JPH0518316A - 内燃機関用のシリンダ - Google Patents

内燃機関用のシリンダ

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JPH0518316A
JPH0518316A JP17129291A JP17129291A JPH0518316A JP H0518316 A JPH0518316 A JP H0518316A JP 17129291 A JP17129291 A JP 17129291A JP 17129291 A JP17129291 A JP 17129291A JP H0518316 A JPH0518316 A JP H0518316A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】アルコ−ル系燃料を使用したとき、ピストンを
停止させた場合におけるシリンダボア2の摺動面の耐食
性を確保しつつ、相手材であるピストンリングの摩耗を
軽減できるシリンダを提供すること。 【構成】直列4気筒の内燃機関にかかる鉄系のシリンダ
ボア2の内壁面において上死点位置から下死点位置まで
の距離をLとすると、上死点位置から1/3L≦A≦5
/6Lの範囲内におけるAの部分のみの摺動面に耐食性
をもつ溶射層3を設けた。溶射層3は、厚み80〜20
0μm、表面粗さ1.6〜3.2μmRzで、クロム5
5〜70wt%、炭素1.8〜8.4wt%、残部鉄の
組成をもつ。なお、ピストンを停止させたとき、ピスト
ンは上死点と下死点との間のほぼ中央域で停止する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はアルコ−ル系燃料を使用
する際に好適する内燃機関用のシリンダに関する。この
シリンダは例えば直列4気筒タイプに適用できる。
【0002】
【従来の技術】内燃機関においては高回転・高圧縮化、
更に軽量化・燃費向上等が要請されている。従来、この
ような試みの一つとして特開昭60ー93162号公報
では、互いに摺動する摺動部材であって、摺動する第1
の部材の摺動面を硬質クロムメッキ面で形成し、摺動す
る第2の部材の摺動面を高炭素FeーCr合金のプラズ
マ溶射層で形成した摺動部材の組合せが開示されてい
る。
【0003】ところで、近年、ガソリン燃料事情の悪化
に伴い、ガソリン燃料代替燃料としてアルコ−ル系燃料
の使用が検討されている。しかしアルコ−ル系燃料を使
用した場合、シリンダボア内で酸例えばギ酸が生成され
易い。そのため内燃機関の停止の際に、ピストンが停止
している静的状態において、停止したピストンの外周面
と接触しているシリンダボアの内壁面部分が酸で腐食す
るという不具合がある。上記した様に硬質クロムメッキ
層を形成したり、溶射層を形成したりするだけでは、ア
ルコ−ル燃料を使用した場合において、ピストン停止位
置での静的な腐食の対策としては、必ずしも充分ではな
い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記した実情
に鑑みなされたものであり、その目的は、アルコ−ル系
燃料を使用した場合におけるシリンダボアの摺動面の耐
食性を確保しつつ、相手材であるピストンリングの摩耗
を軽減できるシリンダを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記目的のも
とにアルコ−ル系燃料を使用した際、内燃機関を停止さ
せてピストンを停止させた場合におけるシリンダボアの
腐食、ピストンリングの摩耗について鋭意研究を重ね
た。本発明者は、ピストン往復駆動時でのトップリング
の外周面の潤滑油の油膜分布と、ピストンリングの摩耗
について調べた。シリンダボア面における油膜分布を図
4の特性線hに示し、シリンダボアのそれぞれの位置に
対応する部分における相手材であるトップリングの外周
面の摩耗量の比をボア中央部を基準(つまり1)として
図4の特性線kに示した(文献Piston Fric
tion Force AndPistonRing
OiL Film Thickness,SAE845
067からピックアップしたもの)。ここで、図4の特
性線hに示す様に、シリンダボア面における潤滑油の油
膜はシリンダボア面の中央付近が最も厚く(一般的に5
