本発明の電子放出素子の製造方法について、図1、図2を用いて説明する。図2(a)〜(c)は平面模式図であり、図1(a)〜(c)のぞれぞれは、図2(a)〜(c)の点線B−B'での断面模式図である。
本発明の電子放出素子の製造方法は、下記(工程1)および(工程2)により基本的に成立する。
(工程1)
低抵抗の粒子からなる第2粒子と高抵抗の粒子からなる第1粒子とを備える導電性膜4(詳しくは後述する)がその上に配置された基体1を用意する(図1(a)、図2(a))。尚、図1(a)は図2(a)の点線B−B'の断面模式図である。第1粒子および第2粒子の平均粒径は、実用的には、後述する導電性膜4に求められる抵抗値や大きさなどから、5nm以上20nm以下であれば良い。また、実用上、第1粒子および第2粒子の平均粒径が5nm以上20nm以下であることに加えて、粒径の標準偏差(σ)が平均粒径の33.3%以下であれば、後述する「通電フォーミング」を特に再現性良く行うことができ、且つ、非常に良好な電子放出特性を得る上で特に好ましい。尚、33.3%という値は、粒径分布がほぼ正規分布と仮定すれば、平均粒径に対して±3σの範囲に99.9%(≒100%)の粒径が含まれることから導き出される値である。また、実用的には、第1粒子の平均粒径と第2粒子の平均粒径との差は、5nm以下であることが好ましい。また、この様に第1粒子と第2粒子との形態差(平均粒径及び又は標準偏差)が小さければ、低抵抗な第2粒子は「低抵抗率な材料の粒子」、高抵抗な第1粒子は「高抵抗率な材料の粒子」と言い換える事が出来る。また、本発明における導電性膜4の平均膜厚が、粒子の平均粒径と同じかほぼ同じであることが、「通電フォーミング」を再現性良く行うために好ましい。実用的には導電性膜4の平均膜厚が粒子の平均粒径の1倍以上1.5倍未満であることが、「通電フォーミング」を再現性良く行うために好ましい。
(工程2)
続いて、導電性膜4に対して「通電フォーミング」処理を施すことで、第1の間隙7を形成する(図1(b)、図2(b))。尚、図1(b)は図2(b)の点線B−B'の断面模式図である。
また、上記それぞれの工程の前および/あるいは後に、別の工程を付加することも可能である。例えば、好ましくは、(工程2)の後に、(工程3)として、詳しくは後述する「活性化」処理を行う(図1(c)、図2(c))。
また、図1及び図2では、第1補助電極2および第2補助電極3とを用いた例を示したが、導電性膜4に電流を流すことができれば良いので、補助電極(2、3)は必ずしも必要ではない。
尚、「通電フォーミング」処理で形成される第1の間隙7は、電流が流れる方向(補助電極2と補助電極3とが対向する方向)と概ね直交する方向に延在する。第1の間隙7は直線状に限らず、蛇行形状である場合もあるが、多くは蛇行形状である。この処理により、導電性膜4は、実質的に、間隙7を挟んで対向する、第1の電極4aと第2の電極4bとなる。つまり、理想的には、間隙7によって、導電性膜4が完全に2つに分割される。尚、導電性膜4は2つに完全に分離されていなくても(非常に微細な領域で第1の電極4aと第2の電極4bとが繋がっていても)、間隙7(第1の電極4aと第2の電極4bとの間)が十分に高抵抗な状態に形成されていれば、実効的に問題はない。
そのため、「通電フォーミング」処理は、第1の間隙7の生成により、第1電極4aと第2電極4bとの間が十分に高抵抗になった時点で終了する。換言すれば、第1補助電極2と第2補助電極3との間が十分に高抵抗になった時点で「通電フォーミング」処理を終了する。
第1電極4aと第2電極4bとの間の抵抗値は、例えば、電圧(例えば0.1V程度の電圧)を補助電極2と補助電極3の間に印加することによって補助電極2と補助電極3の間を流れる電流から求めることができる。実用的には、補助電極2と補助電極3との間の抵抗値が、「通電フォーミング」処理前に比べて2桁以上高くなった時点で、「通電フォーミング」処理を終了させることができる。この様に、「通電フォーミング」工程の前後で、2桁以上抵抗値を上昇させることができれば、駆動時(電子放出時)における無効電流が少なく、電子放出効率(放出電流/素子電流)の高い電子放出素子を実現できる。ただし、「通電フォーミング」工程では、間隙7が形成されることが前提であることは言うまでもない。つまり、例え抵抗値が2桁以上上昇したとしても、間隙7が全く形成されない処理は本発明の「通電フォーミング」処理ではない。
尚、「通電フォーミング」処理を行う前の導電性膜4の抵抗値としては、電子放出素子に許容される大きさや、配線の抵抗値や、補助電極2と補助電極3との間の距離Lや、駆動時に求める抵抗値などに応じて適宜選定される。しかしながら、例えば30インチ以上のディスプレイで、電子放出素子の数として1920×1080個以上を想定すると、「通電フォーミング」処理を行う前の導電性膜4の実用的な抵抗値の範囲としては、100Ω以上100kΩ以下が好ましい。また、図18を用いて後述するように、一つの配線に多数の導電性膜4を共通に接続して、多数の導電性膜4に対して実質的に同時に「通電フォーミング」処理を行うことで、製造時間を短縮する場合がある。そのような場合を考慮すると、導電性膜4の抵抗値の範囲は、より実用的には、8kΩ以上50kΩ以下が好ましい。また、導電性膜4の膜厚(多くの場合、粒径に置き換えることができる)は、再現性の観点および上記した抵抗値の実現性から、実用的には、5nm以上40nm以下、より好ましくは5nm以上20nm以下に設定される。このような抵抗値の範囲および膜厚の範囲を導電性膜4が備えるように、導電性膜4は多数の第1粒子と多数の第2粒子とを用いて形成される。
本発明における「通電フォーミング」処理によって、導電性膜4の抵抗値を2桁以上上昇させることができた後には、補助電極2と補助電極3とが対向する方向とは実質的に垂直な方向における導電性膜4の端から端まで(実効的に)、間隙7が形成される。そして、補助電極2と補助電極3との間に流れる電流Ifと補助電極2と補助電極3の間に印加する電圧Vfの関係を見ると、図9で示す様な非線形特性が得られる。尚、良好な間隙7の形成が行われない場合(「抵抗値が2桁以上上昇しない場合」と換言することもできる)には、補助電極2と補助電極3の間にオーミックな電流成分が残るため、十分な非線形性が発現しない。
「通電フォーミング」処理は、電圧パルスを導電性膜4に印加することで行うことが好ましい。そして、「通電フォーミング」処理は、1×10−5Pa以下の圧力の下で行うことが好ましい。図3では、電圧パルスを繰返し印加する場合を示しているが、本発明を用いれば、理想的には、1つの電圧パルスの印加によって、導電性膜4に間隙7を形成することができる。しかしながら、安定に「通電フォーミング」処理を行うのであれば、電圧パルスを複数回導電性膜4に印加することが好ましい。複数回電圧パルスを印加することは、導電性膜4の成膜の再現性が低い場合や、同一の配線に多数の導電性膜4を接続し当該配線を通じて多数の導電性膜4に同時に「通電フォーミング」処理する場合に、特に好ましい。
電圧パルスを繰返し印加する場合、パルスの波高値(電圧値)を実質的に一定とする図3(a)に示す手法と、時間と共にパルスの波高値(電圧値)を変化させる(電圧を増加させる、あるいは、電圧の増減を繰返す)図3(b)に示す手法とがある。
図3(a)及び図3(b)におけるT1及びT2は電圧パルスのパルス幅とパルス間隔(休止時間)である。T1は1μsec以上10msec以下、T2は10μsec以上10msec以下の範囲で設定することが好ましい。電圧パルスの波高値(ピーク電圧)は、導電性膜4の形態や抵抗値などに応じて適宜選択される。
用いるパルスの波形は、三角波に限定されるものではなく、矩形波等の所望の波形を採用することができる。図3(b)の三角波においては、波高値(ピーク電圧)を、例えば0.1Vステップ程度づつ、増加させることができる。
基体1としては、絶縁性もしくは実質的に絶縁性の基体を用いることが好ましい。例えば、酸化シリコン(典型的にはシリカ)を積層したガラス基板、石英ガラス基板、青板ガラス基板、アルミナ等のセラミックス基板、シリコン基板等を用いることができる。良好な電子放出特性を得る上で、青板ガラスに比べてNaなどのアルカリ成分を低減した、いわゆる、低アルカリガラスや無アルカリガラスを用いることが好ましい。後述する「活性化」を良好に行うためには、低アルカリガラスまたは無アルカリガラスの上に酸化シリコン(典型的にはシリカ)を被覆した基板を用いることが好ましい。
また、基体1は、上記した基板そのもので構成される形態だけでなく、例えば基板上に配置された、絶縁性もしくは実質的に絶縁性の構造体であっても良い。即ち、例えば、ガラス基板上に多面体(典型的には直方体の構造物あるいは直方体に近似した構造物)をフォトリソグラフィー法など公知の手法で形成し、その表面に導電性膜4を配置した形態であっても良い。この様な場合には、導電性膜4を配置する構造体(基体)の表面が、後述するアノード電位が印加される導電性膜(メタルバックあるいはアノード電極)の平面に対して所定の角度(典型的には90度あるいは実質的に90度)を有する形態であることが好ましい。メタルバックあるいはアノード電極に対して、導電性膜4を配置する表面が所定の角度を備えることでアノードに到達する電子の量を増加させることができる。
補助電極(2、3)を用いる場合には、補助電極(2、3)を基体1上に配置した後に、第1補助電極2と第2補助電極3との間を接続するように導電性膜4を配置することが好ましい。この場合、導電性膜4は、第1補助電極2および第2補助電極3のぞれぞれの少なくとも一部を覆うことが、電気的な接続を安定にすることができるので、好ましい。補助電極(2,3)の材料は、一般的な導電性材料を用いることができる。例えば、Ag、Ni、Cr、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu等の金属、或は、それらの合金等から適宜選択することができる。
第1補助電極2と第2補助電極3との間隔L、補助電極(2、3)の幅Wは、電子放出素子の応用される形態等を考慮して適宜設定される。間隔Lは、好ましくは、1μm以上500μm以下の範囲に設定され、より好ましくは、1μm以上20μm以下の範囲に設定される。幅(W)は、電子放出量(Ie)を考慮して、5μm以上200μm以下の範囲に好ましくは設定される。補助電極(2,3)の膜厚dは、10nm以上10μm以下の範囲に好ましくは設定される。また、導電性膜4への電流の安定供給および駆動時における電子放出特性の安定性の観点から、補助電極(2、3)の幅(W)は導電性膜4の幅(W')よりも大きく設定することが好ましい。
