JP4037362B2 - タングステン酸塩単結晶の製造方法 - Google Patents

タングステン酸塩単結晶の製造方法 Download PDF

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Description

技術分野
本発明は、放射線検出用シンチレータやラマン結晶としてレーザーホストに有用なタングステン酸塩単結晶の製造方法に関するものである。
背景技術
PET(Positron Emission Tomography)に代表される医療用機器は、高性能化が日進月歩である。PETなどに使用されるγ線等の放射線検出用シンチレータには、空間分解能がすぐれた材料、すなわち単位体積当たりの放射線の吸収能力を高める高密度の材料が要求される。一方、測定器の感度の点からは、光量(p.e./MeV)が大きい程有利となる(p.e.はフォトエレクトロン)。
上記の要求を満たす材料として、従来BiGe12が使用されている。しかし、近年医療用機器の高性能化に対応するため、
従来の材料よりも(1)高密度で、
(2)蛍光の減衰時間が短い
材料を求めて種々の物質の探索が行われてきた。
表1にPET用シンチレータ材料の特性比較を示すが、これらシンチレータ材料は通常単結晶で使用される。単結晶は、一般的に三酸化タングステン(WO)および二価金属酸化物、またはWO、一価金属酸化物および三価金属酸化物を原料として、大気雰囲気下、白金坩堝中で加熱溶融し、回転引上げ法(チョクラルスキー法)で製造される。
Figure 0004037362
現在、BiGe12、GdSiO:CeあるいはLuSiO:Ce等を使用してPETが製造されているが、BiGe12、GdSiO:CeあるいはLuSiO:Ceは高い光量を示す反面、密度が未だ十分に高いとはいえず、さらなる高密度に対する要求がある。CdWOは、光量が大きいにもかかわらず、蛍光の減衰時間が長くX線CTには有用であるが、PET用には適していない。
タングステン酸塩の一つであるPbWOは高密度で蛍光の減衰時間が短いが、同じ強さの放射線が当たった時の光量は、相対値でBiGe12に対し1/25、GdSiO:Ceに対し1/50、さらにLuSiO:Ceに対し1/188と極めて小さいため、PET用に利用することができなかった。ところが近年、光検出器としてフォトダイオードの性能が飛躍的に向上したことによって小さな光量でも検出が可能になってきており、検出可能な最低限の光量は表1に示す従来のPbWOの2倍あれば良いとされている。
そこで、PbWOが高密度で蛍光の減衰時間が短いという利点を生かしつつその光量を増大させるために、種々の試みがなされている。
その方法の一例は、Moの添加である。ところがPbWOにMoを添加すると、放射線の弱い領域では光量が増加したように見えるが、放射線の強い領域では無添加の結晶と同じ光量であり、しかもMoの添加で蛍光の減衰時間を悪化させる。
また、希土類のTb、Pr、Eu、Smを添加すると光量増加の効果が認められるが、減衰時間の遅い成分が増加し、減衰時間の早い成分の光量は増加しないという欠点がある。
また、PbWOに添加するCd量を、分子式Pb1−XCdWOにおけるXの値が0.01以上、0.30以下となるようにすることで、光量を増加させる方法も開発されているが、このPb1−XCdWOは単結晶育成時および加工時にクラックが入りやすく歩留りが悪いという欠点がある。
このように、蛍光の減衰時間が短く、かつ大きな光量を示すようなPbWO単結晶の製造は未だに成功していない。
一方で、PbWOなどのタングステン酸塩単結晶は、ラマン結晶としてNd3+など希土類イオンをドープしてレーザーホストとしての応用が期待されている。半導体レーザーなどでレーザーホストを励起すると、ラマン変換の結果生じるストークス光および半ストークス光を発振する2波長レーザー光が得られる。
2波長レーザー光を蛍光顕微鏡に適応し色素発光の非線形性を利用することで見かけの空間分離性を向上させる試みが行われている。従来、2波長レーザー光を同時に得るためには、異なった波長を有する2台のレーザー装置が必要で、それによって蛍光顕微鏡は装置全体が大きくなり、コストも上昇する原因となっていた。
一台のレーザー装置で2波長レーザー光が得られる波長可変レーザーも実用化されているが、このレーザー装置は波長変換を行う回折格子や屈曲板を機械的に動かすため、装置が複雑で大きくなり、仮に波長可変レーザー装置を使用しても1台の装置で同時に2波長のレーザー発振を得ることはできない。
レーザーホストとして使用可能と予想されているラマン結晶には、PbWOの他、KGd(WO、CdWO、CaWOなど多くのタングステン酸塩単結晶がある。
