JP4078938B2 - 放電加工用電極材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として型彫り放電加工に用いられる加工電極用として好適な放電加工用電極材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
放電加工においては、被加工物の加工速度が速いこと、及び加工電極自体の消耗が少ないことが望まれてきた。同時にまた、被加工物には加工電極の表面状態が転写されるため、加工電極の表面や内部に巣がないこと、若しくは巣の大きさができるだけ小さいことが望まれてきた。
【0003】
この様な要望を満たすために、従来から様々な放電加工用電極材料が開発されてきたが、その中でもCu−W合金及びAg−W合金は、Wの高い融点や沸点、Cu又はAgの高い熱伝導性と電気伝導性を活かして、消耗が少なく、精密加工や仕上げ加工に適した電極材料として、特に精密加工用途や超硬型の放電加工用途に適した放電加工用電極材料として使用されてきた。
【0004】
かかるCu−W合金及びAg−W合金からなる放電加工用電極材料の製造方法の一つとして、W粉末を主成分とする粉末を電極形状に型押しした後、この型押し体中に最終合金組成となるように純Cu又は純Agを溶融浸透させる溶浸法がある。また、別の製造方法として、W粉末とCu又はAg粉末を最終合金組成に配合した後、電極形状に型押しし、焼結して作製する焼結法がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これらのCu−W合金及びAg−W合金からなる放電加工用電極材料については、電極製造時に巣の発生を抑えることと共に、実際の放電加工現場における能率アップの要求から、電極の消耗を少なくすること、更に加工速度を上げて放電加工特性を向上させることが検討されている。
【0006】
例えば、特開昭63−195242号公報や特開昭50−109595号公報に記載されるように、これらのCu−W合金又はAg−W合金中にNaやK等のアルカリ金属元素、SrやCa等のアルカリ土類金属元素、La等の希土類元素、又はこれらの酸化物等を添加することにより、合金の仕事関数を小さくし、加工速度を向上させた電極材料が開発されている。
【0007】
しかし、上記したアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、又はその酸化物等を含む放電加工用電極材料は、確かにその仕事関数が低く、加工速度の向上等に改善が得られるものの、添加する上記金属元素等の中には毒性があるものや、吸湿性を有するものがあるため、その取り扱いが不便であり、製造が難しいという欠点があった。
【0008】
また、これらの元素やその酸化物を含む放電加工用電極材料には、WやCu、Agを含まない巣と呼ばれる穴の部分が発生しやすいという欠点があった。放電加工の現場においては、加工電極の巣を特に嫌う場合がある。例えば、大型製品の加工の最終段階で電極に巣が存在すると、その製品が不良となったときの被害金額が大きくなる。また、揺動と呼ばれる加工上のテクニックを用いて巣の悪影響を減じる方法があるが、加工内容や目的によっては揺動を採用できない場合があり、このような場合にも巣のある電極は嫌われる。
【0009】
従って、放電加工特性に優れている電極材料であっても、内部欠陥として大きな巣が存在すると、加工電極として使用できなかったり、加工不良による被害金額が大きくなったりすることがあった。このように、放電加工用電極の巣は放電加工の際に被加工物に悪影響を与えるため、巣を無くすか若しくは巣が問題にならない程度に小さいこと、具体的には電極の使用目的にもよるが約4μm以下であることが望まれている。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、Cu−W合金からなり、電極の消耗が少なく且つ加工速度が速いうえ、巣の発生がないか又は巣が極めて小さい放電加工用電極材料を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明が提供する放電加工用電極材料は、Ni、Cu、W以外の元素又はその硼素化物若しくは酸化物を0.05重量%以上含まず、W濃度が40重量%以上のCu−W合金からなり、該合金中の全W粒子の30%以上が粒径3μm以上であることを特徴とする。
