JP4133709B2 - 格子定数の測定方法 - Google Patents

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本発明は、多層構造半導体の格子定数を求める格子定数の測定方法に関し、さらに詳しくは、半導体基板の一方面上に、複数の成長層が積層され、これらの成長層は、少なくとも活性層およびクラッド層を含む多層構造半導体の格子定数を、X線回折法によって求める格子定数の測定方法に関する。
近年、コンパクトディスク(Compact Disc、略称CD)およびミニディスク(Mini
Disc、略称MD)などの光ディスクの光ピックアップ用光源として、化合物半導体デバイスを用いた半導体レーザ装置が使われ、その半導体レーザ装置の需要は益々拡大している。また電気的および光学的な特性のばらつきが少なく、信頼性に優れた半導体レーザ装置が要求されている。
半導体レーザ素子の基本構造としては、ダブルへテロ構造が用いられていたが、光出力に対する高出力化およびしきい電流に対する低電流化の要求に伴い、分離閉じ込めヘテロ構造(Separate Confinement Heterostructure、略称SCH)および多重量子井戸(
Multi Quantum Well、略称MQW)構造などが用いられるようになっている。前記分離閉じ込めヘテロ構造では、キャリア閉じ込め領域と光閉じ込め領域とが分離されている。前記多重量子井戸構造では、バンドギャップの小さい井戸層とバンドギャップの大きい障壁層とが交互に積層されて、活性層が構成されている。
分離閉じ込めヘテロ構造および多重量子井戸構造では、最も薄い層の厚みは数十〜数百Åである。このような層を形成するために、液相エピタキシ法に代えて、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、略称MOCVD)法および分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy、略称MBE)法などの層厚制御が容易な気相エピタキシ法が用いられている。
図9は、多重量子井戸構造のリッジ型半導体レーザ素子1の断面図である。この半導体レーザ素子1は、n型GaAs基板2の一方面2a上に、n型GaAsバッファ層3、n型GaInPバッファ層4、n型AlGaInPクラッド層5、ノンドープAlGaInP第1光ガイド層6、ノンドープGaInP量子井戸活性層7、ノンドープAlGaInP第2光ガイド層8、p型AlGaInP第1クラッド層9、GaInPエッチングストップ層10、p型AlGaInP第2クラッド層11、p型GaInP中間層12およびp型GaAsキャップ層13が、順に積層されて構成される。前記ノンドープGaInP量子井戸活性層7は、バンドギャップの小さい井戸層とバンドギャップの大きい障壁層とが交互に積層されて構成される。n型GaAs基板2の一方面2a上に積層される前記各層3〜13は、成長層に相当する。前記各層3〜13は、たとえば分子線エピタキシ法を用いて、形成される。
図9には、ノンドープGaInP量子井戸活性層7で発生した光が出射される光出射面14およびn型GaAs基板2の一方面2aに垂直な仮想一平面に沿って、半導体レーザ素子1を切断して見た断面が示されている。半導体レーザ素子1は、p型GaAsキャップ層13の一方面13a(図9の上方に臨む表面)およびn型GaAs基板2の他方面2b(図9の下方に臨む表面)にそれぞれ設けられる電極を含むが、図9においては、前記電極は省略されている。
前述のような半導体レーザ素子1では、前記成長層3〜13の歪みは、その半導体レーザ素子1の電気的および光学的な特性の劣化の原因となる。そのため、成長層3〜13を形成した段階で、成長層3〜13の歪みを示す格子不整合率を求め、その格子不整合率を用いて、次回の成長層の形成に歪みの補正をフィードバックし、成長層の成長条件を調整する必要がある。
格子不整合率は、X線回折法を用いて求めた格子定数を用いることによって、求めることができる。X線回折法では、結晶にX線を照射し、前記結晶で回折されたX線の強度である回折強度を測定し、回折強度のピークが生じる回折角から、前記結晶の格子定数を求めることができる。このX線回折法による格子定数の測定は、個々の半導体レーザ素子に分割される前の多層構造半導体に対して行われる。
