JP4025425B2 - 皮革様シート状物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は皮革様シート状物の製造方法およびそれにより得られる皮革様シート状物に関する。より詳細には、本発明は、柔軟撥水剤を予め付与した繊維質基材に特定のポリウレタン系エマルジヨンを含浸し凝固して皮革様シート状物を製造する方法およびそれにより得られる皮革様シート状物に関する。本発明により得られる皮革様シート状物は、エマルジョン系樹脂を繊維質基材に含浸させて得られる従来の皮革様シート状物に比べて、著しく改良された柔軟性および充実感を有していて、天然皮革に極めて近い、高級感のある優れた風合、触感、物性を有している。
【0002】
【従来の技術】
天然皮革の代用品(人工皮革)として、ポリウレタンなどの樹脂成分を繊維質基材に結束剤として含浸したシート状物が従来より製造されている。その代表的な製造方法としては、ポリウレタン等の樹脂成分をジメチルホルムアミドなどの有機溶剤に溶解した溶液を繊維質基材に含浸させた後に水などの非溶剤中で凝固する湿式法と、ポリウレタンなどの樹脂成分を有機溶剤に溶解した溶液または水に分散させたエマルジヨンを繊維質基材に含浸した後に乾燥する乾式法を挙げることができる。
【0003】
湿式法による場合は、乾式法に比べて、天然皮革により近い風合を有するシート状物を得ることが可能であるが、生産性に劣り、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤の使用が不可欠であるという欠点がある。一方、乾式法のうちで、樹脂エマルジヨンを使用する場合は、有機溶剤を使用することなくシート状物を得ることが可能であるが、湿式法により得られるシート状物に比べて風合が著しく劣る。その理由は、乾式法によって得られるシート状物では、その乾燥過程で樹脂が繊維質基材中で局部的に存在し、その部分で繊維を強く拘束した構造形態をなし、それによってシート状物の柔軟性が失われて、硬い風合になるためである。そのことは、汎用の樹脂エマルジヨンを繊維質基材に含浸し凝固して得られた従来の皮革様シート状物の断面構造を示す図1の電子顕微鏡写真からも明らかである。そして、樹脂エマルジヨンを用いる従来の乾式法において、柔軟性を損なわないようにするために付着樹脂量を少なくすると、不織布などの繊維質基材の風合がそのまま出現して皮革様の風合が得られず、一方充実感を与えて皮革様の風合を得ようとすると柔軟性が低下して硬くなり、いずれの場合も、天然皮革に近似した高級感のある風合を得ることができない。
【0004】
エマルジヨン樹脂を用いる乾式法において、樹脂付与後に柔軟剤を付与して柔軟性を発現させることも考えられるが、柔軟剤の付与工程を追加する必要があり、生産性が低下し、しかも柔軟剤を付与しても天然皮革に近似した高級感のある風合にはなりにくい。
また、エマルジヨン樹脂を用いる乾式法の一つとして、単繊維繊度が0.5デニール以下の極細繊維を主体とする繊維層を含む不織シートに、平均粒度が0.1〜2.0μmである水系ポリウレタンエマルジヨンに無機塩類を溶解混合したエマルジヨン液を付与し、加熱乾燥して人工皮革を製造する方法が提案されている(特開平6−316877号公報)。しかしこの方法により得られる人工皮革は、柔軟性、風合などの点で十分に改良されているとは言い難い。
そのため、人工皮革の製造に当たっては、生産性が低く、しかも有機溶剤の使用が不可欠ではあるが、品質の高い人工皮革が得られる湿式法が工業的に専ら採用されているのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、樹脂エマルジヨンを用いる従来の人工皮革の製造技術における問題点、すなわち得られるシート状物における柔軟性の欠如や充実感の欠如などの問題点を解決して、樹脂エマルジヨンを用いて、柔軟性および充実感に優れていて天然皮革に近似した良好な風合、触感、物性を有する高級感のある皮革様シート状物を製造する方法並びにそのような皮革様シート状物を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、繊維質基材として柔軟撥水剤を予め付与したものを用い、さらに樹脂エマルジヨンとして特定のポリウレタン系エマルジヨンを用いると、該ポリウレタン系エマルジヨンを繊維質基材に含浸して凝固したときに、ポリウレタンが粒状に連結しながら繊維を拘束することなく凝固して繊維空間を満たすこと、それによって柔軟性を有し、しかも充実感のある、天然皮革に近似した極めて良好な風合、触感、物性を有する高級感のある皮革様シート状物が得られることを見出して本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸し凝固して皮革様シート状物を製造する方法であって、
(i) 繊維質基材として予め柔軟撥水剤を付与したものを用い;そして、
(ii) ポリウレタン系エマルジヨンとして、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンであって、且つ該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が2.0×107〜5.0×108dyn/cm2であるものを用いる;
ことを特徴とする皮革様シート状物の製造方法である。
そして、本発明は、前記の製造方法で得られる皮革様シート状物である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
まず、繊維質基材について説明すると、本発明で用いる繊維質基材は、適度の厚みと充実感を有し、かつ柔軟な風合を有するものであればよく、従来より皮革様シート状物の製造に用いられている不織布、織編布等の各種の繊維質基材を使用することができる。そのうちでも、本発明では、繊維質基材として、不織布のみからなる繊維質基材、或いは不織布層を少なくとも一方の表面側に有する不織布と織布および/または編布との積層物(例えば不織布層と織編布層よりなる2層構造物、表面と裏面が不織布層で中央が織編布層よりなる3層構造物など)が好ましく用いられ、不織布のみからなる繊維質基材がより好ましく用いられる。繊維質基材として好ましく用いられる不織布としては、絡合不織布、ラップ型不織布などを挙げることができ、なかでも絡合不織布が好ましく用いられる。
【0009】
繊維質基材を構成する繊維の種類としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維などの合成繊維;半合成繊維;綿、羊毛、麻などの天然繊維などを挙げることができる。そのうちでも、繊維質基材は、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維などの合成繊維から主としてなっていることが好ましい。
また、繊維質基材を構成する上記した繊維は、収縮や伸長を生じない通常の繊維、収縮性繊維、潜在自発伸長性収縮性繊維、各種複合繊維や混合紡糸繊維(例えば多層貼り合わせ型潜在分割性複合繊維や混合紡糸繊維)、極細繊維またはその束状繊維、特殊多孔質繊維などのいずれであってもよい。
【0010】
繊維質基材を構成する繊維の太さは特に制限されず、得られる皮革様シート状物の用途などに応じて選択可能であるが、一般には、その単繊維繊度が0.01〜10デニールであることが好ましく、0.02〜8デニールであることがより好ましい。
【0011】
繊維質基材の厚さは、得られる皮革様シート状物の用途などに応じて任意に選択できるが、一般には、0.3〜3.0mm程度であることが風合の点から好ましく、0.8〜2.5mm程度であることがより好ましい。
【0012】
繊維質基材の見かけ密度は、柔軟な風合、適度な腰感と反発性を有する皮革様シート状物を得るために、0.1〜0.5g/cm3であることが好ましく、0.15〜0.45g/cm3であることがより好ましい。繊維質基材の見かけ密度が0.1g/cm3よりも小さいと、得られる皮革様シート状物の反発性および腰感が劣ったものになり、天然皮革のような風合が損なわれる傾向がある。一方、繊維質基材の見かけ密度が0.5g/cm3よりも大きいと、得られる皮革様シート状物の腰感が無くなったり、ゴム様の不良な風合となる傾向がある。
【0013】
