JP4081515B2 - 魚類の腸球菌症用ワクチン - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、魚類、とりわけブリ類を主とする海水養殖魚の腸球菌感染症による疾病被害の長期予防に有用なワクチンに関する。更に本発明は当該ワクチンの調製に有用なラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕に属する新規菌株に関する。
【0002】
【従来の技術】
海面生簀を利用した魚類養殖業、特にブリ養殖業においてエンテロコッカス・セリオリシダ(Enterococcusseriolicida)を原因とする腸球菌症(α溶血性連鎖球菌症)は、細菌性疾病である類結節症、ウイルス性疾病であるイリドウイルス感染症とともに魚類の三大重要疾病の一つである。この疾病の発生時期は夏季を中心とするもののほぼ周年にわたり、さらに他の疾病と異なって、越年した1才魚、2才魚という大型魚の被害が大きいという特徴から、養殖ブリの病気として最も被害の大きいものとなっている。
【0003】
このため、養殖現場では発生による蔓延やへい死魚出現を軽減するために、近年、抗生物質といった抗菌性医薬品を用いた対策が講じられている。しかしながら、対象とするブリ類は魚体が大型であることから大量の医薬品を要し、そのため養殖業者の受ける経営的圧迫は大きく、また継続的な使用により各種抗生物質に対する耐性菌が出現して薬が効かない場合も生じてきているなど、種々の問題を有しているのが現状である。
【0004】
このような状況から、腸球菌症の予防対策の重要性が指摘され、従来から当該疾病に対するワクチンの開発が期待されていた。
【0005】
腸球菌症予防用のワクチンの研究については、ホルマリンで不活化した本菌を約100gの供試魚1尾あたり、凍結乾燥菌体として5mg/日または湿潤菌として20mg/日を2〜16日間、飼料添加で経口投与するか、あるいは湿潤菌1mg/mlのワクチン液に3分間浸漬するか、あるいは1mgを腹腔内に注射して、数週間後に生菌の腹腔注射感染攻撃に対する死亡率を調べた結果、ワクチン投与後4週の腹腔、浸漬投与魚に防御効果が認められ、経口投与の場合でもワクチン投与日数が多い場合に2週間後までなら防御効果が認められたという報告がある(飯田ら;魚病研究:第16巻(4号)、201〜206頁(1982))。また、ホルマリンで不活化した本菌をブリの腹腔内に注射し、4週間後に血清の凝集抗体価、抗菌活性、マクロファージ貪食能、生菌感染に対する防御性等を調べ、不活化菌無投与魚と比較して抗菌活性、感染防御性に差異があることから、ワクチン予防の可能性があるとした研究報告がある(楠田ら;平成5年度日本水産学会春季大会講演要旨、197頁)。
【0006】
このような研究のもと、現在、ブリの腸球菌症(α溶血性連鎖球菌症)のための不活化経口用ワクチンが実用化されるに至っている。
【0007】
しかしながら、当該経口用ワクチンの場合、少なくとも5日間の連用による大量投与が必要であり、またその効果は数ヶ月間の罹患予防効果のみ確認されているに過ぎず、経済面及び効果面で満足のいく状況には至っていない。また適用対象が平均体重100g〜300gのブリに制限されているという問題がある。更に、大量投与の必要性から、養殖業者は大量のワクチンを冷蔵保管するための施設を設置する必要がある。
【0008】
一方、注射用ワクチンは1回の少量投与で比較的長期にわたる持続効果が期待されるが、それでも6ヶ月から1年に及ぶ持続的な効果を発揮して魚類の腸球菌症の発生を予防できる技術は未だないのが実情である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、魚類、特にブリ類を主とする海水養殖魚の腸球菌感染症の発症を予防するワクチンであって、少量の投与で長期間有効である実用性の高いワクチンを提供することである。更に本発明は、かかる実用性の高いワクチンの製造に用いられるラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕菌の新規菌株、及びそれを用いるワクチンの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる背景のもとに鋭意研究を重ねたところ、ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕に属する菌であって、莢膜を実質上喪失した弱毒性の新規菌株(以下「作出株」若しくは「莢膜-菌株」ともいう。)を不活化し、当該不活化菌体を魚に腹腔内投与したところ、莢膜を有する毒性の強いラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕菌(以下、「原菌」又は「莢膜+菌株」ともいう)の不活化菌体を投与する場合と比べて、長期にわたって生菌感染攻撃(腸球菌症)に対して防御性を発揮し得ることを見出した。また本発明者らは、更なる研究により、上記作出株(「莢膜-菌株」)そのものが不活性化菌体(「莢膜-菌株」)よりも100倍もの高い防御性(ワクチン効果)を示すことを見いだし、当該弱毒化菌が、製造工程の短縮化及び投与量の更なる少量化を実現する極めて有用且つ実用的なワクチン(生菌ワクチン)となることを確認した。
【0011】
従来から、ワクチンの調製に用いられる菌株は、ワクチンとしての効果を発揮させるために、予め生体通過を行ったり継代培養を避けることによって、毒性の強化または維持が必要とされていた(特開平8−231408号公報参照)。かかる従来の常識に鑑みれば、弱毒菌そのもの又はその不活性化菌がワクチンとして有効であるという上記本発明の知見は驚くべきことである。また、上記従来の常識によれば、ワクチン製造の前段階として菌体の毒性強化もしくは毒性維持の処理が必要であり、それがワクチン製造の効率性の悪さの一要因となっていたが、本発明によればかかる前処理が不要であり効率的にワクチン製造が可能であるという利点もある。
【0012】