μm程度)、上死点、下死点近傍になる程薄く、しかも
上死点近傍の油膜の方が下死点近傍の油膜に比較して薄
い。また、図4の特性線kに示す様に、トップリングの
外周面の摩耗比は、シリンダボア面の中央部が小さく上
死点近傍及び下死点近傍が大きく、しかも上死点付近の
摩耗比が下死点よりも大きい。従ってトップリングの外
周面の摩耗はボア面における油膜分布にほぼ対応してお
り、ボア面の中央域ではほとんど発生せず、上、下死点
近傍で発生し、殊に上死点近傍で発生するものである。
また、内燃機関、特に直列4気筒の内燃機関を停止させ
てピストンを停止させた場合において、バランスウェイ
トの関係でピストンは上死点と下死点との間のほぼ中央
域で必ず停止することが知られている。
【0006】本発明者は上記した様な点に着目し、シリ
ンダボア面における上死点位置から下死点位置までの距
離をLとしたとき、上死点位置から1/3L≦A≦5/
6Lの範囲内におけるAの部分のみの摺動面に耐食性を
もつ層を設ければ、アルコール系燃料使用時において、
ピストン停止状態の静的状態におけるシリンダボアの摺
動面の耐食性を確保でき、しかもこの場合には、潤滑油
の油膜の厚みが薄いためピストンリングを摩耗させがち
の上死点付近のシリンダボアにおいて耐食層は形成され
ていないので、相手材であるピストンリングの摩耗を効
果的に軽減できることを知見した。本発明はかかる知見
に基づき完成されたものである。
【0007】即ち、本発明にかかる内燃機関用のシリン
ダは、シリンダボア面における上死点位置から下死点位
置までの距離をLとすると、上死点位置から1/3L≦
A≦5/6Lの範囲内におけるAの部分のみの摺動面に
耐食性をもつ層を設けたことを特徴とするものである。
これによりピストン停止の際におけるシリンダボア面の
静的な腐食を防止するとともに、上、下死点近傍におけ
る殊に上死点近傍における相手材の摩耗を低減できる。
【0008】シリンダは鉄系、アルミ合金系で形成でき
る。耐食性をもつ層は、クロム、ニッケルを含むことが
好ましい。シリンダの母材の耐食性・耐摩耗性を考慮し
たものである。耐食性をもつ層は、通常、溶射層、メッ
キ層で形成できる。また、クロマイジングなどの浸透メ
ッキ層、あるいは、蒸着層やスパッタリングなどで構成
した気相メッキ層で形成することもできる。溶射層は合
金系溶射層、セラミックス系溶射層で形成できる。溶射
層は、シリンダが鉄系の場合、Cr:55〜70wt
%、C:1.8〜8.4wt%、不可避の不純物、残部
実質的に鉄からなるFeーCr系合金で形成できる。こ
の場合、Crが55wt%未満では、耐食剤としてのC
rが充分役割を果たさずボア面の腐食が発生することが
あり、Crが70wt%を越えると相手材攻撃性大とな
り、相手材の摩耗が大きくなる。またCが1.8wt%
未満では、溶射層の充分な硬度が得られず、耐摩耗性に
も欠け、Cが8.4wt%を越えると、相手材の摩耗が
大きくなり、溶射層の靱性も低下する。また、上記した
メッキ層は例えば硬質クロムメッキ層、ポーラスクロム
メッキ層、ニッケルメッキ層で形成できる。なお、層を
形成するに先立ち、清浄化、粗面化処理などの前処理を
ボア面に施すことができる。また、層を形成した後、ホ
ーニング加工などの後処理を施すことができる。
【0009】耐食性をもつ層の厚みは80〜200μm
が好ましい。厚さが80μm未満では層の寿命不足で早
期に母材の下地がでてしまう。また、200μmを越え
ると熱応力により層の密着性が悪くなるとともに、N
i、Cr等高価な元素を使用しているためコストが高く
なる。また、層の仕上げ加工時の寸法精度不良が生じ易
くなる。層の表面粗さについては、1.6〜3.2μm
Rzが好ましい。表面粗さが1.6μmRz未満では油
保持力が小さく、相手材と焼付きが発生し易い。表面粗
さが3.2μmRzを越えると、層自体の摩耗量が多
く、また、相手攻撃性も大きく、そのため相手材の摩耗
量が大きくなる。耐食性をもつ層の硬度は相手材にもよ
るが、一般的にHv400〜800にできる。
【0010】相手材は一般的にはピストンリングであ
り、窒化処理を施したステンレス鋼、鋼系で形成でき
る。この場合、窒化層の厚みは70〜150μmが好ま
しい。70μmでは寿命不足となり、相手材の母材の下
地が露出し易く、150μmを越えると、熱応力により
