JP4050871B2 - 高炉炉内状態の判断装置、判断方法および記録媒体 - Google Patents
高炉炉内状態の判断装置、判断方法および記録媒体 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高炉炉内状態の判断装置、判断方法および記録媒体に関し、特に、高炉の炉内状態を予測したり、判断したりする高炉炉内状態の判断装置に用いて好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、高炉では複数の検出端を用いて計測した炉内状態を示す計測値に従い、高炉の炉内状態を制御し操業を行っていた。上記複数の検出端としては高炉の炉壁に設けられた熱電対等があり、上記熱電対等を用いて計測した温度に従い高炉の炉内状態を判断し、健全状態を維持して操業するように制御を行っていた。例えば、上記計測した温度から求めた熱流束値が急激に大きくなった場合には、炉壁煉瓦の溶損等を防止するために熱流束値が小さくなるように休風を行ったりしていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、健全状態を維持しながら高炉の操業を行うためには、高炉の炉内状態を正確に、かつ速やかに判断する必要がある。しかしながら、従来は高炉の炉内状態の判断を、計測値そのものの時間履歴を示した時間−計測値グラフを用いて行っていた。上記時間−計測値グラフは、高炉の炉内状態の変化に対して所定の応答時間で変化する計測値を示したものである。したがって、上記時間−計測値グラフのみから高炉の炉内状態を判断するためには、豊富な経験と或る程度の長い作業時間が必要であり、従来は高炉の炉内状態を正確に、かつ速やかに判断することは困難であった。
【0004】
本発明は、上述のような問題を解決するために成されたものであり、高炉に設けられた検出端を介して計測された炉内状態を示す計測値に基づいて、高炉の炉内状態を正確に、かつ速やかに判断できるようにすることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の高炉炉内状態の判断装置は、高炉に設けられた検出端を介して計測され、上記高炉の炉内状態が反映された第1の時系列情報に基づいて、リカレンスプロットを作成するプロット作成手段と、上記プロット作成手段により作成したリカレンスプロットのプロット構造に基づいて、上記高炉の炉内状態を判断する判断手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
本発明の高炉炉内状態の判断装置の他の特徴とするところは、上記第1の時系列情報を用いて、逆問題解析により高炉の稼動面における第2の時系列情報を求める演算手段を備え、上記プロット作成手段は、上記演算手段により求めた第2の時系列情報に基づいて、上記リカレンスプロットを作成することを特徴とする。
【0007】
本発明の高炉炉内状態の判断装置のその他の特徴とするところは、上記判断手段による判断結果に応じて、上記高炉の炉内状態の制御を行う制御手段を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の高炉炉内状態の判断装置のその他の特徴とするところは、上記プロット作成手段により作成したリカレンスプロットのプロット構造の変化に基づいて、高炉の炉内状態を予測する状態予測手段を具備することを特徴とする。
本発明の高炉炉内状態の判断装置のその他の特徴とするところは、上記判断手段は、上記プロット作成手段により作成したリカレンスプロットと、過去に得られた高炉の炉内状態に関するリカレンスプロットとのプロット構造を比較し、その比較結果に基づいて高炉の炉内状態の制御の可否を判断することを特徴とする。
【0009】
本発明の高炉炉内状態の判断方法は、高炉に設けられた検出端を介して計測され、上記高炉の炉内状態が反映された第1の時系列情報に基づいて、リカレンスプロットを作成し、作成したリカレンスプロットのプロット構造に基づいて、上記高炉の炉内状態を判断することを特徴とする。
【0010】
本発明の高炉炉内状態の判断方法の他の特徴とするところは、上記第1の時系列情報を用いて、逆問題解析により高炉の稼動面における第2の時系列情報を求め、上記求めた第2の時系列情報に基づいて、上記リカレンスプロットを作成することを特徴とする。
【0011】
本発明の高炉炉内状態の判断方法のその他の特徴とするところは、上記判断の結果に応じて、上記高炉の炉内状態の制御を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明の高炉炉内状態の判断方法のその他の特徴とするところは、上記作成したリカレンスプロットのプロット構造の変化に基づいて、上記高炉の炉内状態を予測することを特徴とする。
