図1は、本発明の一実施形態に係る平面型表面伝導型電子放出素子を構成した電子源基板の一例を示す模式図で、図1(A)はその平面図、図1(B)は図(A)のB−B線断面図で、図中、1は基板、2、3は素子電極、4は導電性薄膜、5は電子放出部である。本発明の表面伝導型電子放出素子の基本的な構成は平面型であり、ここでは簡略化して、1つの平面型表面伝導型電子放出素子の構成を模式的に示しているが、実際には、後述するように、このような平面型表面伝導型電子放出素子がマトリックス配置された素子群として構成される。
基板1としては、石英ガラス、Na等の不純物含有量を低減させたガラス、青板ガラス、SiO2を表面に堆積させたガラス基板およびアルミナ等のセラミックス基板等を用いることができる。素子電極2、3の材料としては、一般的な導電材料を用いることができ、例えば、Ni、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属あるいは合金、Pd、As、Ag、Au、RuO2、Pd−Ag等の金属あるいは金属酸化物とガラス等から構成される印刷導体、In2O3−SnO2等の透明導電体、ポリシリコン等の半導体材料等から適宜選択される。
素子電極2、3間の間隔Lは、好ましくは数千Åないし数百μmの範囲であり、より好ましくは、素子電極2、3間に印加する電圧等を考慮して1μmないし100μmの範囲である。素子電極2、3の長さWは、電極の抵抗値および電子放出特性を考慮して、数μmないし数百μmであり、また、素子電極2、3の膜厚dは、100Åないし1μmの範囲である。
図2は、図1に示した平面型表面伝導型電子放出素子の製造方法を説明するための図で、図2(A)は基板1に素子電極2、3を形成した図、図2(B)は素子電極2、3に導電性薄膜4を形成した図、図2(C)は該導電性薄膜4に電子放出部5を形成した図を示す。導電性薄膜4としては、良好な電子放出特性を得るために、微粒子で構成された微粒子膜が特に好ましく、その膜厚は素子電極2、3へのステップカバレッジ、素子電極2、3間の抵抗値および後述する通電フォーミング条件等によって適宜設定されるが、好ましくは、数Åないし数千Åで、特に好ましくは、10Åないし500Åである。またその抵抗値は、Rsが10の2乗ないし10の7乗Ωの値である。なお、Rsは厚さがt、幅がwで長さがlの薄膜の抵抗Rを、R=Rs(1/w)とおいたときに現われる値で、薄膜材料の抵抗率をρとするとRs=ρ/tで表される。ここでは、フォーミング処理について通電処理を例に挙げて説明するが、フォーミング処理はこれに限られるものではなく、膜に亀裂を生じさせて高抵抗状態を形成する方法であればいかなる方法を用いても良い。
導電性薄膜4を構成する材料としては、Pd、Pt、Ru、Ag、Zn、Sn、W、Pb等の金属が本発明の表面伝導型電子放出素子として、良好な電子放出を行うことができる材料としてあげられる。しかし、後述するように、本発明の製造装置に使用される液滴噴射ヘッドとの適合性を考慮する必要があり、これらの材料が全て好適に使用できるわけではない。
ここで述べる微粒子膜とは複数の微粒子が集合した膜であり、その微細構造として、微粒子が個々に分散配置した状態のみならず、微粒子が互いに隣接、あるいは重なり合った状態(いくつかの微粒子が集合し、全体として島状を形成している場合も含む)をとっている。微粒子の粒径は、数Åないし1μmであり、好ましくは10Åないし200Åである。
なお本発明は図1に示した構成に限らず、基板1上の導電性薄膜4の上に、素子電極2、3を形成させた構成にしてもよい。
以下、本発明の一実施形態に係る表面伝導型電子放出素子を形成した電子源基板の製造装置について述べる。図3は、本発明に係る電子源基板の製造装置の一例を示す図で、図中、11は吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)、12はキャリッジ、13は基板保持台、14は平面型表面伝導型電子放出素子群を形成する基板、15は導電性薄膜の材料を含有する溶液の供給チューブ、16は信号供給ケーブル、17は噴射ヘッドコントロールボックス、18はキャリッジ12のX方向スキャンモータ、19はキャリッジ12のY方向スキャンモータ、20はコンピュータ、21はコントロールボックス、22(22X1、22Y1、22X2、22Y2)は、基板位置決め/保持手段である。
図3に示す構成は、基板保持台13に置かれた基板14の前面を噴射ヘッド11がキャリッジ走査により移動し、導電性薄膜材料を含有する溶液を噴射付与する例を示すものである。噴射ヘッド11は、任意の液滴を定量吐出できるものであれば如何なる機構でも良く、特に数10〜数ピコリットル程度の液滴、あるいは、より少量体積の液滴を形成できるインクジェット方式の機構が望ましい。インクジェット方式としては、圧電素子を用いたピエゾジェット方式、ヒータの熱エネルギーを利用して気泡を発生させるバブルジェット(登録商標)方式、あるいは、荷電制御方式(連続流方式)等いずれのものでも構わない。
図4は、本発明の電子源基板の製造方法を適用しうる液滴付与装置の構成の一例を説明するための概略図で、図5は、図4の液滴付与装置の吐出ヘッドユニットの要部概略構成図である。図4の構成は、図3の構成と異なり、基板側を移動させて電子放出素子群を基板に形成するものである。図4及び図5において、2、3は素子電極、14は基板、30は吐出ヘッドユニット(図3の吐出ヘッド11に相当)、31はヘッドアライメント制御機構、32は検出光学系、33はインクジェットヘッド、34はヘッドアライメント微動機構、35は制御コンピュータ、36は画像識別機構、37はXY方向走査機構、38は位置検出機構、39は位置補正制御機構、40はインクジェットヘッド駆動・制御機構、41は光軸、42は液滴、43は液滴着弾位置である。
吐出ヘッドユニット30の液滴付与装置(インクジェットヘッド33)としては、図3の場合と同様に、インクジェット方式の機構が望ましく、圧電素子を用いたピエゾジェット方式、ヒータの熱エネルギーを利用して気泡を発生させるバブルジェット(登録商標)方式、あるいは荷電制御方式(連続流方式)等いずれのものでも構わない。
以下に、図4に示した基板14側を移動させる装置の構成を説明する。まず図4において、XY方向走査機構37の上に基板14が載置してある。基板14上の表面伝導型電子放出素子は図1のものと同じ構成であり、単素子としては図1に示したものと同様、基板1、素子電極2、3及び導電性薄膜(微粒子膜)4よりなっている。この基板14の上方に液滴を付与する吐出ヘッドユニット30が位置している。本実施例では、吐出ヘッドユニット30は固定で、基板14がXY方向走査機構37により任意の位置に移動することで吐出ヘッドユニット30と基板14との相対移動が実現される。
次に、図5により、吐出ヘッドユニット30の構成を説明する。検出光学系32は、基板14上の画像情報を取り込むもので、液滴42を吐出させるインクジェットヘッド33に近接し、検出光学系32の光軸41および焦点位置と、インクジェットヘッド33による液滴42の着弾位置43とが一致するよう配置されている。この場合、検出光学系32とインクジェットヘッド33との位置関係は、ヘッドアライメント微動機構34とヘッドアライメント制御機構31により精密に調整できるようになっている。また、検出光学系32には、CCDカメラとレンズとを用いている。
再度、図4に戻って説明する。画像識別機構36は、先の検出光学系32で取り込まれた画像情報を識別するもので、画像のコントラストを2値化し、2値化した特定コントラスト部分の重心位置を算出する機能を有したものである。具体的には、(株)キーエンス製の高精度画像認識装置;VX−4210を用いることができる。これによって得られた画像情報に基板14上における位置情報を与える手段が位置検出機構38である。これには、XY方向走査機構37に設けられたリニアエンコーダ等の測長器を利用することができる。また、これらの画像情報と基板14上での位置情報をもとに、位置補正を行なうのが位置補正制御機構39であり、この機構によりXY方向走査機構37の動きに補正が加えられる。また、インクジェットヘッド駆動・制御機構40によってインクジェットヘッド33が駆動され、液滴が基板14上に塗布される。これまで述べた各制御機構は、制御コンピュータ35により集中制御される。
なお、以上の説明は、吐出ヘッドユニット30は固定で、基板14がXY方向走査機構37により任意の位置に移動することで吐出ヘッドユニット30と基板14との相対移動を実現しているが、図3に示したように、基板14を固定とし、吐出ヘッドユニット30がXY方向に走査するような構成としてもよいことはいうまでもない。特に、200mm×200mm程度の中画面〜2000mm×2000mmあるいはそれ以上の大画面の画像形成装置の製作に適用する場合には、後者のように、基板14を固定とし、吐出ヘッドユニット30が直交するX、Yの2方向に走査するようにし、溶液の液滴の付与をこのような直交する2方向に順次行うようにする構成としたほうがよい。
