JP4230141B2 - フタロシアニン化合物、水性インク組成物及び着色体 - Google Patents

フタロシアニン化合物、水性インク組成物及び着色体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なフタロシアニン化合物、その塩を含む水性インク組成物及びそれによる着色体に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種カラー記録法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法はインクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。これは、記録ヘッドと被記録材料とが接触しないため音の発生が無く静かであり、また小型化、高速化、カラー化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、水溶性染料を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されており、これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止するべく一般に水溶性有機溶剤が添加されている。これらの従来のインクにおいては、十分な濃度の画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また形成される画像は充分な耐光性及び耐水性等を有することが要求されている。また、種々の色相のインクが種々の染料から調製されているが、それらのうち黒色インクはモノカラーおよびフルカラー画像の両方に使用される最も重要なインクである。これら黒色インク用の染料として今日まで非常に多くの出願(例えば特開昭55−144067号、特開昭57−207660号、特開昭58−147470号、特開昭59−93766号、特開昭62−190269号、特開昭62−246975号、特開昭63−22867号、特開昭63−33484号、特開平1−93389号、特開平2−140270号、特開平3−167270号、特開平3−200852号、特開平4−359065号、特開平6−172668号、特開平6−248212号、特開平7−26160号、特開平7−268256号等)がされているが、市場の要求を充分に満足する製品を提供するには至っていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
インクジェットプリンタの用途はOA用小型プリンタから産業用の大型プリンタまで拡大されており、耐光性等の堅牢性がこれまで以上に求められている。しかし、中でも需要が最も広い黒色について、これらの要求を満たすものがない。一方加工紙での耐光性や、空気中のオゾンなどの影響による、自然退色については、問題が多く、多孔質シリカ、アルミナゾルまたは特殊セラミックスなどインク中の色素を吸着し得る無機微粒子をカチオン系ポリマーやPVA樹脂などとともに紙の表面にコーティングすることにより得られるインクジェットプリント用の各種コート紙での耐光性及び自然退色の改善が強く求められている。しかし、この要求に充分対応可能な黒色色素は現在無い。
【0004】
インクジェット記録用水性インクに用いられる黒色の色素骨格としてはジスアゾ体、トリスアゾ体またはテトラアゾ体等のようにアゾ系が代表的である。しかしアゾ系については耐水性は比較的良好なものがあるが、耐光性は銅フタロシアニン系に代表されるシアン染料に比べ劣る水準である。そのため黒色インクは、性能に優れた複数の色素の混合によるものが一般的である。
本発明は、望ましくは単色でインクジェット記録に適する黒色の色相を有し、且つ記録物の耐光性堅牢度及び自然退色性が顔料系インクに近く、更にバーコード印字等近赤外光の読み取りの可能な黒色色素及び水性黒色インク組成物を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至ったものである。即ち本発明は、
(1)下記一般式(1)
【0006】
【化2】
Figure 0004230141
【0007】
〔式(1)中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、または置換されていても良いアルキル、シクロアルキル、シクロヘキシルアルキル、アルコキシアルキル、アルコキシアルコキシアルキル、アリール、アラルキル、またはアルキルカルボニルオキシアルキル、テトラヒドロフルフリル基、カルボキシエチル基、グリシジル基を表し、R3はカルボキシル基またはスルホ基を表す。Mは金属原子を表す。〕
で表される、黒色フタロシアニン化合物またはその塩、
