JP3915235B2 - 表面に模様のないオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法 - Google Patents

表面に模様のないオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法に係り、とくに表面に模様のないオーステナイト系ステンレス鋼熱延板の製造方法に関し、さらに詳しくは熱延板の酸洗方法の改善に関する。
【0002】
【従来の技術】
SUS 304 鋼を代表とするオーステナイト系ステンレス鋼は、耐熱性、耐食性、加工性等の特性に優れ、幅広い用途に用いられている。通常、熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上げ焼鈍、酸洗を順次施され、所定の材質の製品とされる。
【0003】
熱延板の表面には、スラブ鋳込み時および熱間圧延時に生成される熱延スケールが存在し、その表面は不均一である。このような熱延板を最も一般的な焼鈍雰囲気である燃焼雰囲気中で焼鈍を行い、ついで酸洗を行うと、同一鋼板内でも光沢度や白色度のムラが生じ、模様となる。このような模様は、屋根やパネル等に使われる鋼板においては、その意匠性が問題となる。
【0004】
また、近年オーステナイト系ステンレス鋼の分野においても、生産性を高め、より低コストで製造を行うために、冷間圧延として大径ロールによるタンデム圧延を適用するようになってきた。しかしながら、大径ロールによる冷間圧延では、従来の小径ロールによる冷間圧延に比べて、光沢ムラが激しくなるという問題がある。
【0005】
このような光沢ムラは、これまでのところ、熱延板に生成した表面欠陥が、場所によって冷間圧延後も消滅せずに残ったためであると考えられている。その表面欠陥としては、粒界浸食溝、粒内のピッチ状の浸食、熱間圧延時の噛み込み疵などがあげられる。特に、オーステナイト系ステンレス鋼の熱延板では、酸洗での地鉄の溶解量がフェライト系ステンレス鋼に比べて少ないため、このような表面欠陥が残りやすい。
【0006】
このような表面欠陥をなくすために、例えば、特開昭60−248889号公報には、オーステナイト系ステンレス鋼の熱延板に酸溶解力を強化した硝弗酸水溶液で脱スケールすることにより、溝状腐食がなく、かつエッチピットのない全面腐食状態とし、ついで冷間圧延、光輝焼鈍するオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法が提案されている。
【0007】
また、特開平8-269549号公報には、鋼板全体の光沢性をあげることを目的として、焼鈍前にメカニカルなデスケーリングを行うことにより粒界浸食溝を減少させようとする方法が開示されている。
また、特開昭60−177135号公報には、熱延されたままのステンレス鋼を不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気あるいは真空中で、短時間の焼鈍をした後急冷する熱延焼鈍ステンレス鋼の製造方法が提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
近年スクラップの有効利用を目的として、溶鋼中にスクラップを積極的に添加するようになっている。このため、Cu、V、Mo等の不純物元素の含有量がオーステナイト系ステンレス鋼でも多くなってきている。
このような不純物を含むSUS 304 鋼では、図3に示すように、鋼A→B→CとCu、V、Mo等の不純物濃度の増加とともに、酸洗による溶解量が減少している。この理由は必ずしも明らかではないが、表面の不動態化、反応電位、表面付近の窒化物等の影響により酸洗性が劣化したためではないかと考えられる。したがって、溝状腐食、エッチピットが消滅するまで表面を溶解するためには多大な時間がかかり、特開昭60−248889号公報に記載された方法を適用すると、熱延板の生産性が著しく低下するという問題が残されていた。