本発明の特徴である導電性膜4は、少なくとも、抵抗の異なる2種類の粒子(高抵抗粒子と低抵抗粒子)を含む。そのため、導電性膜4は、高抵抗な粒子71からなる第1粒子と低抵抗な粒子70からなる第2粒子とから構成されると言う事ができる。従って、第1粒子の抵抗は、第2粒子の抵抗よりも高いことになる。また、第1粒子および第2粒子は、それぞれ、導電性膜4中に多数配置される。すなわち、導電性膜4は複数の第1粒子と複数の第2粒子とを含む。本発明においては、前述したように、上記2種類の粒子の形態(平均粒径及び又は粒径の標準偏差)にそれほど差がなければ、「抵抗」という表現は「抵抗率」という表現と等価または実質的に等価である。そのため、第1粒子は「第2粒子を構成する材料に比して高抵抗率な材料からなる粒子」、第2粒子は「第1粒子を構成する材料に比して低抵抗率な材料からなる粒子」と表現することもできる。
上記第1粒子71及び第2粒子70は、詳しくは後述する抵抗比の関係を満たすように選択される。尚、ここで言う、「抵抗比」とは、第2粒子の抵抗に対する第1粒子の抵抗の比を意味している。換言すれば、「抵抗比」とは、(第1粒子71の抵抗)/(第2粒子70の抵抗)で表される値である。また、第1粒子と第2粒子の形態(平均粒径及び又は標準偏差)にそれほど差がなければ、「抵抗比」とは、「第1粒子を構成する材料の抵抗率/第2粒子を構成する材料の抵抗率」として表すことができる。第1粒子を構成する材料としては、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化パラジウム、酸化ビスマス、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、アモルファスカーボンなどが好ましく選択される。一方、第2粒子を構成する材料としては、パラジウム、コバルト、白金、ビスマス、イリジウム、ルテニウムなどが好ましく選択される。また、第1粒子および/または第2粒子の各々が、合金のような多元素で構成されるものであってもよい。このような形態の一例としては、例えば、第2粒子が、パラジウムとコバルトの合金から構成され、第1粒子がアモルファスカーボンから構成される場合が挙げられ、この組合せは特に好ましい。尚、バルク材料の抵抗率と、本発明のようなナノオーダーの粒子の材料の抵抗率は必ずしも比例関係にない。
また、導電性膜4中の第1粒子の含有率(導電性膜4に含まれる第1粒子の比率)は、後述する関係を満たすように設定される。尚、導電性膜4は非常に薄い膜である。そのため、導電性膜4中の第1粒子(または第2粒子)の含有率は、「導電性膜4中の第1粒子(または第2粒子)の面積占有率」と言い換えることができる。上記含有率(面積占有率)は、典型的には、導電性膜4の上方から後述するFE−AESやESCAやXPS、EPMA等によって測定した際の第1粒子の含有率(第1領域の面積占有率)から算出する事が出来る。勿論、第2粒子の含有率(第2領域の面積占有率)から算出することもできる。
尚、本発明の導電性膜4は互いに抵抗の異なる3種類以上の粒子で構成された場合にも適用することができる。
後述する「通電フォーミング」処理により形成される間隙7を、より再現性よく、かつ、低電力で形成することができるので、多数の粒子で導電性膜4が構成される。これは、後述する電界集中領域を導電性膜4中に多数形成できるためである。
尚、導電性膜4に含まれる多数の粒子の一部または全部において、隣り合う粒子同士が焼結した形態や融着した形態(例えばひょうたん形状やピーナッツ形状)であっても良い。粒子の粒径(典型的には粒子の最大径(直径)で規定することができる)は、均一である必要はないが、前述したように粒子の形態(平均粒径及び又は標準偏差)の差が少ない方が好ましい。
本発明の導電性膜4は、スパッタリング法や蒸着法やインクジェット法などの公知の様々な製造方法を用いて形成することができる。例えば、多数の酸化ニッケル粒子と多数の白金(Pt)粒子とからなる導電性膜4をインクジェット法で形成する場合には、ニッケル錯体と白金錯体とを溶媒に溶かしてインクを用意する。そして、このインクをインクジェット装置を用いて上記した基体1上に塗布(付与)する。そして、その後、酸素含有雰囲気中で焼成することで、酸化ニッケル粒子と白金粒子とを含む導電性膜4を形成できる。金属錯体としては、パラジウムやコバルトなどの錯体も候補に挙げることができる。また、溶媒(分散媒)中に、ニッケル酸化物の粒子と白金粒子とを分散させたインクを用意し、これをインクジェット法や回転塗布法などを用いて、基体1上に塗布し、溶媒を加熱除去することで導電性膜4を形成することもできる。
本発明に好適に用いられる導電性膜4は、「通電フォーミング」処理時に電界(または電流)が集中する領域を、多数備える。そのため、導電性膜4は、不均質な膜(特段の周期性や規則性が実質的にない膜)であるほど、本発明の効果が顕著になる。このような不均質な膜を得るために、本発明の導電性膜4は、多数の第1粒子と多数の第2粒子とが混在した膜で構成される。
また、上記した不均質な膜を形成する方法も様々な手法を採用することができる。例えば、第1粒子と第2粒子を形成するための、それぞれの成膜タイミングや成膜条件を互いに異ならせてスパッタリング法や蒸着法で形成する方法を採用することができる。また、第1粒子と第2粒子とを溶媒中に分散したインクを用意し、これをインクジェット法で塗布する方法も採用することができる。このように様々な方法が考えられるが、勿論、本発明は、このような方法に限定されるものではない。
図4に、導電性膜4中に含まれる第1粒子71の含有率と、第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値(導電性膜4の抵抗値)と、の関係を示す。即ち、(A)の場合は、導電性膜4が第2粒子70のみで構成されており、(D)の場合は、導電性膜4が第1粒子71のみで構成されていることを表している。また、図5(A)〜(D)は、図4の表中に示された(A)〜(D)の割合で第1粒子71が含まれた導電性膜4を、それぞれ、上から見た際の模式図である。
第1粒子71と第2粒子70とを、均質(均一)に混ざり合わせた場合は、導電性膜4中に含まれる第1粒子71の割合の変化に対応して、第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値が、ほぼ線形に変化する(図4の破線60参照)。一方、図5(B)、(C)の様に第1粒子71と第2粒子70とを不均質に混ざり合わせた場合、第1粒子71の含有率の変化に対する、第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値の変化は、非線形となる(図4の実線61参照)。即ち、第1粒子と第2粒子とが不均質に存在する(不均質に混ざった)導電性膜4では、第1粒子の面積占有率の変化に対する、第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値の変化が、非線形となる。
次に、「通電フォーミング」処理中に、導電性膜4内で電界が集中する領域について、図5(A)〜(D)を用いて説明する。尚、図5(A)〜(D)において、1は基体、2は第1補助電極、3は第2補助電極、4は導電性膜、70は第2粒子、71は第1粒子である。
図5(A)の形態は、導電性膜4中に含まれる第1粒子71の割合(第1粒子の面積占有率)が0%の場合である。即ち、この場合は、導電性膜4が全て第2粒子70のみから構成されることになる。そのため第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値は、第1粒子71を含む場合に比べて低くなる。そして、導電性膜4の抵抗は実質的にどの場所においても変わらないため、定性的には、電界が集中する(特異的に電流が集中する)ような特異的な領域は発生しない。
図5(B)の形態は、導電性膜4中に第2粒子70と第1粒子71とが存在した場合である。即ち、導電性膜4に第2粒子70と第1粒子71とが不均質に存在する。図5(A)の場合に比べ、第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗が大きくなる。また、この形態の導電性膜4に「通電フォーミング」処理を行うと、第1補助電極2と第2補助電極3との間を流れる電流のパスが局所的に制限されるため、局所的に電界が集中する領域72が導電性膜4の一部に生成される。
図5(C)の形態は、導電性膜4中に含まれる第1粒子71の割合を図5(B)の形態に比べて多くした場合である。この場合、図5(B)の場合よりも、第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値自体が大きくなる。また、この形態の導電性膜4に「通電フォーミング」処理を行うと、図5(B)の場合と同様に、電流パスが制限され、局所的に電界が集中する領域72が生成される。
図5(D)の形態は、導電性膜4中に含まれる第1粒子71の割合が100%の場合である。即ち、この場合は、導電性膜4が全て第1粒子71から構成されることになる。そのため、第1補助電極2と第2補助電極3の間の抵抗値は図5(A)〜(C)のいずれの形態よりも高くなる。そして、この場合は、図5(A)の場合と同様に、「通電フォーミング」処理時において電界が局所的に集中するような特異的な領域は発生しない。
つまり、図5(B)や図5(C)の様に、第1粒子71と第2粒子70とを不均質に混ぜ合わせることで構成した導電性膜4を用意すれば、「通電フォーミング」処理時に電界が集中する領域72を予め設けておくことができる。その結果、第1の間隙7を、再現性良く低い電力で形成することができる。図5(A)や図5(D)の形態の導電性膜4に「通電フォーミング」処理を行っても、実質的には、電界の集中を利用せずに間隙7を形成することになる。その結果、図5(A)や図5(D)の形態の導電性膜4では、本発明の「通電フォーミング」処理に要する電力に比べ、遥かに大きな電力が必要となる。従って、図5(A)や図5(D)の形態の導電性膜4に「通電フォーミング」処理を低い電力で行うために、従来は、導電性膜4を金属酸化物で形成し、還元性ガスを含む雰囲気下で「通電フォーミング」処理を行わなければならなかった。尚、金属膜で導電性膜4を構成すると、多大な電流を流す必要があり、大きな電力が必要となる。
