JP4153049B2 - ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの接触水添による1,4−シクロヘキサンジメタノールの製法 - Google Patents

ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの接触水添による1,4−シクロヘキサンジメタノールの製法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、1,4−シクロヘキサンジメタノールの蒸気相連続製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1,4−シクロヘキサンジメタノールは、テレフタール酸との反応により高重合鎖状縮合ポリマーを製造するのに使用され、かつある種のポリエステルやポリエステルアミドの製造における中間体として有用なものである。このような目的のための1,4−シクロヘキサンジメタノールの使用は、たとえばUS−A−2901466に記載されている。この文献は、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートのトランス異性体(315〜320℃)が対応するシス異性体(260〜267℃)よりも高い融点範囲を持っていることを教えている。
【0003】
1,4−シクロヘキサンジメタノール(ヘキサヒドロテレフタリルアルコール)を製造する一つの方法は、US−A−2105664の実施例3に記載されているように、スラリー相反応器中、銅クロマイト触媒の存在下、3,000psia(約206.84バール)の圧力と255℃の温度で実施する、ジエチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート(ジエチルヘキサヒドロテレフタレート)の水素化を含むものであって、収率は、77.5%と言われている。
【0004】
ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート(DMCD)の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)への水素化は、次式(1)で示される:
【化1】
Figure 0004153049
このようにして製造されたCHDMの2種の幾何学異性体は、次のとおりである:
【化2】
Figure 0004153049
【0005】
結果として得られた1,4−シクロヘキサンジメタノール成績体は、異なった融点を有するこれら2種の異性体の混合物である。Menachem Lewisら編、Marcel Decker,Inc.出版、「Fiber Chemistry」9頁に報告されているように、「脂環式エステル(すなわち、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)と脂環式ジオール(すなわち、1,4−シクロヘキサンジメタノール)は、共に2種の異性形、シスとトランスで存在し、それらは結合の開裂なしには相互変換不可能なものである」。更に、それに続いて、「(シス:トランス)比のコントロールは、多くのポリマーや繊維の性質がそれに依存するから、(1,4−シクロヘキサンジメタノールにおいて)重要である」と記載されている。
【0006】
1,4−シクロヘキサンジメタノールのシス異性体は、融点43℃で、トランスは、融点67℃である。より融点の高いトランス異性体は、高融点のポリエステルやポリエステルアミドが望ましいと考えられる場合には、シス異性体よりも好ましい試薬として使用されることが多い。上記の様に、トランス−ポリシクロヘキシルメチルテレフタレートのような典型的なポリエステルのトランス異性体は、シス異性体よりも高い融点を有する。それ故に、例えば、US−A−5124435はポリエステル共重合体を開示しているが、その1,4−シクロヘキサンジメタノール含量は、少なくとも80モル%のトランス異性体含量を有し、高い耐熱性を有する。シス−1,4−シクロヘキサンジメタノールよりもトランス−1,4−シクロヘキサンジメタノールの方が好ましいことについても、US−A−2917549、US−A−4999090およびGB−A−988316に開示がある。
【0007】
ジメチルテレフタレートの複数段階の水素化による1,4−シクロヘキサンジメタノールの液相製造方法は、US−A−3334149に記載されている。これは、パラジウム触媒を使用してジメチルテレフタレートからジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートへの水素化を実施し、次いで液相中で銅クロマイト触媒を使用してこのジエステルを1,4−シクロヘキサンジメタノールへ水素化するものである。該特許明細書の実施例1に記載された方法では、約40ないし50分の滞留時間がその第2段階で使用される。
US−A−3334149に記載された亜クロム酸銅触媒の活性では、長い滞留時間を要する。
【0008】
US−A−3334149に開示された1,4−シクロヘキサンジメタノールの液相製造方法において、1,4−シクロヘキサンジメタノールのトランス:シス異性体の比率は、平衡値に向かう傾向があると思われる。この平衡値については種々の報告があり、約2.57:1(トランス−:シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール)(GB−A−988316における報告)と約3:1(US−A−2917549における報告)の間にある可能性がある。しかしながら、出発物質であるジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートは、一般に商業的には、シス異性体が多いシスおよびトランス異性体の混合物として得られる。このように、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの典型的な商品グレードは、トランス:シス異性体比約0.5:1〜0.6:1である。更に、水添工程中に生成物組成が平衡に近付く速度は、液相中では小さい。従って、従来技術による市販のジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの液相水添においては、1,4−シクロヘキサンジメタノールの適当なトランス:シス異性体平衡比(約2.57:1ないし3:1であると報告されている)に近付く速度は、非常に小さい。従って、工業的な液相法において、操作および触媒の消費の費用に関して反応器の処理量を高めるという条件と、トランス異性体の割合の大きい生成物を得るという条件とが対立する。
【0009】
1,4−シクロヘキサンジメタノールの製造時に好ましさの度合が低いシス−1,4−シクロヘキサンジメタノール異性体が過剰に存在する問題を克服する試みは、シクロヘキサンジメタノールのシス異性体からそのトランス異性体への異性化に焦点が向けられて来た。
【0010】
US−A−2917549は、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノールをリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウムのような低原子量金属のアルコキシドの存在下、少なくとも200℃の温度に加熱することから成る、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノールのトランス−1,4−シクロヘキサンジメタノールへの異性化方法を開示している。しかしながら、US−A−2917549の方法は、当初のシス/トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール水素化物を水素化ゾーンから回収し、窒素雰囲気中、金属アルコキシド触媒の存在下、200℃を越える温度で処理する必要がある。US−A−2917549に教示された方法を実施するためのプラントの建設費および運転費はかなりの高額とになるものと思われる。このようなプラントの他の不利な点は、異性化ゾーンにおける触媒としての金属アルコキシドの使用に伴う危険性である。このような触媒は、銅/クロムまたはラネーニッケル触媒のような水素化触媒を使用する典型的な水素化条件下では進行しないと報告されている異性化を、US−A−2917549の実施例11の教示に従って実施するために必要である。更に、金属アルコキシド触媒による製品の汚染を防ぐための工程が必要である。
【0011】
US−A−4999090は、アルカリ金属水酸化物またはアルコキシドの存在下150〜200℃の温度と1〜50mmHg(1.33〜66.5ミリバール)の圧力で蒸留することによりシス−1,4−シクロヘキサンジメタノールを異性化する方法を開示している。この方法は、US−A−2917549の方法に非常に類似した欠点を持っている。
【0012】
GB−A−988316は、ジメチルヘキサヒドロテレフタレート(すなわちジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)のシスおよびトランス異性体の混合物を銅/亜鉛触媒の存在下、高温高圧で水素化する、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノールの製造法を教示する。トランス−1,4−ジメチロールシクロヘキサン(すなわちトランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール)を反応成績体から結晶化によって分離し、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノールが富化された残留物を水素化ゾーンにリサイクルし、異性化によりシス/トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール混合物を形成させる。リサイクルを繰り返し実施することにより、トランス異性体を実質的過剰に含む1,4−シクロヘキサンジメタノール製品が得られる。しかしながら、GB−A−988316の方法は、より好ましくはリサイクルしたシス異性体富化物を新しいジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給物と共に水素化ゾーンに再導入するような条件下で運転される。シス異性体を水素化ゾーンへリサイクルする効果は、主として水素化と異性化の触媒作用を持っている銅/亜鉛触媒の二重機能の結果である。熱動力学的原理から予期されるように、異性化作用はシス異性体を優位に含む混合物を水素化ゾーンにリサイクルするとき、最も効果的である。しかしながら、シス異性体をこのようにリサイクルすることは、新しい問題、すなわち1−メチル−4−ヒドロキシメチルシクロヘキサンのような好ましくない副生物が生成することが知られており、このものは苛酷な条件下に水素化反応を実施した場合に形成される。このような副生物の生成を抑制するために、水素化ゾーンはGB−A−988316の教示(例えば2頁55〜79行参照)に従い、「比較的温和な条件」下に運転するのがよい。しかし、そのような温和な条件は、水素化ゾーンのワンパスについてジメチルヘキサヒドロテレフタレート(ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)の相当量が未変化のまま残るため、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換率が低下する。上記「比較的温和な条件」とは、GB−A−988316の2頁26〜32行の記載によれば、少なくとも200℃、好ましくは240〜300℃の温度と200〜300気圧(202.65〜303.98バール)の圧力を意味する。これら高い温度での高圧の使用は、このように極端な圧力に耐えるように構成された特別な合金の厚い壁とフランジを有する反応器を必要とする他に、危険である。従ってGB−A−988316の教示と同じような高圧で運転するプラントを建設することは高額となる。更に、プラントを200気圧(202.65バール)またはそれ以上で操作するのは極めて危険であり、プラントの建設費のみならず、運転費の点でも、非常に高額なものとなる。この建設費の本質的な部分は、高圧常套商業規模の水素化プラントを運転する場合に注意されるべき苛酷な安全予防措置に関連するものである。気体流をこのような高圧に圧縮し、プラント内を循環させることもまた、高い費用を必要とする。
