JP4123652B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、変圧器やその他の電気機器の鉄心に用いる方向性電磁鋼板の製造技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
変圧器や発電機、回転機の鉄心材料として使用される方向性電磁鋼板には、高磁束密度でかつ低鉄損であることが最も重要な特性として要求される。
今日まで方向性電磁鋼板の低鉄損化を実現するために様々な手段が講じられてきたが、その中でも結晶方位をゴス方位と呼ばれる{110}<001>方位に高度に集積させることは、最も重要視されてきた開発目標の一つである。というのは、鉄結晶の磁化容易軸である<001>を圧延方向に高度に集積させることによって、圧延方向への磁化に要する磁化力が小さくなり、保磁力が低下する結果、ヒステリシス損が低下し、鉄損の有利な低減が達成されるからである。
【0003】
その他、方向性電磁鋼板の重要な要求特性として、磁化した際の騒音が小さいことが挙げられるが、この問題も結晶方位をゴス方位に揃えることによって大幅に改善される。
すなわち、変圧器から生じる騒音の原因は、鉄心素材の磁歪振動や電磁振動であることが知られているが、結晶方位のゴス方位への集積度が向上すると、磁歪振動の原因となる90°磁区の生成が抑制されると同時に、励磁電流が低下して電磁振動が抑制され、これらの結果として、騒音が低減されるのである。
【0004】
以上のように、方向性電磁鋼板にとって結晶方位<001>の圧延方向への集積は最も重要な課題であるといえる。
ここで、結晶方位の集積度の指標として、B8 (磁化力:800 A/m における磁束密度)が用いられる場合が多く、方向性電磁鋼板の開発はB8 の向上を大きな目標として推進されている。また、鉄損の代表的な値としては、励磁磁束密度:1.7 T、励磁周波数:50Hzの場合のエネルギー損失であるW17/50 が使用される。
【0005】
このような方向性電磁鋼板の二次再結晶粒組織は、最終仕上げ焼鈍中の二次再結晶と呼ばれる現象を通じて形成され、この二次再結晶によりゴス方位の結晶粒を優先的に巨大成長させて、所望の磁気特性を有する製品を得る。
【0006】
上記した二次再結晶粒の集積を効果的に促進させるためには、一次再結晶粒の成長を選択的に抑制するインヒビターと呼ばれる析出分散相を均一かつ適正なサイズで形成することが重要である。
このインヒビターの存在により一次再結晶粒の正常な粒成長が抑制され、最終仕上げ焼鈍中に高温まで細かい一次粒の状態が保たれると共に、良好な方位の結晶粒の成長に対する選択性が高まるため、高磁束密度が実現される。一般に、インヒビターが強力で正常粒成長抑制力が強いほど高い方位集積度が得られると考えられている。
【0007】
このようなインヒビターとしては、MnS, MnSe, Cu2-X S, Cu2-XSe, AlN等、鋼への溶解度の小さい物質が用いられる。例えば、特公昭33−4710号公報や特公昭40−15644 号公報には、素材中にAlを含有させ、最終冷延圧下率を81〜95%の高圧下とすると共に最終冷延前の焼鈍で強力なインヒビターであるAlNを析出させる技術が開示されている。
また、上記のインヒビター成分に加えて、Sn, As, Bi, Sb, B, Pb, Mo, Te, VおよびGe等を付加的に添加することは、二次粒の方位集積度の向上に対して有効であることが知られている。
【0008】
これらの付加的インヒビター元素の中で、周期律表で5B族元素に分類されるP, As, SbおよびBiは、結晶粒界上に偏析することで、主インヒビターであるMnS, MnSe, Cu2-X S, Cu2-XSe, AlN等と共同して正常粒成長抑制力を強化し、磁気特性を高めることが知られており、中でも特にBiは鉄に対す溶解度が低いことから、粒界偏析効果による正常粒成長抑制力強化元素として早くから有望視されてきた。
【0009】
このBiの添加による磁気特性向上技術としては、特公昭51−29496 号公報や特公昭54−32412 号公報などが公知である。また、特許第2872404 号公報や特公平7−62176 号公報には、AlN, MnSe, MnS等とBiを複合的に鋼中に添加する方法が記載されている。
これらの技術では、確かにBiによる抑制力強化作用を利用しているが、Biを添加した材料に対する適正な製造条件を確立するまでには至っておらず、安定して高い磁気特性を得るには不十分であった。
【0010】
同様に、特開平6−88171 号公報、特開平6−88172 号公報、特開平6−88173 号公報および特開平6−88174 号公報等では、Al系のインヒビターにBiを付加させることにより、磁束密度の大幅な向上が可能であることが述べられているが、Bi添加の効果自体は従来より公知であるだけでなく、磁気特性向上効果を安定して引き出す方法についてはやはり提示されていない。
【0011】
上述したとおり、方向性電磁鋼板の磁気特性の向上に対して、Biの添加は極めて有望な方法ではあるものの、種々の要因で二次再結晶不良を生じ易く、高い磁気特性を安定して得ることが難しいという問題を残していた。
【0012】
その他、Biを鋼中に添加した材料の最終仕上げ焼鈍板の被膜量に関する先行技術としては、特公平2−58324 号公報、特公平2−58325 号公報、特公平2−58326 号公報等があり、最終仕上げ焼鈍板片面のフォルステライト被膜量を1〜4g/m2と規定している。
しかしながら、これらの技術では、最終仕上げ焼鈍板に適正な張力を付与して鉄損を低減させることを目的としてフォルステライト量が規定されているだけで、二次再結晶の安定性に有利な条件が示されているわけではない。
