次に本発明の好ましい実施形態を示す。本発明の表面伝導型電子放出素子の基本的な構成は平面型である。
図1は、本発明による電子源基板の一例を示す図であるが、ここでは簡略化して、一つの平面型表面伝導型電子放出素子の構成を模式的に示している。実際には、後述するように、このような平面型表面伝導型電子放出素子はマトリックス配置された素子群である。図1(A)はその平面図、図1(B)はその断面図である。
図1において、1は基板、2,3は対の素子電極、4は導電性薄膜、5は電子放出部である。基板1としては、石英ガラス,Na等の不純物含有量を低減させたガラス,青板ガラス,SiO2を表面に堆積させたガラス基板およびアルミナ等のセラミックス基板等を用いることができる。素子電極2,3の材料としては、一般的な導電材料を用いることができ、例えばNi,Cr,Au,Mo,W,Pt,Ti,Al,Cu,Pd等の金属または合金,Pd,As,Ag,Au,RuO2,Pd−Ag等の金属または金属酸化物とガラス等から構成される印刷導体,In2O3−SnO2等の透明導電体あるいはポリシリコン等の半導体材料等から適宜選択される。
対の素子電極2,3間の間隔Lは好ましくは数千Åないし数百μmの範囲であり、より好ましくは対の素子電極2,3間に印加する電圧等を考慮して1μmないし100μmの範囲である。対の素子電極2,3の長さWは電極の抵抗値および電子放出特性を考慮して、数μmないし数百μmであり、また対の素子電極2,3の膜厚dは、100Åないし1μmの範囲である。尚、図1に示した構成に限らず、基板1上に導電性薄膜4,対の素子電極2,3の順に形成させた構成にしてもよい。
図2は、図1の構成の平面型表面伝導型電子放出素子の製造方法を示す。
導電性薄膜4としては、良好な電子放出特性を得るために、微粒子で構成された微粒子膜が特に好ましく、その膜厚は素子電極2,3へのステップカバレージ,素子電極2,3間の抵抗値および後述する通電フォーミング条件等によって、適宜設定されるが、好ましくは数Åないし数千Åで、特に好ましくは10Åないし500Åである。その抵抗値は、Rs が10の2乗ないし10の7乗Ωの場合に得られる値である。なお、Rs は厚さがt、幅がwで長さが1の薄膜の抵抗Rを、R=Rs (1/w)とおいたときに現われる値で、薄膜材料の抵抗率をρとするとRs =ρ/tで表される。ここでは、フォーミング処理について通電処理を例に挙げて説明するが、フォーミング処理はこれに限られるものではなく、導電性薄膜4に亀裂を生じさせて高抵抗状態を形成する方法であればいかなる方法でも良い。
導電性薄膜4を構成する材料としては、Pd,Pt,Ru,Ag,Au,Ti,In,Cu,Cr,Fe,Zn,Sn,Ta,W,Pb等の金属、PdO,SnO2,In2O3,PbO,Sb2O3等の酸化物、HfB2,ZrB2,LaB6,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、TiN,ZrN,HfN等の窒化物、Si,Ge等の半導体あるいはカーボン等の中から適宜選択される。
前記の微粒子膜とは複数の微粒子が集合した膜であり、その微細構造として、微粒子が個々に分散配置した状態のみならず、微粒子が互いに隣接、あるいは重なり合った状態(いくつかの微粒子が集合し、全体として島状を形成している場合も含む)をとっている。微粒子の粒径は、数Åないし1μmであり、好ましくは10Åないし200Åである。
図3は、本発明の電子源基板の製造装置の一例を説明するための図で、11は噴射ヘッド、12はキャリッジ、13は基板保持台、14は平面型表面伝導型電子放出素子群を形成する基板、15は導電性薄膜の材料を含有する溶液の供給チューブ、16は信号供給ケーブル、17は噴射ヘッドコントロールボックス、18はキャリッジ12のX方向スキャンモータ、19はキャリッジ12のY方向スキャンモータ、20はコンピュータ、21はコントロールボックス、22(22X1,22Y1,22X2,22Y2)は、基板位置決め/保持手段である。
この場合は、基板保持台13に置かれた基板14の前面を噴射ヘッド11がキャリッジ走査により移動し、導電性薄膜材料を含有する溶液を噴射付与する例である。
噴射ヘッド11は、任意の液滴を定量吐出できるものであれば如何なる機構でも良く、特に数10ng程度の液滴を形成できるインクジェット方式の機構が望ましい。インクジェット方式としては、圧電素子を用いたピエゾジェット方式、ヒータの熱エネルギーを利用して気泡を発生させるバブルインクジェット方式、あるいは荷電制御方式(連続流方式)等いずれのものでも構わない。
図4は、図3の場合と異なり、吐出ヘッドユニット30(図3では、噴射ヘッド11に相当)と基板45(図3では基板14に相当)との相対移動を行う際に、電子源基板45側を移動させる例である。図5は、図4の装置の吐出ヘッドユニット30を拡大して示した概略構成図である。図4,図5において、30は吐出ヘッドユニット、32は検出光学系、43は液滴、36は画像識別装置、45は電子源基板、37はXY方向走査機構、38は位置検出機構、39は位置補正制御機構、35は制御コンピュータである。
吐出ヘッドユニット30を用いた液滴付与装置(インクジェットヘッド)の場合も、図3の場合と同様のインクジェット方式の機構が望ましく、圧電素子を用いたピエゾジェット方式、ヒータの熱エネルギーを利用して気泡を発生させるバブルインクジェット方式、あるいは荷電制御方式(連続流方式)等のいずれのものでも構わない。
本発明では、上述のごとき電子源基板の製造装置(図3)において、基板14はこの装置の基板位置決め/保持手段12によってその保持位置を調整して決められる。図では簡略化しているが、基板位置決め/保持手段12は基板14の各辺に当接されるとともに、X方向およびそれに直交するY方向にμmオーダーで微調整できるようになっているとともに、噴射ヘッドコントロールボックス7,コンピュータ10,コントロールボックス11等と接続され、その位置決め情報および微調整変位情報等と、液滴付与の位置情報、タイミング等は、たえずフィードバックできるようになっている。
さらに上記電子源基板の製造装置では、X,Y方向の位置調整機構の他に図示しない(基板14の下に位置し見えない)、回転位置調整機構を有している。これに関連して先に本発明の電子源基板の形状および形成される電子放出素子群の配列に関して説明する。
本発明の電子源基板は前述のように、石英ガラス,Na等の不純物含有量を低減させたガラス,青板ガラス,SiO2を表面に堆積させたガラス基板およびアルミナ等のセラミックス基板等が用いられるが、その形状は矩形(直角4辺形)である。つまり、その矩形形状を構成する縦2辺,横2辺はそれぞれ、縦2辺が互いに平行,横2辺が互いに平行であり、かつ縦横の辺は直角をなすような基板である。
このような基板に対して本発明では、形成される電子放出素子群をマトリックス状に配列し、このマトリックスの互いに直交する2方向が、この基板の縦方向の辺あるいは横方向の辺の方向と平行であるように電子放出素子群を配列する。このように電子放出素子群をマトリックス状に配列する理由および、基板の縦横の辺をそのマトリックスの直交する2方向と平行になるようにする理由を以下に述べる。
図3あるいは図4に示したように、本発明では、最初に基板14と吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)11の溶液噴射口面の位置関係が決められた後は、特に位置制御を行うことはない。つまり、吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)11は基板14に対して一定の距離を保ちながらX,Y方向の相対移動を行いつつ、導電性薄膜の材料を含有する溶液の噴射を行う。つまりこのX方向及びY方向は互いに直交する2方向であり、基板の位置決めを行う際に、基板の縦辺あるいは横辺をそのY方向あるいはX方向と平行になるようにしておけば、形成される電子放出素子群もそのマトリックス状配列の2方向がそれぞれ平行であるため、相対移動を行いつつ噴射する機構のみで高精度の素子群形成が行える。
言い換えるならば、本発明のような基板形状,電子放出素子群のマトリックス状配列,直交するX,Yの2方向の相対移動装置にすれば、素子形成の液滴噴射を行う前の基板の位置決めを正確に行えば、高精度な電子放出素子群のマトリックス状配列が得られるということである。
ここで、先ほどの回転位置調整機構に話を戻す。前述のように本発明では、素子形成の液滴噴射を行う前の基板の位置決めを正確に行い、相対移動のXおよびY方向のみを行い、他の制御を行わず、高精度な電子放出素子群のマトリックス状配列を得ようというものである。その際問題となるのは、最初に基板の位置決めを行う際の回転方向(X,Yの2方向で決定される平面に対して垂直方向の軸に対する回転方向)のズレである。
この回転方向のズレを補正するために本発明では、前述のように図示しない(基板14の下に位置し見えない)、回転位置調整機構を有している。これにより回転方向のズレも補正し、基板の辺を位置決めすると、本発明の装置では、XおよびY方向のみの相対移動で、高精度な電子放出素子群のマトリックス状配列が得られる。
以上はこの回転位置調整機構を、図3の基板位置決め/保持手段で12(12X1,12Y1,12X2,12Y2)とは別物の機構として説明した(基板14の下に位置し見えない)が、12の基板位置決め/保持手段に回転位置調整機構を持たせることも可能である。例えば、基板位置決め/保持手段12は、基板14の辺に当接され、基板位置決め/保持手段12全体が、X方向あるいはY方向に位置を調整できるようになっているが、基板位置決め/保持手段12の基板14の辺に当接される部分において、距離をおいて設けられた2本のネジが独立に動くようにしておけば、角度調整が可能である。
なおこの回転位置制御情報も上記のX,Y方向の位置決め情報および微調整変位情報等と同様に噴射ヘッドコントロールボックス7,コンピュータ10,コントロールボックス11等と接続され、液滴付与の位置情報,タイミング等が、たえずフィードバックできるようになっている。
次に本発明の位置決めの他の手段,構成について説明する。上記の説明は基板位置決め/保持手段12は、基板14の辺に当接され、基板位置決め/保持手段12全体が、X方向あるいはY方向に位置を調整できるようにしたものであるが、ここでは、基板14の辺ではなく、基板上に互いに直交する2方向に帯状パターンを設けるようにした例について説明する。前述のように本発明では基板上に電子放出素子群をマトリックス状に配列して形成されるが、ここでは、前記のような互いに直交する2方向の帯状パターンをこのマトリックスの互いに直交する2方向と平行になるように形成しておく。このようなパターンは、基板上にフォトファブリケーション技術によって容易に形成できる。
あるいは、このようなパターンをその目的だけに作成するのではなく、素子電極2,3(図1,図2)や、後述する図25のX方向配線72やY方向配線73等の配線パターンを本発明の互いに直交する2方向の帯状パターンとみなしてもよい。
このような帯状パターンを設けておけば、図5で後述するような、CCDカメラとレンズとを用いた検出光学系7によってパターン検出ができ、位置調整にフィードバックできる。
次に上記X,Y方向に対して垂直方向であるZ方向であるが、本発明では、最初に基板14と吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)6の溶液噴射口面の位置関係が決められた後は、特に位置制御を行うことはない。つまり、吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)6は基板14に対して一定の距離を保ちながらX,Y方向の相対移動を行いつつ、導電性薄膜の材料を含有する溶液の噴射を行うが、その噴射時には、吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)11のZ方向の位置制御は特に行わない。その理由は、噴射時にその制御を行うと、機構,制御システム等が複雑になるだけではなく、基板14への液滴付与による導電性薄膜の形成が遅くなるからである(生産性が著しく低下)。
かわりに本発明では基板14の平面度やその基板14を保持する部分の装置の平面度、さらに吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)11をX,Y方向の相対移動を行わせるキャリッジ機構等の精度を高めるようにすることで、噴射時のZ方向制御を行わず、吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)11と基板14のX,Y方向の相対移動を高速で行い、生産性を高めている。一例をあげると、本発明の溶液付与時(噴射時)における基板14と吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)11の溶液噴射口面の距離の変動は5mm以下におさえられている(基板14のサイズが200mm×200mm以上,4000mm×4000mm以下の場合で)。
なお、通常X,Y方向の2方向で決まる平面は水平(鉛直方向して垂直な面)に維持されるように装置構成されるが、基板14が小さい場合(例えば500mm×500mm以下の場合)には必ずしもX,Y方向の2方向で決まる平面を水平にする必要はなく、その装置にとってもっとも効率的な基板14配置の位置関係になるようにすればよい。
次に本発明の他の例を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。図4は、前記図3の場合と違い、吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)11と基板14(図4では電子源基板45)の相対移動を行う際に、電子源基板45側を移動させる例である。図5は、図4の装置の吐出ヘッドユニットを拡大して示した概略構成図である。
以下、電子源基板45側を移動させる手段を用いた製造装置の構成を図4,5にしたがって説明する。
まず、図4において、37はXY方向走査機構であり、その上に電子源基板45が載置してある。電子源基板45上の表面伝導型電子放出素子は単素子として図1に示したものと同じ構成であり、基板1、対の素子電極2,3、導電性薄膜(微粒子膜)4よりなっている。この電子源基板45の上方に液滴を付与する吐出ヘッドユニット30が位置している。本実施例では、吐出ヘッドユニット30は固定で、電子源基板45がXY方向走査機構37により任意の位置に移動することで吐出ヘッドユニット30と電子源基板45との相対移動が実現される。
