JP4104311B2 - 廃水からの窒素の除去方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,従属栄養細菌および独立栄養細菌である硫黄酸化細菌を用いて,下水・廃水中に含まれる窒素化合物を効率的に除去することを目的とする。
【0002】
【従来の技術】
下水・廃水からの窒素の除去方法としては,微生物を用いた生物学的脱窒方法が広く知られている。下水・廃水中の窒素の形態としてはアンモニア性窒素の形(NH4−N)で含有されることが多い。例えば,高濃度のアンモニア性窒素を含有する廃水は,製鉄所コークス工場,屎尿,肥料工場,半導体工場,皮革工場などから発生する。製鉄所コークス工場から発生するアンモニア性窒素含有廃水は,安水とも呼ばれ,アンモニア性窒素を数百−数千mg/l程度も含有している。更に,都市下水は,アンモニア性窒素を数十mg/l程度,養殖場廃水は数mg/l程度含有している。
【0003】
一方,農地などの肥料に起因する汚染地下水やステンレス酸洗工場廃水等のように硝酸性窒素の形(NO3−N)で窒素を数mg/lから数千mg/l程度含有している場合もある。
【0004】
このような下水・廃水の窒素の生物学的除去方法は,以下のような生物学的硝化−脱窒法が広く知見されている。すなわち,絶対好気性・独立栄養細菌(Nitrosomonas,Nitrobacter等の硝化細菌)によるアンモニア性窒素の生物学的酸化と通性嫌気性・従属栄養細菌(Pseudomonas等)による亜硝酸性窒素や硝酸性窒素の生物学的還元反応の組み合わせから成っている。
【0005】
まず,アンモニア性窒素の酸化,すなわち硝化工程は以下の2段の反応から成っている。
2NH4 + + 3O2 → 2NO2 -+2H2O+4H+(1)
2NO2 - + O2 → 2NO3 - (2)
(1)式に示す反応は,Nitrosomonasを代表種とする亜硝酸菌によってもたらされ,(2)式に示す反応は,Nitrobacterを代表種とする硝酸菌によってもたらされる。いずれも酸素を必要とする絶対好気性・独立栄養細菌である。
【0006】
次に,上記反応によって生成した亜硝酸性窒素並びに硝酸性窒素,あるいは元来廃水に含まれている亜硝酸性窒素並びに硝酸性窒素は,一般的には,通性嫌気性の従属栄養細菌を用いて還元されて,酸化窒素ガス(N2O)あるいは窒素ガス(N2)となり大気中に放散される。また,このような通性嫌気性の従属栄養細菌を用いた脱窒は,(3)式で示すようなメチルアルコールや(4)式で示すようなエチルアルコールなどの有機物質が必要である。ただし,都市下水のように,下水中に有機物質が含まれる場合,これを通常利用する。なお,これらの細菌は,通性嫌気性菌であるから,酸素があればまず酸素を用いて呼吸するので,この際には,(3)式や(4)式で示す脱窒反応は生じない。
6NO3 - +5CH3OH → 3N2 + 5CO2+7H2O +6OH- (3)
12NO3 - +5C2H5OH → 6N2 +10CO2+9H2O+12OH- (4)
【0007】
この通性嫌気性・従属栄養細菌を用いた脱窒法は,都市下水のようにアンモニア性窒素濃度が100mg/l以下では問題が少なく,安価で安定した処理方法である。このため,窒素濃度が低い都市下水や廃水処理の分野で広く用いられている。亜硝酸性窒素や硝酸性窒素を含有する工場廃水処理にも広く用いられている。
【0008】
ところで,脱窒性能を有する細菌は,従属栄養細菌に限らない。水素細菌や硫黄酸化細菌などの独立栄養細菌も,酸素の無い状態で脱窒機能を有することは広く知られている。これらの独立栄養細菌は,それぞれ水素や還元性硫黄源を酸化した時に発生するエネルギーと空気中の炭酸ガスから菌体を合成し増殖する。以下に硫黄酸化細菌が元素硫黄を用い,脱窒を行う反応例を示す。
