JP4106954B2 - 動力伝達機構 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、伝達トルクが所定トルクを超えた時に動力伝達を遮断するトルクリミッタ機能を有する動力伝達機構に関するもので、空調装置用の圧縮機に動力を伝達するプーリや電磁クラッチ等に適用して有効である。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
トルクリミッタ機能を有する動力伝達機構として、例えば特開平8−319945号公報に記載発明では、プーリの円盤部に環状の溝を設けるとともに、この溝部に一定間隔で貫通穴を設けて円盤部の強度を低下させることにより、伝達トルクが所定トルクを超えた時に溝部を破断させて動力伝達を遮断している。
【0003】
ところで、上記公報に記載の発明のごとく、動力伝達経路中に破断(破壊)し易い破断部を設けて動力伝達を遮断する方法は、簡素な構造にて動力伝達を遮断することができるので、製造コスト上は有利であるものの、以下に述べる理由により、その設計開発が難しいという問題を有している。
【0004】
すなわち、破断部は所定トルク(破断トルクと呼ぶ。)T1にて破断する強度とする必要があるが、周知のごとく、疲労破壊(疲労破断)は、破断トルクより小さいトルクで発生する。
【0005】
したがって、破断部に作用する最大トルク、つまり許容トルクT2は、破断トルクT1を安全率Sで除した値より小さくとする必要がある。
【0006】
このとき、伝達しなければならないトルクの最大値(以下、必要伝達トルクと呼ぶ。)T3に対する破断トルクT1の比(=T1/T3)差が、安全率Sより小さいと、必要伝達トルクT3が許容トルクT2を超えてしまうので、動力伝達機構が成立しない。
【0007】
ここで、安全率Sは、一般的に、構造物に発生する応力状態が複雑であり、理論的な応力解析が困難である場合ほど、大きな値とする必要があるので、破断部に発生する応力を正確に予測解析することができれば、安全率Sを小さくして、許容トルクT2を大きくすることができ得る。
【0008】
このとき、上記公報に記載の破断部は、主に剪断力(接線応力)により破断する構成であり、剪断力は表面に集中する傾向があるため、その応力分布を正確に予測解析することが難しい。
【0009】
したがって、上記公報に記載の発明と同様な構成では、試行錯誤的に破断部の寸法及び材質等を決定する必要があるため、その設計開発が難しい。
【0010】
本発明は、上記点に鑑み、第1には、従来と異なる新規な構成の動力伝達機構を提供し、第2には、疲労破壊することなく、所定トルクにて動力伝達を遮断する動力伝達機構を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、伝達トルクが所定トルクを超えた時に動力伝達を遮断する動力伝達機構であって、駆動側回転体(15d)から従動側回転体(22)に伝達されるトルクの向きと同一の向きのトルクにてネジを締め付けたきに、駆動側回転体(15d)と従動側回転体(22)との接触面(15g)の面圧を増大させる向きの軸力を発生させるネジ部(15e)と、ネジ部(15e)と接触面(15g)が形成された部位とを繋ぐ破断部(15f)と、接触面(15g)の面圧を減少させる向きの弾性力を、駆動側回転体(15d)及び従動側回転体(22)のうち少なくとも一方に作用させる弾性手段(16)とを有し、破断部(15f)の断面積は、ネジ部(15e)の断面積より小さく形成され、弾性手段(16)は、破断部(15f)が破断したときに、相対的に駆動側回転体(15d)を従動側回転体(22)から離すように変位させることを特徴とする。
【0012】
これにより、従来と異なる新規な構成の動力伝達機構を得ることができるとともに、破断部(15f)に発生する応力は、組み付け時の締め付けトルク及び締め付けトルクに応じて発生する軸力による応力となり、伝達トルクによって発生する応力は殆どない。したがって、トルク伝達時には、破断部(15f)に発生する応力が殆ど変動しないので疲労破壊が発生し難い。
【0013】
また、破断部(15f)が破壊するときの応力は、前述のごとく、剪断応力ではなく、軸力による応力、つまり引張り応力(法線応力)となる。しかも、引張り応力は、剪断応力と異なり、断面に略均一に分布するので、破断部(15f)の応力分布を比較的正確に予測解析することができる。
【0014】
したがって、試行錯誤的に破断部(15f)の寸法及び材質等を決定する必要性が低下して設計開発が容易になるとともに、破断部(15f)が疲労破壊することなく、所定トルクにて確実に破断させることができる。
【0017】