【0012】
また、上記した本発明の放電加工用電極材料においては、前記Cu−W合金を硝酸液で腐食した後のWスケルトンの硬度が、ビッカース硬度で22以上であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、W粒子の粒径の測定は下記の方法によって行う。走査電子顕微鏡観察により1500倍の写真を撮影し、これをコピー機にて4倍に拡大複写する。この拡大した写真内に長さ20cmの線分を任意に引き、この線分と交差したW粒子について、その交差した長さを測定してW粒子の粒径とする。また、粒径3μm以上のW粒子の割合は、上記の作業を測定数が所定数、例えば300個になるまで繰り返し、その300個の粒子中に含まれる粒径3μm以上のW粒子の百分率をもって表すものとする。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、放電加工用電極材料として、W濃度が40重量%以上のCu−W合金について試作評価を重ねた結果、構成成分であるW粒子が粗粒を多く含むことによって、内部欠陥である巣がないか又は巣が極めて小さい放電加工用電極材料が得られることを見出した。
【0015】
即ち、Cu−W合金中の全W粒子のうち粒径が3μm以上のW粒子が30%以上を占めることにより、巣の発生を抑えることができ、巣がないか又は巣が極めて小さい放電加工用電極材料を得ることができる。このような巣の抑制は、W粉末の粒径が粗い方が、W粒子の隙間をCu粒子が埋めやすいこと、及び型押し時に型押し密度を上げやすいこと等によるものと考えられる。
【0016】
本発明の放電加工用電極材料は、W濃度が40重量%以上、多くの場合はW濃度が60重量%のCu−W合金である。また、巣の発生を抑制するために、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、又はその酸化物等を0.05重量%以上含まないことが必要である。
【0017】
このような構成を有する本発明の放電加工用電極材料は、巣が全く発生しないか、発生しても実際の電極使用において問題ない程度の大きさ、即ち使用目的にもよるが通常4μm以下であって、多くの場合は1μm未満の大きさの巣しか発生しない。
【0018】
一般に、アルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素等を添加する場合には、これらの元素が焼結性を阻害するため、Niのような焼結促進効果のある元素を0.05〜5重量%程度添加する必要があった。しかしながら、アルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素等を含まない本発明のCu−W合金においては、Niのような焼結促進効果のある元素等を必ずしも含む必要はない。従って、Niを添加しない場合には、NiがCu中に固溶して電気伝導度を下げるという不都合を避けることが可能である。
【0019】
尚、巣の発生を抑制するため、Cu−W合金中にアルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素、希土類元素、又はこれらの酸化物等を添加しないことにより、これらを含む場合に比べて電極の耐消耗性及び加工速度が若干低下するが、それでも実用上問題がない程度である。しかも、後述するように焼結温度を高める等の手法を用いてW粒子を互いに強固に接合させることによって、電極の耐消耗性や加工速度の低下を補えることが分った。
【0020】
W粒子が強固に接合されている度合いは、Cu−W合金を硝酸液に浸漬してCuを腐食し、得られたWスケルトンの硬度を測定することにより評価することができる。即ち、上記Wスケルトンの硬度として、ビッカース硬度が22以上であるとき、W粒子が相互に強固に接合されていおり、電極の耐消耗性及び加工速度が改善される。
【0021】
本発明のCu−W合金からなる放電加工用電極材料の製造は、以下の溶浸法による。
【0022】
即ち、粒径3μm以上の粒子が30重量%以上となるような粒度分布を持つW粉末をそのまま、又はこのW粉末に例えば2〜3重量%程度のCu粉末を混合した後、所望の形状に型押しし、この型押し体内にW−30重量%Cu等の最終合金組成となるようにCuを溶浸させる。具体的なCuの溶浸については、型押し体をCuの溶融液体中に浸漬する方法、型押し体とCuを接触させた状態で、Cuの融点以上の温度に加熱する方法等がある。
