JP4064763B2 - ラケット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラケットに関し、詳しくは、テニス、バトミントン、スカッシュ等のスポーツ用のラケット、特に硬式テニスラケットとして好適に用いられ、反発性能を低下させずに、振動減衰性の向上を図るものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、ラケットの打球面の面外方向に厚みを持たせた所謂「厚ラケ」が提供されており、該厚ラケを必要とするユーザーは、女性やシニア層といった少ない力で飛び性能を要求する層で、軽量で飛び性能の良いラケットが求められている。このため、ラケットの製法も比強度が高くて設計自由度の高い繊維強化樹脂が主流となっている。
【0003】
ところが、テニスラケットが軽くなった場合、打球時に、ボールによりラケットに負荷される衝撃が大きくなり、不快な振動を感じると共に、衝撃が肘に伝わりやすく、テニスエルボーの原因になる。そのため、軽量かつ振動吸収性の高いラケットが望まれている。
【0004】
昨今、280g以下の軽量ラケットも提供されており、さらに、250g以下というような軽量ラケットも設計されている。このような軽量ラケットにおいて、ラケットの構造体となるラケットフレームはカーボン繊維強化樹脂量がわずか4〜5g変化するだけで、耐久性が非常に大きく変わることが判明している。
従って、軽量ラケットにおいて、強度等との兼ね合いより、軽量化と振動減衰性・衝撃吸収性の両立させるために、振動減衰材を装着したラケットが多数提案されている。
【0005】
例えば、特公昭52−13455号では、テニスラケットのグリップエンドに、先端に錘を取り付けた鋼ワイヤの基端をフレームに埋設した細長い弾性部材からなる片持ち梁型のダンバーを取り付けることが提案されている。また、特開昭52−156031号では、スロート部に基部を固定し、該基部より首部を介して本体を連結し、該本体を振動させることが提案されている。さらに、特開昭62−192182号では、フレーム本体に、自由端部に質量体が装着されたロッドを粘弾性部材で、支持してなる振動吸収体を設定したラケットフレームの振動吸収装置が提案されている。
また、特開2000−24140号では、振動重錘を備え、該振動重錘はグリップエンドを取り囲む可撓製キャップの空洞内に受容され、該重錘がグリップエンドから距離をおいて存在する振動緩衝装置が提案されており、打撃用具のグリップ部分の自由端に振動の波腹の近傍に装着されている。
【0006】
さらに、本出願人は、特開2000−157649号において、ラケットフレームに発生する振動振幅の大きい位置の近傍に、質量体を粘弾性体で接続して配置し、フレーム厚み方向・幅方向に配置することにより、各振動モードの減衰に寄与させることを提案している。
また、特開2001−37916号において、ラケットフレームの少なくとも一部のストリング孔に、振動吸収材を装着することにより、ストリングのみならずフレームの振動も減衰させることを提案している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特公昭52−13455号、特開昭52−156031号、特開昭62−192182号は、ラケットの特定の振動モード(特に面外1次振動)の減衰にしか寄与せず、ラケットフレーム本体の物性に影響しない錘があるため、重量が増加する問題があった。また、スイング時に邪魔になったり、反発性能等の向上に寄与するものもないという問題がある。
また、特開2000−24140号は、各振動モードの減衰に寄与するものであるが、エンドキャップの構造自体も蓋体を有する構造とはしにくいため、中空体内に発生した破片による音鳴りの対策が不充分である上に、反発性能の向上には寄与せず、補助錘によって固有振動数を調整するもので、重量が大きく増加するという問題がある。
【0008】
さらに、特開2000−157649号および特開2001−37916号は、前記提案よりは重量増加がなく、振動減衰性に優れるいるが、さらなる振動減衰機能の向上が求められている。