他の例として、基板サイズが、例えば、短手方向の長さが400mm程度以下の場合には、液滴付与のための吐出ヘッドユニットを400mmの範囲をカバーできるラージアレイマルチノズルタイプとし、吐出ヘッドユニットと基板の相対移動を直交する2方向(X方向、Y方向)に行うことなく、1方向(長手方向)のみ(例えばX方向のみ)に相対移動させることも可能であり、また、量産性も高くすることができるが、基板サイズの短手方向が400mmより長い場合には、そのような400mmより長い範囲をカバーできるラージアレイマルチノズルタイプの吐出ヘッドユニットを製作することは技術的/コスト的に実現困難であり、本発明のように、吐出ヘッドユニット30が直交するX、Yの2方向に走査するようにし、溶液の液滴の付与をこのような直交する2方向に順次行うようにする構成としたほうがよい。
液滴42の材料には、先に述べた導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する水溶液、有機溶剤等を用いることができる。例えば、導電性薄膜となる元素あるいは化合物がパラジウム系の例を以下に示すと、酢酸パラジウム−エタノールアミン錯体(PA−ME)、酢酸パラジウム−ジエタノール錯体(PA−DE)、酢酸パラジウム−トリエタノールアミン錯体(PA−TE)、酢酸パラジウム−ブチルエタノールアミン錯体(PA−BE)、酢酸パラジウム−ジメチルエタノールアミン錯体(PA−DME)等のエタノールアミン系錯体を含んだ水溶液、また、パラジウム−グリシン錯体(Pd−Gly)、パラジウム−β−アラニン錯体(Pd−β−Ala)、パラジウム−DL−アラニン錯体(Pd−DL−Ala)等のアミン酸系錯体を含んだ水溶液、さらには酢酸パラジウム・ビス・ジ・プロピルアミン錯体の酢酸ブチル溶液等が挙げられる。
より具体的には、たとえば、酢酸パラジウム−トリエタノールアミン水溶液の例で説明すると、以下のようにして製造される。すなわち、50gの酢酸パラジウムを500ccのイソプロピルアルコールに懸濁させ、さらに100gのトリエタノールアミンを加え35℃で12時間攪拌する。反応終了後、イソプロピルアルコールを蒸発により除去し、固形物にエチルアルコールを加えて溶解、濾過し、濾液から酢酸パラジウム−トリエタノールアミンを再結晶させる。このようにして得た酢酸パラジウム−トリエタノールアミン10gを190gの純水に溶解し、噴射用溶液とすることができる。
他の例としては、パラジウム微粒子を電圧60V、周波数50Hz、酸素流量40ml/minのオゾン発生装置でオゾン処理し、その処理済みのパラジウム微粒子7gをエチレングリコール5g、エタノール8g、純水80gの溶液に分散させ、噴射用溶液とすることができる。
以上の説明より明らかなように、本発明の電子源基板は、導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する溶液をインクジェットの原理で空中を飛翔させ、基板上に液滴として付与して製作されるものであるが、高品位な表面伝導型電子放出素子を長期にわたって安定して形成するためには、その製造装置が安定して一定の性能を維持するものでなくてはならない。ここで、一番重要な点は噴射ヘッドの長期性能安定性である。前述のように、本発明では、導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液は、液体に金属微粒子を分散させた溶液である。
しかしながら、この金属微粒子は溶液中に分散している砥粒のような存在であり、この溶液を大量使用した場合、噴射ヘッドの溶液の通り道を損傷させたり、摩耗させたりするという問題がある。通り道の中でも、とりわけ吐出口部(ノズル部)のキズや、摩耗は溶液の液滴噴射性能に影響を及ぼすため問題となる。
ところで、このキズや、摩耗は、2つの物体が互いにぶつかり合う、あるいは、こすれあう際に生ずるものであるから、互いの物体の硬さを適切に選ぶことにより、解決できるものと考えられる。また、キズについても、これが噴射ヘッドの液滴噴射性能に影響を及ぼすのは事実ではあるが、どのくらい影響を及ぼすのかは、キズの大きさと溶液の通り道の大きさとによって決まると考えられる。たとえば、内径Φ15mm〜Φ20mmの放水用のホースにナノメーターオーダーのキズがあったとしても、放水流量に多大な影響を及ぼすことはあり得ない。
本発明では、これらの点を考慮しながら、吐出口部の材質の硬さと、金属微粒子の材質の硬さならびに吐出口部の大きさを鋭意検討したものである。
具体的には、図6に示したような噴射ヘッドで、矩形のノズル部58の面にマルチノズルプレートを貼り付けた噴射ヘッドを使用し、一定時間溶液噴射を行うことにより、吐出口部(ノズル孔部)にキズが生じるかどうか、また、溶液滴吐出性能の劣化により、形成される素子形状(ドットパターンの形状良否)、素子性能の劣化が生じるかどうかを調べた。マルチノズルプレートは、材料およびノズル径(ここでは丸形状とした)を変えたものを準備した。素子性能は、後述のフォーミング処理等を行った後、性能を調べた。
使用した噴射ヘッドは、熱エネルギーを使用するサーマルインクジェット方式であり、前述のように、図6の噴射ヘッドに、ノズルプレートを装着したもの(ノズルプレートは図示せず)であるが、図6に示したものは、説明を簡単にするため吐出口を4個しか示していない。実際に使用したのは吐出口の数が64個で、その配列密度が400dpiのものである。なお、図6において、50は噴射ヘッド、51は発熱体基板、52は蓋基板、53はシリコン基板、54は個別電極、55は共通電極、56は発熱体、57は溶液流入口、58はノズル、59は溝部、60は凹部領域で、図6(A)は噴射ヘッドの斜視図、図6(B)は発熱体基板51と蓋基板52とを分解した分解図、図6(C)は蓋基板52を裏側から見た斜視図である。
また、発熱体の大きさは、22μm×90μmで、その抵抗値は111Ωであり、液滴噴射の駆動電圧は24V、駆動パルス幅は6.5μs、駆動周波数は12kHzとした。
噴射は100時間連続噴射とし、噴射後吐出口部分をSEM観察して、キズの有無を調べた。
吐出口径は、Φ25μm(H1)、Φ16μm(H2)、Φ10μm(H3)のものを用意した。比較参考例として、吐出口径がΦ36μmのもの(参考ヘッド)も用意した。この場合は、吐出口の数が48個で、その配列密度が240dpiのものである。そして、この発熱体の大きさは35μm×150μmで、その抵抗値は120Ωであり、インク噴射の駆動電圧は30V、駆動パルス幅は7μs、駆動周波数は3.8kHzとした。ノズルプレートの厚さは、H1、H2は30μmとし、H3は20μm、参考ヘッドは40μmとした。噴射時の液滴の速度は、いずれの噴射ヘッドの場合も約8m/sとした。
ノズルプレート材質は、Niとオーステナイト系ステンレスSUS304とし、Ni材質のものはエレクトロフォーミング法でマルチノズルプレートを製作し、SUS304材質のものは、ステンレス箔に放電加工によってノズル孔を穿孔した。それぞれ硬度をビッカース硬度計で測定したところ、Ni材質の場合はビッカース硬度Hvが58〜63、SUS304材質のものはビッカース硬度Hvが170〜190であった。
使用した液体は、表1に示すS1からS7であり、それぞれ含有金属粒子の元素名と、そのバルク状態におけるビッカース硬度Hvを示した。なお、このビッカース硬度Hvは、金属データブック(日本金属学会編、改定3版、出版:丸善)の値を掲載した。それぞれの溶液における金属微粒子含有量は約7%とし、また微粒子径は150Å〜200Åであった。
これらのサンプル溶液および噴射ヘッドを使用して評価した結果を表2−表5に示す。表中、キズの○は100時間噴射後に、目立ったキズが確認できなかったもの、×はノズル形状、あるいは寸法にまでも影響をおよぼすような多数のすりキズが存在したものである。素子形状の○は100時間噴射後に、素子を作製した際の、ドットパターンが、狙いの位置(一対の電極間)に良好な丸い形状で形成されたものであり、×は位置がやや狙いの場所から外れていたり、形状がいびつであったり、微小滴が周囲に飛散していたりしたものである。素子性能の○×は後述のフォーミング処理等を行った後の電子放出の良(○)否(×)である。
以上の結果より、含有金属微粒子の硬度が、吐出口材質より大であるもの(S3、S6)の場合、吐出口に傷がつくことがわかる。また、それによって形成された素子形状は悪く、素子性能も悪いことがわかる。よって、本発明のような製造装置によって、このような表面伝導型電子放出素子を形成する場合には、金属微粒子は吐出口を構成する部材よりやわらかい材料を選ぶ必要があることがわかる。
なお、そのキズに関しては、吐出口の大きさとの関係で、素子形状が悪くならないものもある。参考ヘッドのように、吐出口径がΦ36μmもある(=面積が約1000μm2)ような場合には、キズはついても吐出口径が大きいために、噴射性能を劣化に至らしめるほどのキズではなく、十分に使用可能な素子形状が得られている。一方、吐出口径がΦ25μm以下(=面積が約500μm2未満)の場合のように、面積比較で参考ヘッドの半分以下のような場合には、同じようにキズがついても、吐出口径との比較において与える影響は大であり、良好な素子形状、素子性能が得られないことがわかる。
つまり、それほど微細な表面伝導型電子放出素子を形成しないのであれば、キズの問題は素子性能に影響を与えないので気にすることはないが、本発明のように、吐出口径Φ25μm以下の液滴噴射ヘッドにより、10Åないし200Åの金属微粒子を含有する溶液を噴射付与し、導電性薄膜による表面伝導型電子放出素子群を形成するような場合には、吐出口部のキズは、素子性能にとって致命的であるので、キズができないような溶液および吐出口部材の組み合わせを選ぶ必要がある。すなわち、金属微粒子は吐出口を構成する部材よりやわらかい材料とする必要がある。
