JP4102490B2 - 遊離砥粒研磨スラリー組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、硬度の異なる複数の異硬度材料から構成される複合材料間における研磨量の差、即ち選択研磨を生じることなく均一に削る加工工程で使用するのに適した遊離砥粒研磨スラリー組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、光学部品、電子部品や精密機器部品などに対して、ますます高機能化、高性能化が要求されてきており、使われている材料も、金属結晶材料、セラミックス、ガラス、プラスチックと非常に多岐にわたっている。そのため硬度の異なる複数の材料から構成される部品の研磨用途が多くなってきている。このような複合材料の研磨加工の一例として、電子部品に関してはLSIの多層配線工程における配線金属と層間絶縁膜との均一加工や光学部品では光ファイバーコネクタの端面研磨などが挙げられる。
【0003】
またコンピューターの記録媒体であるハードディスクドライブは年々その記録密度の向上が計られており、高記録密度を達成する一つの手段として、ハードディスクと磁気ヘッドの浮上隙間を狭め、ディスク/ヘッド間のスペーシングを低減させる、所謂ヘッドの低浮上化が試みられている。
ハードディスクドライブに搭載されている磁気ヘッドは薄膜型磁気ヘッドが主流であり、アルチック(Al2O3−TiC)などの基材となるセラミックスとパーマロイ(Fe−Ni)、センダスト(Fe−Al−Si)などの磁性材料である金属膜等による複合材料で構成されている(図2)。
【0004】
また現在浮上型磁気へッドは一般的に以下のような工程で製造されている:
1.バーの切り出し工程(このバーは図1に示すように多数の磁気交換素子がマトリックス状に形成されたウエハを切断したものであり、複数のスライダーが列状に配列されている。)、2.バーを加工治具に接着する工程(図3参照)、3.バーのラッピング処理(図4参照、ラッピング処理とは、図4に示すように錫等を主材料とした定盤を回転させこの上に被研磨物をおいて、遊離砥粒研磨スラリー組成物等を供給しながら行う、スライダーのABSの研磨加工をいう。)、4.加工治具からバーを剥離する工程、5.レールエッチング工程、及び6.バーをスライダーに切断分離する工程。
これらの工程の中で、この発明は3.バーのラッピング処理における研磨に関する。ここでスライダーの加工方法の内、エアベアリング面の研磨加工方法として最も一般的な方法は、遊離砥粒研磨スラリー組成物によりスロートハイト研磨加工やMRハイト研磨加工(以下総括しハイト研磨加工と呼ぶ)を行い、このハイト研磨加工の最終段階、又はハイト研磨加工後に仕上げ研磨を行っている。
【0005】
ここで言うスロートハイト(Throat Height:TH)とは、薄膜磁気へッドの記録書き込み特性を決定する因子の一つであり、このスロートハイトは図2のTHで表す様に、ABSから薄膜コイルを電気的に分離する絶縁層のエッジまでの磁極部分の距離のことである。このスロートハイトを所望の長さにするための研磨加工をスロートハイト研磨加工と呼んでいる、また,薄膜磁気へッドの内、磁気抵抗再生素子を備えたものをMRヘッドと言い、このMRへッドにおいて記録再生特性を決定する一つの因子とし、磁気抵抗再生素子の高さがあり、これをMRハイト(MR Height:MR−h)と呼んでいる。このMRハイトは図2のMR−hで示すように、端面がABSに露出する磁気抵抗再生素子の、ABSから測った距離のことであり、MRハイトを所定の長さにするための研磨加工をMRハイト研磨加工と言う。
【0006】
従来の遊離砥粒研磨スラリー組成物を用いて、セラミックスと金属膜との複合材料である薄膜磁気ヘッドのABSのハイト研磨加工を行う場合、材料間の硬度の違いにより、磁極部に使用されている軟質材料であるパーマロイやセンダストなどの金属膜が選択的に加工され、段差が発生するものがほとんどであった。このパーマロイやセンダストなどの金属膜によって構成されている磁極部材料の選択研磨は、セラミックスからなるABSより磁極部などの金属膜を後退させることになり、記録媒体との磁気間隔を増大させる所謂ポールチップリセッション(Pole Tip Recession:PTR)が発生し、実質的なへッドの浮上量を増大させてしまうものである。