そのうちでも、本発明では、繊維質基材として、収縮性ポリエチレンテレフタレート繊維を少なくとも一部として用いて形成された比重が0.25〜0.50の不織布を用いることが好ましく、かかる繊維質基材を用いると柔軟性および腰感に極めて優れる皮革様シート状物を得ることができる。その場合に、繊維質基材を構成する収縮性ポリエチレンテレフタレート繊維としては、70℃の温水中での収縮率が10〜60%であるものが好ましく用いられる。収縮性ポリエチレンテレフタレート繊維を少なくとも一部として用いて形成された比重0.25〜0.50の前記した不織布は、例えば、特開昭56−37353号公報や特開昭53−53388号公報に記載されている通常のポリエステル繊維と潜在自発伸長性収縮性繊維を適当な割合で併用して得られる不織布を、温水中で収縮させた後、乾熱処理して自発伸長させることによって得ることができる。
【0014】
本発明では、上記した繊維質基材に予め柔軟撥水剤を付与しておくことが必要である。柔軟撥水剤を予め付与した繊維質基材を用い、これに本発明で用いる特定のポリウレタン系エマルジヨンを含浸し凝固することによって、繊維質基材に樹脂エマルジヨンを含浸し凝固して得られる従来の人工皮革では得られなかった、柔軟性および充実感に優れる、天然皮革に極めて近似した皮革様シート状物を得ることができる。
ここで、本発明でいう「柔軟撥水剤」とは、繊維質基材に高い柔軟性を与える撥水剤を意味し、このような柔軟撥水剤としてはシリコーン系の撥水剤が好ましく用いられる。本発明における柔軟撥水剤として有効に用い得る、シリコーン系の柔軟撥水剤の具体例としては、ジメチルシリコーンオイル(油状のジメチルポリシロキサン)、メチルフェニルシリコーンオイル(油状のメチルフェニルポリシロキサン)、メチルハイドロジェンシリコーンオイル(油状のメチルハイドロジェンポリシロキサン、油状のメチルハイドロジェンシロキシ単位とジメチルシロキシ単位を有するポリシロキサン、またはそれらの混合物)、ジオルガノポリシロキサンジオール、フロロシリコーンオイル、シリコーンポリエーテル共重合体、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイルなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0015】
上記したうちでも、柔軟撥水剤としては、ジメチルシリコーンオイル(油状のジメチルポリシロキサン)と、メチルハイドロジェンシリコーンオイル(油状のメチルハイドロジェンポリシロキサン、油状のメチルハイドロジェンシロキシ単位とジメチルシロキシ単位を有するポリシロキサンまたはこれらの混合物)との混合物が、繊維質基材への撥水性および柔軟性の付与機能に優れ、入手も容易であることから好ましく用いられる。前記したシリコーンオイルでは、Si−H結合が多いほど撥水性が向上し、しかも焼き付け温度を低くすることができる。そのため、ジメチルシリコーンオイルと併用するメチルハイドロジェンシリコーンオイルがメチルハイドロジェンシロキシ単位とジメチルシロキシ単位を有するポリシロキサンである場合は、メチルハイドロジェンシロキシ単位の割合が60モル%以上であるものを用いることが好ましい。また、柔軟撥水剤におけるジメチルシリコーンオイル:メチルハイドロジェンシリコーンオイルの重量比は1:9〜9:1の割合であることが好ましい。ジメチルシリコーンオイル(ジメチルポリシロキサン)の割合が全体の10重量%よりも少ないと、得られる皮革様シート状物の風合が硬くなる傾向があり、一方メチルハイドロジェンシリコーンオイルの割合が全体の10重量%よりも少ないと、得られる皮革様シート状物の撥水性が不十分になる傾向がある。
【0016】
シリコーン系の柔軟撥水剤はオイル型、エマルジヨン型、溶液型などがあり、本発明ではそのいずれもが使用可能であるが、工業的に使用する場合は水中油滴型に乳化分散したエマルジヨンが好ましく用いられる。
また、柔軟撥水剤は、低温で皮革様シート状物に高撥水性を付与するために、触媒として有機酸の金属塩を含有することができ、具体例としては、有機酸の錫、チタン、ジルコニウム、亜鉛塩などを挙げることができる。
【0017】
繊維質基材への柔軟撥水剤の付与方法としては、繊維質基材に柔軟撥水剤を均一に付与し得る方法であればいずれの方法を採用してもよい。そのうちでも、例えば、柔軟撥水剤を水で希釈して濃度が0.5〜5重量%程度の水性液とし、必要に応じてそれに触媒を加えて処理液を調製し、その処理液中に繊維質基材を浸漬し、次いで処理液から繊維質基材を取り出して柔軟撥水剤の付着量を調節するための絞りを行い、場合により予備乾燥を行った後、加熱乾燥する方法などが好ましく採用される。その際の加熱乾燥温度としては、繊維質基材にシリコーン系柔軟撥水剤を強く付着させるために、一般に50〜150℃の温度が好ましく採用される。
【0018】
繊維質基材への柔軟撥水剤の付着量(加熱乾燥後の付着量)は、繊維質基材の重量に対して0.05〜5重量%であることが好ましく、0.3〜3重量%であることがより好ましい。柔軟撥水剤の付着量が0.05重量%未満であると得られる皮革様シート状物の柔軟性および撥水性が不足し易くなり、一方5重量%を超えると柔軟撥水剤が皮革様シート状物の表面にブリードアウトしてきて表面の触感の悪化、外観不良、他の物への柔軟撥水剤の付着などが生じ易くなる。
【0019】
また、繊維質基材は、皮革様シート状物の耐洗濯性を向上させるために、必要に応じて、尿素樹脂、メラミン樹脂、エチレン尿素樹脂、グリオキザール樹脂などで予め処理を行っておいてもよい。
【0020】
本発明では、柔軟撥水剤を予め付与した繊維質基材に、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンであって、且つ該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が2.0×107〜5.0×108dyn/cm2であるポリウレタン系エマルジヨンを含浸させ凝固して皮革様シート状物を製造する。
【0021】
ここで、本発明でいう「感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨン」とは、加熱したときに流動性を失ってゲル状物となるポリウレタン系エマルジヨンを言う。本発明では、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンとして、一般的には、35〜90℃の加熱温度、好ましくは40〜80℃の加熱温度で流動性を失ってゲル化するポリウレタン系エマルジヨンが望ましく用いられる。
ポリウレタン系エマルジヨンが感熱ゲル化性でないと、繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸して熱風で乾燥ゲル化した時に、繊維質基材中でエマルジヨン粒子の移動などが生じて、ポリウレタンを繊維質基材中に均一に分散付与できなくなり、皮革様シート状物の強伸度、柔軟性などの物性が低下し、しかも風合が悪くなる。また、繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸した後に温水中でエマルジヨンの凝固を行う場合は、水中へのエマルジヨンの流出を生じ、やはり繊維質基材中にポリウレタンを均一に分散付与できなくなり、前記と同じように、皮革様シート状物の強伸度、柔軟性などの物性の低下、風合の悪化を生ずる。
【0022】
感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンとしては、それ自体で感熱ゲル化性を有するポリウレタンを含有するエマルジヨン、またはポリウレタン系エマルジヨン中に感熱ゲル化剤を添加して感熱ゲル化性にしたエマルジヨンのいずれもが使用できる。
感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを得るための感熱ゲル化剤としては、例えば、無機塩類、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤、ポリビニルメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、シリコーンポリエーテル共重合体、ポリシロキサンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0023】