なお、実験では、丸形状のΦ25μmノズル(面積が約490μm2)、Φ16μmノズル(面積が約200μm2)、Φ10μmノズル(面積が約80μm2)を使用したが、噴射ヘッドのノズルとして他の形状(たとえば矩形等)のものを使用する場合には、その面積比較をすればよく、たとえば、22μm×22μmのノズルが、本発明の丸形状のΦ25μmノズルと同等である。言い換えるならば、本発明は、面積が500μm2未満のノズルを使用した噴射ヘッドで、このような溶液を噴射して表面伝導型電子放出素子群を形成する場合に適用されるものである。
次に、本発明の他の特徴について説明する。前述のように、本発明では、導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液は、液体に金属微粒子を分散させた溶液である。そして、いわゆる、インクジェット噴射原理と同等の技術でその溶液を微細な吐出口から噴射して、基板上に導電性薄膜を形成する技術に関するものである。しかしながら、従来インクジェット記録分野で使用しているインクでは染料が溶液中に溶解しているのに対して、本発明で使用する溶液は金属微粒子は溶液中に分散しているだけなので、目詰まりが起こりやすい。
さらに、本発明では、必要とされる素子(電子放出素子)の用途から、従来にはない微細な吐出口径、例えば、吐出口径がΦ25μm以下(面積でいうならば500μm2未満)であるような噴射ヘッドを使用しなければならず、この目詰まりは大変深刻な問題である。
ところで、目詰まりとは、微細な吐出口から溶液が噴射するという原理そのものに由来するものである。つまり、吐出口が微細であるがゆえに生じるものである。よって、その吐出口の大きさと、いわば溶液中の異物とでもいうべき金属微粒子の大きさには密接な関係がある。
本発明は、この点に鑑み、吐出口の大きさと金属微粒子の大きさに着目し、目詰まりの生じにくさとそれらの関係を見い出したものである。具体的には、金属微粒子径を変えた溶液を調合し、吐出口の大きさがわかっている噴射ヘッドを使用し、一定時間液滴噴射を行った後、一定時間放置し、液滴噴射を再開し、吐出口の目詰まりの有無を調べた。その場合、吐出口の完全閉塞だけではなく、部分的な目詰まりおよびそれに至る事前の兆候(わずかな目詰まり)も目詰まりとみなしてテストした。
使用した噴射ヘッドは、熱エネルギーを使用するサーマルインクジェット方式と同等のものであり、前述のように、図6の噴射ヘッドに、ノズルプレートを装着したもの(ノズルプレートは図示せず)であるが、図6に示したものは、説明を簡単にするため吐出口を4個しか示していない。実際に使用したのは吐出口の数が128個で、その配列密度が600dpiのものである。また、発熱体の大きさは20μm×85μmで、その抵抗値は105Ωであり、液滴噴射の駆動電圧は22V、駆動パルス巾は6μs、駆動周波数は14kHzとした。なお、記録ヘッドはH1〜H4まで用意した(それぞれの吐出口径をH1=Φ25μm、H2=Φ20μm、H3=Φ15μm、H4=Φ10μmとした)。また、そのノズルプレートはNiのエレクトロフォーミングによって形成したものであり、吐出口部分の板厚は、全て30μmとした。
使用した溶液は、パラジウム微粒子を電圧60V、周波数50Hz、酸素流量40ml/minのオゾン発生装置でオゾン処理し、その処理済みのパラジウム微粒子7gをエチレングリコール5g、エタノール8g、純水80gの溶液に分散させ、噴射用溶液としたものであるが、パラジウム微粒子径を0.0003〜0.5μmまで変えたものを準備し、吐出口径の異なるH1〜H4と組み合わせてテストした。また、一定時間(10分間とした)液滴噴射を行った後の放置の条件は、温度40℃、湿度30%の雰囲気中で10時間放置である。
これらのパラジウム微粒子径を変えた溶液と吐出口径を変えたヘッドH1〜H4を組み合わせて、目詰まりの発生状況を調べた結果を表6〜表9に記す。
表6はヘッドH1(吐出口径Do=Φ25μm)の場合、表7はヘッドH2(吐出口径Do=Φ20μm)の場合、表8はヘッドH3(吐出口径Do=Φ15μm)の場合、表9はヘッドH4(吐出口径Do=Φ10μm)の場合を示す。判定の○は実用的に良好に使用できる場合、△は使うことは可能であるがあまり好ましくない場合、×は全く実用的ではない場合を示している。なお、パラジウム微粒子径が0.001μm以下の場合は、安定的に分散させることができなくて、評価はできなかった。
以上の結果より、吐出口径がΦ10μm〜Φ25μmの噴射ヘッドを用いた場合、パラジウム微粒子径Dpと吐出口径Doとは、Dp/Do≦0.01の関係を満足するようにすれば目詰まりのない安定した液滴噴射が得られることがわかる。なお、Dp/Doの下限値であるが、このように大変微細な金属微粒子を安定して、溶液中に分散することを考えると、パラジウム微粒子径Dpが0.001μm以下は困難である。また、吐出口径がΦ25μm以下の噴射ヘッド全てに安定して液滴噴射させられるようにするには、余裕をみてその下限値を0.0002にすればよい。すなわち、金属微粒子径Dpと吐出口径Doとは、0.0002≦Dp/Do≦0.01の関係を満足するようにすれば、吐出口径がΦ25μm以下の噴射ヘッドを使用した液滴噴射による導電性薄膜形成を行うことができる安定した分散液を製造でき、目詰まりも生じないようにすることができることがわかる。
なお、この実験でも、丸形状の吐出口(ノズル)を使用したが、前述のように、他の形状の場合は、その面積比較をすればよく、たとえば、22μm×22μmの矩形吐出口の場合は、本発明の丸形状のΦ25μmノズルと同等である。言い換えるならば、本発明は面積が500μm2未満のノズルを使用した噴射ヘッドで、このような溶液を噴射して表面伝導型電子放出素子群を形成する場合に適用されるものである。
また、実験は、サーマルジェット(バブルジェット(登録商標))方式の噴射ヘッドを使用したが、本発明の製造装置に使用される噴射ヘッドは、これに限定されることなく、圧電素子を用いたピエゾジェット方式、静電力を利用した方式、あるいは荷電制御方式(連続流方式)等いずれのものでも構わない。
例えば、圧電素子を用いたピエゾジェット方式の場合、ピエゾ素子への入力電圧をいつも一定にすることにより液滴飛翔時に丸い均一滴が得られ、基板上で良好な丸いドットが得られる。また、サーマルジェット方式のように熱を利用していないため、使用する溶液が熱劣化するということもなく、使用する溶液の制限が少ないというメリットがある。
一方で、サーマルジェット方式の場合は、溶液の飛翔時に微小なサテライト滴を伴いながら飛翔するが、飛翔時の速度が速く(例えば6m/s〜18m/s)、安定した噴射飛翔が得られるというメリットがある。その結果、微小なサテライト滴も同様に高速(6m/s〜18m/s)で飛翔し、基板上の同一箇所に付着し、高精度着弾位置を確保したドットが得られる。つまり、サーマルジェット方式の場合は、微小なサテライト滴が飛散しているように飛翔していても、発熱体への入力エネルギーをいつも一定にしてやれば、1ドットを形成するためのトータルの溶液量は同じ(同一箇所に付着するので)となり、ピエゾジェット方式の場合と同様に良好な丸いドットが得られ、高品位/高品質な電子放出素子が得られ、さらにその位置精度も高いものが得られる。
図7は、本発明が好適に使用される膜沸騰気泡の成長作用力を利用して金属微粒子材料含有溶液を微小吐出口から噴射させるサーマルジェット方式の場合の噴射、飛翔時の溶液の形状を示したものである。図8、図9は、ピエゾ素子を液滴吐出の原動力とし、機械的作用力で噴射させるピエゾジェット方式の場合の噴射、飛翔時の溶液の形状を示したものである。
図7と図8および図9の違いは、図7の場合が、溶液の一部を瞬時(数μsの間)に300〜400℃に加熱させ、膜沸騰気泡を発生させ、その気泡の瞬時(数μsの間)の成長、圧力上昇(作用力)を利用して溶液を噴射するために、図8および図9に示すピエゾ素子を液滴吐出の原動力とし、機械的作用力で噴射させるピエゾジェット方式の場合よりも噴射圧力が高く、噴射速度も速いという点である。その結果、図7に示すように、飛翔時に、溶液の飛翔形状が飛翔方向に細長柱状に伸びる液滴42と、後方に複数の微小な42滴を伴って高速で飛翔するという特徴を持っている。たとえば、溶液飛翔時の形状は、通常安定した膜沸騰気泡を発生させて飛翔させた場合、飛翔方向に伸びた細長柱状の長さlは、その直径dの5倍以上の長さとなり、またその速度は、ほぼ6m/s〜18m/sとなって飛翔する。
その結果、噴射が安定し噴射された溶液の基板上への着弾精度が高いという利点があるが、一方で、噴射ヘッドと基板の相対的な移動速度を適切に選ばないと、飛翔方向に細長柱状液滴42に伸びた後方部の溶液や、後方に連なった複数の微小な滴(サテライト微小滴)が、良好な丸いドット形成を妨げることもなる。
本発明ではこの点に関して鋭意検討した結果、このような金属微粒子材料含有溶液の噴射を行う場合、その噴射速度と前記相対移動速度との間の関係を最適化することが必要であることに気がついた。
ところで、このように吐出ヘッドユニット11を基板14に対して一定の距離を保ちながらX、Y方向の相対移動を行いつつ、金属微粒子材料含有溶液の噴射を行い、電子放出素子パターンを形成する場合には、溶液は前記相対速度と噴射速度の合成ベクトルの速度で基板14上に付着、形成される。そしてその位置精度については、基板14と吐出ヘッドユニット11の溶液噴射口面の距離と、前記合成ベクトルの速度を考慮し、噴射のタイミングを適宜選ぶことにより、その狙いの位置に溶液を付着させることができる。