従来の技術では、前述の多層構造半導体に類似する多層構造半導体において、活性層とは別に、ドーピングを除いて前記活性層と全く同一の成長条件で、同一組成層を形成し、この同一組成層の格子定数を、X線回折法によって求めている。このように同一組成層の格子定数を求めることによって、活性層の格子定数を知ることができる。この従来の技術では、低しきい電流でのレーザ発振などの素子特性を良好にするために0.1μm以下の厚みに形成され、X線回折法では格子定数を求めることができない活性層の格子定数を知ることができる(たとえば、特許文献1参照)。
また他の従来の技術では、半導体基板に積層するエピタキシャル層の成長条件に基板面内方向の分布を与えることで、特性に影響の出ない程度の組成のばらつきを発生させ、基板面内の最低1箇所において、半導体基板およびエピタキシャル層からの各回折X線の強度のピークを必要十分な程度に分離させ、エピタキシャル層の正確な評価を可能としている(たとえば、特許文献2参照)。
特開昭64−84684号公報 特開2000−195916号公報
記録再生の高速化のために、光ディスクの光ピックアップ用光源に用いられる半導体レーザ素子の高出力化が進んでいる。特に高出力の半導体レーザ素子は、低出力の半導体レーザ素子に比べて、クラッド層の厚みが大きい。このような高出力の半導体レーザ素子を製造する途中の段階の多層構造半導体に対して、X線回折法を用いて格子定数を求める場合、半導体基板およびクラッド層からの各回折X線の強度のピークを識別することが難しく、格子定数を取り違える可能性がある。なぜならば、クラッド層の厚みが半導体基板の厚みに近付くことによって、半導体基板およびクラッド層からの各回折X線の強度のピーク値が近付くからである。
図10は、図9に示される半導体レーザ素子1を製造する途中の段階の多層構造半導体のX線回折プロファイルの一例を示すグラフである。図10において、縦軸は回折強度を示し、横軸は回折角を示す。図10に示されるように、n型GaAs基板2からの回折X線の強度のピーク16と、n型AlGaInPクラッド層、p型AlGaInP第1クラッド層およびp型AlGaInP第2クラッド層からの回折X線の強度のピーク17とが存在する。
図10に示されるように、n型GaAs基板からの回折X線の強度のピーク16と、n型AlGaInPクラッド層、p型AlGaInP第1クラッド層およびp型AlGaInP第2クラッド層からの回折X線の強度のピーク17との各ピーク値が同じ程度の値となる場合、n型GaAs基板からの回折X線の強度のピーク16と、n型AlGaInPクラッド層、p型AlGaInP第1クラッド層およびp型AlGaInP第2クラッド層からの回折X線の強度のピーク17とを識別することが難しく、格子定数を取り違えてしまう。
前記従来の技術は、X線回折法では測定できないほど厚みが小さい活性層の格子定数を知るための技術であって、格子定数を取り違えてしまうという問題を解決することができる技術ではない。
前記他の従来の技術を用いると、n型GaAs基板2からの回折X線の強度のピーク16と、n型AlGaInPクラッド層、p型AlGaInP第1クラッド層およびp型AlGaInP第2クラッド層からの回折X線の強度のピーク17とを分離させることができるが、前記各回折X線の強度のピーク値は変化しないので、格子定数を取り違えてしまうという問題を解決することができない。
本発明の目的は、半導体基板からの回折X線の強度のピークとクラッド層からの回折X線の強度のピークとを、正しくかつ容易に識別することができ、半導体基板の格子定数とクラッド層の格子定数とを取り違えない格子定数の測定方法を提供することである。
本発明は、半導体基板の一方面上に、複数の成長層が積層され、これらの成長層は、少なくとも活性層およびクラッド層を含む多層構造半導体の所定の測定対象領域に対して、X線を照射して格子定数を求めるX線回折法による格子定数の測定方法において、
多層構造半導体の前記測定対象領域に対して成長層の表面側からエッチングを行い、前記測定対象領域内で、部分的に、成長層の表面側から前記半導体基板まで成長層を除去することによって、前記クラッド層の一部を除去した後、その一部が除去された測定対象領域内の半導体基板および成長層の格子定数を、X線回折法によって求めることを特徴とする格子定数の測定方法である。
また本発明は、クラッド層の一部を除去するとき、複数のレジストマスク部分を、測定対象領域の中心に関して対称に、かつ前記中心まわりの周方向に等間隔をあけ、各レジストマスク部分の中心を、測定対象領域の中心と周縁とを結ぶ半径線の中央に配置してエッチングを行い、
前記測定対象領域に対して照射されるX線のスポット径は、500μm以上1000μm以下に選ばれ、
前記測定対象領域は、X線のスポット径と同程度の大きさに選ばれ、
前記レジストマスク部分の直径は、50μm以上100μm以下に選ばれることを特徴とする