【0013】
「気体相」を使用している文献(GB−A−988316の1頁84行参照)もあるが、温度300℃でさえ、200〜300気圧(202.65〜303.98バール)の圧力で、その実施例に記載された水素:エステル比において、シスおよびトランス−ジメチルヘキサヒドロテレフタレートのいずれもが液相にあるものと思われる。このように、GB−A−988316の各実施例では、液相条件が使用されている。ジメチルヘキサヒドロテレフタレート(すなわち1,4−ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレート)およびリサイクル方法において使用され得るようなメタノールを含有する供給混合物を使用している実施例4では、水素化成績体中ジオールで存在する異性体は、トランス異性体約72%およびシス異性体28%、すなわちトランス:シス比=約2.57:1の平衡混合物として現されている。
【0014】
気相中におけるある種のエステルおよびジエステルの水素化は知られている。例えば、気体相でエステルの水素化を行うために還元酸化銅/酸化亜鉛触媒を使用することが提案されている。例えば、GB−B−2116552およびWO−A−90/8121参照。
【0015】
更に、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、またはこれらの2種またはそれ以上の混合物のジメチルまたはジエチルエステルのようなジカルボン酸のエステルの触媒的水素化によるブタン−1,4−ジオールなどのジオールの製造が知られている。このような方法は、例えばGB−A−1454440、GB−A−1464263、DE−A−2719867、US−A−4032458およびUS−A−4172961に記載されている。
【0016】
ジエステル、代表的にはマレイン酸、フマル酸、コハク酸、およびそれらの2種またはそれ以上の混合物から選択されるC4ジカルボン酸のジアルキルエステルの気相水素化によるブタン1,4−ジオールの製造が提案されている。このような方法において、ジエステルはジメチルまたはジエチルマレエート、フマレートまたはサクシネートのようなジ−C1ないしC4アルキルエステルが都合良い。このような方法は、更にUS−A−4584419、EP−A−0143634、WO−A−86/03189、WO−A−86/07358およびWO−A−88/00937にもその記載を見ることができる。
【0017】
上記の気相方法の全てにおいて、エステルまたはジエステルはすべてジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートや1,4−シクロヘキサンジメタノールの蒸気圧と比較して高い蒸気圧を持つ。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ジアルキル(例えばジメチル)シクロヘキサンジカルボキシレートの水添によりシクロヘキサンジメタノールを連続的に蒸気相で製造する方法であって、比較的低い圧力下に実質的に安全性および経済性を高めて行うことのできる方法を提供することである。本発明の他の目的は、ジ−(C1−C4アルキル)シクロヘキサンジカルボキシレート(例えばジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)の水添により1,4−シクロヘキサンジメタノールを連続的に蒸気相で製造する方法であって、従来の水添方法によって達成されるよりも高いトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物を、水添工程によって直接得られる方法を提供することである。従って、本発明の更なる目的は、極端な水添条件と、別の異性化工程とを伴う前記のような従来の方法に要する高い装置および操作費用を回避することである。本発明は、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのシスおよびトランス異性体混合物を、1,4−シクロヘキサンジメタノールのシス異性体よりもトランス異性体の割合の大きいシスおよびトランス異性体混合物に、高い選択性および高い変換率で短時間で変換する方法を提供することをも目的とする。本発明の他の目的は、1,4−シクロヘキサンジメタノールを蒸気相で連続的に製造する方法であって、与えられたジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給原料から特定の所望のトランス:シス異性体比(任意に変化し得る)を有する生成物を製造することができる方法を提供することである。本発明は更に他の目的は、種々のトランス:シス異性体比を有するジメチルシクロヘキサンジカルボキシレート供給原料から、所望のトランス:シス異性体比を有するシクロヘキサンジメタノール生成物を蒸気相で連続的に製造する方法を提供することである。本発明の更なる目的は、1,4−シクロヘキサンジメタノールの製法であって、長時間の間に水添触媒は活性を低下し得るが、実質的に一定の所望のトランス:シス比を有する生成物が生成し続ける長時間にわたって行うことのできる方法を提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は、エステル水添触媒の存在下にジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを接触水添することによって、所望または所定のトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを連続的に蒸気相で製造する方法であって、水添触媒の活性低下を伴いながら長時間にわたって行うことができ、下記工程を含んで成る方法を提供する:
(a)エステルの水添を触媒し得る顆粒状水添触媒を入れた水添域を設け;
(b)予め選択した供給温度、供給圧力、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度、および水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比において、顆粒状水添触媒上を通過するジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートと水素含有ガスとの反応混合物中の、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1,4−シクロヘキサンジメタノールへの変換の程度を測定することによって、顆粒状水添触媒の基準活性(RA)を定め;
(c)所望のトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを製造する顆粒状水添触媒の基準活性に応じて、予め選択した供給温度および供給圧力で反応混合物が顆粒状水添触媒と接触する有効滞留時間(ERT)を定め;
(d)予め選択した水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比で、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートと水素含有ガスとを含有する蒸気供給流を形成し;
(e)供給流の露点よりも高い約150〜350℃の実質的に一定の温度と、約150〜2000psia(約10.34〜137.90バール)の範囲の実質的に一定の圧力の下、所望のトランス:シス異性体比の1,4−シクロヘキサンジメタノールを生成する触媒と接触する供給流の実滞留時間(ART)に相当する速度で、蒸気供給流を水添域に供給し;
(f)1,4−シクロヘキサンジメタノールを含有する生成物流を水添域から回収し;
(g)供給温度、供給圧力、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度、および水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比の実際の条件下、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1,4−シクロヘキサンジメタノールへの変換の程度を測定することによって、顆粒状水添触媒の実活性(AA)を経時的にモニターし;
(h)(i)ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度および(ii)水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比から選択する、水添域への蒸気供給流供給条件の少なくとも1種を、供給流を露点よりも高温に保ちながら調節することによって、関係式:ART=(ERT × RA)/AAに従い、所望のトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを与える有効滞留時間(ERT)に相当する、触媒と接触する蒸気供給流の実滞留時間(ART)を求める。
【0020】
本発明において、「滞留時間」とは、蒸気供給流が、水添域への供給温度および供給圧力で、触媒の入った反応器の空間を通過するのに要する時間を意味する。
【0021】
基準活性(RA)を測定する際の予め選択した供給条件は、作業者の判断で選択する。この目的のために、触媒寿命の初期に適用する供給条件と同等の供給条件を用いることが好都合である。
【0022】
導入した触媒の活性は実際、いつの時点でも同じであるということはない。しかし、適当な工程条件の選択に際して知りたいのは、触媒の全体的な活性である。触媒活性の便利な評価基準は、触媒上を通過する反応混合物中におけるジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換の程度である。水添域中、実質的に一定の反応条件下において変換の程度が変化すれば、触媒活性が変化したことがわかる。すなわち例えば、ある条件下のジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換の程度が、時間の経過と共に95%から90%に低下し、条件は不変であったとすると、本発明において触媒活性は半分になったと言うことができる。基準活性においてある条件下の変換率が99%で、その後97%に低下したとすると、未変換のジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの割合が3倍となったので、触媒の基準活性1.0に対して、後の実活性は0.33となる。
【0023】
ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートは好ましくは、ジ−(C1−C4アルキル)1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、例えばジメチル、ジエチル、ジ−n−もしくは−イソ−プロピル、またはジ−n−、−イソ−もしくは−s−ブチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートであり、より好ましくはジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートである。
【0024】
本発明は、与えられた温度および圧力において、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水添率と、1,4−シクロヘキサンジメタノールの異性化率とが実質的に同じであり、それ故、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの特定の変換率において、特定のトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物を得ることができるという発見に基づく。本発明の利点は、(1)触媒寿命を通じて1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比を一定に保つことができ、(2)1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比を広い範囲(例えば約1:1ないし3.84:1)で変化することができるという点を包含する。すなわち、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1,4−シクロヘキサンジメタノールへの変換が、適用する蒸気相水添条件下に非常に短時間で起こり、実質的に完全な変換に数秒程度しか要しないのみならず、水添域通過中に起こる1,4−シクロヘキサンジメタノールの異性化が平衡に近付くのも同様に短時間の間である。2種類の異なる反応を伴うのであるから、そのようなことは驚くべき発見である。従って、一定温度での平衡トランス:シス1,4−シクロヘキサンジメタノール比への接近と、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1,4−シクロヘキサンジメタノールへの実質的に完全な変換とを、水添域中の反応混合物の滞留時間約1分間まで、通例約2〜15秒間で達成することができる。この滞留時間は、従来の液相水添方法における長い滞留時間(例えば米国特許第3334149号の実施例1の滞留時間40〜50分間)とは顕著に対照的である。
