JP4190650B2 - 皮革様シート状物の製造方法 - Google Patents
皮革様シート状物の製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP4190650B2 JP4190650B2 JP11157699A JP11157699A JP4190650B2 JP 4190650 B2 JP4190650 B2 JP 4190650B2 JP 11157699 A JP11157699 A JP 11157699A JP 11157699 A JP11157699 A JP 11157699A JP 4190650 B2 JP4190650 B2 JP 4190650B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- emulsion
- leather
- sheet
- composite resin
- base material
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Lifetime
Links
Landscapes
- Synthetic Leather, Interior Materials Or Flexible Sheet Materials (AREA)
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は皮革様シート状物の製造方法およびそれにより得られる皮革様シート状物に関する。より詳細には、本発明は、繊維質基材に特定の複合樹脂エマルジョンを含浸し、凝固して皮革様シート状物を製造する方法およびそれにより得られる皮革様シート状物に関する。本発明により得られる皮革様シート状物は、エマルジョン系樹脂を繊維質基材に含浸させて得られる従来の皮革様シート状物に比べて、天然皮革に近い風合を有し、柔軟性、充実感、触感および耐久性に優れている。
【0002】
【従来の技術】
天然皮革の代用品(人工皮革)として、ポリウレタンなどの樹脂成分を繊維質基材に結束剤として含浸したシート状物が従来より製造されている。その代表的な製造方法としては、樹脂成分をジメチルホルムアミドなどの有機溶剤に溶解した溶液を繊維質基材に含浸させた後に水などの非溶剤中で凝固する湿式法と、樹脂成分を有機溶剤に溶解した溶液または水に分散させたエマルジヨンを繊維質基材に含浸した後に乾燥する乾式法とを挙げることができる。
【0003】
湿式法による場合は、乾式法に比べて、天然皮革により近い風合を有するシート状物を得ることが可能であるが、生産性に劣り、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤の使用が不可欠であるという欠点がある。一方、乾式法のうちで、樹脂エマルジヨンを使用する場合は、有機溶剤を使用することなくシート状物を得ることが可能であるが、湿式法により得られるシート状物に比べて風合が著しく劣る。その理由は、乾式法によって得られるシート状物では、その乾燥過程で樹脂が繊維質基材中で局部的に移動して、その部分で繊維を強く拘束した構造形態をなし、それによってシート状物の柔軟性が失われて、硬い風合になるためである。そして、柔軟性を損なわないようにするために付着樹脂量を少なくすると、不織布などの繊維質基材の風合がそのまま出現して皮革様の風合が得られず、一方、付着樹脂量を増加させて充実感や皮革様の風合を得ようとすると、柔軟性が低下して硬くなり、いずれの場合も天然皮革に近似した高級感のある風合を得ることができない。
【0004】
エマルジヨン樹脂を用いる乾式法において、樹脂付与後に柔軟剤を付与して柔軟性を発現させることも考えられるが、柔軟剤の付与工程を追加する必要があり、生産性が低下し、しかも柔軟剤を付与しても天然皮革に近似した高級感のある風合にはなりにくい。
また、エマルジヨン樹脂を用いる乾式法として、布帛にポリウレタンエマルジョンおよびポリアクリル酸エステルエマルジョンの混合樹脂エマルジョンを含浸させ、温水処理して合成皮革用基布を製造する方法(特開昭55−128078号公報)や、単繊維繊度が0.5デニール以下の極細繊維を主体とする繊維層を含む不織シートに、平均粒度が0.1〜2.0μmである水系ポリウレタンエマルジヨンに無機塩類を溶解混合したエマルジヨン液を付与し、加熱乾燥して人工皮革を製造する方法(特開平6−316877号公報)が提案されている。しかしこれらの方法により得られる人工皮革は、柔軟性、風合などの点で十分に改良されているとは言い難い。
そのため、人工皮革の製造に当たっては、品質の高い人工皮革が得られるが、生産性が低く、しかも有機溶剤の使用が不可欠である湿式法が工業的に専ら採用されているのが現状である。
しかしながら、水性の樹脂エマルジヨンを繊維質基材に含浸して加熱凝固する上記した乾式法で代表される皮革様シート状物の製造法は、繊維質基材への樹脂の含浸時や含浸させた樹脂の凝固時に有機溶剤を用いる必要がないことから、環境適合性、作業環境の安全性、工程の簡略化などの点から極めて有効であり、かかる点から、水系の樹脂エマルジヨンを用いて柔軟性および充実感に優れる高品質の皮革様シート状物を製造し得る技術の開発が強く求められている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、樹脂エマルジヨンを用いる従来の人工皮革の製造技術における問題点、すなわち得られるシート状物における柔軟性の欠如や充実感の欠如などの問題点を解決し、樹脂エマルジヨンを用いて、柔軟性および充実感に優れ、天然皮革に近似した良好な風合、触感、物性を有する皮革様シート状物を製造する方法並びにそのような皮革様シート状物を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、樹脂エマルジヨンとして感熱ゲル化性を有する特定の複合樹脂エマルジョンを用いると、該エマルジヨンを繊維質基材に含浸してゲル化させたときに、複合樹脂が繊維を拘束することなく凝固して繊維空間を満たすこと、それによって柔軟性を有し、しかも充実感のある、天然皮革に近似した極めて良好な風合、触感、物性を有する高級感のある皮革様シート状物が得られることを見出して本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、繊維質基材に、下記の条件(i)〜(iii)を満足する複合樹脂エマルジョンを含浸して凝固することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法である;
(i)該複合樹脂エマルジョンが感熱ゲル化性である;
(ii)該複合樹脂エマルジョンを50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が、1.0×107〜5.0×108dyn/cm2である;および
(iii)該複合樹脂エマルジョンが、ポリウレタン系エマルジョン(A)の存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を、ポリウレタン系エマルジョン(A)中のポリウレタンの重量/エチレン性不飽和モノマー(B)の重量が90/10〜10/90の割合で乳化重合して得られるエマルジョンである。
【0008】
また、本発明は、上記の製造方法により得られる皮革様シート状物に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
まず、繊維質基材について説明すると、本発明で用いる繊維質基材は、適度の厚みと充実感を有し、かつ柔軟な風合を有するものであればよく、従来より皮革様シート状物の製造に用いられている不織布、編織布等の各種の繊維質基材を使用することができる。そのうちでも、本発明では、繊維質基材として、不織布のみからなる繊維質基材、或いは不織布層を少なくとも一方の表面側に有する不織布と織布および/または編布との積層物(例えば不織布層と編織布層よりなる2層構造物、表面と裏面が不織布層で中央が編織布層よりなる3層構造物など)が好ましく用いられ、不織布のみからなる繊維質基材がより好ましく用いられる。繊維質基材として好ましく用いられる不織布としては、絡合不織布、ラップ型不織布などを挙げることができ、なかでも絡合不織布が好ましく用いられる。
【0010】
繊維質基材を構成する繊維の種類としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維などの合成繊維;綿、羊毛、麻などの天然繊維などを挙げることができる。そのうちでも、繊維質基材は、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維などの合成繊維から主としてなっていることが好ましい。
