JP4175640B2 - フタロシアニン化合物、水性インク組成物及び着色体 - Google Patents

フタロシアニン化合物、水性インク組成物及び着色体 Download PDF

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Description

技術分野
本発明は、黒色色素として有用な新規なフタロシアニン化合物、その塩及びそれらを含む水性インク組成物及びそれによる着色体に関する。
背景技術
各種カラー記録法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法はインクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。これは、記録ヘッドと被記録材料とが接触しないため音の発生が無く静かであり、また小型化、高速化、カラー化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、水溶性染料を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されており、これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止するべく一般に水溶性有機溶剤が添加されている。これらの従来のインクにおいては、十分な濃度の画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また形成される画像は充分な耐光性及び耐水性等を有することが要求されている。また、種々の色相のインクが種々の染料から調製されているが、それらのうち黒色インクはモノカラーおよびフルカラー画像の両方に使用される最も重要なインクである。これら黒色インク用の染料として今日まで非常に多くの出願(例えば特開昭55−144067号、特開昭57−207660号、特開昭58−147470号、特開昭59−93766号、特開昭62−190269号、特開昭62−246975号、特開昭63−22867号、特開昭63−33484号、特開平1−93389号、特開平2−140270号、特開平3−167270号、特開平3−200852号、特開平4−359065号、特開平6−172668号、特開平6−248212号、特開平7−26160号、特開平7−268256号、特開2001−11076号、特開2002−275383号等)がされているが、市場の要求を充分に満足する製品を提供するには至っていない。
インクジェットプリンタの用途はOA用小型プリンタから産業用の大型プリンタまで拡大されており、耐光性等の堅牢性がこれまで以上に求められている。しかし、中でも需要が最も広い黒色について、これらの要求を満たすものがない。また、多孔質シリカ、アルミナゾル又は特殊セラミックスなどインク中の色素を吸着し得る無機微粒子をカチオン系ポリマーやPVA樹脂などと共に紙の表面にコーティングすることにより、耐水性については大幅に改善されてきているが、加工紙での耐光性や、空気中のオゾンなどの影響による、自然退色については、問題が多く、インクジェットプリント用の各種コート紙での耐光性及び自然退色の改善が強く求められている。
インクジェット記録用水性インクに用いられる黒色の色素骨格としてはジスアゾ体、トリスアゾ体又はテトラアゾ体等のようにアゾ系が代表的である。しかしアゾ系については耐水性は比較的良好なものがあるが、耐光性は銅フタロシアニン系に代表されるシアン染料に比べ劣る水準である。そのため黒色インクは、性能に優れた複数の色素の混合によるものが一般的である。しかし、耐光性等においてはまだ充分に要望を満たすに至っていない。
そのため、単独で耐水性、耐光性等に優れ、インクジェット記録用インク等に適した黒色色素の開発が望まれている。その要望に答えるものとして特開2001−11076号にはアミノフタロシアニンをカルボキシエチル化した黒色フタロシアニン系色素が開示されている。この色素は単独で黒色を示し、耐光性も優れているが、水溶性改善のためカルボキシエチル化度を高めると視覚判定でやや赤味の黒色となるため、高い水溶性を示し、かつ赤味のない黒色、好ましくは青味の黒色色素の開発が望まれている。
発明の開示
本発明者らは単色でインクジェット記録に適する青味の黒色の色相を有し、且つ記録物の耐光性堅牢度及び自然退色性が顔料系インクに近く、更にバーコード印字等近赤外光の読みとりの可能な黒色色素を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。即ち、特開2001−11076号に示されるアミノフタロシアニン類にカルボキシエチル化のみ施したものはやや赤味の黒色であり、水溶性を高めるためにカルボキシエチル化の度合いを高めると赤味の傾向が増すのみで、青味の黒色を得ることはできなかった。しかし、意外にもアミノフタロシアニン類に、カルボキシエチル化剤およびアシル化剤の両者を反応させて得られる黒色色素は優れた耐光性を有すると共に、水溶性が良好で、赤味のない黒色もしくは青味の黒色を示すことを見出し、本発明に至ったものである。即ち本発明は、
1.置換基としてアシルアミノ基及びカルボキシエチルアミノ基の両者をフタロシアニン骨格上に有する金属フタロシアニン化合物またはその塩、
2.下記一般式(1)
Figure 0004175640
〔式(1)中、Rは各々独立に、カルボキシエチル基、アシル基または水素原子を表すが、少なくとも1つはアシル基であり、また、少なくとも1つはカルボキシエチル基である。Mは金属原子を表す。〕
で表される請求の範囲第1項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩、
3.Mがニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、鉄またはコバルトである請求の範囲第2項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩、
4.前記式(1)中、Rが置換基を有していても良い飽和または不飽和の分岐、鎖状または環状のアルキルカルボニル基、置換基を有していても良い飽和または不飽和の分岐、鎖状または環状のアルキルスルホニル基、置換基を有していても良いベンゾイル基又は置換基を有していても良いフェニルスルホニル基からなる群から選ばれた1種のアシル基である請求の範囲第2項または第3項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩、
5.アシル基が置換基としてカルボキシル基を有してもよい、炭素数1〜6の脂肪族または芳香族アシル基である請求の範囲第1項または第2項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩、