窒化層が剥離するおそれがある。
【0011】
【作用】内燃機関、特に直列4気筒の内燃機関では、内
燃機関を停止させてピストンを停止させたとき、バラン
スウェイトの関係でピストンは上死点と下死点との間の
ほぼ中央域で停止するものである。本発明では、耐食性
をもつ層は上死点位置から1/3L≦A≦5/6Lの範
囲内に設けられているので、上死点と下死点との間のほ
ぼ中央域で停止したピストンの外周面に対面するシリン
ダボア面部分は、耐食性をもつ層で被覆されている。そ
のため、アルコール系燃料使用時にてピストン停止状態
におけるシリンダボアの摺動面の耐食性は確保される。
しかも本発明では、ピストン往復駆動時において潤滑油
膜が薄くなりがちの上死点付近及び下死点付近のシリン
ダボアにおいては、相手材攻撃性をもつ耐食層は形成さ
れていないので、相手材であるピストンリングの摩耗は
軽減される。
【0012】
【実施例】以下本発明の実施例を具体的に説明する。ま
ず、図1に示すようなねずみ鋳鉄(JIS規格:FC2
5)製で大きさがボア径81mm、ストローク77mm
の直列4気筒タイプのシリンダブロック1を製造した。
次に図2(A)〜(D)に示す様に、そのシリンダボア
2の内周面において、シリンダボア2における上死点位
置(T.D.C)から下死点位置(B.D.C)までの
距離をLとすると、上死点位置から1/3L≦A≦5/
6LのAの部分のみに、切削バイトを用いたボーリング
加工を施し、最大深さ100μmの溝2aをシリンダボ
ア2の周方向に連続する様にリング状に形成した。この
溝2aのエッジ部の形状としては、その部分に均一の溶
射層を形成するために、45度のアンダーカットが形成
されている。その後に、溶射ガンを用い、溶射ガンをシ
リンダボア2内に配置し、マスキング処理無しで、溶射
層3を被覆した。この場合、低炭素FeーCr合金粉末
(Cr:56wt%、C:0.02wt%、Si:0.
8%、Fe:残部)を70wt%と、高炭素FeーCr
合金粉末(Cr:62wt%、C:8wt%、Si:
1.3%、Fe:残部)を30wt%混合したFeーC
r合金粉末(Cr:60wt%、C:2.2wt%、S
i:1wt%、Fe:残部)を用いて、その粉末をプラ
ズマ溶射し、厚さ150μmのFeーCr合金の溶射層
3Aを形成し、その後、溶射層3Aに荒ホーニング加
工、仕上ホーニング加工を施して、図2(D)に示す様
に溶射層3を形成した。ここで溶射層3は、厚さ80μ
m、溶射層硬さHV430、表面粗さ2μmRzであ
る。なお、溶射工程で使用した低炭素FeーCr合金粉
末の平均粒径は10〜75μmである。高炭素FeーC
r合金粉末の平均粒径は10〜63μmである。
【0013】(実機試験)次に上記した溶射層3を形成
したシリンダ1を用い、メタノール85%のアルコ−ル
燃料を使用して、実施例1のシリンダ1をカセットベン
チにセットし、台上腐食試験を行った。ここで、試験条
件は、エンジン回転数2000rpm、水温40℃で1
分間運転後、エンジンを停止して14日間放置し、その
時のシリンダボア2の内壁面における静的な腐食の発生
の有無を肉眼で検査した。なお、エンジンオイルは耐久
劣化油を用いた。
【0014】台上腐食試験の結果を表1に示す。表1に
示す様に実施例1では、シリンダボア2における腐食の
発生は見られず、良好な結果であった。また、比較例1
〜3として、表1に示すような範囲でシリンダボアに溶
射層を形成した同種のシリンダを製作した。なお、溶射
層の厚さ、表面粗さは実施例1と同様にそれぞれ80μ
m、2μmRzである。また比較例4として溶射層を形
成しないシリンダも製作した。
【0015】
【表1】 比較例1〜4についても同様に台上腐食試験を行った。
比較例1〜4の試験結果を同様に表1に示す。比較例1
は上死点側では実施例1と同様、シリンダボア面におけ
る腐食の発生は見られなかったが、下死点側では、耐食
性をもつ溶射層の形成範囲が小さいため、溶射層とシリ
ンダボア面との境界部で軽微な腐食の発生が見られた。
また、比較例2についても比較例1と同様にシリンダボ
ア面での腐食の発生が見られ、上死点側では境界部で軽
微な腐食が、また、下死点側では境界部より約5mmの
位置の溶射未処理部で腐食が発生した。溶射層が形成さ
れていない比較例4では、シリンダボア面の中央付近に