この様に、第1粒子71と第2粒子70とを混ぜた導電性膜4を用いることで、「通電フォーミング」処理時に電界が集中する領域72を導電性膜4に予め設けておくことができる。しかし、電子放出素子を作成する場合には、導電性膜4の一部に僅かな間隙7が形成されても十分な電子放出特性を得ることができない。十分な電子放出特性を得るためには、導電性膜4の幅(W')方向(補助電極2と補助電極3とが対向する方向とは実質的に垂直な方向)において、導電性膜4の端から端まで延在する間隙7を形成することが重要である。この様な十分な電子放出特性を得ることのできる間隙7を形成するには、「通電フォーミング」時に、電界が集中する領域72を多数発生させる必要がある。十分な電子放出特性を得ることのできる間隙7は、前述した様に、実用的には、第1電極4aと第2電極4bとの間の抵抗値(補助電極2と補助電極3との間の抵抗値)が「通電フォーミング」前に比べて2桁以上上昇した形態であると言える。
そこで、図6(A)〜(C)を用いて、「通電フォーミング」時に多数の電界集中点を発生させることのできる導電性膜4について説明する。
図6(A)〜(C)では、導電性膜4中の第1粒子71の割合(第1領域の面積占有率)を30%(第2粒子70の割合(第2領域の面積占有率)を70%)に固定している。そして、第1粒子71と第2粒子70の抵抗の比を変化させた時に、「通電フォーミング」処理で形成される間隙7の形態の差を模式的に示した。
「通電フォーミング」処理時に投入する電力(補助電極2と補助電極3との間に投入する電力)を一定にした場合、形成される間隙7の形態は、大きく分けると、図6(A)、図6(B)、図6(C)の3つに分類することができる。
図6(A)に示す形態は、抵抗比(第1粒子71の抵抗/第2粒子70の抵抗)を5より小さくした場合を示している。即ち、この形態では、間隙7は互いに離れて(途切れて)複数形成される場合が多い。そして、この様な形態では、間隙7が導電性膜4の幅(W')方向の全域に渡って形成されず、第1補助電極2と第2補助電極3とが導電性膜4を介して、実質的にオーミックな接続を維持したままとなる場合が多い。この原因としては、第1粒子71と第2粒子70との抵抗比が小さいために、「通電フォーミング」時に発生する電界集中領域の数が少なかったため、あるいは、発生した電界の強度が弱かったためではないかと推察される。また、この形態の場合には、「活性化」処理を行っても大きな電子放出量を得ることができない。また、電子放出時に第1補助電極2と第2補助電極3との間を流れる無効電流(素子電流If)が多くなる。
図6(B)に示す形態は、抵抗比を5以上1000以下とした場合を示している。この形態では、図6(A)に示した形態とは異なり、1つの連続した間隙7によって、導電性膜4が、実質的にまたは完全に、2つに分離されている。そして、この場合には、「通電フォーミング」処理の前と後で、導電性膜4の抵抗値が2桁以上上昇していた。また、この形態の場合には、「活性化」処理を行うと大きな電子放出量を得ることができた。そして、この形態の場合には、図6(A)の形態に比べて電子放出時に生じる無効電流を少なくすることができ、結果、高い電子放出効率(電子放出電流/素子電流)を得ることができる。
図6(C)に示す形態は、抵抗比を1000より大きくした場合を示している。この形態では、間隙7は、図6(A)に示した形態と同様に、間隙7が導電性膜4の幅(W')方向の全域に渡って形成されない。この原因としては、図6(A)の場合と同様、「通電フォーミング」時に発生する電界集中領域が少なかったため、あるいは、発生した電界の強度が弱かったためではないかと推察される。
この様に、導電性膜4中に含まれる第1粒子71の割合を30%(第2粒子70の割合を70%)に設定した場合は、抵抗比を5以上1000以下に設定する。この様に設定することで、間隙7を、実質的に、導電性膜4の幅(W')方向の全域に渡って形成することができる。また、「通電フォーミング」処理の前と後で、導電性膜4の抵抗値が2桁以上上昇させることができる。
次に、図6に示した例は、導電性膜4中に含まれる第1粒子71の割合を30%に設定した例であった。そこで、抵抗比を変化させることに加えて、導電性膜4中に含まれる第1粒子71の割合(第1領域の面積占有率)をも変化させた場合に形成される間隙7について、図7の表に示す。図7の表において、横軸は導電性膜4中に含まれる第1粒子71の割合(第1領域の面積占有率)であり、縦軸は抵抗比である。尚、図7に示された表では、「通電フォーミング」時に導電性膜4への印加電圧(第1補助電極2と第2補助電極3との間に印加する電圧)を全てのケースで同じ電圧とした場合について表している。
尚、粒子の抵抗の制御は、用いる材料や組成の制御に限らず、例えば、第1粒子の酸化度合いを制御することによっても行うことができる。また、第1粒子およびあるいは第2粒子のそれぞれを同じ2種類の元素から構成し、その2種類の元素の含有率(組成比)を変えることによっても実現することができる。
図7の表中における、○印は、図6(B)で説明した場合と同様に、「通電フォーミング」処理によって、(実質的に)1つの連続した間隙7が形成された場合を示している。即ち、「通電フォーミング」処理によって間隙7が形成され、且つ、「通電フォーミング」処理の前と後で、導電性膜4の抵抗値が2桁以上上昇させることができた場合を示している。
一方で、図7の表中における×印は、図6(A)や図6(C)で説明した場合などと同様に、良好な間隙7が形成されなかった場合を示している。
図7の表から、以下の(1)〜(3)のいずれかに設定することで、導電性膜4を電気的に十分に分断する間隙7を再現性よく形成することができることがわかる。換言すると、以下の(1)〜(3)のいずれかに設定することで、「通電フォーミング」処理によって間隙7が形成され、且つ、「通電フォーミング」処理の前に比べ「通電フォーミング」処理の後の導電性膜4の抵抗値を2桁以上上昇させることができる。結果、良好な間隙7を形成することができ、良好な電子放出特性を得ることができる。
(1):抵抗比を5以上1000以下とし、且つ、導電性膜に含まれる第1粒子の割合を2%以上30%以下とする。
(2):抵抗比を5以上800以下とし、且つ、導電性膜に含まれる第1粒子の割合を2%以上40%以下とする。
(3):抵抗比を5以上400以下とし、且つ、導電性膜に含まれる第1粒子の割合を2%以上60%以下とする。
上記(1)〜(3)のいずれかの条件を満たす導電性膜4を用いれば、従来、金属酸化物の導電性膜の「通電フォーミング」時に必要であった還元性ガスを用いなくとも、還元性ガスを用いた場合と同等の小さな電力で良好な間隙7を得ることができる。
換言すると、本発明の導電性膜4では、(A)導電性膜に含まれる第1粒子の割合を2%以上30%以下の範囲とする場合には、抵抗比を5以上1000以下に設定し、(B)導電性膜に含まれる第1粒子の割合を30%より大きく40%以下の範囲とする場合には、抵抗比を5以上800以下に設定し、(C)導電性膜に含まれる第1粒子の割合を40%より大きく60%以下の範囲とする場合には、抵抗比を5以上400以下とする。
この様に導電性膜4を設定することで、「通電フォーミング」処理中における導電性膜4の還元状態(抵抗の変化)の制御を基本的に不要にすることができる。さらに、上記の様に導電性膜4を設定することで、「通電フォーミング」に要する電力も小さくすることができ、製造装置を簡略化することができる。また、同時に、「通電フォーミング」処理に要する時間も短縮できる。
また、第2粒子の抵抗に対する前記第1粒子の抵抗の比を50以上400以下とすれば、前述した粒径の標準偏差を33.3%まで許容しても、良好な電子放出特性を得ることができる。また、このとき、前記第1粒子の比率が2%以上50%以下とすることが実用上好ましく、さらには、第1粒子および第2粒子の平均粒径を5nm以上20nm以下とすることが特に好ましい。
尚、本発明に用いる導電性膜4は抵抗の異なる2種類の粒子でのみ構成されるものに限定されるものではない。即ち、本発明は、導電性膜4が互いに抵抗の異なる3種類以上の粒子で構成された場合にも適用可能である。その場合、実用上、合計の含有率(面積占有率)が、導電性膜4の70%以上に達する2種類の粒子の組合せを選択し、当該2種類の粒子間で、前述した抵抗及び含有率の関係を満たせば本発明の効果を奏する事ができる。
上記の条件を満たす本発明の導電性膜4を用いれば、「通電フォーミング」処理後における第1電極4aと第2電極4bとの間の抵抗値を「通電フォーミング」処理前に比べて2桁以上高くすることができる。さらに、間隙7の形状のばらつきも少なくすることができる。そして、「通電フォーミング」処理後において、第1電極4aと第2電極4bとの間に流れる無効電流を少なくすることができる。
従って、多数の導電性膜(「通電フォーミング」処理後の導電性膜)を配線に共通に接続し、後述する「活性化」処理を多数の導電性膜に同時に行った場合、配線に流れる無効電流を低減できる。そのため、「活性化」処理時の配線における電圧降下を低くすることができる。そのため、各導電性膜(電子放出素子)に対して、均一性の高い「活性化」処理を、共通の配線を介して簡便に行うことができる。
上記(工程2)に続いて、好ましくは(工程3)として、「活性化」処理を行う。第1の間隙7の形態や間隙7の幅(第1電極4aと第2電極4bの間隔)や導電性膜4の材料などにもよるが、「活性化」処理を行うことで、電子放出電流(Ie)、電子放出効率(Ie/If)を向上することができる。尚、(工程2)で形成される間隙7が、1nm以上10nm以下であり、駆動時(電子放出時)に安定した電子放出特性を長期に渡って維持することができる場合は、必ずしも「活性化」を行う必要はない。例えば、「通電フォーミング」処理により形成される間隙7の幅が、典型的には、1nm以上10nm以下(好ましくは3nm以上10nm以下)に形成されれば、「活性化」処理を行わなくても良い場合もある。
「活性化」処理を行うことで、「通電フォーミング」で形成した第1の間隙7の内側に位置する基体1の表面上およびその近傍の電極(4a、4b)上に、導電性のカーボン膜(21a、21b)を配置することができる(図1(c)、図2(c)参照)。この結果、第1の間隙7の内側に、第2の間隙8が形成される。第2の間隙8は、第1のカーボン膜21aと第2のカーボン膜21bとの隙間に相当する。第2の間隙8の幅(第1のカーボン膜21aと第2のカーボン膜21bとの間隔)は、典型的には、1nm以上10nm以下(好ましくは3nm以上10nm以下)に設定される。3nm以上であれば、30V未満の電圧を第2の間隙8に加えても安定な電子放出を長期に渡って維持できる。10nmを超えると、駆動時に必要な電圧(電子放出させるために必要な電圧)が高くなり、用いる駆動回路のコストが高くなってしまう。
