JP4116902B2 - 弾性クローラとそのスチールコード - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、農機、建機、雪上車及び各種運搬車等の走行装置として使用される弾性クローラに関するもので、より具体的には、そのクローラ本体内に埋設される抗張体を構成するためのスチールコードの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の弾性クローラでは、通常、弾性材料よりなる無端帯状のクローラ本体内に、幅方向に並ぶ複数本のスチールコードよりなる抗張体が埋設されており、そのスチールコードは、コアストランドの外側に複数本の側ストランドを撚合することによって構成されている。この弾性クローラのスチールコードは、高張力と耐疲労性が要求されるため、一般に、7(ストランド)×n(nは線本数で、通常は12〜19)構造のものが採用されている。
【0003】
かかる弾性クローラでは、曲げの繰り返しに伴ってスチールコードに作用する引っ張り応力が時間的に変化するため、クローラ走行中にコアストランドの心線が徐々に長さ方向に動き出し、スチールコードの端部から抜け出すことがある。このようなコアストランドの芯抜けが発生すると、抜き出た心線がクローラ本体を突き破って表面に飛び出し、クローラ内部を早期に損傷させる原因となる。
そこで、本願出願人は、コアストランドの心線の線径をこれに接する側線に対して若干太め(1.04倍以上)に設定することにより、心線がコアストランドから抜け難くなるようにした弾性クローラ用のスチールコードを既に提案している(特許文献1参照)
【0004】
【特許文献1】
特開平7−69253号公報(請求項1)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来のスチールコードでは、コアストランドの心線がスチール繊維よりなるので、如何に心線がコアストランドから抜け難くなったとしても、芯抜けの発生が完全に抑止されるものではない。従って、従来のスチールコードでは、コアストランドから抜け出した心線によってクローラ内部が損傷を受ける恐れが依然として残っている。
【0006】
すなわち、例えば、一般的な7×n構造のスチールコードにおいて、コアストランドが一本の心線とこの心線の回りに撚られた複数本の側線とからなる単一心線構造である場合には、コアストランドの心線はまったく撚れがない状態でスチールコードの中心を直線状に貫通しているので、複数本の心線を有する複数心線構造のコアストランドを採用する場合に比べて、より芯抜けが発生しやすい構造になっている。
従って、上記のような単一心線構造のコアストランドを有する7×n構造のスチールコードでは、心線の線径を側線よりも若干太めに設定するだけでは、コアストランドの芯抜けの発生を根本的に払拭しきれない恐れがあり、弾性クローラの早期劣化を解消できない場合がある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑み、単一心線構造のコアストランドを有するスチールコードにおいて、コアストランドの芯抜けや心線によるクローラ内部の損傷をより完全に防止できるようにして、弾性クローラの耐久性を向上することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本発明は次の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明は、一本のコアストランドとこのコアストランドの回りに撚られた複数本の側ストランドとを備えており、前記コアストランドが、一本の心線とこの心線の回りに撚られた複数本の側線とからなる単一心線構造となっている弾性クローラ用スチールコードにおいて、前記コアストランド回りに撚りがかかっている側ストランドを構成するすべての繊維と、前記コアストランドの心線回りに撚りがかかっている側線についてはスチール繊維としたまま、撚りがかかっていない前記コアストランドの単一の心線のみが有機繊維より構成されていることを特徴とする。
【0009】
