JP4054512B2 - クラッチドラム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、クラッチドラム、特に、複数のクラッチプレートが収容されるクラッチドラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
オートマチック車等に用いられるトランスミッションには湿式多板クラッチが組み込まれている。多板クラッチは、クラッチドラムと、ピストンと、複数のドライブプレートと、複数のドリブンプレートと、出力側部材とを備えている。クラッチドラムは一端側が開放された円筒形状の部材である。クラッチドラムはエンジン側からトルクが入力される入力軸に連結されている。ピストンはクラッチドラム内に軸方向に移動自在に配置されている。ドライブプレートとドリブンプレートとはクラッチドラム内に軸方向に交互に並んで配置されている。また、ドライブプレートはクラッチドラムの内周部に軸方向に移動自在かつ相対回転不能に係合し、ドリブンプレートは出力側部材の外周部に軸方向に移動自在かつ相対回転不能に係合している。出力側部材はトランスミッション側の出力軸に連結されている。
【0003】
このクラッチでは、クラッチがオンされると、ピストンに油圧が供給され、ピストンは作動油に押圧されて軸方向に移動する。すると、ドライブプレート及びドリブンプレートはピストンにより互いに圧着される。これにより、ドライブプレートとドリブンプレートとは一体回転可能となり、エンジンからのトルクは、入力軸、クラッチドラム、ドライブプレート、ドリブンプレート及び出力側部材を順次経由してトランスミッション側に伝達される。
【0004】
この種のクラッチのクラッチドラムは、一般的に、筒状部と、筒状部の内周部に形成された複数の歯とを有している。複数の歯はドライブプレートの外周部と係合し、ドライブプレートは筒状部に対して軸方向に移動自在かつ相対回転不能となっている。
【0005】
このクラッチドラムでは、複数の歯は筒状部から内周側に突出して形成されているため、歯が形成された箇所は肉厚になっている。このため、クラッチドラム全体の重量は歯が形成された分だけ重くなっている。クラッチドラムの重量が重いと、クラッチドラムの回転が停止するタイミングが遅れるため、変速時に不具合が生じることがある。
【0006】
このような問題に対処すべく、図4及び5に示すように、複数の歯の歯面のみを残すようにして軽量化を図ったクラッチドラムが既に提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
図4に示すように、歯25’の外周部が大きく窪んだクラッチドラム15’では、クラッチドラム15’全体の重量は低減されるが、クラッチドラム15’の回転時にドラム外周側に配置された作動油との攪拌抵抗が大きくなり、機械損失が大きくなる。
【0008】
一方、図5に示すように、歯面のみを形成したクラッチドラム15”でもクラッチドラム15”全体の重量は低減されるが、歯25”の大部分が薄肉に形成されているため、クラッチドラム15”の機械強度が低下してしまう。特に、ドライブプレートから回転方向に受ける応力に対しては強度を十分に確保することができない。
【0009】
本発明の目的は、クラッチドラムの機械損失を抑えつつクラッチドラムを軽量化することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載のクラッチドラムは、複数のクラッチプレートが収容されるものであって、筒状部と、筒状部の内周側に円周方向に並んで配置され軸方向に延びる複数の歯とを有している。複数の歯は内周面及び回転方向両側の面を有するとともに、筒状部の内周面側には複数の歯の回転方向間にある歯底面が形成されている。筒状部の外周面において複数の歯に対応する部分には内周側に窪む円弧状の面を有する第1凹部が形成され、複数の歯の内周面には外周側に窪む円弧状の面を有する第2凹部が形成されている。そして、第1凹部は筒状部の外周面に滑らかに連続して形成されるとともに、第2凹部は歯の内周面と滑らかに連続して形成されている。
【0011】
このクラッチドラムでは、クラッチがオンされると、複数のクラッチプレートは、複数の歯に案内されて軸方向に移動し、互いに圧着される。これにより、複数のクラッチプレート間でトルク伝達が可能となる。そして、筒状部の外周面及び内周面には、それぞれ複数の歯に対応してそれぞれ円弧状の面を有する第1凹部及び第2凹部が形成されており、複数の歯は従来のクラッチドラムの歯に比べ薄肉になっている。
【0012】
ここでは、筒状部の外周面及び内周面の両面に凹部を形成する構成であるため、第1凹部及び第2凹部をともに、比較的小さくしても所望の軽量化を図ることができる。しかも、筒状部の外周面では機械損失を低減することができ、筒状部の内周面ではクラッチドラムの機械強度を確保することができる。また、第1凹部は筒状部の外周面と滑らかに連続して形成されているので、筒状部外周面と作動油との攪拌抵抗をより小さくし、機械損失をより低減することができる。さらに、第2凹部が歯の内周面と滑らかに連続して形成されているので、歯の肉厚は周方向に滑らかに変化しており、このため、クラッチドラムの機械強度は十分に確保される。