本発明者らは、上記知見に基づいて、更に莢膜-菌株の不活化菌体を投与した魚の血清の凝集抗体価、貪食能等を確認し、また莢膜-菌株の生菌ワクチンとしてのの有効性並びにその安全性を確認して、本発明を開発するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記(1)乃至(3)のいずれかに掲げるラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕に属する新規菌株である:
(1)莢膜が極薄いか若しくは莢膜を有しないことを特徴とするラクトコッカス・ガルビエアエ(Lactococcus garvieae)〔エンテロコッカス・セリオリシダ(Enterococcusseriolisida)〕に属する菌株。
(2)ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕を、グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地中で、少なくとも約5〜25℃範囲で温度変動させながら培養する工程を経て得られる、莢膜が極薄いか若しくは莢膜を有しないラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕に属する菌株。
(3)ラクトコッカス・ガルビエアエMS93003弱毒株(FERM P−16714)。
【0014】
更に本発明は、下記(4)または(5)に掲げる魚類の腸球菌症用不活性化ワクチンである:
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の莢膜が極薄いか若しくは莢膜を有しないラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕の新規菌株の不活化菌体を含有することを特徴とする魚類の腸球菌症用ワクチン;
(5)不活化菌体が、(1)乃至(3)のいずれかに記載の莢膜が極薄いか若しくは莢膜を有しないラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕に属する菌株をホルムアルデド処理することによって得られるものである(4)記載の魚類の腸球菌症用ワクチン。
【0015】
また本発明は、下記(6)に掲げる魚類の腸球菌症用生菌ワクチンである:
(6)(1)乃至(3)のいずれかに記載の莢膜が極薄いか若しくは莢膜を有しないラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕の新規菌株の菌体を含有することを特徴とする魚類の腸球菌症用ワクチン;
また、本発明は、これらの不活性化若しくは生菌ワクチンを注射剤の態様で提供するものである。
【0016】
なお、本発明が対象とするラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕は、1974年頃に養殖ブリから初めて分離され、当初細菌学的分類からα溶血性ストレプトコッカス・エスピー(Streptococus sp.)として学術誌に報告された菌である。その後更なる細菌学的性質の研究に基づいて、1991年にエンテロコッカス・セリオリシダと改称されるに至ったが、近年既存の乳酸球菌に属することが判明し、再びラクトコッカス・ガルビエアエ(Lactococcus garvieae)と改称されている(International Journal of Systematic Baceriology, July 1996, p.664-668)。しかしながら、関係業界間では未だエンテロコッカス・セリオリシダという名称が一般的に通用していることから、本明細書においてはエンテロコッカス・セリオリシダとラクトコッカス・ガルビエアエの両名称を併記することにする。
【0017】
また、当該菌を原因菌とする疾患の病名も、1991年の菌名の改称に伴って、腸球菌症と呼称されることになったが、関係業界間では従来からのα溶血性連鎖球菌症という呼称が一般的に通用している。
【0018】
本発明で魚類とは、ブリ類を包含する魚一般を広く意味するものであり、またブリ類とは、例えばブリ(S.quinqueradiata),ヒラマサ(S.aureovittata),カンパチ(S.purpurascens)等といったSeriola属に属する魚を、幼年魚〜成魚を含めて広く包含する趣旨で用いられる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の菌株は、莢膜が極薄いか若しくは莢膜を有しないことを特徴とするラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕に属する新規菌株である。
【0020】
本発明の菌株は、魚類特にブリ類を主とする海水養殖魚の腸球菌感染症の原因菌であるラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕(原菌)に一定の処理を施して、その莢膜を実質上喪失させることによって調製することができる。なお、原菌であるラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕は、腸球菌感染症に感染した魚から常法により単離取得することができ、当該ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕に属するものであれば、株の別を問うものではない。
【0021】
原菌の処理方法は、極薄の莢膜を有するか又は莢膜を有しないラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕が調製できる方法であれば、特に制限されないが、具体的には例えばグルコース,好ましくは0.5%(w/v)程度のグルコースを含有するハートインフュージョン寒天培地(栄研化学株式会社)中で、少なくとも約5〜25℃範囲で温度変動させながら培養する方法を挙げることができる。
【0022】
