JP4096352B2 - 磁性薄膜製造用素材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁性薄膜製造用素材の製造方法に関し、さらに詳しくは、蒸着法を用いて非磁性の支持体上に磁性薄膜を形成する際に用いられる磁性薄膜製造用素材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Co基合金は、保磁力、残留磁束密度等の磁気特性に優れた磁性材料であり、薄膜型磁気記録媒体の磁性薄膜として用いられている。Co基合金からなる磁性薄膜の製造方法としては、メッキ法、スパッタリング法、蒸着法等が知られている。これらの中でも、蒸着法は、他の方法に比して生産性が高く、成膜中に適宜酸素を加えたり、あるいは斜め方向から蒸着するいわゆる斜方蒸着を行うことによって保磁力の高い磁性薄膜が得られるという特徴がある。そのため、蒸着法を用いて支持体上にCo基合金からなる磁性薄膜を形成した薄膜型の磁気記録媒体は、オーディオマイクロテープ、高密度VTR等に実用化されている。
【0003】
蒸着法を用いた磁性薄膜の製造は、一般に、以下の手順により行われている。すなわち、まず、真空チャンバー内に非磁性の支持体とルツボを配置する。次いで、所定の真空度に達するまで真空チャンバー内を排気した後、ルツボ内にCo基合金等の磁性薄膜製造用素材を投入し、これを電子ビームで溶解させる。素材が溶解すると、ルツボから素材が蒸気となって蒸発し、この蒸気が支持体表面に被着して磁性薄膜となる。
【0004】
ところで、蒸着法を用いて磁性薄膜を形成する場合、蒸着が進行するに伴い、ルツボ内の素材が徐々に減少する。従って、連続的に供給される支持体上に磁性薄膜を形成し続けるためには、ルツボ内に素材を補給する必要がある。しかしながら、溶湯を保持するルツボ内に、固体の素材を無作為に補給すると、溶湯面の乱れ、溶湯内温度分布の不均一等、蒸着条件が不安定となり、磁性薄膜の品質が不安定となる。そのため、補給用の素材には、ルツボへの投入量の制御が容易な一定の形状を有していることが求められる。補給用の素材としては、一般に、棒材、ペレット等が用いられる。
【0005】
このような棒材、ペレット等は、一般に、所定の組成を有するCo基合金からなるインゴットを塑性加工によって長尺化し、これを所定の長さに切断することにより製造されている(例えば、特開平9−275012号公報、特開平6−306583号公報、特開平6−299277号公報等参照)。Co基合金は、冷間加工性に乏しいので、長尺化のための塑性加工は、一般に、熱間で行われている。
【0006】
また、熱間加工された長尺材の表面は、酸化スケールで覆われている。従って、熱間加工によってインゴットを長尺化した後、素材表面の酸化スケールを除去する必要がある。酸化スケールの除去は、従来、機械加工により行うのが一般的である。具体的には、棒材の場合にはセンタレスグラインダによる研磨が、また、線材の場合にはベルト研磨が行われている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
蒸着法を用いて磁性薄膜を形成する場合、ルツボに補給する素材の表面に不純物ガス成分、酸化スケール、油、汚れ等があると、素材を溶湯に投入した際に溶湯が突沸する、いわゆるスプラッシュが発生する。成膜中にスプラッシュが発生すると、飛散した溶湯によって支持体に穴があいたり、あるいは、支持体上の磁性層の欠落や成膜の不均一が生ずる。そのため、補給用の素材には、表面が清浄であることが求められる。熱間加工時に生成した酸化スケールもスプラッシュの原因物質であるので、これを素材表面から完全に除去する必要がある。
【0008】