【0009】
また、特開平8-269549号公報に記載された方法では、熱延時のスケールが不均一の場合には、メカニカルな脱スケールを均一に行うことは難しく、さらに下地組織の不均一性を解消することはできない。この方法では、鋼板全体の光沢度は良くなるが、光沢ムラは解消されないという問題が残されていた。
また、特開昭60−177135号公報に記載された方法では、焼鈍時の粒界浸食の発生は抑制されるが、熱延スケールの不均一性を改善することはできず、鋼板表面に模様の発生は避けられなかった。
【0010】
本発明の主たる目的は、熱延板表面の模様発生を防止し、大径ロールを用いる冷間圧延を施し冷延板としても、鋼板表面の光沢度ムラのない表面性状の良好なステンレス鋼熱延板を効率よく製造することにあり、本発明は、酸洗条件を改善し、オーステナイト系ステンレス鋼熱延板の、生産性を下げることなしに、鋼板表面の光沢度が均一になり模様のないオーステナイト系ステンレス鋼熱延板の製造方法を提案することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
さて、本発明者らは、上記した課題を達成するため、オーステナイト系ステンレス鋼板に形成されるスケールについて様々な研究を行った。その結果、熱間圧延後に表面に生成するスケールは主にコランダム型酸化物((Fe,Cr)2O3)とスピネル型酸化物((Fe,Cr)3O4)であり、その厚みは部分によって異なることがわかった。また、局部的にFeO が多量に存在するところも確認されている。これらのスケールの厚みやスケール中の上記した酸化物の比率によって、熱間圧延後の焼鈍による酸化反応の形態が異なり、これが熱延板焼鈍後、熱延板酸洗後に発生する鋼板表面の光沢度のムラを生じさせ、熱延板の模様発生の原因の一つとなっていることを発見した。
【0012】
また、製鋼時スクラップの投入により、CuやV、Mo等の不純物量が増加し、さらに熱延スケールのむらにより熱間圧延時の母材組織の不均一も生じる。このようなことにより、巻取り時や焼鈍時の酸化の形態が異なり、その結果、熱延板酸洗後に光沢度ムラが発生し、熱延板に模様を生じさせていることを発見した。
上記した知見をもとに、本発明者らは、熱延板の模様をなくすためには、熱間圧延後の表面酸化物をどれか1種類の酸化物を主体とする、あるいは熱延板焼鈍酸洗時に表面組織を多量に溶解させることが効果的であることに想到した。
【0013】
しかし、熱間圧延後の表面酸化物をどれか1種類の酸化物とする鋼板表面酸化物の制御は熱間圧延条件を調整する必要があり、熱間圧延の生産性を阻害する場合がある。そこで、本発明者らは、熱延板焼鈍酸洗時に表面組織を多量に溶解させる方法をさらに検討した。
そこで、熱延板焼鈍酸洗後の表層部のCr濃度と表面組織を観察した。
【0014】
熱延板の表層付近は、Cr濃度が低い組織が多量に観察され、表面から深くなるにしたがい、Cr濃度が高くなり殆どオーステナイトの組織となる。本発明者らは、種々の実験の結果、熱延板の模様を無くすためには、表面のスケールおよび表層の不均一組織の除去はもちろん、高Cr濃度の殆どオーステナイトの組織を含み地鉄相当部分を少なくとも5μm 以上溶解する必要があることを見いだした。しかし、この組織は、通常の酸洗条件(例えば、硫酸200g/l、温度80℃、あるいは硝酸100g/l+弗酸30g/l 、温度50℃)では、長時間の浸漬を行っても殆ど溶解しない。
【0015】
そこで、本発明者らは、Cu、V、Mo等の不純物元素を含むオーステナイトステンレス鋼熱延板の模様発生を防止するために、鋼板表層の不均一組織および地鉄相当部分を短時間で、しかも均一に溶解する熱延板の酸洗方法を検討した。その結果、硝酸濃度を低くし、金属イオンと錯体を形成していない弗酸(以下、フリー弗酸と記す)を高くして酸洗を行うのが有効であることに思い至った。