本発明によれば、多層構造半導体の所定の測定対象領域に対して、成長層の表面側からエッチングが行われ、前記測定対象領域内でクラッド層の一部が除去される。このようにクラッド層の一部が除去された後、X線回折法によって、前記測定対象領域内の半導体基板および成長層の格子定数が求められる。
X線回折法では、測定対象領域内の半導体基板および成長層からの回折X線の強度のピークが生じる回折角に基づいて、半導体基板および成長層の格子定数が求められる。測定対象領域内の半導体基板および成長層からの回折X線の強度は、測定対象領域内の半導体基板および成長層の体積に比例する。
本発明では、前述のようにクラッド層の一部が除去されるので、測定対象領域内のクラッド層の体積は減少し、したがって前記クラッド層からの回折X線の強度は低下する。このように前記クラッド層からの回折X線の強度が低下するので、半導体基板からの回折X線の強度のピーク値と、クラッド層からの回折X線の強度のピーク値との間の差が大きくなる。これによって、半導体基板からの回折X線の強度のピークとクラッド層からの回折X線の強度のピークとを、正しくかつ容易に識別することができる。したがって半導体基板の格子定数とクラッド層の格子定数とを取り違えない。
た測定対象領域内で、部分的に、成長層の表面側から半導体基板まで成長層が除去される。前記測定対象領域内で成長層が除去されていない部分は、前記測定対象領域内で半導体基板の一方面上に積層される全ての成長層を含む。たとえば、クラッド層の一部を除去するとき、複数のレジストマスク部分を、測定対象領域の中心に関して対称に、かつ前記中心まわりの周方向に等間隔をあけ、各レジストマスク部分の中心を、測定対象領域の中心と周縁とを結ぶ半径線の中央に配置してエッチングを行い、前記測定対象領域に対して照射されるX線のスポット径は、500μm以上1000μm以下に選ばれ、前記測定対象領域は、X線のスポット径と同程度の大きさに選ばれ、前記レジストマスク部分の直径は、50μm以上100μm以下に選ばれる。したがって前記測定対象領域内の半導体基板およびこの半導体基板の一方面上に積層される全ての成長層の格子定数を測定することが可能となる。
また本発明によれば、測定対象領域はX線のスポットと同程度の大きさである。X線のスポットが多層構造半導体に対して微小である場合、測定対象領域は多層構造半導体に対して微小である。測定対象領域が多層構造半導体に対して微小である場合、測定対象領域内で成長層がエッチングされても、多層構造半導体の大部分は、エッチングされておらず、前記多層構造半導体の大部分は、製品として加工することができる。したがって製造コストの低減を図ることができる。
図1は、本発明の実施の一形態の格子定数の測定方法を説明するためのフローチャートである。本実施の形態の格子定数の測定方法は、多層構造半導体21に適用される。前記多層構造半導体21は、AlGaInP系のリッジ型半導体レーザ素子22(後述の図2参照)を製造する途中の段階の生成物である。この多層構造半導体21の両面に電極を形成し、前記電極を形成した多層構造半導体21を分割することによって、前記半導体レーザ素子22を生成することができる。多層構造半導体21の層構成は、半導体レーザ素子22の層構成に類似する。
本実施の形態の格子定数の測定方法は、特に、低出力の半導体レーザ素子に比べてクラッド層の厚みの総和が大きい高出力の半導体レーザ素子を製造する途中の段階の多層構造半導体に対して、好適に用いることができる。
本実施の形態では、X線を用いた半導体多層構造の識別方法をも説明する。X線を用いた半導体多層構造の識別方法は、多層構造半導体の光学的特性の測定に用いられ、特に、本実施の形態のような格子定数の測定に、好適に用いられる。
図2は、半導体レーザ素子22の断面図である。この半導体レーザ素子22は、半導体基板23の一方面23a上に、第1バッファ層24、第2バッファ層25、n型クラッド層26、第1光ガイド層27、量子井戸活性層28、第2光ガイド層29、p型第1クラッド層30、エッチングストップ層31、p型第2クラッド層32、中間層33およびキャップ層34が、順に積層されて構成される。前記量子井戸活性層28は、バンドギャップの小さい井戸層とバンドギャップの大きい障壁層とが交互に積層されて、構成される。