しかしながら、熱間圧延により長尺化した素材の全面を機械加工し、表面に生成した酸化スケールを完全に除去するためには、長時間の機械加工を必要とする。また、長尺材を加工機械にセットするためのリードタイムも非常に長くなる。さらに、機械加工により酸化スケールと同時に地肌も削り取られるので、歩留まりも低下する。そのため、従来の方法では、生産能率が悪く、製造コストが高額となるという問題があった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、磁性薄膜製造用素材の生産能率及び歩留まりを向上させ、低コスト化を図ることが可能な磁性薄膜製造用素材の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係る磁性薄膜製造用素材の製造方法は、熱間圧延により、Co基合金からなる長尺材を製造する圧延工程と、硫酸を含む水溶液中に前記長尺材を浸漬する酸洗工程とを備えていることを要旨とするものである。
【0011】
熱間圧延されたCo基合金からなる長尺材を、硫酸を含む水溶液中に浸漬すると、長尺材の表面に形成された酸化スケールを溶解除去することができる。また、長尺材を単に水溶液中に浸漬するだけでよいので、リードタイムも大幅に短縮される。そのため、機械加工に比して、長尺材表面の酸化スケールを短時間で除去することができる。さらに、酸洗条件を適正に制御することによって、地肌の浸食も抑制される。そのため、生産能率及び歩留まりが向上し、製造コストを大幅に削減することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る磁性薄膜製造用素材の製造方法について図面を参照しながら詳細に説明する。図1に、本発明の一実施の形態に係る磁性薄膜製造用素材の製造方法の工程図を示す。
【0013】
図1のステップ1(以下、これを「S1」という。)において、まず、所定の組成を有するCo基合金が得られるように原料を配合する(原料配合工程)。Co基合金としては、具体的には、純Co、Co−Cr系合金、Co−Ni系合金等が好適な一例として挙げられる。
【0014】
Co基合金が純Coである場合又は出発原料として純Coを用いる場合、その純度は、99.6wt%以上が好ましい。純Coの純度が99.6wt%未満になると、本発明に係る製造方法により得られる素材を用いて磁性薄膜を成膜したときに、不純物元素によって磁性薄膜の磁気特性が低下するので好ましくない。純Coの純度は、さらに好ましくは、99.8wt%以上である。
【0015】
また、Co基合金中のS濃度は、低い程良い。これは、Co基合金中に多量のSが含まれていると、熱間加工性が低下し、熱間加工の際に長尺材に亀裂が発生する頻度が増大するためである。
【0016】
次に、S2において、配合された原料を真空誘導炉で溶解する(真空誘導炉溶解工程)。原料を真空中で溶解すると、原料に含まれる不純物ガス成分(O、N、H)が揮発除去される。また、原料表面に付着した油、汚れ等の異物が浮上し、分離除去される。所定時間溶解した後、溶湯を凝固させてインゴットを得る。
【0017】
さらに、S3において、このインゴットを熱間で分塊圧延し、所定の断面積及び断面形状を有するビレットを製造する(分塊圧延工程)。
【0018】
次に、S4において、得られたビレットの外周を切削加工し、形状を整えた後(ビレット手入工程)、S5において、このビレットを熱間で圧延し、所定の断面積及び断面形状を有する長尺材を製造する(圧延工程)。
【0019】
この場合、長尺材は、棒材であっても良く、あるいは線材(コイル状)であっても良い。後述する酸洗を効率よく行うためには、長尺材は、線材が好ましい。また、長尺材の断面積及び断面形状については、特に限定されるものではなく、本発明に係る方法により得られる素材の使用方法、要求特性等に応じて適宜選択することができる。後述するようにペレット状の素材を製造する場合には、長尺材は、直径10mm前後の円形断面とするのが好ましい。
【0020】
次に、S6において、得られた長尺材を、硫酸を含む水溶液に浸漬する(酸洗工程)。これにより、熱間圧延の際に長尺材の表面に生成した酸化スケールが除去される。
【0021】
ここで、酸洗に用いる水溶液には、少なくとも硫酸が含まれていればよい。また、水溶液中には、硫酸の他に、長尺材表面からの酸化スケールの脱落、酸化スケールの溶解促進等、酸化スケールの除去を促進させる他の成分が含まれていても良い。このような作用を有する他の成分としては、具体的には、過酸化水素、フッ酸、硝酸等が好適な一例として挙げられる。