上記の本発明によれば、撚りがかかっていないコアストランドの単一の心線を構成する有機繊維は、それ以外の撚りがかかっている同径のスチール繊維(側ストランドを構成するすべての繊維とコアストランドの側線)に比べて遙かに柔らかくて腰がない特性を有していることから、弾性クローラの曲げの繰り返しに伴ってスチールコードに作用する引っ張り応力が時間的に変化しても、クローラ走行中に当該有機繊維よりなるコアストランドの単一の心線が長さ方向に動き出してスチールコードの端部から抜け出したり、クローラ本体を突き破ってその表面に飛び出したりすることがない。
【0010】
本発明において、コアストランドの心線を構成する有機繊維は、融点が150°C以上の材料を使用することが好ましい。その理由は、弾性クローラのゴム材料の加硫温度が概ね150°C程度であることから、コアストランドの心線を構成する有機繊維の融点が150°C以上であれば、弾性クローラの加硫成型時にスチールコードが型くずれを起こして同コードの耐疲労性が損なわれるのを未然に防止できるからである。
【0011】
なお、本発明に使用する融点が150°C以上の繊維材料としては、例えば、ポリエステルやナイロン6、ナイロン66、アラミド、全芳香族ポリエステル等を例示することができる。
また、本発明において、コアストランドの心線は同ストランドの側線の約1.0〜1.2倍の線径を有するモノフィラメントより構成することが好ましい。その理由は、その線径が上記範囲を外れると、有機繊維よりなる心線の線径とスチール繊維よりなる側線の線径が大きく相違し過ぎ、コアストランドに撚り不良が発生して耐疲労性が低下する恐れがあるからである。
【0012】
なお、この種のスチールコードを構成するスチール繊維は、通常、0.10〜0.40mmの線径になっているので、本発明に使用する有機繊維は、概ね0.10〜0.50mmの線径になっておればよい。
更に、本発明において、コアストランドの心線を構成する有機繊維の水分率は1%以下になっていることが好ましい。その理由は、有機繊維の水分率が1.0%を超えると、その内部の水分がスチール繊維よりなる周囲の側線に浸透し、その水分によって錆が発生して当該スチールコードを早期に劣化させる恐れがあるからである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。
図1(a)及び図3に示すように、本実施形態に係る弾性クローラ1は、ゴムその他のエラストマー等のゴム様弾性体よりなる無端帯状のクローラ本体2と、この本体2内に帯長手方向に無端状として埋設された複数本のスチールコード3と、クローラ本体2内に帯長手方向に間隔をおいて列設された芯金4とを備えている。
【0014】
スチールコード3は芯金4の外周側に幅方向に並設されることで弾性クローラ1の抗張体を構成しており、図3に示すように、当該コード3の一端部3Aと他端部3Bは接合部においてオーバーラップされている。なお、クローラ本体2は、駆動スプロケット5と図外の従動スプロケットに巻き掛けられており、ガイド突起4Aを有する芯金4と対応する位置に接地側に突出するラグ6を一体に備えている。
【0015】
図1(b)に示すように、本実施形態のスチールコード3は、一本のコアストランド7の外側に六本の側ストランド8を撚合してなる。コアストランド7は、一本の心線7Aとこの心線7Aの回りに撚られた複数本の側線7A,7Bとを有する単一心線構造となっており(図2参照)、図例では、一本の心線7Aの外周に六本の第一側線7Bが接触し、かつ、この第一側線7Bの外周に十二本の第二側線7Cが接触する、1+6+12で合計十九本の三層撚り構造となっている。図1(b)に例示するスチールコード3では、側ストランド8についても、コアストランド7と同様に心線8Aが一本だけの単一心線構造であり、1+6+12で合計十九本の三層撚り構造となっている。もっとも、側ストランド8の撚り構造はこれに限定されるものではなく、心線8Aが複数本あってもよい。
【0016】
本実施形態のスチールコード3では、コアストランド7を構成する側線7B,7Cは、従来より常用されている通常のスチール繊維より構成されているが、コアストランド7を構成する心線7Aについては、融点150°C以上の有機繊維モノフィラメント、例えば、ポリエステルやナイロン6、ナイロン66、アラミド、全芳香族ポリエステル等よりなるモノフィラメントで構成されている。また、側ストランド8については、その心線8Aとすべての側線8B,8Cが、従来より常用されている通常のスチール繊維より構成されている。
【0017】