しかし、レーザーホストとして応用するためには熱伝導率の向上が必要である。その理由はレーザー発振する際に結晶内に熱が蓄積すると結晶格子に歪が加わり、その結果発振波長の変化や光損傷のため連続発振ができないからである。さらに当然のことながら熱伝導率が悪いため高出力化が難しい。
発明の開示
上記のごとく、PbWO単結晶は、放射線検出用シンチレータとして光量の増加が要求されている。光量は、従来のPbWO単結晶と比較して少なくとも2倍以上必要である。一方、PbWOなどのタングステン酸塩単結晶は、レーザーホストとしては熱伝導率の向上が必要である。
本発明は、上記問題を解決するものであって、蛍光の減衰時間を犠牲にすることなしに光量が改善され、PET等の医療用の放射線検出用シンチレータとして応用可能なタングステン酸塩単結晶を得ることができ、また、熱伝導率を改善して2波長レーザー装置のレーザーホストとして有用なタングステン酸塩単結晶を得ることのできるタングステン酸塩単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
本発明のタングステン酸塩単結晶の製造方法は、三酸化タングステンおよび二価金属酸化物または二価金属炭酸塩、三酸化タングステンおよび一価金属酸化物または一価金属炭酸塩並びに三価金属酸化物、あるいはこれら酸化物もしくは炭酸塩を加熱して得られる分子式XIIWOあるいはXIII(WO(ただしXは一価金属元素、XIIは二価金属元素、XIIIは三価金属元素)で表されるタングステン酸塩を原料としてタングステン酸塩単結晶を育成し、このタングステン酸塩単結晶を酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気において600〜1550℃で加熱することを特徴としている。
例えば、PbWO単結晶の場合、通常大気中で育成される。分子式から明らかなように酸素(O)が結晶構造を構成する主元素であるため、単結晶中の格子欠陥の発生に対しては雰囲気中のO濃度が大きな影響を与える。PbOは、単結晶製造時に融液からその一部が蒸発し、固化した結晶中では、減少したPb2+を電荷補償するため、大気中のOを再び取り込みながらPb4+が発生し、結果的に陽イオンと陰イオンのバランス、すなわちWO 2−あるいは(WO 2−+O2−)に対する(Pb2++Pb4+)が電荷的に等価となるようにバランスがとられ、PbWO単結晶中のO/PbおよびW/Pbの原子比は化学量論比から正にずれが生じ、それによって多数の格子欠陥を含むものと考えられる。
本発明者は、蛍光の減衰時間が短く、かつ大きな光量を発するPbWO単結晶ならびに熱伝導率の大きなレーザーホストとしての単結晶を求めて鋭意研究した結果、光量が小さく、また熱伝導率が小さい原因は、O/PbおよびW/Pbの化学量論比からのずれによって発生する多数の格子欠陥と捉え、PbWO単結晶を酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気で加熱処理することを見出した。
PbWO単結晶を酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気において加熱すると、PbWO単結晶中に含まれる過剰のOおよびWがOおよびWOとして結晶外に放出され、それに伴ってPb4+はPb2+に戻り、格子欠陥の少ない単結晶へ純化するものと考えられる。この処理によって、PbWO単結晶は黄色透明から無色透明へと変化し、特に325〜600nmの光の透過率が格段に上昇し、400nm以上の光を検出するフォトダイオードにとって光電変換効率の向上に著しい効果をもたらす。また、格子欠陥が減少することにより、フォノンの散乱に起因する熱伝導率の低下が抑制され、レーザーホストとして優れたラマン結晶となる。
酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気は、一般的な概念からすると地上0mの場所では酸素分圧が21207Pa未満に調整された雰囲気であるが、目的とする性能を迅速かつ確実に得ることが可能なO濃度としては28Pa以下の酸素分圧が最適である。28Paよりも大きい酸素分圧でも当然効果は見込まれるが、酸素分圧が28Paより大きいと結晶内部においてOおよびWの拡散速度が極めて遅く、OおよびWOが結晶外へ放出されるのに長時間を要するため生産性が低く実用的でない。
酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気は、アルゴン(Ar)、窒素(N)、ヘリウム(He)または二酸化炭素(CO)を常圧で系内に導入する他、真空ポンプで系内を減圧することで得られる。COは600〜1550℃に加熱されると一部COとOに分解するが、その時の平衡酸素分圧は0.00059〜416Paであり、28Pa以下の酸素分圧を維持できるのは600〜1200℃の範囲である。
