JP4125416B2 - 超音波診断装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被検体にあてがわれて被検体内に超音波を送信しその被検体内で反射して戻ってきた超音波を受信する超音波探触子が接続され、その超音波探触子に電圧を印加して被検体内に超音波を送信させるとともに超音波探触子で超音波を受信して得た受信信号に基づく画像を生成する超音波診断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、上記の超音波診断装置が、被検体、特に人体の内部の疾患の診断に役立てられている。このような超音波診断装置において、昨今、被検体内での非線形現像により生じた、超音波探触子から被検体内に送信した超音波の周波数の2倍の周波数の超音波の受信信号を用いて高画質の画像を表示する、いわゆる“Harmonic Imaging”の手法が提案されている。
【0003】
これまでなされてきた“Harmonic Imaging”においては、広い周波数帯域の超音波を送受信することのできる圧電素子を用いた超音波探触子を作製し、その広い周波数帯域内で、2倍の周波数をもつ高調波を受信する工夫がなされている。
図14は、従来の“Harmonic Imaging”の手法の説明であり、超音波探触子に用いられた圧電素子の周波数帯域を示す図である。
【0004】
超音波探触子に用いられた圧電素子の周波数帯域がΔfのように広がっているとき、周波数f1 を中心周波数とし、周波数帯域Δf1 の超音波を被検体内に送信する。被検体内では、中心周波数f1 の基本波のほか、周波数f1 の2倍の周波数f2 を中心周波数とした周波数帯域Δf2 の高調波が発生し、受信にあたっては、中心周波数f2 の高調波を受信し、あるいは中心周波数f1 の基本波と中心周波数f2 の高調波の双方を区別なく受信した後高調波の信号成分を抽出して、その高調波による画像を生成する。こうすることにより、“HarmonicImaging”が実現し、高画質の画像を得ることができるものと期待されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記の手法で“Harmonic Imaging”を実現するには、
(1)超音波探触子に極めて広い周波数帯域を持つ圧電素子を備える必要があるが、そのような圧電素子は製作が大変であり、コスト高となるとともに、例えばエネルギー変換効率等、周波数帯域以外の他の特性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0006】
(2)高調波の帯域に進入しないような基本波を送信する必要上、圧電素子に印加する電気信号を工夫する必要がある。
(3)圧電素子の周波数帯域にはどうしても制限があり、図14に示すように、圧電素子の周波数帯Δf域内を基本波と高調波とに分離すると狭帯域システムとなり、時間分解能(被検体の深さ方向の空間分解能)に制限を受ける。
という問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、基本波を送信し、高調波を含む超音波を受信するのに好適な超音波探触子に適合した超音波診断装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明の超音波診断装置は、被検体にあてがわれて被検体内に超音波を送信しその被検体内で反射して戻ってきた超音波を受信する超音波探触子が接続され、超音波探触子に電圧を印加して被検体内に超音波を送信させるともに超音波探触子で超音波を受信して得た受信信号に基づく画像を生成する超音波診断装置において、
上記超音波探触子が、
所定の第1の音響インピーダンスを有する配列された複数の第1の圧電素子からなる、所定の中心周波数の超音波からなる基本波の、被検体内に向けた送信、およびその被検体内で反射して戻ってきた超音波のうちの基本波の受信を担う第1圧電層と、
上記第1の音響インピーダンスよりも小さい所定の第2の音響インピーダンスを有し上記複数の第1の圧電素子と同一ピッチで同一方向に配列された複数の第2の圧電素子からなる、上記第1圧電層の、この超音波探触子が被検体にあてがわれる側の前面に重ねられ上記被検体内で反射して戻ってきた超音波のうちの高調波の受信を担う第2圧電層と、
第1圧電層と第2圧電層との間に形成された、互いに対応する第1の圧電素子と第2の圧電素子とに共通であって上記同一の方向に配列された第1の電極と、
第1圧電層の背面に形成された、第1圧電層を構成する複数の第1の圧電素子に共通の第2電極と、
第2圧電層の前面に形成された、第2圧電層を構成する複数の第2の圧電素子それぞれに対応する、あるいはこれら複数の第2の圧電素子に共通の第3の電極とを備えたものであって、
この超音波診断装置が、超音波送信時には、上記第3の端子を開放状態あるいは対応する第1の端子に接続した状態に保ち、超音波受信時には、上記第3の端子を接地する端子制御手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
超音波送信時に、上記第3の端子を開放状態あるいは対応する第1の端子に接続した状態に保つことにより、第1圧電層と第2圧電層のうち第1圧電層のみから基本波のみを送信することができ、超音波受信時には、上記第3の端子を接地することにより、第2圧電層で高調波を受信することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下では、先ず、超音波診断装置の概要について説明し、次いで本発明の実施形態の特徴部分について説明する。図1は、本発明の超音波診断装置の一実施形態を示すブロック図である。以下、各部の作用ないし機能の説明はあとにまわし、先ずは、この超音波診断装置の構成について説明する。
【0018】
この超音波診断装置の本体部10は、大別して、制御部100、信号処理部200、ディジタルスキャンコンバータ部300、ドプラ処理部400、表示制御部500、生体信号アンプ部600から構成されている。制御部100は、CPU部101とビームスキャン制御部102からなり、CPU部101には、操作パネル701、一体的に構成されたタッチパネル702とEL表示器703、およびフロッピィディスク装置704が接続されている。
【0019】
また、信号処理部200は、送受信部201、受信ディレイ制御部202、ビームフォーマ部203、コントロールインターフェイス部204、演算部205、およびドプラシグナル処理部206から構成されており、コントロールインターフェイス部204と、送受信部201、受信ディレイ制御部202、およびドプラシグナル処理部206は、制御ライン207で結ばれている。また、コントロールインターフェイス部204と演算部205は制御ライン208で結ばれており、さらに、受信ディレイ制御部202とビームフォーマ部203は制御ライン209で結ばれている。信号処理部200を構成する送受信部201には、超音波探触子20が、着脱自在に、ここでは最大4本まで接続される。
