JP3878024B2 - フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面性状に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼の製造方法は、熱間圧延後、再結晶組織にするために熱延板焼鈍が行われ、スケール除去のために酸洗が行われる。この際、ショットブラストなどのメカニカルデスケーリングの後、硫酸、塩酸、硝弗酸などの酸液に浸漬させる方法が一般的である。
【0003】
ステンレス鋼の重要な特性として表面光沢が挙げられ、この向上のために各製造工程で様々な方法が採用されている。表面光沢は特に冷間圧延で大幅に向上するために、冷間圧延前素材の表面性状制御は極めて重要である。例えば、熱延焼鈍板を酸洗した後に、ショットブラスト痕やスケール残りなどによる凹凸が大きければ、冷間圧延での表面平滑化は困難になる。よって、酸洗後の表面性状は極めて重要であり、メカニカルデスケール条件や酸洗条件によって表面平滑化を図る必要がある。
【0004】
前述したようにフェライト系ステンレス鋼の酸洗液には硫酸が使用される場合が多いが、この場合結晶粒界が侵食され、これが冷間圧延中に倒れ込み、網目状の欠陥やゴールドダスト疵と呼ばれる表面欠陥が生じる問題がある。硫酸酸洗時に発生する粒界侵食溝およびこれに起因した網目状欠陥やゴールドダスト疵による光沢不良は、フェライト系ステンレス鋼に特有である。ショットブラスト痕は、ショットブラスト投射密度の制御によって防止することは可能であるが、硫酸酸洗時の粒界侵食溝については、防止が困難であり、通板速度の低減や酸洗後に表面研削などの工程が必要であった。この粒界侵食溝により倒れ込み欠陥やゴールドダスト疵が発生すると表面光沢を劣化させるとともに、これらを起点として発銹するため耐食性をも劣化させる。硫酸酸洗時に粒界侵食が生じる原因は、硫酸液に溶解し易い元素(例えばPなど)が粒界に偏析しているためと考えられるが、硫酸で酸洗する場合にこれを効果的に防止する方法はこれまでなかった。
【0005】
一方、ゴールドダスト疵はショットブラスト痕の凹凸によっても生じる場合があり、特開平9−143768号公報においては、ショットブラストの投射エネルギー増加にともない、酸洗促進剤を酸洗槽に添加して酸洗能力を向上させ、ショットブラストの投射エネルギー増加による表面粗度の増大を防止すると共に、酸洗速度を大きくすることよって「キラキラ」と呼ばれる表面欠陥を増加することなく、酸洗速度を増加することが可能になることが開示されている。しかしながら、この方法は酸洗水溶液中に酸洗促進剤を添加しているものの、ショットブラストの投射密度を増加させたり、ライン通板速度を増加させているため、ショットブラストの当たりにばらつきが生じ、部分的に大きなショットブラスト痕が残留して鋼板表面粗さが不均一になったり、ショットブラスト痕よりも微小な欠陥である粒界侵食溝は防止できない問題点があった。これにより冷延製品において倒れ込み欠陥やゴールドダスト疵が生じることは防げないのが実状であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、既知技術の問題点を解決するために、硫酸酸水洗液に酸洗促進剤を添加し、フェライト系ステンレス鋼板全体の溶削量を増加させることで粒界と粒内の溶削量の差を抑え、酸洗板の粒界侵食溝を低減し、冷間圧延時に発生する倒れ込み欠陥およびゴールドダスト疵を解決することを目的とした。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明者らはフェライト系ステンレス鋼を硫酸酸洗する際に酸洗促進剤を添加し、かつ粒界侵食溝現出および冷延板表面の倒れ込み欠陥を抑制するための酸濃度、温度および酸洗時間、更には酸洗の予備デスケール処理として、ショットブラストと研削ブラシによるメカニカルデスケールおよび冷間圧延条件について詳細な研究を行った。
【0008】
本発明は、
(1) 熱間圧延後の酸洗時に酸洗促進剤を含有する硫酸水溶液中に100秒以上浸漬し、鋼板における長径/短径が2以上の倒れ込み欠陥面積率が0.1%以下であるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