そのために、従来技術による遊離砥粒研磨スラリー組成物での研磨加工の場合には、遊離砥粒研磨スラリー組成物によるハイト研磨加工の最終段階若しくはハイト研磨後に磁極部の選択研磨によって発生した浮上面からの後退量を低減させるべく、仕上げ研磨工程が必須であった。さらに、従来の遊離砥粒を用いる場合には、研磨加工された面、その中でも特にパーマロイやセンダストなどの金属膜にスクラッチや面荒れが発生するため、これらの改善のためにも仕上げ研磨工程が必須であった。上述した仕上げ研磨加工の一般的方法は、研磨定盤を低速で回転させたり、研磨加工時にABSにかかる荷重を調整したり、遊離砥粒研磨スラリー組成物の供給を停止し、研磨剤粒子の存在しない液体、例えば上述した遊離砥粒研磨スラリー組成物の分散媒のみを供給しながら研磨加工を行う、などである。
また、この仕上げ研磨加工ではこの仕上げ加工研磨のみを目的とした専用の研磨装置を用いる方法も一般的に実施されている。
【0007】
さらにABSの仕上げ研磨終了後に、このABSの流入側となる部分にテーパー部を設けるための研磨加工(以下テーパー研磨加工)が行われることがある。このテーパー研磨加工は、セラミックスのみを研磨するため、一度仕上げ研磨加工のために変更した研磨条件や供給する液体を再びハイト研磨加工時の条件に戻して行ったり、このテーパー研磨加工のみを目的とした専用の研磨装置を用いる方法が一般的に実施されていた。この様に、従来技術における薄膜磁気ヘッドの研磨加工には、研磨条件やスラリーまたはその他の液体を段階的に変化させたりする1若しくはそれ以上の仕上げ研磨工程を経るために、研磨加工時間が長くなったり、複数の工程を別々の研磨装置を用いて加工するなど、その生産性に間題があった。
【0008】
従来、異硬度材料が混在する複合材料を研磨するための潤滑剤として、油性剤、耐摩耗剤又は極圧剤が用いられてきた。
油性剤の代表的なものとしては、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、脂肪族エステル、油脂などが挙げられ、分子中に疎水性の長い炭化水素鎖と末端に強い極性基を持つ両親媒性物質で摩擦表面に物理吸着ないしは化学吸着して潤滑膜を形成し、この膜が摩擦面同士の直接接触を防止し摩擦を低減すると考えられる。この油性剤は比較的に穏和な低〜中荷重条件で適用されるのが一般的であり、高温高荷重の過酷な条件では膜破断が起こり潤滑性は低下する。
また、リン酸エステルや金属ジチオホスフェートなどの耐摩耗剤は、低〜中荷重、高温条件で摩擦表面とのトライボ化学反応による潤滑膜を形成し、摩耗を低減すると考えられる。しかし、高荷重条件では強いせん断や摩擦熱の発生により膜破断が起こる。
【0009】
極圧剤は、高温高荷重の過酷な条件で、油性剤や耐摩耗剤による潤滑膜よりせん断強度の大きな膜を形成することが出来る。これらの極圧添加剤の作用機構としては二つ考えられる。一つは金属表面と反応して被膜を形成する場合と、もう一つは極圧添加剤分子が摩擦面で熱分解し、金属表面と反応することなく被膜を形成する場合である。異硬度材料が混在する複合材料を研磨加工する場合、異硬度材料間の硬度差の違いにより弾性変形量が変化し硬度の低いものが選択的に削れてしまう。そのため、均一に加工するためには弾性変形量差をなくすのに有効な潤滑膜が必要となる。また従来の遊離砥粒研磨スラリー組成物を用いた研磨加工では、砥粒の微小引っかきによる作用を利用しているため、局所的に高温高せん断速度の条件下で加工を行わざるをえない。そのため、比較的穏和な条件下で潤滑性を発現する油性剤や耐摩耗剤を潤滑剤として使用すると、潤滑膜の破断が起こるため、例えばパーマロイやセンダストなどの金属膜にスクラッチや面荒れが生じる等の問題があった。
また含硫有機モリブデンは耐摩耗剤として研究の対象となってきたが(P.C.H. Mitchell“Oil Soluble Mo-S Compounds as Lubricant additive”Wear, 100 (1984) 281-300、岡部平八朗編“石油製品添加剤の開発と最新技術”シーエムシー(1998)p99〜106 等)、本発明のような異硬度材料が混在する複合材料を研磨するための潤滑剤としては検討されてこなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、異硬度材料が混在する複合材料を、異硬度材料間における研磨量の差、即ち選択研磨を生じることなく均一に削る加工工程で使用するのに適した遊離砥粒研磨スラリー組成物を提供することである。また薄膜型磁気ヘッドの研磨加工において薄膜型磁気ヘッドのABS面をスクラッチを発生することなく均一に加工する遊離砥粒研磨スラリー組成物及びそれを用いた研磨方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、異硬度材料が混在する複合材料を研磨するための遊離砥粒研磨スラリー組成物であって、含硫有機モリブデン、研磨剤粒子及び非極性有機溶媒を含み、更に、研磨材粒子の表面を疎水化するための表面改質剤として、界面活性剤、高分子系表面改質剤及びカップリング剤から成る群から選択される少なくとも一種を含む組成物である。