次に、図5により吐出ヘッドユニット30の構成を説明する。32は電子源基板45上の画像情報を取り込む検出光学系であり、液滴43を吐出させるインクジェットヘッド33に近接し、検出光学系32の光軸41および焦点位置と、インクジェットヘッド33による液滴43の着弾位置44とが一致するよう配置されている。この場合、検出光学系32とインクジェットヘッド33との位置関係はヘッドアライメント微動機構34とヘッドアライメント制御機構31により精密に調整できるようになっている。また、検出光学系32には、CCDカメラ等とレンズとを用いている。
再度、図4に戻る。36は先の検出光学系32で取り込まれた画像情報を識別する画像識別機構(画像識別装置)であり、画像のコントラストを2値化し、2値化した特定コントラスト部分の重心位置を算出する機能を有したものである。具体的には(株)キーエンス製の高精度画像認識装置VX−4210を用いることができる。該画像識別装置36によって得られた画像情報に電子源基板45上における位置情報を与える手段が位置検出機構38である。該位置検出機構38には、XY方向走査機構37に設けられたリニアエンコーダ等の測長器を利用することができる。また、該画像識別装置36で識別した画像情報と電子源基板45上での位置情報をもとに、位置補正を行なうのが位置補正制御機構39であり、該機構39によりXY方向走査機構37の動きに補正が加えられる。また、インクジェットヘッド駆動・制御機構40によってインクジェットヘッド33が駆動され、液滴が電子源基板45上に付与すなわち塗布される。上述の各制御機構は、制御コンピュータ35により集中制御される。
なお、以上の説明は、吐出ヘッドユニット30は固定で、電子源基板45がXY方向走査機構37により任意の位置に移動することで吐出ヘッドユニット30と電子源基板45との相対移動を実現しているが、図3のように、電子源基板45を固定とし、吐出ヘッドユニット30がXY方向に走査するような構成としてもよいことはいうまでもない。特に200mm×200mm程度の中画面乃至2000mm×2000mmあるいはそれ以上の大面積の基板を用いる大画面の画像表示装置の製作に適用する場合には、電子源基板45を固定とし、吐出ヘッドユニット30が直交するX,Yの2方向に走査し、溶液の液滴の付与を上記の直交する2方向に順次行う構成としたほうがよい。
基板サイズが200mm×200mm程度以下の場合には、液滴付与のための吐出ヘッドユニットを200mmの範囲をカバーできるラージアレイマルチノズルタイプとし、吐出ヘッドユニットと基板の相対移動を直交する2方向(X方向,Y方向)に行うことなく、1方向のみ(例えばX方向のみ)に相対移動させて行うことも可能であり、また量産性も高くすることができるが、基板サイズが200mm×200mm以上の場合には、200mm以上の範囲をカバーできるラージアレイマルチノズルタイプの吐出ヘッドユニットを製作することは技術的/コスト的に実現困難であり、本発明のように吐出ヘッドユニット30が直交するX,Yの2方向に走査し、溶液の液滴の付与を上記の直交する2方向に順次行う構成としたほうがよい。
液滴43の材料には、先に述べた導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する水溶液、有機溶剤等を用いることができる。例えば、導電性薄膜となる元素あるいは化合物がパラジウム系の例を示すと、酢酸パラジウム−エタノールアミン錯体(PA−ME)、酢酸パラジウム−ジエタノール錯体(PA−DE)、酢酸パラジウム−トリエタノールアミン錯体(PA−TE)、酢酸パラジウム−ブチルエタノールアミン錯体(PA−BE)、酢酸パラジウム−ジメチルエタノールアミン錯体(PA−DME)等のエタノールアミン系錯体を含んだ水溶液、また、パラジウム−グリシン錯体(Pd−Gly)、パラジウム−β−アラニン錯体(Pd−β−Ala)、パラジウム−DL−アラニン錯体(pd−DL−Ala)等のアミン酸系錯体を含んだ水溶液、さらには酢酸パラジウム・ビス・ジ・プロピルアミン錯体の酢酸ブチル溶液等が挙げられる。
該液滴43を吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)30により所望の素子電極部に付与する際には、付与すべき位置を検出光学系32と画像識別装置36とで計測した計測データ、吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)30の吐出口面と基板45の距離および両者の相対移動速度に基づいて補正座標を生成し、この補正座標通りに電子源基板45と吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)30とを相対移動せしめながら液滴43を噴射し、電子源基板45上の所望の位置に液滴43を付与すなわち付着させる。検出光学系32としては、CCDカメラ等とレンズを組み合わせたものを用い、画像識別装置36としては、市販のもので画像を2値化し、その重心位置を求めるもの等を用いることができる。
以上の説明より明らかなように本発明の電子源基板45は、導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する溶液をインクジェットの原理で空中を飛翔させ、基板上に液滴として付与して製作されるものである。
次に本発明の他の特徴について説明する。ここでは本発明の電子源基板の製造装置において製作される電子源基板の表面伝導型電子放出素子を高精度に形成するために基板に要求される特性とさらに基板のハンドリングについて検討した結果について説明する。
高精度な表面伝導型電子放出素子を形成するためには、液滴が基板上に付与された時点で、良好な素子形成が行われるように、付与後の液滴が基板上でにじんだり、流れたりすることなく、良好な丸いドットを形成し、鮮明かつ狙いどおりの寸法のドットが得られることが要求される。
通常、紙にインクを噴射し、記録を行うインクジェット記録技術においては、紙面上で、良好な丸いドットを形成し、鮮明かつ狙いどおりの寸法のドットを得るために、たとえば、紙の表面にシリカ等の物質をコートしたいわゆるコート紙と呼ばれるインクジェット記録専用紙が使用される。本発明は紙ではなく電子源基板に関するものであり、インクジェット記録専用紙のような原理を採用することができない。
しかしながら、電子源基板においても、導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する溶液をインクジェットの原理で付着させる前の基板の表面の状態が、良好な丸いドットを形成し、鮮明かつ狙いどおりの寸法のドットを得るために大きな作用を及ぼす。具体的には基板の表面の粗さである。
本発明に使用される基板は、前述のように、ガラスあるいはアルミナ等のセラミックスなどが用いられる。ここで、ガラス表面がすりガラスのような状態のものである場合、導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する溶液をインクジェットの原理で付着させた場合、毛管現象の原理で、基板上に付着した溶液はどんどん広がっていき、いわゆるにじみ状態になり、良好なドットとしての形状を維持できない。
基板の表面の粗さをいろいろ変化させ、付着した溶液が広がらない、つまり、にじみ状態にならないようにするにはどの程度の表面粗さにすればよいかを実験的に検討した結果を以下に示す。
実験に使用した基板は石英ガラスとSiO2を表面に堆積させたアルミナ基板(以下、SiO2アルミナ基板と記す。)であり、前者(石英ガラス)の場合、表面粗さを鏡面状態からすりガラス状のものまで変えたものを準備した。また後者(SiO2アルミナ基板)の場合は、アルミナ基板の表面をできうる限りその表面粗さをなめらかにし、スパッタリングによって堆積させるSiO2の体積条件を変化させ、SiO2面の表面粗さを変化させたものを準備した。なお、表面粗さはデックタック製の接触型表面粗さ計で測定した。
上述の各種基板に対し、図3に示した製造装置を用い導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する溶液をインクジェットの原理で付着させ、良好なドットの形成状況を調べた。
なお、使用した溶液は、酢酸パラジウム−トリエタノールアミン水溶液であり、以下のようにして製造したものである。すなわち50gの酢酸パラジウムを1000ccのイソプロピルアルコールに懸濁させ、さらに203.5gのトリエタノールアミンを加え35℃で12時間攪拌した。反応終了後、イソプロピルアルコールを蒸発により除去し、固形物にエチルアルコールを加えて溶解、濾過し、濾液から酢酸パラジウム−トリエタノールアミンを再結晶させて得た。再結晶した該酢酸パラジウム−トリエタノールアミン4gを196gの純水に溶解し、2.0wt%の溶液として、実験に使用した。
また、使用したインクジェットヘッドは、エッジシューター型のサーマルインクジェット方式とし、ノズル径は28μm、発熱体サイズは28μm×130μm(抵抗値102Ω)で、駆動電圧を27V、パルス幅を6μsで駆動し、1滴を形成するに要するエネルギーを43μJとした。その時の液滴の噴射速度は約8m/sであった。
結果を表1に示す。ここで、「基板上のドットの形成状況(にじみ状況)」は、にじみのない鮮明なドットとなり、電子放出素子が良好に形成できるレベルのものを○、溶液が流れ気味でにじんだドットとなり、電子放出素子が良好に形成できないレベルのものを×としている。
以上の実験結果より、基板の種類とは関係なく、溶液が付着する領域の表面粗さによってのみ基板上のドット形成状況の如何が決まる。つまり、基板の表面粗さが、0.5s以下であれば基板上のドット形成が良好になり、電子放出素子が良好に形成でき(実用に供するレベル)、一方、それよりも表面粗さが粗くなると、基板上のドット形成が良好ではなくなり(溶液が流れ気味でにじんだドットになり)、電子放出素子が良好に形成できなくなる(実用に供しないレベル)。つまり、良好な電子放出素子を形成するためには、基板の表面粗さを0.5s以下にすればよい。しかし、ここで次の2つの問題がある。
第1の問題はコストである。0.5s以下の非常になめらかな面を得るには、石英ガラスでは基板を高精度に研摩する必要がある。あるいは、SiO2アルミナ基板のように表面にSiO2をスパッタリングするような場合でも、表面のなめらかなSiO2面を得るには、時間をかけて丁寧に膜形成を行う必要があり、同様にコスト高という問題が発生する。
しかし、本発明の電子源基板は、前述のように、基板の片面に表面伝導型電子放出素子を形成する構造のものであり、表面伝導型電子放出素子を形成する面のみが、なめらかな面となった基板を使用すればよい。つまり、基板の表面(表面伝導型電子放出素子群を形成する面)のみを、前述の実験結果より得られた表面粗さとし、裏面はそれより粗い面にしても十分である。言い換えるならば、基板の表面伝導型電子放出素子群を形成する面より裏面の表面粗さが粗い基板を用いることにより、所望の高精度な表面伝導型電子放出素子群のパターンが形成できるとともに、基板製造コストを低くすることができる。
次に、第2の問題は、電子源基板の製造プロセス時に基板裏面が製造装置に密着して、移動させることができなくなるという製造時の不具合である。上記第1の問題は、コスト面からの検討で、基板の表面伝導型電子放出素子群を形成される面より裏面の表面粗さが粗い基板を用いることにより、基板材料の低コスト化を実現できたが、今回上記実験を図3に示したような電子源基板の製造装置を用いて行った際にわかったことであるが、基板が基板保持台3にくっついてはずしにくいという問題が発生することがわかった。そして、それを無理にはずそうとして、基板を破損させたりして、作業者が怪我をするということもあった。
この問題は、ちょうどブロックゲージがその表面のなめらかさを利用して、2つのブロックゲージをくっつける(Ringingという)原理とよく似ている。基板の裏面があまりになめらか過ぎると、基板保持台13にくっついてはずしにくくなり、それをはずすのに余計な手間がかかり、生産の歩留まりが低下する。
そこで、基板(石英ガラスとSiO2アルミナ基板)の裏面の表面粗さを変えて、該基板の裏面の表面粗さがどの程度であれば、基板保持台13にくっつくことなく、該基板の取り外し交換作業が、スムーズに行えるかを実験した。
その実験結果を表2に示す。ここで、「基板の取り外し交換作業容易性」は、基板のくっつきがなく、簡単に基板保持台13からはずせた場合を○、そうでない場合を×としている。なお、基板保持台13はSUS304を砥石による研削仕上げとした面状態である。またSiO2アルミナ基板は裏面にはSiO2がなくアルミナ面が裏面である。
以上の実験結果より、基板の種類とは関係なく、裏面の表面粗さを1.0s以上とすることにより、電子源基板の製造プロセス時に基板裏面が製造装置に密着して、移動させることができなくなる(基板の取り外し交換作業がしにくくなる)という製造時の不具合を避けることができる。
次に、基板のハンドリングについて別の解決手段について検討した結果について説明する。この密着の原因は、基板裏面と基板保持台との間がある種の真空状態になることによって起きるものであるので、これを避けるためには、基板裏面と基板保持台との間が真空状態にならないようにすればよい。図6はその1例で、基板平面図を図6(A)に、図6(A)のA−A断面を図6(B)に示す。図6において、Bは基板1の裏面、Eは基板1の表面(電子放出素子群の形成面)、Lは裏面に対して落ち込んだ線状形状である。
この例では、基板1の表面伝導型電子放出素子群が形成されている領域の面の裏面Bに物理的な線状形状Lを設けている。より具体的には、この線状形状Lは裏面平面に対して落ち込んだ形状であるとともに、基板1の端部まで設けられている。ここでは、縦横それぞれ3本の落ち込んだ形状(or凹状形状)の線状形状Lを設けた例を示している。
つまり、このように落ち込んだ形状(or凹状形状)の線状形状Lが、基板1の端部から空気導入チャネルの役割をなし、基板裏面Bと電子源基板製造装置の基板保持台との間に空気を導入するので、両者の間に空気層を形成でき、真空状態にならないようにできる。
