本発明は、ラクトコッカス・ガルビエ(学名「Lactococcus garvieae」、以下同じ)を起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤、魚類レンサ球菌症の予防方法、不活化ワクチン製剤製造方法などに関連する。より詳細には、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する不活化ワクチン製剤、魚類レンサ球菌症の予防方法、不活化ワクチン製剤製造方法などに関連する。
魚類のレンサ球菌症は、特に養殖魚などにおいて、発生頻度が高く、経済的損失も大きい疾病の一つである。魚類のレンサ球菌症には、主に、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とするα溶血性レンサ球菌症と、ストレプトコッカス・イニエ(学名「Streptococcus iniae」)を起因菌とするβ溶血性レンサ球菌症などがある。
このうち、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症は、ブリ・カンパチ・ヒラマサなどのブリ属魚類などに多く発生しており、マダイ・チダイなどの海水魚、ウナギ、ニジマスなどでも発症する。ブリ属魚類などにおいては、眼球白濁・突出、躯幹の変形、鰓蓋内側の発赤、心外膜炎、狂奔遊泳などの症状を示し、水温の高い季節の前後に被害が大きい。
従来、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とするレンサ球菌症が養殖現場などで発生した際には、一週間以上の絶食による流行の鎮静化や、エリスロマイシンなどの抗生物質による治療などが行われてきた。しかし、特に抗生物質の使用については、薬剤耐性菌の出現や食品などへの残留への懸念などの問題が残る。そこで、近年、同疾患の予防対策として、ワクチンの開発が進められ、既に上市されている。
現在、ブリ属魚類を対象としたラクトコッカス・ガルビエに対するワクチン製剤として、例えば、ホルマリンにより不活化した不活化ワクチン、ホルマリンで不活化したものを濃縮した不活化ワクチン、培養菌液を酵素処理した後ホルマリンで不活化した不活化ワクチンなどの単味ワクチン製剤、二種混合ワクチン製剤、三種混合ワクチン製剤などが用いられている。
ラクトコッカス・ガルビエには、KG-型及びKG+型の2つの血清型が知られている。KG-型は、抗KG-抗血清による凝集反応がおこり、抗KG+抗血清による凝集反応がおこらない株であり、夾膜を有し、病原性の高い型である。一方、KG+型は、抗KG-抗血清と抗KG+抗血清の両者による凝集反応がおきる株であり、夾膜がなく、KG-型よりも病原性の低い型である(非特許文献1及び非特許文献2参照)。
ラクトコッカス・ガルビエに関する魚類のワクチンとして、例えば、特許文献1には、莢膜が極薄いか若しくは莢膜を有しないことを特徴とするラクトコッカス・ガルビエに属する菌株を不活化させた菌体を含有する魚類の腸球菌症用ワクチンが、特許文献2には、新規株を利用した魚類のレンサ球菌症を予防治療するためのワクチンが、それぞれ開示されている。その他、非特許文献3には、2012年9月に魚病検査に持ち込まれたカンパチから、従来のα溶血性レンサ球菌の診断用抗血清による凝集試験では全く凝集しない、ラクトコッカス・ガルビエと同じグループの菌株を分離したことが記載され、既知のものとは異なるレンサ球菌が養殖現場などにおいて散発している可能性が示唆されている。
特開平11−332558号公報
特開2001−103961号公報
Yoshida, T., Eshima, T., Wada, Y., Yamada, Y., Kakizaki, E., Sakai, M., Kitao, T. and Inglis, V. (1996) "Phenotypic variation associated with an anti-phagocytic factor in the bacterial fish pathogen Enterococcus seriolicida." Dis Aquat Organ 25, 81-86.
M. Kawanishi, T. Yoshida, M. Kijima, K. Yagyu, T. Nakai, S. Okada, A. Endo, M.Murakami, S.Suzuki and H.Morita; "Characterization of Lactococcus garvieae isolated from radish and broccoli sprouts that exhibited a KG+ phenotype, lack of virulence and absence of a capsule"; Letters in Applied Microbiology 44 (2007) 481-487.