広範囲にわたって、ボアの母材が溶出する程度の大きな
腐食の発生が見られた。なお比較例3については腐食の
発生は見られなかった。上記した試験結果から、ボア面
において上死点位置から1/3L≦A≦5/6Lに溶射
層を形成した実施例1、上死点位置から1/6L≦A≦
5/6Lに溶射層を形成した比較例3は、アルコ−ル燃
料使用の際におけるピストン停止時の静的な腐食に対す
る抵抗性が高いことがわかる。
【0016】さらに、台上腐食試験で良好な結果が得ら
れた実施例1について、メタノール85%のアルコ−ル
燃料を使用してエンジン回転数6000rpm、300
時間の連続高速耐久試験を行った。なお、摺動の相手材
であるピストンリングはステンレス鋼(JIS規格:S
US440B)製であり、窒化温度450℃、窒化処理
時間50Hrでガス窒化処理を施した厚さ100μmの
窒化処理層をもつものである。
【0017】更に比較例5〜9についても同様に試験し
た。ここで比較例5は比較例3と同様に溶射層の処理範
囲は1/6L≦A≦5/6Lの範囲である。また、比較
例6〜9は、実施例1と同様に溶射層の処理範囲は1/
3L≦A≦5/6Lの範囲であり、但し、表2に示す様
に溶射層の厚さ、溶射層の表面粗さを変えたものであ
る。
【0018】
【表2】 この台上耐久試験の結果を溶射層摩耗量、ピストンリ
ング摩耗量として図5に示す。ここで、溶射層摩耗量は
表面粗さ計によって測定し、各4個の平均値であり、ピ
ストンリング摩耗量は表面粗さ計によって測定し各4個
の平均値である。図5に示す様に、実施例1は、比較例
5〜9に比べ溶射層自身の摩耗量も5μm程度と極めて
少なく、また、相手材であるピストンリングの摩耗量も
10μm程度と極めて少なく、従って相手材に対する攻
撃性も極めて小さく、良好なシリンダであることがわか
る。一方、溶射層が上死点位置から1/6L≦A≦5/
6Lの範囲で形成されている比較例5では、潤滑油膜が
薄くなり相手材攻撃性が増す上死点位置の近傍までシリ
ンダボアに溶射層が施されているため、上死点近傍部分
での相手材攻撃性が大きくなり、従って相手材であるピ
ストンリングの摩耗量が20μm近くと多くなってい
る。更に溶射層自身の摩耗量も大きい。また、溶射層の
表面粗さが5.0μmRzと大きい比較例7では、相手
材であるピストンリングの摩耗が多いだけでなく、シリ
ンダボア自身の摩耗も多くなっており、溶射層の表面粗
さ大による耐摩耗性への影響が顕著に見られる。また、
溶射層の厚みが50μmの比較例8では、溶射層の厚み
が薄いため、溶射層の耐久性、寿命が短くなっている。
また溶射層の厚みが250μmの比較例9では、比較例
8とは逆に溶射層の厚みが厚いため、耐久寿命について
は問題はないが、溶射層の密着力が著しく低下するた
め、シリンダボア面の母材との境界での溶射層の剥離が
一部見られた。
【0019】ところで、前述した様に図4の特性線hに
示す様に一般に、シリンダボア面における油膜の厚みは
上死点近傍の方が下死点近傍よりも薄い。溶射層が上死
点位置から1/3L≦A≦5/6Lの範囲で形成された
実施例1と、溶射層が上死点位置から1/6L≦A≦5
/6Lの範囲で形成された比較例5とで、相手材及び溶
射層の摩耗量に差が見られたのは、この油膜の影響が大
きいためであると推察される。
【0020】即ち、実施例1ではシリンダボア面の摺動
面において、油膜分布に対応した範囲、かつ、エンジン
停止時のピストン停止位置に対応した範囲に、溶射層に
より耐食処理を施しているため、ピストン停止時におけ
るボア面の静的な腐食を防止できるだけでなく、ボア面
自身の摩耗、更に、相手材であるピストンリングの摩耗
を抑制できる。しかし、比較例5では、潤滑油膜が薄く
なる上死点近傍にまで溶射層が形成されているため、相
手材攻撃性が高い。
【0021】次に溶射層の厚みと溶射層の耐久寿命との
関係を調べた。この場合、1600cc、直列4気筒の
内燃機関のシリンダボアを用い、窒化処理したピストン
リングを用い、メタノール85%のアルコール燃料で6
000rpmで実機耐久試験(300hr)を行った。
溶射層の耐久寿命性は溶射層の厚みが30μmに達する
までの時間で測定した。試験結果を図6に示す。図6の
特性線S1に示す様に溶射層の耐久寿命性を確保するに
は、溶射層の厚みは80μmは必要である。また同様な
