JP4190651B2 - 皮革様シート状物およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は皮革様シート状物およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、極細繊維よりなる繊維質基材中に特定の複合樹脂エマルジヨンが含浸・凝固している皮革様シート状物およびその製造方法に関する。本発明の皮革様シート状物は、エマルジョン系樹脂を繊維質基材に含浸した後乾熱凝固して得られる従来の皮革様シート状物に比べて、著しく改良された柔軟性および充実感を有していて、天然皮革に近似した、高級感のある優れた風合や触感を有し、耐久性に優れている。
【0002】
【従来の技術】
天然皮革の代用品(人工皮革)として、ポリウレタンなどの樹脂成分を繊維質基材に結束剤として含浸したシート状物が従来より製造されている。このようなシート状物のうちでも、繊維質基材が極細繊維よりなる場合は、天然皮革に近似した良好な風合になるため、いわゆる高級スエード調人工皮革として用いられる。その代表的な製造方法としては、(1)極細繊維形成性の海島型の複合紡糸繊維や混合紡糸繊維よるなる繊維質基材に樹脂を付与した後に、海成分を有機溶剤やアルカリ水溶液などによって溶解または分解除去して島成分を極細繊維として残留させて繊維質基材を構成している繊維を極細繊維化する方法、および(2)既に極細繊維化されている極細繊維からなる繊維質基材を予め形成し、これに樹脂を付与する方法が挙げられる。
【0003】
そして、上記した(1)および(2)の人工皮革の製造方法では、繊維質基材へのポリウレタンなどの樹脂の付与方法として、樹脂成分をジメチルホルムアミドなどの有機溶剤に溶解した溶液を繊維質基材に含浸させた後に水などの非溶剤中で凝固する湿式法、または樹脂成分を有機溶剤に溶解した溶液または水に分散させたエマルジヨンを繊維質基材に含浸した後に乾燥する乾式法が知られている。
【0004】
上記湿式法による場合は、乾式法に比べて、天然皮革により近い風合を有するシート状物を得ることが可能であるが、生産性に劣り、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤の使用が不可欠であるという欠点がある。一方、乾式法のうちで、樹脂エマルジヨンを使用する場合は、有機溶剤を使用することなくシート状物を得ることが可能であるが、湿式法により得られる皮革様シート状物に匹敵する高品質の風合を発現するに至っていない。その理由としては、乾式法によって得られるシート状物は、その乾燥過程で樹脂が繊維にからみつき強く拘束する構造をとることにより硬い風合となり、且つ湿式法により得られるシート状物に比べて樹脂の存在しない空隙が極めて多く発生することにより充実感が低下することが挙げられる。
【0005】
また、上記した湿式法において、特に、繊維質基材にポリウレタン等の樹脂を付与した後に海成分を有機溶剤やアルカリ水溶液により溶解または分解除去して極細繊維化を行う上記(1)の方法では、その加工工程において極細化した繊維束中に樹脂が侵入して樹脂を強く拘束する構造になり易く、そのため得られる皮革様シート状物の風合が硬くなることが多い。その場合に、硬い風合にならないように樹脂の付着量を少なくすると、充実感のない繊維質基材様の風合となる。また、エマルジヨン樹脂を用いる上記した乾式法において、繊維質基材に樹脂を付与した後に柔軟剤で処理して柔軟性を発現させることも考えられるが、柔軟剤での処理工程を追加する必要があるため生産性が低下し、しかも柔軟剤を付与しても天然皮革に近似した高級感のある風合にはなりにくい。
【0006】
さらに、エマルジヨン樹脂を用いる上記した乾式法として、布帛にポリウレタンエマルジョンおよびポリアクリル酸エステルエマルジョンの混合樹脂エマルジョンを含浸させ、温水処理して合成皮革用基布を製造する方法(特開昭55−128078号公報)や、単繊維繊度が0.5デニール以下の極細繊維を主体とする繊維層を含む不織シートに、平均粒度が0.1〜2.0μmである水系ポリウレタンエマルジヨンに無機塩類を溶解混合したエマルジヨン液を付与し、加熱乾燥して人工皮革を製造する方法(特開平6−316877号公報)が提案されている。しかし、これらの方法により得られる人工皮革は、柔軟性、充実感などが十分ではなく、風合が十分に改良されているとは言い難い。
また、2種以上のポリマーからなる繊維の不織布を、脂肪族ジイソシアネート、ポリテトラメチレングリコールおよび脂肪族ジアミンより形成されたポリウレタン樹脂の水性エマルジヨンで加工した後に、アルカリ水溶液または有機溶剤で繊維を部分的に分解または溶解させて極細化して人工皮革を製造する方法が提案されている(特開平9−132876号公報)。しかしながら、この方法により得られる人工皮革も、柔軟性、充実感などの点が十分改良されていない。
【0007】
そのため、人工皮革の製造に当たっては、品質の高い人工皮革が得られるが、生産性が低く、しかも有機溶剤の使用が不可欠である湿式法が工業的に専ら採用されているのが現状である。
しかしながら、水性の樹脂エマルジヨンを繊維質基材に含浸して加熱凝固する上記した乾式法で代表される皮革様シート状物の製造法は、繊維質基材への樹脂の含浸時や含浸させた樹脂の凝固時に有機溶剤を用いる必要がないことから、環境適合性、作業環境の安全性、工程の簡略化などの点から極めて有効であり、かかる点から、水系の樹脂エマルジヨンを用いて柔軟性および充実感に優れる高品質の皮革様シート状物を製造し得る技術の開発が強く求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、樹脂エマルジョンを用いる乾式法により、極細繊維よりなる繊維質基材を有し、柔軟性および充実感に優れていて、天然皮革に極めて近似した良好な風合、触感、物性をもつ、スエード調の高級感のある皮革様シート状物を製造する方法並びにそれによる皮革様シート状物を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、極細繊維形成性繊維よりなる繊維質基材に、特定の物性を備える感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンを含浸して凝固させ、該エマルジョンの凝固後に極細繊維形成性繊維を極細化すると、柔軟性に優れ、しかも充実感のある、天然皮革に近似した物性を有する、湿式法に比肩し得る高品質の皮革様シート状物が得られることを見出した。すなわち、該特定の感熱ゲル化性エマルジヨンを用いることおよび樹脂の付与後に繊維質基材を極細繊維化することによって、樹脂が繊維質基材中の極細繊維を強く拘束することなく、適度な繊維空間を保ちながら繊維質基材中に含浸し凝固して、柔軟性および充実感に優れる、高品質の皮革様シート状物が得られることを見出して本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、極細繊維形成性繊維からなる繊維質基材に下記の条件(i)〜(iv)を満足する複合樹脂エマルジョンを含浸して凝固した後に、該極細繊維形成性繊維を極細繊維化することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法である;
(i)該複合樹脂エマルジョンが感熱ゲル化性である;
(ii)該複合樹脂エマルジョンを50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が、5.0×108dyn/cm2以下である;
(iii)該複合樹脂エマルジョンを50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの160℃における弾性率が、5.0×106dyn/cm2以上である;および
(iv)該複合樹脂エマルジョンが、ポリウレタン系エマルジョン(A)の存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を、ポリウレタン系エマルジョン(A)中のポリウレタンの重量/エチレン性不飽和モノマー(B)の重量が゛90/10〜10/90の割合で乳化重合して得られるエマルジョンである。
【0011】
また、本発明は、上記の製造方法により得られる皮革様シート状物に関する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明においては、極細繊維形成性繊維よりなる繊維質基材に複合樹脂エマルジヨンを含浸して凝固した後に該極細繊維形成繊維を極細繊維化して皮革様シート状物を製造する。これにより、繊維質基材へのエマルジヨンの含浸処理が容易となり、また得られる皮革様シート状物が柔軟性、充実感、天然皮革様の風合などに優れたものとなる。
【0013】