養殖ビジネス2013.1;p52-55、「魚病OUTLOOK 第76回、カンパチに発生した新しいレンサ球菌症」
本発明は、新規なラクトコッカス・ガルビエを分離・同定するとともに、その菌を起因菌とする疾患に対する有効な予防手段を提供することなどを目的とする。
本発明者らは、日本国愛媛県の養殖現場において、ラクトコッカス・ガルビエに対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらずαレンサ球菌症の発症が疑われたブリより新規なラクトコッカス・ガルビエの菌株を独自に分離し、その菌株が非KG-型かつ非KG+型の血清型であることを同定することに成功した。そして、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類のレンサ球菌症では、従来のワクチンが有効でないことを実証するとともに、その新型レンサ球菌症に対する不活化ワクチンの開発に成功し、その有効性を実証した。
そこで、本発明では、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤を提供する。
例えば、この不活化ワクチン製剤を魚類に投与などすることにより、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症、即ち、ラクトコッカス・ガルビエに対する従来の不活化ワクチンでは予防できない新型のレンサ球菌症に対し、その発生・伝播・蔓延を有効に予防できる可能性がある。
また、例えば、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する不活化ワクチンと、血清型がKG-型又はKG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する不活化ワクチンと、を含有する混合不活化ワクチン製剤を魚類に投与することにより、既知のレンサ球菌症及び既知のものとは異なる新型のレンサ球菌症の両者を同時に有効に予防できる可能性がある。
本発明により、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対し、その発生・伝播・蔓延を予防できる。
<ラクトコッカス・ガルビエLC1301株について>
本発明者らは、日本国愛媛県の養殖現場において、ラクトコッカス・ガルビエに対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらずαレンサ球菌症の発症が疑われたブリより、新規なラクトコッカス・ガルビエの菌株を独自に分離し、その菌株が非KG-型かつ非KG+型の血清型であることを同定することに成功した。この分離・同定した菌株をラクトコッカス・ガルビエLC1301株(Lactococcus garvieae LC1301)と命名した。
LC1301株の形態的性状としては、通常のラクトコッカス・ガルビエの形態と一致し、通性嫌気性のグラム陽性レンサ球菌の形状を示す。運動性、芽胞形成はない。培養的性質としては、一般的に用いられる肉エキス寒天平板培地、カゼイン・ダイズ混合ペプトン寒天平板培地などで白色のコロニーを形成する。また、一般的に用いられる肉エキス液状培地、カゼイン・ダイズ混合ペプトン液状培地などで振とう培養することにより増殖する。培養温度は20〜30℃が好適である。
LC1301株の生化学的性状を以下に示す。
(1)グラム染色性:グラム陽性
(2)硝酸塩の還元:−
(3)脱窒反応:−
(4)VPテスト:+
(5)インドールの生成:−
(6)硫化水素の生成:−
(7)クエン酸の利用:−
(8)色素産生:−
(9)ウレアーゼ:−
(10)オキシダーゼ:−
(11)アラニン-フェニルアラニル-プロリンアリルアミダーゼ活性:+
(12)ピログルタミン酸アリルアミダーゼ活性:−
(13)N-アセチル-β-グルコサミニダーゼ活性:−
(14)グリシル-トリプトファン-アリルアミダーゼ活性:−
(15)生育の範囲:pH4.5〜9.5、温度10〜45℃
(16)酸素に対する態度:通性嫌気性
(17)炭素源の利用性; D-リボース:+、D-マンニトール:+、D-ソルビトール:−、ラクトース:−、D-トレハロース:+、D -ラフィノース:−、サッカロース:−、L-アラビノース:−、D -アラビトール:−、シクロデキストリン:+、グリコーゲン:−、プルラン:−、マルトース:+、D-メリビオース:−、メレチトース:−、タガトース:+
(18)糖類の分解:β-グルコシダーゼ活性:+、β-グルクロニダーゼ活性:+、β-ガラクトシダーゼ活性:−、α-ガラクトシダーゼ活性:−、βマンノシダーゼ活性:−
(19)馬尿酸の分解:−
(20)アルギニンの分解:+
(21)溶血性:α溶血型
(22)抗KG-抗血清:−
(23)抗KG+抗血清:−
ラクトコッカス・ガルビエLC1301株の特許微生物寄託を行った(寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター、所在地:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、受託番号:NITE P-01653、受領日:2013年7月9日、日本において採取された菌株)。
なお、本発明は、不活化することにより、血清型が非KG-型かつ非KG+型であるラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする新型のレンサ球菌感染症を有効に予防できるものであればよく、このLC1301株を用いる場合のみに狭く限定されない。
<本発明に係る不活化ワクチン製剤について>