6.金属原子が銅である請求の範囲第2項〜第5項のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩、
7.水に対する溶解度が2重量%以上である請求の範囲第2項〜第6項のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物の塩、
8.金属アミノフタロシアニン類にアシル化剤及びカルボキシエチル化剤を反応させることにより得られるフタロシアニン化合物またはその塩、
9.アシル化剤が酢酸もしくはトリメリット酸またはそれらの反応性誘導体である請求の範囲第8項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩、
10.カルボキシエチル化剤がアクリル酸である請求の範囲第8項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩、
11.アミノフタロシアニン類のアミノ基に対する、アシル基の置換割合が1〜60モル%、カルボキシエチル基の置換割合が40〜99モル%となるような量においてアシル化剤及びカルボキシエチル化剤を反応させる請求の範囲第8項〜第10項のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩、
12.請求の範囲第1項〜第11項のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩を含有する水性インク組成物、
13.フタロシアニン化合物の塩がフタロシアニン化合物のアルカノールアミン塩、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩である請求の範囲第12項に記載の水性インク組成物、
14.フタロシアニン化合物の塩がフタロシアニン化合物のアンモニウム塩である請求の範囲第12項又は第13項に記載の水性インク組成物、
15.水及び水溶性有機溶剤を含有する請求の範囲第12項〜第14項のいずれか一項に記載の水性インク組成物、
16.水性インク組成物中の無機塩の含有量が1重量%以下である請求の範囲第12項〜第15項のいずれか一項に記載の水性インク組成物、
17.水性インク組成物がインクジェット記録用である請求の範囲第12項〜第16項のいずれか一項に記載の水性インク組成物、
18.インク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして請求の範囲第12項〜第17項のいずれか一項に記載の水性インク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法、
19.被記録材が情報伝達用シートである請求の範囲第18項に記載のインクジェット記録方法、
20.請求の範囲第12項〜第17項のいずれか一項に記載の水性インク組成物を含有する容器、
21.請求の範囲第20項に記載の容器を有するインクジェットプリンタ、
22.請求の範囲第1項〜第11項のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩を有する着色体、
23.アミノフタロシアニン類に対しアシル化及びカルボキシエチル化を施して得られるフタロシアニン化合物またはその塩の製造方法、
24.アミノフタロシアニン類に対しアシル化及びカルボキシエチル化を施して得られる黒色金属フタロシアニン色素、
25.フタロシアニン骨格含有化合物が置換基としてアシルアミノ基及びカルボキシエチルアミノ基をフタロシアニン骨格上に有するフタロシアニン化合物またはその塩である請求項24に記載の黒色金属フタロシアニン色素、
に関する。
発明を実施するための最良の形態
本発明のフタロシアニン化合物(以下、特に断らない限りその塩を含む。)は、金属フタロシアニン骨格上に、カルボキシエチル基(−CH2CH2COOH)で置換されたアミノ基(カルボキシエチルアミノ基)とアシル基で置換されたアミノ基(アシルアミノ基)の両方(場合によりカルボキシエチル基とアシル基の両者により置換されたアミノ基)を、置換基として有する化合物である。
なお、本発明において単にカルボキシエチルアミノ基またはアシルアミノ基といった場合、通常モノ置換体、ジ置換体およびカルボキシエチル(アシル)アミノ基を含む意味で使用するものとする。また、本発明における「アシル」なる用語は広義の意味で脂肪族または芳香族アシルの他、脂肪族または芳香族スルホニルをも含む意味で使用するものとする。
該本発明のフタロシアニン化合物はアミノ基を有するフタロシアニン類(以下アミノフタロシアニン類ともいう)、好ましくは2〜4個のアミノ基を有するアミノフタロシアニン類にアシル化剤およびカルボキシエチル化剤を任意の順に反応させることにより得ることができる。通常最初にアシル化剤を、次いでカルボキシエチル化剤を反応させるか、逆に最初にカルボキシエチル化剤を、次いでアシル化剤を反応させることにより得られる。しかし、この方法に限定されるものではない。また、原料のアミノフタロシアニン類は、通常前駆体のニトロを有するフタロシアニン類の還元により合成されるので、そのアミノ基の数は、その前駆体の合成時にフタル酸とニトロフタル酸のモル比を変化させることで変えることができる。例えばニトロフタル酸のみで合成した場合、ニトロ基を4個保有するフタロシアニンが得られ、ニトロフタル酸対フタル酸を3対1のモル比で合成した場合、平均でニトロ基を3個保有するフタロシアニンが得られる。得られたニトロ基を保有するフタロシアニンを公知の方法で還元することにより、ニトロ基の数に対応した個数のアミノ基を保有するアミノフタロシアニン類が得られる。
本発明の化合物は、前述の様に、アミノフタロシアニン類をアシル化、カルボキシエチル化の順に反応を行うか、カルボキシエチル化、アシル化の順で反応を行う事により得られる。先アシル化を行った場合、アミノフタロシアニン類のアミノ基に対するアシル化剤の量をコントロールすることで、後に行われるカルボキシエチル化の反応部位数(カルボキシエチル化率)の制御が可能で、工業的に生産安定化する事ができる。一方、カルボキシエチル化後にアシル化を行えば、カルボキシエチル化の際に残存したアミノ基を不活性なアシルアミノ基とする事ができ、これを用いてインキ化した際、残存アミノ基とカルボキシエチル基との造塩が回避でき、インクの貯蔵安定性が向上すると考えられる。さらに、アシル化剤として分子内に2個以上のカルボキシル基を保有する化合物の酸無水物等を用いた場合、1分子あたりのカルボキシル基の数を低下させずに、色相青味の色素を得る事ができる利点を有する。