【0025】
本発明の方法は蒸気供給条件を用いて用い、工程(e)において、供給流を実質的に液体不含有の蒸気の形態で水添域に供給する。従って、供給流は、混合物の露点よりも高い供給温度で水添域に供給する。本発明の方法は、水添域全体が蒸気相条件となるように行い得る。しかし、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを出発物質として使用する場合は、生成物である1,4−シクロヘキサンジメタノールは、出発物質ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートよりも揮発性が小さい。従ってこの場合、特に供給流温度が露点に近ければ、1,4−シクロヘキサンジメタノール含量の高い液体の凝縮が触媒上で起こる可能性がある。触媒上の1,4−シクロヘキサンジメタノール高含有液体のこのような凝縮は、本発明の方法に有害ではない。なぜなら、1,4−シクロヘキサンジメタノール高含有液体中に存在し得るジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水添熱は、1,4−シクロヘキサンジメタノールの放熱効果によって得られるからである。しかし、蒸気相供給条件の利点を実現しようとするならば、触媒床の入口端において供給流の温度は露点よりも高くなければならない。本発明の方法において蒸気相供給条件を用いると、液相法と比較して通例小さい圧力を採用し得るという利点がある。このことは通例、装置の建造費用だけでなく、作動費用の点でも、有意義および有益である。
【0026】
ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート含量の高い液滴と触媒とが接触すると、エステル水添反応の発熱性の故に、触媒の局部的な過熱および損傷が起こり得るので、そのようなことを避けるよう注意しなければならない。従来の液相水添法においては、触媒を液体でフラッドし、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを不活性希釈剤(好ましくは1,4−シクロヘキサンジメタノール)と混合して水添域に供給することによって、前記のような危険性を排除していた。
【0027】
水添域において、水添可能な材料は、前記式(1)に従って非常に急速に水添されて、1,4−シクロヘキサンジメタノールを生成する。それに加えて、用いる水添条件下に、急速な異性化反応も起こる。従って、シス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート含量の高い供給原料からは、生成する1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物は、トランス−ジエステル出発物質から生成する生成物よりも、トランス異性体含量が高い傾向がある。高温の反応混合物を適当な速度で水添触媒上に通すと、反応生成物混合物中の1,4−シクロヘキサンジメタノールのトランス:シス異性体比が、蒸気相水添条件による平衡値に近付く。ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水添の場合、平衡比は3.84:1程度であることがわかった。この比は、液相反応条件下にシス成分含量の高いジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを供給原料として使用した場合に達成されると報告されている比2.57:1ないし3:1よりも明らかに大きい。
【0028】
水添し得る材料が実質的に純粋なトランス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから成る場合は、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノールがいくらか生成し得る。この場合、得られる1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比は約3.84:1よりも大きくなり得るが、水添域中の滞留時間が増すにつれ、平衡トランス:シス異性体比(すなわち約3.84:1)に近付き得る。
【0029】
水添域に供給するジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートは、実質的に純粋なシス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、トランス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、またはシスおよびトランス異性体の任意の比の混合物から成り得る。そのような混合物中のトランス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートとシス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートとのモル比は、約0.01:1ないし1000:1、好ましくは約0.05:1ないし1:1の範囲であってよい。
【0030】
ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートは、高純度ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、工業用ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、シス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、またはトランス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートとして市販されている。本発明の方法に好ましい供給原料は、工業用ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートである。高純度、シスおよびトランス級のジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートは、その製造において更なる精製工程を要するからである。市販のジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの通常のサンプル中、トランス:シス異性体比は約0.5:1ないし0.6:1である。
【0031】
本発明の開示に従って操作する装置を設計する際、約3.84:1の平衡値に所望の程度近付いたトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物を所望の生成率で得るために使用する触媒量を決定する必要がある。この量は通例、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物の所望のトランス:シス異性体比が、触媒活性の最も大きい工程初期だけでなく、触媒有効寿命の末期にも達成されるように、所望の変換率に充分な量を選択する。個別に、連続して、または並行して操作し得る2個またはそれ以上の水添域に水添触媒を配置することによって、操作の自由度が高められる。適当な触媒量の選択において、装置設計者は、ガス供給圧縮機、ガス再循環圧縮機、および関連するパイプの大きさも考慮しなければならない。
【0032】
本発明方法で用いられる水素含有気体は、新鮮な補給(make-up)気体または補給気体とリサイクル(recycle)気体の混合物を含むことが出来る。補給気体は、水素とCOやCO2のような任意の少量成分とアルゴン、窒素またはメタンのような不活性ガスの混合物であって、少なくとも70モル%の水素を含有するものであってよい。補給気体は、好ましくは少なくとも90モル%、更に好ましくは少なくとも97モル%の水素を含有していてもよい。補給気体は、適当な方法、例えば天然ガスの部分的酸化または蒸気改質、続いて水性ガス移動反応およびCO2吸収、続いて必要に応じ、酸化炭素の残留痕跡の少なくとも幾分かのメタン化により生成することが出来る。高純度水素補給気体が必要ならば、圧力旋回吸収(pressure swing absorption)を用いることも出来る。気体リサイクルを利用する場合、リサイクル気体は、通常、水素化ゾーンの下流の成績体回収段階で十分に凝縮されなかった水素化反応成績体の1種またはそれ以上を少量含有する。例えば、気体リサイクルを用いる場合、気体リサイクル流は、通常、微量のアルカノール(例えば、メタノール)を含有するであろう。
【0033】
本発明の方法は、約150℃以上で、約350℃以下の供給温度で行う。供給温度は、好ましくは約150〜300℃、最も好ましくは約200〜260℃の範囲である。
【0034】
供給圧力は、約150〜2000psia(約10.34〜137.90バール)の範囲である。供給圧力450〜1000psia(約31.03〜68.95バール)とすると、蒸気相供給条件の利点を好ましく実現することができる。
【0035】
本発明の方法においては、ジアルキル(例えばジメチル)1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートが、触媒床または各触媒床の入口端において蒸気相として存在するように、蒸気供給流を露点よりも高い温度とする必要がある。すなわち、選択した工程条件下に、蒸気供給混合物の温度が触媒床または各触媒床の入口端において工程圧力下に常に露点を越えるように、蒸気供給混合物の組成を調節しなければならない。「露点」とは、ガスおよび蒸気の混合物が液体の滴または膜を生じ始める温度を意味する。この露点における液体は通例、蒸気相の全ての凝縮し得る成分と、溶解したガスとを、通常の気/液基準を満足する濃度で含有し得る。通例、水添域への蒸気供給混合物の供給温度は、工程圧力における露点よりも約5〜10℃またはそれ以上高い。
【0036】
本発明の方法に使用する蒸気混合物を好都合に形成するには、液体のジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートまたはジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート溶液を高温の水素含有ガスの蒸気中に噴霧して、飽和または部分飽和蒸気混合物を形成する。液体ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートまたはジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート溶液に高温の水素含有ガスを通気することによっても、蒸気混合物を得ることができる。飽和蒸気混合物を形成したら、触媒との接触前に部分飽和蒸気混合物を形成するように、更に加熱するか、または更なる高温ガスで希釈するべきである。
【0037】
本発明の方法においては、水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比(水添および異性化反応の推進力の一つである)は、他の工程パラメータ、例えば供給温度、供給圧力、および水添触媒活性に応じて、広い範囲内で変化し得る。
【0038】
触媒床または各触媒床の入口端において、蒸気供給流を工程圧力下に露点よりも高温に保つためには、水素含有ガス:ジアルキル(例えばジメチル)1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比を、少なくとも約10:1ないし8000:1とすることが望ましく、約200:2ないし1000:1とすることが好ましい。しかし、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートをジエステル出発物質として使用する場合に、1,4−シクロヘキサンジメタノール含量の高い液体の凝縮を避けようとして(1,4−シクロヘキサンジメタノールは、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートよりも揮発性が小さい)、触媒床または各触媒床の全ての部分で接触する蒸気混合物を露点よりも極端に高い温度にしなければならないわけではない。
