JP4138355B2 - ミシンの上糸保持装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ミシンベッドに細長状のシリンダベッド部を有するミシンの上糸保持装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
縫い始めの縫い目を確実に形成するとともに、縫い始めの針先に残る上糸の長さを安定させるため、縫い始めにおいて、まず、第一針目の針に挿通された上糸の端部を釜により針板の裏側に引き出すが、その後において、引き出された上糸の端部を針板の裏側で挟持する上糸保持装置が知られている。例えば、特許2671478号公報や特開2000−325683号公報に上糸の端部を挟持する技術が開示されており、これらの技術は、上糸の端部を保持するという機能面において有用な技術となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの技術に示されている装置(上糸保持装置)は、少なくとも二つのアクチュエータ(エアシリンダ等)を必要とし、これら複数のアクチュエータと、アクチュエータの駆動力を上糸の端部を挟持する部材に伝達する部材とが、ともにミシンベッド下部に配設され、さらに上糸を保持する位置が、ミシン針の上下動経路を挟んでミシン立胴部と反対の方向(特許2671478号公報)、或いは、ミシン針とミシン立胴部とを結ぶ方向と交差する方向(特開2000−325683号公報)となっている。このような構成の上糸保持装置は、ミシンベッド下部に十分なスペースを有するミシンにおいては特に問題とならないが、細長状のシリンダベッドを有するミシン(以下、「シリンダベッドミシン」ともいう。)に適用できない。
【0004】
シリンダベッドミシンは、周知のように、ベッド部を細長いシリンダ状として、筒状或いは袋状の被縫製物を縫製するミシンである。従って、ベッド部の外径が小さいほどより小さな形状の被縫製物の縫製が可能となり、また、袋状の被縫製物の場合は、ミシン針の上下動位置からベッド部先端までの距離が小さい方がより奥行きの短い被縫製物の縫製が可能となる。しかし、上記従来の両上糸保持装置は、ベッド部の外径や、ミシン針の上下動位置からベッド部先端までの距離を小さくすることが可能な構成となっていない。
【0005】
本発明の課題は、ミシンベッドに細長状のシリンダベッド部を有する所謂「シリンダベッドミシン」にも適応可能なミシンの上糸保持装置を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、例えば図1及び図10に示すように、ミシンベッド(ミシンベッド部31)に細長状のシリンダベッド部(31a)を有するミシン(シリンダベッドミシン30)の上糸保持装置(100)において、前記シリンダベッド部に設けられ、かつ、針の上下動経路上に位置する初期位置と、縫い始めに針に挿通されている上糸の端部を針板(50)の下方で前記針板と一定の間隔を開けて挟持する挟持位置と、挟持した上糸の端部を針(52)の上下動経路から前記針板と平行に離れて保持する保持位置と、所定針数の針落ち後、前記針板と一定の間隔を開けた状態で、針の上下動経路から前記針板と平行に離間しながら挟持した上糸の端部を開放する開放する開放位置と、前記開放位置に対し針の上下動経路から前記針板と平行に離間する方向に退避した退避位置とに移動可能な挟持手段(D)と、前記挟持手段を駆動して前記挟持手段に上糸の端部を挟持させるステッピングモータ(A)と、前記挟持手段と前記ステッピングモータとを連結する長尺状の連結部材(12(又はボールネジ71))を有する連結手段(B(又はF))とを有し、前記ステッピングモータは、前記シリンダベッド部よりミシンの立胴部(32)側のミシンベッド内に配置され、前記連結部材は、前記ステッピングモータの駆動力を、前記ミシンの立胴部側から針の上下動経路側に向かう進退運動、又は、回転運動により前記挟持手段に伝達することを特徴とする。
【0007】
請求項1記載の発明では、アクチュエータの設置スペースを確保するのが難しいシリンダベッド部よりも大きなスペースを有する立胴部側のミシンベッド内部に挟持手段の駆動源となるアクチュエータを配設し、該アクチュエータとシリンダベッド部に設けられた挟持手段とを連結部材により連結し、連結部材を介した状態でアクチュエータの駆動力をミシンの立胴部側からシリンダベッド部に設けられた挟持手段に伝達できる構成となっている。従って、上記構成を備える本発明の上糸保持装置を、所謂「シリンダベッドミシン」においても適応できる。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のミシンの上糸保持装置において、
前記保持位置が、針の上下動経路に対してミシンの立胴部側であることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の上糸保持装置に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、本発明の上糸保持装置を含むミシン本体の各部材の構成を説明するにあたって、本実施形態では、図中に示したXYZ軸によりそれぞれの方向を定め、特に、X軸方向における+側を右、−側を左;Y軸方向における+側を前、−側を後;Z軸方向における+側を上、−側を下と表現する。
【0010】
まず、本発明の上糸保持装置を説明する前に、この上糸保持装置を備えた所謂「シリンダベッドミシン」の構成を簡単に説明する。なお、従来技術においても説明したように、「シリンダベッドミシン」とは、ミシンベッド部における縫製部分が細長状(略筒状)に形成されたシリンダベッド部を備えるミシンであって、このシリンダベッド部に小径の筒状被縫製物(例えば、上着の裾)をセットすることによりこの筒状被縫製物の縫製を行うミシンのことである。