【0016】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討して完成されたものである
【0017】
すなわち、本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼熱延板に焼鈍を施した後酸洗を施すオーステナイト系ステンレス鋼熱延板の製造方法において、前記酸洗として、硫酸、塩酸、または硝弗酸中で酸洗する工程と、ついで表面を機械的に研削する工程と、硝弗酸溶液中の金属イオン濃度:C(g/l )が0≦C≦25のときは、硝酸濃度:A(g/l )およびフリー弗酸濃度:B(g/l )がそれぞれ次(1)、(2)式
20+1.10×C≦A≦100 ……(1)
100+0.05×C2 ≦B≦ 300+0.05×C2 ……(2)
(ここで、A:硝酸濃度(g/l )、B:フリー弗酸濃度(g/l )、C:硝弗酸溶液中の金属イオン濃度(g/l ))を満足する硝弗酸溶液中に浸漬する工程を、25<Cのときはそれぞれ次(3)式、(4)式
20+0.75×C≦A≦ 100 ……(3)
132≦B≦ 300 ……(4)
(ここで、A:硝酸濃度(g/l )、B:フリー弗酸濃度(g/l )、C:硝弗酸溶液中の金属イオン濃度(g/l ))を、満足する硝弗酸溶液中に浸漬する工程を、順次施すことを特徴とする鋼板表面に模様のないオーステナイト系ステンレス鋼熱延板の製造方法であり、前記オーステナイト系ステンレス鋼熱延板はCu:0.03wt%以上、V:0.03wt%以上、Mo:0.01wt%以上含むオーステナイト系ステンレス鋼熱延板としてもよい。
【0018】
また、本発明では、前記硝弗酸溶液中に浸漬する工程において、鋼板表面に沿い対向流を付与するのが好ましく、前記対向流は、鋼板表面に沿い鋼板進行向きと反対向きで、鋼板との相対速度が 0.5〜 5.0 m/secの範囲の速度を有する対向流とするのがよい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明で対象とするオーステナイト系ステンレス鋼熱延板の化学組成は、通常公知のオーステナイト系ステンレス鋼がすべて含まれるが、代表的化学組成としては、C:0.08wt%以下、Si:1.00wt%以下、Mn:2.00wt%以下、Ni:7.00〜 15.00wt%、Cr:10.00 〜 30.00wt%、さらにN:0.25wt%以下を含む。なお、不純物としてCu:0.03wt%以上、V:0.03wt%以上、Mo:0.01wt%以上を含むオーステナイト系ステンレス鋼も対象とする。
【0020】
本発明では、焼鈍を施したオーステナイト系ステンレス鋼熱延焼鈍板に、まず、硫酸、塩酸、または硝弗酸中で酸洗する工程と、ついで表面を機械的に研削する工程とを順次施す。
硫酸、塩酸、または硝弗酸中で行う酸洗は、硫酸、塩酸、硝弗酸いずれを用いても良いが、好ましくは、硫酸もしくは硝弗酸がよい。酸洗の濃度、温度等は設備に合わせて決めればよい。
【0021】
熱延焼鈍板は、硫酸、塩酸、または硝弗酸中で酸洗する工程を経たのち、ついで表面をブラシ等による機械的研削を施される。酸洗前にスケールのついた状態でブラシ等による機械的研削を行っても、表層のCr濃度の低い脱Cr層の部分しか除去されず、模様の原因となる地鉄相当部分は殆ど研削されない。また、スケールの上から研削をしたのでは、表面が均一に研削されにくく、かえって模様の原因となる場合がある。そこで、本発明では、酸を用いて、ある程度、表面のスケールおよび脱Cr層を除去した後に機械的研削を行う。機械的研削量は 2.0μm 以上とするのが好ましい。機械的研削は、ブラシ以外に、高圧水、砥石等を用いてもよい。
【0022】