【0039】
本発明の方法は供給流を蒸気相として行うが、工程(e)の水添域へのジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの供給速度は、水添触媒に通す空間速度として表し、その空間速度は液空間速度として表すことが好都合である。よって、水素化可能物質の水素化触媒を通過する均等(equivalent)液体毎時空間速度は、好ましくは約0.05〜4.0h-1である。言い換えると、液体水素化可能物質を、触媒の単位容量当たり、毎時水素化可能物質の単位容量約0.05〜4.0に等しい速度(即ち、触媒m3当たり約0.05〜4.0m3-1)で蒸気化ゾーンに供給するのが好ましい。更に具体的には、液体毎時空間速度は、約0.1〜1.0h-1である。
【0040】
水添触媒と接触する反応混合物の実滞留時間は、水添域へのジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの供給速度、水素含有ガス:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比、水添域の触媒量、および水添域の温度と圧力から容易に算出することができる。装置が、気化域の下流に連続または並行して連結された2個またはそれ以上の水添域を有する場合には、場合に応じて使用すべき域の数を選択することによって触媒の有効量を容易に変化することができる。
【0041】
与えられたジアルキル(例えばジメチル)1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給原料から、所望のトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物を製造するために必要な実滞留時間は、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度、水素含有ガス:ジアルキル(例えばジメチル)1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比、および触媒活性のような多数の因子によって異なる。触媒は工業用装置内で時間の経過と共に活性を低下する傾向にあるが、その低下速度は、(何箇月も測定するならば大きいが)比較的小さい。すなわち、触媒活性の変化が顕著になるまでの時間よりは充分短い時間にわたって実験的に、最も重要な四つの供給条件(すなわち供給温度、供給圧力、供給速度、および水素含有ガス:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比)を変化することによる効果を、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比に及ぼすことが可能である。
【0042】
基準時の触媒活性、すなわち基準活性(RA)(便宜的に1.0とする)は、実験室用または工業用装置内で、既知量の触媒を用いて標準的な任意の工程条件下に、水素含有ガスと混合した蒸気供給流としての供給原料を通して、ジアルキル(例えばジメチル)1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換の程度を測定することによって、容易に定めることができる。後の任意の時点の触媒の実活性(AA)(便宜的に、基準活性(AA)に対して小さい数で表す(例えば0.89のように))は、同じ工程条件および触媒を用いて、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1,4−シクロヘキサンジメタノールへの変換の程度を再測定することによって求めることができる。そのようなデータから一連のデータを得ることができ、それにより、触媒の基準活性を測定した時の予め選択した条件または標準的な条件に戻る必要はなく、その場の条件下に触媒の実活性を測定することが可能となる。
【0043】
上記のように測定する触媒の実活性は、長時間の水添工程の間に低下するので、関係式ART=(ERT × RA)/AAに従って与えられた有効滞留時間(ERT)を保つために実滞留時間(ART)を延長する必要のあることは明白である。
【0044】
トランス:シス異性体比が約3.84:1よりも小さい(例えば約0.5:1ないし0.6:1の)ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給原料を用いると、有効滞留時間を変化するように条件を変化することによって、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比を、広い範囲内(例えば約1:1ないし3.84:1)で所望の値に変化し得ることが、実験により更にわかった。トランス:シス異性体比が約3.84:1よりも大きいジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給原料を使用する場合(例えば、トランス−ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートを供給原料として使用する場合)には、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比は約3.84:1よりも大きくなり得る。本発明を利用して、当業者は、与えられた触媒の寿命を通じて触媒活性の低下にかかわらず1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物の所定のトランス:シス異性体比を保つこと、またはジエステル供給原料の異性体含量の変化にかかわらず生成物の異性体比を保つことができる。また、所望の生成物組成の変化に応じて生成物の異性体比を変化することも可能である。
【0045】
ある特定の供給原料(例えばシス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)から所望のトランス:シス異性体比の1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物を製造するために適当な有効滞留時間は、別の供給原料(例えばトランス−ジエステル)を用いた場合と必ずしも同じではないことが理解されるであろう。従って、あるトランス:シス異性体比の生成物を製造するのに有効滞留時間と有効工程条件とのどのような組み合わせが必要であるかを知るために、個々の供給原料に対して1種またはそれ以上の実験を行う必要があり得る。そのような有効工程条件は通例、本発明の方法の工程(d)および(e)において適用することが望ましい供給温度、供給圧力、供給速度、および水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比の範囲から選択する条件である。あるトランス:シス異性体比の供給原料に対して適当な工程条件を定めてしまえば、異性体比がわずかしか異なっていない新たな供給原料を用いる場合に、わずか1種または少数の試験を行いさえすれば、その新たな供給原料を用いて所望の異性体比をもたらす所望の新たな有効滞留時間を達成するためには、工程条件(先の供給原料に対し適当なもの)にどのような変化を加える必要があるかを充分な精度で知ることができるであろう。一方、新たなジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給原料のトランス:シス異性体比が、先の供給原料の異性体比と著しく相異する場合には、新たな有効滞留時間を決定するためのデータを得るために、より多くの実験を行う必要があり得る。
【0046】
触媒活性が低下すると、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水添速度を改善するために供給温度および/または供給圧力を調節し得ることは、当業者に理解される。水添域への供給温度および/または供給圧力を増す場合、異なる有効滞留時間(ERT)が必要となることを除いては、同じ関係式を用いてトランス:シス異性体比を調節することが可能である。この新しい有効滞留時間(ERT)は、生成物のトランス:シス異性体比をモニターし、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物の所望のトランス:シス異性体比を達成するために必要に応じて実滞留時間(ART)を調節することによって容易に定めることができる。
【0047】
触媒活性が時間の経過と共に変化すると、有効滞留時間を変化し、ジアルキル(例えばジメチル)1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル変換率を実質的に一定値に保つために、温度を変えることなく供給速度を変えることが可能である。このように、供給速度を変化することによって、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比を実質的に所望の一定値に保つことができる。
【0048】
供給流温度とその露点との温度差を一定に保つための別の手法は、水添域への供給温度を高め、水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比を低下することである。すなわち例えば、供給流の供給温度を高め(他の条件が不変であれば、露点とそれを越える供給流温度との温度差が大きくなる)、同時に水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比を低下する(他の条件が不変であれば、露点とそれを越える供給流温度との温度差が小さくなる)ことによって、露点と供給温度との差を有効に一定に保つことが可能である。水添域への供給温度を変えると、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物の所望のトランス:シス異性体比を保つために新たな有効滞留時間が必要となることを、当業者は理解するであろう。
【0049】
時間が経過すると、触媒活性は低下する傾向にある。しかし、適当な温度および圧力条件下に実質的にジアルキル(例えばジメチル)1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを含有しない水素含有ガス流で、部分的に失活した水添触媒を処理することによって、触媒を再生し得ることが実験によりわかった。そのような手法を製造工程中に用いれば、実活性(AA)を再び高めることができ、そのような再生の後には、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物の所望のトランス:シス異性体比を達成するのに必要な有効滞留時間と所望のジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート変換率とを再達成するために再生処理前よりも供給速度を高め、および/または滞留時間を短縮する必要があり得る。
【0050】
特に好ましい方法においては、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートとしてシス異性体含量の高い異性体混合物を使用し、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比が約2:1ないし3.84:1、より好ましくは約2.6:1ないし3.84:1となるように工程条件を選択する。すなわち、本発明の方法により、シス異性体含量の高い供給原料から、トランス:シス異性体比約2:1ないし3.84:1(例えば約2.6:1ないし2.7:1)の1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物を、一工程で容易に製造することができる。生成物のトランス:シス異性体比は、少なくとも約2.6:1であることが好ましい。本発明により、トランス:シス異性体比約3.1:1ないし3.84:1(例えば約3.2:1ないし3.7:1)の1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物を一工程で製造することが可能である。より大きいトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物は、トランス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート出発物質から得ることができる。