本発明の高炉炉内状態の判断方法のその他の特徴とするところは、上記作成したリカレンスプロットと、過去に得られた上記高炉の炉内状態に関するリカレンスプロットとのプロット構造を比較し、その比較結果に基づいて、上記高炉の炉内状態の制御の可否を判断することを特徴とする。
【0013】
本発明のコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、上記各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムを記録したことを特徴とする。
また、本発明のコンピュータ読み取り可能な記録媒体の他の特徴とするところは、上記高炉炉内状態の判断方法の手順をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したことを特徴とする。
【0014】
上記のように構成した本発明によれば、高炉に設けられた検出端を介して計測された第1の時系列情報に基づいて、リカレンスプロットが作成され、そのプロット構造に基づいて、高炉の炉内状態が判断されるので、高炉の炉内状態を上記作成したリカレンスプロットのプロット構造およびプロット構造の変化として捉えることができるようになる
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態による高炉炉内状態の判断装置の一構成例を示すブロック図である。
【0016】
図1において、10は高炉であり、20は熱電対である。熱電対20は、高炉10の炉床壁内に設置され、炉底煉瓦を介して高炉10の炉底温度を検出する。なお、以下の説明では、炉底煉瓦を介して熱電対20の位置において検出された高炉の炉底温度を「高炉炉底温度」と称し、高炉炉床稼動面において検出したと仮定した場合の高炉の炉底温度を「高炉稼動面における温度」と称して区別する。
【0017】
30は計測部であり、熱電対20により検出された高炉炉底温度を計測する。
40は演算部であり、上記計測部30により計測された時系列の高炉炉底温度に基づいて、時系列の高炉稼動面における温度を逆問題解析により求めたり、求めた高炉稼動面における温度に基づいて、リカレンスプロットを作成したりする。上記演算部40は、逆問題解析部41、アトラクタ作成部42、グラフ作成部43および記憶部44を含み構成される。
【0018】
逆問題解析部41は、時系列の高炉炉底温度および炉底煉瓦の物性値等を用いて逆問題解析を行い、高炉稼動面における温度を求める。すなわち、逆問題解析部41は、仮に高炉稼動面で計測したと仮定した場合に計測される温度データの算出を行う。
【0019】
上記逆問題解析では、例えば、高炉10、熱電対20および熱電対20が設置された炉底煉瓦を含む系を対象にした所定の方程式(偏微分方程式等)と、高炉稼動面における温度の仮定値とを用いて、高炉炉底温度(熱電対20の位置における温度)を算出する。その算出した温度と、計測部30により実際に計測された高炉炉底温度との誤差が所定の値より小さくなるように、高炉稼動面における温度の仮定値を修正し高炉炉底温度の算出を繰り返す。そして、算出した温度と、実際に計測された高炉炉底温度との誤差が所定の値より小さくなったときの仮定値を高炉稼動面における温度とする。
【0020】
また、例えば、次式に基づいて、高炉稼動面における温度を算出する。
【0021】
【数1】
【0022】
上記式(1)は非定常の熱伝導方程式である。上記式(1)に対して、所定の演算等を施すと式(2)のような積分境界方程式になる。式(2)において、Gは共役方程式の解、uはスカラー値である温度、∂u/∂nはスカラー勾配である熱流束値である。
【0023】
式(2)において、左辺は高炉稼動面に関する積分であり、右辺は所定の既知境界面、例えば熱電対20の設置位置を含む面に関する積分である。したがって、計測部30により計測した高炉炉底温度に基づいて、式(2)の右辺の値が求められ、求めた値から式(2)の左辺の高炉稼動面における熱流束値∂u/∂nが求められる。さらに、上述のようにして得られた高炉稼動面における熱流束値∂u/∂nを、高炉炉底温度を境界条件として解くことにより高炉稼動面における温度uを算出する。
【0024】
アトラクタ作成部42は、逆問題解析部41により算出された時系列の高炉稼動面における温度、または熱流束値に基づいて、アトラクタと呼ばれる軌道を再構成する。まず、アトラクタ作成部42は、逆問題解析部41により算出された時系列の高炉稼動面における温度、または熱流束値から、対象とする現象の2倍以上の次元mを持つ遅延ベクトルv(t)=(u(t),u(t+τ),u(t+2τ),…,u(t+(m−1)τ))を作成する。
【0025】