(2)R3がスルホ基である上記(1)に記載の黒色フタロシアニン化合物またはその塩、
(3)前記式(1)中、R1、R2が各々独立に、水素原子、カルボキシエチル基またはグリシジル基である上記(1)に記載の黒色フタロシアニン化合物、
(4)金属原子がニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、鉄またはコバルトである上記(1)または(2)に記載のフタロシアニン化合物またはその塩、
(5)Mが銅原子である上記(1)から(3)のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩、
(6)フタロシアニン化合物の塩がフタロシアニン化合物のアルカリ塩であり、且つそのアルカリ塩の水に対する溶解度が2重量%以上である上記(1)から(4)のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物の塩、
(7)上記(1)から(5)のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物の塩を含有する水性インク組成物、
(8)フタロシアニン化合物の塩がフタロシアニン化合物のアルカノールアミン塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩である上記(6)に記載の水性インク組成物、
(9)フタロシアニン化合物の塩がフタロシアニン化合物のアンモニウム塩である上記(6)または(7)に記載の水性インク組成物、
(10)水及び水溶性有機溶剤を含有する上記(6)から(8)のいずれか一項に記載の水性インク組成物、
(11)水性インク組成物中の無機塩の含有量が1重量%(内割)以下である上記(6)から(9)のいずれか一項に記載の水性インク組成物
(12)水性インク組成物がインクジェット記録用である上記(6)から(10)のいずれか一項に記載の水性インク組成物、
(13)インク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして上記(6)から(11)のいずれか一項に記載の水性インク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法、
(14)被記録材が情報伝達用シートである上記12に記載のインクジェット記録方法、
(15)上記(6)から(11)のいずれか一項に記載の水性インク組成物を含有する容器、
(16)上記(14)に記載の容器を有するインクジェットプリンタ、
(17)上記(1)から(5)のいずれか一項に記載のフタロシアニン化合物またはその塩を有する着色体
に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のフタロシアニン化合物(以下、特に断らない限りその塩を含む。)は、フタロシアニン骨格中に、アミノ基とスルホ基またはカルボキシル基の両方を有する化合物である。さらに具体的には、フタル酸とニトロフタル酸を任意のモル比で用い、通常の方法でニトロ基を持つフタロシアニン化合物を合成した後、発煙硫酸などを用い、通常の方法でスルホン化する事により得ることができるが、この方法に限定される物ではない。本発明のフタロシアニン化合物は、アルカリ水溶液可溶性であり、且つ各種堅牢度も良いことから、新規色素、特に黒色色素若しくは黒色染料として有用である。
【0009】
本発明の化合物の製造方法をさらに詳しく説明する。本発明のフタロシアニン化合物の原料となる、ニトロ基を有するフタロシアニン化合物は、種々の合成方法があるが、製造コストなどを考慮すると、尿素法による合成方法が好ましい。さらに詳しくは、無置換のフタル酸またはフタルイミドとニトロ基を有するフタル酸またはフタルイミドを任意のモル比で用い、高沸点溶媒中で尿素、中心金属の塩及びモリブデン酸塩を触媒として用い150℃以上、さらに好ましくは160〜220℃の範囲で反応させる事により得られる。中心金属はその塩として、たとえば銅の場合、塩化第一銅、塩化第二銅、亜鉛の場合は硫酸亜鉛などを用いれば、目的の中心金属を有するフタロシアニン化合物が得られる。中心金属としては、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、鉄またはコバルトなどがあり、銅が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0010】
反応に用いる高沸点溶剤の例としては、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、ニトロベンゼン、スルホラン、1,3−ジメチルー2−イミダゾリジノン、トリグライムなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、溶媒の使用量は、反応系が撹拌可能な流動性を保持できれば良く、フタル酸類とニトロフタル酸類の合計重量の1から10重量倍、さらに好ましくは、2から6重量倍使用される。