より具体的な培養方法としては、滅菌したグルコース添加ハートインフュージョン寒天培地にラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕原菌を植菌し、少なくとも約5〜25℃の範囲、好ましくは約7〜23℃の範囲で温度が変動可能な状況下で、1週間〜10日程度、より具体的には215時間〜225時間程度、好ましくは220時間程度、静置培養する方法を挙げることができる。
【0023】
温度の変動は、所定時間内に約5〜25℃の範囲での低温培養と高温培養とを交互に行って培養菌に温度刺激を与えるものであれば、特に制限されない。簡便には、例えば、大気温度の変動に合わせて、24時間内に低温→高温→低温の周期が繰り返される温度変動様式を挙げることができる。
【0024】
本発明者らは、莢膜を実質上喪失した菌株を得るべく、上記の温度刺激培養に先だって、ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕原菌をEF寒天培地中(EF寒天培地「ニッスイ」:日水製薬株式会社)で27℃で57日間(1回)培養し、次いで0.5%(w/v)グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地中(27℃)での2〜37日間培養を更に4回継代して行ったが、いずれの培養によっても上記目的の莢膜-菌株を得ることはできなかった。
【0025】
このことから、本発明の菌株の特性(莢膜-)は、前述する温度刺激を行うことによって見出されるに至ったものと考えられる。しかしながら、かかる温度刺激培養に先だって、同一温度下での継代培養、例えば上記のごとくEF寒天培地中での培養及び0.5%(w/v)グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地での継代培養を行ってもよい。
【0026】
好適には、EF寒天培地中での培養(約27℃)及び0.5%(w/v)グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地での数回にわたる継代培養(約27℃)を行った後に、同寒天培地での温度変動培養(約5〜25℃)を行う方法を挙げることができる。
【0027】
本発明の莢膜-菌株は、0.5%(w/v)グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地を用いる約5〜25℃、好ましくは約7〜23℃の範囲における培養条件下で、原菌(莢膜+菌株)に比べて生育が速いという性質を有している。このため、本発明の莢膜-菌株は、前述の温度変動下での培養後、同培地を用いた約5〜25℃、好ましくは約7〜23℃の範囲での培養条件下で生育の早いコロニーを選択、採取することにより分離取得することができる。
【0028】
このようにして作出された本発明の莢膜-菌株は、茨城県つくば市東1丁目1番3号に住所を有する通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に、1998年3月18日に微生物の表示:(寄託者が付した識別のための表示)「MS93003弱毒株」、(受託番号)「FERM P−16714」として寄託されている。当該MS93003弱毒株について、インターナショナル ジャーナルオブ システィマティック バクテリオロジー(International Journal of Systematic Bacteriology),16(3),313-340,1960に記載の方法に準じて検討した細菌学的性質は次の通りである。
(1)形態的性質:
0.5%(w/v)グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地で、27℃、24時間培養して生育させたMS93003弱毒株のコロニーの電子顕微鏡で観察した結果を次に示す
(i) 細胞の形:卵形の球菌
(ii)細胞の大きさ:直径約1.4×短径約0.7μ
(iii)細胞の多形性:連鎖状
(iv)運動性:なし
(v) 莢膜の有無:透過型電子顕微鏡(倍率×50,000)による観察において、莢膜は認められなかった(図1参照)。このことから、MS93003弱毒株は莢膜を有していないか、又は有していても極薄いと判断される。
(2)各種培地における生育状態:
各種培地を用いて、それぞれ27℃で11日間培養して生育させたコロニーの状態を表1に示す。分類色名は、「財団法人日本色彩研究所監修、標準色彩図表A,1981年」に基づいて表示した。
【0029】
【表1】
Figure 0004081515
【0030】
また表2に、本発明のMS93003弱毒株(莢膜-菌株)とMS93003原菌(本発明の作出株の起源株:莢膜+菌株)について、0.5%(w/v)グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地(HIg培地)における温度別の生育状況を比較した結果を示す。
【0031】
【表2】
Figure 0004081515
【0032】
なお、MS93003原菌(強毒株)及びMS93003弱毒株を上記培地中、10℃で培養して生育させたコロニーの状態を実体顕微鏡で観察した結果を、それぞれ図2及び図3に示す。
(3)生理学的性質:
MS93003弱毒株の生理学的性質は次の通りである。
【0033】
なお、下記1)、7)及び10)以外の性質については、栄研化学株式会社 バイオテスト1号”栄研”及び日本ビオメリュー・バイオテック株式会社 アピ20(API20E)を用いて、当該供給者の推薦する方法に従って検討した。
【0034】
1)グラム染色性 グラム陽性
2)硝酸塩の還元 −
3)VP(アセトイン産生)テスト +
4)インドール産生 −
5)硫化水素産生 −
6)クエン酸利用 −
7)色素産生 −
8)ウレアーゼ −
9)オキシダーゼ −
10)生育温度範囲 約5〜45℃で生育可能
11)βガラクトシダーゼ活性 −
12)IPAテスト −
13)リジン脱炭酸 −
14)オルニチン脱炭酸 −
15)アルギニン加水分解性 +
16)マロン酸利用能 −
17)オキシダーゼ −
18)トリプトファンデアミナーゼ −
19)ゼラチナーゼ −
(4)炭素源の利用性:
アラビノース −
グルコース +
ラムノース −
マルトース +
