JP4074377B2 - 皮革様シート状物およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は皮革様シート状物およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、極細繊維よりなる繊維質基材中に特定のポリウレタン系エマルジヨンが含浸・凝固している皮革様シート状物およびその製造方法に関する。本発明の皮革様シート状物は、エマルジョン系樹脂を繊維質基材に含浸した後乾熱凝固して得られる従来の皮革様シート状物に比べて、著しく改良された柔軟性および充実感を有していて、天然皮革に近似した、高級感のある優れた風合や触感を有し、耐久性に優れている。
【0002】
【従来の技術】
天然皮革の代用品(人工皮革)として、ポリウレタンなどの樹脂成分を繊維質基材に結束剤として含浸したシート状物が従来より製造されている。このようなシート状物のうちでも、繊維質基材が極細繊維よりなる場合は、天然皮革に近似した良好な風合になるため、いわゆる高級スエード調人工皮革として用いられる。その代表的な製造方法としては、(1)極細繊維形成性の海島型の複合紡糸繊維や混合紡糸繊維よるなる繊維質基材にポリウレタンなどの樹脂を付与した後に海成分を有機溶剤やアルカリ水溶液などによって溶解または分解除去して島成分を極細繊維として残留させて繊維質基材を構成している繊維を極細繊維化する方法、および(2)既に極細繊維化されている極細繊維からなる繊維質基材を予め形成しこれにポリウレタンなどの樹脂を付与する方法が挙げられる。
【0003】
そして、上記した(1)および(2)の人工皮革の製造方法では、繊維質基材へのポリウレタンなどの樹脂の付与方法として、ポリウレタンなどの樹脂成分をジメチルホルムアミドなどの有機溶剤に溶解した溶液を繊維質基材に含浸させた後に水などの非溶剤中で凝固する湿式法、またはポリウレタンなどの樹脂成分を有機溶剤に溶解した溶液または水に分散させたエマルジヨンを繊維質基材に含浸した後に乾燥する乾式法が知られている。
【0004】
上記湿式法による場合は、乾式法に比べて、天然皮革により近い風合を有するシート状物を得ることが可能であるが、生産性に劣り、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤の使用が不可欠であるという欠点がある。一方、乾式法のうちで、樹脂エマルジヨンを使用する場合は、有機溶剤を使用することなくシート状物を得ることが可能であるが、湿式法により得られる皮革様シート状物に匹敵する高品質の風合を発現するに至っていない。その理由としては、乾式法によって得られるシート状物は、その乾燥過程で樹脂が繊維にからみつき強く拘束する構造をとることにより硬い風合になり、且つ樹脂の存在しない空隙が湿式法により得られるシート状物に比べて極めて多く発生することにより充実感が低下することが挙げられる。
【0005】
また、上記した湿式法において、特に、繊維質基材にポリウレタン等の樹脂を付与した後に海成分を有機溶剤やアルカリ水溶液により溶解または分解除去して極細繊維化を行う上記(1)の方法では、その加工工程において極細化した繊維束中に樹脂が侵入して樹脂を強く拘束する構造になり易く、そのため得られる皮革様シート状物の風合が硬くなることが多い。その場合に、硬い風合にならないように樹脂の付着量を少なくすると、充実感のない繊維質基材様の風合となる。また、エマルジヨン樹脂を用いる上記した乾式法において、繊維質基材に樹脂を付与した後に柔軟剤で処理して柔軟性を発現させることも考えられるが、柔軟剤での処理工程を追加する必要があるため生産性が低下し、しかも柔軟剤を付与しても天然皮革に近似した高級感のある風合にはなりにくい。
【0006】
さらに、エマルジヨン樹脂を用いる上記した乾式法の一つとして、単繊維繊度が0.5デニール以下の極細繊維を主体とする繊維層を含む不織シートに、平均粒度が0.1〜2.0μmである水系ポリウレタンエマルジヨンに無機塩類を溶解混合したエマルジヨン液を付与し、加熱乾燥して人工皮革を製造する方法が提案されている(特開平6−316877号公報)。しかし、この方法により得られる人工皮革は、柔軟性、充実感などが十分ではなく、風合が十分に改良されているとは言い難い。
また、2種以上のポリマーからなる繊維の不織布を、脂肪族ジイソシアネート、ポリテトラメチレングリコールおよび脂肪族ジアミンより形成されたポリウレタン樹脂の水性エマルジヨンで加工した後に、アルカリ水溶液または有機溶剤で繊維を部分的に分解または溶解させて極細化して人工皮革を製造する方法が提案されている(特開平9−132876号公報)。しかしながら、この方法により得られる人工皮革も、柔軟性、充実感などの点が十分改良されていない。
【0007】
そのため、人工皮革の製造に当たっては、生産性が低く、しかも樹脂を繊維質基材に含浸させるに当たって樹脂の有機溶剤溶液を用いる必要があるが、品質の高い人工皮革が得られる湿式法が工業的に専ら採用されているのが現状である。
しかしながら、水性の樹脂エマルジヨンを繊維質基材に含浸して加熱凝固する上記した乾式法で代表される皮革様シート状物の製造法は、繊維質基材への樹脂の含浸時や含浸させた樹脂の凝固時に有機溶剤を用いる必要がないことから、環境適合性、作業環境の安全性、工程の簡略化などの点から極めて有効であり、かかる点から、水系の樹脂エマルジヨンを用いて柔軟性および充実感に優れる高品質の皮革様シート状物を製造し得る技術の開発が強く求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、極細繊維よりなる繊維質基材を用い、これに樹脂の水性エマルジヨンを含浸して加熱凝固させることによって、柔軟性および充実感に優れていて、天然皮革に近似した良好な風合、触感、物性を有する、高級感のある皮革様シート状物を製造する方法並びにそれによる皮革様シート状物を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、極細繊維よりなる繊維質基材中に含浸して凝固させる樹脂エマルジヨンとして、特定の特性を備える感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを用いると、柔軟性に優れ、しかも充実感のある、天然皮革に近似した物性を有する、湿式法に比肩し得る高品質の皮革様シート状物が得られることを見出した。すなわち、該特定の感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを用いることによって、ポリウレタンが繊維質基材中の極細繊維を強く拘束することなく、適度な繊維空間を保ちながら繊維質基材中に含浸し凝固して、柔軟性および充実感に優れる、高品質の皮革様シート状物が得られることを見出して本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、極細繊維形成性繊維よりなる繊維質基材に下記の条件▲1▼〜▲4▼を満足するポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に該極細繊維形成性繊維を極細繊維化することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法である;
▲1▼該ポリウレタン系エマルジヨンが感熱ゲル化性である;
▲2▼該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が2.0×107〜5.0×108dyn/cm2である;
▲3▼該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの160℃における弾性率が1.0×107dyn/cm2以上である;および、
▲4▼該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムのα分散の温度(Tα)が−30℃以下である。
【0011】
そして、本発明は、前記の製造方法で得られる皮革様シート状物である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明における繊維質基材は、適度の厚みと充実感を有し、かつ柔軟な風合を有する極細繊維よりなる繊維質基材であればよく、従来より皮革様シート状物に用いられている極細繊維製の各種の繊維質基材を用いることができる。本発明における繊維質基材では、それを構成する極細繊維の単繊維繊度が0.5デニール以下であることが、柔軟性、充実感、天然皮革様の風合に優れる皮革様シート状物が得られる点から好ましく、0.4デニール以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明においては、極細繊維形成性繊維よりなる繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に該極細繊維形成繊維を極細繊維化して皮革様シート状物を製造する。これにより、繊維質基材へのポリウレタン系エマルジヨンの含浸処理が容易となり、また得られる皮革様シート状物が柔軟性、充実感、天然皮革様の風合などに優れたものとなる。
【0014】
ポリウレタン系エマルジヨンを含浸する前の繊維質基材を構成する極細繊維形成性繊維として、2種類以上の高分子物質よりなる極細繊維形成性の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維が好ましく用いられる。この複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維を構成する高分子物質の一部を溶解および/または分解して除去し、残りの高分子物質を極細繊維状に残留させることによって、皮革様シート状物中で繊維質基材を極細繊維構造とすることができる。
2種類以上の高分子物質よりなる極細繊維形成性の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維の代表例としては、2種以上の高分子物質よりなる海島型複合紡糸繊維および海島型混合紡糸繊維を挙げることができ、それらの繊維から海成分をなしている高分子物質を有機溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細状に残留させて極細繊維化を行うことができる。本発明で用いる繊維質基材は、海島型複合紡糸繊維および海島型混合紡糸繊維のうちの一方のみを用いて形成されていても、または両方を用いて形成されていてもよい。
【0015】