本発明の新規なフタロシアニン化合物は、アルカリ水溶液可溶性であり、且つ各種堅牢度も良いことから、新規色素、特に黒色色素若しくは黒色染料として有用である。
本発明の化合物の製造方法をさらに詳しく説明する。本発明のフタロシアニン化合物の原料となる、ニトロ基を保有するフタロシアニン化合物は、種々の合成ルートがあるが、製造コストなどを考慮すると、公知の尿素法による合成方法が好ましい。さらに詳しくは、無置換のフタル酸またはフタルイミドとニトロ基を保有するフタル酸またはフタルイミドを任意のモル比で用い、高沸点溶媒中で、塩化銅、硫酸亜鉛等の所望する中心金属の塩、尿素及びモリブデン酸塩を触媒として用い150℃以上、さらに好ましくは160〜220℃の範囲で反応させる事により得られる。本発明のフタロシアニン化合物の中心金属は、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、鉄またはコバルトが好ましく、銅が特に好ましい。
反応に用いる高沸点溶剤の例としては、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、ニトロベンゼン、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリグライムなどが揚げられるがこれらに限定されるものではない。また、溶媒の使用量は、反応系が撹拌可能な流動性を保持できれば良く、フタル酸類とニトロフタル酸類の合計重量の1〜10重量倍、さらに好ましくは、2〜6重量倍使用される。
このようにして合成されたニトロフタロシアニン類は濾過後、アルコール類や、希酸水溶液、希アルカリ水溶液で洗浄しても良く、乾燥後、本発明の化合物の製造に使用される。
上記の様にして得られたニトロ基を含むフタロシアニン化合物は、そのニトロ基を還元する事により、アミノ化合物とされる。
還元の方法としては、公知の方法として種々あるが、経済性等を考慮すると、硫化ソーダ、水硫化ソーダなどの還元剤で還元するのが簡便であるが、これに限定されるものではない。
具体的には、ニトロフタロシアニン類を水に懸濁した後、ニトロ基当量の1.0〜2.0モル倍の還元剤、例えば硫化ソーダ、水硫化ソーダなどを加え、常温、または100℃以下、好ましくは80℃以下に加熱することにより実施される。また、未還元のニトロ基が残っていても本発明を実質的に阻害しない限り使用上問題はない。ニトロ基の存在の有無は得られた化合物のESIマススペクトルを測定することにより確認できる。
上記のようにして得られた、アミノフタロシアニン類は、まず、アシル化を行ってから、アクリル酸を付加反応させるか、アクリル酸を付加反応させてからアシル化してもよい。
まず、アシル化を最初に行う方法について説明する。
アシル化反応は、アミノフタロシアニン類を溶剤、好ましくは水、あるいはDMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)NMP(N−メチルピロリドン)、DMI(ジメチルイミダゾリジノン)、スルホラン、メチルエチルケトン、酢酸などの等の極性溶媒中に懸濁、あるいは一部溶解させ、アシル化剤をアミノフタロシアニン類のアミノ基に対し、適当量、例えば1〜70当量%、好ましくは10〜60当量%で加え、加熱して行う。アシル化剤が、酸無水物の場合は、付加反応であることから、アミノフタロシアニンと所定の溶剤と酸無水物を加え、数時間加熱撹拌すれば良い。アシル化剤が、酸ハライドの場合は、塩基、例えば、ピリジン、トリエチルアミン等の有機系塩基か、苛性ソーダ、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウムなどの無機系塩基などの存在下にアシル化反応を行うのが好ましい。アシル化反応の反応温度は、副反応等の好ましくない反応があまり起きない温度であれば特に制限はないが、通常30〜120℃、好ましくは50〜100℃程度である。
上記のようにして得られたアシル化アミノフタロシアニン類は、単離してもよいが、通常は単離することなく、アシル化が終了した反応液にアクリル酸を加えカルボキシエチル化するのが好ましい。その場合、アシル化が終了した反応液に、アクリル酸を適当量添加して、好ましくは、加熱下にフリーのアミノ基ができるだけ少なくなるように反応させることにより、本発明の化合物を得ることができる。この場合、アクリル酸の添加量はアシル化前のアミノ基に対し、0.2当量以上、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは1当量以上であればよい。通常0.5〜50当量、好ましくは1〜30当量程度である。反応は加熱撹拌下に行うのが好ましく、反応温度は通常50〜120℃、好ましくは、60〜100℃程度である。また、カルボキシルエチル化の際にアクリル酸の重合を回避する目的で、酸素、メトキノン、ハイドロキノン等の重合禁止剤の存在下に行うのが好ましい。酸素の存在下に反応を行うときは通常反応系に空気を吹き込みながら反応を行えばよく、その他の重合禁止剤の存在下に行うときは、重合禁止剤をアクリル酸の質量に対し手0.01〜5%程度、好ましくは、0.02〜2%程度添加するのが好ましい。
また、場合によりアシル化アミノフタロシアニン類を濾過等により単離してからアクリル酸との反応をおこなってもよい。この場合、ウェットケーキのまま用いても、乾燥しても用いてもよい。単離されたアシル化アミノフタロシアニン類を、先ず、原料であるアクリル酸または基本的にアクリル酸と不活性な溶媒、好ましくは例えば前記した極性溶媒、水、DMF、NMP、スルホラン、DMI、メチルエチルケトンまたは酢酸などの溶媒中に懸濁または溶解させ、次いでアクリル酸を溶媒とした場合には、必要により前記重合禁止剤を添加した後、反応させればよく、アクリル酸以外の溶媒を使用した場合には、アクリル酸と必要により前記重合禁止剤を添加した後、反応させればよい。溶媒は単独で使用してもまたは2種以上を併用してよい。反応温度、使用原料の添加量等はいずれも上記したアシル化アミノフタロシアニン類を単離せずに反応させた場合と同様である。例えば反応温度は、通常50〜120℃、好ましくは60〜100℃であり、このとき使用するアクリル酸の量は、アシル化前のアミノ基に対し、0.5当量以上、好ましくは0.5〜50当量、更に経済的な有利性を考えれば、1〜30当量程度が最も好ましい。アクリル酸の使用量はアシル化アミノフタロシアニン類を実質的にカルボキシエチル化する目的が達成される量であれば、特に限定されるものではない。
次にアミノフタロシアニン類に先にアクリル酸を反応させる場合について説明する。