図7は他の例であり、このような落ち込んだ線状形状Lの断面をV字形状としたものである。また縦3本だけの線状形状である。
本発明では、このような線状形状が基板の端部から空気導入チャネルの役割をなすものであればよく、断面形状は特に指定しない。
このような線状形状Lは、本発明の電子源基板製作用基板の裏面にダイシングソー等によって、2次的な加工によって形成され、その断面形状はダイシングブレードの形状によって、V字状,U字状,凹形状(矩形形状)など、任意に形成でき、いずれも適用可能である。さらに簡易的な2次的な加工法としては、ダイヤモンドカッター等の簡単な工具で、ライン状に溝加工を行うだけでもよい。
なお、上記のようなダイシングソー等による機械的な2次的な形成方法とは別に、例えば、基板としてガラスを使用する場合には、エッチングによって化学的な加工法により2次的に形成することも可能である。
本発明ではこのように裏面に、落ち込んだ(凹状)形状の物理的な線状形状Lを設ける場合に、ダイヤモンドカッター等の簡単な工具、あるいは機械装置によって、ライン状に溝加工を行うだけ、あるいは化学的な2次的な加工法で簡単に実現できるので、加工コストが低く抑えられ、安価な電子源基板を製作できる。
本発明のさらに他の例として、例えば基板材料としてAl2O3(アルミナ),SiC等のセラミックスを使用する場合には、焼成前にあらかじめこのような溝ができるようにしておいて、それを焼成することによって、このような線状形状と基板を同時に形成することも可能である。また、このようなセラミックスだけではなく、上記のようなガラスを基板材料とする場合にも、基板外形のプレス形成時に同時にそのような物理的な線状形状を形成することもできる。すなわち本発明では、基板を形成する際に同時加工(形成)によって、線状形状(溝)Lを設けるようにしたので、加工コストが低く抑えられ、安価な電子源基板を製作できる。
なお、このような線状形状Lは、1本だけでは効果が少なく、複数本設けることにより、その効果は大となる。より好適には、複数本設けるとともに図6に示したように、互いに交差するように設けるようにするとよい。ただし必ずしも直角に交差する必要はない。
また、図6,図7では、このような線状形状Lが基板1の外形線と平行である例を示しているが、これも必ずしもそのように平行にする必要はなく、外形線に対してある角度を持ったものであってもよい。また図6,図7ではすべて直線形状の線状形状としたが、これも曲線であってもよい。ただし溝状の線状形状の場合(溝ではない例も後述する)、その溝が空気導入チャネルとして効果的に作用するためには、溝状の線状形状の端部が基板の端部まで形成されていることは必須である。
なお、そのサイズであるが、深さ,幅とも、ほぼ同じ程度になるようにすればよい。しかしあまり深さが浅すぎると空気導入チャネルの役割を果たしにくくなるので、注意が必要である。また逆に深すぎる場合には、その部分で応力集中が起きるため、基板が破損しやすくなるので注意が必要である。
本発明では、この点に鑑み、溝深さを検討した。使用した基板は、パイレックス(R)ガラスであり、裏面を0.05sのほぼ鏡面状態に仕上げ、その面にダイヤモンドカッターで、溝深さを変えた線状形状を製作した。基板保持台に相当する部分は0.05sのほぼ鏡面状態に仕上げられたSUS340の基板とし、その上での基板のセットしやすさ(設置時の滑りやすさ)を検討したものである。使用した基板は、厚さ2mm,4mm,10mmの3種類であり、それぞれ、420mm×300mm,1200mm×800mm,3500mm×1800mmの大きさとし、図6に示したように縦横とも各3本ずつの矩形溝をほぼ均等に配置するような形で形成した。以下に溝深さを変えて実験した結果を示すが、溝幅は溝深さと同じとした。
評価結果で、○は、ガラス基板と擬似基板保持台であるSUS340の基板との密着が起こらなかった場合であり、×は、密着が発生したものである。また、もうひとつの×は、溝深さが深すぎて、ガラス基板の機械的強度が低下して、実験中のわずかの振動,運搬等により破損してしまった場合である。
以上の結果より、溝深さの下限については、溝深さdは、厚さtの50分の1までにすべきであり、それより小さいと、基板が密着してしまうことがわかる。また上限については、溝深さdは、厚さtの5分の1までにすべきであり、それより大きいと、基板が破損しやすくなって実用に供しないことがわかる。
次に、線状形状の他の例として、溝ではなく裏面平面に対して突き出した形状の例について図8を参照して説明する。図8において、Dは基板1の裏面Bに対して突き出した形状の線状形状である。
この場合は、このように裏面平面に対して突き出した形状とすることにより、基板を基板保持台から浮かせる(間に薄い空気層を形成できる)ので、基板が基板保持台に密着してしまうという不具合は皆無である。
この突き出した形状のものについても、その断面形状が図8のように矩形であってもよいし、あるいは三角形状,半円形状などどのようなものでもよい。
また、この突き出した形状の線状形状Dを有する基板1は、前述の溝形状の線状形状Lを形成する場合の、基板を同時に形成する方法によって用意に形成できる。すなわち、基板材料としてAl2O3(アルミナ),SiC等のセラミックスを使用する場合には、焼成前にあらかじめこのような突き出した形状ができるようにしておいて、それを焼成することによって、このような線状形状Dと基板1を同時に形成することができる。またこのようなセラミックスだけではなくガラスを基板材料とする場合にも、基板外形のプレス形成時に同時にこのような突き出した形状ができるようにして形成することもできる。
このような突き出した形状の線状形状Dの場合も、前述の溝形状の線状形状Lを形成する場合と同様に、基板を形成する際に同時加工(形成)によって、線状形状Dを設けることができるので、加工コストが低く抑えられ、安価な電子源基板を製作できる。
以上の説明より、本発明の電子源基板は、その元になる基板1の裏面Bに線状形状L,Dを設け、基板1と基板保持台の間に薄い空気層を形成し、基板1が基板保持台に密着してしまうことによる不具合は皆無とし、電子源基板製作時に電子源基板製造装置へ基板をセットしたり、はずしたりする際に、基板が電子源基板製造装置の基板保持台に密着して動かなくなってしまうというようなことをなくし、また密着状態になることを回避できるので、電子源基板製造の効率向上、破損事故をなくすことが実現できる。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。本発明の電子源基板は前述のように、石英ガラス,Na等の不純物含有量を低減させたガラス,青板ガラス,SiO2を表面に堆積させたガラス基板およびアルミナ等のセラミックス基板であり、その形状は矩形(直角4辺形)である。つまり、その矩形形状を構成する縦2辺,横2辺はそれぞれ、縦2辺が互いに平行、横2辺が互いに平行であり、かつ縦横の辺は直角をなすような基板である。
ところで、このような矩形の基板は、その4角のコーナー部分が90°になっており、本発明ではその基板材料が前述のようにガラス,セラミックス等よりなっているため、電子源基板製造プロセス時に、作業者が怪我をするという不慮の事故がよく起こる。そこで、本発明では、このような矩形基板の4角をC1あるいはR1以上、もしくはそれらと同等の面取りを施している(図9(A)及び図9(B)参照)。こうすることにより、ガラス,セラミックス等の尖った部分(4角の90°部分)がなくなり、作業者が作業時(基板搬送時,交換時,製造装置への装着時等)に、怪我をすることはなくなる。なおこのような面取りは、カーボランダムやエメリー等の砥粒を含んだグラインダーによる研削加工によって容易に施すことが可能である。
次に、本発明の他の特徴について説明する。図10はその1例である。この例では、基板の右下の角を他の3つの角とは異なる形状とし、基板を図3に示したような電子源基板の製造装置の基板保持台3に設置する際に基板の方向性を容易に決めることができる。すなわち、4角のうち少なくとも1つの角を他の角と識別できる程度に角部の形状を他の角と異ならせることにより、電子源基板の製造時に作業者は、基板の方向を認識でき、基板の設置を確実に行うことが可能となる。たとえば作業者が手で角部に触れるだけでその部分の形状が他の角部と異なるということが認識できる程度の大きさ,形状にすることで、基板の方向確認,基板の設置の作業効率,作業ミスの著しい低減を図ることができる。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。図11はその1例である。この例では、矩形基板の4辺のうち少なくとも1つの辺に切り欠き部O(オー)を設けており、基板を図3に示したような電子源基板の製造装置の基板保持台3に設置する際に基板の方向性を容易に決めることができる。すなわち、4辺のうち少なくとも1つの辺に切り欠き部Oを設けることにより、電子源基板の製造時に作業者は、基板の方向を認識でき、基板の設置を確実に行うことが可能となる。たとえば作業者が手でその切り欠き部Oに触れるだけで基板の方向確認,基板の設置の作業効率,作業ミスの著しい低減を図ることができる。さらに、図3には図示していないが、電子源基板の製造装置の基板保持台3に、この切り欠き部に対応して基板のストッパー部材を設けることにより、基板の確実な設置、あるいは正確な位置決めができるというメリットもある。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。ここでは電子源基板製造時の作業者の安全性について検討した結果を説明する。
本発明の電子源基板は、前述のように、石英ガラス,Na等の不純物含有量を低減させたガラス,青板ガラス,SiO2を表面に堆積させたガラス基板およびアルミナ等のセラミックス基板であるが、このような基板を図3あるいは図4に示した電子源基板製造装置に設置したり、あるいは運搬したり、後述するように画像表示装置としてアセンブルする際に、作業者が、手を切ったりするという不慮の事故が時々起こる。これは材料がガラスやセラミックであり、基板の縁部分(表面伝導型電子放出素子群が形成されている領域の面あるいはその裏面とそれらの面に垂直方向の厚さ方向の面とが交差する稜線領域)が、鋭利な刃物のような作用をするからである。
本発明は、この点に鑑みなされたものであり、作業者が怪我をしないように、基板の縁部分に面取りを施している。
図12にその例を示す。図12は本発明に使用される電子源基板の表面伝導型電子放出素子群が形成されている前の材料基板であり、基板平面図を図12(A)に、図12(A)のA−A断面図を図12(B)に示すもので、材料基板は、例えばここではパイレックス(R)ガラスである。図12(B)により、その厚さ領域ならびに本発明の特徴が明確に示されているが、本発明ではこの図12(B)に示したように、基板の縁部分(表面伝導型電子放出素子群が形成されている領域の面あるいはその裏面とそれらの面に垂直方向の厚さ方向の面とが交差する稜線領域)に面取りを施している。図12のCl(表),Cr(表),Cl(裏),Cr(裏)がそれである。
ここでは面取り形状として、図12(A)に示したコーナー部(稜線部)を機械製図で指定するc○○というような形状で面取りを施した形状としているが本発明はこの形状に限定されるものではなく、例えばr××という機械製図で指定する形状であってもよい。要はこの部分が基板切断時の形状である直角状になっていて、それが刃物作用をして、作業者がその部分に触れて、手などを切ったりしないように面取りされていればいいのである。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。図13は図12のB部を拡大したものであり、上記説明のように表面伝導型電子放出素子群が形成されている領域の面とこの面に垂直方向の厚さ方向の面とが交差する稜線領域に面取りを施した状態を示しており、縦方向と横方向の面取りされた稜線部分Fが直角を形成している。
本発明は、この面取りされた2つ(縦方向と横方向)の稜線部分Fが直角をなす部分にもさらに面取りHを施すようにしたものである。図14(A)にそれを示す。図14(B)はさらに四辺形の基板の4角にも面取りH′を施した基板を用い、それに図14(A)のような面取りHを施された2つ(縦方向と横方向)の稜線部分が直角をなす部分に面取りH′を施した例である。
本発明では、このように基板に面取りを施すことにより、作業者が電子源基板製作時(基板搬送時,交換時,製造装置への装着時等)に、基板の稜線部で手を切ったりするという不慮の事故を防ぐことができるようになった。また、図14のように、面取りされた2つ(縦方向と横方向)の稜線部分が直角をなす部分にも面取りH,H′を施したので、作業者が電子源基板製作時(基板搬送時,交換時,製造装置への装着時等)に、その直角部でけがをしたりするという不慮の事故も皆無となった。さらに、その直角部があらかじめ面取りされているので、全く面取りされていない状態でとがっている状態のものより、その直角部が何かにぶつかった場合に破損しにくく、基板製作の歩留まりも向上した。
次に、このような面取り加工法であるが、#100番〜#2000番のカーボランダム、エメリー等の研摩材を使用したり、あるいは、それらをバインダーで固めた砥石(グラインダー)により、簡単に面を落とす(面取りする)ことができる。なお前述のように、例えばr××という機械製図で指定する形状の場合には、あらかじめ砥石そのものを被加工物(基板の面取りされる部分)が所望の曲面形状となるように形状加工しておいて、その形状にならうようにして加工すれば容易に曲面加工も実現できる。
また、面取りされた加工部分の表面粗さであるが、これは、例えば表面伝導型電子放出素子群が形成されている領域の面の表面粗さより粗くすることが望ましい。理由は、表面伝導型電子放出素子群が形成されている領域の面は、そのような素子群を精密なパターンで形成するために鏡面加工がなされているが、この面取りする部分は、そのような精密パターンを形成する領域ではないので、必要以上に表面の加工精度を高くする必要がないからである。むしろ表面伝導型電子放出素子群が形成されている領域の面よりも表面粗さを粗くし、加工コストを下げることが望ましい。一般的には、この面取り部の表面粗さは、0.5s〜5sとされ、加工コストを低減している。
