA自動合成機を用いて、59merをランダム領域とした以下の鋳型DNAと、センス(P1)プライマーおよびアンチセンス(P2)プライマーを合成した(ステップs1)。
鋳型:5'-TAGGGAATTCGTCGACGGATCC-N59-CTGCAGGTCGACGCATGCGCCG-3’(配列番号12)
P1:5'-TAATACGACTCACTATAGGGAATTCGTCGACGGAT-3' (配列番号13)
P2:5'-CGGCGCATGCGTCGACCTG-3' (配列番号14)
(2)上記の鋳型DNAを、P1およびP2プライマーを用いてPCRにより増幅した(ステップs2)。反応液組成および反応条件は以下の通りである。
反応液組成
Figure 0004180315
反応条件
最初の変性 :94℃,1分
変性 :94℃,15秒
アニーリング:55℃,15秒 10サイクル
伸長 :72℃,15秒
最後の伸長 :72℃,6分(3)上記PCR産物を鋳型として、P1のみをプライマーに用いて非対称PCRを行った(ステップs3)。最終的にPCR産物が2ml得られるように調製した(100μl×20本)。反応液組成および反応条件は以下の通りである。
反応液組成
Figure 0004180315
反応条件
最初の変性 :94℃,1分
変性 :94℃,15秒
アニーリング:55℃,15秒 40サイクル
伸長 :72℃,15秒
最後の伸長 :72℃,6分
【0030】
PCR反応液を400μlずつ5本のマイクロチューブに分注し、それぞれに10M酢酸アンモニウム80μl、99.5%エタノール1mlを加えて軽く混和し、−80℃で20分間放置した。15,000rpmで15分間遠心し、70%エタノールでリンス、15,000rpmで10分間遠心した後、沈澱を減圧乾燥した。滅菌蒸留水20μlを加え、激しくボルテックスして沈澱を溶解した後、ゲルローディングバッファー(95%ホルムアミド,0.5mM EDTA(pH8.0),0.025% STS,0.025%キシレンシアノール,0.025%ブロモフェノールブルー)20μlを加えてさらによくボルテックスした。これを90℃で3分間処理して変性させ氷中で急冷した後、ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動(150V,50分)に付した。エチジウムブロマイド液中に約5分間浸漬した後水洗し、トランスイルミネーター上でバンドを検出し、目的のバンドを含むゲル部分を切り出して破砕した。溶出バッファー(0.5M酢酸アンモニウム,10mM酢酸マグネシウム,1mM EDTA(pH8.0),0.1% STS)800μlを加えて3時間振盪した後、フィルターに通して濾液を回収した。
【0031】
〔2〕アフィニティーカラムクロマトグラフィー
(1)上記〔1〕で得られたDNAをエタノール沈殿させ、減圧乾燥後、蒸留水100μlに溶解し、2×結合バッファー(200mM Tris−HCl,400mM NaCl,50mM KCl,20mM MgCl2(pH8.0),10%ジオキサン(pH8.0))100μlを加えてよく混合し、260nmでの吸光度を測定した。該DNA溶液を90℃で5分間処理して変性させた後、そのままゆっくりと自然冷却してホールディングさせた。吸光度の変化により二次構造の形成を確認した。
(2)カラムへのビスフェノールA固定化は以下のように行った。まず、炭酸カリウムを塩基性触媒とし、ビスフェノールAと4−ブロモ−n−酪酸エチルエステルのカップリング反応を行った。反応条件はジメチルホルムアミド中、室温にて、4時間攪拌を続けた。反応後、薄層クロマトグラフィーにて生成物を確認した後、生成物をエーテルで抽出した。副生成物を除くために反応物をSilica gel60(MERCK社製)にて精製した。次に、得られた化合物のアルカリ加水分解を行った。反応条件は95%エタノール中、水酸化ナトリウム存在下にて還流を2時間続けた。反応後のサンプルを薄膜クロマトグラフィーに供し、基質が完全に加水分解したことを確認した。最後に、カルボジイミドを用いたカップリング反応にて合成したビスフェノールA誘導体をEAHセファロース4B(アマシャムファルマシア社製)に固定化した。固定化の結果、ゲル1mlあたり7.96μmolのビスフェノールAが結合した。固定化した樹脂を8mm×5mmのカラムに充填し、約20倍量の水で洗浄、さらに約20倍量の1×結合バッファー(100mM Tris−HCl,200mM NaCl,25mM KCl,10mM MgCl2,5%ジオキサン(pH8.0))で平衡化した(このとき出てくる液をベースラインとして用いた。)。
(3)上記(1)で得られたDNAサンプルをカラムにアプライした後、コックを開いて溶出液をマイクロチューブに受け取り、再度カラムにアプライした(ステップs4)。この操作を3回繰り返した後、室温にて30分間放置した。1×結合バッファー(洗浄用緩衝液)5mlを注いでコックを開き、約12滴(約650μl)ずつ6フラクションをマイクロチューブに分取した(ステップs5)。一度コックを閉じた後、溶出バッファー(100mM Tris−HCl,200mM NaCl,25mM KCl,10mM MgCl2,30%ジオキサン(pH8.0),35.1mMビスフェノールA)(拮抗溶出用緩衝液)を注ぎコックを開いた。溶出液をマイクロチューブに受け取り、再度カラムに戻した。この操作を3回繰り返すことによりバッファーを溶出バッファーで置換した。再びコックを開き、12滴ずつ3フラクションをマイクロチューブに分取した(ステップs6)。該溶出液を400μlずつに分け、それぞれにグリコーゲンを2μl加えた後、エタノールを沈殿させ、減圧乾燥させた。該沈殿を水15μlによく溶解させた。
【0032】
〔3〕ビスフェノールA特異的DNAアプタマーの同定
上記〔1〕(2)〜〔2〕(3)の各操作(ステップs2〜s6)の各操作を12回繰り返して行った。該操作により選抜された13種のビスフェノールA特異的な一本鎖DNAアプタマーの塩基配列を、ジデオキシ法により決定した。
決定された各クローンのランダム領域の塩基配列は、以下のとおりであった。クローン1:5'-TGGTCGTTGGTCGTTCGCGTTTCTGGATTTTTTATTTCTGGGGTTCAGTTCTTTTTTGT-3’(配列番号1の塩基番号38〜96)
クローン2:5'-CAAGGGCCGAGCGTACCTGGTTTGCTCGTTTTTTGTCGAATTTTTGGCGCCTTATATTT-3’(配列番号2の塩基番号38〜96)
クローン3:5'-TTGTGTAGGATTTAGGGGATATTTTTTATCTTATTCTTTGACGCGCAAATTCTA-3’(配列番号3の塩基番号38〜91)
