JP4164915B2 - 二つの摺動部材を組み合わせた摺動構造およびそれを用いたすべり支承装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、互いに摺動接触する摺動面がともに合成樹脂である二つの摺動部材を組み合わせた摺動構造および該摺動構造を用いたすべり支承装置に関する。
【0002】
摺動接触する二つの部材の組み合わせにおいて、一方の部材が合成樹脂である場合、他方の部材としては一般に鋼などの金属製のものが用いられる。しかしながら、種々の目的、必要性すなわち防錆、耐薬品、電気絶縁、軽量化さらには他の設計上の要請から、他方の部材そのものを合成樹脂としたり、あるいは少なくともその摺動面を合成樹脂とするなどの手段が採られることがある。
【0003】
例えば、合成樹脂の被膜を施した鋼製のシャフトと合成樹脂軸受との組み合わせ、ともに合成樹脂製の歯車の組み合わせ、合成樹脂パイプとその中に挿通されて押し引き(往復摺動)または回転摺動する、合成樹脂を被覆したワイヤーロープとの組み合わせからなるコントロールケーブルなどである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、合成樹脂製の摺動部材同士の組合せの場合、低摩擦係数を有していることで知られる四フッ化エチレン樹脂においても、乾燥摩擦条件下でのすべりにおいて、動摩擦係数を0.1以下とすることは困難である。
【0005】
また、地震動に応答して構造物の変位をすべりによって逃がす機能を有するすべり支承装置においては、すべり面に働く摩擦抵抗が大きいとすべり変位が所望になされなくなり、効果的な免震が発揮されなくなるため、すべり面における摩擦抵抗が低いことが要求される。
【0006】
さらに、すべり支承装置においては、地震等により力が入力されるとき以外は作動しないため、安定した免震効果を得るためには、作動時の摩擦抵抗が安定していること、すなわち、静摩擦係数の経時変化が小さいことが要求される。すなわち、動摩擦係数が低いことと合わせて、静摩擦係数が低いことおよび安定していることが要求される。
【0007】
しかしながら、合成樹脂製の摺動部材同士の組合せの場合、一般に静摩擦係数は動摩擦係数の2倍以上の値を示す。さらに、荷重下にあってかつ常時は作動するようなことがないような場合では、両部材の長期間の接触による微視的なクリープにより静摩擦係数がしだいに大きくなっていく傾向にある。
【0008】
そこで、摺動面にグリースやオイル等の潤滑油を塗布することにより、静摩擦係数、動摩擦係数をともに低下させることができるが、短時間の摺動により潤滑油が摺動面から排出され、その効果を失ってしまう上、経時的な固化あるいは劣化の影響もあって、しだいに摩擦係数が上昇してしまう。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、安定かつ低い静摩擦係数および動摩擦係数を有するとともに、すべりを必要とするときに、的確かつ効果的な低摩擦すべりが行われる、二つの摺動部材を組み合わせた摺動構造および該摺動構造を用いたすべり支承装置を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、上記目的は、摺動面が熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜からなる第一摺動部材と、摺動面が合成樹脂からなる第二摺動部材とから成り、前記潤滑被膜がエポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルから成る組成物の被膜であり、且つ、前記合成樹脂が潤滑油、グリース、ワックス、黒鉛、二硫化モリブデン、フッ素樹脂、ガラス粉末、ガラス繊維、炭素粉末、炭素繊維およびアラミド繊維の群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする第一及び第二摺動部材を組み合わせてなり、荷重下で常時はすべり作動するようなことがない摺動構造、および、該摺動構造を用いた免震作用を行なうすべり支承装置によって達成される。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、互いに摺動面で摺動接触する第一摺動部材と第二摺動部材とのうち、第一摺動部材の摺動面の熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜を構成する組成物について述べる。
【0012】
エポキシ樹脂としては、従来公知のものが使用でき、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上併せて用いられる。具体的には、油化シェルエポキシ社製のビスフェノールA型の液状または固形タイプのエポキシ樹脂「エピコート(商品名)」が挙げられる。エポキシ樹脂は、本発明の合成樹脂被膜の母体をなすものであり、また下地との接着剤として機能するものである。
【0013】