以上の説明より明らかなように、本発明の電子源基板は、その元になる基板の、稜線部分を面取りしたり、コーナー部を面取りして、不慮の事故を防止したり、製造時の歩留まりを向上させたりしている。
次に、図15により本発明のさらに他の特徴について説明する。ここでは本発明の電子源基板の製造装置において、製作される電子源基板45が電子源基板保持手段23の上に、溶液の液滴43が付与される面を上向きにして、かつほぼ水平(重力作用方向Gである鉛直方向に対してほぼ90°)に保持されることを示している。このような配置,構成にする理由は、溶液の液滴付与時の液滴43の飛翔安定性および基板上への着弾精度を維持するためである。つまり溶液の液滴43が付与される面を上向きにし、インクジェットヘッド33からの溶液の噴射方向を重力作用方向Gと同じにして飛翔安定性を得,基板上の狙いの位置に高精度に付着するようにしているのである。
さらに、本発明では、溶液を基板上の狙いの位置に高精度に付着するために、本発明に使用される大画面用の基板の精度、ならびに機械的な強度も維持するようにしている。具体的には、本発明に使用される基板は、厚さを4mm以上のものを用いるようにしている。
前述のように、基板としては、石英ガラス,Na等の不純物含有量を低減させたガラス,青板ガラス,SiO2を表面に堆積させたガラス基板およびアルミナ等のセラミックス基板等が用いられるが、一般にこれらの材料は、金属などと違ってもろく破損しやすい。よってある厚さ以上にしないと、電子源基板製作時や製作前後の基板の洗浄等の前処理、後述するフォーミング処理の際、あるいは基板搬送時に基板が破損するという不具合がある。
一般に、青板ガラスなどは、500kg/cm2程度の湾曲強度をもっているが、いわゆる風冷強化法と呼ばれるガラスの強化手段によって、1500kg/cm2程度の湾曲強度をもつ強化ガラスとし、それを基板にしようするのも一つの選択肢である。その際、通常4mm〜15mmの厚さのものまでこの手法によって上記のような1500kg/cm2程度の湾曲強度をもつものとすることができる。厚さが3mm以下の場合には、風冷強化法では、上記のような1500kg/cm2という湾曲強度をもたせることはできないが、半強化ガラスとすることは可能である。なお、ガラスの強化法として、風冷強化法をあげたが、ガラス表面のイオンを置換することによって表面に圧縮歪みを与える化学強化法も有効な手段である。
本発明の電子源基板は高画質の画像表示装置に適用するために、溶液の液滴の基板上への高精度な着弾精度を必要としている。その際、高精度な着弾精度を得るためには、基板の変形、たわみ等があってはならないし、またそれらに起因して高精度な搬送が行えなかったりするようなことがあってはならない。
本発明は、300mm×450mm程度の中画面〜2000mm×3000mm程度の大画面の画像表示装置に好適に適用されるものであるが、その際、上記のような破損、あるいは変形等に起因する電子源発生素子の精度低下があってはならず、本発明ではこれらの点に鑑み、基板の厚さを4mm以上、15mm以下としている。なおこの4mmという下限値は、前述のような強化ガラスが通常安定して製作できる値である。
さらに、電子源発生素子製作時の基板の変形を抑えるために溶液の液滴が付与される面を上向きにして基板をほぼ水平(重力作用方向である鉛直方向に対してほぼ90°)に保持するようにしている。図16は、図15の電子源基板保持手段23の上に保持した電子源基板45を上から見た平面図(噴射ヘッドは省略)である。
さらに、図15,図16よりわかるように、本発明では電子源基板保持手段23で基板を保持する際に、基板を面で保持するようにしている。つまり、本発明では電子源基板保持手段で基板を保持する際に、基板を垂直やあるいは傾斜をつけて立てかけたりするのではなく、溶液の液滴が付与される面を上向きにして基板をほぼ水平に保持し、かつ電子源基板保持手段24で基板を保持する際に基板を面で保持し、300mm×450mm程度の中画面〜2000mm×3000mm程度の大画面の画像表示装置に適用するような基板であっても、基板の自重による変形をなくし、高精度な電子源基板45を製作するようにしているのである。
なお、基板厚さの上限であるが、基板製作コスト上、あるいは基板素材の製作のしやすさ、重量面からの搬送のしやすさ等から、最大15mm程度にしておくことが望ましい。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。本発明では前述のように、電子放出部を形成するのに導電性薄膜材料を含有する溶液を液体噴射によって液滴を空中飛翔させ、基板に付着させて形成する。このような方法によって形成する場合、考慮しなければならないことは、液滴の空中飛翔時の安定性である。
安定した空中飛翔が行われれば、その液滴の付着位置精度も良く、高精度の電子放出源が形成可能となる。一方で、その液滴の付着位置精度が悪ければ、良好な電子放出源は形成できない。そしてその空中飛翔時の安定性は、液滴が空中飛翔するという原理上、空気流等の外乱の影響を受けやすいので、その外乱をシャットアウトするかあるいは安定性が増すような強制力を作用させる、もしくはそれに類する構成とすることによって、空中飛翔時の安定性を確保しなければならない。
本発明は、このような点に鑑み、液滴が空中を飛翔する際の方向性、あるいは液滴が噴射ヘッドから噴出してから基板に付着するまでの距離をどの程度にしたら、安定性が確保でき、高精度な電子放出源が形成できるのかを実験的に見出した。
前述のように、本発明では図3に示したような構成の製造装置で噴射ヘッド11をキャリッジ走査しながら導電性薄膜材料を含有する溶液を液体噴射によって液滴を空中飛翔させ、基板14に付着させて電子源基板を製作する。
図3の例は、たまたま製作される電子源基板を水平に配置し、その上にキャリッジに搭載された噴射ヘッド11を配置し、液滴を上から下へ、ちょうど重力が作用する方向に噴射して形成する場合を示している。この場合には、重力が飛翔する液滴を安定飛翔させるように作用するので、比較的安定した液滴飛翔が行われる。
しかしながら、噴射ヘッド11の噴射口面から、基板14までの距離を、遠くにとると液滴が空中を飛翔している時間が長くなり、外乱の影響も受けやすくなり、その距離もある範囲内にしなければならないと考えられる。本発明ではその点に鑑み、そのような場合に、噴射ヘッド11の噴射口面から基板までの距離をどのくらいにすれば液滴の安定した空中飛翔が得られ、高精度な電子放出源が形成できるのかを実験的に見出した。
以下にその結果を示す。実験は図15に示したように、形成される電子源基板45の配置を、ほぼ水平にして、液滴43を上から下へ噴射させ、噴射ヘッド33の噴射口面から基板までの距離Lを変化させて、液滴の飛翔安定性を調べた。なお、飛翔安定性は直接見ることができないので、液滴飛翔の結果形成される導電性薄膜材料を含有する溶液の液滴の基板上での形状を評価した。
以下に、実際の実験に使用した溶液,噴射ヘッド33の条件等を示す。使用した溶液は、酢酸パラジウム−トリエタノールアミン水溶液であり、以下のようにして製造したものである。すなわち100gの酢酸パラジウムを2000ccのイソプロピルアルコールに懸濁させ、さらに407gのトリエタノールアミンを加え35℃で12時間攪拌した。反応終了後、イソプロピルアルコールを蒸発により除去し、固形物にエチルアルコールを加えて溶解,濾過し、濾液から酢酸パラジウム−トリエタノールアミンを再結晶させて得た。このようにして得た酢酸パラジウム−トリエタノールアミン8gを392gの純水に溶解し、実験に使用した(2.0wt%)。
また、使用した噴射ヘッド33は、エッジシューター型のサーマルインクジェット方式とし、ノズル径はΦ26μm、発熱体サイズは26μm×118μm(抵抗値101Ω)で、駆動電圧を24.5V、パルス幅を6μsで駆動し、下向きに噴射した場合のジェット初速度として、6m/sを得ている。キャリッジ走査速度(X方向)は、5m/sとした。
結果を以下に示す。ここでは噴射ヘッドの噴射口面から基板までの距離Lを変えて、液滴噴射し、基板上の素子形成状況を評価したものである。基板上の素子形成状況は、良好に形成できたものを○、溶液の像が流れ気味で素子形状が使用できない程度にまで変形したものを×としている。
以上の結果より、噴射ヘッド33の噴射口面から電子源基板45までの距離Lを0.1mm〜10mmの範囲にすると良好な素子形成が行えることがわかる。噴射ヘッド33の噴射口面から基板45までの距離Lが0.05mmの場合には、良好な素子形成ができなかった。これは噴射ヘッド33の噴射口面から基板45までの距離Lがあまりにも近すぎるため、液滴が噴射口端面から分離する前に基板45に到達してしまうためである。
また、噴射ヘッド33の噴射口面から基板45までの距離Lが10mmを超えるような場合には、次第に良好な素子形成が行えなくなることがわかる。これは距離Lが大きくなることにより、空中飛翔距離が長くなり、その間に外乱の影響を受けやすくなるためである。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。前述のように本発明では生産性低下を防止するためには、噴射ヘッドを搭載したキャリッジの走査を止めることなく、キャリッジ走査しながら順次溶液の噴射を行うようにしている。その場合、そのキャリッジ走査速度(例えば図3のキャリッジのX方向移動速度)は、単に生産性向上だけで決定されるべきではなく、高精度な素子群を形成するという観点からも検討されなければならない。
本発明では、この点に関して鋭意検討した結果、このような導電性薄膜の材料を含有する溶液の噴射を行う場合、その噴射速度を前記キャリッジ走査速度より速くすることが必要であることに気がついた。
このように、吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)11を基板14に対して一定の距離を保ちながらX,Y方向のキャリッジ走査を行いつつ、導電性薄膜の材料を含有する溶液の噴射を行い、表面伝導型電子放出素子群を形成する場合には、溶液の液滴は前記キャリッジ走査速度と噴射速度の合成ベクトルの速度で基板14上に付着,形成される。そしてその位置精度については、基板14と吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)11の溶液噴射口面の距離と、前記合成ベクトルの速度を考慮し、噴射のタイミングを適宜選ぶことにより、その狙いの位置に液滴を付着させることができる。
しかしながら、たとえ狙いの位置に付着させることができたとしても、もし、前記キャリッジ走査速度が速すぎる場合には、そのキャリッジ走査速度に引きずられて付着液滴が基板14上で流れ、良好な形状で素子群を形成できなくなる。本発明はこの点について検討したものである。以下に検討結果の1例を示す。この例は、図3のような装置を用い、キャリッジ2のX方向走査速度、ならびに吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)11の噴射速度を変えて、基板14上で良好な液滴付着が行えるかどうか調べたものである。
なお、使用した溶液は、酢酸パラジウム−トリエタノールアミン水溶液であり、以下のようにして製造したものである。すなわち100gの酢酸パラジウムを2000ccのイソプロピルアルコールに懸濁させ、さらに407gのトリエタノールアミンを加え35℃で12時間攪拌した。反応終了後、イソプロピルアルコールを蒸発により除去し、固形物にエチルアルコールを加えて溶解,濾過し、濾液から酢酸パラジウム−トリエタノールアミンを再結晶させて得た。このようにして得た酢酸パラジウム−トリエタノールアミン8gを392gの純水に溶解し、実験に使用した(2.0wt%)。
また、使用したインクジェットヘッドは、エッジシューター型のサーマルインクジェット方式とし、ノズル径はΦ26μm,発熱体サイズは26μm×118μm(抵抗値101Ω)で、駆動電圧を24V〜27V,パルス幅を6μsで駆動し、1滴形成のエネルギーを34μJ〜43μJまで変化させて行った。
結果を以下に示す。ここで、基板上の素子形成状況は、良好に形成できたものを○,溶液の像が流れ気味で素子形状が使用できない程度にまで変形したものを×としている。
以上の結果より、キャリッジのX方向走査速度が、噴射速度以上であると、良好な素子が形成できないことがわかる。言い換えるならば、本発明のような装置で、電子源基板を製作する場合、噴射ヘッドから噴射される液滴の速度は、キャリッジのX方向走査速度より速くしなければいけないことがわかる。
なお、実験は、図3のように電子源基板を固定し、噴射ヘッドを搭載したキャリッジを移動して行ったが、ここで選られた結果は、必ずしも図3のような製造装置のみに当てはまる話ではなく、図4のように、噴射ヘッドを固定し電子源基板を移動させる場合にも当てはまる。要するに、噴射ヘッドから噴射される液滴の速度は、電子源基板と噴射ヘッドの相対移動速度より速くしなければいけないのである。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。前述のように本発明では、導電性薄膜の材料を含有する溶液をインクジェットの原理で、ガラス基板やアルミナ等のセラミックス基板に液滴として噴射付与することにより、導電性薄膜による表面伝導型電子放出素子群を形成する。
その際問題となるのが、素子電極23の間に液滴により形成されるドットの形状である。良好な丸いドットが形成されれば、最終的に形成される電子放出部も高精度に形成でき、良好な表面伝導型電子放出素子群を形成できるが、このドット形状が良好でない場合は、電子放出部も高精度なものが得られない。例えば形成されるドットが、良好な丸いドットとならず微小滴が飛散したような場合は、良好な電子放出部を得ることができない。
一般に、インクジェットプリンタは、紙にインクを液滴として噴射付与し画像を得るが、紙の上に形成されるインク液滴のドットは、インク液滴が紙に付着すると同時に、紙の繊維中に速やかに吸収される。あるいは紙の表面に炭酸カルシウム等を主成分としたインク吸収部材がコートされているため、インク液滴が紙に付着すると同時にこのインク吸収部材に速やかに吸収されるようになっている。よって、先に形成されたドットに後続のドットが付着衝突しても、先のドットのインクはすでに紙に吸収されているので、衝突による微小インクの飛び散りはほとんど問題になることなく、また良好な丸いドットが得られ、高画質な印字品質が得られる。