本発明における繊維質基材は、適度の厚みと充実感を有し、かつ柔軟な風合を有する極細繊維よりなる繊維質基材を形成するものであればよく、従来より皮革様シート状物に用いられている極細繊維を形成する各種の繊維質基材を用いることができる。
【0014】
複合樹脂エマルジヨンを含浸する前の繊維質基材を構成する極細繊維形成性繊維として、2種類以上の高分子物質よりなる極細繊維形成性の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維が好ましく用いられる。この複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維を構成する高分子物質の一部を溶解および/または分解して除去し、残りの高分子物質を極細繊維状に残留させることによって、皮革様シート状物中で繊維質基材を極細繊維構造とすることができる。
2種類以上の高分子物質よりなる極細繊維形成性の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維の代表例としては、2種以上の高分子物質よりなる海島型複合紡糸繊維および海島型混合紡糸繊維を挙げることができ、それらの繊維から海成分をなしている高分子物質を有機溶剤などを用いて溶解除去することによって、島成分を極細状に残留させて極細繊維化を行うことができる。本発明で用いる繊維質基材は、海島型複合紡糸繊維および海島型混合紡糸繊維のうちの一方のみを用いて形成されていても、または両方を用いて形成されていてもよい。
【0015】
上記した海島型複合紡糸繊維または海島型混合紡糸繊維を構成し得る高分子物質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、変性ポリエステルなどのポリエステル類、6−ナイロン、6,12−ナイロン、6,6−ナイロン、変性ナイロンなどのポリアミド類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリウレタンエラストマーなどを挙げることができる。これらの高分子物質のうちから、有機溶剤に対する溶解性の異なるものを2種以上選択して海成分および島成分として組み合わせることによって、海成分を溶解または分解除去したときに島成分が極細繊維状に残留することのできる極細繊維形成性の海島型複合紡糸繊維または海島型混合紡糸繊維を得ることができる。その際に、島成分は1種類の高分子物質のみからなっていてもまたは2種以上の高分子物質からなっていてもよく、島成分が2種以上の高分子物質からなる場合は、極細繊維化後の繊維質基材中には2種以上極細繊維が存在するようになる。
【0016】
また、極細繊維形成性の海島型複合紡糸繊維または海島型混合紡糸繊維における島成分と海成分の割合は特に制限されないが、一般的には、複合紡糸繊維や混合紡糸繊維の製造の容易性、極細繊維化の容易性、得られる皮革様シート状物の物性などの点から、重量比で、島成分:海成分=15:85〜85:15であるのが好ましく、25:75〜75:25であるのがより好ましい。
極細繊維形成性の海島型複合紡糸繊維または海島型混合紡糸繊維では、島成分の数、大きさ、海成分中での島成分の分散状態などは特に制限されず、極細繊維よりなる繊維質基材が円滑に得られるものであればいずれでもよい。
【0017】
特に、海成分がポリエチレンおよび/またはポリスチレンよりなり、島成分がポリエステルおよび/またはポリアミドよりなる海島型複合紡糸繊維または海島型混合紡糸繊維を用いて形成された繊維質基材を使用し、これに複合樹脂エマルジヨンを含浸して凝固した後に、海成分をなすポリエチレンおよび/またはポリスチレンをベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶剤、四塩化炭素、パークレンなどのハロゲン化炭化水溶剤などのような有機溶剤、特にトルエンを用いて溶解除去して,島成分をなすポリエステルおよび/またはポリアミドを極細繊維状で残留させて得られる皮革様シート状物は、柔軟性および充実感に優れ、天然皮革に極めて近い良好な風合を有しているので、人工皮革用素材として好適に使用できる。
【0018】
また、本発明で用いる繊維質基材は、不織布および/または編織布のいずれであってもよいが、不織布のみからなるか、または不織布層を少なくとも一方の表面側に有する不織布と織布および/または編布との積層物(例えば不織布層と編織布層よりなる2層構造物、表面と裏面が不織布層で中央が編織布層よりなる3層構造物など)が好ましく用いられる。繊維質基材として好ましく用いられる不織布としては、絡合不織布、ラップ型不織布などを挙げることができ、なかでも絡合不織布が好ましく用いられる。
【0019】
さらに、本発明で用いる繊維質基材は、得られる皮革様シート状物の風合を損なわない限りは、上記した極細繊維と共に必要に応じて他の繊維材料を併用して形成されていてもよい。他の繊維材料としては、通常の繊維、収縮性繊維、潜在自発伸長性繊維、多層張り合わせ型潜在分割性繊維、特殊多孔質繊維などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を併用できる。これらの他の繊維は、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維などの合成繊維、半合成繊維、綿、羊毛、麻などの天然繊維などであることができる。
【0020】
繊維質基材を構成する極細繊維形成性繊維の極細繊維化後の単繊維繊度は、柔軟性、充実感、天然皮革様の風合に優れる皮革様シート状物が得られる点から、0.5デニール以下であるのが好ましく、0.4デニール以下であるのがより好ましい。
【0021】
繊維質基材の厚さは得られる皮革様シート状物の用途などに応じて任意に選択できるが、適度な皮革様の風合を与える点から、ポリウレタン系エマルジヨンを含浸する前の厚さで0.3〜3.0mmであるのが好ましく、0.6〜2.5mmであるのがより好ましい。
【0022】
繊維質基材の見かけ密度は、得られる皮革様シート状物の柔軟性の点から、繊維質基材中の繊維が極細繊維状になっている状態で(上記した海島型の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維を用いたときには海成分を除去して極細繊維化した後に)、0.1〜0.5g/cm3であるのが好ましく、0.15〜0.45g/cm3であるのがより好ましい。繊維質基材の見かけ密度が0.1g/cm3よりも小さいと、得られる皮革様シート状物の反発性および腰感が劣ったものになり易く、天然皮革のような風合が得られにくくなる。一方、繊維質基材の見かけ密度が0.5g/cm3よりも大きいと、得られる皮革様シート状物の腰感が無くなったり、ゴム様の不良な風合となる傾向がある。
【0023】
本発明では、上記した繊維質基材へのエマルジョンの含浸の際に、均一かつ速やかな含浸を行うためにエマルジョンの含浸に先だって繊維質基材に湿潤浸透性を示す界面活性剤の水溶液あるいは水性エマルジョンを付与しておくことも可能である。この場合、界面活性剤の水溶液または分散液を付与した繊維質基材から該水溶液の溶媒または該分散液の分散媒が乾燥除去されることなく複合樹脂エマルジョンの含浸を行う必要があり、完全に乾燥が行われ該水溶液の溶媒または該分散液の分散媒が消失した場合には効果がほとんど期待できない。繊維質基材に付与する界面活性剤の量は、繊維質基材に対して0.01〜20重量%であるのが好ましい。
【0024】
本発明では、極細繊維形成性繊維からなる繊維質基材に、感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンを含浸させ凝固して皮革様シート状物を製造する[上記の条件(i)]。
【0025】
ここで、本発明でいう感熱ゲル化性のエマルジヨンとは、加熱したときに流動性を失ってゲル状物となるエマルジヨンをいう。感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンが加熱により流動性を失ってゲル化する感熱ゲル化温度としては、30〜70℃であるのが好ましく、40〜70℃であるのがより好ましい。
複合樹脂エマルジヨンが感熱ゲル化性でないと、繊維質基材にエマルジヨンを含浸して熱風で乾燥ゲル化した時に、繊維質基材中でエマルジヨン粒子の移動などが生じて、複合樹脂を繊維質基材中に均一に分散付与できなくなり、皮革様シート状物の強伸度、柔軟性などの物性が低下し、しかも風合が悪くなる。また、繊維質基材に複合樹脂エマルジヨンを含浸した後に温水中でエマルジヨンの凝固を行う場合は、温水中へのエマルジヨンの流出を生じ、やはり繊維質基材中に複合樹脂を均一に分散付与できなくなり、前記と同じように、皮革様シート状物の強伸度、柔軟性などの物性の低下、風合の悪化を生ずる。
【0026】