アミノフタロシアニン類に先にアクリル酸を反応させる場合には、先ず、原料であるアクリル酸またはアクリル酸等の原料に対して実質的に不活性な溶媒、好ましくは例えば前記した極性溶媒、水、DMF、NMP、スルホラン、DMI、メチルエチルケトンまたは酢酸などの溶媒中に、懸濁または溶解させ、次いでアクリル酸を溶媒とした場合には、必要により前記重合禁止剤を添加した後、反応させ、アクリル酸以外の溶媒を使用した場合には、アクリル酸と必要により前記重合禁止剤を添加した後、反応させれることにより、カルボキシエチル化されたアミノフタロシアニン類が得られる。この場合、カルボキシエチル化が行き過ぎると黒色染料が赤味になる恐れがあるので、アミノフタロシアニン類のアミノ基に対して小過剰の当量割合でアクリル酸を用いて、反応温度80℃程度において、12〜16時間程度反応させた時、カルボキシエチル化度が安定な状態になる(平均でアミノ基の60〜80%程度がカルボキシエチル化されていると思われる)のでそれを基準にして、適宜反応液の状態等を見ながら、適度のカルボキシエチル化が進むよう反応を調整するのが好ましい。
次のアシル化工程は、反応液から反応物を単離した後、該単離した反応物を溶媒中に懸濁若しくは溶解し、アシル化剤を添加するか、該反応液に直接アシル化剤を添加し、上記の反応物をアシル化することにより行うことができる。
反応液に直接アシル化剤を添加する場合は、上記反応液にそのままアシル化剤を投入すればよい。単離する場合は、ろ過等によって単離されたウェットケーキまたはその乾燥物を、溶媒、好ましくは極性溶媒、例えば水、DMF、NMP、DMI、DMSO、スルホラン、メチルエチルケトン、酢酸などの溶剤中に懸濁、あるいは一部溶解させ、適当なアシル化剤を添加して、上記反応物と反応させることにより、アシル化することができる。アシル化剤の添加量は上記反応物のアミノ基を適当量アミノ化できる量であれば特に制限はない。通常原料アミノフタロシアニンの全アミノ基の10%以上がアシル化される量が好ましく、より好ましくはカルボキシエチル化されずに残っているアミノ基の全部がアシル化されるようにするのが好ましい。反応は通常加熱下で行われる。
アシル化剤が、酸無水物の場合は、付加反応であることから、アミノフタロシアニンと所定の溶剤と酸無水物を加え、数時間加熱撹拌すればよい。アシル化剤が、酸ハライドの場合は、前記のように塩基の存在下に行うのがこのましい。塩基としてピリジン、トリエチルアミン等の有機系塩基か、苛性ソーダ、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウムなどの無機系塩基等を挙げることができる。しかし、これら塩基に限定される物ではない。反応温度は、通常30〜120℃、好ましくは50〜100℃である。
本発明のフタロシアニン化合物におけるアシル基は、アシル化剤によって決まり、ジカルボン酸無水物又はトリカルボン酸無水物から誘導される基やアルキルスルホン酸又は芳香族スルホン酸等のスルホン酸又はその塩化物から誘導されるスルホニル基を含む。アシル基としては、置換基を有していてもよい脂肪族または芳香族のカルボニル基またはスルホニル基が挙げられる。これらにおける脂肪族基(脂肪族カルボニルからカルボニルを除いた基)または芳香族基(芳香族カルボニルからカルボニルを除いた基)の炭素数は通常1〜20程度(芳香族では5〜20程度)であり、好ましくは1〜6程度(芳香族では5〜6程度)である。これらの基は置換基を有してもよい。場合によってはカルボキシル基などの置換基を有するものの方が好ましい。アシル基の例をより具体的に挙げれば、飽和または不飽和の分岐、鎖状または環状のアルキルカルボニル基、置換基を有していても良い飽和または不飽和の分岐、鎖状または環状のアルキルスルホニル基、置換基を有していても良いベンゾイル基又は置換基を有していても良いスルホニル基が挙げられ、中でもアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基等の炭素数1〜17、好ましくはカルボキシ置換を有してもよい1〜4の飽和又は不飽和アルキルカルボニル基やモノまたはジカルボキシベンゾイル基等の置換基を有するベンゾイル基が好ましい。
アシル化剤の使用量は、カルボキシエチル化率やアシル化剤の反応性によって異なり一概には言えないが、式(1)において、全てのRのうち5〜60%、好ましくは10〜55%、場合によっては10〜30モル%(得られたフタロシアニン化合物に含まれるアシル基であるRの合計モル数/全Rのモル数)、好ましくは12.5〜25モル%がアシル基となるようにアシル化剤を使用する。
アシル化剤としては、脂肪族または芳香族のカルボン酸またはスルホン酸、またはその反応性誘導体、例えば酸クロライドもしくは酸無水物などが挙げられる。これらにおける脂肪族基(脂肪族カルボニルからカルボニルを除いた基)または芳香族基(芳香族カルボニルからカルボニルを除いた基)の炭素数は通常1〜20程度(芳香族では5〜20程度)であり、好ましくは1〜6程度(芳香族では5〜6程度)である。これらの基は置換基を有してもよい。場合によってはカルボキシル基などの置換基を有するものの方が好ましい。酸無水物の場合、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水安息香酸、2−スルホ安息香酸無水物等があげられ、酸ハライドの場合としては、アセチルクロライド、プロピオニルクロライド、アクリル酸クロライド、ベンゾイルクロライド、ベンゼンスルホン酸クロライド、トシルクロライド等があげられる。これらに限定されるものではない。
以上の様にして、カルボキシエチル化とアシル化された本発明の化合物は、反応液から濾過などの方法により分離される。該化合物をアルコールなどの有機溶剤で洗浄してから水洗するか、そのまま水洗し、無機分やその他の不純物を除去することにより、インク用等に適する本発明の化合物を得ることができる。
このようにして得られた本発明の化合物は、通常遊離酸の形やその塩の形で得られる。更に所望する塩にするには、得られた遊離酸または(得られた塩を酸析により遊離酸としたもの)所望の有機又は無機塩基を作用させればよい。有機又は無機の塩基として、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン(好ましくは炭素数1〜6のモノ、ジ又はトリ低級アルカノールアミン、より好ましくは炭素数2ないし3のジアルカノールアミン)、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
以上のようにして得られた本発明の化合物は、乾燥するかそのままのウェットケーキの形で、インク用に使用することができる。
