JP4145533B2 - 立方晶窒化ホウ素の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は高圧法による立方晶窒化ホウ素(cBN)の製造方法に関し、更に詳しくは、高圧法で製造したcBNを含む合成塊からcBNを分離回収する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
六方晶窒化ホウ素(hBN)と触媒とを含む混合物を、cBNの熱力学的に安定である圧力と温度条件下に保持することによって、cBNを含む合成塊を製造する方法は、例えば特公昭58−84106号公報や米国登録公報2,947,617に開示されている。
【0003】
すなわちhBNの粉末と、触媒として主にアルカリ金属やアルカリ土類金属及び同元素を含む化合物の粉末や塊とを混合したものを原料にし、これらの原料を、主に黒鉛を部材としたヒーターに詰め、更にこれをパイロフィライトを部材としたカプセルに挿入し、この原料をcBNの熱力学的に安定である圧力と温度条件下に保持することによってcBNを含む合成塊を製造する。
【0004】
この方法により製造されたcBNを含む合成塊は、合成されたcBN以外に、低圧相窒化ホウ素(残存した未反応hBN、pBN、rBN及び再結晶化したhBN。)、触媒、黒鉛部材、パイロフィライト等を含んでいる。そのためcBNを製造するためには、この合成塊からcBNのみを分離回収する必要がある。
【0005】
従来、この合成塊からcBNのみを分離回収する方法として次の方法が用いられている。
【0006】
合成塊に含まれる触媒は、一般的に水に溶解するため、粉砕した合金塊を水でデカンテーションすることにより分離できる。なおデカンテーションとは水を加えて攪拌した後、静置沈降させその上水を除く操作を一回以上繰り返す操作をいう。
【0007】
合成塊に含まれる、低圧相窒化ホウ素、パイロフェライトとcBNとの分離は、例えば、特公昭49−27757号公報に記載されているように、合成塊を5mm以下に粉砕した後、苛性ソーダと少量の水を加え、300℃位で加熱することで、低圧相窒化ホウ素を苛性ソーダに溶解させ行うことができる。
【0008】
合成塊に含まれる黒鉛部材は、硫酸と硝酸の混合液で溶解し分離除去する。なお、パイロフェライトは合成後大きな塊で大部分が存在する場合が多く、ピンセット等を用いて手作業で除去することも可能である。
【0009】
以上のように、従来の合成塊からcBNを分離回収する方法は、低圧相窒化ホウ素、パイロフェライト、黒鉛部材の除去に強酸薬品や強アルカリ薬品を多量に使用するため、作業上の危険性が高く、且つ廃水処理にも中和作業等の労力並びに設備が必要となっていた。特に、強アルカリ薬品はその使用量が多く、作業上の危険性、中和作業等の労力が大きかった。また、合成塊中に残存した低圧相窒化ホウ素を溶解除去する為、残存した低圧相窒化ホウ素をリサイクルできないという問題点があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意努力検討した結果、以下の方法を用いることにより、高圧法で製造した合成塊からcBNを分離回収する際の強アルカリ薬品の使用量を減少させ、作業上の危険性、中和作業等の労力を低減し、残存した低圧相窒化ホウ素のリサイクルできる量を高めることが可能となることを見出し本発明を完成させた。すなわち本発明は以下に関する。
【0011】
(1)六方晶窒化ホウ素と触媒とを含む混合物を、立方晶窒化ホウ素の熱力学的に安定である圧力と温度条件下に保持することによって、立方晶窒化ホウ素を含む合成塊を製造し、該合成塊をアルカリ溶液を用いて溶解処理し立方晶窒化ホウ素を回収する立方晶窒化ホウ素の製造方法において、前記溶解処理の前に、合成塊中の低圧相窒化ホウ素の立方晶窒化ホウ素に対する比率を、50質量%以下に低減する工程を含むことを特徴とする立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0012】
(2)合成塊中の低圧相窒化ホウ素の立方晶窒化ホウ素に対する比率を、30質量%以下に低減することを特徴とする(1)に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0013】