【0011】
図1に示すように、この一例の上糸保持装置100が備えられたシリンダベッドミシン(以下「ミシン」という。)30は、略矩形箱状に形成されたミシンベッド部31と、ミシンベッド部31の後部に立設された立胴部32と、立胴部32から前方に延出して設けられたアーム部33と、を備えている。
【0012】
アーム部33の前端部となるミシン頭部34には、図示しない主軸の回転に追従して上下動する針棒35が取り付けられており、この針棒35の下端には針52が取り付けられている。なお、図1は、針52に上糸の端部が挿通された状態を示している。また、ミシンベッド部31は、前側に延出しかつ細長状(略円筒状)に形成されたシリンダベッド部31aを有している。シリンダベッド部31a上には針板50が固定され、この針板50には針52が下降した際に針52が通過する針穴51が形成されている。なお、図1には図示しないが、針板50の下方には、上糸の端部が挿通された針52が下降した際に上糸の端部を捕捉する釜機構、縫製終了時に上糸を含む縫製に係る糸を切断する糸切り機構(図5中の符号60参照)等が設けられている。
【0013】
そして、図1に示すように、上記したミシン30のミシンベッド部31内に本発明の上糸保持装置100が設けられている。
以下、上糸保持装置に係る具体的な構成を説明する。
図1〜図4に示すように、上糸保持装置100は、主に、単一のアクチュエータとなるステッピングモータ(以下「モータ」という。)Aと、モータAと後述する関連動作手段Cとを連結する連結手段Bと、連結手段Bの移動に機械的に連動する関連動作手段Cと、上糸の端部を挟持(保持)しかつ挟持(保持)した上糸の端部を開放する挟持手段Dと、挟持手段Dの位置を検出する検出手段E(図1にのみ図示した。)と、検出手段Dからの検出信号に基づいて上糸保持装置100の動作を制御する制御装置(図示しない。)と、から構成されている。
【0014】
モータAは、上糸保持装置100の駆動源となる単一のアクチュエータであって、制御装置(図示しない。)から出力されるパルス信号に同期して所定角度ずつ回転する周知のステッピングモータである。このモータAは、図1に示すように、シリンダベッド部31aより立胴部32側のミシンベッド部31内に配置されている。
【0015】
連結手段Bは、図2に示すように、回動腕部(以下「腕部」という。)11と、連結部材12とを備えている。腕部11の一端部は、モータAの軸部10に固定されており、腕部11の他端部には孔部11aが形成されている。モータAが駆動して軸部10が回転すると、腕部11は軸部10を支点として回動する(図2及び図4中矢印L参照)ようになっている。
【0016】
また、図1〜図4に示すように、連結部材12はシリンダベッド部31aの長さ方向に略沿って前後方向に延在する長尺な部材であって、図2に示すように、連結部材12の前側及び後側にはそれぞれ孔部12a、12bが形成されている。そして、腕部11の孔部11aと連結部材12の孔部12bとが、段ネジ13により、摺動可能に固定されている。従って、腕部11が回動する(図2及び図4中矢印L参照)と、連結部材12は前後動する(図2〜図4中矢印M参照)ようになっている。
【0017】
また、連結部材12は、同じくミシンベッド部31内の上部に配置される図示しない送り機構との干渉を防ぐため、孔部12aから後方のミシンの立胴部32方向に向かう連結部材12の延在方向を、後方向から針の上下動方向と直交する左右の一方向(例えば、左方向)に、該左右の一方向から下方向に、下方向から再び左右の一方向(例えば、左方向)に、該左右の一方向から後方向に、それぞれ向かわせる折曲部12c、12d、12e及び12fを有し、さらに、孔部12bと腕部11との連結部の高さを合わせる折曲部12g、12hを有している。
【0018】
関連動作手段Cは、図1に示すように針板50の下方に配置されるものであって、図2に示すように、その主要部材として、ミシンベッド部31に固定される糸掴み板土台(以下「土台」という。)1と、下部糸掴み板(以下「下板」という。)2と、上部糸掴み板(以下「上板」という。)3と、糸掴み土台蓋(以下「土台蓋」という。)4と、糸掴みカム板リンク(以下「カム板リンク」という。)7と、コイルバネ8と、コロ9と、を備えている。
【0019】
土台1には、その中央部に所定幅を有する溝部1aが前後方向に沿って形成され、さらに溝部1aには、孔部1bが前後方向に沿って形成されている。なお、溝部1aの幅は、下板2及び上板3の幅と略同じである。土台1の溝部1aの左右両側には、スリット状の左孔部1c及び右孔部1dが前後方向に沿ってそれぞれ形成されている。ここで、これら左孔部1c及び右孔部1dは、互いに略平行に形成されているが、左孔部1c及び右孔部1dは互いに前後方向においてややずれた位置関係となっており、相対的に左孔部1cは前側に、右孔部1dは後側に形成されている。また、土台1の左側の縁部には、ネジ1eにより、コロ9が取り付けられている。
【0020】
下板2は、長尺でかつ略平板状の部材である。下板2の前端部2aには略四角形状の孔部2bが形成され、後端部2cにはスリット状の孔部2dが形成されている。なお、前端部2aの孔部2bは、針板50の針穴51(図1及び図6〜図9参照)の下方に位置した場合に、針52(図6(b)参照)が貫通する貫通孔となるものであって、以下、孔部2bを「貫通孔2b」という。下板2には、その略中央部2eから左側にやや突出する左突出片2fが設けられている。また、下板2において、中央部2e及び左突出片2fの下部には、前ピン2g及び左ピン2hがそれぞれ設けられている。
このような構成を備える下板2は、土台1の溝部1aにフィットするように土台1の上部に重なった状態となっている。この場合、下板2の前ピン2gは、土台1の孔部1bを挿通した状態でコイルバネ8の前掛け部8aに掛止し、一方、左ピン2hは土台1の左孔部1cを挿通してさらにカム板リンク7の左孔部7aをも挿通した状態で、ストッパ部材7bによりカム板リンク7に摺動可能に固定されている。