【0022】
また、酸洗は、硫酸を含む1種類の水溶液のみを用いて行っても良いが、硫酸を含む水溶液の他に、スマットの除去、酸化スケールの易溶化、長尺材表面の不働態化等、酸化スケールの除去を補助する他の処理液を併用しても良い。他の処理液としては、具体的には、過マンガン酸カリウムを含む水溶液、塩酸、硝酸、弗硝酸、溶融塩等が好適な一例として挙げられる。
【0023】
さらに、酸洗条件(例えば、水溶液中に含まれる硫酸の濃度、水溶液の温度、浸漬時間、浸漬回数等)は、長尺材の組成、長尺材の表面に生成した酸化スケールの厚さ、酸洗を行う長尺材の総量等に応じて、最適な条件を選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0024】
酸洗工程としては、具体的には、熱間圧延された長尺材を、硫酸を含む第1水溶液に所定時間浸漬する第1工程と、第1工程終了後の長尺材を、過マンガン酸カリウムを含む第2水溶液に所定時間浸漬する第2工程と、第2工程終了後の長尺材を、硫酸を含む第3水溶液に所定時間浸漬する第3工程とを備えたものが好適な一例として挙げられる。
【0025】
第1工程は、硫酸を含む第1水溶液に熱間圧延された長尺材を浸漬することによって、長尺材表面に生成した酸化スケールの大部分を除去する工程である。この場合、第1水溶液に含まれる硫酸濃度は、75g/l以上150g/l以下が好ましい。硫酸の濃度が75g/l未満であると、酸化スケールの溶解速度が低下するので好ましくない。一方、硫酸の濃度が150g/lを超えると、地肌の溶解が進行するので好ましくない。第1溶液中の硫酸濃度は、さらに好ましくは、100g/l以上130g/l以下である。
【0026】
第2工程は、過マンガン酸カリウムを含む第2水溶液に第1工程終了後の長尺材を浸漬することによって、長尺材の表面に付着した酸素数の少ない酸化物(スマット)を、酸素数の多い酸化物(すなわち、酸に溶けやすい酸化物)に変換して除去する工程である。
【0027】
この場合、第2水溶液に含まれる過マンガン酸カリウムの濃度は、100g/l以上300g/l以下が好ましい。過マンガン酸カリウムの濃度が100g/l未満であると、スマットの除去速度が低下するので好ましくない。一方、過マンガン酸カリウムの濃度が300g/lを超えると、地肌を酸化させるので好ましくない。第2水溶液中の過マンガン酸カリウムの濃度は、さらに好ましくは、150g/l以上250g/l以下である。
【0028】
第3工程は、スマットの除去(デスマット)が行われた長尺材を、さらに硫酸を含む第3水溶液に浸漬し、長尺材表面に残留する酸化スケールを完全に除去する工程である。第3水溶液中の硫酸濃度は、第1水溶液と同様に、75g/l以上150g/l以下が好ましく、さらに好ましくは、100g/l以上130g/l以下である。
【0029】
なお、第1水溶液の濃度、長尺材の組成、長尺材の形状、酸化スケールの厚さ、酸洗条件等によっては、第1水溶液への浸漬のみによって長尺材表面の酸化スケールが完全に除去される場合がある。このような場合には、第1工程のみを行い、第2工程及び第3工程は省略しても良い。
【0030】
一方、例えば、長尺材がコイル状に巻き取られた線材である場合、これをそのまま第1水溶液に浸漬すると、線材同士が接触している部分には、第1水溶液の回り込みが不十分となり、酸化スケールが残留しやすくなる。このような場合には、硫酸を含む水溶液を用いた酸化スケールの溶解(第1工程、第3工程)と、過マンガン酸カリウムを含む水溶液を用いたスマットの除去(第2工程)とを所定回数繰り返すのが好ましい。
【0031】
また、第1〜第3水溶液の温度及び各水溶液への浸漬時間は、各水溶液の組成、酸化スケールの組成及び厚さ等に応じて最適な値を選択すればよい。一般に、水溶液の温度が高くなるほど、酸化スケール及びスマットの溶解速度は速くなるが、地肌との反応も激しくなるので、水溶液の温度に応じて浸漬時間を増減するのが好ましい。
【0032】
