JP4098443B2 - ガナッシュ類の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガナッシュ類をモールド成型により製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にモールド成型して製造される固形チョコレートは、非常に水分含量の低い食品である。通常、その水分含量は1%以下であり、その製造工程においても、極力水分の混入を避けるようにされている。これは、チョコレートの水分含量が増えるとその粘度が増し、モールド成型した場合に離型しにくくなり、また、砂糖の再結晶が起こるなど、製品の品質も悪くなるためである。
【0003】
一方、ガナッシュは、チョコレートをベースに生クリーム、バター、牛乳又は糖液などの液状物を混ぜ合わせたものであり、やわらかな口当たりを有する風味のよいチョコレート製品である。しかしながら、このガナッシュは水分含量が多いため非常にボディーが弱く、また、常温での保形性に乏しいため、チョコレートのセンターにしたり、ケーキ類のサンド用、上塗り用などの限られた範囲でしか用いられていなかった。
【0004】
そして、このようなガナッシュ類を一般の固形チョコレートのようにモールド成型しようとした場合、一般に固形チョコレートの成型に使用されるプラスチックモールドで成型すると、ガナッシュ類は水分含量が高く、しかもその乳化系が主として水中油型となっているため、その水溶性成分がモールド表面に粘着し、また油脂分は冷却しても収縮性に欠けるため、離型することができなかった。
【0005】
そのため、一般にガナッシュ類の成型は、ガナッシュ類を枠に流し込み、長時間(通常、一晩)冷却固化させた後、ピアノ線等で切断して行われている。
【0006】
一方、特開平10−75713号には、モールド成型ガナッシュ類の製造方法及びガナッシュ類成型用モールドが提案されている。上記製造方法は、チョコレート類を融解し、これに加温した水性成分を加えて混合した後、25〜30℃に冷却し、しかる後、ペースト状に融解した油中水型乳化物を加えて混合し、混合物全体の乳化系を油中水型に乳化した後、プラスチック製の型に流し込み、冷却する方法である。この製造方法によれば、ガナッシュにペースト状に融解した油中水型乳化物を加えて混合し、混合物全体の乳化系を油中水型に乳化することにより、これをプラスチック製のモールドに流し込んで冷却成型したときに、該混合物の体積が収縮し、型離れしやすくなるというものである。
【0007】
また、上記ガナッシュ類成型用モールドは、一平面内に複数の凹部を有するプラスチック製モールドであって、各凹部には底部が狭くなるように側部にテーパーがつけられ、型離れしやすくしたものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記ガナッシュ類を冷却固化させてからピアノ線等で切断して成型する方法は、手作業によるところが多いため連続大量生産することが困難であり、また、冷却に長時間を要するため生産効率が悪く、しかも単調な形状にしか成型することができなかった。
【0009】
また、上記特開平10−75713号公報には、チョコレート類と含水成分の混合物が水中油型の乳化物である場合には、プラスチック製のモールドで成型した場合の離型性が不良であると記載されている。
【0010】
しかし、ガナッシュ類は、チョコレート類と含水成分の混合物が水中油型の乳化物であるものの方が、油中水型乳化物であるものに比べて食感や風味が良いので、上記特開平10−75713号公報に記載された方法では、食感や風味の点で満足いくガナッシュ類を得ることができなかった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、優れた食感と風味を有するガナッシュ類をモールド成型により製造する方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明によるガナッシュ類の製造法は、チョコレート類を融解し、これをテンパリングし又はテンパリングせず、含水成分を加えて混合することにより主として水中油型の乳化物とし、該乳化混合物を弾性素材からなるモールドに流し込み、冷却温度と冷