また、繊維質基材を構成する上記した繊維は、収縮や伸長を生じない通常の繊維、収縮性繊維、潜在自発伸長性繊維、各種複合繊維や混合紡糸繊維(例えば多層貼り合わせ型潜在分割性複合繊維や混合紡糸繊維)、極細繊維またはその束状繊維、特殊多孔質繊維などのいずれであってもよい。
【0011】
繊維質基材を構成する繊維の太さは特に制限されず、得られる皮革様シート状物の用途などに応じて選択可能であるが、一般には、その単繊維繊度が0.01〜10デニールであるのが好ましく、0.02〜8デニールであるのがより好ましい。
【0012】
繊維質基材の厚さは、得られる皮革様シート状物の用途などに応じて任意に選択できるが、風合の点から、0.3〜3.0mmであるのが好ましく、0.8〜2.5mmであるのがより好ましい。
【0013】
繊維質基材の見かけ密度は、柔軟な風合、適度な腰感と反発性を有する皮革様シート状物が得られる点から、0.1〜0.5g/cm3であるのが好ましく、0.15〜0.45g/cm3であるのがより好ましい。繊維質基材の見かけ密度が0.1g/cm3よりも小さいと、得られる皮革様シート状物の反発性および腰感が劣ったものになり、天然皮革のような風合が損なわれる傾向がある。一方、繊維質基材の見かけ密度が0.5g/cm3よりも大きいと、得られる皮革様シート状物の腰感が無くなったり、ゴム様の不良な風合となる傾向がある。
【0014】
そのうちでも、本発明では、繊維質基材として、収縮性ポリエチレンテレフタレート繊維を少なくとも一部として用いて形成された見かけ密度が0.25〜0.50g/cm3の不織布を用いることが好ましく、かかる繊維質基材を用いると柔軟性および腰感に極めて優れる皮革様シート状物を得ることができる。その場合に、繊維質基材を構成する収縮性ポリエチレンテレフタレート繊維としては、70℃の温水中での収縮率が10〜60%であるものが好ましく用いられる。上記の不織布は、例えば、特開昭56−37353号公報や特開昭53−53388号公報に記載されている通常のポリエステル繊維と潜在自発伸長性繊維を適当な割合で併用して得られる不織布を、温水中で収縮させた後、乾熱処理して自発伸長させることによって得ることができる。
【0015】
本発明では、上記した繊維質基材に予め繊維と複合樹脂との接着を妨げる作用を有する繊維処理剤を付与しておくことが好ましい。該繊維処理剤を予め付与した繊維質基材を用い、これに本発明で用いる特定の複合樹脂エマルジヨンを含浸し凝固することによって、複合樹脂による繊維の拘束が弱まり、柔軟性および充実感に優れる天然皮革に近似した皮革様シート状物を得ることが容易になる。
繊維と複合樹脂との接着を妨げる作用を有する繊維処理剤としてはシリコーン系の柔軟撥水剤が好ましく用いられる。シリコーン系の柔軟撥水剤の具体例としては、ジメチルシリコーンオイル(油状のジメチルポリシロキサン)、メチルフェニルシリコーンオイル(油状のメチルフェニルポリシロキサン)、メチルハイドロジェンシリコーンオイル(油状のメチルハイドロジェンポリシロキサン、油状のメチルハイドロジェンシロキシ単位とジメチルシロキシ単位を有するポリシロキサン、またはそれらの混合物)、ジオルガノポリシロキサンジオール、フロロシリコーンオイル、シリコーンポリエーテル共重合体、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイルなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0016】
上記したシリコーン系の柔軟撥水剤のうちでは、ジメチルシリコーンオイル(油状のジメチルポリシロキサン)と、メチルハイドロジェンシリコーンオイル(油状のメチルハイドロジェンポリシロキサン、油状のメチルハイドロジェンシロキシ単位とジメチルシロキシ単位を有するポリシロキサンまたはこれらの混合物)との混合物が、繊維と複合樹脂との接着を妨げる作用に優れ、入手も容易であることから好ましく用いられる。前記したシリコーンオイルでは、Si−H結合が多いほど撥水性が向上し、しかも焼き付け温度を低くすることができる。そのため、ジメチルシリコーンオイルと併用するメチルハイドロジェンシリコーンオイルが、メチルハイドロジェンシロキシ単位とジメチルシロキシ単位を有するポリシロキサンである場合は、メチルハイドロジェンシロキシ単位の割合が60モル%以上であるものを用いることが好ましい。また、柔軟撥水剤におけるジメチルシリコーンオイル:メチルハイドロジェンシリコーンオイルの重量比は、1:9〜9:1の割合であるのが好ましい。ジメチルシリコーンオイル(ジメチルポリシロキサン)の割合が全体の10重量%よりも少ないと、得られる皮革様シート状物の風合が硬くなる傾向があり、一方メチルハイドロジェンシリコーンオイルの割合が全体の10重量%よりも少ないと、得られる皮革様シート状物の撥水性が不十分になる傾向がある。
【0017】
シリコーン系の柔軟撥水剤はオイル型、エマルジヨン型、溶液型などがあり、本発明ではそのいずれもが使用可能であるが、工業的に使用する場合は水中油滴型に乳化分散したエマルジヨン型が好ましく用いられる。
また、シリコーン系の柔軟撥水剤は、低温で繊維質基材に高撥水性を付与するために、触媒として有機酸の錫、チタン、ジルコニウム、亜鉛などとの金属塩を含有することができる。
【0018】
繊維質基材への上記した繊維処理剤の付与方法としては、繊維質基材に繊維処理剤を均一に付与し得る方法であればいずれの方法を採用してもよい。そのうちでも、例えば、該繊維処理剤がシリコーン系の柔軟撥水剤である場合、該柔軟撥水剤を水で希釈して濃度が0.5〜5重量%の水性液とし、必要に応じてそれに触媒を加えて処理液を調製して、その処理液中に繊維質基材を浸漬し、次いで処理液から繊維質基材を取り出して柔軟撥水剤の付着量を調節するための絞りを行い、場合により予備乾燥を行った後、加熱乾燥する方法などが好ましく採用される。その際の加熱乾燥温度は、繊維質基材にシリコーン系柔軟撥水剤を強く付着させるために、一般に50〜150℃であるのが好ましい。
【0019】
繊維質基材への上記の繊維処理剤の付着量(加熱乾燥後の付着量)は、繊維質基材の重量に対して0.05〜5重量%であるのが好ましく、0.3〜3重量%であるのがより好ましい。繊維処理剤の付着量が0.05重量%未満であると得られる皮革様シート状物の柔軟性および撥水性が不足する傾向があり、一方、5重量%を超えると繊維処理剤が皮革様シート状物の表面にブリードアウトしてきて表面の触感の悪化、外観不良、他の物への柔軟撥水剤の付着などが生じる傾向がある。
【0020】
また、繊維質基材は、皮革様シート状物の耐洗濯性を向上させるために、必要に応じて、尿素樹脂、メラミン樹脂、エチレン尿素樹脂、グリオキザール樹脂などで予め処理を行っておいてもよい。
【0021】
本発明では、繊維質基材に、感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンを含浸させ凝固して皮革様シート状物を製造する[上記の条件(i)]。
【0022】
ここで、本発明でいう感熱ゲル化性のエマルジヨンとは、加熱したときに流動性を失ってゲル状物となるエマルジヨンをいう。感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンが加熱により流動性を失ってゲル化する感熱ゲル化温度としては、30〜70℃であるのが好ましく、40〜70℃であるのがより好ましい。
複合樹脂エマルジヨンが感熱ゲル化性でないと、繊維質基材にエマルジヨンを含浸して熱風で乾燥ゲル化した時に、繊維質基材中でエマルジヨン粒子の移動などが生じて、複合樹脂を繊維質基材中に均一に分散付与できなくなり、皮革様シート状物の強伸度、柔軟性などの物性が低下し、しかも風合が悪くなる。また、繊維質基材に複合樹脂エマルジヨンを含浸した後に温水中でエマルジヨンの凝固を行う場合は、温水中へのエマルジヨンの流出を生じ、やはり繊維質基材中に複合樹脂を均一に分散付与できなくなり、前記と同じように、皮革様シート状物の強伸度、柔軟性などの物性の低下、風合の悪化を生ずる。
【0023】
感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンとしては、それ自体で感熱ゲル化性を有する複合樹脂を含有するエマルジヨン、またはエマルジヨン中に感熱ゲル化剤を添加して感熱ゲル化性にした複合樹脂エマルジヨンのいずれもが使用できる。
感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンを得るための感熱ゲル化剤としては、例えば、無機塩類、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤、ポリビニルメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、シリコーンポリエーテル共重合体、ポリシロキサンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