【0011】
このようにして合成されたニトロフタロシアニン化合物は濾過後、アルコール類や、希酸水溶液、希アルカリ水溶液で洗浄しても良く、乾燥後、本発明の化合物の製造に使用される。
【0012】
上記の方法で合成されたニトロフタロシアニン化合物は、発煙硫酸またはクロロスルホン酸に溶解及び加熱撹拌されることにより、スルホン化される。発煙硫酸でスルホン化する場合、発煙硫酸の濃度は10から50重量%、さらに好ましくは15から35重量%で使用され、使用量としてはニトロフタロシアニン類に対し2から20重量倍、さらに好ましくは、3から12重量倍使用される。反応温度としては、20から130℃、さらに好ましくは50から120℃の範囲で、目的に応じて数時間加熱撹拌する。反応液を冷却し、氷水中にゆっくり投入すると、目的物の結晶が得られるので、これを濾過する事により、ニトロ基とスルホ基を含むフタロシアニン化合物が得られる。
【0013】
また、ニトロ基とスルホ基、ニトロ基とカルボキシル基の両方を含む化合物の合成方法としては、予めスルホ(カルボキシ)置換されたフタル酸ないしはフタルイミドをニトロフタル酸と任意の割合で反応させ、前述の方法でフタロシアニン化合物とする事によっても得ることができる。
【0014】
ニトロ基とスルホ基を含むフタロシアニン化合物は、非常に多くの付着硫酸を含んでいるため、一旦水に懸濁し、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリで中和しても良い。さらにこの中和液から目的物を単離するため、食塩等を用いて塩析し取り出しても良い。
【0015】
次いで上記の様にして得られたニトロ基とスルホ基を含むフタロシアニン化合物のニトロ基を還元する事により、本発明の化合物を得ることができる。
還元の方法としては、公知の方法として種々あるが、経済性等を考慮すると、硫化ソーダ、水硫化ソーダなどで還元するのが簡便であるが、これに限定されるものではない。
【0016】
その具体例としては、ニトロ基とスルホ基を含むフタロシアニン化合物を水に、水酸化ナトリウム等のアルカリを用い溶解し、ニトロ基当量の1.0〜2.0モル倍の水硫化ソーダを加え、常温、または100℃以下さらに好ましくは80℃以下に加熱することにより実施される。また、未還元のニトロ基が残っていても本発明を実質的に阻害しない限り使用上問題はない。ニトロ基の存在の有無は得られた化合物のESIマススペクトルを測定することにより確認できる。
【0017】
また、還元反応によって得られたアミノ基に、既知の方法でアルキル化などを施しても良い。アルキル化の具体的な方法としては、アルカンのハロゲン化物と脱酸剤として炭酸カリウム、酢酸ソーダなどのアルカリを用い、水、あるいはジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)などの有機溶剤中で加熱する事により得られるがこの方法に限定されるものではない。
また、ハロゲン化アルカンの代わりに、エステル類を用いてアルキル化しても良い。エステル類の例としては、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、p−トルエンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸メトキシエチルなどのp−トルエンスルホン酸エステルなどを用い、炭酸カリウム、酢酸ソーダなどのアルカリを加え、水、あるいはDMF、NMP、DMI、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの有機溶剤中で加熱する事により得られるがこの方法に限定されるものではない。
さらに、アクリル酸、アクリル酸エステル類、エピクロルヒドリン等を付加反応させることによりアルキル化する事もできる。反応としては、アクリル酸、アクリル酸エステル類、エピクロルヒドリン等自体を反応溶媒としても良いし、水、あるいはDMF、NMP、DMI、DMSOなどの有機溶剤中用いても良く、さらに加熱する事により反応させることができるが、この方法に限定されるものではない。
こうして得られた本発明のフタロシアニン化合物は前記式(1)で表されるが、式(1)のR1、R2としては、水素原子、カルボキシエチル基またはグリシジル基が好ましく、又、R3としてはスルホ基が好ましい。
【0018】