(3)合成塊中の低圧相窒化ホウ素の立方晶窒化ホウ素に対する比率を低減する工程を、浮遊選鉱処理を用いて行うことを特徴とする(1)または(2)に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0014】
(4)浮遊選鉱処理の前に、合成塊を平均径で20mm以下に粉砕することを特徴とする(3)に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0015】
(5)浮遊選鉱処理の前に、合成塊を平均径で5mm以下に粉砕することを特徴とする(3)に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0016】
(6)合成塊を粉砕し、粉砕物に水と浮遊選鉱処理剤とを加えて攪拌後、浮遊選鉱処理を行うことを特徴とする(3)〜(5)の何れか1項に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0017】
(7)水に温水を用いることを特徴とする(6)に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0018】
(8)浮遊選鉱処理剤として、灯油、ケロシン、タールクレオソート、オレイン酸ナトリウムから選ばれた何れか1種以上、および、パイン油、しょうのう、MIBC(メチルイソブチルカルビノール)、針葉樹油、クレシール酸、クレオソート油、ユーカリ樹油、フロトール油から選ばれた何れか1種類以上を用いることを特徴とする(6)または(7)に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0019】
(9)浮遊選鉱処理の前に、合成塊を溶剤に溶かしてスラリー化し、該スラリーに酸を加えてpHを1以下に調整し、その後、浮遊選鉱処理剤として、脂肪酸、樹脂酸及びこれらのアルカリ塩類から選ばれた何れか1種以上、および、パイン油、しょうのう、MIBC(メチルイソブチルカルビノール)、針葉樹油、クレシール酸、クレオソート油、ユーカリ樹油、フロトール油から選ばれた何れか1種以上を添加して浮遊選鉱処理を行うことを特徴とする(6)または(7)に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0020】
(10)合成塊をスラリー化する溶剤に水を用いることを特徴とする(9)に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0021】
(11)合成塊をスラリー化する溶剤に温水を用いることを特徴とする(9)または(10)に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0022】
(12)スラリーに酸を加えてpHを1以下に調整した後、該スラリーを静置して合成物を沈降させ、その上水を除いた後、再度酸を加えてpHを1以下に調製し、その後、浮遊選鉱処理を行うことを特徴とする(9)〜(11)の何れか1項に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
【0023】
【課題を解決する為の手段】
本発明のcBNの製造方法は、hBNと触媒とを含む混合物を、cBNの熱力学的に安定である圧力と温度条件下に保持することによって、cBNを含む合成塊を製造し、該合成塊をアルカリ溶液またはアルカリ融液を用いて溶解処理しcBNを回収するcBNの製造方法において、前記溶解処理の前に、合成塊中の低圧相窒化ホウ素のcBNに対する比率を、50質量%以下に低減する工程を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の出発原料であるhBNは、市販のhBNを使用できる。しかし、酸化ホウ素等の形で混入する酸素不純物は、hBNからcBNへの変換を遅らせることがあるため、酸素量の少ないhBNを用いるのが好ましい。すなわち酸素含有量が1%以下のhBN粉末を用いるのが好ましい。また、hBNの粒径については、最大粒径が100μm以下であることが好ましい。粒径が大きすぎるとhBNと触媒物質との反応性が低下し、cBNへの変換率が低下するため好ましくない。
【0025】