【0023】
更に、Wスケルトンの硬度が高いCu−W合金を製造する方法としては、上記の溶浸法の場合、W粒子同士の焼結状態をより強固にする手法、例えばW粒子の焼結を1350℃よりも高い温度で行う等の方法をとることができる。
【0024】
【実施例】
実施例1
1.3〜31μmの粒度分布を持つW粉末と、Cu粉末とを原料とし、W−4重量%Cuの組成となるように配合して、アトライターにて混合した後、この混合粉末を電極形状に型押しした。得られたW−4重量%Cu組成の型押し体に、純Cu粉末を型押しした材料を接触させ、水素雰囲気中にて1200℃(試料A)及び1410℃(試料B)で加熱焼結すると同時にCuを溶浸させることにより、最終合金組成がW−30重量%Cuである各電極材料を作製した。
【0025】
比較例として、原料の全W粉末として微粒を多く含む粒度分布のW粉末を用いた以外は上記試料Aの場合と同様にして、最終合金組成がW−30重量%Cuである試料Cの電極材料を作製した。また、上記試料AにおけるW粉末の一部に代えてCaO粉末とThO2粉末を添加し、それ以外は試料Aと同様にして、最終合金組成がW−30重量%Cu−0.5重量%CaO−0.5重量%ThO2である試料Dの電極材料を作製した。
【0026】
得られた本発明の試料A及びBの電極材料、並びに比較例の試料C及びDの電極材料について、それぞれ30%の硝酸液で腐食した後のWスケルトン硬度(ビッカース硬度Hv)を測定した。また、試料A〜Dの各試料の合金中に含まれる粒径3μm以上のW粒子量を求め、これらの結果を焼結温度等の製造条件と共に下記表1に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
また、上記試料A〜Dの各電極材料について、それぞれ巣の大きさを測定し、その平均値を下記表2に示した。更に、上記試料A〜Dの各電極材料から電極面が15×15mmの加工電極を作製し、この電極面が15×5mmだけ超硬合金(硬さ88.5HRA)の被加工材にかかるように対向させて、ピーク電流(Ip)=135A、加工電圧(V)=80V、パルス幅(ON)=8.7μsec、休止時間(OFF)=128μsecの条件で、4mmの加工深さまで放電加工を行った。この放電加工時における電極消耗量と加工速度を求め、得られた結果を下記表2に併せて示した。
【0029】
【表2】
【0030】
上記の結果から分るように、本発明の試料A及び試料BのW−30重量%Cu合金からなる各電極材料は、巣の大きさが1μm未満と極めて小さく、電極の耐消耗性及び加工速度も充分満足できるものであった。特に、Wスケルトン硬度が高い試料Bの電極材料は、試料Aに比べて、巣の大きさが更に小さく、電極の耐消耗性及び加工速度もより一層優れていた。
【0031】
一方、比較例の各電極材料については、試料Cは粒径3μm以上の粗粒のW粒子が少ないため、電極の耐消耗性及び加工速度は満足できるものであったが、巣の大きさが上記本発明の試料A及びBよりも大きくなった。また、酸化物を含む試料Dは、電極の耐消耗性及び加工速度は優れているが、40μmを超える極めて大きな巣が発生した。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、Cu−W合金からなる放電加工用電極材料について、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、又はその酸化物等を含まず、電極の消耗が少なく且つ加工速度の速いうえ、巣の発生がないか又は巣が極めて小さい放電加工用電極を提供することができる。
Claims (1)
- W粉末又はW粉末にCuを混合した粉末を所望の形状に型押しした後、その型押し体に1350℃よりも高い温度でCuを溶浸させて得られたCu−W合金からなり、W濃度が40重量%以上で且つNi、Cu、W以外の元素又はその硼化物若しくは酸化物を0 . 05重量%以上含まず、該合金中の全W粒子の30%以上が粒径3μm以上であり、該合金を硝酸液で腐食した後のWスケルトンの硬度がビッカース硬度で22以上であって、該合金中の巣の大きさが4μm以下であることを特徴とする放電加工用電極材料。
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