感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンとしては、それ自体で感熱ゲル化性を有する複合樹脂を含有するエマルジヨン、またはエマルジヨン中に感熱ゲル化剤を添加して感熱ゲル化性にした複合樹脂エマルジヨンのいずれもが使用できる。
感熱ゲル化性の複合樹脂エマルジヨンを得るための感熱ゲル化剤としては、例えば、無機塩類、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤、ポリビニルメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、シリコーンポリエーテル共重合体、ポリシロキサンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0027】
そのうちでも感熱ゲル化剤としては、良好な感熱ゲル化性を発現することから、無機塩類とポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤との組み合わせが好ましく用いられる。その場合の無機塩類としては、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤の曇点を低下させることのできる一価または二価の金属塩が好ましく用いられ、具体例としては、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸鉛などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤の具体例としては、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸のエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンのエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド付加物などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
感熱ゲル化性のエマルジヨンとして感熱ゲル化剤を含有するものを用いる場合、感熱ゲル化剤の配合量は、エマルジヨン中の樹脂100重量部に対して0.2〜20重量部であるのが好ましい。
【0029】
本発明で用いる複合樹脂エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率は、5.0×108dyn/cm2以下であり[上記の条件(ii)]、3.0×108dyn/cm2以下であるのが好ましく、2.0×108dyn/cm2以下であるのがより好ましい。90℃における弾性率が5.0×108dyn/cm2を超える前記乾燥フィルムを与えるような複合樹脂エマルジヨンを用いると、得られるシート状物が柔軟性に劣る硬い風合となる。
【0030】
また、本発明で用いる複合樹脂エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの160℃における弾性率は、5.0×106dyn/cm2以上であり[上記の条件(iii)]、8.0×106dyn/cm2以上であるのが好ましく、1.0×107dyn/cm2以上であるのがより好ましい。160℃における弾性率が5.0×106dyn/cm2未満である前記乾燥フィルムを与えるような複合樹脂エマルジヨンを用いると、繊維質基材にエマルジヨンを含浸して凝固した後に、繊維質基材を構成している海島型の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維における海成分を有機溶剤で抽出除去して極細繊維化する際に、絞りロールなどで圧力を受けて厚みが薄くなるいわゆる「へたり」を生じて、柔軟性、充実感、腰感などの失われた不良な風合となる。
なお、本発明における、複合樹脂エマルジヨンから形成される上記乾燥フィルムの90℃および160℃における弾性率の測定法は以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0031】
また、本発明で用いる複合樹脂エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムのα分散の温度(Tα)は、−10℃以下であるのが好ましく、−20℃以下であるのがより好ましい。複合樹脂エマルジヨンから得られる乾燥フィルムが前記したα分散の温度(Tα)を有していることにより、得られる皮革様シート状物の耐寒性、耐屈曲性などの物性が優れたものとなる。なお、本発明における上記の乾燥フィルムのα分散の温度(Tα)の測定法は、以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0032】
本発明で用いる複合樹脂エマルジョンは、ポリウレタン系エマルジョン(A)の存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を、ポリウレタン系エマルジョン(A)中のポリウレタンの重量/エチレン性不飽和モノマー(B)の重量が、90/10〜10/90の割合で乳化重合して得られるエマルジョンである[上記の条件(iv)]。
【0033】
ポリウレタン系エマルジヨン(A)中に含まれるポリウレタンは、一般には、高分子ポリオール、有機ジイソシアネート化合物、鎖伸長剤を適宜組み合わせて反応させることによって製造することができる。
【0034】
ポリウレタンの製造に用いられる上記した高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオールなどを挙げることができ、ポリウレタンはこれらの高分子ポリオールの1種または2種以上を用いて形成させることができる。
【0035】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールは、例えば、常法にしたがってポリカルボン酸、そのエステル、無水物などのエステル形成性誘導体などのポリカルボン酸成分とポリオール成分とを直接エステル化反応させるかまたはエステル交換反応させることによって製造することができる。また、ポリエステルポリオールはラクトンを開環重合することによっても製造することができる。
【0036】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるポリカルボン酸成分としては、ポリエステルの製造において一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸などの炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、トリメシン酸などのトリカルボン酸;それらのエステル形成性誘導体などを挙げることができ、ポリエステルポリオールは前記したポリカルボン酸成分の1種または2種以上を用いて形成されていることができる。そのうちでも、ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸成分として、脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を用いて製造されたものであるのが好ましい。
【0037】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール,2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノールなどの脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族ジオール;ポリアルキレングリコール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタエリスリトールなどのポリオールを挙げることができ、前記したポリオール成分の1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、ポリエステルポリオールは、脂肪族ポリオールを用いて製造されたものであるのが好ましい。
【0038】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0039】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0040】
ポリウレタンの製造に用い得るポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオールとジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、アルキレンカーボネートなどのカーボネート化合物との反応により得られるポリカーボネートポリオールを挙げることができる。ポリカーボネートポリオールの製造原料であるポリオールとしては、ポリエステルポリオールの製造原料であるポリオールとして挙げたものを用いることができる。また、ジアルキルカーボネートとしてはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを、アルキレンカーボネートとしてはエチレンカーボネートなどを挙げることができる。