このような遊離砥粒研磨スラリー組成物を使用することにより、異硬度材料が混在する複合材料を研磨する段階で、固体接触が発生している部分の比率を低下させ、選択的に硬度の低い被研磨物表面の摩擦係数を下げることになる。つまり加工除去されやすい硬度の低い材質の除去量を小さくすることにより、異硬度材料間における研磨量の差を生じる事なく均一に加工することが可能になる。
【0012】
本発明の含硫有機モリブデン等の極圧添加剤を潤滑剤として使用すると、特に硬度の異なる複数の異硬度材料から構成される薄膜型磁気ヘッドのABS面にスクラッチを発生することなく均一に加工出来る。これは、高温高せん断のかかる条件下において、含硫有機モリブデン化合物が摩擦面で発生する摩擦熱で分解し、金属表面と反応することなく被膜を形成し、その層間が分子間力の弱いファンデアワールス力で結合している二硫化モリブデン(MoS2)を主体とする層状構造をなし、接触面での摩擦は二硫化モリブデン内部の層間の摩擦に置き換えられ低摩擦となるため(岡部平八朗編“石油製品添加剤の開発と最新技術”シーエムシー(1998)p99〜106)、異硬度材料間の弾性変形量差をなくすのに有効に作用するものと考えられる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のスラリーの典型的な具体例である、含硫有機モリブデン、研磨剤粒子、分散媒及び界面活性剤から成る遊離砥粒研磨スラリー組成物を図5に示す。
本発明で用いる含硫有機モリブデン化合物としては、テトラモリブデン酸(MoS4 2-)の高分子アミンとの塩(例えば、ドデシルアンモニウムテトラモリブデン酸塩)、Mo2O2B4、Mo2O4B2、Mo2O3SB2、Mo2O2S2B2、Mo2OS3B2及びMo2S4B2(式中、Bはキサントゲン酸塩若しくはジアルキルキサントゲン酸塩、ジチオカーバメート若しくはジアルキルジチオカーバメート、又はジチオリン酸塩若しくはジアルキルジチオリン酸塩を表す。)、β-ジケトネート(例えば、アセチルアセトネート)のモリブデン錯体、ジチオール(例えば、トルエン−3,4−ジチオール)のモリブデン錯体、並びに2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアゾール等が挙げられるが、特に下式
【化1】
で表されるモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)や下式
【化2】
で表されるモリブデンジチオホスフェート(MoDTP)などが好ましい。しかし、従来から極圧添加剤として知られている二硫化モリブデンの無機固体粒子では、選択研磨を防止するのに対し充分な効果を示さなかった。これは、無機固体粒子を極圧添加剤として使用する場合、高粘度の媒体中に粒子を練り込みグリース状で使用されるのが一般的であり、粘度が低く流動性が高いスラリー中では摩擦界面に有効な被膜を形成することが出来なかったためと考えられる。
また含硫有機モリブデン化合物は、無機固体粒子とは異なり有機金属媒体であるため非極性溶媒中に容易に溶解し、取り扱いやすいという利点も持ち合わせている。
含硫有機モリブデン化合物の添加濃度は、含硫有機モリブデンが摩擦熱にて分解し被研磨物(特に磁気ヘッド)と定盤との間に潤滑膜を形成出来る飽和濃度以上であれば良いため、0.05重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上であることが望ましく、また通常50重量%以下、特に20重量%以下である。
【0014】
本発明で用いる分散媒は、含硫有機モリブデン化合物を溶解する溶媒であれば限定されないが、薄膜型磁気ヘッドに用いる場合には構成材料であるパーマロイ及びセンダストなどの金属膜が一般的に水に対して弱く腐食や錆を発生するので分散媒として非水系溶媒を用いることが望ましく、更に極性の弱い非極性溶媒を用いることが望ましい。
