JP4056972B2 - ジェル状組成物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、絹フィブロイン及びポリオールを含有するジェル状組成物及びその製造方法に関する。
従来、絹繊維の主タンパク成分であるフィブロインは、適度な吸・放湿性、皮膚や毛髪に対する親和性や紫外線吸収性等の特長を有することから、粉末状や液状或いはこれらの誘導体といった形態で広範に用いられている(非特許文献1、非特許文献2参照)。
宇根他、フレグランスジャーナル、2000年、第28巻、第4号、P.15−21 永尾他、フレグランスジャーナル、2000年、第28巻、第4号、P.22−27
また近年、絹フィブロインを配合した様々な最終製品、例えば、ファンデーション等の剤型の多様化により、従来の粉末状や液状の絹フィブロインでは、これら多様化への対応が困難となり、絹フィブロインの新たな形態が求められるようになった。このような要望に応えるべく、ジェル状を呈した絹フィブロインが提案され、これを得る方法がいくつか知られている。代表的なものは、タンパクの等電点凝固作用を利用した手法で、絹フィブロイン溶液に有機或いは無機の酸を加えることにより、該液のpHを絹フィブロインの等電点近くに調整し、ジェル化させるものである。他にも、多糖類やアルコール類をジェル化剤として添加することによって、ジェル状絹フィブロインを得る手法も知られている。また、分子量5万程度より大きいタンパク分子からなる絹フィブロイン溶液は、先の酸やジェル化剤の作用を与えなくても経時で次第にジェル化が進行することが知られている。
最近では、絹フィブロイン液に二酸化炭素を添加することでpHを調整し、ジェル化させた後、該二酸化炭素を除去するといった手法で、ジェル状絹フィブロインを得る方法が提案されている(特許文献1参照)。この手法で得られるジェル状絹フィブロインは、硬度が小さく延展性に優れ、相溶性・分散性に秀でる等使用感に優位で汎用性に富み、且つ得られるジェル状絹フィブロインの組成が絹フィブロインと水のみであって余分なものを含まないピュアなジェルが得られるという点に特徴がある。
しかしながら、上記方法の場合、ジェル化のための放置期間に10日から2週間程度を要することから、現在の商慣習である短納期に対応するためには、相応の仕掛かり在庫を持たざるを得ず、好ましくない。
特開平10−251299号公報
本発明は上述のような要求に応えるべくなされたものであり、その目的とするところは、硬度が従来に比して著しく小さく、相溶性・分散性に優れ、化粧品に用いた場合は皮膚や毛髪に対し優れた延展性を呈し、親和性や保護作用等の絹独特の特性を発揮しやすく、使用感に優位な汎用性に富むジェル状組成物を、短時間で、工業的容易且つ安価に得ることができるジェル状組成物及びその製造方法を提供するにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討したところ、絹フィブロイン液をジェル化させる際に、予めポリオールを加えてジェル化させることによって、上記課題を解決できるとの知見を得、該知見に基づき本発明を完成させるに至った
発明の目的は、絹フィブロイン液を強酸性陽イオン交換樹脂で処理した後、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、1,2ペンタンジオール、1,2ヘキサンジオール、及びグリセリンから選ばれる1種又は2種以上のポリオールと混合した後、16時間以内にジェル化させ、最終組成物に対する絹フィブロインの含量が0.1〜5.0質量%であることを特徴とするジェル状組成物の製造方法によって達成される。
本発明により、硬度が従来に比して著しく小さく、相溶性・分散性に優れ、化粧品に用いた場合は皮膚や毛髪に対し優れた延展性を呈し、親和性や保護作用等の絹独特の特性を発揮しやすく、使用感に優位な汎用性に富むジェル状組成物が、短時間で工業的容易且つ安価に得られる。
本発明のジェル状組成物は、絹フィブロイン及びポリオールを含有することを特徴とするジェル状組成物である。