上記した海島型複合紡糸繊維および海島型混合紡糸繊維を構成し得る高分子物質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、変性ポリエステルなどのポリエステル類、6−ナイロン、6,12−ナイロン、6,6−ナイロン、変性ナイロンなどのポリアミド類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリウレタンエラストマーなどを挙げることができる。これらの高分子物質のうちから、有機溶剤に対する溶解性の異なるものを2種以上選択して海成分および島成分として組み合わせることによって、海成分を溶解または分解除去したときに島成分が極細繊維状に残留することのできる極細繊維形成性の海島型複合紡糸繊維および海島型混合紡糸繊維を得ることができる。その際に、島成分は1種類の高分子物質のみからなっていてもまたは2種以上の高分子物質からなっていてもよく、島成分が2種以上の高分子物質からなる場合は、極細繊維化後の繊維質基材中には2種以上極細繊維が存在するようになる。
【0016】
また、極細繊維形成性の海島型複合紡糸繊維および海島型混合紡糸繊維における島成分と海成分の割合は特に制限されないが、一般的には、複合紡糸繊維や混合紡糸繊維の製造の容易性、極細繊維化の容易性、得られる皮革様シート状物の物性などの点から、重量比で、島成分:海成分=15:85〜85:15であることが好ましく、25:75〜75:25であることがより好ましい。
極細繊維形成性の海島型複合紡糸繊維および海島型混合紡糸繊維では、島成分の数、大きさ、海成分中での島成分の分散状態などは特に制限されず、極細繊維よりなる繊維質基材が円滑に得られるものであればいずれでもよい。
【0017】
特に、海成分がポリエチレンおよび/またはポリスチレンよりなり、島成分がポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリアミドよりなる海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維を用いて形成された繊維質基材を使用し、これにポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に、海成分をなすポリエチレンおよび/またはポリスチレンをベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶剤、四塩化炭素、パークレンなどのハロゲン化炭化水溶剤などのような有機溶剤、特にトルエンを用いて溶解除去して,島成分をなすポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリアミドを極細繊維状で残留させて得られる皮革様シート状物は、柔軟性および充実感に優れ、天然皮革に極めて近い良好な風合を有しているので、人工皮革用素材として好適に使用できる。
【0018】
また、本発明で用いる繊維質基材は、不織布および/または織編布のいずれであってもよいが、不織布のみからなるか、または不織布層を少なくとも一方の表面側に有する不織布と織布および/または編布との積層物(例えば不織布層と織編布層よりなる2層構造物、表面と裏面が不織布層で中央が織編布層よりなる3層構造物など)が好ましく用いられる。繊維質基材として好ましく用いられる不織布としては、絡合不織布、ラップ型不織布などを挙げることができ、なかでも絡合不織布が好ましく用いられる。
【0019】
さらに、本発明で用いる繊維質基材は、極細繊維の特徴である皮革様の風合を損なわない限りは、上記した極細繊維と共に必要に応じて他の繊維材料を併用して形成されていてもよい。他の繊維材料としては、通常の繊維、収縮性繊維、潜在自発伸長性収縮性繊維、多層張り合わせ型潜在分割性繊維、特殊多孔質繊維などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を併用できる。これらの他の繊維は、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維などの合成繊維、半合成繊維、綿、羊毛、麻などの天然繊維などであることができる。
【0020】
繊維質基材の厚さは得られる皮革様シート状物の用途などに応じて任意に選択できるが、一般には、ポリウレタン系エマルジヨンを含浸する前の厚さで0.3〜3.0mm程度であることが適度な皮革様の風合を与える点から好ましく、0.8〜2.5mm程度であることがより好ましい。
【0021】
繊維質基材の見かけ密度は、柔軟な風合を有する皮革様シート状物を得るためには、繊維質基材中の繊維が極細繊維状になっている状態で(上記した海島型の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維を用いたときには海成分を除去して極細繊維化した後に)、0.05〜0.8g/cm3であることが好ましく、0.1〜0.5g/cm3であることがより好ましい。繊維質基材の見かけ密度が0.05g/cm3よりも小さいと、得られる皮革様シート状物の反発性および腰感が劣ったものになり易く、天然皮革のような風合が得られにくくなる。一方、繊維質基材の見かけ密度が0.8g/cm3よりも大きいと、得られる皮革様シート状物の腰感が無くなったり、ゴム様の不良な風合となる傾向がある。
【0022】
本発明では、上記した繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固する。ポリウレタン系エマルジヨンの含浸に当たっては、均一で速やかに含浸させるために、必要に応じて、ポリウレタン系エマルジヨンの含浸に先立って繊維質基材に湿潤浸透性を有する界面活性剤を付与しておくことができる。特に、繊維質基材が、ポリオレフィンやポリスチレンのような非極性の樹脂を海成分とする海島型の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維より形成されている場合は、前記した界面活性剤で処理しておくと、ポリウレタン系エマルジヨンの含浸性が向上するので好ましい。
【0023】
この湿潤浸透性を有する界面活性剤としては、湿潤剤、浸透剤、レベリング剤などとして当業界で周知の界面活性剤が使用できる。好ましい界面活性剤の具体例としては、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルエステルナトリウム塩、スルホコハク酸ジオクチルエステルナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩型アニオン界面活性剤;ラウリル硫酸ナトリウム、硫酸オレイン酸ブチルエステルナトリウム塩、ジブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどの硫酸エステル型アニオン界面活性剤;ポリエチレングリコール−モノ−4−ノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール−モノ−オクチルエーテル、ポリエチレングリコール−モノ−デシルエーテルなどのHLB価6〜16のポリエチレングリコール型ノニオン界面活性剤;フッ素系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤などを挙げることができ、これらの界面活性剤の1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
上記した界面活性剤と共に、水酸基1個当たりの分子量が200以下であるアルコールを併用すると、ポリウレタン系エマルジヨンの繊維質基材への浸透性が一層向上するので好ましい。併用できるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ブチルカルビトールなどのモノオール;エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオールなどのジオール;トリメチロールプロパンなどのトリオールなどを挙げることができる。水酸基1個当たりの分子量が200を超えるアルコールを用いても、併用による浸透性の向上効果は殆ど期待できない。
【0025】
湿潤浸透性を示す界面活性剤およびアルコールは、水溶液または水性分散液の形態で繊維質基材に付与することが好ましい。
繊維質基材への界面活性剤およびアルコールの付与量は、繊維質基材の重量に対して、それぞれ0.01〜20重量%および0.001〜5重量%であることが好ましい。また、繊維質基材への界面活性剤とアルコールの合計付与量は、繊維質基材の重量に対して0.1〜50重量%であることが好ましく、1〜30重量%であることがより好ましい。
【0026】
繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸する前に予め界面活性剤または界面活性剤とアルコールを含む水溶液または水性分散液で処理する場合は、該水溶液または水性分散液で処理した後に、乾燥することなく湿潤状態のままでポリウレタン系エマルジヨンを含浸するのがよい。乾燥してからポリウレタン系エマルジヨンを含浸しても、ポリウレタン系エマルジヨンの含浸促進効果が得られない場合が多い。
【0027】
そして本発明では、上記した繊維質基材に、上記の条件▲1▼〜▲4▼を満足するポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固することが必要である。すなわち、ポリウレタン系エマルジヨンとして、感熱ゲル化性で、該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が2.0×107〜5.0×108dyn/cm2であり、該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの160℃における弾性率が1.0×107dyn/cm2以上であり、かつ該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムのα分散の温度(Tα)が−30℃以下であるポリウレタン系エマルジヨンを用いて、繊維質基材への含浸、凝固を行う。
【0028】
ここで、本発明でいう「感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨン」とは、加熱したときに流動性を失ってゲル状物となるポリウレタン系エマルジヨンを言う。本発明では、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンとして、一般的には、35〜90℃の加熱温度、好ましくは40〜80℃の加熱温度で流動性を失ってゲル化するポリウレタン系エマルジヨンが好ましく用いられる。
ポリウレタン系エマルジヨンが感熱ゲル化性でないと、繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸して熱風で乾燥ゲル化した時に、繊維質基材中でエマルジヨン粒子の移動などが生じて、ポリウレタンを繊維質基材中に均一に分散付与できなくなり、皮革様シート状物の強伸度、柔軟性などの物性が低下し、風合が悪くなる。また、繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸した後に温水中でエマルジヨンの凝固を行う場合は、水中へのエマルジヨンの流出を生じ、やはり繊維質基材中にポリウレタンを均一に分散付与できなくなり、前記と同じように、皮革様シート状物の強伸度、柔軟性などの物性の低下、風合の悪化を生ずる。