【0009】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、できるだけ重量を増加させることなく振動減衰性を高めると共に、反発性能にも優れたラケットを提供することを課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、打球面を囲むガット張架部に、左右枠部の一方から他方へとガットの表裏両面で隙間をあけて挟むように分割された一対の振動減衰材を架橋し、
これら分割された一対の振動減衰材は、その両端を夫々ガット張架部の左右両側枠の外面に面接触させて接着剤で固着して、該一対の振動減衰材の両端で夫々上記左右両側枠を挟み、
上記一対の振動減衰材の打球面の中央部の隙間にのみ、該振動減衰材より弾性を有する粘弾性材を介在させ、該粘弾性材の両端面に2本のガットを接触させ、他のガットは該粘弾性材と接触させていないことを特徴とするラケットを提供している。
【0011】
上記構成とすると、一対の振動減衰材の両端を夫々ガット張架部の左右両側枠に固着して面接触させているため、打球時にガット張架部に発生する振動は振動減衰材に伝わり、振動減衰材を共振させ、振動を吸収することができる。また、重錘等の質量付加材を用いておらず、余分な重量が付加されないため、極力、軽量性を維持しながら、振動減衰性を高めることができる。さらに、振動減衰材をガット張架部を構成するフレームとは異なる材質で形成しているため、フレームと振動減衰材との接合面に打撃時に発生する衝撃力を集中させて吸収させることで、振動減衰性を高めることもできる。
【0012】
また、振動減衰材はガットの表裏両面とは隙間をあけて非接触とし、これら振動減衰材の間に粘弾性材を配置しているため、該粘弾性材により振動減衰材がガットと接触しないように位置決めがなされる。よって、打球時においてガットが振動減衰材と接触して反発力が低下する問題は生じない。
さらに、上記粘弾性材の両端面をガットに接触させて、打球時に発生するガットの振動を粘弾性材が吸収するため、振動減衰性を向上させることができる。また、粘弾性材を振動減衰材と接着しているため、粘弾性材と振動吸収材とで動吸振器機能を果たし、振動減衰性を向上させることができる。
【0013】
また、粘弾性材を振動減衰材よりも弾性を有する材料により成形し、粘弾性材を成形する材料の弾性を調整することにより、ガットの振動減衰性を向上させながら、フレームの振動減衰性能を調整することができる。
【0014】
上記分割した一対の振動減衰材は、バランスを保つために、その両端がガット張架部の左右両側枠に固定する位置は左右対称位置とし、打球面に対しても対称に配置している。
【0015】
ラケットフレームの1次モードの振幅の大きい部分は、ラケットフレームのトップ、グリップ、フレーム中央部であるが、グリップ端からガット張架部のトップ端までの長さ方向の略中央のフレーム中央部付近、即ち、ヨークよりも打球面側で、かつ、最もヨーク側で横方向に張架されるガット(最下端の横方向ガット位置)よりもヨーク側の位置で、打球面を横切る位置に上記振動減衰材を配置すると、効果的に振動を減衰することができる。
なお、ガット張架部のトップ付近だと振りぬきにくくなったり、グリップ部はプレーヤーが握る部分に近いため、効果が低減される。
【0016】
上記粘弾性材は分割された振動減衰材の隙間の打球面の中央部にのみ介在させ、2本のガットに接触させているのは、粘弾性材により振動減衰材がガットと接触しないように位置決めすることができず、打球時においてガットが振動減衰材と接触して反発力が低下するためであり、また、十分な振動減衰効果を得られないためである。
【0017】
上記振動減衰材はフレーム全長Lに対してグリップエンドより0.3L以上0.6L未満の範囲内の上記ガット張架部あるいはスロート部に装着されることが好ましい。 振動減衰材は各振動モードの腹(振幅の大きいところ)に設置することが良いと考えられ、一般的に面外1次の振動モードの腹はグリップエンドより0.3L〜0.7Lの範囲付近に存在し、面外2次の振動モードはグリップエンドより0.1L〜0.4Lの範囲、グリップエンドより0.6L〜0.9Lの範囲付近に存在する。よって、面外1次、面外2次の振動を効果的に減衰させるにはグリップエンドより0.3L〜0.6Lの範囲内に振動減衰材を配置することが好ましい。最も好ましくは、グリップエンドより0.45L付近である。