本発明の水性インク組成物は、本発明のフタロシアニン化合物、好ましくはその水溶性塩(以下、単に両者をフタロシアニン化合物ということもある)を水または水溶性溶媒(水溶性有機溶剤又は水と混和可能な有機溶剤含有水)、好ましくは両者に溶解したものである。水性インク組成物に適する本発明のフタロシアニン化合物の水溶性塩は、通常水に対する溶解度が2重量%以上、好ましくは3重量%以上、更に好ましくは5重量%以上のものであればいずれも使用出来る。例えば前記本発明化合物のアルカノールアミン塩、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩が好ましい。アンモニウム塩は耐水性の面で特に好ましい効果を奏する場合がある。水性インク組成物のpHは6〜11程度が好ましい。この水性インク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機物の含有量が少ないものを用いるのが好ましい。その含有量の目安は例えば水性インク組成物中で1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下程度である。通常、反応終了後、水溶媒での洗浄により水性インク組成物に適する無機塩の含有量の少ない本発明のフタロシアニン化合物を得ることが出来る。必要に応じて、更に無機物の少ないフタロシアニン化合物を製造するには、例えば逆浸透膜による通常の方法又はフタロシアニン化合物の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノール等のアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌し、濾過、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。
本発明の水性インク組成物は水を媒体として調製される。本発明のフタロシアニン化合物は該水性インク組成物中に、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%、更に好ましくは2〜8重量%程度含有される。本発明の水性インク組成物にはさらに水溶性有機溶剤0〜30重量%、インク調製剤0〜5重量%程度を含有していても良い。残部は水である。
本発明の水性インク組成物は、蒸留水等不純物を含有しない水に、本発明のフタロシアニン化合物及び必要により、下記水溶性有機溶剤、インク調製剤等を添加混合することにより調製される。また、水と下記水溶性有機溶剤、インク調製剤等との混合物に本発明の化合物又はその塩を添加、溶解してもよい。また必要ならインク組成物を得た後で濾過を行い、狭雑物を除去してもよい。
水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1〜C4アルカノール、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド(好ましくはC1〜C3低級カルボン酸のN、N−モノ又はジC1〜C3アルキルアミド)、ε−カプロラクタム、N−メチルピロリジン−2−オン(N−メチル−ピロリドン)等のラクタム(好ましくは4〜7員環のラクタム)、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オンまたは1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類(好ましくはC1〜C3のアルキル置換基を有していても良い5〜6員環の環式尿素)、アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトンまたはケトアルコール(好ましくはC3〜C6のケトン又はケトアルコール)、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル(好ましくは5〜6員環の環状エーテル)、エチレングリコール、エチレンチオグリコール、1,2−または1,3−プロピレングリコール、1,2−または1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の(C2〜C6)アルキレン単位を有するアルキレングリコール又はアルキレンチオグリコールのモノマー、オリゴマーまたはポリマー(ポリアルキレングリコール又はポリアルキレンチオグリコール)、グリセリン、ヘキサン−1.2.6−トリオール等のポリオール(好ましくはC1〜C6のトリオール)、エチレングリコールモノメチルエーテルまたはエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル又はジエチレングリコールモノエチルエーテル又はトリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(C1〜C4)アルキルエーテル(好ましくは、水酸基を1〜3個有するC2〜C3の多価アルコールの(C1〜C4)アルキルエーテル)、γ−ブチロラクトンまたはジメチルスルホキシド等があげられる。
インク調製剤としては、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、界面活性剤、その他のインク調製用添加剤などがあげられる。
防腐防黴剤としては、例えば無水酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダ、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等があげられる。
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを例えば6〜11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その例としては、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられる。特に水酸化アンモニウムで調整した場合、耐水性が優れた印刷物を供給することができる。これは被記録材料に印刷時アンモニウムイオンがアンモニアとして揮発するためと思われる。
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等があげられる。水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホン化したベンゾフェノン、スルホン化したベンゾトリアゾールなどが挙げられる。染料溶解剤としては、例えばε−カプロラクタム、エチレンカーボネート、尿素などが挙げられる。界面活性剤としては、例えばアニオン系、カチオン系、ノニオン系などの公知の界面活性剤があげられる。