そのうちでも感熱ゲル化剤としては、無機塩類とポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤の組み合わせが良好な感熱ゲル化性をポリウレタン系エマルジヨンに与えるために好ましく用いられる。その場合の無機塩類としては、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤の曇点を低下させることのできる一価または二価の金属塩が好ましく用いられ、具体例としては、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸鉛などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤の具体例としては、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸のエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンのエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド付加物などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンとして感熱ゲル化剤を含有するものを用いる場合は、感熱ゲル化剤の配合量は、エマルジヨン中の樹脂100重量部に対して0.2〜20重量部であることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明で用いる感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンは、上述のように、該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾熱乾燥して厚さ100μmのフィルムにした時に、その90℃における弾性率が2.0×107〜5.0×108dyn/cm2であるフィルムを形成し得るポリウレタン系エマルジヨンであることが必要である。90℃における弾性率が2.0×107dyn/cm2未満である前記乾燥フィルムを与えるようなポリウレタン系エマルジヨンを用いると、繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸し凝固したときに繊維がポリウレタンによって強く拘束されてしまい、その結果、得られるシート状物の風合が充実感のない、天然皮革に近似しない、繊維質様の劣った風合となる。一方、90℃における弾性率が5.0×108dyn/cm2を超える前記乾燥フィルムを与えるようなポリウレタン系エマルジヨンを用いると、得られるシート状物の風合が柔軟性のない、硬く、劣った風合となる。
なお、本発明における、ポリウレタン系エマルジヨンから形成される上記乾燥フィルムの弾性率の測定法の具体的な内容は以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0026】
また、本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨンは、上記した特定の弾性率特性と共に、さらに、該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムのα分散の温度(Tα)が−10℃以下であるという特性を備えていることが好ましく、該α分散の温度(Tα)が−20℃以下であるという特性を備えていることがより好ましい。ポリウレタン系エマルジヨンが前記したα分散の温度(Tα)特性を有していることにより、得られる皮革様シート状物の耐屈曲性などの物性が優れたものとなる。なお、本発明における、ポリウレタン系エマルジヨンから形成された上記乾燥フィルムのα分散の温度(Tα)の測定法の具体的な内容は以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0027】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨンは、水中油型(O/W型)のエマルジヨンであっても、または油中水型(W/O型)のエマルジヨンのいずれであってもよい。また、本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨンは、有機溶剤を含有していても、または有機溶剤を含まない完全水系であってもよい。そのうちでも、有機溶剤による環境汚染が生じず、しかも有機溶剤の回収工程が不要であることから、有機溶剤を含まない水系エマルジヨンであることが好ましい。
【0028】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨン中に含まれるポリウレタンは、感熱ゲル化剤を添加しなくてもそれ自体で感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを形成するか、または感熱ゲル化剤を添加したときに感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンとなるポリウレタンであって、且つ上記した特定の弾性率を有するフィルムとなり得るポリウレタン系エマルジヨンを形成するポリウレタンであればいずれでもよく、特に制限されない。一般には、本発明におけるポリウレタン系エマルジヨンで用いるポリウレタンは、高分子ポリオール、有機ジイソシアネート化合物、鎖伸長剤を適宜組み合わせて反応させることによって製造することができる。
【0029】
ポリウレタンの製造に用いられる上記した高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオールなどを挙げることができ、ポリウレタンはこれらの高分子ポリオールの1種または2種以上を用いて形成されていることができる。
【0030】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールは、例えば、常法にしたがってポリカルボン酸、そのエステル、無水物などのエステル形成性誘導体などのポリカルボン酸成分とポリオール成分を直接エステル化反応させるかまたはエステル交換反応させることによって製造することができる。また、ポリエステルポリオールはラクトンを開環重合することによっても製造することができる。
【0031】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるポリカルボン酸成分としては、ポリエステルの製造において一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸などの炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸などのようなトリカルボン酸;それらのエステル形成性誘導体などを挙げることができ、ポリエステルポリオールは前記したポリカルボン酸成分の1種または2種以上を用いて形成されていることができる。
そのうちでも、ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸成分として、脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体から主としてなり、場合により少量の3官能以上のポリカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を含むものを用いて製造されたものであることが好ましい。
【0032】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール,2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノールなどの脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族二価アルコール;ポリアルキレングリコール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタエリスリトールなどのポリオールを挙げることができ、前記したポリオール成分の1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、ポリエステルポリオールは、主として脂肪族ポリオールからなり、さらに場合により少量の3官能以上のポリオールを含むポリオール成分を用いて製造されたポリエステルポリオールであることが好ましい。
【0033】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリオールの製造原料であるラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0034】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0035】
ポリウレタンの製造に用い得るポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオールとジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネートなどのカーボネート化合物との反応により得られるポリカーボネートポリオールを挙げることができる。ポリカーボネートポリオールの製造原料であるポリオールとしては、ポリエステルポリオールの製造原料であるポリオールとして上記に挙げたものを用いることができる。また、ジアルキルカーボネートとしてはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを挙げることができる。