「活性化」処理は、典型的には、炭素含有ガス(例えば有機物質ガス)を含む雰囲気下で、第1電極4aと第2電極4bとの間(補助電極2と補助電極3の間)に電圧パルスを繰り返し印加することで行うことができる。尚、電圧パルスは、第1電極4aと第2電極4bの電位の関係(補助電極2と補助電極3の電位の関係)を周期的に逆転させながら、繰返し印加することが好ましい。この様に第1電極4aと第2電極4bの電位の関係(補助電極2と補助電極3の電位の関係)を繰返し逆転させながら電圧パルスを印加することで、カーボン膜を第1電極4a側と第2電極4b側の双方に効率良く堆積させることができる。
上記炭素含有ガスの典型例としては有機物質が挙げられる。有機物質としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキンの脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、フェノール、カルボン、スルホン酸等の有機酸類等を挙げることが出来る。また、より具体的には、メタン、エタン、プロパンなどCnH2n+2で表される飽和炭化水素、エチレン、プロピレンなどCnH2n等の組成式で表される不飽和炭化水素を用いることができる。また、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミン、エチルアミン、フェノール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等も使用できる。
「活性化」処理により、雰囲気中に存在する有機物質から、炭素或は炭素化合物からなる膜(カーボン膜21a、21b)を形成することができる。その結果、一般的に、放出電流Ieを著しく向上することができる。
炭素或は炭素化合物とは、例えばグラファイト(いわゆるHOPG,PG,GCを包含する)、非晶質カーボン(アモルファスカーボンまたはアモルファスカーボンと前記グラファイトの微結晶の混合物)である。尚、HOPGはほぼ完全なグラファイト結晶構造を指し、PGは結晶粒が20nm程度で結晶構造がやや乱れたものを指、GCは結晶粒が2nm程度になり結晶構造の乱れがさらに大きくなったものを指す。
良好な電子放出特性を長期に渡って維持する上で、カーボン膜(21a、21b)の膜厚は、10nm以上100nm以下の範囲とするのが好ましい。
「活性化」は、例えば、第1電極4aと第2電極4bとの間(第1補助電極2と第2補助電極3との間)を流れる素子電流(If)を測定し、素子電流の値が所望の値に到達した時点で終了することができる。なお、「活性化」処理で用いる電圧パルスのパルス幅、パルス間隔、パルス波高値などは適宜所望の値に設定される。
この「活性化」処理で堆積された導電性のカーボン膜(21a、21b)により、第1の間隙7の幅を実効的に狭めることができ、結果、電子放出に必要な駆動電圧を下げることができ、かつ、電子放出効率(Ie/If)を向上させることができる。
また、上記(工程3)に続いて、好ましくは(工程4)として、カーボン膜(21a、21bが形成された基体1にベーキング処理を施す。この工程は、上記「活性化」処理を行って形成した電子放出素子を、大気圧よりも低い圧力に維持された雰囲気(減圧雰囲気)中で、加熱処理することで、基体1の表面や電子放出素子表面に付着した余分な不純物を除去する。
ベーキング処理時の大気圧よりも低い圧力雰囲気中における有機成分の分圧は、炭素あるいは炭素化合物がほぼ新たに堆積しない分圧である。典型的には炭素あるいは炭素化合物の分圧が10−6Pa以下、好ましくは10−8Pa以下に設定される。
また、ベーキング条件は、80℃〜250℃好ましくは150℃以上に設定される。真空容器内の圧力は極力低くすることが必要で、10−5Pa以下が好ましく、さらには10−6Pa以下が特に好ましい。
以上のような工程を経て形成される本発明の電子放出素子を駆動する際の雰囲気は、上記ベーキング処理終了時の雰囲気を維持するのが好ましいが、これに限るものではない。例えば、有機物質が十分除去されていれば、真空度自体は多少上昇しても十分安定な特性を維持することが出来る。このような真空雰囲気を採用することにより、新たな炭素あるいは炭素化合物の堆積を抑制でき、また真空容器や基板などに吸着したH2OやO2なども除去でき、結果として素子電流If,放出電流Ieが、安定する。
また、上述した本発明の導電性膜4を構成する第1粒子と第2粒子の抵抗比及び導電性膜4に含まれる第1粒子の比率は、上記「通電フォーミング」工程前の導電性膜4から検証する事が好ましい。しかしながら、例えば、導電性膜4の一部であって、補助電極(2、3)上に位置する部分は、間隙7の近傍に比べて、電子放出素子や画像表示装置を製造する工程の影響を受け難い。従って、上記した抵抗比や導電性膜4中の第1粒子の比率や組成比等を分析する際には、例えば、上記部分を分析することで、「通電フォーミング」前の導電性膜4の状態を実効的に測定することができる。
導電性膜4中の第1粒子の比率(「面積占有率」)の測定方法としては、例えばFE−AES(Field Emission Auger Electron Spectrometry)や、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)や、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて測定することができる。即ち、導電性膜4表面の2次元的な表面解析を行うことで組成を測定することができる。ESCAやXPSでは、導電性膜4表面の単位面積あたり(典型的には縦1μm×横1μmの正方形の領域で定義することができる)の化学結合状態をマッピングすることによって測定することができる。
導電性膜4が多数の粒子で構成されている場合、電界放射型オージェ電子分光分析装置(FE−AES)を用いることでも、各粒子の組成を分析することが可能である。導電性膜4の膜厚は、補助電極2と補助電極3の間隔および幅に比べて、非常に小さい値である。そのため、導電性膜4の表面状態を測定しさえすればよい。第1粒子(第1領域)と第2粒子(第2領域)の比(面積比)や、第1粒子(第1領域)および/または第2粒子(第2領域)の面積占有率は、導電性膜4の上方から上述した方法を用いて実効的に算出することができる。尚、本発明に用いることができる導電性膜は、その一部において、その膜厚方向に複数(典型的には2個)の粒子が重なっている形態のものを除外するものではない。
また、上記第1粒子及び/又は第2粒子の抵抗の測定は、補助電極(2、3)上に位置する導電性膜の一部を切り出して行うような、様々な測定方法を用いて行う事もできる。
また、上述したFE−AESを用いて、粒子の組成を分析し、当該分析した粒子の抵抗をAFM(原子間力顕微鏡)のコンタクトモードを利用してAFMのプローブを粒子に接触させて測定することもできる。この方法の場合は、特に、補助電極(2、3)上に位置する導電性膜(粒子)を測定することが好ましい。この方法によれば、AFMのプローブと補助電極との間に流れる電流から粒子の抵抗を測定することができる。
上述した工程を経て得られた本発明の電子放出素子の基本特性について、図8,図9を参照しながら説明する。尚、ここでは、上記「活性化」処理を行った電子放出素子について説明する。また、説明を簡略化するために、補助電極(2、3)を図面から省略している。
図8は、真空処理装置の一例を示す模式図であり、この真空処理装置は測定評価装置としての機能をも兼ね備えている。図8においても、図1に示した粒子と同じ粒子には図1に付した符号と同一の符号を付している。
図8において、55は真空容器であり、56は排気ポンプである。真空容器55内には電子放出素子が配されている。51は第1電極4aと第2電極4bとの間(第1補助電極2と第2補助電極3との間)に素子電圧Vfを印加するための電源である。50は第1電極4aと第2電極4bとの間(第1補助電極2と第2補助電極3との間)を流れる素子電流Ifを測定するための電流計である。54は電子放出素子から放出される放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極である。53はアノード電極54に電圧を印加するための高圧電源である。52は電子放出素子から放出される放出電流Ieを測定するための電流計である。アノード電極54の電圧は、1KV〜10KVであり、アノード電極54と電子放出素子との距離Hを1〜8mmの範囲として測定を行うことができる。真空容器55内には、不図示の真空計等の真空雰囲気下での測定に必要な機器が設けられていて、所望の真空雰囲気下での測定評価を行えるようになっている。
排気ポンプ56は、ターボポンプ、ロータリーポンプ等からなる通常の高真空装置系と、イオンポンプ等からなる超高真空装置系とにより構成することができる。ここに示した真空装置は、不図示のヒーターにより加熱できる。従って、この真空装置を用いると、前述の「通電フォーミング」以降の工程も行うことができる。
図9は、図8に示した真空装置を用いて測定された放出電流Ie及び素子電流Ifと、素子電圧Vfとの関係を模式的に示した図である。図9においては、放出電流Ieが素子電流Ifに比べて著しく小さいので、任意単位で示している。尚、縦・横軸ともリニアスケールである。図9に示す特性は、「通電フォーミング」処理によって上述した幅などの条件を満たす間隙7を形成することができた場合には、「活性化」処理を行わなくても、似通った特性を得ることができる。
図9からも明らかなように、本発明の電子放出素子は、放出電流Ieに関して次の3つの特徴的性質を有する。
即ち、第1に、本素子はある電圧(閾値電圧と呼ぶ;図9中のVth)以上の素子電圧を印加すると急激に放出電流Ieが増加し、一方閾値電圧Vth以下では放出電流Ieが殆ど検出されない。つまり、放出電流Ieに対する明確な閾値電圧Vthを持った非線形素子である。
第2に、放出電流Ieが素子電圧Vfに単調増加依存するため、放出電流Ieは素子電圧Vfで制御できる。
第3に、アノード電極54(図8参照)に捕捉される放出電荷は、素子電圧Vfを印加する時間に依存する。つまり、アノード電極54に捕捉される電荷量は、素子電圧Vfを印加する時間により制御できる。
以上の説明より理解されるように、本発明の電子放出素子は、入力信号に応じて、電子放出特性を容易に制御できることになる。この性質を利用すると複数の電子放出素子を配して構成した電子源、画像形成装置等、多方面への応用が可能となる。
次に、本発明の電子放出素子の応用例について以下に述べる。本発明の電子放出素子を複数個基板上に配列し、例えば電子源や画像表示装置が構成できる。