【0029】
感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンとしては、それ自体で感熱ゲル化性を有するポリウレタンを含有するエマルジヨン、またはポリウレタン系エマルジヨン中に感熱ゲル化剤を添加して感熱ゲル化性にしたエマルジヨンのいずれもが使用できる。
感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを得るための感熱ゲル化剤としては、例えば、無機塩類、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤、ポリビニルメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、シリコーンポリエーテル共重合体、ポリシロキサンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
そのうちでも感熱ゲル化剤としては、無機塩類とポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤の組み合わせが良好な感熱ゲル化性をポリウレタン系エマルジヨンに与えるために好ましく用いられる。
その場合の無機塩類としては、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤の曇点を低下させることのできる一価または二価の金属塩が好ましく用いられ、具体例としては、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸鉛などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
また、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤の具体例としては、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸のエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンのエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド付加物などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンとして感熱ゲル化剤を含有するものを用いる場合は、感熱ゲル化剤の配合量は、エマルジヨン中の樹脂100重量部に対して0.2〜20重量部であることが好ましい。
【0032】
さらに、本発明で用いる感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンは、上述のように、該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾熱乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が2.0×107〜5.0×108dyn/cm2であるようなフィルムを形成し得るポリウレタン系エマルジヨンであることが必要である。
90℃における弾性率が2.0×107dyn/cm2未満である前記乾燥フィルムを与えるようなポリウレタン系エマルジヨンを用いると、繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固し、有機溶剤による抽出とそれに続く加工工程を行ったときに、繊維がポリウレタンによって強く拘束されてしまい、その結果、得られるシート状物の風合が充実感のない、天然皮革に近似しない、繊維質様の劣った風合となる。一方、90℃における弾性率が5.0×108dyn/cm2を超える前記乾燥フィルムを与えるようなポリウレタン系エマルジヨンを用いると、得られるシート状物の風合が柔軟性に欠け、硬く、劣った風合となる。
【0033】
また、本発明で用いる感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンは、該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの160℃における弾性率が1.0×107dyn/cm2以上であるような該フィルムを形成し得るポリウレタン系エマルジヨンであることが必要である。160℃における弾性率が1.0×107dyn/cm2未満である前記乾燥フィルムを与えるようなポリウレタン系エマルジヨンを用いると、繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に、繊維質基材を構成している海島型の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維における海成分を有機溶剤で抽出除去して極細繊維化する際に、絞りロールなどで圧力をかけると厚みが薄くなって、いわゆるへたりを生じて、柔軟性、充実感、腰感などの失われた不良な風合となる。
なお、本発明における、ポリウレタン系エマルジヨンから形成される上記乾燥フィルムの90℃および160℃における弾性率の測定法の具体的な内容は以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0034】
さらに、本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨンは、上記した特定の弾性率特性と共に、該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムのα分散の温度(Tα)が−30℃以下であるという条件を満たすことが、柔軟性、充実感、耐屈曲性などに優れる皮革様シート状物を得るために必要である。α分散の温度(Tα)が−30℃よりも高い前記乾燥フィルムを与えるようなポリウレタン系エマルジヨンを用いると、得られる皮革様シート状物の耐屈曲性などの機械的特性が低下して耐久性がなくなり、しかも室温付近での風合が硬くなる。
なお、本発明における、ポリウレタン系エマルジヨンから形成された上記乾燥フィルムのα分散の温度(Tα)の測定法の具体的な内容は以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0035】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨンは、水中油型(O/W型)のエマルジヨンであっても、または油中水型(W/O型)のエマルジヨンであってもよい。また、本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨンは、有機溶剤を含有していても、または有機溶剤を含まない完全水系であってもよい。そのうちでも、有機溶剤による環境汚染などが生じず、しかも有機溶剤の回収工程が不要であることから、有機溶剤を含まない水系エマルジヨンであることが好ましい。
【0036】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨン中に含まれるポリウレタンは、感熱ゲル化剤を添加しなくてもそれ自体で感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを形成するか、または感熱ゲル化剤を添加したときに感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンとなるポリウレタンであって、且つ上記した特定の弾性率およびα分散の温度(Tα)を有するフィルムとなり得るポリウレタン系エマルジヨンを形成するポリウレタンであればいずれでよく、特に制限されない。
一般的には、本発明におけるポリウレタン系エマルジヨンで用いるポリウレタンは、高分子ポリオール、有機ジイソシアネート化合物、鎖伸長剤を適宜組み合わせて反応させることによって製造することができる。
【0037】
ポリウレタンの製造に用いられる上記した高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオールなどを挙げることができ、ポリウレタンはこれらの高分子ポリオールの1種または2種以上を用いて形成されていることができる。
【0038】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールは、例えば、常法にしたがってポリカルボン酸、そのエステル、無水物などのエステル形成性誘導体などのポリカルボン酸成分とポリオール成分を直接エステル化反応させるかまたはエステル交換反応させることによって製造することができる。また、ポリエステルポリオールはラクトンを開環重合することによっても製造することができる。
【0039】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるポリカルボン酸成分としては、ポリエステルの製造において一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸などの炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸などのようなトリカルボン酸;それらのエステル形成性誘導体などを挙げることができ、ポリエステルポリオールは前記したポリカルボン酸成分の1種または2種以上を用いて形成されていることができる。
そのうちでも、ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸成分として、脂肪族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体から主としてなり、場合により少量の3官能以上のポリカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を含むものを用いて製造されたものであることが好ましい。
【0040】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール,2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノールなどの脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族二価アルコール;ポリアルキレングリコール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタエリスリトールなどのポリオールを挙げることができ、前記したポリオール成分の1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、ポリエステルポリオールは、主として脂肪族ポリオールからなり、さらに場合により少量の3官能以上のポリオールを含むポリオール成分を用いて製造されたポリエステルポリオールであることが好ましい。