hBNをcBNに変換する方法に用いる触媒は特に限定されず、既知の触媒は全て使用できる。例をあげると、アルカリ金属(Li等)と、これらの窒化物(Li3N等)及びホウ窒化物(Li3BN2等)、アルカリ土類金属(Ca,Mg,Sr,Ba等)と、これらの窒化物(Ca3N2、Mg3N2、Sr3N2、Ba3N2等)及びホウ窒化物(Ca3B2N4、Mg3B2N4、Sr3B2N4、Ba3B2N4等)、アルカリ金属とアルカリ土類金属の複合ホウ窒化物(LiCaBN2、LiBaBN2等)を用いることができる。触媒の粒度は特に限定されないが150メッシュ(100μm)以下が好ましい。触媒の粒度が大きすぎるとhBNとの反応性が低下する可能性があるからである。
【0026】
また触媒物質のhBNへの配合比率は、hBN100質量部に対し、触媒物質として5〜50質量部の範囲内で混合するのが好ましい。
【0027】
触媒物質とhBNを共存させる方法としては、これらの粉末を混合する方法があるが、反応容器中にhBN層と触媒物質層を交互に積層するように配置しても良い。
【0028】
実際には、hBNと触媒物質を混合した後、あるいはそれぞれ別々に、1〜2トン/cm2(9.8×107Pa〜19.6×107Pa)程度の圧力で成形してから反応容器に充填することが好ましい。この様にすることにより、原料粉末の取り扱い性が向上すると共に、反応容器内での収縮量が減少し、cBN砥粒の生産性が向上する効果がある。
【0029】
また本発明では、上記の触媒物質とhBNとの成形体または積層体に前もってcBNを種結晶として添加し、これを核としてcBNの結晶成長を促進させる方法を用いてもかまわない。この場合、cBNの種結晶表面に上記触媒物質を被覆しても良い。
【0030】
上記の触媒物質とhBN等との成形体等を、反応容器中に充填し、周知の高温高圧発生装置に装填し、cBNの熱力学的安定領域内の温度圧力条件下に保持する。この熱力学的安定領域については、O.Fukunaga,DiamondRelat. Mater.,9(2000),7−12に示されており、一般的には約4GPa〜約6GPa、約1400℃〜約1600℃の範囲内であり、また保持時間は一般的には約1秒〜約6時間程度である。
【0031】
上記のcBNの熱力学的安定領域に保持することにより、hBNはcBNに変換され、一般的にはhBN、cBNおよび触媒物質等からなる合成塊が得られる。
【0032】
通常、上記の方法で製造された合成塊は解砕され、加熱した強アルカリ溶液により溶解し、これを冷却後、酸で洗浄、水洗後、ろ過することにより立方晶窒化ホウ素砥粒を回収する。本発明ではこの溶解処理の前に、合成塊中の低圧相窒化ホウ素のcBNに対する比率を、50質量%以下、より好ましくは30質量%以下に低減する。なお、合成塊中の低圧相窒化ホウ素のcBNに対する比率は低ければ低いほど好ましい。
【0033】
本発明では、合成塊中の低圧相窒化ホウ素のcBNに対する比率を以下の手順で算出する。
(1)合成塊を平均径20mm以下に解砕する。
(2)圧力部材のパイロフェライトをピンセットで除去する。
(3)解砕粉150gを水1000ccと混合後、混合液を沸騰させながら180分間攪拌する。この操作で主に触媒が水に溶解する。
(4)未溶解物を分離、洗浄、乾燥後、100gを秤量し、これに苛性ソーダ200g、水20gを加え、300℃に加熱しながら60分間攪拌する。この操作で主に低圧相窒化ホウ素が溶解する。
(5)未溶解物を分離、乾燥後、硫酸500g、硝酸150gの混合溶液に加え、90分間加熱する。この操作で主に黒鉛が溶解する。
(6)未溶解物を分離、洗浄、乾燥後、秤量する。この秤量物がcBNであり、(4)での溶解操作前後での減少量を低圧相窒化ホウ素として、合成塊中の低圧相窒化ホウ素のcBNに対する比率を算出する。
【0034】
本発明での、合成塊中の低圧相窒化ホウ素のcBNに対する比率を、50質量%以下に低減する方法としては、公知の化学的分離方法、物理的分離方法を用いることができる。具体的には、比重分離方法、乾式浮遊選鉱方法、湿式浮遊選鉱方法が例示できる。また乾式浮遊選考方法としては風力を用いた浮遊選考方法を、湿式浮遊選考方法としては、泡沫浮遊選鉱方法、表面張力を用いた浮遊選考方法、多油を用いた浮遊選考方法を例示できる。本発明では、この中で特に、比重分離方法、泡沫浮遊選鉱処理を用いるのが好ましい。
【0035】
比重分離方法は例えば以下の操作による。低圧相窒化ホウ素として多く含まれるhBNの比重は2.34(単位は、g/cm3。以下同じ。)であり、cBNの比重は3.48である為、比重が2.34と3.48の間の重液を比重分離液として用いることができる。そのような比重分離液としては、臭化メチレン(比重2.49)、蟻酸タリュウム、マロン酸タリュウム等を用いることができる。