本発明は、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤をすべて包含する。また、本発明は、不活化菌体を有効成分として含有するもののみに狭く限定されず、例えば、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの培養菌液を不活化処理することにより得られた菌体及び菌液を有効成分として含有する不活化ワクチン製剤、即ち、例えば、不活化菌体と培養液を分離せずに用いることにより、若しくは不活化菌体と培養液を分離しないまま濃縮することにより、不活化菌体と、該菌体以外の菌体由来成分とを含有した場合も広く包含する。
不活化に供する菌体は、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエであればよい。例えば、ラクトコッカス・ガルビエに対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらずαレンサ球菌症を発症した魚類から分離して用いてもよい。分離菌は、公知の固形培地・液体培地、例えば、肉エキス寒天平板培地、カゼイン・ダイズ混合ペプトン寒天平板培地、肉エキス液状培地、カゼイン・ダイズ混合ペプトン液状培地などで培養し、増殖させることができる。
LC1301株は、不活化することによりワクチンとして用いることができる点、特に濃縮や酵素処理などを行わなくてもワクチンとしての効力が高い点、及び、アジュバントとの相性がよく、不活化したものとアジュバントとを混合して用いることにより相乗的なワクチン効力を奏する点などから、本発明に用いるクトコッカス・ガルビエの菌体として最も好適である。
不活化菌体は、例えば、培養菌液に対し、物理的処理(紫外線照射、X線照射、熱処理、超音波処理など)、化学的処理(ホルマリン・クロロホルムなどによる有機溶媒処理、酢酸などの弱酸による酸処理、アルコール・塩素・水銀などによる処理)などを行うことにより作製できる。
例えば、培養菌液にホルマリンを0.001〜2.0%、より好適には0.01〜1.0%の容量濃度で添加し、培養菌液を4〜30℃で、1〜3日間感作することにより、ホルマリンによる不活化を行うことができる。例えば、緩衝液などで不活化処理菌体を洗浄してホルマリンなどの不活化剤を除去したり、不活化処理菌体に中和剤を添加して中和したりしてもよい。また、膜ろ過や遠心分離などにより不活化処理菌体を回収したり、菌体と培養液を分離しないまま培養菌液を濃縮したりしてもよい。
不活化ワクチン製剤に含まれる不活化菌体の量は、特に制限はないが、例えば、不活化前の菌体の量が103〜1011CFU/mLの範囲が好適で、107〜1011CFU/mLの範囲がより好適である。
本発明に係る不活化ワクチン製剤は、アジュバントを含有するもの、即ち、上述の不活化菌体とアジュバントとを有効成分として少なくとも含有するものであってもよい。
例えば、LC1301株のように、アジュバントとの相性のよい菌の不活化菌体とアジュバントとを混合して用いることにより相乗的なワクチン効力を発揮させることができる。
アジュバントには、公知のものを広く用いることができる。例えば、動物油(スクアレンなど)又はそれらの硬化油、植物油(パーム油、ヒマシ油など)又はそれらの硬化油、無水マンニトール・オレイン酸エステル、流動パラフィン、ポリブテン、カプリル酸、オレイン酸、高級脂肪酸エステルなどを含む油性アジュバント、PCPP、サポニン、グルコン酸マンガン、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸マンガン、可溶性酢酸アルミウム、サリチル酸アルミニウム、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、無水マレイン酸コポリマー、アルケニル誘導体ポリマー、水中油型エマルジョン、第四級アンモニウム塩を含有するカチオン脂質などの水溶性アジュバント、水酸化アルミニウム(ミョウバン)、水酸化ナトリウムなどの沈降性アジュバント、コレラ毒素、大腸菌易熱性毒素などの微生物由来毒素成分、その他、ベントナイト、ムラミルジペプチド誘導体、インターロイキンなどが挙げられる。また、これらを混合したものでもよい。
本発明は、上記の不活化ワクチン、例えば、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する不活化ワクチンと、血清型がKG-型又はKG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する不活化ワクチンと、を含有する混合不活化ワクチン製剤であってもよい。この混合不活化ワクチン製剤を魚類に投与することにより、既知のレンサ球菌症及び既知のものとは異なる新型のレンサ球菌症の両者を同時に有効に予防できる可能性がある。
また、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する不活化ワクチン、又は、その不活化ワクチンと血清型がKG-型又はKG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する不活化ワクチンと、を含有する混合不活化ワクチンに加え、他の疾患に対するワクチン、例えば、β溶血性レンサ球菌症不活化ワクチン、ビブリオ病不活化ワクチン、イリドウイルス病不活化ワクチン、類結節症不活化ワクチン、ストレプトコッカス・ジスガラクチエ感染症不活化ワクチンなどのいずれか又は複数との混合ワクチン製剤であってもよい。
その他、目的・用途などに応じて、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、防腐剤、抗菌剤、抗酸化剤などを適宜添加してもよい。
緩衝剤の好適な例として、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液などを用いることができる。