半導体基板23は、n型GaAsによって形成される。第1バッファ層24は、n型GaAsによって形成される。第2バッファ層25は、n型GaInPによって形成される。n型クラッド層26は、n型AlGaInPによって形成される。第1光ガイド層27は、ノンドープAlGaInPによって形成される。量子井戸活性層28は、ノンドープGaInPによって形成される。第2光ガイド層29は、ノンドープAlGaInPによって形成される。p型第1クラッド層30は、p型AlGaInPによって形成される。エッチングストップ層31は、GaInPによって形成される。p型第2クラッド層32は、p型AlGaInPによって形成される。中間層33は、p型GaInPによって形成される。キャップ層34は、p型GaAsによって形成される。
量子井戸活性層28は光を発生する。n型クラッド層26、p型第1クラッド層30およびp型第2クラッド層32は、第1光ガイド層27、量子井戸活性層28および第2光ガイド層30内に、光およびキャリアを閉じ込める。
図2には、量子井戸活性層28で発生した光が出射される光出射面36および半導体基板23の一方面23aに垂直な仮想一平面に沿って、半導体レーザ素子22を切断して見た断面が示されている。半導体レーザ素子22は、キャップ層34の一方面34a(図2の上方に臨む表面)および半導体基板23の他方面23b(図2の下方に臨む表面)にそれぞれ設けられる電極を含むが、図2においては、前記電極は省略されている。
表1は、半導体レーザ素子22の前記半導体基板23および前記各層24〜34の厚みの一例を示す。
Figure 0004133709
図3は、多層構造半導体21の平面図である。多層構造半導体21の層構成は、図2に示される半導体レーザ素子22に類似し、対応する部分には、同一の用語を使用し、同一の参照符を付す。
多層構造半導体21は、半導体基板23の一方面23a上に、第1バッファ層24、第2バッファ層25、n型クラッド層26、第1光ガイド層27、量子井戸活性層28、第2光ガイド層29、p型第1クラッド層30、エッチングストップ層31、p型第2クラッド層32、中間層33およびキャップ層34が、順に積層されて構成される。
多層構造半導体21における半導体基板23および各層24〜34の各厚みは、前述の半導体レーザ素子22における半導体基板23および各層24〜34の各厚みと同一である。半導体基板23の一方面23a上の複数の層24〜34は、複数の成長層24〜34であり、たとえば分子線エピタキシ法を用いて、形成される。半導体基板23および各層24〜34は、半導体層に相当する。
多層構造半導体21は、円板形状の板状体である。この多層構造半導体21に対して、測定対象領域41が設定される。前記測定対象領域41は、X線回折法を用いて格子定数を測定する領域である。測定対象領域41は、前記多層構造半導体21に対して、1または複数(本実施の形態では5)、設定される。測定対象領域41は、多層構造半導体21を分割して半導体レーザ素子22を生成するにあたって、半導体レーザ素子22の配置の障害とならないように設定される。
測定対象領域41は、多層構造半導体21の成長層側の表面34aの、たとえば中心部および周縁部に、設定される。前記中心部には、1つの測定対象領域41が設定される。前記周縁部には、その多層構造半導体21の周方向に等間隔をあけて、4つの測定対象領域41が設定される。
測定対象領域41は、後述のX線回折法による格子定数の測定の際に多層構造半導体21に照射されるX線のスポットと同程度の大きさである。測定対象領域41の直径dは、0.5mm以上1.2mm以下に選ばれる。
再び図1を参照して、本実施の形態の格子定数の測定方法を説明する。ステップa1では、評価すべき多層構造半導体21を準備し、本実施の形態の格子定数の測定方法に従う処理を開始する。続くステップa2では、フォトリソグラフィ技術を用いて、多層構造半導体21の成長層側の表面34a上、すなわちキャップ層34の一方面34a上に、レジストマスクを形成する。このレジストマスクには、測定対象領域41内に、多層構造半導体21の厚み方向から見た形状が円形状の開口が形成される。
前記レジストマスクを形成するにあたっては、まず、たとえば回転塗布によって、前記キャップ層34の一方面34a上に、レジストを塗布し、レジスト膜を形成する。この後、露光および現像などの処理によって、レジスト膜の一部が除去され、前述のレジストマスクが形成される。
次のステップa3では、測定対象領域41内でキャップ層34の一部を除去する。測定対象領域41内でキャップ層34の一部を除去するにあたっては、硫酸と過酸化水素水と水とを5:10:100(wt%)の割合で混合した混合液を用いて、前記キャップ層34をエッチングする。
次のステップa4では、測定対象領域41内で中間層33の一部を除去する。測定対象領域41内で中間層33の一部を除去するにあたっては、水とりん酸と臭素とを70:14:28の割合で混合した混合液を用いて、前記中間層33をエッチングする。