【0021】
上板3は、下板2よりもやや短い略平板状の部材である。上板3の前端部3aには、下方に突出するボス部3bが設けられている。また、上板3には、その略中央部3cから右側にやや突出する右突出片3dが設けられている。上板3において、後端部3e及び右突出片3dの下部には、後ピン3f及び右ピン3gがそれぞれ設けられている。
このような構成を備える上板3は、土台1の溝部1aにフィットするように下板2の上部に重なった状態となっている。この場合、上板3の後ピン3fは、上板2の孔部2d及び土台1の孔部1bを挿通した状態でコイルバネ8の後掛け部8bに掛止し、一方、右ピン3gは土台1の右孔部1dを挿通してさらにカム板リンク7の右孔部7cをも挿通した状態で、ストッパ部材7dによりカム板リンク7に摺動可能に固定されている。
【0022】
土台蓋4は、略平板状の部材であって、四つのネジ4aにより前側及び後側のそれぞれ二箇所の位置で土台1に固定されている。これにより、上述した下板2及び上板3は、土台1及び土台蓋4との間に挟まれ、下板2及び上板3のがたつきを防止できる構造となっている。
【0023】
カム板リンク7は、略左右方向に沿って配置される略平板状の部材である。カム板リンク7の左右両端部には左孔部7a及び右孔部7cが形成されており、上述したように、これらの孔部7a、7cに下板2の左ピン2h及び上板3の右ピン3gが挿通されている。カム板リンク7の下部には、カム板ピン7eが設けられており、カム板ピン7eは、連結部材12の前端部に形成された円形の孔部12aに摺動可能に嵌合されている。従って、モータAの駆動力により連結部材12が前後方向(図2〜図4中矢印M参照)に沿って移動すると、その連結部材12の前後動をカム板リンク7に伝達することができるようになっている。なお、詳細な説明は後述する上糸保持装置100の動作の説明にて行うが、モータAの駆動力からのカム板リンク7への伝達に伴い、関連動作手段Cの各部材が連動するようになっている。
また、カム板リンク7の左縁部には、コロ9の外周面に対応するようにやや湾曲したカム形状部7fが設けられている。なお、詳細な説明は上糸保持装置100の動作の説明にて行うが、このカム形状部7fに、土台1の左側の縁部に取り付けられたコロ9の外周面が接触するようになっている。
【0024】
コイルバネ8は、下板2及び上板3の前後方向の移動を規制する部材である。具体的に、図3に示すように、コイルバネ8の前掛け部8a及び後掛け部8bそれぞれは、下板2の前ピン2g及び上板3の後ピン3fに掛止されている。このコイルバネ8は、前ピン2gと後ピン3fとが前後に離れるように移動すると、これら前ピン2g及び後ピン3fが互いに近づくように付勢する。従って、下板2及び上板3は、このコイルバネ8の付勢力によって、互いに前後方向に接近するように付勢されていることになる。なお、同図に示すように、コイルバネ8は、カム板リンク7の下方に配置されるとともに、平面視してカム板リンク7と交差するように配置されている。
【0025】
図2に示すように、挟持手段Dは、上述した関連動作手段Cの前側に設けられるものであって、貫通孔2bを挿通した上糸の端部を所定の位置にガイドするガイド部材6と、貫通孔2bを挿通した上糸の端部を挟持するための挟持部材5と、を備えている。
【0026】
ガイド部材6は、両側が内側に凹んだテーパ状の側壁(誘導壁6a)を有する部材であって、二つのネジ6bにより下板2の前端部2a、具体的には下板2の貫通孔2bより前側縁側に固定されている。なお、詳細な説明は後述する上糸保持装置Aの動作の説明にて行うが、下板2の貫通孔2bに上糸の端部が挿通した状態においては、この上糸の端部は、下板2の後側への移動に伴いガイド部材6の誘導壁6aにガイドされる。そして、この上糸の端部は、貫通孔2bの前壁2iに係合した状態で保持されることになる。すなわち、貫通孔2bの前壁2iが、上糸の端部を保持する保持部としての機能を有することになる。
【0027】
挟持部材5は、上板3の前端部3aに取り付けられる部材である。詳しくは、挟持部材5の後端部5aには、円形の孔部5bが形成されており、この孔部5bが上板3のボス部3bと嵌合する。この場合、挟持部材5は、ボス部3bを支点として回動可能となる(図2中矢印K参照)。すなわち、挟持部材5は上板3に対して回動可能に支持される状態となる。また、挟持部材5の前端部5cには、下方にやや突出する突起部5dが設けられている。この突起部5dは、孔部5bを上板3のボス部3bに嵌合させた場合に、下板2の前端部2aに形成された貫通孔2bに入り込むようになっている。
【0028】
なお、突起部5dの幅は下板2の貫通孔2bの幅よりやや小さいので、挟持部材5が上板3に対して回動した場合には、突起部5dの左右両端が下板2の貫通孔2bの左右側壁にぶつかり、挟持部材5の回動が規制される構造となっている。逆に言えば、挟持部材5の突起部5dには、貫通孔2b内において左右方向にやや遊びが設けられている。
【0029】
そして、下板2に対して上板3が相対的に前側に移動した場合には、挟持部材5は、上板3のボス部3bを支点として回動しながら前記誘導壁6aに案内されて前側に移動するとともに挟持部材5の突起部5dが貫通孔2bの前壁2iに当接するようになっている。これにより、貫通孔2bを挿通した状態の上糸の端部を挟持できるようになっている。すなわち、挟持部材5の突起部5dが、上糸の端部を挟持する挟持部としての機能を有することになる。
【0030】
なお、上述したように、本実施の形態では、二つのネジ6bでガイド部材6を下板2に固定することで、貫通孔2bの前壁2iとガイド部材6とを一体として保持部を形成する構成としたが、ガイド部材6を設けずに貫通孔2bの前側の形状をテーパ状に形成して、誘導壁を設ける構成としてもよい。このとき、挟持部材5の突起部5dも貫通孔2bの前側の形状に対応するようにテーパ状に形成する必要がある。