【0013】
また、Biを鋼中に添加した材料の脱炭焼鈍板の酸素目付量に関して、特開平8−232019号公報では、製造工程途中で窒化を施す製法において、脱炭焼鈍板の酸化膜の酸素目付量を 600〜900 ppm とし、焼鈍分離剤に所定の物質を添加する方法が開示されている。この方法は、窒化工程で起こりがちなフォルステライト被膜の改善を図ることが目的であり、Biを添加した材料の二次再結晶を十分に安定させることはできない。
また、特開平10−152725号公報には、Biを鋼中に添加した材料の脱炭焼鈍板表面の酸素目付量を 550〜850 ppm に制御する技術が開示されているが、この技術は被膜形成を安定させることを目的としているため、本発明で示すようなMgO の物性に関する規定はなく、磁気特性の安定化を図るには不十分である。
さらに、発明者らは、先に特願平10−133387号明細書において、熱延時の冷却速度と脱炭焼鈍の雰囲気ならびに最終仕上げ焼鈍板の表面酸素量を規定することによって磁気特性を高位に安定させる技術を提案したが、この技術では、最終仕上げ焼鈍板の表面酸素量が低く制限されるために良好な被膜が得られ難いという問題があった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、Biを添加した方向性電磁鋼板で生じ易い二次再結晶不良をなくすと同時に、良好な被膜の形成も併せて実現した磁気特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法を提案することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、Biを添加した材料では、最終仕上げ焼鈍の際に用いる焼鈍分離剤の主剤であるMgO の細孔容積を適正に制御すると共に、脱炭焼鈍板の酸素目付量に対する最終仕上げ焼鈍板の酸素目付量の比を適正化することによって、十分な膜厚の被膜が形成されると共に二次再結晶が安定し、磁束密度の高い方向性電磁鋼板の安定製造が可能となることを見出した。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0016】
ここに、本発明でいう細孔容積とは、定量式ガス吸着法で測定したものであり、予備処理としてMgO を真空中にて 400℃、2時間処理した後、吸着ガスをN2 、吸着温度を77KとしてBET多点法で測定し、この吸着データをDH法で解析することにより評価したものである。また、DH法とは、 Dollimore−Heal法の略で、細孔を円筒形と仮定して吸着ガスの相対圧と吸着量の増分から細孔の分布を求める方法である。
【0017】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.C:0.01〜0.10wt%、Si:1.0 〜5.0wt%、Mn:0.03〜0.20wt%、Bi:0.0005〜0.070wt%およびインヒビター元素として、Al, S, Se, Sb, Sn, Cu, Cr, Ni, Ge, BおよびNのうちから選んだ1種または2種以上を、Al, S, Seについては単独または合計で 0.010〜0.060 wt%、Sbについては0.0010〜0.080 wt%、Sn, Cu, Cr, Ni, Geについては0.0010〜1.30wt%、Bについては5〜50 ppm、Nについては30〜100 ppm の範囲で含有し、残部は Fe および不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延し、ついで焼鈍処理を含む1回または2回以上の冷間圧延を施して最終板厚としたのち、脱炭焼鈍し、ついで鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
焼鈍分離剤の主剤として細孔容積が0.03〜0.20 ml/g のMgO を用いると共に、最終仕上げ焼鈍板表面の片面当たりの酸素目付量σf と脱炭焼鈍板表面の片面当たりの酸素目付量σd について次式(1)
σf /σd ≦ 3.5 --- (1)
但し、σ d : 0.3 〜 1.2 g/m 2
σ f : 0.6 g/m 2 以上
の範囲を満足させることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0019】
2.脱炭焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP(H20)/P(H2)を0.45〜0.65の範囲とし、かつMgO を主成分とする焼鈍分離剤の塗布量を鋼板片面当たり9g/m2以下とすることを特徴とする上記1記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0020】
3.最終仕上げ焼鈍工程の 850〜1100℃域における平均昇温速度を10〜60℃/hとすることを特徴とする上記1または2記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0021】
【発明の実施の形態】
前述した特願平10−133387号明細書では、最終仕上げ焼鈍板表面の酸素量を低位に制限することによって、二次再結晶を安定させる方法が提示されているが、この場合、被膜形成量の不足により製品の外観の劣化が生じ易いという難点を有していた。
これに対して、発明者らは、最終仕上げ焼鈍板表面の酸素量が増加した場合であっても、焼鈍分離剤の主剤とするMgO の物性すわなち細孔容積を適正に制御することによって二次再結晶が安定すること見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0022】