さらに、酸洗工程においては、長尺材表面の酸化スケール及びスマットを完全に除去するのが好ましい。しかしながら、後述するように酸洗後の長尺材に対して機械加工が行われる場合には、酸洗工程において、必ずしも酸化スケール及びスマットを完全に除去する必要はなく、短時間の機械加工によって除去可能な程度の少量の酸化スケール及び/又はスマットが長尺材表面に残留していても良い。
【0033】
次に、S7において、酸化スケールの大半が除去された長尺材に対して表面研磨を行う(表面研磨工程)。これにより、所定の表面粗さを有する長尺材が得られる。また、酸化スケール及び/又はスマットが残留している場合には、これらが完全に除去される。なお、酸洗工程において酸化スケール及びスマットが完全に除去されている場合には、表面研磨工程は、省略しても良い。
【0034】
次に、S8において、この長尺材を所定の長さに切断し(切断工程)、棒材、ペレット等の素材形状にする。次いで、S9において、切断された素材をバレル研磨(バレル研磨工程)し、さらにこれを洗浄する(S10、洗浄工程)。これにより、Co基合金からなり、かつ高清浄な表面肌を有する磁性薄膜製造用素材が得られる。
【0035】
次に、本実施の形態に係る製造方法の作用について説明する。熱間圧延後の長尺材の表面に生成した酸化スケールをセンタレスグラインダ、ベルト研磨等の機械加工により除去する場合、一般に、非常に長いリードタイムと長時間の加工が必要となる。特に、ベルト研磨の場合には、長尺材の送り速度に限界があるので、1回の研磨により酸化スケールを完全に除去できない場合がある。そのような場合には、ベルト研磨を数回繰り返す必要があり、極めて効率が悪い。
【0036】
これに対し、表面に酸化スケールが生成した長尺材を硫酸を含む水溶液に浸漬する方法によれば、比較的短時間の処理によって酸化スケールを完全に除去できる。また、水溶液の消耗やスマットの生成によって酸化スケールの除去速度が低下しても、硫酸水溶液による酸化スケールの溶解及び過マンガン酸カリウム水溶液によるスマットの除去を所定回数繰り返すことによって、酸化スケール及びスマットを完全に除去することができる。さらに、硫酸による長尺材表面の処理は、機械加工に比して、地肌のロスが少ない。
【0037】
そのため、本発明に係る製造方法によれば、Co基合金からなり、かつ高清浄な表面肌を有する磁性薄膜製造用素材を効率よく製造することができる。また、生産能率及び歩留まりが向上し、製造コストを大幅に削減することができる。
【0038】
【実施例】
(実施例1)
真空溶解した純度99.8wt%の純Coからなるインゴットを分塊圧延した後、熱間圧延を行い、直径10mmの線材を製造した。次に、この線材に対して酸洗を行った。
【0039】
酸洗は、硫酸水溶液による酸洗(工程A1、硫酸濃度:100g/l、温度:60℃、浸漬時間:8分)−水洗(工程B1)−硫酸(+過酸化水素)水溶液による酸洗(工程C1、硫酸濃度:100g/l、温度:20℃、浸漬時間:8分)−水洗(工程D1)−過マンガン酸カリウム水溶液によるデスマット(工程E1、過マンガン酸カリウム濃度:150g/l、温度:80℃、浸漬時間:8分)−硫酸水溶液による酸洗(工程F1、硫酸濃度:110g/l、温度:60℃、浸漬時間:2分)−水洗(工程G1)−NaOHによる中和(工程H1)、の順に行った。
【0040】
(実施例2)
実施例1で得られた線材に対して、実施例1とは異なる条件下で酸洗を行った。なお、酸洗は、硫酸(+過酸化水素)水溶液による酸洗工程(工程C1)及びその後の水洗工程(工程D1)を省略した以外は、実施例1と同一条件下で行った。
【0041】
(実施例3)
実施例1で得られた線材に対して、実施例1とは異なる条件下で酸洗を行った。なお、酸洗は、硫酸水溶液による酸洗(工程A3、硫酸濃度:110g/l、温度:70℃、浸漬時間:8分)−弗硫酸水溶液による酸洗(工程B3、硫酸濃度:120g/l、弗酸濃度:40g/l、温度:50℃、浸漬時間:5分)−水洗(工程C3)−NaOH+NaNO3溶融塩によるソルト処理(工程D3、温度:450℃、浸漬時間:5分)−塩酸水溶液による酸洗(工程E3、塩酸濃度:100g/l、温度:20℃、浸漬時間:2分)−弗硫酸水溶液による酸洗(工程F3、硫酸濃度:120g/l、弗酸濃度:45g/l、温度:50℃、浸漬時間:5分)−水洗(工程G3)−弗硝酸水溶液による酸洗(工程H3、硝酸濃度:200g/l、硫酸濃度:100g/l、温度:20℃、浸漬時間:3分)−硝酸水溶液による酸洗(工程I3、硝酸濃度:210g/l、温度:20℃、浸漬時間:1分)−水洗(工程J3)−NaOHによる中和(工程K3)、の順に行った。