そのうちでも感熱ゲル化剤としては、良好な感熱ゲル化性を発現することから、無機塩類とポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤との組み合わせが好ましく用いられる。その場合の無機塩類としては、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤の曇点を低下させることのできる一価または二価の金属塩が好ましく用いられ、具体例としては、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸鉛などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤の具体例としては、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸のエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンのエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド付加物などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
感熱ゲル化性のエマルジヨンとして感熱ゲル化剤を含有するものを用いる場合、感熱ゲル化剤の配合量は、エマルジヨン中の樹脂100重量部に対して0.2〜20重量部であるのが好ましい。
【0026】
本発明で用いる複合樹脂エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率は、1.0×107〜5.0×108dyn/cm2であり[上記の条件(ii)]、1.5×107〜3.0×108dyn/cm2であるのが好ましい。90℃における弾性率が1.0×107dyn/cm2未満である前記乾燥フィルムを与えるような複合樹脂エマルジヨンを用いると、繊維質基材にエマルジヨンを含浸し凝固したときに繊維が複合樹脂によって強く拘束されてしまい、その結果、得られるシート状物が充実感のない、天然皮革に近似しない繊維質様の劣った風合となる。一方、90℃における弾性率が5.0×108dyn/cm2を超える前記乾燥フィルムを与えるような複合樹脂エマルジヨンを用いると、得られるシート状物が柔軟性に劣る硬い風合となる。なお、本発明における上記の乾燥フィルムの弾性率の測定法は、以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0027】
また、本発明で用いる複合樹脂エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムのα分散の温度(Tα)は、−10℃以下であるのが好ましく、−20℃以下であるのがより好ましい。複合樹脂エマルジヨンから得られる乾燥フィルムが前記したα分散の温度(Tα)を有していることにより、得られる皮革様シート状物の耐寒性、耐屈曲性などの物性が優れたものとなる。なお、本発明における上記の乾燥フィルムのα分散の温度(Tα)の測定法は、以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0028】
本発明で用いる複合樹脂エマルジョンは、ポリウレタン系エマルジョン(A)の存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を、ポリウレタン系エマルジョン(A)中のポリウレタンの重量/エチレン性不飽和モノマー(B)の重量が、90/10〜10/90の割合で乳化重合して得られるエマルジョンである[上記の条件(iii)]。
【0029】
ポリウレタン系エマルジヨン(A)中に含まれるポリウレタンは、一般には、高分子ポリオール、有機ジイソシアネート化合物、鎖伸長剤を適宜組み合わせて反応させることによって製造することができる。
【0030】
ポリウレタンの製造に用いられる上記した高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオールなどを挙げることができ、ポリウレタンはこれらの高分子ポリオールの1種または2種以上を用いて形成させることができる。
【0031】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールは、例えば、常法にしたがってポリカルボン酸、そのエステル、無水物などのエステル形成性誘導体などのポリカルボン酸成分とポリオール成分とを直接エステル化反応させるかまたはエステル交換反応させることによって製造することができる。また、ポリエステルポリオールはラクトンを開環重合することによっても製造することができる。
【0032】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるポリカルボン酸成分としては、ポリエステルの製造において一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸などの炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、トリメシン酸などのトリカルボン酸;それらのエステル形成性誘導体などを挙げることができ、ポリエステルポリオールは前記したポリカルボン酸成分の1種または2種以上を用いて形成されていることができる。そのうちでも、ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸成分として、脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を用いて製造されたものであるのが好ましい。
【0033】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール,2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノールなどの脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族ジオール;ポリアルキレングリコール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタエリスリトールなどのポリオールを挙げることができ、前記したポリオール成分の1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、ポリエステルポリオールは、脂肪族ポリオールを用いて製造されたものであるのが好ましい。
【0034】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0035】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0036】
ポリウレタンの製造に用い得るポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオールとジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、アルキレンカーボネートなどのカーボネート化合物との反応により得られるポリカーボネートポリオールを挙げることができる。ポリカーボネートポリオールの製造原料であるポリオールとしては、ポリエステルポリオールの製造原料であるポリオールとして挙げたものを用いることができる。また、ジアルキルカーボネートとしてはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを、アルキレンカーボネートとしてはエチレンカーボネートなどを挙げることができる。
【0037】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール、ポリカルボン酸およびカーボネート化合物を同時に反応させて得られたもの、予め製造しておいたポリエステルポリオールとポリカーボネートポリオールとをカーボネート化合物と反応させて得られたものなどを挙げることができる。
【0038】
ポリウレタンの製造に用いる高分子ポリオールの数平均分子量は500〜10000であるのが好ましく、700〜5000であるのがより好ましく、750〜4000であるのがさらに好ましい。なお、本明細書でいう高分子ポリオールの数平均分子量はJIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量をいう。
【0039】