ここで、分散媒の極性とは普通に使用される意味で溶媒分子内の原子とその結合の種類、原子配列とその位置などによって分子内に生じる双極子に基づく性質である。この極性の大きさは相互作用する分子の極性によって相対的に決まるものである。
溶媒の極性は、定性的に、Hildebrandの溶解性パラメーター(sp値)δ値で表される。この値δが大きい程極性が大きく、小さいものほど極性は小さい。このδ値は、更に分散、極性による配向及び水素結合などの分子間相互作用によっていくつかに分けられるが、これらの値は、その溶媒がどのような化合物を良く溶かすかという、化合物に対する溶解の選択性を決定するものである。
【0015】
本発明の遊離砥粒研磨スラリー研磨液の分散媒に適した有機溶媒は、このδ値が低いものが望ましい。これは、極性成分が増加することにより分散媒の臭気が問題になったり、分散媒自体が人体や被研磨物に対して悪影響を与えるからである。さらに本発明では、研磨加工中の研磨スラリーの蒸発を無くし、安定な研磨加工を行うために分散媒の蒸発速度が遅い溶媒が適している。これは、蒸発速度の速い分散媒は研磨作業中に分散媒が蒸発してしまい、安定な研磨加工が困難になるからである。
これらのことから、本発明に用いる分散媒は溶解性パラメーターsp値が10.0以下、好ましくは8.0以下、相対速度が5.0以下、より好ましくは2.0以下のものが適している。これらの分散媒としては例えば、エクソン化学(株)製、無臭イソパラフィン系溶媒:アイソパーシリーズや低臭ナフテン系溶媒:EXXSOLシリーズ、モービル化学製n−パラフィン系溶媒:ホワイトレックスシリーズおよび工業用脂肪族系溶媒であるペガソール、ペガホオワイト、サートレックスなどがある。
【0016】
本発明に用いられる研磨材粒子は、研磨加工一般に用いられるものであれば特に限定されることなく使用することが出来る。具体的には、ダイヤモンド、アルミナ、シリコーンカーバイド、酸化セリウム、酸化ケイ素、酸化鉄などが挙げられる。研磨材粒子は、被研磨物の硬度や複合材料種、研磨除去量および研磨仕上げ面精度などによって任意に設定することが可能であるが、薄膜磁気ヘッドのラッピング加工の場合、呼称粒度が0〜1/10μm、0〜1/8μmおよび0〜1/4μmなど1μm以下、より好ましくは0.5μm以下のダイヤモンド微粒子研磨材が一般的に使用されている。また、研磨材粒子のスラリー組成物中における濃度は0.01〜1.0重量%程度、好ましくは0.05〜0.4重量%程度が一般的であり、研磨能率や研磨精度を考慮し調製させる必要がある。
【0017】
粉体の状態から安定な分散系を作るには、固/液界面でのぬれ性が良くなければならない。ここでぬれ性とは、液体が固体表面から気体を押しのける現象を言うが、乾燥した粉体の表面には空気が強く吸着しているため、これを液体で置換する必要がある。また、ぬれ性を良くするには、固/液の化学的親和性を強めればよく、親和性は両者の極性や化学構造が近いものほど大きくなる。
研磨材粒子に用いられる粒子表面には、表面水酸基などの極性官能基が存在するため親水性を示し水のようなδ値の高い極性溶媒中ではぬれ性が良いため容易に分散させることが可能である。しかし、本発明で用いる分散媒は、非極性溶媒であるため、親水性粒子である研磨材を非極性溶媒中に均一に分散させるには、粒子表面と分散媒との親和性を高めなければならず、疎水化処理を施す必要がある。粒子表面の疎水化処理の方法には、界面活性剤、高分子系表面改質剤、カップリング剤などの表面改質剤を添加する方法がある。
【0018】
表面改質剤として界面活性剤を用いる方法は、界面活性剤が分子中に疎水性の長い炭化水素鎖と末端に強い極性基(=親水基)を持つ両親媒性物質であることを利用している。具体的には、図5に示すように、親水性である粒子表面と界面活性剤の極性基との相互作用により疎水性である炭化水素鎖を外側に向けて吸着するため、全体的に見ると粒子の表面性は親水性から疎水性に変化し、非極性溶媒中で沈降することなく安定に存在することが可能となる。