【0036】
ポリウレタンの製造に用い得るポリエステルポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール、ポリカルボン酸およびカーボネート化合物を同時に反応させて得られたもの、予め製造しておいたポリエステルポリオールとポリカーボネートポリオールとをカーボネート化合物と反応させて得られたもの、ポリオールとポリカルボン酸を反応させて得られたものなどを挙げることができる。
【0037】
本発明では、ポリウレタンの製造に用いる高分子ポリオールの数平均分子量は500〜5000であることが好ましく、600〜3000であることがより好ましい。なお、本明細書でいう高分子ポリオールの数平均分子量はJIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量をいう。
【0038】
ポリウレタンの製造に用いられる高分子ポリオールでは、その1分子当たりの水酸基の数は、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に支障をきたさない限りは、2より大きくても構わない。1分子当たりの水酸基の数が2よりも大きな高分子ポリオール、例えば、ポリエステルポリオールは、該高分子ポリオールの製造時に、グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ヘキサントリオール、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールをポリオール成分の一部として用いることによって製造することができる。
【0039】
ポリウレタンの製造に用いる上記した有機ジイソシアネート化合物の種類は特に制限されず、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から使用されている分子中にイソシアネート基を有する公知の脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートのいずれでも使用できる。ポリウレタンの製造に用い得る有機ジイソシアネート化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどを挙げることができ、これらの有機ジイソシアネートの1種または2種以上を用いることができる。それらのうちでもイソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0040】
ポリウレタンの製造に用いる上記した鎖伸長剤としては、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用でき、そのうちでもイソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物が好ましく用いられる。そのような鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどのジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルメタン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミンなどのジアミン類;ジエチレントリアミンなどのトリアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらのうちでも、エチレングリコール、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが好ましく用いられる。
【0041】
ポリウレタンの製造に当たっては、[全イソシアネート基]/[水酸基、アミノ基などのイソシアネート基と反応する全官能基]の当量比が、0.9〜1.1の範囲になるようにして、上記した高分子ポリオール、有機イソシアネート化合物および鎖伸長剤を反応させることが、引裂き強力の高い皮革様シート状物が得られる点から好ましい。
また、ポリウレタンの耐溶剤性、耐熱性、耐熱水性などを向上させる目的で、必要に応じて、トリメチロールプロパンなどの三官能以上のポリオールや三官能以上のアミン等を反応させてポリウレタン中に架橋構造を持たせてもよい。
【0042】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨンは、ポリウレタン系エマルジヨンの製造に従来から用いられているのと同様の方法で製造することができ、例えば、(1)反応の完了した液状ポリウレタンポリマーを乳化剤の存在下に高い機械的剪断力で水中に強制乳化させて非イオン性のポリウレタン系エマルジヨンを製造する方法、(2)末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、そのプレポリマーを乳化剤の存在下に高い機械的剪断力で水中に強制乳化させると同時にまたはその後に適当な鎖伸長剤で鎖伸長反応を完結して非イオン性の高分子量化したポリウレタンエマルジヨンを製造する方法、(3)親水性の高分子ポリオールを用いて自己乳化型のポリウレタンを製造し、それをそのまま乳化剤を用いずに水中に乳化させてポリウレタン系エマルジヨンを製造する方法などを挙げることができる。
【0043】
前記した(1)または(2)の方法で用いられる乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン性界面活性剤;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤などを挙げることができる。この中でも、HLB値が6〜20のノニオン性界面活性剤を用いるのが好ましい。
【0044】
また、前記した(3)の方法における親水性の高分子ポリオールは、高分子ポリオールの製造原料に、親水性基を有する活性水素原子含有化合物を併用することにより得られる。その際の親水性基を有する活性水素原子含有化合物としては、分子内に水酸基またはアミノ基等の活性水素原子を1個以上含有し、且つカルボン酸基、スルホン酸基、カルボン酸塩、スルホン酸塩等のアニオン性基;ポリオキシエチレン基等のノニオン性基;三級アミノ基、四級アンモニウム塩等のカチオン性基から選ばれる1種以上の親水性基を有する化合物が挙げられる。具体例としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびこれらの誘導体;1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、2,4−ジアミノトルエン−5−スルホン酸等のスルホン酸基含有化合物およびこれらの誘導体;分子量200〜10,000のポリオキシエチレングリコールおよびそのモノアルキルエーテル等のノニオン性基含有化合物;3−ジメチルアミノプロパノール等の三級アミノ基含有化合物およびこれらの誘導体等が挙げられる。
そのうちでも、前記した(3)の方法としては、高分子ポリオールの製造原料に親水性基を有する活性水素原子含有化合物として2,2−ジメチロールプロピオン酸を併用して親水性の高分子ポリオールを形成させ、これに有機ジイソシアネート化合物を反応させてポリウレタンプレポリマーを製造し、プレポリマー反応終了後にトリエチルアミン、トリメチルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性物質を添加してカルボン酸塩に変換してポリウレタン系エマルジヨンを製造する方法が好ましく採用される。
【0045】
本発明で用いるポリウレタン系エマルジヨンの製造は、上記の(1)〜(3)の方法のいずれか1種または2種以上を用いて、ホモミキサー、ホモジナイザー等の乳化分散装置を使用して行われる。この際、イソシアネート基と水との反応を抑制するために、乳化温度は40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。
【0046】
また、ポリウレタン系エマルジヨンは、得られる皮革様シート状物の性質を損なわない限りは、エマルジヨン中に他の重合体を含有してもよく、他の重合体としては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、ポリアクリレート、アクリル系共重合体、シリコーン、他のポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの弾性を有する合成重合体などを挙げることができる。ポリウレタン系エマルジヨンはこれらの重合体の1種または2種以上を含有することができる。