本発明に係る絹フィブロインとは、家蚕等が作る絹糸の主タンパク成分を指し、絹フィブロインタンパクそのもの又は該タンパクを酵素、酸もしくはアルカリにより加水分解したものをいう。まゆ、生糸、屑繭、生糸屑、製糸屑、揚り綿、絹布屑、ブーレット、毛羽等を原料として、常法に従い必要に応じて活性剤の存在下、温水中で又は酵素の存在下温水中でセリシンを除去し、乾燥したものを使用することができるがこれらに限定されるものでなく、通常入手できる絹フィブロイン原料であれば、いずれも使用可能である。
本発明におけるジェル状組成物は、ポリオールと水の介在下、絹フィブロインを結晶化させたもので、ジェル状で、均一に延びる延展性を呈しているものをいう。本発明におけるジェル状組成物中には絹フィブロイン成分を0.1〜5質量%(以下、%と記す)、より好ましくは1〜4%含んでいることが望ましい。
本発明に係るポリオールとしては、多価アルコール及びそのポリマー、又はポリビニルアルコール等が挙げられる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、1,2ペンタンジオール、1,2ヘキサンジオール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等を使用することが望ましい。特に、化粧品用途に使用するときは、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール等を使用すると、保湿効果も得られるためより好ましい。これらは、1種でも2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、ポリオールの中には保湿効果に加えて、ジェル状組成物系内の水分活性を低下せしめることによって、微生物に作用し防腐効果を持つものがある。
防腐効果を得るためには、ジェル状組成物中、1,3ブチレングリコール12%以上、1,2ペンタンジオール2.9%以上、1,2ヘキサンジオール1.4%以上等を用いることが好適である。
本発明のジェル状組成物を化粧品用途に使用するときには、長期保存によって生じる変敗を防止する目的で、更に、防腐剤を配合することが望ましい。防腐剤フリーを特徴とするアイテム以外は、パラベン類を用いるのが好適である。これは、その高い静菌作用と非常に広範囲の微生物に有効であること、加えて他の防腐剤類に比して遙かに毒性が弱いことに起因する。
その際、可溶化剤として使用される、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール等のポリオールは、パラベン類の様な疎水性物質の溶解性を高める可溶化能といった観点からも最適である。元来この種の防腐剤は冷水に難溶であるばかりでなく、90℃以上に加熱した水に溶解させても、液温の低下と共に再び析出してくるものである。しかしながら、予めポリオールに溶解したパラベン類は高濃度で安定して水に溶解することができることが一般に知られている。このような性質は、本発明のジェル状組成物に防腐能を付加する際に極めて有効に機能する。
防腐剤としては、先述のパラベン類の他、安息香酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸、プロピオン酸、及びこれらの塩、P−オキシ安息香酸エステル等が挙げられる。特に、冷水に難溶性の安息香酸、ソルビン酸、プロピオン酸、P−オキシ安息香酸エステルの場合、可溶化能の高いポリオールの使用は効果的である。
本発明のジェル状組成物を得るにあたっては、以上に示した防腐剤のうち1種もしくは2種を、予め絹フィブロインと混合される、水或いはポリオールといった該防腐剤を無理なく溶解させ得る溶媒に溶解させて用いる。
本発明のジェル状組成物は、上述した絹フィブロインが、分散媒中の該分散媒分子運動を妨げないような形態で、溶解乃至分散存在している状態とした溶液に調製したものを、ポリオールの介在下、ジェル状、即ち分散媒中に分散媒分子の分子運動、即ち自由度を完全には奪わない様な形態で結晶化分散している状態に調製し、程良く均一に延びる延展性を呈しているものをいう。
本発明のジェル状組成物を調製するに際し肝要なことは、絹フィブロインが水とポリオールとの介在下、該ジェル状組成物を得るにあたり、絹フィブロイン成分が十分に結晶化してもなお、分散媒の自由度が完全に失われることのないように、つまり本発明の特性である、程よいみずみずしいジェル状で、なお且つ均一な延展性を示すようなジェル状組成物を得るために、該ジェル状組成物中の絹フィブロインファクターを決めなければならないということである。