【0020】
また、ディジタルスキャンコンバータ部300には、白黒用スキャンコンバータ301、カラー用スキャンコンバータ302、およびスクロール用スキャンコンバータ303が備えられている。
また、ドプラ処理部400には、パルス/連続波ドプラ解析部401とカラードプラ解析部402が備えられている。
【0021】
さらに、表示制御部500は、ここでは1つのブロックで示されており、この表示制御部500には、プリンタ705、VTR(ビデオテープレコーダ)706、観察用テレビモニタ707、およびスピーカ708が接続されている。
また、生体信号アンプ部600も、表示制御部500と同様、ここでは1つのブロックで示されており、この生体信号アンプ部600には、ECG電極ユニット709、心音マイク710、および脈波用トランスデューサ711が接続されている。
【0022】
さらに、この超音波診断装置には、電源部800が備えられている。この電源部800は、商用電源に接続され、この超音波診断装置各部に必要な電力を供給する。
また、本体部10は、CPUバス901を有しており、このCPUバス901は、制御部100を構成するCPU部101およびビームスキャン制御部102と、信号処理部200を構成するコントロールインターフェイス部204と、ディジタルスキャンコンバータ部300を構成する白黒用スキャンコンバータ301、カラー用スキャンコンバータ302、およびスクロール用スキャンコンバータ303と、ドプラ処理部400を構成するパルス/連続波ドプラ解析部401およびカラードプラ解析部402と、さらに画像表示部500とを接続している。また、この本体部10は、エコーバス902を有しており、このエコーバス902は、信号処理部200を構成する演算部205で生成される画像データを、ディジタルスキャンコンバータ部300に供給する。また、ドプラ処理部400を構成するパルス/連続波ドプラ解析部401およびカラードプラ解析部402で生成されたデータも、エコーバス902を経由してディジタルスキャンコンバータ部300に供給される。さらに、この本体部10は、ビデオバス903を有しており、このビデオバス903は、ディジタルスキャンコンバータ部300を構成する白黒用スキャンコンバータ301、カラー用スキャンコンバータ302、およびスクロール用スキャンコンバータ303のいずれかで生成されたビデオ信号を表示制御部500に伝達する。
【0023】
操作パネル701は、多数のキーを備えたキーボード等からなり、この操作パネル701を操作するとその操作情報がCPU部101で検知され、その操作情報に応じた指令が、その指令に応じて、ビームスキャン制御部102、コントロールインターフェイス部204、ディジタルスキャンコンバータ部300、ドプラ処理部400、あるいは表示制御部500に伝達される。
【0024】
EL表示部703は、液晶表示画面を有し、また、CPU部101は、そのEL表示部703の液晶表示画面に表示するEL用線画を作成するEL用線画作成部を兼ねており、そのCPU部101で生成されたEL用線画がEL表示部703の液晶表示画面上に表示される。そのEL表示部703の液晶表示画面上にはタッチパネル702が備えられており、そのタッチパネル702に指で触れるとそのタッチパネル702上の指で触れた位置をあらわす位置情報がCPU部101に伝達される。このタッチパネル702およびEL表示器703は、例えば、操作パネル701の操作により、この超音波診断装置に、ある1つのモードに関するパラメータを設定する旨指示すると、CPU101により、その1つのモード用に設定すべき多数のパラメータ一覧がEL表示部703に表示され、タッチパネル702を指で触れて所望のパラメータを設定するなど、この超音波診断装置への各種の指示を入力し易いように構成されたものである。
【0025】
フロッピィディスク装置704は、図示しないフロッピィディスクが装脱自在に装填され、その装填されたフロッピィディスクをアクセスする装置であって、CPU部101により、オペレータが操作パネル701やタッチパネル702の操作により行なった指示がそのフロッピィディスク装置704に装填されたフロッピィディスクに書き込まれ、この超音波診断装置への電源投入時、あるいは操作パネル701の操作により初期状態へのリセットが指示された時に、そのフロッピィディスク装置704に装填されたフロッピィディスクからそこに書き込まれている各種の指示情報がCPU部101に入力され、CPU部101は、その指示情報に応じて各部を初期状態に設定する。これは、この超音波診断装置を稼働させるにあたって必要となる、操作パネル701やタッチパネル702から設定すべきパラメータ等が多数存在し、例えば電源投入のたびにそれら多数のパラメータ等を設定し直すのは極めて大変であり、このためフロッピィディスクに初期状態のパラメータ等を書き込んでおいて、電源投入時や初期状態へのリセットが指示された時には、そのフロッピィディスクに書き込まれているパラメータ等を読み込んでそれらのパラメータ等に応じて各部を設定することにより、パラメータ等の設定効率化を図るというものである。
【0026】
制御部100を構成するCPU部101は、上述のように、主としてマン・マシンインターフェイスの役割りを担っているのに対し、同じく制御部100を構成するビームスキャン制御部102は、主として、この超音波診断装置による超音波の送受信のタイミング等、リアルタイム性が要求される制御を担当している。この超音波診断装置で超音波の送受信を行なう時には、信号処理部200を構成する各部を制御するためのデータがビームスキャン制御部102からCPUバス901を経由して信号処理部200のコントロールインターフェイス部204に伝達され、このコントロールインターフェイス部204は、制御ライン207を経由して、送受信部201、受信ディレイ制御部202、およびドプラシグナル処理部206を制御し、また、このコントロールインターフェイス部204は、制御ライン208を介して演算部205を制御し、さらに受信ディレイ制御部202は、コントロールインターフェイス部204の制御を受けて、制御ライン209を介してビームフォーマ部203を制御する。信号処理部200の各部の制御についての詳細は後述する。
【0027】