さらに、接触面(15g)の面圧を減少させる向きの弾性力を、駆動側回転体(15d)及び従動側回転体(22)のうち少なくとも一方に作用させる弾性手段(16)を有し、破断部(15f)が破断したときに、弾性手段(16)が相対的に駆動側回転体(15d)を従動側回転体(22)から離すように変位させる。
【0018】
これにより、破断部(15f)が破断すると、相対的に駆動側回転体(15d)が従動側回転体(22)から離れるので、破断部にて異音や不必要な摩擦抵抗が発生することを防止できる。
【0019】
請求項2に記載の発明では、弾性手段(16)は、トルクの伝達路中に配置されてトルク伝達も行うことを特徴とするものである。
【0020】
請求項3に記載の発明では、接触面(15g)には、摩擦係数の変動を抑制する摩擦係数安定化処理が施してあることを特徴とする。
【0021】
これにより、破断トルクを安定させることができるので、所定トルクにて確実に破断させることができる。
【0022】
請求項4に記載の発明では、駆動側回転体(15d)及び従動側回転体(22)のうち少なくとも一方側の接触面(15g)は、摩擦係数の変動を抑制する摩擦係数安定化処理が施されたスペーサ(17)により形成されていることを特徴とする。
【0023】
これにより、破断トルクを安定させることができるので、所定トルクにて確実に破断させることができる。
【0024】
請求項5に記載の発明では、破断部(15f)は、焼結金属製であることを特徴とするものである。
【0025】
請求項6に記載の発明では、破断部(15f)は、鋳物であることを特徴とするものである。
【0026】
請求項7に記載の発明では、破断部(15f)は、セラミックス製であることを特徴とするものである。
【0027】
因みに、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【0028】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
本実施形態は、本発明に係る動力伝達機構を車両用空調装置の圧縮機に動力を伝達するプーリ10に適用したものであり、図1はプーリ10の断面図であり、図2は図1のA矢視図である。
【0029】
図1中、プーリ本体11はVベルトを介して走行用エンジン(図示せず。)から駆動力(トルク)を受けて回転する略二重円筒状に形成された金属製のものである。
【0030】
なお、プーリ本体11の外筒側の外周面には、ポリードライブベルト対応の複数列のV溝11aが設けられ、内筒側にはプーリ本体11を回転可能に支持するラジアル転がり軸受12が装着される。因みに、ラジアル転がり軸受12の内輪は、圧縮機20のフロントハウジング21に装着される。
【0031】
ハブ13は、プーリ本体11側面に固定されてプーリ本体11に伝達されたトルクを圧縮機20のシャフト22に伝達するものであり、このハブ13は、断面が約L字状に形成された環状の外周部14、シャフト22にネジ固定された内周部15、及び内周部15と外周部14とを連結して外周部14から内周部15にトルクを伝達するダンパー16からなるものである。
【0032】
ここで、外周部14は、冷間圧延鋼板等の金属板材にプレス加工を施すことにより成形されたものであり、ダンパー16はEPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合ゴム)等の弾性材料を加流接合にて内周部15及び外周部14に接合したものである。
【0033】
また、内周部15は、シャフト22に形成された雄ネジ22aとネジ結合する雌ネジ15aが内周面に形成された内筒部15b、ダンパー16に接合された外筒部15c、及び内筒部15bと外筒部15cとを繋ぐドーナツ盤状の円盤部15dからなるものであり、さらに、内筒部15bは、断面積、つまり肉厚が異なる厚肉部15e及び薄肉部15fから構成されている。
【0034】
そして、内筒部15b、つまり厚肉部15e及び薄肉部15f、円盤部15d並びに外筒部15cは、粉末状の金属を焼き固めた焼結金属にて一体成形され、少なくとも雌ネジ15aには、二硫化モリブテンの被膜が形成されている。
【0035】
また、円盤部15dのうち薄肉部15fの根元側は、シャフト22の先端面22bに接触して雌ネジ15a、つまり内筒部15bを雄ネジ22a、つまりシャフト22に締め付けていったときに発生する軸力を受ける座面15gとして機能する。
【0036】
そして、雄ネジ22a及び雌ネジ15aは、ハブ13からシャフト22に伝達されるトルクの向きと同一の向きのトルクにて内筒部15bを締め付けたきに、座面15gで発生する面圧を増大させる向きの軸力を発生させる向きに形成されているとともに、雄ネジ22aと雌ネジ15aとは、必要伝達トルクT3より大きく、かつ、破断トルクT1より小さなトルクで締め付けられている。