本発明に界面活性剤を使用する場合は、その界面活性剤は非極性溶媒に溶解するものでなければならず、そのような界面活性剤は、その分子骨格中に二重結合や三重結合を有するか、又は分岐が存在するものが一般的である。磁気ヘッドの磁性部に対して腐食などを引き起こしうるイオン性界面活性剤を用いるより、好ましくは非イオン性界面活性剤を用いることが望ましい。そのような界面活性剤としては、例えばソルビタン脂肪酸エステル系であるモノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、グリセリンエステル系としてはペンタオレイン酸デカグリセリル、ペンタインステアリン酸デカグリセリル、トリオレイン酸デカグリセリル、ペンタオレイン酸ヘキサグリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリルなど、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル系であるテトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル系であるモノオレイン酸ポリエチレングリコール2EO、6EO、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系であるPOE(2)オレイルエーテル、POE(3)2級アルキルエーテルなどがある。
本発明に使用される界面活性剤濃度は、粒子に飽和吸着を起こす濃度以上であれば良く、使用する研磨材粒子の表面性および界面活性剤により変化するが、0.01重量%以上が好ましい。また一般的に50重量%以下で用いられる。これは、非極性溶媒中では水系に比べ、一層目での界面活性剤の吸着量は小さいため、界面活性剤同士が疎水−疎水相互作用を利用し二層吸着することは困難となり、水系のように界面活性剤の添加濃度とともに表面性が変化することがないためである。
【0019】
また表面改質剤として高分子系表面改質剤やカップリング剤を用いてもよい。
高分子系表面改質剤には、ポリマーの一端が界面に強く吸着し、その他の部分が溶媒中に伸長する、ポリ(2−ビニルピリジン)-ポリスチレン(PVPy-PS)やポリ(2−ビニルピリジン)-ポリイソプレン(PVPy-PIS)等のポリマーブラシが挙げられる。これらは粒子表面に吸着し厚い吸着層を形成する。この厚い吸着層によって、粒子同士の接近を立体障害的に防止することを利用している。
【0020】
またカップリング剤には、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル9トリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート(味の素株式会社製プレンアクトKR138S)、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オエチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミドエチルアミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート等のチタネート系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート(味の素株式会社製プレンアクトAl-M)や、アセトアルコキシジイソプロピレート、イソブチロキシド、2-オクタデシロキシド、2−エチルヘキシルイソプロポキシド等の有機アルミニウム系カップリング剤などが挙げられる。
本発明に使用される高分子系表面改質剤やカップリング剤の濃度は、使用する研磨材粒子の表面性等により変化するが、0.01重量%以上が好ましい。また一般的に50重量%以下で用いられる。
これらを用いる方法では、粒子表面にある表面官能基と表面改質剤を化学反応により結合させ粒子の表面性を親水性から疎水性へと変化させることを利用している。疎水化処理は上記の方法に限定されることはなく、親水性である研磨剤粒子を非極性溶媒中に均一に分散させる疎水化処理であるならいかなる処理でも用いてもよい。
【0021】
本発明の遊離砥粒研磨スラリー組成物の製造方法は、一般的な遊離砥粒研磨スラリー組成物の製造方法が適用出来る。即ち、分散媒に界面活性剤を適量溶解し研磨材粒子を適量混合する。この状態では研磨材粒子は親水性であるために非極性溶媒中では凝集状態で存在している。そこで、凝集した研磨材粒子を一次粒子に解砕するために粒子の分散を実施する。分散工程では一般的な分散方法および分散装置を用いることが出来る。具体的には、例えば超音波分散機、各種ビーズミル分散機、ニーダー、ボールミルなどが適用できる。
分散装置の使用によって、粒子が一次粒子まで解砕され現れた表面に界面活性剤が吸着しぬれ性を改善することにより凝集することなく分散安定性が良好なスラリーを調製することが可能となる。