硬化剤としては、従来からエポキシ樹脂の硬化剤として用いられているものが使用でき、例えば、ポリアミン、酸無水物、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、メルカプタン系化合物が挙げられる。さらに、これら硬化剤とともに、三級アミン、イミダゾール誘導体、フッ化ホウ素錯塩類等の硬化促進剤を併用してもよい。
【0014】
ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなどの脂環族アミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族アミン、アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどの複素環式アミン、ジシアンジアミドおよびこれらを変性したものが含まれる。変性の手法としては、例えば、エポキシ樹脂、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、アクリロニトリル、ケトン類との付加物の形にすることが挙げられる。上記ポリアミンの具体例としては、油化シェルエポキシ社製の変性脂肪族ポリアミン「エピキュアT(商品名)」、変性脂環族アミン「エピキュア113(商品名)」、変性芳香族アミン「エピキュアW(商品名)」が挙げられる。
【0015】
酸無水物としては、ドデシル無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物などの脂肪族酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸などの脂環族酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの芳香族酸無水物、テトラブロモ無水フタル酸、無水へット酸などのハロゲン系酸無水物が含まれ、一般に三級アミンやイミダゾール誘導体を硬化促進剤として用いる。具体例としては、油化シェルエポキシ社製の「エピキュア134A(商品名)」が挙げられる。
【0016】
フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂が挙げられ、一般に硬化促進剤が併用される。
【0017】
ポリアミド樹脂としては、不飽和脂肪酸の2量体であるダイマー酸とポリアミンから得られるポリアミドが挙げられる。
【0018】
メルカプタン系化合物とは、分子構造式の両端にメルカプト基−SHを有する脂肪族多硫化重合物のことであり、それ単独ではエポキシ樹脂と反応しないため、前記ポリアミンや三級アミンとの併用が必要である。メルカプタン系化合物の具体例としては、油化シェルエポキシ社製「カップキュア3800(商品名)」が挙げられる。
【0019】
エポキシ樹脂と硬化剤との配合割合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基または水酸基の数とこのエポキシ基または水酸基と反応する硬化剤中の官能基の数との比率により決定される。
【0020】
例えば、硬化剤としてポリアミンを用いる場合、エポキシ樹脂のエポキシ当量をE、ポリアミンのアミン当量をAとすると、エポキシ樹脂Egに対してポリアミン(0.8〜1.2)×Agである。ここで、エポキシ当量とは、エポキシ基1グラム当量を含むエポキシ樹脂のグラム数、アミン当量とは、エポキシ基と反応する活性水素1グラム当量を含むポリアミンのグラム数である。
【0021】
したがって、エポキシ樹脂と硬化剤との配合重量割合は、使用するエポキシ樹脂の種類および硬化剤の種類によって変化するが、次のように設定される。すなわち、エポキシ樹脂Egに対して表1に示す割合で配合される。ここで、Eはエポキシ樹脂のエポキシ当量の値である。
(以下余白)
【0022】
【表1】
【0023】
また、硬化促進剤を併用する場合は、エポキシ樹脂Egに対して硬化促進剤を1〜20g配合すればよい。
【0024】
シリコーンオイルは、一般に非反応性シリコーンオイルと反応性シリコーンオイルに大別される。反応性シリコーンオイルとは、ジメチルポリシロキサンのメチル基の一部を反応性を有する官能基で置換したシリコーンオイルである。本発明においては、これらのシリコーンオイルのうち、後述する加熱焼付けによる硬化処理特に前記エポキシ樹脂および硬化剤と反応しないもの、また、反応してもその反応性が低いために固化せずに粘度を増す程度のものが使用できる。
【0025】
このようなシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイルおよびジメチルポリシロキサンのメチル基の一部をポリエーテル基、フェニル基、アルキル基、アラルキル基、フッ素化アルキル基等で置換した、いわゆる非反応性シリコーンオイルおよび反応性シリコーンオイルのうち、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、両末端にエポキシ基を有するエポキシ変性シリコーンオイル、側鎖にエポキシ基を有するエポキシ当量が1000を超えるエポキシ変性シリコーンオイルが挙げられる。ここで、カルボキシル変性シリコーンオイルとはジメチルポリシロキサンのメチル基の一部をカルボキシル基を有する官能基で置換したシリコーンオイルを、カルビノール変性シリコーンオイルとはジメチルポリシロキサンのメチル基の一部をアルコール性水酸基を有する官能基で置換したシリコーンオイルを、エポキシ変性シリコーンオイルとはジメチルポリシロキサンのメチル基の一部をエポキシ基を有する官能基で置換したシリコーンオイルを意味する。
【0026】
上記シリコーンオイルのうち、非反応性シリコーンオイルは、粘度(25℃)が100〜50000cSt、好ましくは500〜10000cStのものが使用される。また、本発明で使用する反応性シリコーンオイルは、加熱焼付けによる硬化処理時に、エポキシ樹脂または硬化剤とほとんど反応しないか、反応しても反応性が低く粘度は増すものの依然として潤滑性を有しているので、低摩擦に寄与する。
【0027】
シリコーンオイルの配合量は、エポキシ樹脂と硬化剤との和を100重量部として、2〜20重量部、好ましくは5〜15重量部である。2重量部未満の場合は、摺動特性の改善効果が得られず、20重量部を超える場合は、合成樹脂被膜の機械的強度が著しく低下する。
【0028】
上記エポキシ樹脂、硬化剤、シリコーンオイルに加えて、必要に応じて無機および有機充填材粉末を配合することができる。無機および有機充填材粉末としては、黒鉛、窒化ホウ素等の無機質粉末、フッ素樹脂等の有機質粉末を例として挙げることができ、その配合量は、エポキシ樹脂と硬化剤との和を100重量部として、配合効果の観点から2重量部以上、そして塗膜形成の作業性等の観点から10重量部以下とする。
【0029】
熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜の形成方法について述べる。エポキシ樹脂、シリコーンオイル、必要に応じて有機、無機充填材粉末を有機溶剤に溶解または分散させた後、硬化剤を溶かすか、またはエポキシ樹脂を有機溶剤に溶かした後、シリコーンオイル、硬化剤、必要に応じて有機、無機充填材粉末を溶解または分散させ、固形分が30〜40重量%、粘度(常温)が100〜200cSt程度の塗料液を調整する。
【0030】
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、イソプロピルアルコール、n−ブタノールなどのアルコール類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。これらの有機溶剤は単独あるいは混合して使用される。
【0031】
上記塗料液を、例えば、ショットブラスト、脱脂など通常一般に行なわれている処理を施した鋼表面に刷毛塗り、吹き付けなどの手段により塗膜を形成し、硬化処理を行なって硬化被膜を得る。
【0032】
塗膜形成後の硬化処理条件は、どのような硬化剤を用いるかで様々な条件を採り得る。一例として、脂環族アミンを硬化剤として用いた場合を挙げると、塗膜形成後、自然乾燥によるか80℃で30分間程予備乾燥を行なって溶剤を飛ばし、次いで180℃で30分間加熱焼付けを行なうと所望の硬化被膜が得られる。
【0033】
被膜厚さは、5〜100μm、特に10〜50μm、もっとも好ましくは20〜40μmである。5μm未満では、被膜の均質性が損なわれたり、潤滑被膜としての耐久性が低下する。また、100μmを超える場合は、被膜の機械的強度を損なうことになり、摺動部材としての耐荷重性が低下する。
【0034】
次に、前記第一摺動部材と摺動接触する第二摺動部材の摺動面を構成する合成樹脂について述べる。合成樹脂としては特に限定されるものではなく、熱可塑性または熱硬化性の何れの樹脂も使用することができる。例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、脂肪族ケトン、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂等が挙げられる。これら合成樹脂は2種以上を組み合わせて使用してもよい。またこれらに潤滑油剤、強化剤を配合したものが使用できる。潤滑油剤としては、潤滑油、グリース、ワックス、黒鉛、二硫化モリブデン、フッ素樹脂等が、また強化剤としては、ガラス粉末、ガラス繊維、炭素粉末、炭素繊維、アラミド繊維等が挙げられる。
【0035】
これら合成樹脂は、ブロック状あるいはプレート状の成形物を金属などの裏材に形成した凹部にその一部を突出させて埋設して使用したり、裏材表面に接着またはビス止めして使用したり、あるいは裏材表面に薄膜として被着させて使用するなど様々な適用形態が採られる。
【0036】
この薄膜タイプのものとしては、鋼板上に銅合金の多孔質焼結層を設け、この焼結層上に合成樹脂を供給して加圧、加熱焼成して樹脂薄膜を被着形成させた複層摺動部材、あるいは鋼などの裏材表面に直接上記合成樹脂の硬化被膜としたもの、例えばダイキン工業社製の四フッ化エチレン樹脂の溶剤分散タイプ(商品名:ポリフロンTFEエナメル)を塗着し、焼付けを行なって硬化被膜を形成したもの、などがあり、いずれも有効に使用し得るものである。