【0037】
また、ダンパー16は、前述した所定の締め付けトルクにて内筒部15bをシャフト22に締め付けたときに、座面15gの面圧を減少させる向きの弾性力(復元力)を円盤部15dに作用させるように設定されている。
【0038】
なお、ボルト18はハブ13の外周部14をプーリ本体11に固定するための締結手段であり、シャフト22の先端面22bに形成された六角穴22cは、内筒部15bをシャフト22に締め付ける際にシャフト22が回転することを防止する六角レンチ等の治具を装着するためのものである。
【0039】
次に、本実施形態に係るプーリ10の概略作動を述べる。
【0040】
プーリ本体11から外周部14に伝達されたトルクは、ダンパー16を介して円盤部15dに伝達される。そして、伝達トルクが締め付けトルクより小さい場合には、ハブ13がシャフト22に対して回転しないので、円盤部15dに伝達されたトルクは、主に座面15gで発生する摩擦力によりシャフト22に伝達される。
【0041】
このため、円筒部22b、つまり厚肉部15e及び薄肉部15fに発生する応力の殆どは、組み付け時の締め付けトルク及び締め付けトルクに応じて発生する軸力による応力となり、伝達トルクによって発生する応力は殆どない。
【0042】
なお、トルク変動は、ダンパー16が弾性変形することにより吸収される。
【0043】
また、伝達トルクが締め付けトルクより大きくなると、ハブ13がシャフト22に対して回転して雄ネジ22aと雌ネジ15aとの締め付けトルクが増大するので、座面15gの面圧の上昇と共に、円筒部22bに発生する軸力が増大する。
【0044】
したがって、伝達トルクが締め付けトルクより大きくなると、その増大したトルクは、円筒部22bに対して軸方向応力、つまり引張り応力を発生させる。
【0045】
このとき、薄肉部15fの断面積が厚肉部15eの断面積より小さいため、伝達トルクが締め付けトルクより大きくなると、薄肉部15fが厚肉部15eより先に破断し、トルクの伝達が遮断される。
【0046】
また、ダンパー16は、座面15gの面圧を減少させる向きの弾性力を円盤部15dに作用させているので、薄肉部5fが破断すると、円盤部15dは、図3に示すように、シャフト22から離れる向きに変位する。
【0047】
ところで、上記作動説明から明らかなように、雄ネジ22aと雌ネジ15aとの摩擦係数、及び座面15gの摩擦係数が変動すると、伝達可能トルク及び薄肉部15fの破断トルクが変動するため、これらの摩擦係数は変動が少ないことが望ましい。
【0048】
そこで、本実施形態では、二硫化モリブテン等の防錆効果を有する被膜を、雄ネジ22a、雌ネジ15a、座面15g及びシャフト22の先端面22bに形成している。
【0049】
なお、上記作動説明から明らかなように、本実施形態では、薄肉部15fが「特許請求の範囲」に記載された「破断部」に相当し、厚肉部15eは「特許請求の範囲」に記載された「ネジ部」に相当し、円盤部15dが「特許請求の範囲」に記載された「駆動側回転体」に相当し、シャフト22が「特許請求の範囲」に記載された「従動側回転体」に相当する。
【0050】
次に、本実施形態の作用効果を述べる。
【0051】
本実施形態によれば、伝達トルクが必要伝達トルクT3以下であれば、前述のごとく、主に円盤部15dとシャフト22の先端面22bとの摩擦力でトルクが伝達され、薄肉部15fに発生する応力は、組み付け時の締め付けトルク及び締め付けトルクに応じて発生する軸力による応力となり、伝達トルクによって発生する応力は殆どない。
【0052】
したがって、破断部をなす薄肉部15fに発生する応力が殆ど変動しないので疲労破壊が発生し難い。
【0053】
また、薄肉部15fが破壊するときの応力は、前述のごとく、剪断応力ではなく、引張り応力(法線応力)となる。しかも、引張り応力は、剪断応力と異なり、断面に略均一に分布するので、薄肉部15fの応力分布を比較的正確に予測解析することができる。
【0054】
したがって、試行錯誤的に薄肉部15fの寸法及び材質等を決定する必要性が低下して設計開発が容易になるとともに、薄肉部15fが疲労破壊することなく、所定トルクにて確実に破断させることができる。
【0055】
また、薄肉部15fが破断すると、円盤部15dはシャフト22から離れる向きに変位するので、破断部にて異音や不必要な摩擦抵抗が発生することを防止できる。
【0056】
また、薄肉部15fが破断したときに、相対的に円盤部15dをシャフト22から離す離隔手段として、新たな部品を設けることなく、トルク変動吸収用のダンパー16を利用しているので、プーリ10の製造原価上昇を防止できる。
【0057】
(第2実施形態)
