JP4036964B2 - ミシンの糸調子装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ミシンの上糸に張力を付与する糸調子器と、電気的な駆動により前記糸調子器に作用する駆動手段とを備え、該糸調子器から上糸に付与される張力を連続的に変化可能なミシンの糸調子装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
出願人は本出願以前に、糸調子器(例えば、調子皿、ロータリーテンションなど)から上糸に付与される張力を連続的に変化可能なミシンの糸調子装置を開発し出願している。このような糸調子装置は、電気的に連続量で駆動可能な駆動手段(例えば、ボイスコイルモータ、比例ソレノイド、エアーピストンと比例電磁ソレノイド弁との組み合わせなど)を使用して、この駆動手段を電気的に制御することで、例えば調子皿の押圧力を強弱させたり、ロータリーテンションの回転皿の負荷を強弱させたりして、縫製中に上糸に付与する張力を連続的に変化させる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、縫製処理を行う際に、糸調子器から適切な糸張力が得られているかを確認する必要のある場合がある。糸調子器から適切な張力が得られていないと、上糸と下糸の張力が所望のバランスからずれて、期待していた縫製を行うことが出来ない。
糸に付与される張力が連続的に可変でなく、縫製中に所定の張力のみ付与可能な従来の一般的な糸調子においては、縫製前のミシン停止時に糸を糸調子器に通し張力メータで糸張力を計ることで、糸調子器からの糸張力を確認することが出来た。そして、所望の糸張力が得られていない場合には、張力調整つまみを回して、例えば、調子皿やロータリーテンションの回転皿を押圧しているコイルバネを強弱させることで、所望の糸張力に調整することが可能になっている。
【0004】
しかしながら、上記従来の電気的な制御により張力を連続的に変化可能なミシンの糸調子装置では、駆動手段が駆動して糸調子器から設定された糸張力が得られるのは、実際の縫製中のみであり、糸調子器から所望の糸張力が得られているかを確認するには、実際に縫製を行ってみて、その縫い目を視認して所望の糸張力が得られているかを確かめるしかなかった。この確認作業は、試し縫いによる労力の浪費と、正確に糸張力が計れない、或いは作業者によるバラツキといった欠点を有している。
【0005】
この発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、電気的な制御により張力を連続的に変化可能なミシンの糸調子装置において、糸調子器から得られる糸張力の確認作業を容易に且つ正確に行うことを可能とし、更に、その糸張力の調整も容易に行うことを可能とすることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、ミシンの上糸をその間に挟むことが可能な一対の調子皿と、前記一対の調子皿を支持する中空軸と、前記中空軸に支持され、移動可能な動作軸と、前記一対の調子皿と前記中空軸と前記動作軸から構成され、上糸を一対の調子皿で挟んで、該上糸に張力を付与する糸調子器と、電気的な駆動により前記糸調子器の動作軸を前記調子皿に作用させると共に、駆動力に比例して、該糸調子器から上糸に付与される張力を連続的に増加させる駆動手段と、縫製中の複数のタイミングに対応して、前記糸調子器から上糸に付与する張力を示す張力設定データが複数設定される項目と、1個の補正値データが設定される項目とを有する設定データと、前記設定データを入力可能な設定入力手段と、縫製中の所定のタイミングにおいて前記駆動手段を前記設定データに応じた量駆動させて前記糸調子器から前記設定データに応じた張力を上糸に付与すると共に、縫製時以外のミシンの停止時で且つ前記入力手段による張力の設定中に、前記駆動手段を前記設定データに応じた量駆動させる試験駆動を行う一方、前記複数の張力設定データを前記1個の補正値データで補正して、前記駆動手段を駆動させて、前記設定データに応じた張力を上糸に付与する制御手段とを備えた構成とした。
【0007】
この請求項1記載の発明によれば、制御手段により実行される上記試験駆動によって、縫製時以外のミシン停止時において試験的に駆動手段を駆動させ、糸調子器の状態を設定データに応じた状態にすることが出来るので、例えば、この状態において、糸を糸調子器に掛けて張力メータで糸張力を計ることで、縫製中に掛けられる糸調子器の糸張力を容易に且つ正確に確認することが出来る。さらに、上記補正値データを適宜設定することで、実際に糸調子器から得られる糸張力と、設定入力手段により入力される上記張力の設定データとを適合させることが出来る。また、複数のミシンを使用する際、各ミシンの糸調子装置にばらつきがあって、同一の設定データを入力しても各ミシンの糸調子装置から得られる糸張力にばらつきがあった場合でも、上記補正値データを各糸調子装置のばらつきに対応させて設定することで、各ミシン間の糸調子装置のばらつきを解消することが出来る。