シュークロース −
ソルビトール −
マンニトール +
イノシトール −
アドニット −
メリビオース −
アミグダリン +
また、本発明の莢膜-菌株は、原菌に比して毒性が低減したる弱毒化菌株であるという特徴を有する。MS93003原菌(莢膜+菌株)及び本発明のMS93003弱毒株(莢膜-菌株)の毒素産生能を、それぞれブリに接種攻撃した後10日後に生じる起病力として表3及び表4に示す。
【0035】
なお、攻撃時のブリ飼育水層の水温は、24℃で溶存酸素量は7.22mg/lであり、試験期間中の水温は22〜24.3℃(平均23.6℃)で溶存酸素量は6.5〜7.5(平均6.99)mg/lであった。
【0036】
【表3】
Figure 0004081515
【0037】
表3からわかるように、MS93003原菌(莢膜+菌株)で接種攻撃したブリは、攻撃から10日目に殆ど死亡した。
【0038】
【表4】
Figure 0004081515
【0039】
表4からわかるように、本発明のMS93003弱毒株(莢膜-菌株)で接種攻撃したブリは、攻撃から10日後でも死亡せず、死亡数は0であった。
【0040】
以上のことより、本発明の作出株(莢膜-菌株)は魚に対する病原性が著しく低下した弱毒菌株であることが確認された。
【0041】
本発明の莢膜-菌株は、10%スキムミルク添加生理食塩水中に懸濁した後、凍結乾燥して低温保存することもでき、またトッドフューイットブロス液体培地などの適当な培地に懸濁して、−80℃以下で凍結保存することもできる。
【0042】
本発明は、このようにして得られるラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕の弱毒菌(莢膜-菌株)を用いたことを特徴とする腸球菌症の予防に有用なワクチンである。
【0043】
本発明のワクチンは、第一に上記莢膜-菌株を不活性化することによって調製される不活性化ワクチンである。
【0044】
莢膜-菌株の不活性化処理は、本発明の莢膜-菌株の病原性、すなわち魚類、特にブリ類に対する感染力を消失させる処理であれば特に制限されず、ホルムアルデヒドやクロロホルム等の有機溶媒処理、酢酸などを用いた酸処理等、不活化ワクチンの調製に用いられるいずれの不活性化処理を使用することができる。好ましくはホルムアルデヒド処理であり、具体的には、通常0.2〜0.4%、好ましくは0.25〜0.35%、より好ましくは0.3%程度のホルムアルデヒドを用いて、菌体を4〜6℃で、2日間処理する方法を挙げることができる。不活性化処理菌体は、有機溶媒や酸等の不活化剤を除去し、生理食塩水や緩衝液などで洗浄後、遠心分離によって不溶性沈殿物として回収される。
【0045】
また、本発明のワクチンは、第二に上記本発明の莢膜-菌株をそのまま用いた生菌ワクチンである。
【0046】
当該生菌ワクチンは、本発明の莢膜-菌株を生理食塩水や緩衝液などの適当な溶媒で洗浄した後、遠心分離によって沈殿回収される菌体をそのまま利用して調製することができる。
【0047】
このようにして得られる不活性化処理菌体、生菌体又はそれらの乾燥物は、実施例に具体的に掲げるように養殖魚の腸球菌症用ワクチン(不活性化ワクチン、生菌ワクチン)として優れた効果を発揮する。
【0048】
ワクチンの態様は特に制限されず、注射剤、経口剤、浸漬剤のいずれであってもよいが、好ましくは少量の投与で長期間にわたって効果の持続性がある注射剤の態様である。
【0049】
注射用ワクチンは、上記菌体又はその乾燥物を滅菌した魚類用生理食塩水等に懸濁して調製することができる。なお、当該注射用ワクチンには、菌体及び生理食塩水の他、当該注射剤に通常用いられる懸濁化剤、安定化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤またはその他の適当な添加剤を配合することもできる。
【0050】
従来から、ワクチンの免疫効果等を向上させるためにアジュバンドが用いられている。本発明のワクチンは、このようなアジュバンドを使用するまでもなく、十分な免疫効果が得られるものであって、その点を特徴とするものである。しかしながら、本発明はアジュバンドの使用を何ら制限するものではなく、所望に応じて、上記成分に加えてアジュバンドを配合することもできる。
【0051】
本発明の第一のワクチンである不活性化ワクチンに含まれる不活性化処理菌体またはその乾燥物の量は、特に制限はないが、好ましくは620nmの波長における吸光度が0.8〜1.2、より好ましくは1程度になるように調製される。
【0052】
一方、本発明の第二のワクチンである生菌ワクチンは、上記不活性化ワクチンに配合される不活性化菌数の1/100程度の生菌数で当該不活性化ワクチンと同等の効力を発揮することができる。ゆえに、本発明の生菌ワクチンは、制限はされないが、620nmの波長における吸光度が0.8〜1.2、より好ましくは1程度になるように調製された生菌またはその乾燥物を含有する溶液をさらに1/100程度に希釈することにより調製することができる。
【0053】
なお、魚に投与するワクチンの用量(ml)を増減することによって、有効量を適宜調節することができるので、本発明の不活性化ワクチン及び生菌ワクチンは上記菌体の含有量に何ら限定されるものではない。
【0054】
本発明のワクチンを魚に腹腔内投与して、本発明の目的を達成するための投与量は、投与する季節及び水温、魚の種類、年齢及び体重などの種々の要因によって種々異なり、一概に規定することはできないが、例えば不活性化ワクチンの場合は波長620nmでの吸光度が約1であるワクチンを用いて、また生菌ワクチンの場合は波長620nmでの吸光度が約1であるワクチンをさらに100倍希釈して調製したワクチンを用いて、体重30〜100gの魚に対して通常0.1〜0.5ml程度を体重に応じて腹腔内注射する方法を挙げることができる。
【0055】
本発明のワクチンは、免疫応答を発現する魚類であれば、魚の体重や年齢等に特に制限はされることなく投与することができる。例えば、制限はされないが、通常体重20g以上、具体的には体重20g〜5kg、好ましくは30g〜1kg、より好ましくは35g〜150gの魚類、特にブリ類に用いることができる。