【0022】
本発明による遊離砥粒研磨スラリー組成物中の含硫有機モリブデン化合物の存在を分析する手法として、蛍光X線による定性分析が挙げられる。具体的には、スラリー状のまま蛍光X線による測定を行い、モリブデンのLα線に起因する2.293kevと硫黄のkα線に起因する2.307kevにピーク値を示すことより含硫有機モリブデン化合物の存在を確認出来る。
【0023】
この発明の被研磨物は、主にHv硬度が26〜360の軟材料とHv硬度が700〜4000の異硬度材料が混在する複合材料である。ここに含まれる軟材料と硬材料はそれぞれ一種類又は複数であってもよい。この軟材料は特に金属であり、例えばTi(Hv硬度:60),Pb(Hv硬度:37),Ag(Hv硬度:26),W(Hv硬度:360),V(Hv硬度:55),Nb(Hv硬度:80),Ta(Hv硬度:355),Pd(Hv硬度:38),Cr(Hv硬度:130),Ru(Hv硬度:350),Cu(Hv硬度:117),Pt(Hv硬度:39),Mo(Hv硬度:160),Th(Hv硬度:38),Ni(Hv硬度:60),センダスト(Fe−Al−Si、Hv硬度:600)、パーマロイ(Fe−Ni、Hv硬度:200)、アルミニウム(Hv硬度:200)が挙げられる。硬材料はセラミックス、ガラス等であり、例えば、石英ガラス(Hv硬度:620)、アルチック(Al2O3−TiC、Hv硬度: 2500)、TiC(Hv硬度:3200),AlN(Hv硬度:1370),Si3N4(Hv硬度:2160),ZrO2(Hv硬度:700),cBN(Hv硬度:4000),SiO2(Hv硬度:620),SiC(Hv硬度:2400),hBN(Hv硬度:4700),AlTiC(Hv硬度:2500),Al2O3(Hv硬度:2000),Si3N4(Hv硬度:2160),AlN(Hv硬度:1370),MgO(Hv硬度:920),B4C(Hv硬度:3200),TaN(Hv硬度:1080)が挙げられる。
また特に、被研磨物が薄膜磁気ヘッドの場合には、この被研磨物は例えば図2に示すようなアルチック、センダスト、パーマロイ、アルミナ等の異硬度材料が混在する構造になる。
【0024】
ハードビッカース硬度(Hv硬度)の測定法はJIS Z2251に規定されている。具体的には、対面角が136°のダイヤモンド正四角錐圧子を用い、試験片にくぼみを付けた時の試験荷重とくぼみの対角線長さから求めた表面積とから、次式を用いて算出する。
【数1】
HV=0.102(F/S)=0.102・(2Fsinθ/2)/d2=0.18909F/d2
ここで、HVはHv硬度、Fは試験荷重(N)、Sはくぼみの表面積、Dはくぼみの対角線の長さの平均(mm)、θはダイヤモンド圧子の対面角を表わす。なお、Hv硬度の試験機はJIS B7725に、硬度の基準となる基準片は鋼製(JIS G4401, JIS G4805)、黄銅製(JIS H3100)、銅製(JIS H3100)とそれぞれ定められている。また、基準片の使用範囲の表面粗さはJIS B0601(表面粗さ)により0.1sの鏡面、基準片の表面および裏面の平行度はJIS B0621(形状および位置の精度の定義および表示)により、50mm当たり0.02mm以下と定められている。
【0025】
【実施例】
実施例1〜2、比較例1〜5
本実施例では、アルチック、センダスト及びパーマロイによって構成される薄膜型磁気ヘッドを研磨加工する際の潤滑剤の添加効果について検討した。
本実施例に用いた遊離砥粒研磨スラリー組成物の組成を表1に示す。ここで潤滑剤として、モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC、R.T.Vanderbuilt Company, Inc.社製 Molyvan-A)およびモリブデンジチオホスフェート(MoDTP、三洋化成(株)製 サンフリックFM−2)を添加したスラリーを用いた。また比較のため、潤滑剤を使用していないスラリーと、潤滑剤として耐摩耗剤であるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDPO)、油性剤としてオレイン酸、無機固体粒子系極圧添加剤として二硫化モリブデン、及び硫黄を含まない有機モリブデン化合物(R.T.Vanderbuilt Company, Inc.社製 Molyvan 855)を添加したスラリーについても同様の試験を行った。
【0026】