酸洗、機械的研削の工程を経たのち、熱延板は仕上げ酸洗として、金属イオン濃度に応じた濃度の硝弗酸溶液中に浸漬され、脱スケールされる。
本発明では、使用する硝弗酸溶液中の硝酸濃度:A(g/l )、フリー弗酸濃度:B(g/l )は、硝弗酸溶液中の金属イオン濃度:C(g/l )に応じ変化させる。
【0023】
これは、本発明者らが硝酸、フリー弗酸、金属イオンの酸洗性に及ぼす影響を検討し、金属イオンの増加量と硝酸濃度、フリー弗酸濃度との間に特定の関係式が成り立つことを見出したことによる。
図2に、温度50℃の硝弗酸溶液(硝酸50g/l 、弗酸150g/l)中でのSUS 304 の酸洗減量(浸漬時間:100sec)と溶液中の金属イオンとの関係の一例を示す。
【0024】
酸洗が進み金属イオン濃度が増えると、同一の硝酸濃度、フリー弗酸濃度でも酸洗溶解力は劣るようになり、金属イオン25g/l で飽和している。したがって、酸洗溶解力を安定して維持するためには、金属イオンの濃度に応じた酸の限定が必要であることがわかる。
このことから、本発明では、金属イオン濃度C(g/l )が25g/l 超えの場合と25g/l 以下の場合で硝弗酸溶液中の硝酸濃度A(g/l )、フリー弗酸濃度B(g/l )を変更する。
【0025】
浸漬する硝弗酸溶液中の硝酸濃度:A(g/l )、フリー弗酸濃度:B(g/l )は、硝弗酸溶液中の金属イオン濃度:C(g/l )が
▲1▼0≦C≦25のときは、それぞれ(1)、(2)式
20+1.10×C≦A≦100 ……(1)
100+0.05×C2 ≦B≦ 300+0.05×C2 ……(2)
を満足する濃度とし、
▲2▼25<Cのときはそれぞれ(3)式、(4)式
20+0.75×C≦A≦ 100 ……(3)
132≦B≦ 300 ……(4)
を、満足する濃度とする。なお、フリー弗酸濃度とは、金属イオンと錯体を形成していない弗酸濃度であり、特開平7−294509号公報に開示されたような鉄アセチルアセトン錯体退色吸光光度法により測定できる。
【0026】
熱延板の表層付近の比較的低Cr濃度部は硝酸、弗酸両方とも高いほど溶解量は増すが、それより深い地鉄相当部分や、研削後の表面組織は、硝酸が高くなると著しく溶解速度が低減する。また硝酸が低すぎても水素イオンが少なくなり、また、酸化力がなくなるため、Fe2+等を酸化した逆付着しにくいFe3+に変えにくくなるので溶解量は減少する。このようなことから、本発明では、硝弗酸溶液中の硝酸濃度:A(g/l )は、溶液中の金属イオン濃度に応じ、(1)式または(3)式に限定するのが好ましい。硝弗酸溶液中の硝酸濃度:A(g/l )が(1)式または(3)式の範囲を外れると酸洗溶解力が低下する。
【0027】
また、フリー弗酸濃度は低すぎると、反応面積が少なく、地鉄相当部分は殆ど溶解しない。逆に高すぎると、イオンの拡散、水素イオンの解離が妨げられ、かえって溶解量は低下する。このようなことから、本発明では、硝弗酸溶液中のフリー弗酸濃度:B(g/l )は、溶液中の金属イオン濃度に応じ、(2)式または(4)式に限定するのが好ましい。硝弗酸溶液中のフリー弗酸濃度:B(g/l )が(2)式または(4)式の範囲を外れると酸洗溶解力が低下する。
【0028】
なお、本発明範囲の濃度(硝酸50g/l 、弗酸200g/l、金属イオン0g/l)を有し、温度50℃の硝弗酸溶液中で、Cu、V、Moの不純物を含むSUS 304 鋼板を酸洗した場合の酸洗溶解量を調査し図1に示す。本発明範囲の濃度の硝弗酸溶液で酸洗すれば、酸洗性を悪化させるCu、V、Moの不純物元素をCu:0.03wt%以上、V:0.03wt%以上、Mo:0.01wt%以上を含んでも酸洗の溶解速度は減少しないことがわかる。
【0029】
また、本発明では、前記硝弗酸溶液中に浸漬する工程において、鋼板表面に沿い対向流を付与するのが好ましい。対向流は、鋼板表面に沿い鋼板進行向きと反対向きで、鋼板との相対速度が 0.5〜 5.0 m/secの範囲の速度を有する対向流とするのがよい。