【0041】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0042】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0043】
ポリウレタンの製造に用い得るポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオールとジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネートなどのカーボネート化合物との反応により得られるポリカーボネートポリオールを挙げることができる。ポリカーボネートポリオールの製造原料であるポリオールとしては、ポリエステルポリオールの製造原料であるポリオールとして上記に挙げたものを用いることができる。また、ジアルキルカーボネートとしてはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを挙げることができる。
【0044】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール、ポリカルボン酸およびカーボネート化合物を同時に反応させて得られたもの、予め製造しておいたポリエステルポリオールとポリカーボネートポリオールとをカーボネート化合物と反応させて得られたもの、ポリオールとポリカルボン酸を反応させて得られたものなどを挙げることができる。
【0045】
本発明では、ポリウレタンの製造に用いる高分子ポリオールの数平均分子量は500〜5000であることが好ましく、600〜3000であることがより好ましい。なお、本明細書でいう高分子ポリオールの数平均分子量はJIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量をいう。
【0046】
ポリウレタンの製造に用いられる高分子ポリオールでは、その1分子当たりの水酸基の数は、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に支障をきたさない限りは、2より大きくても構わない。
1分子当たりの水酸基の数が2よりも大きな高分子ポリオール、例えば、ポリエステルポリオールは、該高分子ポリオールの製造時に、グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ヘキサントリオール、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールをポリオール成分の一部として用いることによって製造することができる。
【0047】
ポリウレタンの製造に用いる上記した有機ジイソシアネート化合物の種類は特に制限されず、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から使用されている分子中にイソシアネート基を有する公知の脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートのいずれもが使用できる。ポリウレタンの製造に用い得る有機ジイソシアネート基化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどを挙げることができ、これらの有機ジイソシアネートの1種または2種以上を用いることができる。
【0048】
上記した有機イソシアネート化合物のうちでも、得られるポリウレタンの耐溶剤性が優れることからトリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが好ましく用いられる。芳香族ジイソシアネートを用いて得られたポリウレタンを含むポリウレタン系エマルジヨンを用いる場合は、海島型の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維よりなる繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に繊維中の海成分を有機溶剤で抽出除去して極細繊維化するときに、ポリウレタンが耐溶剤性に優れることから、有機溶剤によるポリウレタンの物性低下が抑制されて、風合および機械的性質に優れる皮革様シート状物を得ることができる。
【0049】
ポリウレタンの製造に用いる上記した鎖伸長剤としては、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用でき、そのうちでもイソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物が好ましく用いられる。そのような鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどのジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルメタン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミンなどのジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらのうちでも、エチレングリコール、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが好ましく用いられる。
【0050】
ポリウレタンの製造に当たっては、[全イソシアネート基]/[水酸基、アミノ基などのイソシアネート基と反応する全官能基]の当量比が0.9〜1.1の範囲になるようにして、上記した高分子ポリオール、有機ジイソシアネート化合物および鎖伸長剤を反応させることが、引裂き強力の高い皮革様シート状物が得られる点から好ましい。
また、ポリウレタンの耐溶剤性、耐熱性、耐熱水性などを向上させる目的で、必要に応じて、トリメチロールプロパンなどの三官能以上のポリオールや三官能以上のアミン等を反応させてポリウレタン中に架橋構造を持たせてもよい。
【0051】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨンは、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から用いられているのと同様の方法で製造することができ、例えば、(1)反応の完了した液状ポリウレタンポリマーを乳化剤の存在下に高い機械的剪断力で水中に強制乳化させて非イオン性のポリウレタン系エマルジヨンを製造する方法、(2)末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、そのプレポリマーを乳化剤の存在下に高い機械的剪断力で水中に強制乳化させると同時にまたはその後に適当な鎖伸長剤で鎖伸長反応を完結して非イオン性の高分子量化したポリウレタンエマルジヨンを製造する方法、(3)親水性の高分子ポリオールを用いて自己乳化型のポリウレタンを製造し、それをそのまま乳化剤を用いずに水中に乳化させてポリウレタン系エマルジヨンを製造する方法などを挙げることができる。
【0052】
前記した(1)または(2)の方法で用いられる乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウレルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−ポチオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン性界面活性剤;ラウレル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム。ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤などを挙げることができる。この中でも、HLB値が6〜20のノニオン性界面活性剤を用いるのが好ましい。
【0053】
また、前記した(3)の方法における親水性の高分子ポリオールは、高分子ポリオールの製造原料に、親水性基を有する活性水素原子含有化合物を併用することにより得られる。その際の親水性基を有する活性水素原子含有化合物としては、分子内に水酸基またはアミノ基等の活性水素原子を1個以上含有し、且つカルボン酸基、スルホン酸基、カルボン酸塩、スルホン酸塩等のアニオン性基;ポリオキシエチレン基等のノニオン性基;三級アミノ基、四級アンモニウム塩等のカチオン性基から選ばれる1種以上の親水性基を有する化合物が挙げられる。具体例としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびこれらの誘導体;1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、2,4−ジアミノトルエン−5−スルホン酸等のスルホン酸基含有化合物およびこれらの誘導体;分子量200〜10,000のポリオキシエチレングリコールおよびそのモノアルキルエーテル等のノニオン性基含有化合物;3−ジメチルアミノプロパノール等の三級アミノ基含有化合物およびこれらの誘導体等が挙げられる。
そのうちでも、前記した(3)の方法としては、高分子ポリオールの製造原料に親水性基を有する活性水素原子含有化合物として2,2−ジメチロールプロピオン酸を併用して親水性の高分子ポリオールをつくり、これに有機ジイソシアネート化合物を反応させてポリウレタンプレポリマーを製造し、プレポリマー反応終了後にトリエチルアミン、トリメチルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性物質を添加してカルボン酸塩に変換してポリウレタン系エマルジヨンを製造する方法が好ましく採用される。
【0054】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨンの製造は、上記の(1)〜(3)の方法のいずれか1種または2種以上を用いて、ホモミキサー、ホモジナイザー等の乳化分散装置を使用して行われる。この際、イソシアネート基と水との反応を抑制するために、乳化温度は40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。
【0055】
本発明で使用するポリウレタン系エマルジヨンは、得られる皮革様シート状物の性質を損なわない限りは、必要に応じて他の重合体を含有してもよく、他の重合体としては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、ポリアクリレート、アクリル系共重合体、シリコーン、他のポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの弾性を有する合成重合体などを挙げることができる。ポリウレタン系エマルジヨンはこれらの重合体の1種または2種以上を含有することができる。
【0056】