【0036】
泡沫浮遊選鉱処理は例えば以下の操作による。
【0037】
合成塊を平均粒径20mm以下、好ましくは平均粒径5mm以下に粉砕する。この際あまり細かく粉砕するとcBNが粉砕されてしまうため注意する必要がある。次ぎに粉砕した合成塊を浮遊選鉱できるように、cBNと低圧相窒化ホウ素がお互いに分かれたスラリー化された状態にする。この為に、例えばステンレス製の容器に粉砕した合成塊及び水とアルカリで働く分散剤を加え攪拌する。この際、水の代わりに温水を用いて、また攪拌の際に加温すると浮遊選鉱処理の際の分離率を高めることができる。温水の温度は、50℃〜110℃が好ましい。なお攪拌の際にアンモニアガスが発生するので作業環境上、スクラバー等へ排気する必要がある。
【0038】
またスラリーは強アルカリなので作業者は、耐アルカリ手袋やゴーグル等の保護具を着用する必要がある。この際の攪拌は、cBNと低圧相窒化ホウ素が分離する程度で良く、スラリー化を進めすぎると低圧相窒化ホウ素が完全にほぐれ微細になり、浮選工程で発生するフロス(浮上した泡)の体積が大きくなって実際の作業面で扱い難くなる。
【0039】
なお、スラリー化した後、攪拌機を停止させスラリーを静置沈降させた場合、沈殿層の上面付近の層は、殆どcBNを含まないhBNであるので、この部分だけ吸引ホース等で予め分離しておき、その下のある程度cBNを含むhBNの部分から浮遊選鉱に掛けてもよい。
【0040】
更に一番底部は殆どcBNの層であり、この部分はそのまま次工程のアルカリ溶解処理にかけてもよい。
【0041】
浮遊選鉱処理により低圧相窒化ホウ素を浮上させて、cBNと低圧相窒化ホウ素を分離する場合についてまず説明する。
【0042】
合成塊をスラリー化した後に、低圧相窒化ホウ素を気泡に付着させる働きのある捕集剤と、気泡が発生しやすくする働きの起泡剤とを加え攪拌を行う。この際、スラリー濃度は30質量%以下とする。スラリー濃度が30質量%よりも高いとcBNと低圧相窒化ホウ素との分離率が悪くなる。
【0043】
また攪拌により、大きな渦流が容器内に発生するとcBNと低圧相窒化ホウ素の分離率が悪くなるので、特に方法は限定しないが、渦流を押さえる邪魔板(スタビライザー)を容器内に設置する等の渦流防止策を講ずるのが好ましい。
【0044】
本発明では捕集剤として、灯油、ケロシン、タールクレオソート、オレイン酸ナトリウムから選ばれた何れか1種以上、起泡剤として、パイン油、しょうのう、MIBC(メチルイソブチルカルビノール:(CH3)2CHCH2CH(OH)CH3)、針葉樹油、クレシール酸、クレオソート油、ユーカリ樹油、フロトール油から選ばれた何れか1種類以上を用いるのが好ましい。
【0045】
スラリーを十分攪拌させ低圧相窒化ホウ素の表面に捕集剤を吸着させた後、下方から気泡を発生させる。気泡を発生させる方法は色々あるが、必要な量の気泡と分離に適した大きさの気泡を発生させるのが好ましい。
【0046】
通常は、濃度の高い状態(30質量%以上)でまず浮遊選鉱による粗分離を行い、残液を再度、低濃度(10質量%以下)の状態で浮遊選鉱により分離することで、フロスに付着したhBNを高い分離率で分けることができる。
【0047】
この為、同じ容器で繰り返し分離を行うか、複数の槽をもった装置で連続的に分離操作を行いcBNの回収率を向上させることが好ましい。
【0048】
また、浮遊浮選の状況に応じて捕集剤、起泡剤、温水を分離操作中に適宜追加することも好ましい。
【0049】
浮遊選鉱法で合成塊から低圧相窒化ホウ素を分離後、浮選装置の容器の底に残ったcBNを多く含む合成物を回収して、残存する低圧相窒化ホウ素を次工程の、強アルカリ等の薬品を用いた溶解処理工程にかける。本発明により、合成塊中の特に低圧相窒化ホウ素の比率を飛躍的に低減することができるので、溶解処理工程でのアルカリ薬品の使用量を大幅に低減することが可能となった。
【0050】
また、浮遊選鉱処理によってcBNを浮上させる場合は、例えば以下の手順による。
【0051】
前述したように合成塊を平均粒径20mm以下、好ましくは平均粒径5mm以下に粉砕後、粉砕した合成塊を浮遊選鉱できるように、cBNと低圧相窒化ホウ素がお互いに分かれたスラリー化された状態にする。