一方、本発明はインクジェットの原理で液滴を噴射付与するが、紙に液滴を付与するのではなく、ガラス基板やアルミナ等のセラミックス基板に液滴を付与する。よって付与された液滴は、インクジェットプリンタで紙に印字される場合と異なり、液滴が基板に衝突後瞬時に基板に吸収されるわけではなく、基板面に半球状(よりややフラットな形状ではあるが)に残っており、これに後続のドットが付着衝突することにより、微小液滴の飛散,飛び散りが発生し、良好な電子放出部形成を阻害することがある。ここがインクジェットプリンタと本発明の違いである。
つまり、本発明のように、ガラス基板やアルミナ等のセラミックス基板に液滴を付与する場合は、インクジェットプリンタによって紙にインク滴を噴射付与する場合と違い、条件を選ばないと液滴は基板面に衝突した場合に、微小液滴に飛散し良好な丸いドットが得られない場合があり、電子放出部を得ることができないことがある。本発明はこの点に鑑み、液滴が基板面に衝突し、ドットを形成する際に微小液滴に飛散することなく良好な丸いドットが形成される条件を実験的に見出したものである。以下にその結果を示す。
実験は、導電性薄膜の材料を含有する溶液をインクジェットの原理で、表面を鏡面研摩した石英ガラス基板に噴射付与し、噴射時の液滴の噴射速度を変え、ドット形成状況(ドット着弾位置精度や形成されたドット形状)、微小液滴飛散状況(メインのドットのまわりに飛散した微小液滴の飛散状況)を調べたものである。
なお、このような液滴およびドットを形成するための具体的な条件は以下のとおりである。使用した溶液は、酢酸パラジウム−トリエタノールアミン水溶液であり、以下のようにして製造したものである。すなわち100gの酢酸パラジウムを2000ccのイソプロピルアルコールに懸濁させ、さらに407gのトリエタノールアミンを加え35℃で12時間攪拌した。反応終了後、イソプロピルアルコールを蒸発により除去し、固形物にエチルアルコールを加えて溶解,濾過し,濾液から酢酸パラジウム−トリエタノールアミンを再結晶させて得た。このようにして得た酢酸パラジウム−トリエタノールアミン2gを98gの純水に溶解し、溶液とした(2.0wt%)。
なお、使用した噴射ヘッドは、エッジシューター型のサーマルインクジェット方式と同等の構造(ただしインクではなく、上記溶液を使用)とし、ノズル径はΦ25μm,発熱体サイズは25μm×90μm(抵抗値118Ω)のものを使用した。そして、駆動電圧を20〜24V,パルス幅を5〜7μsの範囲で適宜選び、噴射する液滴の噴射速度を、0.5〜12m/sの範囲で変化させ、それぞれの場合の液滴の着弾位置精度、ドット形状,微小液滴飛散状況を調べた。なおこの時のキャリッジ走査速度は0.3m/sとした。結果を以下に示す。
ここで、着弾位置精度の○は狙いの位置に対して1/2ドット径以内の場合、×はそれ以上の場合である。なおその場合、今回は1〜5ドット径まで変化していた(実験No.1〜3)。ドット形状については、○は良好な丸いドット形状が得られたものである。全般的におおむね良好な丸い形状が得られたが、官能検査でやや丸形状がいびつに感じられたものを△とした。微小液滴飛散状況は、微小液滴飛散が生じなかったものを○、微小液滴飛散が生じたもの(メインのドットの周辺に小さい飛び散りが発生したもの)を×とした。
以上の結果より、着弾位置精度,ドット形状,微小液滴飛散状況から判断して、良好なドットを得るために、液滴の噴射速度を3〜10m/sにする必要があることがわかる。つまり、液滴の噴射速度をこの範囲内にすることにより、噴射が安定し着弾位置精度が向上するとともに、先に付着しているドットに後から付着する液滴が、適切な飛翔速度で衝突するので、不必要な液滴ミストが発生して、周辺に付着するということがなく、非常に高精度な表面伝導型電子放出素子のパターンが形成でき、その電子放出素子特性も各素子間でバラツキのない良好なものが得られるようになる。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。前述の図5(B)では、素子電極42の間に液滴43を1滴付着させるようなイメージを示した。そして電子放出部も丸いイメージで示した(図5(B)では液滴着弾位置44として丸いイメージを示した。)。つまりそれほど精度を要求しないような電子放出素子を形成するのであれば、素子電極42の間に大きな1滴の液滴により大きな1つのドットでこの電子放出部を形成すればよい。たとえば、素子電極42の距離が5〜10mmであり、1滴によるドット径もΦ8〜15mm程度の場合には、1滴付着させて電子放出部を形成すればよい。この場合、それほど高精度の電子放出素子は望めないが、単に電子放出ができればよいという程度のものであればこの方が効率よくできる(図17)。なお、図17においてDPはドットパターンである。
しかしながら、より高精度の電子放出素子を形成するには、この電子放出部は複数滴によって形成し、その輪郭がなめらかになるように形成すればよい。
1つの好適な例をあげると、前述の素子電極42の距離は140μmである。そして1滴だけ単独に付着させた場合のドット径は約Φ180μmである(図17)。
次に、4滴の液滴をこの素子電極42の140μm間を埋めるパターンを形成するように打ち込むようにした例を示す(図18)。この例の場合のように4滴のドットパターンDPを重ねて付着させた場合の1つのドット径は約Φ65μmである。
つまり、生産性あるいは目的とする電子放出素子の精度によって、大きな1滴だけによってこの素子電極42の間を埋める、あるいは小さな複数滴(この場合4滴)の液滴により高精度なドットパターンDPを形成するかを、適宜選べばよい。なおこのような液滴およびドットを形成するための具体的な条件を以下に示す。
使用した溶液は、酢酸パラジウム−トリエタノールアミン水溶液であり、以下のようにして製造したものである。すなわち150gの酢酸パラジウムを3000ccのイソプロピルアルコールに懸濁させ、さらに610.5gのトリエタノールアミンを加え35℃で12時間攪拌した。反応終了後、イソプロピルアルコールを蒸発により除去し、固形物にエチルアルコールを加えて溶解,濾過し、濾液から酢酸パラジウム−トリエタノールアミンを再結晶させて得た。このようにして得た酢酸パラジウム−トリエタノールアミン4gを96gの純水に溶解し、溶液とした(4.0wt%)。
また、使用した噴射ヘッドは、エッジシューター型のサーマルインクジェット方式と同等の構造(ただしインクではなく、上記溶液を使用)とした。図18に示したようなドットパターンDPにおける1つのドット径が約Φ65μmとなるようにした場合の噴射ヘッドは、ノズル径はΦ28μm,発熱体サイズは28μm×90μm(抵抗値121Ω)で、駆動電圧を24.6V,パルス幅を6μs,駆動周波数を10kHzで駆動し、1滴形成のエネルギーを約30μJとし、その時の液滴の噴射速度は約7m/sであった。
なお、以上の溶液および噴射の条件は、素子電極42の距離が140μmであり、そこに4滴付着させる場合の1例であり、本発明はこの条件に限定されるものではない。例えば、図19は同様に素子電極42の距離が140μmであるが、5滴×2列=10滴付着させて電子放出素子を形成する場合である。この例ではドット径は約Φ45μmである。この場合、使用する噴射ヘッドはノズル径が、Φ20μmのものが使用され、またそれに対応して、発熱体サイズは20μm×60μm(抵抗値102Ω)としたものであり、駆動電圧を13.5V,パルス幅を4μs,駆動周波数を16kHzで駆動し、1滴形成のエネルギーを約7.1μJとして液滴を噴射させた。そしてその時の液滴の噴射速度は約6m/sであった。
また、素子電極42の距離も140μmに限定されるものではなく、より高精細な画像表示装置を製作するには電子源基板の電子放出素子も高密度に配列させる必要があり、例えば素子電極42の距離が50μmであるような場合もある。その場合も使用する噴射ヘッドは、上記のようなノズル径がΦ20μmのものおよび発熱体サイズ,駆動条件等もそれに準じて適宜選ばれる。
つまり、本発明では、素子電極42の距離および要求される電子放出素子の精度に応じ、付着させる液滴数は、1〜30滴程度まで適宜選択し、最適な条件で電子放出素子を形成するのであり、特別な条件に限定されるものではない。なお、付着させる液滴数は使用する噴射ヘッドのノズル径にも依存するが、最大30滴程度にとどめておくことが、生産性の面から望ましい(より微小な滴をより多く付着させることも可能であるが、生産性が低下しコスト面で不利になる)。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。前述の例であげた素子電極42の距離は140μmである。そして1滴だけ単独に付着させた場合のドット径は約Φ180μmである。この場合、本発明では10滴の液滴をこの素子電極23の140μm間を埋めるドットパターンDPを形成するように打ち込むようにしている(図19)。なお図19では、各ドットの重なり具合を示すために、各ドットは輪郭線で示している。
つまり、大きな1滴だけによってこの素子電極42の140μm間を埋める(図17)というラフな方法ではなく、小さな複数滴(この場合10滴)の液滴により高精度なパターンを形成し、高精度な電子放出素子を形成している(図19)。この例の場合のように10滴のドットパターンを重ねて付着させた場合の1つのドット径は約Φ45μmである。
今、この例では、斜め方向の隣接ドットの外周が互いに接するように打ち込まれている。別の表現をするならば、直交する2方向の隣接ドットにおいて、直交する2方向の中心間距離lx,ly(図19参照)が、ドットの直径の1/√2倍となるようにしている。この条件は、複数滴のドットを打ち込んだ際に、下地がすべてドットによって被覆される限界の条件である。
つまり、本発明では、直交する2方向の隣接ドットにおいて、直交する2方向の中心間距離lx,lyが、ドットの直径の1/√2倍以内となるようにし、複数滴のドットを打ち込んだ際に、下地がすべてドットによって被覆されるようにし、下地が露出しないようにしているのである。
このように下地が露出しないようにして、電子放出素子部を形成すると、導電性薄膜の材料を含有する溶液の液滴がすべて電子放出素子部をカバーするために,品質の安定した電子放出素子部が形成できるとともに、複数滴のドットを重ねて打ち込むためにパターンもなめらかになり、高精度の電子放出素子部形成することができる。
なお、このような液滴およびドットを形成するための具体的な条件を以下に示す。
使用した溶液は、酢酸パラジウム−トリエタノールアミン水溶液であり、以下のようにして製造したものである。すなわち50gの酢酸パラジウムを1000ccのイソプロピルアルコールに懸濁させ、さらに203.5gのトリエタノールアミンを加え35℃で12時間攪拌した。反応終了後、イソプロピルアルコールを蒸発により除去し、固形物にエチルアルコールを加えて溶解,濾過し、濾液から酢酸パラジウム−トリエタノールアミンを再結晶させて得た。このようにして得た酢酸パラジウム−トリエタノールアミン4gを196gの純水に溶解し、溶液とした(2.0wt%)。
また、使用した噴射ヘッドは、エッジシューター型のサーマルインクジェット方式と同等の構造(ただしインクではなく、上記溶液を使用)とした。図17に示したような1つのドット径が約Φ45μmとなるようにした場合の噴射ヘッドは、ノズル径はΦ20μm,発熱体サイズは20μm×60μm(抵抗値102Ω)で、駆動電圧を13.5V,パルス幅を4μsで駆動し、1滴形成のエネルギーを約7.1μJとし、その時の液滴の噴射速度は約6m/sであった。
なお、以上の溶液および噴射の条件は、素子電極42の距離が140μmであり、そこに10滴付着させる場合の1例であり、本発明はこの条件に限定されるものではない。つまり10滴に限らずもっと多くの滴数としてもよいし、また、図19に示したように5滴×2列というように2列に限定されるものでもなく、3列,4列であってもよい。
また、素子電極42の距離も140μmに限定されるものではなく、より高精細な画像表示装置を製作するには電子源基板の電子放出素子も高密度に配列させる必要があり、例えば素子電極42の距離が50μmであるような場合もある。その場合も使用する噴射ヘッドは、上記のようなノズル径がΦ20μmのものおよび発熱体サイズ、駆動条件等もそれに準じて適宜選ばれる。
つまり、本発明では、素子電極42の距離および要求される電子放出素子の精度に応じ、付着させる液滴数は、2〜30滴程度まで適宜選択し、最適な条件で電子放出素子を形成するのであり、特別な条件に限定されるものではない。要は、直交する2方向の隣接ドットにおいて、直交する2方向の中心間距離lx,lyが、ドットの直径の1/√2倍以内となるようにし、複数滴のドットを打ち込んだ際に、下地がすべてドットによって被覆されるようにし、下地が露出しないようにすることがポイントである。
次に、本発明に使用する噴射ヘッドについて図20を用いて説明する。ここでは噴射ヘッドのノズル数を4個とした例を示している。この噴射ヘッドは、発熱体基板102と蓋基板103とを接合させることにより形成されており、発熱体基板102は、シリコン基板104上にウエハプロセスによって個別電極105と共通電極106とエネルギー作用部である発熱体107とを形成することによって構成されている。
一方、前記蓋基板103には、導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する溶液が導入される流路を形成するための溝108と、流路に導入される前記溶液を収容する共通液室(図示せず)を形成するための凹部領域109とが形成されており、これらの発熱体基板102と蓋基板103とを図20に示すように接合させることにより、前記流路及び前記共通液室が形成される。なお、発熱体基板102と蓋基板103とを接合させた状態においては、前記流路の底面部に前記発熱体107が位置し、流路の端部にはこれらの流路に導入された溶液の一部を液滴として吐出させるための前記ノズル101が形成されている。また、前記蓋基板103には、供給手段(図示せず)によって前記供給液室内に溶液を供給するための溶液流入口110が形成されている。