却時間の関係が、冷却温度−40〜−7℃の範囲で、図1における、A点(冷却温度=−40℃、冷却時間=3分)と、B点(冷却温度=−30℃、冷却時間=5分)と、C点(冷却温度=−20℃、冷却時間=10分)と、D点(冷却温度=−10℃、冷却時間=15分)と、E点(冷却温度=−7℃、冷却時間=30分)とをそれぞれ直線で結ぶ線の斜線側の領域となるように前記モールドを冷却し、該モールドを変形させて、該モールドから該乳化混合物の硬化物を取り出すことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、チョコレート類と含水成分との混合物は主として水中油型の乳化物であり、この混合物をモールドに流し込んで硬化した場合でも、モールドを変形させることにより、硬化した混合物を型内から取出すことができる。そして、水中油型の乳化物を用いることにより、軟らかい食感と、良好な風味を有するガナッシュ類を得ることができる。
【0015】
【発明の実施形態】
本発明において、チョコレート類とは、チョコレート規約で定められたチョコレートに限らず、それ以外のチョコレート類、例えば、ココアバターの代わりにココアバター代用脂として、動物、植物もしくは両者由来のテンパリング、ノンテンパリング又はそれらを混合した油脂を使用した各種チョコレート類、ココア又はカカオマスを使用せず、全粉乳や脱脂粉乳等を使用することにより得られるホワイトチョコレート類、フルーツ、コーヒー、抹茶等の風味素材と併用して様々な風味や色調をしたカラーチョコレート類も含むものである。
【0016】
これらのチョコレート類は、代用脂としていわゆるノンテンパリング型の油脂を使用した場合はテンパリングせずに、テンパリング型の油脂を使用した場合はテンパリングし又はテンパリングせず、次に後述する含水成分を加える。テンパリングした場合、安定型の微細結晶が多数形成され、後の冷却工程でしっかりした組織が造られるため、解凍した時にガナッシュ類の形状がダレたり、崩れたりしにくくなる。また、後工程の冷却・硬化にかかる時間が短縮され、さらに、製品中の水分の分離が抑制されて品質も安定する。
【0017】
本発明において、含水成分とは、生クリーム、牛乳、濃縮乳(練乳を含む)等の乳製品、洋酒、リキュール類等の酒類、液糖、液状の糖アルコール、果汁、水等をいう。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。
【0018】
そして、上記含水成分は、製品中の水分含量が10〜25%になるように添加することが好ましい。水分含量が10%未満であると、上記チョコレート類との混合物が油中水型の乳化物となってしまい食感や風味が劣るため好ましくなく、25%を超えると、製品が常温でドロドロになってしまい保型性がなくなるため好ましくない。
【0019】
また、テンパリングしたチョコレート類に含水成分を添加する際には、テンパリングで生じた安定型の結晶を壊さないようにするため、また、チョコレート類の品温が下がりすぎて作業性が悪くならないようにするため、含水成分を27〜32℃に加温してから加えることが好ましい。
【0020】
そして、上記チョコレート類と含水成分との混合物の乳化状態は、電気抵抗測定器(テスター)を混合物中に挿して通電を確認するか、又は顕微鏡下で観察することにより確認することができる。ただし、テスターで通電が確認されても、顕微鏡で観察すると、大部分が水中油型の乳化系になっているが、一部油中水型になっていることもあり、本発明において、チョコレート類と含水成分との混合物が主として水中油型の乳化物であるとは、テスターで水中油型であると判断される程度に通電が確認されればよく、一部が油中水型になっていてもよいことを意味する。
【0021】
本発明において、モールドの素材である変形可能な樹脂素材としては、例えばシリコンゴム、天然ゴム、合成ゴム(クロロプレン系ゴム、ネオプレン系ゴム)、フッ素系ゴム等の樹脂が挙げられるが、特に弾性を有する樹脂が好ましく、中でもシリコンゴムは、低温下でも弾性を有し、離型性もよいため最も好ましい。モールドは、上記のような樹脂素材を例えば射出成型等の手段によって成形することによって製造することができる。
【0022】