本発明で使用するポリウレタン系エマルジヨンは、必要に応じて、さらに公知の添加剤、例えば、耐光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、浸透剤等の界面活性剤、増粘剤、防黴剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料、充填剤、凝固調節剤などの1種または2種以上を含有していてもよい。
【0057】
繊維質基材へのポリウレタン系エマルジヨンの含浸方法は特に制限されず、繊維質基材中にポリウレタン系エマルジヨンを均一に含浸させ得る方法であればいずれの方法を用いてよく、一般的には繊維質基材をポリウレタン系エマルジヨン中に浸漬する方法や散布する方法が採用でき、浸漬する方法が好ましく採用される。繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸した後、プレスロールやドクターナイフなどを用いてポリウレタン系エマルジヨンの含浸量を適量なものに調整するのがよい。
【0058】
次に、繊維質基材中に含浸しているポリウレタン系エマルジヨンを加熱して凝固する。ポリウレタン系エマルジヨンの代表的な加熱凝固方法としては、(1)ポリウレタン系エマルジヨンを含浸した繊維質基材を70〜100℃の温水浴中に浸漬して凝固する方法、(2)ポリウレタン系エマルジヨンを含浸した繊維質基材に100〜200℃の加熱水蒸気を吹き付けて凝固する方法、(3)ポリウレタン系エマルジヨンを含浸した繊維質基材を50〜150℃の乾燥装置中にそのまま導入して乾熱乾燥して凝固する方法などを挙げることができる。
そのうちでも、上記(1)の温水浴中での凝固方法または上記(2)の加熱水蒸気を用いる凝固方法が、より柔軟な風合を有する皮革様シート状物が得られる点から好ましく採用される。上記(1)または(2)の凝固方法を用いた場合は、続いて加熱乾燥または風乾を行って、皮革様シート状物中に含まれる水分を除去する。
【0059】
繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸し凝固し、乾燥することによって得られる皮革様シート状物では、皮革様シート状物における重合体の付着量(ポリウレタン系エマルジヨンが他の重合体を含有する場合はポリウレタンを含めた全重合体の付着量)が、極細繊維形態の繊維質基材の重量(すなわち極細繊維化後の繊維質基材の重量)に対して、5〜150重量%であることが好ましく、10〜100重量%であることがより好ましく、20〜80重量%であることが更に好ましい。重合体の付着量が5重量%未満であると、得られる皮革様シート状物の充実感が不足し、天然皮革様の風合が得られなくなる傾向がある。一方、重合体の付着量が150重量%を超えると、得られる皮革様シート状物が硬くなってやはり天然皮革様の風合が得らなくなる傾向がある。
【0060】
本発明では、ポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に、繊維質基材を構成している極細繊維形成性繊維を極細繊維化する処理を行って皮革様シート状物を製造する。その際に、繊維質基材が上記した海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維より形成されている場合は、ポリウレタン系エマルジヨンの含浸、凝固後に、前記繊維中の海成分を有機溶剤を用いて溶解除去して島成分を極細繊維状に残留させて、本発明の皮革様シート状物を製造する。その場合の有機溶剤による海成分の除去処理は、人工皮革などの製造に当たって従来から採用されている既知の方法や条件に準じて行うことができる。
【0061】
上記により得られる本発明の皮革様シート状物は、柔軟性に富み、同時に充実感を有し、天然皮革に近似した極めて良好な風合を有しており、従来の湿式凝固法により得られる人工皮革と比べても何ら遜色がない。本発明者らの分析の結果、本発明の皮革様シート状物では、その断面を撮影した図1の電子顕微鏡写真(以下の実施例1で得られた皮革様シート状物の断面の電子顕微鏡写真)に見るように、ポリウレタンが繊維質基材中の極細繊維を強く拘束することなく、極細繊維間に適度な空間を残しながら繊維間空隙を埋めて凝固していることが観察された。そのため、本発明の皮革様シート状物では、繊維の拘束、シート状物のへたりによって生ずる柔軟性の低下が防止され、しかも繊維間に空間を残しながら繊維間の空隙を埋めていて見かけの樹脂部分の充填量が増していることにより、従来のエマルジヨン含浸型の皮革様シート状物に比べて、良好な柔軟性を保ちながら、充実感のある、天然皮革に極めて近似した優れた風合を有する皮革様シート状物が得られるのである。
【0062】
本発明の皮革様シート状物は、上記した優れた性質を活かして、例えば、マットレス、鞄内張り材料、衣料用芯地、靴用芯地、クッション材、自動車、列車、航空機などの内装材、壁材、カーペットなどの広範な用途に有効に使用することができる。さらに、バッフィングすることによりスエード調の皮革様シートが得られ、それは衣料、椅子やソファーなどの家具の上張り材、列車や自動車のシートの上張り材、壁紙、手袋などとして好適に使用することができる。また、本発明の皮革様シート状物の片面にポリウレタン層などを既知の方法で設けることにより、スポーツシューズ、紳士靴、鞄、ハンドバック、ランドセルなどに用いられる銀付き人工皮革としても好適に使用することができる。
【0063】
【実施例】
以下に実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はそれによって何ら制限されない。なお、以下の実施例および比較例において、ポリウレタン系エマルジヨンの感熱ゲル化温度、ポリウレタン系エマルジヨンを乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃および160℃における弾性率並びにα分散の温度(Tα)、皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)、耐屈曲性並びに風合を以下の方法で測定または評価した。
【0064】
(1)ポリウレタン系エマルジヨンの感熱ゲル化温度:
試験管にポリウレタン系エマルジヨン10gを秤量し、それを90℃の恒温熱水浴中に漬けて撹拌しながら昇温させ、ポリウレタン系エマルジヨンが流動性を失ってゲル状物となった時のポリウレタン系エマルジヨンの温度を測定して感熱ゲル化温度(℃)とした。
【0065】
(2)ポリウレタン系エマルジヨンを乾燥して得たフィルムの90℃および160℃での弾性率並びに該フィルムのα分散の温度(Tα):
(i) ポリウレタン系エマルジヨンをガラス板の上に流延し、50℃の熱風式乾燥室中に入れて8時間乾燥してフィルムを形成させ、そのフィルムを厚さ方向にスライスして厚さ100μmのフィルム試験片を得た。
(ii) 上記(i)で得られた厚さ100μmのフィルム試験片を用いて、粘弾性測定装置[(株)レオロジ製「FTレオスペクトラーDVE−V4」]を使用して、周波数11Hzで測定を行い、90℃および160℃における弾性率(dyn/cm2)をそれぞれ求めると共に、該フィルム試験片の波形のピークよりα分散の温度(Tα)(℃)を求めた。
【0066】
(3)皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率):
下記の実施例または比較例で得られた皮革様シート状物から10cm×10cmの試験片を採取し、純曲げ試験機(KATO TEKKO製「KES−FB2−L」)を使用して、皮革様シート状物の巻き取り方向に対して直角方向の曲げ剛性率(gfcm2/cm)を測定して柔軟性の指標とした。
【0067】
(4)皮革様シート状物の耐屈曲性:
下記の実施例または比較例で得られた皮革様シート状物から7cm×4.5cmの試験片を採取し、JIS K 6545に準じて、耐屈曲性試験機(Bally社製「Flexometer」)を使用して、温度20℃の条件下で屈曲試験を行った。屈曲回数10万回ごとに皮革様シート状物の表面状態を観察して、亀裂または穴あきが発生するまでの屈曲回数を測定した。屈曲回数が50万回を超えても皮革様シート状物に亀裂または穴あきが発生しない場合は、耐屈曲性が十分に良好であるため、○として判定した。
【0068】
(5)皮革様シート状物の風合:
下記の実施例または比較例で得られた皮革様シート状物を手で触って、天然皮革様の良好な風合を有する場合を○、天然皮革に比べて硬くて柔軟性が不足している場合および/または充実感が不足していて天然皮革様の風合を有していない場合を×として判定した。
【0069】
また、以下の例で用いた高分子ポリオールの略号とその内容は次のとおりである。
PMSA1850(略号)
数平均分子量1850のポリエステルジオール[3−メチル−1,5−ペンタンジオールにアジピン酸とセバシン酸(モル比1/3)を反応させて得られた脂肪族ポリエステルジオール]
PHC2000(略号)
数平均分子量2000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール
【0070】
《参考例1》[繊維質基材の製造]
(1) 6−ナイロン60重量部と高流動性のポリエチレン40重量部を混合紡糸し、延伸し、それを切断して得られた海島型混合紡糸繊維(単繊維繊度4デニール、繊維長51mm)を用いて、カード、クロスラッパー、およびニードルパンチの各工程を通して、見かけ密度0.160g/cm3の絡合不織布を製造した。
(2) 上記(1)で得られた絡合不織布を加熱して、海成分であるポリエチレンを溶融させて繊維間を熱固定して、見かけ密度0.285g/cm3の両面が平滑化した絡合不織布を得た(以下これを「不織布▲1▼」という)。
【0071】
《参考例2》[繊維質基材の製造]
ポリエチレンテレフタレート70重量部と低密度ポリエチレン30重量部を用いて製造した海島型複合紡糸繊維(単繊維繊度4デニール、繊維断面での島本数15本、繊維長51mm)を用いて参考例1の(1)と同様にして絡合不織布を製造し、それを温度70℃の温水中に浸漬して面積収縮率30%となるように収縮させた後、海成分であるポリエチレンを溶融させて繊維間を熱固定して、見かけ密度0.35g/cm3の両面が平滑化した絡合不織布を得た(以下これを「不織布▲2▼」という)。
【0072】
《参考例3》[繊維質基材の製造]
ポリエチレンテレフタレート70重量部とポリスチレン30重量部を用いて製造した海島型複合紡糸繊維(単繊維繊度4デニール、繊維断面での島本数15本、繊維長51mm)を用いて参考例1の(1)と同様にして絡合不織布を製造し、それを温度70℃の温水中に浸漬して面積収縮率30%となるように収縮させた後、海成分であるポリスチレンを溶融させて繊維間を熱固定して、見かけ密度0.32g/cm3の両面が平滑化した絡合不織布を得た(以下これを「不織布▲3▼」という)。
【0073】