(2)フェライト系ステンレス鋼熱延鋼板を酸洗する際、酸洗促進剤が体積%で0.01〜1.0%、硫酸濃度が200g/l以上400g/l以下、硫酸水溶液の温度が80℃以上100℃以下の硫酸水溶液に100秒以上600秒以下浸漬して酸洗し、続いて圧下率70%以上95%以下の冷間圧延を施すことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
(3)フェライト系ステンレス鋼の化学成分が、質量%にて、Cuが0.005%以上0.03%以下であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
(4)酸洗の前処理として、ショットブラストと研削ブラシによる予備デスケールを行なうことを特徴とする請求項(1)乃至(3)のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の限定理由について説明する。
【0010】
冷延板の倒れ込み欠陥を詳細に調査した結果、この倒れ込み欠陥の長径と短径の比が2以上ある欠陥が表面光沢を著しく阻害し、ゴールドダスト疵の起点になることが判明した。倒れ込み欠陥は、酸洗板の結晶粒界が冷延時に倒れ込んで発生するため、倒れ込んだ欠陥の長径は圧延方向の長さで、短径は幅方向の長さである。
【0011】
なお、倒れ込み欠陥面積率の測定方法は、ステンレス鋼板の表面を100倍の光学顕微鏡で、1平方ミリの表面積において、長径/短径が2以上の倒れ込み欠陥の総面積を1平方ミリで除して100倍したものを倒れ込み欠陥面積率とした。これを任意の箇所10箇所で測定し、平均値を採用した。
【0012】
図1に倒れ込み欠陥の面積率とゴールドダストランクの関係を示す。ここで、ゴールドダストランクとは、製品板の表面にビニールテープを貼り付け、剥がした時に表面がキラキラ光るかどうかを試し、A,Bランクであれば、表面品質上問題無く、C,Dランクであれば表面品質を損なう他、耐食性も劣化するレベルである。また、倒れ込み欠陥の長径/短径比毎に図中の記号を変えている。長径/短径比が1.5以下の□及び◇印については倒れ込み欠陥面積率が0.2%以下でゴールドダストランクがA又はBの良好な結果を示すが、長径/短径比が2以上の△及び○印については倒れ込み欠陥面積率が0.1%以下においてゴールドダストランクがA又はBの良好な結果となる。これより、倒れ込み欠陥の長径/短径が2以上である表面欠陥が0.1%以下であれば、ゴールドダストが発生せず、表面性状に優れていることがわかる。
【0013】
酸洗促進剤は、硫酸酸洗時に鋼と硫酸の溶解反応時に水素の発生を促進する作用があり、鋼の溶削が促進される。硫酸酸洗時の粒界侵食溝発生は、粒界と粒内の溶削差が原因であるが、鋼材全体の溶削が進むと特に粒内の溶削が進み、粒界侵食溝が生じなくなることを見出した。酸洗促進剤は、メルカプト酢酸のようなカルボキシル基と硫黄を有する有機化合物が効果的であり、硫酸液中で硫黄が分離し、酸洗時に鋼板表面に付着することで水素発生反応すなわち鋼の溶解を促進する。図2に酸洗促進剤濃度と酸洗板の粒界侵食溝発生の関係を示す。ここで、粒界侵食溝ランクとして、最も軽微なレベルをAとして以下最も激しいレベルEまで評点を付けた。ランクがAおよびBであれば、冷延板で倒れ込み欠陥やゴールドダスト疵が発生しないレベルである。これより、酸洗促進剤の濃度は体積%で0.01%の添加が必要である。また、多量の添加は、製造コストの増加やスラッジと呼ばれる金属溶解生成物が多量に発生して酸洗ラインの操業管理が困難になるため、1.0%以下とした。望ましくは、0.05〜0.25%が良い。
【0014】
硫酸液は、酸洗促進剤を添加しても低濃度、低温ではスケール残りが生じたり、粒界侵食溝が生じるため、濃度が200g/l以上、温度80℃以上が必要である。しかしながら、過度に高濃度、高温にすると、酸洗液コストが著しく増加する他、酸洗槽が劣化するため、濃度400g/l以下、温度100℃以下とした。望ましくは、濃度が250〜300g/l、温度85〜90℃がよい。
【0015】
図3に酸洗時間と酸洗板の粒界侵食溝発生の関係を示す。これより、酸洗時間は60秒以上が必要である。これは、短時間では酸洗促進剤を添加しても、酸洗初期に粒界侵食溝が現出するが、60秒以上の酸洗では粒内の溶削が進み、粒界との凹凸差が無くなるためである。しかしながら、過度な長時間浸漬は、酸洗能率の低下や表面肌荒れなどの品質トラブルをまねくため、600秒以下とした。望ましくは、100秒〜250秒の酸洗時間がよい。また、本酸洗条件によれば、母地が十分溶削されるため、ショットブラスト痕や研削ブラシ痕は残らず、スケール残りも当然生じない。なお、図2においては酸洗時間を100秒として実験を行った。