【0056】
本発明のワクチンは、不活性化ワクチン及び生菌ワクチンのいずれも1回の投与でその効果持続期間は約300日以上、好ましくは約1年以上にも及び、長期にわたってブリ類腸球菌症の感染防御効果を奏することができる。
【0057】
また、従来品の経口ワクチンを100gサイズのブリ稚魚約20000尾に投与する場合は、最低100Lのワクチンが必要となり(水産庁発行、「水産用の医薬品の使用について」第12報参考)、そのために別個冷蔵保管スペースを設ける必要がある。これに対して、本発明のワクチンによれば、上述するように100gサイズの魚の場合1尾当たりの用量は0.5mlであるため、約20000尾に対して約10Lのワクチンで十分であり、保管スペースに頭を痛めることはない。特に本発明の生菌ワクチンは、不活性化ワクチンよりも100分の1の量で同等な効力を発揮することができるので、投与量の更なる少量化並びに保存の小スペース化に極めて有用である。
【0058】
以下、本発明の内容を実施例及び実験例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0059】
【実施例】
実施例1
腸球菌症に感染したブリ0才魚から分離し、0.5%グルコース添加ハート・インフュージョン(HIg)寒天培地(栄研化学株式会社製)に継代していたラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕菌の一株(MS93003株)を、EF寒天培地(日水製薬株式会社製)に植菌し、27℃で静置培養した。57日間培養後、生育したコロニーを釣り、莢膜の有無を確認したが、莢膜を喪失した菌は観察されなかった。
【0060】
次いで、当該菌を0.5%グルコース添加ハートインフュージョン(HIg)寒天培地(栄研化学株式会社製)に植菌し、27℃下での2〜37日間静置培養した。更に3回の継代培養後、莢膜の有無を確認したが、莢膜を喪失した菌は検出されなかった。
【0061】
そこで、同じ培地を用いて当該菌を、温度が大気温度(気温)の変動に応じて7〜23℃の範囲で変動するクリーンベンチ中で9日間静置培養を行った。この培養において、MS93003原菌に比べて明らかに成長の早いコロニーが出現した。そこでこのコロニーを採取し、透過型電子顕微鏡で菌の形状を観察して、莢膜を喪失した菌であることを確認した。この菌の1株が通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託したMS93003弱毒株(FERM P−16714)である。
【0062】
このMS93003弱毒株(莢膜-菌株)はワクチンの製造に使用されるまで、−80℃に凍結して保存された。
実施例2
実施例1で得られた凍結保存MS93003弱毒株を35〜40℃の温水で急速解凍後、0.5%グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地に展開し、27℃で24時間培養した。コロニー出現時に雑菌混入がないことを確認し、数コロニーを市販のトッドフューイット液体培地(Todd Hewitt Broth:Difco社製)に植え付け、27℃で24時間振盪して大量培養した。培養液中に、ホルムアルデヒドが最終濃度で0.3%となるようにホルマリンを添加して、1〜2日間、4℃に維持し、その後、HIg寒天培地に展開することによって菌が不活化していることを確認した。
【0063】
更に、30〜40℃下に24時間放置し、その後3500回転で20分間遠心分離することにより不活化菌体を収集した。次いで、収集した沈殿菌体を0.85%滅菌食塩水で2回洗浄し、再度遠心分離し、得られた沈殿物を滅菌生理食塩水に吸光度が約1.0(波長:620nm)となるように懸濁して、本発明の不活性化ワクチンを調製した。
【0064】
なお、当該不活性化ワクチンは、魚類に投与するまで、4〜5℃で冷蔵保存した。
実施例3
実施例1で得られた凍結保存MS93003弱毒株(莢膜-菌株)を35〜40℃の温水で急速解凍後、0.5%グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地に展開し、27℃で24時間培養した。コロニー出現時に雑菌混入がないことを確認し、数コロニーを市販のトッドフューイット液体培地(Todd Hewitt Broth:Difco社製)に植え付け、27℃で24時間振盪して大量培養した。
【0065】
当該菌培養物を遠心分離して(3500rpm、20分間)、菌体を回収し、集めた沈殿菌体を0.85%滅菌食塩水で2回洗浄し、遠心分離後、滅菌生理食塩水に吸光度が約1.0(波長:620nm)となるように懸濁して、濃度を調整した。次いでこれをさらに滅菌生理食塩水で100分の1の濃度(約2×106cfu/ml)となるように希釈して、本発明の生菌ワクチンを調製した。なお、当該生菌ワクチンは、魚類に投与するまで、4〜5℃で冷蔵保存した。
【0066】
【実験例】
実験例1 不活性化ワクチンによる防御作用
魚体重約100gの健康なブリ(S.quinqueradiata)を96尾生簀から揚げて、被験群68尾及び対照群68尾の2群に分けた。被験群に実施例2で調製した不活化ワクチンを0.5ml、対照群に生理食塩水を0.5ml、それぞれ滅菌注射筒または連続注射器にて腹腔内投与した。なお、そのうち各群20尾は、後述する実験例3における血液凝集素価の測定に用いた。
【0067】
残りの各群48尾について、投与から15日後、65日後、135日後及び295日後に、それぞれ被験群及び対照群の各10尾に、本発明の莢膜-菌株の強毒性MS93003原菌(莢膜+菌株)0.5mlを腹腔内投与して、生菌感染攻撃を行った。また、ワクチンまたは生理食塩水投与から358日後に、被験群及び対照群の各8尾に別個腸球菌症に感染したブリから単離した強毒性のラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕菌(莢膜+菌株)0.5mlを同様に腹腔内投与した。
【0068】