本発明の水性インク組成物は、本発明のフタロシアニン化合物の水溶性塩を水または水溶性溶媒(水溶性有機溶剤または水と混和可能な有機溶剤含有水)に溶解したものである。水性インク組成物に適する本発明のフタロシアニン化合物の水溶性塩は、通常水に対する溶解度が2重量%以上、好ましくは3重量%以上、更に好ましくは5重量%以上のものであればいずれも使用出来るが、アルカノールアミン塩、リチウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩等のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が好ましく、アンモニウム塩が特に好ましい。水性インク組成物のpHは6〜11程度が好ましい。尚、この水性インク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、本発明のフタロシアニン化合物を得る際に不純物として混入する金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機物の含有量が少ないものを用いるのが好ましく、その含有量の目安は例えば水性インク組成物中で1重量%(内割)以下、好ましくは0.1重量%(内割)以下程度である。通常、フタロシアニン化合物の合成反応終了後、水溶媒での洗浄により水性インク組成物に適する無機塩の含有量の少ない本発明のフタロシアニン化合物を得ることが出来るが、更に無機物の少ない本発明のフタロシアニン化合物を製造するには、例えば逆浸透膜による通常の方法または本発明のフタロシアニン化合物の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノール等のアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌し、濾過、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。
本発明の水性インク組成物は水を媒体として調製される。本発明のフタロシアニン化合物またはその塩は該水性インク組成物中に、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%、更に好ましくは2〜8重量%程度含有される。本発明の水性インク組成物にはさらに水溶性有機溶剤0〜30重量%、インク調製剤0〜5重量%含有していても良い。残部は水である。
【0019】
本発明のインク組成物は、蒸留水等不純物を含有しない水に、本発明の化合物またはその塩及び必要により、下記水溶性有機溶剤、インク調製剤等を添加混合することにより調製される。また、水と下記水溶性有機溶剤、インク調製剤等との混合物に本発明の化合物またはその塩を添加、溶解してもよい。また必要ならインク組成物を得た後で濾過を行い、狭雑物を除去してもよい。
【0020】
水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等の炭素数1〜4のアルカノール、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド(好ましくは炭素数1〜3の低級カルボン酸の炭素数1〜3のN,N−モノまたはジアルキルアミド)、ε−カプロラクタム、N−メチルピロリジン−2−オン(N−メチル−ピロリドン)等のラクタム(好ましくは4〜7員環のラクタム)、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オンまたは1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類(好ましくは炭素数1〜3のアルキル置換基を有していても良い5〜6員環の環式尿素)、アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトンまたはケトアルコール(好ましくは炭素数1〜3のケトンまたはケトアルコール)、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル(好ましくは5〜6員環の環状エーテル)、エチレングリコール、エチレンチオグリコール、1,2−または1,3−プロピレングリコール、1,2−または1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の炭素数2〜6のアルキレン単位を有するアルキレングリコールまたはアルキレンチオグリコールのモノマー、オリゴマーまたはポリマー(ポリアルキレングリコールまたはポリアルキレンチオグリコール)、グリセリン、ヘキサン−1.2.6−トリオール等のポリオール(好ましくは炭素数1〜6のトリオール)、エチレングリコールモノメチルエーテルまたはエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテルまたはトリエチレングリコールモノメチルエーテルまたはトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(炭素数1〜4)アルキルエーテル(好ましくは、水酸基を1〜3個有する炭素数2〜3の多価アルコールの(炭素数1〜4)アルキルエーテル)、γーブチロラクトンまたはジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0021】