【0047】
ポリウレタン系エマルジヨンは、必要に応じて、さらに公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、浸透剤等の界面活性剤、増粘剤、防黴剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料、充填剤、凝固調節剤などの1種または2種以上を含有していてもよい。
【0048】
柔軟撥水剤を予め付与した繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸する方法は特に制限されず、繊維質基材中のポリウレタン系エマルジヨンを均一に含浸させ得る方法であればいずれの方法を用いてよく、一般的には、柔軟撥水剤を付与した繊維質基材をポリウレタン系エマルジヨン中に浸漬する方法が好ましく採用される。繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸した後、プレスロールやドクターナイフなどを用いてポリウレタン系エマルジヨンの含浸量を適量なものに調整する。
【0049】
次に、繊維質基材中に含浸しているポリウレタン系エマルジヨンを加熱して凝固する。ポリウレタン系エマルジヨンの加熱凝固方法の代表例としては、(1)ポリウレタン系エマルジヨンを含浸した繊維質基材を70〜100℃の温水浴中に浸漬して凝固する方法、(2)ポリウレタン系エマルジヨンを含浸した繊維質基材に100〜200℃の加熱水蒸気を吹き付けて凝固する方法、(3)ポリウレタン系エマルジヨンを含浸した繊維質基材を50〜150℃の乾燥装置中にそのまま導入して乾熱乾燥して凝固する方法などを挙げることができる。
そのうちでも、上記(1)の温水浴中での凝固方法または上記(2)の加熱水蒸気を用いる凝固方法が、より柔軟な風合を有する皮革様シート状物が得られる点から好ましく採用される。上記(1)または(2)の凝固方法を用いた場合は、続いて加熱乾燥または風乾を行って、皮革様シート状物中に含まれる水分を除去する。
【0050】
繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸し凝固し、乾燥することによって最終的に得られる皮革様シート状物では、皮革様シート状物における重合体の付着量(ポリウレタン系エマルジヨンが他の重合体を含有する場合はポリウレタンを含めた全重合体の付着量)が、繊維質基材の重量に対して5〜150重量%であることが好ましく、10〜100重量%であることがより好ましい。重合体の付着量が5重量%未満であると、得られる皮革様シート状物の充実感が不足し、天然皮革様の風合が得られなくなる傾向があり、一方150重量%を超えると得られる皮革様シート状物が硬くなってやはり天然皮革様の風合が得られなくなる傾向がある。
【0051】
上記により得られる本発明の皮革様シート状物は、柔軟性に富み、同時に充実感を有する天然皮革に極めて近似した良好な風合を有しており、従来の湿式凝固法により得られる人工皮革と比べても何ら遜色がない。本発明者らの分析の結果、本発明で得られる皮革様シート状物では、その断面を撮影した図2の電子顕微鏡写真(以下の実施例1で得られた皮革様シート状物の断面を撮影した電子顕微鏡写真)に見るように、ポリウレタンが繊維質基材中で繊維を拘束することなく粒状に連結して凝固していることが観察された。そのため、本発明で得られる皮革様シート状物では、繊維の拘束によって生ずる柔軟性の低下が防止され、その一方で凝固したポリウレタン粒子が繊維質基材の繊維間の空隙を埋めていて見かけの樹脂部分の充填量が増していることにより、従来のエマルジヨン含浸型の皮革様シート状物に比べて、良好な柔軟性を保ちながら、充実感のある、天然皮革に極めて近似した優れた風合を有する皮革様シート状物が得られるものであると思われる。
【0052】
本発明で得られる皮革様シート状物は、上記した優れた性質を活かして、例えば、マットレス、鞄内張り材料、衣料用芯地、靴用芯地、クッション材、自動車、列車、航空機などの内装材、壁材、カーペットなどの広範な用途に有効に使用することができる。さらに、本発明で得られる皮革様シート状物の片面にポリウレタン層などを既知の方法で設けることにより、スポーツシューズ、紳士靴、鞄、ハンドバック、ランドセルなどに用いられる銀付き人工皮革としても好適に使用することができる。
【0053】
【実施例】
以下に実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はそれによって何ら制限されない。なお、以下の実施例および比較例において、ポリウレタン系エマルジヨンの感熱ゲル化温度、ポリウレタン系エマルジヨンを乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率およびα分散の温度(Tα)、皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)並びに風合を以下の方法で測定または評価した。
【0054】
(1)ポリウレタン系エマルジヨンの感熱ゲル化温度:
試験管にポリウレタン系エマルジヨン10gを秤量し、それを90℃の恒温熱水浴中に漬けて撹拌しながら昇温させ、ポリウレタン系エマルジヨンが流動性を失ってゲル状物となった時のポリウレタン系エマルジヨンの温度を測定して感熱ゲル化温度(℃)とした。
【0055】
(2)ポリウレタン系エマルジヨンを乾燥して得たフィルムの90℃での弾性率およびα分散の温度(Tα):
(i) ポリウレタン系エマルジヨンをガラス板の上に流延し、50℃の熱風式乾燥室中に入れて8時間乾燥してフィルムを形成させ、そのフィルムを厚さ方向にスライスして厚さ100μmのフィルム試験片を得た。
(ii) 上記(i)で得られた厚さ100μmのフィルム試験片を用いて、粘弾性測定装置[(株)レオロジ製「FTレオスペクトラーDVE−V4」]を使用して、周波数11Hzで測定を行い、90℃における弾性率(dyn/cm2)を求めると共に、その波形のピークよりα分散の温度(Tα)(℃)を求めた。
【0056】
(3)皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率):
下記の実施例または比較例で得られた皮革様シート状物から10cm×10cmの試験片を採取し、純曲げ試験機(KATO TEKKO製「KES−FB2−L」)を使用して、皮革様シート状物の巻き取り方向に対して直角方向の曲げ剛性率(gfcm2/cm)を測定して柔軟性の指標とした。
【0057】
(4)皮革様シート状物の風合:
下記の実施例または比較例で得られた皮革様シート状物を手で触って、天然皮革様の風合を有する場合を○、天然皮革に比べて硬くて柔軟性が不足している場合および/または充実感が不足していて天然皮革様の風合を有していない場合を×として判定した。
【0058】
また、以下の例で用いた高分子ポリオールの略号とその内容は次のとおりである。
○PMSA1850(略号):
数平均分子量1850のポリエステルジオール[3−メチル−1,5−ペンタンジオールにアジピン酸とセバシン酸(モル比1/3)を反応させて得られた脂肪族ポリエステルジオール]
○PHC2000(略号):
数平均分子量2000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール
【0059】
《参考例1》[柔軟撥水剤を付与した繊維質基材の製造]
(1) ポリエチレンテレフタレート繊維(単繊維繊度2デニール、繊維長51mm、70℃の温水中での収縮率25%)を用いて、カードとクロスラッパーを使用して、240g/m2のウエブを製造した。このウエブをニードルロッカールームに通して700本/cm2のニードルパンチを行い、その後70℃の温水中に2分間浸漬して、元の面積の56%に収縮させた。これをシリンダーベルト加圧機を用いて155℃で加圧処理して、厚さ1.2mm、重さ360g/m2および見かけ密度0.30g/cm3の不織布を製造した。
(2) 上記(1)で得られた不織布に、ジメチルポリシロキサン(信越化学工業社製「KF96L」)とメチルハイドロジェンポリシロキサン(信越化学工業社製「KF99」)を5:5の重量比で含有するシリコーン系柔軟撥水剤のエマルジヨン(固形分濃度5重量%)を含浸させ、130℃で30分間乾燥して、柔軟撥水剤を付与した不織布を得た[不織布の重量に対するシリコーン系柔軟撥水剤(固形分)の付着量1.2重量%](以下この不織布を「不織布▲1▼」という)。
【0060】
《参考例2》[柔軟撥水剤を付与しない繊維質基材の製造]