以下、本発明の基礎となった実験について説明する。
主要成分として、C:0.06wt%、Si:3.3 wt%、Mn:0.07wt%、Se:0.02wt%、S:0.005 wt%、Al:0.022 wt%およびN:0.0082wt%含有し、さらにBiを無添加および0.010 wt%添加した珪素鋼スラブを、1400℃に加熱し、30分間保持したのち、熱間圧延を施して2.4 mmの板厚とした。ついで、1000℃,30秒の熱延板焼鈍を施し、酸洗後、一次冷間圧延を施して1.5mm 厚とした。ついで、1050℃,1分間の中間焼鈍を施し、これを酸洗してから、二次冷間圧延により0.23mmの最終板厚とした。
引き続く脱炭焼鈍工程では、均熱過程のP(H20)/P(H2)を0.45とし、均熱時間は100 秒間とした。
その後、これらの材料に、細孔容積が種々に異なる MgO:100 重量部に対してTiO2を5重量部添加した焼鈍分離剤を水と混合してスラリー状とし、鋼板の片面当たり 7.5 g/m2 の目付量にて塗布した。ここで、MgO の水和量は 3.0%に調整した。ついで、 800〜1000℃の領域の平均昇温速度:20℃/hにて最高到達温度:1200℃, 5時間の最終仕上げ焼鈍を施した。
ついで、得られた最終仕上げ焼鈍板に、コロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを塗布・焼き付けて製品とした。
【0023】
かくして得られた製品板から、試験片(幅:30mm, 長さ:280 mm)16枚を採取し、エプスタイン試験法により磁束密度B8 を測定した。
また、脱炭焼鈍板の鋼板片面当たりの酸素目付量σd 、最終仕上げ焼鈍板の鋼板片面当たりの酸素目付量σf を測定したところ、それぞれ0.7 g/m2、1.9 g/m2であった。これらは、酸化膜が付いた状態で分析した酸素量から表面酸化膜を除去して地鉄のみで分析した酸素量を引き去り、鋼板片面当たりの酸素目付量に換算して求めた。
【0024】
図1に、MgO の細孔容積と磁束密度B8 (磁化力:800A/mにおける磁束密度)との関係について調べた結果を示す。
同図から明らかなように、Biを鋼中に添加した材料では、細孔容積が0.03〜0.20 ml/g のMgO を使用した場合に、被膜特性および磁気特性とも良好となることが判明した。
これに対し、Biを添加していない材料では、B8 はほとんど細孔容積に依存していない。
【0025】
上記の結果に基づき、さらに詳しい調査を行ったところ、Biを含有した材料の二次再結晶を安定させるためには、MgO の細孔容積を適正に制御するのみでは不十分で、脱炭焼鈍板の酸素目付量に対する最終仕上げ焼鈍板の酸素目付量の比を適正範囲に制御することが重要であり、これらの条件を具備することにより、最終仕上げ焼鈍板表面の酸素目付量が 1.5 g/m2 を超えた場合でも安定して高磁束密度の方向性電磁鋼板が得られることが判明した。
【0026】
図2,3および4にそれぞれ、最終仕上げ焼鈍板表面の片面当たりの酸素目付量σf とB8 との関係、脱炭焼鈍板表面の片面当たりの酸素目付量σd とB8 との関係および両者の比σf/σdとB8 との関係について調べた結果を示す。
これらの結果を得るための実験方法は、上述した実験方法に準じ、焼鈍分離剤主剤MgO の細孔容積は0.100 ml/gとした。また、σdは脱炭焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP(H20)/P(H2)により調整し、σf は焼鈍分離剤の水和量と目付量により調整した。
【0027】
図2から、焼鈍分離剤に用いるMgO の細孔容積が0.10ml/gの場合、最終仕上げ焼鈍板片面の表面酸素量σf が 1.75 g/m2を超えるようになるとB8 が低下する例が生じた。しかしながら、σf が 1.75 g/m2を超えても良好な磁気特性となる場合もあり、ばらつきが大きい。
また、図3に示した脱炭焼鈍板表面の酸素目付量σd とB8 との関係においてもばらつきが大きく、σf 、σd だけでは磁性劣化を正確に説明することはできない。
これに対し、図4では、B8 はほとんどばらつくことなくσf /σd に従って変化しており、σf /σd を3.5 以下とすることによって、B8 が 1.960Tを超える高磁束密度の製品を安定して製造できることが分かる。
【0028】
図5は、Biを0.010 wt%含有する鋼片から製造した方向性電磁鋼板に関して、σf /σd と細孔容積がB8 に及ぼす影響について調べた結果を示したものである。
同図に示したとおり、σf /σd と細孔容積が本発明の範囲を満足する場合には、B8 ≧1.97Tの製品の収率が100 %となっていて、磁束密度が極めて優れた製品が安定して得られることが分かる。
【0029】
次に、図6は、素材鋼片中のBi含有量とB8 との関係を示したものである。この中で、条件1では、MgO の細孔容積を 0.10 ml/g、σf /σd を 2.0とし、一方条件2では、MgO の細孔容積を 0.30 ml/g、σf /σd を 3.7とした。また、脱炭焼鈍の雰囲気はいずれもP(H20)/P(H2)=0.50とした。
同図の結果から、本発明の製法によれば、Bi含有量が0.0005〜0.070 wt%の範囲でB8 ≧1.96T の優れた磁気特性が得られることが判明した。
【0030】
次に、脱炭焼鈍雰囲気と焼鈍分離剤の塗布量の影響を調査し、さらなる磁気特性の改善が可能かどうか検討を行った。