しかしながら、たとえ狙いの位置に付着させることができたとしても、もし、前記相対速度が速すぎる場合には、その相対速度に引きずられて付着溶液が基板14上で流れ、良好な丸いドット形状とならず、良好な電子放出素子パターンを形成できなくなる。また、後方に連なった複数の微小な滴(サテライト微小滴)が、本来付着すべき位置から外れた位置に、ランダムに散らばった状態で付着し、良好な丸いドット形成の妨げ、電子放出素子性能の低下を引き起こす場合がある。本発明はこの点について検討したものである。
以下に、検討結果の1例を示す。この例は、図3に示したような装置を用い、キャリッジ12のX方向移動速度、ならびに吐出ヘッドユニット11の噴射速度を変えて、基板14上で良好な溶液付着ができ、良好な電子放出素子パターン形成ができるかどうか調べたものである。
図10にテストに使用したパターンの例を示す。ここでは、パラジウム微粒子含有溶液を噴射させ、2列の近接した素子電極2,3(ITO透明電極間)を、前記溶液によるドットパターン42をつなぎ合わせた電子放出素子パターンを形成し、そのパターンの形成状況を評価したものである。評価は、形成後のパターンを顕微鏡下で観察し、良/不良(○/×)を判断した。図10(A)は良(○)であり、図10(B)のように、個々のドットパターンが良好な丸い形状にならず、長円形になったり、基板上における着弾位置も本来の狙いの位置から外れたりして、隣のドットパターンと接触したりするようなものは不良(×)である。さらに、ドットパターン42に起因する微小な滴が散在しているようなものも不良(×)とした。
このような形状の評価とあわせて、上下のITO透明電極間の抵抗値を測定し、ドット位置精度不良による断線あるいは隣(左右)のドットとの接触による抵抗値変動などを評価した(○:狙い通りの抵抗値、×:狙いから外れた抵抗値)。
実験条件の詳細を以下に示す。使用した基板はITO透明電極付きガラス基板であり、前述のパラジウム微粒子含有溶液(ここでは、微粒子径が0.01μmのものを使用)を図6に示した噴射ヘッド(ただし、Φ15μmの開口を設けたNiエレクトロフォーミング形成によるマルチノズルプレートを別途設けたもの)と組み合わせて、図10のような1対のITO透明電極2,3を4ドットで埋めるようにパターンを形成した。また、隣に中心間距離wを25μmとして、同様のITO透明電極およびITO透明電極間をつなぐ同様のパターンを形成している。
使用した噴射ヘッドは前述のような噴射ヘッド(図6は、簡略化した4個のノズルを示している)であるが、ノズル(吐出口)数を64個としている。また、その配列密度が400dpiのものである。発熱体サイズは10μm×40μmであり、その抵抗値は102Ωである。ヘッドの駆動電圧は12V、パルス幅は3μs、駆動周波数は14kHzとした。噴射滴の体積はほぼ3plである。
このような条件で、ガラス基板上に前述のようなパターン(図10)を形成し、形成後のパターン評価を行うとともに、それと同じ条件で、別途噴射実験を行い、吐出口から3mm先の溶液の噴射状況を観察した。これは図10のテストパターンを基板と吐出口間距離を3mmとして製作したからである。飛翔形態は図7に示したように、飛翔方向に非常に細長く伸びた柱状(l=5d〜20d)42であった。また、飛翔滴後方に複数の微小な滴42を伴ったような状態であった。以下に検討結果を示す。
以上の結果より、キャリッジのX方向移動速度が、噴射速度の1/3を超えると、良好な素子が形成できないことがわかる。なおこの例は、噴射ヘッドをキャリッジ走査した例であるが、図4のように噴射ヘッドを固定し、基板を移動させる場合にも適用される。すなわち、このようにサーマルジェット方式で噴射した場合は、噴射ヘッドと基板の相対的な移動速度は、噴射される溶液の速度の1/3以下にしなければならないということである。
次に本発明のさらに他の特徴について説明する。本発明によって製作される電子源基板は、無数の微細金属微粒子、金属ナノ微粒子を溶液中に分散させてなる金属微粒子材料含有溶液をインクジェットの原理で空中を飛翔させ、基板上に液滴として付与して製作されるものであるが、高精度かつ高品位な性能をもつ電子源基板を製作するためには、基板上に金属微粒子材料含有溶液を噴射、付与して、微細なドットパターン形成を行う際の基板の表面粗さと金属微粒子の大きさを最適化しておく必要がある。
たとえば、基板の表面粗さというのは、その表面の凹凸であるが、図11のように、基板1の表面1′の凹凸からはみ出すような大きさの粒子6が、基板1の表面1′に付着すると、良好なドットパターンが得られないであろう。一方で、図12のように、この凹凸以下の大きさの粒子7であれば、良好なドットパターンが得られるであろう。本発明ではこの点に鑑み、あらかじめ表面粗さのわかっている基板1上に、サイズの異なる金属微粒子を含有させた溶液によって、ドットパターン42を形成し、その形成されたパターンの良否を評価した。
実験は、パイレック(登録商標)スガラスを研摩し、その表面粗さが0.01s〜0.02sとなるようにし、その研摩された基板上に前述のパラジウム微粒子含有溶液(ここでは、微粒子径が0.002μm〜0.2μmのものを使用)を、図6に示したような液滴噴射の原動力を溶液中で瞬時に発生する膜沸騰気泡の成長作用力によるサーマルジェット方式(バブルジェット(登録商標)方式)の液体噴射ヘッドと組み合わせて噴射させ、ドットをつなぎあわせたパターンを形成し、そのパターンの滑らかさを顕微鏡下で観察し、官能評価し、良〜可〜不良(○〜△〜×)を判断した。
なお、ここでは、図6のように流路がそのままノズル58となる形式のものではなく、ノズル58面に別途ノズル孔を穿孔したノズルプレートを設けた構造とした噴射ヘッドを使用した。またそのノズルは、Niのエレクトロフォーミングにより形成した丸形状のノズルであり、大きさはΦ15μm、開口部分の板厚を13μmとしたものである。
また、ノズル数は64個、配列密度を400dpiとしたものである。発熱体サイズは10μm×40μmであり、その抵抗値は100Ωである。ヘッドの駆動電圧は12Vであり、パルス幅は3μs、駆動周波数は14kHzとした。この条件で噴射される1滴の液滴量は約3plである。
形成したパターンは、図10に示すように、パイレックス(登録商標)ガラス上に、上下に20μmの間隔に形成したITO透明電極2,3間に縦方向に1列で、約Φ18μmのドットを約8μmピッチで4個打ち込んだものである。
なお、ドット間ピッチ8μmを得るために、噴射ヘッドと基板を相対運動させ(ここでは、基板固定、噴射ヘッドをキャリッジ走査)、その位置をμオーダーで制御し、また、噴射のタイミングをコントロールして、上記のように約8μmピッチによるドット付着を行った。また、隣に中心間距離を25μmとして、同様のITO透明電極2,3およびITO透明電極2,3間をつなぐ同様のパターンを形成している。
このような条件で、ガラス基板上に前述のようなパターン(図10)を形成し、形成後のパターン評価を行うとともに、それと同じ条件で、別途噴射実験を行い、吐出口から3mm先の溶液の噴射状況を観察した。これは図10のテストパターンを基板と吐出口間距離を3mmとして製作したからである。飛翔形態は図7に示したように、飛翔方向に非常に細長く伸びた柱状(l=5d〜20d)であった。また、飛翔滴後方に複数の微小な滴を伴ったような状態であった。
なお、前述のように、パラジウム微粒子含有溶液は、微粒子径が0.002μm〜0.2μmまで異なるものをそれぞれ準備して使用した(溶液Noは共通である)が、微粒子径が0.02μm以上の場合には、ノズル目詰まりが発生し始めるので、形成したパターンのうち、目詰まりが生じなくて、良好にパターン形成されたもののみを選別して評価を行った。以下に結果を示す。
以上の結果より、溶液に含有される金属微粒子は、基板のパターンが形成される面の表面粗さ以下の大きさとすることにより、滑らかで良好かつ高精度なドットパターンが形成でき、良好な電子放出素子ができることがわかる。一方で微粒子の大きさをそれより大きくすると、ドットパターン形状の滑らかさが損なわれ、良好な電子放出素子ができないことがわかる。
言い換えるならば、滑らかな良好なパターン形成を行い、良好な電子放出素子を得るためには、基板のパターンが形成される面の表面粗さは溶液に含有される金属微粒子の大きさより粗くすればよいわけであるが、粗いとはいっても、本発明に使用される金属微粒子は大変微細なナノ微粒子であるため、その基板の表面粗さは視覚的には鏡面状態であり、基板を高精度に研摩する必要がある。あるいは、基板の表面にSiO2等の薄膜を形成したような基板を使用する場合においても、その薄膜形成時(例えばスパッタリング等によって形成される)にも、表面のなめらかなSiO2面を得るには、時間をかけて丁寧に膜形成を行う必要がある。すなわち、基板製造コストが高いということである。
ところで、本発明の電子源基板は、基板の片面にパターンを形成する構造のものであることを考慮すると、パターンを形成する面のみ、なめらかな面となった基板を使用すればよいことがわかる。つまり、基板の表面(パターンを形成する面)のみ、前述のような表面粗さとし、裏面はそれより粗い面にしても十分事足りる。