《参考例4》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 三つ口フラスコに、ポリエステルジオール(PMSA1850)600.0g、2,4−トリレンジイソシアネート114.8gおよび2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸7.95gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下に、90℃で2時間撹拌して系中の水酸基とイソシアネート基を反応させて、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを製造した。
(2) 上記(1)で得られたウレタンプレポリマーに、2−ブタノン228.3gを加えて10分間撹拌した。次に、ノニオン系界面活性剤(花王株式会社製「エマルゲン930」)53.3gを蒸留水478.5gに溶解した水溶液を加えて、ホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにジエチレントリアミン13.2gとイソホロンジアミン10.9gを蒸留水230.3gに溶解した水溶液を加えてホモミキサーで1分間撹拌して鎖伸長反応を行った。その後、2−ブタノンをロータリーエバポレーターにより除去してから、除去した2−ブタノンに相当する重量の蒸留水を加えてポリウレタン系エマルジヨン(重合体濃度40重量%)を調製した。
【0074】
(3) 上記(2)で得られたポリウレタン系エマルジヨン80重量部に、蒸留水20重量部および感熱ゲル化剤[水:ノニオン系界面活性剤(花王株式会社製「エマルゲン910」):塩化カルシウム=5:4:1の重量比で混合した溶液]4重量部を加えて、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンA」という]。
(4) 上記(3)で得られたポリウレタン系エマルジヨンAの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ52℃であった。また、上記(3)で得られたポリウレタン系エマルジヨンAを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの弾性率並びにα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、90℃での弾性率は5.0×107dyn/cm2、160℃での弾性率は3.5×107dyn/cm2およびα分散の温度(Tα)は−47℃であった。
【0075】
《参考例5》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 参考例4の(1)および(2)と同様の工程を行って、感熱ゲル化剤を含有しないポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンB」という]。
(2) 上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンBの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ90℃でも流動性を有しゲル化挙動を示さなかった。また、上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンBを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの弾性率並びにα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、90℃での弾性率は5.0×107dyn/cm2、160℃での弾性率は3.5×107dyn/cm2およびα分散の温度(Tα)は−47℃であった。
【0076】
《参考例6》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 参考例4の(1)において、2,4−トリレンジイソシアネートの使用量を減らすことでポリウレタン中のハードセグメント含量を減らし、それに応じて他の成分のモルバランスを調整した以外は参考例4の(1)〜(3)と同様の工程を行って、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンC」という]。
(2) 上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンCの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ56℃であった。また、上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンCを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの弾性率並びにα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、90℃での弾性率は1.6×107dyn/cm2、160℃での弾性率は7.0×106dyn/cm2およびα分散の温度(Tα)は−42℃であった。
【0077】
《参考例7》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 三つ口フラスコに、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHC2000)238.5g、ポリエステルジオール(PMSA1850)238.5g、4,4’−ジフェニルメンタンジイソシアネート200.0gおよび2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸8.05gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下に、70℃で2時間撹拌して系中の水酸基とイソシアネート基を反応させて、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを製造した。
(2) 上記(1)で得られたウレタンプレポリマーに、トルエン224.1gを加えて均一に撹拌した後、フラスコ内温度を40℃に下げ、トリエチルアミン6.07gを加えて10分間撹拌した。次いで、ノニオン系界面活性剤(花王株式会社製「エマルゲン930」)37.50gを蒸留水675gに溶解した水溶液を加えて、ホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにジエチレントリアミン14.41gとイソホロンジアミン43.60gを蒸留水221.4gに溶解した水溶液を加えてホモミキサーで1分間撹拌して鎖伸長反応を行った。その後、トルエンをロータリーエバポレーターにより除去してから、蒸留水を加えてポリウレタン系エマルジヨン(重合体濃度40重量%)を調製した。
【0078】
(3) 上記(2)で得られたポリウレタン系エマルジヨン80重量部に、蒸留水20重量部および感熱ゲル化剤として塩化カルシウム0.8重量部を加えて、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンD」という]。
(4) 上記(3)で得られたポリウレタン系エマルジヨンDの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ48℃であった。また、上記(3)で得られたポリウレタン系エマルジヨンDを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの弾性率並びにα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、90℃での弾性率は3.0×108dyn/cm2、160℃での弾性率は5.5×107dyn/cm2およびα分散の温度(Tα)は−35℃であった。
【0079】
《参考例8》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 参考例7の(1)において、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの使用量を増やすことでポリウレタン中のハードセグメント含量を増し、それに応じて他の成分のモルバランスを調整した以外は参考例7の(1)〜(3)と同様の工程を行って、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンE」という]。
(2) 上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンEの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ45℃であった。また、上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンEを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの弾性率並びにα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、90℃での弾性率は5.8×108dyn/cm2、160℃での弾性率は8.2×107dyn/cm2およびα分散の温度(Tα)は−25℃であった。
【0080】
《参考例9》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 参考例7の(1)において、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの使用量を減らしたことでポリウレタン中のハードセグメント含量を減らし、それに応じて他の成分のモルバランスを調整した以外は参考例7の(1)〜(3)と同様の工程を行って、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンF」という]。
(2) 上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンFの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ56℃であった。また、上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンFを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの弾性率並びにα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、90℃での弾性率は1.5×107dyn/cm2、160℃での弾性率は1.1×107dyn/cm2およびα分散の温度(Tα)は−40℃であった。
【0081】
《参考例10》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 参考例4の(1)において、2,4−トリレンジイソシアネートの使用量を減らしたことでポリウレタン中のハードセグメント含量を減らし、それに応じて他の成分のモルバランスを調整した以外は参考例4の(1)〜(3)と同様の工程を行って、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンG」という]。