【0008】
ここで、駆動手段は、例えば、ボイスコイルモータ、比例ソレノイド、エアピストンと比例電磁ソレノイド弁との組み合わせなど、電気的な制御により駆動量を連続的に変化可能なものであれば、どのようなものでも良く、この連続的な駆動量を糸調子器に作用させることで、糸調子器から糸に付与される張力を連続的に変化させることが出来る。また、上記試験駆動の処理は、例えば、試験駆動スタートスイッチを設けて該スイッチのオン操作により実行するようにしても良いし、設定入力手段による設定データ入力中に行うようにしても良い。また、ミシン停止中の予め設定されたタイミングで実行されるようにしても良く、その実行開始となる条件は、縫製時以外のミシン停止時に開始可能な条件であればどのような条件としても良い。
【0010】
また、縫製中に複数のタイミングで異なる糸張力を掛ける場合でも、これら全てのタイミングの糸張力について試験的に確認することが出来る。
【0012】
また、糸調子器の張力力の設定入力を行っている最中に糸調子器の試験駆動が行われるので、糸調子器から得られる糸張力を測りながら設定データを変化させていくことで、容易に所望の糸張力に設定することが出来る。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について、図1〜図12の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態の糸調子装置を備えたボタン穴かがりミシン1を示す斜視図である。
このボタン穴かがりミシン1は、ミシン針9、布を挟んで保持すると共に布送り方向に沿って前後動して布を送る布押さえ15および布保持板14、布押さえ15の上側で上糸を切断する上糸切り鋏み80、布を切断してボタン穴を形成する布切りメス16等を備え、ミシン針9が昇降運動を行うと共に布送り方向とほぼ直行する方向に往復動(針振り運動)しながら縫製を行い、例えば、図6に示すように、ボタン穴部Hを周回するように左平行部A、第1閂止め部B、右平行部C、第2閂止め部Dと縫製を行って、被縫製物にボタン穴を形成するミシンである。
そして、このボタン穴かがりミシン1に、本発明の実施の形態の糸調子装置を構成する糸調子器(アクティブテンション)19、駆動手段としての上糸張力VCM(ボイスコイルモータ)60、設定入力手段としての操作パネル110(図3)、並びに、ボタン穴かがりミシン1を制御すると共に糸調子装置の制御手段を構成する制御装置(図4)等が設けられている。
【0016】
図2は、上記糸調子器19と上糸張力VCM60とを示す断面図である。糸調子器19は、一対の調子皿(固定皿67と可動皿66)との間に上糸を挟んで該上糸に抵抗力を与えると共に、動作軸63の動作により縫製中に上記抵抗力を連続的に変化させることの可能な動的な糸調子(アクティブテンション)である。この糸調子器19は、ミシンのアーム部4に嵌合されるベース部材64、中空軸65、中空軸65に固定される固定皿67、中空軸65に沿って可動的に設けられた可動皿66、コイルバネ68等から構成され、中空軸65中には、可動皿66と一体の当接片66aと、中空軸65に沿って移動し当接片66aに当接可能な動作軸63とが挿入されている。コイルバネ68は部材69を付勢するもので可動皿66は押圧していない。
【0017】
上糸張力VCM60は、動作慣性が低く、電流−駆動力の関係でリニア特性を有するボイスコイルモータであり、プランジャ61、磁気回路を構成する円形型ヨーク601、永久磁石による外極602、中央極603、補償銅管605の周りにコイル606を配してなる円筒状の可動コイル604等から構成される。即ち、通電量を制御することで、高速に、且つ、プランジャ61の駆動力を電流値にほぼ比例して制御することが出来る。
そして、上糸張力VCM60のプランジャ61は、中間部のピン62aを支点とするレバー62を介して、糸調子器19の動作軸63に連結されており、上記上糸張力VCM60の駆動力を連続的に変化させることで、糸調子器19の可動皿66の押圧力を連続的に変化させ、糸調子器19から上糸に掛けられる抵抗力を連続的に変化させることが可能になっている。
【0018】
図3には、ボタン穴かがりミシン1に備わる操作パネル110の図を示す。
操作パネル110は、各種の縫製パラメーターを設定入力したり、設定値の表示出力や縫製制御上のエラーの表示出力を行ったりするもので、例えば、ボタン穴かがりミシン1が載置されるミシンテーブル上に設けられる。
【0019】