【0018】
全長Lに対しグリップエンドから0.3L以上0.6L未満としたのは、0.3Lより小さい位置だと面外1次と面外2次の両方のモードの節に近くなり減衰効果が小さくなる上に、グリップ部となるため装着が難しいためである。一方、0.6Lを越えると、バランスが大きくなり操作性が悪くなりやすいためである。 また0.3L以上0.6L未満の範囲内に配置したとき、効果的に重心周りに重量が集中するため、重量(WT)/バランス(BP)を上げずに最も効率よく反発係数を増大することができる。よって、出来るだけモーメントを増加させることなく、振動減衰性・反発性能を向上させることができる。
【0019】
また、通常、プレーヤーはラケット打球面の中央で打撃するが、その際、励起される振動モードはフレーム面外2次およびガットの振動である。この時の励起される面外2次の固有振動数は軽量化が進んだ昨今のラケットフレームでは500〜600Hzである。また、オフセンター打撃時に励起されるのはフレーム面外1次振動であり、昨今のラケットフレームでは100〜200Hzである。
【0020】
上記振動減衰材は、ナイロンやポリエーテルアミドブロック共重合体等が挙げられ、曲げ弾性率は100MPa以上1500MPa未満の合成樹脂としていることが好ましい。
上記範囲としているのは、曲げ弾性率が100MPa未満になると柔らか過ぎるため、固有振動数の大きい面外2次の振動どころか比較的固有振動数の小さい面外1次の振動まで合わなくなるためである。一方、1500MPaを越えると硬くなり過ぎ、固有振動数の小さい面外1次の振動どころか比較的固有振動数の大きい面外2次の振動まで合わなくなるためである。
【0021】
また、上記振動減衰材は4g以上16g未満であることが好ましい。
上記範囲としているのは、4gより軽い重量では振動減衰材を共振させるのが難しく充分な減衰性を得にくいためである。一方、16gを越えると、重量・慣性モーメントが大きくなり、その結果操作性が悪くなりやすいためである。なお、振動減衰材の装着個数は、1個あるいは複数個とすることができる。
【0022】
また、上記のように、粘弾性材は打球面の中央部に配置している。
上記構成とすると、ラケットのバランスを損なうことがなく、また、打球時の振動発生量の多い中央のガットと粘弾性材を接触させることによって、より振動減衰性を高めることができる。
【0023】
また、粘弾性材は、周波数が10Hzで温度が0〜10℃の測定条件下での複素弾性率E*を2.00×109dyn/cm2以下としていることが好ましい。
上記範囲とすると、粘弾性材が十分な弾性を有することとなり、ガットの振動減衰性を向上させながら、フレームの振動減衰性を向上することができる。
上記粘弾性材として、例えば、スチレンブタジエンゴムやシリコンゴムが好適に用いられる。
【0024】
また、上記粘弾性材は0.3g以上2g未満であることが好ましい。
上記範囲としているのは、0.3gより軽い重量ではガットに接触するのに十分な体積が得られないためである。一方、2gを越えると、重量・慣性モーメントが大きくなり、その結果操作性が悪くなりやすいためである。
【0025】
上記縦方向に張架されるガットの長さが340mm以上420mm未満であることが好ましい。
このように、縦方向のガットの長さを長くすると反発係数が増大し、ヨークの位置も下がるので、重量/バランスを増加させずに効率よく反発係数を向上させることが出来る。縦方向の全てのガット長さが上記範囲であると非常に反発性能に優れるが、縦方向のガットの少なくとも1本以上が上記範囲であれば良く、長いガットが多いほど反発性能が向上する。
上記範囲としているのは、340mmよりも短いと、充分な反発性能を得にくいためである。一方、420mmよりも長いと、それに応じてヨークの長さが短くなり、面内剛性が低下し、面安定性が悪くなりやすいためである。
【0026】