この例では、4ノズルの噴射ヘッドを示しているが、このようなマルチノズル型の噴射ヘッドを用いると大変効率的に電子放出素子を形成することができる。なおこの例では4ノズルの噴射ヘッドを示しているが、必ずしも4ノズルに限定されるものではなく、ノズル数が多ければ多いほど電子放出素子の形成が効率的になることはいうまでもない。ただし、単純に多くすればよいということではなく、多くすれば噴射ヘッドも高価になり、また噴射ノズルの目詰まりによる確率も高くなるので、それらも考慮し装置全体のバランス(装置コストと電子放出素子の製作効率のバランス)を考えて決められる。
また、ノズル数だけではなく、ノズル列配列長さ(噴射ヘッドの有効噴射幅)についても、同様の考えが必要である。すなわち、単純にノズル列配列長さ(噴射ヘッドの有効噴射幅)を多くすればよいということではなく、これも装置全体のバランス(装置コストと電子放出素子の製作効率のバランス)を考えて決められる。
1例をあげると、本発明では、マルチノズルのノズル列配列長さ(噴射ヘッドの有効噴射幅)は、素子電極42間距離と同等もしくはそれより大となるようにノズルの数およびその配列密度を決めている。ただしここで、それより大となるようにするというのは、無制限に大ということではなく、素子電極42間距離より少し大ということである。つまり本発明の基本的な考え方は、素子電極42間距離と同等のノズル列配列長さ(噴射ヘッドの有効噴射幅)を確保した噴射ヘッドとすることにより、噴射ヘッドのコストを最小限におさえ、かつ素子電極42間距離と同等のノズル列配列長さ(噴射ヘッドの有効噴射幅)とすることにより、効率的に電子放出素子を製作しようというものである。
より具体的な数値を、上記のように4滴の液滴を素子電極42の140μm間を埋めるパターンを形成するように打ち込む場合で説明する。
この場合、本発明では図20に示した4ノズルのノズル列配列長さ(噴射ヘッドの有効噴射幅、言い換えるならば、両端ノズル間距離)は、約127μm(素子電極23の140μm間とほぼ同等の長さとみなせる)とされ、各ノズル間距離は約42.3μmとしている。つまりこの場合、いわゆるインクジェットプリンタでいうところの600dpi(dot per inch)相当のノズル配列密度をもつ噴射ヘッドを使用したものである。
なお、以上は図20に示した4ノズルの噴射ヘッドで説明したが、各ノズル間距離が約42.3μmの6ノズルの噴射ヘッドとすることも考えられる。この場合、6ノズルのノズル列配列長さ(噴射ヘッドの有効噴射幅、言い換えるならば、両端ノズル間距離)は、約212μm(素子電極23の140μm間より大とみなせる)とされ、素子電極42間距離をノズル列配列長さが余裕をもってカバーし、効率的に電子放出素子を製作することができる。
次に、本発明の特徴について図21を用いて説明する。図21(A)は、電子放出素子群を形成した電子源基板の平面図、図21(B)は電子放出素子の拡大図、図21(C)は本実施例の電子放出素子の形成に好適な4ノズル噴射ヘッドの側面図である。前述(図3,図4)のように本発明では、噴射ヘッドは基板14(電子源基板45)と相対移動を行いながら、液滴を付与して、電子放出素子群を形成する。図21は電子源基板45に形成された素子電極42およびその素子電極42間に縦方向(副走査方向)に4滴の液滴付与によって形成された電子放出素子群を示すとともに、噴射ヘッドをノズル101の形成面から見た図で示している。横方向はここでは主走査方向Mと定義する。
説明を簡略化するために、今ここでは、噴射ヘッドと基板14(電子源基板45)の相対移動を図3の場合のように基板14の前面に置かれ、キャリッジ搭載された噴射ヘッドが主走査方向ならびに副走査方向に移動しながら液滴を付与して、電子放出素子群を形成する場合の例で説明する。
前述のように、図21では、素子電極42間に縦方向(副走査方向)に4滴の液滴付与によって形成された電子放出素子群を示しているが、本発明ではこのような基板14(電子源基板45)に電子放出素子群を形成するだけではなく、それ以外のパターンも同様の噴射ヘッドを利用して形成しようとするものである。
そのため、図21に示したように、領域X,領域Yはそれぞれ主走査方向Mならびに副走査方向Sの電子放出素子群形成領域であるが、それら以外に領域Xa,領域Xb,領域Ya,領域Ybという具合に、電子放出素子群形成領域の外側にも少しスペースを設け、キャリッジ搭載された噴射ヘッドが主走査方向ならびに副走査方向に移動しながら液滴を付与する場合も、これら領域Xa,領域Xb,領域Ya,領域Ybまでもキャリッジ走査が可能であるようにし、さらにそれらの領域においても、電子放出素子群を形成するために噴射する溶液と同じ溶液を噴射付与できるような電子源基板製作装置としている。また使用する基板14(電子源基板45)も電子放出素子群を形成するだけではなく、電子放出素子群形成領域の外側にも少しスペースを設けたような基板としている。
このような電子源基板製作装置ならびに基板とすることにより、噴射ヘッドは単に電子放出素子群を形成するためのパターン形成だけではなく、それ以外のパターン形成も行うことが可能となる。例えば、各基板ごとに他の基板と区別するためのパターン形成なども行うことができる。より具体的な1例として、図21では“123”と示したが、製造番号や製造年月日などを噴射ヘッドによって1枚1枚の基板に形成することができる。なおいうまでもないが、このような数字、文字に限らず、1枚1枚を区別する、もしくは複数枚ずつを区別するためものであれば、記号,図柄のようなものでもよい。
通常、このような製造番号などは、完成した部品ユニットに銘板を貼ったり、刻印したりしているが、本発明のように非常に高精度で、清浄度が要求されるような部品ユニット(電子源放出基板)の製作においては、後で銘板を貼ったり、刻印したりといった工程がはいると、その作業時の汚染あるいは空気中の塵埃等による汚染によって、電子源放出基板の本来の性能が維持できなくなることがある。しかしながら本発明では、電子放出素子群を形成する際に同時にこのような製造番号などを付与できるので、電子放出素子群を形成する環境と同じ環境(通常、クラス100〜1000程度のクリーンルーム)を維持したままこのような工程(製造番号などの付与工程)を行うことができるので、製造される電子源基板は汚染等の問題もなく、非常に高性能な電子源基板が製作できる。また、従来のように後から別の装置で刻印したりする必要もないため、非常に効率がよく製造コストも下げることができる。
次に、本発明の他の特徴について説明する。図22は前述の図21と同様に、素子電極42間に縦方向(副走査方向)に4滴の液滴付与によって形成された電子放出素子群を示しているが、この例では電子放出素子群形成領域である領域X,領域Y以外の領域Xa,領域Xb,領域Ya,領域Yb,つまり電子放出素子群形成領域の外側にも少しスペースを設け、そこにも、同様な複数対の素子電極を形成するとともに、その素子電極間に導電性薄膜の材料を含有する溶液の液滴を噴射付与することにより、電子放出素子と同様の素子電極および導電性薄膜のパターンを形成したものである。この例では4ヵ所に設けた例を示している。
このように電子放出素子群形成領域の外側に電子放出素子と同様の素子電極および導電性薄膜のパターンを形成することの理由は、後述のフォーミング処理によって、電子放出部を形成した際の素子の機能等のチェックをこのパターンを使って行うためである。形成された電子放出素子を全数チェックすれば確実ではあるが、それには非常に時間がかかり、コスト的に大変高いものとなってしまう。しかしながら本発明では、このようなチェック専用のパターンを設け、素子の全数チェックを行うのではなく、このパターンを用いてチェックを行うので、短時間にチェックが終了する。チェックするものは、例えば通電フォーミング処理終了後のパターンの電極間に電圧印加した場合に流れる電流である。
なお、この例では、チェック用のパターンも電子放出素子群と同じ素子の例として説明したが、必ずしも全く同じにする必要はなく、チェック専用のパターンとして、簡略化した形状のパターンであっても良い。
また、その数も必ずしも4個にする必要はない。ただし、ある1ヵ所のみにチェックパターンを形成してチェックするよりは、この例のように4隅にそのようなチェックパターンを形成しておいてチェックした方が、大面積の基板の性能チェックには有利である。特に200mm×200mm程度より小さい電子源基板の場合は1ヵ所でもよいが、それより大きいものに関しては、広範囲にわたる基板全体の一定の品質を確保するうえで、複数個のチェック用パターンを分散して配置することが望ましい。なぜならそもそもこのようなチェックパターンを設ける目的は、広範囲に製作した複数個の素子が、場所によらず均一にできているかどうかをチェックするためだからである。
以上の説明より明らかなように、本発明の電子源基板は、基板上の複数対の各素子電極間に導電性薄膜の材料を含有する溶液の液滴を噴射付与され製作されるが、電子源基板は表面伝導型電子放出素子群が形成される領域よりも少し大きく構成され、その領域の外側にも、このような溶液の液滴を噴射付与し、いろいろなパターンを形成可能とした基板であり、またそれを製作する装置も、その領域の外側にも溶液の液滴噴射付与ができるようにした製作装置である。
また、上述の通り、本発明の電子源基板においては、その基板の表面(表面伝導型電子放出素子群を形成する面)および裏面の表面粗さを上記のような値、あるいは表面と裏面の関係とすることにより、良好な表面伝導型電子放出素子群を低コストで形成でき、しかも、製造効率すなわち製造歩留まりを上げることが可能となる。
以上の説明より明らかなように、本発明の電子源基板は、基板上の複数対の各素子電極間に導電性薄膜の材料を含有する溶液の液滴を噴射付与され製作されるが、その後、本発明では以下に説明するようなフォーミング処理によって、電子放出部5を形成する(図1,図2参照)。
図1に示すように、電子放出部5は、導電性薄膜4の一部に形成された高抵抗の亀裂により構成され、導電性薄膜4の膜厚,膜質,材料等、あるいは、フォーミング処理条件等に依存したものとなる。電子放出部5の内部には、1000Å以下の粒径の導電性微粒子を含む場合もある。この導電性微粒子は、導電性薄膜4を構成する材料の元素の一部、あるいは全ての元素を含有するものとなる。電子放出部5およびその近傍の導電性薄膜4には、炭素あるいは炭素化合物を含む場合もある。
この導電性薄膜4に施すフォーミング処理方法の一例として通電処理による方法を図2を用いて説明する。対の素子電極2,3間に図示していない電源を接続して電圧を印加して通電を行うと、導電性薄膜4の部位に、構造の変化した電子放出部5が形成される。すなわち、通電フォーミングにより、導電性薄膜4に局所的に破壊、変形もしくは変質等の構造変化した部位が形成される。この部位が電子放出部5となる。
通電フォーミングの電圧波形の例を図24に示す。電圧波形は特にパルス波形が好ましく、パルス波高値が一定の電圧パルスを連続的に印加する場合(図24(A))と、パルス波高値を増加させながら、電圧パルスを印加する場合(図24(B))とがある。まずパルス波高値が一定電圧とした場合(図24(A))について説明する。
図24(A)におけるT1およびT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔であり、T1を1μs乃至10ms、T2を10μs乃至100msとし、三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は表面伝導型電子放出素子の形態に応じて適宜選択する。上述の条件のもと、例えば、数秒乃至数十分間対の素子電極2,3間に電圧を印加する。パルス波形は三角波に限定するものではなく、矩形波など任意の波形を用いても良い。
図24(B)におけるT1およびT2は、図24(A)に示したものと同様であり、三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、例えば0.1ボルトステップ程度ずつ増加させる。
通電フォーミング処理の終了は、導電性薄膜4を局所的に破壊、変形しない程度の電圧を印加し、電流を測定して検知することができる。たとえば、0.1V程度の電圧を対の素子電極2,3間に印加することにより流れる素子電流を測定し、抵抗値を求めて、1MΩ以上の抵抗を示した時に通電フォーミングを終了させる。
通電フォーミングを終了した電子放出素子に活性化工程と呼ぶ処理を施すことが望ましい。活性化処理を施すことにより、素子電流If、放出電流Ieが著しく変化する。
活性化工程は、たとえば、有機物質のガスを含有する雰囲気下で、通電フォーミングと同様に、パルスの印加を繰り返すことで行う。前記雰囲気は、例えば油拡散ポンプやロータリーポンプなどを用いて真空容器内を排気した場合に雰囲気内に残留する有機ガスを利用して形成することができる他、イオンポンプなどにより一旦十分に排気した真空中に適当な有機物質のガスを封入することによっても得られる。このときの好ましい有機物質のガス圧は、前述の適用の形態、真空容器の形状や、有機物質の種類などにより異なるため場合に応じ適宜設定される。適当な有機物質としては、アルカン,アルケン,アルキンの脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類,アルコール類,アルデヒド類,ケトン類,アミン類,フェノール,カルボン酸,スルホン酸等の有機酸類等を挙げることができ、具体的には、メタン,エタン,プロパンなどCnH2n+2で表される飽和炭化水素、エチレン,プロピレンなどCnH2n等の組成式で表される不飽和炭化水素、ベンゼン,トルエン,メタノール,ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド,アセトン,メチルエチルケトン,メチルアミン,エチルアミン,フェノール,蟻酸,酢酸,プロピオン酸等が使用できる。前述の活性化工程により雰囲気に存在する有機物質から炭素あるいは炭素化合物が電子放出素子上に堆積し、素子電流If,放出電流Ieが著しく変化する。活性化工程の終了判定は、素子電流Ifと放出電流Ieを測定しながら行う。なおパルス幅、パルス間隔、パルス波高値などは適宜設定される。
前述の炭素あるいは炭素化合物とは、グラファイト(単結晶,多結晶の両者を指す)、非晶質カーボン(非晶質カーボンおよび非晶質カーボンと前記グラファイトの微結晶の混合物を含むカーボン)であり、その膜厚は500Å以下にするのが好ましく、より好ましくは300Å以下である。