ここで、上記遅延ベクトルv(t)において、u(T)は時刻Tにおける高炉稼動面における物理量である。例えば、上記逆問題解析部41が上述した式(1)、(2)を用いて、高炉稼動面における温度または熱流束値を算出した場合には、上記u(T)は高炉稼動面における温度または熱流束値である。なお、以下の説明では、上記u(T)として、高炉稼動面における熱流束値を用いた場合について説明する。
【0026】
次に、アトラクタ作成部42は、上記作成した遅延ベクトルv(t)を所定の次元を有する位相空間に写像する。この写像した遅延ベクトルv(t)の時間推移による軌道を作成することによりアトラクタを再構成する。
【0027】
グラフ作成部43は、上記アトラクタ作成部42により再構成したアトラクタに基づいてリカレンスプロットを作成したり、作成したリカレンスプロットに基づいて上記高炉稼動面における熱流束値が示す挙動の周期および周期性をグラフ化したりする。
上記リカレンスプロットは、現在の状態と過去の状態との類似構造を視覚化するものであり、多次元であるアトラクタの挙動を所定の規則に従って、2次元表示することにより得られる。具体的には、グラフ作成部43は、再構成アトラクタにおいて、現在時刻の点から所定の距離内にある近傍点を検索する。その結果、検索された近傍点の時刻を、横軸を現在時刻、縦軸を上記近傍点の時刻として2次元表示することによりリカレンスプロットを作成する。
【0028】
また、上記リカレンスプロットにおいては、対角線(現在時刻と近傍点の時刻とが同じ点の集合)に平行な線分の長さがその状態の周期性を示し、上記線分と上記対角線との垂直距離が周期を示す。したがって、上記リカレンスプロットの各点と対角線との距離を、時間に対してそれぞれプロットすることにより、対象とする状態の周期および周期性をグラフ化したものが得られる。
【0029】
記憶部44は、上記逆問題解析部41、アトラクタ作成部42およびグラフ作成部43での処理に用いるデータを記憶するものである。記憶部44には、計測部30により計測された高炉炉底温度、逆問題解析部41により算出された高炉稼動面における温度、熱流束値、アトラクタ作成部42により作成された再構成アトラクタ等が記憶される。
50は先験情報記憶部であり、過去の実験、経験等により得られた高炉の状態とその状態の挙動を示したリカレンスプロットとが記憶されている。
【0030】
60は判断部であり、状態予測部61および状態判断部62を含み構成される。上記判断部60は、上記演算部40から供給されるリカレンスプロットに基づいて高炉10の炉内状態を予測したり、上記リカレンスプロットと上記先験情報記憶部50に記憶されているリカレンスプロットとに基づいて所定の制御処理が高炉10の炉内状態に対して有効に作用するか否かを判断したりする。
【0031】
状態予測部61は、上記演算部40から供給されるリカレンスプロットのプロット構造(形状)に基づいて、将来(未来)の高炉10の炉内状態を予測する。例えば、上記リカレンスプロットにおいて、対角線に平行な線分の分断やプロット数の減少等のプロット構造の変化がある場合には、高炉10の炉内状態が健全状態から操業異常が発生する不調状態に変化することを予測する。なお、上記状態予測部61は、上記演算部40から供給されるリカレンスプロットと、先験情報記憶部50に記憶されているリカレンスプロットとのプロット構造を比較し、その比較結果に基づいて高炉10の炉内状態を予測するようにしても良い。
【0032】
状態判断部62は、制御部70が高炉10に所定の制御処理を行う際に、高炉10の炉内状態が上記制御処理が有効に作用する状態であるか否かの判断を行う。具体的には、上記演算部40から供給されるリカレンスプロットと、上記先験情報記憶部50に記憶されている、過去に上記所定の制御処理を行って有効に作用したときのリカレンスプロットとのプロット構造(形状)を比較する。その比較結果として得られる類似度に応じて、状態判断部62は、高炉10の炉内状態が上記所定の制御処理が有効に作用する状態であるか否かを判断する。
【0033】
また、状態判断部62は、上記演算部40から供給されるリカレンスプロットの周期および周期性をグラフ化したものに基づいて、高炉10の炉内状態の健全性を判断する。
制御部70は、上記判断部60から供給される予測結果、判断結果に基づいて、高炉10に所定の制御処理を行う。
【0034】
次に、図2に基づいて動作について説明する。
図2は、本実施形態による高炉炉内状態の判断装置の動作を示すフローチャートである。
図2において、演算部40は、計測部30から供給される計測値である高炉炉底温度を取り込む(ステップS1)。次に、ステップS2で、ステップS1において取り込んだ高炉炉底温度を逆問題解析部41に供給する。逆問題解析部41は、供給された高炉炉底温度を用いて、高炉稼動面における温度、または熱流束を求めるための逆問題解析を行う。
【0035】