ポリウレタンの製造に用いられる高分子ポリオールでは、その1分子当たりの水酸基の数は、ポリウレタン系エマルジヨン(A)の製造に支障をきたさない限り、2より大きくても構わない。1分子当たりの水酸基の数が2よりも大きな高分子ポリオールは、例えば、ポリエステルポリオールの場合、該ポリエステルポリオールの製造時に、グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ヘキサントリオール、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールをポリオール成分の一部として用いることによって製造することができる。
【0040】
ポリウレタンの製造に用いる有機ジイソシアネート化合物としては特に制限されず、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から使用されている分子中にイソシアネート基を有する公知の脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートのいずれもが使用できる。ポリウレタンの製造に用い得る有機ジイソシアネート化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどを挙げることができ、これらの有機ジイソシアネートの1種または2種以上を用いることができる。それらのうちでもイソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0041】
ポリウレタンの製造に用いる鎖伸長剤としては、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用でき、そのうちでもイソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物が好ましく用いられる。そのような鎖伸長剤としては、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルメタン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミンなどのジアミン類;ジエチレントリアミンなどのトリアミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどのジオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらのうちでも、エチレングリコール、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが好ましく用いられる。
【0042】
ポリウレタン系エマルジョン(A)は、エチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合する際の重合安定性や感熱ゲル化性の付与の容易性の点から、ポリウレタン骨格中にポリウレタン100gに対し3〜30mmolの中和されたカルボキシル基またはスルホン酸基を有しているのが好ましい。ポリウレタン骨格中への中和されたカルボキシル基またはスルホン酸基の導入は、ポリウレタン製造原料として、カルボキシル基、スルホン酸基、またはそれらの塩を有し、且つ水酸基またはアミノ基等の活性水素原子を1個以上含有する化合物を併用し、必要に応じて三級アミン、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性物質で中和することにより達成される。このような化合物としては、例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酪酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)吉草酸等のカルボン酸基含有化合物およびこれらの誘導体;1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、2,4−ジアミノトルエン−5−スルホン酸等のスルホン酸基含有化合物およびこれらの誘導体等が挙げられる。さらに、上記の化合物を共重合して得られるポリエステルポリオールまたはポリエステルポリカーボネートポリオール等を用いることもできる。この中でも、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸を用いてポリウレタンプレポリマーを製造し、プレポリマー反応終了後にトリエチルアミン、トリメチルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性物質を添加して中和する方法が好ましい。
【0043】
ポリウレタンの製造に当たっては、耐溶剤性、耐熱性、耐熱水性などを向上させる目的で、必要に応じて、トリメチロールプロパンなどの三官能以上のポリオールや三官能以上のアミン等を反応させてポリウレタン中に架橋構造を持たせてもよい。
【0044】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨン(A)は、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から用いられているのと同様の方法で製造することができ、例えば、(1)末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、そのプレポリマーを乳化剤の存在下に高い機械的剪断力で水中に強制乳化させると同時にまたはその後に適当な鎖伸長剤で鎖伸長反応を完結して高分子量化したポリウレタン系エマルジヨンを製造する方法、(2)親水性の高分子ポリオールを用いて自己乳化型のポリウレタンを製造し、それをそのまま乳化剤を用いずに水中に乳化させてポリウレタン系エマルジョンを製造する方法などを挙げることができる。乳化には、ホモミキサー、ホモジナイザー等の乳化分散装置を使用することができ、その際、イソシアネート基と水との反応を抑制するために、乳化温度を40℃以下とするのが好ましい。
【0045】
ポリウレタン系エマルジョン(A)は、その存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合する際の重合安定性や感熱ゲル化性の付与の容易性の点から、上記(1)の方法における乳化剤として、ポリウレタン100gに対し、0.5〜10gの界面活性剤を含有していることが好ましい。そのような界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン性界面活性剤等が挙げられ、この中でもラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸、ラウリル硫酸アンモニウム等のアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0046】
本発明に用いられる複合樹脂エマルジョンは、ポリウレタン系エマルジョン(A)の存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合して製造する。ポリウレタン系エマルジョン(A)中のポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー(B)との重量比は、90/10〜10/90であり、85/15〜15/85であるのが好ましく、80/20〜20/80であるのがより好ましい。ポリウレタンの割合が10重量%未満の場合には、複合樹脂の弾性率が高くなり、得られる皮革様シート状物の風合が劣る。一方、ポリウレタンの割合が90重量%を越える場合には、複合樹脂の耐候性、耐加水分解性が劣り、またコスト的にも高くなる。
【0047】
複合樹脂エマルジョンの製造に用いられるエチレン性不飽和モノマー(B)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド等のアクリルアミド類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびそれらの誘導体;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド等のビニル化合物;エチレン、プロピレン等のα−オレフィンなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。中でもエチレン性不飽和モノマー(B)としては、得られる皮革様シート状物の風合や耐候性の点から(メタ)アクリル酸誘導体の割合が60重量%以上であるのが好ましく、70重量%以上であるのがより好ましい。
【0048】