また、本実施の形態では、上糸の端部が挿通される部分は、貫通孔2bに対応する開口であるが、この部分がフックとされていてもよい。
【0031】
図1及び図6〜図9に示すように、検出手段Eは、センサスリット板(以下「スリット板」という。)20と、初期位置検出センサ(以下「初期センサ」という。)21と、退避位置検出センサ(以下「退避センサ」という。)22とを備えている。
【0032】
スリット板20は、連結部材12に固定されており、連結部材12とともに前後動する部材である。スリット板20は、初期センサ21によって挟持手段Dが初期位置(挟持手段Dが最も前側に位置する位置。以下同じ。)に位置しているか否かが検出される第一被検出部20aと、挟持手段Dが退避位置(挟持手段Dが最も後側に位置する位置。以下同じ。)に位置しているか否かが検出される第二被検出部20bとを備えている。
【0033】
初期センサ21は、ミシンフレームに固定されかつ発光素子と受光素子とを備える公知のフォトセンサであって、スリット板20の前後動に伴い、第一被検出部20aが初期センサ21の光線21aを(i)遮蔽するときON状態(ii)遮蔽しないときOFF状態となる。そして、初期センサ21は、ON状態か又はOFF状態かを示す検出信号を制御装置(図示しない。)に出力する。
また、退避センサ22は、初期センサ21と同様に、ミシンフレームに固定されかつ発光素子と受光素子とを備える公知のフォトセンサであって、スリット板20の前後動に伴い、第二被検出部20bが退避センサ22の光線22aを(i)遮蔽するときON状態(ii)遮蔽しないときOFF状態となる。そして、退避センサ22は、ON状態か又はOFF状態かを示す検出信号を制御装置(図示しない。)に出力する。
【0034】
なお、図示して詳細には説明しないが、制御装置は、CPUと、RAMと、ROMと、インターフェースと、これらを接続するシステムバスとを備える演算処理装置を基本構成とするものであって、縫製プログラム及びこの縫製プログラムで使用される縫製データ等を格納するとともに、CPUの演算結果に応じた駆動信号をミシン30の各部材に出力する。なお、本実施の形態に関して、制御装置は、前述した検出手段Eとしての初期センサ21及び退避センサ22に接続され、挟持手段Dが初期位置に位置しているか否か及び挟持手段Dが退避位置に位置しているか否かを示す検出信号を入力されて、この検出信号に基づく制御を行う。また、制御装置は、モータAの動作(回転角度及び回転速度)及び後述する糸切り機構60(図5参照)の各部材の動作も制御する。
【0035】
また、図5に示すように、ミシン30のシリンダベッド部31a内には、上糸を含む縫製に係る糸を切断する糸切り機構60が設けられている。糸切り機構60は、連結棒61と、第一リンク62と、第二リンク63と、針板50に固定された固定メス64と、固定メス64に対して接離可能に設けられた可動メス65とを備えている。連結棒61は、シリンダベッド部31a内においてシリンダベッド部31aの長さ方向(前後方向)に略沿って延在する部材であって、連結棒61の前端部はピン66によって第一リンク62の一端部に回転可能に連結されている。第一リンク62の中間部は、針穴51の前方において段ネジ67によって針板50に対して回転自在に取り付けられている。
【0036】
第一リンク62の他端部は、ピン68によって第二リンク63の一端部に回転可能に連結されている。第二リンク63の他端部はピン69によって可動メス65の略中央部分に回転可能に連結されている。可動メス65は段ネジ70によって針板50に対して回転可能に取り付けられている。この可動メス65の上面には刃状の刃部65aが設けられている。
【0037】
そして、図5に示す状態において、図示しないパルスモータを作動させることにより、このパルスモータに連動する連結棒61は後側に移動し、これに伴い第一リンク62及び第二リンク63を介した状態で、可動メス65は段ネジ70を回転軸として前側に回動する(図5中矢印N参照)。このとき、針穴51に挿通された上糸及び縫製に係る糸は、可動メス65の糸手繰り部65bに手繰られるとともに、可動メス65の刃部65aと固定メス64の刃部64aとが上下に重なり合った位置でこれらメス64、65によって切断される(挟み切られる)ようになっている。
【0038】
次に、布に縫製を行う際の上記した上糸保持装置100に係る各部材の動作を説明する。
まず、図6を参照して、縫製開始前から縫製開始直後にかけてのモータA、連結手段B、関連動作手段C、挟持手段D及び検出手段Eを構成する各部材の動作を説明する。
【0039】
各部材の動作は、以下に示すとおりである。
(O1)腕部11は、モータAの回転により軸部10を支点として、所定角度をもって前側に回動する(図6(a)中矢印L0参照)。また、段ネジ13により腕部11に摺動可能に固定された連結部材12も、前側に移動(以下「前移動」という。)する(図6(a)中矢印M0参照)。
【0040】
(O2)連結部材12とピン結合しているカム板リンク7は、連結部材12の前移動に伴い全体として前移動する。
【0041】
(O3)カム板リンク7とピン結合している上板3の右ピン3gは、カム板リンク7の前移動に伴い、土台1の右孔部1dに沿って前移動して右孔部1dの前壁にぶつかり(係止し)、右ピン3gの前移動が規制された状態となる。この場合、右ピン3gと一体とされた上板3も前移動し、上板3は最前位置に位置する。
【0042】