ここでは、上述した式(1)、(2)を用いて逆問題解析を行うとする。すなわち、逆問題解析部41は上記計測部30から供給された高炉炉底温度に基づいて、まず高炉稼動面における熱流束(式(2)の左辺の∂u/∂n)を求める。そして、求めた熱流束と上記計測部30から供給された高炉炉底温度から高炉稼動面における温度を求める。
【0036】
次に、ステップS3でアトラクタ作成部42は、上記ステップS2において算出された高炉稼動面における熱流束値からアトラクタを再構成する。アトラクタ作成部42は、逆問題解析部41により算出された高炉稼動面における熱流束値に基づいて、m次元(例えば16次元)の遅延ベクトルv(t)を作成する。上記遅延ベクトルを、(x(t),x(t+τ),x(t+2τ))を座標として3次元空間に写像し、上記遅延ベクトルの時間推移を示すアトラクタを再構成する。
【0037】
ステップS4で、グラフ作成部43は、上記ステップS3において再構成されたアトラクタに基づいて、リカレンスプロットと、その周期および周期性を示すグラフをそれぞれ作成する。リカレンスプロットは上述したように、上記ステップS3において再構成されたアトラクタにおいて、現在時刻の点から所定の距離内にある近傍点を検索し、検索された近傍点の時刻を縦軸に、現在時刻を横軸にとってプロットすることにより作成する。
【0038】
また、リカレンスプロットの周期および周期性を示すグラフは、作成したリカレンスプロットの各プロットと対角線との距離を時間−周期座標にプロットすることにより作成する。
【0039】
そして、ステップS5で、判断部60はステップS4において作成されたリカレンスプロットや、その周期および周期性を示すグラフに基づいて、高炉10の炉内状態を判断したり、その判断結果に基づいて高炉10の炉内状態を制御したりするための判断処理を行う。なお、このステップS5にて行う判断処理の詳細については後述する。
【0040】
上述に示す処理を行うことにより、図4、図5に示すようなリカレンスプロット、アトラクタ等が得られる。
図4(A)は、計測された高炉炉底温度から逆問題解析を行うことにより得られた高炉稼動面における熱流束値を示す図である。図4(B)は、上記高炉稼動面における熱流束値に基づいて、作成されたリカレンスプロットであり、(C)は作成されたリカレンスプロットの周期および周期性を示す図である。
【0041】
図5は、図4(A)に示す高炉稼動面における熱流束値に基づいて、再構成したアトラクタを示す図である。図5において、51は高炉稼動面における熱流束値が大きく、かつ安定した状態を示す軌道領域であり、52は高炉稼動面における熱流束値が小さく、かつ安定した状態を示す軌道領域である。
【0042】
図4(A)において、時刻T1〜T8(時刻T4を除く。)は、高炉10の制御において休風を行った時刻である。時刻T1、T2およびT8において行った休風では、休風により高炉稼動面における熱流束値が小さく、かつ安定した状態に推移している。また、時刻T5、T6およびT7において行った休風では、休風を行ったにもかかわらず、高炉稼動面における熱流束値が大きく、かつ安定した状態を維持している。
【0043】
一方、時刻T3において行った休風では、休風後の時刻T4以降、高炉稼動面における熱流束値が急激に大きくなっている。時刻T3において行った休風による高炉10の炉内状態の変化は、図4(B)に示すリカレンスプロットにおける領域41にプロット構造の変化として現れている。
【0044】
この領域41では、時刻T3において休風を行った後、中心付近の点がなくなり、高炉10の炉内状態の周期性がなくなる状態に推移している。そして、時刻T4において、高炉稼動面における熱流束値の急激な増大により、リカレンスプロット上の点がなくなり、高炉10の炉内状態の周期性が完全に喪失する。これにより、時刻T3での図4(B)に示すリカレンスプロットのプロット構造の変化は、高炉稼動面における熱流束値の急激な増大の兆候を示していることがわかる。
【0045】
また、図4(B)において、42は休風を行った時刻T1に対応したリカレンスプロットの領域であり、43は休風を行った時刻T6に対応したリカレンスプロットの領域である。時刻T1において行った休風では、休風により高炉稼動面における熱流束値が小さく、かつ安定した状態に推移している。また、領域42において時刻T1に対応したリカレンスプロットの点がある時刻T8において行った休風でも同様な効果が得られている。すなわち、時刻T1に対応したリカレンスプロットの点がある時刻を探し、その時刻で休風を行えば休風による効果を得られることがわかる。また、図4(C)において、時刻T1、T8では、高炉10の炉内状態には周期性がなく、図5の軌道領域51の軌道が疎な領域(状態が推移しやすい領域)に相当する。
【0046】