言い換えるならば、本発明では基板のパターンを形成する面より裏面の表面粗さを粗くなるようにした基板を用いることにより、高精度な電子放出素子が形成された電子源基板が得られるとともに、基板製造コストを低くすることができるということである。例えば、おもて面(パターンを形成する面)より裏面粗さを1桁粗くする(例えばおもて面を0.01s〜0.02sとした場合、裏面を0.1s〜0.2sとする)だけで、基板製作コストは大幅に下がる。さらに、それ以上粗くすれば、実質的にはほとんどおもて面を良好な面とするだけのコストとなり、表裏両面を高精度に研摩した基板の半分近い製作コストとすることができる。ただし、裏面粗さの上限であるが、いくらでもよいということではなく、一定の水準の工業製品としての品質を維持する必要はある。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。前述のように、本発明は、金属微粒子を溶液中に分散させてなる金属微粒子材料含有溶液をインクジェットの原理で空中を飛翔させ、基板上に付与してパターンを形成し、電子放出素子を製作するものであるが、溶液噴射、付与後の液滴あるいは溶液によって形成されるドットパターン中の揮発成分が揮発後の固形分が残留することによってできる電子放出部のパターンの厚さが、高品位な電子放出素子を得るためには重要となる。例えば、電子放出素子を形成する基板は、ある表面粗さを持っているが、良好な電子放出素子を得るためには、パターンの厚さとこの表面粗さ、すなわち、表面の凹凸との関係を適切に選ぶ必要がある。以下に検討結果を示す。
実験は、その表面粗さが異なるパイレックス(登録商標)ガラス基板を用意し、そこに1対の素子電極を形成したものに、パラジウム微粒子含有溶液を前述のH3噴射ヘッド(ノズル径Φ15μm)と組み合わせて噴射させ、ドットをつなぎあわせたパターンを形成し、それを後述のフォーミング処理を行って素子を作成し、実際に良好に機能するかどうか(良好な電子放出が得られる…○、電子放出が得られない…×)を評価した。
なお、パターン膜厚を変えるために、溶液は、前述のNo.6の溶液(パラジウム微粒子径Dp=0.006μm)を純水により2〜50倍に希薄して使用した。その結果、噴射、付与によりパターンが形成され、乾燥して固形分が残留した後のパターン膜厚の異なる電子放出素子を形成することができた。
実験条件の詳細を以下に示す。パターンは縦方向に1列で、約Φ18μmのドットを約8μmピッチで4個打ち込んだものである。
噴射ヘッドと基板は相対運動(ここでは、基板固定、噴射ヘッドをキャリッジ走査)を行い、その制御をμオーダーで制御し、また噴射のタイミングをコントロールし、上記のように約8μmピッチによるドット付着を行った。
使用した噴射ヘッドのノズルの大きさはΦ15μm、開口部分の板厚は13μmとしたものであり、ノズル数は64個、配列密度を400dpiとしたものである。発熱体サイズは10μm×40μmであり、その抵抗値は100Ωである。ヘッドの駆動電圧は12Vであり、パルス幅は3μs、駆動周波数は14kHzとした。この条件で噴射される1滴の液滴量は約3plである。以下に結果を示す。
以上の結果より、本発明の原理によって形成される電子放出素子は、その電子放出部の前記パターンの厚さを基板の表面粗さ以上の厚さとなるようにすることにより、良好な電子放出素子が得られることがわかる。
ところで、このような丸いドットパターンを組み合わせて電子放出素子を形成する場合、良好な電子放出素子として機能するには、良好な丸いドットパターンのみならず、それらを組み合わせて形成されるパターンもその形状が良好である必要がある。
図13を使って説明する。図13は、基板上に形成されている2つのITO透明電極2,3間に本発明の原理によって、金属微粒子を分散させた溶液を噴射し、丸いドットパターン42を形成し、電子放出素子を形成する場合の模式的な図である。図中、Ldは基板上にドットを単独で形成した場合のドット径であり、Pdは隣接ドットの中心間距離(ドットピッチ)である。
図13(A)は、2つのITO透明電極2,3間に3つのドット42を形成した場合であるが、形成(打ち込み)密度があらすぎて2つのITO透明電極2,3間を電気的に接続されない場合(Pd>Ld)であり、この場合はいうまでもなく良好な素子として機能しない。図13(B)は、各ドット42が周辺部でかろうじて電気的に接続されている例である(Pd=Ld)。図13(C)は、図13(B)の場合よりも、各ドットが周辺部で互いに重なり合って電気的に接続されている例である(Pd<Ld)。図13(D)、(E)はさらに重なり合う領域が大である場合である。
ここで、単に電気的接続が得られるかどうかという観点から見ると、図13(A)は論外として、図13(B)〜図13(E)の場合は一応接続できている。しかしながら、図13(B)や(C)の場合、丸いドットを横1列に組み合わせて形成された1本のラインパターンとしてみると、隣接ドット間(ドットが重なりあう領域)で、ラインパターン幅(図の縦方向の幅)が狭くなり、断線の危険性が大変高い。例えば、図13(B)のように、各ドットが周辺部でかろうじて接続されているような場合は、一応は接続されてはいるが、電気信号入力と同時に断線してしまい全く使いものにならない。また図13(C)の場合においても同様の理由で、使用し始めの初期は使えても、長期的な使用には耐えない。
本発明では、これを解決するために、このような隣接ドット間に確実に1ドット以上重ねるようにしている。仮に図13(B)の場合のように、各ドット42が周辺部でかろうじて接続されているような場合であっても、隣接ドット間の中央に1ドット重ねて形成すれば、その1ドットがない場合にラインパターン幅が最小値となる領域に1ドット重ねるので、その領域のラインパターン幅は、最大値、すなわち1ドット分の幅(Ld)となる。
このように隣接ドット間の中央に1ドット重ねて形成する条件は、別の表現をするならば、ドットを単独で形成した場合のドット径をLdとする時、Ld/2以下の密度で打ち込んで形成することである。
また、このようにすると、断線が生じない長期の信頼性に優れたラインパターンが形成できるのみならず、ラインパターンの輪郭も凹凸の少ないなめらかなものとなる。これは、図13(B)、(C)のように、丸いドットが電気的接続が得られる密度で打ち込まれているのみで、隣接ドット間に間を埋めるためのドットがない場合と、図13(D)、(E)のように、すでに電気的接続が得られる密度に加えて、隣接ドット間に間を埋めるためのドットを1ドット以上重ねて設けた場合を比較すれば、明白である。後者のほうがラインパターンの輪郭も凹凸の少ないなめらかなものとなり、ばらつきの少ない優れた電子放出素子が得られる。
なお、本発明は、図13に示すように、最終的な電子放出素子のラインパターンが、液滴のドットを1列に配列して形成するような場合に適用されるものである。
例えば、本発明の製造装置によって図14に示すようなラインパターンも形成される。この場合は、横方向に1列にドットを配列したものを3本ならべて比較的太いライン幅を得るようにした例である。また、この例は、図13(C)の配列例で3本ならべて太いラインパターンが得られるようにしたものである。つまり、1本だけでは断線が生じる場合の例である。
しかしながら、このように3本(2本であってもよい)ならべているため、断線は生じることなく良好に機能する。よって、このように複数本(この例では3本)ならべたような場合には、丸いドットが電気的接続が得られる密度で打ち込まれているのみで、隣接ドット間に間を埋めるためのドットがなくても、縦方向(ラインパターン幅方向)に複数本ならべているので断線の危険性はない。
すなわち、本発明のように、隣接ドット間に間を埋めるためのドットを1ドット以上重ねて設けるという条件は、より微細な電子放出素子を形成するために液滴あるいは溶液のドットを1列に配列して形成するような場合に適用しなければならない条件である。
なお、2つの電極はITO透明電極の例で実験、説明しているが、必ずしもITOに限定されるものではなく、Al、Au、Cu等の材料も好適に使用できる。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。本発明は、電子放出素子を製作する技術であるが、形成される電子放出素子部は、通常は基板上に先に形成されている一対の電極パターンの上に金属微粒子材料含有溶液を噴射し、丸いドットパターンを形成し、電子放出素子を形成する。ここで重要なことは、先に形成されているパターンの上に新たに金属微粒子材料含有溶液を噴射し、そのパターンと先の電極パターンとの電気的接続を行う際の品質である。図15を使って説明する。
図15は、基板上に形成されている2つのITO透明電極2,3間に本発明の原理によって、金属微粒子材料含有溶液を噴射し、丸いドットパターン42を形成し、電子放出素子を形成する場合の模式的な図である。図中、Ldは基板上にドットを単独で形成した場合のドット径である。
図15(A)は、2つのITO透明電極間に金属微粒子材料含有溶液を噴射しドットパターンを形成した場合であるが、2つのITO透明電極2,3間は、ドットパターンの左右端部においてかろうじて電気的に接続されている例である。図15(B)は、図15(A)の場合よりも、各ドットが周辺部で互いに重なり合って電気的に接続されている例であり、重なり領域の長さをLcで現している。図15(C)、(D)はさらに重なり合う領域Lcが大である場合である。