6NO3 - + 5S +2H2O → 3N2 +5SO4 2- +4H+ (5)
これらの独立栄養細菌は,従属栄養細菌と比較し増殖速度が小さいことやフロック形成能力が弱い等の理由から脱窒作用が知られているものの,脱窒に用いられた事例はほとんどなかった。しかし,発明者らは,これらの独立栄養細菌が亜硝酸性窒素に対し,従属栄養細菌と比較し極めて強い耐性を有していることを知見し,アンモニア性窒素を高濃度に含む廃水処理の場合,脱窒用の細菌としては独立栄養細菌を用いた方が処理の安定化をもたらすことを明らかにした(特開2000-30890号公報)。更に,発明者らは,独立栄養細菌の中でも,硫黄酸化細菌が自己造粒作用を有している場合もあるため,リアクターでの高濃度化が容易で,処理の高効率化が可能であることを知見している(特開平11-299481号公報)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし,このような従来の廃水中からの生物学的窒素除去方法は,以下のような課題が残されている。
【0010】
一部の金属工業から発生する産業廃水のように,廃水中に有機物が含まれない場合には,廃水中の亜硝酸性窒素および/または硝酸性窒素を除去するためには,脱窒槽にメチルアルコール等の有機物や硫黄を外部から添加する必要がある。
【0011】
まず,脱窒槽にメチルアルコール等の有機物を添加する従属栄養細菌を用いた脱窒の場合の課題について説明する。
【0012】
(3),(4)式から明らかなように,従属栄養細菌を用いた脱窒反応が進行すると,pHが上昇する。pHが8.5以上になると,pHが6-8の時と比較し,脱窒細菌の脱窒機能は急速に低下する。また,廃水中にカルシウム成分が含まれると,pHが上昇するとともに,CO2とカルシウムイオンが反応し炭酸カルシウムが析出しやすくなり,反応槽内の充填材や配管の閉塞などの設備トラブルが多発するようになる。したがって,硫酸等の薬品を用い,脱窒槽のpHを6-8に制御する必要が生じる。
【0013】
また,従属栄養細菌を用いた脱窒方法は,硫黄酸化細菌などの独立栄養細菌を用いた脱窒方法と比較すると,余剰汚泥の発生量が大きい。カルシウムイオンが高い場合,炭酸カルシウムの発生量がこれに加わる。
【0014】
更に,メチルアルコールは,窒素量に対してやや過剰に添加する(通常,メチルアルコールに対する硝酸性窒素と亜硝酸性窒素の和の質量比が2.5-3.0程度)が,メチルアルコールは高価であるため,ランニングコストが極めて大きくなる。また,メチルアルコールが脱窒槽の処理水に残留した場合,メチルアルコールはCODとして測定されるため,脱窒槽の後段に,好気性微生物により酸化分解し,CODを削減する設備を持つ必要がある。したがって,廃水中の窒素濃度が高くなればなるほど,あるいは,変動が大きくなるほどこのCOD対策が大きな課題となる。
【0015】
次に,独立栄養細菌を用いた脱窒方法の課題について説明する。
独立栄養細菌としては,硫黄酸化細菌が用いられることが多い。硫黄酸化細菌の中で,脱窒機能を有する種類は,絶対独立栄養細菌であるThiobacillus denitrificans といわれている。そして,硫黄酸化細菌を脱窒に用いる場合,硫黄源が必要であるから,廃水中に硫黄源が存在しない場合,外部から硫黄源を添加する必要がある。硫黄源としては,硫化物(S2-),元素硫黄(S0),チオ硫酸(S2O3 2-),亜硫酸(SO3 2-)等が考えられる。山中は,これらの物質の中で,Thiobacillus denitrificansの生育に用いられるのはチオ硫酸(S2O3 2-)のみであると述べている(例えば,独立栄養細菌の生化学,アイピ−シ−,p48−p50,1999)。一方で,橋本らは,元素硫黄(S0)を硫黄源とした脱窒の研究を行っており,これによると元素硫黄(S0)でもThiobacillus denitrificansの生育が可能であることを報告している(例えば,高機能型活性汚泥法,p165−176,技報堂出版)。しかし,このような硫黄源を用いる脱窒方法は,以下の課題がある。