同様に、時刻T6において行った休風では、休風による効果は見られず、高炉稼動面における熱流束値が大きく、かつ安定した状態を維持する。この時刻T6に対応したリカレンスプロットがある時刻T7において行った休風でも、休風による効果は見られず、高炉稼動面における熱流束値が大きく、かつ安定した状態を維持している。また、図4(C)において、時刻T6、T7では、高炉10の炉内状態は周期性を有する非常に安定した状態であり、図5の軌道領域51の軌道が密な領域(中心付近)に相当する。
【0047】
上述したリカレンスプロットと、その周期および周期性を示すグラフの性質を用いて、図2に示したステップS5における判断処理を行う。
図3は、判断処理の動作を示すフローチャートである。
【0048】
まず、判断部60は、高炉10の炉内状態の予測処理を行うか判断処理を行うかを決定(ステップS11)し、予測処理を行う場合にはステップS12に進み、判断処理を行う場合にはステップS18に進む。
【0049】
(予測処理)
ステップS12で、判断部60内の状態予測部61は、演算部40から供給されるリカレンスプロットのプロット構造に変化があるか否か判断する。ステップS12において、プロット構造に変化があると判断した場合には、ステップS13で高炉10の炉内状態に変化があると予測し、ステップS14で健全状態から操業異常を発生する不調状態への変化であるか否か判断する。
【0050】
その判断の結果、健全状態から不調状態への変化である場合には、ステップS17に進み、制御部70は、高炉10炉内状態が健全状態に推移するように高炉10に対して制御を行い、判断処理を終了する。例えば、演算部40から供給されるリカレンスプロットに、図4(B)に示す領域41のようなプロット構造の変化があった場合には、制御部70は休風時間を長くするなどの制御を高炉10に対して行う。
一方、ステップS14の判断の結果、健全状態から不調状態への変化でない場合、すなわち不調状態から健全状態への変化である場合には、判断処理を終了する。
【0051】
ステップS12において、プロット構造に変化がないと判断した場合には、ステップS15で高炉10の炉内状態には変化がないと予測し、ステップS16で高炉10の現在の炉内状態が不調状態であるか否か判断する。その判断の結果、現在の状態が不調状態である場合には、ステップS17に進み、制御部70は、高炉10の炉内状態が健全状態に推移するように高炉10に対して制御を行い、判断処理を終了する。一方、ステップS16の判断の結果、不調状態でない場合には、判断処理を終了する。
【0052】
(判断処理)
ステップS18で、判断部60内の状態判断部62は、演算部40から供給されるリカレンスプロットと、先験情報記憶部50に記憶されているリカレンスプロットとのプロット構造の比較を行う。上記先験情報記憶部50に記憶されているリカレンスプロットは、制御部70が行う予定の所定の制御処理に対して、過去に上記制御処理による効果が得られたときのリカレンスプロットである。
【0053】
ステップS19で、状態判断部62は、ステップS18における比較の結果、類似したプロット構造があるか否か判断する。その結果、類似したプロット構造がある場合には、状態判断部62は、高炉10の炉内状態が所定の制御処理が有効に作用する状態であると判断し、高炉10に対して所定の制御処理を行い(ステップS20)、判断処理を終了する。
例えば、制御部70が所定の制御処理として休風を行う予定であるとする。このとき、状態判断部62は、演算部40から供給されるリカレンスプロットのプロット構造が、図4(B)に示す領域41のリカレンスプロットと類似しているならば、高炉10の炉内状態が休風が有効に作用する状態であると判断し、制御部70は休風を行う。
【0054】
一方、状態判断部62は、ステップS18における比較の結果、類似したプロット構造がないと判断した場合には、所定の制御処理による作用が期待できない状態であると判断し、判断処理を終了する。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、高炉10に設けられた熱電対20を介して計測部30により計測された高炉炉底温度に基づいて、グラフ作成部43によりリカレンスプロットを作成し、作成したリカレンスプロットのプロット構造に基づいて、判断部60は高炉10の炉内状態を判断する。
これにより、高炉10の炉内状態を作成したリカレンスプロットのプロット構造およびプロット構造の変化として捉えることができ、高炉10の炉内状態を速やかに判断することができる。
【0056】
また、本実施形態では、計測部30により計測された高炉炉底温度に逆問題解析部41にて逆問題解析を行うことにより高炉稼動面における熱流束を求め、上記高炉稼動面における熱流束値に基づいて、グラフ作成部43はリカレンスプロットを作成する。これにより、計測部30により計測された高炉炉底温度から炉床壁による影響を取り除くことができ、高炉10の炉内状態を正確に、かつ速やかに判断することができる。