また大排気量の真空ポンプを使用し減圧する場合は圧力調整ガスが必要で、その圧力調整ガスとしてはAr、N、HeおよびCO以外に大気を使用しても真空度を130Pa以下に制御することにより28Pa以下の酸素分圧が達成される。
Ar、N、HeおよびCO以外のガスとして水素(H)を使用した場合は、PbWOが還元され単結晶は崩壊する。
Ar、N、HeおよびCOを常圧で系内に導入する場合は、減圧する場合と比較して結晶内部からのOおよびWの拡散速度が遅く、OおよびWOが結晶外へ放出されるのに長時間を要するだけでなく、雰囲気ガスの使用量も多くなりコスト上昇を引き起こす。したがって雰囲気の酸素分圧を低下させるためには、真空度が130Pa以下の減圧を利用するのが最も効果的である。ただし1×10−2Paよりも減圧にするとPbWOの蒸発損失が大きくなるため、歩留りを考慮し圧力を設定しなければならない。
加熱温度は、目的とするタングステン酸塩単結晶の融点および沸点を考慮に入れ600〜1550℃の範囲で決定しなければならない。
加熱温度が600℃未満では、結晶内部においてOおよびWの拡散速度が遅く、OおよびWOが結晶外へ放出されるのに長時間を要する。一方、1550℃より高温では、例えばCdWOの融点1272℃、BiGe12の融点1050℃、PbWOの融点1123℃、GdSiO:Ceの融点1900℃、LuSiO:Ceの融点2150℃、CaWOの融点1580℃などからわかるように、ほとんどのタングステン酸塩が融解またはその融点に近づくため融解の危険性が伴う上に蒸発損失量が増加する。
酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気において、600〜1550℃で加熱した後に、引き続き、酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気において、最低220℃まで冷却すると、冷却過程でPbWOのPb2+が酸化し、再びPb4+へ変化するのを抑制することができる。たとえば酸素分圧が、約21000Paでは約350℃まで、1013Paでは約300℃まで、130Paであれば約250℃まで、さらに28Paでは約220℃までの冷却過程でPb2+がPb4+へ変化するのを抑制できる。220℃未満ではPb2+の酸化速度が遅いため酸素分圧の影響を受け難く、大気開放することも可能であるが、好ましくは酸素分圧が大気より負に調整された雰囲気で常温まで冷却するのが良い。
この冷却条件は、タングステン酸塩単結晶の違いによって異なるが、前記条件下であればほとんどのタングステン酸塩単結晶に重大な欠陥を生じさせるような悪影響は及ぼさない。なお、冷却速度は、熱歪を除去するのに重要な条件の一つであり、一般的に炉冷程度のゆっくりした冷却速度が好ましいが、各々単結晶の種類に対応して任意に変更しなければならない。
酸素分圧が大気より負に調整された雰囲気で加熱すると単結晶表面はわずかに白濁するが、研磨によって表面を研削すれば無色透明な平滑面が現れる。
従来のPbWO単結晶は光量が約30p.e./MeVであるのに対し、酸素分圧が大気より負に調整された雰囲気において、600〜1100℃で加熱することで従来の単結晶の2倍以上の60p.e./MeV以上を示し、蛍光の減衰時間が従来の単結晶と変わらないPbWO単結晶となる。また、PbWO単結晶の熱伝導率は、1.5〜1.6W/m・Kまで向上し、高性能な2波長レーザー装置の作製が可能となる。
PbWO単結晶以外の場合、例えばCdWO単結晶は、PbWO単結晶と同様にO/CdおよびW/Cdの原子比は化学量論比から正にずれが生じるが、比較的沸点の高い一価金属、二価金属あるいは三価金属酸化物によって生成するKGd(WOのO/(K+Gd)およびW/(K+Gd)は化学量論比から負に、また、CaWOのO/CaおよびW/Caも化学量論比から負にずれ、それによって多数の格子欠陥が発生しているものと考えられる。
KGd(WOまたはCaWOは、沸点がKO、GdあるいはCaOの沸点より低いため、酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気において加熱することで過剰成分の除去はできず、組成に関連した格子欠陥の除去は期待できないが、単結晶中に残留している熱応力に関連した格子欠陥は除去される。
発明を実施するための最良の形態