【0016】
まず,(5)式から明らかなように,脱窒反応が進行するとpHが低下しやすい。特に,元々,廃水のpHが低く,アルカリ度が低い廃水には影響が大きくでやすい。pHが6.0以下になると,脱窒機能は低下する。したがって,NaOHやCa(OH)2を用い,脱窒槽のpHを6-8に制御する必要が生じる。
【0017】
また,添加する硫黄源の種類にも種々の課題がある。
まず,元素硫黄(S0)は,安価であるが,疎水性が強くほとんど水に溶解しない。水に元素硫黄を添加しても均一に分散せず,浮上し相互に固まりやすい。このため,元素硫黄を用いた場合の脱窒速度は,硫黄を細菌が有効に利用できないため,溶解性のチオ硫酸(S2O3 2-)などの硫黄源を用いた場合に比較して小さくなる。
【0018】
次に,チオ硫酸(S2O3 2-)は,水に溶解する硫黄源であるが,取り扱いが容易で,毒性が小さく,また,脱窒速度も早い特徴がある。しかしながら,チオ硫酸は,硫黄の含有率が低いため,使用量が大きくなる。また,チオ硫酸が脱窒槽からの処理水中に残留した場合,COD源となるが,空気で容易に酸化されないため,脱窒槽の後段に,生物酸化や薬剤酸化によりCODを削減する設備を持つ必要がある。廃水中の窒素濃度が高い場合,流出するチオ硫酸(S2O3 2-)の濃度も高くなりやすく,COD対策設備費の削減が課題である。
【0019】
硫化物(S2-)は,水に溶解する硫黄源であるが,取り扱いが困難で,pHが低下すると気化しやすく,毒性が大きい。密閉式の設備,排ガスの安全対策などの設備コストが高くなる課題がある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは,上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果,以下の方法により,下水・廃水から窒素を安定して処理することに成功した。本発明の要旨とするところは,次の(1)〜(5)である。
(1)廃水からの生物学的脱窒プロセスにおいて、1段の脱窒槽に有機物および硫黄源を添加し、従属栄養細菌と硫黄酸化細菌を併用して、廃水中の亜硝酸性窒素および/または硝酸性窒素を窒素ガスに還元して廃水から除去する廃水からの窒素の除去方法であって、前記硫黄源を前記有機物にあらかじめ溶解槽において混合させ、混合した状態で前記脱窒槽に供給し、その際、前記有機物としてメチルアルコールまたはエチルアルコールを用いると共に前記硫黄源として元素硫黄を用い、前記脱窒槽のpHが6〜8に維持されるように、前記元素硫黄の質量に対する前記有機物の質量の比率を1〜2として供給し、且つ、前記有機物および前記元素硫黄を、前記脱窒槽の酸化還元電位(ORP)が−200〜0mV(銀/塩化銀基準)の範囲に維持されるように前記脱窒槽に供給することを特徴とする廃水からの窒素の除去方法。
(2)前記脱窒槽のp H が5〜6と低い場合は、前記元素硫黄の質量に対する前記メチルアルコールまたはエチルアルコールの質量の比率を1〜1.5とし、逆に前記脱窒槽のp H が8〜9と高い場合は前記元素硫黄の質量に対する前記メチルアルコールまたはエチルアルコールの質量の比率を1.5〜2として、前記脱窒槽のpHが6〜8に維持されるようにすることを特徴とする請求項1記載の廃水からの窒素の除去方法。
(3)脱窒槽の細菌として、造粒させた細菌または自己造粒作用を有する細菌を用いることを特徴とする(1 )又は( 2 )に記載の廃水からの窒素の除去方法。