【0041】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール、ポリカルボン酸およびカーボネート化合物を同時に反応させて得られたもの、予め製造しておいたポリエステルポリオールとポリカーボネートポリオールとをカーボネート化合物と反応させて得られたものなどを挙げることができる。
【0042】
ポリウレタンの製造に用いる高分子ポリオールの数平均分子量は500〜10000であるのが好ましく、700〜5000であるのがより好ましく、750〜4000であるのがさらに好ましい。なお、本明細書でいう高分子ポリオールの数平均分子量はJIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量をいう。
【0043】
ポリウレタンの製造に用いられる高分子ポリオールでは、その1分子当たりの水酸基の数は、ポリウレタン系エマルジヨン(A)の製造に支障をきたさない限り、2より大きくても構わない。1分子当たりの水酸基の数が2よりも大きな高分子ポリオールは、例えば、ポリエステルポリオールの場合、該ポリエステルポリオールの製造時に、グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ヘキサントリオール、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールをポリオール成分の一部として用いることによって製造することができる。
【0044】
ポリウレタンの製造に用いる有機ジイソシアネート化合物の種類は特に制限されず、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から使用されている分子中にイソシアネート基を有する公知の脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートのいずれもが使用できる。ポリウレタンの製造に用い得る有機ジイソシアネート化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどを挙げることができ、これらの有機ジイソシアネートの1種または2種以上を用いることができる。
【0045】
上記した有機イソシアネート化合物のうちでも、得られるポリウレタンが耐溶剤性に優れることから、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが好ましく用いられる。芳香族ジイソシアネートを用いて得られたポリウレタンを含むポリウレタン系エマルジヨンを用いる場合は、海島型の複合紡糸繊維および/または混合紡糸繊維よりなる繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固した後に繊維中の海成分を有機溶剤で抽出除去して極細繊維化するときに、ポリウレタンが耐溶剤性に優れることから、有機溶剤によるポリウレタンの物性低下が抑制されて、風合および機械的性質に優れる皮革様シート状物を得ることができる。
【0046】
ポリウレタンの製造に用いる鎖伸長剤としては、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用でき、そのうちでもイソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物が好ましく用いられる。そのような鎖伸長剤としては、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルメタン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミンなどのジアミン類;ジエチレントリアミンなどのトリアミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどのジオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらのうちでも、エチレングリコール、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが好ましく用いられる。
【0047】
ポリウレタン系エマルジョン(A)は、エチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合する際の重合安定性や感熱ゲル化性の付与の容易性の点から、ポリウレタン骨格中にポリウレタン100gに対し3〜30mmolの中和されたカルボキシル基またはスルホン酸基を有しているのが好ましい。ポリウレタン骨格中への中和されたカルボキシル基またはスルホン酸基の導入は、ポリウレタン製造原料として、カルボキシル基、スルホン酸基、またはそれらの塩を有し、且つ水酸基またはアミノ基等の活性水素原子を1個以上含有する化合物を併用し、必要に応じて三級アミン、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性物質で中和することにより達成される。このような化合物としては、例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酪酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)吉草酸等のカルボン酸基含有化合物およびこれらの誘導体;1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、2,4−ジアミノトルエン−5−スルホン酸等のスルホン酸基含有化合物およびこれらの誘導体等が挙げられる。さらに、上記の化合物を共重合して得られるポリエステルポリオールまたはポリエステルポリカーボネートポリオール等を用いることもできる。この中でも、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸を用いてポリウレタンプレポリマーを製造し、プレポリマー反応終了後にトリエチルアミン、トリメチルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性物質を添加して中和する方法が好ましい。
【0048】
ポリウレタンの製造に当たっては、耐溶剤性、耐熱性、耐熱水性などを向上させる目的で、必要に応じて、トリメチロールプロパンなどの三官能以上のポリオールや三官能以上のアミン等を反応させてポリウレタン中に架橋構造を持たせてもよい。
【0049】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨン(A)は、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から用いられているのと同様の方法で製造することができ、例えば、(1)末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、そのプレポリマーを乳化剤の存在下に高い機械的剪断力で水中に強制乳化させると同時にまたはその後に適当な鎖伸長剤で鎖伸長反応を完結して高分子量化したポリウレタンエマルジヨンを製造する方法、(2)親水性の高分子ポリオールを用いて自己乳化型のポリウレタンを製造し、それをそのまま乳化剤を用いずに水中に乳化させてポリウレタン系エマルジョンを製造する方法などを挙げることができる。乳化には、ホモミキサー、ホモジナイザー等の乳化分散装置を使用することができ、その際、イソシアネート基と水との反応を抑制するために、乳化温度を40℃以下とするのが好ましい。
【0050】
ポリウレタン系エマルジョン(A)は、その存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合する際の重合安定性や感熱ゲル化性の付与の容易性の点から、上記(1)の方法における乳化剤として、ポリウレタン100gに対し、0.5〜10gの界面活性剤を含有していることが好ましい。そのような界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン性界面活性剤等が挙げられ、この中でもラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0051】