【0051】
本発明の方法の蒸気相供給条件では、液相条件下に報告されている通常の平衡化よりも大きいトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物混合物が、シス成分含量の高いジエステル供給原料から得られるということは、驚くべきことである。すなわち、シス成分含量の高いジエステル供給原料から液相条件下に製造する1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物の通常のトランス:シス異性体平衡化は、好ましい条件下に約3:1であると報告されているが、エステル(例えばジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)を常に蒸気相として供給する本発明においては、トランス:シス異性体比が約1:1よりも小さいジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給原料から、トランス:シス異性体比3.84:1もの1,4−シクロヘキサンジメタノールを製造することができる。
【0052】
従来技術においては、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート(ジメチルヘキサヒドロテレフタレート)の水添により、多量の副生成物が生成することが明らかになっている。すなわち、英国特許第988316号には、1−メチル−4−ヒドロキシメチルシクロヘキサンのような望ましくない副生成物の生成によって起こる問題が記載されている。本発明の方法においては驚くべきことに、大過剰の水素が存在し、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの比較的低い蒸気圧に対して水素分圧が非常に高いにもかかわらず、反応が短時間で進行してジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから所望の生成物(すなわち1,4−シクロヘキサンジメタノール)への変換率が非常に高いだけでなく、その生成物の選択性が非常に高く、それ故副生成物の収率が非常に低いということがわかった。すなわち、好ましい条件下に、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1,4−シクロヘキサンジメタノールへの変換率は98モル%またはそれ以上にもなり得、1,4−シクロヘキサンジメタノールの選択率も96モル%を越え得る。更に、適当な反応条件下に、トランス:シス異性体比1:1未満のエステル出発物質(例えばジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)を、トランス:シス異性体比が1:1よりも大きく、通例約2.6:1ないし3.84:1(従来技術に開示されている最大の平衡トランス:シス異性体比よりもはるかに大きい値である)であるシクロヘキサンジメタノール生成物に一工程で変換し得ることもわかったが、これも驚くべきことである。更に驚くべきことに、この変換は比較的低い温度および圧力で達成できることがわかった。
【0053】
工業用装置内では、不均一エステル水添触媒を入れた少なくとも二つの水添域を並行して接続することが好ましい。それらの域にはそれぞれ、蒸気供給原料混合物の供給を止めることができる。従って、孤立した域には、他の域とは実質的に異なる条件を適用することができ、例えば、孤立した域の中の触媒を再生または交換する一方、他の域では本発明の方法を続けることができる。このことは、国際出願公開91/01961号に記載の条件下にも行うことができる。その場合、並行に接続した二つの水添反応器を使用する。新しい触媒を用いての操作の最初の相においては反応器1個のみを使用し、他方の反応器には触媒と水素を入れて待機させておく。時間が経過して触媒活性が幾分低下したら、第2の反応器を使用し、その間に第1の反応器の準備を整える。更に時間の経過後、触媒全部を交換する時まで両方の反応器を並行使用する。
二つまたはそれ以上の水添域を連続して接続すること、および所望により一つまたはそれ以上の水添域を迂回して使用中の触媒量を任意に減らすことも可能である。
【0054】
本発明の方法に使用する顆粒状触媒は、エステルを水添または水素化分解して対応するアルコールまたはアルコール混合物とすることができるいずれの触媒であってもよい。触媒は、ペレット、リングまたはサドルのようないずれの適当な形状に成形してもよい。
【0055】
通常のエステル水添触媒は、銅含有触媒および第VIII族金属含有触媒を包含する。適当な銅含有触媒の例には、銅/アルミナ触媒、還元酸化銅/酸化亜鉛触媒(促進剤要または不要)、マンガン促進銅触媒、および還元亜クロム酸銅触媒があり、適当な第VIII族金属含有触媒には、プラチナ触媒およびパラジウム触媒がある。適当な酸化銅/酸化亜鉛触媒前駆体としては、CuO/ZnO混合物を含んでおり、Cu:Zn重量比が、約0.4:1〜2:1であるものが含まれる。例として、DRD 92/71と呼ばれる触媒前駆体がある。促進化酸化銅/酸化亜鉛前駆体は、CuO/ZnO混合物を含んでおり、そのCu:Zn重量比が、約0.4:1〜2:1の範囲のものであり、約0.1〜15重量%のバリウム、マンガンまたはバリウムとマンガンの混合物により促進化される。このように促進化CuO/ZnO混合物には、DRD 92/92の呼称で入手可能なMn−促進化CuO/ZnO前駆体がある。適切な銅クロマイト触媒前駆体には、約0.1:1〜4:1、好ましくは約0.5:1〜4:1の範囲のCu:Cr重量比を持つものが含まれる。この型の触媒前駆体は、DRD 89/21またはPG 85/1なる呼称で入手可能である。促進化銅クロマイト前駆体は、約0.1:1〜4:1、好ましくは約0.5:1〜4:1の範囲のCu:Cr重量比を有するものが含まれ、約0.1〜15重量%のバリウム、マンガンまたはバリウムとマンガンの混合物により反応促進される。マンガン促進化銅触媒前駆体は、典型的には、約2:1〜10:1のCu:Mn重量比を有しており、通常、約2:1〜4:1のCu:Al重量比となるようにアルミナ支持体を含有している。その具体例としては、触媒前駆体DRD 92/89がある。
【0056】
上記一般呼称DRDまたはPGを有する触媒は、全てイギリス、クリヴランド・TS18・3HA、ストックトン−オン−ティーズ、ボウスフィールド・レーン、P.O.Box 37のディビー・リサーチ・アンド・デベロップメント・リミテッドから入手することが出来る。
使用出来ると考えられる他の触媒としては、P.S.WehnerらによりJournal of Catalysis,136,420−426(1992)により記載された型のPd/ZnO触媒、US−A−4837368およびUS−A−5185476に開示された型の担持パラジウム/亜鉛触媒、US−A−4929777に開示された型の化学的混合銅−チタン酸化物などがある。
更に本発明方法において使用の対象となる触媒としては、A.El MansourらがAngew.Chem.,101,360(1989)に報告したロジウム/スズ触媒などを挙げることが出来る。
【0057】
本発明方法で使用される触媒の物理的支持体としては、支持体として知られているものを適宜に使用することが可能であり、そのような支持体は、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、シリコンカーバイド、ジルコニア、チタニア、炭素、ゼオライト、またはそれらの適当な組合せなどの物質により提供される。
【0058】
各水添域は、シェル−アンド−チューブ型反応器を備えることが出来、これは等温またはほぼ等温の条件下、管内の触媒および反対に殼内の冷却剤で操作され得る多管式反応器から成ることがある。しかしながら、普通は、建設費が低い点で断熱式反応器を用いるのが好ましい。このような断熱式反応器は、水素化触媒の単一充填部を有してもよく、また同じもしくは異なった水素化触媒の触媒床の2つまたはそれ以上を有していてもよい。所望ならば、外部または内部のインターベッド(inter-bed)熱交換器を設け、入口温度を断熱型水素化反応器の入り口から下流の1つまたはそれ以上の触媒床に調節してもよい。
【0059】
別の方法において、プラントは、少なくとも2つの水添域を有しており、かつそれぞれに粒状水素化触媒の充填物を含有しており、操作の第一相において蒸気状供給流が少なくとも1つの水添域に供給されると共に、他の水添域の少なくとも1つに水素含有気体流が供給され、それによりその中で水素化触媒の充填物を再活性化する。操作の第二相では、当該他の水添域の少なくとも1つに蒸気状供給流を供給すると共に、前記少なくとも1つの水添域に水素含有気体流が供給され、それによりその中で水素化触媒の充填物を再活性化する。
【0060】
この方法では、稼働していないそのまたは各水添域には、水素含有気体流が供給され、それにより触媒充填物が再活性化される。通常は、この再活性化を高温、典型的には約100〜350℃の温度で行うのが好ましい。この再活性化工程において、各水添域への入口温度は、使用中の水添域への蒸気供給流の入口温度より低くても、それと実質的に同じでも、それよりも例えば約10〜50℃高くてもよい。このような再活性化段階で用いられる水素含有気体流は、熱リサイクル補給気体流を含んでいてもよい。
【0061】
この別方法の一態様では、触媒の再活性化を行っているゾーン水素含有気体流を回収するものであり、この気体流は、ジアルキル(例えばジメチル)シクロヘキサンジカルボキシレートの蒸気状水素含有流と混合されて、稼働ゾーンへの蒸気状供給流を形成する。もう一つの態様では、触媒の再活性化を行っているゾーンから水素含有気体流を回収するものであり、この気体流は稼働ゾーンからの反応成績体流と混合される。更なる態様では、触媒の再活性化を行っているゾーンから水素含有気体流を回収するものであり、この気体流はジアルキル(例えばジメチル)シクロヘキサンジカルボキシレートを蒸気化してジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートの蒸気状水素含有流を形成するのに使用される。なお、熱リサイクル気体とジアルキル(例えばジメチル)シクロヘキサンジカルボキシレートの蒸気状水素含有流を混合することにより、稼働ゾーンへの蒸気状供給流を形成することは更に好都合である。触媒再活性化が起こっている、そのまたは各水添域を通過する水素含有気体流の流動方向は、そのゾーンが稼働している場合、そこを通過する蒸気状供給流の流動方向と同じであっても逆であってもよい。
【0062】
要約すると、本発明の方法は、シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス比が所望の値となるように調節することができる。この調節は、本発明の方法においては1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比は、水添域中でのジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換率の関数であるという驚くべき発見によって達成することができる。ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換率は、有効滞留時間に影響され、有効滞留時間は、適用する蒸気相水添条件下における触媒活性、触媒量、供給温度、触媒床温度条件、供給圧力、水素含有ガス:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート比、および触媒への反応混合物供給速度の関数である。従って、水添域中でのジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換量を触媒の老化に応じて調節し、または触媒を再生することによって、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス比を調節することができる。
【0063】