【0052】
このスラリーに酸を加えてpHを1以下に調整し、その後、浮遊選鉱処理を行う。なおスラリーに酸を加えてpHを1以下に調整した後、該スラリーを静置して合成物を沈降させ、その上水を除いた後、再度酸を加えてpHを1以下に調製し、その後、浮遊選鉱処理を行うと、浮遊選鉱時の分離率をより高めることができる。
【0053】
cBNを気泡と共に浮上させる場合の捕集剤としては、脂肪酸、樹脂酸及びこれらのアルカリ塩類から選ばれた何れか1種以上、起泡剤としては、パイン油、しょうのう、MIBC(メチルイソブチルカルビノール:(CH3)2CHCH2CH(OH)CH3)、針葉樹油、クレシール酸、クレオソート油、ユーカリ樹油、フロトール油から選ばれた何れか1種以上を添加して浮遊選鉱処理を行うことが好ましい。また、脂肪酸として、C12〜C20の脂肪酸、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノリン酸、リノレイン酸を用いるのが好ましい。
【0054】
本発明により浮遊選鉱したスラリーは、通常のアルカリ溶解処理を行い、cBNを回収することができる。すなわち、浮遊選鉱後のスラリーに、苛性ソーダと少量の水を加え、300℃程度に加熱し、低圧相窒化ホウ素等を選択的に溶解させる。これを冷却後、酸で洗浄、水洗後、ろ過することによりcBNを単離精製する。
【0055】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
hBN(昭和電工(株)製UHP−1、平均粒径8〜10ミクロン、純度98%)100質量部に対してcBN合成触媒LiCaBN2を15質量部、種結晶としてcBN粒を0.5質量部添加し、試料を成形した。試料の成形密度は1.92g/cm3であった。成形した試料を反応容器に充填し高温高圧発生装置に装填して、5GPa、1500℃で15分間保持し合成を行った。合成後、合成塊を装置から取り出し、合成塊を平均粒径5mmに解砕した。
【0057】
粉砕した混合物の成分比率を調べたところ、hBN40質量%、cBN41質量%、触媒15質量%、その他、黒鉛とパイロフェライト4質量%であった。cBNの質量に対する低圧相窒化ホウ素の質量の比率は98質量%であった。
【0058】
粉砕粉、15kgに、花王製分散剤(ポイズ530)を水にて3倍に希釈した液1リットルと温水とを添加し、全体で60リットルにした。これを約90℃に加温しながら900分間攪拌することでスラリー化を行った。
【0059】
このスラリーについて浮遊選鉱処理を行った。浮遊選鉱装置の模式図を図1に示す。浮遊選鉱装置には、内径φ47cm、高さ60cmで注ぎ口1を有する有効容積70リットルのステンレス製の容器2に、気泡を発生させる為、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製造のポリメチルメタアクリレート製の空孔径50μmの散気筒3(型式:M−58)を2本を底部に持ち、100Wの可変タイプの攪拌機4を有するものを用いた。なお、散気筒3にはゲージ圧力3kgf/cm2(相対圧力2.94×105Pa)、流量70リットル/分で空気を送れるようにパイプ5で110Wのポンプに繋がれている。
【0060】
このスラリーのpHは11であった。これにオレイン酸ナトリウム4gを添加し5分間攪拌した後、灯油を200ミリリットル添加し更に5分間攪拌した後に、再度オレイン酸ナトリウムを4g添加し5分間攪拌した。その後、エアーを送り約1時間浮遊選鉱を実施した。
【0061】
浮上したフロス(気泡に付着して浮上分離した物。)量は4.7kgでその内訳は、hBN4.4kg、cBN0.15kg、黒鉛とパイロフィライト0.15kgであった。
【0062】
容器の底部に残ったcBNが多い側のテール(気泡に付着せずに槽内に残った部分。)量は、8.1kgでありその内訳は、hBN1.6kg、cBN6.0kg、黒鉛とパイロフィライト0.5kgであった。
【0063】
テールの部分の、cBNの質量に対する低圧相窒化ホウ素の質量の比率は26質量%であった。このテールの部分はこの後、苛性ソーダ4kgと少量の水0.4リットルを加えて、ステンレスの容器中で300℃で加熱され、その後水で5回デカンテーションすることでhBNを完全に除去したcBNを回収できた。
【0064】