等張化剤の好適な例として、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトールなどを用いることができる。
無痛化剤の好適な例として、例えば、ベンジルアルコールなどを用いることができる。
防腐を目的とした薬剤の好適な例として、例えば、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、その他、各種防腐剤、抗生物質、合成抗菌剤などを用いることができる。
抗酸化剤の好適な例として、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸などを用いることができる。
その他、この薬剤には、補助成分、例えば、保存・効能の助剤となる光吸収色素(リボフラビン、アデニン、アデノシンなど)、安定化のためのキレート剤・還元剤(ビタミンC、クエン酸など)、炭水化物(ソルビトール、ラクトース、マンニトール、デンプン、シュークロース、グルコース、デキストランなど)、カゼイン消化物、各種ビタミンなどを含有させてもよい。
ワクチン製剤の剤型などについては、公知のものを採用でき、特に限定されない。例えば、液体製剤として用いてもよいし、凍結乾燥などの処置の後、餌などに混入させてもよい。
<本発明に係る不活化ワクチン製剤製造方法について>
本発明は、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの菌体を不活化する工程を含む、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤製造方法をすべて包含する。
上述の通り、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの菌体を不活化することにより、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする新型の魚類レンサ球菌症に有効な不活化ワクチン製剤を製造できる。
本発明に係る不活化ワクチン製剤は、例えば、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの菌体を増殖する工程、その菌体を不活化する工程などにより行うことができる。また、不活化工程の後に、適宜、その不活化菌体にアジュバントなどを添加する工程を加えてもよい。
用いる菌体、及び、その菌体の不活化方法については、上記の通りである。また、目的・用途に応じて、上述のアジュバント、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤などを適宜添加してもよい。
<不活化ワクチン製剤製造のための菌の使用について>
本発明は、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とするレンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤製造のための該菌の使用を広く包含する。
血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とするレンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤製造のために、上述の血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを広く用いることができる。
<本発明に係る魚類レンサ球菌症の予防方法>
上述の不活化ワクチン製剤、又は上述の混合不活化ワクチン製剤を投与する、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症の予防方法を広く包含する。
上述の不活化ワクチン製剤を魚類に投与することにより、従来の不活化ワクチンでは予防できない新型の魚類レンサ球菌症の発生・伝播・蔓延を有効に予防できる。また、上述の混合不活化ワクチン製剤を魚類に投与することにより、既知のレンサ球菌症及び既知のものとは異なる新型のレンサ球菌症の両者を同時に有効に予防できる可能性がある。
適用対象となる魚類として、例えば、ブリ属魚類(ブリ、カンパチ、ヒラマサなど)、マダイ・チダイ・ヒラメ・シマアジ・マアジ・サバ・マグロなどの海水魚、ウナギ、ニジマスなど、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とするレンサ球菌症に罹患する魚類が挙げられる。
不活化ワクチン製剤の投与方法として、例えば、注射法、浸漬法、経口法などが挙げられる。
注射法の場合、例えば、不活化前の菌体の量を103〜1011CFU/mLの範囲に調製した不活化ワクチン製剤を、0.05〜3.0mL筋肉内又は腹腔内に投与する。即ち、不活化前の菌体の量が103〜1011CFU/mLであり、一回当たりの投与量が0.05〜3.0mLである不活化ワクチン製剤、その用量で筋肉内又は腹腔内に投与する不活化ワクチン製剤は、ラクトコッカス・ガルビエに対する従来の不活化ワクチンでは予防できない新型の魚類レンサ球菌症の予防に有効である。
浸漬法の場合、例えば、不活化前の菌体の量を103〜109CFU/mLの範囲に調製した不活化ワクチン製剤含有液に、対象魚を0.05〜48時間浸漬する。即ち、不活化前の菌体の量が103〜109CFU/mLであり、一回当たり0.05〜48時間の浸漬を行う不活化ワクチン製剤は、ラクトコッカス・ガルビエに対する従来の不活化ワクチンでは予防できない新型の魚類レンサ球菌症の予防に有効である。