好ましい実施態様の詳細な説明
図1はフローチャートであり、商業的プラントでは更に温度および圧力センサー、圧力リリーフバルブ、コントロールバルブ、レベルコントローラーなどの装置部材が付加的に必要となることは、当業者にとって理解出来るところである。このような付属の装置部材を設けることは、本発明の必須構成要素ではなく、慣用的な化学工学技術に過ぎない。更に、本発明の範囲は、様々な流れの加熱、蒸気化および凝縮の具体的な方法、またはそのために設けられる加熱器、熱交換器または蒸気化あるいは凝縮装置の配列により、何ら制限を受けるべきものではない。本発明の要件を満たす図1に示された以外の装置を、慣用的な化学工学技術に従い、図示されている装置の代わりに用いることも出来る。
【0064】
図1を参照するに、テクニカル級ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートは、操作の第1相において、ライン1でパッキング4のベッド上の蒸発器容器3の上部に位置する蒸発器ノズル2に供給される。熱水素含有気体流は、ライン5で蒸発器容器3の底部に供給される。ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを含む飽和蒸気状混合物は、ライン6で蒸発器容器3の頂部から回収される。生じた蒸気状混合物を、更にバルブ8で調節しながらライン7からの熱水素含有気体と混合する。合わせた材料流は、水素:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比が約400:1、圧力が約905psia(約62.40バール)、温度が約220℃となっており、これをバルブ9およびライン10によって水添反応器11に供給する。水添反応器11には、ペレット化した不均一水添触媒12(例えば還元亜クロム酸銅またはクロム不含有触媒DRD92/89)の床が入っている。水添反応生成物混合物は、ライン13により反応器11から排出され、バルブ14を通ってライン15に入る。ライン15へ入った水添反応生成物混合物は、熱互交換器16で冷却され、生じた部分的凝縮混合物は、ライン17で冷却器18を通り、そこで更に冷却される。生じた気体と凝縮物の混合物はライン19で気体−液体分離器20へ流れて行き、そこからメタノールと粗1,4−シクロヘキサンジメタノールの混合物がライン21で回収される。ライン22における未凝縮の気体状混合物は、不活性気体およびメタノール蒸気と共に未反応水素を含んでおり、コンプレッサー23により圧縮されて、ライン24で圧縮気体流を得る。
【0065】
ライン24における圧縮リサイクル気体をライン25からの補給水素含有気体と合する。ライン26におけるこの合した混合物を、熱交換器16を通過させて加熱し、ライン27で加熱器28に流し込み、その温度をジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給物の蒸気化をもたらすに適当な温度まで上げる。生じた熱気体をライン29で2つの気体流に分け、一方はライン5の、他方はライン30の気体流とする。この後者の気体流を更に加熱器31で約240℃まで加熱し、ライン32、バルブ33およびライン34と35を通過させて、操作の第1相では再活性化モードとなっている第2の水素化反応器36の底へ導く。反応器36は水添触媒37の充填物を含有している。ライン7で反応器36の頂部を出た熱気体を、既に記載したようにライン6での飽和蒸気状混合物と混合し、その中の水素:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートのモル比を増大させ、その温度を露点以上、例えば少なくとも5〜10℃以上高い温度に上げる。
【0066】
プラントはまたライン38および39とバルブ40および41を含んでおり、両方ともこの操作相では閉じられている。ライン42は、蒸発器容器3の底部に集められた“重質類(heavies)”を含有する流れを吸引し得るものである。43は、循環気体中に不活性ガスが増えるのを制限するため、パージガス流を取り出すことが出来るパージガスラインを示している。このような不活性ガスはライン25で補給気体流にまぎれてプラントに入ることがある。
【0067】
時間が経過すると、触媒12の活性は幾分低下し得る。使用中の水添域の出口流において、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比をモニターすることによって、この比を所望の値に保つことができる。反応条件を変更すること、例えば水添触媒上の空間速度を低下することによって、有効滞留時間を実質的に一定に保つことができ、それにより、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換率を実質的に一定の値に保つことができる。このようにして、生成物のトランス:シス異性体比を所望の値、例えば約2.6:1ないし2.7:1またはそれ以上で約3.84:1までの値(例えば約3.1:1ないし3.7:1)に保つことが可能である。
【0068】
操作期間後、触媒充填物12の活性は再活性化が望まれる点まで低下しているであろう。触媒不活性化の理由は明確ではないが、この触媒活性の損失の原因として考えられるのは、エステル交換反応により触媒表面上に不揮発性ポリエステルの痕跡が形成されることである。このエステル交換反応は、例えばジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートと、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたは水素化反応の中間生成物であると考えられるメチル4−ヒドロキシメチルシクロヘキサンカルボキシレートもしくはジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートと1,4−シクロヘキサンジメタノールエステルとの間の交換生成物であるヒドロキシメチルシクロヘキシルメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートとの間で生ずるものと推定される。生成した2量体または3量体物質は、更に蒸気状混合物の成分と反応して、これらの低重合体鎖を伸長させることとなる。ポリエステルおよび混合ポリエーテル−ポリエステルもまた形成することがある。
【0069】
このような触媒表面上の重合体副生物は、水素化されやすい。故に、熱水素含有気体との処理による触媒の再活性化が可能である。更に本発明の背景をなすジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水素化に関する実験研究過程において、理由はともあれ、部分的に不活性化された触媒の熱水素含有気体流による処理は、触媒活性を少なくとも部分的に回復させるに有益な効果を示すことが認められた。
【0070】
従って、操作の第2相では、バルブ33を閉じ、バルブ41を開けると共に、バルブ14を閉じ、バルブ40を開ける。これにより、新しいまたは再活性化した触媒充填物37を持つ水素化反応器36を稼働させ、他方、反応器11を再活性化モードにし、その触媒の部分的不活性化充填物12を再活性化する。この操作の第2のモードでは、ライン6の飽和蒸気状混合物をライン10からの熱水素含有気体と混合して蒸気状供給混合物を形成させ、この混合物はライン7で反応器36とその触媒充填物37に流れる。生じた反応混合物は、ライン35および38によりバルブ40を通ってライン15に流れる。ライン32からの熱水素含有気体はバルブ41を通ってライン39に行き、その後ライン13を通って水素化反応器11の底部に行く。
【0071】
操作のこの第2相においても、使用中の水添域からの出口流の1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比をモニターすることができ、前記のように条件を調節して水添域中の反応混合物の有効滞留時間を実質的に一定に保ち、それによってトランス:シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール比を所望のレベルに保つことができる。
【0072】
触媒充填物37がある程度不活性化したとき、バルブ14、33、40および41を再調整して水添反応器11および36の流れを切り変えて操作の第1相の流れに戻すことが出来る。
上記段階は、都合の良い程度に繰り返すことが出来、反応器11および36を再活性化手段によりもはや触媒活性が所望の増加を示さなくなるまで、またはプラントを整備またはその他の理由などで閉鎖しなければならなくなるまで順に稼働させ、そのうえで触媒充填物12および37を排出し、触媒または触媒前駆体の新しい充填物に置換することが出来る。
【0073】
ライン25における補給気体は、水素、COやCO2のような任意の少量成分およびアルゴン、窒素またはメタンのような不活性ガスの混合物であって、少なくとも水素を約70モル%含有するものであり得る。補給気体は、水素を好ましくは少なくとも90モル%、より好ましくは少なくとも97モル%含有する。補給気体は、常套の方法、例えば天然ガスの部分的酸化または蒸気改質、それに続く水性ガス移動反応およびCO2吸収、必要ならばそれに続く酸化炭素の残留痕跡の少なくとも幾分かのメタン化により製造することが出来る。高純度水素補給気体が所望ならば、圧力旋回吸収を用いることも出来る。
【0074】
プラントの運転開始時に、反応器11および36をそれぞれ、銅クロマイト触媒前駆体のような不均一系水素化触媒前駆体の充填物で充填する。しかしながら、反応器11および36は、DRD92/89のようなクロムを含まない水素化触媒を充填するのが好ましい。その後、触媒供給業者の指示に従って、触媒前駆体を注意深く還元する。EP−A−0301853の方法を用いて銅クロマイト前駆体を還元する場合には、その後、触媒床12および37の両者を同時に還元することが出来る。触媒前駆体を予備還元した後、熱水素含有気体をプラント中に循環させる。蒸発器容器3および反応器11の入り口温度が適温に達したら、ライン1でのジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの流入を開始し、プラントを操作の第1相で稼働状態にする。
【0075】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。実施例で使用された触媒A〜Bの組成は、表Iに示したとおりである。触媒の酸素含量は、各場合において分析対象から除外された。
実施例は、図3と共に、触媒活性の変化に応じて工程中に選択する必要のある反応条件に関して、当業者に教示を与えるものである。
【0076】
【表1】
Figure 0004153049
【0077】
【実施例】
実施例1
図2に示す実験装置を用いて、工業用ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水添を行った。
工業用原料の組成は、次の通りであった: トランス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート34.47重量%、シス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート62.61重量%、式:
【化3】
Figure 0004153049
で示されるメチル水素1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート1.50重量%、水0.05重量%、および残部の不純物。
【0078】
商業的プラントでは、水素ガスを、水素添加生成物から分離して有利には水素添加域へ再循環させている。水素再循環流れは所定量の、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水添によって生成したメタノール蒸気を含んでいる。よって、商業プラントの水素添加域に供給された蒸気混合物は、一般に水素および不飽和有機化合物に加え、メタノールを含んでいる。以下に記載の実験装置は、商業的操作で得られるであろう結果を正確に予測できるものでなければならず、このため、蒸発器へ供給される液体供給物につき、商業プラントの再循環水素流れに含まれるであろう所定量のメタノールに相当する所定量の液体メタノールによって修正した。以下に記載の実験装置では水素を再循環させるが、再循環水素流れ中に含まれる所定量のメタノールは、対応する商業的再循環流れに含まれるものよりも比較的少ない量とした。この差異が生じたのは、実験装置内の再循環ガスが、商業プラントで好適に冷却される温度よりも実質的に低い温度に冷却されるためである。このため、実験上の再循環水素流れから、より多量のメタノールが「たたき出される」。実験装置と商業プラントの間のこの不一致は、実験装置に用いられる器具、とくに分析器具の精巧さにより必然的なものである。この実施例および後続の全ての実施例において、メタノールを実験用の液体生成物に対し、実験用再循環水素流れ中に実際に存在するメタノール量を差し引いた、仮に実験装置を商業的な条件下に操作した場合に実験用再循環流れ中に存在する釣りあったメタノール量と実質的に等しい用量で添加する。当該実施例では、変換率や単位時間当たりの空間速度のような全てのパラメーターは、メタノール不存在下の基準で算出した。