(O4)カム板リンク7とピン結合している下板2の左ピン2hは、カム板リンク7の前移動に伴い、土台1の左孔部1cに沿って前移動する。この際、土台1の左孔部1cと右孔部1dとでは、相対的に左孔部1cの方が右孔部1dよりやや前方に形成されているので、上板3の右ピン3gの方が下板2の左ピン2hより早く右孔部1dの前壁にぶつかり(O3の状態)、その後は、下板2の左ピン2hは、上板3の右ピン3gを支点とするように土台1の左孔部1cに沿って、前移動する。そして、この左ピン2hの前移動、すなわち下板2の前移動は、下板2の貫通孔2bが針板50の針穴51直下の所定の最前位置に到達するまで続けられ、その時点で制御装置(図示しない。)がモータAを停止させることにより停止する。なお、土台1の左孔部1cの前方向の長さは、左ピン2hが前記最前位置に到達したときも左孔部1cの前壁とぶつからないように余裕を持った適当な大きさに形成され、左ピン2hが左孔部1cの前壁にぶつかってモータAが脱調するのを防いでいるとともに、万一、モータAが脱調した場合における連結部材12の不都合な移動を規制して上糸保持装置の機構を保護している。
【0043】
(O5)下板2及び上板3が最前位置に位置するとき、下板2の前ピン2gと上板3の後ピン3fは、互いにコイルバネ8の付勢力に抗して離間した状態となる。なお、この場合、コイルバネ8の付勢力により下板2の前ピン2gと上板3の後ピン3fとが前後方向に互いに近づくように付勢されているが、コイルバネ8の付勢力よりもモータAの駆動力のほうが大きいので、下板2は、コイルバネ8の付勢力に抗して、最前位置に位置することができる。
【0044】
(O6)また、下板2及び上板3が最前位置に位置するとき、下板2の貫通孔2bにおける前壁2iと、上板3の前端部3aに取り付けられた挟持部材5の突起部5dとが離間しており、貫通孔2bが開いた状態となる。このとき、貫通孔2bと針板50の針穴51とが上下に重なった状態となっており、縫製開始後の第一針目の針52がこれら貫通孔2b及び針板50の針穴51を貫通して上下動できるようになる。
【0045】
(O7)連結部材12が前移動した状態となり、初期センサ21及び退避センサ22は、ともにOFF状態となる。
【0046】
なお、各部材が上記(O1)〜(O7)に示した状態となる位置は、挟持手段Dが針52の上下動経路上に位置する位置であって、以下の説明では、この位置を各部材の「初期位置」という。
【0047】
また、上記(O7)に関して、各部材が「初期位置」に位置した際に、初期センサ21及び退避センサ22の少なくとも一方のセンサがON状態であるとき、この一方のセンサによる検出信号に基づいて、制御装置(図示しない。)はミシン30自体の起動又は駆動を停止するように制御する。すなわち、縫製開始前の挟持手段Dが、正規の「初期位置」からずれた位置に配置されている場合等に、ミシンの起動又は駆動を停止させることができるようになっている。これにより、挟持手段Dが第一針目の針52と干渉するのを防止できる。
【0048】
(O8)そして、各部材が正規の「初期位置」に位置すると、上糸の端部が挿通されている第一針目の針52が、針穴51及び貫通孔2bを貫通するように上下動する。なお、上糸の端部は、針52が下降したとき釜(図示しない。)によって下方に引き出され、その後、針52が上昇したときには、貫通孔2b及び針穴51に挿通された状態で垂れ下がった状態となる。
【0049】
次に、図7を参照して、縫製開始後(第一針目の針52の上下動後)におけるモータA、連結手段B、関連動作手段C、挟持手段D及び検出手段Eを構成する各部材の動作を説明する。
【0050】
各部材の動作は、以下に示すとおりである。
(P1)腕部11は、モータAの回転により軸部10を支点として、所定角度をもって後側に回動する(図7(a)中矢印L1参照)。また、段ネジ13により腕部11に摺動可能に固定された連結部材12も、後側に移動(以下「後移動」という。)する(図7(a)中矢印M1参照)。
【0051】
(P2)連結部材12とピン結合しているカム板リンク7は、連結部材12の後移動に伴い全体として後移動する。
【0052】
(P3)カム板リンク7が後移動を始めると、上板3は、コイルバネ8の付勢力によって上板3の後ピン3fが前方に引っ張られて上板3の右ピン3gが土台1の右孔部1dの前壁とぶつかったままであるので、最初、後移動せず、下板2のみが後移動を開始する。そして、互いに離間していた前ピン2g及び後ピン3f(O5参照)は、カム板リンク7の後移動に伴い、下板2の前ピン2g及び上板3の後ピン3fに掛止されたコイルバネ8の付勢力によって互いに近づき、これらピンと一体とされた下板2及び上板3もやや後移動する。
なお、上板3も下板2との距離が小さくなるにつれて、徐々に後移動をするようになるが、下板2の後移動量の方が大きいため、上板3と下板2とは互いに接近する。
【0053】
(P4)上板3の右ピン3gは、上板3の後移動に伴い、土台1の右孔部1dとの規制(O3参照)が解除されるとともに土台1の右孔部1dに沿ってやや後移動する。この場合、上板3の右ピン3g及び下板2の左ピン2hの両ピンがピン結合したカム板リンク7は、前後方向に対して略直交した状態となり、この時点では、上板3も下板2も略同量ずつ移動する。
【0054】
(P5)下板2及び上板3が後移動する場合、下板2及び上板3が後移動を開始してからは、下板2の後移動量の方が上板3の後移動量よりも大きいので(P4参照)、下板2の貫通孔2bの前壁2i及び前端部2aに固定されたガイド部材6は、上板3の前端部3aに取り付けられた挟持部材5に近づくように後移動する。この場合、挟持部材5の突起部5dと下板2の貫通孔2bにおける前壁2iとが互いに当接する状態となり、貫通孔2bが閉じた状態となる。そして、貫通孔2bが閉じる際に、開いた状態の貫通孔2bに挿通された上糸の端部が、突起部5dと前壁2iとの間に挟持される。
【0055】