【0037】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(第一摺動部材)
幅40mm、長さ280mm、厚さ10mmのプレート状のステンレス鋼板SUS304を下地とし、ショットブラスト、脱脂処理を施した面に表2および3に示す(a)〜(k)の成分からなる組成物のメチルイソブチルケトンとトルエンとの混合溶剤希釈液(固形分33重量%)を吹き付け、80℃で30分間予備乾燥して溶剤を飛ばした後、180℃で30分間加熱焼付け処理を行ない、被膜厚さ40μmとした。
【0039】
表中、エポキシ樹脂は、油化シェルエポキシ社製「エピコート828(商品名)、エポキシ当量:190」を、ポリアミンは、油化シェルエポキシ社製の変性脂環族アミン「エピキュア113(商品名)」を、酸無水物は、ヘキサヒドロ無水フタル酸を、3級アミンは、ベンジルジメチルアミンを、KF−96は、信越化学工業社製のジメチルシリコーンオイル「KF−96(商品名)、粘度:5000cSt」を、SH510は、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製のメチルフェニルシリコーンオイル「SH510(商品名)、粘度:500cSt」を、KF−102は、信越化学工業社製の側鎖に脂環式エポキシ基を有するエポキシ変性シリコーンオイル 「KF−102(商品名)、エポキシ当量:3600、粘度:4000cSt」を、SF8418は、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製の側鎖にカルボキシル基を有するカルボキシル変性シリコーンオイル「SF8418(商品名)、カルボキシル当量:3500、粘度:2500cSt」を、KF−105は、信越化学工業社製の両末端にグリシジル基を有するエポキシ変性シリコーンオイル「KF−105(商品名)、エポキシ当量:490、粘度15cSt」を、PTFEは、四フッ化エチレン樹脂を示す。
(以下余白)
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
(第二摺動部材)
(A)ガラス繊維粉末として、直径10μm、平均長さ63μmの旭ファイバグラス社製「MF06JB1−20(商品名)」15重量%、ポリイミド樹脂粉末として、Lenzing社製「P84(商品名)」2重量%、残部三井デュポンフロロケミカル社製四フッ化エチレン樹脂「テフロン7AJ(商品名)」からなる樹脂組成物の成形物。直径10mm、高さ14mmのロッド状のものの端面を摺動面とした。
(B)上記ポリイミド樹脂粉末20重量%、残部四フッ化エチレン樹脂からなる樹脂組成物の成形物。直径10mm、高さ14mmのロッド状のものの端面を摺動面とした。
(C)三井デュポンフロロケミカル社製四フッ化エチレン樹脂「テフロン7AJ(商品名)」15重量%、ダイキン工業社製四フッ化エチレン樹脂「ルブロンL−5(商品名)」25重量%、残部トープレン社製ポリフェニレンサルファイド「トープレンPPST−4(商品名)」からなる樹脂組成物の成形物。直径10mm、高さ14mmのロッド状のものの端面を摺動面とした。
(D)鉱油5重量%、残部ポリプラスチックス社製ポリアセタール「ジュラコンM90(商品名)」からなる樹脂組成物の成形物。直径10mm、高さ14mmのロッド状のものの端面を摺動面とした。
(E)呉羽化学工業社製の直径18μm、長さ0.7mmの炭素繊維「クレカチョップM−107T(商品名)」20重量%、4×6mmの綿布細片25重量%、黒鉛5重量%、残部フェノール樹脂からなる樹脂組成物の成形物。直径10mm、高さ14mmのロッド状のものの端面を摺動面とした。
【0043】
上記、第一摺動部材と第二摺動部材の組合せについて、下記方法により摺動特性を評価した。
【0044】
往復摺動試験1:表4に記載の条件下で摩擦係数および摩耗量を測定した。
【0045】
【表4】
すべり速度:20cm/sec
荷 重:200kgf/cm2
ストローク:220mm
サイクル数:500サイクル
【0046】
第一摺動部材と第二摺動部材の組合せおよび評価結果について表5〜8に示す。ここで、摩擦係数は試験開始後安定時の動摩擦係数を示し、摩耗量は500サイクル後の第一摺動部材の寸法変化量および第二摺動部材の重量変化量を示す。
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
【表8】
【0051】
以上より、本発明例の組合せの場合は、いずれの場合も、低い摩擦係数を示し、摩耗量も第一摺動部材、第二摺動部材ともに低い値を示し、優れたものであった。これに対して、比較例の組合せの場合は、いずれの場合も摩擦係数が高いとともに、第二摺動部材の摩耗量が多く、C−k、D−k、およびE−kの組合せの場合に至っては、第一摺動部材の被膜が完全に摩耗して下地が露出してしまった。