送受信部201には、超音波探触子20が接続されている。この超音波探触子には、例えばリニア走査型超音波探触子、コンベックス走査型超音波探触子、セクタ走査型超音波探触子、また特殊な超音波探触子としては、体腔内に挿入されるタイプの超音波探触子、さらには、これら各種の超音波探触子について、使用される超音波の周波数の相違による種別等、多種類の超音波探触子が存在する。超音波探触子を本体部10に装着するにはコネクタ(図示せず)が用いられるが、本体部10側には超音波探触子を接続するためのコネクタが4個取り付けられており、前述したように、多種類の超音波探触子のうち最大4本まで同時装着が可能である。超音波探触子を本体部10に装着すると、どの種類の超音波探触子が装着されたかをあらわす情報が本体部10で認識できるように構成されており、その情報は、制御ライン207、コントロールインターフェイス部204、およびCPUバス901を経由してCPU部101に伝えられる。一方、操作パネル701からは、この超音波診断装置を使用するにあたり、今回、本体部10側の4つのコネクタのうちのどのコネクタに接続された超音波探触子を使用するか指示が入力される。その指示は、CPUバス901を経由してビームスキャン制御部102に伝えられ、そのビームスキャン制御部102から、使用する超音波探触子に応じたデータが、CPUバス901、コントロールインターフェイス部204、制御ライン207を経由して送受信部201に伝達され、送受信部201は、上記のようにして指示された超音波探触子20に対し、以下に説明するように高電圧パルスを送信して超音波を送信し、その超音波探触子で受信された信号を受け取る。ここでは、図1に1つだけ示す超音波探触子20が超音波送受信のために選択されたものとする。
【0028】
図1に示す超音波探触子20はいわゆるリニア走査型の超音波探触子であり、その先端には、この図1には図示が省略されている複数の圧電素子が配列された圧電部210が備えられており、超音波の送受信にあたっては、被検体(特に人体)1の体表に圧電部210があてがわれる。その状態で、送受信部201から複数の圧電素子それぞれに向けて超音波送信用の各高電圧パルスが印加される。複数の圧電素子それぞれに印加される各高電圧パルスは、コントロールインターフェイス部204の制御により相対的な時間差が調整されており、これら相対的な時間差がどのように調整されるかに応じて、それら複数の圧電素子から、被検体1の内部に延びる複数の走査線2のうちのいずれか一本の走査線に沿って、被検体内部の所定深さ位置に焦点が結ばれた超音波パルスビームが送信される。
【0029】
この送信される超音波パルスビームの属性、すなわち、その超音波パルスビームの方向、焦点の深さ位置、中心周波数等は、ビームスキャン制御部102からCPUバス901を経由してコントロールインターフェイス部204に伝えられた制御データにより定まる。
この超音波パルスビームは被検体1の内部を進む間にその1本の走査線上の各点で反射して超音波探触子20に戻り、その反射超音波が複数の圧電素子で受信される。この受信により得られた複数の受信信号は、送受信部201に入力されて送受信部201に備えられた複数のプリアンプ(図示せず)でそれぞれ増幅された後ビームフォーマ部203に入力される。このビームフォーマ部203には、多数の中間タップを備えたアナログ遅延線(後述する)が備えられており、受信ディレイ制御部202の制御により、送受信部201から送られてきた複数の受信信号がアナログ遅延線のどの中間タップから入力されるかが切り換えられ、これにより、それら複数の受信信号が相対的に遅延されるとともに互いに電流加算される。ここで、それら複数の受信信号に関する相対的な遅延パターンを制御することにより、被検体1の内部に延びる所定の走査線に沿う方向の反射超音波が強調され、かつ被検体1の内部の所定深さ位置に焦点が結ばれた、いわゆる受信超音波ビームが形成される。ここで、超音波は、被検体1内部を、信号処理の速度と比べてゆっくりと進むため、1本の走査線に沿う反射超音波を受信している途中で被検体内のより深い位置に焦点を順次移動させる、いわゆるダイナミックフォーカスを実現することもでき、この場合、超音波パルスビーム1回の送信に対応する1回の受信の間であっても、その途中で時間的に順次に、受信ディレイ制御部202により、各超音波振動子で得られた各受信信号が入力される、アナログ遅延線の各タップが切り換えられる。
【0030】
この受信超音波ビームの属性、すなわち受信超音波ビームの方向、焦点位置等についても、ビームスキャン制御部102からCPUバス901を経由してコントロールインターフェイス部204に伝えられ、さらに制御ライン207を経由して受信ディレイ制御部202に伝えられてきた制御データにより定められ、受信ディレイ制御部202はそのようにして伝えられてきた制御データに基づいて、ビームフォーマ部203を制御する。
【0031】
尚、上記説明では、圧電素子には高電圧パルスを与え、超音波パルスビームを送信する旨説明したが、この場合、前述したように超音波は信号処理速度と比べるとゆっくりと被検体内を進むため、圧電素子に高電圧パルスを印加した時点を起点とし、圧電素子で反射超音波を受信する時点までの時間により、その時点で得られた信号が被検体内のどの深さ位置で反射した反射超音波に対応する信号であるかを知ることができる。すなわち、送信される超音波がパルス状のものであることにより、被検体の深さ方向に分解能を持つことになる。通常は、このように、圧電素子には高電圧パルスが印加されるが、特殊な場合には、被検体内の深さ方向に分解能を持たないことを許容し、圧電素子に連続的に繰り返す高電圧パルス列信号を印加して被検体内に連続波としての超音波ビームを送信することもある。
【0032】
ただし、以下においても、ドプラ処理部400を構成するパルス/連続波ドプラ解析部401の説明の際に連続波に言及する場合を除き、パルス状の超音波ビームを送信するものとして説明する。
送受信部201およびビームフォーマ部203は、上記のようにして、被検体1内部の複数の走査線2のそれぞれに沿って順次に超音波パルスビームの送信と受信とを繰り返し、これにより生成される各走査線に沿う受信超音波ビームをあらわす信号が順次演算部205に入力される。この演算部205の詳細については後述するが、この演算部205では、入力された信号がA/D変換によりディジタルの走査線データに変換される。
【0033】
この演算部205で得られた走査線データは、エコーバス902を経由して、ディジタルスキャンコンバータ部300を構成する白黒用スキャンコンバータ301に入力される。この白黒用スキャンコンバータ301では、表示用の各画素に対応したデータを生成するための補間演算処理が施され、さらに入力された走査線データが表示用のビデオ信号に変換され、その表示用のビデオ信号がビデオバス903を経由して表示制御部500に入力される。この表示制御部500は、複数の走査線2で規定される被検体断層面内の超音波反射強度分布によるBモード像を観察用テレビモニタ707に表示する。その際、必要に応じて、操作パネル701から入力された患者名や撮影年月日、撮影条件等も、そのBモード像に重畳されて表示される。このBモード像として、被検体1内部が動いている様子をあらわす動画像を表示することもでき、あるいは、ある時点における静止画像を表示することもでき、さらには、生体信号アンプ部600からの同期信号に基づいて、人体の心臓の動きに同期した、その心臓の動きの、ある位相における画像を表示することもできる。