インク調製剤としては、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、界面活性剤、その他のインク調製用添加剤などが挙げられる。
【0022】
防腐防黴剤としては、例えば無水酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダ、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられる。
【0023】
pH調整剤としては、調合される水性インク組成物に悪影響を及ぼさずに、水性インク組成物のpHを例えば6〜11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その例としては、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられる。特に水酸化アンモニウムでpHを調整した場合、耐水性が優れた印刷物を供給することができる。これは被記録材料に印刷時アンモニウムイオンがアンモニアとして揮発するためと思われる。
【0024】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどが挙げられる。水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホン化したベンゾフェノン、スルホン化したベンゾトリアゾ−ルなどが挙げられる。染料溶解剤としては、例えばε−カプロラクタム、エチレンカ−ボネ−ト、尿素などが挙げられる。界面活性剤としては、例えばアニオン系、カチオン系、ノニオン系などの公知の界面活性剤が挙げられる。
【0025】
本発明のインクジェット記録方法の被記録材(基材)としては、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維及び皮革等が挙げられる。情報伝達用シートについては、表面処理されたもの、具体的にはこれらの基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えば上記基材にカチオンポリマーを含浸あるいは塗工することにより、また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等のインク中の色素を吸着し得る無機微粒子をポリビニルアルコールやポリビニールピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工することにより設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙(フィルム)や光沢紙(フィルム)と呼ばれ、例えばピクトリコ(商品名、旭硝子(株)製)、カラーBJペーパー、カラーBJフォトフィルムシート(いずれも商品名、キャノン(株)製)、カラーイメージジェット用紙(商品名、シャープ(株)製)、スーパーファイン専用光沢フィルム(商品名、セイコーエプソン(株)製)ピクタファイン(商品名、日立マクセル(株)製)等が挙げられる。なお、普通紙にも利用できることはもちろんである。
【0026】
本発明の水性インク組成物は、本発明のフタロシアニン化合物またはそれと他の1種以上の化合物を含有していても良く、印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング、または記録法、特にインクジェット印捺法における使用に適する。この場合著しい高濃度及び水、日光、および摩擦に対する良好な耐性を有する高品質の黒色印捺物が得られる。本発明のフタロシアニン化合物は、普通紙更にインクジェット専用紙において一層高い耐水性、耐光性を有する。
【0027】
本発明の水性インク組成物は水への溶解性が高く貯蔵中沈殿の分離が生じない。また本発明の水性インク組成物をインクジェットプリンタにおいて使用する場合、噴射ノズルの目詰まりが生ずることなく、比較的長い時間(一定の再循環下における使用または断続的に中間的遮断下での使用)においても本発明の水性インク組成物は分解や濃度低下等の物理的性質の変化は生じない。
【0028】