本発明者らの検討によれば、硝弗酸溶液中における高Cr濃度の地鉄相当部分の溶解反応は、フッ素イオンの拡散、水素イオンの拡散およびFe2+の地鉄表面からの拡散により律速されていることが判っている。つまり、フッ素イオンは高Cr濃度の地鉄相当部分をアッタクし溶解面積を増大させ、水素イオンは地鉄との電荷移動反応を促し、Fe2+の拡散は表面へのFe2+の再付着を防ぎ溶解面積を増大させ、高Cr濃度の地鉄相当部分の溶解反応を促進させるのである。
【0030】
そこで本発明では、この拡散反応を助長するため、対向流による表面付近の硝弗酸溶液の攪拌を行う。対向流の発生方法は、とくに限定されないが、浸漬した鋼板を連続的に走行させるか、あるいは硝弗酸溶液を鋼板に吹きつける等の方法が好ましい。対向流は、鋼板表面に沿い、好ましくは鋼板進行の向きと反対向きとする。対向流の相対速度は、 0.5〜 5.0 m/secの範囲とした。相対速度が0.5m/sec以上で効果が認められ、5.0m/sec以上で飽和する。なお、あまり強い対向流は設備的な負荷が大きいため、対向流の鋼板との相対速度を0.5 〜 5.0 m/secの範囲とするのが好ましい。
【0031】
また、本発明において、熱延板の焼鈍温度や時間、板厚等を特に限定するものではなく、用途によって決めればよい。また、硝弗酸溶液の温度に関しては特に限定はしなかったが、低すぎると溶解反応が進まず、高すぎるとNOx 等のガスの発生が激しくなるので、好ましくは55℃〜70℃とする。また熱延板の酸洗前のショットやベンディング等の脱スケール処理も施しても何ら影響はなく、これらの前処理については特に限定はしない。
【0032】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す化学組成のオーステナイト系ステンレス鋼を実験室的に溶製し、スラブ加熱温度1250℃で1hr保持したのち、熱間圧延を行って板厚4.0mm の熱延板とした。その後、熱延板焼鈍(1150℃×30sec )とショットブラスト処理を行い、ついで硫酸(濃度200g/l、80℃)に60sec 間浸漬したのち、ブラシによる研削処理を行った。ついで、上記した処理を施された鋼板は、表2に示す各種濃度の硝弗酸溶液中に浸漬する仕上げ酸洗処理を施された後、3%の調質圧延を施された。なお、従来例として、温度60℃の硝弗酸溶液(硝酸100g/l、弗酸30g/l )中で浸漬する酸洗を行った。
【0033】
得られた鋼板について、光沢度ムラを調査した。光沢度はJIS Z 8741の規定に準拠して測定した。各鋼板から採取したサンプル板10枚から白部と黒部を各10箇所測定し、その光沢度の差を鋼板の模様として評価した。その結果を表2に示す。
表2から、本発明例は従来例に比べ、短時間の酸洗で模様が解消され、良好な外観を有する表面状況の優れた鋼板となることがわかる。酸濃度が本発明範囲内から外れた比較例では、模様は解消されないか、模様は解消されても酸洗に多大な時間がかかることがわかる。
【0034】
【表1】
Figure 0003915235
【0035】
【表2】
Figure 0003915235
【0036】
〔実施例2〕
表3に示す化学組成のオーステナイト系ステンレス鋼を実験室的に溶製し、スラブ加熱温度1250℃で1hr間保持したのち、熱間圧延を行って板厚4.0mm の熱延板とした。その後、熱延板焼鈍(1150℃×30sec )とショットブラスト処理を行い、さらに硝弗酸(硝酸100g/l, 弗酸30g/l 、55℃)溶液中に30sec 浸漬した後、研削ブラシを用いて、表面を平均で4.0 μm 研削した。さらに、これら鋼板を、表4に示す各種濃度の硝弗酸溶液中で、表4に示す鋼板に対する相対速度を有する対向流を付与して酸洗をした後、3%の調質圧延を行った。