【0057】
また、本実施形態では、グラフ作成部43により作成したリカレンスプロットのプロット構造の変化に基づいて、状態予測部61により高炉10の炉内状態を予測するようにしたので、高炉10の炉内状態の変化を速やかに予測することができ、制御部70は上記予測した高炉10の炉内状態の変化に応じて、高炉10を適切に制御することができる。
【0058】
また、本実施形態では、状態判断部62は、グラフ作成部43により作成したリカレンスプロットと、先験情報記憶部50に記憶されている過去に得られたリカレンスプロットとのプロット構造を比較して、制御部70が行う予定の所定の制御処理が有効に作用する状態か否かを判断するようにしたので、上記高炉10の炉内状態に適した制御処理を行うことができる。
【0059】
なお、本実施形態では、高炉10の炉底に設けられた熱電対20により計測した高炉炉底温度に基づいて、リカレンスプロットを作成し高炉10の炉内状態を判断するようにしているが、本発明は高炉炉底温度に限らず、高炉10の炉内状態が反映された時系列データに基づいて、高炉10の炉内状態を判断することができる。例えば、上記時系列データとして、高炉の炉頂温度を用いても良いし、高炉内のガス成分を用いても良い。また、1つの時系列データだけでなく、複数の時系列データを用いても良い。
【0060】
また、本実施形態では、逆問題解析部41にて逆問題解析を行うことにより求めた時系列データに基づいて、グラフ作成部43はリカレンスプロットを作成するようにしているが、逆問題解析を行わず、計測された時系列データからリカレンスプロットを作成するようにしても良い。このようにした場合には、少ない計算処理で、高炉10の炉内状態を判断することができる。
【0061】
また、本実施形態では、アトラクタ作成部42により再構成されたアトラクタに基づいて、グラフ作成部43はリカレンスプロットを作成するようにしているが、アトラクタ作成部42を設けずに、高炉炉底温度または高炉稼動面における温度、熱流束値から遅延ベクトルv(t)を作成し、遅延ベクトル間の距離が所定の距離内の近傍点を検索して、リカレンスプロットを作成するようにしても良い。
【0062】
また、本実施形態では、状態判断部62が、グラフ作成部43により作成したリカレンスプロットと、先験情報記憶部50に記憶されている過去に得られたリカレンスプロットとのプロット構造とを比較して高炉10の炉内状態を判断する場合について示しているが、状態判断部62は、図4(C)に示すリカレンスプロットの周期および周期性を示すグラフから高炉10の炉内状態の健全性、安定性等を判断するようにしても良い。
【0063】
また、本実施形態では、図3に示す判断処理において、高炉10の炉内状態の予測処理および判断処理はそれぞれ独立に処理するように示しているが、それぞれ独立に処理せずに、判断処理と予測処理とを同時に、すなわち、判断処理の結果に基づいて予測処理を行ったり、予測処理の結果に基づいて判断処理を行ったりするようにしても良い。
【0064】
(本発明の他の実施形態)
なお、以上に説明した本実施形態の高炉炉内状態の判断装置は、コンピュータのCPUあるいはMPU、RAM、ROMなどで構成されるものであり、RAMやROMに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。したがって、コンピュータが上記機能を果たすように動作させるプログラムを、例えばCD−ROMのような記録媒体に記録し、コンピュータに読み込ませることによって実現できるものである。上記プログラムを記録する記録媒体としては、CD−ROM以外に、フロッピーディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、不揮発性メモリカード等を用いることができる。
【0065】
また、コンピュータが供給されたプログラムを実行することにより上述の実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)あるいは他のアプリケーションソフト等と共同して上述の実施形態の機能が実現される場合や、供給されたプログラムの処理の全てあるいは一部がコンピュータの機能拡張ボードや機能拡張ユニットにより行われて上述の実施形態の機能が実現される場合も、かかるプログラムは本発明の実施形態に含まれる。
【0066】
また、本発明をネットワーク環境で利用するべく、全部あるいは一部のプログラムが他のコンピュータで実行されるようになっていても良い。例えば、アトラクタ作成処理、グラフ作成処理は、遠隔端末コンピュータで行われ、各種判断等は他のセンターコンピュータ等で行われるようにしても良い。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、高炉に設けられた検出端を介して計測され、上記高炉の炉内状態が反映された第1の時系列情報に基づいて、リカレンスプロットを作成し、作成したリカレンスプロットのプロット構造に基づいて、高炉の炉内状態を判断するようにしたので、上記作成したリカレンスプロットのプロット構造およびプロット構造の変化として高炉の状態を捉えることができ、高炉の炉内状態を速やかに判断することができる。