本発明に用いられる複合樹脂エマルジョンは、ポリウレタン系エマルジョン(A)の存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を乳化重合して製造する。ポリウレタン系エマルジョン(A)中のポリウレタンとエチレン性不飽和モノマー(B)との重量比は、90/10〜10/90であり、85/15〜15/85であるのが好ましく、80/20〜20/80であるのがより好ましい。ポリウレタンの割合が10重量%未満の場合には、複合樹脂の弾性率が高くなり、得られる皮革様シート状物の風合が劣る。一方、ポリウレタンの割合が90重量%を越える場合には、複合樹脂の耐候性、耐加水分解性が劣り、またコスト的にも高くなる。
【0052】
エチレン性不飽和モノマー(B)としては、主として(メタ)アクリル酸誘導体からなる単官能エチレン性不飽和モノマー(B1)90〜99.9重量%および2官能以上の多官能エチレン性不飽和モノマー(B2)10〜0.1重量%よりなるのが、得られる皮革様シート状物の風合や耐候性がさらに優れることから好ましく、単官能エチレン性不飽和モノマー(B1)92〜99.8重量%および多官能エチレン性不飽和モノマー(B2)8〜0.2重量%からなるのがより好ましい。
【0053】
複合樹脂エマルジョンの製造に用いられる単官能エチレン性不飽和モノマー(B1)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のアクリルアミド類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびそれらの誘導体;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド等のビニル化合物;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。中でも単官能エチレン性不飽和モノマー(B1)としては、(メタ)アクリル酸誘導体の割合が60重量%以上であるのが好ましく、70重量%以上であるのがより好ましく、80重量%以上であるのがさらに好ましい。
【0054】
複合樹脂エマルジョンの製造に用いられる2官能以上の多官能エチレン性不飽和モノマー(B2)としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等の多官能芳香族ビニル化合物;アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート等の2個以上の異なるエチレン性不飽和結合含有化合物;2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、ペンタエリスリトールトリアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの2:1付加反応物、グリセリンジメタクリレートとトリレンジイソシアネートの2:1付加反応物等の分子量が1500以下のウレタンアクリレート等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0055】
エチレン性不飽和モノマー(B)のポリウレタン系エマルジョン(A)への添加は、一括、分割、および連続のいずれの方法でもよく、また、モノマー組成を重合の段階ごとに変化させる多段階重合や連続的に変化させるパワーフィード法による重合を行ってもよい。多段階重合またはパワーフィード法による重合の場合には、重合に用いる全エチレン性不飽和モノマー(B)のうち、2官能以上の多官能エチレン性不飽和モノマー(B2)の総量が0.1〜10重量%であるのが好ましい。さらに、エチレン性不飽和モノマー(B)の重合時に界面活性剤等の乳化剤を適宜追加してもよい。
【0056】
エチレン性不飽和モノマー(B)の重合に用いられる重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジt−ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド等の油溶性過酸化物;2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等の油溶性アゾ化合物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性過酸化物;アゾビスシアノ吉草酸、2,2′−アゾビス−(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等の水溶性アゾ化合物等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも油溶性過酸化物、油溶性アゾ化合物などの油溶性開始剤を用いることが好ましい。また、前記重合開始剤とともに、還元剤および必要に応じてキレート化剤を併用したレドックス開始剤系を用いてもよい。還元剤としては、例えば、ロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート)等のホルムアルデヒドアルカリ金属スルホキシレート類;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸塩;ピロ亜硫酸ナトリウム等のピロ亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩;亜リン酸、亜リン酸ナトリウム等の亜リン酸塩類;ピロ亜リン酸ナトリウム等のピロ亜リン酸塩;メルカプタン類;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸塩類;エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等のエリソルビン酸塩類;グルコース、デキストロース等の糖類;硫酸第一鉄、硫酸銅等の金属塩等が挙げられる。キレート化剤としては、ピロリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩等が挙げられる。これらの開始剤、還元剤およびキレート化剤の使用量は、それぞれの開始剤系の組合せに応じて決定される。
【0057】
また、本発明に用いられる複合樹脂エマルジヨンは、得られる皮革様シート状物の性質を損なわない限りエマルジヨン中に他の重合体を含有してもよい。そのような他の重合体としては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、ポリアクリレート、アクリル系共重合体、シリコーン、他のポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの弾性を有する合成重合体などを挙げることができる。複合樹脂エマルジヨンはこれらの重合体の1種または2種以上を含有することができる。
【0058】
複合樹脂エマルジヨンは、必要に応じて、さらに公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、浸透剤等の界面活性剤、増粘剤、防黴剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料、充填剤、凝固調節剤などの1種または2種以上を含有していてもよい。
【0059】
極細繊維形成性繊維からなる繊維質基材に複合樹脂エマルジヨンを含浸する方法は、繊維質基材中にエマルジヨンを均一に含浸させ得る方法であればいずれの方法を用いてよく、一般的には、複合樹脂エマルジヨン中に繊維質基材を浸漬する方法が好ましく採用される。さらに、繊維質基材にエマルジヨンを含浸した後、プレスロールやドクターナイフなどを用いてエマルジヨンの含浸量を適量なものに調整することができる。
【0060】
次に、繊維質基材中に含浸している複合樹脂エマルジヨンを加熱して凝固する。複合樹脂エマルジヨンの加熱凝固の方法としては、例えば、(1)エマルジヨンを含浸した繊維質基材を70〜100℃の温水浴中に浸漬して凝固する方法、(2)エマルジヨンを含浸した繊維質基材に100〜200℃の加熱水蒸気を吹き付けて凝固する方法、(3)エマルジヨンを含浸した繊維質基材を50〜150℃の乾燥装置中にそのまま導入して乾熱乾燥して凝固する方法などを挙げることができる。
そのうちでも、上記(1)の温水浴中での凝固方法または上記(2)の加熱水蒸気を用いる凝固方法が、より柔軟な風合を有する皮革様シート状物が得られる点から好ましく採用される。上記(1)〜(3)の方法において複合樹脂エマルジョンを凝固する温度は、エマルジョンの凝固を速やかに完了させることで繊維質基材中における複合樹脂の偏在を防止する点から、複合樹脂エマルジョンの感熱ゲル化温度よりも10℃以上高い温度であるのが好ましい。さらに、上記(1)または(2)の凝固方法を用いた場合は、続いて加熱乾燥または風乾を行って、皮革様シート状物中に含まれる水分を除去する。
【0061】