【0052】
往復摺動試験2:表9に記載の条件下で摩擦係数を測定した。
【0053】
【表9】
すべり速度:20cm/sec
荷 重:200kgf/cm2
ストローク:220mm
サイクル数:100サイクル運転、5分間休止の断続試験を5回行なった。
【0054】
第一摺動部材と第二摺動部材の組合せおよび評価結果について表10〜11に示す。ここで、摩擦係数は静摩擦係数を示す。
【0055】
【表10】
【0056】
【表11】
【0057】
以上の結果から、本発明例の組合せにおいては、静摩擦係数が低く安定していることがわかる。これに対して、比較例の組合せの場合は、安定はしているが静摩擦係数の値が高い。
【0058】
続いて、上記二つの摺動部材を組み合わせた摺動構造を適用したすべり支承装置について説明する。図1は、摺動面が平面であるすべり支承装置を、図2および図3は、摺動面が球面であるすべり支承装置を示す。
【0059】
図1において、すべり支承装置1は、第一摺動部材としての平面部材2と、平面部材2に対して水平方向に摺動自在に当接した第二摺動部材としての対向部材3とを具備している。
【0060】
平面部材2は、鋼等の材料から形成された平面部材本体11と、平面部材本体11の一方の面12に一体的に形成された熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜13とを具備している。潤滑被膜13は、エポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルからなる組成物で構成されている。摺動面となる潤滑被膜13の露出表面(上面)14は、平坦に形成されている。
【0061】
対向部材3は、鋼等の材料から形成され、その下面に凹部21を有する対向部材本体22と、対向部材3の凹部21に一部が埋め込まれて取り付けられた合成樹脂からなる摺動体23とを具備している。摺動面となる摺動体23の露出表面(下面)24は、平坦に形成されている。
【0062】
以上のように構成されたすべり支承装置1は、上部構造物31側に対向部材3が配されて、例えば上部構造物31にボルト等により固定され、平面部材2が地盤側に配されて、地盤側の基礎32にアンカーボルト等により固定され使用される。また、すべり支承装置1は、積層ゴムや水平ばね等の原点復帰手段と併置して使用される。そして、地震等により地盤側の基礎32に水平方向の振動が生じると、平面部材2と対向部材3との露出表面14及び24間にすべり変位が生じ、これによって地盤側の基礎32の水平方向の振動の上部構造物31への伝達が阻止され、上部構造物31を地震振動から保護する。
【0063】
しかも、すべり支承装置1では、平面部材2の摺動面をエポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルからなる組成物で構成される熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜13で形成し、これと摺動自在に当接する対向部材3の摺動体23を合成樹脂で形成したので、平面部材2と対向部材3との間のすべり変位がほとんど抵抗なしに行なわれるために、中規模の地震振動はもちろんのこと、比較的加速度の小さい小規模の地震振動においても、基礎32の水平方向の振動の上部構造物31への伝達を阻止することができ、上部構造物31を地震振動から効果的に保護することができる。
【0064】
図2のすべり支承装置41は、第一摺動部材としてのそれぞれ対向して配された凹球面部材42及び43と、凹球面部材42及び43の間に配置されて、凹球面部材42及び43のそれぞれに対して摺動自在に当接した第二摺動部材としての介在部材44とを具備している。
【0065】
凹球面部材42は、鋼等の材料から形成された凹球面部材本体51と、凹球面部材本体51の凹球面52に一体的に形成された熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜53とを具備している。潤滑被膜53は、エポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルからなる組成物で構成されている。摺動面となる潤滑被膜53の露出表面(上面)54は、曲率半径R1を有した球面の一部として形成されている。
【0066】
凹球面部材43は、鋼等の材料から形成された凹球面部材本体61と、凹球面部材本体61の凹球面62に一体的に形成された熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜63とを具備している。凹球面部材本体61は、基部64と、基部64の下面に一体形成された円柱状若しくは角柱状等の垂下部65とを具備しており、垂下部65の下面に凹球面62が形成されている。潤滑被膜63は、エポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルからなる組成物で構成されている。摺動面となる潤滑被膜63の露出表面(下面)66は、曲率半径R2(<R1)を有した球面の一部として形成されている。