【0042】
(実施例4)
実施例1で得られた線材に対して、実施例1とは異なる条件下で酸洗を行った。なお、酸洗は、NaOH+NaNO3溶融塩によるソルト処理工程(工程D3)を省略した以外は、実施例3と同一条件下で行った。
【0043】
実施例1〜4で得られた線材について、黒皮(酸化スケール)残り、肌荒れ、スマット残りの有無を評価した。表1に、その結果を示す。また、図2(a)〜(d)に、それぞれ実施例1〜4で得られた線材の表面拡大写真及び横断面写真を示す。また、図2(e)に、酸洗前の線材の表面拡大写真及び横断面写真を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
酸洗前の線材表面には、図2(e)に示すように、酸化スケールが形成されている。この酸化スケールは、図2(a)〜(d)に示すように、実施例1〜4のいずれの酸洗条件下でも、完全に除去することができた。また、実施例1及び実施例2の場合、表面にはスマットが若干残っていたが、肌荒れの少ない良好な酸洗肌が得られた。一方、実施例3及び4は、肌荒れが顕著であったが、表面にスマット残りは認められなかった。
【0046】
実施例1と実施例2とは、過酸化水素を含む硫酸水溶液による酸洗処理(工程C1)の有無が異なる。工程C1は、過酸化水素の分解によって酸素ガスを発生させ、この酸素ガスによる線材表面からの酸化スケールの脱落促進を意図したものである。しかしながら、本実施例の条件下では、明確な差はなく、硫酸処理のみで完全に酸化スケールを除去でき、しかも肌荒れの少ない良好な酸洗肌が得られることがわかった。
【0047】
一方、実施例3の硫酸・弗硫酸処理(工程A3、B3)は、酸化スケールの溶解促進を意図したものである。また、ソルト処理(工程D3)は、線材表面の難溶スケールの易溶融化を意図したものである。また、塩酸・弗硫酸処理(工程E3、F3)は可溶性スケールの除去を、弗硝酸処理(工程H3)は難溶性スケールの除去をそれぞれ意図したものである。さらに、硝酸処理(工程I3)は、線材表面の不働態化を意図したものである。
【0048】
実施例3及び実施例4は、ソルト処理の有無が異なるが、本実施例の条件下では、両者の明確な差は認められなかった。また、実施例3及び実施例4の条件下では、酸化スケールとスマットをほぼ完全に除去できるが、酸洗効果が強すぎるために、地肌が浸食され、肌荒れが生ずることがわかった。
【0049】
(実施例5〜7)
実施例2と同一の条件下で、線材の圧延及び酸洗を行った。次いで、得られた線材に対し、ベルト研磨を行った。なお、研磨条件は、送り速度:2m/分(実施例5)、6m/分(実施例6)又は10m/分(実施例7)の3水準、研磨回数:1回、最大回転数:408rpmとした。次に、得られた線材を長さ約26mmに切断した後、バレル研磨及び超音波洗浄を行い、ペレットを得た。
【0050】
(比較例1)
実施例1と同一の条件下で線材の圧延を行った。次いで、得られた線材に対し、酸洗を行うことなくベルト研磨を行った。研磨条件は、送り速度:2m/分、研磨回数:2回、最大回転数:408rpmとした。次に、実施例5〜7と同一条件下で、線材の切断、バレル研磨及び超音波洗浄を行い、ペレットを得た。
【0051】
(比較例2)
真空溶解した純度99.8wt%の純Coからなるインゴットを分塊圧延した後、熱間圧延を行い、直径10mmの棒材を製造した。得られた棒材に対して酸洗を行うことなく、センタレスグラインダによる研磨を行った。次に、実施例5〜7と同一条件下で、棒材の切断、バレル研磨及び超音波洗浄を行い、ペレットを得た。
【0052】