コアストランド7の側線7B,7Cを構成するスチール繊維は、概ね0.10〜0.40mmの線径のものを使用され、コアストランド7の心線7Aを構成する有機繊維は、その側線7B,7Cの約1.0〜1.2倍の線径を有するモノフィラメントが使用されている。従って、コアストランド7の心線7Aを構成するモノフィラメントの線径は、側線7B,7Cよりも若干大きめの概ね0.10〜0.50mmの範囲に設定すればよい。また、コアストランド7の心線7Aを構成する有機繊維は、例えば、シリカゲル等の乾燥剤とともに収納庫に入れて保管しておくことにより、繊維内部に含有する水分率が1.0%以下となるように湿度管理したものが使用されている。
【0018】
なお、前記した実施形態はすべて例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって規定され、そこに記載された構成と均等の範囲内のすべての変更も本発明に含まれる。
例えば、前記コアストランド7は心線7Aが単一であればよいことから、前記した1+6+12の三層撚り構造に限定されるものではなく、1+6の二層撚り構造のものであってもよい。
また、弾性クローラ1は、芯金入りのものだけでなく、クローラ本体2に芯金4が埋設されていない芯金レスのものであってもよい。
【0019】
【実施例】
以下、本実施形態のスチールコード3の有用性を実証するために行った実験と、その結果について説明する。
まず、コアストランド7の心線の材質、線径又は水分率が異なり、かつ、側線が同じスチール繊維(ただし、線径は0.25mm)よりなる、1+6+19構造の撚り構造を呈する五種類のスチールコード(比較例1と実施例1〜4)を作製し、これら五種類のスチールコードについて、それぞれ、心線の芯抜け力、実車走行での芯飛び出し、撚り不良及び3ロール疲労試験の調査を行い、その性能を比較検討した。その結果が次の〔表1〕である。
【0020】
【表1】
Figure 0004116902
【0021】
なお、〔表1〕に示す各性能のうち、心線の芯抜け力の測定は、引っ張り試験機によって引っ張り速度10mm/分で行った。図4に示すように、試験に用いたスチールコードの供試体10の一端部は、いったん撚りを解いて心線7Aのみを切断したあと、撚りを元に戻すことによって試験機の第一つかみ代11とされており、同供試体10の他端部は、撚りを解いて心線7Aのみを残すことによって試験機の第二つかみ代12とされている。なお、心線7Aとそれ以外の線材のラップ部分は100mmに設定されている。
【0022】
また、実車走行での芯飛び出しは、各スチールコードが打ち込まれた弾性クローラをクローラ走行装置に実際に装着して一定時間走行したあと、弾性クローラを切断してスチールコードの端部からの芯抜けが発生しているかどうかを観察することによって行った。なお、この試験に使用したクローラ走行装置では、弾性クローラの最小曲率半径はスプロケット底径でφ190mmであり、この試験での走行距離は合計で500kmである。
【0023】
そこで、〔表1〕において、心線の材質について検討すると、比較例1と実施例1〜4を対比すれば明らかな通り、コアストランドの心線がスチール繊維よりなる比較例1の場合は、心線の芯抜け力が150N/10cmであり、実車走行での芯飛び出しが認められたのに対して、コアストランドの心線が有機繊維(ポリエステル又はナイロンのモノフィラメント)よりなる実施例1〜4の場合は、心線の芯抜け力の測定においては心線切れのために芯抜けが発生せず、実車走行での芯飛び出しも認められなかった。
【0024】
このため、単一心線構造のコアストランドを有するスチールコードにおいて、そのコアストランドの心線のみを有機繊維に代替すれば、コアストランドからの芯抜けが防止されて弾性クローラの耐久性が向上することが、実験によって確かめられた。なお、かかる結果は、有機繊維がこれとほぼ同径のスチール繊維に比べて遙かに柔らかくて腰がない特性を有し、このため、弾性クローラの曲げの繰り返しに伴ってスチールコードに作用する引っ張り応力が時間的に変化しても、クローラ走行中に当該有機繊維が長さ方向に動き出してスチールコードの端部から抜け出すことがないからであると考えられる。
【0025】
一方、〔表1〕において、心線の線径について検討すると、比較例1及び実施例1〜3と実施例4を対比すれば明らかな通り、心線の線径が側線と同じ0.25mmである比較例1及び実施例1〜3の場合は、スチールコードの一部にほつれ部分が発生する撚り不良が認められなかったが、心線の線形が側線よりも大幅に大きい0.60mmである実施例4の場は、スチールコードの一部にほつれ部分が発生する撚り不良が認められた。