【0067】
介在部材44は、鋼等の材料から半球状に形成された介在部材本体71と、介在部材本体71の全表面を覆って、介在部材本体71に被着された合成樹脂からなる摺動層72とを具備している。摺動層72の下方露出面(下面)73は、曲率半径R1を有した球面の一部として形成されて、露出表面54に摺動自在に接触しており、摺動層72の上方露出面(上面)74は、曲率半径R2を有した球面の一部として形成されて、露出表面66に摺動自在に接触している。
【0068】
以上のように構成されたすべり支承装置41は、上部構造物31側に凹球面部材43が配されて、例えば当該上部構造物31にボルト等により固定され、凹球面部材42が地盤側に配されて、地盤側の基礎32にアンカーボルト等により固定され使用される。すべり支承装置41は、すべり支承装置1と同様に積層ゴムや水平ばね等の原点復帰手段と併置して使用されてもよいが、原点復帰手段を用いないでそれ自体の原点復帰機能を利用して使用されてもよい。そして、地震等により地盤側の基礎32に水平方向の振動が生じると、凹球面部材42及び43のそれぞれと介在部材44との間にすべり変位が生じ、これによって地盤側の基礎32の水平方向の振動の上部構造物31への伝達が阻止され、上部構造物31を地震振動から保護する。
【0069】
しかも、すべり支承装置41では、凹球面部材42及び43のそれぞれの摺動面をエポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルからなる組成物で構成される熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜53及び63で形成し、これと摺動自在に当接する介在部材44の摺動層72を合成樹脂で形成したので、凹球面部材42及び43のそれぞれと介在部材44との間のすべり変位がほとんど抵抗なしに行なわれるために、すべり支承装置1と同様の効果を発揮させることができる。
【0070】
図3のすべり支承装置81は、第一摺動部材としてのそれぞれ対向して配された凹球面部材82及び83と、凹球面部材82及び83の間に配置されて、凹球面部材82及び83のそれぞれに対して摺動自在に当接した第二摺動部材としての介在部材84とを具備している。
【0071】
凹球面部材82は、鋼等の材料から形成された凹球面部材本体85と、凹球面部材本体85の凹球面86に一体的に形成された熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜87とを具備している。潤滑被膜87は、エポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルからなる組成物で構成されている。摺動面となる潤滑被膜87の露出表面(上面)88は、曲率半径R1を有した球面の一部として形成されている。
【0072】
凹球面部材83は、凹球面部材82と同様に形成されており、鋼等の材料から形成された凹球面部材本体89と、凹球面部材本体89の凹球面90に一体的に形成された熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜91とを具備している。潤滑被膜91は、エポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルからなる組成物で構成されている。摺動面となる潤滑被膜91の露出表面(下面)92は、曲率半径R1を有した球面の一部として形成されている。
【0073】
介在部材84は、鋼等の材料から形成された扁平状の介在部材本体93と、介在部材本体93の下面の凹部94に一部が埋め込まれて取り付けられた合成樹脂からなる摺動体95と、介在部材本体93の上面の凹部96に一部が埋め込まれて取り付けられた合成樹脂からなる摺動体97とを具備している。摺動面となる摺動体95及び97のそれぞれの下方露出表面(下面)98及び上方露出表面(上面)99は、それぞれ曲率半径R1を有した球面の一部として形成されて、対面する露出表面88及び92に摺動自在に接触している。
【0074】
以上のように構成されたすべり支承装置81は、すべり支承装置41と同様に、上部構造物31側に凹球面部材83が配されて、例えば当該上部構造物31にボルト等により固定され、凹球面部材82が地盤側に配されて、地盤側の基礎32にアンカーボルト等により固定され使用される。すべり支承装置81でも、すべり支承装置1と同様に積層ゴムや水平ばね等の原点復帰手段と併置して使用されてもよいが、原点復帰手段を用いないでそれ自体の原点復帰機能を利用して使用されてもよい。そして、地震等により地盤側の基礎32に水平方向の振動が生じると、凹球面部材82及び83のそれぞれと介在部材84との間にすべり変位が生じ、これによって地盤側の基礎32の水平方向の振動の上部構造物31への伝達が阻止され、上部構造物31を地震振動から保護し、すべり支承装置41と同様に、凹球面部材82及び83のそれぞれの摺動面をエポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルからなる組成物で構成される熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜87及び91で形成し、これと摺動自在に当接する介在部材84の摺動体95及び97を合成樹脂で形成したので、凹球面部材82及び83のそれぞれと介在部材84との間のすべり変位がほとんど抵抗なしに行なわれるために、すべり支承装置1及び41と同様の効果を発揮させることができる。