研磨実験には、日本エンギス(株)製、自動精密ラッピングマシンHYPEREZ EJ−3801N型を用いた。研磨条件はラップ盤に錫/鉛定盤、定盤回転速度60rpm、スラリー研磨液供給量を30秒間隔に3秒間噴霧、加工荷重250g/cm2 、加工時間30分間とした。
研磨特性の評価は研磨加工後の薄膜磁気型ヘッドのアルミナチタンカーバイド/金属膜間の段差、つまりポールチップリセッション値(PTR値)を走査型プローブ顕微鏡(AFM)によって測定した。このPTR値は、要求性能によっても異なるが一般的に約10nm以下、特に5nm以下が好ましいと考えられている。また、スクラッチの評価は、AFMおよび微分干渉光学顕微鏡を用いた。試験結果を表1にまとめる。
【0027】
【表1】
【0028】
この結果、潤滑剤として含硫有機モリブデン化合物を使用した両方の系において、良好な加工均一性と同時に無傷性を示した。これは、含硫有機モリブデン化合物が、高温高せん断のかかる条件下において摩擦面で発生する摩擦熱で分解し、MoS2を主体とする異硬度材料間の弾性変形量差をなくすのに有効に作用する表面膜を形成したためと考えられる。
【0029】
実施例3
本実施例は、遊離砥粒研磨スラリー組成物中の含硫有機モリブデンの有効添加量について評価した。実験に用いた含硫有機モリブデン化合物は、実施例1と同様の遊離砥粒研磨スラリー組成物を用いてモリブデンジチオホスフェート(MoDTP)の添加量を変化させた。磨耗試験についても実施例1と同様に行った。その結果を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
その結果、添加剤量が0.05重量%以上、好ましくは0.2重量%以上で良好なる加工均一性と同時に無傷性を示した。また、添加濃度を向上させてもある一定量以上は同様の特性となった。これは、摩擦面に作用する含硫有機モリブデン化合物量以上を添加しても効果は変わらないことを意味する。
【0032】
【発明の効果】
これらの実施例から明らかなように、潤滑剤として極圧添加剤である含硫有機モリブデン化合物を用いて、その添加濃度が0.05重量%以上、好ましくは0.2重量%以上である場合に、薄膜型磁気ヘッドのABS面の研磨加工の際にスクラッチを発生することなく均一に加工することの出来る高性能遊離砥粒研磨スラリー組成物を得ることが出来た。
以上、本発明では主として異硬度材料からなる薄膜磁気ヘッドの研磨加工について述べたが、本発明の遊離砥粒研磨スラリー組成物の用途はこれにとどまるものでなく異なる硬度の材料で構成される複合材料の選択研磨の防止に広く応用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】被研磨物が磁気ヘッド素子の場合の、ウェハから切り出されたバーを示す。
【図2】磁気ヘッド素子の構成の一例を示す、図1のバーのA−A断面図である。
【図3】バーを加工治具に接着させた様子を示す斜視図である。
【図4】バーのラッピング処理の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の遊離砥粒研磨スラリー組成物の一例を示す。
【符号の説明】
1 アルチック (Al2O3・TiC)
2、4、6、8、10 アルミナ (Al2O3)
3 センダスト (Fe-Al-Si)
5 MR素子
7、9 パーマロイ (Fe-Ni)
11 銅
Claims (6)
- 異硬度材料が混在する複合材料を研磨するための遊離砥粒研磨スラリー組成物であって、含硫有機モリブテン、研磨剤粒子及び非極性有機溶媒を含み、更に、研磨剤粒子の表面を疎水化するための表面改質剤として、界面活性剤、高分子系表面改質剤及びカップリング剤から成る群から選択される少なくとも一種を含む組成物。
- 前記含硫有機モリブデンの添加量が0.2重量%以上である請求項1に記載の組成物。
- 薄膜磁気ヘッドのエアベアリング面となる面の研磨加工を行う工程を含む薄膜磁気へッドの製造方法であって、前記研磨加工が請求項1又は2に記載の遊離砥粒研磨スラリー組成物を用いる薄膜磁気へッドの研磨方法。
- 前記研磨加工を行う工程が一工程である請求項3に記載の薄膜磁気ヘッドの研磨方法。
- 前記研磨加工を行う工程がスロートハイトを決定する工程である請求項3又は4に記載の薄膜磁気へッドの研磨方法。
- 前記研磨加工を行う工程がMRハイトを決定する工程である請求項3又は4に記載の薄膜磁気ヘッドの研磨方法。
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