【0026】
従って、コアストランドの心線として、スチール繊維の代わりに有機繊維のモノフィラメントを採用する本発明の場合において、その有機繊維よりなる心線の線径を側線に比べて大きくし過ぎると、スチールコードに撚り不良が発生することから、コアストランドの心線はその側線とほぼ同等の線径のものを採用することが好ましい。
【0027】
また、〔表1〕において、心線の水分率について検討すると、その水分率が4.5%である実施例3の場合には、3ロール疲労試験の指数(比較例1の成績を100とした場合の相対指数)が85に低下している。このことから、スチール繊維の代わりに有機繊維のモノフィラメントを採用する本発明の場合において、その有機繊維の水分率が大きくなると耐疲労性が低下することから、当該水分率を可及的に低く抑えることが好ましい。
【0028】
もっとも、有機繊維よりなる心線の水分率が0.8である実施例2の場合においても、通常のスチールコード(比較例1)と同等の耐疲労性が得られており、しかも、シリカゲル等の乾燥剤を用いた比較的簡易な湿度管理であっても、1.0%以下の水分率であれば容易に達成できることから、当該心線の水分率については、1.0%程度以下に設定すれば十分であると考えられる。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、コアストランド回りに撚りがかかっている側ストランドを構成するすべての繊維と、コアストランドの心線回りに撚りがかかっている側線についてはスチール繊維としたまま、撚りがかかっていないコアストランドの単一の心線のみが有機繊維より構成されているので、その心線がスチール繊維である場合に比べて、コアストランドに芯抜けが発生したり、コアストランドの心線でクローラ内部が損傷を受けることがなく、このため、弾性クローラの耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明に係る弾性クローラの横断面図であり、(b)はそのクローラに使用する本発明に係るスチールコードの横断面図である。
【図2】コアストランドの横断面図である。
【図3】弾性クローラの側面断面図である。
【図4】スチールコードの供試体の模式図である。
【符号の説明】
1 弾性クローラ
2 クローラ本体
3 スチールコード
7 コアストランド
7A 心線
7B 第一側線
7C 第二側線
8 側ストランド

Claims (5)

  1. 一本のコアストランド(7)とこのコアストランド(7)の回りに撚られた複数本の側ストランド(8)とを備えており、前記コアストランド(7)が、一本の心線(7A)とこの心線の回りに撚られた複数本の側線(7B,7C)とからなる単一心線構造となっている弾性クローラ用スチールコードにおいて、
    前記コアストランド(7)回りに撚りがかかっている側ストランド(8)を構成するすべての繊維と、前記コアストランド(7)の心線(7A)回りに撚りがかかっている側線(7B,7C)についてはスチール繊維としたまま、撚りがかかっていない前記コアストランド(7)の単一の心線(7A)のみが有機繊維より構成されていることを特徴とする弾性クローラ用スチールコード。
  2. コアストランド(7)の心線(7A)を構成する有機繊維の融点が150°C以上である請求項1に記載の弾性クローラ用スチールコード。
  3. コアストランド(7)の心線(7A)は同ストランド(7)の側線(7B,7C)の約1.0〜1.2倍の線径を有するモノフィラメントよりなる請求項1又は2に記載の弾性クローラ用スチールコード。
  4. コアストランド(7)の心線(7A)を構成する有機繊維の水分率が1.0%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の弾性クローラ用スチールコード。
  5. ゴム様弾性体よりなる無端帯状のクローラ本体(2)の内部にスチールコード(3)が帯長手方向に無端状に埋設されている弾性クローラにおいて、
    前記スチールコード(3)は請求項1〜4のいずれかに記載のスチールコードよりなることを特徴とする弾性クローラ。
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