操作パネル110には、縫製をスタートするための縫製キー131、縫製キー131が押されて縫製モードであることを点灯により表示するLED(Light Emitting Diode)表示部132、入力モードを選択する選択キー133、該選択キー133の操作により選択されている入力モードを点灯により表示するパターンナンバー表示部134およびパラメータナンバー表示部135、2桁の7セグメント表示部からなるモード表示部141、4桁の7セグメント表示部からなるパラメータ表示部142、入力パラメータ値を「−1」するマイナスキー143、入力パラメータ値を「+1」するプラスキー144、入力パラメータ値を所定単位で減算するダウンキー145、入力パラメータ値を所定単位で加算するアップキー146、ミシン針9への糸通しおよび釜の位置合わせを知らせるセットキー147等が設けられている。
【0020】
図4には、ボタン穴かがりミシン1の回路構成のブロック図を示す。
ボタン穴かがりミシン1の制御装置は、図7に示すように、CPU(Central Processing Unit )100、RAM(Random Access Memory)101、ROM(Read Only Memory)102、各パルスモータの回転量をカウントするY送りカウンタ103、基線送りカウンタ104、および針振り送りカウンタ105、布切りメスの駆動数をカウントする布切りメスカウンタ106、各パルスモータの駆動を行うY送りパルスモータドライバ111、基線送りパルスモータドライバ112、および針振送りパルスモータドライバ113、各種センサーや各駆動部のドライバおよび操作パネル110等とCPU100とを接続するI/Oインターフェース109、ミシンを駆動するミシンモータ5の駆動制御を行うミシンモータドライバ115、ミシンモータ5の回転量を上軸6の回転角度としてコード付けするミシンモータエンコーダ119、糸調子器19の上糸張力VCM(ボイスコイルモータ)60を駆動するアクティブテンションドライバ120、布押さえ15を上昇させる押さえ上昇ソレノイド122を駆動する押さえ上昇ソレノイド駆動回路121、布切りメス16を下降させる布切りメス下降シリンダ30を駆動する布切りメス下降シリンダ駆動回路123、並びに、所定の割り込み条件(各パルスモータの回転量を示すカウンタ値、布の送り位置、上軸6の回転角度など)によりCPU100に割り込み信号を出力する割り込みコントローラ108等から構成される。
【0021】
Y送りパルスモータ20は、布押さえ15と布保持板14とをY方向に移動させるモータで、基線送りパルスモータ40はミシン針9の針振りの基線位置を変更するモータ、針振送りパルスモータ41はミシン針9の針振り量を変更するモータである。
【0022】
上記ミシンモータドライバ115には、ミシンモータ5の他、ミシン針9が上方位置にあることを検出する針上位置センサ116、布押さえ15や布保持板14の基準位置を検出する送り基準位置センサ117、上軸6の回転角度を検出するTG(Tacho Generator)発生器118等が接続されている。
I/Oインターフェース109には、操作パネル110や各駆動部のドライバや駆動回路のほか、布切りメス16の下降を検知するメス下降検知スイッチ34、布押さえ15の下降を検知する押え下降検知スイッチ28、布送り(布押さえ15と布保持板14)が原点位置にある状態を検出するY送り原点センサ26、針振り機構の基線位置が原点にあることを示す基線送り原点センサ57、針振り機構の振り幅が原点にあることを示す針振送り原点センサ58、布押さえ15の下降を指示する押さえスイッチ124、並びに、ミシンモータ5の駆動スタートを指示するスタートスイッチ125などが接続されている。
【0023】
CPU100は、RAM102の所定領域を作業領域としてROM101に記憶されている制御プログラムに従い、操作パネル110からのデータや、接続された各種センサーから検出信号を入力したり、各ドライバを介して各種駆動部の制御を行う。
ROM101には、操作パネル110を介して入力された縫製データに基づいてボタン穴かがりの縫製を実行する縫製処理のほか、縫製パターンのパラメータや各縫製タイミングに糸調子器19に掛ける糸張力値などの設定データを操作パネル110から入力させる設定入力処理や、該設定入力処理中に試験的に糸調子装置を駆動させる試験駆動処理等の制御データや制御プログラムが記憶されている。これら設定入力処理や試験駆動処理については後に詳述する。
【0024】
この実施の形態の糸調子装置を備えたボタン穴かがりミシン1は、上記のように構成され、次に示すように、操作パネル110からの各設定データの入力、並びに、糸調子装置を含むボタン穴かがりミシン1の駆動制御が行われて、ボタン穴かがりを縫製するボタン穴かがり処理が行われるようになっている。
【0025】
先ず、操作パネル110から入力される設定データの項目について説明する。