経口法の場合、例えば、不活化前の菌体の量を103〜1011CFU/mLの範囲に調製した不活化ワクチン製剤を混合した飼料を自由摂餌させ、1〜20日間の連続投与を行う。即ち、不活化前の菌体の量が103〜1011CFU/mLであり、1〜20日間の経口連続投与を行う不活化ワクチン製剤は、ラクトコッカス・ガルビエに対する従来の不活化ワクチンでは予防できない新型のレンサ球菌症の予防に有効である。
このうち、注射法による腹腔内投与が、感染予防効果が高く、免疫持続期間が長いため、最も好適である。
不活化ワクチン製剤の投与回数は、その作用が持続する限り1回でよいが、対象魚類の大きさ、ワクチン効果の度合いなどに応じて、1〜60日間隔で複数回投与してもよい。その他、複数の投与方法を適宜組み合わせて、対象魚類に不活化ワクチン製剤を投与してもよい。
実施例1では、Lactococcus garvieaeに対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらずαレンサ球菌症の発症が疑われたブリより、原因菌の分離・同定を試みた。
愛媛県愛南町のブリ養殖場において、2013年4月、分養殖作業の際、L.garvieaeに対する従来の不活化ワクチンを投与した養殖魚群中より、α溶血性レンサ球菌症が疑われる個体5尾を認めた。
剖検所見では、心外膜炎、肝臓黄白色斑の散在、腎臓及び脾臓の軽度肥大、脳の軽度発赤が認められた。
罹患個体のうちの1尾(体重:1,950g、体長:44.5cm)の脳を採取し、菌分離を試みた。白金耳でSCDb寒天培地(カゼイン・ダイズ混合ペプトン液体培地(SCDb)に寒天を加えた培地、以下同じ)に脳組織を塗布し、25℃で1日間培養した。単集落を釣菌し、新たなSCDb寒天培地に接種し、単集落分離を行った。これを10w/v%グリセリン含むSCD液体培地にMcFarland No.5程度の濁度となるよう懸濁し、保存した。
分離菌の顕微鏡検査を行った結果、既知のL.garvieaeと同様、グラム陽性レンサ球菌の形状を示した。
L.garvieae、Streptococcus iniae、Streptococcus parauberis、及び、Streptococcus dysgalactiaeに対する特異的プライマーを用いて、PCR法による遺伝子検査を行った結果、L.garvieaeに対する特異的プライマーを用いた場合のみ、増幅が認められた。
分離菌の溶血性試験を行った。コロンビア5%ヒツジ血液寒天培地に分離菌を播種し、培養した結果、既知のL.garvieaeと同様の不完全溶血環が形成され、α溶血性を示した。
グラム陽性球菌同定キット「Rapid ID32 Strep(日本ビオメリュー)」を用いて、分離菌の生化学的性状試験を行った。結果を表1及び表2に示す。なお、表1及び表2中、「陽性率」はキットの添付文書に記載された既知のL.garvieaeの陽性率を表す。表1及び表2に示す通り、分離菌は、既知のL.garvieaeの陽性率と全項目で一致した。
上記の通り、L.garvieaeには、KG-型及びKG+型の2つの血清型が知られている。そこで、抗L.garvieae KS-7M株血清(KG-型)、抗L.garvieae YT-3株血清(KG+型)、抗L.garvieae KG7409株血清(KG+型)の三種類の抗血清を用いて、凝集試験を行った。その結果、いずれの血清においても凝集は確認されなかった。
以上の結果より、愛媛県愛南町においてL.garvieaeに対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらずαレンサ球菌症の発症が疑われたブリより分離した菌を、血清型が非KG-型かつ非KG+型の新規のLactococcus garvieaeと同定し、Lactococcus garvieae LC1301と命名した。同菌を独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号:NITE P-01653)。
実施例2では、Lactococcus garvieaeに対する従来の不活化ワクチン製剤が、分離菌(L.garvieae LC1301株)に感染した魚類に対して有効かどうかを検証した。
水酸化ナトリウム水溶液でpH8に調整したSCD液体培地にLC1301株を播種し、24時間静置培養して、LC1301株の培養菌液を調製した。
天然種苗のブリ(投与時平均体重95.0g)10尾及び天然種苗のカンパチ(投与時平均体重113.0g)10尾に、ブリ属魚類用混合不活化ワクチン製剤「ピシバック 注 3混 L-9(共立製薬株式会社製、「ピシバック」は登録商標、以下同じ)」を0.1mLずつ腹腔内注射し、それぞれ120L容水槽で14日間飼育した。対照群として、ブリ及びカンパチ各10尾にPBSを0.1mLずつ腹腔内注射し、それぞれ120L容水槽で14日間飼育した。飼育設定水温を25.0℃とした。
14日間経過後、調製したLC1301株の培養菌液をPBSで5倍に希釈したものを0.1mLずつ各供試魚に腹腔内注射し、攻撃を行った。攻撃菌量は3.4×107CFU/尾であった。攻撃後、14日間、設定水温25℃の水槽で飼育し、観察した。
結果を図1及び図2に示す。図1は、ブリに対し、L.garvieaeに対する従来の不活化ワクチン製剤で免疫した後、分離菌(LC1301株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ、図2は、カンパチに対し、L.garvieaeに対する従来の不活化ワクチン製剤で免疫した後、分離菌(LC1301株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフである。両図のグラフの横軸(攻撃後日数)は、分離菌による攻撃を行ってからの経過日数を、縦軸(生存率、単位:%)は、分離菌による攻撃後の生存率を、それぞれ表す。両グラフ中、「ピシバック」の折れ線はブリ属魚類用混合不活化ワクチン製剤で免疫した場合の生存率を、「対照群」の折れ線は対照としてワクチン製剤の代わりにPBSを投与した場合の生存率を、それぞれ表わす。