例えば、PbWO単結晶を製造するためには、WOおよびPbO、またはPbWOを出発原料とし、大気雰囲気下、白金坩堝中で加熱溶融し、チョクラルスキー法で製造する。大気雰囲気以外にも、Ar、N、HeまたはCO雰囲気あるいはこれらと大気の混合ガス雰囲気でもPbWO単結晶は製造可能であるが、PbWO単結晶とOの熱力学的平衡関係、製造設備の簡素化および低コスト化の観点から大気雰囲気が好ましいと考えられる。
良質なPbWO単結晶を製造するために、出発原料であるWOおよびPbOは、WOやPbOなど原子価の異なる酸化物を極力低下させたものを使用する必要がある。また、それらを使用して調製したPbWOを使用する必要がある。不純物の総量はPbWO 1モルに対して1×10−2モル以下にするのが良く、1×10−4モル以下であれば最適である。出発原料はこれら酸化物が最適であるが、目的とするPbWO単結晶が製造できれば他の原料の使用も可能である。
製造されたPbWO単結晶は、淡黄色透明で非常に脆い円柱状インゴットである。このPbWO単結晶は、28Pa以下の酸素分圧になるようにAr、N、HeまたはCO雰囲気下あるいは真空度130Pa以下の減圧状態に制御しながら600〜1100℃で加熱する。
Ar、N、HeまたはCOは特に高純度を必要としないが、分析表で示されるO濃度はなるべく低いものを使用することが好ましい。減圧においては、その真空度を130Pa以下にするのが良く、できるならば5×10−2Pa以下が最適である。Ar、N、HeまたはCO雰囲気下で加熱する場合、これらのガス流量は0.5〜5L/minが良いが、単結晶の大きさなどを考慮し、任意に変更する。加熱温度は1100℃を超えると融解の危険性があるので注意が必要である。
PbWO単結晶は、円柱状インゴットのまま加熱しても良いが、結晶内部において過剰のOおよびWが結晶表面まで拡散する距離を短くし、結晶外へOおよびWOの形で短時間で放出させるためには、用途に合わせた寸法に切断後、加熱することが好ましい。切断には、切断面の欠けや割れが少ない内周刃スライシングマシンやブレードソーなどを使用すると良い。
PbWO単結晶は白金ボートに乗せ加熱するが、その加熱時間は雰囲気の種類と結晶の大きさによって異なり、通常12〜96hが適当である。600〜1100℃で加熱後、同じ雰囲気を維持したまま常温まで6〜24hで冷却する。
加熱後のPbWO単結晶をさらに所定の大きさに切断し、鏡面研磨した後に60Co源のγ線を照射した時の光量は、60p.e./MeV以上、また蛍光の減衰時間は10ナノ秒を維持し、シンチレータとして極めて良好な特性を示す。また、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定すると1.5〜1.6W/m・Kが得られ、励起光によって発生した熱は速やかに熱移動される。
以下、本発明の実施例について説明する。
〔実施例1〕
純度99.99%のWO粉末およびPbO粉末を等モル計量し、混合した後、これを直径70mm、高さ70mmの白金坩堝に入れ、大気雰囲気で高周波加熱により混合粉末原料を溶融し、その融液からチョクラルスキー法で直径35mm、長さ65mmのPbWO単結晶を製造した。
次に、このPbWO単結晶を白金ボートに乗せ、真空加熱炉を使用し、真空度5×10−2Paにおいて950℃で72h加熱し、同じ雰囲気下で常温まで12hで冷却した。
加熱処理後のPbWO単結晶を1cm×1cm×2cmの大きさに切断し、鏡面研磨した後、1cmの厚さの方向から60Co源のγ線を照射した時の光量および蛍光の減衰時間を測定した。光量は従来のPbWO単結晶の約2.3倍の69p.e./MeVとなり、蛍光の減衰時間は、10ナノ秒を維持していた。また、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率は1.6W/m・Kであった。
〔実施例2〕
チョクラルスキー法で製造したPbWO単結晶を白金ボートに乗せ、真空加熱炉を使用し、真空度5×10−2Paにおいて1100℃で48h加熱した。それ以外は実施例1と同様に処理した。
加熱処理後のPbWO単結晶を1cm×1cm×2cmの大きさに切断し、鏡面研磨した後、1cmの厚さの方向から60Co源のγ線を照射した時の光量および蛍光の減衰時間を測定した。光量は従来のPbWO単結晶の約2.4倍の72p.e./MeVとなり、蛍光の減衰時間は、10ナノ秒を維持していた。また、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率は1.6W/m・Kであった。
〔実施例3〕
チョクラルスキー法で製造したPbWO単結晶を白金ボートに乗せ、真空加熱炉を使用し、大気を圧力調整ガスとして使用した圧力調整装置で真空度を130Paに制御しながら1000℃で96h加熱した。それ以外は実施例1と同様に処理した。