(4)脱窒槽を流動床型とし、微生物固定化担体を投入することを特徴とする( 1 )〜( 3 )のいずれかに記載の廃水からの窒素の除去方法。
(5)脱窒槽を、充填材を充填した固定床型とすることを特徴とする( 1 )〜( 3 )のいずれかに記載の廃水からの窒素の除去方法。
(6)脱窒槽において、膜分離装置またはろ過装置を用いることを特徴とする( 1 )〜( 5 )のいずれかに記載の廃水からの窒素の除去方法。
【0021】
【発明の実施の形態】
発明者らは,これまでの従属栄養細菌や独立栄養細菌を用いた廃水からの窒素除去プロセスにおける課題を解決するため,以下の手法を考案した。
【0022】
まず,窒素として亜硝酸性窒素や硝酸性窒素を含有する廃水の場合,脱窒細菌により窒素ガスとして窒素を廃水から除去するのであるが,前述したように従属栄養細菌の場合はpHが上昇し,硫黄酸化細菌の場合はpHが低下する。すなわち,どちらの方法をとるにしても,大量の硫酸やNaOHを用い,脱窒槽のpHを微生物の最適な活性を維持できる状態にする必要がある。
そこで,発明者らは,従属栄養細菌と硫黄酸化細菌が共存する脱窒槽に有機物および硫黄源を所定の割合で混合して添加すれば,pH制御用の薬品を削減もしくは使用せずに,廃水中の亜硝酸性窒素および/または硝酸性窒素を窒素ガスに還元して廃水から除去できると考えた。有機物および硫黄源を別々に脱窒槽に添加しても,硫黄源を有機物にあらかじめ溶解槽において混合させ,混合した状態で脱窒槽に供給してもかまわない。
【0023】
有機物としては,有機物を含む廃液,酢酸などの有機酸,メチルアルコールやエチルアルコールなどのアルコール類を用いればよい。中でもメチルアルコールやエチルアルコールは,(3)式や(4)式のように反応式が明確で制御しやすいため,これらを用いることが望ましい。
【0024】
硫黄源としては,元素硫黄やチオ硫酸や硫化水素を用いればよい。ただし,硫黄源の中で,元素硫黄の場合は,最も安価であるという利点があるものの,疎水性が強く水に溶解しにくく浮上しやすい課題がある。しかし,発明者らは,元素硫黄も,メチルアルコールやエチルアルコールなどのアルコールと,あらかじめ溶解槽において攪拌・混合すれば,硫黄の一部が溶解し,また,固形の硫黄も十分に分散して混合することを知見し,この状態で脱窒槽に供給すればよいことを見出した。したがって,この方法を用いれば,安価な元素硫黄も有効に用いることができるのである。
【0025】
また,硫黄源に含まれる硫黄の質量(S)に対するメチルアルコールまたはエチルアルコールとの質量(A)の比率(以下,A/Sと表示する)が1.5であれば,(3)式あるいは(4)式および(5)式からOH-とH+が等モル発生するため,理論上pHは変動しない。しかし,実際には原水のpH,アルカリ度や脱窒槽での硫黄の利用効率等が影響するため,脱窒槽に添加するA/S 比は1〜2程度に変動させ添加することになる。例えば,脱窒槽のpHが5-6と低い場合は, A/S 比は1〜1.5としてOH-発生量を増加させ,逆に脱窒槽のpHが8-9と高い場合はA/S 比を1.5〜2.0と高めに設定し,H+発生量を増加させてやればよい。いずれにせよ,脱窒槽のpHが6〜8に維持されるように, A/S 比を変動させ添加すれば脱窒性能は安定する。pHが6未満あるいは8を超える場合は,脱窒細菌の機能が低下し,脱窒性能が低下してしまう。なお,補助的にNaOHや硫酸などの薬品を用いてもかまわない。pH調整用の薬品使用量を大幅に削減できる。
【0026】
更に,硝酸性窒素などの酸化物が消失すれば,脱窒槽の酸化還元電位(ORP)は低下する。この性質を利用し,有機物および硫黄源または有機物と硫黄の混合液の添加量は,脱窒槽の酸化還元電位(ORP)を測定し,ORPが-200〜0mV(銀/塩化銀基準)の範囲に維持されるように脱窒槽に添加すればよい。ほぼ完全な脱窒性能が得られる。脱窒槽のORPが0mVを超えると硝酸性窒素の残留があり,ORPが-200mV未満では有機物および硫黄源または有機物と硫黄の混合液の添加量が過剰となる。