図7は、前記と同様の実験により調査した脱炭焼鈍雰囲気のP(H20)/P(H2)とB8 との関係を示したものである。ここで、脱炭焼鈍雰囲気の変化に応じてσd も変化するので、この実験では均熱時間を調整してσd を0.60〜0.65g/m2の範囲に保った。また、MgO は細孔容積 0.180 ml/g のものを使用し、焼鈍分離剤の塗布量を鋼板片面当たり8g/m2または10g/m2とした。
同図に示したとおり、焼鈍分離剤の塗布量が鋼板片面当たり8g/m2の場合、脱炭焼鈍雰囲気のP(H20)/P(H2)を0.45〜0.65とすることによって、B8 が1.97Tを超える優れた磁気特性の製品が得られている。
これに対し、分離剤塗布量が10g/m2の場合は、P(H20)/P(H2)を変化させても十分な特性が得られていない。
【0031】
続いて、最終仕上げ焼鈍の昇温速度とMgO の細孔容積が被膜外観と磁気特性に及ぼす影響について調査した。
図8に、焼鈍分離剤として使用したMgO の細孔容積を0.10ml/gまたは0.25ml/gとし、最終仕上げ焼鈍の 850〜1100℃域における昇温速度を4〜90℃/hの範囲の一定速度としたときの被膜外観について調べた結果を示す。
同図に示したとおり、細孔容積を0.10ml/gとし、最終仕上げ焼鈍の 850〜1100℃域における昇温速度を10〜60℃/hとすることによって、良好な被膜外観と磁気特性が得られている。
【0032】
上述したように、MgO の細孔容積を適正に制御することによってBi添加材の二次再結晶が安定化する原因については、今のところ明確には解明されてないが、発明者らは以下のように推定している。
すなわち、焼鈍分離剤をスラリー化して鋼板に塗布する際、MgO 表面に水分が吸着するが、MgO に細孔がある場合は細孔に優先的に水が吸着する。このようなMgO の水和水は最終仕上げ焼鈍中に放出されて酸素源となり、鋼板表面を酸化させる作用を有する。MgO の外側に吸着した水に比べて細孔に吸着した水は MgOとの結合力が強く、高温域で放出されると考えられる。ここで、Biは地鉄表層の正常粒成長抑制力を高めることで二次再結晶後の結晶方位集積度を高めると考えられるため、高温域でMgO から水分が放出された場合は表面でのBiの酸化が進行し地鉄表面付近のBi濃度が低下するために、表層付近の正常粒成長抑制力が減退して磁気特性が劣化するものと推定される。
【0033】
また、最終仕上げ焼鈍板表面の酸素目付量σf と脱炭焼鈍板表面の酸素目付量σd との比が大きくなるとB8 が劣化する原因は、以下のように考えられる。
すなわち、σd が低下した場合、脱炭焼鈍板表面の酸化層の未発達により外部雰囲気に対する保護性が低下し、Biやその他の表層インヒビターの劣化を促すために磁気特性の劣化を生じる。一方、最終仕上げ焼鈍板表面の酸素目付量σf の増加によっては地鉄表層のBiの分解が促進されるため、磁気特性の劣化を招くと考えられる。
従って、これらの因子はいずれも、最終仕上げ焼鈍中の地鉄表層のBiの分解・消失に相互に関連しており、良好な磁気特性を得るためにはこれらを同時に制御する必要がある。
従って、両者の比であるσf /σd は、Biによる表層インヒビション効果の消失度に関する優れた指標であるといえる。
【0034】
ここで、MgO の細孔容積は主として二次再結晶温度付近の高温域での表面酸化量を規定するものであり、鋼板表層部の抑制力劣化に対して短時間で強い作用を及ぼす。
これに対してσf /σd は、最終仕上げ焼鈍初期から終了に至るまでの長時間にわたる抑制力劣化を司る量と考えることができる。
従って、これら両者が同時に適正化されなければ優れた磁気特性の製品を安定して得ることが困難であると考えられる。
【0035】
また、図7に示したように、脱炭焼鈍の雰囲気酸化性の増加によって二次再結晶がさらに安定化するのは、脱炭焼鈍板表面の酸化層の内部構造が変化して鋼中のBiの消失が抑制されたことが原因と推定できる。
ただし、P(H20)/P(H2)が0.65を超えるほど雰囲気酸化度を過度に増加させた場合には、脱炭焼鈍板に不均一な被膜が形成して磁性劣化が起こるものと推定される。
【0036】
以下、本発明の方向性電磁鋼板の成分組成や製造方法に関して、本発明の効果を得るための要件とその範囲および作用について述べる。
まず、素材の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.01〜0.10wt%
Cは、変態を利用して熱延組織を改善するのに有用な元素であるだけでなく、ゴス方位結晶粒の発生に有用な元素であり、少なくとも0.01wt%の含有を必要とするが、0.10wt%を超えると脱炭焼鈍において脱炭不良を起こすので、Cは0.01〜0.10wt%の範囲に限定した。
【0037】
Si:1.0 〜5.0 wt%
Siは、電気抵抗を高めて鉄損を低下させると共に、鉄のα相を安定化して高温での熱処理を可能とするために必要な元素であり、少なくとも1.0 wt%を必要とするが、5.0 wt%を超えると冷延が困難となるので、Siは 1.0〜5.0 wt%に限定した。
【0038】
Mn:0.03〜0.20wt%
Mnは、鋼の熱間脆性の改善に有効に寄与するだけでなく、SやSeが混在している場合には、MnSやMnSe等のインヒビターを形成し抑制剤としての機能を発揮する。しかしながら、含有量が0.03wt%に満たないと上記の効果が不十分であり、一方、0.20wt%を超えるとMnSe等の析出物が粗大化してインヒビターとしての効果が失われるため、Mnは0.03〜0.20wt%の範囲に限定した。
【0039】
Bi:0.0005〜0.070 wt%