加熱処理後のPbWO単結晶を1cm×1cm×2cmの大きさに切断し、鏡面研磨した後、1cmの厚さの方向から60Co源のγ線を照射した時の光量および蛍光の減衰時間を測定した。光量は従来のPbWO単結晶の約2.0倍の60p.e./MeVとなり、蛍光の減衰時間は、10ナノ秒を維持していた。また、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率は1.6W/m・Kであった。
〔実施例4〕
チョクラルスキー法で製造したPbWO単結晶を白金ボートに乗せ、真空加熱炉を使用し、真空度を5×10−4Paに制御しながら600℃で96h加熱した。それ以外は実施例1と同様に処理した。
加熱処理後のPbWO単結晶を1cm×1cm×2cmの大きさに切断し、鏡面研磨した後、1cmの厚さの方向から60Co源のγ線を照射した時の光量および蛍光の減衰時間を測定した。光量は従来のPbWO単結晶の約2.0倍の60p.e./MeVとなり、蛍光の減衰時間は、10ナノ秒を維持していた。また、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率は1.5W/m・Kであった。
〔実施例5〕
チョクラルスキー法で製造したPbWO単結晶を白金ボートに乗せ、雰囲気炉を使用し、O濃度<1volppm(酸素分圧0.1Pa)のArを1L/min流しながら1100℃で96h加熱した。それ以外は実施例1と同様に処理した。
加熱処理後のPbWO単結晶を1cm×1cm×2cmの大きさに切断し、鏡面研磨した後、1cmの厚さの方向から60Co源のγ線を照射した時の光量および蛍光の減衰時間を測定した。光量は従来のPbWO単結晶の約2.0倍の60p.e./MeVとなり、蛍光の減衰時間は、10ナノ秒を維持していた。また、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率は1.5W/m・Kであった。
〔実施例6〕
チョクラルスキー法で製造したPbWO単結晶を白金ボートに乗せ、雰囲気炉を使用し、O濃度<1volppm(酸素分圧0.1Pa)のNを1L/min流しながら1100℃で96h加熱した。それ以外は実施例1と同様に処理した。
加熱処理後のPbWO単結晶を1cm×1cm×2cmの大きさに切断し、鏡面研磨した後、1cmの厚さの方向から60Co源のγ線を照射した時の光量および蛍光の減衰時間を測定した。光量は従来のPbWO単結晶の約2.0倍の60p.e./MeVとなり、蛍光の減衰時間は、10ナノ秒を維持していた。また、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率は1.5W/m・Kであった。
〔実施例7〕
チョクラルスキー法で製造したPbWO単結晶を白金ボートに乗せ、雰囲気炉を使用し、Nと大気の混合ガスをマスフローコントローラーで酸素濃度276volppm(酸素分圧28Pa)となるように炉内に導入しながら1100℃で96h加熱した。それ以外は実施例1と同様に処理した。
加熱処理後のPbWO単結晶を1cm×1cm×2cmの大きさに切断し、鏡面研磨した後、1cmの厚さの方向から60Co源のγ線を照射した時の光量および蛍光の減衰時間を測定した。光量は従来のPbWO単結晶の約2.0倍の60p.e./MeVとなり、蛍光の減衰時間は、10ナノ秒を維持していた。また、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率は1.5W/m・Kであった。
〔実施例8〕
純度99.99%のWO粉末およびCdO粉末を等モル計量し、混合した後、これを直径70mm、高さ70mmの白金坩堝に入れ、大気雰囲気下、高周波加熱により混合粉末原料を溶融し、その融液からチョクラルスキー法で直径35mm、長さ65mmのCdWO単結晶を製造した。
次に、このCdWO単結晶を白金ボートに乗せ、真空加熱炉を使用し、真空度0.1Paにおいて1150℃で72h加熱し、同じ雰囲気下で常温まで24hで冷却した。
加熱処理後のCdWO単結晶を1cm×1cm×2cmの大きさに切断し、鏡面研磨した後、1cmの厚さの方向から60Co源のγ線を照射した時の光量および蛍光の減衰時間を測定した。光量は従来のCdWO単結晶の約1.5倍の4275p.e./MeVとなり、蛍光の減衰時間は、5000ナノ秒を維持していた。また、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率は2.9W/m・Kであった。
〔実施例9〕