繊維質基材に複合樹脂エマルジヨンを含浸し凝固し、乾燥することによって最終的に得られる皮革様シート状物では、皮革様シート状物における重合体の付着量(複合樹脂エマルジヨンが他の重合体を含有する場合は複合樹脂を含めた全重合体の付着量)が、極細繊維化後の繊維質基材の重量に対して5〜150重量%であるのが好ましく、10〜100重量%であるのがより好ましく、20〜80であるのがさらに好ましい。重合体の付着量が5重量%未満であると、得られる皮革様シート状物の充実感が不足し、天然皮革様の風合が得られなくなる傾向があり、一方150重量%を超えると得られる皮革様シート状物が硬くなってやはり天然皮革様の風合が得られなくなる傾向がある。
【0062】
本発明では、複合樹脂エマルジヨンを含浸して凝固した後に、繊維質基材を構成している極細繊維形成性繊維を極細繊維化する処理を行って皮革様シート状物を製造する。その際に、繊維質基材が上記した海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維より形成されている場合は、複合樹脂エマルジヨンの含浸、凝固後に、前記繊維中の海成分を有機溶剤を用いて溶解除去して島成分を極細繊維状に残留させて、本発明の皮革様シート状物を製造する。その場合の有機溶剤による海成分の除去処理は、人工皮革などの製造に当たって従来から採用されている既知の方法や条件に準じて行うことができる。極細繊維形成性繊維の極細繊維化を複合樹脂エマルジョンの凝固後に行う工程は、複合樹脂に拘束されている海島型繊維の海成分を除去し、複合樹脂に接触していない島成分である極細繊維を残留さる結果、得られる皮革様シート状物の全体として極細繊維からなる繊維質基材に対する複合樹脂の拘束を弱める効果を有する。
【0063】
上記により得られる本発明の皮革様シート状物は、柔軟性に富み、同時に充実感を有し、天然皮革に近似した極めて良好な風合を有しており、従来の湿式凝固法により得られる人工皮革と比べても何ら遜色がない。本発明者らの電子顕微鏡観察の結果、本発明による皮革様シート状物では、複合樹脂が繊維質基材中の極細繊維を強く拘束することなく、極細繊維間に適度な空間を残しながら繊維間空隙を埋めて凝固していることが観察された。そのため、本発明の皮革様シート状物では、繊維の拘束、シート状物のへたりによって生ずる柔軟性の低下が防止され、しかも繊維間に空間を残しながら繊維間の空隙を埋めていて見かけの樹脂部分の充填量が増していることにより、従来のエマルジヨン含浸型の皮革様シート状物に比べて、良好な柔軟性を保ちながら、充実感のある、天然皮革に極めて近似した優れた風合を有する皮革様シート状物が得られるのである。
【0064】
本発明の皮革様シート状物は、上記した優れた性質を活かして、例えば、マットレス、鞄内張り材料、衣料用芯地、靴用芯地、クッション材、自動車、列車、航空機などの内装材、壁材、カーペットなどの広範な用途に有効に使用することができる。さらに、バッフィングすることによりスエード調の皮革様シートが得られ、それは衣料、椅子やソファーなどの家具の上張り材、列車や自動車のシートの上張り材、壁紙、手袋などとして好適に使用することができる。また、本発明の皮革様シート状物の片面にポリウレタン層などを既知の方法で設けることにより、スポーツシューズ、紳士靴、鞄、ハンドバック、ランドセルなどに用いられる銀付き人工皮革としても好適に使用することができる。
【0065】
【実施例】
以下、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、エマルジョンの感熱ゲル化温度、フィルムの90℃、160℃における弾性率、α分散、シート状物の柔軟性、風合は以下の方法により評価した。
【0066】
[感熱ゲル化温度]
試験管にエマルジョンを10g秤取し、90℃の恒温熱水浴中で撹拌しながら昇温し、エマルジョンが流動性を失いゲル状物となったときのエマルジョンの温度を感熱ゲル化温度とした。
【0067】
[90℃、160℃における弾性率、α分散]
エマルジョンを50℃で乾燥して得られた厚さ100μmのフィルムを、130℃で10分間熱処理した後、粘弾性測定装置(レオロジ社製FTレオスペクトラー「DVE−V4」)を用いて周波数11Hzで測定を行い、90℃および160℃における弾性率(E’)とα分散の温度(Tα)を求めた。
【0068】
[柔軟性]
皮革様シート状物を10×10cmに切り取り、室内温度が20℃の状態で純曲げ試験機(KATO TEKKO製「KES−FB2−L」)を用いて、皮革様シート状物の製造に用いた不織布の巻き取り方向に対して直角方向の曲げ剛性率(gfcm2/cm)を測定して柔軟性の指標とした。
【0069】
[耐屈曲性]
皮革様シート状物を7×4.5cmに切り取り、JIS−K6545に準じて、耐屈曲性試験機(Bally製「Flexometer」)を用い、温度20℃の条件で屈曲試験を行った。屈曲回数10万回ごとにシート状物の表面状態を観察し、亀裂または穴あきが発生するまでの回数を測定した。50万回においても亀裂または穴あきが発生が発生しない場合は、耐屈曲性は充分に良好で耐久性があるため「○」と判定した。
【0070】
[風合]
皮革様シート状物を手で触って、天然皮革様の風合を有する場合を「○」と判定し、天然皮革に比べて硬くて柔軟性が不足している場合および/または充実感が不足していて天然皮革様の風合を有していない場合を「×」と判定した。
【0071】
本文中で用いられる化合物の略号を表1および表2に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
[参考例1]《繊維質基材の製造》
6−ナイロン60重量部と高流動性のポリエチレン40重量部を混合紡糸し、延伸し、それを切断して得られた海島型混合紡糸繊維(単繊維繊度4デニール、繊維長51mm、6−ナイロンが島成分)を用いて、カード、クロスラッパー、およびニードルパンチの各工程を通し、見掛密度0.160g/cm3の絡合不織布を製造した。この不織布を加熱して、海成分であるポリエチレンを溶融させて繊維間を熱固定して、見掛密度0.285g/cm3の両面が平滑化した絡合不織布(以下、不織布▲1▼と称する)を得た。
【0075】
[参考例2]《繊維質基材の製造》
ポリエチレンテレフタレート70重量部と低密度ポリエチレン30重量部を用いて製造した海島型複合紡糸繊維(単繊維繊度4デニール、繊維長51mm、ポリエチレンテレフタレートが島成分、繊維断面での島本数15本)を用いて、カード、クロスラッパー、およびニードルパンチの各工程を通して絡合不織布を製造し、次いで、それを70℃の熱水中に浸漬して面積収縮率30%となるように収縮させた後、海成分であるポリエチレンを溶融させて繊維間を熱固定して、見掛密度0.35g/cm3の両面が平滑化した絡合不織布(以下、不織布▲2▼と称する)を得た。
【0076】
[参考例3]《繊維質基材の製造》
ポリエチレンテレフタレート70重量部とポリスチレン30重量部を用いて製造した海島型複合紡糸繊維(単繊維繊度4デニール、繊維長51mm、ポリエチレンテレフタレートが島成分、繊維断面での島本数15本)を用いて、参考例2と同様にして、繊維間が熱固定された、見掛密度0.32g/cm3の両面が平滑化した絡合不織布(以下、不織布▲3▼と称する)を得た。
【0077】
[参考例4]《ポリウレタン系エマルジョンの製造》
三ツ口フラスコに、PMPA2000 300.0g、TDI 60.87g、DMPA 7.85gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下、90℃で2時間撹拌して系中の水酸基を定量的に反応させ、イソシアネート末端のプレポリマーを得た。これにMEK 195.4gを加えて均一に撹拌した後、40℃にフラスコ内温度を下げ、TEA 5.92gを加えて10分間撹拌を行った。次いで、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム 7.83gを蒸留水 285.0gに溶解した水溶液を前記プレポリマーに加えホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにDETA 6.91g、IPDA 5.70gを蒸留水 496.4gに溶解した水溶液を加えてホモミキサーで1分間撹拌し、鎖伸長反応を行った。その後、MEKをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分35重量%のポリウレタンエマルジョン(以下、PU▲1▼と称する)を得た。
【0078】
[参考例5]《ポリウレタン系エマルジョンの製造》