【0013】
請求項2に記載のクラッチドラムは、請求項1のクラッチドラムにおいて、複数の歯の内周面の周方向端部と第1凹部との最短距離は第2凹部と第1凹部との最短距離より長い。
【0014】
請求項3に記載のクラッチドラムは、請求項1又は2のクラッチドラムにおいて、歯底面を円周方向に連結した外周円弧と、複数の歯の最内周縁を円周方向に連結した内周円弧と、各歯の歯面を延ばした線とによって画定される断面の面積を基準断面積Sとし、第1凹部と外周円弧とによって画定される断面の面積を断面積S1としたとき、各歯において、断面積S1は基準断面積Sに対して0.05以上0.40以下の範囲である。
【0015】
請求項4に記載のクラッチドラムは、請求項1から3のいずれかのクラッチドラムにおいて、歯底面を円周方向に延ばした外周円弧と、複数の歯の最内周縁を円周方向に連結した内周円弧と、各歯の歯面を延ばした線とによって画定される断面の面積を基準断面積Sとし、第2凹部と内周円弧とによって画定される断面の面積を断面積S2としたとき、各歯において、断面積S2は基準断面積Sに対して0.05以上0.30以下の範囲である。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1に本発明の一実施形態によるクラッチドラム15を備えた多板クラッチ3を示す。多板クラッチ3は、クラッチケース7内に収容されており、クラッチドラム15と、クラッチプレート17と、クラッチディスク18と、ピストン28と、出力側部材16とを備えている。
【0017】
クラッチドラム15は、一端側が開口された円筒状部材であり、内周部から順に連結部24、ボス部20、円板状壁部22、複数の歯25及び筒状部23が形成されている。連結部24はエンジン(図示せず)側から延びる入力軸1の外周部にスプライン係合して連結される。ボス部20は、クラッチケース7の内周部に出力側に突出して形成された支持部21回りに回転自在に支持されている。ボス部20の外周部にはばね保持部材45が連結されており、ばね保持部材45とピストン28との間にリターンスプリング47が圧縮状態で配置されている。歯25は、筒状部23から内周側に突出してかつ軸方向に延びて形成された凸状部分であり、円周方向に並んで配置されてクラッチプレート17の外周部が係合する。
【0018】
クラッチプレート17及びクラッチディスク18は、クラッチドラム15内に複数枚収容されており、軸方向に交互に並んで配置されている。クラッチプレート17の外周部には複数の歯が形成されており、この歯がクラッチドラム15の歯25に軸方向に移動自在かつ相対回転不能に係合している。クラッチディスク18の内周部は出力側部材16の外周部に軸方向に移動自在かつ相対回転不能に係合している。
【0019】
ピストン28は、クラッチドラム15の円板状壁部22と出力側部材16との間に軸方向に移動自在に配置されている。ピストン28の外周部出力側(図1の左方)には、隣接するクラッチプレート17を押圧するための押圧面28aが形成されている。ピストン28とクラッチドラム15との間にはピストン28を出力側に押圧するための作動油が供給される作動油室30が形成されている。この作動油室30は、クラッチケース7の内周部に形成された油路を32介して油圧制御機構(図示せず)に連結されている。
【0020】
出力側部材16は、クラッチプレート17及びクラッチディスク18の内周側にピストン28に対向して配置された環状部材であり、前述のように、外周部にはクラッチディスク18が係合している。出力側部材16の内周部には、トランスミッション(図示せず)側から延びる出力軸2の外周部が軸方向に移動自在かつ相対回転不能に係合している。
【0021】
次に、クラッチドラム15について詳細に説明する。
【0022】
ここでは、クラッチドラム15の筒状部23及び歯25に注目して説明する。
【0023】
クラッチドラム15は、前述のように、筒状部23とクラッチプレート17と係合するための複数の歯25を有している。
【0024】
図2及び3に示すように、歯25は、軸方向に延びて円周方向に並んで複数箇所に形成されている。各歯25の内周面は、軸方向に延びて形成された内周凹部27と、内周凹部27の回転方向両側に形成された歯頂部29とを有している。内周凹部27と歯頂部29とは、回転方向に滑らかに連続して形成されている。各歯25の回転方向両端面には歯面31が形成されている。歯頂部29と歯面31とが交差する部分には歯角33が形成されている。各歯25の回転方向間には歯底面35が形成されている。
【0025】
筒状部23の外周面には、内周凹部27に対応して外周凹部37が形成されている。外周凹部37は、筒状部23の外周面に滑らかに連続して形成されている。
【0026】
ここで、図3に基づいて、この実施形態における筒状部23及び歯25の設計条件について説明する。
【0027】
歯角33と外周凹部37との最短距離xは、内周凹部27と外周凹部37との最短距離yより長い。
【0028】