電子放出素子の配列については、種々のものが採用できる。一例として、一方向(行方向)に配置した多数の電子放出素子が並列に接続されるように、夫々の第1導電性膜4aと第2導電性膜4bとを第1の配線と第2の配線で共通に接続する。そして、この様にして構成した電子放出素子の行を、多数、同一基板上に配列する。そして、同一方向(行方向)に伸びる第1および第2の配線と直交する方向(列方向)に、且つ、各電子放出素子の上方に位置するように、制御電極(グリッドとも呼ぶ)を配置する。この様な構成とすることにより、各電子放出素子から放出される電子を制御することができる。
一方で、電子放出素子をX方向及びY方向に行列状に複数個配し、同じ行に配された複数の電子放出素子の第1導電性膜4aをX方向の配線に共通に接続し、同じ列に配された複数の電子放出素子の第2導電性膜4bをY方向の配線に共通に接続する形態もある。この様な形態はいわゆる「単純マトリクス」配列である。単純マトリクス配列について以下に詳述する。
本発明の電子放出素子については、前述した通り3つの特性がある。即ち、電子放出素子からの放出電子は、閾値電圧以上では、第1導電性膜4aと第2導電性膜4bとの間に印加するパルス状電圧の波高値と幅で制御できる。一方、閾値電圧以下では、殆ど放出されない。この特性によれば、多数の電子放出素子を配置した場合においても、個々の電子放出素子にパルス状電圧を適宜印加すれば、入力信号に応じて、電子放出素子を選択して電子放出量を制御できる。
以下この原理に基づき、本発明の電子放出素子を「単純マトリクス」配列して得られる電子源を備えた基板(リアプレート)71について、図10を用いて説明する。図10において、71は基板(リアプレート)、72はX方向配線(Dx1〜Dxm)、73はY方向配線(Dy1〜Dyn)である。74は本発明の電子放出素子である。
m本のX方向配線72は、Dx1,Dx2,……,Dxmからなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成することができる。配線の材料、膜厚、幅は適宜設計される。Y方向配線73は、Dy1,Dy2,……,Dynのn本の配線よりなり、X方向配線72と同様に形成される。これらm本のX方向配線72とn本のY方向配線73との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している(m,nは、共に正の整数)。
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された酸化シリコン(典型的にはSiO2)等で構成される。X方向配線72とY方向配線73の交差部の電位差に耐え得るように、層間絶縁層の膜厚、材料、製法が適宜選択される。X方向配線72とY方向配線73は、画像表示装置などの大気圧よりも低い圧力に維持された空間の内部から外部に端子として引き出されている。
各電子放出素子74を構成する第1導電性膜4a(第1補助電極2)はm本のX方向配線72のいずれか1つと電気的に接続され、第2導電性膜4b(第1補助電極3)はn本のY方向配線73のいずれか1つに電気的に接続されている。
配線72と配線73を構成する材料及び第1および第2導電性膜(第1および第2補助電極)を構成する材料は、その構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、また夫々異なってもよい。
尚、このような「単純マトリクス」配列の電子源を備える基板(リアプレート)の製造方法の一例を図17を用いて以下に説明する。
まず、基体(リアプレート)71上に、第1補助電極2と第2補助電極3とからなる電極ユニット(2、3)を、所望の数(例えば、1920(列)×1080(行))、行列状に設ける(図17(a))。
次に、補助電極3を縦方向に共通に接続するX方向配線72を、電極ユニットの列数に相当する数と同数(または同数以上)設ける(図17(b))。
続いて、次の工程で形成するY方向配線73とX方向配線72とが交差する各交差部に絶縁層44を形成する(図17(c))。
次に、補助電極2を横方向に共通に接続するY方向配線73を、電極ユニットの行数に相当する数と同数(または同数以上)設ける(図17(d))。
次に、各々が、各電極ユニットの第1補助電極2と第2補助電極3とを接続するように、前述した本発明の導電性膜4を、電極ユニット数と同数形成する(図17(e))。
続いて、各導電性膜4に間隙7を設ける(図17(f))。間隙7の形成は、1つのY方向配線73に共通に接続する全てのユニットに実質的に同時に行うことが好ましい。
具体的な方法を図18を用いて説明する(尚、図18において、他の図面で用いた番号と同じ番号を付した粒子は、同じ粒子を示している)。例えば、多数あるY方向配線73のうちの1つのY方向配線をスイッチング回路1403を用いて選択するのと同期して、全てのX方向配線72を選択する。全てのX方向配線72を選択する手法としては、例えば、全てのX方向配線を共通電極1401に接続すれば良い。そして、スイッチング回路1403を用いて選択した1つのY方向配線と全てのX方向配線72との間に図3に示したような電圧パルスをパルス発生源1402を用いて印加することで、前述した「通電フォーミング」工程を行えばよい。この様にすれば、選択されたY方向配線に共通接続された全てのユニット(選択されたY方向配線に共通接続された導電性膜4)に対し、多少時間的なズレは生じるが、実質的に同時に間隙7を形成することができる。そして、このような動作を、スイッチング回路1403を用いて順次選択するY方向配線を切り替えていけば、全てのユニットに間隙7を形成することができる。
尚、ここでは、1つのY方向配線毎に「通電フォーミング」工程を行う例を示したが、複数のY方向配線を同時に選択すれば、同時に選択された複数のY方向配線に共通に接続する導電性膜4に、実質的に同時に「通電フォーミング」処理を行うこともできる。
また、本発明の導電性膜4は、理想的には1回の電圧パルスの印加で間隙7を形成することができる。そのため、「通電フォーミング」工程で印加するパルスは、理想的には、Y方向配線の数だけで済む(例えばY方向配線73の数が1080ならパルス数は1080回)。しかしながら、配線の抵抗や、電極ユニットの抵抗や、導電性膜4の抵抗などのバラツキによっては必ずしも1回の電圧パルスの印加で間隙7が形成されるとは限らない。従って、「通電フォーミング」において、1つのY方向配線あたりに印加する電圧パルスは、複数回印加することが、安定に、再現性良く、良好な間隙7を形成する上で好ましい。
また、1つのY方向配線あたりに印加する電圧パルスの数が1より大きい場合は、連続する電圧パルスの間(パルスとパルスの間)に、他のY方向配線に共通して接続されたユニットに対して電圧パルスを印加することが好ましい。即ち、図18を用いて説明すると、例えば、Dy1を選択して電圧パルスを印加した後に次にDy1を選択して電圧パルスを印加するまでの間に、Dy2〜Dy1080まで順次電圧パルスを印加する。このようにすれば、「通電フォーミング」工程に要する時間を短縮することができる。また、複数のY方向配線を同時に選択すれば、その本数の応じてさらに「通電フォーミング」処理に要する時間を短縮することができる。例えば、Y方向配線(Dy1〜Dy1080)を10本づつに分けて108のグループを設定する。そして、108のグループの各々から1つのY方向配線を同時に選択して電圧パルスを1回印加する。続いて、108のグループの各々から別のY方向配線を同時に選択し電圧パルスを1回印加する。この手順を順次繰返すことで、実質的に10本のY方向配線を同時に「通電フォーミング」処理を行うことができる。このようにすれば、短時間に多数の導電性膜4に間隙7を形成することができる。
そして、上記した「単純マトリクス」型の電子源のX方向配線72には、X方向に配列した電子放出素子74の行を選択するための走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線73には、Y方向に配列した電子放出素子74の各列を入力信号に応じて変調するための、不図示の変調信号発生手段が接続される。各電子放出素子に印加される駆動電圧は、走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
次に、この様な単純マトリクス型の電子源を用いて構成した画像表示装置について、図11と図12を用いて説明する。図16は、画像表示装置のディスプレイパネル88の一例を示す模式図であり、図12は、図11のディスプレイパネル88に使用される蛍光体膜84の一例の模式図である。
図11において、71は電子放出素子74を複数配した基板(リアプレート)であり、72,73は、電子放出素子の一対の補助電極(2,3)と接続されたX方向配線及びY方向配線ある。86はガラス基板83の内面に蛍光体膜84とアノード電極である導電性膜(メタルバック)85等が形成されたフェースプレートである。82は支持枠であり、該支持枠82には、リアプレート71、フェースプレート86が接続されている。88はディスプレイパネルであり、フェースプレート86と支持枠82とリアプレート71とで構成される。
尚、フェースプレート86とリアプレート81の間に、スぺーサーと呼ばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつディスプレイパネル88を構成することもできる。
図12は、蛍光体膜84の一例を示す模式図である。蛍光体膜84は、モノクロームの場合は蛍光体のみで構成することができる。カラーの蛍光体膜の場合は、蛍光体の配列により、ブラックストライプ(図17(a))あるいはブラックマトリクス(図17(b))等と呼ばれる光吸収部材(黒色部材)91と蛍光体92とから構成することができる。光吸収部材91を設ける目的は、カラー表示の場合、異なる発光色の蛍光体92間の境目を黒くすることで混色等を目立たなくすることと、蛍光膜84における外光反射によるコントラストの低下を抑制することにある。光吸収部材91の材料としては、黒鉛を主成分とする材料の他、導電性があり光の透過及び反射が少ない材料を用いることができる。
蛍光体膜84の内面側(リアプレート側)には、通常、アノード電極(導電性膜)85が設けられる。このアノード電極を、アルミニウムなどの金属膜で形成したものが「メタルバック」と呼ばれる。メタルバックを設ける目的としては、蛍光体からの発光のうち内面側(リアプレート側)へ向かう光をフェースプレート86側へ反射させることによりディスプレイの発光輝度を向上させることが挙げられる。また、電子ビーム加速電圧を印加するためのアノード電極として作用させること、及び、ディスプレイパネル88内で発生した負イオンの衝突によるダメージから蛍光体を保護すること等が挙げられる。メタルバックは、蛍光体膜作製後、蛍光体膜の内面側表面の平滑化処理(通常、「フィルミング」と呼ばれる。)を行い、その後Alを真空蒸着等を用いて堆積させることで作製できる。
