JP4097047B2 - ピストンリング - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、初期なじみ性に優れた内燃機関用ピストンリングに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エンジンの高出力化、高回転化、長寿命化および排ガス規制の対応に伴って、ピストンリングの使用環境がますます苛酷になっているため、ピストンリングの外周摺動面には、非常に硬い窒化層や硬質Crめっき、あるいはPVD皮膜等が形成される例が多くなっている。これにより、ピストンリングの摩耗特性は格段に向上し、特にエンジンの長寿命化を実現している。
【0003】
しかしながら、窒化層や硬質Crめっき、あるいはPVD皮膜は、運転初期の状態では、初期なじみ性が悪く、初期の潤滑油消費量の悪化をもたらす。
【0004】
これに対して、Crめっきの最外周表面を毛羽状にしたり(特公昭33−5815号)、微小亀裂のあるCrめっきを施したり(特公昭51−46219号)、あるいは細かいチャンネル形ポーラスと粗いチャンネル形ポーラス又は粗いピンポイント形ポーラスが共存する層を表面に有するCrめっきを設ける(特開昭2−304266号)などが提案されている。
【0005】
一方、内燃機関のシリンダにおいて、内周面に被覆するCrめっきの硬度をHV700〜800とすることも提案されている(特開平8−20889号)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、最外周表面を毛羽状にしたものは摩滅が早すぎて効果が得られず、上記亀裂やポーラスを有するものは外周当たり面が狭い場合は欠けの問題があり、さらには亀裂やポーラスを起点としてピストンリングの疲労破壊を招く原因となる。
【0007】
また、シリンダの内周面に被覆する硬度HV700〜800のCrめっきは、めっき浴温度が61〜65℃であり、この温度で処理されたCrめっきは耐スカッフ性が低い欠点を有している。
【0008】
本発明の目的は、初期なじみ性、耐スカッフ性、さらには耐疲労性に優れたピストンリングを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、外周摺動面に耐摩耗層を形成し、その上にCrめっきを被覆した内燃機関用ピストンリングにおいて、
前記Crめっきが、めっき浴温度40℃以下でめっき処理されたソリッドCrめっきで、硬度がHV400〜750、厚さが2〜15μmの範囲にあることを特徴とする。
【0010】
ソリッドCrめっきの硬度がHV750を越えると初期なじみ性が低下し、HV400未満では摩耗速度が大きすぎるため、初期なじみの充分な時間が得られない。また、めっき硬度が上記範囲内にあっても、高いめっき浴温度でめっき処理されたものは耐スカッフ性が低下するため、めっき浴温度は40℃以下とする。
【0011】
上記Crめっきの厚さは、なじみ代として下限が2μm、上限は摩滅した際に合い口が必要以上に拡大するとブローバイの増加の原因となることから15μm以下とする。より好ましい範囲は5〜10μmである。
【0012】
前記耐摩耗層としてはHV900以上の硬度を有する窒化層やHV800以上の硬度を有するCrめっきが使用される。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図1(a)に基づいて説明する。
【0014】
ピストンリング1の全表面にHV900以上の硬度を有するガス窒化層2が形成されており、外周摺動面のガス窒化層2上にソリッドCrめっき3が被覆されている。ソリッドCrめっき3の硬度はHV400〜750、厚さは2〜15μmの範囲にある。
【0015】
ソリッドCrめっき3のCrめっき浴組成とめっき条件を下記に示す。
▲1▼めっき浴組成
CrO3 250g/l
2 SO4 1g/l
2 SiF6 5g/l
▲2▼めっき条件
電流密度 60A/dm2
めっき浴温度 20〜30℃
【0016】
図1(b)は本発明の別の実施形態を示す。
【0017】
本実施形態はピストンリング1の外周摺動面にHV800以上の硬度を有する硬質Crめっき4が形成されており、その硬質Crめっき4上にソリッドCrめっき3が被覆されている。ソリッドCrめっき3は上記実施形態で記載したものと同じである。
【0018】
以下、本発明の効果を確認する試験結果を説明する。
【0019】
往復動摩擦試験機を使用して摩耗試験とスカッフ試験を行った。
【0020】
1.摩耗試験
(1)往復動摩擦試験機
図2に往復動摩擦試験機の構成を示す。ピン状の上試験片10は固定ブロック11により保持され、上方から油圧シリンダ12により下向きの荷重が加えられて、下試験片13に押接される。矩形の平盤形状の下試験片13は可動ブロック14により保持され、クランク機構15により往復動させられる。16はロードセルである。
【0021】
(2)試験片
上試験片10:17Crマルテンサイト系ステンレス鋼からなる直径8mm×長さ25mmの丸棒の一端にR18mmの球面加工を施し、その球面上にガス窒化層(硬度HV1100)を形成し、そのガス窒化層上に表1に示すCrめっきを施した。
下試験片13:長さ70mm×幅17mm×高さ14mmの平板で材質は鋳鉄材(FC250)
【0022】
Figure 0004097047
