JP5736828B2 - 使用済み耐火物からのSiC分離回収方法 - Google Patents

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本発明は、使用済みのSiC−Al系耐火物からSiCを分離回収する方法に関する。
鉄鋼製造プロセスでは、製銑工程や製鋼工程の設備で多くの耐火物が使用されている。使用される耐火物の約半分は、操業中に溶融スラグや溶融メタルと接触することで損耗する。残存した使用済みの耐火物は、新しい耐火物を施工する際に解体され、屑となる。この耐火物屑の一部は、耐火物原料としてリサイクル使用されているが、大部分の耐火物屑は、その組成に関わりなくセメント原料や路盤材、土木用材料などとして用いられている。
鉄鋼製造プロセスの諸設備で使用される耐火物としては、例えば、転炉に使用されるMgO−C系耐火物、タンディッシュや取鍋に使用されるHigh−Al系耐火物、高炉用スラグライン材(高炉鋳床の溶銑樋)やトーピードカーに使用されるSiC−Al系耐火物などがある。このなかでSiC−Al系耐火物は、耐火物原料のなかで最も高価であるSiCを8割程度含むことから、このSiCを耐火物原料として再利用できれば、原料コストの大幅な削減が可能となる。
従来、使用済み耐火物のリサイクル技術に関しては、特許文献1〜5に示されるような種々の提案がなされているが、いずれも使用済み耐火物から付着スラグと変質層を除去し、破砕して耐火物原料にリサイクルする方法やリサイクル耐火物に関するものである。
特開平8−259311号公報 特開平8−319152号公報 特開平8−319154号公報 特開2003−212667号公報 特開2005−58835号公報
しかし、付着スラグと変質層を除去して破砕した耐火物屑は、元の耐火物と同じものであり、耐火物の原料である骨材や各成分の粉体に戻ったわけではない。したがって、耐火物原料としては品質が劣るため、耐火物屑を配合する量は制限される。また、原料の一部に耐火物屑を用いた耐火物は、新規原料から作る耐火物と比べ寿命が劣ってしまう。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、使用済みのSiC−Al系耐火物から、耐火物原料として通常のSiC原料と同様に使用できるSiCを高純度で分離回収することができる方法を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]イオン界面活性剤を添加したpHが中性の水溶液に使用済みのSiC−Al 系耐火物の粉砕物を投入して浮遊選鉱法によりAlを浮上分離させ、沈殿物のSiCを分離回収することを特徴とする使用済み耐火物からのSiC分離回収方法。
[2]上記[1]の方法において、陰イオン界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムであることを特徴とする使用済み耐火物からのSiC分離回収方法。
本発明によれば、使用済みのSiC−Al系耐火物からSiCを分離回収するに当たり、特定の水溶液を用いた浮遊選鉱法を利用して耐火物からAlを分離することで、SiCを高純度で分離回収することができる。このため回収したSiCを耐火物原料にリサイクルすることで、耐火物の原料コストを大幅に削減することができ、また、耐火物屑の廃棄量や廃棄コストの削減も図ることができる。
浮遊選鉱法による固々分離の原理を示す説明図 水溶液のpHとSiC粒子およびAl粒子のゼータ電位との関係を示すグラフ 陰イオン界面活性剤によるAl粒子の疎水化と、疎水化したAl粒子が気泡に付着して浮上する原理を示す説明図 浮遊選鉱実験に用いた実験装置の概略を示す説明図 浮遊選鉱実験において、フロスの厚さに及ぼす気泡剤濃度とガス流量の影響を調べた結果を示すグラフ 浮遊選鉱実験において、陽イオン界面活性剤を用いた場合と陰イオン界面活性剤を用いた場合について、浮上物中でのSiCとAlの回収率を示すグラフ 実施例で使用した使用済みSiC−Al系耐火物(スラグおよびスラグ浸透層を除去したSiC−Al系耐火物屑)の粉砕物の化学成分を示す図面 実施例で使用した浮遊選鉱装置の概略を示す説明図 実施例の浮遊選鉱において、SiC−Al系耐火物の粉砕物からのSiCとAlの分離結果を示すグラフ