ラケットフレームのフレーム本体は繊維強化樹脂、樹脂単体、金属、木材又はこれらの複合材から形成することができる。特に、プリプレグの積層体を中空パイプ状としたものから形成することが好ましい。繊維強化樹脂に用いられる樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられるが、強度と剛性の点より、熱硬化性樹脂が好ましく、特にエポキシ系樹脂が好ましい。強化繊維としては、一般に高性能強化繊維として用いられる繊維が使用でき、軽量で高強度であることからカーボン繊維が好ましい。また、連続繊維が好ましく、繊維の配置形態等は適宜設定可能である。なお、マンドレルにフィラメントワインデイングで強化繊維を巻き付けてレイアップを形成しておき、これを金型内に配置してリムナイロン等の熱可塑性樹脂を充填して形成したラケットフレームとすることもできる。粘弾性材を装着したラケットフレームの重量は200g〜280gが好ましい。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3は本発明の実施形態に係るラケットフレーム11を示す。ラケットフレーム11は、硬式テニス用であり、打球面Fを囲むガット張架部13、二股状のスロート部14、シャフト部15、グリップ部16を繊維強化樹脂製のパイプにより連続して構成している。ガット張架部13は、別部材からなるヨーク17をスロート側でラケットフレーム11と連続して打球面Fを囲む環状としている。また、ガット張架部13の表裏両面に、振動減衰材20を取り付ける位置に凸部13aを設けている。
【0028】
ラケットフレーム11には、打球面Fを囲むガット張架部13に、左右枠部の一方から他方へとガットの表裏両面で隙間をあけて挟むように分割された一対の振動減衰材20を架橋し、上記隙間の一部に粘弾性材30を介在させて2本の縦ガットgと接触させている。
【0029】
図2に示すように、振動減衰材20は、ガット張架部13の左右枠部に夫々外嵌固定する左右取付部20Aa、20Abと該左右取付部20Aa、20Abを連結する架橋部20Bとを一体的に成形している。
【0030】
架橋部20Bの面外方向の幅は中央部にいくに従い薄くして、打球面F側をガット挿通溝20B−1とし、該ガット挿通溝20B−1の長さ方向(横糸方向)の略中央位置に粘弾性材30を取り付ける凸部20B−2を設けている。また、架橋部20Bの一端側に打球面F側に向けてピン20B−3を突設する一方、他端側の該ピン20B−3と対称の位置に該ピン20B−3を挿入する凹部20B−4を設けている。
【0031】
振動減衰材20の左右取付部20Aa、20Abは、図2(C)〜(E)に示すように、ガット張架部13のフレームの形状に合わせて屈曲させており、中央には、貫通穴20A−1を設けている。
【0032】
また、上記振動減衰材20をラケットフレーム11に取り付ける際、1対の振動減衰材20のガット挿通溝20B−1を対向させて、上記隙間からなるガット挿通穴20Cを形成している。
【0033】
振動減衰材20の架橋部20Bの長さは135mm、架橋部20Bの面外方向の幅は14.85mm、ガット挿通溝20B−1の長さは115.0mm、振動減衰材20とガット張架部13との接合面積の合計は28cm2である。また、振動減衰材20の重量は10gである。
【0034】
図3に示すように、振動減衰材20のガット挿通穴20Cには、粘弾性材30を配置しており、該粘弾性材30は、振動減衰材20の長さ方向の中央(即ち、打球面の中央部)に位置している。
粘弾性材30は両端にV形状の溝31を設けており、該溝31の下端部31aに切欠を設けて凹部32としている。また、粘弾性材30は、振動減衰材20の形状に合わせて、上面31bを円弧形状に緩やかに凹設する一方、下面31cを円弧形状に緩やかに膨らませている。長さ方向の側面31dはガット挿通穴20Cの形状に合わせて円弧形状に緩やかに膨らませると共に、側面31d上に溝31eを設けている。
【0035】
粘弾性材30の長さは21.11mm、幅は7.65mm、厚さは4.91mm、溝31eの長さは11mm、幅は3.61mm、溝深さは1.00mmである。また、本実施形態において、周波数が10Hzで温度が0〜10℃の測定条件下での粘弾性材30の複素弾性率E*を1.41×107dyn/cm2としている。
【0036】