また、エチレン性不飽和モノマー(B)は、得られる複合樹脂の耐久性の向上や弾性率の調整のために、2官能以上の多官能エチレン性不飽和モノマーを含有するのが好ましい。このような多官能エチレン性不飽和モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等の多官能芳香族ビニル化合物;アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート等の2個以上の異なるエチレン性不飽和結合含有化合物;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、ペンタエリスリトールトリアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、グリセリンジメタクリレートとトリレンジイソシアネートの2:1付加反応物等の分子量が1500以下のウレタンアクリレート等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。多官能エチレン性不飽和モノマーの割合としては、エチレン性不飽和モノマー(B)の0.1〜10重量%であるのが好ましく、1〜8重量%であるのがより好ましい。
【0049】
エチレン性不飽和モノマー(B)のポリウレタン系エマルジョン(A)への添加は、一括、分割、および連続のいずれの方法でもよく、また、モノマー組成を重合の段階ごとに変化させる多段階重合や連続的に変化させるパワーフィード法による重合を行ってもよい。多段階重合またはパワーフィード法による重合の場合には、重合に用いる全エチレン性不飽和モノマー(B)のうち、2官能以上の多官能エチレン性不飽和モノマーの総量が0.1〜10重量%であるのが好ましい。さらに、エチレン性不飽和モノマー(B)の重合時に界面活性剤等の乳化剤を適宜追加してもよい。
【0050】
エチレン性不飽和モノマー(B)の重合に用いられる重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジt−ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド等の油溶性過酸化物;2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等の油溶性アゾ化合物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性過酸化物;アゾビスシアノ吉草酸、2,2′−アゾビス−(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等の水溶性アゾ化合物等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも油溶性過酸化物、油溶性アゾ化合物などの油溶性開始剤を用いることが好ましい。また、前記重合開始剤とともに、還元剤および必要に応じてキレート化剤を併用したレドックス開始剤系を用いてもよい。還元剤としては、例えば、ロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート)等のホルムアルデヒドアルカリ金属スルホキシレート類;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸塩;ピロ亜硫酸ナトリウム等のピロ亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩;亜リン酸、亜リン酸ナトリウム等の亜リン酸塩類;ピロ亜リン酸ナトリウム等のピロ亜リン酸塩;メルカプタン類;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸塩類;エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等のエリソルビン酸塩類;グルコース、デキストロース等の糖類;硫酸第一鉄、硫酸銅等の金属塩等が挙げられる。キレート化剤としては、ピロリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩等が挙げられる。これらの開始剤、還元剤およびキレート化剤の使用量は、それぞれの開始剤系の組合せに応じて決定される。
【0051】
また、本発明に用いられる複合樹脂エマルジヨンは、得られる皮革様シート状物の性質を損なわない限りエマルジヨン中に他の重合体を含有してもよい。そのような他の重合体としては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、ポリアクリレート、アクリル系共重合体、シリコーン、他のポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの弾性を有する合成重合体などを挙げることができる。複合樹脂エマルジヨンはこれらの重合体の1種または2種以上を含有することができる。
【0052】
複合樹脂エマルジヨンは、必要に応じて、さらに公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、浸透剤等の界面活性剤、増粘剤、防黴剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料、充填剤、凝固調節剤などの1種または2種以上を含有していてもよい。
【0053】
本発明において、繊維質基材に複合樹脂エマルジヨンを含浸する方法は、繊維質基材中にエマルジヨンを均一に含浸させ得る方法であればいずれの方法を用いてよく、一般的には、複合樹脂エマルジヨン中に繊維質基材を浸漬する方法が好ましく採用される。さらに、繊維質基材にエマルジヨンを含浸した後、プレスロールやドクターナイフなどを用いてエマルジヨンの含浸量を適量なものに調整することができる。
【0054】
次に、繊維質基材中に含浸している複合樹脂エマルジヨンを加熱して凝固する。複合樹脂エマルジヨンの加熱凝固の方法としては、例えば、(1)エマルジヨンを含浸した繊維質基材を70〜100℃の温水浴中に浸漬して凝固する方法、(2)エマルジヨンを含浸した繊維質基材に100〜200℃の加熱水蒸気を吹き付けて凝固する方法、(3)エマルジヨンを含浸した繊維質基材を50〜150℃の乾燥装置中にそのまま導入して乾熱乾燥して凝固する方法などを挙げることができる。
そのうちでも、上記(1)の温水浴中での凝固方法または上記(2)の加熱水蒸気を用いる凝固方法が、より柔軟な風合を有する皮革様シート状物が得られる点から好ましく採用される。上記(1)〜(3)の方法において複合樹脂エマルジョンを凝固する温度は、エマルジョンの凝固を速やかに完了させることで繊維質基材中における複合樹脂の偏在を防止する点から、複合樹脂エマルジョンの感熱ゲル化温度よりも10℃以上高い温度であるのが好ましい。さらに、上記(1)または(2)の凝固方法を用いた場合は、続いて加熱乾燥または風乾を行って、皮革様シート状物中に含まれる水分を除去する。
【0055】
繊維質基材に複合樹脂エマルジヨンを含浸し凝固し、乾燥することによって最終的に得られる皮革様シート状物では、皮革様シート状物における重合体の付着量(複合樹脂エマルジヨンが他の重合体を含有する場合は複合樹脂を含めた全重合体の付着量)が、繊維質基材の重量に対して5〜150重量%であるのが好ましく、10〜100重量%であるのがより好ましい。重合体の付着量が5重量%未満であると、得られる皮革様シート状物の充実感が不足し、天然皮革様の風合が得られなくなる傾向があり、一方150重量%を超えると得られる皮革様シート状物が硬くなってやはり天然皮革様の風合が得られなくなる傾向がある。
【0056】
上記により得られる皮革様シート状物は、柔軟性に富み、同時に充実感を有する天然皮革に近似した良好な風合を有しており、従来の湿式凝固法により得られる人工皮革と比べても何ら遜色がない。本発明者らの電子顕微鏡観察の結果、本発明で得られる皮革様シート状物では、複合樹脂が繊維質基材中で繊維を拘束することなく凝固していることが観察された。そのため、本発明で得られる皮革様シート状物では、繊維の拘束によって生ずる柔軟性の低下が防止され、その一方で凝固した複合樹脂粒子が繊維質基材の繊維間の空隙を埋めていて見かけの樹脂部分の充填量が増していることにより、従来のエマルジヨン含浸型の皮革様シート状物に比べて、良好な柔軟性を保ちながら、充実感のある、天然皮革に近似した優れた風合を有する皮革様シート状物が得られるものであると思われる。
【0057】
本発明で得られる皮革様シート状物は、上記した優れた性質を活かして、例えば、マットレス、鞄内張り材料、衣料用芯地、靴用芯地、クッション材、自動車、列車、航空機などの内装材、壁材、カーペットなどの広範な用途に有効に使用することができる。さらに、本発明で得られる皮革様シート状物の片面にポリウレタン層などを既知の方法で設けることにより、スポーツシューズ、紳士靴、鞄、ハンドバック、ランドセルなどに用いられる銀付き人工皮革としても好適に使用することができる。