即ち、絹フィブロインが十分に結晶化した際に、分散媒分子の自由度が完全に失われると言うことは、得られるジェルの物性が極めて強固なものであることを意味し、そのようなジェルは一般的な寒天の様なさくいジェル状を示し、本発明が目的とするところとは全く性状を異にするものである。
絹フィブロインファクターとは、該ジェル状組成物の硬度や延展性の決め手となるものである。それは、ジェル状組成物中の絹フィブロインの平均分子量と絹フィブロイン濃度の二つのパラメーターからなる。ジェル状組成物中の絹フィブロインの平均分子量が大きい場合及び該組成物中の絹フィブロイン濃度が高い場合は、結晶化に際し分散媒分子の自由度を減ずる方向に作用するため、より強固なジェルが生成されることとなる。逆に、該組成物中の絹フィブロインの平均分子量が小さく或いは絹フィブロイン濃度が低い場合は、結晶化に際し分散媒分子の自由度をあまり妨げない方向に作用し、それは、即ち、程良く均一に伸びる延展性を呈する等、本発明で目的とするところのジェル状組成物が求める物性に近くなる。
具体的な例として、重量平均分子量5万前後の絹フィブロインを用いた場合について以下説明する。当該分子量の絹フィブロインを用いた場合、得られるジェル状組成物の性状は、含有する絹フィブロイン濃度によって次の三区に分類される。ジェル状組成物に含有される絹フィブロイン濃度は、ジェル化に際し分散媒の多少によって調整される。
まず該濃度が1.5%を下回る場合、得られるジェル状組成物は、非常に硬度が小さいため、該組成物単体での形状保持能が小さく、振動を与えると該組成物が流動する性状を示す。当然、該濃度が下がるに連れてこの傾向は強くなり、実質的にジェルと標榜できる該濃度の下限値は0.1%程度である。この下限値に満たない条件でジェル化させた場合、十分に絹フィブロイン分が結晶化しても自由度が全く制限されない分散媒分子が必要以上に存在することになり、本発明のジェル状組成物とは趣を異にする傾向にある。
次に該濃度が1.5〜3.5%の範囲内にある場合、得られるジェル状組成物は、延展に適度な硬度を有し、容器を傾けてもジェル状物界面が追従して傾くことがない程度の性状を示す。
最後に該濃度が3.5%を超える場合、得られるジェル状組成物は、手指等の塗擦により延展性を示すものの硬度の大きい性状となる。当然、該濃度が上がるに連れて硬度も増大し、実質的に該組成物単体でジェルと標榜できる該濃度の上限値は5%程度であり、必要に応じ擂潰器やディスパーなど物理的な外力によって、感触の調整を行うことも可能である。
加えて、ジェル状組成物の性状は、絹フィブロインの重量平均分子量の大小によっても操作することが可能である。該分子量を小さくすれば、絹フィブロイン濃度を下げた場合と同様の傾向を示し、該分子量を大きくすれば、絹フィブロイン濃度上げた場合と同じような挙動を示す。その際、該分子量の下限値は1万程度である。これより小さい分子量では、絹フィブロイン濃度を上げてもジェル化が認められない傾向にある。
このように、本発明のジェル状組成物の硬度・延展性を調整するには、上述の絹フィブロインファクターを調整すればよく、即ち、絹フィブロインの平均分子量の調節乃至はジェル状組成物中の絹フィブロイン濃度の調整によって可能である。具体的には該平均分子量の調整は絹フィブロイン液を酵素或いは酸又はアルカリを用いて常法に従って加水分解することによって行う。また、該絹フィブロイン濃度の調整は、ジェル状組成物中の分散媒量を増減することで可能である。当該調整は、ジェル化の前に容易に行えるが、ジェル化後に濾紙による濾別等によって該分散媒を分離することでも可能である。
本発明のジェル状組成物には、通常化粧料に用いられる油剤、着色剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、生理活性成分、昆虫忌避剤や香料等の成分を添加することができる。これら成分は、ジェル化の前に予め水相或いはポリオール相へ混和しておくことが望ましい。また、これら成分の添加総量は該ジェル状組成物重量の50重量%未満とする。
油剤としては、通常化粧料に用いられる揮発性、不揮発性の油剤、溶剤及び樹脂が挙げられ、高級アルコールや多価アルコール、脂肪酸及びそのエステル類、流動パラフィンのような炭化水素やシリコーン油等が挙げられる。