上記振動減衰材20は、左右取付部20Aa、20Abでガット張架部13を面外方向の両側から挟むように取り付けている。具体的には、ガット張架部13に設けた凸部13aと振動減衰材20の左右取付部20A−1に設けた貫通穴20A−1とを嵌合すると共に、振動減衰材20のピン20B−3を対となる振動減衰材20の凹部20B−4にそれぞれ挿入して振動減衰材20をラケットフレーム11に取り付けている。また、振動減衰材20とラケットフレーム11との間には接着剤を介在させて固着している。
【0037】
上記のようにラケットフレーム11に振動減衰材20を取り付けた後、振動減衰材20の中央位置に設けた凸部20B−2と粘弾性材30に設けた凹部31eとを嵌合すると共に、振動減衰材20と粘弾性材30との間に接着材を介在させ接着して、振動減衰材20のガット挿通穴20Cに粘弾性材30を介在させている。
この状態でガット張架部13にガットgを張設して、振動減衰材20のガット挿通穴30Cを挿通する縦ガットgのうち、中央の2本の縦ガットgを粘弾性材30の凹部32に嵌め込んでいる。
【0038】
振動減衰材20は、フレーム全長Lに対してグリップエンド16aより0.3L〜0.6Lの範囲内に配置される。
本実施形態では、ヨーク17よりも打球面F側に、ヨーク17とは間隔をあけて配置され、ガット張架部13の左右枠と連結される位置は、0.46Lとしている。振動減衰材20は、左右対称、かつ打球面Fに対しても対称となるように配置されている。また、本実施形態では、縦方向に張架されるガットgの長さは340mm〜420mmである。
【0039】
ラケットフレーム11は、繊維強化樹脂製の中空パイプからなり、カーボン繊維からなる強化繊維をマトリクス樹脂のエポキシ樹脂で含浸しているプリプレグの積層体からなる。
【0040】
上記構成とすると、一対の振動減衰材20の両端を夫々ガット張架部13の左右両側枠に固着して面接触させているため、打球時にガット張架部13に発生する振動は振動減衰材に伝わり、振動減衰材を共振させ、振動を吸収することができる。また、重錘等の質量付加材を用いておらず、余分な重量が付加されないため、極力、軽量性を維持しながら、振動減衰性を高めることができる。さらに、振動減衰材20をガット張架部13を構成するフレームとは異なる材質で形成しているため、フレームと振動減衰材20との接合面に打撃時に発生する衝撃力を集中させて吸収させることで、振動減衰性を高めることもできる。
【0041】
また、振動減衰材20はガットの表裏両面とは隙間をあけて非接触とし、これら振動減衰材20の間に粘弾性材30を配置しているため、該粘弾性材30により振動減衰材20がガットgと接触しないように位置決めがなされる。よって、打球時においてガットgが振動減衰材20と接触して反発力を低下する問題は生じない。
さらに、上記粘弾性材30をガットgに接触させて、打球時に発生するガットgの振動を粘弾性材30が吸収するため、振動減衰性を向上させることができる。また、粘弾性材30を振動減衰材20と接着しているため、粘弾性材30と振動減衰材20とで動吸振器機能を果たし、振動減衰性を向上させることができる。
【0042】
以下、本発明のラケットの実施例、比較例について詳述する。
実施例及び比較例ともラケットフレームは厚み28mm,幅13〜14.5mmの断面形状を持ち、フェイス面積を125.11in2とした。
【0043】
具体的には、66ナイロンチューブにCFブリプレグ(東レT300,700,800,M46J)を積層し,鉛直状の積層体を成型した。この時,ナイロンチューブにφ14.5のマンドレルを芯材とした。プリプレグ角度は0,22,30,90°とし,積層した。金型を150℃に昇温し、内層ナイロンチューブ内は9kgf/cm2空気により加圧保持した。その時間は30分間とした。このラケットフレームに、グリップエンドより325mm(0.46L)の位置に上記実施形態と同様の振動減衰材を装着した。この振動減衰材はPEBAX7033(ATOCHEM社製)により成形した。下記の表1に示す実施例1〜4は前記実施形態の構成とした。
【0044】
【表1】
【0045】
(実施例1)
振動吸収材の中央部にシリコンゴムにより成形した粘弾性材を接着し、この粘弾性材をガットに接触させた。
(実施例2)
振動吸収材の中央部にスチレンブタジエンゴム(SBR)100重量部に硫黄1.5重量部を加えたゴムにより成形した粘弾性材を接着し、この粘弾性材をガットに接触させた。