【0058】
【実施例】
以下、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、エマルジョンの感熱ゲル化温度、フィルムの90℃における弾性率、α分散、シート状物の柔軟性、風合は以下の方法により評価した。
【0059】
[感熱ゲル化温度]
試験管にエマルジョンを10g秤取し、90℃の恒温熱水浴中で撹拌しながら昇温し、エマルジョンが流動性を失いゲル状物となったときのエマルジョンの温度を感熱ゲル化温度とした。
【0060】
[90℃における弾性率、α分散]
エマルジョンを50℃で乾燥して得られた厚さ100μmのフィルムを、130℃で10分間熱処理した後、粘弾性測定装置(レオロジ社製FTレオスペクトラー「DVE−V4」)を用いて周波数11Hzで測定を行い、90℃における弾性率(E’)とα分散の温度(Tα)を求めた。
【0061】
[柔軟性]
皮革様シート状物を10×10cmに切り取り、室内温度が20℃の状態で純曲げ試験機(KATO TEKKO製「KES−FB2−L」)を用いて、皮革様シート状物の製造に用いた不織布の巻き取り方向に対して直角方向の曲げ剛性率(gfcm2/cm)を測定して柔軟性の指標とした。
【0062】
[耐屈曲性]
皮革様シート状物を7×4.5cmに切り取り、JIS−K6545に準じて、耐屈曲性試験機(Bally製「Flexometer」)を用い、温度20℃の条件で屈曲試験を行った。屈曲回数10万回ごとにシート状物の表面状態を観察し、亀裂または穴あきが発生するまでの回数を測定した。50万回においても亀裂または穴あきが発生が発生しない場合は、耐屈曲性は充分に良好で耐久性があるため「○」と判定した。
【0063】
[風合]
皮革様シート状物を手で触って、天然皮革様の風合を有する場合を「○」と判定し、天然皮革に比べて硬くて柔軟性が不足している場合および/または充実感が不足していて天然皮革様の風合を有していない場合を「×」と判定した。
【0064】
本文中で用いられる化合物の略号を表1および表2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
[参考例1]《繊維質基材の製造》
ポリエチレンテレフタレート繊維(単繊維繊度2デニール、繊維長51mm、70℃の熱水中での収縮率25%)を用いて、カードとクロスラッパーを使用して、240g/m2のウェブを製造した。このウェブをニードルロッカールームに通して700本/cm2のニードルパンチを行い、その後70℃の熱水中に2分間浸積して元の面積の56%に収縮させた。これをシリンダーベルト加圧機を用いて155℃で加圧処理して、厚さ1.2mm、重さ360g/m2および見かけ密度0.30g/cm3の不織布を製造した。この不織布にジメチルポリシロキサン(信越化学工業社製「KF96L」)とメチルハイドロジェンポリシロキサン(信越化学工業社製「KF99」)を1:1の重量比で含有するシリコーン系柔軟撥水剤のエマルジョン(固形分濃度5重量%)を含浸させ、ロールで絞った後に130℃で30分間乾燥して、シリコーン系柔軟撥水剤が不織布に対して1.2重量%付着した不織布(以下、不織布▲1▼と称する)を得た。
【0068】
[参考例2]《繊維質基材の製造》
汎用のポリエチレンテレフタレート繊維(単繊維繊度2.5デニール)とナイロン繊維(単繊維繊度1.5デニール)を35:65の重量比で用いて製造された絡合不織布(厚さ1.4mm、見かけ密度0.25g/cm3)に、シリコーン系柔軟撥水剤(松本油脂製薬社製「ゲラネックスSH」)の5重量%水溶液を含浸させ、ロールで絞った後に130℃で30分間乾燥して、シリコーン系柔軟撥水剤が不織布に対して1.0重量%付着した不織布(以下、不織布▲2▼と称する)を得た。
【0069】
[参考例3]《ポリウレタン系エマルジョンの製造》
三ツ口フラスコに、PMPA2000 300.0g、TDI 60.87g、DMPA 7.85gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下、90℃で2時間撹拌して系中の水酸基を定量的に反応させ、イソシアネート末端のプレポリマーを得た。これにMEK 195.4gを加えて均一に撹拌した後、40℃にフラスコ内温度を下げ、TEA 5.92gを加えて10分間撹拌を行った。次いで、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム 7.83gを蒸留水 285.0gに溶解した水溶液を前記プレポリマーに加えホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにDETA 6.91g、IPDA 5.70gを蒸留水 496.4gに溶解した水溶液を加えてホモミキサーで1分間撹拌し、鎖伸長反応を行った。その後、MEKをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分35重量%のポリウレタンエマルジョン(以下、PU▲1▼と称する)を得た。
【0070】
[参考例4]《ポリウレタン系エマルジョンの製造》
三ツ口フラスコに、PHC2000 200.0g、PTMG1000 100.0g、IPDI 80.91g、DMPA 7.38gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下、90℃で2時間撹拌して系中の水酸基を定量的に反応させ、イソシアネート末端のプレポリマーを得た。これにMEK 203.1gを加えて均一に撹拌した後、40℃にフラスコ内温度を下げ、TEA 5.57gを加えて10分間撹拌を行った。次いで、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム 12.21gを蒸留水 298.5gに溶解した水溶液を前記プレポリマーに加えホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにDETA 1.78g、IPDA 13.23gを蒸留水 514.1gに溶解した水溶液を加えてホモミキサーで1分間撹拌し、鎖伸長反応を行った。その後、MEKをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分35重量%のポリウレタンエマルジョン(以下、PU▲2▼と称する)を得た。
【0071】
[参考例5]《ポリウレタン系エマルジョンの製造》
三ツ口フラスコに、PCL2000 300.0g、TDI 70.53g、DMPA 10.06gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下、90℃で2時間撹拌して系中の水酸基を定量的に反応させ、イソシアネート末端のプレポリマーを得た。これにMEK 204.4gを加えて均一に撹拌した後、40℃にフラスコ内温度を下げ、TEA 7.59gを加えて10分間撹拌を行った。次いで、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム 12.29gを蒸留水 296.3gに溶解した水溶液を前記プレポリマーに加えホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにDETA 8.82g、EDA 2.57gを蒸留水 521.2gに溶解した水溶液を加えてホモミキサーで1分間撹拌し、鎖伸長反応を行った。その後、MEKをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分35重量%のポリウレタンエマルジョン(以下、PU▲3▼と称する)を得た。
【0072】
《複合樹脂エマルジョンおよび皮革様シート状物の製造》
[実施例1]
冷却管付きフラスコに、参考例3で得られたPU▲1▼ 240g、硫酸第一鉄七水和物(FeSO4・7H2O) 0.020g、ピロリン酸カリウム 0.294g、ロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレートの2水塩)0.451g、EDTA・2Na 0.020gおよび蒸留水246gを秤取し、40℃に昇温した後、系内を十分に窒素置換した。次いで、BA 152.1g、HDDA 3.14g、ALMA 1.57gおよびポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム(アニオン性乳化剤;日本サーファクタント製「ECT−3NEX」)1.57gの混合物(モノマー▲1▼)と、CHP 0.314g、ECT−3NEX 0.314gおよび蒸留水15.0gの乳化液(開始剤▲1▼)を、別々の滴下ロートからフラスコ内に4時間かけて滴下し、更に滴下終了後、40℃に30分間保持した。その後、MMA 38.4g、HDDA0.78gおよびECT−3NEX 0.392gの混合物(モノマー▲2▼)と、CHP 0.078g、ECT−3NEX 0.078gおよび蒸留水 3.0gの乳化液(開始剤▲2▼)を、別々の滴下ロートからフラスコ内に1時間30分かけて滴下し、更に滴下終了後、50℃に60分間保持して重合を完了させて、固形分40重量%のエマルジョンを得た。このエマルジョン100重量部に対して、ノニオン系界面活性剤(花王製エマルゲン109P)4重量部および塩化カルシウム 1重量部を配合し、感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。このエマルジョンの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃における弾性率およびα分散の温度(Tα)は表4に示したとおりであった。