参考例1の(1)と同様の工程を行って、柔軟撥水剤を付与しない不織布を製造した(以下この不織布を「不織布▲2▼」という)。
【0061】
《参考例3》[柔軟撥水剤を付与した繊維質基材の製造]
(1) 汎用のポリエチレンテレフタレート繊維(単繊維繊度2.5デニール)とナイロン繊維(単繊維繊度1.5デニール)を35:65の重量比で用いて製造された絡合不織布(厚さ1.4mm、見かけ密度0.25g/cm3)を準備した。
(2) 上記(1)で準備した絡合不織布に、シリコーン系柔軟撥水剤[松本油脂製薬(株)製「ゲラネックスSH」)の5重量%水溶液を含浸させ、ロールで絞った後に130℃で30分間乾燥して、柔軟撥水剤を付与した不織布を得た[不織布の重量に対するシリコーン系柔軟撥水剤(固形分)の付着量1.0重量%](以下この不織布を「不織布▲3▼」という)。
【0062】
《参考例4》[柔軟撥水剤を付与しない繊維質基材]
参考例3の(1)で準備した絡合不織布を、柔軟撥水剤を付着させずに繊維質基材として準備した(以下この不織布を「不織布▲4▼」という)。
【0063】
《参考例5》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 三つ口フラスコに、ポリエステルジオール(PMSA1850)546.3g、イソホロンジイソシアネート176.7gおよび2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸8.05gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下に、90℃で2時間撹拌して系中の水酸基とイソシアネート基を反応させて、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを製造した。
(2) 上記(1)で得られたウレタンプレポリマーに、2−ブタノン236.0gを加えて均一に撹拌した後、フラスコ内温度を40℃に下げ、トリエチルアミン6.07gを加えて10分間撹拌した。次いで、ノニオン系界面活性剤(花王株式会社製「エマルゲン985」)55.3gを蒸留水472.5gに溶解して得た水溶液を加えて、ホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにジエチレントリアミン12.8gとイソホロンジアミン38.7gを蒸留水203.2gに溶解した水溶液を加えてホモミキサーで1分間撹拌して鎖伸長反応を行った。その後、2−ブタノンをロータリーエバポレーターにより除去してから、除去した2−ブタノンに相当する重量の蒸留水を加えてポリウレタン系エマルジヨン(重合体濃度46重量%)を調製した。
【0064】
(3) 上記(2)で得られたポリウレタン系エマルジヨン80重量部に、蒸留水20重量部および感熱ゲル化剤[水:ノニオン系界面活性剤(花王株式会社製「エマルゲン910」):塩化カルシウム=5:4:1の重量比で混合した溶液]4重量部を加えて、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンA」という]。
(4) 上記(3)で得られたポリウレタン系エマルジヨンAの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ48℃であった。また、上記(3)で得られたポリウレタン系エマルジヨンAを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの90℃における弾性率およびα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、それぞれ1.2×108dyn/cm2および−46℃であった。
【0065】
《参考例6》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 参考例5の(1)および(2)と同様の工程を行って、感熱ゲル化剤を含有しないポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンB」という]。
(2) 上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンBの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ90℃でも流動性を有しゲル化挙動を示さなかった。また、上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンBを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの90℃における弾性率およびα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、それぞれ1.2×108dyn/cm2および−45℃であった。
【0066】
《参考例7》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 三つ口フラスコに、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHC2000)333.9g、イソホロンジイソシアネート155.59gおよび2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸9.39gを秤取し、乾燥窒素雰囲気下に、90℃で2時間撹拌して系中の水酸基とイソシアネート基を反応させて、イソシアネート基末端のウレタンプレポリマーを製造した。
(2) 上記(1)で得られたウレタンプレポリマーに、2−ブタノン261.5gを加えて均一に撹拌した後、フラスコ内温度を40℃に下げ、トリエチルアミン7.08gを加えて10分間撹拌した。次いで、ノニオン系界面活性剤(花王株式会社製「エマルゲン985」)61.14gを蒸留水520.8gに溶解して得た水溶液を加えて、ホモミキサーで1分間撹拌して乳化した後、直ちにジエチレントリアミン13.73gとイソホロンジアミン11.32gを蒸留水228.9gに溶解した水溶液を加えてホモミキサーで1分間撹拌して鎖伸長反応を行った。その後、2−ブタノンをロータリーエバポレーターにより除去してから、除去した2−ブタノンに相当する重量の蒸留水を加えてポリウレタン系エマルジヨン(重合体濃度46重量%)を調製した。
【0067】
(3) 上記(2)で得られたポリウレタン系エマルジヨン80重量部に、蒸留水20重量部および感熱ゲル化剤として塩化カルシウム0.8重量部を加えて、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンC」という]。
(4) 上記(3)で得られたポリウレタン系エマルジヨンCの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ51℃であった。また、上記(3)で得られたポリウレタン系エマルジヨンCを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの90℃における弾性率およびα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、それぞれ3.0×107dyn/cm2および−33℃であった。
【0068】
《参考例8》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 参考例5の(1)において、イソホロンジイソシアネートの使用量を増やすことでポリウレタン中のハードセグメント含量を増し、それに応じて他の成分のモルバランスを調整した以外は参考例5の(1)〜(3)と同様の工程を行って、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンD」という]。
(2) 上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンDの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ45℃であった。また、上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンDを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの90℃における弾性率およびα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、それぞれ5.5×108dyn/cm2および−30℃であった。
【0069】
《参考例9》[ポリウレタン系エマルジヨンの製造]