【0027】
また,原水および/または脱窒槽および/または処理水中の亜硝酸性窒素濃度および硝酸性窒素濃度を測定し,その濃度の和に応じて,脱窒槽に有機物および硫黄源を混合して脱窒槽に添加してもかまわない。なお,処理水とは脱窒槽出口以降の処理水すべてを指す。
【0028】
この場合,有機物の質量(C)と硫黄源に含まれる硫黄の質量(S)の和と窒素の質量(N)の比(以下,(C+S)/N比と述べる)が3-3.5に維持されていることが望ましい。例えば(3)式から窒素1gを除去するための必要な有機物量は,1.9gと計算される。しかし,この数字は反応効率や微生物の菌体合成を無視したものであり,実際には3g以上必要である。また,(5)式から窒素1gを除去するための必要硫黄量も1.9.gと計算される。しかし,これも同様の理由で3g以上必要である。したがって,(C+S)/N比が3未満では,脱窒反応が十分に進まず,処理水中に硝酸性窒素や亜硝酸性窒素が残留する。このため,(C+S)/N比は3以上であることが望ましい。一方で,(C+S)/N比が3.5をこえると,窒素は除去されるものの,処理水に有機物および硫黄源が過剰に残留することとなり,この処理設備が大型化する。
【0029】
更に,脱窒処理の高効率化を図るため,以下の手段をとることは望ましいことである。すなわち,脱窒槽の方式を流動床型とし槽内にプラスチックスや砂やスラグあるいはゲルの微生物固定化担体を投入する。固定化担体内部や表面に細菌が高濃度に増殖することにより処理を高効率化できる。または,脱窒槽にセラミックスやプラスチックスの充填材を充填した固定床方式としてもよい。固定床内部や表面に細菌が高濃度に増殖することにより処理を高効率化できる。更に,脱窒槽の内部に膜分離装置またはろ過装置を設置することで膜やろ過装置により細菌の流出が防止され,好気槽や脱窒槽内部での細菌が高濃度に維持され,処理を高効率化できる。また,凝集剤等を用い造粒させた細菌または自己造粒機能を有する細菌を用いた脱窒槽としてもかまわない。造粒により脱窒槽内部で細菌を高濃度に維持できるため,処理を高効率化できる。いずれの方法を用いても,脱窒槽の細菌濃度が高まり,反応速度が増加し,処理が安定するとともに設備の小型化が可能となる。
【0030】
更に,脱窒槽処理水に余剰に残留する有機物や硫黄源を除去するため,脱窒槽の後段に設置した再曝気槽において,好気性条件下で従属栄養細菌や硫黄酸化細菌を用いて有機物や硫黄源の酸化分解を行う。しかし,従来の有機物単独あるいは硫黄源単独の添加の場合,有機物の酸化過程でOH-が発生してpHが上昇する,あるいは,硫黄源の酸化過程でH+が発生しpHが低下してしまう課題がある。しかし,有機物と硫黄を所定の比率で混合して脱窒槽に添加した場合には,処理水にも有機物と硫黄源が所定の割合で残留するため,有機物と硫黄源の酸化過程でOH-とH+が同時に発生し,pHの上昇あるいは低下を防止できるのである。したがって,脱窒槽と同様に,再曝気槽においてもpH調整用の薬品使用量を大幅に削減できる。
【0031】
このように,脱窒槽に有機物と硫黄源を混合して添加する本方法を用いれば,従来法と比較し,以下に示すような多くの利点が生ずるのである。
▲1▼ 脱窒槽でのpH調整用の薬品使用量削減
▲2▼ 高価な有機物,特にアルコール使用量の削減
▲3▼ 独立栄養細菌(硫黄酸化細菌)併用による余剰汚泥発生量の削減
▲4▼ 独立栄養細菌(硫黄酸化細菌)併用による脱窒素処理の安定化
▲5▼ 炭酸カルシウム生成による固定床などの充填材の閉塞防止
▲6▼ 再曝気槽でのpH調整用の薬品使用量削減
【0032】