本発明の容器は上記の水性インク組成物を含有する。また、本発明のインクジェットプリンタはこの水性インク組成物を含有する本発明の容器がインクタンク部分にセットされたものである。さらに、本発明の着色体は上記の本発明のフタロシアニン化合物またはその塩で、好ましくは上記のインク組成物で着色されたものである。
【0029】
本発明の水性インク組成物は、JNC(社団法人 日本印刷産業機械工業)のJAPAN Colorの標準黒色に近似した理想に近い黒色であり、各種光源下でも安定した黒色を示し、演色性も優れている。また、耐光性及び耐水性の優れた既存のマゼンタ、シアン、イエローと共に用いることで耐光性及び耐水性の優れたカラーの記録物を得ることができる。
【0030】
また 本発明のフタロシアニン化合物は、近赤外部に高い吸収をもっているため、近赤外光を読み取りに用いるバーコードなどの印字に適しており、本発明の水性インクは非常に有用である。
【0031】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。尚、本文中部及び%とあるのは、特別の記載のない限り重量基準である。
【0032】
実施例1
冷却管のついた四つ口フラスコに、4−ニトロフタルイミド28.8部、フタルイミド22.0部、尿素57.6部、塩化第二銅10.2部モリブデン酸アンモニウム0.2部、スルホラン180部を加え、マントルヒーターで200℃まで昇温し、さらに同温度で5時間撹拌した。
反応終了後、60℃まで冷却し、ヌッチェ濾過を行った。さらに、メタノール300部、温水500部で洗浄し、取り出し、乾燥を行ったところ、ジニトロ銅フタロシアニン相当の化合物46.0部を得た。
上記のようにして得られた、ジニトロ銅フタロシアニン20.0部を200部の32%発煙硫酸に溶解し、マントルヒーターで100℃まで昇温し、さらに同温度で5時間撹拌した。反応終了後常温まで冷却し、氷水中に反応液を注加し、スルホン化物の固形分を得た。このスルホン化物を、ヌッチェにて濾過を行い、500部の水で洗浄を行い、スルホン化物のウエットケーキ80部を得た。
次に、上記のようにして得られたスルホン化物のウエットケーキ全量を200部の水に懸濁し、水酸化ナトリウムでpH7まで中和する。ついで、70重量%の水硫化7.7部を水40部に溶解した液を徐々に加え、室温で5時間、さらに昇温して60℃で3時間還元反応を行った。反応終了後、反応液の重量に対し、15重量部の食塩を投入し、塩析を行い、目的物の結晶を得た。
これをヌッチェ濾過し、目的物のウエットケーキを得た。
この、ウエットケーキを20重量%の水を含むメタノール300部に懸濁し、30分撹拌した。
この懸濁液をヌッチェにて濾過した後、ウエットケーキを再度、20重量%の水を含むメタノール300部に懸濁し、30分撹拌し、濾過乾燥したところ、ジアミノジスルホフタロシアニン相当の化合物13.6部を得た。0.05g/1000ml(イオン交換水中)でのλmaxは694.0nmであった。
【0033】
実施例2
実施例1と同様な方法で、トリニトロ銅フタロシアニンを合成したのち、冷却管のついた四つ口フラスコにこの化合物20部と、32%発煙硫酸200部を仕込み、溶解した後、100℃まで昇温し同温度で5時間反応した。次に反応液を常温まで冷却し、氷水中に反応液をゆっくり投入する事により、トリニトロモノスルホ銅フタロシアニン相当の化合物のウエットケーキを得た。
ついでこのウエットケーキ全量を200部の水に懸濁し、水酸化ナトリウムでpH7まで中和する。ついで、70重量%の水硫化11.5部を水40部に溶解した液を徐々に加え、室温で5時間、さらに昇温して60℃で3時間還元反応を行った。反応終了後、反応液の重量に対し、15重量部の食塩を投入し、塩析を行い、目的物の結晶を得た。これをヌッチェ濾過し、トリアミノモノスルホ銅フタロシアニンのウエットケーキを得た。この、ウエットケーキを20重量%の水を含むメタノール300部に懸濁し、30分撹拌した。
この懸濁液をヌッチェにて濾過した後、ウエットケーキを再度、20重量%の水を含むメタノール300部に懸濁し、30分撹拌し、濾過乾燥したところ、トリアミノモノスルホ銅フタロシアニン相当の化合物14.3部を得た。0.05g/1000ml(イオン交換水中)でのλmaxは633.5nmであった。
【0034】
実施例3
冷却管のついた四つ口フラスコに、実施例1で得られたジアミノジスルホ銅フタロシアニン10部、アクリル酸100部、ヒドロキノン0.2部を仕込み、オイルバスで80℃まで1時間で昇温し、同温度で5時間攪拌した。反応液を40℃まで冷却したのち、目的物をヌッチェで濾過し、60℃の水1000部で充分水洗し、乾燥したところ、11.3部の黒色フタロシアニン化合物を得た。
【0035】
実施例4