【0034】
生体信号アンプ部600には、被検体(人体)1の心電波形を得るためのECG電極ユニット709、心音をピックアップする心音マイク710、人体の脈をとらえる脈波用トランスデューサ711が接続されており、生体信号アンプ部600では、これらのうちのいずれか1つもしくは複数のセンサに基づいて同期信号が生成され、表示制御部500に送られる。
【0035】
また表示制御部500には、観察用テレビモニタ707のほか、プリンタ705、VTR(ビデオテープレコーダ)706が接続されており、表示制御部500は、オペレータからの指示に応じて、観察用テレビモニタ707に表示された画像をプリンタ705ないしはVTR706に出力する。
再度、信号処理部200の説明から始める。
【0036】
被検体内部に延びるある一本の走査線上の超音波反射情報の時間変化を知ろうとするときは、オペレータからの指示に応じて、その関心のある一本の走査線に沿って超音波が繰り返し送受信され、その1本の走査線に沿う被検体の受信超音波ビームをあらわすデータがエコーバス902を経由してスクロール用スキャンコンバータ303に入力される。このスクロール用スキャンコンバータ303は、縦方向にその1本の走査線に沿う被検体の深さ方向の超音波反射強度分布、横軸が時間軸からなり時間軸方向にスクロールする画像(Mモード像)をあらわすビデオ信号が生成され、ビデオバス903を経由して表示制御部500に入力され、例えば観察用テレビモニタ707に、そのビデオ信号に基づく画像が表示される。尚、表示制御部500は、白黒用スキャンコンバータ301から送られてきたBモード像をあらわすビデオ信号とスクロール用スキャンコンバータ303から送られてきたMモード像をあらわすビデオ信号とを横に並べる機能や、Bモード像に、後述するカラーモード像を重畳する機能も有しており、観察用テレビモニタ707には、オペレータからの指示に応じて、複数の画像が並べて表示され、あるいは複数の画像が重畳して表示される。
【0037】
もう一度、信号処理部200の説明に戻る。
信号処理部200を構成するドプラシグナル処理部206は、被検体1内部の血流分布や、ある一点、ないしある1本の走査線上の血流速度を求めるための構成要素であり、このドプラシグナル処理部206では、ビームフォーマ部203で生成された受信超音波ビームをあらわす受信信号に、いわゆる直交検波が施され、さらにA/D変換によりディジタルデータに変換される。ドプラシグナル処理部206から出力された直交検波後のデータは、ドプラ処理部400に入力される。ドプラ処理部400には、パルス/連続波ドプラ解析部401とカラードプラ解析部402とが備えられており、ここでは、ドプラシグナル処理部206から出力されたデータは、カラードプラ解析部402に入力されるものとする。カラードプラ解析部402では、各走査線それぞれに沿って例えば8回ずつ超音波送受信を行なったときのデータに基づく自己相関演算により、オペレータにより指定された、Bモード画像上の関心領域(ROI)内の血流分布をあらわすデータが求められる。ROI内の血流分布をあらわすデータは、エコーバス902を経由してカラー用スキャンコンバータ302に入力される。このカラー用スキャンコンバータ302では、そのROI内の血流分布をあらわすデータが表示に適したビデオ信号に変換され、そのビデオ信号は、ビデオバス903を経由して表示制御部500に入力される。表示制御部500では、白黒用スキャンコンバータ301から送られてきたBモード像上のROIに、例えば超音波探触子20に近づく方向の血流を赤、遠ざかる方向の血流を青、それらの輝度で血流速度をあらわしたカラーモード像を重畳して、観察用テレビモニタ707に表示する。これにより、そのROI内の血流分布の概要を把握することができる。
【0038】
ここで、オペレータにより、そのROI内のある1点もしくはある1本の走査線上の血流を詳細に観察する旨の要求が入力されると、今度は送受信部201により、その関心のある一点を通る一本の走査線、もしくはその関心のある1本の走査線に沿う方向に多数回超音波の送受信が繰り返され、それにより得られた信号に基づいてドプラシグナル処理部206で生成されたデータが、ドプラ処理部400を構成するパルス/連続波ドプラ解析部401に入力される。被検体内のある一点の血流に関心があるときは、被検体内にはパルス状の超音波ビームが送信され、ある1本の走査線上の血流情報が平均化されることを許容しS/Nの良い血流情報を得たいときは、被検体内には連続波としての超音波ビームが送信される。
パルス/連続波ドプラ解析部401では、ある1点もしくはある1本の走査線について多数回超音波送受信を行なうことにより得られたデータに基づくFFT(Fast Fourier Transform)演算により、その一点の血流情報あるいはその一本の走査線上の平均的な血流情報が得られる。このパルス/連続波ドプラ解析部401で得られた血流情報をあらわすデータは、エコーバス902を経由して、スクロール用スキャンコンバータ303に入力され、スクロール用スキャンコンバータ303では、縦軸が血流速度、横軸が時間軸からなり時間軸方向にスクロールする画像をあらわすビデオ信号が生成される。このビデオ信号は、ビデオバス903を経由して表示制御部500に入力され、観察用テレビモニタ707上に、例えば白黒用スキャンコンバータ301から送られてきたBモード像と並べられて表示される。
【0039】
図2は、複数の超音波振動子に印加される高電圧パルスの遅延パターンを示した概念図である。
配列された複数の圧電素子21のうち、配列の両端(A),(B)に位置する圧電素子と比べ配列の中央(O)よりに位置する圧電素子に、時間的に遅れた高圧パルス22を印加する。このように、遅延パターンを持った高電圧パルスを複数の圧電素子21に印加することにより、被検体内の所定の方向に延び、かつある深さ位置に焦点が形成された送信超音波パルスビームが形成される。
【0040】
図3は、ビームフォーマ部における、受信超音波ビームの形成の仕方を示す原理説明図である。
ここでは、説明の簡単のため、複数のタップを備えた遅延線1001a,…,1001m,…,1001nと、制御信号に応じて受信信号の遅延線への入力ルートを切り換える選択スイッチ1002a,…,1002m,…,1002nとのペアが各圧電素子21に対応して備えられているものとする。各選択スイッチ1002a,…,1002m,…,1002nそれぞれには対応する圧電素子で得られた各1つの受信信号が入力され、各選択スイッチ1002a,…,1002m,…,1002nでは、その入力された受信信号が、遅延線の複数のタップのうちの、制御信号に応じたタップから遅延線に入力される。各遅延線は2001a,…,2001m,…,2001nは受信信号が入力されたタップに応じた遅延時間だけその入力された受信信号を遅延して加算器1003に入力する。加算器1003は、その加算器1003に同時に入力された受信信号どうしを加算して、受信超音波ビームをあらわす受信信号を出力する。