更に,窒素としてアンモニア性窒素を含有する廃水の場合,まず,廃水中のアンモニア性窒素を硝化細菌を用いて酸化させ,生成した亜硝酸性窒素および硝酸性窒素を,脱窒槽において脱窒細菌によって窒素ガスまで還元して廃水から窒素を除去する。代表的な廃水として,都市下水がある。通常,都市下水は30-50mg/l程度のアンモニア性窒素を含有しているとともに有機物を含有しているため,外部から有機物や硫黄を添加することはほとんどない。しかし,雨水の流入などによって,一時的に有機物濃度が低下したり,工場廃水の流入により窒素量が増加することがある。このような場合,脱窒を促進するため,脱窒槽に有機物と硫黄を混合して添加してもかまわない。
【0033】
【実施例】
以下,本発明の実施例を説明する。
【0034】
(実施例1)都市下水処理(内生脱窒法)
本発明の方法を都市下水処理へ適用し,広く適用されている図1の内生脱窒法の改善を検討した。
【0035】
内生脱窒法とは図1に示すように,前段に好気槽1をおき,後段に脱窒槽2,再曝気槽3を置く脱窒プロセスである。好気槽1では,都市下水中の有機物(BOD)除去とアンモニア性窒素の酸化(硝化)を行っている。脱窒槽2では,微生物が自己分解する際に発生する有機物を用い,脱窒を行う。通常このような従属栄養細菌が用いられている。再曝気槽3では余剰の有機物を酸化する。この方法は,脱窒に微生物の自己分解作用を利用しているため,内生脱窒法と呼ばれている。しかし,脱窒槽2での脱窒速度が小さいことが欠点である。また,自己分解した微生物の有機物は難分解性成分を含むことが多いため,やや処理水質が悪化する。
【0036】
そこで,発明者らは,脱窒槽2に,有機物と硫黄の混合液を添加し,従属栄養細菌と硫黄酸化細菌を併用する脱窒プロセスに変更し,脱窒速度を向上させることを発案した。
【0037】
なお,都市下水5の水質は,BODが平均160mg/l,T−Nが平均40mg/l(大半が有機性窒素とアンモニア性窒素)程度である。
【0038】
運転方法は以下の通りである。
まず,図1の好気槽1でアンモニア性窒素を硝酸性窒素まで酸化するために以下の運転条件で好気槽1を運転した。好気槽1には,浮遊性の円筒型プラスチックス担体(内径3mm,長さ4mm)を好気槽容積あたり15容量/容量%(以下,V/V%と表示する)投入し,硝化細菌を付着させた(流動床型バイオリアクター)。好気槽1は,硫酸および水酸化ナトリウムによって,pH12を7−8に制御するとともに,ブロア8により空気を供給し,ORP13を+150mV(銀/塩化銀基準)以上に維持するように運転した。この結果,好気槽1において,都市下水中のアンモニア性窒素のほぼ100%が硝酸性窒素(40mg/l)となった。
【0039】
更に,脱窒槽2には,元素硫黄とメチルアルコールを質量比率が1:1.5(A/S=1.5)になるよう攪拌添加装置6で混合し,脱窒槽2のORP12が0mVを超えた場合,0mV以下に維持されるように添加した。ORP12が-200mV未満の場合は添加せず,内生脱窒のみの運転とした。脱窒槽2には,浮遊性の円筒型プラスチックス担体(内径:3mm;長さ4mm)を脱窒槽容積あたり15V/V%投入した。また,脱窒槽2の下部中央に,水中攪拌機13を設置し,常時攪拌した。脱窒槽2の硝酸性窒素の容積負荷が5-10kg−N/m3・日の条件で運転した。この結果,処理水7の窒素濃度は,1mg/l以下となった。脱窒槽2は,従来の内生脱窒法と比較して,約10-20倍の高効率化が可能となった。脱窒槽2のpHは7-8で安定しており,pH調整は不用であった。
【0040】
更に,脱窒槽2の処理水に残留する硫黄およびメチルアルコールは,再曝気槽3によって好気性細菌により硫酸イオンまで,容易に酸化でき,CODは10mg/l以下であった。なお,再曝気槽3は,ブロア8の曝気によってORP11を50mV以上に維持した。