アルカリ溶解処理は、従来法では通常は苛性ソーダが10kg必要なのに対して、本発明の浮遊選鉱処理を用いることにより、その半分以下の4kgの苛性ソーダで残存hBNを分解できた。またhBNの残存量が減ることで、分解によって発生するアンモニアガスが低減され、反応中に苛性ソーダの融液が吹きこぼれる事も無くなり、反応容器により多くの量を仕込むことができるようになる為、生産性の向上にも貢献した。さらに浮遊選鉱処理で分離されたhBNのリサイクル使用も可能となった。
【0065】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で製造した5mm以下に粉砕した混合物(内容は、hBN40質量%、cBN41質量%、黒鉛とパイロフィライト4質量%、触媒15質量%。cBNの質量に対する低圧相窒化ホウ素の質量の比率は98質量%。)52kgを、200リットルのステンレス製容器に入れ、これに温水150リットルと水で3倍に希釈した花王製分散剤(ポイズ530)を2リットル加えて、約90℃に加熱しながら900分間攪拌することでスラリー化した。
【0066】
このスラリーの攪拌を停止させて静置することでスラリーを沈降させたところ、沈殿物の上面付近の層は、cBNを僅かしか含まないhBN等であたので、あらかじめこの部分のみ吸引ホースを使って分離し、その下のcBNの含有量が高い部分だけ浮遊選鉱処理を行った。
【0067】
吸引ホースで分離した部分は7.3kgで内hBNが6.8kg、黒鉛とパイロフィライトが0.5kgであった。
【0068】
1番底部の殆どcBNの部分を除いた残りの部分を3つの浮遊選鉱槽からなる浮遊選鉱装置に掛けた。浮遊選鉱処理に用いたスラリーの、cBNの質量に対する低圧相窒化ホウ素の質量の比率は95質量%であった。用いた浮遊選鉱装置の模式図を図2に示す。
【0069】
具体的な操作手順は、まず第1浮遊選鉱槽6に上記スラリーを移送した後、捕集剤として200ミリリットルの灯油と起泡剤としてMIBC20ミリリットルを加え攪拌機9にて5分間攪拌した。その後、底部に設置した散気筒12から気泡を発生させ浮遊選鉱を開始した。第1浮遊選鉱槽6で浮上したhBNを多く含むフロスは、その中に巻き込まれたcBNを回収する為、回転式パドル15にて第2浮遊選鉱槽7に移されて再度浮遊選鉱処理され、更に同様の操作で第3浮遊選鉱層8にて浮遊選鉱処理を行い、フロス中に巻きこまれたcBNを分離した。
【0070】
フロス部分の質量は、10kgでありその内訳は、hBN8.9kg、cBN0.04kg、黒鉛とパイロフィライトが1.06kgであった。スラリー化に使用した容器の底部及び、浮遊選鉱機の3槽の底部から回収したテール部分は、cBNが21.1kg、hBNは4.9kg、黒鉛とパイロフィライトが0.96kgであり、cBN質量に対する低圧相窒化ホウ素の質量の比率は23質量%であった。
【0071】
このテールの部分に苛性ソーダと少量の水を加えて、約300℃に加熱しその後、水で5回デカンテーションすることで残存したhBNを完全に除去することが出来た。本発明により通常75kgの苛性ソーダを使うところ50kgに低減できた。又、加熱中に溶融した苛性ソーダが吹きこぼれるようなことも無く、安全に処理を行うことができた。
【0072】
(実施例3)
合成トラブル時での合成塊を粉砕し、粉砕粉の成分比率を調べたところ、hBN73質量%、cBN4質量%、触媒14質量%、その他、黒鉛とパイロフェライト9質量%であった。cBNの質量に対する低圧相窒化ホウ素の質量の比率は1825質量%であった。
【0073】
この粉砕物10kgに、花王製分散剤(ポイズ530)を水にて3倍に希釈した液1リットルと温水を添加し、全体で60リットルにした。これを実施例1と同様の方法でスラリー化した。
【0074】
浮遊選鉱処理の前にスラリーに塩酸を加えてpHを1に調整し、次ぎに水によるデカンテーションを5回繰り返した後、再度塩酸を加えてpHを1に調整した。
【0075】
このスラリーを図1の浮遊選鉱装置を用いて浮遊選鉱処理を行った。スラリーを容器2内に入れ、ドデシル硫酸ナトリウムを3g添加して攪拌機4にて5分間攪拌した後に、散気筒3により空気を送ると、数分で殆どのcBNが浮上した。浮上したcBNをすくい網で回収することにより含有していたcBNの98質量%を回収することが出来た。回収物の、cBN質量に対する低圧相窒化ホウ素の質量の比率は0.5質量%であった。
【0076】