(2) 上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンGの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ55℃であった。また、上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンFを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの弾性率並びにα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、90℃での弾性率は2.2×107dyn/cm2、160℃での弾性率は9.0×106dyn/cm2およびα分散の温度(Tα)は−48℃であった。
【0082】
《実施例1》[皮革様シート状物の製造]
(1) 上記の参考例1で得られた不織布▲1▼を、上記の参考例4で得られた感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンAの浴中に浸漬してポリウレタン系エマルジヨンを含浸させた後、浴から取り出し、プレスロールで絞り、次いで90℃の温水浴中に1分間浸漬してポリウレタン系エマルジヨンを凝固させ、さらに130℃の熱風乾燥機中で30分間乾燥してシート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られたシート状物を温度90℃のトルエン中に浸漬し、浸漬中に2kg/cm2のプレスロールで5回の絞り処理を行って、不織布を構成している海島型混合紡糸繊維における海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、6−ナイロンの極細繊維束絡合不織布中にポリウレタンが含浸、凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物における樹脂の付着量(ポリウレタン付着量)は、極細繊維化処理後の不織布重量に対して55重量%であった。
【0083】
(3) 上記(2)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)、耐屈曲性および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。上記(2)で得られた皮革様シート状物は、下記の表1に見るように、柔軟性と充実感を有し、天然皮革に近似した極めて良好な風合および耐久性を有していた。
(4) さらに、上記(2)で得られたこの実施例1の皮革様シート状物の横断面を電子顕微鏡で写真撮影したところ、図1の写真に示す細部構造を有していた。すなわち、図1の写真に見るように、ポリウレタンが繊維質基材中で極細繊維束を強く拘束することなく、極細繊維束間に適度な空間を残しながら極細繊維束の空隙を埋めて凝固しており、これが良好な柔軟性と、充実感のある、天然皮革に近似した優れた風合を皮革様シート状物に付与しているものと考えられる。
【0084】
《実施例2》[皮革様シート状物の製造]
(1) ポリウレタン系エマルジヨンとして、上記の参考例7で得られた感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンDを用いた以外は、実施例1の(1)と同様の工程を行ってシート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られたシート状物を温度90℃のトルエン中に浸漬し、浸漬中に2kg/cm2のプレスロールで5回の絞り処理を行って、不織布を構成している海島型複合紡糸繊維における海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、ポリエチレンテレフタレートの極細繊維束絡合不織布中にポリウレタンが含浸、凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物における樹脂の付着量(ポリウレタン付着量)は、極細繊維化処理後の不織布重量に対して50重量%であった。
(3) 上記(2)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)、耐屈曲性および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。上記(2)で得られた皮革様シート状物は、下記の表1に見るように、柔軟性と充実感を有し、天然皮革に近似した極めて良好な風合および耐久性を有していた。
【0085】
《実施例3》[皮革様シート状物の製造]
(1) 不織布として上記の参考例3で得られた不織布を用い、これをポリエチレングリコール−モノ−4−ノニルフェニルエーテル(ポリエチレングリコール部分の数平均分子量330)10重量部および蒸留水90重量部からなる湿潤浸透性の界面活性剤水溶液中に浸漬した後、プレスロールにて絞って前記界面活性剤を不織布に付与した(付与量:界面活性剤の水溶液として不織布の8重量%)。(2) 上記(1)の工程に引き続いて、不織布を上記の参考例7で得られたポリウレタン系エマルジヨンD中に浸漬し、プレスロールにて絞った後、1.5kg/cm2の蒸気圧のスチームを全体に吹き付けてポリウレタン系エマルジヨンを凝固し、さらに130℃の熱風乾燥機中で30分間乾燥してシート状物を製造した。
(3) 上記(2)で得られたシート状物を温度90℃のトルエン中に浸漬し、浸漬中に2kg/cm2のプレスロールで5回の絞り処理を行って、不織布を構成している海島型複合紡糸繊維における海成分(ポリスチレン)を溶解除去して、ポリエチレンテレフタレートの極細繊維束絡合不織布中にポリウレタンが含浸、凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物における樹脂の付着量(ポリウレタン付着量)は、極細繊維化処理後の不織布重量に対して60重量%であった。
(4) 上記(3)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)、耐屈曲性および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。上記(3)で得られた皮革様シート状物は、下記の表1に見るように、柔軟性と充実感を有し、天然皮革に近似した極めて良好な風合および耐久性を有していた。
【0086】
《実施例4》[皮革様シート状物の製造]
(1) ポリウレタン系エマルジヨンとして、上記の参考例4で得られた感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンAを用い、繊維質基材として上記の参考例2で得られた不織布▲2▼を用い、不織布▲2▼に該ポリウレタン系エマルジヨンAを含浸し、プレスロールにて絞った後、130℃の熱風乾燥器中で30分間乾燥することによりシート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られたシート状物を温度90℃のトルエン中に浸漬し、浸漬中に2kg/cm2のプレスロールで5回の絞り処理を行って、不織布を構成している海島型複合紡糸繊維における海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、ポリエチレンテレフタレートの極細繊維束絡合不織布中にポリウレタンが含浸、凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物における樹脂の付着量(ポリウレタン付着量)は、極細繊維化処理後の不織布重量に対して42重量%であった。
(3) 上記(2)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)、耐屈曲性および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。上記(2)で得られた皮革様シート状物は、下記の表1に見るように、柔軟性と充実感を有し、天然皮革に近似した極めて良好な風合および耐久性を有していた。
【0087】
《比較例1》[皮革様シート状物の製造]
(1) 上記の参考例1で得られた不織布▲1▼を、上記の参考例5で得られた感熱ゲル化剤を含有しないポリウレタン系エマルジヨンBの浴中に浸漬してポリウレタン系エマルジヨンを含浸させて、実施例1の(1)と同様にしてシート状物を製造した。その際に、ポリウレタン系エマルジヨンを含浸した不織布を温水浴中に浸漬したときに、ポリウレタン系エマルジヨンの白濁液が温水浴中に流出して浴槽を汚した。
(2) 上記(1)で得られたシート状物を実施例1の(2)におけるのと同様にしてトルエン中に浸漬して、不織布を構成している海島型混合紡糸繊維中の海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、6−ナイロンの極細繊維束絡合不織布中にポリウレタンが含浸、凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物における樹脂の付着量(ポリウレタン付着量)は、極細繊維化処理後の不織布重量に対して35重量%であった。
(3) 上記(2)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)、耐屈曲性および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。上記(2)で得られた皮革様シート状物は、へたりを生じた全体的にペーパー様の充実感のないシートであった。
【0088】
《比較例2》[皮革様シート状物の製造]
(1) ポリウレタン系エマルジヨンとして上記の参考例6で得られたポリウレタン系エマルジヨンCを用いた以外は実施例1の(1)と同様にしてシート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られたシート状物を実施例1の(2)におけるのと同様にしてトルエン中に浸漬して、不織布を構成している海島型混合紡糸繊維中の海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、6−ナイロンの極細繊維束絡合不織布中にポリウレタンが含浸、凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物における樹脂の付着量(ポリウレタン付着量)は、極細繊維化処理後の不織布重量に対して58重量%であった。
(3) 上記(2)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)、耐屈曲性および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。上記(2)で得られた皮革様シート状物は、へたりを生じた全体的にペーパー様の充実感のないシートであった。