ここで、単に電気的接続が得られるかどうかという観点から見ると、図15(A)〜(D)の場合、すべて一応接続できている。しかしながら、図15(A)や(B)の場合、一応は接続されてはいるが、電気信号入力と同時に断線してしまう。あるいはすぐには断線しなくても接続部の接触抵抗が高すぎて異常発熱し、またそれが原因となって長期的信頼性がなく、いずれ断線にいたるという不具合があり、本来の性能を発揮できない。
本発明ではこれを解決するために、このような接続領域において、基板上に先に形成されているパターンに対して、あとから金属微粒子材料含有溶液を噴射しドットパターンを形成する際に、図15(C)、(D)のように、端部のドットを1つのドットの半分以上、先に形成されているパターンの上に覆いかぶせるように打ち込み、形成するようにしている。別の表現をするならば、ドット42を単独で形成した場合のドット径をLdとする時、Ld/2≦LcとなるようにLdとLcの関係が満たされるような、噴射口の大きさ(溶液噴射量)および打ち込み方法とする。
他の例で説明する。図16、図17の例は一対の電極2,3とこれらの電極2,3との間の電子放出部が、図15のように一直線上に配列されているのではなく、電子放出部で直交するようなパターン配列の例としたが、必ずしもこのようなパターン配列に限定されるものではなく、図15に示したような構成であってもよいことはいうまでもない。
図16は、基板上に形成されている2つのITO透明電極パターンである。このパターンは、スパッタリングならびにエッチングといういわゆるフォトリソグラフィー技術によって形成した。これに図17に示すように、パラジウム微粒子含有溶液を約Φ12μmのドット径が得られるようにした噴射ヘッドを用い、その中心間距離(ドットピッチ)を約3μmずつずらして重ね打ちし、ドットパターン42を形成した。この場合、ITO透明電極パターンとの重なり領域の距離を約13μm(Lcx)と8μm(Lcy)とし、1つのドット径の半分以上重ねて接続した。その結果、長期にわたり断線することなく安定したパターンが得られている。
図18は、他の例である。この場合は、先に形成されている素子電極パターン2,3も、本発明の金属微粒子材料含有溶液噴射によるドットパターン42によって形成したものである。この場合は、金属微粒子としてAgを使用した。この場合も、図19に示したように、あとから形成するドットパターンの重なり領域(Lcx、Lcy)を、そのドットのドット径の半分以上重なるようにして接続した。
なお、この例は、先のドットパターン42とあとのドットパターン42が同じドット径となる例で示しているが、これらは必要に応じて異なるドット径のパターンにしてもよい。特に、細い配線ラインではなく、デバイスの構成上大面積先のパターンを形成するような場合には、大きいノズル径を有する噴射ヘッドによって大きなドット径を得られるようにしたほうが効率的である。
また、ここで、2つの素子電極はITO透明電極の例で実験、説明しているが、必ずしもITOに限定されるものではなく、Al、Au、Cu等の材料も好適に使用できる。そして、これらの材料によって薄膜形成、エッチング等によって、素子電極パターンを形成してもよいし、上記1例を示したが、これらの金属の微粒子を分散させた金属微粒子材料含有溶液を噴射して、素子電極パターンを形成してもよい。
次に、本発明のさらに別の特徴について、図20、図21を用いて説明する。図20は、先に示した図2(B)を拡大した図である。図21は、本発明の特徴を説明するために、導電性薄膜4のパターンのそれぞれの領域を示したものである。
本発明は、素子電極2、3の間に金属微粒子材料含有溶液を噴射させ、ドットパターンとして形成しその後乾燥させることにより、導電性薄膜4を形成するものである。その際、問題となるのは、先に形成されている素子電極2、3のパターンのエッジ部における導電性薄膜4のステップカバレッジである。
図21(A)に示したように、A部においては、先に形成されている素子電極3のパターンの段差があるため、あとから金属微粒子を分散させた溶液を噴射させて、導電性薄膜4を形成した場合、エッジ部において良好な被覆が得られないという問題がある。そのため、その部位分において断線が生じたりして、電子放出素子の耐久性を損ね、信頼性が低く、実用面で難があった。
本発明では、この点に鑑み、この領域、すなわち、基板上に先に形成されている素子電極のパターンエッジ部において、金属微粒子を分散させた溶液を噴射させて形成される導電性薄膜4の厚さをエッジ部ではない他の領域(図21(B)のB部)より厚く形成するように噴射ヘッドを噴射制御するようにしている。
具体的には、このAの領域に溶液を噴射させる場合には、本発明に適用される噴射ヘッドにおいて、ピエゾ素子あるいは発熱体への入力エネルギーを大とし、Bの領域に噴射させる場合より、その液滴のサイズあるいは飛翔液体の質量を大きくすることによって、そこ(Aの領域)に形成される膜厚を厚くすることができる。
より具体的には、素子電極パターンの厚さを例えば300Åとし、金属微粒子材料含有溶液を噴射させて、導電性薄膜4を形成し、溶液中の揮発成分を乾燥させ、Bの領域における乾燥後の最終的な厚さを200Åとなるようにした場合、Aの領域の厚さは、300Å〜500Åとなるように、噴射ヘッドを制御すれば、ステップカバレッジが良好で、長期使用しても断線等がなく、信頼性の高い電子放出素子とすることができる。
他の解決手段をあげると、例えばこのAの領域に溶液を噴射させてドットを形成する場合と、Bの領域に溶液を噴射させてドットを形成する場合とで、液滴、あるいは溶液の打ち込み回数を変えればよい。つまり、本発明の電子放出素子を図15(D)のようにして形成した後、ステップカバレッジが問題となるBの領域にもう一度、あるいは二度、三度、ドットを重ねて打ち込むようにすればよい。すなわち基板上に先に形成されている素子電極と電気的接続され、その接続領域の素子電極のエッジ部において、ドットを複数回(2回以上)重ねて打ち込むように噴射制御すればよい。
より具体的な例をあげる。試作したのは図15(D)に示したパターンである。ITO素子電極パターンの厚さは250Åである。パラジウム微粒子含有溶液を約Φ12μmのドット径が得られるようにした噴射ヘッドを用い、8μmの配列ピッチでドットパターンを形成し、さらに、接続領域の素子電極のエッジ部(図21(B)でいうB部)のみもう一度同等のドットパターンを重ね打ちした。乾燥後の図21(A)でいうA部の打ち込みパターンの厚さは300Åとなり、図21(B)でいうB部の厚さは、200Åとなり、接続領域の素子電極のエッジ部が厚くカバーでき、良好なテップカバレッジが得られ、長期使用しても断線等がなく、信頼性の高い電子放出素子とすることができた。
以上の説明から明らかなように、本発明は、電子放出素子を製作する技術であるが、数10μm〜数μmという非常に微細なパターンを従来のようなフォトリソ技術によるのではなく、従来にはない微小な吐出口を有する噴射ヘッドによって金属微粒子材料含有溶液を基板に直接噴射付与するという簡単な装置で、電子放出素子群をダイレクト製作するようにしている。したがって、いわゆる半導体製造プロセスで使用されている高価な製造装置を必要とせず、低コストでかつ安定して製作できるという利点がある。
このようにして、良好な形状の表面伝導型電子放出素子群のパターン形成を行った後、本発明では以下に説明するようなフォーミング処理によって、電子放出部5を形成する(図1、図2参照)。
電子放出部5は、導電性薄膜4の一部に形成された高抵抗の亀裂により構成され、導電性薄膜4の膜厚、膜質、材料等、あるいはフォーミング処理条件等に依存したものとなる。電子放出部5の内部には、100Å以下の粒径の導電性微粒子を含む場合もある。
この導電性薄膜4に施すフォーミング処理方法の一例として、通電処理による方法を説明する。素子電極2、3間に、不図示の電源を用いて通電を行うと、導電性薄膜4の部位に構造の変化した電子放出部5が形成される。すなわち、通電フォーミングによれば導電性薄膜4に局所的に破壊、変形もしくは変質等の構造変化した部位が形成され、この部位が電子放出部5となる。
図22は、本発明に適用する上記のごとくの通電フォーミング処理の電圧波形の例を示す図である。電圧波形は特にパルス波形が好ましく、パルス波高値が一定の電圧パルスを連続的に印加する場合(図22(A))と、パルス波高値を増加させながら、電圧パルスを印加する場合(図22(B))とがある。まずパルス波高値が一定電圧とした場合(図22(A))について説明する。
図22(A)におけるT1およびT2はそれぞれ電圧波形のパルス幅とパルス間隔であり、T1を1μs〜10ms、T2を10μs〜100msとし、三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)を表面伝導型電子放出素子の形態に応じて適宜選択する。このような条件のもと、例えば、数秒ないし数十分間電圧を印加する。また、パルス波形は三角波に限定されるものではなく、矩形波など所望の波形を用いても良い。
図22(B)におけるT1およびT2は、図22(A)に示したものと同様にそれぞれ電圧波形のパルス幅とパルス間隔を示し、三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、例えば0.1Vステップ程度ずつ増加させることができる。