着色剤としては、色素およびレーキ色素のほか、白色を含む有色顔料等が挙げられる。顔料の形状や大きさは特に拘らないが、化粧料として異物と認識されない40μm以下が望ましい。また、スクラブ或いはマッサージ効果を得る目的で、40μmを超える粉末あるいは粒状物を使用しても差し支えない。
生理活性成分とは、皮膚に塗布した場合に皮膚に何らかの生理活性を与える物質を指し、例えば、美白成分、抗炎症剤、老化防止剤、紫外線防御剤、スリミング剤、引き締め剤、抗酸化剤、保湿剤、血行促進剤、抗菌剤、殺菌剤、乾燥剤、冷感剤、温感剤、ビタミン類、アミノ酸、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤、酵素成分等が挙げられる。その中でも、天然系抽出成分が特に好ましい。
これらの成分の例としては、例えば、アシタバエキス、アボカドエキス、アマチャエキス、アルテアエキス、アルニカエキス、アロエエキス、アンズエキス、アンズ核エキス、イチョウエキス、ウイキョウエキス、ウコンエキス、ウーロン茶エキス、エイジツエキス、エチナシ葉エキス、オウゴンエキス、オウバクエキス、オウレンエキス、オオムギエキス、オトギリソウエキス、オドリコソウエキス、オランダカラシエキス、オレンジエキス、海水乾燥物、海藻エキス、加水分解エラスチン、加水分解コムギ末、加水分解シルク、カモミラエキス、カロットエキス、カワラヨモギエキス、甘草エキス、カルカデエキス、カキョクエキス、キウイエキス、キナエキス、キューカンバーエキス、グアノシン、クチナシエキス、クマザサエキス、クララエキス、クルミエキス、グレープフルーツエキス、クレマティスエキス、クロレラエキス、クワエキス、ゲンチアナエキス、紅茶エキス、酵母エキス、ゴボウエキス、コメヌカ発酵エキス、コメ胚芽油、コンフリーエキス、コラーゲン、コケモモエキス、サイシンエキス、サイコエキス、サイタイ抽出液、サルビアエキス、サボンソウエキス、ササエキス、サンザシエキス、サンショウエキス、シイタケエキス、ジオウエキス、シコンエキス、シソエキス、シナノキエキス、シモツケソウエキス、シャクヤクエキス、ショウブ根エキス、シラカバエキス、スギナエキス、セイヨウキズタエキス、セイヨウサンザシエキス、セイヨウニワトコエキス、セイヨウノコギリソウエキス、セイヨウハッカエキス、セージエキス、ゼニアオイエキス、センキュウエキス、センブリエキス、ダイズエキス、タイソウエキス、タイムエキス、茶エキス、チョウジエキス、チガヤエキス、チンピエキス、トウキエキス、トウキンセンカエキス、トウニンエキス、トウヒエキス、ドクダミエキス、トマトエキス、納豆エキス、ニンジンエキス、ニンニクエキス、ノバラエキス、ハイビスカスエキス、バクモンドウエキス、パセリエキス、蜂蜜、ハマメリスエキス、パリエタリアエキス、ヒキオコシエキス、ビサボロール、ビワエキス、フキタンポポエキス、フキノトウエキス、ブクリョウエキス、ブッチャーブルームエキス、ブドウエキス、プロポリス、ヘチマエキス、ベニバナエキス、ペパーミントエキス、ボダイジュエキス、ボタンエキス、ホップエキス、マツエキス、マロニエエキス、ミズバショウエキス、ムクロジエキス、メリッサエキス、モモエキス、ヤグルマギクエキス、ユーカリエキス、ユキノシタエキス、ユズエキス、ヨクイニンエキス、ヨモギエキス、ラベンダーエキス、リンゴエキス、レタスエキス、レモンエキス、レンゲソウエキス、ローズエキス、ローズマリーエキス、ローマカミツレエキス、ローヤルゼリーエキス等を挙げることができる。
本発明のジェル状組成物の具体的な製品群例としては、例えば、ヘアスタイリング剤、フェイシャルユースを含むボディケア及びマッサージ剤、パック剤、ジェル状美容剤等が挙げられる。
次に、本発明におけるジェル状組成物の製造方法について説明する。まず、絹フィブロインを分散媒中に結晶化させるために用いる、絹フィブロイン液を調製する。係る絹フィブロイン液の製造方法は特に限定されるものではないが以下に一例を示す。
本発明に係る絹フィブロイン液とは、水系溶媒中に該溶媒中の溶媒分子運動を妨げないような形態で絹フィブロインが溶解乃至分散存在している状態の水溶液を指す。絹フィブロイン液中の絹フィブロインの重量平均分子量は1万程度以上が好ましい。絹フィブロイン溶液中の絹フィブロインの濃度は、通常1〜30%、好ましくは2〜20%である。1%未満では後工程で濃縮の必要があり、不経済であるし、30%を超えると、粘性が高くなって反応や操作が困難となる場合がある。