第1実施形態では、二硫化モリブテンの被膜を座面15g及びシャフト22の先端面22bに形成することにより、座面15g及び先端面22bの摩擦係数安定化処理を行ったが、本実施形態は、図4に示すように、二硫化モリブテンの被膜が形成されたスペーサ17を円盤部15dと先端面22bとの間に配置することにより座面15gを構成したものである。
【0058】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、ハブ13、つまり駆動側回転体に雌ネジを形成し、シャフト22に雄ネジを形成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、これとは逆に、ハブ13に雄ネジを形成し、シャフト22に雌ネジを形成してもよい。
【0059】
また、上述の実施形態では、ハブ13を直接にシャフト22に連結したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばシャフト22と一体的に回転する従動側回転体を設け、この従動側回転体にハブ13、つまり駆動側回転体を連結してもよい。
【0060】
また、上述の実施形態では、薄肉部15fを含めた内筒部15bを焼結金属製としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、薄肉部15fを含めた内筒部15bを鋳物とする、又はセラミックス製とする等してもよい。
【0061】
また、上述の実施形態では、内筒部15bの内周略全域に雌ネジが形成されていたが、薄肉部15fの雌ネジを廃止してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプーリの断面図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るプーリの断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るプーリの断面図である。
【符号の説明】
11…プーリ本体、12…転がり軸受、13…ハブ、14…外周部、
15…内周部、15a…ネジ、15b…内筒部、15c…外筒部、
15d…円盤部、15e…厚肉部、15f…薄肉部、15g…座面
Claims (7)
- 伝達トルクが所定トルクを超えた時に動力伝達を遮断する動力伝達機構であって、
駆動側回転体(15d)から従動側回転体(22)に伝達されるトルクの向きと同一の向きのトルクにてネジを締め付けたきに、前記駆動側回転体(15d)と前記従動側回転体(22)との接触面(15g)の面圧を増大させる向きの軸力を発生させるネジ部(15e)と、
前記ネジ部(15e)と前記接触面(15g)が形成された部位とを繋ぐ破断部(15f)と、
前記接触面(15g)の面圧を減少させる向きの弾性力を、前記駆動側回転体(15d)及び前記従動側回転体(22)のうち少なくとも一方に作用させる弾性手段(16)とを有し、
前記破断部(15f)の断面積は、前記ネジ部(15e)の断面積より小さく形成され、
前記弾性手段(16)は、前記破断部(15f)が破断したときに、相対的に前記駆動側回転体(15d)を前記従動側回転体(22)から離すように変位させることを特徴とする動力伝達機構。 - 前記弾性手段(16)は、トルクの伝達路中に配置されてトルク伝達も行うことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達機構。
- 前記接触面(15g)には、摩擦係数の変動を抑制する摩擦係数安定化処理が施してあることを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達機構。
- 前記駆動側回転体(15d)及び前記従動側回転体(22)のうち少なくとも一方側の前記接触面(15g)は、摩擦係数の変動を抑制する摩擦係数安定化処理が施されたスペーサ(17)により形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達機構。
- 前記破断部(15f)は、焼結金属製であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の動力伝達機構。
- 前記破断部(15f)は、鋳物であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の動力伝達機構。
- 前記破断部(15f)は、セラミックス製であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の動力伝達機構。
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