通電フォーミング処理の終了は、パルス間隔T2中に、導電性薄膜4を局所的に破壊、変形しない程度の電圧を印加し、電流を測定して検知することができる。例えば0.1V程度の電圧印加により流れる素子電流を測定し、抵抗値を求めて、1MΩ以上の抵抗を示した時に通電フォーミングを終了させる。
通電フォーミングを終了した素子には、活性化工程と呼ぶ処理を施すことが望ましい。活性化処理を施すことにより、素子電流If、放出電流Ieが著しく変化する。活性化工程は、例えば有機物質のガスを含有する雰囲気下で、通電フォーミングと同様に、パルスの印加を繰り返すことで行うことができる。上記の雰囲気は、例えば、油拡散ポンプやロータリーポンプなどを用いて真空容器内を廃棄した場合に雰囲気内に残留する有機ガスを利用して形成することができる他、イオンポンプなどにより一旦十分に排気した真空中に適当な有機物質のガスを導入することによっても得られる。このときの好ましい有機物質のガス圧は、前述の応用の形態、真空容器の形状や、有機物質の種類などにより異なるため場合に応じ適宜設定される。
上記の有機物質としては、アルカン、アルケン、アルキンの脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、フェノール、カルボン酸、スルホン酸等の有機酸類等を挙げることができ、具体的には、メタン、エタン、プロパンなどCnH2n+2で表される飽和炭化水素、エチレン、プロピレンなどCnH2n等の組成式で表される不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、メタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミン、エチルアミン、フェノール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等が使用できる。この処理により雰囲気中に存在する有機物質から炭素あるいは炭素化合物が素子上に堆積し、素子電流If、放出電流Ieが著しく変化する。活性化工程の終了判定は、素子電流Ifと放出電流Ieを測定しながら行う。なおパルス幅、パルス間隔、パルス波高値などは適宜設定される。
炭素あるいは炭素化合物とは、グラファイト(単結晶、多結晶の両者を指す)、非晶質カーボン(非晶質カーボンおよび非晶質カーボンと前記グラファイトの微結晶の混合物を含むカーボン)であり、その膜厚は500Å以下にするのが好ましく、より好ましくは300Å以下である。
上述のようにして、作成した電子放出素子は、安定化処理を行うことが好ましい。この処理は真空容器内の有機物質の分圧が、1×10-8Torr以下、望ましくは、1×10-10Torr以下で行うのが良い。真空容器内の圧力は、10-6〜10-7Torr以下が好ましく、特に1×10-8Torr以下が好ましい。真空容器を排気する真空排気装置は、装置から発生するオイルが素子の特性に影響を与えないように、オイルを使用しないものを用いるのが好ましい。具体的には、ソープションポンプ、イオンポンプ等の真空排気装置を挙げることができる。さらに、真空容器内を排気するときには、真空容器全体を過熱して真空容器内壁や電子放出素子に吸着した有機物質分子を排気しやすくするのが好ましい。このときの加熱した状態での真空排気条件は、80〜200℃で5時間以上が望ましいが、特にこの条件に限るものではなく、真空容器の大きさや形状、電子放出素子の構成などの諸条件により変化する。
なお、上記有機物質の分圧は、質量分析装置により質量数が10〜200の炭素と水素を主成分とする有機分子の分圧を測定し、それらの分圧を積算することにより求められる。安定化工程を経た後、駆動時の雰囲気は、上記安定化処理終了時の雰囲気を維持するのが好ましいが、これに限るものではなく、有機物質が十分除去されていれば、真空度自体は多少低下しても十分安定な特性を維持することができる。このような真空雰囲気を採用することにより、新たな炭素あるいは炭素化合物の堆積を抑制でき、結果として素子電流If、放出電流Ieが安定する。
以上のようにして本発明の電子放出素子の作製ならびにフォーミングが行われ、その後、後述のように画像形成装置(ディスプレイ)として使用されるが、ここで1つ問題がある。
これは上記のフォーミング処理時、あるいはディスプレイとして使用する場合も問題となることであるが、素子電極部における異常放電である。
図23を用いて説明する。本発明では、図23のように複数(この例は2)個の対向する素子電極2,3間に金属微粒子材料含有溶液のドットパターン42によって電子放出部を形成してなるが、通常、素子電極2,3は矩形パターンもしくは矩形パターンの組み合わせによって構成される。これは、このような素子電極パターンをフォトリソグラフィー技術によって形成する際のフォトマスクの形状に依存して、矩形形状にされる(矩形が最もコスト的に製作しやすい)わけであるが、図23(A)に示すように、対向する2個の素子電極のコーナー部2′,3′が尖っているために、その部分で電界集中が生じる。
その結果、フォーミング処理によって、両電極間に印加したり、あるいは最終的にディスプレイとして使用する場合も両電極間に印加するわけであるが、この電界集中部において異常な放電が生じ、良好なフォーミング処理が行えなかったり、あるいは異常な電子放出がおきて、ディスプレイの画質を落とすという不具合がある。
本発明ではこの点に鑑み、例えば、図23(B)のように複数の素子電極の互いに対向する側のコーナー部を面取り形状2′′,3′′としている。この例は、機械図面で表示する際のc形状の面取りとしているが、r形状の面取りであってもいいのは言うまでもない。
このような形状は、素子電極パターンをフォトリソグラフィー技術によって形成する際にフォトマスクの形状をそのようなコーナー部が尖った形状にならないようにすればよい。あるいは、図18で説明したように、素子電極を本発明の金属微粒子材料含有溶液噴射によるドットパターンによって形成したものであれば、ドットパターンの外形そのものが丸い形状になっていて尖った部分がないので、自動的に面取り形状とすることができる。
なお、その面取り部分の大きさであるが、電子放出部を形成するドットパターン径の1/2〜1/5程度、すなわちc2μm〜c5μm、あるいはr2μm〜r5μmとすれば、電界集中が生じない良好な素子電極とすることができる。
本発明では、このように素子電極の尖った部分をなくし、電界集中をなくすようにすることにより、フォーミング処理時、あるいは後述のようにディスプレイとして使用する場合にも、異常放電がなく、また、長期に使用しても安定した良好な電子放出が得られ、さらには、高品位な画質のディスプレイとすることができるようになった。
次に、この問題を解決する他の手段について、図24を用いて説明する。これは複数の素子電極の互いに対向する側のコーナー部を金属微粒子材料含有溶液のドットパターンによって被覆するように打ち込むようにパターン形成制御する例である。
図24(A)はドットパターン列を縦に2列とした例、図24(B)は1列とした例であるがどちらでもいいのは言うまでもない。要するに、素子電極パターンの尖った部分2′,3′を金属微粒子材料含有溶液のドットパターンによって被覆し、その部分が表面に利出しないようにすれば、電界集中による異常放電を防止でき、フォーミング処理が良好に行え、あるいは後述のようにディスプレイとして使用する場合にも、異常放電がなく、また長期に使用しても安定した良好な電子放出が得られ、さらには高品位な画質のディスプレイとすることができるようになるのである。
次に、本発明のさらに別の特徴について図25を用いて説明する。前述(図3、図4)のように本発明では、噴射ヘッドは基板14と相対移動を行いながら、金属微粒子材料含有溶液を噴射付与して、電子放出素子群を形成する。図25は電子源基板14に形成された素子電極2、3およびその素子電極2、3間に縦方向(副走査方向)に4個の溶液ドットパターン付与によって形成された電子放出素子10群を示している。
ここでは、横方向を主走査方向と定義し、縦方向を副走査方向と定義している。各電子放出素子は、各素子の中心間距離(配列ピッチ)、すなわち、それぞれ主走査方向配列ピッチ、副走査方向配列ピッチは、後述のように本発明の電子源基板をディスプレイとして使用する場合の画像品質を左右する重要なファクターである。
本発明の電子放出素子を利用したディスプレイは、前述のようなフォーミング処理によって、素子電極間のどこかにできる亀裂部より放出される電子によって、蛍光体を発光させるものである。ここでこの亀裂部は素子電極間のどこかにできるが、いつも一定の場所にできるとは限らない。すなわち、本発明が適用されるディスプレイは、その発光ピクセル(絵素)の精度が、最大、素子電極間距離だけ変動する(素子間でバラツク)という性格を持ったディスプレイである。よって、例えば、図26のように、図25の場合よりもさらに各素子間に素子を配列して主走査方向配列ピッチ、副走査方向配列ピッチともに、図25の倍にして配列することも可能であるが、もともと、発光部の変動がある(位置精度が最大、素子電極間距離だけ変動する)ため、そのようなことは意味を持たない。
すなわち、本発明においては、各素子の中心間距離(配列ピッチ)は素子電極間距離以下にしても意味がない。言い換えるならば、本発明においては、各素子の電極間距離を電子放出素子の配列ピッチより小として形成した場合に、初めて有効な無駄のないディスプレイとすることができる。