絹フィブロイン液は、絹フィブロイン原料を水系溶媒に均一に溶解もしくは分散させて作成するが、それに適した水系溶媒の一例として、銅−エチレンジアミン水溶液、水酸化銅−アンモニア水溶液(シュワイサー試薬)、水酸化銅−アルカリ−グリセリン水溶液(ローエ試薬)、臭化リチウム水溶液、カルシウム或いはマグネシウム又は亜鉛の塩酸塩或いは硝酸塩又はチオシアン酸塩の水溶液、チオシアン酸ナトリウム水溶液等が挙げられる。コスト及び使用上の点からカルシウム又はマグネシウムの塩酸塩又は硝酸塩の水溶液が好ましい。また、これらの水溶液の濃度は使用する溶媒の種類、温度等により異なるが、金属塩等の濃度は通常10〜80%、好ましくは20〜40%である。80%以上でも溶解するが、生成する絹フィブロイン液に実質的な差異が無く経済性の点で問題である。
精練後の絹原料を前記水溶液よりなる溶媒に添加し、温度を室温〜95℃、好ましくは50〜85℃で、内容物が撹拌可能な容器内で均一に溶解する。液比は絹原料1に対して溶媒が通常2〜50、好ましくは3〜30である。得られた絹フィブロイン液は、必要に応じ、透析することで精製する。透析はセロファン膜に代表される透析膜や中空繊維を使用した透析器を用いることができるが、透析中に絹フィブロインが結晶化し、水不溶化することの無いよう、透析条件を選択する。
本発明のジェル状組成物中の絹フィブロイン濃度を調整すると、該ジェル状組成物の硬度・延展性を調整することが可能である。また、絹フィブロイン液の平均分子量を調整することによっても同様の調整が可能である。この平均分子量の調整は、絹フィブロイン原料を水系溶解溶媒に溶解する際の処理条件を操作することで、或いは絹フィブロイン液に酵素或いは酸又はアルカリを用いて常法に従い、加水分解することによって、調整することが可能である。
次に、得られた絹フィブロイン液のpHを操作するために、次のいずれかの方法を用いる。該液のpHを酸性サイドへ操作すると、ジェル化を促し、より短時間でジェルが得られる。該液系のpHは7以下の酸性サイドであれば良く、絹フィブロイン液の等電点(pH4.5前後)からpH3.8付近であればより好ましい。
絹フィブロイン液のpHを操作する方法としては、酸化側電解生成水を用いる方法が挙げられる。
本発明に係る酸化側電解生成水とは、陽極側と陰極側との間にイオン交換樹脂等の隔膜を設け、塩化ナトリウムを添加した水或いは添加しない水を電気分解することにより、陽極側に得られる酸性サイドの水のことを言う。機能水、電解機能水、酸性水、酸化水等の様々な名称で呼ばれることがあるが、本質は無機或いは有機の酸の添加によらずに電気的に分解することで酸性を呈する水を指す。また該酸化側電解生成水は肌につけてアストリンゼントとして化粧料にも用いられ、肌を引き締めるいわゆる収斂効果も期待できることが知られている。
絹フィブロイン液に、弱撹拌下、酸化側電解生成水を徐々に加えながらpHを調整するわけであるが、この場合、絹フィブロインの濃度が、該生成水の添加により下がってしまうので、必要に応じ、元となる絹フィブロイン液中の絹フィブロイン濃度を上げておかなければならない。
上述の方法以外に、使用水やアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液を予め強酸性陽イオン交換樹脂で処理し、該使用水内の陽イオンを水素イオンに交換したイオン交換水を用い、該交換水を絹フィブロイン液に徐々に加えると言った方法を採ることも可能である。
また、他の方法として、絹フィブロイン液を強酸性陽イオン交換樹脂でイオン交換する方法が挙げられる。絹フィブロイン原料の水系溶解溶媒は先述の通りであり、液中には銅やリチウム、カルシウム等の陽イオンが存在している。これらの陽イオンを、該樹脂を用いて水素イオンに交換することで、pHを調整する。
本発明に係る強酸性陽イオン交換樹脂は、高分子基体にイオン交換基を結合させた構造のもので、該交換基にスルホン酸基を結合させたものである。その構造により、ゲル形とマクロポーラス形に大別されるが、いずれの形でも差し支えない。また、イオン交換樹脂メーカーやグレードによって樹脂粒径の分布、総交換容量や架橋度に差異があるが、使用に際して特に限定されるものではない。