本発明のインクジェット記録方法の被記録材(基材)としては、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維及び皮革等が挙げられる。情報伝達用シートについては、表面処理されたもの、具体的にはこれらの基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えば上記基材にカチオンポリマーを含浸あるいは塗工することにより、また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等のインク中の色素を吸着し得る無機微粒子をポリビニルアルコールやポリビニールピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工することにより設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙(フィルム)や光沢紙(フィルム)と呼ばれ、例えばピクトリコ(商品名、旭硝子(株)製)、カラーBJペーパー、カラーBJフォトフィルムシート(いずれも商品名、キャノン(株)製)、カラーイメージジェット用紙(商品名、シャープ(株)製)、スーパーファイン専用光沢フィルム(商品名、セイコーエプソン(株)製)ピクタファイン(商品名、日立マクセル(株)製)等が挙げられる。なお、普通紙にも利用できることはもちろんである。
本発明のインクジェット記録方法は、通常の記録方法、即ち水性インキ組成物に水性インキ組成物からなるインキ滴を、記録信号に応じて吐出させて前記したような被記録材に記録を行う方法において、水性インキ組成物として本発明の水性インキ組成物を使用する。
本発明の水性インク組成物は、本発明のフタロシアニン化合物またはそれと他の1種以上の化合物を含有していても良く、印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング、または記録法、特にインクジェット印捺法における使用に適する。この場合著しい高濃度及び水、日光、および摩擦に対する良好な耐性を有する高品質の黒色印捺物が得られる。本発明のフタロシアニン化合物は、普通紙更にインクジェット専用紙において一層高い耐水性、耐光性を有する。
本発明の水性インク組成物は水への溶解性が高く貯蔵中沈殿の分離が生じない。また本発明の水性インク組成物をインクジェットプリンタにおいて使用する場合、噴射ノズルの目詰まりが生ずることなく、比較的長い時間(一定の再循環下における使用または断続的に中間的遮断下での使用)においても本発明の水性インク組成物は分解や濃度低下等の物理的性質の変化は生じない。
本発明の容器は上記の水性インク組成物を含有する。また、本発明のインクジェットプリンタはこの水性インク組成物を含有する本発明の容器がインクタンク部分にセットされたものである。さらに、本発明の着色体は上記の本発明のフタロシアニン化合物またはその塩で、好ましくは上記のインク組成物で着色されたものである。
本発明の水性インク組成物は、JNC(社団法人 日本印刷産業機械工業)のJAPAN Colorの標準黒色に近似した理想に近い黒色であり、各種光源下でも安定した黒色を示し、演色性も優れている。また、耐光性及び耐水性の優れた既存のマゼンタ、シアン、イエローと共に用いることで耐光性及び耐水性の優れたカラーの記録物を得ることができる。
また本発明のフタロシアニン化合物は、近赤外部に高い吸収をもっているため、近赤外光を読み取りに用いるバーコードなどの印字に適しており、本発明の水性インクは非常に有用である。
実施例
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。尚、本文中部及び%とあるのは、特別の記載のない限り重量基準である。
実施例1
冷却管のついた四つ口フラスコに、テトラアミノ銅フタロシアニン15部(0.0236モル)、トリメリット酸無水物9部(0.0468モル)、DMF120部を加えマントルヒーターで80℃まで昇温し、さらに同温度で6時間撹拌した。反応終了後、40℃まで冷却し、これに水40部をゆっくり滴下し溶解している目的物を全部析出させたのちヌッチェ濾過を行った。さらに、メタノール300部、温水500部で洗浄し、反応生成物を取り出した。ジアミノジアシルアミノ銅フタロシアニンと考えられるウェットケーキを得た。
上記のようにして得られた、反応生成物のウェットケーキ全量を冷却管のついた四つ口フラスコに、投入し、アクリル酸120部(1.66モル)、メチルエチルケトン20部、ハイドロキノン0.8部を加え懸濁し、マントルヒーターで80℃まで昇温し、さらに同温度で8時間撹拌してアミノ基のカルボキシエチル化を行った。反応終了後常温まで冷却し、ヌッチェにて濾過を行い、500部の水で洗浄及び乾燥を行い、黒色銅フタロシアニン化合物23部を得た。反応生成物は多様な混合物であるが、反応からみて、平均すれば、テトラアミノフタロシアニン1分子中にアシル基(ジカルボキシベンゾイル)が2つ、カルボキシエチルが2つ導入された化合物、即ちビス(ジカルボキシベンゾイルアミノ)ビス(2−カルボキシエチルアミノ)銅フタロシアニンに相当すると考えられる。
実施例2
冷却管のついた四つ口フラスコに、テトラアミノ銅フタロシアニン15部(0.0236モル)、トリメリット酸無水物4.5部(0.0236モル)、DMF120部を加えマントルヒーターで80℃まで昇温し、さらに同温度で6時間撹拌した。反応終了後、40℃まで冷却し、これに水40部をゆっくり滴下し溶解している目的物を全部析出させたのちヌッチェ濾過を行った。さらに、メタノール300部、温水500部で洗浄し、反応生成物を取り出した。トリアミノモノアシルアミノ銅フタロシアニンと考えられる化合物のウェットケーキを得た。
上記で得られたウェットケーキ全量を冷却管のついた四つ口フラスコに、投入し、アクリル酸120部(1.66モル)、メチルエチルケトン20部、ハイドロキノン0.8部を加え懸濁し、マントルヒーターで80℃まで昇温し、さらに同温度で8時間撹拌してアミノ基のカルボキシエチル化を行った。反応終了後常温まで冷却し、ヌッチェにて濾過を行い、500部の水で洗浄及び乾燥を行い、黒色銅フタロシアニン化合物21部を得た。反応生成物は多様な混合物であるが、反応からみて、平均すれば、テトラアミノフタロシアニン1分子中にアシル基(カルボキシベンゾイル)が1つ、カルボキシエチルが3つ導入された化合物、即ちモノ(ジカルボキシベンゾイルアミノ)トリ(2−カルボキシエチルアミノ)銅フタロシアニンに相当すると考えられる。
実施例3