歯底面37を円周方向に連結する外周円弧p1と、歯頂部29を円周方向に連結する内周円弧p2と、歯面31を含む延長線qとにより画定された領域の面積を基準断面積Sとし、外周凹部37と外周円弧p1とによって画定される領域の面積を断面積S1とする。このとき、各歯25において、断面積S1は基準断面積Sに対して0.05以上0.40以下の範囲にある。
【0029】
また、内周凹部27と内周円弧p2とにより画定される領域の面積を断面積S2とする。このとき、各歯25において、断面積S2は基準断面積Sに対して0.05以上0.30以下の範囲にある。
【0030】
次にクラッチドラム15の動作について説明する。
【0031】
油圧制御機構により油路32を介して作動油室30に油圧が供給されると、ピストン28が作動室30内の作動油により出力側に押圧される。すると、ピストン28はリターンスプリング47の付勢力に抗して出力側に移動してクラッチプレート17及びクラッチディスク18を互いに圧着させる。これにより、クラッチプレート17とクラッチディスク18とは一体回転可能となり、エンジンからのトルクは、入力軸1、クラッチドラム15、クラッチプレート17、クラッチディスク18、出力側部材16、出力軸2を順次経由してトランスミッション側に伝達される。
【0032】
このとき、クラッチドラム15には、外周凹部37及び内周凹部27が形成されているため、各歯25は凹部が設けられていない従来のクラッチドラムの歯に比べ薄肉に形成された部分を有する。したがって、このクラッチドラム15は従来のクラッチドラムに比べ軽量化されている。また、外周凹部37は外周面と回転方向に滑らかに形成されているため、筒状部23外周面と作動油との間の攪拌抵抗が低減されるとともに、機械損失も低減することができる。さらに、外周及び内周に凹部が形成されているため、図4及び図5に示した従来の凹部に比べ各凹部の大きさを小さくして所望の軽量化が図れる。しかも、筒状部23の外周側では作動油との攪拌抵抗をより低減させることができ、筒状部23の内周面ではクラッチドラムの機械強度を十分に確保することができる。
【0033】
[他の実施形態]
(a)筒状部23及び歯25の設計条件は、上記実施形態の条件に限定されず他の条件を採用することもできる。
【0034】
(b)筒状部23及び歯25には筒状部23の内周側と外周側とを連通する連通孔が形成されてもよい。この構成によれば、筒状部23の内周側から外周側あいは逆向きに作動油を供給することができる。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、筒状部の外周及び内周に凹部が形成されているため、両凹部を比較的小さくしても所望の軽量化が図れる。しかも、クラッチドラムの機械損失を抑えかつクラッチドラムの機械強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態によるクラッチドラムを備えた多板クラッチを示す縦断面図。
【図2】 前記クラッチドラムを示す部分斜視図。
【図3】 前記クラッチドラムを示す部分上面図。
【図4】 従来のクラッチドラムの一例を示す部分上面図。
【図5】 従来のクラッチドラムの他の例を示す部分上面図。
【符号の説明】
15 クラッチドラム
17 クラッチプレート
23 筒状部
25 歯
27 内周凹部
29 歯頂部
31 歯面
35 歯底面
37 外周凹部
Claims (4)
- 複数のクラッチプレートが収容されるクラッチドラムであって、
筒状部と、
前記筒状部の内周側に円周方向に並んで配置され軸方向に延びる複数の歯とを有し、
前記複数の歯は内周面及び回転方向両側の歯面を有するとともに、前記筒状部の内周面側には前記複数の歯の回転方向間にある歯底面が形成されており、
前記筒状部の外周面において前記複数の歯に対応する部分には内周側に窪む円弧状の面を有する第1凹部が形成され、前記複数の歯の内周面には外周側に窪む円弧状の面を有する第2凹部が形成されており、
前記第1凹部は前記筒状部の外周面に滑らかに連続して形成されるとともに、前記第2凹部は前記歯の内周面と滑らかに連続して形成されている、 - 前記複数の歯の内周面の円周方向端部と前記第1凹部との最短距離は前記第2凹部と前記第1凹部との最短距離より長い、請求項1に記載のクラッチドラム。
- 前記歯底面を円周方向に連結した外周円弧と、前記複数の歯の最内周縁を円周方向に連結した内周円弧と、前記各歯の歯面を延ばした線とによって画定される断面の面積を基準断面積Sとし、
前記第1凹部と前記外周円弧とによって画定される断面の面積を断面積S1としたとき、
前記各歯において、前記断面積S1は前記基準断面積Sに対して0.05以上0.40以下の範囲である、
請求項1または2に記載のクラッチドラム。 - 前記歯底面を円周方向に延ばした外周円弧と、前記複数の歯の最内周縁を円周方向に連結した内周円弧と、前記各歯の歯面を延ばした線とによって画定される断面の面積を基準断面積Sとし、
前記第2凹部と前記内周円弧とによって画定される断面の面積を前記断面積S2としたとき、
前記各歯において、前記断面積S2は前記基準断面積Sに対して0.05以上0.30以下の範囲である、
請求項1から3のいずれかに記載のクラッチドラム。
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