【0041】
なお、この図3では、解りやすさのため、受信信号の数と同数の、遅延線1001a,…,1001m,…,1001nと選択スイッチ1002a,…,1002m,…,1002nとのペアを備えるとともに、各遅延線1001a,…,1001m,…,1001nから出力された受信信号を互いに加算する加算器103を備えた構成について説明したが、実際には、多数のタップを備えた一本の遅延線に、複数の圧電素子で得られた複数の受信信号が、入力されるタップがそれぞれ制御されながら入力され、それら複数の受信信号がそれぞれ入力された各タップに応じた時間だけ遅延されると共にその遅延線内で互いに電流的に加算され、その一本の遅延線から、制御された遅延パターンに従って遅延を受けかつ互いに加算された受信信号が、直接に出力される。
【0042】
図4は、遅延パターンと、走査線の方向と、焦点位置との関係を示した説明図である。
A−B間に複数の圧電素子が配列されているものとし、A−B間の中点をOとする。このとき、各圧電素子に印加される高電圧パルスに、図4(A)に示すようにB側に位置する圧電素子に対し長めの遅延時間を与えて各圧電素子に印加すると、中点OからB側に傾いた方向に延びる走査線に沿う送信超音波ビームが形成され、図4(B)に示すように、左右対称の遅延パターンを与えると中点Oから圧電素子の配列方向に対し垂直に延びる走査線に沿う送信超音波ビームが形成され、図4(C)に示すように、A側に位置する圧電素子に対し長めの遅延時間を与えた高電圧パルスを印加すると、A側に傾いた送信超音波ビームが得られる。また、同一の走査線に沿う送信超音波ビームであっても、高電圧パルスの遅延パターンに応じて焦点位置を定めることができる。具体的には、図4(A)〜(C)に破線で示すように焦点を中心としてA−B間を結ぶ線分に接する円弧を描いて考える。各圧電素子から送信された超音波パルスがその円弧上に同時に到達すると、それらの超音波パルスは焦点に集まるように進む。したがって、例えば図4(B)のように焦点を形成する場合は、A点およびB点に位置する圧電素子に同時に高電圧パルスが印加され、その高電圧パルスの印加によってA点およびB点に位置する圧電素子から発せられた超音波パルスがその円弧上に達したタイミングでO点に位置する圧電素子に高電圧パルスが印加されてそのO点に位置する圧電素子から超音波パルスが送信される。こうすることにより、図4(B)に示す走査線に沿うとともに図4(B)に示す焦点位置で最も細いビーム径を有する送信超音波パルスビームが形成される。
【0043】
ここで、A−B間に配列された、超音波送信に用いられている複数の圧電素子は、例えば超音波探触子20(図1参照)に配列された複数の圧電素子の一部であって、送信超音波パルスビームの形成に用いる複数の圧電素子からなる送信開口を、超音波探触子20に配列された圧電素子の配列方向に移動することにより、走査線を、圧電素子の配列方向に平行移動させることができる。
【0044】
このようにして、超音波探触子20に配列された圧電素子上の任意の点を始点として被検体内の任意の方向に延びる走査線に沿うとともに、その走査線上の任意の点に焦点を持つ送信超音波ビームを得ることができる。
受信超音波ビームの形成についても上記の送信超音波ビームの場合と同様である。
【0045】
すなわち、被検体内で反射し各圧電素子に戻ってきた超音波を各圧電素子で受信することにより得られた各受信信号を、図4(A)に示すように、B側の圧電素子で得られた受信信号に対し長めの遅延時間を与えた上で互いに加算すると、中点Oを始点としB側に傾いた走査線に沿う受信超音波ビームが形成され、図4(B)に示すように左右対称の遅延時間を与えた上で互いに加算すると、中点Oを始点として圧電素子の配列方向に対し垂直に延びる走査線に沿う受信超音波ビームが形成され、図4(C)に示すようにA側の圧電素子で得られた受信信号に対し長めの遅延時間を与えた上で互いに加算すると、点Oを始点としA側に傾いた走査線に沿う受信超音波ビームが得られる。また、同一の走査線に沿う受信超音波ビームであっても、遅延パターンに応じて焦点位置を定めることができる。具体的には、焦点で反射してそれぞれ各点A,O,Bに向かう超音波は、焦点と各点A,O,Bとを結ぶ各線分と、円弧との交点に同時に到達することになり、焦点で反射した超音波を各圧電素子で受信する時刻に差異が生じることになる。そこで焦点で反射した超音波が先に到達した圧電素子で得られた受信信号を、超音波が後から到達する圧電素子に超音波が到達する迄の間遅延させた上で互いに加算すると、焦点を通る走査線に沿う方向に延び、かつその焦点で最も細く絞られた受信超音波ビームが形成されることになる。
【0046】
ここで、送信の場合と同様、A−B間に配列された、反射超音波の受信に用いられている複数の圧電素子は、例えば超音波探触子20(図1参照)に配列された複数の圧電素子の一部であって、反射超音波の受信に用いる複数の圧電素子からなる受信開口を、超音波探触子20に配列された圧電素子の配列方向に移動することにより、走査線を、配列された圧電素子の方向に平行移動させることができる。
【0047】
このようにして、送信および受信の双方について、超音波探触子20に配列された圧電素子上の任意の点を始点として被検体内の任意の方向に延びる走査線に沿うとともにその走査線上の任意の点に焦点を持つ超音波ビームを得ることができる。
図5は、超音波探触子の圧電部の構造図である。
【0048】
この圧電部210は、音響吸収層211と、その音響吸収層211の前面に配置された第1圧電層212と、その第1圧電層の前面に配置された第2圧電層213と、その第2圧電層の前面に配置された第3層214を備えている。この第3層214は、その前面が被検体1にあてがわれ、この圧電部210からは、図5に示す矢印の方向に超音波が送信される。
【0049】
第1圧電層212は配列された複数の第1の圧電素子2121からなり、この第1圧電層212は、基本周波数f1 の超音波を送受するように、基本周波数f1 に対応する、その第1圧電層212の固有の音速から割り出される波長λ1 の1/2倍の厚さを有している。またここではこの第1圧電層212の音響インピーダンスを第1の音響インピーダンスz1 と称する。
【0050】