比較例2〜4のチャンネル形ポーラスCrめっきは、めっき工程後、ソリッドCrめっきに逆電処理を施し、表面をポーラス化した。
【0023】
(3)試験条件
5kg×300cpm×60min
潤滑油:10W
【0024】
(4)試験結果
図3(a)に示す。図3(a)の試験結果から、比較例1の硬質Crめっきと、硬質Crめっきと同程度の硬度を有している比較例2のチャンネル形ポーラスCrめっきは、耐摩耗性が高すぎて初期なじみ性が劣ることがわかる。一方、実施例のソリッドCrめっきと同程度の硬度とした比較例3,4のチャンネル形ポーラスCrめっきは、摩耗速度が早すぎる。これらに対して、実施例のソリッドCrめっきと同程度の硬度を有している比較例5のソリッドCrめっきと実施例のソリッドCrめっきは、硬質Crめっきの2〜5倍の摩耗速度を有しており、初期なじみ性の点で良好な結果を示している。
【0025】
2.スカッフ試験
(1)往復動摩擦試験機
上記摩耗試験で説明したものと同じである。
【0026】
(2)試験片
上記摩耗試験で説明したものと同じである。
【0027】
(3)試験条件
速度:100cpm
荷重:初期2kgから2kg/minずつステップアップ
潤滑油:軽油相当粘度軸受油一塗り
【0028】
(4)試験結果
図3(b)に示す。図3(b)の試験結果から、比較例2〜4のチャンネル形ポーラスCrめっきおよび実施例のソリッドCrめっきは硬質Crめっき以上の耐スカッフ性を有していることがわかる。しかしながら、比較例5のソリッドCrめっき(めっき浴温度80℃)は耐スカッフ性が低いことがわかる。すなわち、実施例のソリッドCrめっきと同程度の硬度を有していても、めっき浴温度が高いと、耐スカッフ性は低下することがわかる。
【0029】
次に、実機試験を行った結果を説明する。
【0030】
(1)供試ピストンリング
比較例1:表面にガス窒化層(硬度HV1100)を形成し、外周摺動面のガス窒化層上に表1の比較例1に示す硬質Crめっきを被覆した。
比較例6:表面にガス窒化層(硬度HV1100)を形成した。
実施例1:表面にガス窒化層(硬度HV1100)を形成し、外周摺動面のガス窒化層上に表1の実施例1に示すソリッドCrめっきを被覆した。
【0031】
(2)試験条件
φ81mm直列4気筒ガソリンエンジンを使用し、6000rpm×全負荷の条件で、初期の潤滑油消費量試験を行った。
【0032】
(3)試験結果
図4に示す。図4の試験結果から、実施例のソリッドCrめっきは窒化層や硬質Crめっきよりも初期の潤滑油消費量が少なく、初期なじみ性が優れていることがわかる。
【0033】
次に、疲労試験を行った結果を説明する。
【0034】
(1)供試ピストンリング(径:φ81mm)
比較例3:表面にガス窒化層(硬度HV1100)を形成し、外周摺動面のガス窒化層上に表1の比較例3に示すチャンネル形ポーラスCrめっきを被覆した。
実施例1:表面にガス窒化層(硬度HV1100)を形成し、外周摺動面のガス窒化層上に表1の実施例1に示すソリッドCrめっきを被覆した。
【0035】
(2)試験条件
疲労試験機により、大気中でピストンリングの合い口の開閉を繰り返す。
振幅:3mm
速度:1800cpm
【0036】
(3)試験結果
図5に示す。図5の試験結果から、実施例のソリッドCrめっきは疲労強度が優れていることがわかる。
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように本発明のピストンリングによれば、耐摩耗性に優れ、かつ、初期なじみ性と耐スカッフ性が優れているとともに、耐疲労性も優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の一実施形態を示す縦断面図、(b)は本発明の別の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】往復動摩擦試験機の構成を示す図である。
【図3】(a)は摩耗試験結果を示すグラフ、(b)はスカッフ試験結果を示すグラフである。
【図4】実機試験結果を示すグラフである。
【図5】疲労試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 ピストンリング
2 ガス窒化層
3 ソリッドCrめっき
4 硬質Crめっき
10 上試験片
11 固定ブロック
12 油圧シリンダ
13 下試験片
14 可動ブロック
15 クランク機構
16 ロードセル

Claims (3)

  1. 外周摺動面に耐摩耗層を形成し、その上にCrめっきを被覆した内燃機関用ピストンリングにおいて、
    前記Crめっきが、めっき浴温度40℃以下でめっき処理されたソリッドCrめっきで、硬度がHV400〜750、厚さが2〜15μmの範囲にあることを特徴とする内燃機関用ピストンリング。
  2. 前記耐摩耗層が窒化層であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用ピストンリング。
  3. 前記耐摩耗層がHV800以上の硬度を有するCrめっきであることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用ピストンリング。
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