(実施例3)
振動吸収材の中央部にSBR100重量部にカーボンブラック40重量部と硫黄1.5重量部を加えたゴムにより成形した粘弾性材を接着し、この粘弾性材をガットに接触させた。
(実施例4)
振動吸収材の中央部にSBR100重量部にカーボンブラック60重量部と硫黄1.5重量部を加えたゴムにより成形した粘弾性材を接着し、この粘弾性材をガットに接触させた。
【0046】
(比較例1)
振動吸収材の中央部に粘弾性材を接着しなかった。
(比較例2)
振動吸収材の中央部にPEBAX5533により成形した粘弾性材を接着したが、この粘弾性材をガットに接触させなかった。
(比較例3)
振動吸収材の中央部にPEBAX5533により成形した粘弾性材を接着し、この粘接着材をガットに接触させた。
【0047】
上記実施例及び比較例のラケットについて、後述する方法により、振動減衰率、反発係数、実打テストを行った。評価結果を前記表1に示す。
【0048】
(面外1次振動減衰率の測定)
各実施例及び比較例のラケットを図4(A)に示すようにヘッド部13の上端を紐51で吊り下げ、ヘッド部13とスロート部14との一方の連続点に加速度ピックアップ計53をフレーム面に垂直に固定した。この状態で、図4(B)に示すように、ヘッド部13とスロート部14の他方の連続点をインパクトハンマー55で加振した。インパクトハンマー55に取り付けられたフォースピックアップ計で計測した入力振動(F)と加速度ピックアップ計53で計測した応答振動(α)をアンプ56A、56Bを介して周波数解析装置57(ヒューレットパッカード社製、ダイナミックシングルアナライザーHP3562A)に入力して解析した。解析で得た周波数領域での伝達関数を求め、ラケットの振動数を得た。振動減衰比(ζ)は下式より求め、面外1次振動減衰率とした。各実施例及び比較例のラケットについて測定された平均値を上記表1に示す。
【0049】
ζ=(1/2)×(Δω/ωn)
To=Tn/√2
【0050】
(面外2次振動減衰率の測定)
ラケットを図4(C)に示すようにヘッド部13上端を紐51で吊り下げ、スロート部14とシャフト部15との連続点に加速度ピックアップ計53をフレーム面に垂直に固定した。この状態で、加速度ピックアップ計53の裏側のフレームをインパクトハンマー55で加振した。そして、面外1次振動減衰率と同等の方法で減衰率を算出し、面外2次振動減衰率とした。各実施例及び比較例のラケットについて測定された平均値を上記表1に示す。
【0051】
(ストリング固有振動数の測定)
ラケットを図4(D)に示すように、ガットを張架した状態でヘッド部13の上端を紐51で吊り下げ、スロート部14とシャフト部15との連続点に加速度ピックアップ計53をフレーム面に垂直に固定した。この状態で、ヘッド部13の中央部においてガットをインパクトハンマー55で加振した。そして、上記面外二次固有振動数と同等の方法でガットの固有振動数を得た。各実施例及び比較例のラケットについて測定された値を上記表1に示す。
【0052】
(実打評価)
ラケットの振動吸収性についてアンケート調査を行った。5点満点(多い程良い)で採点し、中・上級者(テニス歴10年以上、現在も週3日以上プレーする条件を満たす女性)42名の採点結果の平均値をとった。
【0053】
比較例2では振動吸収材の中央部に粘弾性材を設置したが、この粘弾性材が振動吸収材の振動を規制するため、フレームの減衰率が良くなかった。また、ガットにも接触しないため、ガットの減衰率も良くなかった。
また、比較例3はガットに接触するような粘弾性材を配置したことにより、比較例1、2に比べて若干ガットの減衰率が向上した。しかし、さらに振動吸収材の振動を規制するため、フレームの減衰率は低下した。
【0054】
比較例1は振動吸収材の中央部に何も配置していないことにより、面外1次の減衰率が最も良かった。しかしながら、粘弾性材を装着していないため、ストリングの減衰がよくなかった。
一方で、実施例1〜4は中央部に比較的軟らかい粘弾性材が装着されていることにより、比較例1に比べて面外1次の減衰率はやや低下するが、面外2次およびガットの減衰率は大きく向上した。その結果、実打評価においても振動吸収性が高いと評価される結果となった。