実機耐久試験で溶射層の厚みと密着力との関係を調べ
た。密着力はせん断試験により測定した。試験結果を図
7に示す。図7の特性線S2に示す様に溶射層の厚みが
200μmを越えたあたりから、溶射層の密着力は低下
し、溶射層は剥離するおそれがある。そのため溶射層の
厚みを確保しつつ密着力4kg/mm2 以上を得るに
は、溶射層の厚みは80〜200μmRzが望ましい。
【0022】(モデル試験)次に溶射層の表面粗さと溶
射層の摩耗量との関係を調べた。この場合、往復摺動型
摩擦摩耗試験で行った。この往復摺動型摩擦摩耗試験
は、具体的には、相手材としてピストンリングの切断片
を用い、溶射層をもつ平板試験片を5Hzで往復移動さ
せつつピン試験片を押付力15kgfで押し付け、すべ
り距離50mmで20時間の摩耗試験を行った。なお潤
滑条件はディーゼル劣化油を油浴とした。試験結果を図
8の特性線T1に示す。図8の特性線T1に示す様に平
板試験片の溶射層の表面粗さが1.6〜3.2μmRz
のときに、溶射層の摩耗量は低減することが知見され
た。なお、溶射層の表面粗さが0.6μmRzのとき
に、焼き付きが発生した。油保持力が小さいためと推察
される。また溶射層の表面粗さと窒化材当り巾との関係
を調べた。この場合にも往復摺動型摩擦摩耗試験で行っ
た。試験結果を図8の特性線T2に示す。図8の特性線
T2に示す様に、溶射層の表面粗さが1.6μmRzよ
りも小さいと、溶射層をもつ平板試験片と窒化処理した
ピン試験片との間で焼付きが発生することが知見され
た。油保持力が小さいためと推察される。また溶射層の
表面粗さが3.2μmRzよりも大きいと、ピン試験片
の摩耗量つまり窒化材当り巾が増加することが知見され
た。そのため溶射層の表面粗さは1.6〜3.2μmR
zが望ましい。
【0023】
【発明の効果】本発明の内燃機関用のシリンダによれ
ば、耐食性をもつ層は上死点位置から1/3L≦A≦5
/6Lの範囲内におけるAの部分のみに設けられている
ので、上死点と下死点との間のほぼ中央域で停止したピ
ストンの外周面に対面するシリンダボア部分は、耐食性
をもつ層で被覆されている。そのため、アルコール系燃
料を使用した時においてピストン停止状態におけるシリ
ンダボアの摺動面の耐食性は確保される。しかも、シリ
ンダボア面にうち、ピストン往復駆動時に潤滑油の油膜
の厚みが薄く相手材攻撃性が高くなりがちの上死点付近
及び下死点付近においては、耐食層は形成されていない
ので、相手材であるピストンリングの摩耗は軽減され
る。特に潤滑油の油膜が薄い上死点付近においては、上
死点位置から1/3Lの範囲では、耐食層は形成されて
いないので、相手材の摩耗を効果的に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】シリンダの斜視図である。
【図2】シリンダボアに溶射層を形成する工程を示す図
である。
【図3】シリンダボアの模式的な断面図である。
【図4】トップリングの油膜厚さ、トップリングの外周
面摩耗比とシリンダボアの位置関係とを示すグラフであ
る。
【図5】溶射層摩耗量とピストンリング摩耗量を示すグ
ラフである。
【図6】溶射層厚みと溶射層の耐久寿命との関係を示す
グラフである。
【図7】溶射層厚みと溶射層の密着力との関係を示すグ
ラフである。
【図8】溶射層摩耗量、窒化材当り巾と溶射層の表面粗
さとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1はシリンダ、2はシリンダボア、3は溶射層を示す。

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】シリンダボア面における上死点位置から下
    死点位置までの距離をLとすると、上死点位置から1/
    3L≦A≦5/6Lの範囲内におけるAの部分のみの摺
    動面に耐食性をもつ層を設けたことを特徴とする内燃機
    関用のシリンダ。
  2. 【請求項2】耐食性をもつ層は、厚み80〜200μ
    m、表面粗さ1.6〜3.2μmRzで、少なくともク
    ロム、ニッケルを含む溶射層またはメッキ層であること
    を特徴とする請求項1項記載の内燃機関用のシリンダ。
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