次のステップa5では、測定対象領域41内でp型第2クラッド層32の一部を除去する。測定対象領域41内でp型第2クラッド層32の一部を除去するにあたっては、70℃のりん酸を用いて、前記p型第2クラッド層32をエッチングする。このステップa5においては、エッチングストップ層31によって、エッチングが阻止される。
図4は、図1のステップa1〜a5を経た多層構造半導体21の測定対象領域41内の一部を拡大して示す断面図である。図4に示されるように、図1のステップa1〜a5を経た多層構造半導体21は、測定対象領域41内でキャップ層34、中間層33およびp型第2クラッド層32が除去され、測定対象領域41内のエッチングストップ層31が露出した状態となっている。
次のステップa6では、X線回折法によって、測定対象領域41内の半導体基板23および成長層24〜31の格子定数を測定する。前記成長層24〜31は、前述のステップa3〜a5で除去されずに残った測定対象領域41内の成長層24〜31である。この後ステップa7では、本実施の形態の格子定数の測定方法に従う処理を終了する。
図5は、図1を用いて説明される格子定数の測定方法によるX線回折プロファイルの一例を示すグラフである。図5において、縦軸は回折X線の強度である回折強度(cps)を示し、横軸は回折角(°)を示す。前記ステップa6では、多層構造半導体21に設定される測定対象領域41に対してX線が照射され、前記測定対象領域41内の半導体基板23および成長層24〜31からの回折X線が測定される。
測定対象領域41に対して照射されるX線のスポット径は、0.5mm以上1mm以下である。前記X線の強度は、3000cps以上100000cps以下の範囲に選ばれる。また前記X線の波長は、15nm以上16nm以下の範囲に選ばれる。
本実施の形態では、前記X線に対する多層構造半導体21の角度を変化させつつ、多層構造半導体21の前記測定対象領域41からの回折X線の強度を測定する。前記X線は、前記測定対象領域41に対して、時間に関して連続的に照射される。
図5に示されるように、半導体基板23からの回折X線の強度のピーク46と、n型クラッド層26、p型第1クラッド層30およびp型第2クラッド層32からの回折X線の強度のピーク47とが存在する。しかも前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度のピーク値は、半導体基板23からの回折X線の強度のピーク値に比べて十分小さい。図5においては、測定対象領域41内の成長層24〜31のうち、前記各クラッド層26,30,32を除く残余の成長層24,25,27〜29,31からの回折X線の強度のピークは省略されている。
本実施の形態では、回折強度から、半導体基板23と、n型クラッド層26、p型第1クラッド層30およびp型第2クラッド層32とを識別することができる。換言すると、回折強度のピーク値に基づいて、半導体基板23からの回折X線のピークと前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度のピークとを識別することができる。
半導体基板23および成長層24〜31の格子定数は、測定対象領域41内の半導体基板23および成長層24〜31からの回折X線の強度のピークが生じる回折角に基づいて、ブラッグの法則を用いて求めることができる。これらの格子定数を用いることによって、前記成長層24〜31の格子不整合率を求め、これらの格子不整合率を用いて、多層構造半導体21を評価することができる。
成長層の格子不整合率は、半導体基板23の格子定数aと成長層の格子定数との差Δaをとり、この格子定数の差Δaを半導体基板23の格子定数aで除すことによって求めることができる。すなわち成長層の格子不整合率は、半導体基板23の格子定数aに対する前記格子定数の差Δaの比率である。このような格子不整合率を用いて、多層構造半導体21を評価し、次回の成長層の形成に歪みの補正をフィードバックし、成長層の成長条件を調整することができる。
以上のように本実施の形態によれば、多層構造半導体21の所定の測定対象領域41に対して、成長層の表面側からエッチングが行われ、前記測定対象領域内41でキャップ層34、中間層33およびp型第2クラッド層32が除去される。このようにp型第2クラッド層32が除去された後、X線回折法によって、前記測定対象領域41内の半導体基板23および成長層24〜31の格子定数が求められる。