上述のごとく作成した電子放出素子は、安定化処理を行うことが好ましい。該安定化処理は真空容器内の有機物質の分圧が、1×10-8Torr以下、望ましくは1×10-10Torr以下で行うのが良い。真空容器内の圧力は、10-6乃至10-7Torr以下が好ましく、特に1×10-8Torr以下が好ましい。真空容器を排気する真空排気装置は、装置から発生するオイルが素子の特性に影響を与えないように、オイルを使用しないものを用いるのが好ましい。具体的には、ソープションポンプ、イオンポンプ等の真空排気装置を挙げることができる。さらに、真空容器内を排気するときには、真空容器全体を加熱して真空容器内壁や電子放出素子に吸着した有機物質分子を排気しやすくするのが好ましい。加熱状態での真空排気条件は、80乃至200℃で5時間以上が望ましいが、特にこの条件に限るものではなく、真空容器の大きさや形状、電子放出素子の構成などの諸条件により変化する。なお、上記有機物質の分圧測定は質量分析装置により質量数が10乃至200の炭素と水素を主成分とする有機分子の分圧を測定し、それらの分圧を積算することにより求められる。上述の安定化工程を経た後の電子放出素子駆動時の雰囲気は、上述の安定化処理終了時の雰囲気を維持するのが好ましいが、これに限るものではなく、有機物質が十分除去されていれば、真空度自体は多少低下しても十分安定な特性を維持することができる。上述のごとき真空雰囲気を採用することにより、新たな炭素あるいは炭素化合物の堆積を抑制でき、結果として素子電流If、放出電流Ieが安定する。
次に、本発明の画像表示装置について述べる。
画像表示装置に用いる電子源基板の電子放出素子の配列については種々のものが採用できる。
まず、並列に配置した多数の電子放出素子の個々の素子電極毎に共通配線で接続した電子放出素子の行を多数個配置し(行方向と呼ぶ)、この配線と直交する方向(列方向と呼ぶ)で電子放出素子の上方に配置した制御電極(グリッドとも呼ぶ)により、電子放出素子からの電子を制御駆動する梯子状配置のものがある。これとは別に、電子放出素子をX方向およびY方向に行列状に複数個配置し、同じ行に配置された複数の電子放出素子の素子電極の一方を、X方向の配線に共通に接続し、同じ列に配置された複数の電子放出素子の素子電極の他方を、Y方向の配線に共通に接続するものが挙げられる。後者は、所謂、単純マトリックス配置である。
まず、単純マトリックス配置について以下に詳述する。本発明の電子放出素子を複数個マトリックス状に配置して得られる電子源基板について、図7を用いて説明する。図7において、45は電子源基板、51はX方向配線、52はY方向配線、53は表面伝導型電子放出素子、54は結線である。m本のX方向配線51は、Dx1,Dx2,・・・・・・Dxmからなり、Y方向配線52はDy1,Dy2,・・・・・・Dynのn本の配線よりなる(m,nは共に正の整数)。また、多数の表面伝導型素子53にほぼ均等な電圧が供給されるように材料,膜厚,配線幅が適宜設定される。これらm本のX方向配線51とn本のY方向配線52間は図示していない層間絶縁層により電気的に分離されてマトリックス配線を構成する。
層間絶縁層(図示していない)はX方向配線51を形成した電子源基板45の全面域または一部の所望の領域に形成される。X方向配線51とY方向配線52はそれぞれ外部端子として引き出される。更に、表面伝導型電子放出素子53の対の素子電極(図示していない)のそれぞれがm本のX方向配線51およびn本のY方向配線52と結線54によって電気的に接続されている。配線51と配線52を構成する材料、結線54を構成する材料および一対の素子電極を構成する材料は、その構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、またそれぞれ異なっても良い。これら材料は、例えば、前述の対の素子電極の材料より適宜選択される。対の素子電極を構成する材料と配線材料が同一である場合には、対の素子電極に接続した配線も素子電極ということができる。
X方向配線51は、X方向に配列する表面伝導型電子放出素子53の行を入力信号に応じて走査するために走査信号を印加する走査信号発生手段(図示していない)と電気的に接続されている。一方、Y方向配線52は、Y方向に配列する表面伝導型電子放出素子53の各列を入力信号に応じて変調するために変調信号を印加する変調信号発生手段(図示していない)と電気的に接続されている。表面伝導型電子放出素子53の各素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される前記走査信号と前記変調信号の差電圧として供給される。これにより、単純なマトリックス配線だけで個別の電子放出素子を選択して独立に駆動可能になる。
次に、上述の単純マトリックス配置の電子源基板を用いた画像表示装置について、図26,図27および図28を用いて説明する。図26は画像表示装置の表示パネルの基本構成図であり、図27はこれに用いられる蛍光膜を示す。図28はNTSC方式のテレビ信号に応じて表示を行う画像表示装置の駆動回路とともに、該画像表示装置を示すブロック図である。
図26において、45は電子放出素子53を基板上に作製した電子源基板、61は電子源基板45を固定したリアプレート、66はガラス基板63の内面に蛍光膜64とメタルバック65等が形成されたフェースプレート、62は支持枠であり、リアプレート61、支持枠62およびフェースプレート66に、フリットガラス等を塗布し、大気中あるいは窒素中で400乃至500度で10分以上焼成することで封着して外囲器68を構成する。電子放出素子53の構造は図1に模式的に示している。51,52は表面伝導型電子放出素子の一対の素子電極と接続されたX方向配線およびY方向配線である。
なお、ここで使用するフェースプレート66を構成するガラス基板63においても、前述の電子源基板製作時と同様に作業者が不慮の事故により、怪我などをしないようにする必要がある。
本発明では、このガラス基板63においても、基板の表面とその表面に垂直方向の厚さ方向の面とが交差する稜線領域に面取りを施したガラス基板であるようにした。またその基板の裏面についても同様である。さらに直角を形成する2つの面取りを施した稜線領域の直角部にも面取りを施すようにする点についても同様である。
ここでは、新たな図は示さないが、図12〜図14の電子源基板製作用の基板の図はそのまま、ここでのフェースプレート66を構成するガラス基板63に適用される。つまり、上記説明はそのまま図12〜図14において、電子源基板製作用の基板に本発明のフェースプレート66を構成するガラス基板63を置き換えて理解すればよい。
以上の説明より明らかなように、本発明では、フェースプレート66を構成するガラス基板63においても、前述の電子源基板製作時と同様に作業者が不慮の事故により、怪我などをすることが皆無となった。また、面取りされた2つ(縦方向と横方向)の稜線部分が直角をなす部分にも面取りを施したので、作業者が電子源基板製作時(基板搬送時,交換時,製造装置への装着時等)に、その直角部でけがをしたりするという不慮の事故も皆無となり、さらに、その直角部があらかじめ面取りされているので、全く面取りされていない状態でとがっている状態のものより、その直角部が何かにぶつかった場合に破損しにくく、フェースプレート66を構成するガラス基板63の製作の歩留まりも向上した。
また、このような面取り加工法も、電子源基板製作時と同様の手法が用いられる。また面取りされた加工部分の表面粗さであるが、これもフェースプレート66を構成するガラス基板63の表裏の表面粗さより粗い表面粗さとされ、例えば0.5s〜5sとされ、ガラス基板63の表裏の表面粗さが鏡面加工されるのに対して、面取り部はそこまで高い表面精度とする必要がなく、加工コストの低減を実現している。
外囲器68は、上述の如くフェースプレート66、支持枠62、リアプレート61で構成したが、リアプレート61は主に電子源基板45の強度を補強する目的で設けられる。電子源基板45自体で十分な強度を持つ場合は別体のリアプレート61は不要であり、電子源基板45に直接支持枠62を封着し、フェースプレート66、支持枠62、電子源基板45にて外囲器68を構成しても良い。
しかしながら、フェースプレート66は、電子源基板45のようにリアプレート61によって強度補強することができないので、それ自体が十分な強度を持つようにしなければならない。一つの選択肢は、フェースプレート86に用いるガラス基板63を、電子源基板45よりも厚くし、電子源基板45のようにリアプレート61によって強度補強しなくても、ガラス基板63の自重によってたわみが生じないようにすることである。
他の選択肢は、フェースプレート66に用いるガラス基板63を、前述のような強化ガラスあるいは半強化ガラスとすることがあげられる。
一般に、青板ガラスなどは、500kg/cm2程度の湾曲強度をもっているが、いわゆる風冷強化法と呼ばれるガラスの強化手段によって、1500kg/cm2程度の湾曲強度をもつ強化ガラスとすることができる。その際、通常4mm〜15mmの厚さのものまでこの手法によって上記のような1500kg/cm2程度の湾曲強度をもつものとすることができる。厚さが3mm以下の場合には、風冷強化法では、上記のような1500kg/cm2という湾曲強度をもたせることはできないが、半強化ガラスとすることは可能である。なお、ガラスの強化法として、風冷強化法をあげたが、ガラス表面のイオンを置換することによって表面に圧縮歪みを与える化学強化法も有効な手段である。
また、さらにはフェースプレート66、リアプレート61間に、スペーサーとよばれる耐大気圧支持部材を設置することで大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器68にすることもできる。
図27は、蛍光膜を示す模式図である。蛍光膜はモノクロームの場合は蛍光体72のみからなるが、カラーの蛍光膜の場合は、蛍光体72の配列によりブラックストライプ(図27(A))あるいはブラックマトリックス(図27(B))などと呼ばれる黒色導電材71とで構成される。ブラックストライプ、ブラックマトリックスを設ける目的は、カラー表示の場合、必要となる三原色蛍光体の各蛍光体72間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることと、蛍光体72における外光反射によるコントラストの低下を抑制することである。黒色導電材71の材料としては、通常良く用いられている黒鉛を主成分とする材料だけでなく、導電性があり、光の透過および反射が少ない材料であればこれに限るものではない。
本発明では、上記のようなマトリックス化された蛍光体72のストライプの方向、あるいはマトリックスの互いに直交する2方向を、前述の電子放出素子53群の互いに直交する2方向とそれぞれが互いに平行になるようにし、かつ各電子放出素子53に蛍光体72が一致するように位置決め、積層して、画像表示装置を構成している。上述の構成の画像表示装置は、電子放出素子53と蛍光体72の互いのマトリックスの方向およびそれらの位置が一致するので、非常に高画質な画像表示装置を実現できる。
ガラス基板63に蛍光体を塗布する方法としては、モノクローム、カラーによらず沈澱法や印刷法が用いられる。また蛍光膜64の内面側には、図26に示すように、通常メタルバック65が設けられる。メタルバック65は、蛍光体の発光のうち内面側への光をフェースプレート66側へ鏡面反射することにより輝度を向上させること、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用すること、外囲器68内で発生した負イオンの衝突によるダメージからの蛍光体72の保護等の役割を有する。メタルバック65は蛍光膜64の作製後、蛍光膜64の内面側表面の平滑化処理(通常、フィルミングと呼ばれる)を行い、その後、アルミニウムを真空蒸着等で堆積することで作製できる。
フェースプレート66には、更に蛍光膜64の導電性を高めるため、蛍光膜64の外面側に透明電極(図示していない)を設けてもよい。
前述の封着を行う際、カラーの場合は各色蛍光体72と電子放出素子53との位置を対応させなくてはならず、十分な位置合わせを行う必要がある。本発明では、前述のように、電子放出素子53に対向する位置に蛍光体72を配置するとともに、それぞれのマトリックスの互いに直交する2方向とがそれぞれ互いに平行している。上述の構成の高精度な画像表示装置を得るためには、蛍光体基板も、本発明の電子源基板と同様な位置決め手法をとることが望ましい。
図26に示した画像表示装置は、具体的には以下により製造される。
外囲器68は前述の安定化工程と同様に、適宜加熱しながらイオンポンプ、ソープションポンプなどのオイルを使用しない排気装置により排気管(図示していない)を通じて排気し、10-7Torr程度の真空度の有機物質の十分少ない雰囲気にした後、封止される。外囲器68の封止後の真空度を維持するためにゲッター処理を行う場合もある。ゲッター処理は外囲器68の封止を行う直前あるいは封止後に抵抗加熱あるいは高周波加熱等の加熱法により、外囲器68内の所定の位置(図示していない)に配置されたゲッターを加熱し、蒸着膜を形成する処理である。ゲッターは通常バリウム等が主成分であり、蒸着膜の吸着作用により、例えば1×10-5Torrないし1×10-7Torrの真空度を維持するものである。
次に、単純マトリックス配置型基板を有する電子源基板を用いて構成したこの表示パネルを駆動してNTSC方式のテレビ信号に基づきテレビジョン表示を行うための駆動回路の概略構成を図28を用いて説明する。図28において、81は画像表示パネル、82は走査回路、83は制御回路、84はシフトレジスタ、85はラインメモリ、86は同期信号分離回路、87は変調信号発生器、VxおよびVaは直流電圧源である。
以下、各部の機能を説明する。まず、表示パネル81は端子Dox1ないしDoxm,端子Doy1ないしDoynおよび高圧端子Hvを介して外部の電気回路と接続している。このうち、端子Dox1ないしDoxmには表示パネル81内に設けられている電子源、すなわちM行N列の行列状にマトリックス配線された表面伝導型電子放出素子群を一行(N素子)ずつ順次駆動してゆくための走査信号がスイッチング素子S1ないしSmを介して直流電圧源Vxより印加される。一方、端子Doy1ないしDoynには前記走査信号により選択された一行の表面伝導型電子放出素子の各素子の出力電子ビームを制御するための変調信号が変調信号発生器87より印加される。また高圧端子Hvには直流電圧源Vaより、例えば10kVの直流電圧が供給されるが、これは表面伝導型電子放出素子より出力される電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギーを付与するための加速電圧である。