冷却管のついた四つ口フラスコに、実施例2で得られたトリアミノモノスルホ銅フタロシアニン10部、アクリル酸100部、ヒドロキノン0.2部を仕込み、オイルバスで80℃まで1時間で昇温し、同温度で5時間攪拌した。反応液を40℃まで冷却したのち、目的物をヌッチェで濾過し、60℃の水1000部で充分水洗し、乾燥したところ、12.2部の黒色フタロシアニン化合物を得た。この化合物のアンモニウム塩にしたときの溶解度は7重量%であり、0.05g/1000ml(イオン交換水中)でのλmaxは628.0nmであった。
【0036】
実施例5
冷却管のついた四つ口フラスコに、スルホラン312部、4−スルホフタル酸22.4部、4−ニトロフタルイミド16.1部、塩化銅6.7部、モリブデン酸アンモニウム0.7部、尿素60.7部を投入し、マントルヒーターで200℃まで昇温し、同温度で5時間反応した。反応終了後、60℃まで冷却し、ヌッチェ濾過をおこなった。ついで70℃の温水800部で洗浄し、ジニトロジスルホ銅フタロシアニン相当の化合物のウエットケーキを得た。
このウエットケーキ全量を、水200部に懸濁させ、70%水硫化ソーダ16.0部を加え、80℃にて3時間反応させた。ついで、この反応液が酸性になるまで希塩酸を加え、過剰の水硫化ソーダを、硫化水素として放出させる。この液をヌッチェにてろ過し、さらに1000部の水で洗浄し、ジアミノジスルホ銅フタロシアニンのウエットケーキを得た。
このウエットケーキ全量を、アクリル酸200部、ヒドロキノン0.4部メチルエチルケトン30部の入った四つ口フラスコに投入し、80℃にて12時間加熱撹拌した。反応液を60℃まで冷却し、ヌッチェ濾過し、60℃の水1000部で洗浄し乾燥したところ、43.9部の黒色フタロシアニン化合物を得た。この化合物のアンモニウム塩にしたときの溶解度は0.05g/1000ml(イオン交換水中)でのλmaxは670.5nmであった。
【0037】
上記実施例1、2及び4で得られたものをアンモニウム塩にした後、濃度を0.05g/1000ml(イオン交換水中)に調整し、UV−2100型分光光度計(島津製作所(株)製)を用いて測定した吸収スペクトルを図1に示す。また、実施例2で得られたフタロシアニン化合物の赤外吸収スペクトルを図2に示す。
【0038】
実施例6
(A)水性インク組成物の調製
下記表1に示した組成の液体を調製し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により各インクジェット用水性インク組成物を得た。また水はイオン交換水を使用した。尚、インク組成物のpHがpH=8〜10、総量100部になるように水、水酸化アンモニウムを加えた。
【0039】
表1
実施例1の化合物 5.0部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチル−2−ピロリドン 4.0部
IPA 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
水+水酸化アンモニウム 76.0部
計 100部
【0040】
(B)インクジェットプリント
インクジェットプリンタ(商品名 NEC(株) PICTY80L)を用いて、普通紙(キャノンプリンターペーパーA4 TLB5A4S (キャノン(株)製))、専用紙A(Color BJ PaperLC101(キャノン(株)製))及び専用紙B(カラーイメージジェット用コート紙STX73A4(シャープ(株)製))の3種の紙にインクジェット記録を行った。本発明の水性インク組成物の記録画像の色相、耐光試験及び演色性の結果を表2に示す。
【0041】
実施例7〜10、比較例1、2
実施例7、8、9及び10としてそれぞれ、実施例6と同様にして実施例2、3、4及び5の化合物を使用して本発明の水性インク組成物を調製し、インクジェット記録を行い記録画像の色相、耐光試験及び演色性試験を行った。また、比較例1として実際に水溶性インクジェット用黒色色素として用いられている、下記式で表される、アゾ系色素のC.I.Direct Black 19(比較例1)、比較例2として特開平2−140270号公報に記載された化合物(比較例2)を用い、同様のインク組成で本発明の水性インク組成物と光学濃度が合うように調整し、インクジェット記録を行い記録画像の色相、耐光試験及び演色性試験を行った。結果を表2に示す。
【0042】
【化3】
Figure 0004230141
【0043】
尚、記録画像の評価方法は以下のとおり
(1) 色相評価
記録画像の色相、鮮明性:記録紙をGRETAG SPM50(商品名、GRETAG(株)製)を用いて測色し、L* 、a* 、b*値を算出した。
(2) 耐光試験
カーボンアークフェードメーター(スガ試験機(株)製)を用い、記録画像に20時間照射した。判定級は、JIS L−0841に規定されたブルースケールの等級に準じて判定するとともに、上記の測色システムを用いて試験前後の色差(ΔE)を測定した。