図5には、操作パネルから入力可能なデータを示すデータテーブルのチャート図を示す。
操作パネル110から入力可能なデータ内容は、同図のパラメータテーブルに示すとおりである。
【0026】
即ち、ボタン穴かがりの縫製パターン各部の長さデータである布切り長さデータ、メス巾データ、閂止め長さデータ、閂止め巾データ、平行部ピッチデータ、閂止め部ピッチデータ、布切りメス−第1閂止め間すきま長さデータ、布切りメス−第2閂止め間すきま長さデータ、および、メス落ち位置の左右方向のずれ量を示すメス落ち左右位置データ、糸調子器19に張力を付加する上糸張力VCM60の補正値を示すアクティブテンション補正データ、各縫製タイミングにおける糸調子器19の張力データである平行部張力データ、閂止め部張力データ、縫い始め張力データ、縫い終わり張力データ、および、糸切り時張力データ、布切りメスサイズデータ、押さえサイズデータ、並びに、布切りメス16の駆動時におけるミシンスピードを示すメス駆動時ミシンスピードデータ等のデータが操作パネル110を操作して入力され、RAM102中に記憶される。
【0027】
ユーザーは、ボタン穴かがりミシン1を駆動すると、先ず、上記各設定データを操作パネル110から入力する設定入力処理を行う。入力する各データ項目には、予めデフォルトの設定データや、前回入力した設定データが記憶されており、ユーザーは変更の必要なデータ項目のみを入力変更する。
設定データの各項目には、該項目に対応して入力可能なデータ値の範囲を示す設定範囲データが予め記憶されており、この設定範囲データから外れたデータが入力された場合にエラー判定が行われるようになっている。
上記の設定データは、縫製パターンナンバーに対応させて複数セット登録することが可能になっており、ユーザーが任意の縫製パターンナンバーを選択し呼び出すことで該ナンバーに対応した設定データのセットが読み込まれて実際の縫製制御に使用される。
【0028】
また、上記の設定入力処理の最中、所定のデータ項目の入力処理中において試験的に糸調子装置を駆動させる試験駆動処理が実行される。即ち、入力する設定データ項目として張力データである「平行部張力」「閂止め部張力」「縫い始め張力」「縫い終わり張力」「糸切り時張力」を選択すると、選択と同時に設定データに応じた量上糸張力VCM60に通電が行われ、該上糸張力VCM60のプランジャ61に設定データに応じた駆動力が生起される。そして、この駆動力がレバー62、動作軸63を介して糸調子器19の可動皿66に伝達され、設定データに応じた押圧力が掛けられる。
そして、操作パネル110を操作して設定データを変更していく毎に、この設定データの変更に応じて糸調子器19に掛かる押圧力も変更されていく。ユーザーは、この状態で糸調子器19に糸を掛けて張力メータを用いて糸張力を計ることで、縫製中に実際に得られる糸張力を計測することが出来る。また、計測を行いながら設定データを変更していくことで、所望の糸張力を得る設定データを容易に探すことが出来る。
【0029】
また、上記の計測により設定データと実測値とにずれがあった場合には、設定データ項目の「アクティブテンション補正」のデータを設定変更する。この項目のデータ値は、張力データに基づく上糸張力VCM60の通電量を補正するためのもので、この補正は、例えば、張力データに基づく通電量からアクティブテンション補正データに対応する通電量を減算することで行われる。この補正を正しく行うことで、糸張力を実際に計測することなく設定データ値のみで所望の張力を発生させるようにできる。
また、同一のボタン穴かがりミシン1が複数あり、各ミシン間で張力データと実測張力とのずれがあり、このずれを補正したい場合には、先ず、適当な張力データに同一のデータ値を入力し、その上で、張力の計測を行いながら「アクティブテンション補正」のデータ値を変更していく。そして、所定の糸張力が出力されたところで「アクティブテンション補正」のデータ設定を完了する。同様の調整を全てのミシンで行うことで、各ミシン間の張力データと実測張力とのずれが解消される。
【0030】
上述の設定入力処理が完了したら、次いで、布をセットしスターとスイッチ125をオンすることで、設定された縫製パターンでの縫製が行われていく。この縫製中、縫製処理と同期して、縫製処理の各タイミングにおいて各タイミングに応じた張力データ値に対応する張力が糸調子器19に掛けられる。そして、それにより所望の縫い目が形成され、所望のボタン穴かがりが形成される。
【0031】