【0079】
実験用装置は図2に示した。約70重量%メタノール溶液の高純度グレイドのジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを貯蔵器100からバルブ101、ライン102およびバルブ103により液体供給ポンプ104へ供給する。ビュレット105は緩衝的な供給を付与する一方、ビュレット106はバルブ101をコントロールする液体レベルコントローラー(図示せず)を付設して備え、その結果、液体供給物の、貯蔵器100から液体供給ポンプ104への一定の水頭での供給が保証される。液体供給物を非返還バルブ107および単離バルブ108を介してライン109へポンプ供給するが、ここは、加熱液体が6mm×6mmのガラスリング112床上方の絶縁蒸発器111内に入る前に電気加熱テープ110で加熱することができる。ステンレススチール・デミスターパッド113は蒸発器111の頂部に付設する。高温水素含有ガスの流れはライン114の蒸発器111の底部に供給する。ドレインバルブ116を付設して備える液体ドレインライン115は蒸発器111の基部から未蒸発液体供給物質(たとえば、重質類)の回収を可能にさせる。蒸発器111へ供給された液体供給物の蒸発は、加熱テープ117により促進される。ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートおよび水素からなる飽和蒸発混合物は、蒸発器111の頂部からライン118により回収する。蒸気混合物は、粒状亜クロム酸銅水添触媒121(200ml、321.1g)床を含む水添反応器120の頂部に入る前に、加熱テープ119により加熱して当該混合物の露点以上の温度に上昇させる。当該触媒は表Iの触媒Aである。ガラスリングは反応器120内の触媒床121の上下に充填する。蒸気混合物は、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの1,4−シクロヘキサンジメタノールへの転化が断熱条件で生じる触媒床121介し下方に進行する。断熱性は、反応器120周囲の絶縁物質内の電気加熱テープ(図示せず)により、好適な位置に配置した熱電対(図示せず)のコントロールの下に維持される。総反応は穏やかな発熱反応で、触媒床の温度は通常約1〜2℃上昇する。水添生成物混合物は、ライン122の水添反応器120に存在し、熱交換器123を通過するが、この熱交換器は、水添生成物混合物の冷却と、ライン124からの水素含有ガスの供給物の加熱を同時に行う。ライン122における1,4−シクロヘキサンジメタノールの大半の凝縮は熱交換器123で起こる。ライン124のガスはライン125からの水素含有ガスからなり、所望によりライン126から供給されたメタン、アルゴン、窒素などの不活性ガスの混合物または単独の不活性ガスを含む。ライン125のガスはライン127により供給された補給水素と、ライン128により供給された再循環水素から構成される。ライン127による補給水素は、ライン129および/またはライン130の流れにより、ライン125へ、圧力コントローラー131〜136および高純度水素シリンダー(図示せず)からのマスフロー・コントローラー137のシステムを介して供給する。
【0080】
熱交換器123からの加熱水素含有ガスは、ライン114を通過し、さらに電気的加熱テープ138により加熱し、蒸発器111へ供給する。
熱交換器123からの冷却水素添加生成物はライン139を通過し、さらにクーラー140で室温付近の温度に冷却する。クーラー140からの液体/蒸気混合物はライン141を通過して、第1ノックアウト・ポット142に入るが、ここに液体水素添加生成物が集められ、バルブ143、ライン144およびコントロールバルブ145による最終的な供給によって製品ライン146へ送られる。水素および未凝縮メタノールからなる蒸気混合物は、ライン147のノックアウト・ポット142の頂部に存在し、さらにクーラー148で温度10℃に冷却される。クーラー148からの付加的に冷却した液体/蒸気混合物は、ライン149を介し、第2ノックアウト・ポット150へ供給するが、ここに凝縮メタノールが集められ、バルブ151およびライン152を介する最終的な供給により製品ライン146へ送る。ノックアウト・ポット150からのガスおよび未凝縮物質は、ライン153を介し吸引ポット154を通ってライン155内に入り、次いでバルブ156を介してガス再循環圧縮器157へ送る。ガスは、バルブ158、ライン128、125、124および114を介して貯蔵器111へ再循環する。窒素などの不活性ガス濃度のコントロールのために、再循環ガス中に、パージガス流をライン159のシステムからバルブ160のコントロールの下に流入させる。
参照番号161はバイパスバルブを示す。
【0081】
本発明の装置の始動時点で、触媒充填物を反応器120へ内に入れ、次いで窒素で当該反応器をパージする。触媒充填物を次いでEP−A−0301853開示に従い還元した。
次いで、適当に希釈した工業用ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを、86/ml/hの速度(液空間速度0.43h-1に相当)で蒸発器111にポンプ輸送した。ライン118中の蒸気混合物のH2: ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比は338:1であった。反応器120の温度を230℃に、圧力を901psia(62.12バール)に保った。すなわち、水添域の条件は、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートと、より揮発性の小さい1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物との両方の凝縮を防止する条件とした。水添域の温度は全体に、工程圧力下の露点よりも高い温度であった。
【0082】
ライン146の液体は、毛管ガスクロマトグラフィにより、長さ15mおよび内径0.32mmの溶融シリカカラム(DBワックスの0.25μm膜で内部被覆)、ヘリウム流速2ml/分(ガス供給分割比=100:1)およびフレーム・イオン化検出器を用い、定期的に分析した。当該機器はピーク・インテグレイターを有するチャート・レコーダーを備え、市販の試料である既知組成のジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを用いて検定した。また出口ガスを採取し、ガスクロマトグラフィによりクロマトグラフィ法を用いて分析した。ピークの同定は、当該物質の基準試料の分析によって観察された保持時間の比較およびマススペクトルにより確認した。反応混合物中に検出された化合物には、以下のものが含まれていた:1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、4−メトキシメチル・シクロヘキサンメタノール、ジ(4−メトキシメチルシクロヘキシルメチル)エーテルおよびメタノール。貯蔵庫100からのジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの供給溶液中に存在するメタノールを差し引くと、水添反応の化学量論に従い変換されたジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート1モルごとに、メタノール2モルが検出された。結果を以下の表IIに、後続の実施例2〜8の結果とともに掲げた。触媒の実活性は、工程の開始時に標準工程条件下に測定した、新たに還元した触媒の基準活性を1.0とした場合の値である。実施例1において、触媒の実活性は0.68であったが、これは、新しい触媒を使用した時と比較して、標準条件下の未変換ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの割合が1.47倍であったということである。すなわち、実活性は、新たな触媒の基準活性1.0に対して1/1.47、すなわち0.68ということである。
【0083】
【表2】
Figure 0004153049
表2の注釈:
DMCO=ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート
LHSV=液空間速度
CHDM=シクロヘキサンジメタノール
ガス=水素含量が98%v/vを越える水素含有ガス
【0084】
実施例2〜8
実施例1と同様の手順で、同じ供給溶液を用い、亜クロム酸銅触媒(表1の触媒A)による実験を更に7回行った。それらは、種々の工程条件下に予想される触媒寿命を測定するように行った。得られた結果を表2に示す。いずれの場合も、触媒と接触する蒸気混合物は露点よりも高温であった、各実施例の触媒の実活性は、標準条件の供給温度、供給流圧力、供給原料流速および水素流速の読み取り前または直後に測定した。
【0085】
実施例1〜8のデータは1回の実験をある時間にわたって行って得たもので、実施例を行った時間にわたって触媒活性が顕著に低下するにもかかわらず、一定の有効滞留時間(ERT)を保つことによって一定のトランス:シス異性体比が得られることを示している。
【0086】
実施例1〜3は、液空間速度として0.41〜0.43の供給速度で、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比が一定であることを示す。有効滞留時間を実質的に一定に保ち、それにより1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比を実質的に一定に保つには、圧力と、水素含有ガス:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比を少し変化させれば充分である。それらの実施例を行った時間の間、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換率は平均99.0%であった。実施例4以降は、残りの試験時間にわたってジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの変換率を平均98.8%に保つように、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度を低下した。この間、標準試験条件下で測定した触媒活性は著しく低下した。しかし、供給速度と、水素含有ガス:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比との調節によって、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比と、1,4−シクロヘキサンジメタノールの選択性とを殆んど一定のレベルに保った。この間、供給圧力の変化はわずかしか必要なかった。
【0087】
実施例9〜17
工程条件の変更がジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水添に及ぼす影響を表3に示す。そのような結果は、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物の選択したトランス:シス異性体比を達成するために供給条件をどのように変化し得るかを示している。
【0088】
【表3】
Figure 0004153049
【0089】
実施例10、13および17は、供給圧力変化による影響と、供給圧力の増加によりトランス:シス異性体比が高まることとを示す。実施例12、13および16は、供給速度変化による影響と、供給速度の増加によりトランス:シス異性体比が低下することとを示す。実施例9、15および17は、供給温度変化による影響と、供給温度の上昇によりトランス:シス異性体比が高まることを示す。いずれの実施例においても、生成物が蒸気相中に存在するように水素:ジエステル比を適当に調節した。