第2圧電層213は、第1圧電層212に配列された第1圧電素子2121の配列ピッチと同一のピッチで配列された複数の第2の圧電素子2131からなり、この第2圧電層213は、基本周波数f1 の2倍の周波数f2 に対応する、その第2圧電層213の固有の音速から割り出される波長λ2 の1/4倍の厚さを有しており、基本周波数f1 の2倍の周波数f2 の超音波を受信することができる。この第2圧電層213の音響インピーダンスz2 は、第1圧電層212の音響インピーダンスz1 よりも低く、かつ以下において説明する第3層214の音響インピーダンスz3 よりも高い。
【0051】
第3層214は、基本周波数f1 の2倍の周波数f2 に対応する、その第3層の固有の音速から割り出され波長λ3 の1/4倍の厚みを有しており、かつ、第2圧電層213の音響インピーダンスz2 と、被検体1の音響インピーダンスz0 の中間の音響インピーダンスz3 を有している。
ここで、本実施形態では、
第1圧電層212の音響インピーダンスz1
=30×106 (kg/m2 ・sec)
第2圧電層213の音響インピーダンスz2
=8×106 (kg/m2 ・sec)
第3層214の音響インピーダンスz3
=5×106 (kg/m2 ・sec)
であり、被検体(人体)1の音響インピーダンスz0 は、
z0 ≒1.5×106 (kg/m2 ・sec)
である。
【0052】
したがって、第3層214は、周波数f2 に対する波長λ3 の1/4倍の厚さを有し、かつ、z0 <z3 <z2 であることから、被検体1と第2圧電層213との間を伝播する周波数f2 の高調波が共振透過する、音響的な整合層として作用する。
また、第3層214と第2圧電層213とを合わせると、それぞれが周波数f2 に対応する各波長λ3 ,λ2 の1/4倍の厚さを有し、それらを合わせると、周波数f2 に対応する波長の1/2倍の厚さを有し、周波数f2 は基本周波数f1 の2倍の周波数を有することから、基本周波数f1 を基準にすると、第3層214と第2圧電層213とを合わせると、基本周波数f1 に対応する波長の1/4倍の厚さを有することになる。さらにz0 <z3 ,z2 <z1 であることから、これら第3層214と第2圧電層213とを合わせた層が、被検体1と第1圧電層212との間を伝播する基本周波数f1 の超音波に対する整合層として作用する。
【0053】
ここで、第1圧電層212と第2圧電層213との間には、この図の上下に隣接する互いに対応する第1の圧電素子2121と第2の圧電素子2131とに共通の第1の電極2151が、これら第1の圧電素子2121や第2の圧電素子2131と同一ピッチで同一数配列されている。
また、第1圧電層212の背面、すなわち第1圧電層212と音響吸収層211との間には、第1圧電層212を構成する複数の第1の圧電素子2121に共通の第2の電極216が形成されており、さらに、第2圧電層213の前面、すなわち第2圧電層213と第3層214との間には、この実施形態では第2圧電層213を構成する複数の第2圧電素子2131に共通の第3の電極217が形成されている。
【0054】
ここで、被検体1の内部に向けて超音波を送信するときは、第2の電極216は接地し、第3の電極217は電気的に絶縁された状態とし、配列された第1の電極2151に高電圧パルスを印加する。これにより、第1圧電層212から被検体1の内部に向けて中心周波数f1 の基本波が送信される。ここで、前述したとおり、各第1の電極2151への高電圧パルスの印加のタイミングを調整することにより、被検体1の内部に、任意の方向に進み、かつ任意の深さ位置に焦点を持った超音波ビームを送り込むことができる。
【0055】
この超音波送信時は、前述したように第3層214と第2圧電層213とが複合的に、第1圧電層212で発せられた中心周波数f1 の基本波を被検体1に伝播する整合層として作用する。
超音波受信時は、第2の電極216は接地したまま、第3の電極217も接地する。すると、上述のとおり、第3層214は、第2圧電層213で受信する中心周波数f2 の高調波に対する整合層として作用して第2圧電層213を構成する複数の第2の圧電素子2131それぞれで中心周波数f2 の高調波が受信され、これとともに、第3層214と第2圧電層213とが複合的に、第1圧電層212で受信する中心周波数f1 の基本波に対する整合層として作用して、第1圧電層212を構成する複数の第1の圧電素子2121それぞれで中心周波数f1 の基本波が受信される。
【0056】
配列された複数の第1の電極2151それぞれでは、対応する第2の圧電素子2131で受信された高調波の信号と対応する第1の圧電素子2121で受信された基本波の信号とが複合された受信信号が得られることになる。
図6は、図5に示す圧電部210における送信、受信の周波数帯域を示す図である。
【0057】
超音波送信時は、第3の電極217が電気的に絶縁された状態に置かれているため、第1の電極215に印加した高電圧パルスは第1圧電層212にのみ作用し、第1圧電層212から中心周波数f1 ,周波数帯域Δf1 の基本波が送波される。この周波数帯域Δf1 としては、第1圧電層212を構成する第1の圧電素子2121の周波数帯域全域を使うことができる。また超音波受信時には、第3の電極217も接地されているため、第1圧電層212では、中心周波数f1 ,周波数帯域Δf1 の基本波が受信されるとともに、第2圧電層213では、中心周波数f1 の2倍の中心周波数数f2 を持つ周波数帯域Δf2 の高調波が受信される。この周波数帯域Δf2 として、第2圧電層213を構成する第2の圧電素子2131の周波数帯域全域を使用することができる。
【0058】
したがって、図5に示す構造の圧電部210を備えた超音波探触子を使用すると、送信用の基本波の周波数帯域として第1圧電層212を構成する第1の周波数帯域全域を使用することができ、高電圧パルスの生成に特別な注意を払うことなく、従来と同様な送信回路を使用することができる。また、送信用の基本波として広い周波数帯域を確保することができるとともに、受信用の基本波、高調波としても広い周波数帯域を確保することができ、時間分解能も良好な、一層の高画質の“Harmonic Imaging”を実現することができる。
【0059】
図7は、超音波探触子の圧電部の他の例を示す構造図である。
図5に示す圧電部の構成要素と同一の構成要素には、図5に付した符号と同一の符号を付して示し、相違点について説明する。但し、図7においては電極は省略されている。
この図7に示す圧電部210には、第3層214のさらに前面に第4層218と第5層219が配置されている。第4層218および第5層219は、それぞれが基本周波数f1 の2倍の周波数f2 に対応する、各層の固有の音速から割り出される各波長λ4 ,λ5 の1/4倍の厚みを有しており、かつ、第3層214の音響インピーダンスz3 と被検体1の音響インピーダンスz0 との中間の音響インピーダンスを有している。しかも、第4層218の音響インピーダンスをz4 ,第5層219のインピーダンスをz5 としたとき、z4 >z5 の関係にある。
【0060】