純度99.99%のWO粉末2モルに対してKCOおよびGd粉末を各1モル計量し、混合した後、これを直径70mm、高さ70mmの白金坩堝に入れ、大気雰囲気下、高周波加熱により混合粉末原料を溶融し、その融液からチョクラルスキー法で直径30mm、長さ35mmのKGd(WO単結晶を製造した。
次に、このKGd(WO単結晶を白金ボートに乗せ、真空加熱炉を使用し、真空度5×10−4Paにおいて1000℃で72h加熱し、同じ雰囲気下で常温まで24hで冷却した。
KGd(WO単結晶は、60Co源のγ線を照射した時の光量が小さくシンチレータ材料としては優れていないため光量の測定は行わなかった。
加熱処理後のKGd(WO単結晶を1cm×1cm×2cmの大きさに切断し、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率は従来1.6W/m・Kであったものが1.7W/m・Kまで増加した。
〔実施例10〕
純度99.99%のWO粉末およびCaO粉末を等モル計量し、混合した後、これを直径70mm、高さ70mmの白金坩堝に入れ、大気雰囲気下、高周波加熱により混合粉末原料を溶融し、その融液からチョクラルスキー法で直径30mm、長さ40mmのCaWO単結晶を製造した。
次に、このCaWO単結晶を白金ボートに乗せ、真空加熱炉を使用し、真空度0.1Paにおいて1550℃で72h加熱し、同じ雰囲気下で常温まで24hで冷却した。
加熱処理後のCaWOを1cm×1cm×2cmの大きさに切断し、鏡面研磨した後、1cmの厚さの方向から60Co源のγ線を照射した時の光量および蛍光の減衰時間を測定した。光量は従来のCaWO単結晶の約1.1倍の2000p.e./MeVとなり、蛍光の減衰時間は、5000ナノ秒を維持していた。また、レーザーフラッシュ法で20℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率は2.5W/m・Kであった。
産業上の利用の可能性
このように、本発明のタングステン酸塩単結晶の製造方法によれば、X線やγ線等の放射線検出用シンチレータとして有用な密度が高く、光量が改善されたタングステン酸塩単結晶、ならびに熱伝導率が改善されることにより2波長レーザー装置のレーザーホストとして有用なタングステン酸塩単結晶を得ることができる。

Claims (4)

  1. 三酸化タングステンおよび酸化鉛( II または炭酸鉛( II 、三酸化タングステンおよび一価金属酸化物または一価金属炭酸塩並びに三価金属酸化物、あるいはこれら酸化物もしくは炭酸塩を加熱して得られるPbWO 4 あるいは分子式XI III (WO4 2 (ただしXI は一価金属元素、X III は三価金属元素)で表されるタングステン酸塩を原料としてタングステン酸鉛単結晶またはタングステン酸塩単結晶を育成し、該タングステン酸鉛単結晶またはタングステン酸塩単結晶を、系内を真空ポンプで130Pa以下に減圧することで酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気において600〜1550℃で加熱することを特徴とするタングステン酸塩単結晶の製造方法。
  2. 三酸化タングステンおよび酸化鉛( II )または炭酸鉛( II )、三酸化タングステンおよび一価金属酸化物または一価金属炭酸塩並びに三価金属酸化物、あるいはこれら酸化物もしくは炭酸塩を加熱して得られるPbWO 4 あるいは分子式X I III (WO 4 2 (ただしX I は一価金属元素、X III は三価金属元素)で表されるタングステン酸塩を原料としてタングステン酸鉛単結晶またはタングステン酸塩単結晶を育成し、該タングステン酸鉛単結晶またはタングステン酸塩単結晶を、アルゴン、窒素、ヘリウム、または二酸化炭素を常圧で系内に導入することで酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気において600〜1550℃で加熱することを特徴とするタングステン酸塩単結晶の製造方法。
  3. 前記雰囲気の酸素分圧が28Pa以下であることを特徴とする請求の範囲1または2記載のタングステン酸塩単結晶の製造方法。
  4. タングステン酸鉛単結晶またはタングステン酸塩単結晶を酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気において600〜1550℃で加熱した後、引き続き、酸素分圧が大気よりも負に調整された雰囲気において最低220℃まで冷却することを特徴とする請求の範囲1〜3のうちいずれか一項に記載のタングステン酸塩単結晶の製造方法。
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