詳細には、ボタン穴かがりミシン1により縫製されるボタン穴かがりの縫製パターンの図である図6▲1▼〜▲9▼に示すように、先ず、糸調子器19に「縫い始め張力」の設定データに対応する張力がかけられると共に、針落ち位置が座標P1になるように布が送られる(図6▲1▼)。次いで、糸調子器19に「平行部張力」の設定データに対応する張力がかけられると共に、ミシン針9と布送りの協働により左平行部Aの縫製が行われ(図6▲2▼)、次の閂止め部の縫い始め座標P3まで縫製される(図6▲3▼)。次いで、糸調子器19に「閂止め部張力」の設定データに対応する張力がかけられると共に、ミシン針9と布送りの協働により第1閂止め部Bの縫製が行われ(図6▲4▼)、次の右平行部の縫い始め座標P4まで縫製される(図6▲5▼)。
【0032】
次いで、糸調子器19に「平行部張力」の設定データに対応する張力がかけられると共に、ミシン針9と布送りの協働により右平行部Cの縫製が行われ(図6▲6▼)、次の第2閂止め部の縫い始め座標P7まで縫製される(図6▲7▼)。次いで、糸調子器19に「閂止め部張力」の設定データに対応する張力がかけられると共に、ミシン針9と布送りの協働により第1閂止め部Dの縫製が行われる(図6▲8▼)。次いで、糸調子器19に「縫い終わり張力」の設定データに対応する張力がかけられると共に、ミシン針9と布送りの協働により最終針落ち座標P9までの縫製が行われる(図6▲9▼)。そして、最後に、糸調子器19に「糸切り時張力」の設定データに対応する張力がかけられると共に、上糸切り鋏み80による糸切りが行われて、1個のボタン穴かがりが終了する。
【0033】
以下に、ボタン穴かがりミシン1の制御部により行われる上記設定入力処理を含んだボタン穴かがり処理の処理手順について詳述する。
図7は、ボタン穴かがりミシンの制御部により行われるボタン穴かがり処理のゼネラルフローの処理手順を示すフローチャートである。
このボタン穴かがり処理は、例えば、ボタン穴かがりミシン1を起動とともに開始される。
ボタン穴かがりミシン1が起動すると、先ず、ステップS1において、操作パネル設定処理のサブルーチン処理を行ってステップS2に移行する。
【0034】
ステップS2では、操作パネル110の縫製キー131がオン状態か否かを判定してオン状態であればステップS3に移行するが、オフ状態であればステップS1に戻って操作設定処理を繰り返す。
縫製キー131が押されてステップS3に移行すると、該ステップS3で縫製パターンの演算等を行う縫製データ作成のサブルーチン処理を行って、ステップS4に移行する。
ステップS4では、例えばRAM102中のエラーフラグを読み込んで、前段のステップでエラーが記録されているか否かを判定して、エラーの記録がなければそのままステップS6に移行し、エラーの記録があればステップS5に移行して操作パネル110の表示部140に対応するエラー表示を行いボタン穴かがり処理を中断する。
【0035】
ステップS6では、押さえ上昇ソレノイド駆動回路121に布押さえ15を下降させる信号出力を行ってステップS7に移行する。
ステップS7では、Y送りパルスモータ20、基線送りパルスモータ40、針振り送りパルスモータ41の微動、および、Y送り原点センサ26、基線送り原点センサ57、針振り送り原点センサ58の検出出力を基に、布送り機構と針振り機構の各原点検索を行ってステップS8に移行する。
ステップS8では、ミシン針9が縫い始めの第1針落ち位置の上方に位置するように、Y送りパルスモータ20、基線送りパルスモータ40、針振り送りパルスモータ41を駆動して、ステップS9に移行する。
【0036】
ステップS9では、押さえ上昇ソレノイド駆動回路121に布押さえ15を上昇させる信号出力を行ってステップS10に移行する。
ステップS10では、縫製キー131のオン操作が行なわれたかを判定して、オン状態であればそのままステップS11に移行し、オフ状態であればステップS1に戻る。
ステップS11では、押さえスイッチ124がオン状態か否かを判定して、オン状態であればそのままステップS12に移行するが、オフ状態であればステップS10に戻ってステップS10,S11の処理を繰り返す。
押さえスイッチ124が押されてステップS12に移行すると、該ステップで押え下降検知スイッチ28の検出出力を読み込んで、布押さえ15が上昇していれば、ステップS13に移行して布押さえ15を下降させる出力を行ってステップS15に移行する。が、布押さえ15が下降していれば、ステップS14に移行して布押さえ15を上昇させる出力を行って再びステップS10からの処理に戻る。
【0037】
ステップS15では、押さえスイッチ124のオン操作が解除されていないかを判定して、オン状態のままであればそのままステップS16に移行するが、オフ状態に解除されていればステップS14に移行して布押さえ15を上昇させてステップS10からの処理に戻る。
ステップS16では、縫製スタートを指示するスタートスイッチ125がオン操作されたか否かを判定して、オン操作されずにオフ状態のままであれば、ステップS15からの処理を繰り返し、オン操作された場合にステップS17に移行する。