フェースプレート86には、更に蛍光体膜84の導電性を高めるため、蛍光体膜84の外面側(蛍光体膜84とガラス基板83の間)に透明電極(不図示)を設けてもよい。
この様なディスプレイパネル88は、例えば以下のようにして形成することが好ましい。即ち、上述した本発明の製造方法によって多数の電子放出素子を予めリアプレート71上に形成する(電子源を備える基板を用意する)。一方で、上述の方法などで蛍光体膜84とメタルバック85とをフェースプレート86上に形成する。そして、リアプレート71とフェースプレート86との間に支持枠82を配置し、支持枠82とフェースプレート及びリアプレートとの接合部をインジウムやフリットガラスなどの接着剤で接合し封止する。尚、支持枠82とフェースプレート及びリアプレートとの接合は、大気圧よりも低い所定の圧力下で行えば、そのまま、フェースプレートとリアプレートとの間の空間を所定の圧力に維持したディスプレイパネル88を得ることができる。
上記ディスプレイパネル88内の各電子放出素子74には、端子Dx1〜Dxm、Dy1〜Dynを通じて電圧を印加することにより、所望の電子放出素子から電子放出させることができる。この時、高圧端子87を通じ、導電性膜85に5kV以上30kV以下、好ましくは10kV以上25kV以下の電圧を印加する。尚、フェースプレート86と基板71との間隔は1mm以上5mm以下、更に好ましくは1mm以上3mm以下に設定される。この様にする事で、選択した電子放出素子から放出された電子は、導電性膜85を透過し、蛍光体膜84に衝突する。そして蛍光体92を励起・発光させることで画像を表示するものである。
なお、以上述べた構成においては、各粒子の材料等、詳細な部分は上記した内容に限られるものではなく、目的に応じて適宜変更される。
また、図11を用いて説明した本発明のディスプレイパネル88を用いて、テレビなどのような、情報を表示または再生する、情報表示再生装置を構成することができる。
具体的には、テレビジョン放送などの放送信号を受信する受信装置と、受信した信号を選曲するチューナーと、選曲した信号に含まれる映像情報、文字情報、音声情報の少なくとも1つを、ディスプレイパネル88のスクリーンに表示および/あるいは再生させる。尚、ここで言う「スクリーン」は、図11で示したディスプレイパネル88においては、蛍光体膜84に相当すると言うことができる。この構成によりテレビジョンなどの情報表示再生装置を構成することができる。勿論、放送信号がエンコードされている場合には、本発明の情報表示再生装置はデコーダも含むことができる。また、音声信号については、別途設けたスピーカーなどの音声再生手段に出力して、ディスプレイパネル88に表示される映像情報や文字情報と同期させて再生する。
また、映像情報または文字情報をディスプレイパネル88に出力してスクリーンに表示および/あるいは再生させる方法としては、例えば以下のように行うことができる。まず、受信した映像情報や文字情報から、ディスプレイパネル88の各画素に対応した画像信号を生成する。そして生成した画像信号を、ディスプレイパネル88の駆動回路に入力する。そして、駆動回路に入力された画像信号に基づいて、駆動回路からディスプレイパネル88内の各電子放出素子に印加する電圧を制御して、画像を表示する。
図13は、本発明に係るテレビジョン装置のブロック図である。受信回路は、チューナーやデコーダ等からなり、衛星放送や地上波等のテレビ信号、ネットワークを介したデータ放送等を受信し、復号化した映像データをI/F部(インターフェース部)に出力する。I/F部は、映像データを表示装置の表示フォーマットに変換して上記ディスプレイパネル88に画像データを出力する。画像表示装置は、ディスプレイパネル88、駆動回路及び制御回路を含む。制御回路は、入力した画像データに表示パネルに適した補正処理等の画像処理を施すともに、駆動回路に画像データ及び各種制御信号を出力する。駆動回路は、入力された画像データに基づいて、ディスプレイパネル88の各配線(図11のDox1〜Doxm、Doy1〜Doyn参照)に駆動信号を出力し、テレビ映像が表示される。受信回路とI/F部は、セットトップボックス(STB)として画像表示装置とは別の筐体に収められていてもよいし、また画像表示装置と同一の筐体に収められていてもよい。
また、インターフェースには、プリンター、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、ハードディスクドライブ(HDD)、デジタルビデオディスク(DVD)などの画像記録装置や画像出力装置に接続することができる構成とすることもできる。そして、この様にすれば、画像記録装置に記録された画像をディスプレイパネル88に表示させることもできる。また、ディスプレイパネル88に表示させた画像を、必要に応じて加工し、画像出力装置に出力させることもできる情報表示再生装置(またはテレビジョン)を構成することができる。
ここで述べた情報表示再生装置の構成は、一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。また、本発明の情報表示再生装置は、テレビ会議システムやコンピュータ等のシステムと接続することで、様々な情報表示再生装置を構成することができる。
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される範囲内での各要素の置換や設計変更を行うことができる。
[実施例1]
図14を用いて、本実施例の電子放出素子の作成方法を説明する。
(工程−a)
青板ガラス上にスパッタリング法により酸化シリコン層を堆積し、これを基板1とした。続いて、この基板1を洗浄した後、真空蒸着法により厚さ5nmのTi、厚さ25nmのPtを続けて堆積した後、フォトリソグラフィー技術によりパターニングし、補助電極(2,3)を形成した(図14(a))。補助電極の間隔L(図2(a)参照)は10μmとした。このようにして基板1上に第1補助電極2と第2補助電極3を配置した。そして、第1補助電極2と第2補助電極3との間をつなぐ導電性膜4を形成した(図14(b))。導電性膜4は、多数のCoOの粒子と多数のPdの粒子とが不均質に混合した膜からなり、スパッタリング法を用いて作成した。導電性膜4の幅W'(図2(a)参照)はいずれも60μmに設定した。
尚、それぞれの材料の堆積時間を制御することで、導電性膜4中に含まれるCoO粒子とPd粒子の含有率(組成比)を変化させた5種類の導電性膜4(下記(表1)参照)を作成した。即ち、上記工程−aによって、サンプル(各々が、(表1)に示す5種類の導電性膜4のいずれか1つの導電性膜と、その導電性膜に接続する第1及び第2補助電極とからなる)を5つ作成した。尚、本実施例では、パラジウムの抵抗に対しする酸化コバルトの抵抗は150(CoO:Pd=150:1)である。CoOの抵抗とPdの抵抗は、表1に示したNo.1とNo.5のサンプルを用いて行なうことができる。それぞれの粒子(CoO、Pd)の抵抗は、AFMのコンタクトモードを利用して測定することができることは前述したとおりである。また、含有率(面積占有率)は、FE−AESを用いて計測することができる。
尚、5種類の導電性膜4(No.1〜No.5)の膜厚は、いずれも、平均15nmとなるように成膜した。また、5種類の導電性膜4を構成する第1粒子および第2粒子の平均粒径はともに15nmであり、粒径の標準偏差は2nmであった。即ち、粒径の標準偏差は平均粒径の13.3%であった。
上記5つのサンプルの各々に対して、図8に示した真空容器55内で、以下の工程−b、工程−cを行った。
(工程−b)
第1補助電極2と第2補助電極3との間に電圧パルスを印加し、「通電フォーミング」処理を施した。なお、真空容器55内の圧力は、10−5Pa以下に維持した。パルス波形は、図3(b)に示した、波高値の漸増する三角波パルスを用いた。尚、パルス幅T1=1msec.、パルス間隔T2=10msec.とした。
No.1の導電性膜4を備えたサンプルは、波高値50Vで、間隙7が形成されたが、形成された第1の間隙7は、連続しておらず、途絶えた状態であった。
No.2の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値20Vで、間隙7が形成された。
No.3の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値15Vで、間隙7が形成された。
No.4の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値8Vで、間隙7が形成された。
No.5の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値5Vで、間隙7が形成されたが、形成された第1の間隙7は、導電性膜4の幅(W')(図2(a)参照)方向の端から端まで達していなかった。
No.2〜No.4の導電性膜4を備えたサンプルの第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値を測定したところ、「通電フォーミング」処理の前と後で、第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値が2桁以上(100倍以上)増加していた。また、電子顕微鏡にて間隙7の形態を観察した結果、No.2〜No.4の導電性膜4を備えたサンプルでは、第1補助電極2と第2補助電極3とが対向する方向とは実質的に直交する方向における導電性膜4の端から端まで連続した間隙7が形成されていた。
一方で、No.1の導電性膜4には、図6(A)に示される様に、分離した(不連続な)複数の間隙が形成されており、マクロ的に見ても、導電性膜4が十分に分断されていなかった。また、形成された間隙7の幅(補助電極2と補助電極3とが対向する方向における長さ)も非常に広く、後述の「活性化」処理を行っても十分な電子放出特性が得られなかった。そして、No.5の導電性膜4では、図6(C)に示される様に、分離した(不連続な)複数の間隙が形成されていた。また、No.1およびNo.5の導電性膜4を備えたサンプルでは、「通電フォーミング」処理後の補助電極2と補助電極3との間の抵抗値が、「通電フォーミング」処理前の抵抗値の10倍程度に留まっていた。
(工程−c)