三ツ口フラスコに、PHC2000 200.0g、PTMG1000 100.0g、MDI 105.1g、DMPA 8.85gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下、90℃で2時間撹拌して系中の水酸基を定量的に反応させ、イソシアネート末端のプレポリマーを得た。これにMEK 219.1gを加えて均一に撹拌した後、40℃にフラスコ内温度を下げ、TEA 6.68gを加えて10分間撹拌を行った。次いで、乳化剤としてポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム(アニオン性乳化剤;日本サーファクタント製「ECT−3NEX」)13.17gを蒸留水 319.9gに溶解した水溶液を前記プレポリマーに加えホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにDETA 4.52g、IPDA 11.20gを蒸留水 538.0gに溶解した水溶液を加えてホモミキサーで1分間撹拌し、鎖伸長反応を行った。その後、MEKをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分35重量%のポリウレタンエマルジョン(以下、PU▲2▼と称する)を得た。
【0079】
[参考例6]《ポリウレタン系エマルジョンの製造》
三ツ口フラスコに、PCL2000 300.0g、TDI 70.53g、DMPA 10.06gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下、90℃で2時間撹拌して系中の水酸基を定量的に反応させ、イソシアネート末端のプレポリマーを得た。これにMEK 204.4gを加えて均一に撹拌した後、40℃にフラスコ内温度を下げ、TEA 7.59gを加えて10分間撹拌を行った。次いで、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム 12.29gを蒸留水 296.3gに溶解した水溶液を前記プレポリマーに加えホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにDETA 8.82g、EDA 2.57gを蒸留水 521.2gに溶解した水溶液を加えてホモミキサーで1分間撹拌し、鎖伸長反応を行った。その後、MEKをロータリーエバポレーターにより除去して、固形分35重量%のポリウレタンエマルジョン(以下、PU▲3▼と称する)を得た。
【0080】
《複合樹脂エマルジョンおよび皮革様シート状物の製造》
[実施例1]
冷却管付きフラスコに、参考例3で得られたPU▲1▼ 240g、硫酸第一鉄七水和物(FeSO4・7H2O) 0.020g、ピロリン酸カリウム 0.294g、ロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレートの2水塩)0.451g、EDTA・2Na 0.020gおよび蒸留水246gを秤取し、40℃に昇温した後、系内を十分に窒素置換した。次いで、BA 152.1g、HDDA 3.14g、ALMA 1.57gおよびECT−3NEX 1.57gの混合物(モノマー▲1▼)と、CHP 0.314g、ECT−3NEX 0.314gおよび蒸留水15.0gの乳化液(開始剤▲1▼)を、別々の滴下ロートからフラスコ内に4時間かけて滴下し、更に滴下終了後、40℃に30分間保持した。その後、MMA 38.4g、HDDA 0.78gおよびECT−3NEX 0.392gの混合物(モノマー▲2▼)と、CHP 0.078g、ECT−3NEX 0.078gおよび蒸留水 3.0gの乳化液(開始剤▲2▼)を、別々の滴下ロートからフラスコ内に1時間30分かけて滴下し、更に滴下終了後、50℃に60分間保持して重合を完了させて、固形分40重量%のエマルジョンを得た。このエマルジョン100重量部に対して、ノニオン系界面活性剤(花王製「エマルゲン109P」)4重量部および塩化カルシウム 1重量部を配合し、感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。このエマルジョンの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃と160における弾性率およびα分散の温度(Tα)は表4に示したとおりであった。
【0081】
参考例1で得られた不織布▲1▼を、上記の感熱ゲル化性エマルジョンの浴中に浸漬して感熱ゲル化性エマルジョンを含浸させた後、浴から取り出し、プレスロールで絞り、次いで90℃の熱水浴中に1分間浸漬して感熱ゲル化性エマルジョンを凝固させ、さらに130℃の熱風乾燥機中で30分間乾燥してシート状物を製造した。次に、このシート状物を温度90℃のトルエン中に浸漬し、浸漬中に2kg/cm2のプレスロールで5回の絞り処理を行って、不織布を構成している海島型混合紡糸繊維における海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、6−ナイロンの極細繊維束絡合不織布中に複合樹脂が含浸・凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物の複合樹脂の付着重量は極細繊維化処理後の不織布重量に対して57重量%であった。このシート状物は、表4に示したように、柔軟性と充実感を有し、風合と耐久性が優れた天然皮革様のシート状物であった。
【0082】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、表3に示した原料を使用して感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。このエマルジョンの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃と160℃における弾性率およびα分散温度は表4に示したとおりであった。参考例2で得られた不織布▲2▼に、実施例1と同様の方法で上記の感熱ゲル化性エマルジョンを含浸・付与してシート状物を製造し、次いで温度90℃のトルエン中に浸漬し、浸漬中に2kg/cm2のプレスロールで5回の絞り処理を行って、不織布を構成している海島型複合紡糸繊維における海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、ポリエチレンテレフタレートの極細繊維束絡合不織布中に複合樹脂が含浸・凝固している皮革様シート状物を得た。この皮革様シート状物の複合樹脂の付着重量は極細繊維化処理後の不織布重量に対して52重量%であった。このシート状物は、表4に示したように、柔軟性と充実感を有し、風合と耐久性が優れた天然皮革様のシート状物であった。
【0083】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、表3に示した原料を使用して感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。このエマルジョンの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃と160℃における弾性率およびα分散温度は表4に示したとおりであった。参考例3で得られた不織布▲3▼を、上記の感熱ゲル化性エマルジョンの浴中に浸漬して感熱ゲル化性エマルジョンを含浸させた後、浴から取り出し、プレスロールで絞り、次いで1.5kg/cm2の圧力のスチームを全体に吹き付けて感熱ゲル化性エマルジョンを凝固させ、さらに130℃の熱風乾燥機中で30分間乾燥してシート状物を製造した。次に、このシート状物を温度90℃のトルエン中に浸漬し、浸漬中に2kg/cm2のプレスロールで5回の絞り処理を行って、不織布を構成している海島型複合紡糸繊維における海成分(ポリスチレン)を溶解除去して、ポリエチレンテレフタレートの極細繊維束絡合不織布中に複合樹脂が含浸・凝固している皮革様シート状物を得た。この皮革様シート状物の複合樹脂の付着重量は極細繊維化処理後の不織布重量に対して61重量%であった。このシート状物は、表4に示したように、柔軟性と充実感を有し、風合と耐久性が優れた天然皮革様のシート状物であった。
【0084】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で、表3に示した原料を使用して感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。このエマルジョンの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃と160℃における弾性率およびα分散温度は表4に示したとおりであった。上記の感熱ゲル化性エマルジョン100重量部に対して浸透剤として基材湿潤剤(TCS社製「ポリフローKL−260」)0.5重量部を添加した後、参考例1で得られた不織布▲1▼を、このエマルジョンの浴中に浸漬して感熱ゲル化性エマルジョンを含浸させ、浴から取り出し、プレスロールで絞り、次いで130℃の熱風乾燥機中で30分間加熱し、凝固および乾燥をさせることによりシート状物を製造した。次に、実施例1と同様の方法で、このシート状物の不織布を構成している海島型混合紡糸繊維における海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、6−ナイロンの極細繊維束絡合不織布中に複合樹脂が含浸・凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物の複合樹脂の付着重量は極細繊維化処理後の不織布重量に対して59重量%であった。このシート状物は、表4に示したように、柔軟性と充実感を有し、風合と耐久性が優れた天然皮革様のシート状物であった。