ステップS17では,ステップS3の縫製データ作成処理で作成された縫製データに従い、ミシンモータ5を駆動して1個のボタン穴かがりの始めから終わりまでの縫製、布切りメス16の駆動、並びに、各縫製タイミングで糸調子器19に設定された張力を掛ける縫製処理を行い、その後、ステップS18に移行する。
【0038】
ステップS18では、例えばRAM102中のエラーフラグを読み込んで、前段のステップでエラーが記録されているか否かを判定して、エラーの記録がなければそのままステップS19に移行し、エラーの記録があればステップS20に移行して操作パネル110の表示部140に対応するエラー表示を行いボタン穴かがり処理を中断する。
ステップS19では、アクティブテンションドライバ120に信号出力を行って、糸調子器19に設定された糸切り時張力を掛けてステップS21に移行する。
【0039】
ステップS21では、上糸切り鋏み80を作動させてミシン糸を切断し、その後、布押さえ15を上昇させる糸切り・押え上げ処理を行ってステップS22に移行する。
ステップS22では、押え下降検知スイッチ28の検出出力を読み込んで、布押さえ15の上昇を確認した後、ステップS23に移行して、アクティブテンションドライバ120に信号出力を行って、糸調子器19の張力を開放してステップS10に戻って、再び、ステップS10からの処理を繰り返す。
【0040】
図8は、ゼネラルフローのステップS1で行われる設定入力処理である操作パネル設定処理のサブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
このサーブルーチンが呼び出されると、先ず、ステップS31で選択キー133のオン/オフを判定して、オンであればステップS32で、RAM102中に記憶されている選択番号(設定モードを示す値)を「+1」してステップS33に移行する。が、選択キー133がオフであればステップS35にジャンプする。
ステップS33では、RAM102中に記憶されている選択番号の値が最大値を超えたか判定して、超えていればステップS34で選択番号に「0」を代入してステップS35に移行し、超えていなければそのままステップS35に移行する。
【0041】
次いで、ステップS35,S37で、選択番号に応じた分岐処理を行い、選択番号が0であれば、縫製パターンのパターン番号を変更するパターン変更処理(ステップS36)を、選択番号が1であれば、パラメータ変更処理(ステップS38)のサブルーチン処理を行い、その後、この操作パネル設定処理のサブルーチンを終了しゼネラルフローに戻る。
【0042】
図9は、図8の操作パネル設定処理のステップS38で行われるパラメータ変更処理のサブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
パラメータ変更処理のサブルーチンが呼び出されると、先ず、ステップS41で操作パネル110のプラスキー144が押されたか否かを判定し、押されていればステップS42で、RAM102中に記憶されているパラメータナンバー(入力データの設定項目(図5)を示す値)を「+1」してステップS43に移行する。が、押されていなければステップS45にジャンプする。
ステップS43では、RAM102中のパラメータナンバーの値が最大値を超えたか判定して、超えていればステップS44で選択番号に「1」を代入してステップS45に移行し、超えていなければそのままステップS45に移行する。
つまり、上記ステップS41〜S44の処理で、入力する設定項目を「+1」方向に移動選択可能となる。
【0043】
次いで、ステップS45〜ステップS48で、上記ステップS41〜S44と同様の処理を「−1」方向に行い、ステップS49に移行する。
ステップS49では、ステップS41〜ステップS49と同様の処理により、アップキー146、ダウンキー145を用いてRAM102中のパラメータナンバーで指定された設定項目のパラメータ値を変更していく処理を行う。
そして、ステップS50に移行して、該ステップでRAM102中のパラメータナンバーが糸調子器19の張力設定のナンバーか否かを判定し、そうであればステップS51に移行して設定データの張力を糸調子器19に出力させ、このサブルーチン処理を終了する。が、張力データの設定項目ナンバーでなければそのままこのサブルーチン処理を終了して、図8の操作パネル設定処理に戻る。
【0044】
つまり、上記ステップS50,S51の処理により、糸調子装置を試験的に駆動する試験駆動の処理が行われる。
【0045】
上述の操作パネル設定処理およびパラメータ変更処理のサブルーチンは、ゼネラルフロー(図7)のステップS1,S2において、縫製キー131が押されるまで高速で繰り返し行われ、この繰り返しの間に、全ての設定データの入力を行うことが出来ると共に、張力データの設定中をとおして試験駆動が行われるようになっている。