上記工程―bに続いて、上記No.2〜No.4の導電性膜を備えたサンプルに対して、「活性化」処理を行った。具体的には、真空容器55内にトルニトリルのガスを導入し、補助電極2と補助電極3との間に波高値20Vの矩形波の電圧パルスを、補助電極2と補助電極3の電位の関係を周期的に逆転させながら、繰返し印加した。なお、パルス幅は1msec.、パルス間隔は10msec.とした。その結果、いずれのサンプルも、補助電極2と補助電極3との間に流れる電流が時間とともに増加した。補助電極2と補助電極3との間に流れる電流1mA程度に達した時点で「活性化」処理を終了した。「活性化」処理を施すことで、いずれのサンプルにも、図1(c)に示すように、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとが形成されていた。尚、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間には第2の間隙8が形成され、第2の間隙8内に位置する基体1の表面には凹部22が形成されていた。
(工程−d)
工程−cに続いて、No.2〜No.4のサンプルを、真空容器55と共に加熱処理した。尚、加熱処理している間、真空容器55内の排気を継続した。この処理は「安定化」処理と呼ばれる。真空容器55の内部の圧力が1.3×10−6Pa以下になった時点で「安定化」処理を終了した。
以上の工程によりNo.2〜No.4の導電性膜を用いた電子放出素子を作成した。
続いて、上記電子放出素子について、上記「安定化」処理で形成した真空度を維持した状態で、電子放出特性を測定した。測定は、電源51により補助電極2と補助電極3との間に電圧パルスを印加し、アノード電極54に1kVを印加して行った。アノード電極54と素子の間隔Hは4mmとした。その結果、図9と同様な非線形な電圧−素子電流特性と共に、良好な電子放出特性が観測された。
[比較例1]
比較例1では、導電性膜4として酸化パラジウム膜を用いた。そして、「通電フォーミング」処理を、還元性ガスである水素ガスを含む雰囲気中で行った。それ以外は、実施例1と同様に作成した。
尚、比較例1では導電性膜4として、以下の表2に示すように、3種類の酸化パラジウム膜を用いた。つまり、サンプル(各々が、下記(表2)に示す3種類の導電性膜4のいずれか1つと、その導電性膜に接続する第1及び第2補助電極とからなる)を3つ作成した。尚、導電性膜4の幅W'や補助電極の間隔Lなど(図2(a)参照)は上述した実施例と同様に設定した。また、(表2)にいおける「抵抗」は補助電極間の抵抗値に相当する。
「通電フォーミング」処理では、真空容器55内を10−5Pa以下に排気した後に、還元性ガス(N2:98%、H2:2%)を真空容器55内の圧力が1.3×10−3Paになるまで導入し、電圧パルスを複数回、補助電極2と補助電極3との間に印加した。「通電フォーミング」処理で用いたパルス波形は、上述した実施例とは異なり、図3(a)に示した波高値が一定の三角波パルスとした。パルス幅T1=1msec.、パルス間隔T2=10msec.とした。
本比較例の各サンプルに対する「通電フォーミング」処理の結果を下記表3に示す。尚、No.6の導電性膜4については同じものを5つ用意した(No.6−1〜No.6−5)。そして、No.6−1〜No.6−5の5つの導電性膜4に対してそれぞれ異なる電圧値(2V、10V、18V、25V、30V)で、「通電フォーミング」処理を行った。
尚、「通電フォーミング」処理の際に、補助電極2と補助電極3との間に流れる最大電流をフォーミング電流:Iformとし、そのときに補助電極2と補助電極3との間に印加された電圧をフォーミング電圧:Vformとする。そして、上記フォーミング電流とフォーミング電圧との積を、フォーミングパワー:Pformとする。また導電性膜4の抵抗値(補助電極2と補助電極3との間の抵抗値)が、「通電フォーミング処理」前の導電性膜4の抵抗値の1000倍に達するまでに、「通電フォーミング」処理開始から要した時間をフォーミング時間:Tformとする。
まず、No.6(No.6−1〜No.6−5)の導電性膜4における結果を説明する。
Vformが10VであるNo.6−4の場合、Pformが最小値をとることが判る。この様に、金属酸化物である酸化パラジウムを導電性膜4に用いた場合は、還元(もしくは凝集)ガス中で「通電フォーミング」処理を行うと、Vformを下げることができ、結果、Pformを下げられることがわかる。
次に、No.6の導電性膜よりも高い抵抗の導電性膜4(No.7、No.8)について説明する。尚、表3では、Pformが最小になる条件だけを示している。導電性膜4に対して互いに異なる電圧(20V、25V)を印加した場合を示している。
No.7とNo.8の導電性膜4を用いたサンプルでは、いずれの場合もTformは1000〜2000sec程度要するが、Pformを下げられることがわかる。
尚、No.6〜No.8のサンプルでは、還元性ガスを用いずに「通電フォーミング」処理を行おうとすると、2V〜25Vのフォーミング電圧では、1時間以内にフォーミング処理が終了できなかった。つまり、還元性ガスの活用が「通電フォーミング」処理における低パワー化及び処理時間の短縮に必須であることがわかる。
次に、実施例1で示したNo.1〜No.5の導電性膜4を備えるサンプルに対して同様の検討を行った結果を下記表4に示す。尚、「通電フォーミング」処理で用いたパルス波形は、上述した実施例とは異なり、図5(a)に示した波高値が一定の三角波パルスとした。パルス幅T1=1msec.、パルス間隔T2=10msec.とした。また、「通電フォーミング」処理時には、上述した比較例1とは異なり、還元性のガスを用いていない。
導電性膜4におけるPdの含有率が高くなると、Vformを小さくできる。ただし、No.1やNo.5の導電性膜を用いたサンプルの場合は、上述した実施例で述べたように、「活性化」処理を行っても、十分な電子放出量が得られない。
ここで注目すべき点は、No.2〜No.4の導電性膜4を用いたサンプルでは、Pformが50mW程度と小さく、Tformが0.01secと非常に短いことである。Tformは0.01secであり、パルス幅T1=1msec.、パルス間隔T2=10msec.であるので、実質的に1回の電圧パルスの印加で良好な間隙7を形成することができることがわかる。
比較例1で述べたように、従来の金属酸化物の導電性膜4に「通電フォーミング」処理を行う場合は、導電性膜の還元(もしくは凝集)を促進するガス導入を伴うことではじめて50mW程度の低いPformが実現できる。しかし、本発明の導電性膜(例えば、No.2〜No.4の導電性膜)を用いれば、還元性ガスを用いずに低いPformを実現することができる。そして、また、金属酸化物からなる導電性膜を還元する必要がないので、短いTformを実現することができる。
尚、No.2〜No.4の導電性膜4を用いたサンプルの「通電フォーミング」処理に、還元性ガスを用いると、かえってフォーミングパワーが大きくなってしまうことがあった。これは、導電性膜4の導電機構が変化してしまったからではないかと考えている。そのため、本発明においては、「通電フォーミング」処理時における雰囲気は、実用的には、10−5Pa以下の圧力に維持することが、安定な間隙7の形成に寄与するので、好ましい。
また、No.2〜No.4のサンプルの電子放出特性と、No.6−3のサンプルに実施例1と同様の「活性化」処理および「安定化」処理を行った後における電子放出特性は、ほぼ同等であった。さらには、電子放出量のゆらぎについてはNo.2〜No.4のサンプルの方が少なかった。これは、No.6−3のサンプルでは導電性膜が「通電フォーミング」処理時に還元されてしまっているのに対し、No.2〜No.4のサンプルの導電性膜は還元されず、高抵抗のままであるためと推察される。
この様に、本発明によれば、「通電フォーミング」処理において、低い電力(Pform)と短い処理時間(Tform)とを両立することができ、かつ、良好な電子放出特性を得ることが出来る。
[実施例2]
本実施例は、粒径の標準偏差が実施例1よりも大きい例である。
(工程−a)
青板ガラス上に酸化シリコン層、補助電極(2、3)、導電性膜4の形成は、実施例1と同様であるため、ここでは説明を省略する。また、補助電極の厚み、補助電極の間隔L、導電性膜4の幅W'も実施例1と同様である。
尚、CoOおよびPdのそれぞれのスパッタパワーを制御することで、導電性膜4中に含まれるCoOの粒径とPdの粒径を実施例1と異なるサンプル(下記(表5)参照)を作成した。CoOおよびPdの平均粒径をともに15nmとし、標準偏差を5nmとし、実施例1の標準偏差より大きくした。導電性膜4の平均膜厚も15nmである。尚、本実施例では、第1粒子である酸化コバルト(CoO)粒子の抵抗と第2粒子であるパラジウム(Pd)粒子の抵抗の比は、実施例1と同様に、CoO:Pd=150:1である。
上記6つのサンプル(No.9〜No.14)の各々に対して、以下のように「通電フォーミング」処理(工程−b)、「活性化」処理(工程−c)、「安定化」処理(工程d)を行なった。
(工程−b)
第1補助電極2と第2補助電極3との間に電圧パルスを印加し、「通電フォーミング」処理を施した。真空容器の圧力及び、導電性膜に印加するパルスについては、実施例1と同様なので、ここでは省略する。
No.9の導電性膜4を備えたサンプルは、波高値100Vで、間隙7が形成された。しかし、形成された間隙7は、分離した(不連続な)複数の間隙であった。
No.10の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値25Vで、間隙7が形成された。
No.11の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値16Vで、間隙7が形成された。
No.12の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値10Vで、間隙7が形成された。
No.13の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値5Vで、間隙7が形成された。
No.14の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値5Vで、間隙7が形成された。しかしながら、形成された第1の間隙7は、導電性膜4の幅(W')(図2(a)参照)方向の端から端まで達していなかった。
No.10〜No.13の導電性膜4を備えたサンプルの第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値を測定したところ、「通電フォーミング」処理の前と後で、第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値が2桁以上(100倍以上)増加していた。また、電子顕微鏡にて間隙7の形態を観察した結果、No.10〜No.13の導電性膜4を備えたサンプルでは、第1補助電極2と第2補助電極3とが対向する方向とは実質的に直交する方向における導電性膜4の端から端まで連続した1つの間隙7が形成されていた。