(1) 参考例7の(1)において、イソホロンジイソシアネートの使用量を減らすことでポリウレタン中のハードセグメント含量を減らし、それに応じて他の成分のモルバランスを調整した以外は参考例7の(1)〜(3)と同様の工程を行って、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンを製造した[以下これを「ポリウレタン系エマルジヨンE」という]。
(2) 上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンEの感熱ゲル化温度を上記した方法で測定したところ57℃であった。また、上記(1)で得られたポリウレタン系エマルジヨンEを用いて上記した方法で厚さ100μmのフィルムを製造し、該フィルムの90℃における弾性率およびα分散の温度(Tα)を上記した方法で測定したところ、それぞれ1.6×107dyn/cm2および−38℃であった。
【0070】
《実施例1》[皮革様シート状物の製造]
(1) 上記の参考例1で得られた柔軟撥水剤を予め付与した不織布▲1▼を上記の参考例5で得られた感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンAの浴中に浸漬してポリウレタン系エマルジヨンを含浸させた後、浴から取り出し、プレスロールで絞り、次いで90℃の温水浴中に1分間浸漬してポリウレタン系エマルジヨンを凝固させ、さらに130℃の熱風乾燥機中で30分間乾燥して皮革様シート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られた皮革様シート状物における樹脂付着量(ポリウレタン付着量)は、不織布重量に対して66重量%であった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(3) さらに、この実施例1で得られた皮革様シート状物の横断面を電子顕微鏡で写真撮影したところ、図2の写真に示す細部構造を有していた。すなわち、図2の写真から明らかなように、ポリウレタンが繊維質基材中で繊維を拘束することなく粒状に連結して凝固しており、これによって良好な柔軟性と、充実感のある、天然皮革に極めて近似した優れた風合を有する皮革様シート状物が得られた。
【0071】
《実施例2》[皮革様シート状物の製造]
(1) ポリウレタン系エマルジヨンとして、上記の参考例7で得られた感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンCを用いた以外は、実施例1の(1)と同様の工程を行って、皮革様シート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られた皮革様シート状物における樹脂付着量(ポリウレタン付着量)は、不織布重量に対して65重量%であった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0072】
《実施例3》[皮革様シート状物の製造]
(1) 不織布として、上記の参考例3で得られた柔軟撥水剤を予め付与した不織布を用いた以外は、実施例1の(1)と同様の工程を行って、皮革様シート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られた皮革様シート状物における樹脂付着量(ポリウレタン付着量)は、不織布重量に対して30重量%であった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)および風合を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0073】
《比較例1》[皮革様シート状物の製造]
(1) ポリウレタン系エマルジヨンとして、上記の参考例6で得られた感熱ゲル化剤を含有しないポリウレタン系エマルジヨンBを用いた以外は、実施例1の(1)と同様の工程を行って皮革様シート状物を製造したところ、ポリウレタン系エマルジヨンの白濁液が温水浴中に流出して浴槽を汚染した。
(2) 上記(1)で得られた皮革様シート状物における樹脂付着量(ポリウレタン付着量)は、不織布重量に対して25重量%であった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)を上記した方法で測定したところ下記の表1に示すとおりであった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の風合を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであり、全体的に不織布様の充実感のない触感であって、その中に局部的に硬い部分が存在する、天然皮革の風合とは大きく異なる不良な風合であった。
【0074】
《比較例2》[皮革様シート状物の製造]
(1) 不織布として、上記の参考例2で得られた柔軟撥水剤を予め付与していない不織布▲2▼を用いた以外は、実施例1の(1)と同様の工程を行って、皮革様シート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られた皮革様シート状物における樹脂付着量(ポリウレタン付着量)は、不織布重量に対して64重量%であった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)を上記した方法で測定したところ下記の表1に示すとおりであった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物は充実感を有しているものの、硬く柔軟性に劣る、不良な風合であった。
【0075】
《比較例3》[皮革様シート状物の製造]
(1) ポリウレタン系エマルジヨンとして、上記の参考例8で得られた感熱ゲル化剤を含有するがフィルムの90℃での弾性率が5.5×108dyn/cm2であるポリウレタン系エマルジヨンDを用いた以外は、実施例1の(1)と同様の工程を行って、皮革様シート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られた皮革様シート状物における樹脂付着量(ポリウレタン付着量)は、不織布重量に対して62重量%であった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)を上記した方法で測定したところ下記の表1に示すとおりであった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の風合を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであり、硬く柔軟性に劣る、不良な風合であった。
【0076】
《比較例4》[皮革様シート状物の製造]
(1) ポリウレタン系エマルジヨンとして、上記の参考例9で得られた感熱ゲル化剤を含有するがフィルムの90℃での弾性率が1.6×107dyn/cm2であるポリウレタン系エマルジヨンEを用いた以外は、実施例1の(1)と同様の工程を行って、皮革様シート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られた皮革様シート状物における樹脂付着量(ポリウレタン付着量)は、不織布重量に対して68重量%であった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)を上記した方法で測定したところ下記の表1に示すとおりであった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の風合を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであり、柔軟性を有するものの、充実感に劣っていた。
(3) さらに、この比較例4で得られた皮革様シート状物の横断面を電子顕微鏡で写真撮影したところ、図3の写真に示す細部構造を有していた。すなわち、図3の写真から明らかなように、ポリウレタンが繊維質基材中で局在し、しかもその局在部で繊維を拘束しており、それによってシート状物の風合を柔軟性に欠けていて硬く、充実感のないものにしている。
【0077】
《比較例5》[皮革様シート状物の製造]