【0016】
従来は、硫酸酸洗時間としては30〜50秒程度の短時間酸洗が用いられていた。従来の、例えば特開平9−143768号公報に記載の方法において粒界侵食溝起因の欠陥が発生していた原因は、主に酸洗時間の不足によるものであることが判明した。
【0017】
冷延圧下率は、所定の板厚を得るために決められるが、倒れ込み欠陥はロールによる鋼板表面の平滑化に伴い押しつぶされていくため、圧下率の増加とともに消失する。このために必要な圧下率は70%以上である。しかしながら、過度な高圧下圧延は、圧延能力の低下につながるため、95%以下とした。望ましくは75〜85%の圧下率がよい。
【0018】
フェライト系ステンレス鋼には、所定の特性を得るためにCuが添加される場合があるが、無添加の場合でも微量(0.03〜0.05%程度)にCuが含有してしまう。主に、ステンレス鋼溶製の原料として用いるスクラップ中に含有する成分として混入する。この微量Cuは硫酸酸洗時の酸洗性を劣化させ、溶削量の低下が生じる。溶削量が少ない場合、粒界と粒内の溶削差が大きくなるため、粒界侵食溝が発生し易くなる。また、スケール残りも生じやすく、スケール疵が製品において発生し易くなる。更に、鋼中のCuは硫酸酸洗時に一旦溶け出すが、Cu酸化物となり鋼板表面に付着する。Cu量が0.03%超の場合、Cu酸化物が鋼板表面の色調を黒っぽくしてしまうため、酸洗板の表面品質に支障をきたす場合がある。よって、Cu量は0.03%以下に抑える必要がある。しかしながら、過度なCu量の低減は、精錬コストの増加につながるため、0.005%以上0.03%以下とした。更に、酸洗性や原料コストを考慮すると、望ましくは0.007〜0.015%が良い。ステンレス鋼中のCu含有量を0.03%以下とするためには、スクラップ原料の選択を注意すればよく、例えば脱酸剤として用いられる場合があるAlなどに含まれるCuを除外するために、純Alを選定するなどの工夫をすればよい。なお、図2、図3においてはステンレス鋼中のCu含有量を0.03%として実験を行った。
【0019】
本発明者らは、フェライト系ステンレス鋼のゴールドダストには、上記のような粒界侵食溝起因によるもののほか、ショットブラスト起因のゴールドダストが発生することを見いだした。熱延板および熱延・焼鈍板の酸洗には、一般的にメカニカルデスケールによる予備デスケール処理がなされる。最も一般的な方法がショットブラストによるものであるが、ショットブラストのみでは、ショットブラスト痕による表面品質劣化(ゴールドダスト)が生じる場合がある。そこで、本発明では、予備デスケール処理としてショットブラストに研削ブラシを加えた。研削ブラシとは、例えば、直径が1〜2mmのナイロンおよび2酸化珪素製ブラシを5〜10本結束した束を円盤上取り付け、これが回転することにより鋼板表面に均一にブラシが作用するものである。ショットブラストを施した後に、研削ブラシを施すことにより、ショットブラストによる凹凸の凸部が削られるため、ショットブラストの当たりが多少ばらついてもこれにより凹凸形状が均質化され、かつ凹凸高さの低減が図れる。よって、ショットブラスト後の研削ブラシ付与により、従来課題であったショットブラスト痕による表面品質劣化を防止するとともに、デスケール性も向上する。なお、図2〜図4においては、粒界侵食溝起因のゴールドダストの有無のみを調査する目的であるから、ショットブラストに研削ブラシを加えた予備デスケール処理を行っている。
【0020】
尚、本発明の効果は、硫酸酸洗後に硝酸や弗酸およびこれらの混酸などに浸漬する場合においても有効である。また、熱延板焼鈍を省略する場合においても有効であり、熱延板焼鈍は連続焼鈍でもバッチ焼鈍のいずれを選択しても良い。冷間圧延においては、圧下率のみを考慮すればよく、ロール径や圧延速度、圧延油種は適宜選択すれば良い。更に、表面仕上は2D、2B、BA製品など全ての表面仕上材に対して適用可能である。
【0021】
【実施例】
表1に化学成分を示すフェライト系ステンレス鋼SUS430を溶製、鋳造し、熱間圧延後に熱延板焼鈍を施し、ショットブラストを付与して硫酸酸洗を施した。この際、硫酸酸洗中に添加する酸洗促進剤としてはメルカプト酢酸を選択した。その後、0.5mm厚まで冷間圧延し、更に連続焼鈍、調質圧延を施して製品板とした。
【0022】
【表1】
【0023】
上記にようにして得られた0.5mm厚の製品板の表面性状を観察し、倒れ込み欠陥の発生を評価した結果を表1に示す。