冷却管のついた四つ口フラスコに、テトラアミノ銅フタロシアニン34.2部(0.054モル)を含む水ウェットケーキ180部、ハイドロキノン0.2部、アクリル酸19.7部(0.274モル)、酢酸88.6部、水134部、メチルエチルケトン14部を加えマントルヒーターで80℃まで昇温し、さらに同温度で16時間撹拌し、アミノ基のカルボキシエチル化を行った。生成された化合物は単一の化合物ではないと考えられるが、原料の使用割合および反応性、反応条件などを考慮すると、平均するとテトラアミノ銅フタロシアニンのほぼ3つのアミノ基にカルボキシエチルが導入された化合物、即ち、モノアミノトリ(2−カルボキシエチルアミノ)銅フタロシアニンに相当すると考えられる。反応終了後、40℃まで冷却しこの反応液にさらに、無水酢酸11.1部(0.109モル)を加えマントルヒーターで80℃まで昇温し、さらに同温度で5時間撹拌しアシル化を行った。反応終了後、常温まで冷却し、ヌッチェにて濾過を行い、500部の水で洗浄及び乾燥を行い、黒色銅フタロシアニン化合物42部を得た。反応生成物はいくつかの化合物の混合物であるが、反応からみて、平均すれば、テトラアミノフタロシアニン1分子中にアシル基(アセチルアミノ)が1つ、カルボキシエチルが3つ導入された化合物、即ちモノ(アセチルアミノ)トリ(2−カルボキシエチルアミノ)銅フタロシアニンに相当すると考えられる。
実施例4
冷却管のついた四つ口フラスコに、テトラアミノ銅フタロシアニン34.2部(0.054モル)を含む水ウェットケーキ180部、ハイドロキノン0.2部、アクリル酸19.7部(0.274モル)、酢酸88.6部、水134部、メチルエチルケトン14部を加えマントルヒーターで80℃まで昇温し、さらに同温度で16時間撹拌し、アミノ基のカルボキシエチル化を行った。反応生成物は実施例3と同様に、モノアミノトリ(2−カルボキシエチルアミノ)銅フタロシアニンに相当すると考えられる。反応終了後、40℃まで冷却し、この反応液にさらに、無水酢酸51部(0.5モル)を加えマントルヒーターで80℃まで昇温し、さらに同温度で5時間撹拌しアシル化を行った。反応終了後、常温まで冷却し、ヌッチェにて濾過を行い、500部の水で洗浄し、次いで乾燥することにより、黒色銅フタロシアニン化合物44部を得た。この化合物は、無水酢酸の仕込量、反応液の目視観察および実施例3におけるよりも収量が増加していることなどから見て、実施例3で得られる化合物よりは、アシル化が進んだフタロシアニン化合物と考えられることから、ジアセチルアミノ基もしくはアセチル(2−カルボキシエチル)アミノ基などのジ置換アミノ基を有する本発明のフタロシアニン化合物と考えられる。
実施例5
冷却管のついた四つ口フラスコに、テトラアミノ銅フタロシアニン53.6部(0.085モル)を含む水ウェットケーキ300部を水360部に充分懸濁し、60℃まで撹拌しながら加熱し、同温度で無水酢酸9.5部(0.093モル)を滴下した後、同温度で5時間撹拌した。ついでヒドロキノン0.2部、アクリル酸95.4部(1.66モル)を加え、80℃まで加熱し、同温度で12時間加熱撹拌した。反応生成物はいくつかの化合物の混合物であるが、反応からみて、平均すれば、テトラアミノフタロシアニン1分子中にアシル基(アセチルアミノ)が1つ、カルボキシエチルが3つ導入された化合物、即ちビス(ジカルボキシベンゾイルアミノ)ビス(2−カルボキシエチルアミノ)銅フタロシアニン相目的のモノアセチルアミノ(2−トリカルボキシエチルアミノ)銅フタロシアニンに相当と考えられる。反応終了後、常温まで冷却し、ヌッチェにて濾過を行い、500部の水で洗浄及び乾燥を行い、目的の黒色銅フタロシアニン化合物73部を得た。この化合物は水溶性であり、常温で水に、約10質量%まで溶解した。
上記各実施例で得られたものをアンモニウム塩にした後、濃度を0.05g/1000ml(イオン交換水中)に調整し、UV−2100型分光光度計(島津製作所(株)製)を用いて測定した吸収スペクトルを図1に示す。この吸収スペクトルでも明らかなように、上記実施例1〜5の化合物は近赤外部に高い吸収を持つことから、近赤外光の読み取りが必要なバーコードなどの印字に最適である。
実施例6
(A)インクの調製
下記組成の液体を調製し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過することにより各インクジェット用水性インク組成物を得た。また水はイオン交換水を使用した。尚、インク組成物のpHがpH=8〜10、総量100部になるように水、水酸化アンモニウムを加えた。
Figure 0004175640
上記で得られたインクは常温で6か月以上安定(ゲル化しない)であった。
(B)インクジェットプリント
インクジェットプリンタ〔商品名 NEC(株) PICTY80L〕を用いて、普通紙(キャノンプリンタペーパーA4 TLB5A4S〔キャノン(株)製〕にインクジェット記録を行った。本発明の水性インク組成物(実施例1〜5の化合物)の記録画像の色相、耐光試験及び耐水性の結果を表2に示す。
試験例
実施例7としてそれぞれ、実施例6と同様にして実施例1〜5の化合物を使用してインクを調製し、インクジェット記録を行い記録画像の色相、耐光試験及び耐水性試験を行った。また、比較例1として実際に水溶性インクジェット用黒色色素として用いられている、下記式
Figure 0004175640
で表される、アゾ系色素のC.I.Direct Black 19(比較例1)を用い、同様のインク組成で本発明の黒色インクと光学濃度が合うように調整し、インクジェット記録を行い記録画像の色相、耐光試験及び耐水性試験を行った。結果を表2に示す。
(C)記録画像の評価
(1)色相評価
記録画像の色相、鮮明性:をGRETAG SPM50(商品名、GRETAG(株)製)を用いて測色し、L、a、b値を算出した。
(2)耐光試験
カーボンアークフェードメーター(スガ試験機(株)製)を用い、記録画像に20時間照射した。判定級は、JIS L−0841に規定されたブルースケールの等級に準じて判定するとともに、上記の測色システムを用いて試験前後の色差(ΔE)を測定した。
(3)耐水性
バーコード状に印字した後24時間経過した用紙(普通紙)を用い、水の中に約20秒間浸漬したのち引き上げてそのまま乾燥し、白場への色素の滲みを観察する。
判定基準
◎ 滲み全くなし
× 相当滲みあり
以上の(1)〜(3)の結果を表2に示した。
Figure 0004175640
表2より、本発明の色素(実施例1〜5の化合物)を用いたインクは、単色で黒色の色相を有しており、耐光性、耐水性も極めて良好である。また、印刷画像を目視観察の結果、比較例の色目と同様、青味の黒色でインクジェト記録に適する色目であった。一方比較例1の色素のインクは耐光性は良好であるが、印字物がブロンジングを生じること及び耐水性が相当不良である。
産業上の利用の可能性