Biは、1次再結晶粒の粒界に優先的に濃化し、焼鈍中の粒界の移動度を低下させることにより二次再結晶温度を上昇させ磁束密度を向上させる作用がある。このような効果はSb, As等と類似ではあるが、Biは鉄に対する溶解度が特に低く、かつ融点が 271℃と非常に低いため、粒界上に偏在する傾向が強く、最終仕上げ焼鈍の高温域で鋼中から抜け出るために、通常のインヒビター成分と比較して強い抑制力を付与することが可能である。
またBiは、Sb等の同様に、粒界偏析型の抑制力強化元素であるために、MnSe, MnS, Cux S , Cux Se, AlNおよびBNのような析出分散型のインヒビターと同時に鋼中に存在させることで、これらいずれに対しても磁気特性の向上作用を有する。
しかしながら、Bi含有量が0.0005wt%に満たないと、上記した粒界への濃化による正常粒成長抑制効果が発揮されず、一方 0.070wt%を超えて添加すると被膜劣化や熱延での割れが増加するため、Biは0.0005〜0.070 wt%の範囲で含有させるものとした。
【0040】
鋼中には、これらの成分の他、インヒビター元素として、Al, S, Se, Sb, Sn, Cu, Cr, Ni, Ge, BおよびNのうちから1種または2種以上を選び、単独または複合して添加する必要がある。
ここで、各々の元素がインヒビターとしての機能を発揮するための添加範囲としては、Al, S, Seについては単独あるいは合計で 0.010〜0.060 wt%、Sbについては0.0010〜0.080 wt%、Sn, Cu, Cr, Ni, Geについては0.0010〜1.30wt%、Bについては5〜50 ppm、Nについては30〜100ppmである。この範囲より少ない場合には十分な抑制力を付与することができず、逆に上記範囲を超える場合には熱間圧延や冷間圧延で割れが入り易くなり、製品の歩留りが低下する。
なお、上記元素の他にも、Te, P, Zn, InおよびPなどの公知のインヒビター元素を添加することもできる。
【0041】
次に、本発明の製造方法について述べる。
上記の好適成分組成に調整された珪素鋼スラブは、インヒビター成分の固溶のため、高温に加熱される。しかしながら、窒化等により後工程でインヒビターを補強する場合は、1280℃以下の比較的低温で加熱される。その後、熱間圧延されたのち、焼鈍処理と冷間圧延を組み合わせて最終板厚とし、脱炭焼鈍ついで最終仕上げ焼鈍を施した後、絶縁張力コーティングを焼き付けて製品とする。
ここで、最終板厚とする方法として、1)熱間圧延後、ノルマ焼鈍を施した後、中間焼鈍を含む2回の冷間圧延で最終板厚とする方法、2)熱間圧延後、ノルマ焼鈍を施した後、1回の冷間圧延で最終板厚とする方法、3)熱間圧延後、ノルマ焼鈍を施さずに、中間焼鈍を含む2回の冷間圧延で最終板厚とする方法があり、本発明ではこれらいずれの工程をとることも可能である。
【0042】
また、ノルマ焼鈍や中間焼鈍で焼鈍雰囲気を酸化性にして、表層を弱脱炭する処理を施したり、焼鈍の冷却過程を急冷として鋼中の固溶Cを増加させる処理や、これに引き続き鋼中に微細炭化物を析出させるための低温保持処理を行うことは、製品の磁気特性を向上させるために有効である。
冷間圧延を温間で行ったりパス間での時効処理を施すことも、磁気特性を向上させるのに有利に作用する。
磁区細分化のために、鋼板の圧延方向とほぼ直交する線状の溝を複数本設けることも、鉄損のさらなる向上効果を有するので適用できる。
【0043】
さらに、脱炭・一次再結晶焼鈍後、二次再結晶開始までの間に鋼中に50ppm 以下の範囲でNを含有させる窒化処理を技術も、公知のように抑制力補強のために有効であり、本発明と組み合わせることで磁気特性の向上に有効に寄与する。
【0044】
本発明では、上記のような工程によって方向性電磁鋼板を製造するに当たり、最終仕上げ焼鈍の際に用いるMgO について細孔容積を0.03〜0.20 ml/g とし、かつ最終仕上げ焼鈍板の酸素目付量と脱炭焼鈍板の酸素目付量との比σf /σd を3.5 以下とすることを特徴としている。
ここに、細孔容積が 0.03 ml/gを下回ると、持ち込み水分量の不足により磁気特性の若干の劣化と被膜特性の劣化を生じる。一方、0.20 ml/g を超えて大きくなると、高温域(二次再結晶開始温度付近)での急速な表面酸化の進行により磁気特性が劣化する。
また、σf /σd が 3.5を超えて大きくなると、最終仕上げ焼鈍中の表面酸化の進行により、Biの有する正常粒成長抑制作用が低下して二次再結晶不良が顕著化する。
従って、細孔容積については0.03〜0.20 ml/g 、最終仕上げ焼鈍板の酸素目付量と脱炭焼鈍板の酸素目付量との比σf /σd については 3.5以下とすることが肝要である。
【0045】
脱炭焼鈍板の酸素目付量σd の値としては 0.3〜1.2 g/m2の範囲とする必要がある。最終仕上げ焼鈍においては、脱炭焼鈍板の酸素目付量σd に従って式(1) を満足させるようにσf を調整することによって、二次再結晶後の磁気特性の安定化を図ることができる。
最終仕上げ焼鈍後に良好なフォルステライト被膜を得るためには、σfを少なくとも0.6g/m2 とする必要があるが、σfが0.6 g/m2未満の場合でも式(1) を満足させることで優れた高いB8 が得ることが可能であり、最終仕上げ焼鈍後に人工的な張力・絶縁被膜を形成させることによって低鉄損の方向性電磁鋼板とすることができる。
【0046】
さらに、本発明では、脱炭焼鈍雰囲気における雰囲気酸化度P(H20)/P(H2)を0.45〜0.65の範囲とすることが有利である。脱炭焼鈍雰囲気の酸化性を上記の範囲とすることで、脱炭焼鈍板の内部酸化層の構造が変化し、鋼中のBiの消失が抑制されて二次再結晶が安定すると考えられる。