(4) さらに、上記(2)で得られたこの比較例2の皮革様シート状物の横断面を電子顕微鏡で写真撮影したところ、図2の写真に示す細部構造を有していた。すなわち、図2の写真に見るように、シート全体が潰れていて繊維質基材中で極細繊維束間に殆ど空間がなく、極細繊維束がポリウレタンに強く拘束されており、しかもへたった構造をなしている。
【0089】
《比較例3》[皮革様シート状物の製造]
(1) 繊維質基材として上記の参考例2で得られた不織布▲2▼を用い、ポリウレタン系エマルジヨンとして上記の参考例8で得られたポリウレタン系エマルジヨンEを用いて、実施例1の(1)と同様にしてシート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られたシート状物を実施例1の(2)におけるのと同様にしてトルエン中に浸漬して、不織布を構成している海島型複合紡糸繊維中の海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、ポリエチレンテレフタレートの極細繊維束絡合不織布中にポリウレタンが含浸、凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物における樹脂の付着量(ポリウレタン付着量)は、極細繊維化処理後の不織布重量に対して50重量%であった。
(3) 上記(2)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)、耐屈曲性および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。上記(2)で得られた皮革様シート状物は、柔軟性がなく、硬くて風合に劣るものであった。
【0090】
《比較例4》[皮革様シート状物の製造]
(1) 繊維質基材として上記の参考例3で得られた不織布▲3▼を用い、ポリウレタン系エマルジヨンとして上記の参考例9で得られたポリウレタン系エマルジヨンFを用いて、実施例1の(1)と同様にしてシート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られたシート状物を実施例1の(2)におけるのと同様にしてトルエン中に浸漬して、不織布を構成している海島型複合紡糸繊維中の海成分(ポリスチレン)を溶解除去して、ポリエチレンテレフタレートの極細繊維束絡合不織布中にポリウレタンが含浸、凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物における樹脂の付着量(ポリウレタン付着量)は、極細繊維化処理後の不織布重量に対して56重量%であった。
(3) 上記(2)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)、耐屈曲性および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。上記(2)で得られた皮革様シート状物は、表面が硬くて、柔軟性のない風合に劣るシートであった。
【0091】
《比較例5》[皮革様シート状物の製造]
(1) 繊維質基材として上記の参考例2で得られた不織布▲2▼を用い、ポリウレタン系エマルジヨンとして上記の参考例10で得られたポリウレタン系エマルジヨンGを用いて、実施例4の(1)と同様にしてシート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られたシート状物を実施例1の(2)におけるのと同様にしてトルエン中に浸漬して不織布を構成している海島型複合紡糸繊維中の海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、ポリエチレンテレフタレートの極細繊維束絡合不織布中にポリウレタンが含浸、凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物における樹脂の付着量(ポリウレタン付着量)は、極細繊維化処理後の不織布重量に対して43重量%であった。
(3) 上記(2)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)、耐屈曲性および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。上記(2)で得られた皮革様シート状物は、硬くて柔軟性がなく、風合に劣るものであった。
【0092】
【表1】
Figure 0004074377
【0093】
上記に示す実施例1〜4および比較例1〜5の結果から、極細繊維よりなる繊維質基材中に上記の条件▲1▼〜▲4▼を満足する熱可塑性ポリウレタンを含浸して凝固してなる実施例1〜4の皮革様シート状物は、柔軟性および充実感に優れていて、天然皮革に近似した良好な風合を有し、しかも耐屈曲性に優れていて良好な耐久性を有していることがわかる。
【0094】
それに対して、極細繊維よりなる繊維質基材中に上記の条件▲1▼〜▲4▼のいずれかを満足しないポリウレタン系エマルジヨンを含浸し凝固してなる比較例1〜5の皮革様シート状物は、いずれも、曲げ剛性率が実施例1〜4の皮革様シート状物に比べて大きく、硬くて柔軟性に欠けており、しかも充実感がなく、風合に劣っていることがわかる。そして、比較例2〜4の皮革様シート状物は、耐屈曲性の点でも劣っており、耐久性が低いことがわかる。
【0095】
【発明の効果】
本発明による皮革様シート状物は、柔軟性に富み、充実感に優れていて、天然皮革に近似した、極めて良好な風合を有し、しかも耐屈曲性などの力学的特性などにおいても優れていて耐久性を有する。
さらに、本発明による場合は、繊維質基材へのポリウレタンの含浸に当たって、有機溶剤を用いることなく水性のポリウレタン系エマルジヨンを用いて行うことができ、更に繊維質基材に含浸したポリウレタン系エマルジヨンの凝固を有機溶剤を用いずに、温水中への浸漬、水蒸気の吹き付け、熱風乾燥などによって行うことができる。そのために、本発明による場合は、有機溶剤の使用に伴う環境汚染を低減することができ、しかも製造工程の簡略化、生産性の向上を達成しながら、上記した優れた特性を有する皮革様シート状物を低コストで製造することができる。
本発明による皮革様シート状物は、上記した優れた特性を活かして、例えば、マットレス、鞄内張り材料、衣料用芯地、靴用芯地、クッション材、自動車、列車、航空機などの内装材、壁材、カーペットなどの広範な用途に有効に使用でき、さらにバッフィングすることによりスエード調の皮革様シートが得られ、それは衣料、椅子やソファーなどの家具の上張り材、列車や自動車のシートの上張り材、壁紙、手袋などとして好適に使用することができる。また、本発明の皮革様シート状物の片面にポリウレタン層などを既知の方法で設けることにより、スポーツシューズ、紳士靴、鞄、ハンドバック、ランドセルなどに用いられる銀付き人工皮革としても好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本明細書中の実施例1で得られた皮革様シート状物の断面を撮影した電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【図2】本明細書中の比較例2で得られた皮革様シート状物の断面を撮影した電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。

Claims (7)

  1. 極細繊維形成性繊維よりなる繊維質基材に下記の条件▲1▼〜▲4▼を満足するポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に該極細繊維形成性繊維を極細繊維化することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法;
    ▲1▼該ポリウレタン系エマルジヨンが感熱ゲル化性である;
    ▲2▼該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が2.0×107〜5.0×108dyn/cm2である;
    ▲3▼該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの160℃における弾性率が1.0×107dyn/cm2以上である;および、
    ▲4▼該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムのα分散の温度(Tα)が−30℃以下である。
  2. ポリウレタン系エマルジヨンが、芳香族イソシアネート化合物を用いて形成したポリウレタンのエマルジヨンである請求項1に記載の製造方法。
  3. ポリウレタン系エマルジヨンが、感熱ゲル化剤を含有するものである請求項1または2に記載の製造方法。
  4. ポリウレタン系エマルジヨンの含浸前に繊維質基材に予め湿潤浸透性を有する界面活性剤を付与しておく請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 極細繊維形成性繊維よりなる繊維質基材に上記の条件▲1▼〜▲4▼を満足するポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に該極細繊維形成繊維を極細繊維化して皮革様シート状物を製造する方法であって、前記極細繊維形成性繊維が2種以上の高分子物質よりなる海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維であり、前記繊維よりなる繊維質基材に前記ポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に、前記海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維中の海成分を除去して極細繊維化を行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 前記海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維が、ポリエチレンおよび/またはポリスチレンを海成分としポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリアミドを島成分とするものであり、繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に、該海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維中の海成分を有機溶剤を用いて溶解除去して極細繊維化することからなる請求項5に記載の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項の製造方法により得られる皮革様シート状物。
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