(1) 不織布として上記の参考例3で得られた柔軟撥水剤を予め付与した不織布▲3▼を用い、またポリウレタン系エマルジヨンとして上記の参考例8で得られた感熱ゲル化剤を含有するがフィルムの90℃での弾性率が5.5×108dyn/cm2であるポリウレタン系エマルジヨンDを用いて、実施例1の(1)と同様の工程を行って、皮革様シート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られた皮革様シート状物における樹脂付着量(ポリウレタン付着量)は、不織布重量に対して27重量%であった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)を上記した方法で測定したところ下記の表1に示すとおりであった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の風合を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであり、硬くて柔軟性に劣る不良な風合であった。
【0078】
《比較例6》[皮革様シート状物の製造]
(1) 不織布として上記の参考例3で得られた柔軟撥水剤を予め付与した不織布▲3▼を用い、またポリウレタン系エマルジヨンとして上記の参考例9で得られた感熱ゲル化剤を含有するがフィルムの90℃での弾性率が1.6×107dyn/cm2であるポリウレタン系エマルジヨンEを用いて、実施例1の(1)と同様の工程を行って、皮革様シート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られた皮革様シート状物における樹脂付着量(ポリウレタン付着量)は、不織布重量に対して30重量%であった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)を上記した方法で測定したところ下記の表1に示すとおりであった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の風合を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであり、充実感のない、不良な風合であった。
【0079】
《比較例7》[皮革様シート状物の製造]
(1) 不織布として上記の参考例4で得られた柔軟撥水剤を予め付与してない不織布▲4▼を用い、またポリウレタン系エマルジヨンとして上記の参考例5で得られた感熱ゲル化剤を含有するポリウレタン系エマルジヨンAを用いて、実施例1の(1)と同様の工程を行って、皮革様シート状物を製造した。
(2) 上記(1)で得られた皮革様シート状物における樹脂付着量(ポリウレタン付着量)は、不織布重量に対して32重量%であった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の柔軟性(曲げ剛性率)を上記した方法で測定したところ下記の表1に示すとおりであった。また、上記(1)で得られた皮革様シート状物の風合を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであり、硬くて柔軟性に欠ける、不良な風合であった。
【0080】
【表1】
【0081】
上記に示す実施例1〜3および比較例1〜7の結果から、予め柔軟撥水剤を付与した繊維質基材に対して、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンであって且つ該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が2.0×107〜5.0×108dyn/cm2の範囲にあるポリウレタン系エマルジヨンを含浸し凝固して得られた実施例1〜3の皮革様シート状物は、柔軟性および充実感に優れていて、天然皮革に近似した良好な風合を有していることがわかる。
【0082】
それに対して、上記の比較例1の結果から、柔軟撥水剤を予め付与した繊維質基材を用いた場合であっても、ポリウレタン系エマルジヨンが感熱ゲル化性でない場合は、繊維質基材に含浸させたポリウレタン系エマルジヨンが凝固用の温水浴中に流出してしまって繊維質基材中に十分に保持されず、風合および外観の不良なシート状物しか得られないことがわかる。
【0083】
また、上記の比較例2および比較例7の結果から、柔軟撥水剤を予め付与してない繊維質基材を用いた場合には、硬くて柔軟性に欠ける、風合の不良なシート状物しか得られないことがわかる。
さらに、上記の比較例3および比較例5の結果から、ポリウレタン系エマルジヨンとしてそれから得られるフィルムの上記90℃の弾性率が5.0×108dyn/cm2を超えるポリウレタン系エマルジヨンを用いた場合には、硬くて柔軟性に欠ける、風合の劣ったシート状物が生成することがわかる。
また、上記の比較例4および比較例5の結果から、ポリウレタン系エマルジヨンとしてそれから得られるフィルムの上記90℃の弾性率が2.0×107dyn/cm2よりも小さいポリウレタン系エマルジヨンを用いた場合には、充実感のない、不織布様のシート状物しか得られないことがわかる。
【0084】
【発明の効果】
本発明により得られる皮革様シート状物は、柔軟性に富み、充実感に優れていて、天然皮革に近似した極めて良好な風合および物性を有している。
そして、本発明による場合は、柔軟撥水剤を付与した繊維質基材に上記した特定のポリウレタン系エマルジヨンを含浸して凝固するという極めて簡単な工程を採用するだけで、環境面、安全性、工程の複雑化などの点で問題の多い有機溶剤を使用せずに、前記した優れた特性を有する皮革様シート状物を簡単に、安価に製造することができる。
本発明により得られる皮革様シート状物は、上記した優れた特性を活かして、例えば、マットレス、鞄内張り材料、衣料用芯地、靴用芯地、クッション材、自動車、列車、航空機などの内装材、壁材、カーペット、スポーツシューズ、紳士靴、鞄、ハンドバック、ランドセルなどの広範な用途に有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】繊維質基材に樹脂エマルジヨンを含浸し凝固して得られる従来の皮革様シート状物の断面を撮影した電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【図2】本明細書中の実施例1で得られた皮革様シート状物の断面を撮影した電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【図3】本明細書中の比較例4で得られた皮革様シート状物の断面を撮影した電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
Claims (7)
- 繊維質基材にポリウレタン系エマルジヨンを含浸し凝固して皮革様シート状物を製造する方法であって、
(i) 繊維質基材として予め柔軟撥水剤を付与したものを用い;そして、
(ii) ポリウレタン系エマルジヨンとして、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンであって、且つ該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が2.0×107〜5.0×108dyn/cm2であるものを用いる;
ことを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。 - 柔軟撥水剤が、ジメチルポリシロキサンと、メチルハイドロジェンポリシロキサンおよびメチルハイドロジェンシロキシ単位とジメチルシロキシ単位を有するポリシロキサンの少なくとも1種との混合物である請求項1に記載の製造方法。
- ポリウレタン系エマルジヨンとして、感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンであって、且つ該ポリウレタン系エマルジヨンを温度50℃で乾燥して得られる厚さ100μmのフィルムの90℃における弾性率が2.0×107〜5.0×108dyn/cm2であり、更に該フィルムのα分散の温度(Tα)が−10℃以下であるものを用いる請求項1または2に記載の製造方法。
- 感熱ゲル化性のポリウレタン系エマルジヨンが、感熱ゲル化剤を含有するポリウレタン系エマルジヨンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
- 繊維質基材に含浸したポリウレタン系エマルジヨンの凝固を70℃以上の温水中、またはスチーム雰囲気下に行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
- 繊維質基材が、収縮性ポリエチレンテレフタレート繊維を少なくとも一部として用いて形成された比重0.25〜0.50の不織布である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項の製造方法により得られる皮革様シート状物。
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