【0090】
実施例9〜17のデータは、実施例1〜8において使用したものと同じ触媒を用いて、ある時間にわたって水添実験を行って得たものである。それらの結果は、それらの実施例を通じて標準条件下に測定した実触媒活性があまり変化しないように、比較的短時間で得たものである。工程条件を適当に変化することによって、広範なトランス:シス異性体比の1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物が得られることがわかる。実施例9と11とを比較すると、実質的に圧力が異なっても、(ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度が同じでも)供給温度と、水素含有ガス:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比を調節すれば、トランス:シス異性体比が同様に小さい生成物を得ることができることがわかる。実施例15および17は、圧力が同程度で、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度が異なる場合、温度と、水素含有ガス:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比を調節すれば、生成物のトランス:シス異性体比を同程度にできることを示している。実施例10および13は、圧力の影響を示すもので、供給流温度を同程度に露点よりも高めるために水素含有ガス:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比を必要に応じて調節したことを除いては、条件は実質的に一定である。実施例14および16は、一定の供給温度の下、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの供給速度を実質的に変化することによる影響を示すものである(ただし、圧力と、水素含有ガス:ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比とを少し変化させた)。
【0091】
図3は、供給温度と供給圧力との2種の異なる組み合わせに対する、有効滞留時間と、得られる1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス異性体比との相関を示すグラフである。図3において、実線は供給圧力の900psia(62.05バール)および供給温度240℃でのトランス:シス異性体比と有効滞留時間との相関を示し、破線は供給圧力450psia(31.03バール)および供給温度215℃での同様の相関を示す。他の供給温度/供給圧力組み合わせに対しても、同様のグラフを作成することができる。当業者はそのようなグラフに基づいて、有効滞留時間を一定とし、それによりトランス:シス異性体比を実質的に一定にするために必要な適当な条件を選択することができる。
【0092】
【発明の効果】
本発明の製法によれば、比較的低い圧力下に、従来法によって達成されるよりも高いトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを連続的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 並行して接続した2個の水添反応器内で、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水添により1,4−シクロヘキサンジメタノールを製造するための装置の簡単な流れ図である。
【図2】 単一の水添域内で、ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートの水添により1,4−シクロヘキサンジメタノールを製造するための実験装置の簡単な流れ図である。
【図3】 供給温度と供給圧力との2種の組み合わせに対する実験結果から導いた、有効滞留時間と、1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物のトランス:シス比との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
1……ライン、2……ノズル、3……気化器、4……パッキング、5……ライン、6……ライン、7……ライン、8……バルブ、9……バルブ、10……ライン、11……水添反応器、12……水添触媒、13……ライン、14……バルブ、15……ライン、16……熱交換器、17……ライン、18……冷却器、19……ライン、20……気液分離器、21……ライン、22……ライン、23……圧縮器、24……ライン、25……ライン、26……ライン、27……ライン、28……ヒーター、29……ライン、30……ライン、31……ヒーター、32……ライン、33……バルブ、34……ライン、35……ライン、36……反応器、37……水添触媒、38……ライン、39……ライン、40……バルブ、41……バルブ、42……ライン、43……パージガスライン。
100……貯蔵器、101、103……バルブ、102……ライン、104……ポンプ、105、106……ビュレット、107……バルブ、108……バルブ、109……ライン、110……加熱テープ、111……蒸発器、112……ガラスリング、113……デミスターパッド、114……ライン、115……ドレインライン、116……ドレインバルブ、117、119……加熱テープ、118……ライン、120……水添反応器、121……水添触媒、122……ライン。
123……熱交換器、124〜130……ライン、131〜136……圧力コントローラー、137……マス・コントローラー、138……加熱テープ、139……ライン、140……クーラー、141……ライン、142……第1ノックアウト・ポット、143……バルブ、144……ライン、145……バルブ、146……製品ライン、147……ライン、148……クーラー、149……ライン、150……第2ノックアウト・ポット、151……バルブ、152、153……ライン、154……吸引ポット、155……ライン、156……バルブ、157……圧縮器、158……バルブ、159……ライン、160……バルブ、161……バイパスバルブ。

Claims (10)

  1. エステル水添触媒の存在下にジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートを接触水添することによって、所望または所定のトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを蒸気相において連続的に製造する蒸気相製造方法であって、水添触媒の活性低下を伴いながら長時間にわたって行うことができ、下記工程:
    (a)エステルの水添を触媒し得る顆粒状水添触媒を入れた水添域を設け、
    (b)予め選択した供給温度、供給圧力、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度、および水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比において、顆粒状水添触媒上を通過するジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートと水素含有ガスとの反応混合物中の、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1,4−シクロヘキサンジメタノールへの変換の程度を測定することによって、顆粒状水添触媒の基準活性(RA)を定め;
    (c)予め選択した供給温度および供給圧力において、反応混合物が基準活性の顆粒状水添触媒と接触して所望のトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを生成する、有効滞留時間(ERT)を定め;
    (d)予め選択した水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比で、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートと水素含有ガスとを含有する蒸気供給流を形成し;
    (e)供給流の露点よりも高い150〜350℃の実質的に一定の温度と、150〜2000psia(10.34〜137.90バール)の範囲の実質的に一定の圧力の下、所望のトランス:シス異性体比の1,4−シクロヘキサンジメタノールを生成する触媒と接触する供給流の実滞留時間(ART)に相当する速度で、蒸気供給流を水添域に供給し;
    (f)1,4−シクロヘキサンジメタノールを含有する生成物流を水添域から回収し;
    (g)供給温度、供給圧力、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度、および水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比の実際の条件下、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートから1,4−シクロヘキサンジメタノールへの変換の程度を測定することによって、顆粒状水添触媒の実活性(AA)を経時的にモニターし;
    (h)(i)ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度および(ii)水素含有ガス:ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートモル比から選択する、水添域への蒸気供給流供給条件の少なくとも1種を、供給流を露点よりも高温に保ちながら調節することによって、関係式:ART=(ERT×RA)/AAに従い、所望のトランス:シス異性体比を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを与える有効滞留時間(ERT)に相当する、触媒と接触する蒸気供給流の実滞留時間(ART)を求める
    ことを含んでなる1,4−シクロヘキサンジメタノールの蒸気相連続製造方法。
  2. ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートはトランス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートである請求項1記載の方法。
  3. ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートはシス−ジメチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートである請求項1記載の方法。
  4. ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートは、ジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートのシス−およびトランス−異性体の混合物から成る請求項1記載の方法。
  5. 水添域への供給温度が200〜260℃である請求項1記載の方法。
  6. 水添域への供給温度が200℃〜260℃の範囲であり、水添域への供給圧力が450〜1000psia(31.03〜68.95バール)である請求項1記載の方法。
  7. 触媒は、還元マンガン促進銅触媒、還元亜クロム酸銅触媒、および還元促進亜クロム酸銅触媒から成る群から選択する請求項1記載の方法。
  8. 触媒は、バリウム、マンガンおよびそれらの混合物から成る群から選択する少なくとも1種の促進剤を15重量%以下の量で含有する請求項6記載の方法。
  9. 有効滞留時間は、トランス:シス異性体比2.0:1〜3.84:1の1,4−シクロヘキサンジメタノール生成物が得られるように選択する請求項1記載の方法。
  10. 工程(h)において、少なくとも1種の供給条件の調節は、ジアルキル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート供給速度の調節を含んで成る請求項1記載の方法。
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