X線回折法では、測定対象領域41内の半導体基板23および成長層24〜31からの回折X線の強度のピークが生じる回折角に基づいて、半導体基板23および成長層24〜31の格子定数が求められる。測定対象領域41内の半導体基板23および成長層24〜34からの回折X線の強度は、測定対象領域41内の半導体基板23および成長層24〜31の体積に比例する。
本実施の形態では、前述のように測定対象領域41内で、p型第2クラッド層32の一部が除去されるので、測定対象領域41内のn型クラッド層26、p型第1クラッド層30およびp型第2クラッド層32の体積は減少し、したがって前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度は低下する。このように前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度が低下するので、半導体基板23からの回折X線の強度のピーク値と、前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度のピーク値との間の差が大きくなる。これによって、半導体基板23からの回折X線の強度のピークと前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度のピークとを、正しくかつ容易に識別することができる。したがって半導体基板23の格子定数と前記各クラッド層26,30,32の格子定数とを取り違えない。
また本実施の形態によれば、量子井戸活性層28に関して半導体基板23とは反対側に存在するp型第2クラッド層32の測定対象領域41内での一部が除去されるので、前記量子井戸活性層28に関して半導体基板23側に存在するn型クラッド層26の測定対象領域41内での一部が除去される場合に比べて、除去される成長層が少ない。このように除去される成長層が少ないので、成長層の除去に要する時間が短く、したがって短時間で格子定数を測定することができる。
また本実施の形態によれば、量子井戸活性層28に関して前記半導体基板23とは反対側に、p型第1クラッド層30およびp型第2クラッド層32が存在し、これらのクラッド層30,32の間には、クラッド層30,32とは異なる成分のエッチングストップ層31が介在され、前記測定対象領域41内で、成長層側からエッチングストップ層31まで成長層が除去される。このとき、前記エッチングストップ層31によって、成長層の表面側からのエッチングが阻止されるので、格子定数が測定される成長層の厚みの再現性が向上し、安定した格子定数の測定が可能となる。
前記エッチングストップ層31は、リッジ形成時に使用するための層でもあり、本実施の形態の格子定数の測定方法を実現するためだけに、特別に設けられる層ではない。したがってエッチングストップ層31を設けることによる多層構造半導体21の製造コストの増加はない。
本実施の形態では、エッチングストップ層31によって、成長層の表面側からのエッチングが阻止され、これによって格子定数が測定される成長層の厚みの再現性を向上しているが、成長層の厚みは、たとえばエッチング時間によって、調整してもよい。
また本実施の形態によれば、測定対象領域41はX線のスポットと同程度の大きさである。前記X線のスポットは多層構造半導体21に対して微小であるので、測定対象領域41は多層構造半導体21に対して微小である。したがって測定対象領域41内で成長層がエッチングされても、多層構造半導体41の大部分は、エッチングされておらず、前記多層構造半導体21の大部分は、製品として加工することができる。したがって製造コストの低減を図ることができる。
測定対象領域41がX線のスポットに比べて小さすぎると、半導体基板23からの回折X線の強度のピーク値と、前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度のピーク値との間の差を大きくすることができず、半導体基板23からの回折X線の強度のピークと前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度のピークとを、容易に識別することができない。測定対象領域41の面積は、0.2〜1.1mmの範囲に選ばれ、さらに好ましくは、0.45〜0.8mmに選ばれる。
図6は、本発明の実施の他の形態の格子定数の測定方法を説明するためのフローチャートである。本実施の形態において、多層構造半導体21は、前述の実施の形態における多層構造半導体21と同一であるので、対応する部分には同一の参照符を付して、説明を省略する。また本実施の形態において、多層構造半導体21に設定される測定対象領域41は、前述の実施の形態における測定対象領域41と同一である。