各投与群について、生菌感染攻撃から2週間後の腸球菌原因によるブリの死亡数(尾)と供試魚数に対する死亡率(%)は、表5の通りであった。
【0069】
【表5】
Figure 0004081515
【0070】
かかる結果から分かるように、本発明のワクチンによれば、魚に腸球菌症に対する防御能を有意に付与することができ、その効力は1回の腹腔内投与によって少なくとも1年間程度持続することが判明した。
実験例2
魚体重約50gの健康なカンパチ(S.purpurascens)25尾に被験群として実施例2で調製した不活化ワクチン0.5mlを実験例1と同様にして腹腔内接種し、また対照群としてカンパチ(50g)25尾に生理食塩水0.5mlを腹腔内接種した。接種後、216日目に各群10尾に対して1.04×106cfu/ml濃度、394日目に各群9尾に対して1.58×106cfu/ml濃度の強毒性MS93003原菌(莢膜+菌株)0.5mlをそれぞれ腹腔内に注射接種して生菌感染攻撃を行い、2週間観察を行って、防御効果を判定した。結果を表6に示す。
【0071】
【表6】
Figure 0004081515
【0072】
かかる結果から分かるように、実験例1と同様に、本発明の不活性化ワクチンはカンパチに対してもラクトコッカス・ガルビエアエ生菌感染攻撃に対する防御能を有意に付与することができ、その効力は1回の腹腔内投与によって1年間以上持続することが判明した。
実験例3
腸球菌症に対する防御能の指標の1つとして、魚の血液凝集素価を調べた。具体的には、実験例1の実験系において、ワクチン及び生理食塩水を投与した被験群(20尾)及び対照群(20尾)について、投与から15日目、65日目、135日目及び295日目にそれぞれ各群5尾ずつ、血液を採取した。
【0073】
また、比較実験として、強毒性MS93003原菌を実施例2の方法に準じて不活性化した強毒性MS93003原菌(莢膜+菌株)の不活化ワクチンを、実験例1と同様にブリに投与して、投与後15日目、65日目、135日目及び295日目に当該ブリの血液を採取した。
【0074】
得られた血液(血清)の血液凝集素価は、ロバーソンのマイクロタイター法に従って行った〔Techniques in Fish Immunology,1990, SOS Publications,43 DeNormandie Ave.Fair Haven,NJ07704-3303 USA〕。具体的には、実験は、生理食塩水で段階希釈した血清(25μl)が入った各ウエルの中に、MS93003弱毒株(莢膜-菌株)を25μlずつ入れて、混合後、終夜室温中でインキュベーションし、凝集反応後、得られた各ウエルのタイターを測定することによって行った。なお、コントロール実験として、正常な魚血清(非免疫血清)を用いた実験を同様に行った。生じた凝集が目で確認できるウエルを最後として1〜12のスコアで、凝集価(Agglutinating titer:log2)を評価した。
【0075】
それぞれの結果を図4に示す。図中、−●−は本発明の不活性化ワクチン投与した魚から経時的に採取した血清の本発明弱毒株(莢膜-菌株)に対する凝集能を示し、−▲−は強毒株(莢膜+菌株)の不活性化ワクチンを投与した魚から経時的に採取した血清の本発明弱毒株(莢膜-菌株)に対する凝集能を示し、また−■−はワクチン処理していない魚から経時的に採取した血清の本発明弱毒株(莢膜-菌株)に対する凝集能(コントロール)を示す。
【0076】
図4から、本発明の作出菌株(莢膜-菌株)を用いた不活性化ワクチンは、原菌(莢膜+菌株)を不活化させて調製したワクチンに比して、有意に高い凝集素価を示すことが分かった。また、免疫後295日目経過すると、原菌(莢膜+菌株)を不活化させて調製したワクチンの場合は、コントロールに対して有意差が認められなくなるのに対して、本発明の不活性化ワクチン(莢膜-菌株不活化ワクチン)は、有意に高い凝集素価を維持していた。このことから、莢膜-菌株を用いて調製した本発明の不活性化ワクチンは、従来の莢膜+菌株を用いて調製される不活性化ワクチンよりも腸球菌症に対して効力及び持続力において優れた防御能を発揮すると考えられる。
実験例4
実施例2で調製した不活化ワクチンを、生簀から揚げた魚体重約35gの健康な稚魚ブリ70尾の腹腔内に0.1mlずつ接種した。接種から15日後に25尾(グループ(1))、63日後に40尾(グループ(2))に対して、別個腸球菌症に感染したブリから単離した強毒性のラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕菌(莢膜+菌株)を腹腔内注射し、生菌感染攻撃を行った。同様に、対照実験として、ワクチンを接種した被験群と同数の未処置の健康稚魚に同様にして上記強毒株を腹腔内注射し、生菌感染攻撃を行った。
【0077】
感染から2週間後の腸球菌原因による死亡数(尾)と供試魚数に対する死亡数の比率(%)は、表7の通りであった。
【0078】
【表7】
Figure 0004081515
【0079】
効率的なワクチン投与を行うためには魚側の免疫応答が発現することが第1条件であり、この意味で投与魚として免疫応答が確立した魚サイズ(齢)を選択する必要がある。しかし、腸球菌症の感染をできるだけ早く稚魚の段階から予防するためにはできる限り小さいサイズ(齢)であることが望ましく、また投与養殖効率も考慮する必要がある。上記実験から、本発明の不活性化ワクチンによれば、約35g程度のブリ稚魚に対しても腸球菌症(α溶血性連鎖球菌症)に対する十分な防御効果をもたせることができ、腸球菌症の発病を早期段階で有意に予防できることが確認できた。
実験例5 受動免疫効果試験
実験例1の実験系において、本発明の不活性化ワクチン投与から135日目に魚から血液を採取し、それから調製した免疫魚血清3mlをそれぞれ平均体重45gのブリ各10尾に腹腔内投与した。なお、対照群として免疫魚血清の代わりに生理食塩水を腹腔内投与した平均体重45gのブリ各10尾を用意した。
【0080】