したがって、これら第4層218,第5層219は、それぞれの層が、第3層214と同様に、被検体1と第2圧電層213との間を伝播する中心周波数f2 の高調波に対する整合層として作用するとともに、これら第4層218と第5層219を合わせた層が、被検体1と第1圧電層212との間を伝播する中心周波数f1 の基本波に対する整合層として作用する。すなわち、図7に示す圧電部の場合、第1圧電層212で送受信される中心周波数f1 の基本波に対しては2層整合、第2圧電層213で受信される中心周波数f2 の高調波に対しては3層整合の超音波探触子となる。
【0061】
尚、この図7に示す例は、図5に示す例に対し、第4層218と第5層219を追加した例であるが、同様の考え方でさらに2層ずつ層を増やしてもよい。第4層218と第5層219を備えるとともに、さらに2層追加したときは、第1圧電層212で送受信される中心周波数f1 の基本波に対しては3層整合、第2圧電層213で受信される中心周波数f2 の高調波に対しては4層整合の超音波探触子となる。
【0062】
図8,図9は、超音波探触子の圧電部の製造方法の説明図であり、図8は、2枚の圧電セラミックス板の接合方法の説明図、図9はその後の工程の説明図である。
先ず、図8に示すように、完成後に第1圧電層となる第1の圧電セラミックス板2120と完成後に第2圧電層となる第2の圧電セラミックス2130を、電極形成物質が塗布された導電性メッシュシート2150を間に挟んで重ね合わせ、焼成することにより、それら第1の圧電セラミックス板2120と第2の圧電セラミックス板2130を接合するとともに、それら2枚の圧電セラミックス板2120,2130の間に、完成後に第1の電極2151(図5参照)となる導体膜を形成する。
【0063】
次に、図9に示すように、2枚重ねの圧電セラミックス板を音響吸収体211の上に固定し、スリット2111を形成して第1の圧電セラミックス板2120を複数の第1の圧電素子の配列に分離するとともに、第2の圧電セラミックス板2130を複数の第2の圧電素子の配列に分離する。さらにこのスリット2111を形成することにより、配列された第1の電極2151も形成される。次に、第1の電極2151を切断しない程度に、第2の圧電セラミックス板2130にスリット2112を形成し、このようにして形成されたスリット2111,2112に樹脂を注入する。これにより、圧電セラミックス製の、配列された第1の圧電素子が生成されるとともに、スリットが形成された圧電セラミックスとそのスリットを埋める樹脂とからなる、配列された第2の圧電素子が形成される。第2の圧電素子を作製するにあたり、スリットの本数やスリット幅、そのスリットを埋める樹脂の材質等により、第2の圧電素子の音響インピーダンスを調整することができる。
【0064】
スリット2111,2112を埋めた樹脂が硬化した後、第2の圧電セラミックス板の前面を平面に削り、メッキ、蒸着等により第3の電極を形成する。尚、第1の電圧セラミックス板2120の背面の第2の電極は予め形成されている。第2の電極、第3の電極の形成方法は従来と同様であり、詳細説明は省略する。
第2の圧電セラミックス板2130(配列された第2の圧電素子)の前面に第3の電極を形成した後、その上に図5に示す第3層を重ねる(図9では図示省略)。
【0065】
図10は、超音波探触子の圧電部のもう1つの例を示した図である。尚、ここでも、第2圧電層213の上の整合層は図示省略されている。
第1圧電層212と第2圧電層213との間に段差2113が設けられており、その段差2113の部分で第1の電極2151が信号線2152に接続されている。また、第2の電極216は、配列された複数の第1の圧電素子2121に共通的に導通する電極シート216aを介して信号線2153に接続され、また、第3の電極217は、配列された複数の第2の圧電素子213に共通的に導通されて信号線2154に接続されている。
【0066】
図11は、図10に示す構造の圧電部を有する超音波探触子20が接続された超音波診断装置の特徴部分を示す図である。
本体部10に備えられた送受信部201(図1参照)の送受信回路2011には、超音波探触子20側の、配列された第1の電極2151にそれぞれ接続された複数本の信号線2152が接続されており、送受信部201は、制御ライン207を経由して入力された制御信号に基づいて、信号線2152を経由して超音波探触子20に高電圧パルスを送り超音波を送信させるとともに、超音波探触子20で得られ信号線2152を経由して伝達されてきた受信信号を受け取る。また、第2の電極216は、信号線2153を介して本体部10に接続され、接地されている。さらに、第3の電極217は、信号線2154を経由して本体部10に接続され、スイッチ素子2012を介して接地されている。このスイッチ素子2012は、制御ライン207を経由して入力される制御信号により、超音波送信時は開放されており、これにより第3の電極217は電気的に他と絶縁された状態に置かれ、超音波受信時は閉鎖され、これにより第3の電極217は接地された状態に置かれる。超音波送信時に第3の電極を他と絶縁された状態に置き、超音波受信時に接地することの作用は図5を参照して説明済であるため、ここでは、これ以上の説明は省略する。
【0067】
図12は、超音波探触子の圧電部のさらに異なる例を示した図である。尚、ここでも、第2圧電層213の上の整合層は図示省略されている。図10に示す圧電部との相違点について説明する。
図10に示す圧電部では、第3の電極217は、配列された複数の第2の圧電素子213に共通的に導通されて信号線2154に接続されているが、図12に示す圧電部では、第3の電極217は、各第2の圧電素子213それぞれについて独立であって、基板2155上に配列された対応するスイッチ素子2156を介して、対応する第1の電極2151と接続されている。これらのスイッチ素子2156は、本体部10(図1,図11参照)からの制御信号を制御信号線2157を経由して受け取り、図12に実線で示す、第3の電極217と第1の電極2151とが短絡される側と、図12に破線で示す、第3の電極217が接地される側とに切り替えられる。
【0068】
この制御信号線2157は、例えば図11に示す信号線2154に代わるものであり、スイッチ素子2156は、本体部10側のスイッチ素子2012(図11参照)がオフ(制御信号線2157が接地から離れる)のときに第3の電極217と第1の電極2151を短絡し、本体部10側のスイッチ素子2012がオン(制御信号線2157が接地される)のときに第3の電極217が接地されるように切り替えられる。
【0069】
この場合、超音波送信時は、各第2の圧電素子を挟む各第3の電極と各第1の電極が短絡されるため、第3の電極を開放状態としておく場合よりも、第2圧電層213が存在することによる、基本波の送信への悪影響を一層完全に押えることができる。