(3)演色性
標準光源の色相を基準にタングステン光下で見た場合の変色の程度を目視により判定した。
○ 色相変化小さい。
△ 色相変化やや大きい。
以上の(1)〜(3)の結果を表2に示した。
(4) 反射率カーブ
記録画像をCOMSEK−V測色システム(商品名、日本化薬(株)製)を用いて測色し、反射率カーブを求めた。反射率の測定結果を表3に示した。
【0044】
【表1】
Figure 0004230141
【0045】
表2より、本発明のフタロシアニン化合物の塩を用いた水性インク組成物は、単色で黒色の色相を有しており、演色性も優れている。耐光堅牢度は普通紙、専用紙共に極めて良好であり、被記録材(普通紙も含む)によって差がみられず安定な品質を供給することが可能な水性インク組成物である。一方比較例1または2のアゾ系色素を用いて作製した水性インク組成物では耐光性は使用する被記録材により品質のばらつきがみられ、また比較例2の色素用いて作製した水性インク組成物では演色性が劣っていた。
【0046】
試験例
上記実施例6〜10の専用紙Bでの記録画像を測色し、各波長(400〜700nm)での反射率を下記表3に示す。この表3の各波長の反射率の結果から、本発明フタロシアニン化合物は単色で黒色の色相があることがわかる。
【0047】
【表2】
Figure 0004230141
【0048】
以上のことから本発明フタロシアニン色素を用いた黒色インクは使用用途の範囲が広い非常に優れた黒色インクであることがわかる。
【0049】
【発明の効果】
本発明のフタロシアニン化合物は水溶解性に優れ、新規な色素として有用であり、通常黒色を示し、黒色色素として使用される。又、このフタロシアニン化合物を使用した本発明の水性インク組成物は長期間保存後の結晶析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。又、本発明の水性インク組成物をインクジェット記録用の黒色インクとして使用した印刷物は耐光性に優れ、その品質は顔料に近く、マゼンタ、シアン及びイエロー染料と共に用いることで耐光性に優れたインクジェット記録が可能である。更に印刷面は理想に近い黒色であり、演色性も優れている。従って、本発明の水性インク組成物はインクジェット記録用黒色インクに極めて有用である。また近赤外部に高い吸収をもっていることからも、近赤外光の読み取りに用いるバーコード等の印字としても非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1、2、4で得られた化合物の分光光度計による可視吸収スペクトル図
【図2】実施例2で得られたフタロシアニン化合物の赤外吸収スペクトル図。

Claims (12)

  1. 下記一般式(2)乃至(5)
    Figure 0004230141
    で表される黒色フタロシアニン化合物の塩を含有する水性インク組成物。
  2. フタロシアニン化合物の塩がフタロシアニン化合物のアルカリ塩であり、且つそのアルカリ塩の水に対する溶解度が2重量%以上である請求項1に記載のフタロシアニン化合物の塩を含有する水性インク組成物。
  3. フタロシアニン化合物の塩がフタロシアニン化合物のアルカノールアミン塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩である請求項に記載の水性インク組成物。
  4. フタロシアニン化合物の塩がフタロシアニン化合物のアンモニウム塩である請求項またはに記載の水性インク組成物。
  5. 水及び水溶性有機溶剤を含有する請求項からのいずれか一項に記載の水性インク組成物。
  6. 水性インク組成物中の無機塩の含有量が1重量%(内割)以下である請求項からのいずれか一項に記載の水性インク組成物。
  7. 水性インク組成物がインクジェット記録用である請求項からのいずれか一項に記載の水性インク組成物。
  8. インク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして請求項からのいずれか一項に記載の水性インク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法。
  9. 被記録材が情報伝達用シートである請求項に記載のインクジェット記録方法。
  10. 請求項からのいずれか一項に記載の水性インク組成物を含有する容器。
  11. 請求項10に記載の容器を有するインクジェットプリンタ。
  12. 請求項1に記載のフタロシアニン化合物またはその塩を有する着色体。
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