各投与から20時間後に、各群のブリに、腸球菌症に感染したブリから分離したラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕菌(莢膜+菌株:MS9502株)を2.45×104cfu/0.2ml腹腔内投与して、当該生菌攻撃から10日後の腸球菌原因による死亡状況を観察した。
【0081】
その結果、血清投与群では死亡は観察されず、それに対して対照群では6尾のブリが死亡した。このように、免疫魚血清の接種によってブリは腸球菌症に対して防御能を獲得したことから、血清投与群では受動免疫が成立していると考えられる。
実験例6 血清処理細菌に対する貪食試験
実験例1の実験系において、本発明の不活性化ワクチン投与後から135日目に当該魚から血液を採取し、免疫血清を調製した。
【0082】
抗体として当該免疫血清及び正常な(非免疫の)ブリ血清を用い、また抗原として莢膜を有する強毒菌:MS93003原菌及びMS9502菌株、ならびに莢膜を有さない本発明の弱毒菌:MS93003弱毒株をそれぞれ用いて、抗体のオプソニン活性を調べた。
【0083】
具体的には、免疫血清、正常な(非免疫の)ブリ血清のそれぞれと、MS93003原菌、MS9502菌株、MS93003弱毒株(作出菌株)のそれぞれを、1時間15℃の条件で培養し、次いでガラス付着貪食細胞と培養し(25℃、1時間)、その後、付着していない細胞を除去した後、メタノール固定し、ギムザ染色を行って、貪食細胞200個について、細菌を5個以上含むかまたはガラスに付着した貪食細胞数を測定した。
【0084】
結果を表8に示す。なお、表中「貪食比率」は、貪食細胞200個中の、細菌を5個以上含むかまたはガラスに付着した貪食細胞数の割合を意味する。
【0085】
【表8】
Figure 0004081515
【0086】
なお、強毒株及び弱毒株に対する免疫血清の凝集素価は、それぞれ1:4及び1:64である。
【0087】
表8から分かるように、[免疫血清+強毒菌株]で処理した貪食細胞の貪食率は、[非免疫血清+強毒株]で処理した貪食細胞の貪食率よりも有意に高かった。なお、非免疫血清を使用した場合、[非免疫血清+強毒株]処理貪食細胞の貪食率は、[非免疫血清+弱毒株]処理貪食細胞のそれの約半分であり、貪食作用抵抗性を示した。
【0088】
これらのことから、免疫魚における腸球菌症防御機構に食作用が重要な役割を果たしていると考えられ、ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕の原菌(莢膜+菌)(抗原)に結合した本発明弱毒菌に対する抗体には、貪食細胞を活性化して抗菌作用を当該抗原に向かわせるオプソニン作用があることがわかった。また、ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕菌の防御抗原は莢膜ではなく、菌体の表面に局在している可能性が示唆された。
実験例7 生菌ワクチンによる防御作用
魚体重約100gの健康なブリ(S.quinqueradiata)を80尾生簀から揚げて、被験群40尾及び対照群40尾の2群に分けた。被験群に実施例3で調製した生菌ワクチンを0.5ml、対照群に生理食塩水を0.5ml、それぞれ滅菌注射筒または連続注射器にて腹腔内投与した。
【0089】
投与から15日後、65日後、135日後及び295日後に、それぞれ被験群及び対照群の各10尾に、本発明の莢膜-菌株の強毒性MS93003原菌(莢膜+菌株)0.5mlを腹腔内投与して、生菌感染攻撃を行った。
【0090】
各投与群について、生菌感染攻撃から2週間後の腸球菌原因による死亡数(尾)と供試魚数に対する死亡率(%)は、表9の通りであった。
【0091】
【表9】
Figure 0004081515
【0092】
かかる結果から分かるように、本発明の生菌ワクチンによれば、本発明の不活性化ワクチンの1/100の用量(106cfu/ml程度)で魚に腸球菌症に対する防御能を有意に付与することができ、またその効力は1回の腹腔内投与によって少なくとも300日程度持続することが判明した。
実験例8 生菌ワクチン投与後の魚体内における菌の消長
実施例3の方法に準じて調製した生菌ワクチン(弱毒化莢膜-菌株(弱毒性MS93003菌株):菌数6.2×106cfu/ml)0.5mlを、平均体重333gのブリ30尾に腹腔内接種し、経時的に3尾ずつ取揚げ、脳、血液及び脾臓を採取し、トッドフューイット寒天培地により生育コロニー数を計数することで血液並びに臓器内の菌数の変化を測定した。結果を表10に示す。
【0093】
【表10】
Figure 0004081515
【0094】
表10に示すように、脳及び血液中の菌は3日目までに検出できなくなり、また脾臓については11日目までに検出できなくなった。このことから、本発明の生菌ワクチンによれば、接種後11日以内に魚体から菌が検出されなくなりその安全性が確認された。
実験例9
一般に病原細菌は、宿主(魚体)を通過することにより、その病原性が増すことが知られていることから、本発明の生菌ワクチンについて、人為的に10代にわたり魚体を通過させ、病原性の変化(増強の有無)を調べた。
【0095】
具体的には、実施例3の方法に従って、MS93003弱毒株(莢膜-菌株)をトッドフューイット液体培地で培養して得られた菌液(108cfu/ml)1mlをブリ(初代)の腹腔内に注射接種し、24時間後、接種魚の脾臓を摘出し、次いで脾臓から釣菌し、また脾臓磨砕液を次代のブリに接種した。以降、10代にわたり同様にして接種魚の脾臓摘出、釣菌及び脾臓磨砕液注射を繰り返した。なお、実際には、本来弱毒性菌ゆえに脾臓磨砕液中の菌量が少なくなり次代に菌接種が困難となったため、接種魚の摘出脾臓から採取された菌を0.5%グルコース添加ハート・インフュージョン(HIg)寒天培地で培養増菌し、これを次代接種用の菌体とした。
【0096】
このようにして10代の魚体通過を実施したMS93003弱毒株(魚体通過菌株)、並びに比較として魚体通過を施していないMS93003弱毒株(魚体未通過菌株)を、それぞれ平均体重126gのブリに腹腔内接種し、2週間観察して両者の病原性を比較し、魚体通過菌株の病原性の増強の有無をみた。なお、実験は、魚体通過菌株については2.39×106cfu/ml及び2.39×107cfu/ml、また魚体未通過菌株については3.16×106cfu/ml及び3.16×107cfu/mlの濃度の菌液をそれぞれ用い、各菌液0.5mlをそれぞれ15尾のブリに投与することにより行った。