また、上記樹脂素材からなるモールドの凹部の形状などについては、特に限定されず、方形、円形、半球、星、花、葉の形、キャラクター等適宜選択することができるが、離型性の点から内径が開口部に向かうほど広がる形状をなすことが好ましい。モールドの凹部の大きさは、例えば方形の場合、一辺が15〜25mm、深さが7〜13mmであるものが好ましく、円形や半球の場合、直径が15〜25mm、深さが10〜18mmであるものが好ましい。また、モールドの厚さは変形が容易となるように薄い方が好ましく、1.0〜3.0mmであることが好ましい。また、変形が容易となるよう底部のみを薄くすることもできる。そして、モールドの大きさにより異なるが、例えば25cm×26cm(深さ15mm)のシートに、大きさが20mm×20mm(深さ13mm)である上記形状の凹部が、60〜75個配置されたモールドが使用上の点で好ましい。
【0023】
本発明の方法において、上記チョコレート類を融解し、常法に従いテンパリングし又はテンパリングせずに、上記含水成分を27〜32℃に加温してから、全体の水分含量が10〜25%になるように加えて混合し、混合物を主として水中油型の乳化物とする。この混合物を上記変形可能な樹脂素材からなるモールドに流し込み、冷凍庫に入れ冷却する。
【0024】
本発明の方法において、モールドに流し込んだガナッシュ類の冷却は、当該モールドを−40〜−7℃の冷凍庫内に入れて急速冷凍し、該冷却温度で図1の斜線側の領域となる時間、例えば−40℃で3分間以上、−7℃で30分間以上放置することにより行うことが好ましい。後述する実施例に示されるように、ガナッシュ類中の水相、特に型に接するガナッシュ類表面の水相は、−40℃では3分間以上の冷却で完全に凍結し、−7℃では30分間以上の冷却で完全に凍結するため型崩れせずに離型することができる。
【0025】
このように急速冷凍して最大氷結晶生成帯(日本食品科学工学会誌第46巻第7号1999年、447〜453ページ)を早く通過させることにより、ガナッシュ類中の水分を均一で小さな氷にすることができ、冷却時間を短縮できると共にガナッシュ類の離型性を良くすることができる。冷却温度が−7℃より高いと凍結が緩慢となって大きな氷ができ、しかもガナッシュ類中の水相が凍結濃縮された状態となり、凝固点降下により−7℃より高い温度では不凍となり、1日以上冷却しても凍らず離型できなくなる。一方、−40℃より低い冷凍庫は工業的には利用することが困難である。
【0026】
上述のようにして冷却して硬化させた混合物は、モールドに入ったまま冷凍庫から取出し、直ちに、好ましくは型に接するガナッシュ類の表面の品温が−5℃以下の状態で上記モールドを変形させることにより離型する。具体的には、モールドの底部を外側から押圧して押し出したり、モールドをひねるなどの手段によって離型し、該混合物の硬化物、すなわちガナッシュ類を取出す。上記表面の品温が−5℃を超えると離型が困難となる。
【0027】
本発明において、上述したようにして成型したガナッシュ類には、食用の粉末、例えばココア粉末、ナッツ粉末、抹茶、粉糖、きな粉、粉乳等の粉体を振りかけてもよい。このような粉体を振りかけることにより、製品のべとつきを抑えることができると共に、製品の品質の差別化や製品に高級感を付与することができる。
【0028】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
各原料を表1に示す配合割合で混合して、通常のチョコレートの製法によりミルクチョコレート原液を製造し、以下の実施例及び比較例に用いた。
【0029】
【表1】
【0030】
なお、実施例1〜5及び比較例1〜5において、チョコレート原液と生クリーム及び洋酒をミキサーで十分混合した後、該乳化混合物中にテスターを挿して通電をチェックし、該乳化混合物が水中油型の乳化系であることを確認した。
【0031】
実施例1
上記ミルクチョコレート原液100重量部を、常法によりテンパリングし、これに27〜32℃に加温した生クリーム50重量部と洋酒3重量部を加えてミキサーで混合し、主として水中油型の乳化物よりなる混合物を得た。この混合物を25cm×26cm(深さ15mm)のシートに各20mm×20mm(深さ13mm)の凹部72個を有するシリコンラバー製のモールドに分注し、−40℃の冷凍庫で冷却した。冷凍庫に入れてから1分後に取り出し、直ちにモールドの底部を外側から押圧して、ガナッシュ類が型離れするかどうかをみた。冷凍庫に入れてから2、3、5、10分後にも同様にして離型性をみた。その結果を表2に示す。