本発明は、使用済みのSiC−Al系耐火物(耐火物屑)を粉砕し、その粉砕物を陰イオン界面活性剤を添加した水溶液に投入して浮遊選鉱法によりAlを浮上分離させ、沈殿物のSiCを分離回収するものである。上記浮遊選鉱では水槽内を上昇する気泡にAlを付着させて浮上させ、この浮上した泡にトラップされたAlを分離し、沈殿したSiCを回収する。
ここで、SiC−Al系耐火物とは、SiC、Alを主原料とするレンガまたは不定形耐火物のことである。
上記のように本発明は、使用済みのSiC−Al系耐火物の粉砕物を浮遊選鉱法を利用してSiCとAlに分離するものである。分離対象であるSiCとAlは比重差が0.9と小さく磁性を持たないため、比重や磁気による分離方法は適用できなかった。本発明は、SiCとAlの粒子表面の性状差を調べ、分離方法を確立したものである。
浮遊選鉱法は、親水性・疎水性という粒子表面の性質と気泡を利用した固々分離法である。図1に浮遊選鉱法による固々分離の原理を示す。まず、分離対象である微細な固体粒子を水中に投入し、撹拌翼で撹拌することにより水中に懸濁させ、そこに散気装置により気泡を導入する。すると、疎水性の表面をもつ固体粒子(以下、「疎水性粒子」という)だけが選択的に気泡表面に付着し、気泡の浮力により付着物として浮上する。このように疎水性粒子が付着した状態で浮上した泡をフロスという。通常、フロス形成を維持するための助剤として、気泡剤が添加される。一方、親水性の表面をもつ固体粒子(以下、「親水性粒子」という)は気泡に付着せず、自重により沈降(沈殿)する。これらを個別に回収することで、親水性粒子と疎水性粒子の分離が可能となる。
しかし、SiCとAlの場合、そのままではどちらの粒子も親水性であり、水中では気泡に付着して浮上することはない。
SiCとAlでは、ゼータ電位が異なる挙動を示す。ゼータ電位は液体と固体の接する界面に発生している界面電荷を簡易的に定量化したものである。図2に、水溶液のpHとSiC粒子およびAl粒子のゼータ電位との関係を示す。界面電荷は液体のpH環境により変化し、例えば、pHが中性時のSiCの界面電荷は負、Alの界面電荷は正となる。このように固体粒子の表面電位の正負が異なる場合、溶液への界面活性剤の添加により、一方の固体粒子を疎水性にすることができる。
界面活性剤は、炭化水素からなる疎水基、カルボキシル基やスルホン酸基などの親水基で構成されている。そして、水中で界面活性剤の親水基が陽イオンに解離するものを陽イオン界面活性剤、親水基が陰イオンに解離するものを陰イオン界面活性剤と呼ぶ。
図3は、水中で陰イオン界面活性剤がAl粒子に電気的に吸着してAl粒子が疎水化し、この疎水化したAl粒子が気泡に付着して浮上する原理(想定される原理)を示している。水溶液のpHが中性では、Al粒子表面は正に帯電している。陰イオン界面活性剤が水中に溶解すると、解離して親水基は負に帯電する。すると、正に帯電したAl粒子表面に、負に帯電した陰イオン界面活性剤の親水基が吸着する。Al粒子は陰イオン界面活性剤の疎水基で覆われ、表面が疎水化された状態になる。この結果、疎水化されたAl粒子は気泡に付着し、気泡とともに浮上する。以上が、陰イオン界面活性剤を用いた場合に想定されるAl粒子の浮上分離の原理である。
逆に、水溶液のpHが中性では、SiC粒子表面は負に帯電している。陽イオン界面活性剤が水中に溶解すると、解離して親水基は正に帯電する。すると、負に帯電したSiC粒子表面に、正に帯電した陽イオン界面活性剤の親水基が吸着する。SiC粒子は陽イオン界面活性剤の疎水基で覆われ、表面が疎水化された状態になる。この結果、疎水化されたSiC粒子は気泡に付着し、気泡とともに浮上する。以上が、陽イオン界面活性剤を用いた場合に想定されるSiC粒子の浮上分離の原理である。