【0097】
その結果、2週間後いずれの試験区のブリも死亡することなく全数生存しており、本発明の生菌ワクチン(弱毒菌株:莢膜-菌株)について少なくとも上記濃度においては、魚体通過による病原性の増強は認められなかった。また、これらの結果から、本発明の生菌ワクチンは、実験例7で示された有効量(約106cfu/ml)の少なくとも10倍濃度の投与によっても魚体を致死させることがなく、安全性が高いものであることが示された。
【0098】
【発明の効果】
上記実験例の結果から、本発明のワクチンは、不活性化ワクチン及び生菌ワクチンのいずれも、稚魚の時期に1回投与することによって少なくとも1年という長期間にわたって、ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕を原因菌とする腸球菌症の発生を有意に予防することができることが判明した。特に、本発明の生菌ワクチンは、不活性化ワクチンよりも100分の1の用量で同等の腸球菌症感染防御能を発揮することが判明し、ワクチンの製造工程の短縮化並びに投与量の更なる少量化に有用であることがわかった。
【0099】
従って本発明のワクチンによれば、従来の経口ワクチンや原菌(莢膜+菌株)不活化ワクチンよりも防御能が著しく増強した、乃至は防御持続性が有意に優れた腸球菌感染予防剤を提供することができる。また本発明のワクチンによれば、魚類、特にブリ類の腸球菌感染による疾病被害を軽減することができ、その結果抗生物質などの投薬機会を減少させることができる。当該投薬機会の減少は、薬剤耐性菌の出現の抑制、ひいては投薬効果の維持につながり、このため本発明のワクチンは養殖業者の経営安定化に寄与することができる。
【0100】
また、このように有用なワクチンの製造に用いられる本発明のラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕の莢膜-菌株は、本来原菌に比して有意に毒性が軽減した弱毒菌株であるため、ワクチンの製造の前段階として、従来のように毒性の強化や維持処理をする必要がない。従って、本発明の莢膜-菌株によれば、前述する腸球菌症感染防御能に優れたワクチンを簡便かつ効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕の原菌(莢膜+)(図A)及び本発明の新規菌(莢膜-菌株)(図B)を透過型電子顕微鏡写真(拡大倍率×50,000)で観察した図面である。ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕の原菌には細胞の周囲に莢膜があるのが観察されるが、本発明の菌株には莢膜が観察されない。
【図2】エンテロコッカス・セリオリシダの原菌株(莢膜+菌株)を0.5%グルコール添加ハートインフュージョン寒天培地で10℃で培養して生育させたコロニーの形状を実体顕微鏡写真で示す図面である。拡大倍率は×63である。
【図3】本発明の弱毒株(莢膜-菌株)(図A及びB)を0.5%グルコール添加ハートインフュージョン寒天培地で10℃で培養して生育させたコロニーの形状を実体顕微鏡写真で示す図面である。図A及び図Bの拡大倍率はいずれも×63である。
【図4】実験例2の結果を示す図である。図中、−●−は本発明のワクチン投与した魚から経時的に採取した血清の本発明弱毒株(莢膜-菌株)に対する凝集能を示し、−▲−は強毒株(莢膜+菌株)の不活化ワクチンを投与した魚から経時的に採取した血清の本発明弱毒株(莢膜-菌株)に対する凝集能を示し、また−■−はワクチン処理していない魚から経時的に採取した血清の本発明弱毒株(莢膜-菌株)に対する凝集能(コントロール)を示す。なお、図の横軸は魚をワクチンで免疫してから経過した日数であり、その時に採取した血清の菌に対する凝集素価(log2)を縦軸に示す。

Claims (2)

  1. ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕を、グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地中で、少なくとも5〜25℃範囲で温度変動させながら培養する工程、および
    上記培地を用いた5〜25℃範囲での培養条件下で、原菌に比して生育の早いコロニーを選択、採取する工程、
    上記コロニーについて莢膜が極薄いか若しくは莢膜を有しない菌であることを確認する工程、および
    上記工程で得られた生菌またはその乾燥物を、波長620nmでの吸光度が0.8〜1.2になるように含有する溶液をさらに1/100に希釈し、当該希釈液を魚に0.1〜0.5ml/30〜100g体重の割合で1回腹腔内注射した場合に、少なくとも295日にわたってブリ類腸球菌症の感染防御効果を発揮することを確認する工程
    を有する、魚類の腸球菌症用生菌ワクチンの調製方法。
  2. ラクトコッカス・ガルビエアエ〔エンテロコッカス・セリオリシダ〕を、グルコース添加ハートインフュージョン寒天培地中で、少なくとも5〜25℃範囲で温度変動させながら培養する工程、および
    上記培地を用いた5〜25℃範囲での培養条件下で、原菌に比して生育の早いコロニーを選択、採取する工程、
    上記コロニーについて莢膜が極薄いか若しくは莢膜を有しない菌であることを確認する工程、および
    上記工程で得られた菌株を不活性化した後、波長620nmでの吸光度が0.8〜1.2になるように調製した当該不活性化処理菌体またはその乾燥物を含有する溶液を、魚に0.1〜0.5ml/30〜100g体重の割合で1回腹腔内注射した場合に、少なくとも295日にわたってブリ類腸球菌症の感染防御効果を発揮することを確認する工程
    を有する、魚類の腸球菌症用不活性化ワクチンの調製方法。
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