【0041】
(実施例2)都市下水処理(循環式硝化脱窒法)
本発明の方法を都市下水処理へ適用し,広く適用されている図2の循環式硝化脱窒法の改善を検討した。
【0042】
循環式硝化脱窒法とは図2に示すように,内生脱窒法とは逆に,前段に脱窒槽2をおき,後段に好気槽1を置くプロセスである。脱窒槽2では,好気槽1から循環されてくる硝化液15を都市下水5の有機物(BOD)を用いて脱窒を行う。
【0043】
用いられているのは従属栄養細菌である。好気槽1では,余剰の有機物の除去とアンモニア性窒素の酸化(硝化)を行っている。この方法は,硝化液をポンプを用いて循環することから,循環式硝化脱窒法と呼ばれている。下水中の有機物を有効に利用できる利点があるが,窒素除去率に限界があり,また,硝化液15から脱窒槽2に溶存酸素の持ち込みが生じやすく,処理性能が悪化する課題がある。
【0044】
なお,都市下水5の水質は,BODが平均160mg/l,T−Nが平均40mg/l(大半が有機性窒素とアンモニア性窒素)程度である。
【0045】
ここでは,図2の循環式硝化脱窒法の改善に本法を適用した事例を述べる。従属栄養細菌と硫黄酸化細菌を併用する循環式硝化脱窒法である。
【0046】
図2の好気槽1でアンモニア性窒素を硝酸性窒素まで酸化するために以下の運転条件で好気槽1を運転した。好気槽1には,浮遊性の円筒型プラスチックス担体(内径3mm,長さ4mm)を好気槽容積あたり15V/V%投入し,硝化細菌を付着させた(流動床型バイオリアクター)。好気槽1は,硫酸および水酸化ナトリウムによって,pH12を7−8に制御するとともに,ブロア8により,空気を供給し,ORP11を+150mV以上に維持するように運転した。好気槽1において,アンモニア性窒素のほぼ100質量%が硝酸性窒素となった。
【0047】
更に,脱窒槽2のORP11が0mVを超えたら,0mV以下に維持されるように,元素硫黄とメチルアルコールの混合液6を添加した。なお,元素硫黄とメチルアルコールは質量比率が1:1.5(A/S=1.5)になるよう攪拌添加装置6で混合した。脱窒槽2に担体は添加しておらず,pH制御もおこなわなかった。
【0048】
消化液循環率15が原水流量に対して200V/V%,返送汚泥量10が原水流量に対して100V/V%の条件で運転した結果,処理水7の窒素濃度は,年間を通じ平均4mg/l以下となり,80質量%以上の安定した窒素除去率が得られた。
【0049】
(実施例3)工場酸洗廃水処理への適用
(固定床型法)
本発明の方法を工場酸洗廃水処理に適用した。工場酸洗廃水は,硝酸性窒素を100から500mg/l程度含有している。従来は,通性従属栄養細菌を利用し,外部からメチルアルコールを硝酸性窒素に対し3倍程度添加し,除去している。このような方法は,外部からのメチルアルコールの添加量が大きくなるため,薬品コストの増加や余剰汚泥が大量に発生しやすい,また,脱窒槽2での充填材19の目詰の課題がある。
【0050】
この工場酸洗廃水処理に,本発明の従属栄養細菌と硫黄酸化細菌を併用する方法を適用した。この処理フローを図3に示す。
【0051】
まず,図3の脱窒槽2にはハニカム状のプラスチックス担体19をリアクター容積あたり70V/V%投入し,硫黄酸化細菌を付着させた(固定床型バイオリアクター)。脱窒槽2には,元素硫黄とメチルアルコールを攪拌槽6で混合(A/S=1.5)し,混合液を添加した。また,混合液は,メチルアルコールに起因する炭素濃度と硫黄源に起因する硫黄濃度の和と硝酸性窒素濃度と亜硝酸性窒素濃度の和の比率((C+S)/N比)が3に維持された。
【0052】
脱窒槽2の硝酸性窒素容積負荷が10kg−N/m3・日の条件で運転したところ,処理水7の窒素濃度は10mg/l以下となった。これは,従来のメチルアルコールと従属栄養細菌を用いた場合の2−4倍の除去速度であった。しかも,脱窒槽のpH12は7-8で安定しており,pH調整は不用であった。