【0046】
図10は、図7のゼネラルフローのステップS3で行われる縫製データ作成処理のサブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
このサブルーチンでは、先ず、先に操作パネル設定処理(図7のステップS1)で入力された設定データと、ROM101中に記憶されている設定範囲(図5参照)とを比較して、設定データが設定範囲内に含まれるか否かのチェックを行う。そして、含まれない場合にRAM102中のエラーフラグを立ててステップS102に移行する。
ステップS102では、ステップS101でエラーフラグが立てられたか否かを判定して、立てられていればこのサブルーチンを終了してゼネラルフローに戻るが、立てられていなければ、順次、パターン演算のサブルーチン処理(ステップS103)、布切りメスの駆動タイミングを演算するメス駆動タイミング演算処理(ステップS104)を実行して、このサブルーチンを終了する。
【0047】
図11は、上記縫製データ作成処理のパターン演算処理(ステップS103)のサブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
このパターン演算処理のサブルーチンが呼び出されると、先ず、ゼネラルフロー(図11)の操作パネル設定処理(ステップS1)で入力された「アクティブテンション補正」のデータ値を読み込んで、このデータ値に基づく張力の補正演算を行う。
【0048】
この補正演算の内容は、補正演算の概要を示すグラフ図である図12に示すように、設定データ値から補正データ値を引く演算である。即ち、設定データの値と、糸調子器19に実際に生起される実効張力との関係が、理想ラインからずれて第1ラインL1のものである場合、補正データ値として「−C1」を入力することで、設定データ値と実効張力との関係が理想ラインに補正される。同様に、設定データ値と実効張力との関係が理想ラインからずれて第2ラインL2のものである場合、補正データ値として「C2」を入力することで、設定データ値と実効張力との関係が理想ラインに補正される。
【0049】
その後、操作パネル設定処理で入力されRAM102中に記憶されている各縫製パターンのデータを読み込んで、順次、縫い始めから縫い終わりまでの縫製パターンの演算である、縫い始め位置演算(ステップS112)、左平行部演算(ステップS113)、第1閂止め部演算(ステップS114)、右平行部演算(ステップS115)、第2閂止め部演算(ステップS116)、縫い終り位置演算(ステップS117)を行い、このサブルーチンを終了し縫製データ作成処理(図10)に戻る。
【0050】
以上のように、この実施の形態のボタン穴かがりミシン1の糸調子装置によれば、試験駆動処理(パラメータ変更処理(図9)のステップS50,S51)により、縫製時以外のミシン停止時において試験的に上糸張力VCM60を駆動させ、糸調子器19の状態を張力データの値に応じた状態にすることが出来るので、例えば、この状態において、糸を糸調子器に掛けて張力メータで糸張力を計ることで、縫製中に掛けられる糸調子器19の糸張力を容易に且つ正確に確認することが出来る。
また、上記の試験駆動処理は、糸調子器の張力データの設定入力を行っている最中に行われるので、糸調子器の糸張力を測りながら設定データを変化させていくことで、容易に所望の糸張力に設定することが出来る。
【0051】
また、「アクティブテンション補正」のデータを適宜設定することで、実際に糸調子器19から得られる糸張力(糸に掛かる抵抗力)と、操作パネル110により入力する設定データによる張力とを適合させることが出来る。
また、複数のミシンを使用する際、各ミシンの糸調子装置にばらつきがあって、同一の設定データを入力しても各ミシンの糸調子器19から得られる糸張力がばらつくことがあった場合でも、「アクティブテンション補正」データを各糸調子装置に対応させて設定することで、各ミシン間の糸調子装置のばらつきを解消することが出来る。
【0052】
なお、本発明の糸調子装置は、上記実施の形態に限られるものでなく、例えば、糸調子器は調子皿タイプのものでなく、ロータリーテンションやその他のタイプであっても良いし、駆動手段はボイスコイルモータに限らず、比例ソレノイド、エアピストンと比例電磁ソレノイド弁との組み合わせなど、電気的な制御により駆動量を連続的に変化可能なものであればどのようなものでも良い。また、試験駆動処理は、操作パネル設定処理中に行なわず、例えば、試験駆動スタートスイッチを設けて該スイッチのオン操作により実行するようにしても良いし、ミシン停止中の予め設定されたタイミングで実行されるようにしても良い。また、この実施の形態では、本発明の糸調子装置をボタン穴かがりミシンに適用した例を示したが、ボタン付けミシンや刺繍用ミシンなどのサイクルミシンや、その他のミシンに適用しても良い。