ここで、貫通孔2bが閉じる際に、貫通孔2bに挿通された上糸の端部は、ガイド部材6の誘導壁6aに係合しながら前壁2iの中央部に誘導されるようになっている。また、挟持部材5の突起部5dには貫通孔2b内において左右方向にやや遊びが設けられた状態で挟持部材5は上板3に対して回動可能に支持されているので、突起部5dは前壁2iに対して左右にやや揺動しながら前壁2iに当接する。このような構成により、突起部5dと前壁2iとを強制的に当接するためにコイルバネ8の付勢力を大きくする必要は無く、突起部5dと前壁2iとの間で柔軟かつ確実に上糸の端部を挟持できるようになっている。
【0056】
なお、この場合、上述した保持部としての機能を有する貫通孔2bの前壁2iに対して、上述した挟持部としての機能を有する挟持部材5の突起部5dが相対的に移動して上糸の端部を挟持するので、挟持手段Dは、「挟持位置」に位置することになる。
【0057】
(P6)そして、挟持部材5の突起部5dと貫通孔2bの前壁2iとの間に上糸の端部を挟持した状態で、挟持手段Dはさらにやや後移動して、上糸保持装置Aは不動状態となる。この状態において、針52(図5参照)による所定針数(例えば、2〜3針)の針落ちが行われる。
【0058】
(P7)連結部材12の後移動に伴い、スリット板20の第一被検出部20aが初期センサ21の光線21aを遮蔽し、初期センサ21はON状態となる。この場合、退避センサ22はOFF状態のままとなっている。
【0059】
なお、各部材が上記(P1)〜(P7)に示した状態となる位置は、挟持手段Dが上糸の端部を挟持する「挟持位置」を経由しかつ「初期位置」より針52(図5(b)参照)の上下動経路から立胴部32に向かって後側に離間する位置である。また、各部材が上記(P1)〜(P7)に示した状態となる位置は、挟持手段Dが挟持した上糸の端部を保持部としての機能を有する貫通孔2bの前壁2iに保持する位置であって、以下の説明では、この位置を各部材の「保持位置」という。
【0060】
また、上記(P6)(P7)に関して、各部材が「保持位置」に位置する際に、初期センサ21はOFF状態からON状態となるが、挟持手段Dが正規の「保持位置」に位置し初期センサ21がON状態となった場合に、初期センサ21の検出信号に基づいて、制御装置(図示しない。)は、針52による所定針数(例えば、2〜3針)の針落ちを行うように制御している。これにより、挟持手段Dが第二針目以降の針52と干渉するのを防止できる。
【0061】
次に、図8を参照して、上糸の端部の挟持(保持)後におけるモータA、連結手段B、関連動作手段C、挟持手段D及び検出手段Eを構成する各部材の動作を説明する。
【0062】
各部材の動作は、以下に示すとおりである。
(Q1)腕部11は、モータAの回転により軸部10を支点として、所定角度をもって後側に回動する(図8(a)中矢印L2参照)。また、段ネジ13により腕部11に摺動可能に固定された連結部材12も、後移動する(図8(a)中矢印M2参照)。
【0063】
(Q2)連結部材12とピン結合しているカム板リンク7は、連結部材12の後移動に伴い全体として後移動する。そして、所定の後移動量を超えたところで、カム板リンク7のカム形状部7fは、コロ9の外周面と接触する。
【0064】
(Q3)カム板リンク7の後移動に伴い、下板2の左ピン2h及び上板3の右ピン3gも、土台1の左孔部1c及び右孔部1dに沿ってやや後移動する。この場合、下板2の左ピン2h及び上板3の右ピン3g両方ともが後移動するので、これらピンと一体とされた下板2及び上板3もやや後移動する。
【0065】
ここで、カム板リンク7が所定の後移動量を超えると、カム形状部7fはコロ9の外周面と接触するようになっているので(Q2参照)、この接触部を支点とするように、上板3の右ピン3gは後移動する。この場合、カム形状部7fとコロ9の接触により下板2の左ピン2hにおける後移動は、やや規制されるので、右ピン3gの後移動量の方が左ピン2hの後移動量よりも大きくなる。従って、右ピン3g及び左ピン2hが一体とされた上板3及び下板2の後移動量に関しても、上板3の後移動量の方が下板2の後移動量よりも大きくなる。
【0066】
(Q4)下板2及び上板3が後移動する場合、上板3の後移動量の方が下板2の後移動量よりも大きいので(Q3参照)、上板3の前端部3aに取り付けられた挟持部材5の突起部5d(P5参照)も、前壁2iから離間するように後移動するため、貫通孔2bがやや開いた状態となる。要約すると、下板2及び上板3の両板が後移動しつつ、貫通孔2bが閉じた状態からやや開いた状態となる。そして、この場合に、挟持部材5の突起部5と貫通孔2bの前壁2iとの間に挟持されていた上糸の端部(P5及びP6参照)が開放される。
【0067】
(Q5)連結部材12の後移動に伴いスリット板20も後移動するが、第二被検出部20bが退避センサ22の光線22aを遮蔽するほどにはスリット板20は後移動していない。従って、この場合、初期センサ21はON状態のままであり、また、退避センサ22もOFF状態のままである。
【0068】
なお、各部材が上記(Q1)〜(Q5)に示した状態となる位置は、挟持手段Dが「保持位置」より更に針52(図5(b)参照)の上下動経路から立胴部32に向かって後側に離間する位置である。また、各部材が上記(Q1)〜(Q5)に示した状態となる位置は、上述した挟持部としての機能を有する挟持部材5の突起部5dが、上述した保持部としての機能を有する貫通孔2bの前壁2iに対して、相対的に移動して上糸の端部を開放する位置でもあり、以下の説明では、この位置を各部材の「開放位置」という。
【0069】
次に、図9を参照して、上糸の端部の開放後におけるモータA、連結手段B、関連動作手段C、挟持手段D及び検出手段Eを構成する各部材の動作を説明する。
【0070】
各部材の動作は、以下に示すとおりである。
(R1)腕部11は、モータAの回転により軸部10を支点として、所定角度をもってさらに後側に回動する(図9(a)中矢印L3参照)。また、段ネジ13により腕部11に摺動可能に固定された連結部材12も、さらに後移動する(図9(a)中矢印M3参照)。