本実施の形態の格子定数の測定方法は、前述の実施の形態の格子定数の測定方法と同様に、特に、高出力の半導体レーザ素子を製造する途中の段階の多層構造半導体に対して、好適に用いることができる。
ステップb1では、評価すべき多層構造半導体21を準備し、本実施の形態の格子定数の測定方法に従う処理を開始する。続くステップb2では、フォトリソグラフィ技術を用いて、多層構造半導体21の成長層側の表面34a上、すなわちキャップ層34の一方面34a上に、レジストマスク51を形成する。
図7は、レジストマスク51が形成された多層構造半導体21の一部を示す斜視図である。レジストマスク51は、キャップ層34の一方面34aのうち、測定対象領域41の一部と、測定対象領域41を除く残余の領域とに形成される。各測定対象領域41には、円柱状のレジストマスク部分51aが1または複数(本実施の形態では4)、形成される。
各測定対象領域41に対しては、4つのレジストマスク部分51aが測定対象領域41の中心cに関して対称に、かつ前記中心cまわりの周方向に等間隔をあけて配置される。レジストマスク部分51aの直径は、0.05mm以上0.1mm以下に選ばれる。各レジストマスク部分51aの中心は、たとえば、測定対象領域41の中心cと周縁とを結ぶ半径線rの中央に位置する。前記レジストマスク部分51aの中心は、図7に示される多層構造半導体21を成長層の表面側から見たときのレジストマスク部分51aの図心に相当する。
前記レジストマスク51を形成するにあたっては、まず、たとえば回転塗布によって、前記キャップ層34の一方面34a上に、レジストを塗布し、レジスト膜を形成する。この後、露光および現像などの処理によって、前記レジスト膜の一部を除去し、図7に示されるような開口部52が形成されたレジストマスク51を形成する。
次のステップb3では、キャップ層34の前記開口部52に臨む部分を除去する。このようにキャップ層34の一部を除去するにあたっては、硫酸と過酸化水素水と水とを5:10:100の割合で混合した混合液を用いて、前記キャップ層34の一部をエッチングする。
次のステップb4では、中間層33、p型第2クラッド層32、エッチングストップ層31、p型第1クラッド層30、第2光ガイド層29、量子井戸活性層28、第1光ガイド層27、n型クラッド層26、第2バッファ層25および第1バッファ層24の前記開口部に臨む部分を除去する。このように前記各成長層24〜33の一部を除去するにあたっては、塩酸を用いて、前記各成長層24〜33の一部をエッチングする。
次のステップb5では、レジストマスク51を除去する。次のステップb6では、X線回折法によって、測定対象領域41内の半導体基板23および各成長層24〜34の格子定数を求める。前記各成長層24〜34は、前述のステップb3〜b4で除去されずに残った測定対象領域41内の各成長層24〜34である。測定対象領域41に対して照射されるX線のスポット径は、0.5mm以上1mm以下である。この後、ステップb7では、本実施の形態の格子定数の測定方法に従う処理を終了する。
図8は、開口部52に臨む各成長層24〜34の一部が除去されてレジストマスク51が除去された多層構造半導体21の一部を示す斜視図である。ステップb3およびステップb4のエッチングによって、図8に示されるように、測定対象領域41内には、成長層が除去されていない部分55が、部分的に形成される。前記測定対象領域41内で成長層が除去されていない部分55は、前記測定対象領域41内で半導体基板23の一方面23a上に積層される全ての成長層24〜34を含む。
前記ステップb6では、図5に示されるグラフと同様なグラフが得られる。半導体基板23および成長層24〜34の格子定数は、前述の実施の形態と同様にして求めることができる。これらの格子定数を用いることによって、前記成長層24〜34の格子不整合率を求めることができる。これらの格子不整合率を用いて、多層構造半導体21を評価し、次回の成長層の形成に歪みの補正をフィードバックし、成長層の成長条件を調整することができる。
以上のように本実施の形態によれば、測定対象領域41内でn型クラッド層26、p型第1クラッド層30およびp型第2クラッド層32の各一部が除去されるので、測定対象領域41内の前記各クラッド層26,30,32の体積は減少し、したがって前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度は低下する。このように前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度が低下するので、半導体基板23からの回折X線の強度のピーク値と、前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度のピーク値との間の差が大きくなる。これによって、半導体基板23からの回折X線の強度のピークと前記各クラッド層26,30,32からの回折X線の強度のピークとを、正しくかつ容易に識別することができる。したがって半導体基板23の格子定数と前記各クラッド層26,30,32の格子定数とを取り違えない。