【0053】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、制御手段により実行される試験駆動により、縫製時以外のミシン停止時において試験的に駆動手段を駆動させ、糸調子器の状態を設定データに応じた状態にすることが出来るので、例えば、この状態において、糸を糸調子器に掛けて張力メータで糸張力を計ることで、縫製中に付与される糸調子器の糸張力を容易に且つ正確に確認することが出来る。さらに、補正値データを適宜設定することで、実際に糸調子器から得られる糸張力と、設定入力手段により入力される設定データによる張力とを適合させることが出来る。また、複数のミシンを使用する際、各ミシンの糸調子装置にばらつきがあって、同一の設定データを入力しても各ミシンの糸調子装置から得られる糸張力がばらつく場合でも、上記補正値データを各糸調子装置に対応させて設定することで、各ミシン間の糸調子装置のばらつきを解消することが出来る。
【0054】
また、縫製中に複数のタイミングで異なる糸張力を付与する場合でも、これら全てのタイミングの糸張力について試験的に確認することが出来る。
【0055】
また、糸調子器の張力の設定入力を行っている最中に糸調子器の試験駆動が行われるので、糸調子器から得られる糸張力を測りながら設定データを変化させていくことで、容易に所望の糸張力に設定することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の糸調子装置を備えたボタン穴かがりミシンを示す斜視図である。
【図2】同、糸調子装置の糸調子器と駆動手段とを示す断面図である。
【図3】図1のボタン穴かがりミシンに備わる操作パネルを示す図である。
【図4】同、ボタン穴かがりミシンの回路構成を示すブロック図である。
【図5】操作パネルから入力可能なデータを示すデータテーブルのチャート図である。
【図6】ボタン穴かがりミシンにより縫製されるボタン穴かがりの縫製パターンを示す図である。
【図7】ボタン穴かがりミシンの制御部により行われるボタン穴かがり処理のゼネラルフローの処理手順を示すフローチャートである。
【図8】図7のゼネラルフロー中にある操作パネル設定処理のサブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【図9】図8の操作パネル設定処理中にあるパラメータ変更処理のサブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【図10】図7のゼネラルフロー中にある縫製データ作成処理のサブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【図11】図10の縫製データ作成処理中にあるパターン演算処理のサブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【図12】図11のパターン演算処理の張力補正演算で行われる補正演算の概要を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1 ボタン穴かがりミシン
9 ミシン針
14 布保持板
15 布押さえ
19 糸調子器
60 上糸張力VCM(駆動手段)
80 上糸切り鋏み
100 CPU(制御手段)
110 操作パネル(設定入力手段)
Claims (1)
- ミシンの上糸をその間に挟むことが可能な一対の調子皿と、
前記一対の調子皿を支持する中空軸と、
前記中空軸に支持され、移動可能な動作軸と、
前記一対の調子皿と前記中空軸と前記動作軸から構成され、上糸を一対の調子皿で挟んで、該上糸に張力を付与する糸調子器と、
電気的な駆動により前記糸調子器の動作軸を前記調子皿に作用させると共に、駆動力に比例して、該糸調子器から上糸に付与される張力を連続的に増加させる駆動手段と、
縫製中の複数のタイミングに対応して、前記糸調子器から上糸に付与する張力を示す張力設定データが複数設定される項目と、1個の補正値データが設定される項目とを有する設定データと、
前記設定データを入力可能な設定入力手段と、
縫製中の所定のタイミングにおいて前記駆動手段を前記設定データに応じた量駆動させて前記糸調子器から前記設定データに応じた張力を上糸に付与すると共に、
縫製時以外のミシンの停止時で且つ前記入力手段による張力の設定中に、前記駆動手段を前記設定データに応じた量駆動させる試験駆動を行う一方、
前記複数の張力設定データを前記1個の補正値データで補正して、前記駆動手段を駆動させて、前記設定データに応じた張力を上糸に付与する制御手段とを備えたことを特徴とするミシンの糸調子装置。
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