【0053】
脱窒槽2の後段に,処理水中に残留する元素硫黄とメチルアルコールを空気酸化する再曝気槽3を設置した。再曝気槽3は,曝気によってORP13を100mV以上に維持した。再曝気槽3の滞留時間が30分で,最終処理水のCODは,15mg/l以下であった。やはり,再曝気槽3のpH12は7-8で安定しており,pH調整は不用であった。
【0054】
【発明の効果】
本発明により,従来の脱窒方法で必要であったpH調整用の薬品費を削減でき,また,廃水から窒素を処理する方法の窒素除去効率低下を防止でき,安定した窒素除去が可能となる。また,余剰汚泥の発生量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】流動床型・内生脱窒プロセスである。
【図2】流動床型・循環式硝化脱窒プロセスである。
【図3】固定床型脱窒プロセスである。
【符号の説明】
1 好気槽
2 脱窒槽
3 再ばっ気槽
4 沈殿池
5 都市下水
6 硫黄&メチルアルコール攪拌添加装置
7 処理水
8 ブロア
9 返送ポンプ
10 返送汚泥
11 ORP計
12 pH計
13 水中攪拌機
14 DO計
15 硝化循環液
16 酸洗廃水
17 送水ポンプ
18 処理水槽
19 充填材
20 窒素計
Claims (6)
- 廃水からの生物学的脱窒プロセスにおいて、1段の脱窒槽に有機物および硫黄源を添加し、従属栄養細菌と硫黄酸化細菌を併用して、廃水中の亜硝酸性窒素および/または硝酸性窒素を窒素ガスに還元して廃水から除去する窒素の除去方法であって、前記硫黄源を前記有機物にあらかじめ溶解槽において混合させ、混合した状態で前記脱窒槽に供給し、その際、前記有機物としてメチルアルコールまたはエチルアルコールを用いると共に前記硫黄源として元素硫黄を用い、前記脱窒槽のpHが6〜8に維持されるように、前記元素硫黄の質量に対する前記メチルアルコールまたはエチルアルコールの質量の比率を1〜2とし、且つ、前記混合したメチルアルコールまたはエチルアルコール、および元素硫黄を、前記脱窒槽の酸化還元電位(ORP)が−200〜0mV(銀/塩化銀基準)の範囲に維持されるように前記脱窒槽に供給することを特徴とする廃水からの窒素の除去方法。
- 前記脱窒槽のp H が5〜6と低い場合は、前記元素硫黄の質量に対する前記メチルアルコールまたはエチルアルコールの質量の比率を1〜1.5とし、逆に前記脱窒槽のp H が8〜9と高い場合は前記元素硫黄の質量に対する前記メチルアルコールまたはエチルアルコールの質量の比率を1.5〜2として、前記脱窒槽のpHが6〜8に維持されるようにすることを特徴とする請求項1記載の廃水からの窒素の除去方法。
- 脱窒槽の細菌として、造粒させた細菌または自己造粒作用を有する細菌を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の廃水からの窒素の除去方法。
- 脱窒槽を流動床型とし、微生物固定化担体を投入することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の廃水からの窒素の除去方法。
- 脱窒槽を、充填材を充填した固定床型とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の廃水からの窒素の除去方法。
- 脱窒槽において、膜分離装置またはろ過装置を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の廃水からの窒素の除去方法。
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