イオン交換にあたって該樹脂は、予めH+形に再生しておく。再生は常法に従って行い、塩酸或いは硫酸を用いて実施すればよい。
また、交換の方法は、特に定めるものはなく、公知のバッチ方法や連続方法のいずれでも可能である。
上記のように、強酸性陽イオン交換樹脂を用いた場合、工業的に容易且つ安価にpH調整を可能とし、且つ絹フィブロイン溶液の容量を増加させることなく所望のpHに調整できるので、液中の絹フィブロイン濃度調整の自由度が向上するという利点がある。
次いで、上述の方法にて調製した絹フィブロイン液にポリオールを加える。添加量は用いるポリオールの種類にもよるが、ジェル状組成物中、好ましくは2〜30%、より好ましくは5〜15%である。ポリオールの添加量が多い程、ジェルの延展性は大きくなる。また、疎水性の防腐剤を該ジェル状組成物に添加する時は、予め該防腐剤をポリオールに溶解させた後、絹フィブロイン液へ加える。
該絹フィブロイン液にポリオールを加える際に、絹フィブロイン液はポリオールの添加やプロペラ撹拌によるシェアリングで物性が変化し、絹フィブロインの析出が生じる。即ち、絹フィブロイン液中に急激に又は局所的にポリオールを加えたり、十分な混和を求めるあまりプロペラ等で強撹拌して絹フィブロイン液に大きなシェアを与えるような操作を行ったりすると、たちまち該フィブロイン液中に白色の絹フィブロインが析出する。このような現象を回避するため、絹フィブロイン液にポリオールを混合する際は、一度に急激に加えることのないよう、絹フィブロイン液の弱撹拌下、徐々にポリオールを加えるようにすることが好適である。
この時点で無色澄明乃至淡褐色半透明の絹フィブロイン液は、わずかに白色化し、時間と共に懸濁度が増加し、それに連れて粘度も上昇する。この状態から、絹フィブロインの濃度や分子量、ポリオールの種類や量によっても異なるが、数時間乃至一晩程度で本発明のジェル状組成物が得られる。
ポリオールの添加によって、ジェル化に要する時間が無添加のものより短縮される点も、生産性という観点から好都合である。
得られたジェル状組成物は、該pHが酸性サイドであるため、必要に応じアルカリ剤を加えて、pH調整することが可能である。また、濾紙等で水分を除去し、ジェルの硬度を調整することも可能である。
得られたジェル状組成物は、絹フィブロインを水系溶媒中の溶媒分子運動を妨げないような形態で分散乃至溶解している溶液状態に調製したものを、pH調整の上ポリオールの介在下、ジェル状を呈する性質のものである。即ち分散媒中に、分散媒分子の分子運動、即ち自由度を完全には奪わない様な形態で絹フィブロイン分子が結晶化分散している状態を呈しているため、程良く均一に延びる延展性を呈しているものである。
以上のようにして得られた絹フィブロインを含有するジェル状組成物は、程良く均一に伸びる延展性を呈し、また保水性に富みジェル特有のみずみずしい質感を有している。本発明のジェル状組成物を主体とし、通常化粧品に用いられる成分を付加することで、ジェル状美容液や皮膚化粧料、マッサージ料やヘアワックス等の毛髪化粧料が容易に得られる。すなわち美白成分やミネラル等の有効成分を適量配合した従来に実現することが難しかったシルク主体が謳える美容液等の化粧料の製造を可能にする。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお例中の%表記は質量%を表す。
[実施例1]
絹フィブロイン液の原料となる撚糸屑を、1.0%マルセル石鹸溶液(浴比30倍)で1時間煮沸精練してセリシンを除去し、水洗後、熱風乾燥した。次いで、ニーダーに38%塩化カルシウム溶液を準備し、該脱セリシン撚糸屑を浴比で5倍相当量投入し、加熱捏和・溶解させた。濾過して不純物を除去後、ホローファイバー型の透析装置を用いて透析・脱塩し、絹フィブロイン液を得た。得られた絹フィブロイン液の絹フィブロイン濃度は5.5%で重量平均分子量は4.1×104だった。
得られた絹フィブロイン液545gに、酸化側電解生成水(ジプコム株式会社製サニーハイ水、pH2.3)325gを加え、合計で870gの水相とした。ポリオール相は、1,3ブチレングリコール130gを準備した。水相の弱撹拌下、ポリオール相を徐々に投入し、十分混和したところで密栓し、冷蔵保存した。14時間後には、系全体が一様に白色化し延展性に富んだジェルが得られたことを確認した。このときの絹フィブロイン及びポリオールの含有量はそれぞれ3%、13%であった。