図1及び図2に示す通り、ブリとカンパチのいずれにおいても、対照群では生存率が0%であったのに対し、ブリ属魚類用不活化ワクチン製剤で免疫した場合でも生存率は10%にとどまった。この結果は、血清型が非KG-型かつ非KG+型の新規に同定されたL.garvieaeによる魚類レンサ球菌症に対し、L.garvieaeに対する従来の不活化ワクチン製剤が有効でないこと、即ち、従来のL.garvieaeに対する従来の不活化ワクチン製剤では、この新型レンサ球菌症を有効に予防できないことを示す。
実施例3では、血清型が非KG-型かつ非KG+型のLactococcus garvieaeに対する不活化ワクチンを作製し、ワクチンとしての効力を調べた。
不活化菌液の調製を以下の通り行った。200mL容三角フラスコに、SCD液体培地100mLを入れ、凍結保存したL.garvieae LC1301株を1白金耳接種し、25℃で25時間緩やかに振盪培養した。寒天平板希釈法による生菌数は1.4×109CFU/mLであった。この培養菌液をPBSで10倍又は100倍に希釈し、その希釈菌液を元培養菌液とした。500mL容三角フラスコにSCD液体培地300mLを入れ、元培養菌液0.3mLを接種し、25℃で24時間振盪培養した。これに終濃度0.3vol%となるよう日本薬局方ホルマリンを加え、培養時と同じ条件下で2日間感作させ、不活化菌液を調製した。
また、アジュバント乳化抗原の調製を以下の通り行った。上述の不活化菌液を10,000×g、4℃、5分間の条件で遠心分離し、上清を除去した後、PBSで懸濁し、2.0×1011CFU/mLの不活化菌体/PSB溶液60gを調整した。実験室用乳化機を用いて、W/O型のアジュバントであるMONTANIDE ISA-763A VG(SEPPIC社製)140gを氷冷条件で撹拌しながら、不活化菌体/PSB溶液60gを添加し、予備乳化した。氷冷状態を維持しながら、撹拌数を6,000rpmに上昇させ、15分間乳化し、アジュバント乳化抗原とした。
天然種苗のブリ(投与時平均体重87.1g)45尾を15尾ずつ三群に分け、各群に、それぞれ、不活化菌液(抗原量:1.4×108CFU/0.1mL)、アジュバント乳化抗原(:1.0×108CFU/0.1mL)、PBS(陰性対照物質)を0.1mLずつ腹腔内注射し、それぞれ500L容水槽で14日間飼育した。飼育設定水温を25.0℃とした。
14日間の飼育期間中、生死、摂餌行動、遊泳行動などを観察した。その結果、14日間の免疫期間を通じて、体色、摂餌行動、遊泳行動などに特に異常は認められなかった。これより、各抗原の安全性には問題はないと判断した。
14日間経過後、実施例2とほぼ同様の手順で調製したLC1301株の培養菌液をPBSで5倍に希釈した後、0.1mLずつ各供試魚に腹腔内注射し、攻撃を行った。攻撃菌量は4.2×106CFU/尾であった。攻撃後、14日間、設定水温25℃の水槽で飼育し、観察した。
結果を図3に示す。図3は、ブリに対し、L.garvieae LC1301株の不活化菌体を含有する不活化ワクチンで免疫した後、分離菌(LC1301株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフである。図3のグラフの横軸(攻撃後日数)は、分離菌による攻撃を行ってからの経過日数を、縦軸(生存率、単位:%)は、分離菌による攻撃後の生存率を、それぞれ表す。同グラフ中、「不活化菌液」の折れ線は不活化菌液で免疫した場合の生存率を、「アジュバント乳化抗原」の折れ線はアジュバント乳化抗原で免疫した場合の生存率を、「対照群」の折れ線は対照としてPBSを投与した場合の生存率を、それぞれ表わす。
図3に示す通り、PBS投与群(陰性対照)では、ブリの生存率が0%であったのに対し、不活化菌液投与群及びアジュバント乳化抗原投与群では、ブリの生存率が100%であった。また、全ての生存魚について、体色、摂餌行動、遊泳行動などに特に異常は認められず、剖検所見からも特に異常は認められなかった。その他、攻撃に用いた菌は生存魚からは分離されなかった。
これらの結果は、血清型が非KG-型かつ非KG+型のL.garvieaeの不活化菌体を含有する不活化ワクチンでブリ属魚類を免疫することにより、従来のワクチンが有効でない新型レンサ球菌症を有効に予防できることを示唆する。
また、本実施例では、不活化菌液単独でも高いワクチン効果を示すとともに、アジュバントを添加した場合でも同様の高いワクチン効果を維持できた。このことは、L.garvieae LC1301株が免疫原性の高い株であることを示唆し、また、同株がアジュバントとの親和性の高い株であることを示唆する。
実施例4では、血清型が非KG-型かつ非KG+型のL.garvieaeを用いて作製した不活化ワクチンが、既知のL.garvieaeによるレンサ球菌症の予防にも有効かどうか、検討した。
実施例3と同様の手順で、不活化菌液及びアジュバント乳化抗原を調製した。実施例3と同様、天然種苗のブリ(投与時平均体重87.1g)45尾を15尾ずつ三群に分け、各群に、それぞれ、不活化菌液(抗原量:1.4×108CFU/0.1mL)、アジュバント乳化抗原(:1.0×108CFU/0.1mL)、PBS(陰性対照物質)を0.1mLずつ腹腔内注射し、それぞれ500L容水槽で14日間飼育した。
実施例2などと同様の手順で、既知のLactococcus garvieae株であるKS-7C株(1997年に静岡県で分離されたブリ由来の株、KG-型)の培養菌液を調製した。免疫から14日間経過後、実施例2などと同様の手順で、調製したKS-7C株の培養菌液をPBSで5倍に希釈した後、0.1mLずつ各供試魚に腹腔内注射し、攻撃を行った。攻撃菌量は1.5×107CFU/尾であった。攻撃後、14日間、設定水温25℃の水槽で飼育し、観察した。