次に、走査回路82について説明する。同回路は内部にM個のスイッチング素子を備えるもので(図28において、S1ないしSmで模式的に示している)、各スイッチング素子は前記直流電圧源Vxの出力電圧もしくは0V(グランドレベル)のいずれか一方を選択し、表示パネル81の端子Dox1ないしDoxmと電気的に接続するものである。前記S1ないしSmの各スイッチング素子は制御回路83が出力する制御信号Tscanに基づいて動作するものであるが、実際には、例えば、FETのようなスイッチング素子を組み合わせることにより構成することが可能である。なお、前記直流電圧源Vxは前記表面伝導型電子放出素子53の特性(電子放出しきい値電圧)に基づき、走査されていない電子放出素子に印加される駆動電圧が電子放出しきい値電圧以下になるが、走査された電子放出素子に印加される駆動電圧は前記変調信号に応じて電子放出しきい値以上となる一定電圧を出力するように設定されている。
制御回路83は、外部より入力する画像信号に基づいて適切な表示が行われるように各部の動作を整合させる働きをもつ。後述する同期信号分離回路86より送られる同期信号Tsyncに基づいて各部に対してTscan、TsftおよびTmryの各制御信号を発生する。
同期信号分離回路86は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号から同期信号成分と輝度信号成分とを分離するための回路であり、周波数分離(フィルター)回路を用いれば構成できる。同期信号分離回路86により分離された同期信号は良く知られるように垂直同期信号と水平同期信号よりなるが、ここでは説明の便宜上Tsync信号として図10に示した。一方、前記テレビ信号から分離された画像の輝度信号成分を便宜上DATA信号と表すが、同信号はシフトレジスタ84に入力される。
シフトレジスタ84は時系列的にシリアルに入力される前記DATA信号を画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換するためのものであり、制御回路83より送られる制御信号Tsftに基づいて動作する。すなわち制御信号Tsftは、シフトレジスタ84のシフトクロックであると言い換えても良い。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分(電子放出素子N素子分の駆動データに相当する)のデータはId1ないしIdnのN個の並列信号としてシフトレジスタ84よりラインメモリ85へ出力される。
ラインメモリ85は画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶するための記憶装置であり、制御回路83より送られる制御信号Tmryにしたがって適宜Id1ないしIdnの内容を記憶する。記憶された内容はId’1ないしId’nとして出力され、変調信号発生器87に入力される。
変調信号発生器87は前記画像データId’1ないしId’nの各々に応じて表面伝導型電子放出素子の各々を適切に駆動変調するための信号源であり、その出力信号は端子Doy1ないしDoynを通じて表示パネル81内の表面伝導型電子放出素子に印加される。
前述のように、本発明に関わる電子放出素子は放出電流Ieに対して以下の基本特性を有している。すなわち、該電子放出素子の電子放出には明確なしきい値電圧Vthがあり、Vth以上の電圧を印加された時のみ電子放出が生じる。また、電子放出しきい値以上の電圧に対しては素子への印加電圧の変化に応じて放出電流も変化していく。なお、電子放出素子の材料や構成あるいは製造方法を変えることにより電子放出しきい値電圧Vthの値や印加電圧に対する放出電流の変化の度合いが変わる場合もあるが、いずれにしても以下のようなことがいえる。
すなわち、本素子にパルス状の電圧を印加する場合、例えば電子放出しきい値以下の電圧を印加しても電子放出は生じないが、電子放出しきい値以上の電圧を印加する場合には電子ビームが出力される。その際、第一には、パルスの波高値Vmを変化させることにより出力電子ビームの強度を制御することが可能である。第二には、パルスの幅Pwを変化させることにより出力される電子ビームの電荷の総量を制御することが可能である。
したがって、入力信号に応じて電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式等があり、電圧変調方式を実施するには、変調信号発生器87として、一定の幅の電圧パルスを発生するが、入力されるデータに応じて適宜パルスの波高値を変調するような電圧変調方式の回路を用いる。また、パルス幅変調方式を実施するには、変調信号発生器87としては、一定の波高値の電圧パルスを発生するが、入力されるデータに応じて適宜電圧パルスの幅を変調するようなパルス幅変調方式の回路を用いる。
シフトレジスタ84やラインメモリ85はデジタル信号式のものでもアナログ信号式のものでも差し支えなく、要は画像信号のシリアル/パラレル変換や記憶が所定の速度で行われればよい。
デジタル信号式のものを用いる場合には、同期信号分離回路86の出力信号DATAをデジタル信号化する必要があるが、これは同期信号分離回路86の出力部にA/D変換器を備えれば可能である。また、これと関連してラインメモリ85の出力信号がデジタル信号かアナログ信号かにより、変調信号発生器87に用いられる回路が若干異なったものとなる。
まず、デジタル信号の場合について述べる。電圧変調方式においては変調信号発生器87には、例えばよく知られるD/A変換回路を用い、必要に応じて増幅回路などを付け加えればよい。また、パルス幅変調方式の場合、変調信号発生器87は、例えば高速の発振器、発振器が出力する波数を計数する計数器(カウンタ)、および計数器の出力値とラインメモリ85の出力値を比較する比較器(コンパレータ)を組み合せた回路を用いることにより構成できる。必要に応じて比較器の出力するパルス幅変調された変調信号を表面伝導型電子放出素子の駆動電圧にまで電圧増幅するための増幅器を付け加えてもよい。
次に、アナログ信号の場合について述べる。電圧変調方式においては変調信号発生器87には、例えばよく知られるオペアンプなどを用いた増幅回路を用いればよく、必要に応じてレベルシフト回路などを付け加えてもよい。また、パルス幅変調方式の場合には例えばよく知られた電圧制御型発振回路(VCO)を用いればよく、必要に応じて表面伝導型電子放出素子の駆動電圧にまで電圧増幅するための増幅器を付け加えてもよい。
上述の構成を有する画像表示装置においては、表示パネル81の各電子放出素子に、容器外端子Dox1ないしDoxm、Doy1ないしDoynを通じ、電圧を印加することにより、電子放出させるとともに、高圧端子Hvを通じ、メタルバック65あるいは透明電極(図示していない)に高圧を印加して電子ビームを加速し、蛍光膜64に衝突させ、励起・発光させることで画像を表示することができる。
ここで述べた構成は、表示等に好適な画像表示装置を作製する上で必要な概略構成であり、例えば各部材の材料等、詳細な部分は上述内容に限られるものではなく、画像表示装置の用途に適するよう適宜選択する。また、入力信号例として、NTSC方式をあげたが、これに限るものでなく、PAL,SECAM方式などの諸方式でもよく、また、これよりも多数の走査線からなるTV信号(例えば、MUSE方式をはじめとする高品位TV)方式でもよい。
次に、梯子型配置電子源基板および画像表示装置について図11,図12を用いて説明する。
図29において、45は電子源基板、53は電子放出素子、91のDx1〜Dx10は電子放出素子53に接続した共通配線である。電子放出素子53は、基板45上に、X方向に並列に複数個配置される。これを素子行と呼ぶ。この素子行を複数個基板上に配置し、電子源基板45を構成している。各素子行の共通配線間に駆動電圧を印加することで、各素子行を独立に駆動させることができる。すなわち、電子ビームを放出させたい素子行には、電子放出しきい値以上の電圧を印加し、電子ビームを放出させない素子行には電子放出しきい値以下の電圧を印加すればよい。また、各素子行間の共通配線Dx2〜Dx9、例えばDx2、Dx3を同一配線とするようにしても良い。
図30は、上述のごとき梯子型配置の電子源基板を備えた画像表示装置における表示パネルの構造を示す。110はグリッド電極、111は電子が通過するための空孔(開口)、112は、Dox1,Dox2・・・・・・Doxmよりなる容器外端子、113はグリッド電極110と接続されたG1,G2,・・・・・・Gnからなる容器外端子、45は上述のごとく各素子行間の共通配線を同一配線とした電子源基板である。図26,図28と同一の符号は同一の部材を示す。前述の単純マトリックス配置の画像表示装置(図26)との違いは、電子源基板45上の電子放出素子53の配列以外では、電子源基板45とフェースプレート66の間にグリッド電極110を備えているか否かである。
グリッド電極110は、表面伝導型電子放出素子から放出された電子ビームを変調するためのものであり、梯子型配置の素子行と直交して設けられたストライプ状の電極に電子ビームを通過させるため、各素子に対応して1個ずつ円形の開口111が設けられている。グリッドの形状や設置位置は図12に示したものに限定されるものではない。例えば、開口としてメッシュ状に多数の通過口を設けることもでき、グリッドを表面伝導型電子放出素子の周囲や近傍に設けることもできる。容器外端子112およびグリッド容器外端子113は、制御回路(図示していない)と電気的に接続されている。
本画像表示装置では、素子行を1行ずつ順次駆動(走査)していくのと同期してグリッド電極列に画像1ライン分の変調信号を同時に印加する。これにより、各電子ビームの蛍光体への照射を制御し、画像を1ラインずつ表示することができる。これによればテレビジョン放送の表示装置、テレビ会議システム、コンピュータ等の表示装置の他、感光性ドラム等で用いて構成された光プリンタとしての画像表示装置としても用いることができる。
次に、本発明のさらに他の特徴について説明する。本発明に使用される電子源基板は前述のように、表面伝導型電子放出素子群が形成される領域よりも広い(外側の)領域にも、導電性薄膜の材料を含有する溶液の液滴を噴射付与され、導電性薄膜による表面伝導型電子素子を形成できるようになっている。つまり、本来の画像表示に使用する表面伝導型電子素子群の他にさらにその外側の領域に第2の表面伝導型電子放出素子群を形成された電子源基板である。図23にその例を示したが、この例では領域Yaに第2の表面伝導型電子放出素子群Sを形成したものである。
本発明では、このように第2の表面伝導型電子放出素子群Sを形成するとともに、そのような電子源基板とこの電子源基板に対向して配置され、蛍光体を搭載したフェースプレートとを有する画像表示装置を構成する。そしてこの第2の表面伝導型電子放出素子群Sに信号情報を入力して駆動することにより、第2の表面伝導型電子放出素子群Sの領域においても画像表示を行うことができるようにしている。
よって、この第2の表面伝導型電子放出素子群Sへの信号情報入力を、完成した画像表示装置ごとに異ならせ、例えば製造番号などを各画像表示装置ごとに表示させるようにしたり、あるいは製造ロットごとに表示色を変えるなどすることにより、製作後の画像表示装置が容易に区別できるようになる。特に製造番号を画像表示することにより、従来のように後から別の装置で刻印したりする必要もなく非常に効率がよい。
なお、以上の説明では、第2の表面伝導型電子放出素子群Sというように本来の表面伝導型電子放出素子群とはさらに別に設けた例を説明したが、それらを特に区別せず、表面伝導型電子放出素子群に、本来の表示信号と切り替えて、製造ロットごとに表示色を変える表示、製造番号などの表示を行う信号入力を行ってもよい。あるいは、その切り替えを行わず、本来の表示と同時に製造ロットごとに表示色を変える表示,製造番号などの表示を行ってもよい。
1…基板、2,3…素子電極、4…導電性薄膜、5…電子放出部、11…噴射ヘッド、12…キャリッジ、13…基板保持台、14…平面型表面伝導型電子放出素子群を形成する基板、15…溶液供給チューブ、16…信号供給ケーブル、17…噴射ヘッドコントロールボックス、18…キャリッジ12のX方向スキャンモータ、19…キャリッジ12のY方向スキャンモータ、20…コンピュータ、21…コントロールボックス、22(22X1,22Y1,22X2,22Y2)…基板位置決め/保持手段、23…電子源基板保持手段、30…吐出ヘッドユニット、31…ヘッドアライメント制御機構、32…検出光学系、33…インクジェットヘッド、34…ヘッドアライメント微動機構、35…制御コンピュータ、36…画像識別装置、37…XY方向走査機構、38…位置検出機構、39…位置補正制御機構、40…インクジェットヘッド駆動・制御機構、41…光軸、42…素子電極、43…液滴、44…液滴着弾位置、45…電子源基板、51…X方向配線、52…Y方向配線、53…表面伝導型電子放出素子、54…結線、61…リアプレート、62…支持枠、63…ガラス基板、64…蛍光膜、65…メタルバック、66…フェースプレート、67…高圧端子、68…外囲器、71…黒色導電材、72…蛍光体、81…画像表示パネル、82…走査回路、83…制御回路、84…シフトレジスタ、85…ラインメモリ、86…同期信号分離回路、87…変調信号発生器、91…電子放出素子を接続するためにDx1〜Dx10からなる共通配線、101…ノズル、102…発熱体基板、103…蓋基板、104…シリコン基板、105…個別電極、106…共通電極、107…発熱体、108…溝、109…凹部領域、110…溶液流入口、110…グリッド電極、111…開口、112…Dox1〜Doxmからなる容器外端子、113…グリッド電極110と接続するG1〜Gnからなるグリッド容器外端子、DP…ドットパターン、B…基板裏面、E…基板表面(電子放出素子群形成面)、F…稜線部分、L…裏面平面に対して落ち込んだ形状の線状形状部、D…裏面平面に対して突き出した形状の線状形状部、H,H′…面取り、O…切り欠き、G…動作用方向、M…主走査方向、S…副走査方向。