【0071】
(R2)連結部材12とピン結合しているカム板リンク7は、連結部材12の後移動に伴い全体としてさらに後移動する。この場合、カム板リンク7のカム形状部7fがコロ9の外周面と接触し続けながら、カム板リンク7は後移動する。
【0072】
(R3)カム板リンク7のさらなる後移動に伴い、下板2の左ピン2h及び上板3の右ピン3gも、土台1の左孔部1c及び右孔部1dに沿ってさらに後移動する。この場合、左ピン2h及び右ピン3g両方ともが後移動するので、これらピンと一体とされた下板2及び上板3もさらに後移動する。
【0073】
ここで、左ピン2h及び右ピン3gの後移動の際に、カム板リンク7のカム形状部7fがコロ9に接触すること、及び、土台1の左孔部1cと右孔部1dとで相対的に右孔部1dの方が左孔部1cよりやや後側に形成されていることから、上板3の右ピン3gは、カム形状部7fとコロ9との接触点を支点とするように後移動するので、右ピン3gの後移動量も左ピン2hより大きくなる。この場合、左ピン2h及び右ピン3gの両ピンがピン結合したカム板リンク7は、左右方向に対してやや傾斜した状態となる。
そして、左ピン2hは、土台1の左孔部1cの後壁にぶつかり(係止し)、左ピン2hの後移動が規制された状態となる。また、右ピン3gの後移動は、所定の最後位置で、制御装置(図示しない。)がモータAを停止することにより停止する。なお、土台1の右孔部1dの後方向の長さは、右ピン3gが前記最後位置に到達したときも右孔部1dの後壁とぶつからないように余裕を持った適当な大きさに形成され、右ピン3gが右孔部1dの後壁にぶつかってモータAが脱調するのを防いでいるとともに、万一、モータAが脱調した場合における連結部材12の不都合な移動を規制して上糸保持装置の機構を保護している。この場合、左ピン2h及び右ピン3gと一体とされた下板2及び上板3は、最後位置に位置することになる。
【0074】
(R4)下板2及び上板3が最後位置に位置しているとき、下板2の前ピン2gと上板3の後ピン3fは、互いにコイルバネ8の付勢力に抗して離間した状態となる。なお、この場合、コイルバネ8の付勢力により下板2の前ピン2gと上板3の後ピン3fとが互いに近づくように付勢されているが、コイルバネ8の付勢力よりもモータAの駆動力のほうが大きいので、上板3は、コイルバネ8の付勢力に抗して、最後位置に位置することができる。
【0075】
(R5)また、下板2及び上板3が最後位置に位置しているとき、下板2の貫通孔2bにおける前壁2iと、上板3の前端部3aに取り付けられた挟持部材5の突起部5dとがさらに離間し、貫通孔2bがやや開いた状態(Q4参照)から全開した状態となる。このとき、図5に示す糸切り機構60の可動メス65等と上糸保持装置100の部材とが接触することはなく、可動メス65等が損傷する等の不都合は生じないようになっている。
【0076】
(R6)連結部材12のさらなる後移動に伴い、スリット板20の第二被検出部20bが退避センサ22の光線22aを遮蔽し、退避センサ22はON状態となる。この場合、初期センサ21及び退避センサ22の両センサがON状態となる。
【0077】
なお、各部材が上記(R1)〜(R6)に示した状態となる位置は、挟持手段Dが「保持位置」より更に針52(図5(b)参照)の上下動経路から立胴部32に向かって後側に離間する位置で、かつ、挟持手段Dが針52(図5(b)参照)の上下動経路から最も後側に退避する位置であって、以下の説明では、この位置を各部材の「退避位置」という。
【0078】
この「退避位置」は、保持部(前壁2i)に係合している上糸の端部を釜(詳しくは釜の剣先)の移動経路から離間させるのに十分な距離を有する位置に設定されている。従って、挟持手段Dが「開放位置」から「退避位置」に移動する際に、挟持手段Dが「保持位置」に停止しているとき釜によって布に縫い込まれた上糸の端部を、布から引き抜いて釜の通過経路から離間させることができる。
【0079】
(R7)挟持手段Dが「開放位置」から「退避位置」に移動すると、開放された状態の上糸の端部を、釜の通過経路から離間させて、布から出た上糸が、貫通孔2bを経て再び布に縫い込まれるのを防止することができる。
また、「退避位置」を上記した位置よりもさらに針52の上下動経路から離れた位置に設定し、上糸の端部が貫通孔2bから抜け出るようにすれば、その後形成される縫い目に縫い込ませることも可能となる。
【0080】
そして、上述したように、上糸保持装置100の各部材が、「初期位置」から「挟持位置」、「保持位置」及び「開放位置」を経て「退避位置」に到達すると、所要針数の針落ちが行われ、その後、図5に示す糸切り機構60によって上糸を含む縫製に係る糸の糸切りが行われて縫製に係る一サイクルが終了するようになっている。
【0081】
なお、上記(R6)に関して、各部材が「退避位置」に位置した際に、退避センサ22がOFF状態であるとき、この退避センサ22の検出信号に基づいて、制御装置(図示しない。)は、ミシン30又は糸切り機構60の駆動を停止するように制御する。すなわち、縫製後の挟持手段Dが、正規の「退避位置」からずれた位置に配置されている場合等に、ミシン30又は糸切り機構60の駆動を停止させることができるようになっている。これにより、挟持手段Dが糸切り機構60を構成する可動メス65等と干渉するのを防止できる。
【0082】