【0024】
表1から明らかなように、本発明法で製造したNo.1〜9の鋼は、比較鋼に比べて倒れ込み欠陥が抑えられ、表面性状に優れていることがわかる。本発明例のNo.9においては、粒界侵食溝ランクおよび倒れ込み欠陥面積率は良好であり、粒界侵食溝起因のゴールドダストは防止できたが、予備デスケーリング処理として研削ブラシを使用していないので、ショットブラスト起因のゴールドダスト発生が見られる。
【0025】
比較例では、酸洗板の粒界腐食発生に起因した倒れ込み欠陥が発生したり、スケール残りやゴールドダスト疵が発生したりする。比較例No.10、11は、酸洗における硫酸水溶液条件が適正範囲から外れており、比較例No.12は酸洗時間が不足しており、いずれも粒界侵食溝ランク、倒れ込み欠陥面積率ともに不良であり、さらにスケール残りが発生した。比較例No.13〜15は酸洗促進剤を添加していないか酸洗促進剤条件が不適切であり、粒界侵食溝ランク、倒れ込み欠陥面積率ともに不良であり、さらにゴールドダストが発生している。比較例No.16は冷延圧下率が不足しており、倒れ込み欠陥面積率が不良である。比較例No.17、18はCuの含有量が適正範囲上限を外れており、さらにNo.18は酸洗促進剤無添加であり、いずれも粒界侵食溝ランク、倒れ込み欠陥面積率ともに不良であり、さらにゴールドダストが発生している。比較例No.19は、Cuが1.2%と高いため酸洗促進剤を添加しても溶解Cuの酸化物が鋼板表面に付着して鋼板表面を黒色化するとともに、表面荒れが生じることにより冷延後に倒れ込み欠陥が発生する。比較例No.20は、予備デスケーリング処理として研削ブラシを使用しておらず、さらに酸洗促進剤を使用していないので、粒界侵食溝ランク、倒れ込み欠陥面積率ともに不良であり、さらにスケール残りが発生するとともにショットブラスト起因ゴールドダストが発生した。
【0026】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば表面性状に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供することができる。すなわち、長径/短径が2以上の倒れ込み欠陥面積率を0.1%以下とすることによってゴールドダストが発生しない。また、フェライト系ステンレス鋼熱延鋼板を酸洗する際、酸洗促進剤を添加すると共に酸洗条件を適正化することにより粒界侵食溝やゴールドダストの発生を防止することができる。さらに、ステンレス鋼中のCu含有量を0.03%以下とすることにより、粒界侵食溝の発生を抑え、スケール残りを減少させることができる。さらに、酸洗前の予備デスケーリング処理としてショットブラストと共に研削ブラシを用いることにより、ショットブラスト起因のゴールドダスト発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】倒れ込み欠陥の面積率とゴールドダストランクの関係を示す図である。
【図2】酸洗促進剤濃度と酸洗板の粒界侵食溝発生の関係を示す図である。
【図3】酸洗時間と酸洗板の粒界侵食溝発生の関係を示す図である。
Claims (4)
- 熱間圧延後の酸洗時に酸洗促進剤を含有する硫酸水溶液中に100秒以上浸漬し、鋼板における長径/短径が2以上の倒れ込み欠陥面積率が0.1%以下であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- フェライト系ステンレス鋼熱延鋼板を酸洗する際、酸洗促進剤が体積%で0.01〜1.0%、硫酸濃度が200g/l以上400g/l以下、硫酸水溶液の温度が80℃以上100℃以下の硫酸水溶液に100秒以上600秒以下浸漬して酸洗し、続いて圧下率70%以上95%以下の冷間圧延を施すことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- フェライト系ステンレス鋼の化学成分が、質量%にて、Cuが0.005%以上0.03%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- 酸洗の前処理として、ショットブラストと研削ブラシによる予備デスケールを行なうことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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