【発明の効果】
本発明の立方晶窒化ホウ素の製造方法により高圧法によるcBNを含む合成塊からcBNを分離回収する際の、作業性が向上し低コストでcBNを製造することが可能となった。特に、強アルカリ薬品の使用量を飛躍的に低減でき、作業上の危険性、中和作業等の労力が低下した。また、合成塊中に残存した低圧相窒化ホウ素をリサイクルすることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の浮遊選鉱装置を模式的に示す。
【図2】浮遊選鉱槽を3槽有する本発明の浮遊選鉱装置を模式的に示す。
【符号の説明】
1 注ぎ口
2 容器
3 散気筒
4 攪拌機
5 パイプ
6 第1の浮遊選鉱槽
7 第2の浮遊選鉱槽
8 第3の浮遊選鉱槽
9 攪拌機
10 攪拌機
11 攪拌機
12 散気筒
13 散気筒
14 散気筒
15 回転式パドル
16 回転式パドル
17 回転式パドル
18 フロス回収槽
19 液面
20 液面
Claims (9)
- 六方晶窒化ホウ素と触媒とを含む混合物を、立方晶窒化ホウ素の熱力学的に安定である圧力と温度条件下に保持することによって、立方晶窒化ホウ素を含む合成塊を製造し、該合成塊をアルカリ溶液を用いて溶解処理し立方晶窒化ホウ素を回収する立方晶窒化ホウ素の製造方法において、前記溶解処理の前に、合成塊を粉砕し、粉砕物に水と浮遊選鉱処理剤とを加えて攪拌後、浮遊選鉱処理を行うことにより、低圧相窒化ホウ素の立方晶窒化ホウ素に対する比率を、50質量%以下に低減することを特徴とする立方晶窒化ホウ素の製造方法。
- 上記浮遊選鉱処理により、低圧相窒化ホウ素の立方晶窒化ホウ素に対する比率を、30質量%以下に低減することを特徴とする請求項1に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
- 上記浮遊選鉱処理の前に、合成塊を平均径で20mm以下に粉砕することを特徴とする請求項1または2に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
- 上記浮遊選鉱処理の前に、合成塊を平均径で5mm以下に粉砕することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
- 上記水に温水を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
- 上記浮遊選鉱処理剤として、灯油、ケロシン、タールクレオソート、オレイン酸ナトリウムから選ばれた何れか1種以上、および、パイン油、しょうのう、MIBC(メチルイソブチルカルビノール)、針葉樹油、クレシール酸、クレオソート油、ユーカリ樹油、フロトール油から選ばれた何れか1種類以上を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
- 六方晶窒化ホウ素と触媒とを含む混合物を、立方晶窒化ホウ素の熱力学的に安定である圧力と温度条件下に保持することによって、立方晶窒化ホウ素を含む合成塊を製造し、該合成塊をアルカリ溶液を用いて溶解処理し立方晶窒化ホウ素を回収する立方晶窒化ホウ素の製造方法において、前記溶解処理の前に、合成塊を粉砕し、その粉砕物を水に溶かしてスラリー化し、該スラリーに酸を加えてpHを1以下に調製し、その後、浮遊選鉱処理剤として、脂肪酸、樹脂酸及びこれらのアルカリ塩類から選ばれた何れか1種以上、および、パイン油、しょうのう、MIBC(メチルイソブチルカルビノール)、針葉樹油、クレシール酸、クレオソート油、ユーカリ樹油、フロトール油から選ばれた何れか1種以上を添加して浮遊選鉱処理を行うことにより、低圧相窒化ホウ素の立方晶窒化ホウ素に対する比率を、50質量%以下に低減することを特徴とする立方晶窒化ホウ素の製造方法。
- 合成物のスラリー化の水に温水を用いることを特徴とする請求項7に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
- スラリーに酸を加えてpHを1以下に調整した後、該スラリーを静置して合成物を沈降させ、その上水を除いた後、再度酸を加えてpHを1以下に調製し、その後、浮遊選鉱処理を行うことを特徴とする請求項7または8に記載の立方晶窒化ホウ素の製造方法。
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