以上、本実施の形態によれば、図1に示すように、アクチュエータ分の設置スペースを確保するのが難しいシリンダベッド部31aよりも大きなスペースを有する立胴部32側のミシンベッド部31内に挟持手段Dの駆動源となるモータAを配設し、かつ、アクチュエータに連動する部材の左右方向の移動範囲を規制するシリンダベッド部31a内に前後方向(細長状のシリンダベッド部31aの長さ方向)に移動可能な長尺状の連結部材12を配設している。そして、モータAを作動させることにより、シリンダベッド部31a内において連結部材12を前後方向に略沿って進退運動させるとともに、挟持手段Dを針52の上下動経路側と立胴部32側との間で前後方向に略沿うように移動させている。すなわち、連結部材12及び挟持手段Dが左右方向に移動しないように、モータAの駆動力(回転力)を挟持手段Dに伝達できる構成となっている。従って、アクチュエータ分の設置スペースが限られかつアクチュエータに連動する部材の移動範囲が規制される所謂「シリンダベッドミシン」においても、本実施の形態に係る上糸保持装置100を適応できる。
【0083】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
例えば、図1に示す連結手段Bに代えて、図10に示す連結手段Fを適用してもよい。連結手段Fは、図10に示すように、雄ネジ部71aを有しかつ前後方向(シリンダベッド部31aの長さ方向)に略沿って延在する長尺状のボールネジ71(連結部材)と、ボールネジ71の雄ネジ部71aに螺合する雌ネジ部を有するナット72と、ナット72と関連動作手段Cとを連結する連結リンク73とを備えている。ボールネジ71の後端部はモータAの軸部10に接続部材74により接続されており、ボールネジ71はモータAの回転により回転運動する。また、連結リンク73の後端部は二つのネジ72aによりナット72の上部に固定され、連結リンク73の前端部はカム板リンク7のカム板ピン7eに摺動可能にピン結合している。そして、上記構成を備える連結手段Fにおいては、モータAを作動させて連結手段Fのボールネジ71を回転運動させることにより、ボールネジ部71の雄ネジ部71aに螺合された雌ネジ部を有するナット72を前後動させ、連結リンク73及び関連動作手段Cを介した状態でモータAの駆動力(回転力)を挟持手段Dに伝達できる構成となっている。これにより、図1に示す上糸保持装置100同様、図10に示す上糸保持装置100を所謂「シリンダベッドミシン」においても適応できる。
【0084】
【発明の効果】
本発明によれば、アクチュエータ分の設置スペースを確保するのが難しいシリンダベッド部よりも大きなスペースを有する立胴部側のミシンベッド部内に挟持手段の駆動源となるアクチュエータを配設し、該アクチュエータとシリンダベッド部に設けられた挟持手段とを連結部材により連結し、連結部材を介した状態でアクチュエータの駆動力をミシンの立胴部側からシリンダベッド部に設けられた挟持手段に伝達できる構成となっている。従って、上記構成を備える本発明の上糸保持装置を、所謂「シリンダベッドミシン」においても適応できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る上糸保持装置が設けられたシリンダベッドミシンを示す概観側面図である。
【図2】前記上糸保持装置を示す斜視図である。
【図3】前記上糸保持装置を下から見た斜視図である。
【図4】前記上糸保持装置を上から見た斜視図である。
【図5】前記シリンダベッドミシンの針板を含む針板近傍の部材を説明するための平面図である
【図6】本実施の形態に係るアクチュエータ、連結手段、関連動作手段、挟持手段及び検出手段等を構成する各部材の「初期位置」を説明するための(a)平面図(b)側面図である。
【図7】前記アクチュエータ、連結手段、関連動作手段、挟持手段及び検出手段等を構成する各部材の「挟持位置」及び「保持位置」を説明するための(a)平面図(b)側面図である。
【図8】前記アクチュエータ、連結手段、関連動作手段、挟持手段及び検出手段等を構成する各部材の「開放位置」を説明するための(a)平面図(b)側面図である。
【図9】前記アクチュエータ、連結手段、関連動作手段、挟持手段及び検出手段等を構成する各部材の「退避位置」を説明するための(a)平面図(b)側面図である。
【図10】前記上糸保持装置の変形例を示す側面図である。
【符号の説明】
100 上糸保持装置
30 シリンダベッドミシン
31 ミシンベッド部(ミシンベッド)
31a シリンダベッド部
32 立胴部
50 針板
52 針
A ステッピングモータ(アクチュエータ)
B 連結手段
11 糸掴み腕部(連結手段の一部)
12 連結部材(連結手段の一部)
C 関連動作手段
D 挟持手段
5 挟持部材(挟持手段の一部)
6 ガイド部材(挟持手段の一部)
Claims (2)
- ミシンベッドに細長状のシリンダベッド部を有するミシンの上糸保持装置において、
前記シリンダベッド部に設けられ、かつ、針の上下動経路上に位置する初期位置と、縫い始めに針に挿通されている上糸の端部を針板の下方で前記針板と一定の間隔を開けて挟持する挟持位置と、挟持した上糸の端部を針の上下動経路から前記針板と平行に離れて保持する保持位置と、所定針数の針落ち後、前記針板と一定の間隔を開けた状態で、針の上下動経路から前記針板と平行に離間しながら挟持した上糸の端部を開放する開放位置と、前記開放位置に対し針の上下動経路から前記針板と平行に離間する方向に退避した退避位置とに移動可能な挟持手段と、
前記挟持手段を駆動して前記挟持手段に上糸の端部を挟持させるステッピングモータと、
前記挟持手段と前記ステッピングモータとを連結する長尺状の連結部材を有する連結手段とを有し、
前記ステッピングモータは、前記シリンダベッド部よりミシンの立胴部側のミシンベッド内に配置され、
前記連結部材は、前記ステッピングモータの駆動力を、前記ミシンの立胴部側から針の上下動経路側に向かう進退運動、又は、回転運動により前記挟持手段に伝達することを特徴とするミシンの上糸保持装置。 - 請求項1記載のミシンの上糸保持装置において、
前記保持位置が、針の上下動経路に対してミシンの立胴部側であることを特徴とするミシンの上糸保持装置。
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