これに対し、P(H20)/P(H2)が0.45を下回ると、脱炭焼鈍板表面の酸化被膜による鋼中Biの消失を防ぐことができず、磁気特性が劣化する。一方、P(H20)/P(H2)が0.65を超えると、この場合も不均一な被膜形成より鋼中Biの消失が促進され、磁気特性の劣化が生じる。
【0047】
また、σf /σd を 3.5以下とするためには、最終仕上げ焼鈍板の酸素目付量を制限することが重要である。焼鈍分離剤の目付量の増加は最終仕上げ焼鈍後の酸素目付量を増加させることが知られており、これを制限して磁気特性を安定化させる目的から、焼鈍分離剤の目付量は9g/m2以下に制限することが好ましい。
さらに、脱炭焼鈍板の酸素目付量σd は、脱炭焼鈍の雰囲気酸化度P(H20)/P(H2)の増加によって増加し、最終仕上焼鈍板の酸素目付量σf は、焼鈍分離剤の水和量の増加に従って増加することが知られているので、これらの影響因子を適切に制御することで、σf /σd を所定の範囲とすることが可能である。
【0048】
また、図8に示したように、最終仕上げ焼鈍板の被膜外観の改善のためには、焼鈍分離剤として用いるMgO の細孔容積を0.03〜0.20ml/gの範囲に制限した上で、最終仕上げ焼鈍における 800〜1100℃域の平均昇温速度を10〜60℃/hとすることが好ましい。昇温速度が10℃/hを下回った場合、鋼板表面にBiが濃化して被膜形成を阻害すると考えられる。一方、60℃/hを超えて大きくなると、二次再結晶粒の成長が十分でなく、磁気特性の劣化を生じる。
この点、昇温速度が上記の条件を満たすと共に、MgO の細孔容積が適正範囲にあれば、最終仕上げ焼鈍中に放出される水分の量が適正となって良好な被膜が形成されると考えられる。
【0049】
上記の最終仕上げ焼鈍後、必要に応じて張力付与コーティングや絶縁コーティングを鋼板表面に焼き付けたのち、平坦化焼鈍を施して製品とする。
また、平坦化焼鈍後の鋼板には、鉄損を低減するため、公知の磁区細分化処理としてプラズマジェットやレーザー照射を線状に施したり、突起ロールによる線状に凹みを設けたりする処理を施すこともできる。
さらに、最終仕上げ焼鈍後、必要に応じて表面の酸化物を除去した後、ゾル−ゲル法、TiN蒸着など公知の方法によって、張力被膜を形成させる技術を組み合わせることも、鉄損低減のために有効である。
【0050】
【実施例】
実施例1
表1に示す種々の成分組成(鋼記号A〜Z)になる珪素鋼連鋳スラブ(厚み:220 mm)を、1180℃に3時間保持後、200 mmに減厚し、誘導加熱炉に装入し30分で1430℃まで昇温し、20分間均熱した後、熱間圧延を施して2.4 mm厚の熱延板とした。ついで、各コイルに、1050℃, 30秒間の熱延板焼鈍を施したのち、ミスト水冷(噴霧した水による冷却)により30℃/sの速度で冷却した。ついで、酸洗後、一次冷間圧延を施して1.5 mm厚としたのち、露点:35℃の(50%N2−50%H2)の雰囲気下で1100℃, 30秒間の中間焼鈍を施し、その後ミスト水冷により 900〜400 ℃の温度域を40℃/sの速度で冷却した。その後、各コイルを酸洗し、ゼンジマー圧延機で各圧延パスの出側温度が 200〜250 ℃、4パスの温間圧延により0.23mmの最終板厚に圧延し、脱脂後、焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP(H20)/P(H2)=0.52にて 850℃, 2分間の脱炭焼鈍を行った。
【0051】
ついで、 MgO:100 重量部にTiO2を5重量部添加したのち、水と混合してスラリー状とし、乾燥後の鋼板片面当たりの目付量が6g/m2となるように塗布、乾燥してからコイルに巻取った。ここで、MgO としては、細孔容積が0.02ml/g、0.15ml/g、0.30ml/gと異なる3種を使用した。また、塗布・乾燥後の焼鈍分離剤の水和量は 2.0%に調整した。その後の最終仕上げ焼鈍では、 850℃までを 100%N2 雰囲気、 850〜1150℃を(75%H2−25%N2)雰囲気とし、 850〜1100℃の温度域は15℃/hの一定速度で昇温し、1150℃以上を 100%H2 雰囲気として1200℃で8時間保持した。最終仕上げ焼鈍後は、未反応分離剤を水洗除去したのち、コロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを焼き付け、さらに鋼板表面に5mm間隔で圧延方向と直角方向の線状にプラズマジェットを照射して、製品とした。
各製品からエプスタイン試片500gを切り出し、エプスタイン試験法により鉄損W17/50 と磁束密度B8 を測定した。
得られた結果を表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示したとおり、成分組成範囲および MgOの細孔容積が、本発明の要件を満足した場合には、鉄損W17/50 が 0.70 W/kgを下回る優れた磁気特性の製品が得られている。
【0055】
実施例2
表1に示す種々の成分組成(鋼記号A〜Z)になる珪素鋼連鋳スラブ(厚み:220 mm)を、1180℃に3時間保持後、200 mmに減厚し、誘導加熱炉に装入し30分で1430℃まで昇温し、20分間均熱した後、熱間圧延を施して2.4 mm厚の熱延板とした。ついで、各コイルに、1050℃, 30秒間の熱延板焼鈍を施した後、ミスト水冷により20℃/sの速度で冷却した。ついで、酸洗後、一次冷間圧延を施して1.5 mm厚としたのち、露点:35℃の(50%N2−50%H2)の雰囲気下で1100℃, 30秒間の中間焼鈍を施し、その後ミスト水冷により 900〜400 ℃の温度域を30℃/sの速度で冷却した。その後、各コイルを酸洗し、ゼンジマー圧延機で各圧延パスの出側温度が 200〜250 ℃、4パスの温間圧延により0.23mmの最終板厚に圧延した。その後、局部的エッチング処理により、圧延方向となす角度:85°、圧延方向の間隔:3mm、深さ:15μm 、幅:100 μm の溝を形成させた。 ついで、脱脂後、焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP(H20)/P(H2)=0.48にて、840 ℃, 2分の脱炭焼鈍を行った。