【0085】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で、表3に示したように単官能のエチレン性不飽和モノマーとしてMMAのみを使用して感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。エマルジョンの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃と160℃における弾性率およびα分散温度は表4に示したとおりであった。実施例1と同様の方法で、参考例1で得られた不織布▲1▼に上記の感熱ゲル化性エマルジョンを含浸・付与した後、不織布を構成している海島型混合紡糸繊維における海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、6−ナイロンの極細繊維束絡合不織布中に複合樹脂が含浸・凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物の複合樹脂の付着重量は極細繊維化処理後の不織布重量に対して58重量%であった。このシート状物は、用いたエマルジョンの90℃における弾性率が本発明に規定する範囲よりも高いことから柔軟性に劣る硬いものであり、樹脂付着重量、耐屈曲性、曲げ剛性、風合は表4に示したとおりであった。
【0086】
[比較例2]
実施例1と同様の方法で、表3に示したように単官能のエチレン性不飽和モノマーとしてBAのみを使用して感熱ゲル化性を有するエマルジョンを得た。エマルジョンの感熱ゲル化温度、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃と160℃における弾性率およびα分散温度は表4に示したとおりであった。実施例1と同様の方法で、参考例1で得られた不織布▲1▼に上記の感熱ゲル化性エマルジョンを含浸・付与した後、不織布を構成している海島型混合紡糸繊維における海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、6−ナイロンの極細繊維束絡合不織布中に複合樹脂が含浸・凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物の複合樹脂の付着重量は極細繊維化処理後の不織布重量に対して57重量%であった。このシート状物は、用いたエマルジョンの160℃における弾性率が本発明に規定する範囲よりも低いことからへたりを生じて全体的にペーパーライクな充実感のないものであり、樹脂付着重量、耐屈曲性、曲げ剛性、風合は表4に示したとおりであった。
【0087】
[比較例3]
実施例1において、エマルゲン109Pおよび塩化カルシウムを配合しないこと以外は実施例1と同様にして、エマルジョンを得た。このエマルジョンは感熱ゲル化性を示さず、エマルジョンを乾燥して得られたフィルムの90℃と160℃における弾性率およびα分散温度は表4に示したとおりであった。実施例1と同様の方法で、参考例1で得られた不織布▲1▼に上記の感熱ゲル化性エマルジョンを含浸・付与したところ、エマルジョンが熱水浴に流出し、浴槽を汚染した。次に、実施例1と同様の方法で、このシート状物の不織布を構成している海島型混合紡糸繊維における海成分(ポリエチレン)を溶解除去して、6−ナイロンの極細繊維束絡合不織布中に複合樹脂が含浸・凝固している皮革様シート状物を製造した。この皮革様シート状物の複合樹脂の付着重量は極細繊維化処理後の不織布重量に対して34重量%であった。このシート状物は、へたりを生じて全体的にペーパーライクな充実感のないものであり、樹脂付着重量、耐屈曲性、曲げ剛性、風合は表4に示したとおりであった。
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、極細繊維からなる繊維質基材の使用と複合樹脂エマルジョンによる樹脂付与により、柔軟性と充実感等に優れた天然皮革様の風合を有する皮革様シート状物を安価に製造することができる。
Claims (8)
- 極細繊維形成性繊維からなる繊維質基材に下記の条件(i)〜(iv)を満足する複合樹脂エマルジョンを含浸して凝固した後に、該極細繊維形成性繊維を極細繊維化することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法;
(i)該複合樹脂エマルジョンが感熱ゲル化性である;
(ii)該複合樹脂エマルジョンを50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が、5.0×108dyn/cm2以下である;
(iii)該複合樹脂エマルジョンを50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの160℃における弾性率が、5.0×106dyn/cm2以上である;および
(iv)該複合樹脂エマルジョンが、ポリウレタン系エマルジョン(A)の存在下でエチレン性不飽和モノマー(B)を、ポリウレタン系エマルジョン(A)中のポリウレタンの重量/エチレン性不飽和モノマー(B)の重量が゛90/10〜10/90の割合で乳化重合して得られるエマルジョンである。 - 複合樹脂エマルジョンを50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムのα分散温度が、−10℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の皮革様シート状物の製造方法。
- ポリウレタン系エマルジヨン(A)が、芳香族イソシアネート化合物を用いて形成したポリウレタンのエマルジヨンである請求項1または2に記載の皮革様シート状物の製造方法。
- エチレン性不飽和モノマー(B)が、主として(メタ)アクリル酸誘導体からなる単官能エチレン性不飽和モノマー(B1)90〜99.9重量%および多官能エチレン性不飽和モノマー(B2)10〜0.1重量%よりなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の皮革様シート状物の製造方法。
- 極細繊維形成性繊維よりなる繊維質基材に上記の条件(i)〜(iv)を満足する複合樹脂エマルジヨンを含浸して凝固した後に該極細繊維形成繊維を極細繊維化して皮革様シート状物を製造する方法であって、前記極細繊維形成性繊維が2種以上の高分子物質よりなる海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維であり、前記繊維よりなる繊維質基材に前記複合樹脂エマルジヨンを含浸して凝固した後に、前記海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維中の海成分を除去して極細繊維化を行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮革様シート状物の製造方法。
- 前記海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維が、ポリエチレンおよび/またはポリスチレンを海成分とし、ポリエステルおよび/またはポリアミドを島成分とするものであり、繊維質基材に複合樹脂エマルジヨンを含浸して凝固した後に、該海島型複合紡糸繊維および/または海島型混合紡糸繊維中の海成分を有機溶剤を用いて溶解除去して極細繊維化することからなる請求項5に記載の皮革様シート状物の製造方法。
- 複合樹脂エマルジョンとして感熱ゲル化温度が30〜70℃であるものを用い、該複合樹脂エマルジョンを繊維質基材に含浸した後、感熱ゲル化温度よりも10℃以上高い温度で複合樹脂エマルジョンを凝固することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮革様シート状物の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項の製造方法により得られる皮革様シート状物。
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