一方で、No.9の導電性膜4には、図6(A)に示される様に、分離した(不連続な)複数の間隙が形成されており、マクロ的に見ても、導電性膜4が分断されていなかった。また、形成された間隙7の幅(補助電極2と補助電極3とが対向する方向における長さ)も非常に広く、後述の「活性化」処理を行っても所望の電子放出特性が得られなかった。そして、No14の導電性膜4では、図6(C)に示される様に、互いに分離した複数の間隙が形成されていた。また、No.9およびNo.14の導電性膜4を備えたサンプルでは、「通電フォーミング」処理後の補助電極2と補助電極3との間の抵抗値が、「通電フォーミング」処理前の抵抗値の10倍程度に留まっていた。
(工程−c)
上記工程―bに続いて、上記No.10〜13の導電性膜を備えたサンプルに対して、「活性化」処理を行った。真空容器の圧力(導入ガス)及び、導電性膜に通電するパルスは、実施例1と同様なので、ここでは省略する。
いずれのサンプルも、補助電極2と補助電極3との間に流れる電流が時間とともに増加した。補助電極2と補助電極3との間に流れる電流1mA程度に達した時点で「活性化」処理を終了した。「活性化」処理を施すことで、いずれのサンプルにも、図1(c)に示すように、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとが形成されていた。尚、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間には第2の間隙8が形成され、第2の間隙8内に位置する基体1の表面には凹部22が形成されていた。
(工程−d)
工程cに続き、実施例1同様の、安定化工程を行なった。
以上の工程によりNo.10〜13の導電性膜を用いた電子放出素子を作成した。
安定化処理で形成した真空度を維持した状態で、電子放出特性を測定した結果、図9と同様に非線形な電圧−素子電流特性が観測された。
ただし、No.10のサンプルの電子放出特性(特に電子放出量)は、実施例1におけるNo.2のサンプルの電子放出特性よりも低かった。その他のサンプルについては、実施例1におけるサンプルの電子放出特性よりは低いが、No.10のサンプルほど電子放出特性の顕著な低下はみられなかった。これは、標準偏差が実施例1のサンプルに比べて実施例2のサンプルの方が大きいことに起因していると思われる。
以上のように、標準偏差が大きい場合には、導電性膜4に求められる条件が、実施例1とは若干異なったものとなる。
本実施例の結果から、抵抗比が150、標準偏差を平均粒径の33.3%(≒5nm/15nm×100)まで許容する場合には、導電性膜4中に含まれる第1粒子の割合は2%以上50%以下の範囲で良好な電子放出特性が得られる。
ここでは、抵抗比が150の場合を示したが、抵抗比が50以上400以下の範囲であれば、標準偏差が33.3%以下の場合には、導電性膜4中に含まれる第1粒子の割合は2%から50%の範囲であれば、良好な電子放出特性が得られる。
[実施例3]
本実施例は、導電性膜4を構成する粒子の抵抗比と粒径が実施例1および実施例2と異なる場合の例である。
作成工程は、実施例1、実施例2とほぼ同様なので、異なる部分のみ述べていく。
(工程−a)
青板ガラス上に酸化シリコン層、補助電極(2、3)、導電性膜4の形成は、実施例1と同様であるため、ここでは説明を省略する。また、補助電極の厚み、補助電極の間隔L、導電性膜4の幅W'も実施例1、2と同様である。
尚、それぞれの材料のスパッタ時間を制御することで、導電性膜4中に含まれるCoOとPdの粒径を実施例1、実施例2と異なるもとのとした。(下記(表6)参照)を作成した。また、いずれのサンプルにおいても、導電性膜4中に含まれるCoO含有率を2%とした。
尚、本実施例では、酸化コバルトの抵抗とパラジウムの抵抗の比をそれぞれ、No.15のサンプルは10:1、No.16のサンプルは50:1、No.17のサンプルは150:1、No.18のサンプルは400:1、No.19のサンプルは1000:1とした。また、各サンプルにおける酸化コバルトおよびパラジウムの平均粒径(導電性膜4の平均膜厚に相当)は、No.15のサンプルは5nm、No.16のサンプルは7nm、No.17のサンプルは15nm、No.18のサンプルは20nm、No.19のサンプルは50nmとした。各サンプルにおける粒径の標準偏差は、平均粒径の13.3%とした。
上記5つのサンプルの各々に対して、図8に示した真空容器55内で、「通電フォーミング」処理(工程b)を行なったところ、全てのサンプルにおいて良好な間隙7が形成された。
また、実施例1、実施例2と同様にNo.15〜No.19の導電性膜を備えたサンプルに対して「活性化」処理、「安定化」処理を行なった。その後、「安定化」処理で形成した真空度を維持した状態で、電子放出特性を測定した結果、実施例1のサンプル2〜4、実施例2のサンプル11〜13と同様の良好な電子放出特性がNo.15〜No.18のサンプルでは観測された。しかしながら、No.19のサンプルでは、実施例1および実施例2よりも電子放出特性が低かった。これは、平均粒径と標準偏差に起因していると推察される。
[実施例4]
実施例2と同様にして、実施例3よりも粒径の標準偏差を大きくした場合の例である。実施例3の各サンプルに対して粒径の標準偏差を平均粒径の33.3%とした場合について述べる。
(工程−a)
青板ガラス上に酸化シリコン層、補助電極(2、3)、導電性膜4の形成は、実施例1と同様であるため、ここでは省略する。また、電極厚み、電極間隔L、導電性膜4の幅W'も実施例1、2と同様である。
尚、CoOとPdのそれぞれの材料のスパッタ時間とスパッタパワーを制御することで、導電性膜4中に含まれるCoOとPdの平均粒径(下記[表7]における膜厚に相当)を制御した。尚、いずれのサンプルも、CoO含有率を2%とした。
尚、本実施例では、酸化コバルトの抵抗とパラジウムの抵抗の比を、サンプル20は10:1であり、サンプル21は50:1であり、サンプル22は150:1であり、サンプル23は400:1であり、サンプル24は1000:1とした。抵抗比は、実施例3と同様であるが、粒径の標準偏差(σ)を平均粒径の33.3%とした。
上記5つのサンプルの各々に対して、図8に示した真空容器55内で、通電フォーミング処理(工程b)を行なった。
(工程−b)
第1補助電極2と第2補助電極3との間に電圧パルスを印加し、「通電フォーミング」処理を施した。真空容器の圧力及び、導電性膜4に通電するパルスは、実施例1と同様なので、ここでは省略する。
No.20の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値10Vで、間隙7が形成されたが、形成された第1の間隙7の幅のばらつきがNo.21〜23のサンプルに比べて大きかった。
No.21の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値6Vで、間隙7が形成された。
No.22の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値5Vで、間隙7が形成された。
No.23の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値5Vで、間隙7が形成された。
No.24の導電性膜4を備えたサンプルは、パルス波高値3Vで、間隙7が形成されたが、形成された第1の間隙7の幅のばらつきがNo.21〜23のサンプルに比べて大きかった。
No.21〜No.23の導電性膜4を備えたサンプルの第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値を測定したところ、「通電フォーミング」処理の前と後で、第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値が2桁以上(100倍以上)増加していた。また、電子顕微鏡にて間隙7の形態を観察した結果、No.21〜No.23の導電性膜4を備えたサンプルでは、第1補助電極2と第2補助電極3とが対向する方向とは実質的に直交する方向における導電性膜4の端から端まで連続した間隙7が形成されていた。No.20およびNo.24の導電性膜4を備えたサンプルの第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値は「通電フォーミング」処理の前と後で、第1補助電極2と第2補助電極3との間の抵抗値がほぼ2桁増加していた。また、No.20の導電性膜4に形成された間隙7の幅(補助電極2と補助電極3とが対向する方向における長さ)は非常に広かった。
上記工程−bに続いて、上記No.20〜24に対して、上記「活性化」処理、「安定化」処理を行なった。その後、上記「安定化」処理で形成した真空度を維持した状態で、それぞれの電子放出特性を測定した。測定は、電源51により補助電極2と補助電極3との間に電圧パルスを印加し、アノード電極54に1KVを印加して行った。アノード電極54と素子の間隔Hは4mmとした。その結果、No.21〜23のサンプルの電子放出特性は、実施例3のNo.16〜No.19のサンプルの電子放出特性より低かったが、総じて良好な電子放出特性を得ることができた。また、No.20およびNo.24のサンプルでは、「活性化」処理を行ってもNo.20〜24のサンプルよりも電子放出特性がかなり低かった。
以上のように、標準偏差がより大きい場合には、導電性膜4に求めらる条件が、実施例3とは異なったものとなる。本実施例のように、第1粒子の含有率が2%の場合、標準偏差を33.3%まで許容する場合には、抵抗の比が50以上400以下の範囲で良好な電子源特性が得られる。ここでは、第1粒子の含有率が2%の場合を示したが、第1粒子の含有率が2%以上50%以下の範囲であれば、粒径の標準偏差が平均粒径の33.3%以下の場合には、抵抗比が50以上400以下の範囲で良好な電子放出特性が得られる。
以上記した様に、本発明によれば、電子放出素子の導電性膜に予め電界集中領域を形成することができるので、「通電フォーミング」処理時に導電性膜に流す電流を大幅に小さくすることができると同時に処理時間を短縮することができる。つまり、本発明によれば、従来の還元性ガスを用いて「通電フォーミング」処理を行うのと同等の省電力で、遥かに短い時間で「通電フォーミング」処理を行うことができる。