図13は、図1に示す超音波診断装置のブロック図中の、演算部205,白黒用スキャンコンバータ301および表示制御部500の、本実施形態に特徴的な構成部分を示した機能ブロック図である。
【0070】
前述したように、本実施形態では、第1圧電層212で受信された基本波と第2圧電層213で受信された高調波との双方の成分を含んだ受信信号が得られる。その受信信号はビームフォーマ部203(図1参照)に入力されて受信超音波ビームが形成された後、演算部205に入力される。演算部205では、2つのフィルタ部2051A,2051Bでそれぞれ基本波の信号成分、高調波の信号成分が抽出され、これにより基本波の信号成分と高調波の信号成分とに分離される。分離された2つの信号成分は、各対数圧縮部2052A,2052Bでそれぞれ対数圧縮され、各検波部2053A,2053Bでそれぞれ検波され、各画像処理部2054A,2054Bにより、それぞれ基本波、高調波に適した画像処理が施される。画像処理部2054A,2054Bにおいて行なわれる画像処理には、例えば、基本波、高調波にそれぞれ適したスムージング処理、あるいはエッジ強調処理等、基本波、高調波による画像の画質改善のための処理が含まれる。各画像処理部2054A,2054Bで画像処理の行なわれた後の各信号成分は、各A/D変換器2055A,2055Bでディジタルの各走査線データに変換され、エコーバス902を経由して白黒用スキャンコンバータ301に入力され、各スキャンコンバータ301A,301Bにより、表示用の各ビデオ信号に変換され、ビデオバス903を経由して表示制御部500に入力される。表示制御部500の画像合成部5001では、これら基本波,高調波に基づいて生成された2つのビデオ信号が1つのビデオ信号に合成される。すなわち、ここでは、受信信号が基本波の信号成分と高調波の信号成分とに分離され、それぞれに適した処理が施された後1枚の画像に合成される。こうすることにより、高調波のみでは信号パワーが低過ぎ、画質が悪化する恐れがあるのを防ぐことができ、かつ、基本波と高調波とを一緒にしたまま処理を行なう場合と比べ高画質の画像を得ることができる。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、広帯域の“Harmonic Imaging”を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の超音波診断装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】複数の超音波振動子に印加される高電圧パルスの遅延パターンを示した概念図である。
【図3】ビームフォーマ部における、受信超音波ビームの形成の仕方を示す原理説明図である。
【図4】遅延パターンと、走査線の方向と、焦点位置との関係を示した説明図である。
【図5】超音波探触子の圧電部の構造図である。
【図6】図5に示す圧電部における送信、受信の周波数帯域を示す図である。
【図7】超音波探触子の圧電部の他の例を示す構造図である。
【図8】超音波探触子の圧電部の製造方法の説明図である。
【図9】超音波探触子の圧電部の製造方法の説明図である。
【図10】超音波探触子の圧電部のもう1つの例を示した図である。
【図11】図10に示す構造の圧電部を有する超音波探触子が接続された超音波診断装置の特徴部分を示す図である。
【図12】超音波探触子の圧電部のさらに異なる例を示した図である。
【図13】図1に示す超音波診断装置のブロック図中の、演算部,白黒用スキャンコンバータおよび表示制御部の、本実施形態に特徴的な構成部分を示した機能ブロック図である。
【図14】従来の“Harmonic Imaging”の手法の説明であり、超音波探触子に備えた圧電素子の周波数帯域を示す図である。
【符号の説明】
1 被検体
2 走査線
10 本体部
20 超音波探触子
100 制御部
101 CPU部
102 ビームスキャン制御部
200 信号処理部
201 送受信部
202 受信ディレイ制御部
203 ビームフォーマ部
204 コントロールインターフェイス部
205 演算部
207 制御ライン
300 ディジタルスキャンコンバータ部
301 白黒用スキャンコンバータ
301A,301B スキャンコンバータ
400 ドプラ処理部
500 表示制御部
701 操作パネル
707 観察用テレビモニタ
210 圧電部
211 音響吸収層
212 第1圧電層
213 第2圧電層
214 第3層
216 第2の電極
217 第3の電極
218 第4層
219 第5層
2011 送受信回路
2012 スイッチ素子
2051A,2051B フィルタ部
2052A,2052B 対数圧縮部
2053A,2053B 検波部
2054A,2054B 画像処理部
2055A,2055B A/D変換器
2121 第1の圧電素子
2131 第2の圧電素子
2151 第1の電極
2156 スイッチ素子
5001 画像合成部
Claims (1)
- 被検体にあてがわれて該被検体内に超音波を送信し該被検体内で反射して戻ってきた超音波を受信する超音波探触子が接続され、該超音波探触子に電圧を印加して被検体内に超音波を送信させるとともに該超音波探触子で超音波を受信して得た受信信号に基づく画像を生成する超音波診断装置において、
前記超音波探触子が、
所定の第1の音響インピーダンスを有する配列された複数の第1の圧電素子からなる、所定の中心周波数の超音波からなる基本波の、被検体内に向けた送信、および該被検体内で反射して戻ってきた超音波のうちの基本波の受信を担う第1圧電層と、
前記第1の音響インピーダンスよりも小さい所定の第2の音響インピーダンスを有し前記複数の第1の圧電素子と同一ピッチで同一方向に配列された複数の第2の圧電素子からなる、前記第1圧電層の、この超音波探触子が被検体にあてがわれる側の前面に重ねられ前記被検体内で反射して戻ってきた超音波のうち高調波の受信を担う第2圧電層と、
前記第1圧電層と前記第2圧電層との間に形成された、互いに対応する第1の圧電素子と第2の圧電素子とに共通であって前記配列方向に配列された第1の電極と、
前記第1圧電層の背面に形成された、該第1圧電層を構成する複数の第1の圧電素子に共通の第2の電極と、
前記第2圧電層の前面に形成された、該第2圧電層を構成する複数の第2の圧電素子それぞれに対応する、あるいはこれら複数の第2の圧電素子に共通の第3の電極とを備えたものであって、
この超音波診断装置が、超音波送信時には、前記第3の端子を開放状態あるいは対応する第1の端子に接続した状態に保ち、超音波受信時には、前記第3の端子を接地する端子制御手段を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
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