クローン4:5'-AAAGTGGCCTGCAATCCCTCGGTATTTTAGTCTTTTGTTTTTGCTGTATTCCTTTCAT-3’(配列番号4の塩基番号38〜95)
クローン5:5'-GGCCTGTATGGCATGCTGCGCTATTTTCACTCACATGTTCTTTTTATTCTTTTGGTT-3’(配列番号5の塩基番号38〜94)
クローン6:5'-GGTCCATTCAGCCTCTATTAATCCCCTAGTCTACTACTTTTCTCGTCTGGTTTTCTTTC-3’(配列番号6の塩基番号38〜96)
クローン7:5'-GGTGAATCAGTCTCTTATCATTTTTTCGATTCTTAGCCGGATTAACAATTCTTTACTC-3’(配列番号7の塩基番号38〜95)
クローン8:5'-GGATGTGGTCTTTATTTTTGTATCCTCGGCATCCTCCTCCGGCCCGTTCC-3’(配列番号8の塩基番号38〜87)
クローン9:5'-TCTCGAATATTATTTTCCCGTAAACTCTTCGGAGGGTAGCCATTTTTCCTCGTTGAGTA-3’(配列番号9の塩基番号38〜96)
クローン10:5'-GATATTTAGGGCGCGTCCGGCACCTTTTATTTTTTCTTGATTGGTTTTT-3’(配列番号10の塩基番号38〜86)
クローン11:5'-GATTGTTGCGGAGTTCTGTTTTCTTTGGCGGTTATTTTTTCTATTTCTTAGCAGGTCGAC-3’(配列番号11の塩基番号38〜97)
【0033】
比較例1
上記〔2〕(3)における溶出バッファー(拮抗溶出用緩衝液)に換えて、100mM Tris−HCl、200mM NaCl、25mM KCl、10mM MgCl2、0.5%ジオキサン(pH8.0)およびビスフェノールAからなるバッファーを用いた以外は実施例1と同様にしたところ、ビスフェノールAが溶解しなかったため、カラムマトリックスからのアプタマーの回収が不能であった。
【0034】
比較例2
上記〔2〕(3)における溶出バッファー(拮抗溶出用緩衝液)に換えて、100mM Tris−HCl、200mM NaCl、25mM KCl、10mM MgCl2、60%ジオキサン(pH8.0)および35.1mMビスフェノールAからなるバッファーを用いた以外は実施例1と同様にしたところ、溶出処理時に核酸分子が凝集沈殿してしまい、カラムより溶出を行うことができず、アプタマーの回収が不能であった。
【0035】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、ビスフェノールAを標的分子として認識して特異的に吸着し得る新規アフィニティーリガンド、すなわちアプタマーを取得する方法およびアプタマーを提供することができる。本発明のアプタマーは、ビスフェノールAを特異的に認識して吸着できるので、ビスフェノールAの検出、定量に使用することができる他、内分泌撹乱物質の疑いのあるビスフェノールAの生体へ及ぼす影響の研究などへの応用が可能であり、極めて有用である。
【0036】
【配列表フリーテキスト】
配列番号1:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号2:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号3:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号4:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号5:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号6:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号7:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号8:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号9:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号10:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号11:インビトロセレクション法によりスクリーニングされた、ビスフェノールAに対する一本鎖DNAアプタマー。
配列番号12:A,G,CまたはT
PCRプライミング部位に挟まれた59merランダム領域を含む一本鎖DNA。
配列番号13:配列番号12のDNA配列を増幅するためのPCRプライマー(センス)として作用すべく設計されたオリゴDNA。
配列番号14:配列番号12のDNA配列を増幅するためのPCRプライマー(アンチセンス)として作用すべく設計されたオリゴDNA。
【0037】
【配列表】
Figure 0004180315
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【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のビスフェノールAに特異的に吸着し得るアプタマーを取得する方法の好ましい一例の処理動作を説明するためのフローチャートである。

Claims (1)

  1. ビスフェノールAに特異的に吸着し得るアプタマーであって、下記(a)〜(l)のいずれかの塩基配列を含むことを特徴とする一本鎖DNA
    (a)配列表配列番号1に示される塩基配
    (b)配列表配列番号2に示される塩基配
    (c)配列表配列番号3に示される塩基配
    (d)配列表配列番号4に示される塩基配
    (e)配列表配列番号5に示される塩基配
    (f)配列表配列番号6に示される塩基配
    (g)配列表配列番号7に示される塩基配
    (h)配列表配列番号8に示される塩基配
    (i)配列表配列番号9に示される塩基配
    (j)配列表配列番号10に示される塩基配
    (k)配列表配列番号11に示される塩基配
    (l)上記(a)〜(k)のいずれかの塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された配列
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