結果を図4に示す。図4は、ブリに対し、L.garvieae LC1301株の不活化菌体を含有する不活化ワクチンで免疫した後、既知のL.garvieae(KS-7C株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフである。図4のグラフの横軸(攻撃後日数)は、分離菌による攻撃を行ってからの経過日数を、縦軸(生存率、単位:%)は、分離菌による攻撃後の生存率を、それぞれ表す。同グラフ中、「不活化菌液」の折れ線は不活化菌液で免疫した場合の生存率を、「アジュバント乳化抗原」の折れ線はアジュバント乳化抗原で免疫した場合の生存率を、「対照群」の折れ線は対照としてPBSを投与した場合の生存率を、それぞれ表わす。
図4に示す通り、PBS投与群(陰性対照)及び不活化菌液投与群のブリ生存率は0%、アジュバント乳化抗原投与群のブリ生存率は13%であった。アジュバント乳化抗原投与群では、PBS投与群と比較して、死亡に至る日数が遅く、また、生存魚2尾から攻撃に用いた菌は分離されず、異常な剖検所見も認められなかった。このように、L.garvieae LC1301株を用いて作製した不活化ワクチンには、死亡の遅延をもたらすものの、既知のL.garvieaeによるレンサ球菌症に対するワクチンとしての効力は認められなかった。
実施例5では、二価混合不活化ワクチンを作製し、ワクチンとしての効力を調べた。
L.garvieae LC1301株の不活化菌液の調製を以下の通り行った。200mL容三角フラスコに、SCD液体培地(栄研化学株式会社製)100mLを入れ、凍結保存したLC1301株を1白金耳接種し、25℃で約24時間振盪培養した。この培養菌液をPBSで10倍ずつ102倍まで階段希釈し、その希釈菌液を元培養菌液とした。次に、5L容培養装置に、SCD液体培地(自家配合により、前記と同じ成分組成に調製したもの)2.5Lを入れ、元培養菌液4.5mLを接種し、pH7.0以上の状態を維持しながら25℃で約48時間振盪培養した。これに終濃度0.2vol%となるよう日本薬局方ホルマリンを加え、培養時と同じ条件下で2日間感作させ、不活化菌液を調製した。寒天平板希釈法による生菌数測定試験を行った結果、不活化前生菌数は2.7×108CFU/mLであった。この不活化菌液を遠心分離して上清を除去した後、ホルマリン0.1vol%添加PBSで2倍濃縮し、L.garvieae LC1301株の不活化抗原とした。
従来の血清型(KG-型)であるL.garvieae KS-7M株の不活化菌液の調製を以下の通り行った。200mL容三角フラスコに、SCD液体培地(栄研化学株式会社製)100mLを入れ、凍結保存したKS-7M株を1白金耳接種し、25℃で約24時間振盪培養した。この培養菌液をPBSで10倍ずつ102倍まで階段希釈し、その希釈菌液を元培養菌液とした。次に、5L容培養装置に、SCD液体培地(自家配合により、前記と同じ成分組成に調製したもの)2.5Lを入れ、元培養菌液4.5mLを接種し、攪拌しながら25℃で24時間培養した。これに終濃度0.3vol%となるよう日本薬局方ホルマリンを加え、培養時と同じ条件下で2日間感作させ、不活化菌液を調製した。寒天平板希釈法による生菌数測定試験を行った結果、不活化前生菌数は1.8×109CFU/mLであった。この不活化菌液を遠心分離して上清を除去した後、ホルマリン0.1vol%添加PBSで2倍濃縮し、L.garvieae KS-7M株の不活化抗原とした。
新血清型であるL.garvieae LC1301株の不活化抗原と、従来血清型であるL.garvieae KS-7M株の不活化抗原を等量混合し、二価ワクチンとした。
天然種苗のブリ(投与時平均体重45.9g)30尾及び天然種苗のカンパチ(投与時平均体重63.0g)27尾に、本実施例で調製した二価ワクチンを0.1mLずつ腹腔内注射し、それぞれ200L容水槽で14日間飼育した。対照群として、ブリ29尾及びカンパチ25尾にPBSを0.1mLずつ腹腔内注射し、それぞれ200L容水槽で14日間飼育した。飼育設定水温を25.0℃とした。二価ワクチンの投与抗原量は、L.garvieae LC1301株が1.4×108CFU/0.1mL/dose、L.garvieae KS-7M株が9.0×108CFU/0.1mL/doseであった。
飼育期間中、生死、摂餌行動、遊泳行動の観察を行った。その結果、免疫投与群では、対照群との比較においても、14日間の免疫期間を通じて、体色、摂餌行動、遊泳行動に異常を認めなかった。本結果より、この二価ワクチンは、ブリ及びカンパチに対する安全性において問題はないと推測した。
続いて、従来の血清型(KG-型)の攻撃株用として、L.garvieae KS-7C株の培養菌液を調製した。そして、免疫から14日間経過後、免疫投与した供試魚のうちのブリ15尾及びカンパチ15尾、並びに対照群の供試魚のうちのブリ15尾及びカンパチ15尾に、それぞれ、そのKS-7C株の培養菌液をPBSで100倍に希釈したものを0.1mLずつ各供試魚に腹腔内注射し、攻撃を行った。攻撃菌量は2.3×106CFU/尾であった。攻撃後、14日間、設定水温25℃の水槽で飼育し、観察した。
また、新血清型(非KG-型かつ非KG+型)の攻撃株用として、L.garvieae LC1311株の培養菌液を調製した。そして、KS-7C株の場合と同様、免疫から14日間経過後、免疫投与した供試魚のうちの残りのブリ15尾及びカンパチ14尾、並びに対照群の供試魚のうちの残りのブリ14尾及びカンパチ10尾に、それぞれ、そのLC1311株の培養菌液をPBSで100倍に希釈したものを0.1mLずつ各供試魚に腹腔内注射し、攻撃を行った。攻撃菌量は2.0×106CFU/尾であった。攻撃後、14日間、設定水温25℃の水槽で飼育し、観察した。