得られたジェル状組成物は、硬度が小さく、程よい延展性を呈し、肌や毛髪に滑らかになじむ性質のものであった。手肌への塗布に関しては少量でもムラ無くスムーズに延び、乾燥後はともすればべたつきがちなポリオールのしっとり感を絹フィブロインのさらさら感が上手くカバーした、使用性に優位な保湿剤が得られた。
[比較例]
実施例1で用いた酸化側電解生成水325gにイオン交換水130gを加え(pH2.3)、これを実施例1で得られた絹フィブロイン溶液545gに、徐々に加えた。十分に混和した後これを密栓し、冷蔵保存した。14時間経過時点では白濁化が確認されたが性状は未だ水様だった。23時間経過時点では粘稠度の増加が確認されたが、容器を傾けるとそれに連れて内容物も流動し、ジェル化が完了しているとは言えない状態だった。39時間経過時点では容器を傾けても流動せず、ジェル化が完了したと確認された。
得られたジェル状組成物は、実施例1と同様な手肌への塗布感を呈していたが、乾燥後は絹フィブロインのさらさら感のみが強調された感じとなった。
[実施例2]
絹フィブロイン液の原料となるブーレットを、1.0%マルセル石鹸溶液(浴比30倍)で1時間煮沸精練してセリシンを除去し、水洗後、熱風乾燥した。次いでニーダーに7%銅エチレンジアミン溶液を準備し、該脱セリシンブーレットを浴比で10倍相当量投入し、常温下捏和・溶解させた。得られた溶解液をセルロースチューブで流水透析し、不溶物を濾過除去して、絹フィブロイン液を得た。得られた絹フィブロイン液の絹フィブロイン濃度は6.3%で重量平均分子量は1.5×104だった。
得られた絹フィブロイン液をH型に再生した強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製アンバーライトIR120B Na)を用いてバッチ処理でイオン交換し、該液200gに水85gを加えて水相とした。ポリオール相は、1,2ヘキサンジオール9g、グリセリン1.5g及びプロピレングリコール4.5gを混合したものを準備した。水相の弱撹拌下、ポリオール相を徐々に投入し、十分混和したところで密栓し、冷蔵保存した。16時間後には、系全体が一様に白色化しジェルが得られたことを確認した。このときの絹フィブロイン及びポリオールの含有量はそれぞれ4.2%、5%であった。
得られたジェル状組成物は、実施例1に比較して硬度は大きいものの、手指による塗擦で何ら無理なく手肌上で延び、肌や毛髪に滑らかになじむ性質のものであった。
[実施例3]
絹フィブロイン液の原料として生糸屑を用い、実施例1に準じて精練、溶解した。得られた溶解液をセルロースチューブで流水透析し、不溶物を濾過除去して、絹フィブロイン液を得た。得られた絹フィブロイン液の絹フィブロイン濃度は7.5%で重量平均分子量は8.2×104だった。
得られた絹フィブロイン液をH型に再生した強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製アンバーライトIR120B Na)を用いてバッチ処理でイオン交換し、該液267gに水1529gを加えて水相とした。ポリオール相は、1,3ブチレングリコール200gにメチルパラベン4gを溶解したものを準備した。水相の弱撹拌下、ポリオール相を徐々に投入し、十分混和したところで密栓し、冷蔵保存した。15時間後には、系全体が一様に白色化しジェルが得られたことを確認した。このときの絹フィブロイン及びポリオールの含有量はそれぞれ1%、10%であった。
得られたジェル状組成物は、僅かな振動でその形状を崩してしまう程の非常に硬度の小さいジェルで、ごく僅かな量で広い塗布面積をカバーできる性質のものであった。

Claims (1)

  1. 絹フィブロイン液を強酸性陽イオン交換樹脂で処理した後、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、1,2ペンタンジオール、1,2ヘキサンジオール、及びグリセリンから選ばれる1種又は2種以上のポリオールと混合した後、16時間以内にジェル化させ、最終組成物に対する絹フィブロインの含量が0.1〜5.0質量%であることを特徴とするジェル状組成物の製造方法。
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