【0056】
ついで、 MgO:100 重量部にTiO2を7重量部添加したのち、水と混合してスラリー状とし、乾燥後の鋼板片面当たりの目付量6g/m2にて塗布・乾燥しコイル状に巻き取った。ここで、MgO には細孔容積が0.15ml/gのものを使用した。また、塗布・乾燥後の焼鈍分離剤の水和量を水和時間と水和温度の調整により 1.5%または 3.5%とした。その後の最終仕上げ焼鈍では、850 ℃以下を100%N2 雰囲気とし、850 ℃到達時点で20時間一定温度に保定したのち(80%H2−20%N2)雰囲気に切り換え、一定昇温速度で24時間かけて1150℃とし、1150℃以上を100%H2 雰囲気として1200℃で8時間保持した。最終仕上げ焼鈍後は未反応分離剤を水洗除去した。さらにコロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを焼き付け製品とした。
各製品からエプスタイン試片500gを切り出し、エプスタイン試験法により鉄損W17/50 と磁束密度B8 を測定した。
得られた結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示したとおり、本発明に従い、成分組成範囲および焼鈍分離剤の水和量を適切に調整した場合には、鉄損W17/50 が 0.70 W/kgを下回る優れた磁気特性の製品が得られている。
【0059】
実施例3
表1に示す種々の成分組成(鋼記号A〜I)になる珪素鋼連鋳スラブ(厚み:220 mm)を、1180℃に3時間保持後、200 mmに減厚し、誘導加熱炉に装入し30分で1430℃まで昇温し、20分間均熱した後、熱間圧延を施して2.6 mm厚の熱延板とした。ついで、各コイルに、1100℃, 60秒間の熱延板焼鈍を施したのち、ミスト水冷により20℃/sの速度で冷却した。ついで、酸洗後、タンデム圧延機による冷間圧延により0.30mmの最終板厚に圧延し、脱脂後、焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP(H20)/P(H2)=0.55にて 830℃, 2分間の脱炭焼鈍を行った。
【0060】
ついで、 MgO:100 重量部にTiO2を5重量部添加したのち、水と混合してスラリー状とし、乾燥後の鋼板片面当たりの目付量が7g/m2もしくは10g/m2となるように塗布、乾燥してからコイルに巻取った。ここで、MgO としては、細孔容積が0.10ml/g、0.25ml/gと異なる2種を使用した。また、塗布・乾燥後の焼鈍分離剤の水和量は 2.0%に調整した。その後の最終仕上げ焼鈍では、 900℃までを 100%N2 雰囲気、 900〜1150℃を(90%H2−10%N2)雰囲気とし、 850〜1100℃の温度域を25℃/hで昇温し、1150℃以上を 100%H2 雰囲気として1200℃で8時間保持した。最終仕上げ焼鈍後は、未反応分離剤を水洗除去したのち、コロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを焼き付けて製品とした。
各製品からエプスタイン試片500gを切り出し、エプスタイン試験法により鉄損W17/50 と磁束密度B8 を測定した。
得られた結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示したとおり、成分組成範囲および MgOの細孔容積が、本発明の要件を満足した場合には、B8 が1.96Tを超え、鉄損W17/50 が0.95W/kgを下回る優れた磁気特性の製品が得られている。
【0063】
実施例4
C:0.072 wt%、Si:3.20wt%、Mn:0.069 wt%、Al:0.023 wt%、N:0.0020wt%、S:0.005 wt%、Sn:0.07wt%、Cr:0.10wt%、Cu:0.12wt%およびBi:0.022 wt%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる珪素鋼連鋳スラブ(厚み:220 mm)を、1180℃に3時間保持したのち、200 mmに減厚し、誘導加熱炉に装入し30分で1430℃まで昇温し、20分間均熱後、熱間圧延を施し、2.4mm 厚の熱延板とした。ついで、各コイルに1050℃, 30秒間の熱延板焼鈍を施した後、ミスト水冷により20℃/sの速度で冷却した。ついで、酸洗後、一次冷間圧延を施して1.7 mmの板厚としたのち、露点:35℃の(50%N2−50%H2)の雰囲気下で1100℃、30秒間の中間焼鈍を施した。その後、各コイルを酸洗し、ゼンジマー圧延機で各圧延パスの出側温度が 200〜250 ℃、4パスの温間圧延により0.23mmの最終板厚に圧延し、脱脂後、焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP(H20)/P(H2)=0.35〜0.60にて 820℃, 2分の脱炭焼鈍を行った。その後、NH3 雰囲気にて窒化処理を施し、鋼中N量を0.0100wt%にまで高めた。
【0064】