結果を図5〜図8に示す。図5は、ブリに対し、二価ワクチンで免疫した後、既知のL.garvieae(KS-7C株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ、図6は、カンパチに対し、二価ワクチンで免疫した後、既知のL.garvieae(KS-7C株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ、図7は、ブリに対し、二価ワクチンで免疫した後、新血清型L.garvieae(LC1311C株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ、図8は、カンパチに対し、二価ワクチンで免疫した後、新血清型L.garvieae(LC1311株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフである。各グラフの横軸(攻撃後日数)は、攻撃を行ってからの経過日数を、縦軸(生存率、単位:%)は、攻撃後の生残率を、それぞれ表す。各グラフ中、「二価ワクチン」の折れ線は上記の二価ワクチンで免疫した場合の生残率を、「対照群」の折れ線は対照として免疫時にPBSを投与した場合の生残率を、それぞれ表わす。
図5に示す通り、ブリに対し、対照群としてPBSを投与した後KS-7C株で攻撃した場合の生存率は6.7%であったのに対し、二価ワクチンで免疫した後KS-7C株で攻撃した場合の生存率は100%であった。また、図6に示す通り、カンパチに対し、対照群としてPBSを投与した後KS-7C株で攻撃した場合の生存率は0%であったのに対し、二価ワクチンで免疫した後KS-7C株で攻撃した場合の生存率は100%であった。
加えて、図7に示す通り、ブリに対し、対照群としてPBSを投与した後LC1311株で攻撃した場合の生存率は0%であったのに対し、二価ワクチンで免疫した後LC1311株で攻撃した場合の生存率は100%であった。また、図8に示す通り、カンパチに対し、対照群としてPBSを投与した後LC1311株で攻撃した場合の生存率は0%であったのに対し、二価ワクチンで免疫した後LC1311株で攻撃した場合の生存率は64.3%であった。
以上の結果は、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対するこの二価不活化ワクチンが、従来の血清型の魚類レンサ球菌症と新血清型(非KG-型かつ非KG+型)の魚類レンサ球菌症のいずれの防除にも有効であることを示す。従って、本結果は、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とするブリ・カンパチなどの魚類のレンサ球菌症に関して、従来血清型と新血清型の二価不活化混合ワクチンが、新血清型を含む広範な魚類レンサ球菌症の野外での防除に有効であることを示唆する。
実施例6では、新血清株であるL.garvieae LC1301株の薬剤感受性を調べた。
薬剤ディスクとして、SNディスク・エリスロマイシン薬剤感受性試験用(日水製薬株式会社製)、及び、BDセンシ・ディスク・オキシテトラサイクリン薬剤感受性試験用(ベクトン・デッキンソン製)を用いて、それらの薬剤に対する感受性を調べた。
その結果、エリスロマイシン薬剤感受性試験では阻止円径が22.9mmであり、薬剤感受性であると判定された。また、オキシテトラサイクリン薬剤感受性試験では、阻止円径が28.9mmであり、薬剤感受性であると判定された。
以上の通り、新血清株であるL.garvieae LC1301株は、エリスロマイシン及びオキシテトラサイクリンに感受性であることが分かった。
実施例2において、ブリに対し、L.garvieaeに対する従来の不活化ワクチン製剤で免疫した後、分離菌(LC1301株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ。
実施例2において、カンパチに対し、L.garvieaeに対する従来の不活化ワクチン製剤で免疫した後、分離菌(LC1301株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ。
実施例3において、ブリに対し、L.garvieae LC1301株の不活化菌体を含有する不活化ワクチンで免疫した後、分離菌(LC1301株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ。
実施例4において、ブリに対し、L.garvieae LC1301株の不活化菌体を含有する不活化ワクチンで免疫した後、既知のL.garvieae(KS-7C株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ。
実施例5において、ブリに対し、二価ワクチンで免疫した後、既知のL.garvieae(KS-7C株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ。
実施例5において、カンパチに対し、二価ワクチンで免疫した後、既知のL.garvieae(KS-7C株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ。
実施例5において、ブリに対し、二価ワクチンで免疫した後、新血清型L.garvieae(LC1311C株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ。
実施例5において、カンパチに対し、二価ワクチンで免疫した後、新血清型L.garvieae(LC1311株)で攻撃した場合における生存率を示すグラフ。