浮遊選鉱法によりSiC−Al系耐火物の粉砕物からSiCを効率的に分離回収するための条件、具体的には、(i)Al、SiCのいずれを浮上させて分離した方がよいのか、(ii)陽イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤のいずれがSiCとAlの分離に適しているのか、(iii)浮遊選鉱する際の気泡剤の濃度、などについて、以下のような実験と検討を行った。
SiCとAlは不定形耐火物の原料となる粉状のものを用いた。界面活性剤には、安価で安全性が高く入手しやすいものとして、陰イオン界面活性剤はドデシル硫酸ナトリウムを、陽イオン界面活性剤は塩化ベンザルコニウムを、それぞれ用いた。また、フロス生成に必要な気泡剤としては2−エチルヘキサノールを用いた。水溶液の水はイオン交換水を用いた。
図4に浮遊選鉱実験に用いた装置の概略を示す。内径200mmφの円筒状水槽はアクリル製であり、その底部に散気装置としてステンレス鋼製の多孔板(孔径φ0.3mm、孔数37個)を設けた。この散気装置には、コンプレッサから圧縮空気が供給され、この空気が多孔板から吹き出すことにより気泡が生成する。
水槽にイオン交換水4.5L(pH6.2〜8.2,水温19.2〜20.0℃)を入れ、気泡剤を添加した。水200mlを入れたビーカーに粒径74μm以下のSiCとAlの粉末各50gと界面活性剤を添加し、マグネチックスターラーにて100rpm、10分間撹拌した。この液を水槽に投入し、コンプレッサから散気装置へ所定のガス流量と圧力(0.2MPa)にて送風することで、所定時間浮遊選鉱を行った。その後、フロスを回収することで浮上物(固体粒子)を回収し、沈殿物は排水後水槽底部に残ったものを回収した。また、排水した液に残る懸濁物を回収し、沈殿物の一部として扱った。これら回収物は熱風乾燥機で乾燥させた後、秤量および化学分析を行った。
浮上物の回収率は下記(1)式から、分離したSiCとAlの回収率は下記(2)、(3)式からそれぞれ算出した。回収物中の各成分の質量は、回収物の量、化学分析値から求めた。
[浮上物の回収率(%)]={[回収した浮上物質量(g)]/[投入物質量(g)]}×100 …(1)
[SiCの回収率(%)]={[回収した浮上物(又はろ過物)中のSiC質量(g)]/[投入したSiC質量(g)]}×100 …(2)
[Alの回収率(%)]={[回収した浮上物(又はろ過物)中のAl質量(g)]/[投入したAl質量(g)]}×100 …(3)
フロスの生成量と厚みは、浮上物の回収に重要であるので、フロスの厚さに及ぼす気泡剤濃度とガス流量の影響を調べた。その結果を図5に示す。この実験では、イオン交換水に気泡剤(2−エチルヘキサノール)のみを添加し、生成するフロスの厚みを測定した。気泡剤濃度を0ppm(無添加)、28ppm、55ppm、100ppmの4水準とした。図5によれば、気泡剤濃度が28ppm以上であればフロスが生成されること、また、フロスの厚さはガス流量で決まり、気泡剤濃度は影響しないことが判る。したがって、気泡剤濃度は28ppmで十分である。
図6に、陽イオン界面活性剤(塩化ベンザルコニウム)を用いた場合と、陰イオン界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム)を用いた場合について、浮上物中でのSiCとAlの回収率を示す。各界面活性剤は、水槽内で濃度が5×10−5mol/Lになるよう投入した。気泡剤の濃度は28ppmとし、コンプレッサから散気装置へのガス流量を7.5L/minとし、20分間連続的に浮遊選鉱を行った。SiCを疎水化して浮上、Alを沈殿させて分離することを狙って、陽イオン界面活性剤である塩化ベンザルコニウムを添加した。しかし、SiCとAlが同時に浮上し、SiCとAlが分離できなかった。一方、陰イオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムを使用した場合には、Alは63%浮上したのに対し、SiCは3%しか浮上しなかった。すなわち、陰イオン界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム)を用いるとAlのみを選択的に浮上分離できることが判った。