実施例5〜7及び比較例1で得られた線材(コイル)について、黒皮残り、肌荒れ、スマット残り及び表面光沢を評価した。また、得られた線材の表層を削り取り、表層に含まれる酸素量を測定した。表2に、その結果を示す。また、図3(a)〜(d)に、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1で得られた線材のベルト研磨後の表面拡大写真を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
酸洗を行うことなくベルト研磨のみを行う場合、送り速度を2m/分としても、1回のベルト研磨では、線材表面に形成された黒皮を完全に除去するのは困難であった。黒皮残り、肌荒れ及びスマット残りがなく、表面光沢が良好な清浄な表面を得るためには、比較例1のように、線材の送り速度を2m/分とし、かつ2回のベルト研磨が必要であった。
【0055】
これに対し、実施例5〜7の場合、酸洗工程で黒皮及びスマットがほぼ完全に除去されているので、1回のベルト研磨で、黒皮残り、肌荒れ及びスマット残りがなく、表面光沢の良好な清浄な表面を得ることができた。また、酸洗後に黒皮及びスマットが残留していたとしても、その量はごく僅かであるので、実施例7のように、送り速度を10m/分に上げても、比較例1と同等以上の外観研磨肌が得られた。
【0056】
また、表2より、比較例1に比して、実施例5〜7の方が、表層の酸素量が少ないことがわかる。これは、多量の酸化スケールが生成した線材に対して直接ベルト研磨を行うと、線材表面から削り取られた酸化スケールが、ベルト研磨の際に線材表面に押し込められるためと考えられる。従って、表層の酸素量を低減するためには、酸洗による酸化スケールの除去が効果的と考えられる。
【0057】
次に、実施例5〜7及び比較例1、2で得られたペレットについて、表面光沢の評価、並びに肌粗さRa及び残油量の測定を行った。表3に、その結果を示す。また、図4(a)〜(d)に、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1で得られたペレットの外観写真を示す。また、図5(a)〜(e)に、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1、2で得られたペレットの洗浄後の表面拡大写真を示す。また、図6(a)〜(d)に、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1で得られたペレットの洗浄肌表層のSEM写真(×30)を示す。さらに、図7(a)〜(d)に、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1で得られたペレットの洗浄肌表層のSEM写真(×300)を示す。
【0058】
【表3】
【0059】
センタレスグラインダにより酸化スケールを除去した比較例2の場合、ペレットの表面は比較的平滑であり、その肌粗さRaは0.72であった。しかしながら、比較例2の場合、ペレットの表面は、図5(e)に示すように、表面光沢に乏しく、鈍輝状態であった。
【0060】
一方、ベルト研磨のみを2回繰り返した比較例1の場合、良好な表面光沢が得られた。また、ペレットの表面は比較的平滑であり、その肌粗さRaは1.50であった。さらに、ペレット表面は高清浄であり、その残油量は、0.0018〜0.0023g/m2であった。
【0061】
これに対し、酸洗及びベルト研磨を行った実施例5〜7の場合、ペレットの肌粗さRaは、1.51〜1.65であり、比較例2に比して若干粗くなった。しかしながら、表面光沢及び残油量は、いずれも比較例1と同等であった。
【0062】
図8(a)〜(d)に、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1で得られたペレットのEDX結果を示す。図8(a)〜(d)より、実施例5〜7で得られたペレットには、不純物として微量の炭素及び酸素が含まれるが、その含有量は、比較例1で得られたペレットと同等であることがわかる。
【0063】