【0032】
実施例2
冷却温度を−30℃、冷却時間を3、4、5、10分間とした以外は実施例1と同様にしてガナッシュ類を製造し、離型性をみた。その結果を表2に示す。
【0033】
実施例3
冷却温度を−20℃、冷却時間を3、6、10、15分間とした以外は実施例1と同様にしてガナッシュ類を製造し、離型性をみた。その結果を表2に示す。
【0034】
実施例4
冷却温度を−10℃、冷却時間を3、10、15、20分間とした以外は実施例1と同様にしてガナッシュ類を製造し、離型性をみた。その結果を表2に示す。
【0035】
実施例5
冷却温度を−7℃、冷却時間を10、20、30、45分間とした以外は実施例1と同様にしてガナッシュ類を製造し、離型性をみた。その結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
○:きれいに型離れし、型崩れすることなしに離型可能、×:型離れが悪く、モールドの凹部の中で型崩れしてしまい離型不能
【0037】
表2の結果から、冷却温度が−40℃では3分間以上、−30℃では5分間以上、−20℃では10分間以上、−10℃では15分間以上、−7℃では30分間以上冷却することにより、型崩れすることなく、きれいに離型できることが分かった。
【0038】
なお、図1は、上記冷却温度と、型崩れすることなく、きれいに離型するのに必要な冷却時間との関係を示した図表である。すなわち、型崩れすることなく、きれいに離型するためには、冷却温度と冷却時間との関係が、図1の斜線領域側となるようにすることが望ましい。
【0039】
比較例
シリコンラバー製モールドの代わりにポリプロピレン製のモールドを用い、冷却時間を20分、30分、12時間、24時間とした以外は実施例1と同様にしてガナッシュ類を製造し、離型性をみた。その結果、いずれの場合においても、モールドの底部を外側から強く押圧しても、強い衝撃を与えても型離れが悪く、該モールドの凹部の中で型崩れしてしまった。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ガナッシュ類をモールド成形により工業的に生産性よく製造することが可能となる。また、モールドの形状を適宜選択することにより、これまでにない形状のガナッシュ類を製造することができる。更に、本発明により得られるガナッシュ類は、チョコレート類と含水成分の混合物の乳化系が主として水中油型であるため、優れた食感と風味を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のガナッシュ類の製造法において、チョコレート類と含水成分の混合物をモールドに流し込んで冷却する際の冷却温度と、型崩れすることなく、きれいに離型するのに必要な冷却時間との関係を示した図表である。
Claims (3)
- チョコレート類を融解し、これをテンパリングし又はテンパリングせず、含水成分を加えて混合することにより主として水中油型の乳化物とし、
該乳化混合物を弾性素材からなるモールドに流し込み、
冷却温度と冷却時間の関係が、冷却温度−40〜−7℃の範囲で、図1における、A点(冷却温度=−40℃、冷却時間=3分)と、B点(冷却温度=−30℃、冷却時間=5分)と、C点(冷却温度=−20℃、冷却時間=10分)と、D点(冷却温度=−10℃、冷却時間=15分)と、E点(冷却温度=−7℃、冷却時間=30分)とをそれぞれ直線で結ぶ線の斜線側の領域となるように前記モールドを冷却し、
該モールドを変形させて、該モールドから該乳化混合物の硬化物を取り出すことを特徴とするガナッシュ類の製造法。 - 前記弾性素材が、シリコンゴム、天然ゴム、合成ゴム、フッ素系ゴムから選ばれる請求項1に記載のガナッシュ類の製造方法。
- 前記ガナッシュ類の水分含量が10〜25%である請求項1又は2に記載のガナッシュ類の製造方法。
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