【0055】
【発明の効果】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、一対の振動減衰材の両端を夫々ガット張架部の左右両側枠に固着して面接触させているため、打球時にガット張架部に発生する振動は振動減衰材に伝わり、振動減衰材を共振させ、振動を吸収することができる。また、重錘等の質量付加材を用いておらず、余分な重量が付加されないため、極力、軽量性を維持しながら、振動減衰性を高めることができる。さらに、振動減衰材をガット張架部を構成するフレームとは異なる材質で形成しているため、フレームと振動減衰材との接合面に打撃時に発生する衝撃力を集中させて吸収させることで、振動減衰性を高めることもできる。
【0056】
また、振動減衰材はガットの表裏両面とは隙間をあけて非接触とし、これら振動減衰材の間に粘弾性材を配置しているため、該粘弾性材により振動減衰材がガットと接触しないように位置決めがなされる。よって、打球時においてガットが振動減衰材と接触して反発力を低下する問題は生じない。
さらに、上記粘弾性材をガットに接触させて、打球時に発生するガットの振動を粘弾性材が吸収するため、振動減衰性を向上させることができる。また、粘弾性材を振動減衰材と接着しているため、粘弾性材と振動吸収材とで動吸振器機能を果たし、振動減衰性を向上させることができる。
【0057】
また、粘弾性材を振動減衰材よりも弾性を有する材料により成形し、粘弾性材を成形する材料の弾性を調整することにより、ガットの振動減衰性を向上させながら、フレームの振動減衰性能を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (A)(B)は、本発明のラケットフレームの概略図である。
【図2】 振動減衰材を示し、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は図2(A)のI1−I1線断面図、(D)は図2(A)のI2−I2線断面図、(E)は図2(A)のI3−I3線断面図である。
【図3】 (A)は振動減衰材に粘弾性材を取り付けた状態を示す図面、(B)は粘弾性材の斜視図、(C)は粘弾性材の平面図である。
【図4】 (A)(B)(C)(D)はラケットフレームの振動減衰率の測定方法を示す概略図である。
【符号の説明】
11 ラケットフレーム
13 ガット張架部
14 スロート部
15 シャフト部
16 グリップ部
16a グリップエンド
17 ヨーク
20 振動減衰材
20A 左右取付部
20B 架橋部
20C ガット挿通穴
30 粘弾性材
g ガット
Claims (5)
- 打球面を囲むガット張架部に、左右枠部の一方から他方へとガットの表裏両面で隙間をあけて挟むように分割された一対の振動減衰材を架橋し、
これら分割された一対の振動減衰材は、その両端を夫々ガット張架部の左右両側枠の外面に面接触させて接着剤で固着して、該一対の振動減衰材の両端で夫々上記左右両側枠を挟み、
上記一対の振動減衰材の打球面の中央部の隙間にのみ、該振動減衰材より弾性を有する粘弾性材を介在させ、該粘弾性材の両端面に2本のガットを接触させ、他のガットは該粘弾性材と接触させていないことを特徴とするラケット。 - 上記振動減衰材はフレーム全長Lに対してグリップエンドより0.3L以上0.6L未満の範囲内の上記ガット張架部に装着されている請求項1に記載のラケット。
- 上記ガット張架部は繊維強化合成樹脂製であり、上記振動減衰材はナイロンまたはポリエーテルアミドブロック共重合体からなる合成樹脂からなる請求項1または請求項2に記載のラケット。
- 上記粘弾性材は、周波数が10Hzで温度が0〜10℃の測定条件下での複素弾性率E*を2.00×109dyn/cm2以下としている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のラケット。
- 上記縦方向に張架されるガットの長さが340mm以上420mm未満である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のラケット。
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