以上の結果から、本発明に係る方法により、磁性薄膜製造用素材として問題のない品質のペレットが得られることがわかった。また、酸洗により酸化スケールを除去することによって、ベルト研磨の負荷を大幅に低減することができ、磁性薄膜製造用素材の生産能率が向上することがわかった。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【0065】
例えば、上記実施例では、純Coからなるペレットの製造方法について主に説明したが、本発明に係る製造方法の適用範囲は、純Coに限定されるものではなく、種々の組成を有するCo基合金に対して適用可能である。また、線材及びペレットの製造に限らず、棒材の製造方法としても適用可能である。
【0066】
【発明の効果】
本発明に係る磁性薄膜製造用素材の製造方法は、熱間圧延されたCo基合金からなる長尺材の表面に形成された酸化スケールを酸洗によって除去するので、機械加工に比して、効率よく酸化スケールを除去できるという効果がある。また、酸洗条件を適正化することによって、地肌の浸食を抑制できるので、歩留まりが向上するという効果がある。さらに、酸洗条件を適正化することによって、機械加工を軽減又は不要化することができるので、生産能率が向上し、製造コストを大幅に削減できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る磁性薄膜製造用素材の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】 図2(a)〜(d)は、それぞれ、実施例1〜4で得られた酸洗後の線材の表面拡大写真及び横断面写真であり、図2(e)は、酸洗前の線材の表面拡大写真及び横断面写真である。
【図3】 図3(a)〜(d)は、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1で得られたベルト研磨後の線材の表面拡大写真である。
【図4】 図4(a)〜(d)は、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1で得られたペレットの外観写真である。
【図5】 図5(a)〜(e)は、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1、2で得られた洗浄後のペレットの表面拡大写真である。
【図6】 図6(a)〜(d)は、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1で得られた洗浄後のペレットの表面SEM写真(×30)である。
【図7】 図7(a)〜(d)は、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1で得られた洗浄後のペレットの表面SEM写真(×300)である。
【図8】 図8(a)〜(d)は、それぞれ、実施例5〜7及び比較例1で得られた洗浄後のペレットのEDX結果である。
Claims (4)
- 熱間圧延により、Co基合金からなる長尺材を製造する圧延工程と、
硫酸を含む水溶液中に前記長尺材を浸漬する酸洗工程とを備え、
前記Co基合金は、純度99.6wt%以上の純Coである磁性薄膜製造用素材の製造方法。 - 前記酸洗工程は、前記長尺材を75g/l以上150g/l以下の硫酸を含む第1水溶液に所定時間浸漬する第1工程と、
該第1工程終了後の前記長尺材を100g/l以上300g/l以下の過マンガン酸カリウムを含む第2水溶液に所定時間浸漬する第2工程と、
該第2工程終了後の前記長尺材を75g/l以上150g/l以下の硫酸を含む第3水溶液に所定時間浸漬する第3工程とを備えたものである請求項1に記載の磁性薄膜製造用素材の製造方法。 - 前記長尺材は、線材である請求項1又は2に記載の磁性薄膜製造用素材の製造方法。
- 前記長尺材をペレットに切断する切断工程をさらに備えた請求項1から3までのいずれかに記載の磁性薄膜製造用素材の製造方法。
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