【0037】
得られた鋼板について、光沢度のムラを調査した。光沢度はJIS Z 8741の規定に準拠して測定した。各鋼板から採取したサンプル板10枚から白部と黒部を各10箇所測定し、その光沢度の差を鋼板の模様として評価した。その結果を表4に示す。
表4から、本発明例は、従来例に比べ、さらに短時間の酸洗でも模様が解消されることがわかる。
【0038】
【表3】
Figure 0003915235
【0039】
【表4】
Figure 0003915235
【0040】
上記したように、本発明によれば、Cu:0.03%以上、V:0.03%以上、Mo:0.01%以上の不純物を含むオーステナイト系ステンレス鋼の熱延板でも、短時間の酸洗によっても模様、光沢ムラのない、優れた表面状況とすることができる。
【0041】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、従来では酸洗性を阻害するCu、V、Moを含むオーステナイト系ステンレス鋼の熱延板でも、焼鈍後の酸洗を短時間としても、鋼板表面に模様ムラの発生がないオーステナイト系ステンレス鋼板を製造でき、生産性が顕著に向上するという産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明範囲の硝弗酸溶液中での溶解量に対する不純物量の影響を示すグラフである。
【図2】酸洗減量におよぼす金属イオン量の影響を示すグラフである。
【図3】硝弗酸溶液中での溶解量に対する不純物量の影響を示すグラフであり、(a)は硝弗酸溶液(弗酸:30g/l 、硝酸:100g/l、温度:50℃)の場合、(b)は硝弗酸溶液(弗酸:200g/l、硝酸:150g/l、温度:50℃)の場合である。

Claims (4)

  1. オーステナイト系ステンレス鋼熱延板に焼鈍を施した後、酸洗を施すオーステナイト系ステンレス鋼熱延板の製造方法において、前記酸洗として、硫酸、塩酸、または硝弗酸中で酸洗する工程と、ついで表面を機械的に研削する工程と、硝弗酸溶液中の金属イオン濃度:C(g/l )が0≦C≦25のときは、硝酸濃度:A(g/l )およびフリー弗酸濃度:B(g/l )がそれぞれ下記(1)、(2)式を、25<Cのときはそれぞれ下記(3)、(4)式を、満足する硝弗酸溶液中に浸漬する工程を順次施すことを特徴とする鋼板表面に模様のないオーステナイト系ステンレス鋼熱延板の製造方法。

    20+1.10×C≦A≦100 ……(1)
    100+0.05×C2 ≦B≦ 300+0.05×C2 ……(2)
    20+0.75×C≦A≦ 100 ……(3)
    132≦B≦ 300 ……(4)
    ここで、A:硝酸濃度(g/l )、
    B:フリー弗酸濃度(g/l )、
    C:硝弗酸溶液中の金属イオン濃度(g/l )
  2. 前記オーステナイト系ステンレス鋼熱延板が、Cu:0.03wt%以上、V:0.03wt%以上、Mo:0.01wt%以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼熱延板の製造方法。
  3. 前記硝弗酸溶液中に浸漬する工程において、鋼板表面に沿い対向流を付与することを特徴とする請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼熱延板の製造方法。
  4. 前記対向流は、鋼板表面に沿い鋼板進行向きと反対向きで、鋼板との相対速度が 0.5〜 5.0 m/secの範囲の速度を有することを特徴とする請求項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼熱延板の製造方法。
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