【0073】
参考例1で得られた不織布▲1▼を、上記の感熱ゲル化性エマルジョンの浴中に浸漬して感熱ゲル化性エマルジョンを含浸させた後、浴から取り出し、プレスロールで絞り、次いで90℃の熱水浴中に1分間浸漬して感熱ゲル化性エマルジョンを凝固させ、さらに130℃の熱風乾燥機中で30分間乾燥してシート状物を製造した。このシート状物は、表4に示したように、柔軟性と充実感を有し、風合と耐久性に優れた天然皮革様のシート状物であった。
【0074】
[実施例2]
冷却管付きフラスコに、参考例3で得られたPU▲1▼ 480g、硫酸第一鉄七水和物(FeSO4・7H2O) 0.011g、ピロリン酸カリウム 0.168g、ロンガリット 0.258g、EDTA・2Na 0.011gおよび蒸留水 98gを秤取し、40℃に昇温した後、系内を十分に窒素置換した。次いで、BA 95.2g、MMA 11.2g、HDDA 5.60gおよびECT−3NEX 1.12gの混合物(モノマー▲1▼)と、CHP 0.168g、ECT−3NEX 0.168gおよび蒸留水10.0gの乳化液(開始剤▲1▼)を、別々の滴下ロートからフラスコ内に4時間かけて滴下し、更に滴下終了後50℃に60分間保持して重合を完了させて、固形分40重量%のエマルジョンを得た。このエマルジョン100重量部に対して、エマルゲン109P 4重量部および塩化カルシウム 1重量部を配合し、感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。このエマルジョンの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃における弾性率およびα分散の温度(Tα)は表4に示したとおりであった。
【0075】
参考例1で得られた不織布▲1▼に、実施例1と同様の方法で上記の感熱ゲル化性エマルジョンを含浸・付与し、シート状物を製造した。このシート状物は、表4に示したように、柔軟性と充実感を有し、風合と耐久性に優れた天然皮革様のシート状物であった。
【0076】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、表3に示した原料を使用して感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。このエマルジョンの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃における弾性率およびα分散の温度(Tα)は表4に示したとおりであった。参考例2で得られた不織布▲2▼を、上記の感熱ゲル化性エマルジョンの浴中に浸漬して感熱ゲル化性エマルジョンを含浸させた後、浴から取り出し、プレスロールで絞り、次いで1.5kg/cm2の圧力のスチームを全体に吹き付けて感熱ゲル化性エマルジョンを凝固させ、さらに130℃の熱風乾燥機中で30分間乾燥してシート状物を製造した。このシート状物は、表4に示したように、柔軟性と充実感を有し、風合と耐久性に優れた天然皮革様のシート状物であった。
【0077】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で、表3に示した原料を使用して感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。このエマルジョンの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃における弾性率およびα分散の温度(Tα)は表4に示したとおりであった。柔軟撥水剤処理を施していない市販のポリエステル編織物(厚さ0.85mm、見かけ密度0.35g/cm3)を、上記の感熱ゲル化性エマルジョンの浴中に浸漬して感熱ゲル化性エマルジョンを含浸させた後、浴から取り出し、プレスロールで絞り、次いで130℃の熱風乾燥機中で30分間加熱し、凝固および乾燥をさせることによりシート状物を製造した。このシート状物は、表4に示したように、柔軟性と充実感を有し、風合と耐久性に優れた天然皮革様のシート状物であった。
【0078】
[比較例1]
実施例2と同様の方法で、表3に示したように単官能のエチレン性不飽和モノマーとしてMMAのみを使用して感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。これらの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃における弾性率およびα分散温度は表4に示したとおりであった。参考例1で得られた不織布▲1▼に、実施例1と同様の方法で上記の感熱ゲル化性エマルジョンを含浸・付与し、シート状物を製造した。このシート状物は、用いたエマルジョンの90℃における弾性率が本発明に規定する範囲よりも高いことから柔軟性に劣る硬いものであった。
【0079】
[比較例2]
実施例2と同様の方法で、表3に示したように単官能のエチレン性不飽和モノマーとしてBAのみを使用して感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。これらの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃における弾性率およびα分散温度は表4に示したとおりであった。参考例1で得られた不織布▲1▼に、実施例1と同様の方法で上記の感熱ゲル化性エマルジョンを含浸・付与し、シート状物を製造した。このシート状物は、用いたエマルジョンの90℃における弾性率が本発明に規定する範囲よりも低いことから柔軟性は良好であるが、充実感に劣るものであった。
【0080】
[比較例3]
実施例1において、エマルゲン109Pおよび塩化カルシウムを配合しないこと以外は実施例1と同様にして、エマルジョンを得た。このエマルジョンは感熱ゲル化性を示さず、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃における弾性率およびα分散温度は表4に示したとおりであった。参考例1で得られた不織布▲1▼に、実施例1と同様の方法で上記のエマルジョンを含浸・付与したところ、エマルジョンが熱水浴に流出し、浴槽を汚染した。このシート状物は、局部的に硬い部分と全体的に不織布状の充実感のない部分とが存在したものであった。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、従来のエマルジョン系による樹脂付与に比べ柔軟性と充実感等が著しく改良された天然皮革様の風合を有する皮革様シート状物を安価に製造することができる。
Claims (7)
- 繊維質基材に、下記の条件(i)〜(iii)を満足する複合樹脂エマルジョンを含浸して凝固することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法;
(i)該複合樹脂エマルジョンが感熱ゲル化性である;
(ii)該複合樹脂エマルジョンを50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が、1.0×107〜5.0×108dyn/cm2である;および
(iii)該複合樹脂エマルジョンが、ポリウレタン系エマルジョン(A)の存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を、ポリウレタン系エマルジョン(A)中のポリウレタンの重量/エチレン性不飽和モノマー(B)の重量が90/10〜10/90の割合で乳化重合して得られるエマルジョンである。 - 繊維質基材として、予め繊維と複合樹脂との接着を妨げる作用を有する繊維処理剤を付与したものを用いることを特徴とする請求項1に記載の皮革様シート状物の製造方法。