また本実施の形態によれば、測定対象領域41内で、部分的に、成長層の表面側から半導体基板23まで成長層が除去される。前記測定対象領域41内で成長層が除去されていない部分55は、前記測定対象領域41内で半導体基板23の一方面23a上に積層される全ての成長層24〜34を含む。したがって前記測定対象領域41内の半導体基板23およびこの半導体基板23の一方面23a上に積層される全ての成長層24〜34の格子定数を測定することが可能となる。
また本実施の形態によれば、測定対象領域41は、X線のスポットと同程度の大きさであり、この測定対象領域41内で、部分的に、成長層の表面側から半導体基板23まで成長層が除去される。したがって前記測定対象領域41内で成長層が除去されていない部分55の半導体基板23寄りの成長層に対しても、X線が十分に照射される。
本発明は、前述の実施の各形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。たとえば多層構造半導体の構造は、前述の実施の各形態における多層構造半導体21の構造に限定されるものではない。また多層構造半導体は、半導体レーザ素子を製造する途中の段階の生成物に限定されるものではない。また成長層のエッチングに使用される酸の種類および割合も、成長層の構造によって適宜変更することが可能である。さらに、X線のスポット径に応じて、測定対象領域41の大きさも適宜変更することが可能である。
本発明の実施の一形態の格子定数の測定方法を説明するためのフローチャートである。 半導体レーザ素子22の断面図である。 多層構造半導体21の平面図である。 図1のステップa1〜a5を経た多層構造半導体21の測定対象領域41内の一部を拡大して示す断面図である。 図1を用いて説明される格子定数の測定方法によるX線回折プロファイルの一例を示すグラフである。 本発明の実施の他の形態の格子定数の測定方法を説明するためのフローチャートである。 レジストマスク51が形成された多層構造半導体21の一部を示す斜視図である。 開口部52に臨む各成長層24〜34の一部が除去されてレジストマスク51が除去された多層構造半導体21の一部を示す斜視図である。 多重量子井戸構造のリッジ型半導体レーザ素子1の断面図である。 図9に示される半導体レーザ素子1を製造する途中の段階の多層構造半導体のX線回折プロファイルの一例を示すグラフである。
符号の説明
21 多層構造半導体
22 半導体レーザ素子
23 半導体基板
24 第1バッファ層
25 第2バッファ層
26 n型クラッド層
27 第1光ガイド層
28 量子井戸活性層
29 第2光ガイド層
30 p型第1クラッド層
31 エッチングストップ層
32 p型第2クラッド層
33 中間層
34 キャップ層
41 測定対象領域

Claims (2)

  1. 半導体基板の一方面上に、複数の成長層が積層され、これらの成長層は、少なくとも活性層およびクラッド層を含む多層構造半導体の所定の測定対象領域に対して、X線を照射して格子定数を求めるX線回折法による格子定数の測定方法において、
    多層構造半導体の前記測定対象領域に対して成長層の表面側からエッチングを行い、前記測定対象領域内で、部分的に、成長層の表面側から前記半導体基板まで成長層を除去することによって、前記クラッド層の一部を除去した後、その一部が除去された測定対象領域内の半導体基板および成長層の格子定数を、X線回折法によって求めることを特徴とする格子定数の測定方法。
  2. 前記クラッド層の一部を除去するとき、複数のレジストマスク部分を、測定対象領域の中心に関して対称に、かつ前記中心まわりの周方向に等間隔をあけ、各レジストマスク部分の中心を、測定対象領域の中心と周縁とを結ぶ半径線の中央に配置してエッチングを行い、
    前記測定対象領域に対して照射されるX線のスポット径は、500μm以上1000μm以下に選ばれ、
    前記測定対象領域は、X線のスポット径と同程度の大きさに選ばれ、
    前記レジストマスク部分の直径は、50μm以上100μm以下に選ばれることを特徴とする請求項1記載の格子定数の測定方法。
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