ついで、 MgO:100 重量部にTiO2を4重量部添加した後、水と混合してスラリー状とし、乾燥後の鋼板片面当たりの目付量が6g/m2となるように塗布、乾燥してからコイルに巻き取った。ここで、MgO としては、細孔容積を0.15ml/gのものを使用した。また、塗布・乾燥後の焼鈍分離剤の水和量は 2.0%に調整した。その後の最終仕上げ焼鈍では、 850℃までを100%N2 雰囲気、 850〜1150℃を(75%H2−25%N2)雰囲気とした。この時、 100〜850 ℃の間を25℃/hの一定速度で昇温し、 850〜1100℃を5〜70℃/hの範囲の一定速度で昇温した。続いて1150℃以上を100%H2 雰囲気として1200℃で8時間保持した。最終仕上げ焼鈍後は、未反応分離剤を水洗除去した後、コロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを焼き付け、さらに鋼板表面に10mm間隔で圧延方向と直角方法の線状にレーザー光による磁区細分化処理を施して、製品とした。
各製品からエプスタイン試片500gを切り出し、エプスタイン試験法により鉄損W17/50 と磁束密度B8 を測定した。
得られた結果を表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
本発明に適合する条件において、鉄損W17/50 が 0.7W/kgを下回る優れた磁気特性の製品が得られているが、このなかでも脱炭焼鈍雰囲気のP(H20)/P(H2)を0.45〜0.65の範囲としたc, d, e, f, g, h, kでW17/50 が0.70W/kgを下回る低鉄損が得られ、さらに最終仕上げ焼鈍の昇温速度(850 〜1100℃)を10〜60℃/hとしたd, e, f, g, hではW17/50 が0.65W/kgを下回る極めて低鉄損の製品が得られている。
【0067】
【発明の効果】
かくして、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法に従えば、高磁束密度でかつ低鉄損の優れた磁気特性を有し、さらには被膜特性にも優れた方向性電磁鋼板を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 焼鈍分離剤の主成分として用いるMgO の細孔容積と製品のB8 および被膜特性との関係を示したグラフである。
【図2】 最終焼鈍板の片面当たりの酸素目付量σf と製品のB8 との関係を示したグラフである。
【図3】 脱炭焼鈍板の片面当たりの酸素目付量σd と製品のB8 との関係を示したグラフである。
【図4】 σf /σd と製品の製品のB8 との関係を示したグラフである。
【図5】 σf /σd と MgOの細孔容積が製品のB8 に及ぼす影響を示したグラフである。
【図6】 素材中のBi含有量と製品のB8 との関係を示したグラフである。
【図7】 脱炭焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP(H20)/P(H2)と製品のB8 との関係を示したグラフである。
【図8】 最終仕上げ焼鈍の 850〜1100℃の温度域における昇温速度と製品の被膜外観との関係を示したグラフである。
Claims (3)
- C:0.01〜0.10wt%、Si:1.0 〜5.0 wt%、Mn:0.03〜0.20wt%、Bi:0.0005〜0.070 wt%およびインヒビター元素として、Al, S, Se, Sb, Sn, Cu, Cr, Ni, Ge, BおよびNのうちから選んだ1種または2種以上を、Al, S, Seについては単独または合計で 0.010〜0.060 wt%、Sbについては0.0010〜0.080 wt%、Sn, Cu, Cr, Ni, Geについては0.0010〜1.30wt%、Bについては5〜50 ppm、Nについては30〜100 ppm の範囲で含有し、残部は Fe および不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延し、ついで焼鈍処理を含む1回または2回以上の冷間圧延を施して最終板厚としたのち、脱炭焼鈍し、ついで鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
焼鈍分離剤の主剤として細孔容積が0.03〜0.20 ml/g のMgO を用いると共に、最終仕上げ焼鈍板表面の片面当たりの酸素目付量σf と脱炭焼鈍板表面の片面当たりの酸素目付量σd について次式(1)
σf /σd ≦ 3.5 --- (1)
但し、σ d : 0.3 〜 1.2 g/m 2
σ f : 0.6 g/m 2 以上
の範囲を満足させることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 脱炭焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルP(H20)/P(H2)を0.45〜0.65の範囲とし、かつMgO を主成分とする焼鈍分離剤の塗布量を鋼板片面当たり9g/m2以下とすることを特徴とする請求項1記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 最終仕上げ焼鈍工程の 850〜1100℃域における平均昇温速度を10〜60℃/hとすることを特徴とする請求項1または2記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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