また、リカレンスプロットのプロット構造に基づいて、高炉の炉内状態を予測するようにしたので、高炉の炉内状態を的確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態による高炉炉内状態の判断装置の一構成例を示すブロック図である。
【図2】本実施形態による高炉炉内状態の判断装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】判断処理の動作を示すフローチャートである。
【図4】高炉稼動面における熱流束値、そのリカレンスプロットおよび各時刻における周期の一例を示す図である。
【図5】高炉稼動面における熱流束値に基づいて、再構成したアトラクタを示す図である。
【符号の説明】
10 高炉
20 熱電対
30 計測部
40 演算部
41 逆問題解析部
42 アトラクタ作成部
43 グラフ作成部
44 記憶部
50 先験情報記憶部
60 判断部
61 状態予測部
62 状態判断部
70 制御部
Claims (12)
- 高炉に設けられた検出端を介して計測され、上記高炉の炉内状態が反映された第1の時系列情報に基づいて、リカレンスプロットを作成するプロット作成手段と、
上記プロット作成手段により作成したリカレンスプロットのプロット構造に基づいて、上記高炉の炉内状態を判断する判断手段とを備えることを特徴とする高炉炉内状態の判断装置。 - 上記第1の時系列情報を用いて、逆問題解析により高炉の稼動面における第2の時系列情報を求める演算手段を備え、
上記プロット作成手段は、上記演算手段により求めた第2の時系列情報に基づいて、上記リカレンスプロットを作成することを特徴とする請求項1に記載の高炉炉内状態の判断装置。 - 上記判断手段による判断結果に応じて、上記高炉の炉内状態の制御を行う制御手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の高炉炉内状態の判断装置。
- 上記プロット作成手段により作成したリカレンスプロットのプロット構造の変化に基づいて、高炉の炉内状態を予測する状態予測手段を具備することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の高炉炉内状態の判断装置。
- 上記判断手段は、上記プロット作成手段により作成したリカレンスプロットと、過去に得られた高炉の炉内状態に関するリカレンスプロットとのプロット構造を比較し、その比較結果に基づいて高炉の炉内状態の制御の可否を判断することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の高炉炉内状態の判断装置。
- 高炉に設けられた検出端を介して計測され、上記高炉の炉内状態が反映された第1の時系列情報に基づいて、リカレンスプロットを作成し、作成したリカレンスプロットのプロット構造に基づいて、上記高炉の炉内状態を判断することを特徴とする高炉炉内状態の判断方法。
- 上記第1の時系列情報を用いて、逆問題解析により高炉の稼動面における第2の時系列情報を求め、上記求めた第2の時系列情報に基づいて、上記リカレンスプロットを作成することを特徴とする請求項6に記載の高炉炉内状態の判断方法。
- 上記判断の結果に応じて、上記高炉の炉内状態の制御を行うことを特徴とする請求項6または7に記載の高炉炉内状態の判断方法。
- 上記作成したリカレンスプロットのプロット構造の変化に基づいて、上記高炉の炉内状態を予測することを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の高炉炉内状態の判断方法。
- 上記作成したリカレンスプロットと、過去に得られた上記高炉の炉内状態に関するリカレンスプロットとのプロット構造を比較し、その比較結果に基づいて、上記高炉の炉内状態の制御の可否を判断することを特徴とする請求項6〜9の何れか1項に記載の高炉炉内状態の判断方法。
- 請求項1〜5の何れか1項に記載の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
- 請求項6〜10の何れか1項に記載の高炉炉内状態の判断方法の処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
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