- 繊維と複合樹脂との接着を妨げる作用を有する繊維処理剤が、ジメチルポリシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサンとの混合物からなる柔軟撥水剤であることを特徴とする請求項2に記載の皮革様シート状物の製造方法。
- 複合樹脂エマルジョンを50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムのα分散温度が、−10℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮革様シート状物の製造方法。
- 複合樹脂エマルジョンとして感熱ゲル化温度が30〜70℃であるものを用い、該複合樹脂エマルジョンを繊維質基材に含浸した後、感熱ゲル化温度よりも10℃以上高い温度で複合樹脂エマルジョンを凝固することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮革様シート状物の製造方法。
- 繊維質基材が、収縮性ポリエチレンテレフタレート繊維を少なくとも1成分として用いて形成された、見かけ密度0.25〜0.50g/cm3の不織布であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮革様シート状物の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項の製造方法により得られる皮革様シート状物。
Priority Applications (7)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP11157699A JP4190650B2 (ja) | 1999-04-20 | 1999-04-20 | 皮革様シート状物の製造方法 |
KR1020000015814A KR100349041B1 (ko) | 1999-03-30 | 2000-03-28 | 피혁형 시트의 제조방법 |
US09/536,718 US6479153B1 (en) | 1999-03-30 | 2000-03-28 | Process for producing a leather-like sheet |
TW89105685A TW526304B (en) | 1999-03-30 | 2000-03-28 | Process for producing a leather-like sheet |
EP20000106739 EP1041191B1 (en) | 1999-03-30 | 2000-03-29 | Process for producing a leather-like sheet |
DE60040817T DE60040817D1 (de) | 1999-03-30 | 2000-03-29 | Verfahren zur Herstellung eines lederartigen Materials |
CNB001049062A CN1213194C (zh) | 1999-03-30 | 2000-03-30 | 似革片材的制造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP11157699A JP4190650B2 (ja) | 1999-04-20 | 1999-04-20 | 皮革様シート状物の製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2000303371A JP2000303371A (ja) | 2000-10-31 |
JP4190650B2 true JP4190650B2 (ja) | 2008-12-03 |
Family
ID=14564886
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP11157699A Expired - Lifetime JP4190650B2 (ja) | 1999-03-30 | 1999-04-20 | 皮革様シート状物の製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP4190650B2 (ja) |
Families Citing this family (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP4674962B2 (ja) * | 2000-12-13 | 2011-04-20 | 旭化成ケミカルズ株式会社 | ポリウレタンエマルジョン |
JP5739238B2 (ja) * | 2011-06-02 | 2015-06-24 | 帝人コードレ株式会社 | 皮革様シート状物の製造方法 |
WO2024095846A1 (ja) * | 2022-10-31 | 2024-05-10 | 東レ株式会社 | 人工皮革およびその製造方法 |
-
1999
- 1999-04-20 JP JP11157699A patent/JP4190650B2/ja not_active Expired - Lifetime
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2000303371A (ja) | 2000-10-31 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
US6479153B1 (en) | Process for producing a leather-like sheet | |
JP6551227B2 (ja) | シート状物およびその製造方法 | |
KR100621300B1 (ko) | 피혁형시트의 제조방법 | |
TWI312021B (ja) | ||
KR20090127293A (ko) | 은 부조 피혁양 시트 및 그 제조 방법 | |
KR20160114069A (ko) | 시트상물 및 그의 제조 방법 | |
JP7322573B2 (ja) | シート状物およびその製造方法 | |
JP4204711B2 (ja) | 皮革様シートの製造方法 | |
JP4146035B2 (ja) | 皮革様シート状物の製造方法 | |
JP2001192980A (ja) | 皮革様シートの製造方法 | |
JP4190650B2 (ja) | 皮革様シート状物の製造方法 | |
JP4025425B2 (ja) | 皮革様シート状物の製造方法 | |
JP2007046183A (ja) | 皮革様シート状物、その製造方法ならびにそれを用いてなる内装材および衣料資材。 | |
JP4190651B2 (ja) | 皮革様シート状物およびその製造方法 | |
JP2000248472A (ja) | 耐摩耗性の良好な皮革様シート | |
JP2022101943A (ja) | 人工皮革 | |
JP3946494B2 (ja) | 銀付人工皮革およびその製造方法 | |
JP4056827B2 (ja) | 皮革様シートの表面塗布用水性液および該水性液を用いて銀面部を形成した皮革様シート | |
JP4145434B2 (ja) | 皮革様シートおよびその製造方法 | |
JP4048160B2 (ja) | 皮革様シート状物およびその製造方法 | |
JP2016044362A (ja) | 柔軟な風合いをもつ人工皮革およびその製造方法 | |
JP4074377B2 (ja) | 皮革様シート状物およびその製造方法 | |
JP6904493B1 (ja) | シート状物およびその製造方法 | |
JP4216126B2 (ja) | 皮革様シートおよびその製造方法 | |
JP2009228179A (ja) | 銀付調シート状物 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20051003 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20080422 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20080507 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20080826 |
|
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20080917 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110926 Year of fee payment: 3 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120926 Year of fee payment: 4 |