【0075】
尚、介在部材44及び84の全体を、合成樹脂からなる摺動体で形成してもよい。また、すべり支承装置41及び81の摺動面を球面の一部として形成したが、これに代えて、円筒面の一部として形成してもよく、要は、断面が円弧状になる面として摺動面が形成されていればよい。更に、前記実施例に代えて、平面部材2、凹球面部材42及び43並びに凹球面部材82及び83に、合成樹脂からなる摺動体を具備せしめて、対向部材3並びに介在部材44及び84に、熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜を具備せしめて構成してもよい。
【0076】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、安定かつ低い静摩擦係数および動摩擦係数を有するとともに、すべりを必要とするときに、的確かつ効果的な低摩擦すべりが行われる、二つの摺動部材を組み合わせた摺動構造および該摺動構造を用いたすべり支承装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の摺動構造を適用したすべり支承装置の好ましい一実施例の断面図である。
【図2】本発明の摺動構造を適用したすべり支承装置の好ましい他の実施例の断面図である。
【図3】本発明の摺動構造を適用したすべり支承装置の好ましい更に他の実施例の断面図である。
【符号の説明】
1 すべり支承装置
2 平面部材
3 対向部材
13 潤滑被膜
14 露出表面(上面)
23 摺動体
24 露出表面(下面)
Claims (8)
- 地震時にすべりを発生し免震作用を行なうすべり支承装置であって、摺動面が熱硬化性合成樹脂製の潤滑被膜からなる第一摺動部材と、摺動面が合成樹脂からなる第二摺動部材とを互いに摺動面で摺動接触するように組み合わせてなり、荷重下で常時はすべり作動することがない摺動構造を具備しており、潤滑被膜がエポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルから成る組成物の被膜であり、且つ、前記合成樹脂が潤滑油、グリース、ワックス、黒鉛、二硫化モリブデン、フッ素樹脂、ガラス粉末、ガラス繊維、炭素粉末、炭素繊維およびアラミド繊維の群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする免震作用を行なうすべり支承装置。
- 互いに摺動接触する第一摺動部材と第二摺動部材の摺動面が平面である請求項1に記載の免震作用を行なうすべり支承装置。
- 第一摺動部材は所定の曲率半径を有した凹球面を有しており、第二摺動部材は前記凹球面と同一の曲率半径を有した凸球面を有しており、当該凸球面が前記凹球面に摺動接触する請求項1に記載の免震作用を行なうすべり支承装置。
- エポキシ樹脂と硬化剤との配合重量割合が、エポキシ樹脂のエポキシ当量をEとしたときに、(エポキシ樹脂):(硬化剤)=E:10〜E:300である請求項1から3のいずれか一項に記載の免震作用を行なうすべり支承装置。
- シリコーンオイルの配合重量割合が、エポキシ樹脂と硬化剤との和を100重量部としたとき、2〜20重量部である請求項1から4のいずれか一項に記載の免震作用を行なうすべり支承装置。
- 潤滑被膜を構成する組成物が、エポキシ樹脂、硬化剤およびシリコーンオイルに加えて、さらに、無機および有機充填材粉末を、エポキシ樹脂と硬化剤との和を100重量部としたとき、2〜10重量部含有する請求項1から5のいずれか一項に記載の免震作用を行なうすべり支承装置。
- シリコーンオイルは、ジメチルシリコーンオイルおよびジメチルポリシロキサンのメチル基の一部を、ポリエーテル基、フェニル基、アルキル基、アラルキル基またはフッ素化アルキル基で置換したシリコーンオイルのいずれかから選択される請求項1から6のいずれか一項に記載の免震作用を行なうすべり支承装置。
- シリコーンオイルは、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、両末端にエポキシ基を有するエポキシ変性シリコーンオイル、および側鎖にエポキシ基を有するエポキシ当量が1000を超えるエポキシ変性シリコーンオイルのいずれかから選択される請求項1から6のいずれか一項に記載の免震作用を行なうすべり支承装置。
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