以上の実験結果から、使用済みのSiC−Al系耐火物からSiCを分離回収するには、耐火物屑を粉砕し、その粉砕物を陰イオン界面活性剤を添加した水溶液に投入して浮遊選鉱法によりAlを浮上分離させ、沈殿物のSiCを分離回収すればよいこと、また、陰イオン界面活性剤としては、特にドデシル硫酸ナトリウムが適していることを確認できた。
以下、本発明を実施する際の好ましい条件について説明する。
使用済みのSiC−Al系耐火物を粉砕する場合、事前にスラグが付着した部分を除去して、粒径0.3mm以下に粉砕することが好ましい。浮遊選鉱法は気泡に付着させて分離するため、粒子径は小さいほうが浮上し易く、望ましくは粒径0.15mm以下まで粉砕したほうがよい。
陰イオン界面活性剤は、分離性能、安全性、価格の点から、ドデシル硫酸ナトリウムが適している。また、水溶液中での陰イオン界面活性剤の濃度は5×10−5mol/L以上が好ましい。
気泡剤としては、2−エチルヘキサノールなどが好ましく、水溶液中での濃度は28ppm以上が好ましい。
浮遊選鉱装置としては、後述する図8に示すように、水槽と、その底部に設置され、水槽内の水溶液に気泡を散気する散気装置と、水槽内の水溶液を撹拌する撹拌装置など備えたものを用いるのが好ましい。
使用済みのSiC−Al系耐火物(高炉用スラグライン材の耐火物屑)を回収し、耐火物に付着したスラグと耐火物中にスラグが浸透した部分を取り除き、粉砕機で粒径0.3mm以下に粉砕した。この粉砕物の化学成分は、図7に示すようにSiC:76質量%、Al:21質量%であった。
図8に使用した浮遊選鉱装置の概略を示す。この装置では、水槽に15mの水を入れ、撹拌翼を20rpmで回転させて水を撹拌しつつ、底部に設置された散気装置にコンプレッサから圧縮空気が供給され、その多孔板(孔径φ0.3mm、孔数3700個)から空気が吹き出すことにより気泡が生成する。そして、この気泡に水溶液中の疎水性粒子が付着することでフロスが生成する。
陰イオン界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを、気泡剤として2−エチルヘキサノールをそれぞれ用い、水槽内での陰イオン界面活性剤の濃度は5×10−5mol/Lとし、気泡剤の濃度は28ppmとした。水溶液の温度は21.0℃、pH6.8であった。コンプレッサから散気装置へのガス流量を1000L/min、ガス圧力を0.2MPaとして浮遊選鉱を行った。
水槽内に耐火物屑の粉砕物を20kg/minの供給速度で連続的に供給し、生成したフロスを回収して浮上物を回収した。生成したフロスの厚みは10cm程度であった。耐火物屑の粉砕物を5分間連続的に供給した後、供給を停止し、1分間フロスの回収のみを行うことを1時間繰り返した。水槽内の懸濁液を沈殿物とともに一旦排水し、ベルトフィルターでろ過後、水は水槽に戻した。ろ過物は回収後、乾燥した。
浮上物とろ過物(沈殿物+懸濁液中の固形分)の回収量と化学成分を分析した結果を図9に示すが、浮上物はAl:72質量%、ろ過物はSiC:95質量%で回収できた。浮上物にはSiCが20質量%含まれるが、高純度のSiCを回収するためには、粉砕後もAlと分離できないSiCも浮上分離するほうがよい。

Claims (2)

  1. イオン界面活性剤を添加したpHが中性の水溶液に使用済みのSiC−Al 系耐火物の粉砕物を投入して浮遊選鉱法によりAlを浮上分離させ、沈殿物のSiCを分離回収することを特徴とする使用済み耐火物からのSiC分離回収方法。
  2. 陰イオン界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1に記載の使用済み耐火物からのSiC分離回収方法。
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