1例をあげると、例えば、電極間距離(ここで電極間距離は図25に示すように、対向する電極の最接近辺の距離sである)を15μmとされ、主走査方向配列ピッチXp、副走査方向配列ピッチYpはともに30μmとされる。このとき、電子放出部は3個のドットパターン(パターン径約Φ15μm)によって形成される。このようなパターンを形成するための噴射ヘッドとしては、前述のヘッドH4(吐出口径Do=Φ10μm)を利用でき、溶液噴射の駆動電圧は15V、駆動パルス巾は2.5μsとして噴射制御することによって得られる。なお、使用する溶液も前述のようなパラジウム微粒子含有溶液が使用される。またこのような主走査方向配列ピッチ、副走査方向配列ピッチで精度よく素子形成を行うには、図3あるいは図4に示した製造装置によって、噴射ヘッドと基板との高精度な相対移動を行うことによって実現できる。
他の例では、例えば、電極間距離を30μmとされ、主走査方向配列ピッチ、副走査方向配列ピッチはともに50μmとされる。このとき、電子放出部は5個のドットパターン(パターン径約Φ20μm)によって形成される。このようなパターンを形成するための噴射ヘッドとしては、前述のヘッドH3(吐出口径Do=Φ15μm)を利用でき、溶液噴射の駆動電圧は13.5V、駆動パルス巾は3μsとして噴射制御することによって得られる。なお、使用する溶液も前述のようなパラジウム微粒子含有溶液が使用される。またこのような主走査方向配列ピッチ、副走査方向配列ピッチで精度よく素子形成を行うには、図3あるいは図4に示した製造装置によって、噴射ヘッドと基板との高精度な相対移動を行うことによって実現できる。
以上の例はサーマルジェット(バブルジェット(登録商標))方式の噴射ヘッドの例であるが、圧電素子を用いたピエゾジェット方式、静電力を利用した方式、あるいは荷電制御方式(連続流方式)等が利用できることは言うまでもない。
次に、本発明の画像形成装置について述べる。画像形成装置に用いる電子源基板の電子放出素子の配列については種々のものが採用できる。まず、並列に配置した多数の電子放出素子の個々を両端で接続し、電子放出素子の行を多数個配置し(行方向と呼ぶ)、この配線と直交する方向(列方向と呼ぶ)で電子放出素子の上方に配置した制御電極(グリッドとも呼ぶ)により、電子放出素子からの電子を制御駆動する梯子状配置のものがある。これとは別に、電子放出素子をX方向およびY方向に行列状に複数個配置し、同じ行に配置された複数の電子放出素子の電極の一方を、X方向の配線に共通に接続し、同じ列に配置された複数の電子放出素子の電極の他方を、Y方向の配線に共通に接続するものが挙げられる。このようなものは、所謂、単純マトリックス配置である。
次に、単純マトリックス配置の電子源を用いた画像形成装置について説明する。図27は画像形成装置の表示パネルの基本構成の一例を説明するための図で、図中、71は電子放出素子74を基板上に作製した電子源基板、81は電子源基板71を固定したリアプレート、82は支持枠、86はガラス基板83の内面に蛍光膜84とメタルバック85等が形成されたフェースプレート86で、リアプレート81、支持枠82及びフェースプレート86にフリットガラス等を塗布し、大気中あるいは窒素中で400〜500度で10分以上焼成することで封着して外囲器88を構成する。
外囲器88は、上述の如くフェースプレート86、支持枠82、リアプレート81で構成したが、リアプレート81は主に電子源基板71の強度を補強する目的で設けられるため、電子源基板71自体で十分な強度を持つ場合は別体のリアプレート81は不要であり、電子源基板71に直接支持枠82を封着し、フェースプレート86、支持枠82、及び電子源基板71にて外囲器88を構成しても良い。またさらにはフェースプレート86、リアプレート81間に、スペーサとよばれる耐大気圧支持部材を設置することで大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器88を構成することもできる。
いずれにしろこのようなフェースプレートは、電子源基板と積層、一体化して画像形成装置(画像表示装置)を構成するので、電子源基板とほぼ同じ形状、大きさとされる。
図28は、図27の画像形成装置に用いられる蛍光膜84の構成例を示す模式図で、ブラックストライプタイプの蛍光膜を図28(A)に、ブラックマトリックスタイプの蛍光膜を図28(B)に示すものである。図28において、91は黒色導電材、92は蛍光体である。
蛍光膜84は、モノクロームの場合は蛍光体のみからなるが、カラーの蛍光膜の場合は、蛍光体の配列によりブラックストライプあるいはブラックマトリックスなどと呼ばれる黒色導電材91と蛍光体92とで構成される。ブラックストライプ、ブラックマトリックスを設ける目的は、カラー表示の場合、必要となる三原色蛍光体の各蛍光体92間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることと、蛍光膜84における外光反射によるコントラストの低下を抑制することである。ブラックストライプの材料としては、通常良く用いられている黒鉛を主成分とする材料だけでなく、導電性があり、光の透過および反射が少ない材料であればこれに限るものではない。
本発明では、上記のようなマトリックス化された蛍光体92のストライプの方向、あるいはマトリックスの互いに直交する2方向と、前述の電子放出素子74の互いに直交する2方向とそれぞれが互いに平行になるようにし、かつ各電子放出素子74に蛍光体92が一致するように位置決めして積層し、画像表示装置を構成している。このような構成の画像表示装置は、互いのマトリックスの方向およびその位置が一致しているため、非常に高画質な画像表示装置を実現できる。
ガラス基板83に蛍光体を塗布する方法としては、モノクローム、カラーによらず沈澱法や印刷法が用いられる。また蛍光膜84(図27)の内面側には通常、メタルバック85が設けられる。メタルバック85は、蛍光体の発光のうち内面側への光をフェースプレート86側へ鏡面反射することにより輝度を向上すること、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用すること、外囲器内で発生した負イオンの衝突によるダメージからの蛍光体の保護等の役割を有する。メタルバック85は、蛍光膜84を作製後、蛍光膜84の内面側表面の平滑化処理(通常、フィルミングと呼ばれる)を行い、その後Alを真空蒸着等で堆積することで作製できる。また、フェースプレート86には、更に蛍光膜84の導電性を高めるため、蛍光膜84の外面側に透明電極(不図示)を設けてもよい。
前述の外囲器88を作成するための封着を行う際、カラーの場合は各色蛍光体92と電子放出素子74とを対応させなくてはならず、十分な位置合わせを行う必要がある。この十分な位置合わせを行うために本発明では、前述のように、電子放出素子74に対向する位置に蛍光体92を配置するとともに、電子放出素子74と蛍光体92のそれぞれのマトリックスの互いに直交する2方向がそれぞれ互いに平行となるようにしている。このような構成の高精度な画像表示装置を得るためには、蛍光体基板も、本発明の電子源基板と同様な位置決め手法をとることが望ましい。
図27に示した画像形成装置は、具体的には以下のようにして製造される。外囲器88は前述の安定化工程と同様に、適宜加熱しながらイオンポンプ、ソープションポンプなどのオイルを使用しない排気装置により不図示の排気管を通じて排気し、10-7Torr程度の真空度の有機物質の十分少ない雰囲気にした後、封止される。外囲器88の封止後の真空度を維持するためにゲッター処理を行う場合もある。これは外囲器88の封止を行う直前あるいは封止後に抵抗加熱あるいは高周波加熱等の加熱法により、外囲器88内の所定の位置(不図示)に配置されたゲッターを加熱し、蒸着膜を形成する処理である。ゲッターは通常Ba等が主成分であり、蒸着膜の吸着作用により、例えば1×10-5Torrないし1×10-7Torrの真空度を維持するものである。
1…基板、2,3…素子電極、4…導電性薄膜、5…電子放出部、6…金属粒子(大)、7…金属粒子(小)、10…電子放出素子、11…吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)、12…キャリッジ、13…基板保持台、14…基板、15…供給チューブ、16…信号供給ケーブル、17…噴射ヘッドコントロールボックス、18…キャリッジ12のX方向スキャンモータ、19…キャリッジ12のY方向スキャンモータ、20…コンピュータ、21…コントロールボックス、22(22X1、22Y1、22X2、22Y2)…基板位置決め/保持手段、30…吐出ヘッドユニット、31…ヘッドアライメント制御機構、32…検出光学系、33…インクジェットヘッド、34…ヘッドアライメント微動機構、35…制御コンピュータ、36…画像識別機構、37…XY方向走査機構、38…位置検出機構、39…位置補正制御機構、40…インクジェットヘッド駆動・制御機構、41…光軸、42…液滴、43…液滴着弾位置、44…ドット、50…噴射ヘッド(インクジェットヘッド)、51…発熱体基板、52…蓋基板、53…発熱体基板の作成に用いるシリコン基板、54…個別電極、55…共通電極、56…発熱体、57…溶液流入口、58…ノズル、59…溝部、60…凹部領域、71…電子源基板、74…電子放出素子、81…リアプレート、82…支持枠、83…ガラス基板、84…蛍光膜、85…メタルバック、86…フェースプレート、88…外囲器、91…黒色導電材、92…蛍光体。