本発明のフタロシアニン化合物は水溶解性に優れ、単独で黒色を示し、新規な色素として有用であり、通常黒色色素として使用される。又、このフタロシアニン化合物を使用した本発明の水性インク組成物は長期間保存後の結晶析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。又、本発明の水性インク組成物をインクジェット記録用の黒色インクとして使用した印刷物は耐光性に優れ、その品質は顔料に近く、マゼンタ、シアン及びイエロー染料と共に用いることで耐光性及び耐水性に優れたインクジェット記録が可能である。更に印刷面は理想に近い黒色(青味の黒色)であり、演色性も優れている。従って、本発明のインク組成物はインクジェット記録用黒色インクに極めて有用である。また近赤外部に高い吸収をもっていることからも、近赤外光の読み取りに用いるバーコード等の印字としても非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の実施例1〜5で得られた化合物の分光光度計による可視〜赤外吸収スペクトルである。

Claims (25)

  1. 置換基としてアシルアミノ基及びカルボキシエチルアミノ基の両者をフタロシアニン骨格上に有する金属フタロシアニン化合物またはその塩。
  2. 下記一般式(1)
    Figure 0004175640
    〔式(1)中、Rは各々独立に、カルボキシエチル基、アシル基または水素原子を表すが、少なくとも1つはアシル基であり、また、少なくとも1つはカルボキシエチル基である。Mは金属原子を表す。〕
    で表される請求の範囲第1項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩。
  3. Mがニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、鉄またはコバルトである請求の範囲第2項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩。
  4. 前記式(1)中、Rが置換基を有していても良い飽和または不飽和の分岐、鎖状または環状のアルキルカルボニル基、置換基を有していても良い飽和または不飽和の分岐、鎖状または環状のアルキルスルホニル基、置換基を有していても良いベンゾイル基又は置換基を有していても良いフェニルスルホニル基からなる群から選ばれた1種のアシル基である請求の範囲第2項または第3項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩。
  5. アシル基が置換基としてカルボキシル基を有してもよい、炭素数1〜6の脂肪族または芳香族アシル基である請求の範囲第1項または第2項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩。
  6. 金属原子が銅である請求の範囲第2項〜第5項のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩。
  7. 水に対する溶解度が2重量%以上である請求の範囲第2項〜第6項のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物の塩。
  8. 金属アミノフタロシアニン類にアシル化剤及びカルボキシエチル化剤を反応させることにより得られるフタロシアニン化合物またはその塩。
  9. アシル化剤が酢酸もしくはトリメリット酸またはそれらの反応性誘導体である請求の範囲第8項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩。
  10. カルボキシエチル化剤がアクリル酸である請求の範囲第8項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩。
  11. アミノフタロシアニン類のアミノ基に対する、アシル基の置換割合が1〜60モル%、カルボキシエチル基の置換割合が40〜99モル%となるような量においてアシル化剤及びカルボキシエチル化剤を反応させる請求の範囲第8項〜第10項のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩。
  12. 請求の範囲第1項〜第11項のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩を含有する水性インク組成物。
  13. フタロシアニン化合物の塩がフタロシアニン化合物のアルカノールアミン塩、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩である請求の範囲第12項に記載の水性インク組成物。
  14. フタロシアニン化合物の塩がフタロシアニン化合物のアンモニウム塩である請求の範囲第12項又は第13項に記載の水性インク組成物。
  15. 水及び水溶性有機溶剤を含有する請求の範囲第12項〜第14項のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
  16. 水性インク組成物中の無機塩の含有量が1重量%以下である請求の範囲第12項〜第15項のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
  17. 水性インク組成物がインクジェット記録用である請求の範囲第12項〜第16項のいずれか一項に記載の水性インク組成物。
  18. インク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして請求の範囲第12項〜第17項のいずれか一項に記載の水性インク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法。
  19. 被記録材が情報伝達用シートである請求の範囲第18項に記載のインクジェット記録方法。
  20. 請求の範囲第12項〜第17項のいずれか一項に記載の水性インク組成物を含有する容器。
  21. 請求の範囲第20項に記載の容器を有するインクジェットプリンタ。
  22. 請求の範囲第1項〜第11項のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩を有する着色体。
  23. アミノフタロシアニン類に対しアシル化及びカルボキシエチル化を施して得られるフタロシアニン化合物またはその塩の製造方法。
  24. アミノフタロシアニン類に対しアシル化及びカルボキシエチル化を施して得られる黒色金属フタロシアニン色素。
  25. フタロシアニン骨格含有化合物が置換基としてアシルアミノ基及びカルボキシエチルアミノ基をフタロシアニン骨格上に有するフタロシアニン化合物またはその塩である請求の範囲第24項に記載の黒色金属フタロシアニン色素。
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